序論
発明の分野
本発明は、間質細胞、特に間質前駆細胞を得るための方法に関する。間質前駆細胞は典型的には、表現型的かつ遺伝子型的に同一な娘細胞(自己再生)並びに少なくとも1つの他の最終的な細胞型を生じることができる。いくつかの間質細胞は自己再生能を有し、このような細胞が近年注目を集めることが増えている。本発明に関する間質細胞は、非胚性間葉系間質細胞である。それらは、本明細書において詳細に開示されている本発明の方法によって、臍帯からの単離により得ることができる。
発明の背景
間葉系間質細胞(MSC)は、とりわけそれらの多能性及び低い免疫原性のために、科学界にとって特に関心の高い間質細胞である(Pittenger et al., 1999, Science;, vol. 284, p. 143-147)。当技術分野の最先端技術によると、間葉系間質細胞(MSC)は伝統的に典型的には骨髄から得られるが、間葉系間質細胞はまた、脂肪組織、筋肉、結合組織、歯髄、臍帯血、胎盤、及び羊水などの様々な他の哺乳動物の発生源からも単離され得る(Iudicone et al., 2014, J. Transl. Med., 12: 28)。間葉系間質細胞の中でも、骨髄から誘導された成人間葉系間質細胞(BM−MSC)が最も幅広く研究されている(例えば、国際公開公報第2008/042174A2号)。骨髄では、間葉系間質細胞は、より原始的かつ胚に似た幹細胞、間葉系幹細胞、分化系統の決定された前駆細胞、並びに成熟細胞、例えば骨芽細胞及び線維芽細胞をはじめとする、多種多様な細胞型と共存し、例えば骨髄由来間葉系間質細胞の単離のための様々な方法が記載されている(例えば、Majore, Cell Commun. Signal., 2009, vol. 20; 7:6参照)。過去には、間葉系間質細胞の代わりの入手源を探索するためにいくつかの努力もなされてきた。例えば、臍帯(UC)は、様々な細胞型の適切な貯蔵所であると提案され、その中のいくつかは、幹細胞様特性を有することが示された。臍帯は、胎盤保有哺乳動物における、胎盤を発生中の胎児に接続する構造であり、これにより、胎児の栄養源を提供する。臍帯は、生誕後に、侵襲的な手技及び倫理的懸念を全く伴うことなく入手可能である(Hass et al., 2011, Cell. Commun. Signal., vol. 9:12)。臍帯は、解剖学者のトマス・ワルトンにちなんで名付けられた、間質細胞に豊富なゼラチン状の疎性粘膜結合組織である、ワルトン膠様質を含む。ワルトン膠様質は、ヒアルロン酸をはじめとするプロテオグリカン及び様々な種類のグリカンから構成される、無定形な礎質に分散された細胞を含む(例えば、国際公開公報第2004/072273A1号を参照)。それは一般的に、主に胚外で誘導された原始的な間葉系組織であると考えられ(Weiss, 1983, Histology, cell and tissue biology, New York, Elsevier Biomedical, p. 997-998)、間葉系間質細胞の有望な入手源であると提唱されている(Wang et al., 2004, Stem Cells, vol. 22: p. 1330-1337)。
臍帯(UC)の間質細胞は、構造、生物学的特性、及び臍帯内の場所に関して不均質であることが一般的に認識されている。臍帯のワルトン膠様質(WJ)から細胞を得るためのいくつかの方法が記載され、間葉系間質細胞様特性を有する細胞は、臍帯の様々な部分に存在する及びから派生することが記載されている。ヒト臍帯は3本の血管を含み、これらは通常、左螺旋(時計の針とは反対周りの)回転で構築されている。Mitchell et al.(2003, Stem Cells, vol. 21, p. 50-60)は、残りの組織を収集する前に臍帯血管を除去する方法を記載している。その後、ワルトン膠様質の画分と羊膜上皮との両方を含む、この残りの組織を四角に切り、小さな組織断片を作製し、これを組織培養プレートに移しているが;しかしながら、臍帯又は残りの組織の酵素的消化は予見されていない。むしろ、組織断片を続いて初代外植片として使用し、この外植片から細胞が、組織標本の外に出て培養基層上へと遊走する。別の報告(Romanov et al., 2003, Stem Cells, vol. 21, p. 105-110)は、線維芽細胞様の間葉系間質細胞を、コラゲナーゼを用いた臍帯静脈の消化により臍帯血管系から単離することができることを示しているが、しかしながら、血管内皮細胞と血管内皮下細胞の混合集団が得られる。米国特許第5,919,702A号(Purchio et al.)は、長さ約2.5cmの臍帯のセグメントを縦方向に切り開き、血管を除去し、ワルトン膠様質を滅菌容器に入れ回収し、その容器中でそれを切断し培養する工程を含む、単離法を記載している。例えば、細胞は、2〜3mm3のワルトン膠様質切片を、ペトリ皿の底の上のスライドガラス上に置き、それに別のスライドを被せ、それを10〜12日間培養し、いくつかの細胞(「前駆軟骨細胞」)が培養皿から遊出することを可能とすることによって単離され得ることが記載されている。軟骨を産生するための、前駆軟骨細胞の使用も記載されている。
動物組織を起源とした、臍帯マトリックス由来細胞の単離も報告されている。例えば、Lange-Consiglio et al., (2011, Open Tissue Engineer. Regen. Med. J., vol. 4, p. 120-133)は、ウマ臍帯の「血管間」及び「血管周囲」領域からの「臍帯マトリックス由来細胞」の単離を報告している。
出産時に約40gというヒト臍帯の重量(Raio et al., 1999, Eur. J. Obstet. Gynecol. Reprod. Biol., vol. 83; p. 131-135; Conconi et al., 2011, Open Tissue Engineer. Regen. Med. J., vol. 4, p. 6-20)は、間葉系間質細胞様特性を有する細胞の単離のために利用可能な出発材料の生来の上限を課す。米国特許出願第2004/0136967A1号及びSeshareddy et al.(2008, Meth. Cell Biol., vol. 86, p. 101-119)によると、臍帯から多数の所望の細胞を得ることは困難である。それ故、著者らは、比較的多数の細胞を抽出することを推奨し、比較的多数の細胞を単離するのに、例えば、多数の細胞の抽出を可能とするのに最適化された条件を記載している。彼らは、臍帯の比較的厳しい酵素的処理を提案している。ワルトン膠様質の様々な帯域が記載されているが、抽出用の細胞の入手源の特定の領域の排除、例えば血管周囲領域の排除は、多数の細胞を使用する一般的な推奨に準拠して、特に推奨されていない。細胞は単離後に培養される。代替的なアプローチは、国際公開公報第2004/072273A号及びSarugaser et al.(Stem Cells, 2005, 23:220-229)によって記載され;これらの刊行物は、専ら臍帯の血管周囲領域からの、間葉系間質細胞様特性を有する細胞の単離を記載している。この領域は解剖学的に比較的限定されているので、出発材料の量は、完全な臍帯から出発する単離法と比較して比較的少ない。さらに、血液含有血管と近接している点から、血球のコンタミは排除できず;それ故、培養液中の所望ではない細胞のコンタミを回避するための、CD45発現に対する陰性選択が記載されている。また、国際公開公報第2017/058003A1号は、臍帯、歯髄、包皮、角膜、又は他の発生源からの間葉系間質細胞の単離プロセスを記載し;臍帯からの間葉系間質細胞の単離プロセスは好ましくは、無菌条件下で実施され、臍帯は好ましくは、比較的長い期間コラゲナーゼによる処理にかけられる。Conconi et al., 2011, Open Tissue Engineer. Regen. Med. J., vol. 4, p. 6-20によると、間葉系間質細胞のインビトロにおける増殖及び保存を増強するのに最も適したプロトコールは依然として確立されていない。したがって、本質的に均一な特性によって特徴付けられ、生体外で確実に増殖することのできる、細胞からなる集団を提供することが依然として必要であり;それらを提供するための確実な方法も必要とされる。
解決すべき問題
したがって、本発明の目的は、当技術分野の最先端技術に伴う欠点を排除することを含む。具体的な目的は、間葉系間質細胞(MSC)を得るための確実な方法の提供、並びに優れた自己再生特性を有する、間葉系間質細胞(MSC)及び間葉系間質細胞集団の、良好な収率での再現性のある提供を含む。該集団は比較的均一であり、アポトーシスを受けた細胞、造血系細胞などの所望ではない細胞を含有していないことが望ましい。したがって、換言すれば、現在公知であり実践されている方法と比較して確実性及び/又は収量の点で有利である方法によって、間葉系間質細胞を提供することが望ましい。当技術分野の最先端技術の様々な欠点は、本発明者らによって取り組まれる改善についてのさらなる目標を定め、これらの目標に、本明細書に記載され特許請求されている貢献によって到達する。
発明の要約
本発明は、間葉系間質細胞(MSC)を得るための方法、それぞれの間葉系間質細胞(MSC)、及びそれに関連した他の態様(全て本明細書に記載されている)に関する。本発明の主な態様および実施態様は、以下のように要約されている。
第一の態様では、本発明は、間葉系間質細胞を得るための方法に関する。該方法は、(a)臍帯から間質ワルトン膠様質又はその画分を単離する工程、及び(b)間質ワルトン膠様質又はその画分を酵素的処理にかけることにより、間質ワルトン膠様質又はその画分から少なくとも1つの細胞を放出させる工程を含む。好ましくは、工程(b)の後に得られた細胞は多能性である。
工程(a)及び(b)に加えて、少なくとも1つの追加の工程が本発明の方法に含まれることがはるかに好ましい。特に、工程(b)で得られた細胞の細胞分裂能を利用して、細胞数を増加させるための工程が含まれていることが好ましい。このような好ましい実施態様では、工程(b)の後に工程(c)が続き;工程(c)は、工程(b)で得られた少なくとも1つの細胞の増殖を含む。好ましくは、工程(c)の後に得られた細胞(群)は多能性である。
本発明者らは、臍帯の間質を起源とする細胞が特に有利であることを驚くべきことに発見した。利点としては、該細胞集団の均質性及び幹細胞様特性が挙げられる。特に、臍帯血管の非存在下においてこれらの利点を達成することができる。それ故、臍帯から間質ワルトン膠様質又はその画分を単離する工程(a)は、臍帯から血管及び血管周囲領域を物理的に除去する工程によって特徴付けられることが好ましい。血管及び血管周囲領域は、工程(a)の前又は工程(a)の最中に除去され得る。本発明において好ましい、血管及び血管周囲領域を除去する1つの技術的に有利な方法は、臍帯から血管及び血管周囲領域を剥ぐことによって特徴付けられる。本発明者らは、例えば血管を引っ張り出すことによって血管を剥ぐことにより、血管周囲領域も除去されることを観察した。
さらに、本発明者らは、血管及び血管周囲領域を物理的に除去する該工程の前に、臍帯をセグメント化することが有利であることを発見した。セグメント化は典型的には、ハサミ又はメスなどの物理的手段によって成し遂げられる。好ましくは、セグメント化は、臍帯に対して垂直である。より好ましくは、垂直セグメントは好ましくは各々、約1〜約4cm、好ましくは約2〜約3cm、より好ましくは約2.5cmの長さを有する。好ましい実施態様では、血管のセグメント(群)は、工程(b)の前に臍帯のセグメント(群)から除去される。特に、血管又はより正確には血管のセグメントを、臍帯の(好ましくは垂直の)セグメント化の後に、除去することが好ましい。
好ましくは、工程(b)の酵素的処理は、コラゲナーゼ酵素への曝露を含む処理である。本発明者らはまた、コラゲナーゼ活性の量が問題であることを発見した。好ましい実施態様では、コラゲナーゼは、工程(b)の酵素的処理中に、以下にさらに詳述されているように、比較的低い比活性で存在する。
本発明の方法では、臍帯からの間質細胞の迅速な単離が有利である。好ましい実施態様では、工程(a)及び(b)は共に、6時間未満、より好ましくは5時間未満、より好ましくは4時間未満、最も好ましくは3時間未満の総時間で実施される。工程(a)及び(b)を合わせた短い持続時間はまた、工程(b)それ自体が短いことを意味することは明らかである。一般的には、工程(b)の短さ、すなわち迅速な単離、特に酵素的処理の短さは、工程(b)の最中の穏和な条件に寄与し得る。
驚くべきことには、本発明者らは、酵素的消化中の血小板溶解物の存在が有利であることをさらに発見した。第一に、本発明者らは、ヒト血小板溶解物の存在が、コラゲナーゼ酵素の酵素活性を、少なくとも周辺組織からの、例えば間質マトリックスからの細胞の望ましい酵素的遊離に負に干渉しないであろう程度で、阻害又は減少又は遮断しないことを発見した。血漿は数多くのプロテアーゼを含有し、よって、触媒タンパク質(コラゲナーゼなど)が経時的に分解され、したがってその活性が減少することが予想されるために、血漿又はその構成成分が存在している間に、触媒タンパク質(コラゲナーゼなど)を添加すること(又はその逆)に対する偏見があったことが知られているが;驚くべきことに、本発明者らは、コラゲナーゼによる消化が、血小板溶解物の存在下でさえも効率的に働くことを確立した。第二に、本発明者らは、その本発明に記載の方法で血小板溶解物の存在下における消化によって得ることのできる細胞が、優れた増殖特性を有することを発見した(例えば、実施例2B及び2Cを参照)。したがって、好ましくは、工程(b)では間質ワルトン膠様質又はその画分は、哺乳動物血小板溶解物(PL)、より好ましくはヒト血小板溶解物(hPL)の存在下における酵素的処理にかけられる。
それに加えて、血小板溶解物は好ましくは工程(c)に存在する。好ましくは、工程(c)では、少なくとも1つの細胞を、血小板溶解物(PL)、好ましくはヒト血小板溶解物(hPL)を含む増殖培地中で増殖させる。好ましくは、少なくとも1つの細胞を、添加された血清を全く含まない、特にウシ血清アルブミン(FBS)を全く含まない増殖培地中で増殖させる。
特に好ましい実施態様では、少なくとも1つの細胞を、場合により補助剤の添加された、本発明の方法に特に適した特定の増殖培地中で増殖させる。このような増殖培地は、化学組成の定められた基礎培地及び/又は血小板溶解物を含んでいてもよい。
本発明の方法は、特定の特性を有する細胞を生じ、これも本明細書に記載されている。したがって、本発明の第一の態様の方法によって得ることのできる細胞は、以下のような本発明の第二の態様に記載されているような細胞であることが特に好ましい。
第二の態様では、本発明は、間葉系間質細胞(MSC)に関する。本発明のMSCはまた、「本発明の細胞」又は単に「細胞」とも称され得る。本発明のMSCは、それが(a)APCDD1遺伝子を発現し、(b)3G5遺伝子を発現していないことを特徴とする。好ましくは、該細胞は単離されている細胞である。より好ましくは、該細胞は、臍帯の間質ワルトン膠様質に由来する。好ましくは、該細胞は初代細胞である。したがって、該細胞は好ましくはウマに由来せず、すなわちウマ細胞ではない。また、該細胞は好ましくはげっ歯類(例えばマウス又はラット)に由来せず、すなわち、げっ歯類の細胞(例えばマウス細胞又はラット細胞)ではない。最も好ましくは、該細胞はヒト細胞である。
好ましい実施態様では、該細胞は、間質ワルトン膠様質に由来しかつAPCDD1遺伝子を発現しているヒト細胞である。
好ましい実施態様では、該細胞はさらに、PPARG遺伝子を発現している。別の互いに排他的ではない好ましい実施態様では、該細胞はさらに、FLVCR2遺伝子を発現している。ヒト細胞の場合、ヒト細胞は、ヒト白血球抗原HLA−A、HLA−B、及びHLA−Cの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの任意の組合せ、最も好ましくはその全てを発現していることが好ましい。さらに、ヒト細胞の場合、該細胞は、ヒト白血球抗原HLA−DP及び/又はHLA−DQを提示していないことが好ましい。場合によりHLA−DRも提示されていない。1つの実施態様では、該細胞は、ヒト白血球抗原HLA−DP、HLA−DR及びHLA−DQのいずれも提示していない。あるいは、HLA−DRは低いレベルで提示されている。
本発明による細胞は典型的には、当技術分野の最先端技術による様々な方法によって単離されたいくつかの間葉系間質細胞より小さい。例えば、本発明による細胞は、より小さな容積及び/又はより小さな表面積を有し得る。剥離した細胞の細胞容積を決定するためのフローサイトメトリー、及び顕微鏡下での接着細胞についての細胞表面積の決定などの、細胞容積又は表面積を決定するための様々な方法が利用可能である。このような方法は本明細書において下記されている。
好ましくは、該細胞は、テロメラーゼ活性を全く示さず、及び/又は、テロメラーゼを全く発現していない。好ましくは該細胞は多能性である。より好ましくは、該細胞は、様々な細胞型へと分化することができる。該細胞は、以下の分化能の少なくとも全てを有することが特に好ましい:(a)脂肪細胞生成能;(b)軟骨形成能;(c)骨形成能。
好ましい実施態様では、該細胞は、間葉系幹細胞である。
本発明の第二の態様による細胞は、本発明の第一の態様による方法によって得ることのできる細胞である。本発明の第一の態様の好ましい実施態様は、特記されない限り、ありとあらゆる組合せで、本発明の第二の態様の好ましい態様と組み合わせることが可能である。あるいは、それ故、本発明による細胞は、本発明の第一の態様による方法によって得ることのできる細胞として記載され得る。
第三の態様では、本発明は、細胞集団に関する。該集団は、本発明の第二の態様による少なくとも1つの細胞を含む。より好ましくは、該細胞集団は多数の細胞を含み、そのうち少なくとも80%(細胞数を単位とする)、好ましくは少なくとも90%(細胞数を単位とする)、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%(各々細胞数を単位とする)が第二の態様による細胞である。第二の態様の全ての好ましい実施態様は、本発明の第三の態様にも適用される。総細胞数の好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%、最も好ましくは100%が、第二の態様、及び場合により単独での又は組み合わせての1つ以上のその好ましい実施態様に定義されているような細胞である。該細胞集団は、APCDD1遺伝子発現陽性である。
好ましくは、該集団は単離されている細胞集団である。
該細胞集団は好ましくはさらに、該細胞集団中の細胞の容積及び/又は表面積が類似していること、あるいは代替的には高い比率の細胞が、以下に詳述されているように小さな容積及び/又は表面積を有することで特徴付けられる。容積は、フローサイトメトリーによって決定可能な前方散乱光(FSC)に通常相関している。
好ましくは、該細胞集団はさらに、該細胞の少なくとも70%以上(細胞数を単位とする)が生存していることを特徴とする。これは、生細胞の比率がより低い先行技術を上回る有意な利点を示す。より好ましくは、該細胞の少なくとも75%(細胞数を単位とする)が生存している。より好ましくは、該細胞の少なくとも80%(細胞数を単位とする)が生存している。1つの実施態様では、生存率は、細胞の単離直後、すなわち増殖前に決定される。
好ましい実施態様では、該細胞集団は、血管周囲細胞を全く含まない。血管周囲細胞マーカーは3G5である。それ故、この実施態様は代替的には、該細胞集団が、3G5マーカーを発現している細胞及び/又はその表面上に3G5を提示している細胞を全く含まないと記載することができる。
好ましい実施態様では、該細胞集団は、上皮細胞を全く含まない。上皮細胞マーカーは、上皮細胞接着分子(EpCAM)である。それ故、この実施態様は代替的には、該細胞集団が、EpCAMマーカーを発現している細胞及び/又はその表面上にEpCAMを提示している細胞を全く含まないと記載することができる。
好ましい実施態様では、該細胞集団は、内皮細胞を全く含まない。内皮細胞マーカーは、CD31である。それ故、この実施態様は代替的には、該細胞集団が、CD31マーカーを発現している細胞及び/又はその表面上にCD31を提示している細胞を全く含まないと記載することができる。
好ましくは、該細胞集団は、特に工程(c)、すなわち増殖工程が含まれている場合に、本発明の第一の態様による方法によって得ることができる。
あるいは、それ故、本発明による細胞集団は、工程(c)を含む、本発明の第一の態様による方法によって得ることのできる細胞集団として記載することができる。
発明の詳細な開示
以下の詳細な説明は、本発明の個々の特色の具体的な及び/又は好ましい変化形を開示する。本発明はまた、特に好ましい実施態様として、本発明の特色の2つ以上について記載された2つ以上の具体的な及び/又は好ましい変化形を組み合わせることによって作成された、実施態様も考える。
当業者は、本明細書に記載の本発明が、具体的に記載されているもの以外の変化及び修飾を受けることができることを認識しているだろう。したがって、本開示が、全てのこのような変化及び修飾を含むことが当業者には明らかであろう。開示はまた、個々に又はまとめて本明細書に言及されているか又は示されている全ての実体、化合物、特色、工程、方法、又は組成物、及び前記の実体、化合物、特色、工程、方法、又は組成物のありとあらゆる組合せ又はいずれかの2つ以上を含む。したがって、本明細書において特記されていない限り、又は内容からそうではないことが必要とされない限り、単一の実体、化合物、特色、工程、方法、又は組成物への言及は、1つ及び複数の(すなわち1つを超える、例えば2つ以上、3つ以上、又は全ての)このような実体、化合物、特色、工程、方法、又は組成物を包含するものと捉えられるだろう。
本開示は、説明及び例示のために本明細書に提供されている、本明細書に記載の具体的な実施態様によって範囲が限定されない。機能的に又は別の点で同等な実体、化合物、特色、工程、方法、又は組成物も、本開示の範囲内である。
上記であれ下記であれ、本明細書に引用されている文書はそれぞれ(全ての特許、特許出願、科学文献、製造業者の仕様書、説明書、プレゼンなどを含む)、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書のいずれの文書も、本発明が、特定の教義より日付が前である権利が与えられないことを承認するものと捉えられるべきではない。
本文書は、理解しようとする心を持って、技術的意味を理解しようとする最善の目的ある意思を持って解読されるべきである。本明細書において使用される全ての用語は、この文書が明確な定義又はその他により、1つ以上の単語に特別な意味を与える特殊な場合を除いて、該単語が関連技術分野において通常有している意味及び範囲を、該単語に与えることにより、解読されるべきである。本明細書において提供されている定義が、いくつかの又は全ての文献における定義から部分的に又は完全に逸脱している場合には、本明細書における定義が通用するだろう。
特記されない限り又は内容からそうではないことが要求されない限り、本明細書に開示されている各々の実施態様、態様および実施例は、本明細書に開示されている任意の他の実施態様、態様又は実施例に適用可能であり組み合わせ可能であると捉えられるだろう。
特記されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、技術分野(例えば、遺伝学、分子生物学、遺伝子発現学、細胞生物学、細胞培養学、幹細胞学、間質細胞学、新生児学、再生医学、解剖学、組織学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、及び生化学)における通常の技能者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。例えば英語で刊行された教科書及び総説論文は典型的には、当技術分野の通常の技能者によって一般的に理解されているような意味を定義する。
「及び/又は」、例えば「X及び/又はY」という表現は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味するものと理解され、「及び」、「又は」及び両方の意味(「及び」又は「又は」)の明確な開示を与えるものと捉えられるだろう。
特記しない限り、本明細書において使用する「約」、「およそ」及び「実質的に」という用語は全て、おおよそ又はほぼを意味し、本明細書に示された数値又は範囲の脈絡において好ましくは、列挙又は特許請求された数値又は範囲の周辺の+/−10%、より好ましくは+/−5%を示す。細胞の特徴に関する「実質的にない」、「実質的に存在しない」などのような用語は、それぞれの特徴を、当技術分野の最先端技術に従って、それぞれの分野において通常使用される分析法を用いて、細胞上に検出することができない、及び/又は、このように記載されている集団中の実質的に全ての細胞がそれぞれの特徴を有さないことを意味する。
特記しない限り、「含む(comprise)」という単語、又は「含む(comprises)」又は「含んでいる」などの変化形は、本文書の脈絡において、「含んでいる」によって導入されているリストのメンバーに加えて、さらに他のメンバーが場合により存在してもよいことを示すために使用される。しかしながら、本発明の特定の実施態様として「含んでいる」という用語は、さらに他のメンバーが全く存在していない可能性も包含する、すなわち、この実施態様の目的では、「含んでいる」は、「からなる」の意味を有するものとして理解されるべきであると捉えられる。
特記されない限り、本発明に関するそれぞれの量についての全ての表示は、重量/重量基準で行なわれる。一般用語によって特徴付けられる成分の相対量の表示は、前記の一般用語によって網羅される全ての特定の変化形又はメンバーの総量を指すことを意味する。一般用語によって定義される特定の成分が、ある相対量で存在すると明記されている場合、この成分が、一般用語によって網羅される特定の変化形又はメンバーであるとさらに特徴付けられている場合、一般用語によって網羅されるその他の変化形又はメンバーはその他に全く存在せず、よって一般用語によって網羅される成分の相対量の合計は、明記された相対量を上回ることを意味し;より好ましくは、一般用語によって網羅されるその他の変化形又はメンバーは全く存在しない。
「同種」という用語は本明細書において、同じ種の異なる個体に由来するものを記載するために使用される。2つ以上の個体は、1つ以上の遺伝子座における遺伝子が同一ではない場合に、互いに同種であると言われる。
細胞に関して「面積」又は「表面積」又は「細胞表面積」という用語は、真上から見たような細胞の表面積を指す。本開示の脈絡において、細胞の2次元表面積は、該細胞が接着培養されている間に、すなわち、細胞が培養プレートに接着している間に決定される。細胞が低コンフルエンス状態にあることが、決定の再現性にとって有利であると考えられる。なぜなら、低コンフルエンスでは、細胞は接触阻害によって互いに有意に阻害しないと考えられているからである。表面積の決定法は、本明細書において以下に示されている。
「平均表面積」及び「平均面積」という表現は、2つ以上の個々の細胞の表面積の平均を指し、第一工程ではまず各々の個々の細胞の面積が上記のように決定され、その後、続く第二工程では、平均面積は、第一工程において決定されているように、個々の細胞の面積の算術平均として決定される。典型的には、少なくとも35個の細胞が、平均面積の決定のために第一工程及び第二工程にかけられ;換言すれば、平均値は、少なくとも35個の細胞の平均値を示す。
「自己」という用語は本明細書において、同じ被験者に由来するものを記載するために使用される。一例として、「自己細胞」は、同じ被験体に由来する細胞を指す。自己細胞の移植は時に、有益であると考えられる。なぜなら、それは、免疫学的障壁を克服し、さもなければ拒絶が起こるからである。細胞は、膜内に封入された細胞質から構成される生物学的実体である。本明細書において使用する「細胞」という用語は好ましくは、真核細胞を指す。「細胞」という用語は、幹細胞、又は幹細胞特性を欠失した細胞、例えば最終分化した細胞又はさらには死滅した細胞を指し得る。典型的には、該細胞は、多細胞生物又はその一部を起源とする細胞である。好ましくは、該細胞は、多細胞生物から単離されている、すなわち、それが起源とする多細胞生物に物理的に接続されていない及び/又は栄養学的に独立している。間質細胞は、本発明による好ましい細胞である。
「細胞集団」及び「細胞の集団」という用語は同義語として、多数の細胞の集合体を指す。最も狭義の実施態様では、細胞集団は2つの細胞を含むが、より典型的には多数の細胞を含む。該用語は、本質的に同一な細胞の集団、例えば単一のクローン原性細胞を起源とする細胞集団、並びに、異質な細胞集団、すなわち、異質な起源を有する及び/又は互いに少なくとも1つの機能的特徴若しくは構造的特徴において異なる細胞の両方を包含する。該用語は、懸濁細胞集団のみ、接着細胞集団のみ、及び懸濁細胞集団と接着細胞集団の混合物を包含する。細胞集団は、幹細胞と、幹細胞特性を欠失している細胞の両方を含み得る。別のしかし互いに排他的な例では、細胞集団は、生細胞と死滅細胞の両方を含む。
特記されない限り、「CD」(典型的には数字と一緒に使用される(例えば「CD34」))は本明細書において「表面分類抗原」を意味する。
「クローン原性」という用語は、増殖し、これにより、通常遺伝子型的に同一である多数の娘細胞を生じる細胞の能力を指す。「クローン原性」細胞はまた、「コロニー形成単位(Colony Forming Unit)」すなわち「CFU」とも称され得る。
本明細書において使用する「コラゲナーゼ」という用語は、コラーゲン内のペプチド結合を破壊することができる酵素(E.C.3.4.24.7)を指す。一般的に、コラゲナーゼは、細胞外構造を破壊することを支援することができる。該用語は、特記されない限り、コラゲナーゼの種類又は入手源に関する具体的な限定を全く意味しない。コラゲナーゼは組換え型であっても、又はその天然源に由来していてもよい。多くの市販のコラゲナーゼは、E.C.3.4.24.7の他に、他の酵素活性も含む。このような市販のコラゲナーゼは、本発明の脈絡において適している(実施例参照)。
「コンフルエンス」という表現は本明細書において、細胞、典型的には接着細胞によって覆われている培養容器の底面の比率を説明するために使用される。コンフルエンスは典型的には、「コンフルエンス%」として示される。
「コンフルエンス%」又は「コンフルエンス率」という表現は、細胞、典型的には接着細胞によって覆われている培養皿の底面の比率、すなわち、培養皿の底面と比較した細胞の総面積の総和を指す。例えば、50%コンフルエンスは、表面の実質的に半分が覆われ、依然として細胞が増殖する余地があることを意味する。100%コンフルエンスは、表面が完全に細胞によって覆われ、細胞が単層として増殖するための余地がもはや残されていないことを意味する。本発明の脈絡において、細胞は典型的には、それらの増殖表現型を最適に維持するために、100%コンフルエンスに達する前に継代させる。
「低コンフルエンス」という表現は、50%以下、典型的には10〜50%のコンフルエンス率を意味する。「サブコンフルエント」及び「サブコンフルエンス」という表現は、50%を超えるが80%以下のコンフルエンス率を意味する。
「培養容器」又は「細胞培養容器」という用語は一般的に、哺乳動物細胞の培養に適した容器を指す。典型的な培養容器は、フラスコ、プレート、及びスタック(ここでのスタックは典型的には、互いの上面に積層された多数のプレートから構成されている)である。本発明の脈絡において特に適した培養容器は、培養容器の底に細胞の接着を可能とする培養容器であり;このような容器は、平坦な底面を有するフラスコ、プレート、及びスタックである。
培養容器に関して、「表面」又は「底面」という用語は互換的に、培養容器の内部底面、すなわち、培養容器中での増殖中に接着特性を有する細胞が通常は接着するであろうその表面を指すことを意図する。通常、該表面は、培養容器の内底にあり、培養容器の側壁のみによって区切られている。
「密度」又は「細胞密度」という用語は、特記されない限り、2次元面積あたりの細胞数、例えば特に1cm2あたりの、典型的には細胞培養容器の底面1cm2あたりの細胞数を指す。典型的には、該用語は、どれだけ多くの細胞が培養容器に、例えば特定の継代の開始時に播種されたかを記載するために使用される。該培養容器の全底面及びその培養容器中に播種された総細胞数は、その後、該継代開始時の該培養容器1cm2あたりの細胞密度を規定する。実際に、継代開始時に接種材料として使用される細胞数(I)は、該継代開始前に細胞計数によって適切に決定され;よって、Iは、細胞密度と培養皿の底面の関数である。特記されない限り、「細胞密度」は、培養容器の全底面におよぶ平均細胞密度を指し;それにも関わらず、本発明において、該細胞は、培養容器の底面全体に均一に分配されることが好ましい。
細胞に関する「直径」又は「細胞直径」という用語は、真上から見た場合の細胞の最長直径を指す。本文書の脈絡において、細胞の直径は、細胞が接着培養されている間に、すなわち該細胞が培養プレートに接着している間に決定される。細胞はサブコンフルエンス状態であることが重要である。サブコンフルエンスは、決定の再現性に有利であると考えられる。なぜなら、サブコンフルエントな細胞は、接触阻害によって互いに実質的に阻害しないと考えられているからである。直径の決定のために、1つ以上の細胞の写真撮影をするか、あるいはさもなくば、細胞又は細胞群が接着している培養プレートの表面に対して垂直(すなわち90°)の面から典型的には顕微鏡を用いて肉眼で観察するか又は記録する。面積の境界は、細胞のグラフ画像(すなわち写真)上で手作業で定められる。好ましくは、培養容器は、グラフ画像を記録する前には撹拌しない。二極性細胞の場合、直径は、細胞の2つの極の間の距離である。多極性細胞では、例えば三極性細胞では、直径は、互いに最も遠く離れている細胞の2極間の距離である。それぞれの場合において、「距離」は、それぞれの2つの極間を接続している最短の直線を意味する。
「平均直径」という用語は、2つ以上の個々の細胞の直径の平均値を指し、ここでの第一工程では、各々の個々の細胞の直径は上記のように決定され、その後、続く工程では、平均直径は、第一工程で決定された細胞直径の算術平均として決定される。
本明細書において使用する「増殖する」又は「増殖している」という用語は一般的に、細胞又は細胞集団の増殖を指す。典型的には、本発明の脈絡における増殖は、インビトロ又は生体外で行なわれる。典型的には、増殖は、細胞の単離に続く活動又はプロセスである。典型的には、増殖中に細胞の総数は増加する。細胞数の増加は「累積集団倍加数」に言及することによって、又は「継代数(「P」)」に言及することによって、又はそれぞれの段階での細胞総数を示すことによってなどにより記載され得る。
本明細書において使用する「発現する」、「発現した」、及び「発現」、「遺伝子発現」などの用語は、機能的遺伝子産物の合成における遺伝子からの情報の使用に関する。遺伝子発現は、少なくとも転写を含み、RNA編集、翻訳及び翻訳後修飾を含むオープンリストから場合により選択された、1つ以上の追加の特色を場合により含む。遺伝子発現が決定されると、編集されていない若しくは編集されたRNA又はさらにはコードされているタンパク質などの発現産物の存在を決定する。特定の遺伝子又は遺伝子座に関して使用される上記用語は、その遺伝子又は遺伝子座からの遺伝子情報の発現を明記することを意図し;例えば、APCDD1が発現されていると言う場合、それはAPCDD1遺伝子が発現されていることを言うことを意味する。
本明細書において使用する「抽出する」という用語は、生物学的環境からの単離を指す。脈絡に応じて、該用語は、「抽出すること」(動詞)又は抽出された物理的実体(例えばその天然環境からの抽出によって得られた細胞又は細胞集団)を意味し得る。例えば、細胞が臍帯から抽出されている場合、細胞は、臍帯内のその元来の場所から単離されている及び/又は臍帯の他の解剖学的領域から分離されている。好ましくは、抽出された細胞は、生体外にある及び/又は血管から物理的に分離されている及び/又は同じ臓器若しくは組織の他の細胞から物理的に分離されている及び/又は同じ臓器若しくは組織の非細胞性の解剖学的領域から物理的に分離されている細胞である。
本明細書において使用する「フローサイトメトリー」という用語は、細胞計数、細胞選別、細胞特性の分析、及びバイオマーカーの検出(例えば、特に表面抗原分類(CD)分子などの細胞表面分子の検出)に適したレーザー又はインピーダンスに基づいた生物物理的技術を指す。フローサイトメトリーは、懸濁液中の細胞を必要とし;接着細胞を分析するために、これらは、該細胞が接着している例えば培養容器などの基材から、例えばトリプシン処理などの酵素的処理によって剥離される必要があり、これにより、それらは懸濁液中の細胞となる。懸濁液中の細胞、すなわち液体流中の細胞を、電子検出装置(フローサイトメトリー装置)に通過させる。フローサイトメトリー装置は、例えば各細胞の特異的な光散乱に基づいて、細胞を分析する。FACSAriaIIIフローサイトメーター(BDバイオサイエンシーズ社)などの市販のフローサイトメトリー装置を使用することができる。フローサイトメーターによって作成されたデータを、単一の次元にプロットしてヒストグラムを作成するか、又は2次元ドットプロットで若しくはさらには3次元にプロットすることができる。プロットは、線形目盛又は対数目盛などの好適な目盛を使用して作成され得る。これらのプロット上の領域を、「ゲート」と呼ばれる一連のサブセット抽出を作り出すことによって、蛍光強度に基づいて、順次分離することができる。
本明細書において使用する「蛍光活性化細胞選別」又は同義語としての「FACS」は、特殊な種類のフローサイトメトリーである。FACSは、各細胞の特定の光散乱及び/又は蛍光特徴に基づいて、異質な生物学的細胞の混合物を2つ以上の集団に選別するための方法である。FACSのための標識として使用されるフルオロフォアの種類は、特に限定されず;いくつかの実施態様では、フルオロフォアを、細胞表面タンパク質などの標的特色を認識(例えば、特に、表面抗原分類(CD)分子などの細胞表面分子の検出)する抗体に付着させる。フルオロフォアは代替的には、細胞膜又は別の細胞構造に対する親和性を有する化学実体に付着させてもよい。各フルオロフォアは、特徴的な励起ピーク波長及び発光ピーク波長を有し、これはFACSに適した装置によって検出される。FACSAriaIIIフローサイトメーター(BDバイオサイエンシーズ社)などの市販の装置を使用することができる。
本明細書において使用する「異質」という用語は、多数の異なる成分からなるものを説明する。例えば、ある個体の細胞を異なる個体に導入することにより、異種移植片が構成される。異種遺伝子は、被験者以外の起源に由来する遺伝子である。
本明細書において使用する「不死の」及び「不死」という用語は、ヘイフリック限界にかけられることなく分裂することのできる細胞を示す(ヘイフリック限界は、DNA傷害又はテロメラーゼ短縮に因り細胞がもはや分裂することができない時点である)。不死細胞は典型的には、テロメア伸長酵素であるテロメラーゼを発現しているが、これは厳密な必要条件ではない。
本明細書において使用する「接種材料」という用語は、所与の培養容器中で所与の細胞培養(継代)が開始される総細胞数を指す。
「単離された」により、その天然状態において通常随伴する成分を実質的に又は本質的に含まない、材料を意味する。例えば、本明細書において使用する「単離された細胞」は、細胞内環境及び細胞外環境から、例えば天然状態で細胞を囲んでいる組織などから、精製されている細胞、例えば通常は細胞に隣接している臍帯組織から取り出されている間葉系間質細胞を指す。代替的な記述では、本明細書において使用する「単離された細胞」などは、その天然の細胞環境からの、及び細胞が通常存在している組織の他成分との会合状態からの、インビトロにおける細胞の単離及び/又は精製を指す。内容からそうではないと示されていない限り、「単離された細胞」は必ずしも、他の細胞を全く欠いている単一細胞である必要はない;これに対し、多数の細胞などの、2つ以上の細胞の集団でさえ、該細胞集団が、このような細胞集団にその天然状態で通常随伴する成分を実質的に又は本質的に含まない意味において単離されている場合、「単離されている」と称され得る。例えば、間葉系間質細胞集団は、それが臍帯などの元来の組織から取り出されている場合に「単離されている」と称され得る。「単離された」という単語のこの定義によると、本明細書において使用する「単離すること」は、例えば単離された細胞などの「単離された」材料を得るための活動を説明する動詞である。
本明細書において使用する「分化系統の決定された」という用語は、有糸分裂することはできるが、典型的には無限回数の有糸分裂をすることはできない、前駆細胞を指す。最終的には、分化系統の決定された細胞の前駆体は、分化することが決定されている。
本明細書において使用する「培地」という用語は、細胞、特に哺乳動物細胞の培養に適した水性混合物を指すことを意味する。水性混合物は典型的には溶液であるが、懸濁液及びコロイド状混合物も含まれる。培地は典型的には液体であるが、培地によっては、保存目的のために一過性に凍結されていてもよい;いずれの場合にも、培地は、液体である時に細胞培養に使用される。培地は、組成の定められた水性混合物である「基礎培地」であるか、又は、基礎培地と少なくとも1つの補助剤とを含む水性混合物であり、通常、生体外における細胞の生存及び場合により生体外でも細胞の増殖を持続する能力を有する「増殖培地」のいずれかであり得る。明記されていない限り、内容により、基礎培地が意味されているか、又は増殖培地が意味されているかが指示される。基礎培地は好ましくは、化学組成の定められた培地である。増殖培地は好ましくは、基礎培地(典型的には85%から99.5%容量/容量)と、少なくとも1つのヒト由来、動物由来、又は植物由来の補助剤、例えば血清、細胞溶解物、又は特に本発明の脈絡において血小板溶解物とを含む。
「間葉系」という用語は本明細書において、間葉系細胞型に属する細胞、例えば脂肪細胞、結合組織、骨、軟骨、血液、リンパ管及び血管の細胞、並びに、間葉系細胞型へと分化することのできる間質細胞又は幹細胞を指すために使用される。本発明に関する制約を意図するものではないが、間葉系細胞はインビボにおいて時々、疎に充填され、ゼラチン状基質内に設置される。典型的には、間葉系細胞は中胚葉(胚体中胚葉又は胚体外中胚葉)を起源とする。いくつかの実施態様では、間葉系細胞は、間質細胞(間葉系間質細胞)若しくは幹細胞(間葉系幹細胞)、又はこれらのいずれかに由来する細胞である。
「MSC」と略される「間葉系間質細胞」という用語は本明細書において、間葉系を起源とする、すなわち、特に中胚葉に由来する結合組織などの間質を起源とする細胞を指すために使用される。「間葉系間質細胞」の組織の入手源は、それ自体さらに限定されていないが;しかしながら、本発明の好ましい態様によると、「間葉系間質細胞」は、臍帯から、より正確には本明細書に詳述されているような臍帯の間質ワルトン膠様質から派生する。間葉系間質細胞は典型的には、表面マーカーCD105及びCD73、並びに通常はCD90も発現している。好ましくは、本発明による「間葉系間質細胞」は、CD105(エンドグリンとして知られている)、CD73(エクト−5’−ヌクレオチダーゼとしても知られている)及びCD90(Thy−1としても知られている)の発現によって特徴付けられる。間葉系間質細胞は、特にCD45、CD34、CD14、CD19、又はCD3などの造血系抗原を実質的に発現していないことによって特徴付けられる。典型的には、MSCはインビトロでMHCクラスI分子を発現しているが、組織培養液中で例えばインターフェロンによって刺激されなければクラスII分子は発現していない。したがって、MSCの典型的な表面マーカー表現型は、CD105+、CD73+、CD90+、CD45−、CD34−、CD14−、CD19−、CD3−、HLA DR−である。MSCをはっきりと同定するが、この表面マーカープロファイルは複雑である。MSCの典型的で特徴的な特色は、インビトロにおいて、様々な細胞型(典型的には骨芽細胞、脂肪細胞及び軟骨芽細胞を含む)へと分化する能力である。典型的には、MSCはインビトロでプラスチックに接着性である。「間葉系間質細胞」という用語は、このように呼ばれる細胞が幹細胞であることを本質的に必要とするものではないが;それにも関わらず、本明細書に記載されているように、本発明による又は本発明に従って得られたMSCは、好ましい実施態様では幹細胞様特性を有していてもよい。
「間葉系系統前駆細胞」という用語は、多能性と、間葉系を起源とする多くの細胞型の中のいずれか(例えば骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、間質細胞、線維芽細胞、及び腱)及びおそらくはまた間葉系以外を起源とする細胞(例えば神経細胞及び上皮細胞)へと分化する能力とを維持しつつ、自己再生能を有する、間葉系間質細胞を指す。したがって、「間葉系系統前駆細胞」という用語は、該細胞は多能性であるが(全能性の対語)、様々な細胞型へと分化することのできる細胞を指す。いかなる特定の理論にも拘りたくはないが、「間葉系系統前駆細胞」は、中胚葉系統の細胞であると理解される。しかしながら、特記されない限り又は内容からそうではないと指示されない限り、「間葉系系統前駆細胞」という用語は、それぞれの細胞の組織の入手源に関する制約を意味するものではない。したがって、一般的には、「間葉系系統前駆細胞」と呼ばれる細胞は、特定の組織の入手源に限定されず、例えば骨髄、臍帯、成体末梢血、脂肪組織、海綿骨、及び歯髄を入手源とし得る。本発明の好ましい態様によると、「間葉系系統前駆細胞」は臍帯から、より正確には、本明細書に詳述されているような臍帯のワルトン膠様質から派生する。「間葉系系統前駆細胞」という用語は、親細胞及びそれらの未分化な子孫の両方を含む。「間葉系系統前駆細胞」という用語はまた、間葉系前駆細胞、多能性間質細胞、間葉系幹細胞、及びそれらの未分化な子孫も含む。本発明によると、「間葉系系統前駆細胞」は本明細書において定義されているような幹細胞であることが非常に好ましく、幹細胞は全能性ではないという制約を伴う。
本明細書において使用する「多」及び「多数」という用語は、多数、すなわち2つ以上のいずれかの数を意味する。
本明細書において使用する「多能性」は、いくつかの成熟細胞型の中のいずれかを生じることのできる細胞を指す。「多能性」という用語は、前駆細胞、及び依然として多能性であるこのような細胞の全ての子孫を包含する。「多能性」という用語は、1つを超える明確に異なる細胞型への分化能を有する前駆細胞を指す。特定の理論に拘りたくはないが、多能性幹細胞は、系統の階層の頂点にあり、多数の種類の分化した細胞を発生することができると理解される。限定するものではないが、多能性細胞は、臍帯、脂肪組織、心細胞、骨髄、及び歯髄に認められ得る。いくつかの実施態様では、多能性細胞は万能性である。
本明細書において使用する「血管周囲」又は「血管周囲帯」又は「血管周囲領域」という用語は、血管などの管の近くにある物理的領域又は帯域を指す。「血管周囲帯」又は「血管周囲領域」は、図1の項目(5)として示されている。特に、臍帯の血管周囲帯/領域(5)は、臍帯の各血管の周囲の各帯域/領域を指す。血管周囲帯/領域は適切には、各臍帯血管の外壁から3mmまで伸長している空間として定義され得る(国際公開公報第2004/072273A1号)。例を用いると、血管周囲帯/領域は、Takechi et al., 1993(Placenta vol. 14; p. 235-245)によって記載されている。
「血小板溶解物」という用語は、血小板(blood platelet)(血小板(thrombocyte)とも呼ばれる)から得ることのできる製剤を指す。血小板は、ドナーから、好ましくはヒトドナーから得ることができ、全血の集収装置から単離されプールされるか、又は血小板アフェレーシス(血液をドナーから採取し、血小板を取り出す装置に通過させる)によって回収されるかのいずれかである。その単離後、例えば血漿に(再)懸濁させた血小板を、典型的には、例えば1回以上の凍結/解凍サイクル(群)によって溶解する。血小板溶解物は、多数の業者から、例えばマクロファーマ社(ムヴォー、フランス)から、臨床血液バンクから、例えばモデナ(イタリア)にあるポリクリニック(Polylclinic)の血液バンクから入手可能であるが、例えばNaaijkens et al., Cell Tissue Res., 2012, vol. 348, p. 119-130及び国際公開公報第第2013/042095A1号に記載のように、血中の血小板から直接調製されてもよい。
本明細書において使用する「万能性」という用語は、3つの中のいずれかの胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)に分化する能力を有するが生殖系列の細胞に分化する能力は有さない、細胞を指す。典型的には、万能性細胞は、生殖系列細胞以外の、成体生物の全ての細胞型へと分化することができる。1つの実施態様では、万能性細胞は、いかなる理論にも拘りたくはないが、哺乳動物の生体のいずれかの細胞型へと分化することができる細胞であり、これらは約260種類の細胞であり得る。万能性細胞は自己再生することができ、組織内で休止状態又は静止状態のままであり得る。万能性細胞は好ましくは以下の全てに準じる:(i)未分化状態で増殖することができる、(ii)長時間の培養中でも正常な核型を維持する、及び(iii)長時間の培養後でさえ、3つの中のいずれかの胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)へと分化する能力を維持している。
数字がその後に続く「P」と略される「継代数」という用語(例えば「P1」)は、細胞培養液が継代培養された回数を指す。したがって、「継代数」という用語は、細胞の増殖中の状態を説明するのに有用な用語である。
「PD」と略される「集団倍加」という用語は本明細書において、細胞数が、例えば、初期の時点t0から後の時点t0+xまでの期間に倍加したことを説明するために使用される。その場合、xは、細胞数が倍加した期間を示す。例えばt0は、最初の単離の時点、又はある継代が開始された時点であり得る。したがって、「集団倍加」という用語は、細胞の増殖を指す用語である。該用語は一般的に、インビトロにおける細胞数の倍加を指す。集団倍加(PD)は式:
PD=log(N/N0)/log2
(式中、
N0は、播種された細胞数であり、
Nは収集された細胞数である)
によって計算される(Purpura et al., 2004, Stem Cells. Vol. 22, p. 39- 50)。
「累積集団倍加数」という用語は本明細書において、特定の時点以来、例えば細胞が最初に単離されて以来、細胞集団中の細胞がインビトロで倍加した総回数を指すために使用される。したがって、「累積集団倍加数」という用語はまた、一般的にはインビトロにおける細胞の増殖を指す用語である。適切には、累積集団倍加数は、各継代について決定される。累積集団倍加数は、式:
n=log(N/N0)/log2+X
(式中、
nは累積集団倍加数であり、
N0は、播種された細胞数であり(すなわち継代開始時において)、
Nは収集された細胞数であり(すなわち、該継代終了時において)、
Xは、該継代開始時における累積集団倍加数である)
によって計算される。
N0は、継代開始前の細胞計数によって適切に決定され;N0は、細胞密度と培養皿の底面の関数である。Nは、継代終了時の、例えばトリプシン処理による剥離後の、細胞計数によって適切に決定される。
累積集団倍加数は相加的であり(したがって、上記の式におけるX);例えば、細胞が、初回の継代P1の間に5回の累積集団倍加数を受け、続く2回目の継代P2の間に再度5回の累積集団倍加数を受けた場合、該細胞は、P1+P2の全経過中に10回の累積集団倍加数を受けている。新たに単離された細胞は、定義によると、累積集団倍加数=0を有する。したがって、P0の開始時には、X=0である。P0の前にN0を決定することは難しい(したがって、P0についてのnを決定することは難しい)ことが時々あるので、累積集団倍加数は、場合によりP1以降においてのみ決定される;しかしながら、そうである場合、このことは、本開示中に具体的に指摘される。
最も近い整数に四捨五入された推定値として累積集団倍加数を示すことができる。確定された培養条件が使用される場合、継代数から累積集団倍加数へと及びその逆へと算術的に変換することが可能である。
「前駆細胞」という用語は本明細書において、幹細胞及び/又は幹細胞の子孫であり得る、細胞を指すために使用される。前駆細胞は典型的には、幹細胞の子孫であり、ただそれらはそれらの分化能又は自己再生能においてより拘束されている。前駆細胞は、例えば多能性又は単能性であり得る。
細胞に関して本明細書において使用する場合の「分泌する」又は「放出する」という用語は一般的に、細胞から外部環境へと外在化されるあらゆる材料を指す。該材料は典型的には、細胞によって産生及び/又は修飾されているが、これは必要条件ではない。例えば、いくつかの細胞はタンパク質及び/又は調節分子、例えばホルモン、プロスタグランジン及び神経伝達物質、並びに/あるいは微小胞及び/又はエキソソームを、それらのそれぞれの外部環境へと分泌する。例えば、細胞によって産生されたプロスタグランジンは、細胞の環境へと外在化され得る。本明細書において使用する該用語は、内容からそうではないと指示されない限り、インビボでの分泌/インビボでの環境にも、インビトロでの分泌/インビトロでの環境にも限定されない。
細胞に関する「細胞容積」又は単に「容積」という用語は、フローサイトメトリー、特にFACS分析、より特定すると前方散乱光(FSC)の決定によって決定可能な細胞容積を指す。本開示の脈絡では、細胞容積は、該細胞、例えば剥離した細胞、例えばトリプシン処理された細胞(接着培養後)又はコラゲナーゼにより放出された細胞(組織から単離後)が懸濁液中にある間に、すなわち、該細胞が培養プレート又は組織に接着していない間に決定される。側方散乱光(SSC)の決定及び場合により細胞容積の決定は、本明細書において以下に記載されている。
「平均容積」又は「平均細胞容積」という用語は、2つ以上の個々の細胞の容積の平均値を指し、ここでの第一工程では各々の個々の細胞の容積は、本明細書に記載のようなフローサイトメトリーによって決定され、次いで続く第二工程では平均容積は、第一工程で決定されたような個々の細胞の細胞容積の算術平均として決定される。典型的には少なくとも1,000個の細胞が、平均細胞容積の決定のために第一工程及び第二工程にかけられ;換言すれば、平均値は、少なくとも1,000個の細胞の平均値を示す。
「幹細胞」という用語は本明細書において、表現型的及び遺伝子型的に同一な娘細胞(「自己再生」)並びに少なくとも1つの他の最終的な細胞型(例えば最終分化細胞)を生じることのできる真核細胞を指す。「幹細胞」という用語は、全能性、万能性、又は多能性であり得る細胞、並びに、その分化から誘導された前駆体及び/又は前駆細胞、並びに/あるいは分化系統の決定された子孫細胞を指す。一般的に、「幹細胞」という用語は、成体幹細胞又は胚性幹細胞を指し得る。「幹細胞」という用語は場合により、誘導性幹細胞、例えば誘導性万能性幹(iPS)細胞を指し得るが、より好ましくは誘導されていない細胞を指す。
「幹細胞性」又は「幹細胞様特性」/「幹細胞様特性群」という用語は同義語として使用され、細胞の特性、特に自己再生能と、分化した細胞を産生する能力とを示す。より明確には、幹細胞様特性を有する細胞は、それらの母細胞と同一な娘細胞を生じることができ(自己再生)、同時に、より拘束された能力を有する前駆体、例えば分化した細胞を生じることができる。幹細胞様特性を有する細胞は、ある度合いの能力、すなわち、分化した子孫を生じる子孫によって特徴付けられる。幹細胞様特性を有するいくつかの細胞は、多数の分化した(例えば「多能性の」又は「万能性の」)細胞型を生じることができ、一方、その他の細胞は、一種類の分化した(「単能性の」)細胞を生じることができる。幹細胞様特性を有する細胞は、自己再生能を有するが、幹細胞様特性を有する細胞をはじめとする大半の体細胞は、インビトロで培養された場合、複製停止又は老化までに、有限の累積集団倍加回数におよび増殖することができる。好ましい実施態様では、本開示による間葉系間質細胞は、幹細胞様特性を有する間葉系間質細胞である。
一般的には、「間質」は、組織を力学的に支える際に、例えば結合により構造を支える際に、及び/又は(好ましくは及び)組織を機能的に支持する際に役割を果たす、ヒト又は動物の組織又は器官の一部である。したがって、生体内では間質は、生物学的な組織又は器官の結合の機能を支える枠組みである(これは、組織の機能的な側面である実質と対比される)。本明細書において使用する「間質」という用語は、例えばであってこれに限定されるものではないが、臍帯、子宮粘膜(子宮内膜)、前立腺、骨髄、リンパ節、及び卵巣における、任意の器官の結合組織細胞を指す。それぞれの器官において、間質は、その器官の実質細胞の機能を支えると理解されている。したがって、間質は、器官の具体的な機能を遂行しない全ての部分、例えば、結合組織、血管、神経、導管などからなる。したがって、臍帯の間質は、管を除く臍帯、血管周囲領域、及び羊膜上皮からなるマトリックスである。間質という用語は、全器官の間質、又は、その特定の解剖学的領域を指し得る。特に、間質という用語は、臍帯の間質それ全体、又は、その特定の解剖学的領域、すなわち、臍帯の特定の区画に含有されている間質を指し得る。
本明細書において使用する「間質の」という用語は、間質に存在するか又は間質に由来するものを指す。該用語は、「間質の」材料(例えば間質細胞)の場所を間質内に存在するものと限定せず、それはまた、生きているヒト又は動物の生体の器官内の間質内に存在していたが、その後、器官から抽出又は単離されて、生きているヒト又は動物の生体の器官内にはもはや存在していない、材料(例えば細胞)も指す。換言すれば、「間質の」という用語は、材料(例えば細胞)が抽出されていようが単離されていようが関係なく、具体的なインビボにおける材料(例えば細胞)の入手源を指す。間質から抽出又は単離された材料(例えば細胞)はまた本明細書において、「間質由来の」、「間質から誘導された」などと称され得る。本発明のいくつかの好ましい実施態様では、間質材料(例えば間質細胞)は、抽出若しくは単離されているか又は抽出若しくは単離されたので、それは生きているヒト又は動物の生体の器官内にはもはや存在していない。
したがって、「間質細胞」は、間質内に存在しているか、又は間質に由来する、すなわち抽出又は単離され、よって生きているヒト又は動物の生体の器官内にはもはや存在していない、生物学的細胞である。間質細胞は、特記されない限り又は内容からそうではないと指摘されない限り生存している。多くの器官では線維芽細胞及び周皮細胞は、最も一般的な種類の間質細胞である。実例として、間質細胞は、間質(例えば臍帯の間質)内に存在する細胞であり得るか、又は間質(例えば臍帯の間質)から単離(例えば抽出)され場合により増殖させた細胞であり得る。間質細胞は典型的には非悪性細胞である。
「同系」という用語は本明細書において、同一な遺伝子型を有する個体若しくは細胞、例えば同一な双生児若しくは同じ近交系株の動物、又はそれらの細胞に由来するものを説明するために使用される。
本明細書において使用する「全能性」という用語は、生物内で分裂し、全ての分化した細胞を産生することのできる細胞を指す。典型的には、全能性細胞は、完全な胚を生じることができる。哺乳動物では、典型的には接合体及び続く卵割球のみが全能性である。
「臍帯」という用語は、「へその緒」とも呼ばれるが、これは新生児と胎盤保有動物の胎盤との間の導管を指す。出生前の発生中では、臍帯は胎児の生理学的かつ遺伝子的な一部である。臍帯は、胚発生の全期間を通して存在し、そこで臍帯は胎盤を発生中の胚又は胎児と接続しているが、本明細書では該用語は特に、すでに生まれている乳児の臍帯を指す。ヒトでは、臍帯は通常、3本の血管、すなわち、2本の動脈(臍帯動脈)及び1本の静脈(臍帯静脈)を含む。3本の血管は典型的には、ワルトン膠様質内に包埋されている。胎盤又はその一部も、新生児又はその一部も、臍帯の一部ではなく;その用語は専ら導管を指す。
「単能性」という用語は、一種類の分化した子孫しか生じることができない、幹細胞様特性を有する細胞を指す。このような単能性細胞はまた、前駆細胞とも称され得る。
本明細書において使用する「生存している」という用語は、細胞について言及する場合、該細胞が生細胞であることを意味する。生細胞は典型的には代謝的に活動性である。いくつかの異なる着色剤及び蛍光色素を使用して生存していない細胞を染色することができるが、本明細書では7−アミノアクチノマイシンD(7−AAD)を用いた染色が優先される。7−AADは、生細胞から一般的には排除される膜不透過性色素である。それは、G−Cリッチ領域内の塩基対間に挿入することによって、二本鎖DNAに結合する。7−AADは、例えばアルゴンレーザーを用いて488nmで励起され得、647nmの最大波長で蛍光を発する。7−AADを使用して、細胞の生存率を、フローサイトメトリー、特にFACS(蛍光活性化細胞選別)によって決定することができる。
本明細書において使用する「管(vessel)」という用語(「培養容器(culture vessel)」と混合しないように、そこを参照)は一般的に、体液(血液など)が含まれ運ばれ又は循環される、管又は水路(静脈又は動脈など)を指す。内容からそうではないと指示されない限り、「管」という用語は本明細書において、臍帯の管を特に指すために使用される。ヒト及び多くの他の哺乳動物では、臍帯は通常、3本の血管、すなわち、1本の静脈(これはインビボにおいて酸素付加された栄養分の豊富な血液を胎児に運ぶ)及び2本の動脈(これはインビボにおいて脱酸素した栄養分の枯渇した血液を運び去る)を含有しているが;2本の管(1本の静脈及び1本の動脈)のみが臍帯内に存在する症例も時折報告されている。
「WJ」と略される「ワルトン膠様質(Wharton’s Jelly)」という用語は、細胞を含む胎盤動物起源のゼラチン状物質を指す。典型的には、ワルトン膠様質は、間質細胞、より特定すると間葉系間質細胞を含む。さらに、ワルトン膠様質は典型的には、ムコ多糖、例えばヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸、並びに水を含む。ワルトン膠様質はまた、眼球の硝子体液においても記載されているが、本明細書においては、ワルトン膠様質は、新生児胎盤保有動物、好ましくは哺乳動物、例えばヒトの臍帯の一部であることが非常に好ましい。その場合、ワルトン膠様質はまた、臍帯内のゼラチン状物質(substantia gelatinea funiculi umbilicalis)とも称され得る。換言すれば、本明細書において使用するワルトン膠様質は、臍帯を起源とすることが非常に好ましく、さらにより好ましくはヒト臍帯を起源とする。以下に記載されているように、臍帯は通常、ワルトン膠様質を、血管周囲領域(5)、血管間領域(4)、及び羊膜下領域(1b)に含む。
「血管周囲ワルトン膠様質(Perivascular Wharton’s Jelly)」すなわち「PVWJ」又は「VPWJ」は全て同義語として、臍帯の特定の解剖学的領域のワルトン膠様質、すなわち、臍帯の血管周囲に位置するワルトン膠様質の解剖学的領域(5)を指す。好ましい実施態様を示すヒト臍帯の場合、PVWJは、血管の外表面から外向きに3.0mm以下伸びている領域に位置する(総説についてはDavies et al., Stem Cells Translational Medicine, 2017, vol. 6, p. 1620-1630参照)。それ故、ヒト臍帯の血管の外壁から3.0mm以内に位置する領域が完全に除去されると、血管周囲帯、及びよってそこに含まれるあらゆる血管周囲のワルトン膠様質が、場合によっては完全に除去される。図解については図1を参照されたい。「PVWJ」及び「VPWJ」という略称はまた本明細書において同義語として使用され、場合によっては、例えば図の説明文のように、「血管周囲ワルトン膠様質」を含む、血管周囲帯を起源とする細胞を指す。血管周囲ワルトン膠様質(PVWJ)由来間葉系間質細胞は、「血管周囲帯に由来する間葉系間質細胞」とも称され得る。
「羊膜下間質」という用語は、臍帯の羊膜上皮(1a)の真隣の帯域(1b)を指す。好ましい実施態様を示すヒト臍帯の場合、羊膜下間質は、羊膜上皮の内表面から内向きに3.0mm以下伸びている領域内に位置する。
「羊膜下ワルトン膠様質」という用語は、臍帯の羊膜上皮(1a)の真隣の羊膜下間質(1b)内のワルトン膠様質を指す。好ましい実施態様を示すヒト臍帯の場合、羊膜下ワルトン膠様質は、羊膜上皮の内表面から内向きに3.0mm以下伸びている領域内に位置する。
本明細書において使用する「SWJ」と略される「間質ワルトン膠様質(stromal Wharton’s Jelly)」という用語は、血管周囲領域(4)を除外した臍帯のワルトン膠様質を指す。したがって、「間質ワルトン膠様質」という用語は、血管周囲領域(4)を含まず、結果として血管周囲領域(4)に由来する細胞を含まない。血管周囲領域が間葉系間質細胞を含むか否かに関して当技術分野においていくらか議論があるが、このような議論は、本発明にとって重要ではない。少なくともなぜなら、本発明は、少なくとも血管周囲領域は本発明による細胞入手源ではないという理由のために、血管周囲領域からの間葉系間質細胞の単離を考えない。特記されない限り、羊膜下間質(1b)は、本明細書に言及されている間質に含まれる。特記されない限り、羊膜下ワルトン膠様質は、本明細書における「間質ワルトン膠様質」と称されるワルトン膠様質に含まれる。羊膜下ワルトン膠様質は、羊膜下間質に含まれる。「SWJ」という略称はまた本明細書において、例えば図の説明文内の「間質ワルトン膠様質」を起源とする細胞を指すために使用される。したがって、図1を参照して、その最も広義な定義における間質(及びしたがってワルトン膠様質の入手源)は、以下のいずれかの一部ではない、臍帯の全てのそうした領域を含む:(1a)羊膜(又は上皮)層;(2)臍帯静脈;(3)臍帯動脈;(5)血管周囲領域;(7)臍帯血。換言すれば、間質(及びしたがってワルトン膠様質の入手源)は、その最も広義の定義では、(6)臍帯内の管腔内、+(1b)羊膜下(又は間葉系)層;+(4)血管間領域のワルトン膠様質を含む。好ましくは、特記されていない限り、羊膜下ワルトン膠様質(1b)は、本明細書における「間質ワルトン膠様質」と称されるワルトン膠様質に含まれる。好ましくは、(4)血管間領域は、本明細書における「間質ワルトン膠様質」と称されるワルトン膠様質に含まれる。したがって、間質(及びしたがってワルトン膠様質の入手源)は、その最も広義の定義では、図1の1b、4及び6として図示されている臍帯のそうした全ての領域を含む。臍帯に関して本明細書において提供されている解剖学的な定義が、いくつか又は全ての文献における定義から部分的に又は完全に逸脱している場合では、本明細書における定義が通用するだろう。
文献(Davies et al., Stem Cells Translational Medicine, 2017, vol. 6, p. 1620-1630)において、実用的な観点から、残りの領域又は帯域から明瞭に解離することのできるのは、(1a)臍帯裏打ち及び(5)血管周囲ワルトン膠様質のみであることが提唱されている。本発明は、1つの実施態様では、明瞭な解離、すなわち、(1a)臍帯裏打ち及び(5)血管周囲ワルトン膠様質を含む血管周囲帯からの間質ワルトン膠様質の分離を考える。
本発明は、相関するいくつかの知見に基づき、よってこれらの知見と共に本発明らは、本発明の様々な態様(これらは全て、以下において個々に記載されているだろう)に到達する。それ故、本明細書に記載の態様は全て、明確にそのように記載されていない場合でさえも、内容から明らかにそうではないと指示されない限り、互いに組合せることができる。本発明の全ての態様は、とりわけ、臍帯の間質ワルトン膠様質が、特有の特性を有する細胞を特に増殖能のある状態に保ち、特定の単離手順が、これらの多能性間質細胞候補を確実に提供することにより、それらを培養液中で維持及び増殖させることができるという知見に基づく。
ヒト胚は、本発明の脈絡において全く破壊されていないか、又は全く破壊されなかった。特に、本発明の方法も細胞も細胞集団も、ヒト胚の破壊を必要としない。
間葉系間質細胞を得るための方法
第一の態様では、本発明は、間葉系間質細胞を得るための方法に関する。該方法は、(a)間質ワルトン膠様質又はその画分を単離する工程、及び(b)間質ワルトン膠様質又はその画分を酵素的処理にかけ、これにより、少なくとも1つの細胞を間質ワルトン膠様質又はその画分から放出させる工程を含む。
特に、(ヒト)臍帯の横断面及び(ヒト)臍帯の切片(解剖学的領域)の概略図を示す、図1を参照すると、該方法は、間葉系間質細胞を得るための方法として記載され得、ここでの該方法は(a)間質ワルトン膠様質(1b、4、6)又はその画分を単離する工程、及び(b)該間質ワルトン膠様質又はその画分を酵素的処理にかけ、これにより、少なくとも1つの細胞を間質ワルトン膠様質又はその画分から放出させる工程を含む。
工程(b)の後に得られた細胞は万能性、又はより典型的には多能性であり得る。追加の工程は任意選択であるが、好ましくは特に増殖工程が含まれ、これは以下に詳述されている。
本発明の方法では、ワルトン膠様質は、臍帯から単離される。これは、骨髄(BM)由来間葉系間質細胞(MSC)が最も広く研究されている成体MSC集団であり、MSCに基づく適用にとって標準と考えられている当技術分野における一般的な傾向に対するパラダイム・シフトである(例えばBatsali et al., Blood, 2013 vol. 122, p. 1212)。しかしながら、骨髄の吸引は一般的に侵襲的で痛みを伴う。骨髄(BM)からの単離を上回る、本発明に記載の方法の大きな利点は、臍帯は、哺乳動物の生誕時に容易に入手可能であることであり、一方、骨髄を得るために必要とされる手術は通常、侵襲的で痛みを伴う。それ故、患者、ドナー及び医療関係者は、骨髄由来のMSCを使用したがらず、確実な代替法が利用可能でさえあれば、さらに使用したがらない確率が高いだろう。
したがって、該方法が生体外での方法であることは、本発明に記載の方法の利点である。好ましくは、生きているヒト又は動物の生体への侵襲は、完全に回避される。したがって、本発明の方法は好ましくは、手術又は治療法によるヒト又は動物の生体の処置法を示さない。それにより、疼痛の側面、取扱いの側面、及び倫理的側面は、文献に記載のような骨髄からの単離と比較して成功裡に対処される。
いくつかの以前の研究及び報告とのさらなる重要な相違は、先行技術によると、MSCは、臍帯血管を囲む結合組織から効率的に単離されることができるが(例えば、Batsali et al., Blood, 2013 vol. 122, p. 1212)、一方、本発明は、血管周囲帯及びしたがって血管周囲ワルトン膠様質を除く領域からのMSCの単離に依拠することである。したがって、本発明の発明者らは、本明細書に記載のような利点に到達するために、臍帯の特定の解剖学的領域が、目的をもって選択されるべきであることを発見した。より具体的には、本発明に記載の方法は、細胞の入手源の特定の解剖学的領域、並びに/あるいは臍帯の特定の切片化及びセグメント化、並びに/あるいは特定の単離工程、並びに/あるいは場合により特定の増殖工程(これらは全て、本明細書において以下に詳述され、例によって示されている)によって特徴付けられる。細胞の入手源の特定の解剖学的領域の好ましい及び/又は任意選択の実施態様及び詳細、臍帯の特定の切片化及びセグメント化、特定の単離工程、及び任意選択の特定の増殖工程は、内容から明らかに特定の組合せは不可能であるか又は本発明により望ましくないことが教義されていない限り、本発明に従って互いにありとあらゆる組合せで組合せ可能である。
本発明の方法では、臍帯からの間質細胞の迅速な単離が有利である。好ましい実施態様では、工程(a)及び(b)は共に、6時間未満、より好ましくは5時間未満、より好ましくは4時間未満、最も好ましくは3時間未満の総時間で実施される。3時間未満は、0.5〜2.5時間、及び1〜2時間の期間を含む。工程(a)及び(b)を合わせた短い持続時間はまた、工程(a)それ自体の持続期間が短いことも意味する。
特記されない限り、細胞と直接的に又は間接的に接触させる、全ての試薬、成分、培養容器、容器、及び材料は好ましくは無菌であり、より好ましくは優良医薬品製造基準等級である。
該方法の詳細な説明及びその実施態様が以下に続く。
組織の入手源
本発明の方法による方法の第一工程は、臍帯から間質ワルトン膠様質又はその画分を単離することによって特徴付けられる工程(a)である。工程(a)は好ましくは機械的工程であり、すなわち、それは通常、単離のために化学的工程又は酵素的工程に依拠しない。したがって、好ましい実施態様では、工程(a)では、酵素活性を有する成分が工程(a)の間に全く添加されない。しかしながら、以下にさらに記載されているであろうように、酵素的処理は、その後の工程(b)に重要である。
間質ワルトン膠様質に関して使用される場合の「画分」という単語は特に限定されず、一般的には、いくつかの実施態様では、臍帯の全間質ワルトン膠様質全体の100%未満が、本発明の方法において使用され得ることを意味する。例えば、間質ワルトン膠様質全体の10〜99%、例えば20〜90%、30〜80%、40〜60%が、いくつかの実施態様において使用され得る。いくつかの実施態様において100%未満を使用する理由は多数あり得、臍帯の間質ワルトン膠様質を100%回収する際の実験的な限界に起因し得るか、又は目的があって、例えば比較実験のために間質ワルトン膠様質の一部を使用することを所望する場合であり得る。それにも関わらず、できるだけ多くの画分を、すなわち、間質ワルトン膠様質の80%以上、好ましくは90%以上を使用することが好ましくは望ましい。特記されない限り、%値は、1つの臍帯内に含まれる間質ワルトン膠様質の全容積に対する%を指す。
したがって、本発明によると、該細胞は、臍帯から単離される。臍帯は、胎盤保有動物を入手源とするが、好ましくは臍帯は哺乳動物を入手源とする。胎盤保有哺乳動物では、臍帯は、胎盤を発生中の胎児に、生誕直後は新生児に接続する構造である。胎盤も新生児も、臍帯の一部ではなく;臍帯は、胎盤と新生児との間の接続管に限定される。
臍帯は、生誕後に得られる。好ましくは、臍帯は、生誕後24時間以内、例えば生誕後12時間以内、生誕後6時間以内、生誕後3時間以内、例えば生誕後2時間以内、好ましくは生誕後1時間以内に得られる。したがって、臍帯を、生誕後、好ましくは最大24時間、好ましくは0〜10℃、好ましくは2〜8℃の温度で、細胞単離前に保存することができる。しかしながら、臍帯を、細胞単離前に凍結させない。場合により、臍帯を、細胞単離前に、滅菌水又は滅菌緩衝水溶液で濯ぐ。
臍帯を好ましくは、細胞単離前及び単離中に無菌条件下で維持及び取り扱う。場合により、臍帯はさらに、例えば水溶液(70%vol/volのエタノール)又はベタジンを用いての臍帯の簡潔な表面処理、続いて滅菌水を用いての濯ぎにより表面がさらに滅菌されていてもよい。
好ましくは、該細胞はヒト臍帯から単離される。誕生時のヒト臍帯(UC)は約40gであり、およそ1.5cmの平均直径を有する(Raio et al., 1999, Eur. J. Obstet. Gynecol. Reprod. Biol., vol. 83; p. 131-135)。したがって、好ましくは、本発明に従って使用される臍帯は、ヒト臍帯である。本発明の方法にかけられるヒト臍帯は好ましくは、約40〜65cm、例えば44〜51cmの長さを有する。
典型的には、臍帯は、健康な母親、好ましくはヒト母親からの健康な新生児の誕生後に単離される。好ましくは、該母親は、出産前の少なくとも1カ月間の間は、喫煙、アルコール飲酒、及び向精神医薬品の服用を控える。
間質ワルトン膠様質又はその画分が臍帯から単離されていると言う場合、これは好ましくは、1つ以下の臍帯が、出発材料として使用されることを意味する。しかしながら、また、1つを超える臍帯を出発材料として使用することも可能である。1つの実施態様では、1つの臍帯は、本発明に記載の方法における出発材料として使用される。その実施態様では、全ての出発材料は自己であり、すなわち、どの同種臍帯材料も、出発材料の一部ではなく、結果として本発明の方法によって得ることのできる全ての細胞は、1回の方法の実行毎に、1つのドナーから派生する。
出発材料として完全な臍帯を使用することが可能であるが、出発材料として1つの臍帯の画分を使用することも同等に可能である。1つの完全な臍帯が本発明に記載の方法において出発材料として使用される場合、該方法は「フルスケール」で実行されると言うことができる。したがって、工程(a)、(b)及び場合により(c)を含む、本発明の好ましい態様による方法は、1つの完全な臍帯が出発材料として使用される場合に「フルスケール」での実行と称される。この脈絡において「完全な」という単語は、臍帯の小さな部分、例えば臍帯の2つの末端が刈り込まれるか又は削り取られ、よって出発材料として含まれないことを除外せず;それはまた、臍帯が本明細書に記載の方法の最中に切片化及び/又はセグメント化されることを除外せず;それはむしろ、本質的に全量の臍帯が出発材料として使用されることを意味する。満期産のヒト臍帯の場合、完全な臍帯は典型的には、35〜40g、又はより正確には40gの重さである。1つの実施態様では、フルスケールの実行は、1つのドナーに由来する35〜45gの臍帯から出発する。出発材料、すなわち臍帯の量は勿論、本発明による方法の下流相の最中に得られた細胞の総量に対して影響を及ぼす。特記されない限り、本明細書に示された全ての量(例えば細胞数)は、フルスケールの実行を指す。「フルスケール」という単語は、できるだけ多くの間質ワルトン膠様質を1つの臍帯から回収しようとする妥当な努力が払われる限り、間質ワルトン膠様質の「画分」という用語と矛盾しない。
臍帯の最外層(臍帯裏打ち、臍帯組織、又は臍帯内膜とも呼ばれ、図1に1aとして図示されている)は、本発明の方法において望ましい細胞入手源ではない。臍帯それ自体は胎盤の延長であるので、臍帯内膜は、胎盤を覆う羊膜の延長である。臍帯内膜は2つの層を含む:羊膜(又は上皮)層(臍帯内膜とも呼ばれる)及び羊膜下(又は間葉系)層。ヒト臍帯は、例えば、単層/複層の扁平・立方上皮細胞によって覆われている(Copland et al., Placenta, 2002; vol. 23, p. 311-321; Mizoguchi et al., J. Dermatol. Sci., 2004, vol. 35, p. 199-206);これらの細胞は、本発明の方法において単離されることが所望されない。本発明の方法の1つの実施態様では、羊膜層に由来する細胞も、羊膜下層に由来する細胞も単離されず、よってこのような細胞は、さらなる下流の任意選択の増殖における出発材料として使用されないことが望ましい。
臍帯の内組織構造は、2本の動脈及び1本の静脈及び周辺の粘膜結合組織マトリックス(間質ワルトン膠様質)から構成される。ワルトン膠様質は、線維芽細胞様細胞(Parry, 1970, J. Anatomy, vol. 107, p. 505-518)及び時折、肥満細胞を含むと記載されている。さらに、ワルトン膠様質は、プロテオグリカン、主にヒアルロン酸の豊富な無定形基質を含む。
好ましくは、本発明に記載の方法に使用される臍帯は、「満期産」とも呼ばれる、満期での出産からのものである。より正確には、本発明に記載の方法に使用されるヒト臍帯は、妊娠38〜42週、より好ましくは妊娠39〜41週以内の出産からのものである。1つの実施態様では、ヒト臍帯は、自然分娩(膣分娩)からのものであり;代替的な実施態様では、ヒト臍帯は、非天然分娩、例えば帝王切開からのものである。
1つの実施態様では、ヒト又は動物の生誕から臍帯を取得することは、本発明の一部ではない。その実施態様では、本発明の方法は、臍帯が得られた後に始まる。換言すれば、本発明の方法は、その後、工程(a)の前に得られた出発材料として臍帯を使用して実施される。
臍帯のセグメント化
さらに、本発明者らは、本明細書に記載のように、臍帯を機械的に解離することが有利であることを発見した。解離は好ましくは、両方共に本明細書に記載のようにセグメント化及び切片化することを含む。
第一工程では、本明細書に記載のように、臍帯をセグメント化することが有利である。セグメント化は任意選択であるが好ましい。特に、セグメント化により、その後の工程の取り扱いがより容易になり、確実に再現できるようになる。さらに、セグメント化は、その後の切片化の工程における間質ワルトン膠様質の単離効率を改善させる。したがって、セグメント化は好ましくは、臍帯(セグメント)を切片化する下記の工程の前に行なわれる。
本発明によるセグメント化は典型的には、ハサミ又はメスなどの物理的手段によって成し遂げられる。臍帯をセグメント化することによって、臍帯セグメントが得られる(図解については例えば実施例1を参照)。セグメントという用語は本明細書において、このような臍帯の切断を指すために使用される。好ましくは、セグメント化は、臍帯に対して垂直である。臍帯に対して、本明細書において使用するような垂直は、臍帯の切断の方向が、臍帯の方向に対して約90°の角度を有することを意味する。角度の決定のために、臍帯は好ましくは、伸ばして、すなわちカールさせずに又は折り畳むことなく置かれる。約90°は、75°〜105°、好ましくは80°〜100°、より好ましくは85°〜95°を意味する。当業者は、経験に基づいて、角度を測定するための器具がなくても、臍帯を垂直に切断することができるだろう。それにも関わらず、所望であれば、角度を決定するために器具が使用されてもよい。
より好ましくは、垂直セグメントは好ましくは各々、約1〜約4cm、好ましくは約2〜約3cm、より好ましくは約2.5cmの長さを有する。好ましい実施態様では、血管のセグメント(群)は、工程(b)の前に臍帯のセグメント(群)から除去される。特に、臍帯の(好ましくは垂直の)セグメント化後に、血管を、又はより正確には血管のセグメントを除去することが好ましい。
セグメント化は任意選択であるが有利であり、これにより、それは好ましくは本発明の一部である。セグメント化は好ましくは、無菌条件下で実施される。
間質ワルトン膠様質を得るための切片化
一般的に、哺乳動物臍帯、特にヒト臍帯は、細胞内の特徴及び細胞外マトリックス成分が互いに異なる、組織の区画化を示す。少なくとも6つの明確に異なる帯域又は切片が、構造的及び機能的研究に基づいて記載されている(図1も参照):ここでは、外側から内側の順で列挙され、ここでの数字は、図1の数字を指す:臍帯裏打ち(羊膜上皮及び羊膜下細胞を含む)(1)、(血管間)間質(古典的には間質ワルトン膠様質と命名されている)、すなわち血管間間質(4)、血管周囲間質(5)、血管(2及び3)、羊膜下間質(1b)、間隙(例示されていない)。
当技術分野の最先端技術では、血管周囲細胞は典型的には近くから血管系へと遊走すると仮定すれば、ワルトン膠様質内の間葉系間質細胞の大半は、血管周囲領域から派生すると考えられていた(Davies et al, Stem Cells Translational Medicine, 2017, vol., 6, p. 1620-1630)。
しかしながら、本発明者らは、臍帯から間葉系間質細胞を抽出することを目的とする場合には切片アプローチが有利であり、優れた特性を有する間葉系間質細胞を有する切片が間質ワルトン膠様質であるという驚くべき発見に到達した。本発明者らは驚くべきことには、間質ワルトン膠様質又はその画分に由来する細胞が、優れた特性を有することを発見した。それ故、間質ワルトン膠様質又はその画分が単離されることは本発明の方法の必須な工程である。
間質ワルトン膠様質の単離前に、臍帯、又は特に臍帯セグメントを濯ぐことが重要である。濯ぐのに適しているのは、理想的には生理的pHに又はその近辺に緩衝化され、等張であり、場合により抗生物質の補充されている水溶液である。例えば、HEPES緩衝食塩水溶液(HBSS)又はリン酸緩衝食塩水(PBS)、好ましくは300μg/mlのゲンタマイシン及び0.15μg/mlのアムホテリシンBの補充されたHBSSが適している。典型的な濯ぎ時間は好ましくは1〜30分間、好ましくは約10分間であり得る。その時間の間に、機械的な動作、例えば振盪を使用して、臍帯又は好ましくは臍帯セグメントを濯ぎ用水溶液に適切に曝す。臍帯がセグメント化された後は特に、濯ぎは重要である。なぜなら、これにより、セグメント化により生じたセグメント界面における血液の残骸を除去することができるからである。
したがって、間質ワルトン膠様質の単離のために、好ましくは、臍帯、又ははるかに好ましくは臍帯セグメント(群)を、本明細書に記載のような切片化にかける。これにより、所望の間質ワルトン膠様質が得られる。間質ワルトン膠様質を得る他の方法は、本明細書に記載の切片化の代替選択肢として適し、これもまた本発明の一部である。しかしながら、好ましくは、間質ワルトン膠様質は、本明細書に記載の切片化アプローチによって得られる。
所望のワルトン膠様質を単離する目的では、臍帯の又は臍帯のセグメント(群)の側面を開くことが有利であることが判明した。好ましくは、臍帯又は臍帯のセグメント(群)は縦に、例えばメスを用いて切開される。縦にとは、臍帯が伸びている方向に対して平行を意味する。1つのセグメントあたり1つの縦の切開が、複数回の切開よりも好ましい。側方を開くこと、又はより具体的には縦の切開は、臍帯の様々な切片が、その後に効率的に分離され得ることを可能とし、特に、間質ワルトン膠様質を以下に記載のように単離できることを可能とする。
本明細書において詳述され、本明細書の実施例に例証されているように、間質ワルトン膠様質由来の細胞が、非常に有利であることが判明した。したがって、本発明における下流加工処理のために、切片化及び選択される予定のワルトン膠様質から血管周囲帯を除外し、したがって、あらゆる血管周囲のワルトン膠様質を除外する。換言すれば、下流加工処理のために、切片化及び選択される予定のワルトン膠様質は、間質ワルトン膠様質である。本発明に従って単離された間質ワルトン膠様質由来の細胞が優れているという所見は、本発明者らの驚くべき発見である。羊膜下領域(1b)、血管間領域(4)、及び血管周囲領域(5)の間で細胞数及び細胞の性質には差があり、所与の空間内の細胞の密度は、羊膜下領域、血管間領域及び血管周囲領域の間で異なり:細胞密度は、羊膜下領域においてかなり低く、一方、血管周囲領域は最も高い細胞密度を有しているということは(Takechi et al., 1993, Placenta; vol. 14, p. 235-245; Karahuseyinoglu et al., 2007, Stem Cells, vol. 25, p. 319-331)、微細構造的、免疫組織化学的(例えば、Akerman et al., Gynecol. Endocrinol., 2002, vol. 16, p. 299-306 and Karahuseyinoglu et al., Stem Cells, 2007, vol. 25, p. 319-331)及びインビトロでの機能的な研究(Sarugaser et al., 2005, Stem Cells, vol. 23, p. 220-229; Karahuseyinoglu et al., Stem Cells, 2007, vol. 25, p. 319-331)によって以前に確立されていた。この段落では、「細胞密度」という用語は、3次元空間に関して慣例に捉われずに使用され、一方、該用語は、本開示の残りの部分においては2次元領域に関して使用される。例えば、初期の研究では、漿膜に接着していた及び血管に接着していた試料が、臍帯由来間質細胞の入手源として提案された(例えば米国特許出願第2004/0136967A1号)。細胞はワルトン膠様質から単離され得、様々な細胞集団がワルトン膠様質内に存在することが以前から知られていたが、本発明による間質ワルトン膠様質の特殊な選択は、初期に公表されたアプローチ(例えば米国特許出願第2004/0136967A1号)よりもより特殊な選択であり、他者(例えば米国特許出願第2004/072273A号)によって示唆されたものとは異なる選択である。したがって、物理的除去の前の切片化は、文献(この文献によると、組織は通常、細胞を単離する前に決定的に選択及び切片化されず、しかし、所望の細胞が、所望ではない細胞の選択的破壊などによって細胞集団から単離されている(陰性選択、例えば、米国特許出願第2004/0136967A1号参照))の示唆とは顕著に異なる。本発明の発明者らの知る限りでは、臍帯間質ワルトン膠様質を起源とする細胞が、均質性、サイズ(それぞれ容積及び表面積)、分化能及び幹細胞性に関して血管周囲細胞より優れていることは明確に知られていなかった。したがって、当技術分野の最先端技術による主流の思考とは対照的に、本発明者らは、間質ワルトン膠様質に由来する細胞が多くの側面で優れていることを発見した。これらの中のいくつかの態様は、本明細書の実験実施例に例示されている。一般的に、均質な形態学的及び機能的特性を有する細胞集団は、比較的均一な細胞系の製品を開発するのに適していると想定され得る。特定の理論に拘りたくはないが、均質性は、間質ワルトン膠様質が典型的には、仮にいくつかあったとしても、血管周囲領域よりも少ない周皮細胞及び内皮細胞を含むという事実に起因し得る可能性がある。
本発明者らは驚くべきことに、臍帯の間質ワルトン膠様質を起源とする細胞が特に有利であることを発見した。羊膜下間質(典型的にはワルトン膠様質を含む)(1b)は、機械的手段を用いて羊膜上皮(1a)の内表面を掻把することによって得ることができる;しかしながら、羊膜上皮の破裂又は断片化(これにより、所望ではない羊膜上皮の一部が得られる可能性がある)を回避するために注意を払わなければならない。
利点としては、細胞集団の均質性及び幹細胞様特性が挙げられる。特に、臍帯血管及び血管周囲帯の非存在下において、よって臍帯血管及び血管周囲帯に由来する細胞の非存在下において、これらの利点を達成することができる。
それ故、臍帯から間質ワルトン膠様質又はその画分を単離する工程(a)が、臍帯又はそのセグメントの切片化を含むことが好ましい。好ましくは、それは、臍帯のセグメントの切片化を含む。切片化工程の最中に、所望の間質ワルトン膠様質が、血管周囲帯(これは、血管周囲ワルトン膠様質を含み得る)と共に血管から分離される。切片化工程の最中に、間質ワルトン膠様質は少なくとも羊膜上皮からも分離される。羊膜上皮の破裂又は断片化(これにより、所望ではない羊膜上皮の一部が得られる可能性がある)を回避するために注意を払わなければならない。
切片化は好ましくは無菌条件で実施される。
切片化は、本発明による方法の工程(a)の不可欠な部分、すなわち、臍帯から間質ワルトン膠様質又はその画分を単離する工程の不可欠な部分である。したがって、1つの実施態様では、臍帯からの間質ワルトン膠様質又はその画分の単離は、臍帯を物理的な分離にかけることによって成し遂げられ、ここでの臍帯の血管及び血管周囲領域及び少なくとも臍帯裏打ちの羊膜層は廃棄され、間質ワルトン膠様質又はその画分は保持される。
切片化のために、又はより正確には機械的除去による切片化のために、臍帯を上記のように事前にセグメント化し、上記のようにさらに縦に切開することが非常に有利であることが判明した。したがって、本発明の好ましい実施態様では、該方法の工程(a)は、上記のようなセグメント化工程及びここに記載のような切片化工程の両方を含む。
臍帯から間質ワルトン膠様質又はその画分を単離する適切な方法は、臍帯からの血管及び血管周囲領域の除去を含む。適切には、文献において血管周囲ワルトン膠様質を含むと提唱されている血管周囲帯もまた、臍帯裏打ちから、特に少なくとも臍帯裏打ちの羊膜層から分離される。
したがって、本発明による切片化は、臍帯からの血管及び血管周囲領域の物理的除去によって特徴付けられる。本発明によると、血管及び血管周囲領域は、工程(a)の前に又は工程(a)の一部として(これが好ましい)除去され得る。本発明において好ましい、血管及び血管周囲領域を除去する1つの技術的に有利な方法は、臍帯から血管及び血管周囲領域を剥ぐことによって特徴付けられる。例えば、臍帯の血管(2本の静脈及び1本の動脈)を無菌ピンセットを用いて剥ぐ。
本発明者らは、例えば血管を引っ張り出すことによって血管を剥ぐことによっても、血管周囲領域は除去されることを観察した。好ましい実施態様では、血管周囲領域のその全体が除去され;このことは、一旦血管が除去されれば、血管周囲領域に属する細胞は臍帯(セグメント)に全く残存しないことを意味する。血管周囲領域が完全に除去される限り、任意の他の方法が同等に適切である。臍帯血管系の外壁に近い帯域は、血管周囲帯である。血管周囲帯は典型的には、血管の外壁から伸びている約3mm以下の帯域内に存する。血管周囲帯は、血管が剥がれた時に血管と一緒に除去される。臍帯血管系の外壁に近い血管周囲領域内におそらく存するあらゆるワルトン膠様質が、血管周囲ワルトン膠様質と称され得る。血管周囲ワルトン膠様質は典型的には、血管の外壁から伸びている約3mm以下の帯域内に存する。あらゆる血管周囲ワルトン膠様質は、血管を剥がした時に血管と一緒に除去される。
したがって、好ましい実施態様では、血管を、臍帯から、又は臍帯のセグメント(群)から剥ぐ。剥ぐのは、機械的手段によって、例えばピンセット又はその目的のための任意の他の適切な手段によって血管(群)をつかむことによって、及び血管(群)を引っ張り出すことによって、成し遂げられ得る。好ましくは、血管は、次々と引っ張り出されるが、これは厳密な必要条件ではない。血管を剥いでいる間、臍帯又はそのセグメントは通常、例えば機械的な手段、例えばピンセット又はその目的のための任意の他の適切な手段を用いて押さえておくことによって固定される。それによって、力学的な力をかけることができ、血管を除去することができる。血管の開放及び/又は血管細胞若しくは血管周囲細胞の損失は回避されるべきであるという意味において、除去は注意を払って行なわれるべきである。臍帯マトリックスの引っ張り出しは避けるべきであるか又は代替的には最小限に保たれるべきであるという意味において、除去は注意を払って行なわれるべきである。
好ましくは、工程後すなわち血管除去後、臍帯又はそれぞれのセグメント(群)は、血管(及びしたがって血管周囲ワルトン膠様質)が完全に除去されたことを確実にするために光学的に再検査される。
血管(剥がした後に血管に付着しているあらゆる組織を含む)を廃棄する。このことは、血管(剥がした後に血管に付着しているあらゆる組織を含む)が、さらなる下流の酵素的処理工程にかけられないことを意味する。本発明の方法によると、血管周囲帯ワルトン膠様質は、細胞単離のための入手源として使用されない。したがって、血管周囲ワルトン膠様質は、細胞単離のための入手源として全く使用されない。説明の目的のために、図1及び2では、血管周囲ワルトン膠様質が例示されている(図1における5)。
本発明によると、血管及び血管周囲の領域は廃棄される。血管周囲の領域は、少なくとも直径約2.0mmであり(ここでの測定は、血管の外表面から外に向かって行なわれる(図2参照))、例えば直径2.0mm、好ましくは2.5mm、より好ましくは3.0mmである。したがって、臍帯血管周囲の少なくとも約2.0mm、例えば2.0mm、好ましくは2.5mm、より好ましくは3.0mmは、本発明による細胞の単離のための出発材料としては使用されない。これを慣用的に達成する好ましい方法は、臍帯からの血管の、又はより正確には本明細書に記載のような臍帯セグメントからの血管セグメントの物理的除去(「剥ぐこと」)である。したがって、好ましい実施態様では、血管は、臍帯から物理的に除去されるか、又は血管セグメントは、臍帯のセグメントから物理的に除去される。後者の選択肢が好ましく;これは、セグメントから血管を除去する前に、本明細書に記載のような臍帯のセグメント化を必要とする。
血管及び血管周囲領域は除去されたので、間質ワルトン膠様質は、以下のように無血管臍帯から、又は無血管臍帯切片から得られる:好ましくは、間質ワルトン膠様質又はその画分の単離はさらに、臍帯内膜(1a)から羊膜下間質(1b)を物理的に分離する工程によって特徴付けられる。これは、臍帯内膜から、特に少なくとも臍帯内膜の上皮層からワルトン膠様質を分離する工程を含み得る。それにより、それぞれの臍帯裏打ち材料を含まない間質(間質ワルトン膠様質を含む)が得られる。好ましくは、臍帯内膜から、特に少なくとも臍帯内膜の上皮層から間質(おそらくワルトン膠様質を含む)を物理的に分離する工程もまた、上記のように得ることのできるセグメント上で実施される。実践的な理由から、工程は通常、セグメント毎に(すなわち、1つのセグメントの後に他のセグメントを)実施されるが、この工程の迅速な実施が好ましい。
間質ワルトン膠様質は典型的には、比較的疎なゼリー様の粘度を有し;それ故、それを、無血管臍帯から、又は好ましくは無血管臍帯セグメントから機械的に解離することができる。
機械的解離は好ましくは、掻把(scraping out)によって特徴付けられる。掻把のために、任意のツール、好ましくはこのような目的に適した又はそのために設計された機械的ツールを使用し得る。除去は好ましくは、機械的手段による;適切な機械的手段は、当技術分野において、例えば米国特許出願第20080181967A1号、国際公開公報第2008146992A1号、及び国際公開公報第2007080591A2号に開示されている。1つの実施態様では、機械的手段は、臍帯セグメントからマトリックス組織片を切り取るために使用される。1つの実施態様では、臍帯(セグメント)の内表面を、機械的手段を用いて掻把する。1つの実施態様では、羊膜上皮膜は機械的に、例えば機械的手段を用いて除去される。掻把が注意深く行なわれる場合(これが好ましい)、上皮層は損傷を受けず、したがって、上皮層の細胞は掻把によって全く得られない。
マトリックス組織を回収する場合には、羊膜上皮膜片を含めないことが重要である。これを達成するために、臍帯裏打ちの切断は回避されるべきであるか、又は最小限に保たれるべきである。特に、臍帯内膜からの間質ワルトン膠様質の物理的分離は、好ましくは臍帯裏打ちを機械的に解離することなく、又は臍帯裏打ちのほんの最小限の解離を伴って、ワルトン膠様質を掻把することによって特徴付けられる。「機械的に解離」は、機械的な力の適用による、切断、圧搾、又は別様に組織完全性に影響を及ぼすことを含む。好ましい実施態様では、「最小限度」は、好ましくは臍帯の方向に対して平行な、1回の単一の縦の切開からなる。それにより、臍帯又は場合によっては臍帯セグメントは、側面が開かれ、これにより、臍帯の内側にアクセスできるようになる。
場合により、羊膜下層の細胞も全く得られない。これを達成するために、臍帯内膜近くに過度の力学的な力を働かせることなく、非常に注意して掻把を行なわなければならない。この実施態様では、臍帯裏打ち全体(羊膜層及び羊膜下間葉系層を含む)は所望されない。
とにかく、羊膜(上皮)層は所望されない。所望の間質ワルトン膠様質の機械的除去後に残存する所望ではない全ての臍帯裏打ち材料が廃棄される。
それにより、間質ワルトン膠様質の組織が得られる。
本発明に従って単離された細胞の有利な特性に基づいて、本発明者らは、しかしながらいかなる特定の理論にも拘りたくないが、有益な増殖能を有するより成熟度の低い細胞が、血管から比較的遠く離れて位置し、よって羊膜表面のより近く位置し、一方、より分化した細胞は、臍帯血管の近くに認められると結論付ける。結論として、本発明者らは、本発明による細胞の単離のための入手源の領域として、間質ワルトン膠様質を選択した。
好ましい実施態様では、臍帯から間質ワルトン膠様質又はその画分を単離する工程(a)は、本明細書に記載のような切片化工程、及び以下に記載のような刻む工程を含む。
より好ましい実施態様では、臍帯から間質ワルトン膠様質又はその画分を単離する工程(a)は、上記のようなセグメント化工程、本明細書に記載のような切片化工程、及びまた以下に記載のような刻む工程も含む。
機械的処理による組織断片のサイズの低減
好ましくは、切片化によって得られた間質ワルトン膠様質を続いて、組織断片のサイズの低減を目的とした機械的処理にかける。機械的処理は、間質ワルトン膠様質内の物理的結合を解離することを目的とし、これにより、間質ワルトン膠様質片のサイズは低減する。機械的処理は、以下に記載のような、その後の酵素的処理に関して有利である。間質ワルトン膠様質断片の比較的小さくかつ比較的均一なサイズは、いくつかの利点を伴う:それは、表面積の増加を伴い、これにより該材料は酵素的処理に使用される酵素(群)に近づき易くなり、それは血小板溶解物(これは増殖因子と、間葉系間質細胞に適した他の成分とを含有していると理解されている)が、実質的に完全な単離されたワルトン膠様質の近くに存在することを可能とする。
好ましくは、機械的処理は、鋭利なハサミ及び/又はメスを用いて断片を細かく刻むことによって実施されるが、断片の機械による低減に適した任意の他の手段も、細胞が実質的に機械的に損傷されるか又は破壊されない限り、適切である。例えば、それぞれの装置は、ミルテニー・バイオテク社(ベルギッシュグラードバハ、ドイツ)から入手可能である。とにかく、機械的処理は好ましくは、無菌条件で実施される。
機械的に処理された(例えば刻まれた)組織は場合により、水溶液に添加され、その中に分散され、該組織が乾燥するのを防ぐ。理想的には生理的pHに又はその近辺に緩衝化され、等張であり、場合により抗生物質の補充されている水溶液である。例えば、HEPES緩衝化食塩水溶液(HBSS)又はリン酸緩衝化食塩水(PBS)、好ましくはHBSSが適切である。場合により、水溶液は、適切な濃度の抗生物質を含む。
好ましくは、機械的に処理された(例えば刻まれた)組織を続いて、ペトリ皿などの適切な滅菌皿に容れる(プールする)。組織単離後、及び酵素消化前に(これは以下に記載されているだろう)、フルスケールの実行で得ることのできる、刻まれた組織の全重量は通常、14g以上、例えば16g以上、又は18g以上である。
酵素的処理
本発明によると、細胞は、臍帯若しくはそのセグメント若しくはその切片、又はそれから得られた刻まれた組織から、酵素的処理によって放出される。初期の教義(例えばConconi et al., 2011, Open Tissue Engineer. Regen. Med. J., vol. 4, p. 6-20)とは対照的に、本発明者らは、酵素的処理により(本明細書において好ましいと記載された条件下、すなわち穏和な条件下で特に実施された場合)、細胞損傷によって特徴付けられない有利な間葉系間質細胞が得られることを発見した。
刻まれた組織の実施態様が好ましい。したがって、好ましくは、細胞は、臍帯又はそのセグメント又はその切片から得られた刻まれた組織の酵素的処理によって放出される。
特に、本発明の方法の工程(b)において、間質ワルトン膠様質又はその画分は、酵素的処理にかけられ、これにより、少なくとも1つの細胞が間質ワルトン膠様質又はその画分から放出される。典型的には、多数の細胞が放出される。間質ワルトン膠様質又はその画分は、酵素的消化にかけられる。特に、細胞は、間質ワルトン膠様質から放出され、この間質ワルトン膠様質は臍帯の特定の切片であり、これは上記のような前の工程(a)の最中に得ることができる。酵素的処理を含む本発明に記載の方法の工程は、「酵素的処理」、「酵素的消化」など又は単に「工程(b)」と称され得る。
酵素的処理は、場合により、臍帯からの間質ワルトン膠様質の物理的単離と平行して及び/又はその後に行なわれ得る;しかしながら、その後がはるかに好ましい。より正確には、本発明の方法の工程(b)は、本発明の方法の工程(a)に続くことが好ましい。その実施態様では、工程(b)は、本発明に記載の方法における唯一の工程であり、この方法では酵素活性が追加されている。
臍帯組織から、特に間質ワルトン膠様質からの細胞の放出を特色とする、本発明のアプローチは、先行技術のアプローチ(ここでは臍帯組織を単独で培養し、例えば組織からの遊走又は細胞分裂又はその両方の結果として、細胞が組織から出て増殖する)(米国特許出願第2004/0136967A1号)とは顕著に異なる。しかしながら、本発明によると、間質ワルトン膠様質に含有されている少なくとも1つの細胞、又は好ましくは大半の細胞は、それからの遊走又は細胞分裂ではなく、酵素的処理によって放出される。このことは、単離における有意な時間的改善を提供する:数日間ではなく(例えば米国特許出願第2004/0136967A1号)、細胞は、以下に詳述されているように、数時間以内に臍帯から単離され得る。
酵素的処理は、臍帯又はそのセグメント又はその切片から少なくとも1つの酵素を用いての処理によって細胞が放出される、処理である。適切な酵素はプロテアーゼである。したがって、細胞は好ましくは、臍帯又はそのセグメントから、少なくとも1つのプロテアーゼを用いての処理によって放出される。プロテアーゼ(ペプチダーゼ又はプロテイナーゼとも呼ばれる)は、タンパク質分解(ペプチド結合の加水分解によるタンパク質異化)を行なう任意の酵素である。好ましくは、プロテアーゼは、少なくとも1つの細胞外マトリックスタンパク質、好ましくはコラーゲンを消化することができる。最も好ましくは、工程(b)の酵素的処理は、コラゲナーゼ酵素への曝露を含む処理である。換言すれば、少なくとも1つのプロテアーゼは好ましくはコラゲナーゼである。他のプロテアーゼも場合によりさらに存在している。1つの実施態様では、コラゲナーゼ以外の実質的にどの他のプロテアーゼも存在していない。「実質的にどの他のプロテアーゼも存在しない」は、添加されたコラゲナーゼ製剤が、合理的に可能な最大限まで精製されている、及び/又はコラゲナーゼ製剤中の他のプロテアーゼ活性が、通常の実験法によって検出されることができないことを意味する。
本発明による抽出のために特に適切で、よって好ましい酵素はコラゲナーゼ(EC3.4.24.7)である。「コラゲナーゼ」という用語は、細胞外マトリックスタンパク質であるコラーゲン内のペプチド結合を破壊(より具体的には加水分解)することのできる、酵素活性を指す。コラーゲンは、様々な組織(臍帯を含む)の細胞外マトリックスに存在する。コラゲナーゼは、細胞外構造の破壊を支援する。コラゲナーゼは、真核生物及び原核生物の入手源の両方から入手可能であるが、原核生物を入手源とする、特にクロストリジウム属などの細菌に由来するプロテアーゼが本明細書において好ましい。コラゲナーゼは、その天然源から単離され得るか、又は例えば大腸菌(E.coli)において組換え産生され得る。いくつかの実施態様では、その天然源に由来する、例えばクロストリジウム属に由来するコラゲナーゼが好ましい。例えば、コラゲナーゼは、クロストリジウム・ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)に由来し得る。
特記されない限り、「コラゲナーゼ」は本明細書において酵素活性を指し、一方、「コラゲナーゼ製剤」は、コラゲナーゼ活性を含む、市販されている又は市販されていない、製品を指す。コラゲナーゼ活性は、コラゲナーゼ製剤中に存在するコラゲナーゼ酵素(純粋又は純粋ではない)によって与えられる。
コラゲナーゼ製剤は市販されている。いくつかの実施態様では、使用されるコラゲナーゼ製剤は、無菌又は優良医薬品製造基準等級である。好ましくは、コラゲナーゼ製剤は、コラゲナーゼ製剤NB4又はコラゲナーゼ製剤NB5又はコラゲナーゼ製剤NB6(全てセルバ社(ハイデルベルク、ドイツ)製)、又はこれらのいずれかと同等である任意の他のコラゲナーゼ製剤である。同等性は、NB4/NB6コラゲナーゼ製剤と平行して、及び同等性が決定される予定のコラゲナーゼ製剤と平行して、実施例2Aに記載の方法を、場合により滴定実験において実行して、同等なコラーゲン消化活性を決定することによって決定され得る。
場合により、使用されるコラゲナーゼ製剤は、コラゲナーゼ活性以外の酵素活性を全く含まない。特に、ヒアルロニダーゼ活性が全く存在しないことが好ましい。他の実施態様では、ヒアルロニダーゼ活性が存在する。コラゲナーゼとヒアルロニダーゼの組合せが有利であり得ることが以前に報告された(例えば、Bailey et al., Tissue Eng., 2007, vol. 13, p. 2003-2010)。しかしながら、本発明の実験実施例において、満足のいく結果は、ヒアルロニダーゼを全く添加せずに得られた。それ故、本発明において、酵素消化中に添加されたヒアルロニダーゼ活性が全く存在しないことが好ましい。
いくつかの実施態様では、コラゲナーゼ活性以外のプロテアーゼは全く存在しない。他の実施態様では、1つ以上のコラゲナーゼ以外のプロテアーゼ活性が存在している。他のプロテアーゼは、特異的なプロテアーゼ又は非特異的なプロテアーゼ、エンド−又はエキソ−ペプチダーゼであり得る。したがって、場合により他の酵素活性、例えば特に他のプロテアーゼが、コラゲナーゼに加えて使用され得る。このような他の酵素活性は、コラゲナーゼ製剤中に存在していても、又は別々に添加されてもよい。例えば、アルギニンのカルボキシルペプチド結合上でタンパク質を切断するプロテイナーゼである、クロストリパイン(EC3.4.22.8、クロストリジオペプチダーゼB、クロストリジウムヒストリチカムプロテイナーゼB、α−クロストリジパイン、クロストリジオペプチダーゼ、エンドプロテイナーゼArg−Cとも呼ばれる)又は均等物が存在していてもよい。別の互いに排他的ではない例では、カゼイナーゼc(EC3.4.24)が存在していてもよい。別の互いに排他的ではない実施態様では、セリンプロテアーゼであるトリプシン(EC3.4.21.4)が存在していてもよい。
場合により、使用されるコラゲナーゼ製剤は、タンパク質分解活性(すなわちコラゲナーゼ活性及びコラゲナーゼ以外のタンパク分解活性)以外の酵素活性を全く含まない。しかしながら、1つの実施態様では、酵素的処理は、追加のヒアルロニダーゼの存在下で実施されるが、しかしヒアルロニダーゼ;これは単に任意選択である。
適切には、水と、消化用酵素すなわちプロテアーゼ、より具体的にはコラゲナーゼと、場合によりしかし好ましくは緩衝化剤とを含む水溶液が調製される。緩衝化剤は、pHが所望のpH範囲内に存することを確実とする。所望の範囲内にpHを緩衝化するのに適した任意の緩衝化剤が使用され得る。
酵素と緩衝化剤と水と場合によりさらなる成分とを含む、水溶液は、消化用緩衝液と呼ばれる。いくつかの実施態様では、消化用緩衝液は、金属キレート剤、例えばEDTA又はEGTAを含まない。
好ましくは、消化用緩衝液は、6.0〜9.0、より好ましくは7.0〜8.0のpHを有する。これは生理的pHに近いだけでなく、至適酵素も、pH7.0〜pH8.0の範囲内に至適pHを有すると記載されている。したがって、消化は好ましくは、そのpH範囲内で行なわれる。pHは好ましくは、消化が行なわれる予定の温度で決定されるべきである。
場合により、カルシウムイオンが消化用緩衝液中に存在し;例えば水溶性カルシウム塩、例えば塩化カルシウムなどが、消化用緩衝液の調製中に添加され得る。例えば、酵素的処理がコラゲナーゼ処理である場合、カルシウムイオンの存在が有益であり、よって好ましい。
場合により、ヘパリンが、消化用緩衝液中に存在する。ヘパリンは、血小板溶解物含有液体組成物の凝固を防ぐのに適した添加剤であることが知られている(例えば、Lohmann et al., 2012, PLoS ONE, vol. 7e37839)。本発明による消化用緩衝液中のヘパリンの適切な濃度は、0.1〜100U/mL、例えば1〜10U/mL、例えば2U/mLのヘパリンである。mLは、消化用緩衝液の総容量を指す。1単位のヘパリン(「ハウエル単位」)は、純粋なヘパリン0.002mgとほぼ等価な量であり、これは、1mlのネコの血液を24時間0℃に保つのに必要とされる量である(「オンライン医学辞書」2000、Centre for Cancer Education)。
消化を開始するために、消化用緩衝液が、消化される予定の組織に添加されるか、又はその逆である。酵素含有水溶液、すなわち消化用緩衝液と組織が混合状態となることが重要である。好ましくは、消化用緩衝液と組織の集合体を直ちに穏やかに撹拌して、適切な混合を確実とする。添加によって、酵素的処理は始まる。
好ましくは、以前に単離された間質ワルトン膠様質に由来する組織と消化用緩衝液とを、所定の比で混合する。これは、とりわけ、該方法の再現性及び所望である場合には穏和な条件での消化という利点を伴う。
比=Xmgの組織/1mlの消化用緩衝液
消化用緩衝液と混合する直前の、刻まれた組織は、組織を乾燥から防ぐために、場合により食塩水緩衝化溶液(好ましくはHEPES緩衝化食塩水溶液、HBSS)中に保存されているので、その実施態様における所定の比は以下のように定義される。
比=Xmg(組織+食塩水緩衝化溶液)/1mlの消化用緩衝液
(「食塩水緩衝化溶液」は、「消化用緩衝液」と混同されるべきではない。「食塩水緩衝化溶液」は典型的には、消化酵素を全く含有せず、特にコラゲナーゼを全く含有していないだろう)。
上記の両方の式において、Xは適切には、10〜1,000、好ましくは50〜500、より好ましくは80〜200の範囲内、最も好ましくは本質的には100である。したがって、好ましい実施態様では、100mgの刻まれた組織/HBSSを、1mLの消化用緩衝液と混合する。
特記されない限り、コラゲナーゼによる処理は典型的には、35〜39℃、より好ましくは36〜38℃、最も好ましくは約37℃の温度で実施される。したがって、好ましくは、酵素的消化は、35〜39℃、例えば38〜38℃、好ましくは37℃の温度で実施される。本明細書に記載のような、臍帯を起源とする組織を、所定の期間(持続時間)かけてコラゲナーゼによる処理にかける。適切な期間は本明細書に記載されている。
好ましくは、酵素的消化は、撹拌下で実施される。例えば、およそ50〜100rpmでの、例えばオービタル振盪器での一定速度の穏やかな撹拌が消化に適していることが判明した。
はるかに好ましい実施態様では、プロテアーゼによる消化が、穏和な条件で実施される。本発明者らは驚くべきことに、1つの実施態様では、1時間の消化時間が適切であることを発見した。より一般的には、いくつかの以前の研究の示唆とは対照的に、比較的穏和な条件が、本発明による方法における消化に適している。以前の研究の中で、国際公開公報第2004/072273A号及びSarugaser et al., 2005, Stem Cells, vol. 23, p. 220-229が例示目的のために注記され得る:国際公開公報第2004/072273A号によると、明記されていない入手源及び濃度のコラゲナーゼは、例えば0.1mg/ml又は1mg/mlの濃度で使用されることが推奨され;推奨されるコラゲナーゼ消化時間は12〜36時間、例えば約24時間であり;Sarugaser et al.(上記)によると、シグマ社製の1mg/mlのコラゲナーゼ(C−0130)が使用され;コラゲナーゼ消化時間は18〜24時間である。したがって、本発明の脈絡において使用される穏和な条件は、以前の研究によって記載された条件とは区別できる。
本明細書において使用する「穏和な条件」又は同義語としての「穏やかな条件」は、条件(1)消化時間、(2)酵素活性、及び(3)血小板溶解物の少なくともいずれか2つ、しかし最も好ましくは3つ全てが、以下に記載されている通りであることを意味する。酵素活性は、勿論、使用される酵素の種類と、使用される容量に関連し、使用される酵素の容量は、その中に含まれる酵素の量(酵素濃度)又は消化される組織量に関連する。
特記されない限り、(1)消化時間、(2)酵素活性、及び(3)血小板溶解物の全ての実施態様は、互いに組合せ可能である。したがって、一般的に、穏和な条件に寄与する因子は短い酵素消化時間、低い酵素濃度、及びヒト血小板溶解物の存在である。
1つの実施態様では、以下に記載されているような、短い酵素消化時間を、以下に記載されているような低い酵素活性と組み合わせる。以下に記載のような、短い酵素消化時間の好ましい実施態様をまた、以下に記載されているような、低い酵素活性の好ましい実施態様と組み合わせてもよい。
1つの実施態様では、以下に記載されているような、短い酵素消化時間を、以下に記載されているような血小板溶解物の存在と組み合わせる。以下に記載されているような、短い酵素消化時間の好ましい実施態様をまた、以下に記載されているような、血小板溶解物の好ましい実施態様と組み合わせてもよい。
1つの実施態様では、以下に記載されているような、低い酵素活性を、以下に記載されているような血小板溶解物の存在と組み合わせる。以下に記載されているような、低い酵素活性の好ましい実施態様をまた、以下に記載されているような、血小板溶解物の好ましい実施態様と組み合わせてもよい。
特に好ましい実施態様では、以下に記載されているような、低い酵素消化時間を、以下に記載されているような低い酵素活性と組み合わせ、及びまた、以下に記載されているような、血小板溶解物の存在と組み合わせる。以下に記載されているような、短い酵素消化時間の好ましい実施態様、以下に記載されているような低い酵素活性の好ましい実施態様、及び、以下に記載されているような血小板溶解物の好ましい実施態様を全て互いに組み合わせてもよい。この実施態様は実施例2Aに実現されている。
(1)本明細書に示されている消化時間、(2)本明細書に示されている酵素活性、及び(3)本明細書に示されている血小板溶解物の正にその数値の変更も、本発明から逸脱することなく可能である。例えば、本明細書に示されている酵素活性を例えば50%増加させると共に、本明細書に示されている消化時間を例えば50%短縮させることが可能であり得る。当業者は、一般的な経験に基づいて、及び、消化時間をそれに応じて延長させれば、より低い酵素活性でも、所与の量の基質を消化するのに十分に足り得る(及びその逆である)という一般的な酵素動態の観察に基づいて、このような変更を想定及び実践することができる。例えば、本明細書に示されている酵素活性を例えば50%減少させると共に、本明細書に示されている消化時間を例えば50%延長することが可能であり得る。それぞれの変更した条件は依然として、穏和な条件と称され得る。コラゲナーゼは通常、自己触媒性ではなく;それ故、消化中のコラゲナーゼの量の経時的な減少を通常引き起こすことなく、変更が可能である。
穏和な条件を適用することによって、単離される予定の間葉系間質細胞が深刻に損傷を受けることを非常に大きな程度で回避することができる。穏和な条件は、以前に利用可能であった方法よりも、はるかに多数の生細胞画分を得ることを可能とする。
本発明の方法により、典型的な実施態様では、基準法よりも少ない細胞総数が得られるが(図4B及び4C参照)、本発明の方法に従って単離された細胞は、典型的な実施態様では、アポトーシスを受けた細胞の比率が低いことによって特徴付けられる(図4B及び4D参照)。これは、例えば任意選択の増殖に有利であり、これは以下に記載されているであろう。
(1)本発明者らは、短い酵素消化時間が本発明の方法において有利であることを発見した。本発明者らによって最初に発見された一例では、短い酵素消化時間は1時間である。それに基づいて、一般的に言えば、好ましい実施態様では、工程(b)は、5時間未満、より好ましくは4時間未満、最も好ましくは3時間未満の総時間で実施される。3時間未満は、0.5〜2.5時間、及び1〜2時間の期間、並びに、3時間未満の上限を有する任意の期間、例えば2.5時間、2.6時間、2.7時間、2.8時間、2.9時間、及び2.95時間を含む。全てのこのような期間は「迅速」又は「短い」と称され得るが、「迅速」及び「短い」も相対的な用語であり、例えば2時間は、勿論、4時間よりもより迅速/短い。迅速な酵素処理の実施は、脱水問題、及び非天然環境に長時間曝される細胞に伴う他の起こり得る問題を回避する;迅速な酵素的処理の実施はまた、Seshareddy et al.(2008, Meth. Cell Biol., vol. 86, p. 101-119)によって記載された困難も克服する。
短い酵素処理期間は、ヒアルロニダーゼ及びコラゲナーゼとの共消化の場合に特に有利であり得ることが示唆されていた(Can et al., Stem Cells, 25:2886-2895, 2007)。幾分驚くべきことには、本発明において、短い処理時間はまた、ヒアルロニダーゼの非存在下においても有益である。これは、2つの面で顕著である:第一に、ヒアルロニダーゼの非存在下では、所望ではない細胞外環境及び細胞表面の広範な消化などの、ヒアルロニダーゼの所望ではない作用が通常、起こることは全く予想されず;第二に、いかなる特定の理論にも拘りたくはないが、コラゲナーゼ単独では、所望の細胞それ自体ではなく、細胞外マトリックスのみに作用すると理解されている。それにも関わらず、細胞生存率に対する、短い処理持続時間をはじめとする穏和な処理の利点は極めて顕著である。1つの実施態様では、酵素的消化は、ヒアルロニダーゼの全く添加されていない穏和な条件下での酵素的消化である。1つの実施態様では、酵素的消化は、ヒアルロニダーゼの非存在下における穏和な条件下での酵素的消化である。好ましい実施態様では、工程(b)は、5時間未満、より好ましくは4時間未満、最も好ましくは3時間未満の総時間かけて、ヒアルロニダーゼを全く添加することなく、すなわち好ましくはヒアルロニダーゼの非存在下で実施される。
理想的には、工程(a)及び(b)はどちらも迅速に操作される。それにより、細胞を臍帯からすぐに得ることができる。これは、臍帯組織の酵素的消化のための長い期間、又は臍帯組織からの細胞の増殖のいずれか、又はその両方に依拠していたいくつかの以前の研究を上回る利点を示す。好ましい実施態様では、工程(a)及び(b)は共に、6時間未満、より好ましくは5時間未満、より好ましくは4時間未満、最も好ましくは3時間未満の総時間で実施される。3時間未満は、0.5〜2.5時間、及び1〜2時間の期間、並びに、3時間未満の上限を有する任意の期間、例えば2.5時間、2.6時間、2.7時間、2.8時間、2.9時間、及び2.95時間を含む。工程(a)及び(b)の共に短い持続時間はまた、工程(b)それ自体の持続時間が短いことを意味することは明らかである。本発明者らは、1つの実施態様では、約1時間の消化時間が有利であることを発見した。
(2)本発明者らはまた、酵素活性の量が重要であることを発見した。酵素活性は、勿論、使用される酵素の種類、及び、該酵素が使用される容量(酵素濃度)と比較した又は消化される予定の組織の量と比較した使用される酵素の量に関連している。
特に、本発明者らは、コラゲナーゼ活性の量が重要であることを示した。本発明を説明する目的のために、コラゲナーゼ活性は、ヴンシュ(Wunsch)単位で示される。ヴンシュ(ヴンシュ単位又はPZ単位)による1単位(U)は、25℃、pH7.1で、1分間あたり1μmolの4−フェニルアゾベンジルオキシカルボニル−L−プロリル−L−ロイシルグリシル−L−プロリル−D−アルギニンの加水分解を触媒する(Wunsch et al., 1963, Hoppe-Seyler's Z. Physiol. Chem. 333, 149-51)。
本発明によるプロセスは、典型的には、酵素処理工程(b)の最中の比較的低いコラゲナーゼ活性によって特徴付けられる。本明細書において、示されるコラゲナーゼ活性の量は、コラゲナーゼが添加される時点について示されている。例えば、コラゲナーゼが工程(b)の最中に経時的に活性を失う場合、追加のコラゲナーゼは全く添加されない。しかしながら、コラゲナーゼは通常、自己消化しないので比較的安定であり、添加後、コラゲナーゼは、全酵素処理工程(b)中に存在すると妥当に推定され得る。
コラゲナーゼ活性は、消化用緩衝液の全容量に対して適切に示され得る。1つの実施態様では、消化用緩衝液は、0.01ヴンシュU/ml〜10ヴンシュU/ml、好ましくは0.05ヴンシュU/ml〜5ヴンシュU/ml、好ましくは0.1ヴンシュU/ml〜1ヴンシュU/ml、好ましくは0.15ヴンシュU/ml〜0.5ヴンシュU/ml、好ましくは例えばおよそ0.1ヴンシュU/ml又はおよそ0.2ヴンシュU/mlのコラゲナーゼ比活性を含む。1つの実施態様では、添加されるコラゲナーゼ活性が、5時間以内に組織から間葉系間質細胞を放出するのに十分である限りにおいて、コラゲナーゼ活性の下限は特に規定されない。この実施態様及び他の実施態様では、コラゲナーゼ活性の上限は、0.5ヴンシュU/ml以下、より好ましくは0.25ヴンシュU/ml以下、特に0.18ヴンシュU/ml又は0.09ヴンシュU/mlと規定され得る。
好ましい実施態様では、コラゲナーゼは、酵素処理工程(b)の最中に、消化用緩衝液に対して0.5ヴンシュU/ml以下、より好ましくは0.25ヴンシュU/ml以下、特に0.18ヴンシュU/mlの比活性で存在する。さらにより好ましくは、本発明による方法の工程(b)に使用されるコラゲナーゼ活性は、0.18〜0.09ヴンシュU/mlの消化用緩衝液の範囲内である(実施例1も参照)。この活性は、国際公開公報第2004/072283A号及びSarugaser et al., 2005, Stem Cells, vol. 23, p. 220-229に従って使用されるコラゲナーゼ活性とは異なる。実際に、1つの実施態様では、本発明の方法の工程(b)の最中のコラゲナーゼ活性は、国際公開公報第2004/072283A号及びSarugaser et al.(上記)によって記載されたコラゲナーゼ活性よりも低いと規定され得る。
あるいは、コラゲナーゼ活性は適切には、消化される予定の組織の重量に対して示され得る(該組織の重量は適切には、該組織で満たす前及び満たした後に、該組織が含まれている容器を秤量することによって決定され得る)。場合により容器内に含まれている、該組織は場合により、食塩水緩衝化溶液(例えばHBSS)を含む。1つの実施態様では、適切な比は、0.01〜10ヴンシュ単位のコラゲナーゼ/100mgの組織、好ましくは0.05〜5ヴンシュ単位のコラゲナーゼ/100mgの組織、好ましくは0.1〜1ヴンシュ単位のコラゲナーゼ/100mgの組織、好ましくは0.15〜0.5ヴンシュ単位のコラゲナーゼ/100mgの組織の範囲内、好ましくは例えばおよそ0.1ヴンシュ単位のコラゲナーゼ/100mgの組織、又はおよそ0.2ヴンシュ単位のコラゲナーゼ/100mgの組織で存する。1つの実施態様では、添加されるコラゲナーゼ活性が、5時間以内に組織から間葉系間質細胞を放出するのに十分である限りにおいて、コラゲナーゼ活性の下限は特に規定されない。この実施態様及び他の実施態様では、コラゲナーゼ活性の上限は、0.5ヴンシュ単位のコラゲナーゼ/100mgの組織以下、より好ましくは0.25ヴンシュ単位のコラゲナーゼ/100mgの組織以下、具体的にはおよそ0.16ヴンシュ単位のコラゲナーゼ/100mgの組織、又はおよそ0.08ヴンシュ単位のコラゲナーゼ/100mgの組織、又は、その好ましい範囲内の任意の数値として規定され得る。本発明において、組織の全重量に対するコラゲナーゼ活性の比は、国際公開公報第2004/072283A号及びSarugaser et al., 2005, Stem Cells, vol. 23, p. 220-229によって記載されたコラゲナーゼ活性よりも低いことが好ましい。
(3)本発明者らはさらに、酵素消化中における血小板溶解物の存在が有利であることを発見した。これは本発明者らの驚くべき発見である。当技術分野において、コラゲナーゼは血小板溶解物の存在下ではあまり働かないといういくつかの偏見があった。例えば、コラゲナーゼ活性は、α1−アンチトリプシンなどのインヒビターに因り、通常のヒト血漿によって阻害されたと以前に記載されていた(Chesney et al., J. Clin. Invest., 1974, vol. 53, p. 1647-1654)。しかしながら、本発明者らは、コラゲナーゼによる消化は、血小板溶解物の存在下でさえ効率的であることを発見した。事実、コラゲナーゼによる消化は、本発明において好ましい非常に少ない量のコラゲナーゼでさえ効率的である(上記参照)。したがって、好ましくは、血小板溶解物は、酵素処理中に存在する。血小板溶解物は、業者から得ることができるか又は新しく調製することができる。多くの病院、血液バンク及び研究所が、血小板溶解物を調製するためのプロトコールを確立し、このような溶解物は一般的に本発明の脈絡において適している。例えば、それは凍結解凍プロセスによって得ることができる。このような溶解物は、血小板懸濁液を凍結し、その後、材料を解凍することによって作製され得るが、血小板の細胞溶解をもたらす限りにおいて、他の凍結解凍方式も適切である。凍結解凍技術を用いたこの方法により、細胞の膨潤及び破壊が引き起こされる。これはおそらく氷晶が形成され、その後、解凍時に収縮するからである。したがって、周期的な膨潤及び収縮により最終的に、血小板は張り裂ける。複数回のサイクルが優先的には、より完全な細胞溶解のために使用され得るが、「より完全な」細胞溶解は必ずしも必要とされない。様々な程度の血小板の細胞溶解、例えば血小板数を単位としてり少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、又は最大100%までの細胞溶解が起こり得る。場合により、溶解していない材料及び他の破片も、使用前に血小板溶解物から除去される。
好ましくは、血小板溶解物は、溶解した哺乳動物血小板、及び場合により哺乳動物血漿を含む。第二の場合には、血小板溶解物は、血小板溶解物と血漿とを含む組成物である。なぜ血漿が含まれ得るかの理由としては、血小板はそれらの溶解前に血漿から完全に分離されていない実施態様、及び/又は、血小板が、それらの溶解前に血漿に(再)懸濁されている実施態様が挙げられる。好ましくは、該組成物中の哺乳動物血漿の濃度は、全容量の約30%未満、約20%未満、又は約10%未満である。好ましくは、血小板溶解物中の哺乳動物血漿の濃度は、約0%〜約10%、例えば約1%〜約10%である。場合により、血小板溶解物は、濃縮された血小板を含む。好ましくは、哺乳動物血小板溶解物は、ヒト血小板溶解物である。好ましくは、血小板溶解物は実質的に、哺乳動物血小板膜を含まない。
血小板溶解物は、全血から又はアフェレーシスによって単離された、単一のドナー若しくはプールされたドナーから供与された血小板から生成され得る。好ましくは、アフェレーシスは、遠心分離などの、異なる密度を有する物質を分離することに基づき、及び/又は、アフェレーシスは、吸着材料でコーティングされたビーズ上への吸着及びろ過を含む。
場合により、本発明において使用される血小板溶解物は、血小板含有懸濁液を溶解することによって得ることができ、ここでの血小板は場合により血漿中に懸濁されている。該血小板含有懸濁液は好ましくは、1×108個の血小板/mlから5×109個の血小板/ml、好ましくは3.8×108個の血小板/mlから1.2×109個の血小板/ml、平均しておよそ7.9×108個の血小板/mlを含む。
また、血小板溶解物の存在は、酵素的消化の穏和さへの寄与を助けると想定される。驚くべきことには、本発明者らは、血小板溶解物の存在が、細胞の消化に対して負の作用を全く及ぼさないことを発見したが(例示については実施例2A及び3参照)、血小板溶解物は、プロテアーゼをはじめとする特定の酵素の活性に負の影響を及ぼすと以前に報告されていた。したがって、酵素的処理、より正確にはコラゲナーゼによる消化が、血小板溶解物の存在下で実施され得ることは、本発明による方法の重要な基礎である。
好ましくは、血小板溶解物は、酵素的消化中に、0.01%〜30%、例えば0.05%〜20%、好ましくは0.1%〜10%、より好ましくは0.5%〜5%、より好ましくは0.8%〜2%、最も好ましくは約1%の容量比で存在する。「容量比」は、消化用緩衝液の全容量中に存在する血小板溶解物の総容量を意味する。
本発明者らは、酵素的消化中の、特に上記されている比での、血小板溶解物又はその誘導体の存在が有利であることを発見した。
本明細書において記載されている場合の「血小板溶解物」という用語は、血小板を溶解することによって直接得ることのできる血小板溶解物、並びにその誘導体、例えば熱により失活させた血小板溶解物、滅菌ろ過された血小板溶解物などの両方を含む。場合によっては、誘導体の使用が、例えば規制を考慮する観点から、必要とされるか又は推奨され得る。より好ましい実施態様では、血小板溶解物は、コンタミしている物質を実質的に含まない。コンタミしている物質を実質的に含まない血小板溶解物は本明細書において、ウイルス(被膜されている及び被膜されていない)、寄生虫、細菌及びエンドトキシンなどの感染病原体を本質的に含まない無菌血小板製剤、すなわち、培養に基づいたシステム、血清学的なシステム若しくは分子同定システムを用いて又はLAL試験(エンドトキシン)を用いて検出することのできない量でこのような感染病原体を含有している血小板溶解物として定義される。病原体の不活化された血小板溶解物(PI−PL)が非常に好ましく、例えば、国際公開公報第2013/042095A1号及びIudicone et al., 2014, J. Transl. Med., 12: 28を参照されたい。
予想されていなかった、以下に記載されるであろう、酵素処理中の血小板溶解物の存在に伴ういくつかの利点が存在する。
第一に、本発明者らは、ヒト血小板溶解物の存在が、間質マトリックスからの細胞の所望の酵素的遊離に負に影響を及ぼすであろう程では少なくとも、コラゲナーゼ酵素の酵素活性を遮断しないことを発見した。
第二に、本発明者らは、血小板溶解物又は誘導体の存在下における消化によって得ることのできる細胞が、優れた生存率によって特徴付けられることを発見した(例えば図4A参照)。
第三に、本発明者らは、その本発明による方法において血小板溶解物又は誘導体の存在下で消化によって得ることのできる細胞が優れた増殖特性を有することを発見した。したがって、好ましくは、工程(b)において間質ワルトン膠様質又はその画分は、哺乳動物血小板溶解物(PL)又はその誘導体、より好ましくはヒト血小板溶解物(PL)又はその誘導体の存在下において酵素的処理にかけられる。
血小板は、生理活性分子及び増殖因子、例えば凝固因子、接着分子、及びプロテオグリカン、塩基性線維芽細胞由来増殖因子(bFGF)、上皮増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子、血管内皮増殖因子(VEGF)、インシュリン様増殖因子−1(IGF−1)、TGF−β1、及びその他などを含有しているが、それらは、プロテアーゼインヒビターを含有していることも知られている(Astori et al., Stem Cell. Res. Ther., 2016, vol. 7, 93)。この教義を鑑みて、血小板溶解物が酵素的処理中に適切に存在し得るという所見は注目すべきである。
全体的に見て、当技術分野の最先端技術によるコラゲナーゼ消化プロトコールから逸脱した、特定の抽出条件が、細胞生存率及び細胞抽出にとって有益であることが示され得、したがって、驚くべき程に有利な単離プロセスを提供する。特に、Seshareddy et al.(2008, Meth. Cell Biol., vol. 86, p. 101-119)によって記載されたプロセスよりも、本発明による単離プロセス中により高い細胞収率を得ることが可能である。より特定すると、本発明によると、Seshareddy et al.(上記)によって記載された細胞収率よりも10〜25倍高い、単離プロセス中の細胞収率を得ることが可能である。本発明に従って単離された細胞の優れた生存率により、該細胞を所望であればインビトロで効率的に増殖させることができる。
好ましくは、たった1回のコラゲナーゼによる消化工程が、本発明による方法において実施される。このことは、本明細書に記載のような臍帯を起源とする組織が、所定の期間かけてコラゲナーゼによる処理にかけられ、その期間の終了後に、物理的に単離されるようになったか又は組織から剥離するようになった細胞が回収されるが、しかしながら、残存する組織は、さらなる1回以上のコラゲナーゼ消化にはかけられないことを意味する。むしろ、それは、期間の終了後及び細胞の回収後に好ましくは廃棄される。
消化期間の終了時に、消化混合物を、タンパク質含有溶液、例えば血小板溶解物の補充された基礎培地で希釈し得る。タンパク質含有溶液の添加の瞬間は、消化時間の終了を確定する。培地が、哺乳動物細胞、好ましくはしかしながら、間葉系幹細胞及び/又は間葉系間質細胞の培養に適している限り、基礎培地の種類は特に限定されない。タンパク質含有溶液は好ましくはヘパリンを含む。
好ましい基礎培地は、MSCBM CD(間葉系細胞のための化学組成の定められた基礎培地、ロンザ社)であり、好ましい補助剤は5%(vol/vol)ヒト血小板溶解物(hPL)である。
ヒト血小板溶解物などのタンパク質含有溶液の添加は、酵素活性を阻害すると考えられている。このような理論に拘りたくはないが、添加により、酵素の希釈も起こる。好ましくは、消化混合物の容量に対して少なくとも1容量のタンパク質含有溶液を添加する。タンパク質含有溶液は、勿論、細胞培養目的に適合した溶液であるべきであり、すなわち、説明するとそれは無菌であるべきであり、場合により優良医薬品製造基準等級などであるべきである。
好ましくは、消化にかけられた組織を含む液体(消化後の液体)を続いて分離にかける。前記の消化後の液体に関して本明細書において使用する「分離」という用語は、特に限定されず、一般的には、細胞が、未消化の組織、不完全に消化された組織、及び他の破片から、ろ過及び遠心分離をはじめとする適切な方法によって分離され得ることを意味する。1つの実施態様では、前記の消化後の液体は、以前に記載されているように(例えば、Del Bue at al., 2007, Veterin. Res. Comm, vol. 31, p. 289-292)、例えばろ過、例えば120μmの網目を通したろ過又はガーゼを通したろ過によって、ろ過されることにより、放出された細胞は、未消化の組織、不完全に消化された組織、及び他の破片から分離される。例えば、50〜150μm、例えば70〜100μmのフィルター孔径(網目)が適している。場合により、フィルター材料はガーゼであり;多数の層のガーゼが使用され得る。したがって、好ましくは、消化にかけられた組織を含む液体は、ガーゼを通してろ過される。その後、ろ液は「消化された混合物」と呼ばれる。別の適した分離法としては、低速遠心分離が挙げられ;その場合、細胞は上清中に残存し、一方、未消化の組織、不完全に消化された組織、及び他の破片はペレット化され;その場合、上清は「消化された混合物」と称される。場合により、ろ過及び低速遠心分離を任意の順序で組み合わせることができる。あるいは、分離は、ろ過のみ又は低速遠心分離のみにより、ここではろ過のみが好ましい。
好ましくは、消化された混合物は続いて、遠心分離にかけられ、好ましくは続いてろ過にかけられる。当業者は、遠心分離条件を、間葉系間質細胞の増殖特性及び生存率に損傷を及ぼすことなく、それらをペレット化するのに適した条件へと調整することができる。例えば、消化された混合物を、250mlの遠心管を使用して680×gで15分間かけて遠心分離することができる。遠心分離終了時には、上清を除去し、所望の細胞を含むペレットを再懸濁する。理想的には、本発明による方法が1つ以上の増殖工程を含む実施態様では、細胞ペレットを、(第一の)増殖工程で使用されたのと同じ増殖培地中に再懸濁する。本発明による増殖は、続いて詳細に記載されるだろう。
通常、消化された混合物は多数の細胞、すなわち細胞集団を含む。好ましくは、本明細書に記載のような酵素的処理によって得られた細胞集団は、得られたそのままで直接使用され、すなわち、負の選択(所望ではない細胞の選択的破壊)を全く行わずに使用される。適切であるが任意選択な使用は、細胞の増殖からなり、これは以下に記載されるだろう。
単離手順の実例は、実施例2Aに記載されている。実施例3に示されているように、血小板溶解物の使用は、細胞の放出及びその生存率の点で、コラゲナーゼ活性に負の影響を及ぼさない。これは、驚くべき所見である。なぜなら、血小板溶解物は、プロテアーゼをはじめとする特定の酵素の活性に負の影響を及ぼすと以前に報告されていたからである。
酵素的処理は好ましくは、無菌条件下で実施される。
個々の細胞の単離は、所望であれば、例えば、連続希釈によって成し遂げられ得る。それにより、単離された個々の細胞を得ることができる。連続希釈は、工程(b)に続く任意選択な工程である;しかしながら、単一の単離された細胞を得ることは、本発明の主な目的ではない;むしろ、工程(b)の後に、以下に記載されているような、細胞(群)の増殖のための工程(c)が続くことが好ましい。
増殖
単離中に、特に本発明の方法の工程(a)及び(b)の最中に得られた細胞を増殖させる(すなわち増殖にかける)ことができる。細胞を生体外で増殖させる。生体外での増殖により、当業者は、培養のために確定された条件を選択することが可能となる。これらは以下に記載されるだろう。
増殖は、有利な特性を有する、以前に単離された細胞を増幅することを目的とする。当技術分野においては一般的であるように、増殖は、培養培地中で行なわれる。特記されない限り、増殖に適した条件としては、一般的に哺乳動物細胞の培養、より具体的には哺乳動物細胞の増殖に適していることが知られている条件が挙げられる。
増殖は、高度な細胞増殖及び高い有糸分裂活性によって主に特徴付けられる、細胞培養プロセス/細胞産生プロセスの期間である。本発明において、増殖は、とりわけ、細胞数を増加させる目的を果たし、これは、好ましくは有糸分裂活動性で、より好ましくは指数関数増殖期にある増加した数の細胞を生じることを意味する。増殖により、より大きな細胞集団を得ることができる。本発明による細胞増殖工程は、適切な条件下で細胞の増殖を可能とする単一の工程であり得る:しかしながら、より好ましくは、本発明による増殖は、以下にさらに記載されているであろうように、複数回の継代を含む。
増殖は、一般的に無菌条件下で、及び典型的にはまた哺乳動物細胞の培養にその他の点で必要な又は有用な又は推奨される条件下でも実施される。
本発明のこの実施態様は、ワルトン膠様質の特定の区画、すなわち間質ワルトン膠様質が、効率的かつ確実に単離され得、続いて効率的かつ確実に増殖され得る細胞を含むという知見に基づく。したがって、一旦、細胞が単離されると、それらの集団は有糸分裂的に増殖する。
したがって、場合により及び非常に一般的には、本発明による方法は、1つ以上の追加の工程を含む。特に、本発明の好ましい実施態様では、細胞数を増加させるための工程が、工程(b)で得られた細胞の細胞分裂能を利用して含まれる。このような好ましい実施態様では、工程(b)の後に工程(c)が続く;工程(c)は工程(b)で得られた少なくとも1つの細胞を増殖させることを含む。工程(c)はまた本明細書において「増殖工程」又は単に「増殖」と称される。
増殖条件は、間葉系間質細胞の生体外での増殖及び細胞分裂に適するように選択される。それにより、間葉系間質細胞の強化された培養液が得られる。特定の理論に拘りたくはないが、培養液が、単離された細胞の中の特定のサブセットを選択し、これによりそれらを強化するか、又は細胞がその表現型を変化させるかのいずれかを想定することが可能である。
本発明による増殖は、以下のように、本発明による単離との相乗作用を提供する:本発明による好ましい穏和な条件で単離された総細胞数は、米国特許出願第2004 0136967A1号及びSeshareddy et al., Meth. Cell Biol., 86:101-119, 2008によって示唆された方法によって抽出可能である総細胞数よりも少ない場合があるが(典型的には少ないが)、本発明者らは、本発明による好ましい穏和な条件で単離された細胞が、増殖に、例えばそれらの高い生存率の観点から(図解については図4Bを参照)及びまたそれらの高い増殖能の観点から(図解については図9参照)、特に適しており、したがって、本発明に従って単離された間質ワルトン膠様質由来細胞を増殖させることによって、多くの細胞数を得ることができることを発見した。換言すれば、本発明による好ましい単離手順は本発明による増殖と一緒に、特定の所望の細胞数に到達するために、より少ない出発材料及び/又はより少ない継代数が必要とされるという相乗的な利点を有する。なぜなら、増殖にかけられる細胞の大半は生存しており、それらは特に良好に増殖するからである。
好ましくは、本開示に従って得られた臍帯由来細胞は、増殖工程にかけられた唯一の細胞である。このような実施態様では、増殖工程中にフィーダー細胞が全く存在しないことが特に好ましい。
増殖は典型的には、培養容器中で行なわれる。より正確には、増殖にかけられる運命の細胞は培養容器中に播種される。典型的なこのような培養容器はフラスコ、プレート及びスタック(ここでのスタックは典型的には、互いの上面に積層された多数のプレートから構成されている)である。本発明の脈絡において特に適した培養容器は、培養容器の底に細胞の接着を可能とする培養容器であり;このような容器は、平坦な底面を有するフラスコ、プレート、及びスタックである。好ましくは、培養容器は、少なくとも1つのプラスチック底面を有する。より好ましくは、培養容器はプラスチック培養容器である。培養容器は好ましくは平坦な底面(「平坦な底」)を有する。
プラスチックの種類は、細胞の培養に適している限り、特に限定されない;しかしながら、疎水性ポリマー、例えば特にポリスチレン、場合により表面の修飾されているものが好ましい。表面の修飾は、血漿技術によって成し遂げられ得、この技術は、多種多様な官能化学基をポリスチレン表面上で使用することを可能とさせ、これは一般的に細胞の接着に適している。このような技術は、当技術分野の最先端技術の一部であり、接着細胞の培養のための表面の修飾されたプラスチック容器は市販されている。
しかしながら、好ましくは、細胞培養容器の表面は、使用前にタンパク質でコーティングされていない。特に、それは、コラーゲン及びポリリジンなどの細胞マトリックスタンパク質などのタンパク質でコーティングされていない。
好ましくは、増殖は、多数の継代数をかけて行なわれる。継代の詳細な以下に記載されている。
増殖培地
本発明による増殖のための増殖培地は典型的には、基礎培地及び1つ以上の補助剤を含むだろう。広義の意味では、使用される基礎培地の種類は特に限定されない。典型的な基礎培地は、水を基剤とし、化学組成が規定されている。「化学組成の規定された」は、基礎培地が、特定の量の特定の成分から構成されることを意味する;化学組成の規定された基礎培地の利点は、それらを、実験条件、実験室などに因る変動を伴わず、再現性をもって調製できることである。基礎培地は、通常、無菌である。哺乳動物細胞の増殖用の基礎培地は、様々な業者から市販されている。
典型的には、基礎培地は、アミノ酸、塩(例えば、塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、及びリン酸一ナトリウム)、グルコース、及びビタミン(例えば葉酸、ニコチンアミド、リボフラビン、B12)、少なくとも1つの緩衝剤(例えばHEPES)、及び典型的にはまた着色剤(例えばフェノールレッド)を含む成分を含む;しかしながら、これは、必須ではない。大半の市販の基礎培地は、pH指示薬(着色剤)としてフェノールレッドを含み、これはpHの定期的なモニタリングを可能とする。
好ましくは、基礎増殖培地は、細胞を蒔くのに接着用マトリックスの添加を必要としないものである。
好ましくは、基礎培地は、無血清である。無血清は、ヒト又は動物の血清がその中に全く含有されていないことを意味する。より好ましくは、基礎培地は、無血清である、化学組成の規定された基礎培地である。
好ましくは、基礎培地は化学組成が規定されている。化学組成の規定された基礎培地は、全ての化学成分が既知である、ヒト又は動物の細胞のインビトロにおける細胞培養に適した基礎培地である。特に、化学組成の規定された培地は、全ての成分が同定され、その正確な濃度が既知でなければならないことを必要とする。それ故、化学組成の規定された培地は、動物由来の成分を完全に含まずにいなくてはならず、ウシ胎児血清、ウシ血清アルブミン、又はヒト血清アルブミンなどの血清又は血清由来タンパク質を含有することはできない。化学組成の規定された基礎培地は、単なる組換えタンパク質及び/又はホルモンを含まない。これを達成するために、化学組成の規定された培地は、ヒト又は動物の起源に由来する成分、例えばタンパク質及び/又は増殖因子を含まず;特に、それはヒト又は動物を起源とするアルブミンも、ヒト又は動物を起源とする増殖因子も含まない。好ましくは、それは、通常ヒト以外、動物以外の起源、例えば植物細胞及び細菌に由来する、組換えアルブミン及び/又は組換え増殖因子、並びに/あるいは、例えばポリビニルアルコールなどの合成化学物質を含む。
いくつかの実施態様では、化学組成の規定された基礎培地は、
(a)従来の基礎培地(例えば、アミノ酸、ビタミン、無機塩、緩衝液、抗酸化剤、及びエネルギー源を含む、DMEM、F12又はRPMI 1640)及び
(b)場合により以下のオープンリストから選択されるがこれらに限定されない1つ以上の血清代替成分:組換えアルブミン、化学組成の規定された脂質(群)、組換え型インシュリン及び/又は金属イオン(群)、例えば亜鉛、組換えトランスフェリン又は鉄、セレニウム、及び抗酸化剤チオール、例えば2−メルカプトエタノール又は1−チオグリセロール
を含む。
基礎培地は、例えば、イーグル最小必須培地(EMEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、α−MEM、RPMI−1640、IMDM、及びその他を含むがこれらに限定されない、リストから選択され得る。所望であれば、1つ以上の血清代替成分もこれらの培地に添加される。それにより、無血清基礎培地が得られる。
より好ましくは、基礎培地は、間葉系間質細胞及び/又は間葉系幹細胞の培養に適した基礎培地である。好ましくは、基礎増殖培地は、間葉系間質細胞、特にヒト間葉系間質細胞、より特定すると間質ワルトン膠様質由来(好ましくはヒト)間葉系間質細胞の複数回の増殖継代に適している。
間葉系間質細胞及び/又は間葉系幹細胞の培養に適した培地は市販され、これらの中のいくつかは、このような目的のために特に市販されている。例えば、TheraPEAK(商標)MSCBM CD(本文書全体を通して、簡略化してMSCBM CDと称される)は、その製造業者(Lonza社、ウォーカーズビル、MD州、米国;製造番号95062−688)によって間葉系幹細胞に適していると記載されている、化学組成の規定された基礎培地である。実際に、本発明者らは、この基礎培地を特に適していると同定した。したがって、MSCBM CDは、本発明に使用するのに好ましい基礎培地である。
同等に好ましいのは、MSCBM CDに実質的に等価である全ての基礎培地である。「実質的に等価である」という用語は以下に定義されている。成分及びそれらの相対量に関する、基礎培地組成の類似性は、クロマトグラフィー法及び/又は分光法などの組合せによって試験され得る。
一般的には、適切な培養培地の発見は、細胞培養の全体的な成績にとって非常に重要である。これは、MSCBM CD及びそれに対して実質的に等価な基礎培地を、本発明にとって特に適した基礎培地と同定することによって対処される。MSCBM CDは、間葉系細胞のための化学組成の規定された基礎培地であり、ロンザ社(ロンザ社、ウォーカーズビル、MD州、米国)から製造番号95062−688で市販されている。MSCBM CDの変化形、例えば特に、MSCBM CDと同じ構成成分から例えば他の量若しくは比であるが構成されるか若しくは含む基礎培地、又は、本明細書に記載のように使用される場合、間葉系間質細胞の増殖に対して実質的に同等な効果を有するが、MSCBM CDの構成成分とは部分的に若しくは全く異なる構成成分から構成されるか若しくは含む基礎培地が、本発明による使用によって同等に含まれる。
他の基礎培地も、本発明の方法における間葉系間質細胞の増殖に適している。例えば、本発明者らは、DMEMが、以下に記載のような少なくとも1つの補助剤(群)を追加的に含む増殖培地に含まれている場合、これも使用され得る基礎培地であることを発見した(データは示されていない)。
本発明の重要な実施態様では、増殖培地は、基礎培地と少なくとも1つの補助剤(群)、特に血小板溶解物を含む。したがって、好ましくは、少なくとも1つの細胞を、基礎培地に基づき、少なくとも1つの補助剤を含有している、増殖培地中で増殖させる。血小板溶解物は好ましい補助剤である。
「に基づいている」は、基礎培地、例えばMSCBM CDに、少なくとも1つの補助剤が補充されていることを意味する。補助剤が液体形で添加される場合、基礎培地は、少なくとも1つの補助剤の添加によって僅かに希釈される;しかしながら、僅かな希釈は一般的な懸念を全く引き起こさない。好ましい実施態様では、補助剤は、ヒト又は動物の血清、ヒト又は動物の血小板溶解物、ヒト又は動物又は植物の細胞溶解物、1つ以上の抗生物質、ヘパリン、補助的な増殖因子、例えばインシュリン、又はヒドロコルチゾン、アミノ酸、例えばグルタミン又はそのオリゴマーを含むリストから選択され得る。
好ましくは、増殖培地は、補助剤としてヘパリンを含む。増殖培地中のヘパリンの適切な濃度は、0.1〜100U/mL、例えば1〜10U/mL、例えば2U/mLである。Uは、上記されているようなヘパリンの単位(ハウエル単位)を意味する。ヘパリンは基礎培地に添加されていてもよい。
特に好ましい実施態様では、少なくとも1つの細胞を、基礎培地MSCBM CD(ロンザ社、ウォーカーズビル、MD州、米国;製造番号95062−688)に基づいた増殖培地中で、又はそれと実質的に等価な基礎培地中で増殖させる。本発明において、MSCBM CDは、例えば、高度に累積的な集団倍加数/多くの細胞数を生じるために特に有利であることが判明した。
本発明の目的のために、2つの基礎培地が互いに実質的に等価であるか否かは、同じ臍帯から理想的に単離された細胞を、該基礎培地に基づいた増殖培地中で実質的に同じ条件下で、すなわち、同じ温度で同じ培養皿中で同じ量の同じ添加剤(例えば血小板溶解物)を用いるなどで、理想的には平行して増殖させることによって試験される。換言すれば、2つの該基礎培地が互いに実質的に等価であるかどうかを試験するために、増殖試験における唯一の変数は、基礎培地それ自体である。該細胞は好ましくは、実施例1及び2Aのように単離され、実施例2Bのように継代培養(「P0」)された間質ワルトン膠様質由来の間葉系間質細胞である。トリプシン処理後のP0由来の細胞を、その後、第一の基礎培地(例えばMSCBM CD)に基づいた増殖培地中、及び第二の基礎培地(実質的な等価性について試験されるべき)に基づいた増殖培地中での平行した増殖にかける。2つの基礎培地は、以下の両方が観察される場合に実質的に等価であると考えられる:1回のプレーティングあたりの平均累積集団倍加数(P1〜P8)が実質的に同じ(最大値からの10%+/−の逸脱)であり、8継代後に得られた細胞の老化(参照については実施例11参照)が実質的に同じ(最大値からの10%+/−の逸脱)である。
代替的な実施態様では、増殖培地は、MSCBM CDとは実質的に等価ではないが、以下のように特徴付けられる基礎培地に基づく:1回のプレーティングあたりの平均累積集団倍加数(P1〜P8)は、MSCBM CD基礎培地に基づいた他の点では同一な増殖培地中での増殖と比較して、少なくとも70%という高さであり、8継代後に得られた細胞の老化(参照については実施例11参照)は、MSCBM CD基礎培地に基づいているが他の点では同一な増殖培地中で平行して増殖させた細胞の老化と比較して、150%以下である。DMEM(様々な業者から市販されている)は、このような基礎培地の実施態様であり得る。
好ましくは、増殖培地は、間葉系間質細胞、特に本発明の間葉系間質細胞の多系統分化を支える。必要であれば、補助剤が基礎培地に添加されることにより、特定の系統への細胞の分化が駆動される。多系統分化についての試験は以下に記載されている。
好ましくは、血小板溶解物又はその誘導体が増殖培地中に存在する。したがって、本発明に有用な増殖培地は好ましくは、血小板溶解物を含む。より具体的には、本発明者らは、MSCBM CD基礎培地又はそれと実質的に等価である基礎培地と、補助剤である血小板溶解物との組合せが、特に適切であり、このような増殖培地がはるかに好ましいことを示した。好ましくは、血小板溶解物が存在する場合、ヒト又は動物の血清は増殖培地中には全く存在せず、より好ましくは血小板溶解物以外のヒト、動物又は植物の細胞溶解物は全く存在しない。ヒト又は動物の血清の代わりに、本発明に記載の増殖培地中における血小板溶解物の使用は、プリオン、ウイルスを伝播するリスク又は注入後のレシピエントにおける免疫反応を誘発するリスク及び優良医薬品製造基準(GMP)下の規制の制約の観点から、伝統的に動物の血清を使用することに伴う懸念に対処する。
血小板溶解物が、増殖培地中に存在しているか、又はより正確には基礎培地(例えばロンザ社のMSCBM CDなど、又はそれと実質的に等価な基礎培地)に添加されている場合、血小板溶解物はまた、基礎培地に対する補助剤とも称され得る。
この実施態様において補助剤として適した血小板溶解物は一般的に、上記の酵素的消化中に血小板溶解物を添加する実施態様について記載された血小板溶解物に相当するが、しかしながら、以下の4つの追加のより好ましい実施態様の、単独又は組み合わせによって、理想的にはさらに満たされる。
第一の特に好ましい実施態様では、血小板溶解物は、臍帯と同じ種に由来する(しかしながら典型的には同じ個体には由来しない)。同じ種に由来する血小板溶解物の存在下における培養に伴う利点は、特に、間質細胞の培養のために同じ種の血小板溶解物を使用することに対する先行技術の偏見の観点から驚くべきことである:例えば、ウマ血小板溶解物は一般的に、ウマ間葉系間質細胞培養液の培養には有利ではなく(Russell et al., 2016, Equine Vet. J., vol. 48, p. 261-264)、イヌ間葉系間質細胞の単離及び増殖においてイヌ血小板溶解物はウシ胎児血清よりも劣る(Russell et al., PLOS One, 2015, vol. Vol. 10, e0136621)と報告されていた。使用される血小板溶解物は、個々のばらつきを補い、より標準的で再現性のある血小板溶解物製品を得るために、各製剤中に含まれる、複数のドナーに由来する血小板を含むことが非常に好ましい;全血から得られたバフィーコートによって得られた血小板のプールが標準的な手順である。例えば、Iudicone et al., 2014, J. Transl. Med., 12: 28を参照されたい。好ましくは、血小板溶解物は、哺乳動物の血液に由来する。目的に応じて、血液源として適した哺乳動物を選択することができる。本発明に従って使用されることを意図する哺乳動物は、原則的に、若年又は成体の全ての動物であり得、これから必要量の血小板を妥当に回収することができる。いくつかの実施態様では、主に成体の哺乳動物が使用される。ヒト以外の動物の例は、屠畜及び他の家畜動物、例えばウシ、ブタ、ヒツジ、又は家禽である。哺乳動物の血小板溶解物が好ましく、ヒト血小板溶解物(「hPL」と略される)が非常に好ましい。いくつかの実施態様では、哺乳動物はヒトである。一般的に、添加される血小板溶解物は好ましくは、臍帯/細胞と同じ種に由来する。特に、ヒト臍帯を起源とする細胞の培養のために、ヒト血小板溶解物の添加が好ましい。血小板溶解物は典型的には細胞に対して同種である。いくつかの実施態様では、血液ドナーは健康であり、関連する規制当局によって示される必要条件を満たしている。例えば、血液は、食品医薬品局が食品又は医薬品の使用を目的とした製品にかけた必要条件を満たすことができるか、あるいは、本発明が施行される地理的地域内における対応する規制を満たすことができる。ヒト血小板溶解物は、完全に又は部分的に(好ましくは完全に)ウシ胎児血清を代替し得る。最も好ましい実施態様では、血小板溶解物はヒトドナーに由来する。これらの実施態様では、ドナーは約50歳以下、約45歳、約40歳、又はそれ以下の年齢であることが好ましい。
第二の特に好ましい実施態様では、血小板溶解物は、細胞培養培地中での補助剤として使用された場合、同じ濃度のウシ血清、特にウシ胎児血清(FBS)と比較して、細胞に対して、特に本発明に記載のワルトン膠様質由来の間葉系間質細胞に対して、増加した増殖促進活性を有する。いくつかの実施態様では、該組成物は、同じ濃度のウシ胎児血清(FBS)と比較して、細胞に対して少なくとも20%増加した増殖促進活性を有する。
第三の特に好ましい実施態様では、増殖培地中の血小板溶解物の濃度は、約0.1%(vol/vol)〜約20%(vol/vol)、好ましくは約0.5%(vol/vol)〜約10%(vol/vol)、より好ましくは約1%(vol/vol)〜約5%(vol/vol)、例えば1%(vol/vol)、2%(vol/vol)、3%(vol/vol)、4%(vol/vol)又は5%(vol/vol)である。約5%(vol/vol)が特に有用であることが判明し(本明細書の実施例を参照)、したがって、特に間葉系幹細胞に適した化学組成の規定された基礎培地、例えばMSCBM CD(ロンザ社)、又はそれと実質的に等価な基礎培地と組み合わせるのが好ましい。
第四の特に好ましい実施態様では、増殖培地に添加される血小板溶解物は、血小板の誘導体を含む。あるいは、血小板溶解物は、哺乳動物の血小板膜及び/又は他の細胞破片を実質的に含まない。本明細書において使用する実質的に含まないとは、検出不可能な量の血小板膜しか存在しないか、又は、血小板膜の量をあらゆる合理的で商業的に妥当な方法によってさらに低減させることができないか、又は血小板膜の量が、血小板溶解物の使用を実質的に妨害しないことを意味する。血小板膜は、密度勾配などの、当技術分野において公知である任意の適切な方法を使用して血小板溶解物から分離され得る。
いくつかの有用な実施態様が実施例0及び2に提供されている。
好ましくは、血小板溶解物又はその誘導体は好ましくは、増殖工程(c)の全て又は一部の最中に存在する。したがって、好ましくは、工程(c)では少なくとも1つの細胞を、血小板溶解物(PL)又はその誘導体、好ましくはヒト血小板溶解物(PL)又はその誘導体を含む増殖培地中で増殖させる。
いかなる理論にも拘りたくはないが、血小板溶解物の存在が、栄養分及び増殖因子を提供し、細胞の効率的な増殖を可能とする環境に寄与すると想定される。いかなる理論にも拘りたくはないが、血小板溶解物の存在が、酵素抽出後に残存する酵素活性を平衡化するか又は抑制することを助け、したがって、その後の増殖期の最中の条件の穏和さをもたらすと考えられる。ヒト血小板溶解物(hPL)は、ヒト間葉系間質細胞と共に使用するのが好ましい。
したがって、本発明において、血小板溶解物(PL)は、間葉系間質細胞の培養における、動物血清の代替物であり得る(説明及びさらなる詳細については、国際公開公報第2013/042095A1号参照)。血小板は、PDGF(血小板由来増殖因子)、b−FGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)、VEGF(血管内皮増殖因子)、及びTGF−β(形質転換増殖因子−β)などの数多くの増殖因子の豊富な発生源であることが知られている。
場合により、1つ以上の抗生物質が増殖培地中に存在する。そうである場合、1つ以上の抗生物質を、補助剤として基礎培地に添加してもよい。本発明の脈絡における適切な抗生物質としては、例えばとりわけアムホテリシン及びゲンタマイシンが挙げられる。増殖培地中の1つ以上の抗生物質の濃度は好ましくは、当技術分野において通常使用される濃度範囲内である。あるいは、増殖培地中に添加された抗生物質は全く存在しない。
好ましくは、上記に列挙されたもの以外の追加の成分は全く基礎培地に添加されない。特に、少なくとも1つの細胞を、添加された血清を全く含まない、特にウシ血清、例えばウシ胎児血清(FBS)を全く含まない、増殖培地中で増殖させることがはるかに好ましい。その実施態様の目的のために、血小板溶解物は、血清という定義に該当しない;換言すれば、いくらかの血清又は痕跡量の血清が、増殖培地に添加された血小板溶解物に含まれている可能性がある場合でさえも、増殖培地は、「添加された血清」を含有しているとは言うことはできず、これは、血清が、古典的な意味での細胞培養成分として添加されていないことを明記することを意図する。本発明において、例えば、ウシ胎児血清は望ましくない添加剤である。なぜならそれはウイルス疾患及びプリオン病を伝播するリスクを有するからである。これに対し、本発明の方法は、血小板溶解物の存在下において、例えばウシ胎児血清の代替物として効率的に働く。ヒト間葉系間質細胞の増殖のために、ヒト血小板溶解物が、添加剤としてウシ胎児血清よりも好ましい。
好ましくは、細胞が増殖用プレート上での継代にかけられる場合、接着用マトリックスは全く提供されないか又は存在しない。したがって、細胞が蒔かれる場合、接着用マトリックスは全く提供されないか若しくは存在せず、及び/又は、接着用マトリックスは、基礎培地に補助剤として全く添加されない。
継代
好ましい実施態様では、細胞は、1継代以上かけて増殖される。
「継代」は、(特定の種類の)培養容器中の細胞培養を指し、その培養容器内に細胞は播種され、それぞれの継代を開始する。通常、該細胞は、それらが培養されている間に該培養容器に接着し、該細胞は通常、培養中に該培養容器内で増殖する。継代の終了は、正常に接着した細胞の剥離(例えばトリプシン処理による)によって定義される。続いて、細胞をそれから場合により、同じ又は異なる種類の新たな培養容器に播種し;新たな培養容器への播種は、その次の継代の開始を確定する。したがって、細胞は、このような増殖後、培養容器から別の培養容器へと移され、その後、前記の他の培養容器中に存在する細胞は次の継代を示す。
「収集する」は、継代終了時に培養容器中に増殖させた実質的に全ての細胞を得るプロセスを指す。
各継代について1つの培養容器が使用され得る;しかしながら、より好ましくは、複数の培養容器が、各継代毎に平行して使用される。その後、細胞を、複数の培養容器中で平行して、実質的に同一の条件下で実質的に同じ時間かけて培養する。好ましくは、複数の培養容器中の播種密度は、実質的に同じである。
各継代の開始時に、(好ましくは所望の数/密度の、接着していない/単離されている)細胞を、増殖培地を含む培養容器に加える。
細胞増殖には必要ではないが、抗生物質を使用して、細菌及び真菌のコンタミの増殖を制御することが多い。これは、初期の継代において特に好ましいが、後期の継代では、例えばP2以降又はP1以降では好ましくない。したがって、抗生物質が、細胞の単離後の初代の継代(「P0」)に存在している場合でさえ、抗生物質は、P0の後の全ての継代において好ましくは中止し;換言すれば、抗生物質の添加されていない増殖培地が、P1及び全てのその後の継代において使用され得る。したがって、本発明において、抗生物質は好ましくは、臍帯からの細胞の単離後の初回細胞培養液(例えばP0)中には補助剤として存在するが、その後の細胞培養液中には、すなわちP0の継代培養液中には存在しない。
各継代の終了時に、細胞が以下の表の基準3によるコンフルエンス率に達した場合、細胞を収集する。その目的のために、増殖培地(及び存在する場合、その中に含まれる全ての接着していない細胞)を吸引し、接着した細胞を、場合により、適切な無菌緩衝液で洗浄し、任意選択であるが好ましくは、酵素的に剥離し、例えばトリプシン処理し、場合により計数し、任意選択であるが好ましくは、遠心分離によって濃縮し、任意選択であるが好ましくは、本明細書に記載のような好ましくは間葉系間質細胞に適した増殖培地中に再懸濁する。再懸濁された接着していない細胞はその後、続く継代培養開始時に添加されるために使用される。
継代は、本明細書において以下に詳細に記載されているように、第0継代(P0)から始まる、連続番号が付けられる。P0は、好ましくは上記のような酵素的消化によって細胞を得た後の初回継代である。したがって、P0は、「初代培養液」と称され得る。初代培養液の接種用の細胞は、臍帯のワルトン膠様質を起源とするか、上記のような機械的及び/又は酵素的に解離させた組織を起源とするか、あるいは代替的であるがはるかにより好ましくは、間質ワルトン膠様質組織から遊走した細胞の増殖を起源とする。
様々な継代で細胞を増殖させることによって、該細胞は、1回だけの継代で可能であろうよりも、より多くの総細胞数及び/又はより高い均質性、及び/又は所望ではない細胞によるより少ないコンタミとなるまで増殖させることができる。該細胞を、確定された条件で又は所望の条件で増殖させることができる。
臍帯(UC)の間質細胞は、構造、生物学的特性、及び臍帯内における場所に関して不均質であると一般的に認識されている。例えば、図7Aは、新たに単離された臍帯由来細胞(両方共、本発明による及び当技術分野の最先端技術による)が、特定の表面マーカーの提示に関して不均質であることを示す。
間質ワルトン膠様質(臍帯の任意の他の領域も)から単離された全ての細胞がクローン原性であるわけではないことは典型的である。換言すれば、単離された全ての細胞がコロニー形成単位(CFU)であるわけではない。しかしながら、複数の継代かけて本発明に従って単離された細胞を増殖させることによって、クローン原性である所望の間葉系間質細胞を強化することができる。したがって、1つの実施態様では、本発明による増殖は、間葉系間質細胞の比率が経時的に増加することを特徴とする。例えば、P0の終了時の間葉系間質細胞の比率は典型的には、P0の開始時の間葉系間質細胞の比率よりも高い場合がある。
本発明において、複数回の継代培養が、赤血球などの他の(所望ではない又はコンタミしている)細胞と比較して、間葉系間質細胞を強化することができるという利点を付与する。なぜなら、(a)接着していない(したがって間葉系間質細胞ではない)細胞は、継代培養終了時に増殖培地と共に除去され、(b)間葉系間質細胞より劣った増殖特性を有する細胞は、間葉系間質細胞と同じようには実質的に増殖しないであろうことにより、数回の累積継代の経過中に、細胞集団は、間葉系間質細胞が強化されるようになり、最終的には(通常P1以降)実質的に純粋な間葉系間質細胞となるからである。
確定された又は十分に確立された条件が使用される限り、継代数を累積集団倍加数へと算術的に変換することが一般的に可能である。
細胞を、好ましくは、複数回の継代をかけて、好ましくは1回より多く14回未満の継代数をかけて増殖させる。例えば、細胞を3〜6回継代して培養する。
1つの正確な実施態様では、新たに単離された細胞は、酵素的消化後、まず初代継代培養にかけられ(例示的な説明については実施例2B参照)(初代継代培養はP0と称され得る);場合により増殖は、P0の条件下で新たな継代で反復される(その後、反復継代培養は、P0+と称される)。その後の継代、すなわちP0の直後、すなわちP0+の後は、P1、P2などと数字の番号が付与される。好ましい実施態様では、細胞を、少なくともP2まで増殖させ、P6以降には増殖させない。最も好ましい実施態様では、細胞をP4まで増殖させる。
累積集団倍加数に関して、P0の最中の累積集団倍加数を決定することは典型的には困難である。主な理由は、本発明者らの経験では、P0の開始時に播種された全ての細胞が増殖しないであろうからである。P0の最中の累積集団倍加数を決定するために、P0の開始時のクローン原性細胞、すなわち、増殖することができ、それにより娘細胞の発生源を生じる細胞の数又は割合を決定することが必要とされるだろう。このような決定はそれ自体は一般的に実行不可能ではないが、本発明の方法には要求されない;その代わりに、このような実施態様では、累積集団倍加数は、P0を除く全ての継代において決定される。臍帯から最初に単離された細胞は典型的には、クローン原性である間葉系間質細胞、並びに、クローン原性ではない他の細胞(例えば赤血球)を含むが、他の細胞は、とりわけ以下に記載のように、P0以降は実質的に存在しないであろう。なぜなら、このような非クローン原性細胞は、P0の最中に子孫を生じないからである。
1つの実施態様では、細胞を、5〜30回の累積集団倍加数かけて(P0の最中の累積集団倍加数は計数しない)、例えば8〜25回の累積集団倍加数かけて(P0の最中の累積集団倍加数は計数しない)増殖させる。1つの好ましい実施態様では、細胞を、僅か5〜14回の累積集団倍加数かけて(P0の最中の累積集団倍加数は計数しない)増殖させる。この実施態様は、第一セルバンクの作成に適している。
代替的な好ましい実施態様では、細胞を、14〜25回の累積集団倍加数かけて(P0の最中の累積集団倍加数は計数しない)増殖させる。この実施態様は、第二セルバンクの作成に適している。
本発明者らの経験では、非常に一般的な法則としての、P1及びP2の最中(P1とP2の合計であるが、P0は含まない)の累積集団倍加数は通常、7〜15、好ましくは9〜13の範囲内である。本発明者らの経験では、非常に一般的な法則としての、P3及びP4の最中(P3とP4の合計であるが、P0、P1及びP2は含まない)の累積集団倍加数は通常、4〜12、好ましくは6〜10の範囲内である。結果として、非常に一般的な法則としての、P1、P2、P3及びP4の最中(P1とP2とP3とP4の合計であるが、P0は含まない)の累積集団倍加数は通常、9〜27の範囲内、好ましくは15〜23の範囲内である。これらの数字は、P0の最中の累積集団倍加数を含まない。
各継代の開始時に、細胞を、細胞培養容器に移す。好ましくは、該細胞を、1つの培養容器あたり特定の量の細胞で移す。量は好ましくは、細胞培養容器の二次元表面の関数として定義される。それにより、確定された細胞密度で継代を開始することが可能である。
本発明の脈絡において継代培養を開始するための細胞密度は以下の通りである:
P0及びP0+(該当する場合)のそれぞれの開始時に、利用可能な細胞の総量を播種する。それ故、P0及びP0+(該当する場合)を開始するのに正確に確定された細胞密度は全く確定されていない。いずれにしても、P0及びP0+(該当する場合)を開始するための細胞密度は、8,000個の細胞/cm2又はそれ以上であるべきである。
間葉系間質細胞には一般的であるように、本発明の細胞は典型的には、培養容器中で、特にプラスチック底面を有する培養容器中で増殖させる場合、接着性細胞である。好ましくは、該細胞は、増殖培地の選択に関係なく接着性である。いずれにしても、細胞が、本発明に記載の好ましい増殖培地中で培養される場合に接着性であることがはるかに好ましい。
各継代の終了時に、細胞を収集する。その目的のために、それらを任意選択であるが好ましくは酵素的に剥離、例えばトリプシン処理する。一般的に公知であるように、トリプシンは、細胞接着分子をタンパク質分解的に消化し、よって培養容器から及び互いから接着細胞を分離するのに適した、市販の酵素である。したがって「トリプシン処理」は、このような消化に適した条件下での、トリプシン(又はトリプシン様消化パターンを有する任意の他の酵素)を用いての処理を意味する。哺乳動物細胞、特に間葉系細胞をトリプシン処理するための標準的な方法もまた、本発明に従って得られた細胞をトリプシン処理するのに適している。このような目的のためのトリプシン製剤は市販され、製造業者の説明書に従って使用され得る。あるいは、酵素的剥離は、トリプシン以外の適切な酵素を用いて実施される。
例えばトリプシン処理による酵素的剥離後、任意選択であるが好ましくは総細胞数(そのそれぞれの継代で使用された1つのフラスコあたり又は1つのプレートあたり又は1つのスタックあたり又は合計した全ての培養容器あたりの)を決定する。
本明細書において、特定の継代数まで、例えばP4まで細胞を増殖させると言う場合、細胞の増殖は、そのそれぞれの継代後に、さらに継続されないか又は中断することを意味する。
各継代後、以下の許容基準が好ましくは評価される:1収量、2生存率、3コンフルエンス、4形態。許容基準3及び4の決定は、細胞の酵素的剥離前に行なわれる。許容基準1及び2の決定は、細胞の酵素的剥離後に行なわれる。詳細は以下の通りである。
好ましくは、4つ全ての許容基準が満たされていなければならない。
コンフルエンスの顕微鏡による決定は、細胞培養容器に接着した細胞によって覆われる細胞培養容器の表面積の比率の決定に向けられる。
コンフルエンス基準が満たされていない場合、細胞をさらに増殖させ、いつコンフルエンス基準が満たされるかを発見するために定期的に観察する。
収量の決定のために、細胞を酵素的に剥離し、例えば、トリプシン処理にかけ、確定された細胞含有懸濁液の画分を、NucleoCounter(登録商標)によるなどの、自動細胞計数にかける。その後、総細胞数を、画分に基づいて算術的に決定する。
形態(すなわち細胞形態)の顕微鏡による決定は、細胞培養容器の地表面領域に接着した細胞の形状を決定することに向けられる。大半の細胞が紡錘形であることが間葉系間質細胞に典型的である。例示的な目的のために、このような細胞を含む細胞培養皿の底面上の図を示した写真が図5Cの「SWJ」と称されているパネルに示されている。
生存率の決定は、セルバンクの調製及び/又はその後の継代にかけられる細胞が、(場合によっては、凍結及び解凍後)さらなる増殖に適合していることを保証する。本発明の細胞は、当技術分野の最先端技術による方法に従って単離された間葉系間質細胞と比較して生存率が優れている。それにより、及び本発明による増殖に依拠することによって、臍帯の間質ワルトン膠様質から最初に単離された総細胞数が比較的少ない場合でさえも、大きな細胞集団を得ることができる。したがって、本発明に従って得ることのできる細胞は、それらの増殖能において優れている。
凍結
細胞を、標準的な手順に従って、凍結、例えば液体窒素中で瞬間凍結させることができる。このような凍結細胞を溶かし、例えば溶かした後にそれらをさらなる継代培養にかけることも十分に可能である。凍結は、バッチ全体で又は分注してのいずれかで行なってもよい。
本明細書において、細胞を、特定の継代まで、例えばP4まで増殖させると言う場合、それは、細胞の増殖を、そのそれぞれの継代後に、さらに継続しないか又は中断することを意味する。例示的であるが典型的な実施態様は、細胞を、それぞれの継代後に凍結させることである。反復継代後の反復凍結が可能である。例えば、細胞を、P2後及び/又はP4後に凍結させ得る。好ましくは、細胞をP2後及びP4後に凍結させる。
凍結細胞及び凍結細胞集団も本発明の主題である。凍結細胞集団は、セルバンクと称され得る。本発明の脈絡において得ることのできる適切なセルバンクは以下に記載されるだろう。
1つの実施態様では、細胞を、5〜30回の累積集団倍加数後(P0の最中の累積集団倍加数は計数しない)、例えば8〜25回の累積集団倍加数後(P0の最中の累積集団倍加数は計数しない)に凍結させる。1つの好ましい実施態様では、細胞を、5〜14回のみの累積集団倍加数後(P0の最中の累積集団倍加数は計数しない)に凍結させる。この実施態様は、第一セルバンクの作成に適している。代替的な好ましい実施態様では、細胞を14〜25回の累積集団倍加数後(P0の最中の累積集団倍加数は計数しない)に凍結させる。この実施態様は、第二セルバンクの作成に適している。
哺乳動物細胞、特に間葉系細胞を凍結させるための標準的な方法は、本発明に従って得られた細胞を凍結させるのに適している。好ましくは、該細胞を−70℃以下(例えば−80℃)の温度で凍結させ、場合により−190℃以下の温度での瞬間凍結を先に行なう。1つの実施態様では、該細胞を液体窒素中で凍結させる。
凍結細胞は、任意選択であるが好ましくは、凍結形で保存され得る。哺乳動物細胞、特に間葉系細胞を保存するための標準的な方法は、本発明に従って得られた細胞を保存するのに適している。バイアル中で細胞を凍結させることが好ましい。1つの実施態様では、凍結細胞を液体窒素中で凍結させる。
好ましい実施態様では、細胞は、凍結前に分注される。本発明に従って得ることのできる細胞の分注液を含有させるのに適した容器は、それぞれの量(分注液)の細胞を受容するのに適した、及び低温で保存するのに適した全ての容器、特にバイアルである。バイアル(小瓶としても知られる)は、液体を保存するのに適した、小さなガラス製又はプラスチック製の容器又は瓶である。本発明に適したバイアルの性質は、該バイアルが示された通りに細胞を培地中に含有させることを可能とする限り、該細胞がその後の解凍及び継代培養を可能とする状態を維持する条件で凍結されることに適している限り、特に限定されない。したがって、その目的のために、該バイアルは、冷凍庫に適応性でなければならない(クライオバイアル)。バイアルは、任意の適切な材料から作製されてもよいが、ガラス製バイアル及びポリプロピレンなどのプラスチック製のバイアルが最も典型的である。バイアルは閉めることができ、その目的のためにそれは典型的には蓋を有し、本発明による使用に適したクライオバイアルは、好ましくは−196℃以下の温度での凍結に適している。蓋の選択肢としては、スクリューバイアル(スキュリューキャップ又はドロッパー/ピペットを用いて閉める)、リップバイアル(コルク又はプラスチックの栓を用いて閉める)、及びクリンプバイアル(ゴム栓及び金属キャップを用いて閉める)、又はプラスチックバイアルの場合には、押されるとパタンと閉じる「ヒンジキャップ」(スナップキャップ)が挙げられる。バイアルの底は好ましくは平坦であるが、しかしながら、これは厳密な必要条件ではない。好ましくは、1つの所与の単離/増殖プロセスに使用される全バイアルは、互いに全て同一であり、同一容量の細胞含有液(培地中の細胞、典型的には懸濁液中の細胞であるが、これは必要条件ではない)で満たされている。
好ましいバイアルは、培地中(典型的には懸濁液中であるが、これは必要条件ではない)に2〜10mlの細胞、例えば培地中に3〜8mlの細胞、最も好ましくは培地中に約4mlの細胞を含有することに適したサイズを有する。好ましいバイアルは、培地中に106〜109個の細胞、例えば培地中に10×106〜100×106個の細胞、最も好ましくは培地中に約20×106個の細胞を含有させるに適したサイズを有する。
凍結及び/又は保存された細胞は、任意選択であるが好ましくは解凍され得る。解凍後、細胞を場合により、増殖をはじめとするさらなる培養(継代培養)にかけ得る。特に間葉系細胞を解凍及び場合により継代培養するための標準的な方法は、本発明に従って得られた細胞を解凍するのに適している。さらなる培養又は継代培養のために、増殖培地などを含む本明細書に記載の方法が適している。
好ましい実施態様では、細胞を、第2継代(P2)後に凍結させる。P2後に得られ凍結させた細胞は本明細書において、「第一セルバンク(Primary Cell Bank)」すなわち「PCB」又は代替的には[マスターセルバンク]と称される。1つの好ましい実施態様では、第一セルバンクは、5〜14回の累積集団倍加数(P0の最中の累積集団倍加数は計数しない)後に凍結させた細胞を含むか又はからなる。
別の好ましい実施態様では、細胞を第4継代(P4)後に凍結させる。P4に得られ凍結させた細胞は本明細書において、「第二セルバンク(Secondary Cell Bank)」すなわち「SCB」又は代替的には「ワーキングセルバンク」と称される。好ましい実施態様では、第二セルバンクは、14〜25回の累積集団倍加数(P0の最中の累積集団倍加数は計数しない)後に凍結させた細胞を含むか又はからなる。
好ましくは、第一セルバンクの実施態様と第二セルバンクの実施態様は連結され、よって、細胞をまず第一セルバンクとして凍結し、その後、続いて、第一セルバンクの全部又は一部が解凍及び継代培養され、その後、第二セルバンクが、2回のさらなる継代後に得られる(合計するとP4)。好ましくは、P2後に得られ凍結させた全ての細胞が、例えば第一セルバンク全体が、一緒に解凍及び継代培養されるわけではない。むしろ、最も好ましくは、第一セルバンクとして得られ凍結させた1つの容器(典型的には1つのバイアル)が解凍及び継代培養されるが、他の容器(バイアル)は第一セルバンクとして凍結されたままである。
個々の継代への言及は、本明細書において指針の目的で示されていることを注記することは重要である。例えば、P2以外の継代後に第一セルバンクを調製することも可能である。P2後に第一セルバンクをP4後に第二セルバンクを調製することが好ましいのは、MSCBM CD基礎培地又はそれに実質的に等価な基礎培地に基づいた培地中、実験実施例(特に実施例2)に具体的に記載されている培養条件での増殖の経験に基づく。本発明の脈絡において同等に可能である、他の培養条件が使用される場合、第一セルバンク及び第二セルバンクは、本明細書の実験実施例、特に実施例2Cにおける、P2及びP4の後にそれぞれ観察された累積集団倍加数に相当する累積集団倍加数後に、理想的に調製される。
個々の細胞の単離(所望である場合)は、例えば、増殖前又は増殖後の連続希釈によって成し遂げられ得る。このような単離が特に実施されない場合、本発明の方法により、間葉系間質細胞集団が得られる。以下に記載されているように、収量は、以前に公知である方法と比較して、とりわけ、本発明による細胞の優れた生存率及び増殖特性の観点から、比較的高い場合がある。
収量
工程(c)を含む、本発明による方法により、間葉系間質細胞集団が得られる。このような間葉系間質細胞集団が本明細書に記載されている。好ましくは、本発明の方法は、血球の欠けた細胞集団を提供する。本発明の方法において得られた細胞集団のさらなる態様は、本発明の第三の態様に記載されている。
好ましい実施態様では、本発明による増殖中に得られた細胞を分注し、場合により凍結させる。細胞を分注し凍結させる適切な時点は、いずれかの継代の完了、及び続く酵素的剥離(例えばトリプシン処理)、遠心分離、及び増殖培地中への再懸濁の後である。このようにして得られ凍結によって保存された、好ましくは分注して保存された、細胞(細胞集団)も、セルバンクと称され得る。
1つの好ましい実施態様では、細胞をP2後に凍結させる。このようにして得られ好ましくは分注して凍結によって保存された細胞(細胞集団)も、第一セルバンクと称され得る。1つの好ましい実施態様では、第一セルバンクは、5〜14回の累積集団倍加数(P0の最中の累積集団倍加数を計数しない)後に凍結させた細胞を含むか又はからなる。
1つの追加的であるが互いに排他的ではない好ましい実施態様では、細胞をP4後に凍結させる。このようにして得られ好ましくは分注して凍結によって保存された細胞(細胞集団)も、第二セルバンクと称され得る。好ましい実施態様では、第二セルバンクは、14〜25回の累積集団倍加数(P0の最中の累積集団倍加数を計数しない)後に凍結させた細胞を含むか又はからなる。
それぞれのセルバンクからこのようにして得られた凍結させた分注液は、所望の時点で個々に解凍するために利用可能である。換言すれば、同時点でセルバンクの全ての分注液を解凍する必要はない(典型的には望ましくない)。これに対し、分注すること及び分注液を個々に凍結することは、個々の分注液を、凍結から解除し、解凍し、個々に及び個々の所望の時点でさらなる培養(継代培養、さらなる増殖)にかけることができるという利点を提供する。
ヒト臍帯から出発し、工程(c)を含み、P2継代まで実行する、フルスケールの実行により典型的には、少なくとも1×109個の細胞、より好ましくは少なくとも2×109個の細胞、より好ましくは少なくとも3×109個の細胞、より好ましくは少なくとも4×109個の細胞、より好ましくは少なくとも5×109個の細胞、より好ましくは少なくとも6×109個の細胞、より好ましくは少なくとも7×109個の細胞、より好ましくは少なくとも8×109個の細胞、より好ましくは少なくとも9×109個の細胞、いくつかの実施態様では少なくとも10×109個の細胞の第一セルバンク(PCB)が得られる。1つの好ましい実施態様では、第一セルバンクは、5〜14回の累積集団倍加数(P0の最中の累積集団倍加数を計数しない)後に凍結させた細胞を含むか又はからなる。
しかしながら、本発明の細胞の優れた増殖特性により、該細胞を、P2を十分に超えて培養することができる。これは、P2の最中に得られた細胞のいくつか又は全部を、酵素的剥離(例えばトリプシン処理)後に、その後の継代(P3)へと継代させることによって、あるいは、P2後に第一セルバンクを作成し、その後、所望の時点で第一セルバンクからの1つ以上の細胞のバイアルを解凍し、これによりその後の継代(P3)を開始することによってのいずれかにより行なわれ得る。いずれにしても、P3の後に、1回以上の追加の継代が続き得、場合により第二セルバンクを、例えばP4後に作成し得る。優れた増殖特性に因り、より後の継代、例えばP4の後の総細胞数は、通常、P2後の総細胞数よりも有意に高く、この典型的な収量は上記に示されている。例えば、P4後に、細胞の全収量は、P2後の少なくとも10倍であるが、より典型的にはP2後の、ついに100倍から少なくとも1000倍であり得る。いくつかの実施態様では、P4後に、全収量は、1回のフルスケールの実行について、少なくとも10×1012個の細胞であり得る。場合により、第二セルバンクは、P4後に調製される。好ましい実施態様では、このような第二セルバンクは、14〜25回の累積集団倍加数(P0の最中の累積集団倍加数を計数しない)後に凍結させた細胞を含むか又はからなる。
収量は、場合により、例えばP5継代及びそれを超えるさらなる継代培養によってさらに増加させ得る。
分化能
本発明の細胞の能力は、実験的に評価され得る。一般的に、これは、条件(この条件下では1つ以上の特定の細胞型への分化が優先される)に細胞にかけることによってなされる。
好ましくは、工程(c)の後に得られた細胞(群)は少なくとも多能性であり、場合により全能性である。典型的な実施態様では、工程(c)の後に得られた細胞(群)は多能性である。多能性は、当技術分野において一般的に公知であるような分化アッセイによって試験され得る。特殊な条件下で、多能性細胞は、組織(脂肪細胞生成性、軟骨形成性、及び骨形成性)へと分化するだろう。実施例12、13及び14は、本発明による細胞がこのような能力を有することを示す。特殊な条件下では、該細胞は、異なる組織(脂肪細胞生成性、軟骨形成性、及び骨形成性)の組織へと分化するだろう。好ましくは、本発明の方法によって得ることのできる多能性細胞は、以下の分化能の少なくとも全てを有する:(a)脂肪細胞生成能;(b)軟骨形成能;(c)骨形成能、実施例12、13及び14は、本発明による細胞がこのような能力を有することを示す。これらの実施例、特に実施例12では、本発明の間質ワルトン膠様質由来細胞の急速な増殖にも関わらず、分化を可能とする特殊な条件が記載されている。
場合により、該細胞は、間葉系間質細胞に典型的な分化能から選択されたさらなる分化能を有する。しかしながら、間葉系間質細胞では典型的であるように、本発明の細胞は典型的には全能性ではない。
しかしながら、本発明の細胞は、典型的には全能性ではない。それにも関わらず、該細胞を場合により、遺伝子操作及び/又は核初期化にかけることができ、これにより分化能が影響を受ける可能性がある。
本発明の他の態様との関連
本発明の方法によって、細胞を、本発明の第二の態様に詳述されているように得ることができる。本発明の方法によって、細胞集団を、本発明の第三の態様に詳述されているように得ることができる。例えば、本発明の方法によって、セルバンクを得ることができる。1つの実施態様では、セルバンクを、本発明の第一の態様による方法によって得ることができる。その実施態様では、本発明の方法の工程(c)の後に、場合により、細胞を分注する工程(d)及び細胞を保存する工程(e)が続く。該細胞を、任意の適切な条件で保存することができるが、180℃以下の温度での凍結が最も典型的である。細胞を、凍結させ得、好ましくは液体窒素中で瞬間凍結させ得る。凍結保護剤を、凍結前に添加してもよい。
本発明の態様は、互いに関連しているので、第二及び第三の態様に関して記載された実施態様はまた、第一の態様に読み込まれ得、逆もそうである。例えば、本発明の第二の態様に記載のような、発現プロファイリング又は表面マーカーの決定によって、内皮マーカータンパク質が実質的に存在していないことを示すことによって、本発明の第一の態様による方法の態様、すなわち上皮の除去が適切に実施されたことを実験的に確認することができる。
本発明の第一の態様の方法によって得ることのできる細胞集団は、さらに下の本発明の第三の態様に記載のような細胞集団であることが特に好ましい。また、本発明の第一の態様に従って細胞を得るための方法により、本発明の第二の態様に記載のような細胞が得られることが特に好ましい;したがって、本発明の第二の態様による細胞を特徴付けるとして本明細書に記載の全ての実施態様及び特色もまた、本発明の第一の態様に従って細胞を得るための方法を特徴付けるのに適している。また、本発明の第一の態様の方法によって得ることのできる細胞が、以下のような、本発明の第二の態様に記載のような細胞であることが特に好ましい。
間葉系間質細胞
第二の態様では、本発明は、間葉系細胞に関する。より正確には、間葉系細胞は間葉系間質細胞(MSC)である。細胞の特色及び実施態様は、以下に記載されるだろう。
以下に記載されるであろう、本発明による細胞のいくつかの特色及び実施態様は、本発明の細胞の物理的特徴に関連している。単に説明のために、本明細書の何処かに開示された詳細にも関わらず、物理的特徴としては、物理的方法を用いて直接決定することのできるそうした特徴、例えば、細胞の遺伝子発現、サイズ、形状などが挙げられる。以下に記載されるであろう、本発明による細胞のいくつかの特色及び実施態様は、本発明の細胞を得ることのできる又は得られる方法に関連している。単に説明のために、本明細書の何処かに開示された詳細にも関わらず、本発明の細胞を得ることのできる又は得られる方法に関連している細胞の特徴は、(a)細胞の解剖学的起源、特に臍帯及びその好ましい区画としての間質ワルトン膠様質、(b)細胞の単離に適用される条件、及び任意選択であるが好ましくはまた(c)細胞の増殖に適用される条件を含み得る。
単離された細胞
好ましくは、本発明による細胞は、単離された細胞、特に単離された間葉系間質細胞である。特に、本発明の間葉系間質細胞は好ましくは、臍帯の血管間領域(図解については図1を参照)を起源とする単離された間葉系間質細胞であるか、又はこのような細胞から誘導される。単離された間質細胞を、本明細書に記載のような単離を含む方法によって間質から得ることができる。細胞を、増殖によってこのような細胞から誘導することができる。したがって、一般的には、所与の細胞が別の細胞「から誘導される」と言う場合、それは、所与の細胞が、増殖(細胞分裂)及び/又は分化によって他の該細胞から派生したことを意味する。
1つの実施態様では、細胞は、ヒト又は動物の生体外に位置する単離された細胞である。単離された細胞は、一般的に、その生理的なインビボでの環境外の細胞である。好ましくは、該細胞は生体外の細胞である。特に、生体外の細胞は好ましくは、臍帯の外に位置している。特に、生体外の細胞は好ましくは、直接的な接触であれ間接的な接触であれ、血管と接触していない。1つの実施態様では、生体外の細胞は、培養容器中にある。1つの実施態様では、生体外の細胞は、保存に適した容器中に、例えばバイアル中にある。1つの実施態様では、生体外の細胞は、約35℃〜39℃の温度で、好ましくは培養容器中にある。1つの実施態様では、生体外の細胞は、凍結保存に適した容器中に、例えばクライオバイアル中に、好ましくは−180℃以下の温度である。1つの実施態様では、生体外の細胞は、培養容器中にある。1つの実施態様では、生体外の細胞は、代謝的に活動的な細胞である。1つの実施態様では、生体外の細胞は凍結されている。
1つの実施態様では、該細胞は、ヒト臍帯の細胞に通常見られない、少なくとも1つの(構造的又は機能的)特色によって特徴付けられる。例えば、このような特色は、本発明の方法を得ることのできる方法に特殊な特色であり得る。このような構造的又は機能的特色は、本開示に明記されている特色から、及び/又は、本開示に明記されていないが本発明の細胞に固有の、例えば本発明の方法によって得ることのできる細胞に固有の、特色から選択され得る。1つの実施態様では、該細胞は、接着している細胞であり、例えばプラスチック底面を有する培養容器などの培養容器に接着している。
本発明に従って単離された間質細胞は、培養によってインビトロで増殖させることができる。それにより誘導された細胞を得ることができる。誘導された細胞も、それが、本発明の細胞を規定する特許請求された特徴に準拠している限り、本発明の細胞である。したがって、本発明の細胞の幹細胞様特性に因り、本発明は、多数の世代の細胞を網羅することができる。多数の世代は、本明細書に記載のような増殖によって得ることができる。実際に、本発明による細胞の具体的な実施態様は、生体外での細胞の増殖を含む。したがって、細胞は単離されているが、それは、同じ又は類似した細胞の子孫を生じることができ、したがって、細胞集団を生成することができる。このような細胞集団は、本発明の第三の態様に記載されている。適切な培養条件は特に限定されないが、本発明の第一の態様に記載されているものを含む。
酵素的処理を含む、細胞を単離するための適切であるが非限定的な方法は、本明細書の本発明の第一の態様の脈絡において記載されている。個々の細胞の単離(所望である場合)を、例えば連続希釈によって成し遂げることができる。したがって、好ましくは、本発明の細胞は、生体外の環境、例えばインビトロでの細胞である。本発明の第一の態様に関連して記載されている方法をはじめとする、インビトロで細胞を培養するための様々な方法が、当業者によって実施され得る。
一般的に、間葉系間質細胞は、様々な組織、例えば骨髄、脂肪組織、及び臍帯から派生することができる。好ましくは、本発明による細胞は、臍帯から、より好ましくは臍帯の間質ワルトン膠様質から派生するか又は誘導される。しかしながら、本発明の細胞は、臍帯血から誘導されない。該細胞はまた、上皮細胞でも内皮細胞でもない。
1つの実施態様では、本発明の細胞は新たに単離された細胞である。新たに単離された細胞は、例えば上記の方法による、該細胞が起源とする組織からの単離によって直接得られた細胞である。しかしながら、より好ましくは、本発明の細胞は、新たに単離された細胞から誘導された、最も典型的にはインビトロによる増殖によって誘導された細胞である。新たな細胞の単離後の、インビトロにおける継代数又は累積集団倍加数自体に制限は全くないが;しかしながら、典型的には本発明の細胞は、新たに単離された細胞から、12回以下の継代をかけた又は等価な累積集団倍加数をかけた、インビトロでの増殖により誘導される。一般的には、特許請求されている制限に準拠する全ての細胞が、起源とする組織からの新たな単離後にそれが得られた継代数又は累積集団倍加数に関係なく、本発明による細胞である。
間葉系間質細胞では一般的であるように、本発明の細胞は典型的には、培養容器、特にプラスチック底面を有する培養容器中で増殖させた場合に、接着している細胞である。したがって、1つの実施態様では、本発明の間葉系間質細胞は、表面に接着した細胞、特にインビトロでプラスチックに接着した細胞である。所望であれば、プラスチックに接着した細胞は、培養容器から、例えばトリプシン処理によって剥離させることができる。それにより、接着していない細胞を得ることができる。本発明はまた、このような接着していない細胞も含む。
1つの実施態様では、本発明の間葉系間質細胞は、紡錘形である。これは、通常、間葉系間質細胞が培養容器、例えばプラスチック底面を有する培養容器に接着している場合に当てはまる。特に、間葉系間質細胞集団では、大半が、例えば細胞数にして50%以上が、通常は、特にインビトロでプラスチック表面に接着している場合には、紡錘形である。
本発明の細胞が接着していない場合、例えば、該細胞が酵素的に剥離している、例えばトリプシン処理されている場合、例えばそれが第一又は第二セルバンクに場合により凍結して存在している場合、該細胞は通常、紡錘形ではない。したがって、紡錘形は、培養条件下での表面への接着に特に関連している。
1つの実施態様では、本発明の細胞は、本発明の第一の態様に記載の方法によって得ることができる。その実施態様では、本発明の細胞は、新たに単離された細胞、すなわち生体外での増殖にかけられていない細胞、又は増殖させた細胞、すなわち、以前に新たに単離された細胞の生体外での増殖によって得ることのできる細胞から適切に選択される。
遺伝子発現及び表面抗原提示
本発明による細胞は、遺伝子発現パターンによって特徴付けられ得る。本明細書において使用する「遺伝子発現パターン」は、少なくとも1つの遺伝子が、発現されているか、又は発現されていないか、又は場合によっては特定のレベルで発現されていることを意味する。したがって、この特定の遺伝子が、発現されているか、又は発現されていないか、又は特定のレベルで発現されているという事実は、例えば基準細胞から区別する目的のために、本発明による細胞を特徴付ける。同じことが、1個を超える遺伝子、例えば2個の遺伝子、3個の遺伝子、4個の遺伝子、5個の遺伝子、6個の遺伝子、7個の遺伝子、8個の遺伝子、9個の遺伝子、10個の遺伝子などの発現に当てはまる。本発明の細胞が、1つ以上の遺伝子の発現によって特徴付けられる場合、その脈絡において記載されていないいずれかの他の遺伝子の発現に関する具体的な記述を作成することは望ましくない。実例として、本明細書において、本発明の細胞がAPCDD1を発現すると言う場合にはいつでも、特記されない限り、これは、いずれかの特定の他の遺伝子も発現されているか、又は発現されていないか、又は特定のレベルで発現されているという記述として捉えられるべきではない。
一般的には、遺伝子の発現は、様々な方法によって、核酸レベル及びタンパク質レベルの両方に関して試験され得る。遺伝子発現は、分子生物学、生化学、及び細胞生物学において比較的一般的に試験され得、公知であるか又はその適切な任意の方法を、本発明の脈絡において使用し得る。いくつかの方法が以下に記載されている。遺伝子発現に関する方法はまた、トランスクリプトーム法とも称され得る。したがって、細胞の遺伝子発現プロファイルは、トランスクリプトームとも称され得る。1つの実施態様では、本発明の細胞は、その遺伝子発現プロファイルによって特徴付けられる。
様々な用語を使用して、遺伝子の発現が分析されていることを記載することができる:例えば、発現は、試験される、分析される、評価される、アッセイされる、測定される、決定されるなどと言うことができる。これらの用語は、定性的決定(すなわちそれぞれの遺伝子が発現されているか否かの疑問)及び定量的決定(すなわちどのレベルでそれぞれの遺伝子が発現されているかの疑問)の両方を含む。
典型的には、遺伝子発現の決定のために、1つの細胞又は複数の細胞(これが好ましい)の試料が細胞集団から採取され、その試料中の遺伝子発現が続いて分析され、これによりその試料中の細胞が、場合によっては破壊されたり又は破壊されない可能性がある。本発明による細胞集団は、通常、均質であるので(このことは、その中に含まれる実質的に全ての個々の細胞が、はるかに似ているか又は類似していることを意味する)、細胞集団から採取された試料(それぞれの試料)に含まれる細胞における遺伝子発現に関する知見は通常、特記されない限り及び/又は細胞集団が実質的に均質であるように見える限り、その集団中の残りの細胞にも当てはまる。
任意のそれぞれの遺伝子の発現の決定は、方向性のない決定(すなわち遺伝子の発現は、1つの遺伝子に焦点を当てることなく、一般的に(例えばマイクロアレイなどの広範なアプローチによって)アッセイされる)、又は、方向性のある決定(ここではそれぞれの遺伝子が発現されているかどうかが具体的に試験される)のいずれかであり得る。2番目の場合には特に、それぞれの遺伝子はまた「関心対象の遺伝子」であると言われ得る。
いくつかのトランスクリプトーム技術を使用して、遺伝子発現分析のためのデータを作成することができる。例えば、DNAマイクロアレイは、以前に同定された標的遺伝子の相対活性を測定する。RNAシークエンスなどの配列に基づいた技術は、それらの発現レベルに加えて遺伝子の発現に関する情報を提供する。
本発明の細胞は、胎盤保有動物、好ましくは哺乳動物、好ましくは霊長類、より好ましくはヒトに由来する細胞である。したがって、1つの実施態様では、本発明の間葉系間質細胞(MSC)は哺乳動物細胞である。それ故、特記されない限り、特定の遺伝子に対する全ての指摘は、それぞれの哺乳動物遺伝子を意味する。
より好ましくは、本発明の間葉系間質細胞は、霊長類、より特定するとヒトに由来する細胞である。したがって、より好ましくは、本発明の間葉系間質細胞(MSC)はヒト細胞である。それ故、その実施態様では、特定の遺伝子に対する全ての指摘は、それぞれのヒト遺伝子を意味する。いくつかの場合では、例えばヒト白血球抗原(HLA)の場合などは、これは、内容からすぐに明らかであり、他の場合では、これは、内容において特に言及されていないが;しかしながら、それは明らかである:例えば、ヒト細胞に関して、APCDD1の発現は、ヒトAPCDD1の発現を意味するなどである。本発明の細胞は、1つの好ましい実施態様では、ヒト細胞であり、その実施態様における本発明の細胞がヒトAPCDD1を発現していることが好ましい。
好ましくは、本発明の細胞は、トランスジェニック細胞ではない。それ故、その実施態様では、特定の遺伝子の発現に関する全ての指摘は、それぞれの遺伝子が、コードされているゲノムから、より具体的にはメンデルの法則を通してコードされているゲノムから発現されることを意味する。しかしながら、いくつかの代替的な実施態様では、本発明の細胞はトランスジェニック細胞である。
好ましくは、少なくともデュプリケートの試料における、好ましくは少なくともトリプリケートの試料における、遺伝子発現が試験される。場合によっては、試験にかけられる細胞は破壊され、無菌ではない条件に曝されるか又はさもなくば分析の一部として損傷を受け、培養に使用することができない;それにも関わらず、これらの破壊されているか、曝されているか、又はさもなくば損傷を受けている細胞から得られた情報は、特に細胞が均質な細胞集団から派生した場合には、依然として価値があり;このようにして得られた情報、特に遺伝子発現情報は、破壊されているか、曝されているか、又はさもなくば損傷を受けている分析される細胞にだけでなく、それぞれの分析される細胞が起源とする集団中のさらに他の細胞にも適用されることが妥当にも想定され得る。それは、細胞集団それ自体、又はこのような細胞集団に含まれる任意の個々の細胞の両方に当てはまると想定され得る。この脈絡における均質性は、実質的に全ての細胞がはるかに似ているか又は類似していることを意味する。
試料は単一細胞からなり得るか、又は、試料は代替的には複数の細胞を含み得る。試料中に含まれる総細胞数には厳密な上限はないが;しかしながら、数は典型的には、細胞集団に含まれる総細胞数よりもはるかに少なく;例えば、それは、細胞集団に含まれる細胞の量に対して、1/100以下、1/1,000以下、1/10,000以下、1/100,000以下、1/1,000,000以下である。
非常に一般的に言って、遺伝子の発現は、直接的に、例えば典型的には、特定のメッセンジャーRNA(mRNA)又はその前駆体若しくはその分解産物などの遺伝子産物の存在及び(必要であれば又は所望である場合)レベルの決定を含む、分子生物学的方法によって試験され得るか;又は、代替的には、遺伝子の発現は間接的に、例えば典型的には、特定の遺伝子によってコードされるタンパク質、例えば特定の細胞表面タンパク質又はその前駆体若しくは分解産物の存在及び(必要であれば又は所望であれば)レベルの決定を含む、生化学的方法によって試験され得る。本発明の細胞の特徴付けに適した表面タンパク質としては、特に表面抗原分類(CD)が挙げられる。
遺伝子の発現を試験するための任意の公知の方法も本発明に使用し得る。適切な方法としては、遺伝子発現プロファイリング、ポリメラーゼ連鎖反応、例えばPCR、例えば好ましくは定量PCR(qPCR)(RT−qPCRを含む)、転写産物のシークエンス、任意の種類のトランスクリプトーム分析、及びその他の方法を含むがこれらに限定されない、リストから選択された方法が挙げられる。核酸レベルで、好ましい方法としてはマイクロアレイ及びqPCRが挙げられる。
1つの実施態様では、遺伝子発現は、遺伝子発現プロファイリングによって決定される。分子生物学の分野では、遺伝子発現プロファイリングは、いくつかの、しばしば数千個の遺伝子の発現を、典型的には全て一度で測定し、これにより、細胞遺伝子発現の全体図を作成することを指す。例えば、遺伝子発現プロファイリングは、いくつかの、典型的であるが必ずしも必要ではない数千個の遺伝子の発現を一度に測定し、これにより細胞の全体図を作成する。遺伝子発現プロファイリングは、例えば、本発明の細胞と他の細胞とを識別することができる。全ゲノムの発現を、すなわち、特定の細胞内に存在する全ての遺伝子を同時に決定することさえも可能である。この種類の多くの実験は、全ゲノムを、すなわち、特定の細胞内に存在する全ての遺伝子を同時に測定する。いくつかのトランスクリプトーム技術を使用して、分析に必要なデータを作成することができる。マイクロアレイが、本発明のいくつかの実施態様において好ましい。マイクロアレイは、関心対象の1つ以上の遺伝子、例えばAPCDD1をはじめとする、遺伝子の相対的発現を決定する。いかなる特定の理論にも拘りたくはないが、現在、遺伝子発現プロファイリングは、1回の実験で遺伝子発現の最も可能性の高い全体図を提供することが理解される。
一般的には、マイクロアレイは、遺伝子発現プロファイリングに適した方法である。実際に、マイクロアレイは好ましくは、本発明のその目的の為に使用される。一般的に公知であるように、マイクロアレイは、ある特定の遺伝子が、例えば先行技術に記載されているように調製された細胞と比較して、細胞内において発現差を有しているか否かを示す。マイクロアレイは市販され、本発明の脈絡において使用され得る。
1つの実施態様では、遺伝子発現は、ハイスループット実験で決定される。代替的な実施態様では、遺伝子発現は、ハイスループットではない実験で、例えば1つの特定の遺伝子に指向された特定の実験で決定される。1つの実施態様では、遺伝子発現は、ハイスループット実験において及びハイスループット実験ではない実験においての両方で決定される;このような場合、ハイスループットが典型的には最初に実施され;ハイスループット実験ではない実験は続けてより後の段階で実施されることにより、例えば、ハイスループット実験の知見を確認する。例えば、マイクロアレイ(ハイスループット)に続いて、例えば、特定の遺伝子の発現の検証又は確認の目的のために、qPCR(ハイスループットではない)が行なわれ得る。
次世代シークエンス(NGS)のようなハイスループットシークエンスをはじめとする、配列に基づいた技術を使用して、本発明における遺伝子発現を決定することができる。例えば、RNA−Seq(RNAシークエンス)は、全トランスクリプトームショットガンシークエンスとも呼ばれるが、これはそれらの発現レベルに加えて遺伝子の配列に関する情報も提供することができる。RNA−Seqは、次世代シークエンス(NGS)を使用して、所与の瞬間における生物学的試料中のRNAの存在及び量を明らかとする。1つの実施態様では、遺伝子発現は、RNA−Seq又はPCR及びその任意の変化形のような、配列に基づいた技術で決定される。
例えばマイクロアレイにおける、例えば遺伝子発現プロファイリングによって明らかとなるような、いくつかの又は全ての遺伝子の発現をその後、定量逆転写PCR(qRT PCR)によって確認することができる。
一般的に公知であるように、定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイムPCR)としても知られる)は、核酸の量を決定するのに適した、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づいた実験法である。特に、転写物(例えばmRNA)の量を決定するために、好適な方法は、定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT−PCR)である。ノザンブロットなどの他のRNA定量法と比較して、qRT−PCRは通常、RNAレベルの検出のための最も強力で感度が高く定量的なアッセイであると考えられ、それ故、それは本発明において好ましい。qRTPCRはまた遺伝子発現の決定において、例えば蛍光一次抗体又は蛍光二次抗体を用いての免疫装飾(immunodecoration)及びフローサイトメトリーによるなどの免疫検出などの、タンパク質レベルに関する遺伝子発現産物の間接的な決定よりも、はるかに感度が高い。qRT PCRは典型的には、それぞれの核酸に対する特異的なプライマーを必要とし、しかしながらその配列は、通常、例えばヒト遺伝子については配列データベースを通して入手可能であるか、又は、このような情報に基づいて当業者によって設計され得る。qRT−PCRのための市販のキット及び機械は入手可能であり、これらを本発明において使用することができる。qRT PCRにおける遺伝子発現の決定のための鋳型(「標的」とも称される)としての役目を果たす核酸は、転写産物、典型的にはmRNAである。
qPCRは通常、合計35〜45回の連続サイクル、より好ましくは38〜42回のサイクル、最も好ましくは40回のサイクルで実行される。全サイクル数の完了後にさえ蛍光が全く観察されない場合には、標的核酸は、分析された試料中には存在しないと結論付けられる。
適切には、遺伝子発現は、qPCR(好ましくはqRT−PCR)によって決定され、これにより、関心対象の遺伝子の発現レベルが決定され、好ましくはハウスキーピング遺伝子の発現レベルと比較される。その目的を達成するために、好ましいハウスキーピング遺伝子はβ−アクチンである(例えば図8参照)。
当技術分野においては標準的であるように、qRT−PCRによって決定されるような遺伝子発現パターンは、Ct及びdCtによってそれぞれ示される:一般的には、qPCRにおいて、Ct(サイクル閾値)は、蛍光シグナルが閾値を横断する(すなわちバックグラウンドレベルを超える)のに必要とされるサイクル数として定義される。一般的には、Ct値は、試料中のそれぞれの(標的)核酸の量と反比例している(すなわち、Ct値が低ければ低いほど、試料中のそれぞれの(標的)核酸の量は多くなる)。Ctは、1つの遺伝子の発現に対して特異的である。ΔCt(dCt)は、2つの遺伝子間の、通常、関心対象の遺伝子とハウスキーピング遺伝子(例えばβ−アクチン)との間の発現差を示す(例えば図8参照)。
好ましくは、本発明の細胞は、間葉系間質細胞に特異的な少なくとも1つの遺伝子を発現している。
本発明の細胞は、とりわけ、それがAPCDD1を発現していることを特徴とする。特に、該細胞はAPCDD1を発現している。本発明者らは、本発明による間葉系間質細胞に特異的な遺伝子が、APCDD1及びPPARG、並びに場合によりFLVCR2を含むがこれらに限定されないリストに含まれることを発見した。より好ましくは、間質細胞に対して特異的な前記の少なくとも1つの遺伝子が、発現比に関して、ハウスキーピング遺伝子のβ−アクチンと比較して(すなわち、前記の少なくとも1つの遺伝子、対、基準細胞におけるβ−アクチン)高いレベルで発現されている。この表現型の一例は実施例8に示されている。
以前の文献は、血管周囲ではない間葉系間質細胞が、血管周囲間葉系間質細胞とは明確に異なるか否かに関して不確実であったが(例えば、Davies et al., Stem Cells Translational Medicine, 2017, vol. 6, p. 1620-1630)、本発明は、本発明に従って得られた間質ワルトン膠様質由来細胞が、血管周囲間葉系間質細胞とは明確に異なるというエビデンス(例えば実施例8)を提供する。
1つの実施態様では、遺伝子発現は、間接的に、すなわち、一次転写産物であるmRNA、又はその前駆体又はその分解産物の決定によってではなく、さらに下流にある特異的な産物の決定によって決定される。典型的には、さらに下流にある特異的な産物は、mRNAによってコードされているタンパク質である;しかしながら、それはまた、任意の他の特異的な産物、例えば、特定のタンパク質、例えば酵素的に活性なタンパク質の存在に対して特異的である代謝物であってもよい。
好ましくは、タンパク質の存在が決定される。より好ましくは、細胞表面上のタンパク質の存在が決定される。換言すれば、タンパク質が細胞表面上に提示されるかどうかが決定される。
細胞表面上に特定のタンパク質を提示している細胞を、例えば、免疫学的に活性な分子、例えば特異的な抗体及び他の免疫反応性分子によって分析することができる。「細胞表面」は本明細書において、当技術分野におけるその通常の意味に従って使用され、よって具体的には、タンパク質及び他の分子が近づいて結合しやすい細胞の外側を含む。タンパク質が、細胞の表面に少なくとも部分的に位置し、細胞に加えられた抗原特異的抗体などの抗原結合性分子が近づいて結合しやすいならば、該タンパク質は、該細胞表面上に提示されている。1つの実施態様では、細胞表面上に提示されているタンパク質は、抗体によって認識されることのできる細胞外部分を有する膜内在性タンパク質である。「細胞外部分」又は「細胞外ドメイン」という用語は、本発明の脈絡において、細胞の細胞外空間に面し、好ましくは、例えば、細胞外に位置する抗体などの結合性分子が該細胞の外側から近づきやすい、分子の一部、特にタンパク質の一部を意味する。好ましくは、該用語は、1つ以上の細胞外ループ又はドメイン又はその断片を指す。「部分」という用語が本明細書において使用され、これはアミノ酸配列などの構造の連続的又は不連続的な成分を指す。タンパク質配列の部分又は一部は好ましくは、タンパク質を構成するアミノ酸配列の少なくとも5個、特に少なくとも8個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも50個、又は少なくとも100個連続した及び/又は不連続なアミノ酸を含む。
抗体又は他の免疫反応性分子によって検出可能なタンパク質はまた抗原とも称され得る。いくつかの実施態様では、本発明の細胞は、1つ以上の特異的な抗原を提示することによって又は提示しないことによって特徴付けられ得る。本発明の脈絡において、このような抗原は好ましくは、細胞表面上に提示される。このような抗原はまた、「表面抗原」とも称され得る。その例は実施例7に提供されている。
細胞生物学の一般的な法則に則して、抗原が細胞表面上に提示されている場合、該抗原をコードしている遺伝子は細胞によって発現されている。それ故、細胞表面上に提示されている抗原の検出は、該抗原をコードしている遺伝子が発現されていることを示すための間接的な手段である。例えば、本明細書において細胞が、細胞表面上に提示されている抗原をコードしている特定の遺伝子を発現していると言う場合、該遺伝子の発現は、遺伝子発現産物(例えばmRNA)のレベルで直接的に試験され得るか、又は、細胞表面上に提示されているタンパク質のレベルで間接的に試験され得るかのいずれかである。厳密な意味での「発現する」という単語は、遺伝子が発現されていることを意味するが、「発現する」という単語はまた、該遺伝子によってコードされているタンパク質、特に細胞表面タンパク質が細胞上に提示されていることを説明し意味することもできる。
本発明によると、抗原は、発現レベルが検出限界を上回る場合、及び/又は、発現レベルが細胞に加えられた抗原特異的抗体による結合を可能とするのに十分な程高い場合に、細胞上に提示されている。本発明によると、抗原は、発現レベルが、検出限界未満である場合、及び/又は、発現レベルが低すぎて、細胞に加えられた抗原特異的抗体による結合を可能としない場合、細胞上には発現していないと言われる。好ましくは、細胞において発現される抗原は、該細胞の表面上に発現又は露出され、すなわち存在し、したがって、細胞に加えられた抗体又は他の免疫反応性分子などの抗原特異的分子による結合に利用可能である。場合によっては、例えば場合により標識された二次抗体などの、検出を助ける二次分子も加えられる。
抗体又は他の免疫反応性分子は、細胞上のエピトープを認識し得る。「エピトープ」という用語は、抗原などの分子内の抗原性決定基、すなわち、免疫系を認識し、すなわち免疫系に結合する、例えば、抗体又は他の免疫反応性分子によって認識される、分子内の一部又は分子の断片を指す。任意の特定の抗原に特異的なエピトープの検出により通常、特定の抗原が、分析される細胞上に発現されていることを結論付けることを可能とする。
1つの実施態様では、本発明の細胞は、免疫表現型検査によって特徴付けられ得る。「免疫表現型検査」は一般的に、抗原が細胞上に発現されているかどうかを決定するために、細胞に加えられた抗体又は他の免疫反応性分子などの抗原特異的分子によって、細胞を特徴付けることができることを意味する。免疫表現型検査は、フローサイトメトリーをはじめとする様々な方法を使用した細胞選別を含む。
免疫表現型検査のための好ましい方法はフローサイトメトリー、特にFACSである。分析物、特に細胞表面タンパク質は、通常、抗体又は他の免疫反応性分子を用いて認識される。抗体若しくは他の免疫反応性分子は、それ自体がフルオロフォアにより標識されているか、又は、その目的のために加えられた、フルオロフォアにより標識された二次抗体若しくは他の免疫反応性分子によって認識される。
本発明の脈絡における免疫表現型検査に適した好ましい分析物は、表面抗原分類(クラスター分類(cluster of designation)又は分類決定基(classification determinant)としても知られ、本明細書においてはCDと略称する)に属する分子である。CDは、細胞の免疫表現型検査による細胞表面分子の同定及び調査のために使用される用語である。本発明の細胞の実施態様を特徴付けるのに適した表面抗原分類のいくつかの例が本明細書に記載されている。特記されない限り、任意の表面抗原分類(CD)分子の発現に言及される場合、それぞれのCD分子の発現は好ましくは、免疫表現型分類によって決定されることを意図し;しかしながら、核酸レベルに関する決定も可能である。本明細書において、ヒト細胞に関する、特定のCD分子への言及は、ヒト白血球分化抗原に関するワークショップI〜IXによって割り当てられた定義による、それぞれの特定のCD分子を意味することを意図する。実施例7は、本発明による免疫表現型検査のための例示的かつ有用な説明を提供する。
他方で、特記されない限り、本開示において表面抗原分類(CD)分子又はそれをコードしている核酸ではない、任意の遺伝子の発現に言及される場合、それぞれの遺伝子の発現は好ましくは、核酸レベルで、好ましくは上述又は上記されている方法によって決定されることを意図する。
まず、本発明による間葉系間質細胞は、それが(a)APCDD1を発現していることを特徴とする。APCDD1の発現は好ましくは、遺伝子発現レベルで、最も好ましくはqRT PCRによって検出される。その一例を図8に示す。
いかなる特定の理論にも拘りたくはないが、APCDD1は、細胞の自己再生能にとって重要であると考えられ:遺伝子産物は以前、高いβ−カテニンレベルを維持することが示され、β−カテニンは、細胞、特に間葉系間質細胞の幹細胞性を保つ(Viale-Bouroncle et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2015 vol. 457, p. 314-317; Yu, Cell Transplant., 2017, vol. 26, p. 365-377)。実施例8に示されているように、本発明による細胞は、とりわけ、APCDD1の発現により、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞とは区別される。したがって、本発明によるAPCDD1発現細胞は、先行技術によって記載された間葉系間質細胞とは明らかに異なる。特に国際公開公報第2004/072273A号及びSarugaser et al., 2005, Stem Cells, vol. 23, p. 220-229を参照されたい。
しかしながら、本発明による間葉系間質細胞は、3G5を発現していない。3G5は、血管周囲細胞マーカーである。したがって、本発明の細胞は、血管周囲細胞ではない。それ故、好ましくは、本発明の細胞は、血管周囲細胞マーカーを全く発現せず、このマーカーは、同時に間葉系間質細胞及び/又は幹細胞のマーカーではない。
好ましくは、該細胞は、間質細胞に対して、より特定すると間葉系間質細胞に対して特異的な少なくとも1つの遺伝子を発現している。好ましくは、該細胞は、間質細胞に対して、より特定すると間葉系間質細胞に対して特異的な少なくとも1つの表面マーカーをその表面上に提示している。
1つの実施態様では、間質細胞に対して、より特定すると間葉系間質細胞に対して特異的な少なくとも1つの表面マーカーは、膜補因子タンパク質(CD46)、崩壊促進因子すなわちCD55、及びMAC(膜侵襲複合体)抑制タンパク質(CD59)を含むがこれらに限定されないリストから選択される。3つ全てのマーカーが、補体カスケードに関連していると以前に記載されている。図7Bに示されているように、本発明に例示された細胞は、これらのマーカーをその表面上に提示する。いかなる特定の理論にも拘りたくはないが、これらの中の1つ以上の表面マーカーが、インビボで補体により媒介される細胞溶解から細胞を防御するのに役割を果たすと考えられている。好ましくは、該細胞は、CD46、CD55、及びCD59の少なくとも1つ、より好ましくはCD46、CD55、及びCD59の中の少なくともいずれか2つ、最も好ましくはCD46、CD55、及びCD59の全てを発現している。本発明者らの知る限りでは、CD46、CD55、及びCD59は、特定の臍帯由来間葉系間質細胞において以前に記載されていなかったが、いくつかの細胞が、これらの中の1つ以上の表面分子を実際に発現していることを勿論除外できない。
好ましくは、本発明による細胞は、CD73を発現している。CD73はまた、エクト5’ヌクレオチダーゼとしても知られ、間葉系間質細胞(MSC)マーカーである。Dominici et al., 2006(Cytotherapy, vol. 8, p. 315-317)を参照されたい。
好ましくは、本発明による細胞は、CD105を発現している。CD105(エンドグリンとしても知られる)は、間葉系間質細胞(MSC)のさらに他のマーカーである。Dominici et al., 2006(Cytotherapy, vol. 8, p. 315-317)を参照されたい。
好ましくは、本発明による細胞は、CD90を発現している。CD90(Thy−1としても知られる)は、間葉系間質細胞(MSC)のさらに他のマーカーである。Dominici et al., 2006(Cytotherapy, vol. 8, p. 315-317)を参照されたい。
はるかに好ましい実施態様では、本発明による細胞は、CD105及びCD73の両方を発現している。上記の一般的な方法に加えて、これらの表面抗原分類は、例えばSH2抗体及びSH3抗体によって検出され得る(Horwitz et al., Curr. Opin. Hematol., 2006, vol. 13, p. 419-425)。通常、本発明による間葉系間質細胞は、CD105及びCD73の両方、並びに好ましくはCD90も発現している。したがって、CD105及び/又はCD73及び/又はCD73の発現は、いくつかの他の細胞から本発明の細胞を識別するのに適し得る。より好ましくは、該細胞は、CD105及び/又はCD73及び/又はCD73のいずれか1つ以上に加えて、CD46、CD55、及びCD59の少なくとも1つ、より好ましくはCD46、CD55、及びCD59の少なくともいずれか2つ、最も好ましくはCD46、CD55及びCD59の全てを発現している。
好ましい実施態様では、該細胞はさらに、PPARGを発現している。その一例を図8に示す。いかなる特定の理論にも拘りたくはないが、PPARG遺伝子産物は、特に骨組織への分化を防ぐために、細胞、特に間葉系間質細胞を多能性表現型に保つことができると考えられている。詳細については、例えばXu et al.(Curr. Stem Cell Res. Ther., 2016, vol. 11, p. 247-254)を参照されたい。
別の互いに排他的ではない好ましい実施態様では、該細胞はさらに、FLVCR2遺伝子を発現している。その一例を図8に示す。FLVCR2の略称は、ネコ白血病ウイルスサブグループC細胞受容体ファミリー、メンバー2を意味する。コードされているFLVCR2タンパク質は、カルシウム輸送体として機能する、主要なファシリテータースーパーファミリーのメンバーに由来する膜貫通タンパク質である。生物内のコードされているタンパク質は以前に、脳血管内皮細胞の発生に役割を果たす可能性があると記載されている。
好ましい実施態様では、該細胞はCD117を発現していない。CD117は、骨髄などにおける、特定の種類の造血(血液)前駆細胞に特異的な細胞表面マーカーである。本発明の細胞は血球ではなく、好ましくは骨髄細胞でもない。CD117はまた、いくつかの種類の癌にも関連し;しかしながら、本発明の細胞は通常、癌細胞ではない。換言すれば、発癌細胞は、本明細書において本発明の細胞と称されない。
本発明による細胞は好ましくはMHC Iを発現している。ヒト間葉系間質細胞の場合、ヒト細胞が、ヒト白血球抗原HLA−A、HLA−B、及びHLA−Cの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのいずれかの組合せ、最も好ましくは全てを発現していることが好ましい。
いくつかの実施態様では、本発明による細胞は、MHC IIを発現していないか、又はMHC IIを低いレベルで発現している。「低いレベル」は、発現レベルが、同じ個体に由来する抗原提示細胞、例えば同じ個体に由来する樹状細胞、単核食細胞、及びB細胞におけるよりも低いことを示す、相対的発現である。1つの実施態様では、該細胞は、MHC IIを実質的に発現していない。特に、ヒト間葉系間質細胞の場合、該細胞が、ヒト白血球抗原HLA−DP及び/又はHLA−DQのいずれか1つ以上を発現していないことが好ましい。場合によりまたHLA−DRも発現されていない;あるいは、HLA−DRが低いレベルで発現されている。これらのヒト白血球抗原(HLA)の発現がないこと、又は低いレベルでの発現は、本発明の細胞に免疫特権を引き起こし、これにより例えば、HLAの一致していない個体に由来する細胞との共培養、及び免疫系細胞を含む他の種に由来する細胞との共培養でさえも可能とする。これらのヒト白血球抗原の発現は、例えば、特異的な抗体を用いての表面染色によって、又はqRT PCRによって検査され得る。
1つの実施態様では、本発明の細胞は、表面マーカーCD34及び/又はCD45陰性である。このことは、該細胞がCD34及び/又はCD45を提示していないことを意味する。
1つの実施態様では、本発明の細胞は、プロスタグランジンE2(PEG2)を産生する。一般的に知られているように、プロスタグランジンE2(PGE2)は、ジノプロストンとしても知られているが、これは、Wntシグナル伝達経路の活性化因子として記載されている天然プロスタグランジンである(Goessling et al., Cell, 2009, vol. 136, p. 1136-1147)。いくつかの市販の製品、特にELISAキットを、PGE2産生の決定のために利用可能である。検出は、試料として、細胞上清若しくは細胞溶解液、又はその組合せのいずれかを使用して実施され得る。
1つの実施態様では、本発明の細胞は、1つ以上の幹細胞マーカーを発現している。このような幹細胞マーカーは、Oct−4及びNanogを含むがこれらに限定されないマーカーを典型的には含み得る。
細胞のサイズ
本明細書に記載の他の特色及び実施態様の他に、本発明による細胞は好ましくは、比較的小さなサイズによっても特徴付けられる。サイズは、例えば、細胞容積、細胞直径、若しくは細胞表面積によって、又は、細胞容積、細胞直径、若しくは細胞表面積に相関したパラメーターによって記載され得る。サイズはまた、前記のいずれかの組合せによって記載されてもよい。「比較的に」は、他の細胞との比較、特に他の入手源に由来する間葉系間質細胞及び/又は他の方法によって単離された他の細胞との比較を意味する。「他の入手源」は、他の解剖学的領域、例えば他の器官、例えば骨髄、しかしまた、臍帯の他の区画、例えば血管周囲帯域、及び任意の血管周囲ワルトン膠様質も意味する。
いかなる特定の理論にも拘りたくはないが、いくつかの実施態様では、より小さな細胞(例えば、より小さな直径を有する細胞及び/又はより小さな表面積を有する細胞)が細胞周期のより早い時期に存在すると考えられている。間葉系間質細胞の細胞周期状態を決定するための方法が公表され(例えば、Achille et al., J. Cell. Biochem., 2011, vol. 112, p. 1817-1821)、本発明の細胞に、例えば分析目的で適用され得る。
本発明によると、フローサイトメトリーによって個々の細胞について決定された前方散乱光(FSC)値は、細胞容積に相関する。より大きな細胞、すなわち、より大きな細胞容積を有する細胞は、より高いFSCによって特徴付けられ、その逆もそうである。一般的に知られているように、FSC値は、無次元の数字である。FSCの決定のために、1つ以上の細胞をフローサイトメトリーによって分析する。一般的に、フローサイトメトリーによって決定されたFSC値は、使用される機器、特にレーザーの特徴、及び機械から機械への光電子増倍力に依存する。結果として、絶対的なFSC値は存在せず、数値は典型的には、使用される機械及びレーザーに依存する。それ故、再現性を確保するために、以下の詳細を組み合わせたものが、本発明の脈絡において優先される。
本発明において、FSC値がフローサイトメトリーによって決定される場合、励起波長は好ましくは、470〜500nmの範囲内、最も好ましくは488nmであり、前方散乱光(FSC)が決定される。FSCの決定のために、細胞それ自体が蛍光性である必要はない。フローサイトメトリーによるこのような決定のために、市販のフローサイトメトリー装置が典型的には使用される。好ましい実施態様では、FACSAriaIIIフローサイトメーター(BDバイオサイエンシーズ社)が、488nmの励起波長で使用される。以下に明記された具体的なFSCの数値は好ましくは全て、該条件、すなわち該サイトメーター及び該波長を言及する。好ましくは、本発明の細胞は、60以下、例えば59以下、例えば58以下、例えば57以下、例えば56以下、例えば55以下、例えば54以下、例えば53以下、例えば52以下、例えば51以下、又はさらには50以下のFSC値によって特徴付けられる。いくつかの実施態様では、本発明の細胞は、32〜58、例えば33〜57、例えば34〜56、例えば35〜55、例えば36〜54、例えば37〜53、例えば38〜52、例えば39〜51、例えば40〜50、例えば41〜49、例えば42〜48、例えば43〜47、例えば44〜46のFSC値によって特徴付けられる。好ましい実施態様では、FSC値は約45である。これらの具体的なFSCの数値は、上記の条件下におけるFACSAriaIIIフローサイトメーターによる決定を指す。
好ましくは、本発明の細胞は、血管周囲ワルトン膠様質に由来する細胞のFSC値よりも小さなFSC値によって特徴付けられる。好ましくは、本発明の細胞のFSC値は、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞のFSC値よりも有意に小さい。例えば実施例4を参照されたい。
好ましくは、本発明の細胞は、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞の容積よりも少ない細胞容積を有する。より好ましくは、本発明の細胞は、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞の容積よりも有意に小さな細胞容積を有する。細胞容積は、フローサイトメトリーによるFSC値の決定によって間接的に決定され得る(FSC値の決定に関する詳細については上記を参照)。その後、比較のために、既知のサイズのビーズを場合により、同一条件下でフローサイトメトリーにかけ;これにより、細胞について実験的に決定されたFSC値、及びビーズについて実験的に決定されたFSC値、及び既知のビーズ容積に基づいて、細胞の容積を決定することができる。使用されるビーズは好ましくは、間葉系間質細胞の屈折率と類似した又は実質的に同一である屈折率を有する。実験的に決定されたFSCに基づいた細胞容積の計算のために、市販のソフトウェアを利用することができる。細胞容積を決定するのに好ましいツールは、FACS ARIA III及びFACS DIVA(両方共ベクトン・ディッキンソン社、フランクリン・レイクス、NJ州、米国)である。データ分析は、通常、FACS ARIA IIIを伴う、FACS DIVAバージョン6.0ソフトウェアを用いて実施される。FACS DIVAの標準構成が使用される。FSC値に基づいた、複数の試料すなわち細胞の比較のために、常に同じ機器で、FSC光電子増倍管についての同じ設定を常に用いて作業することが必要である。
FSC及びしたがって細胞容積は、新たに単離された細胞について並びに培養され酵素的に剥離(例えばトリプシン処理)された細胞の両方について決定され得る。しかしながら、FSC及び細胞容積は好ましくは、接着していない細胞について決定される。フローサイトメトリーのために、細胞容積の決定の前に、典型的には酵素的処理によって、より特定するとトリプシン処理によって、あらゆる接着細胞を、それが接着している培養容器表面から剥離させなければならない。より具体的には、FSCは典型的には、接着していない細胞をフローサイトメトリーにかけること、及び前方散乱光(FSC)の決定によって決定される。実験的に決定されたFSCに基づいた細胞容積の決定のために、市販のソフトウェアを利用することができる。本発明による細胞容積の決定のために好ましい市販のソフトウェアは、BD FACSDivaソフトウェア(ベクトンディッキンソン社、フランクリンレイクス、NJ州、米国)である。
本発明者らは、本発明の細胞が比較的均質であることを示したが、全ての生物学的製剤と同様に、細胞容積に関しても、いくらかのばらつきが典型的には存在する。それ故、細胞容積はまた、平均細胞容積として記載されてもよい。多数の細胞の集団では、平均細胞容積は好ましくは、FSCの実験による決定のために、実施例1及び実施例2Aに記載されているように得られた、細胞の細胞容積に相当する細胞容積である。実施例4は、例として、どのように多数の細胞のFSCが、フローサイトメトリー及び前方散乱によって決定されるかを記載している。「平均容積」は、実験的に決定されるような、個々の細胞の容積の算術平均を示す。典型的には「平均容積」は、少なくとも1,000個の個々の事象、例えば少なくとも5,000個の個々の事象、例えば少なくとも10,000個の個々の事象、いくつかの実施態様では100〜1,000,00000個の個々の事象の容積の算術平均を示す。フローサイトメトリーによって決定された各事象は通常、1つの細胞に対応する。フローサイトメトリーによる細胞容積の決定は、ハイスループット法であるので、このような数の個々の細胞の平均は通常、理不尽な時間及び努力を伴うことなく決定され得る。
1つの実施態様では、細胞容積それ自体は決定されないが、FSC値は決定される。通常、所与の細胞が、基準細胞のFSC値よりも低いFSC値を有する場合、所与の細胞はまた基準細胞よりも小さな細胞容積を有するだろう;それ故、FSCの決定により、細胞の容積に関して間接的な結論が可能となる。
好ましくは、本発明の細胞は、3,500μm2以下の表面積を有する。好ましくは、該細胞は、3,000μm2以下の表面積を有する。好ましくは該細胞は、2,500μm2以下の表面積を有する。好ましくは該細胞は、2,100μm2以下の表面積を有する。いくつかの実施態様では、該細胞は、2,000μm2以下の表面積を有する。「表面積」は、細胞の2次元表面積を指す。
本開示の脈絡において、細胞の2次元表面積は、細胞が接着培養液中にある間、すなわち、細胞が培養プレートに接着している間に決定される。細胞が低コンフルエンス状態であることが重要である。サブコンフルエンスは、決定の再現性にとって有利であると考えられる。なぜなら、サブコンフルエントな細胞は、接触阻害により互いに実質的に阻害しないと考えられるからである。表面積の決定のために、1つ以上の細胞の写真を撮影するかあるいはさもなくば、典型的には顕微鏡を用いて、細胞又は細胞群が接着している培養プレートの表面に対して垂直(すなわち90°)の面から、眼で観察又は記録する。領域の境界は典型的には、細胞のグラフ画像(すなわち写真)上に手作業で定められる。該グラフ画像を撮影する前のプレートの撹拌は好ましくは避けるか又は最小限に保つ。表面積を決定するための方法及びソフトウェアは特に限定されず、それぞれのソフトウェアは、いくつかの業者、例えばカールツァイス(イエナ、ドイツ)から入手可能である。図6における決定のために、カールツァイス(イエナ、ドイツ)製のAxiovision LE4.8が使用された。例として、培養皿で増殖させた細胞の表面積を決定するための方法は、とりわけ、Agley et al., 2012, J. Histochem. Cytochem., vol. 60, p. 428-438によって記載されている。
本発明者らは、本発明の細胞が、比較的均質であることを示したが、全ての生物学的製剤と同様に、細胞表面積に関しても、いくらかのばらつきが典型的には存在する。それ故、細胞表面積はまた、平均細胞表面積として記載されてもよい。このような場合、好ましくは該細胞は、3000μm2以下の平均表面積を有する。好ましくは該細胞は、2500μm2以下の平均表面積を有する。好ましくは該細胞は2100μm2以下の平均表面積を有する。いくつかの実施態様では、該細胞は、2000μm2以下の表面積を有する。多数の細胞の集団では、平均表面積は好ましくは、ここで示された制約の範囲内である。「平均面積」は、実験的に決定されるような、個々の細胞の面積の算術平均を示す。典型的には「平均面積」は、少なくとも35個の個々の細胞、例えば少なくとも50個の個々の細胞、例えば少なくとも100個の個々の細胞、いくつかの実施態様では35〜200個の個々の細胞の面積の算術平均を示す。
図6に示されているように、本発明の細胞は好ましくは、骨髄由来間葉系間質細胞よりも有意に小さな表面積を有する。いくつかの実施態様では、本発明の細胞はまた、国際公開公報第2004/072273A号及びSarugaser et al., 2005, Stem Cells, vol. 23, p. 220-229に記載のものなどの、血管周囲ワルトン膠様質(PVWJ)由来間葉系間質細胞の表面積よりも小さな表面積を有する。血管周囲ワルトン膠様質(PVWJ)由来間葉系間質細胞はまた、「血管周囲帯域に由来する間葉系間質細胞」とも称され得る。
好ましくは、本発明による細胞の平均容積及び/又は表面積は、骨髄由来間葉系間質細胞の平均容積及び/又は表面積よりも小さく(図6)、血管周囲領域に由来する臍帯由来間葉系間質細胞よりも小さい(図5B)。文献では、より小さな細胞容積の間葉系間質細胞が、様々な理由から有利であると考えられている(例えば、Ge et al., Stem Cell Rev., 2014, vol. 10, p. 295-303参照)。本発明全体を通して、このような有利な特性を有する細胞が今回、確実に利用可能となる。
好ましくは、本発明の細胞の内部の複雑さは、血管周囲ワルトン膠様質由来間葉系間質細胞の内部の複雑さよりも低い。内部の複雑さは典型的には、側方散乱光分析(SSC)によって決定される。一般的には、より複雑な内部構造を有する細胞は、内部構造のために、側方散乱光分析においてより光り/より輝くようである。例えば実施例4Aを参照されたい。いかなる特定の理論にも拘りたくはないが、内部の複雑さの低さは、幹細胞性と関連している可能性がある。SSCの数値に基づいて複数の試料を比較するために、常に同じ機器で、FSC及びSSC光電子増倍管についての同じ設定を常に用いて作業することが必要である。なぜなら、フローサイトメトリーによって決定される、SSCの数値など及びSSCの数値は、使用される機器、特にレーザーの特徴、及び機械から機械への光電子増倍力に依存するからである。本発明において、SSC値の決定のために使用されるフローサイトメトリー機械、レーザー及び設定及びソフトウェアは好ましくは、FSC値の決定のために上記されたものと同じである。
1つの実施態様では、本発明による間質ワルトン膠様質由来細胞は、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞よりも低い内部の複雑さ(SSCによって示される)によって特徴付けられる。
好ましい実施態様では、該間質ワルトン膠様質由来細胞は、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞よりも小さな細胞容積(FSCによって示される)及びより低い内部の複雑さ(SSCによって示される)の両方によって特徴付けられる。血管周囲ワルトン膠様質由来細胞は、例えば、本開示の比較実施例に記載のように得ることができる。
細胞生物学的特性:分化能、老化、及び不死性
一般的に、分化能、老化、及び不死性は共に、「細胞生物学的特性」と称することができる。言うまでもなく、本発明の細胞は、当業者によって実験的に分析され得る、追加の細胞生物学的特性を有する。それ故、本明細書において使用する「細胞生物学的特性」という用語は、そのような追加の特性が本明細書に明記されていない場合でさえも、生物学的アッセイによって決定されることのできる、細胞の追加の特性も含む、オープン・タームである。
本発明による細胞は、間葉系細胞、特に間葉系間質細胞(MSC)である。該MSCは通常、特記されない限り、クローン原性である。したがって、本発明の単一の細胞でさえ、多数の娘細胞を生じることのできるコロニー形成単位(CFU)である。
本発明の細胞はまた、「間質前駆細胞」とも称され得る。一般的に、間質前駆細胞は典型的には、表現型的に及び遺伝子型的に同一な娘細胞(自己再生)並びに少なくとも1つの他の最終的な細胞型を生じることができる。1つの実施態様では、本発明の細胞は、分化系統が決定されていない。
したがって、好ましくは、該細胞は、最終分化していない。1つの実施態様では、該細胞は、間葉系細胞を超えて、さらに分化しない。好ましくは、該細胞は、様々な細胞型へと分化することができる。いくつかの実施態様では、これらの様々な細胞型の1つ以上への分化は、例えば外部刺激及び/又は特定の培養条件によって誘導可能である。
好ましい実施態様では、該細胞は少なくとも多能性である。多能性は、細胞が、複数の、少なくとも2つの異なる細胞型へと分化することができることを示すことによって試験され得る。このようなことを示すのに適したアッセイに関する制限は特にない。しかしながら、典型的にはインビトロで示される。したがって、好ましい実施態様では、本発明の間葉系間質細胞は、インビトロでの多能性分化能を有する細胞である。様々な種類の分化の例を実施例12、13、及び14に示す。例えば、骨形成性分化能は、実施例12に記載の通りに決定され得るが、確立されている方法を代わりに使用してもよい。実施例12に記載のような骨形成性分化能のアッセイが、本発明の脈絡において具体的に開発された。その多くが骨髄由来間葉系間質細胞を用いて開発されている、骨形成能についての当技術分野の最先端技術のアッセイと比較して、実施例12のアッセイは、比較的緩徐な細胞の増殖を可能とし;これは、翻って、(臍帯由来)細胞が培養容器に接着することを可能とし、これは通常、骨形成性アッセイの必要条件である。
例えば、脂肪細胞生成性分化能は、実施例13に記載のように決定され得るが、確立されている他の方法も使用することができる。例えば、軟骨形成性分化能は、実施例14に記載のように決定され得るが、確立されている他の方法も使用することができる。「分化能」は、所与の細胞が、特定の系統の細胞へと分化することができることを意味する。
好ましくは、該細胞は、骨形成性系統の細胞へと分化することができる。好ましくは、該細胞は、軟骨形成性系統の細胞へと分化することができる。好ましくは、該細胞は、脂肪細胞生成性系統の細胞へと分化することができる。好ましくは、該細胞は、骨形成性系統の細胞へと及び軟骨形成性系統の細胞へと分化することができる。好ましくは、該細胞は、骨形成性系統の細胞へと及び脂肪細胞生成性系統の細胞へと分化することができる。好ましくは、該細胞は、骨形成性系統の細胞へと及び脂肪細胞生成性系統の細胞へと分化することができる。最も好ましくは、該細胞は、骨形成性系統の細胞へと及び軟骨形成性系統の細胞へと及び脂肪細胞生成性系統の細胞へと分化することができる。細胞が特定の系統の細胞へと分化することができる場合、このことは、ただし該細胞が適切な条件にかけられるならば、該細胞はそれに応じて分化するだろうことを意味することを意図する。例えば、骨形成性系統の細胞への分化に特に適した条件を実施例12に提供する。あるいは、骨形成性系統の細胞への間葉系間質細胞の分化に適した市販のキットは、該キットが培養容器への細胞の接着を可能とする限り、任意の所与の細胞(間葉系間質細胞)が骨形成性系統の細胞へと分化することができるかどうかを試験するために使用され得;このようなアッセイのために記載された1つのキットは、ロンザ社(ウォーカーズビル、MD州、米国)のhMSC間葉系幹細胞骨形成性分化BulletKit(商標)キットである。例えば、軟骨形成性系統の細胞への分化に適した条件を実施例13に提供する。あるいは、間葉系間質細胞から軟骨形成性系統の細胞への分化に適した市販のキットを使用して、任意の所与の細胞(間葉系間質細胞)を軟骨形成性系統の細胞へと分化させることができるかどうかを試験し得る;1つの適したキットは、ロンザ社(ウォーカーズビル、MD州、米国)のhMSC間葉系幹細胞軟骨形成性分化キットBulletKit(商標)である。例えば、軟骨形成性系統の細胞への分化に適した条件を実施例14に提供する。あるいは、間葉系間質細胞から軟骨形成性系統の細胞への分化に適した市販のキットを使用して、任意の所与の細胞(間葉系間質細胞)を軟骨形成性系統の細胞へと分化させることができるかどうかを試験し得;1つの適切なキットは、ロンザ社のhMSC間葉系幹細胞軟骨形成性分化キットBulletKit(商標)である。例えば、脂肪細胞生成性系統の細胞への分化に適した条件を実施例13に提供する。あるいは、間葉系間質細胞から脂肪細胞生成性系統の細胞への分化に適した市販のキットを使用して、任意の所与の細胞(間葉系間質細胞)を脂肪細胞生成性系統の細胞へと分化させることができるかどうかを試験し得る;1つの適切なキットは、ロンザ社のhMSC間葉系幹細胞脂肪細胞生成性分化BulletKit(商標)である。
場合により、該細胞は多能性でさえあるが、しかしながら全能性ではない。分化能は、細胞を特定の条件にさらすことによって決定され得る。分化転換は当技術分野において記載され、したがって、任意の所与の細胞、例えば間葉系間質細胞が、特定の外胚葉細胞又は内胚葉細胞へと分化することができるかどうかが試験され得る。
場合により、該細胞はさらなる分化能を有する。このようなさらなる分化能は、間葉系間質細胞に典型的な分化能から選択される。しかしながら、間葉系間質細胞には典型的であるように、本発明の細胞は典型的には万能性ではない。
好ましい実施態様では、本発明の細胞は、間葉系間質細胞である。したがって、その実施態様では、間葉系間質細胞は、間葉系幹細胞である。換言すれば、該細胞は、幹細胞様特性を有することが好ましい。幹細胞様特性及びそのマーカーは、例えば、Melton, in Chapter 2 of Lanza and Atala (eds.), Essentials of Stem Cell, Biology, 3rd ed., Elsevier, 2014によって記載されている。
好ましくは、本発明による細胞は、異常に高いレベルのテロメラーゼ活性を示さない。「テロメラーゼ活性」は、テロメラーゼ酵素の酵素活性を指す。一般的に知られているように、テロメラーゼは、DNA鎖内のテロメアを伸長し、これにより、さもなければ有糸分裂後となりアポトーシスを受けるであろう老化細胞が、ヘイフリック限界を超えることを可能とし、場合によっては不死となることを可能とする、酵素である。いくつかの代替的な実施態様では、本発明の細胞はテロメラーゼ活性を示すが、しかしながら、低いレベルである。テロメラーゼ活性は典型的には、酵素活性の決定によって決定され;より具体的には、それは典型的には、テロメラーゼ酵素の触媒サブユニットである、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT、又はヒトではhTERTと略称される)の酵素活性の決定によって決定される。その一例を実施例10に示す。テロメラーゼ活性は、テロメラーゼ活性の定量的決定のための光度測定酵素イムノアッセイである、TeloTAGGGテロメラーゼPCR ELISA PLUSキット(ロシュ・ダイアグノスティックス社)によって決定され得る。図解については、例えば実施例10を参照されたい。該キットが製造業者の説明書に従って使用され、分析された細胞が、該TeloTAGGGテロメラーゼPCR ELISA PLUSキットに提供される陽性対照に関するテロメラーゼ活性(100%と考える)の、10%以下、例えば好ましくは5%以下を示す場合、テロメラーゼ活性は低いと言われる。比率、すなわち10%以下、例えば好ましくは5%以下の比率は、細胞の平均値を指し、すなわち、分析された細胞が、該対照に関するテロメラーゼ活性の10%以下、例えば好ましくは5%以下の平均値を示すことを意味する。テロメラーゼ活性を検出するためのいくつかの代替的な試薬及びキットは市販され、これらは代替的には本発明の脈絡において使用され得る。
あるいは、本発明の細胞は、全くテロメラーゼを発現しない。換言すれば、この実施態様では、本発明による細胞は、全くテロメラーゼ活性を示さない。より正確には、このような細胞は、検出可能なテロメラーゼの発現が存在しないことによって特徴付けられる。遺伝子発現は、直接的に、又は、発現産物から転写されたタンパク質を検出することによって間接的に検出され得る。酵素活性レベル、タンパク質レベル、又は遺伝子発現レベルのいずれかにおいて検出可能なテロメラーゼが全く存在しないことは、文献(例えば米国特許出願第2004/0136967A1号)に記載されている他の間葉系間質細胞も参考にして、本発明の細胞を具体的にさらに特徴付けるのに適している可能性がある。「全くテロメラーゼを発現していない」は、テロメラーゼの発現が、本文書の発効日に利用可能な当技術分野の最先端技術の方法、例えば特にqRT−PCRによって細胞内で検出されることができないことを意味する。典型的にはこれは、TERT活性(ヒト細胞の場合にはhTERT活性)を検出できないことを意味する。テロメラーゼをコードしている遺伝子の発現の検出のために、例えばhTERT遺伝子に特異的なPCRプライマーを使用し得る(Nekani et al., 2010, Stem Cell Res., vol. 3, p. 244-254)。
細胞がテロメラーゼ発現及び/又はテロメラーゼ活性を示さない場合、それらを培養液中に永遠に維持することはできない;このような実施態様では、本発明の細胞は不死ではない;それにも関わらず、本発明の細胞は、少なくとも12回の継代におよぶ、又は等価な集団倍加数におよぶ、実験実施例に記載のような条件下での培養に適している。
好ましい実施態様では、本発明の細胞は不死ではない。例えば、実施例10に示されているように、本発明による細胞内のテロメラーゼ活性は、比較的低い。したがって、実施例10の細胞は、不死ではないと考えられる。
本発明の細胞は、適切な条件で適切な増殖培地中に存在する場合、好ましくは有糸分裂活動性である。より好ましくは、該細胞は指数関数増殖期にあり、これは、細胞が適切な条件で適切な増殖培地中に存在する場合に当てはまる。言うまでもなく、凍結細胞は有糸分裂活動性ではない;しかしながら、本発明の凍結細胞が解凍され、適切な条件で適切な増殖培地中に置かれた場合、それらは有糸分裂活動性となり、好ましくは指数関数増殖期で増殖することができる。例えば、第一セルバンクの凍結細胞(以下に詳述されている)を解凍し、適切な条件で適切な増殖培地中に置いた場合、それらは有糸分裂活動性となり、多数の娘細胞を生じ、これを次いで場合により使用して、第二セルバンクを作成し得る。
本発明の細胞は、上皮細胞、例えば羊膜上皮細胞ではない。
本発明の細胞は内皮細胞ではない。
本発明の細胞は、その優れた増殖特性にも関わらず、癌細胞ではない。
本発明によると、特許請求された細胞は、胚細胞ではない。特に、特許請求された細胞は、胚性幹細胞ではない。胚(ヒト胚を含む)の損傷又は破壊は本発明では予見されず、本発明の基礎となる研究が実施された時は実施されなかった。
好ましい実施態様では、本発明の間葉系間質細胞は、血液又はその誘導体、特に臍帯血を実質的に含まない。
いくつかの間葉系間質細胞は、造血中に物理的及び機能的支持を与える、骨髄の間質の足場の一成分であるが、本発明の細胞は造血細胞ではない。特に、本発明の細胞は、血球ではない。より具体的には、該細胞は、造血幹細胞(HSC)でもなく、造血系の多能性前駆細胞(MPP)でも、共通骨髄前駆細胞(CMP)でもない。
1つの実施態様では、本発明の細胞は老化していない。別の実施態様では、本発明の細胞は、低い老化によって特徴付けられる。一般的に知られているように、β−ガラクトシダーゼ酵素は特に老化細胞において活動性であり、この老化した細胞でそれはβ−ガラクトシドから単糖への加水分解を触媒する。いかなる特定の理論にも拘りたくはないが、β−ガラクトシダーゼ活性は、特に老化細胞内の内因性リソソームのβ−ガラクトシダーゼに起因することが一般的に理解されている。いかなる特定の理論にも拘りたくはないが、その活性は、それ自体が老化に必要とされるとは考えられていない。しかしながら、β−ガラクトシダーゼ活性は、インサイツ及びインビトロの両方において、確実な方法で検出が容易である。本発明において、β−ガラクトシダーゼ活性は、当技術分野において通常の方法によって決定される(例えば、Lee et al., Aging Cell, vol. 5, p.187-195参照)。「老化細胞」の同義語は「加齢細胞」である。
1つの実施態様では、本発明の細胞は、P11以下の継代まで、より好ましくはP10以下の継代まで、より好ましくはP9以下の継代まで、より好ましくはP8以下の継代まで、より好ましくはP7以下の継代まで、より好ましくはP6以下の継代まで、より好ましくはP5以下の継代まで、最も好ましくはP4以下の継代まで増殖させた細胞である。実施例9に示されているように、本発明の細胞は、多くの継代数におよび優れた増殖特性を有し、実施例11に示されているように、本発明の細胞は通常、多くの累積集団倍加数におよび、老化していないか又は僅かに老化しているだけである。
1つの実施態様では、本発明の細胞は、単離後、少なくとも16回の累積集団倍加数、例えば少なくとも18回の累積集団倍加数、少なくとも20回の累積集団倍加数におよび多能性を維持している。1つの実施態様では、本発明の細胞は、単離後、少なくとも12回の継代数におよび多能性を維持している。
1つの実施態様では、本発明の細胞は、単離後、少なくとも16回の累積集団倍加数におよび未分化のままである。1つの実施態様では、本発明の細胞は、単離後、少なくとも12回の継代におよび未分化のままである。
本発明による方法によって得ることのできる細胞
本発明の第二の態様による細胞はまた、それを得ることのできる方法によって特徴付けられ得る。これは、本発明による細胞が、以前に記載された方法(本明細書における実施例及び比較実施例を参照)に従って得られた細胞とは異なる特性を有し、したがって、本発明による細胞を得るための方法により、独特な特性を有する細胞となることが可能である。特に、第二の態様による細胞は、本発明の第一の態様による方法によって得ることのできる細胞として特徴付けられ得る。
別の互いに排他的ではない実施態様では、第二の態様の細胞は、本発明の第一の態様による方法によって得ることができる。この実施態様では、本発明の第一の態様による方法は、説明のためにいくつかの特色を挙げると、例えば臍帯の間質ワルトン膠様質の発生源、並びに/あるいは、生存率、並びに/あるいは、単離手順及び増殖手順に関連した容積及び表面積などの特殊な特色を細胞上に負わせることによって、細胞の定義に寄与する。
本発明の第一の態様の好ましい実施態様は、特記されない限り、ありとあらゆる組合せで本発明の第二の態様の好ましい態様と組み合わせることができる。したがって、本発明の第一の態様による方法はまた、いくつかの実施態様では、プロセスによって直接得られた産物を確定する。それ故、いくつかの実施態様では、本発明による細胞は、本発明の第一の態様による方法によって得ることのできる細胞と記載され得る。本発明の第一の態様による方法から得られたプロダクト・バイ・プロセス(製造方法により定義された産物)の特色は一般的に、本発明の第二及び第三の態様による産物の特色と組み合わせることができる。
本発明はまた、本発明の第二の態様の方法によって得ることのできる細胞に関する。それに関して、第二の態様の方法は、それによって得られた細胞を確定し特徴付ける。好ましくは、間葉系間質細胞は、単離によって、及び任意選択であるが好ましくは、本明細書に記載のような増殖によって得ることができる。
間葉系間質細胞から誘導された細胞
さらに、本発明の細胞は、それらの分化能のために、成熟細胞又は成熟細胞株を生成するために使用され得る。成熟細胞は、幹細胞様の特性を全く有さない細胞である。間葉系間質細胞から成熟細胞への分化は、特殊な条件、例えば特定の外的増殖因子の培養培地への添加などによってトリガーされ得る。説明については実施例12、13及び14を参照されたい。
1つの実施態様では、本発明は、本発明の間葉系細胞から誘導された細胞に関する。1つの実施態様では、誘導された細胞は、単能性であるか又は最終分化している。1つの実施態様では、誘導された細胞は不死ではない。好ましい種類の誘導された細胞としては、骨形成性系統、脂肪細胞生成性系統、及び軟骨形成性系統の細胞が挙げられる。
細胞集団
第三の態様では、本発明は、細胞の集団(細胞集団)に関する。該細胞集団は、本発明の第二の態様による少なくとも1つの細胞を含む。
1つの実施態様では、本発明の細胞集団は、本明細書に記載のような、臍帯の間質ワルトン膠様質からの細胞の単離によって直接得ることができる細胞集団である。しかしながら、はるかに好ましくは、本発明の細胞集団は、本明細書に記載のような、臍帯の間質ワルトン膠様質から事前に単離されていた細胞の生体外での増殖によって得ることのできる細胞集団である。
以下において記載されるであろう、本発明による細胞集団のいくつかの特色及び実施態様は、細胞集団、特に該集団に含まれる細胞の物理的特徴に関連する。単に説明のために、本明細書の何処かで開示された詳細にも関わらず、物理的特徴としては、物理的方法を用いて直接決定することのできる特徴、例えば遺伝子発現、細胞の容積又は表面積、形状など、該細胞集団内のこれらの中のいずれかの比及び分布が挙げられる。以下において記載されるであろう、該細胞集団のいくつかの特色及び実施態様は、該細胞集団を得ることができるか又は得られる方法に関連している。単に説明のために、本明細書の何処かで開示された詳細にも関わらず、該細胞集団を得ることができるか又は得られる方法に関連している該細胞集団の特徴としては、(a)細胞の解剖学的発生源、特に臍帯及びその好ましい区画としての間質ワルトン膠様質、(b)細胞の単離に適用された条件、及び(c)細胞を増殖させ、これにより細胞集団を得るために適用された条件、が挙げられ得る。
本発明の細胞集団は、多数の細胞を含む。したがって、該細胞集団は、少なくとも2つの細胞を含むが、しかしながら、通常は2つを超える細胞が含まれるだろう。該細胞集団に含まれる細胞数には厳密な上限はないが、天然の上限は、典型的な実施態様では、1つを超える臍帯が出発材料として使用されなければ、フルスケールの実行で得ることのできる総細胞数によって示される。ヒト臍帯から出発し工程(c)を含みP2継代まで実行されるフルスケールの実行により、典型的には、少なくとも1×109個の細胞、より好ましくは少なくとも2×109個の細胞、より好ましくは少なくとも3×109個の細胞、より好ましくは少なくとも4×109個の細胞、より好ましくは少なくとも5×109個の細胞、より好ましくは少なくとも6×109個の細胞、より好ましくは少なくとも7×109個の細胞、より好ましくは少なくとも8×109個の細胞、より好ましくは少なくとも9×109個の細胞、及びいくつかの実施態様では少なくとも10×109個の細胞が得られる。より多くの細胞を、より後の継代において得ることができる。
該細胞集団は、APCDD1を発現する少なくとも1つの細胞を含む。これは通常、該細胞集団の試料が、APCDD1発現陽性であることを示すことによって確認され得る。換言すれば、該細胞集団は、APCDD1遺伝子の発現によって特徴付けられる。1つの実施態様では、該細胞集団中の細胞の大半は、APCDD1遺伝子を発現している。好ましくは、該細胞集団に含まれる細胞の少なくとも80%(細胞数を単位とする)、好ましくは少なくとも90%(細胞数を単位とする)、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%(各々細胞数を単位とする)がAPCDD1を発現している。
場合により、該細胞は、本発明の細胞、特に本発明の第二の態様による細胞とは異なる少なくとも1つのさらに他の細胞、すなわち、1つ以上の追加の細胞を含む。特に、この実施態様では、少なくとも1つのさらに他の細胞は、本発明の第二の態様の細胞とは、必修的に又は任意選択的に(好ましい)、少なくとも1つの特色において異なる。しかしながら、好ましくは、少なくとも1つのさらに他の細胞は、本発明の細胞に対して同系、より好ましくは自己である。
1つの実施態様では、該細胞集団の全ての細胞は間葉系間質細胞である。この実施態様による細胞は典型的には、初代継代(「P0」)を超えて培養することによって得ることができる。いくつかの実施態様では、臍帯から初めて単離された細胞は、間葉系間質細胞並びに他の細胞(例えば赤血球)を含むが、他の細胞は、P0を超えて実質的に存在しないだろう。なぜなら(a)接着していない細胞は、P0の終了時に増殖培地と一緒に除去され、(b)使用される増殖培地は好ましくは、間葉系間質細胞の増殖に特に適し、及び(c)間葉系間質細胞より劣った増殖特性を有する細胞は、間葉系間質細胞と実質的に同じようには増殖せず、したがって、数回の累積集団倍加数の経過中において、該細胞集団には間葉系間質細胞が豊富となるからである。
別の実施態様では、該細胞集団は、間葉系間質細胞並びに非間葉系間質細胞を含む。この実施態様による細胞は典型的には、単離直後に、例えば、初代継代(「P0」)前若しくは最中に、及び/又は、本発明の少なくとも1つの細胞を少なくとも1つの他の細胞と組み合わせることによって得ることができる。
好ましくは、該細胞集団中の全ての細胞は、同じ種から派生する。より好ましくは、該細胞集団中の全ての細胞はヒト細胞である。好ましくは、該細胞集団中の全ての細胞は、互いに対して同系であり;より好ましくは、該細胞集団に含まれる全ての細胞は、互いに対して自己である。さらにより好ましくは、該細胞集団中の全ての細胞は、同じ個体から派生する。このような細胞集団は、出発材料として単一の臍帯又はその画分を使用することによって得ることができる。
好ましくは、該細胞集団は、臍帯以外の組織から派生した間葉系間質細胞を含まない。より好ましくは、該細胞集団は、検出可能な量の、間質ワルトン膠様質以外の臍帯区画から派生した間葉系間質細胞を含まない。内皮細胞特異的マーカー(例えば3G5)及び上皮細胞特異的マーカー(例えばEpCAM)が細胞集団において検出できない場合に、該細胞集団は該特色に準拠している。
好ましくは、該細胞集団は、多数の細胞を含み、その少なくとも80%(細胞数を単位とする)、好ましくは少なくとも90%(細胞数を単位とする)、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%(各々細胞数を単位とする)は、第二の態様による細胞である。第二の態様の全ての好ましい実施態様は、本発明の第三の態様にも当てはまる。総細胞数の好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも99%、又は少なくとも99%、最も好ましくは100%が、第二の態様、及び場合により単独での又は組み合わせての1つ以上のその好ましい実施態様に定義されているような細胞である。1つの実施態様では、該細胞集団は本質的に、第二の態様による細胞からなる。1つの実施態様では、該細胞集団は専ら、第二の態様による細胞からなる。
好ましくは、該集団は、単離された細胞集団である。1つの実施態様では、該細胞集団は、ヒト又は動物の生体の外に位置する。単離された細胞集団は、一般的に、その生理学的なインビボ環境の外にある細胞集団である。好ましくは、該細胞集団は生体外の細胞集団である。特に、生体外の細胞集団は好ましくは、臍帯外に位置する。特に、生体外の細胞集団は好ましくは、血管を含まない。1つの実施態様では、生体外の細胞集団は、培養容器中にある。1つの実施態様では、生体外の細胞集団は、保存に適した容器、例えばバイアル中にある。1つの実施態様では、生体外の細胞集団は、約35℃〜39℃、好ましくは約36℃〜38℃、例えば約37℃の温度である。1つの互いに排他的ではない実施態様では、生体外の細胞集団は、培養容器中にあるか又は保存に適した容器中にある。好ましくは、保存に適した容器は、上記の温度範囲内での細胞の運送に適している。1つの実施態様では、生体外の細胞集団は、凍結保存に適した容器、例えばクライオバイアル中に、好ましくは−180℃以下の温度である。1つの実施態様では、生体外の細胞集団は、培養容器中にある。1つの実施態様では、生体外の細胞集団は、代謝活動性の、好ましくは増殖している細胞集団である。
該細胞集団の特色のいくつかは、物理的特性によって記載され得る。物理的特性の決定のために、一般的には、該細胞集団から試料を採取し、該細胞集団の試料中に含まれる細胞の全部又は一部についての物理的特性を決定することが可能である。本発明による細胞集団は典型的には均質であり、及び/又は、その中に含まれる個々の細胞が、互いに類似しているか若しくははるかに似ていることを特徴とするので、該試料中に含まれる細胞における、例えば遺伝子発現、容積又は表面積、形状などの特定の特性に関する知見は通常、特記されない限り、その集団中の残りの細胞にも当てはまり、並びに/あるいは、さもなくば特定の細胞集団が、遺伝子型的に及び/又は表現型的に互いに明確に異なる細胞を含むことが明らかである。本脈絡における均質は、実質的に全ての細胞がはるかに似ている又は類似していることを意味する。
該細胞集団は好ましくはさらに、全ての細胞が本質的に均一な物理的特徴によって特徴付けられることを特徴とする。「本質的に均一な」は、該細胞の少なくとも90%、例えば該細胞の少なくとも91%、例えば該細胞の少なくとも92%、例えば該細胞の少なくとも93%、例えば該細胞の少なくとも94%、例えば該細胞の少なくとも95%、例えば該細胞の少なくとも96%、例えば該細胞の少なくとも97%、例えば該細胞の少なくとも98%、好ましくは該細胞の少なくとも91%が、1つ以上の所望の物理的特徴に準拠することを意味する。上記のようなフローサイトメトリー中の前方散乱光(FSC)に相関した細胞容積は、本発明による細胞集団において本質的に均一である物理的特徴であることが特に望ましい。
好ましくは、本発明による集団に含まれる細胞の平均容積は、血管周囲ワルトン膠様質由来の間葉系間質細胞の平均容積よりも小さい。血管周囲ワルトン膠様質由来の間葉系間質細胞は、例えば、本明細書の比較実施例に記載されている通りに得ることができる。一旦、個々の細胞の細胞容積が決定されると、平均細胞容積を、算術的に決定することができる。細胞容積を決定するための方法は特に限定されないが、特に個々の細胞について詳細に上記されているようなFACSに基づいた方法が好ましい。
該細胞集団は好ましくはさらに、該細胞集団中の細胞の容積及び/又は表面積が類似しているか、あるいは代替的には、高い比率の細胞が小さな容積及び/又は表面積を有していることを特徴とする。
好ましくは、本発明の細胞集団は、60以下のFSC平均値、又は個々の細胞について上記されているような該範囲内の好ましい数値によって特徴付けられる。例えば、該細胞集団は、55以下、例えば50以下のFSC平均値によって特徴付けられ得る。具体的な実施態様では、該細胞集団内の細胞の少なくとも90%が、45+/−10のFSC値によって特徴付けられる。より具体的な実施態様では、該集団の全細胞のFSC値は45+/−10である。好ましい実施態様では、該細胞集団内の細胞の少なくとも90%のFSC平均値は約45である。より好ましい実施態様では、該集団の全細胞のFSC平均値は約45である。好ましくは、本発明の細胞は、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞のFSC値より小さなFSC値によって特徴付けられる。
好ましくは、該細胞集団中の細胞の平均表面積は、3000μm2以下である。好ましくは、該細胞は、2500μm2以下の表面積を有する。好ましくは、該細胞は、2100μm2以下の表面積を有する。いくつかの実施態様では、該細胞は、2000μm2以下の表面積を有する。多数の細胞の集団では、平均表面積は好ましくは、ここで示された制約の範囲内である。いくつかの実施態様では、該細胞集団中の細胞の平均表面積は好ましくは、1000〜300μm2、好ましくは1100〜2700μm2、好ましくは1200〜2500μm2、好ましくは1300〜2200μm2、好ましくは1400〜2000μm2、好ましくは1500〜1900μm2、より好ましくは1600〜1800μm2、最も好ましくは約1700μm2である。
好ましくは該細胞集団はさらに、該細胞の少なくとも70%(細胞数を単位とする)、好ましくは少なくとも80%(細胞数を単位とする)、好ましくは少なくとも90%(細胞数を単位とする)、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%(各々、細胞数を単位とする)が生存していることを特徴とする。「生存している」は、アポトーシスを受けていない細胞を示す。したがって、翻って、該細胞集団は、総細胞数の30%以下、好ましくは総細胞数の20%以下、より好ましくは総細胞数の10%以下、最も好ましくは総細胞数の5%以下の比のアポトーシスを受けた細胞を含む。1つの実施態様では、該細胞集団は、アポトーシスを受けた細胞を全く含まない。アポトーシスを受けた細胞の適切なマーカーは7AADである(例えば実施例3参照)。1つの実施態様では、細胞単離直後に、すなわち増殖前に、生存率を決定する。高い比率の生存率は、以前に記載された間葉系間質細胞集団を上回る利点を示す。
好ましくは、該細胞集団はさらに、該細胞の少なくとも60%(細胞数を単位とする)、該細胞の少なくとも70%(細胞数を単位とする)、好ましくは少なくとも80%(細胞数を単位とする)、好ましくは少なくとも90%(細胞数を単位とする)、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%(各々、細胞数を単位とする)が多能性であることを特徴とする。
1つの実施態様では、該細胞集団は、総細胞数の2%以下、好ましくは総細胞数の1%以下の比で肥満細胞を含む。最も好ましくは、該細胞集団は肥満細胞を含まない。
1つの実施態様では、該細胞集団は、総細胞数の2%以下、好ましくは総細胞数の1%以下の比で線維芽細胞を含む。最も好ましくは、該細胞集団は線維芽細胞を含まない。この実施態様では、「線維芽細胞」という用語は、線維芽細胞へとすでに分化した細胞を指し、多能性であり単に線維芽細胞に分化する能力を有する細胞を除外すると、狭義に理解されたい。
1つの実施態様では、該細胞集団は、総細胞数の2%以下、好ましくは総細胞数の1%以下の比で造血系統の細胞を含む。最も好ましくは、該細胞集団は、造血系統の細胞を含まない。好ましい実施態様では、該細胞は、血球、例えば臍帯血に由来する血球を全く含まない。血球についてのいくつかのマーカーが十分に確立され、それ故、この好ましい実施態様との準拠は容易に試験することができる。
1つの実施態様では、該細胞集団は、総細胞数の2%以下、好ましくは総細胞数の1%以下の比で血管周囲細胞を含む。最も好ましくは、該細胞集団は、血管周囲細胞を全く含まない。血管周囲細胞マーカーは3G5である。それ故、この実施態様は、代替的には、該細胞集団が、3G5マーカーを発現する細胞及び/又はその表面上に3G5を提示する細胞を全く含まないと記載することができる。1つの実施態様では、該細胞集団には、血管周囲細胞がコンタミしていない。骨髄由来間葉系間質細胞についての3G5の発現も記載されている(Khan et al., J. Orthop. Res., 2010, vol. 28, p. 834-40)。それ故、3G5の無発現もまた、本発明による細胞集団を骨髄由来間葉系間質細胞から識別するのに適し得る。1つの実施態様では、該細胞集団には血管周囲細胞がコンタミしていない。1つの実施態様では、該細胞集団は骨髄由来間葉系間質細胞を含まない。
1つの実施態様では、該細胞集団は、総細胞数の2%以下、好ましくは総細胞数の1%以下の比で上皮細胞を含む。最も好ましくは、該細胞集団は上皮細胞を全く含まない。上皮細胞マーカーは、上皮細胞接着分子(EpCAM)である。それ故、この実施態様は代替的には、該細胞集団は、EpCAMマーカーを発現している細胞及び/又はその表面上にEpCAMを提示している細胞を全く含まないと記載することができる。1つの実施態様には、該細胞集団には上皮細胞がコンタミしていない。
1つの実施態様では、該細胞集団は、総細胞数の2%以下、好ましくは総細胞数の1%以下の比で内皮細胞を含む。
最も好ましくは、該細胞集団は、内皮細胞を全く含まない。内皮細胞マーカーはCD31である。それ故、この実施態様は代替的には、該細胞集団が、CD31マーカーを発現している細胞及び/又はその表面上にCD31を提示している細胞を全く含まないと記載することができる。1つの実施態様では、該細胞集団には内皮細胞がコンタミしていない。
1つの実施態様では、該細胞集団は総細胞数の2%以下、好ましくは総細胞数の1%以下の比で赤血球を含む。最も好ましくは、該細胞集団は赤血球を全く含まない。赤血球マーカーは、グロビン及びBGP1である。それ故、この実施態様は代替的には、該細胞集団が、BGP1及び/又はグロビンを発現している細胞を全く含まないと記載することができる。1つの実施態様では、該細胞集団には赤血球がコンタミしていない。
好ましくは、該細胞集団に含まれる細胞の10%未満がテロメラーゼ活性を示し、より好ましくは該細胞集団に含まれる細胞の5%未満がテロメラーゼ活性を示し、最も好ましくは該細胞集団に含まれる細胞の2.5%未満がテロメラーゼ活性を示す。テロメラーゼ活性の決定及びそれに関連した態様は上記され、本発明のこの第三の態様にも当てはまる。それぞれの細胞集団は、以前に記載された他の細胞集団とは識別され得る(例えば、米国特許出願第2004/0136967A1号)。
1つの実施態様では、該細胞集団はさらに、その中に含有されているどの細胞も、又はより具体的にはかつ好ましくは、その中に含有されているどの間葉系間質細胞も、その表面上にMHC IIを提示していないか、又はMHC IIを発現していないことを特徴とする。したがって、好ましくは、該細胞集団のどの間葉系間質細胞も、MHC IIを全く発現していない。1つの実施態様では、MHC IIの発現は、本発明による細胞集団を、他の間葉系間質細胞を含有している細胞集団と識別するのに適し得る(例えば、Sarugaser et al., 2005, Stem Cells, vol. 23, p. 220-229参照)。
好ましくは、該細胞集団は、特に工程(c)すなわち増殖工程が含まれている場合に、本発明の第一の態様による方法によって得ることができる。したがって、工程(c)を含む本発明による方法により、間葉系間質細胞集団を生じることができる。本発明の第一の態様による方法から得られたプロダクト・バイ・プロセスの特色は一般的に、本発明の第二及び第三の態様による産物の特色と組み合わせることができる。それ故、代替的には又は追加的には、本発明による細胞集団は、工程(c)を含む、本発明の第一の態様による方法によって得ることのできる細胞集団として記載することができる。
好ましくは、本発明による間質細胞集団は、コンタミ物質を本質的に含まない。コンタミ物質を本質的に含まない間質細胞集団は本明細書において、ウイルス(被膜されている及び被膜されていない)、寄生虫、細菌、及び内毒素などの感染病原体を本質的に含まない細胞集団、すなわち、培養に基づいたシステム、血清学的システム若しくは分子同定システムを用いて又はLAL検査(内毒素)を用いて検出されることのできない量でこのような感染病原体を含有している細胞集団として定義される。
好ましくは、本発明による細胞集団は、抗生物質を本質的に含まない。抗生物質を本質的に含まない細胞集団は、抗生物質の非存在下において少なくとも1継代かけて細胞を増殖させることによって得ることができる。例えば、抗生物質が、細胞単離後の初代継代(「P0」)に存在している場合でさえも、抗生物質は好ましくは、P0後の全ての継代において中止され;換言すれば、例えば、5%ヒト血小板溶解物を含むMSCBM CD増殖培地は、P1及び続く全ての継代において抗生物質を添加することなく使用され得る。
1つの実施態様では、生体外での細胞集団は凍結されている。凍結細胞は通常、−180℃以下の温度で保存に安定であるが、細胞を保存するのに適したあらゆる条件がこの実施態様において適切である。細胞は、凍結され得、好ましくは液体窒素中で瞬間凍結され得る。凍結保護剤を、凍結前に添加してもよい。1つの実施態様では、該細胞集団は、液体窒素中で保存される。好ましい実施態様では、凍結細胞集団はセルバンクである。この実施態様はこれから、さらに詳細に記載されるだろう。
セルバンク
例えば実施例6に示されているように、本発明の細胞は、個々の臍帯に由来する異なる単離株についての特定の表現型によっても確実に特徴付けられ、数回の累積集団倍加数の間も特定の表現型を維持する。したがって、本発明に従って得ることのできるか又はさもなくば本発明に関する細胞は確実に特定の表現型を有し、多くの継代におよぶ増殖中にその表現型を維持する。それ故、本発明の細胞は、セルバンクの作成に特に適している。
実際に、好ましくは、本発明による細胞集団はセルバンクである。したがって、本発明の細胞集団は、セルバンクの形態であってもよい。該セルバンクは、間質ワルトン膠様質由来細胞を含む。特記されない限り、該セルバンクに含まれる細胞集団は一般的に、上記の細胞集団に相当する。好ましくは、該セルバンクは多数の細胞を含み、その中で総細胞数の少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも99%、又は少なくとも99%、最も好ましくは100%は、本発明の第二の態様、及び場合により単独での又は組み合わせての1つ以上のその好ましい実施態様に定義されているような細胞である。
本発明のセルバンクは、本発明による間質ワルトン膠様質由来細胞を増殖させる工程を含む方法によって得ることができる。あるいは、新たに単離された細胞(増殖されていない細胞)のセルバンクも維持され得、これから増殖された細胞を場合により、より後の段階で得ることができる。しかしながら、好ましくは、該セルバンクは、増殖された細胞、すなわち、工程(c)を含む本発明の方法によって得ることのできる細胞を含む。
該セルバンクは好ましくは、接着していない細胞を含む。このようなセルバンクは、セルバンクを作成する前の接着細胞の酵素的剥離、例えばトリプシン処理を含む方法によって得ることができる。酵素的剥離は、当技術分野の最先端技術による方法によって実施され得る。
1つの実施態様では、細胞を5〜30回の累積集団倍加数(P0の最中の累積集団倍加数は計数しない)、例えば8〜25回の累積集団倍加数(P0の最中の累積集団倍加数は計数しない)かけて増殖させた後に、セルバンクが作成される。
細胞のいくつか又は全部をセルバンクから取り出し、及び/又は、例えば、所望の時点で、例えば将来の時点で、さらなる培養のために使用することができるように、セルバンクは維持されている。
細胞集団が「維持」されている場合、これは、細胞集団の将来の培養を妨害しない任意の条件で実施され得;細胞集団は、凍結形又は非凍結形で維持され得;しかしながら、本発明によるセルバンクでは、凍結形での維持が好ましい。
好ましくは、本発明によるセルバンクは、凍結セルバンクである。凍結細胞は通常、−180℃以下の温度で保存に対して安定であるが、細胞の保存に適した任意の条件がこの実施態様において適切である。細胞を凍結させ得、好ましくは液体窒素中で瞬間凍結させ得る。凍結保護剤が凍結前に添加されてもよい。該細胞は任意の適切な条件で保存され得るが、−180℃以下の温度での凍結が最も典型的である。
該セルバンクは典型的には、多数の個々のバイアル中などの、多数の別々の分注液に含有されている細胞を含有している。好ましくは、各バイアルは細胞懸濁液を含む。間葉系間質細胞の懸濁に適した任意の液体、特に増殖培地、好ましくは本発明に適した増殖培地が、本発明による細胞の再懸濁に適している。好ましい実施態様では、該セルバンクは、例えばMSCBM CDなどの間葉系間質細胞を培養するための基礎培地、又は実質的にそれと等価な基礎培地を含む、液体を含む。好ましくは、該セルバンクの細胞が懸濁される液体はさらに、血小板溶解物、例えば5%(vol/vol)の血小板溶解物(PL)、及びヒト細胞の場合にはヒト血小板溶解物(hPL)を含む。
セルバンク又はその分注液は将来の時点で、例えば生産用バイオリアクター中の、例えば継代培養液に接種するために使用され得る。
本発明のセルバンクの典型的な実施態様は、第一セルバンク(PCB)及び第二セルバンク(SCB)を含む。したがって、本発明のセルバンクは好ましくは、第一セルバンク(PCB)及び第二セルバンク(SCB)から選択される。
最も広義の意味において、「第一セルバンク」という用語は、臍帯から細胞を単離した後に調製される、第一セルバンク、より好ましくは第一凍結セルバンクを指す。
1つの実施態様では、第一セルバンクは、細胞を5〜14回の累積集団倍加数(P0の最中の累積集団倍加数は計数しない)かけて増殖させた後に作成される。
第一セルバンク(PCB)は典型的には分注液の形態である。分注液は、それぞれの前の継代(例えばP2)及び酵素的剥離、例えばトリプシン処理、遠心分離、及び再懸濁の後に調製される。好ましくは、第一セルバンク用の細胞は、100〜300個のバイアル、例えば150〜200個のバイアル、例えば160〜180個のバイアル、又はより正確には165個又は175個のバイアルに分注される。
好ましくは、第一セルバンクの各バイアルは、1×106個の細胞から1×107個の細胞、好ましくは5×106個の細胞から500×106個の細胞、好ましくは10×106個の細胞から100×106個の細胞、好ましくは15×106個の細胞から50×106個の細胞、好ましくは18×106個の細胞から30×106個の細胞、例えば約20×106個の細胞を含む。
好ましくは、各バイアルに含まれる容積は、1〜100ml、例えば2〜20ml、好ましくは3〜10ml、最も好ましくは約4mlである。
1つの例示的な実施態様では、フルスケールの実行後に得られた第一セルバンクは、150〜200個のバイアルからなり、各々が20×106個の細胞を含有し、各々が細胞を含む4mlの(凍結)液体を含有している。
異なるサイズ若しくは内容量のバイアル若しくは容器中の、又は異なる量若しくは濃度の細胞を有する、第二セルバンクに運命づけられた細胞懸濁液を充填することも可能である。それにも関わらず、上記の量は、フルスケールの実行で典型的に得ることができるものを示し、異なるサイズ若しくは内容量のバイアル若しくは容器、又は異なる量若しくは濃度の細胞への変換も計算することができる。
最も広義な意味では、「第二セルバンク」という用語は、臍帯から細胞を単離した後;;換言すれば、第一セルバンクに含まれる細胞の全部又は一部から調製される、第一セルバンク、より好ましくは第一凍結セルバンクの後に調製される、第二セルバンク、より好ましくは第二凍結セルバンクを指す。
1つの実施態様では、第二セルバンクは、細胞を14〜25回の累積集団倍加数(P0の最中の累積集団倍加数は計数しない)かけて増殖させた後に作成される。
第一セルバンクは通常、多数の細胞分注液(これは、さらなる培養のために同時点又は異なる時点で使用され得る)を含むので、1つの第一セルバンクから同時に又は順次、多数の第二セルバンクを作成することが可能である。
例えば、第一セルバンクに含まれる各バイアルから1つの第二セルバンクを作成することが可能である。例えば、1つの第一セルバンクから出発して、100〜300個の第二セルバンク、例えば150〜200個の第二セルバンク、例えば160〜180個の第二セルバンク、又はより正確には165〜175個の第二セルバンクを作成することが可能である。
第二セルバンク(SCB)は典型的には分注液の形態である。分注液は、それぞれの前の継代(例えばP4)及び酵素的剥離、例えばトリプシン処理、遠心分離、及び再懸濁の後に調製される。好ましくは、第二セルバンク用の細胞は、100〜300個のバイアル、例えば150〜200個のバイアル、例えば160〜180個のバイアル、又はより正確には165〜175個のバイアルに分注される。
好ましくは、第二セルバンクの各バイアルは、1×106個の細胞から1×107個の細胞、好ましくは5×106個の細胞から500×106個の細胞、好ましくは10×106個の細胞から100×106個の細胞、好ましくは15×106個の細胞から50×106個の細胞、好ましくは18×106個の細胞から30×106個の細胞、例えば約20×106個の細胞を含む。
好ましくは、第二セルバンクの各バイアルに含まれる容積は、1〜100ml、例えば2〜20ml、好ましくは3〜10ml、最も好ましくは約4mlである。
異なるサイズ若しくは内容量のバイアル若しくは容器中の、又は異なる量若しくは濃度の細胞を有する、第二セルバンクに運命づけられた細胞懸濁液を充填することも可能である。それにも関わらず、上記の量は、フルスケールの実行で典型的に得ることができるものを示し、異なるサイズ若しくは内容量のバイアル又は容器、又は異なる量若しくは濃度の細胞への変換も計算することができる。
工業上の適用可能性
増殖特性を有する哺乳動物細胞、及びそれぞれの細胞集団は、非商業的活動及び商業的活動、例えば研究活動などに価値がある。本発明の細胞は、このような目的のために、とりわけ、該方法の良好な再現性、優れた増殖特性、及びとりわけ高い細胞収量の観点から特に魅力的である。本発明による細胞集団は、例えば研究又は商業用途のために、細胞製品を製造するのに適し得る。例えば、第一セルバンク又は第二セルバンクを調製し、例えばインビトロでの細胞ベースアッセイなどの研究目的のために商業的に、このようなセルバンク又はより典型的にはそれからの個々の分注液を商業的に提供することが工業的に実行可能である。
それに加えて、1回以上のプロセス工程の実行のために、ロボットを含む機械を使用して、自動化された様式で、本発明の方法の全部又は一部を実行することが可能である。したがって、本発明の方法はまた、工業的適用にも受け入れることができる。
いくつかの実施態様では、本発明の細胞は、例えば研究又は生産目的のために、インビトロで培養及び増殖させることができる。例えば、本発明の細胞又はそれから誘導された細胞を使用して、医薬化合物及び医薬組成物の有効性及び/又は細胞毒性及び/又は作用機序をスクリーニングし得、並びに/あるいは、特定の疾患の機序及び/又はインビトロでの遺伝子導入について研究し得、並びに/あるいは、治療的に有効なタンパク質をはじめとするタンパク質などの生体分子を生成し得る。
本発明の細胞は、純粋な培養液として培養しても、又は他の一次若しくは二次の細胞株と共培養してもよい。
さらに、それらの分化能のために、該細胞を使用して、成熟細胞又は成熟細胞株を生成し得る。間葉系間質細胞から成熟細胞への分化は、特定の条件、例えば特定の外来増殖因子の培養培地への添加などによってトリガーされ得る。
以下の実施例及び図面は説明のためであり、特許請求の範囲によって定義される本発明を限定するものではない。
実施例
実施例0:本発明の様々な態様に共通した材料及び方法
全ての実験実施例において、特記されない限り、MSCBM CD又はそれに実質的に等価な基礎培地が使用された。例示的な培地が以下に記載されている。
MSCBM CD基礎培地及びそれを含む増殖培地
MSCBM CD基礎培地は、ロンザ社(ウォーカーズビル、MD州、米国;製造番号95062−688)から市販されている。製造業者によると、それは無血清であり、全種類のヒト間葉系幹細胞の多数回の継代数の増殖に最適化され、多系統分化を支持し、細胞のプレーティングのための接着マトリックスを必要としない。MSCBM CDに実質的に等価な基礎培地も適している。
「MSCBM CD/GA」は以下のように調製される:
−500mlのMSCBM CD(ロンザ社)、
−0.5mlのGA1000(ロンザ社;製造業者によると、GA1000は、30mg/mlのゲンタマイシン及び15μg/mlのアムホテリシンを含有している)。
「MSCBM CD/hPL」は、逸脱した量又は比が明記されていない限り、5%(vol/vol)のヒト血小板溶解物(hPL)及び2U/mlのヘパリンを含有し、それらは両方共にMSCBM CD(すなわち、抗生物質のゲンタマイシン及びアムホテリシンを含んでいない)に添加されている。hPLは、3.8×108個の血小板/mlから1.2×109個の血小板/ml、平均して約7.9×108個の血小板/mlを含む組成物から適切に調製され;このような血小板溶解物は、例えば、イタリアのモデナのポリクリニック(Polyclinic)血液バンク又は任意の他の業者から得ることができる。
「MSCBM CD/GA/hPL」は、逸脱した量又は比が明記されていない限り、5%(vol/vol)のヒト血小板溶解物(hPL)及び2U/mlのヘパリンを含有し、それらは両方共にMSCBM CD/GA(すなわち、抗生物質のゲンタマイシン及びアムホテリシンを含んでいない)に添加されている。
増殖因子(hPL及び/又は基礎培地に最終的に含まれているもの以外)は、特記されない限り、添加されない。
上記培地は、本発明による細胞を増殖させるのに特に適している。
細胞の計数
細胞数の決定のために、特記されない限り、細胞は、自動細胞計数器、例えば特にNucleoCounter(登録商標)によって計数される。必要であれば、細胞は、細胞計数の前に、酵素的に剥離、例えばトリプシン処理される。赤血球の計数が所望ではない場合、細胞集団を、塩化アンモニウムによる処理にかけた後に細胞計数が行なわれ;このような処理は、赤血球を溶解することが知られている。結果として、赤血球を除く、集団中の細胞の総数を決定することができる。その目的を達成するために、赤血球の溶解のために推奨される塩化アンモニウム溶液は、多数の業者(例えばステムセルテクノロジーズ社)から市販されている。このような溶液は、製造業者の説明書に従って添加及び使用されることができる。
実施例1:臍帯のセグメント化及び切片化、並びに刻まれた間質ワルトン膠様質の取得
満期産からヒト臍帯を得る。総重量が40g以上である場合に臍帯を許容する。鋭利な滅菌されたメスを使用して、臍帯を長さ約2.5cmのセグメントへと垂直に切断することによってセグメント化する。臍帯セグメントをHEPES緩衝化食塩水溶液(HBSS)+300μg/mlのゲンタマイシン及び0.15μg/mlのアムホテリシンBで計10分間濯ぐ。機械的振盪を使用して、組織から血液を洗い流す。
各々のこのようにして得られたセグメントについて、以下のように進めて、間質ワルトン膠様質区画を得る:臍帯を縦方向に切開し、直接取り囲んでいる典型的には3mmのマトリックスと共に血管(血管−血管周囲帯、これは血管−血管周囲ワルトン膠様質(PVWJ)とも称される)を取り出し、廃棄する。血管の開放及び/又は血管細胞若しくは血管周囲細胞の損失は避けるべきであるという意味で、取り出しは注意して行なわれるべきである。臍帯マトリックスを引っ張り出すのは避ける。
マトリックス組織を回収する前に、組織の各セグメントを眼で再度調べ、血管周囲ワルトン膠様質が完全に取り出されたことを確かめる。血管も又は血管の断片もセグメント内に全く残存すべきではない。
一旦、血管周囲ワルトン膠様質が臍帯セグメントから取り出されると、鋭利なハサミを使用して臍帯セグメントからマトリックス組織片を切り取る。臍帯セグメントの内表面を鋭利なメスで掻把し、残存するマトリックス組織を得る。掻把後に残存している薄い羊膜上皮膜を非常に注意深く取り出し、廃棄する。臍帯裏打ちの羊膜下(又は間葉)層は、単離されたワルトン膠様質に含まれている。これは、組織を羊膜上皮から注意深くそぎ落とすことによって成し遂げられる;該組織を回収している時に羊膜上皮膜片を含めないように注意することが重要である。このようにして得られた組織は、純粋な間質ワルトン膠様質(SWJ)である。
鋭利なハサミ及び/又はメスを用いて、このようにして得られた(切り取り及び掻把した)間質ワルトン膠様質を細かく刻む。HEPES緩衝化食塩水溶液(HBSS)を、刻んだ組織に加える。刻んだ組織をペトリ皿にプールする。
間質ワルトン膠様質を抽出するために、臍帯血、上皮細胞又は内皮細胞、及び血管系構造由来細胞からの細胞の抽出を回避するために、抽出中に注意が払われる。対比のために(任意選択であるが、特に、本実施例を初めてやり直す時には勧められる)、内皮細胞マーカーはCD31であり;上皮細胞マーカーは上皮細胞接着分子(EpCAM)であり、血管周囲細胞マーカーは3G5である。
実施例1の工程を図3に示す。
実施例1に例示されているような本発明の方法により、臍帯のワルトン膠様質以外の成分(例えば、臍帯内膜/羊膜、血管、及び血液)の区画の完全な除去及び排除を通して、純粋なワルトン膠様質が得られ、臍帯血細胞、上皮細胞又は内皮細胞、及び血管系構造由来細胞の抽出が回避される。これにより、純粋なワルトン膠様質組織(WJ組織)を得ることが可能となる。その発生源のために、この特殊なワルトン膠様質組織は間質ワルトン膠様質組織である。
実施例2A:酵素的処理
材料及び方法:実施例1に記載されているように得られたワルトン膠様質組織を使用して、以下のように、それからワルトン膠様質由来の初代細胞を単離した:刻んだ組織/HBSS混合物を、250mlのコニカルチューブ中の消化用緩衝液(表を参照)中に、消化用緩衝液(以下の表を参照)1mLあたり100mgの刻んだ組織/HBSS混合物の比で懸濁する。消化用緩衝液は、単離された組織から間葉系間質細胞を放出させるのに適した酵素を含む。
表:100mlの消化用緩衝液の配合処方(全ての成分は無菌である)
−1mLのヒト血小板溶解物(例えば、イタリア、モデナのポリクリニック血液バンク製)(3.8×108個の血小板/mlから1.2×109個の血小板/ml、平均して約7.9×108個の血小板/mlを含む組成物から調製される)、
−2U/mLの最終濃度となるまでのヘパリン、
−1mlのピルビン酸ナトリウム(100mMのストック液からの)、
−36μlの1MのCaCl2、
−消化用緩衝液1mlあたり0.18ヴンシュ単位/mlの最終活性となるまでのコラゲナーゼ製剤NB4又はNB6(両方共にセルバ社)、
−基礎培地(哺乳動物細胞用の市販の増殖培地、例えばDMEM又はMSCBM CD)を加えて100mlとする。
セルバ社のコラゲナーゼ製剤(NB4、NB6)、典型的にはNB4を使用した。製造業者によると、コラゲナーゼ製剤NB4/NB6は、コラゲナーゼ産生株であるクロストリジウム・ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)に由来する天然物であり、無毒性であり、コラゲナーゼ及び他のプロテアーゼを含有しているコラゲナーゼ製剤である。製造業者によると、標準等級のNB4(17454.02及び17454.01(両方共にセルバ社))は、様々な組織を解離して、研究目的に使用される、例えば軟骨細胞、筋肉細胞、上皮細胞、皮膚線維芽細胞、肝細胞、脂肪細胞などの様々な細胞型を単離するために設計されている。製造業者によると、コラゲナーゼ製剤NB4はまた、手順を確立する目的のためにコラゲナーゼ製剤NB6の低コストの代替物としても使用され得る。製造業者によると、優良医薬品製造基準等級のコラゲナーゼ製剤NB6(GMP等級のNB6、17454.02(セルバ社))は、いくつかの特殊な移植目的のための細胞の単離用に特別に設計されている。本開示に報告されている実験全体を通して、特記されない限り、NB4が使用された。本実験に使用されるコラゲナーゼ製剤の製造業者であるセルバ社によると、セルバ社は、ヴンシュによるPZ単位(PZ−U)(本明細書におけるヴンシュ単位と同義語である)でコラゲナーゼ活性を示す。
ヘパリンが、血小板溶解物含有液体組成物用の、凝固を回避するのに適した添加剤であることは公知である(例えばLohmann et al., 2012, PLoS ONE, vol. 7e37839)。
脂肪組織の酵素的消化のために以前記載されたことのあるコラゲナーゼ活性に当初は基づいて、より高いコラゲナーゼ活性(最終濃度は0.18ヴンシュ単位/mlよりも高い)を有する消化用緩衝液も試験されたが、より高いコラゲナーゼ活性の存在下における消化は有利ではなかった(データは示されていない)。
刻まれた組織(実施例1)を滅菌チューブに入れた。消化用緩衝液(上記参照)を加えた。刻まれた組織と消化用緩衝液と(消化物)を含有しているこれらのチューブを、消化用のオービタル振盪器で75rpmの一定した穏和な撹拌で、37±1℃で、3時間の消化期間をかけてインキュベートした。「消化物」は、消化される予定の組織と消化用緩衝液の集合体を指す。
消化期間の終了時に、消化物を、1%(v/v)のヒト血小板溶解物(hPL)の補充された2容量のMSCBM CDの添加によって希釈し、2層からなる1枚の滅菌ガーゼパッドを通過させることにより、未消化組織/部分消化組織から分離した。ろ液は「消化された混合物」と称された。
消化された混合物を、250mlの遠心管を使用して680×gで15分間遠心分離にかける。遠心分離終了時に、上清を除去し、ペレット(臍帯のワルトン膠様質に由来する、新たに単離された間葉系間質細胞を含有している)を、1〜2mLのMSCBM CD/GA/hPL(実施例0を参照)に再懸濁する。
続いて、総細胞数を決定する。最も典型的には、消化された混合物に含まれる細胞は全てが間葉系間質細胞であるわけではない。
実施例2B:初回培養(P0及び場合によりP0+)
実施例2Aの再懸濁された細胞を、T225培養フラスコ(ファルコン(登録商標)、コーニング社の商標、コーニング社、NY州、米国)中の、5%hPLを含むMSCBM CD/GAに蒔き(実施例0参照;1つのT−225フラスコあたり50mLの培地)、間質ワルトン膠様質を起源とする細胞のインビトロでの初回培養を開始した。この細胞培養液は「P0」と称される。P0が開始される日は「0日目」と称され、日数はその後、昇順で数える。P0の開始時における細胞密度は、8,000個の細胞/cm2以上である。cm2は、細胞がP0中に培養されている間に、底にあって増殖培地で覆われている、フラスコの表面積を指す。
5日目から開始して3日間毎に新たなMSCBM CD/GA/hPLを細胞にフィードする。あるいは、P0の最中の細胞を、フラスコの代わりにスタックで培養することも可能であり得る:その場合、1つの1×1スタックあたり、150mLのMSCBM CD/GA/hPLを使用して、初回細胞培養を開始する;しかしながら、特記されない限り、P0培養は、T−225培養フラスコ中で実施される。
細胞のコンフルエンスが80〜90%となるまで、P0の最中の細胞を記載されている通りに培養する。これは、通常、5〜12日間の期間後である。その後、細胞をトリプシン処理する。継代の終了時にトリプシン処理後に細胞を計数する。
以下の許容基準が評価される:1収量、2生存率、3コンフルエンス、4形態。許容基準1及び2の決定は、細胞のトリプシン処理後に行なわれる。詳細は以下の通りである。
この実験実施例では、4つ全ての許容基準を満たさなければならない。さらに、形態学的検査では、細胞のサイズ及び形状が比較的均一であるかどうかをさらに目で点検する。好ましくは、これが通例である。
基準2、3又は4のいずれか1つ以上が満たされていない場合、全細胞培養液を廃棄する。基準2、3及び4が通常満たされ、したがって廃棄は必要ではないことが本発明者らの観察である。しかしながら、満たされていない場合には廃棄できることは、許容基準が満たされている場合にのみその後の継代が行なわれることを保証する。
P0後の総細胞数が800万個の細胞よりも多い場合(ただし、許容基準2、3及び4も満たされている)、実施例2Bに直接進む。
P0後の総細胞数が800万個の細胞よりも多くない場合(しかしながら、ただし、許容基準2、3及び4は満たされている)、「P0+」又は「P0プラス」と称される余分の継代培養工程が実施される(疑義を避けるために明記すると、本文書全体を通して、特定の細胞が「P0+」工程中に継代培養された場合には明記され;換言すれば、このような明記がなされない場合には、細胞はP0から直接P1へと通過した(実施例2B))。P0の条件は、上記のようなP0の条件に正確に一致し、ただし、P0+にかけられる再懸濁された細胞は、実施例2Aから直接派生するのではなく、P0から派生する。
細胞のコンフルエンスが80〜90%となるまで、P0+の細胞を培養する。その後、細胞をトリプシン処理する。上記の許容条件を評価する:1収量、2生存率、3コンフルエンス、4形態。全ての基準が満たされれば、実施例2Bに進む。1つ以上の基準(収量を含む)が満たされていなければ、細胞を廃棄する。特に、P0+後の総細胞数が少なくとも800万個ではない場合、細胞を廃棄する。
本実施例における総細胞数は、出発材料として完全なヒト臍帯に基づいて示されている(フルスケールの実行)。出発材料の量が異なる場合(例えば、僅か半分のヒト臍帯)、許容基準1の細胞の総量はそれに応じて算術的に調整される。
異なるフルスケールの実行の間である程度変動する、細胞収量にとりわけ依存して、また異なる個体に由来する生物学的材料のばらつきの観点から、P0の最中の累積集団倍加数は幾分変動する。
実施例2C:さらなる増殖(P1及びその後の継代)
そこに記載されているような実施例2BにおけるP0(又はP0+、しかしそのように明記されている場合にのみ)からトリプシン処理された細胞を入手し、以下のように1継代以上かけて継代培養した。
初回の継代培養は「P1」と称される。P1の終了時に、細胞を再度トリプシン処理し、継代培養する。この継代培養/トリプシン処理のサイクルは、好ましくは4回の継代におよび行なわれるが(P1を「初回継代」と計数する)、場合によっては12回までの継代が行なわれた。各継代には連続的な番号が付けられ、すなわち、P0の後にP1が続き、P1の後にP2が続くなどである。特記されない限り、細胞を増殖させ、第4継代(P4)まで継代培養した。
P1以降の各継代では、全ての培養プレートは同じ確定されたサイズを有する。特に、各継代についての培養容器は、CS5、CS10又はCS20の培養プレート(コーニング、コーニング社、NY州、米国)のスタックから構成された。P1以降の各継代については、細胞を、抗生物質を含まず5%のヒト血小板溶解物を含むMSCBM CD中で増殖させる(実施例0参照;1つのT−225フラスコあたり50mLのMSCBM CD/hPL)。特記されない限り、本実施例では、P0後の全ての継代において、抗生物質を中止する;換言すれば、本実施例ではP1及び全てのその後の継代において抗生物質を添加することなくMSCBM CD/hPLが使用される。
各継代開始時の細胞密度は2,500個の細胞/cm2である。
各継代後、細胞をトリプシン処理する。細胞を、トリプシン処理後、各継代終了時に計数する。
接種時における細胞密度、細胞培養容器の底面積(これは共に、継代開始時の総細胞数を規定する)及び継代終了時の総細胞数の関数として、累積集団倍加数を算術的に決定することができる。
本発明者らの経験では、非常に一般的な法則としての、P1及びP2の最中(P1とP2の合計であるが、P0は含まない)の累積集団倍加数は通常、9〜13の範囲内である。
本発明者らの経験では、非常に一般的な法則としての、P3及びP4の最中(P3とP4の合計であるが、P0、P1及びP2は含まない)の累積集団倍加数は通常、6〜10の範囲内である。結果として、非常に一般的な法則としての、P1、P2、P3及びP4の最中(P1とP2とP3とP4の合計であるが、P0は含まない)の累積集団倍加数は通常、15〜23の範囲内である。
場合により、本明細書において特記されている場合、細胞を特定の継代後、例えばP2後に凍結させた。該細胞を、標準的な手順に従って、凍結、例えば液体窒素中で瞬間凍結させた。このような凍結した細胞を溶かし、例えば、それらを溶かした後にさらなる継代培養にかけることも十分に可能である。凍結は、バッチ全体として又は分注液のいずれかで行なわれ得る。分注して、好ましくはバイアル中に分注して凍結させることがはるかに好ましく、典型的には、特記されない限り本実施例において実施された。
細胞を特定の継代後に凍結し解凍した場合、継代の番号付けは解凍後に継続される。例えば、細胞をP2後に凍結させた場合、解凍後の次の継代は次いでP3である。好ましくは、特記されない限り、累積集団倍加数の計数も、解凍後に継続される。
好ましい実施態様では、細胞をP2後に分注し凍結させる。このようにして得られた凍結させた分注液は、所望の時点で個々に解凍させるために利用可能である。好ましくは分注された凍結細胞は、第一セルバンク(PCB)と称され得る。換言すれば、同時に全てのPCB分注液を解凍する必要はなく、典型的には所望されない。これに対し、分注及び分注液の個々の凍結は、個々の分注液を、個々に及び個々の所望の時点で、凍結から解除し、解凍し、さらなる培養(継代培養、さらなる増殖)にかけるという利点を提供する。
フルスケールの実行の具体例では、168個のバイアル(各々が20×106個の細胞、4mlの内容物を含有している)が、出発材料として1つのヒト臍帯から出発して、P2後に得られた。各バイアルを凍結させ、個々のバイアルを、さらなる継代培養のために、個々の時点で、例えばP3及びそれ以降に解凍することができる。フルスケールの実行の1つの具体例では、P2後に得られ凍結させた1つのバイアルを解凍し、その中に含有されている細胞を、P3及びP4にかける。その具体例では、P4後に、168個のバイアル(各々が20×106個の細胞、4mlの内容物を含有している)が得られた。
細胞のコンフルエンスが80〜90%となるまで、各継代の細胞を、記載の通りに培養する。これは通常、約3〜4日間の期間の後である。その後、以下の許容基準を好ましくは評価する:1収量、2生存率、3コンフルエンス、4形態。許容基準1及び2の決定は、細胞のトリプシン処理後に行なわれる。詳細は以下の通りである。
本発明による増殖によって得ることのできる収量は、間葉系幹細胞を調製し増殖するための以前から知られていた方法と比較して非常に高いことを注記することは重要である。
本実施例では、4つ全ての許容基準を満たしていなければならない:基準の1つが満たされていなければ、それぞれの継代に由来する全細胞培養液を廃棄する。基準1、2、3及び4の全てが通常満たされ、したがって廃棄は必要ではないというのが本発明者らの観察である。しかしながら、満たしていない場合に廃棄できることは、全ての許容基準が満たされている場合にのみその後の継代が実施されることを保証する。
要約すると、実施例2は、間質ワルトン膠様質が、増殖に適格な状態で細胞を保持することを示す。間質ワルトン膠様質細胞は、培養液中で維持及び増殖することのできる、多能性間質細胞候補の簡便な入手源として同定された。
比較実施例
比較のために、細胞を、国際公開公報第2004/072273A及びSarugaser et al., 2005, Stem Cells, vol. 23, p. 220-229に記載されているように、具体的には以下の比較実施例1、2A、2B及び2Cに記載されているように単離した。
比較実施例1
血管をヒト臍帯から単離した。解離した血管を縫合してループを作り、血管内外への液体の通過を遮断した。
比較実施例2A
ループ(比較実施例1)を直ちに、37℃でPBS中1mg/mLのコラゲナーゼ・シグマC−0130S溶液(w/o、Mg2+及びCa2+)を含有している50mLのチューブに入れた。文献によると、コラゲナーゼ・シグマC−0130は、固体1mgあたり0.25〜1.0のFALGPA単位という比活性を有する。参考までに、FALGPA単位は、ヴンシュ単位へと算術的に直接変換できない。なぜなら、それぞれの単位は、異なる基質を用いた異なるアッセイを指すからである;しかしながら、当技術分野には、どのようにヴンシュ単位がFLGPA単位に関連しているかに関するいくらかの一般的な経験がある。その一般的な経験に基づいて、比較実施例2に使用されるコラゲナーゼの総活性が、実施例2で使用されるコラゲナーゼの総活性よりもはるかに高いと結論付けることができる。
コラゲナーゼと共に18〜20時間インキュベートした後、2容量のPBS及び1mLのウシ胎児血清(FBS)の添加によって消化用溶液を停止した。したがって、比較実施例2におけるコラゲナーゼ処理の全持続時間は、実施例2で使用されるコラゲナーゼ処理の全持続時間よりはるかに長い。消化された試料をろ過して、未消化な組織を除去し、1,800rpm(ベックマンコールター社のAllegra(商標)25R)で15分間遠心分離にかけた。細胞を、75%のα−MEM培地、15%の化学組成の定められたFBS、10%の抗生物質中に再懸濁した。血球を溶解するために、塩化アンモニウム(NH4Cl)、重炭酸カリウム(KHCO3)及びEDTAの溶液を、1:3(v/v)の比で使用し、氷上で5〜10分間かけて細胞を穏やかな撹拌によって懸濁した。500×gで10分間遠心分離にかけた後、細胞を再懸濁し、トリパンブルー(0.4%)色素によって計数した。
比較実施例2B
比較実施例2Aに記載のように得られた血管周囲ワルトン膠様質由来細胞(PVWJ)を、6,000〜8,000個の細胞/cm2の密度で播種し、37℃で、15%の化学組成の定められたFBS(ハイクローン、GEヘルスケア社、米国、SH30070.03番)と抗生物質の補充されたα−MEM(ヌクレオシドを含まない、ライフテクノロジーズ社、ウォルサム、MA州、米国、22561−021番)中、5%CO2、95%湿度のインキュベーター中でインキュベートし、「P0」培養を開始した。
培地を、5〜6日後に初めて交換し、2日間毎に新しいものとした。6〜10日間培養した後、細胞はコンフルエンスに達した。6〜10日間の期間後のP0の終了時に、細胞はコンフルエンスに達した。その後、それらをトリプシン処理した。細胞総数を、トリパンブルー色素(0.4%)を用いて決定した。
比較実施例2C
比較実施例1Bから得られたトリプシン処理された細胞を、以下のように入手し継代培養した。第1継代培養(「P1」)以降から、細胞を、15%の化学組成の規定されたウシ胎児血清を含むα−MEM中に、3,500〜4,500個の細胞/cm2の密度で播種した。抗生物質はP0後は中止すべきである;換言すれば、増殖培地は、抗生物質を添加せずに使用される。細胞は、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞(「PVWJ」)と称される。血管周囲ワルトン膠様質(「PVWJ」)由来間葉系間質細胞はまた、「血管周囲帯由来間葉系間質細胞」とも称され得る。特記されない限り、細胞を、第4継代まで増殖させ継代培養した。
場合により、しかし特記されている場合にのみであるが、細胞を、特定の継代後、例えばP2後に凍結させた。このような凍結細胞を解凍し(溶かし)、例えばそれらを溶かした後にさらなる培養継代にかけることが十分に可能である。
実施例3:消化後の細胞の分析
実施例2Aに記載のように得られた細胞(すなわち、血小板溶解物(PL)を用いて又は用いずにのいずれかでの消化工程後)は、間質ワルトン膠様質由来細胞(stromal-Wharton’s Jelly derived cells)すなわち「SWJ」と称される。これらを、血管周囲ワルトン膠様質由来対照細胞(「PVWJ」、比較実施例2A)と比較する。間質ワルトン膠様質由来細胞及び血管周囲ワルトン膠様質由来細胞を、7−アミノ−アクチノマイシン−D(7AAD)染色(Via Probe;BDバイオサイエンシーズ社;製造業者の説明書に従って使用する)を用いて染色して、FACS分析によりアポトーシスを検出する。染色されていない試料を取得して、試料の自己蛍光を検出し、考えられる全てのチャネルについて光電子増倍管(PMT;FACSセンサー)を設置する。補正用の設定は、単色で染色されたチューブを取得することによって確立された。回収されたデータを、Divaソフトウェア(BDバイオサイエンシーズ社)によって分析した。t検定による統計。結果を図4Aに示す。
新たに単離された試料のFACS分析により、両方のNB4コラゲナーゼ製剤に基づいた消化プロトコールについて(血小板溶解物(PL)を含む及び含まない、図4A参照)、本発明者らは、全細胞集団の97%を超える生存率を検出したことが判明した。特に、血小板溶解物を含まないNB4コラゲナーゼ製剤に基づいた消化(3時間の消化)後に、本発明者らは、1.5%±1.3%のアポトーシス率を観察し、1%血小板溶解物を含むNB4コラゲナーゼ製剤に基づいた消化(3時間の消化)後、アポトーシスを受けた細胞は、単離された全細胞の僅か1.45%±0.3%であった。しかしながら、比較実施例1に従って単離された全ての血管周囲ワルトン膠様質由来細胞の30.6%±9.6%が、7AAD陽性であった(図4A、右のより高い灰色の棒グラフ)。したがって、NB4コラゲナーゼ製剤(セルバ社)で3時間処理された試料は、比較実施例1に記載のように単離された細胞よりも生存率がより高かったことを示すことができた。このことは、比較実施例1によるプロトコールが、本発明によるプロトコールによりも細胞にとってより有害であることを示唆する;すなわち、比較実施例1によるプロトコールにより、細胞のより高い割合がアポトーシスを受けている、より多くの細胞が単離される。アポトーシスを受けた細胞は増殖に適さない。
さらに、血小板溶解物の使用(あり/なし)を比較し、AAD7陽性細胞の比率に関する有意差を観察しないことによって(図4A)、本発明者らは、血小板溶解物が、細胞の放出において及びそれらの生存率において、コラゲナーゼ活性に負の影響を及ぼさないことを示すことができた。驚くべきことには、血小板溶解物(通常血漿を含む)の存在は、消化に対して、又はより特定すると細胞の収量に対して全く負の影響を及ぼさなかったが、血小板溶解物は以前に、プロテアーゼをはじめとする特定の酵素の活性に負の影響を及ぼすと報告されていた(Chesney et al., J. Clin. Invest., 1974, vol. 53, p. 1647-1654)。
実施例4A:血管周囲ワルトン膠様質由来細胞と比較した、本発明に従って単離された間質ワルトン膠様質由来細胞の物理的特性の分析
次に、本発明者らは、比較実施例1及び比較実施例2Aによるプロトコールからの血管周囲ワルトン膠様質由来細胞と比較して、本発明(実施例1及び実施例2A)に従って単離された間質ワルトン膠様質由来細胞の総細胞数及び物理的特性を評価することを目的とした。この比較試験は、それぞれの新たに単離された細胞のコラゲナーゼの有効性及び物理的パラメーター(FACSによる)の評価に基づいていた。
第一に、新たに単離された細胞の総数に関して、本発明者らは、本発明者らが実施例1に記載のような本発明による方法によって間質ワルトン膠様質由来細胞を得たよりも、比較実施例1による方法によってより多くの血管周囲ワルトン膠様質由来細胞を得た。
第二に、フローサイトメトリー、すなわち前方散乱光(FSC)及び側方散乱光(SSC)による物理的パラメーターの分析により、間質ワルトン膠様質由来細胞は、比較実施例1による方法によって単離された血管周囲ワルトン膠様質由来細胞と比較して、より低いFSC及びSSCを有することが判明した。結果を以下の表に示し、図5Aに可視化する。
平均すると、間質ワルトン膠様質由来細胞は、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞よりも小さな細胞容積(FSCによって決定される)とより低い内部複雑さ(SSCによって決定される)を有する。FSCの差は、統計学的に有意である。特に、間質ワルトン膠様質由来細胞(本発明による、n=4)は、比較実施例1及び2Aによる方法によって単離された血管周囲ワルトン膠様質由来細胞と比較して(血管周囲ワルトン膠様質由来細胞、n=6)、より低いFSC及びSSCを有する。このフローサイトメトリーの解読値は、本発明による方法によって単離された間質ワルトン膠様質由来細胞が、低い細胞質内複雑性を有するより均質で小さな細胞によって特徴付けられ、一方、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞が、より大きな平均容積及びより大きな細胞質内複雑性を有する不均質な集団によって特徴付けられることを示す。本脈絡における均質は、実質的に全ての細胞がはるかに似ている又は類似していることを意味する。より小さな容積及びより小さな内部複雑性は両方共に、幹細胞性及び性能を示す特色である(例えばWagner et al., 2008, PLoS One, 2008, 3: e2213参照)。一般的に、より複雑な内部構造を有する細胞は、内部構造のために、側方散乱光分析においてより光り/より輝くようである。
実施例4B:新たに単離された細胞の形態学的表現型:血管周囲ワルトン膠様質由来細胞は、本発明に従って単離された細胞とは異なる
間質ワルトン膠様質由来細胞と血管周囲ワルトン膠様質由来細胞の形態を比較した。高度の比較を確実にするために、1つの臍帯を2つの部分に分割した:一方の部分は、実施例1、2A及び2Bに記載の方法を用いて調製され、他方の部分は、比較実施例1、2A及び2Bに従って調製され、しかしながらどちらの場合でも、細胞を、第1継代培養液(P1)の接種から2日後又は3日後に具体的に分析した(原拡大率100倍)。
本発明者らは、本発明による純粋な間質ワルトン膠様質(SMJ)由来細胞は、均質で小さく紡錘形であり(図5B、左)、一方、血管周囲ワルトン膠様質(PVWJ)由来細胞は大きく、傑出した細胞骨格を有する(図5B、左)ことを発見した。血管周囲ワルトン膠様質(PVWJ)由来間葉系間質細胞はまた、「血管周囲帯由来間葉系間質細胞」とも称され得る。
実施例4C:新たに単離された細胞のコロニー形成:血管周囲ワルトン膠様質由来細胞は、本発明に従って単離された細胞とは異なる
次に、本発明による細胞のコロニー形成能を調べた。これは、以下のように実施された:間質ワルトン膠様質由来細胞は、実施例1及び2Aに記載のように得られ、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞は、比較実施例1に記載のように得られた。その後、滅菌漏斗を使用して、細胞含有抽出物を、2層からなる1枚の滅菌ガーゼパッドを通してろ過し、未消化組織を除去した。250mlの遠心管を使用して680×gで15分間遠心分離にかけた。上清を廃棄する(注ぎ出す又は低真空を使用して吸引する)。ペレットを1〜2mLのMSCBM CD/GA/hPLに再懸濁する(実施例0参照)。3×T225フラスコ又は1×1スタック中のMSCBM CD/GA/hPL培地(実施例0参照;1つのT−225フラスコあたり50mLの培地、又は1つの1×1スタックあたり150mL)中に再懸濁された細胞を蒔き、P0培養を開始する。播種から最初の5日間はP0培養液を動かさない。5日後に培地を交換する。その後3日間毎にMSCBM CD/GA/hPLをフィードする。P0細胞を12日目に3U/mLのトリプシンを用いて収集し、MSCBM+1%hPLを用いて中和する。結果を図5Cに示す。これらの所見は、本発明による細胞単離プロトコールが、初回の播種(P0)後により緻密なコロニーを生成することのできるより均質な細胞集団を生じることを実証する。
実施例5:骨髄由来細胞(BM)と、本発明による間質ワルトン膠様質由来細胞の比較
骨髄由来間葉系間質細胞(Grisendi et al., Cytotherapy, 2010, vol., 12, p. 466-477によって記載のように得られたBM−MSC)を、6,000個の細胞/cm2の密度で播種した。本発明(実施例1、2A、2B、及び2C、第5継代(P5)まで特に培養)による間質膠様質由来細胞を、2,800個の細胞/cm2の密度で播種した。2〜3日間培養した後、それらはサブコンフルエントであり、両方の細胞型についての5つの代表的な画像を取得した。特に、プラスチックに接着した間葉系間質細胞は、Axiocamカメラの備え付けられた10倍対物レンズを使用するAxioskop-Observer-1顕微鏡(ツァイス社)を用いて可視化した。画像を取得し、AxioVision4.8.2ソフトウェアによって加工処理し、細胞面積を評価した(Moore et al., Exp. Eye Res. 2013, vol. 115, p. 178-188; Zeilbeck et al., PLoS One., 2014; vol. 9(4), e95546)。
結果を図6に示す。本発明による間質ワルトン膠様質由来細胞は、骨髄から抽出された間葉系間質細胞よりも小さな平均表面積を有することが判明した。
実施例6:新たに単離された細胞の細胞表面マーカー
材料及び方法:3つの臍帯を、2つの異なる方法にかけた(比較実施例1及び2Aによる当技術分野の最先端技術である「血管周囲ワルトン膠様質由来細胞」、対、本発明(実施例1及び2A参照)による細胞である「間質ワルトン膠様質由来細胞」)。
単離直後、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞/間質ワルトン膠様質由来細胞を計数し、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析用ポリプロピレンチューブ中の1mLの1×PBS中に再懸濁した(1本のチューブあたり200,000個の細胞)。細胞を、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、10%のウシ胎児血清(FBS)、0.1Mのアジ化ナトリウム、及び66.6mg/mLのヒト免疫グロブリンGを含有している100μLの遮断緩衝液中で20分間氷上でインキュベートした。続いて、それらを1mlの1×PBSで洗浄し、300gで5分間遠心分離にかけた。
試料を続いて、0.5%のウシ血清アルブミン(BSA;シグマ社)を含む90μLのPBS中、一次抗体を用いて氷上で30分間かけて染色し、488nm及び633nmの波長の2つの空冷レーザーの備え付けられたFACSAriaIIIフローサイトメーター(BDバイオサイエンシーズ社)を用いて分析した。間接的な染色のために(抗GD2抗体についてのみ)、二次ラット抗マウスアロフィコシアニン(APC)にコンジュゲートさせた抗体(BDファーミンゲン社)を使用した。7−アミノ−アクチノマイシン−D(7AAD)染色(ViaProbe;BDバイオサイエンシーズ社;製造業者の説明書に従って使用)をフローサイトメトリーによって評価してアポトーシスを検出した。未染色試料を取得して、試料の自己蛍光を検出し、考えられる全てのチャネルについて光電子増倍管を設置した;蛍光の重複は補正調整によって制御される。補正設定は、単色で染色されたチューブを取得することによって確立された。回収されたデータは、Divaソフトウェア(BDバイオサイエンシーズ社)によって分析された。
結果:新たに単離された試料の免疫表現型分析により、両方の単離法において、本発明者らが、間葉系間質細胞の典型的な表面抗原発現である、CD105、CD73及びCD90を同定したことが判明した。同様に、両方の単離法の後に、血小板由来増殖因子受容体β(CD140b)が検出された。HLA−DRは、どちらの試料中にも検出されなかったが、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞は3G5を発現することが判明し、一方、間質ワルトン膠様質由来細胞は発現せず、このことは、本発明による方法が、間質ワルトン膠様質内に細胞の起源があることに従って、血管周囲細胞は単離されないことを示す。いくつかの表面マーカーの相対的提示を図7Aの左パネルに示す。図7Aの右パネルでは、大半の細胞に発現されている/発現されていない、いくつかの表面マーカーが示されている。
細胞表面マーカーはまた、より長時間の細胞培養後にも分析された。2つの独立した単離株から派生し、異なる累積集団倍加数での細胞培養液が分析された。以下が判明した:異なる細胞単離株間において、CD105、CD90及びCD73(間葉系間質細胞の陽性マーカー)の提示に有意差は全くない。CD105、CD90及びCD73はまた、異なる累積集団倍加数(cPD)においても均一に高い。これとは対照的に、CD45、CD14、CD34、CD19及びHLA−DR(間葉系間質細胞の陰性マーカーであることが知られている)は、両方の単離株に由来し、異なる累積集団倍加数の細胞において、非常に低いレベルで発現されている(以下の表を参照)。
これらのデータは、本発明による方法において間質ワルトン膠様質由来細胞を増殖する条件が、数回の累積集団倍加数かけて、安定な表現型を有する純粋な間質ワルトン膠様質由来細胞集団を高い収率で生成することができることを示す。それ故、本発明の細胞は、セルバンクの作成に適している。
実施例7:増殖させた細胞上での細胞表面マーカー
材料及び方法:血管周囲ワルトン膠様質由来細胞及び間質ワルトン膠様質由来細胞上の表面抗原を特徴付けるために、異なる方法に従って同じ臍帯から調製された、セルバンクに含有されている細胞からFACSアレイを実施した(実施例1及び2A、2B及び2C、対、比較実施例1及び2A、2B及び2C)。細胞をP2で溶かし(実施例2C/比較実施例2C)、P4まで増殖させ(実施例2C/比較実施例2C)、FACS分析を実施した。タンパク質分解酵素及びコラーゲン分解酵素の細胞剥離溶液(アキュターゼ、サーモフィッシャー社)を用いての剥離後、細胞を500×gで10分間遠心分離にかけた。ペレットを培養培地(間質ワルトン膠様質由来細胞ではMSCBM CD/hPL、又は血管周囲ワルトン膠様質由来細胞では15%の化学組成の定められたFBSを含むα−MEM)中に再懸濁し、トリパンブルー0.4%色素によって計数した。細胞を1×PBSで洗浄し、300×gで5分間遠心分離にかけた。細胞を、BDファーミンゲン社の染色緩衝液+EDTA中に再懸濁し、250,000個の細胞/ウェルを96ウェルプレートに蒔いた。フローサイトメトリースクリーニングを、製造業者の説明書に従って、ヒト細胞表面マーカーパネルデータシート(BD Lyoplate(商標)、BDバイオサイエンシーズ社)に従って実施した。結果を図7Bに示す。
本発明(実施例1、2A)に従って新たに単離された細胞がCD46、CD55及びCD59を発現しているかどうかが具体的に試験された。図7Bに示されているように、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞及び間質ワルトン膠様質由来細胞の両方がこれらの表面補体調節因子を発現している。これは、例えば、骨髄由来間葉系間質細胞が、細胞表面補体調節因子を発現していることを示した、Ignatius et al., J. Cell. Biochem., 2011, vol. 112, p. 2594-2605及びSchraufstatter et al., World J. Stem Cells, 2015, vol. 7, p. 1090-1108による以前の記述と一致し、CD46、CD55及びCD59をアップレギュレートするように工学操作されている間葉系間質細胞は、インビトロ及びインビボにおいて補体媒介性細胞溶解から自身を保護すると考えられている。図7Bは、本発明の細胞が、この特殊な発現表現型を共有していることを確認する。
実施例8:定量逆転写酵素PCR(qRT−PCR)によって決定されるような、本発明による細胞の遺伝子発現
材料及び方法:本発明(実施例2C)に従って、特に第4継代後に得られた、細胞を、この分析のために使用した。全細胞内RNAを、製造業者の説明書に従ってTRIzol(ライフテクノロジーズ社)を用いた一工程の方法を使用して単離した。第一鎖相補的cDNAを、製造業者の説明書に従って、revertAid H minus first-strand cDNA合成キット(サーモサイエンティフィック社)を使用して1μgの全RNAから合成した。各々のリアルタイムPCRウェルにおいて10ngのcDNAを使用するために、一本鎖cDNAを分光光度計(ベックマンコールターDU(登録商標)730)によって定量した。
定量リアルタイムPCR技術を、アプライドバイオシステムズ社のStepOne(商標)リアルタイムPCRシステム及びFastSYBR(登録商標)グリーンマスターミックス試薬によって実施した。各標的遺伝子及び基準遺伝子の遺伝子発現の定量を、別々のチューブにおいて実施した。正方向及び逆方向プライマーを、IDT PrimerQuest(登録商標)(http://eu.idtdna.com/PrimerQuest/Home/Indexでオンライン入手可能)を使用して設計し、それらはイントロン配列をスパンすることにより、ゲノムDNAではなくむしろmRNAに特異的であるようにした。標的遺伝子の相対的発現レベルを、内因性の基準β−アクチン遺伝子の発現レベルに対して正規化した。
結果を図8に示す。図8は、例えばAPCDD1、PPARG及びFLVCR2が、間質ワルトン膠様質由来細胞に発現されていることを示す。発現は、本発明に従って調製された異なる間質ワルトン膠様質由来細胞集団間で一貫している。この共有されている発現パターンは、遺伝子発現の観点から、本発明の細胞の一貫性を示す。
しかしながら注目すべきは、これらの遺伝子の発現パターンは、当技術分野の最先端技術に従って単離された血管周囲ワルトン膠様質由来細胞とは顕著に異なる。特に、APCDD1は、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞において全く発現されていない。これは、APCDD1遺伝子の増幅が、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞の試料中に全く観察されなかったという知見から結論付けられる。本発明者らは、リアルタイムPCRによって、APCDD1の発現が、本発明による間質ワルトン膠様質由来細胞においてのみ検出可能であるが、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞には検出不可能であったと結論付ける。APCDD1の発現は、これにより明らかに、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞から本発明の細胞を区別する。
以前の文献は、血管周囲にはない間葉系間質細胞が、血管周囲間葉系間質細胞とは明確に異なるか否かに関して不確かであったが(例えば、Davies et al., Stem Cells Translational Medicine, 2017, vol. 6, p. 1620-1630)、本実施例は今回、本発明に従って得られた間質ワルトン膠様質由来細胞が、血管周囲間葉系間質細胞とは明確に異なるという証明を提供する。
実施例9:本発明による細胞の増殖能、対、基準細胞の増殖能
材料及び方法:細胞培養:P1後に実施例1、2A、2B及び2Cに記載のように得られた本発明による間質ワルトン膠様質由来細胞(SWJ)、又は比較実施例1、2A、2B及び2Cに従って得られた血管周囲ワルトン膠様質由来細胞(PVWJ)(どちらの細胞集団も、同じ臍帯から得られた)を、増殖因子を含まず5%のヒト血小板溶解物(実施例0参照)を含むMSCBM CDに蒔き、37℃で95%湿度を有する5%CO2のインキュベーターに入れた。蒔いてから3日後、及びその後は3日間毎に、培養液に再フィードした。各継代の4日目又は5日目に、細胞をトリプシン処理し、計数した。
細胞計数:細胞を、ビルケルチャンバー中0.4%トリパンブルー色素を使用して計数し、累積集団倍加数(CPD)を、上記のように計算した。
結果を図9Aに示す。1継代あたりより多くの集団倍加数(PD)が、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞よりも間質ワルトン膠様質由来細胞において観察される(図9A)。したがって、本発明による間質ワルトン膠様質由来細胞における集団倍加は、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞よりも速い。集団倍加数の統計学的に有意な増加が、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞と比較して、第2、第3、及び第4継代の間質ワルトン膠様質由来細胞において測定された(t検定による)。
間質ワルトン膠様質由来細胞は高い増殖能を有し、これは使用される培養条件(5%のヒト血小板溶解物を含む増殖培地MSCBM CD)において少なくとも9継代維持される。2つの独立した間質ワルトン膠様質由来細胞単離株を用いて実験的に決定されるような、これらの培養条件下で、間質ワルトン膠様質由来細胞は、以下の表に示されているように、第10継代から第12継代までの間に老化に達するであろう。
本実施例は、本発明による間質ワルトン膠様質由来細胞(SWJ由来細胞)を単離及び増殖する条件が、間質ワルトン膠様質由来細胞の大きな細胞集団を生成することを可能とするという追加のエビデンスを付け加える。本実施例はまた、間質ワルトン膠様質由来細胞が、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞とは異なり、より高い増殖能を有するというエビデンスも付け加える。
高い増殖能及び1継代あたりの高い集団倍加数(PD)は、血管周囲ワルトン膠様質由来細胞などの基準の間葉系間質細胞と比較して、それぞれ、セルバンクの収量を増加させ、及び/又は、セルバンクの作成時間を短縮させる。これは、工業的観点から有利である。
実施例10:テロメラーゼ活性
このアッセイのために、本発明による200,000〜500,000個のワルトン膠様質由来間質細胞(SWJ)を1mLのエッペンドルフチューブに分注し、その後、1,200rpm(ベックマンコールター社のAllegra(商標)25R)で+4℃で10分間遠心分離にかけた。上清を除去し、細胞を1×PBSに再懸濁した。2回目の遠心分離工程後、乾燥ペレットを−80℃で保存した。アッセイを実施するために、TeloTAGGGテロメラーゼPCR ELISA PLUSキット(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を、製造業者の説明書に従って使用した。結果を図10に示す。分析された試料は、キットから提供された陽性対照に関するテロメラーゼ活性(100%と考える)の2.4±1.7%という平均値を示した。このことは、間質ワルトン膠様質由来細胞のより高い増殖能が、異例に高いテロメラーゼ活性とは相関しないことを確認する。
実施例11:老化
材料及び方法:第6継代(P6)、第8継代(P8)、又は第11継代(P11)、第12継代(P12)後の、トリプシン処理後の本発明によるワルトン膠様質由来間質細胞(SWJ)(細胞の入手源については実施例1及び2Aを参照;継代については実施例2B及び2C参照)を、6つのマルチウェルプレート中の3mlの培養培地(5%のヒト血小板溶解物を含むDMEM又は5%のヒト血小板溶解物を含むMSCBM CD)中に3,000個の細胞/cm2の密度で接種し、特記しない限りトリプリケートで、5%CO2、95%湿度のインキュベーター中37℃で4〜5日間培養した。その後、細胞を1×リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、2%ホルムアルデヒド/0.2%グルタルアルデヒド中で室温で10分間かけて固定した。培養プレートを1×PBSで2回濯ぎ、1mLの新たなβ−Gal染色溶液(1mgの5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−βD−ガラクトシド/100μLのジメチルホルムアミド、40mMのクエン酸/リン酸ナトリウム、pH6.0、5mMのフェロシアン化カリウム、5mMのフェリシアン化カリウム、150mMのNaCl、及び2mMのMgCl2)を加えた(製造業者の説明書に従って使用した)。細胞を、37℃で一晩インキュベートし、製造業者(セルシグナリングテクノロジー社)によって提供された説明書に記載のように、倒立顕微鏡の光を用いて発色させた。陽性染色細胞は、細胞質内で青緑のように見えた。染色された試料を1×PBSで洗浄し、倒立顕微鏡(ツァイス社)を使用して2.5倍の対物レンズによって可視化した。(1視野あたりの)陽性染色細胞は1人の観察者によって定量され、各ドナーについて少なくとも8視野を検査した(特記されない限り)。
結果:初期の継代培養(P6〜P8)では、ほんのいくつかの細胞だけが、β−ガラクトシダーゼ染色弱陽性であり(データは示されていない)、このことは、非常に低い播種密度でさえ、本発明による間質ワルトン膠様質由来細胞は、僅かに老化する傾向を有することを示す。いかなる理論にも拘りたくはないが、血小板溶解物は、生体外での細胞の増殖に有利な補助剤、例えば増殖因子を含むことが可能である。
実施例12:骨形成性分化能
方法の説明:第5継代における間質ワルトン膠様質由来細胞(実施例2C)を誘導して、骨形成性系統へと分化させた。簡潔に言えば、間質ワルトン膠様質由来細胞を、6マルチウェル(6−MW)プレート中の、5%ヒト血小板溶解物を含むMSCBM CD中に、10,000個の細胞/cm2の密度で播種した。これらの6マルチウェルプレートを、0.1%ゼラチン溶液で予めコーティングした。3〜4日間平衡化させた後、維持用培地を交換し、骨形成性培地と交換した。骨形成性培地は、10mMのβ−グリセロリン酸、0.1mMのアスコルビン酸−2−リン酸及び10nMのデキサメタゾンと、さらには誘導7日目以降には100ng/mLのrhBMP−2(骨形成タンパク質2)の補充された、5%ヒト血小板溶解物を含むMSCBM CDから構成された。骨形成性分化の確認は、リアルタイムqPCR分析(下記)と組み合わせた、フォンコッサ染色(これにより骨基質が暗く標識される)を通して実施された。
2週間後、骨形成性培地下の培養液(上記参照)及び平行対照培養液(MSCBM CDと5%ヒト血小板溶解物、すなわち、骨形成を誘導しない培地中で平行して増殖)を固定し、染色して、有機カルシウム沈着物を同定した。フォンコッサ染色のために、試料を、氷冷メタノール中で2分間固定し、その後、蒸留水で2回濯ぎ、紫外線(UV)ランプ下で水中硝酸銀と共に30分間インキュベートした。蒸留水で2回さらに洗浄した後、10箇所の高倍率視野を、10倍の拡大率を使用して観察した(Axioskop-Observer-1倒立顕微鏡;ツァイス社)。デジタルで記録された画像を、有機カルシウム沈着物の暗く陽性に染色された領域を選択的に定量するImageJソフトウェア(国立衛生研究所、米国)によって分析した。実験はトリプリケートで実施された。
結果:結果を図12に示す。示されているように、骨形成性培地で14日間処理した後、対照試料の形態は、骨形成性培地により誘導された試料とは異なり、リン酸カルシウムのフォンコッサ染色により、黒色の陽性染色が得られた(図12A)。対照試料と誘導試料における陽性染色領域間の差は、統計学的に有意であった(T検定による)(図12B)。骨形成性の兆候をさらに確認するために、分子的分析がリアルタイムPCRによって実施された(図12C)。骨形成性バイオマーカー遺伝子の相対的発現レベルを、内因性の基準β−アクチン遺伝子に対して正規化した。mRNA誘導倍数を、誘導されずサブコンフルエントな細胞として定義された、間質ワルトン膠様質由来細胞の標準培養条件(MSCBM CD+5%ヒト血小板溶解物)に基づいて計算した。試験された全ての遺伝子が、標準的な培養条件と比較して有意にアップレギュレートされていた(p≦0.05、T検定による)。本発明者らは、アルカリホスファターゼ(ALPL)及び特定のマトリックスタンパク質、例えばビグリカン(BGN)、コラーゲン(COL1A1)、デコリン(DCN)、及びエラスチン(ELN)が最もアップレギュレートされたバイオマーカーであることを観察した。これらのマーカーの組合せは、骨形成性系統にとって特徴的である(Murgia et al., PLoS One. 2016, vol. 11: e0163629)。この発現プロファイルは、細胞の初期の骨形成性への分化系統の決定を確認する。
実施例13:脂肪細胞への分化能
方法の説明:脂肪細胞への分化のために、第5継代培養の間質ワルトン膠様質由来細胞(実施例1、2A、2B、2C)を、6マルチウェル(6−MW)プレート中の、5%ヒト血小板溶解物を含むMSCBM CD中に10,000個の細胞/cm2で播種し、3日後、培地を、脂肪細胞生成誘導培地と交換した。脂肪細胞生成培地は、1μMのデキサメタゾン、60μMのインドメタシン、10μMのインシュリン、0.5mMの3−イソブチル−1−メチルキサンチン(IBMX)、10%のウサギ血清、5%のウマ血清、1%のL−グルタミン、及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンの補充された、5%のヒト血小板溶解物を含むMSCBM CDから構成された。対照細胞を、5%ヒト血小板溶解物を含むMSCBM CDを用いて培養した。各条件についてテクニカルデュプリケートで、細胞を播種した。
10日後、細胞を、オイルレッドO染色液(脂肪細胞のために市販されている染色液)を用いて染色し、以下のように分化を確認した:細胞を1×PBSで簡潔に洗浄し、37%ホルムアルデヒド蒸気を用いて10分間かけて固定し、その後、水で2分間洗浄した。染色は、オイルレッドO溶液(エタノール70%及びアセトン中10mg/mLのオイルレッドO)を3分間かけてウェルに添加することによって得られた。細胞をハリス・ヘマトキシリン(Bio-Optica、ミラノ、イタリア)によって3分間かけて対比染色した。処理後、分化した細胞及び対照を、顕微鏡による観察によって可視化した(Axiocam MRC5カラーカメラ及びAxiovision 4.82ソフトウェアを含むAxio Observer A1;全てツァイス社)。
結果を図13に示す。10日間処理した後の間質ワルトン膠様質由来細胞は、細胞内に丸い脂質の液滴を生成することができ、このことは、脂肪細胞への分化系統の決定を確認する。脂質液胞は主に、誘導された試料において検出されたが、誘導されていない対照では検出されなかった(図13)。
実施例14:軟骨形成性分化能
方法の説明:軟骨形成性分化のために、第5継代培養の200,000〜500,000個の間質ワルトン膠様質由来細胞(実施例1、2A、2B、2C)を、15mLのチューブに分注し、1,200rpmで(ベックマンコールター社のAllegra(商標)25R)で10分間遠心分離にかけた。細胞を、栓を開けたまま37℃の増殖培地中にペレットで維持した。2日間インキュベートした後、増殖培地を、500ng/mLのrhBMP−6、10ng/mLの形質転換増殖因子−β、50mg/mLのITS+予混合物(6.25μg/mLのインシュリン、6.25μg/mLのトランスフェリン、6.25μg/mLのセレン酸、1.25mg/mLのウシ血清アルブミン、及び5.35μg/mLのリノール酸を含有)、100nMのデキサメタゾン、0.2mMのL−アスコルビン酸−2−リン酸、100μg/mLのピルビン酸ナトリウム、40μg/mLのプロリンの補充された、5%のヒト血小板溶解物を含む、MSCBM CDから構成される誘導培地と交換した。培地を3日間毎に交換した。各培地の交換前及び交換後に、チューブを、上記のように1,200rpmで10分間遠心分離にかけた。インキュベーション期間中、細胞は、チューブの栓が開いたままでペレットのままである。誘導は21日間続き、標本を10%ホルムアルデヒド中で1時間かけて固定し、その後、70%(v/v)から100%までの漸増濃度のエタノール中への連続継代によって脱水させた。その後、試料をパラフィンブロックに含め、切断して薄片としてアルシアンブルー染色のために顕微鏡スライド上に置いた。スライドを、Histo−C洗浄剤を用いて脱パラフィン処理し、(100%エタノールから70%エタノールまでの)(v/v)漸減アルコールラダー濃度に通すことにより再水和させた。その後、試料の切片を、10mg/mLのウシ血清アルブミンを含むリン酸緩衝溶液(8g/LのNaCl、2g/LのNaH2PO4、及び0.3g/LのNa2HPO4)中0.5mg/mLのヒアルロニダーゼと共にインキュベートした。スライドを、水で5分間洗浄し、その後、3%(v/v)酢酸溶液に数秒間浸漬した。切片を、3%酢酸(pH2.5)中の10mg/mLのアルシアンブルー溶液(市販の色素)を用いて染色し、そこで30分間そのままとし、水での洗浄工程の後、nuclear Fast Red溶液(市販の色素)を用いて5分間かけて対比染色した。
結果を図14に示す。21日間処理した後、間質ワルトン膠様質由来細胞は、多層のマトリックスの豊富な形態を発達させた。誘導された間質ワルトン膠様質由来細胞は、より低い細胞密度及び細胞外マトリックス内のグリコサミノグリカンを示した。対照の間質ワルトン膠様質由来細胞は、高い細胞密度及び貧弱なマトリックス成分を示した。