JP2021102585A - ビスフェノールの製造方法及びポリカーボネート樹脂の製造方法 - Google Patents

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馨 内山
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未沙紀 梅野
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Abstract

【課題】 芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを製造する反応において、スラリー状態の反応液の混合性を改善し、得られるビスフェノールの重合活性、選択率、色調を改善できる、ビスフェノールの製造方法を提供する。また、ポリカーボネート樹脂の製造方法を提供する。【解決手段】 酸触媒及び下記一般式(A)で表される1価アルコールの存在下で、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとの縮合反応によりビスフェノールを生成するビスフェノールの製造方法。また、前記ビスフェノールの製造方法で製造したビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法。(一般式(A)において、nは、1〜5の整数を示し、Raは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を示す。)【選択図】 なし

Description

本発明は、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを製造する方法に関する。より詳しくは、酸触媒及び特定のアルコールの存在下で、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを製造する方法に関するものである。また、本発明は、上記で得られたビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。
本発明の方法で製造されたビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの樹脂原料や、硬化剤、顕色剤、退色防止剤、その他殺菌剤や防菌防カビ剤等の添加剤として有用である。
ビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの高分子材料の原料として有用である。代表的なビスフェノールとしては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパンなどが知られている(特許文献1)。また、これらのビスフェノールは、通常強酸性触媒の存在下で製造されるが、腐食性の観点から専用の装置が必要となる塩化水素に代わり硫酸を触媒とする製造方法などが知られている(特許文献2)。
特開2008−214248号公報 特開平11−49714号公報
しかしながら、特許文献1、2の製造方法は、その製造量をスケールアップした工業的な観点からは十分に検討されているとはいえない。ビスフェノールの生成反応では、一般的に、反応が進むにつれて、生成物であるビスフェノールが析出し、スラリー状態で反応が行われる。このような反応系では、反応の進行に伴い、固体のビスフェノール量が増加し、反応液中の固体のビスフェノールの濃度(スラリー濃度)が高く、粘性の高い反応液となることで、混合不良が生じるおそれがある。
一般的に10リットル以下の小さいスケールの反応槽においては、反応槽と撹拌翼を自由に組み合わせることが容易であるので、ビスフェノールの析出により反応液の粘性が増加しても、反応槽と撹拌翼のクリアランスを小さくして撹拌効率を向上させることが可能である。そのため、反応の進行に伴いビスフェノールが析出するような反応系においても、反応液の混合性が悪化することを回避しやすい。
一方、立方メートル(1000リットル)以上の反応槽は、汎用的な設備であるため、反応槽や撹拌翼を選ぶことが一般的には困難となる。そのため、立方メートル以上の反応槽でビスフェノール生成反応を行い、ビスフェノールの析出により反応液の粘性が増加した場合、反応槽内にビスフェノールの固体が局所的に堆積し、混合不良に陥ることが懸念される。
実際に、本発明者らが4立方メートルの反応槽で、ビスフェノールを製造したところ、反応の進行により生じたビスフェノールの固体が反応槽と温度計との間に滞留し、混合不良に陥ってしまった。また、この混合不良によって、以下の(1)〜(3)の問題が生じるという知見を得た。
(1)重合活性阻害物質の増加
(2)ビスフェノールの選択率の低下
(3)ビスフェノールの色調悪化
このように、特に、製造スケールを大きくした場合、反応液の混合不良により、得られるビスフェノールの品質が低下するという問題があった。
かかる状況下、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを製造する反応において、製造スケールにかかわらず、スラリー状態の反応液の混合性を改善する製造方法が求められていた。
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを製造する反応において、スラリー状態の反応液の混合性を改善し、得られるビスフェノールの重合活性、選択率、色調を改善できる、ビスフェノールの製造方法の提供を目的とする。また、前記ビスフェノールの製造方法で製造したビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、アルコキシアルコール等の特定のアルコールの存在下でビスフェノールを製造することで、スラリー濃度の高い反応液であっても撹拌効率を改善することができることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 酸触媒及び下記一般式(A)で表される1価アルコールの存在下で、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとの縮合反応によりビスフェノールを生成するビスフェノールの製造方法。
Figure 2021102585
一般式(A)において、nは、1〜5の整数を示し、Raは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を示す。
<2> 前記縮合反応によって生成するビスフェノールを析出させ、前記縮合反応をスラリー状態で行う、前記<1>に記載のビスフェノールの製造方法。
<3> 前記酸触媒に対する前記一般式(A)で表される1価アルコールの質量比が0.01〜1.0の範囲である、前記<1>又は<2>に記載のビスフェノールの製造方法。
<4> 前記強酸が硫酸である、前記<1>から<3>のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
<5> 前記ビスフェノールを生成する反応が、グラスライニング製の反応装置内で行われる、前記<1>から<4>のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
<6> 前記ビスフェノールが、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、及び1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサンからなる群から選択されるいずれかである、前記<1>から<5>のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法で製造したビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法。
本発明によれば、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとを反応させる際、アルコキシアルコール等の特定のアルコールの存在下で実施することで、析出するビスフェノールの固体の滞留を防ぎ、スラリー状態の反応液の混合性を改善することが可能である。また、重合活性の改善、ビスフェノールの選択率の向上、ビスフェノールの色調改善が可能である。
また、前記ビスフェノールの製造方法で製造したビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法が提供される。
実施例で用いた反応装置の模式図である。
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
<ビスフェノールの製造方法>
本発明は、酸触媒及び下記一般式(A)で表される1価アルコールの存在下で、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとの縮合反応によりビスフェノールを生成するビスフェノールの製造方法(以下、「本発明のビスフェノールの製造方法」と記載する場合がある。)に関するものである。
Figure 2021102585
一般式(A)において、nは、1〜5の整数を示し、Raは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を示す。
本発明のビスフェノールの製造方法は、酸触媒及び一般式(A)で表される1価アルコールの存在下で、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとを縮合反応させるものであり、反応の進行に伴い、生成したビスフェノールの析出が起こるように縮合反応を行う。このように、生成したビスフェノールを析出させ、縮合反応をスラリー状態で行うことで、酸触媒によるビスフェノールの分解が抑制される。また、一般式(A)で表される1価アルコールにより、混合性(撹拌性)の悪化や偏流の発生が抑制され、均一に反応させることできる。特に、一般式(A)で表される1価アルコールにより、ビスフェノールのスラリー濃度の高い反応液であっても混合性を改善することができる。これにより、品質の優れたビスフェノールを得ることができる。
本発明のビスフェノールの製造方法とすることで、製造スケールにかかわらず反応液の混合不良が抑制される理由の詳細は明らかではないが、一般式(A)で表される1価アルコールが、ビスフェノールや反応槽の内壁の表面と相互作用し、ビスフェノール同士の相互作用を緩和し凝集を抑制したり、ビスフェノールの反応槽の内壁への付着を抑制しているためと推察される。
特に、グラスライニング製の反応装置のように反応槽の内壁がガラスの場合、反応槽の内壁に生成したビスフェノールが付着しやすく、スケールアップした場合には混合不良が生じやすい。このような内壁がガラスで形成された反応槽を使用しても、本発明のビスフェノールの製造方法では混合不良を抑制することができる。これは、一般式(A)で表される1価アルコールが、ガラス表面のシラノール基とキレート様の水素結合を形成し、シラノール基とビスフェノールの水酸基との水素結合の形成を阻害するためと考えられる。
[ビスフェノール]
本発明のビスフェノールの製造方法で製造されるビスフェノールは、通常、以下の一般式(1)で表される化合物である。
Figure 2021102585
1〜R4の置換基としては、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基などは、置換または無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、i−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基、n−ウンデシルオキシ基、n−ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6−ジメチルフェニル基などが挙げられる。
これらのうちR2とR3は立体的に嵩高いと縮合反応が進行しにくいことから、好ましくは水素原子である。
5とR6の置換基としては、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などは、置換または無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルへキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、i−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基、n−ウンデシルオキシ基、n−ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6−ジメチルフェニル基などが挙げられる。
5とR6は、2つの基の間で互いに結合又は架橋していても良い。R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合してシクロアルキリデン基を形成してもよい。例えば、シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、シクロオクチリデン、シクロノニリデン、シクロデシリデン、シクロウンデシリデン、シクロドデシリデン、フルオレニリデン、キサントニリデン、チオキサントニリデンなどが挙げられる。
具体的には、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ヘプタン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、4,4−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ヘプタンなどが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
この中でも、本発明のビスフェノールの製造方法で製造される好適なビスフェノールは、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、及び1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサンからなる群から選択されるいずれかであり、より好適には、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン又は2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパンである。
[芳香族アルコール]
本発明のビスフェノールの製造方法に用いる芳香族アルコールは、通常、以下の一般式(2)で表される化合物である。
Figure 2021102585
一般式(2)において、R1〜R4は、上記一般式(1)のR1〜R4におけるものと同義である。
2とR3は立体的に嵩高いと縮合反応が進行しにくいことから水素原子であることが好ましい。また、R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアミノ基であることが好ましく、水素原子又はアルキル基であることがより好ましい。例えば、R1及びR4が、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基であり、R2及びR3が、水素原子である化合物が挙げられる。アルキル基は、炭素数1〜12のアルキル基(好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基)とすることができる。
具体的には、上記一般式(2)で表される化合物として、フェノール、メチルフェノール(クレゾール)、ジメチルフェノール(キシレノール)、エチルフェノール、プロピルフェフェノール、ブチルフェノール、メトキシフェノール、エトキシフェノール、プロポキシフェノール、ブトキシフェノール、アミノフェノール、ベンジルフェニル、フェニルフェノールなど等が挙げられる。この中でも、フェノール、メチルフェノール及びジメチルフェノールからなる群から選択されるいずれかが好ましく、メチルフェノール又はジメチルフェノールがより好ましく、メチルフェノールが更に好ましい。
[ケトン又はアルデヒド]
本発明のビスフェノールの製造方法に用いるケトン又はアルデヒドは、通常、以下の一般式(3)で表される化合物である。
Figure 2021102585
一般式(3)において、R5、R6は、上記一般式(1)のR5、R6におけるものと同義である。
好ましくは、R5及びR6は、それぞれに独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、又は、R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合し形成されたシクロアルキリデン基である。アルキル基は、炭素数1〜12のアルキル基(好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基)とすることができる。例えば、R5及びR6は、それぞれに独立に、アルキル基、又は、R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合し形成されたシクロアルキリデン基である化合物が挙げられる。
一般式(3)で表される化合物として、具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタンアルデヒド、ヘキサンアルデヒド、ヘプタンアルデヒド、オクタンアルデヒド、ノナンアルデヒド、デカンアルデヒド、ウンデカンアルデヒド、ドデカンアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン、ウンデカノン、ドデカノンなどのケトン類;ベンズアルデヒド、フェニルメチルケトン、フェニルエチルケトン、フェニルプロピルケトン、クレジルメチルケトン、クレジルエチルケトン、クレジルプロピルケトン、キシリルメチルケトン、キシリルエチルケトン、キシリルプロピルケトンなどのアリールアルキルケトン類;シクロプロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノン、シクロウンデカノン、シクロドデカノンなどの環状アルカンケトン類;フルオレノン、キサントン、チオキサントンなどの複素環ケトン類等が挙げられる。
原料である芳香族アルコールに対しケトン又はアルデヒドの量が多い場合、ケトン又はアルデヒドが多量化し易く、また少ない場合は芳香族アルコールが未反応で損出する。これらのことから、ケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコールのモル比((芳香族アルコールのモル数/ケトンのモル数)又は(芳香族アルコールのモル数/アルデヒドのモル数))の下限は、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.6以上、更に好ましくはモル比1.7以上である。また、その上限は、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下である。
[一般式(A)で表される1価アルコール]
本発明のビスフェノールの製造方法では、以下の一般式(A)で表される1価アルコールを用いる。
Figure 2021102585
一般式(A)において、nは、1〜5の整数を示し、Raは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を示す。
一般式(A)で表される1価アルコールを用いることで、副反応やビスフェノール反応速度の低下を抑えて、反応液の混合性改善の効果を得ることができる。多価アルコールの場合は、自己環化反応を起こしやすく、環状エーテルとなり損出が生じたり、水が副生したりすることにより、反応液の混合性改善の効果が得にくく、更に、ビスフェノール反応速度が落ち、歩留まり悪化のおそれがある。
一般式(A)で表される1価アルコールは、分子内にエーテル部位とアルコール部位とを有する、1価のエーテルアルコールである。ビスフェノールや反応槽の内壁と、一般式(A)で表される1価アルコールのエーテル部位の酸素原子とアルコール部位の酸素原子とがキレート様に相互作用することにより、反応液の混合性の改善に寄与すると考えられる。
スラリー状態での縮合反応における混合性改善の効果をより高めるためには、Raが結合した酸素原子とアルコールの酸素原子との距離は近い方が好ましい。特に、反応槽の内壁がガラスの場合に、混合性改善の効果をより高めるためには、Raが結合した酸素原子とアルコールの酸素原子との距離は近い方が好ましい。この観点から、一般式(A)で表される化合物のnは、5以下であり、好ましくは4以下であり、より好ましくは3以下である。
aで表される炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、及び炭素数2〜12のアルコキシアルキル基は、置換または無置換のいずれであってもよい。
例えば、炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルへキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基等が挙げられる。
また、炭素数6〜12のアリール基としては、フェニル基、トリル基、2,6−ジメチルフェニル基などが挙げられる。
また、炭素数2〜12のアルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、メトキシブチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、エトキシブチル基、n−プロポキシメチル基、i−プロポキシメチル基、n−プロポキシエチル基、i−プロポキシエチル基、n−プロポキシプロピル基、i−プロポキシプロピル基、n−プロポキシブチル基、i−プロポキシブチル基、n−ブトキシメチル基、i−ブトキシメチル基、n−ブトキシエチル基、i−ブトキシエチル基、n−ブトキシプロピル基、i−ブトキシプロピル基、n−ブトキシブチル基、i−ブトキシブチル基などが挙げられる。
aで表されるアルキル基、アリール基及びアルコキシアルキル基は、炭素数が大きくなると疎水性が高くなり、反応槽の内壁のガラス表面との親和性などの低下が懸念される。また、疎水性が高くなるとビスフェノールの溶解度が高まり、精製工程での損失に繋がる場合がある。そのため、Raの炭素数は、12以下であり、好ましくは8以下であり、より好ましくは6以下である。
一般式(A)で表される化合物として、具体的には、メトキシメタノール、メトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エトキシメタノール、エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール等が挙げられる。
酸触媒に対する一般式(A)で表される1価アルコールの質量比(一般式(A)で表される1価アルコールの質量/酸触媒の質量)は、少ない場合は、ビスフェノールの固体の滞留を防ぎ、混合性を改善する効果が十分でなく、重合活性の悪化やビスフェノールの選択率の低下を招く場合がある。また、多い場合は、酸触媒の濃度が一般式(A)で表される1価アルコールによって希釈されて反応に時間を要する。そのため、酸触媒に対する一般式(A)で表される1価アルコールの質量比は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上である。また、その上限は、好ましく1.0以下、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.3以下である。
[酸触媒]
本発明のビスフェノールの製造方法における酸触媒としては、硫酸、塩化水素ガス、塩酸、p−トルエンスルホン酸などの芳香族スルホン酸、メタンスルホン酸などの脂肪族スルホン酸、リン酸などの強酸を用いることができる。
原料であるケトン又はアルデヒドに対する酸触媒のモル比((酸触媒のモル数/ケトンのモル数)又は(酸触媒のモル数/アルデヒドのモル数))は、少ない場合は、縮合反応の進行とともに副生する水によって酸触媒が希釈されて反応に時間を要する。また、多い場合は、ケトン又はアルデヒドの多量化が進行する場合がある。これらのことから、原料であるケトン又はアルデヒドに対する酸触媒のモル比は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上である。また、その上限は、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは5以下である。
中でも、酸触媒は、硫酸、塩化水素ガス、塩酸、芳香族スルホン酸、及び脂肪族スルホン酸からなる群から選択される1以上であることが好ましい。芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとの縮合反応において、リン酸では、反応性が低く、ビスフェノールが析出しにくく、スラリー状態で縮合反応を行うことが難しいため、ビスフェノールの収率や品質が低下しやすい傾向にある。より好ましくは、硫酸、塩化水素ガス、及び塩酸からなる群より選ばれる1以上であり、更に好ましくは、硫酸及び/又は塩化水素ガスである。反応効率に優れ、かつ、触媒の揮発性がなく設備への負担が少ないという観点から、酸触媒としては硫酸が特に好ましい。
硫酸は、化学式H2SO4で表される酸性の液体である。一般的に、硫酸は水で希釈された硫酸水溶液として用いられ、その濃度に応じて、濃硫酸や希硫酸といわれる。例えば、希硫酸とは、質量濃度が50質量%未満の硫酸水溶液である。
用いる硫酸の濃度(硫酸水溶液の濃度)が低いと、水の量が多くなるため、ビスフェノールの生成反応が進行しにくくなり、ビスフェノールを製造する反応時間が長くなり、効率的にビスフェノールを製造することが難しい場合がある。そのため、用いる硫酸の濃度は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上である。また、用いる硫酸の濃度の上限は、通常99.5質量%以下又は99質量%以下である。
[チオール助触媒]
芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとを縮合させる反応では、助触媒としてチオール助触媒を用いることができる。チオール助触媒としては、例えば、メルカプト酢酸、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、4−メルカプト酪酸などのメルカプトカルボン酸、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、へキシルメルカプタン、へプチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン(デカンチオール)、ウンデシルメルカプタン(ウンデカンチオール)、ドデシルメルカプタン(ドデカンチオール)、トリデシルメルカプタン、テトラデシルメルカプタン、ペンタデシルメルカプタン、メルカプトフェノールなどが挙げられる。
ケトン又はアルデヒドに対するチオール助触媒のモル比((チオール助触媒のモル数/ケトンのモル数)又は(チオール助触媒のモル数/アルデヒドのモル数))は、少ないとチオール助触媒を用いることによるビスフェノールの選択性改善の効果が得られず、多いとビスフェノールに混入して品質が悪化する場合がある。これらのことから、ケトン又はアルデヒドに対するチオール助触媒のモル比の下限は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上である。また、その上限は、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.1以下である。
[有機溶媒]
ビスフェノールを生成する反応は、有機溶媒の存在下で行ってもよい。有機溶媒としては、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪族炭化水素などが挙げられる。これらの溶媒は、1以上を含んでもよい。例えば、芳香族炭化水素と脂肪族アルコールとの混合溶媒を用いてもよい。
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレンなどが挙げられる。
脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等が挙げられる。
脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、i−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ウンデカノール、n−ドデカノールなどの1価のアルキルアルコール;エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコールなどの多価アルコールなどが挙げられる。
脂肪族アルコールは、反応効率等の観点から、炭素数1〜12の1価のアルキルアルコールが好ましく、炭素数1〜8の1価のアルキルアルコールとすることがより好ましい。
なお、原料である芳香族アルコールを多量に使用して有機溶媒の代わりとしてもよい。この場合、未反応の芳香族アルコールは損失となるが、蒸留などにより回収及び精製して再利用することで損出を低減できる。
有機溶媒を用いる場合、原料であるケトン又はアルデヒドに対する有機溶媒の質量比((有機溶媒の質量/ケトンの質量)又は(有機溶媒の質量/アルデヒドの質量))は、多すぎると、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとが反応しにくく、反応に長時間を要する。少なすぎると、生成してくるビスフェノールにより混合不良が生じる場合や、ケトン又はアルデヒドの多量化が促進される場合がある。これらのことから、ケトン又はアルデヒドに対する有機溶媒の質量比は、0.5以上が好ましく、1以上がより好ましい。また、その上限は、有機溶媒の種類に応じて、ビスフェノールの析出が起こる範囲で調整すればよく、100以下や50以下、30以下とできる。
生成してくるビスフェノールが析出しやすく、反応終了後、反応液からビスフェノールを回収する際の損失(例えば、晶析時の濾液への損失)を低減できることからも、ビスフェノールの溶解度が低い溶媒を用いることが好ましい。ビスフェノールの溶解度が低い溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素が挙げられる。このため、有機溶媒は、芳香族炭化水素を主成分として含むことが好ましく、有機溶媒中に芳香族炭化水素を55質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことが更に好ましい。
芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとの縮合反応において、酸触媒と、一般式(A)で表される1価アルコールと、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとを含む反応液を調製するための各種原料の混合順に特に制限はない。ケトン又はアルデヒドの自己縮合による多量化を抑制するためには、芳香族アルコールと酸触媒とを含む溶液に、ケトン又はアルデヒドを含む溶液を供給し、縮合反応を行うことが好ましい。このケトン又はアルデヒドを含む溶液の供給方法は、一括で供給する方法や、分割して供給する方法を用いることができるが、ビスフェノールを生成する反応が発熱反応であることから、少しずつ滴下して供給するなど分割して供給する方法が好ましい。
芳香族アルコールと酸触媒とを含む溶液は、芳香族アルコールと酸触媒とからなるものであってもよく、それ以外の成分を含むものであってもよい。例えば、芳香族アルコールと酸触媒と有機溶媒とを含む溶液としてもよい。
また、ケトン又はアルデヒドを含む溶液は、ケトン又はアルデヒドからなるものであってもよく、それ以外の成分を含んでもよい。例えば、チオール助触媒を用いる場合、チオール助触媒は、ケトン又はアルデヒドに予め混合してから反応に供することが好ましい。チオール助触媒と、ケトン又はアルデヒドとの混合方法は、チオール助触媒に、ケトン又はアルデヒドを供給してもよく、ケトン又はアルデヒドにチオール助触媒を供給しても良い。また、ケトン又はアルデヒドを含む溶液は、有機溶媒を含むものとしてもよい。
上記の通り、本発明のビスフェノールの製造方法では、縮合反応が進むにつれて、ビスフェノールの析出が起こるため、反応液はスラリー液に変化し、縮合反応がスラリー状態で行われる。スラリー液とは、液体の中に固体が分散した懸濁液である。本発明のビスフェノールの製造方法のビスフェノールを生成する反応におけるスラリー液は、具体的には、有機相(未反応の芳香族アルコールやケトン又はアルデヒドなど)と、水相(硫酸や生成する水など)とを含む液体に、固体のビスフェノールが分散した3相系のスラリー液である。
生成したビスフェノールの析出量が少ないほど、ビスフェノールの分解物が増加する傾向にある。そのため、一般式(A)で表される1価アルコールの量や、有機溶媒の有無、反応時間、反応温度などを適宜選択し、スラリー液中にビスフェノールを一定量以上析出させることが好ましい。例えば、反応終了時のスラリー液のスラリー濃度(固体のビスフェノールの質量/スラリー液の質量×100(%))は、15質量%以上や20質量%以上とすることができる。また、反応終了時のスラリー液のスラリー濃度が50質量%以下や40質量%以下、35質量%以下などと上限を設けて、スラリー濃度を管理してもよい。
反応温度は、低すぎると縮合反応が進行しにくくなることから、好ましくは−30℃以上であり、より好ましくは−20℃以上であり、更に好ましくは−15℃以上である。また、反応温度が高すぎると、副反応であるアセトン又はケトンの自己縮合反応が進行し、助触媒であるチオールを用いた場合にはチオールの酸化分解が進行しやすくなるため、好ましくは50℃以下であり、より好ましくは45℃以下であり、更に好ましくは40℃以下である。
本発明のビスフェノールの製造方法において、縮合反応の反応時間は、製造するビスフェノールの種類や反応温度、製造スケール等の反応条件により適宜調整されるものであるが、通常、500時間以下であり、400時間以下や350時間以下であってもよい。反応時間が長い場合、生成したビスフェノールが分解しやすくなることから、好ましくは30時間以内、より好ましくは25時間以内、更に好ましくは20時間以内である。また、反応時間の下限は、通常、0.5時間以上であり、1時間以上であることが好ましく、1.5時間以上であることがより好ましい。
なお、反応時間は、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとの混合時間も含むものである。例えば、芳香族アルコールと酸触媒とを混合した混合溶液に、ケトン又はアルデヒドを1時間かけて供給した後、1時間反応させた場合、反応時間は2時間である。
また、反応は、例えば、用いる酸触媒と同等量以上の水や塩基を加えて酸触媒濃度を低下させることで停止させることが可能である。
[反応装置]
ビスフェノールを生成する反応は、強酸を触媒として進行するため、反応槽の内壁の表面が耐腐食性の材質であることが好ましい。特に、反応槽の内壁がガラスのような親水性の高い材質であっても、本発明のビスフェノールの製造方法では、ビスフェノールの内壁への付着を抑制することができるため、反応装置として、耐食性に優れたグラスライニング製の反応装置を用いることが好ましい。
本発明のビスフェノールの製造方法は、ビスフェノールの分散したスラリー液を得る反応工程の後、ビスフェノールを精製する精製工程を有するものとすることができる。
[精製方法]
ビスフェノールの精製は、常法により行うことができる。例えば、晶析やカラムクロマトグラフィーなどの簡便な手段により精製することが可能である。一例として、縮合反応後、反応液を分液して得られた有機相を水又は食塩水などで洗浄し、更に必要に応じて重曹水などで中和洗浄する。次いで、洗浄後の有機相を冷却し晶析させる。洗浄や晶析や複数回行ってもよい。
芳香族アルコールを多量に用いる場合は、該晶析前に蒸留による余剰の芳香族アルコールを留去してから晶析させる。
[ビスフェノールの用途]
本発明のビスフェノールの製造方法で得られるビスフェノールは、光学材料、記録材料、絶縁材料、透明材料、電子材料、接着材料、耐熱材料など種々の用途に用いられるポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレ−ト樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂など種々の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂など種々の熱硬化性樹脂などの構成成分、硬化剤、添加剤もしくはそれらの前駆体などとして用いることができる。また、感熱記録材料等の顕色剤や退色防止剤、殺菌剤、防菌防カビ剤等の添加剤としても有用である。
これらのうち、良好な機械物性を付与できることより、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の原料(モノマ−)として用いることが好ましく、中でもポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂の原料として用いることがより好ましい。また、顕色剤として用いることも好ましく、特にロイコ染料、変色温度調整剤と組み合わせて用いることがより好ましい。
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
本発明のビスフェノールの製造方法にて得られたビスフェノール(以下、「本発明のビスフェノール」と記載する場合がある。)を原料とするポリカーボネート樹脂の製造方法について説明する。本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法にて得られるポリカーボネート樹脂は、本発明のビスフェノールと、炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステルとを、例えば、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させる方法などにより製造することができる。上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選択して行うことができるが、以下に本発明のビスフェノールと炭酸ジフェニルを原料とした一例を説明する。
上記のポリカーボネート樹脂の製造方法において、炭酸ジフェニルは、本発明のビスフェノールに対して過剰量用いることが好ましい。該ビスフェノールに対して用いる炭酸ジフェニルの量は、製造されたポリカーボネート樹脂に末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造し易い点では少ないことが好ましい。これらのことから、ビスフェノール1モルに対する使用する炭酸ジフェニルの量は、通常1.001モル以上、好ましくは1.002モル以上であり、また、通常1.3モル以下、好ましくは1.2モル以下である。
原料の供給方法としては、本発明のビスフェノール及び炭酸ジフェニルを固体で供給することもできるが、一方又は両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
炭酸ジフェニルとビスフェノールとのエステル交換反応でポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。上記のポリカーボネート樹脂の製造方法においては、このエステル交換触媒として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物を用いることが望ましい。
ビスフェノール又は炭酸ジフェニル1モルに対して用いられる触媒量は、通常0.05μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、さらに好ましくは0.10μモル以上であり、また、通常100μモル以下、好ましくは50μモル以下、さらに好ましくは20μモル以下である。
触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマーの分岐化が進まず、成形時の流動性に優れたポリカーボネート樹脂を得やすい。
上記方法によりポリカーボネート樹脂を製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。
エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。
以下、実施例および比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
[原料及び試薬]
オルトクレゾール、アセトン、トルエン、硫酸、ドデカンチオール、メタノール、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸セシウムは、和光純薬株式会社の試薬を使用した。
[評価]
<反応液3の混合性>
反応液3の混合性の評価は以下の基準に基づき、目視で実施した。
◎:ビスフェノールの固体の堆積・偏流が見られない。
○:ビスフェノールの固体が局所的に堆積し、一部偏流が見られる。
△:ビスフェノールの固体が全体的に堆積し、撹拌翼付近を除き、撹拌不能。
×:ビスフェノールの固体が全体的に堆積し、撹拌不能。
<ビスフェノールを含む反応生成液の組成分析>
ビスフェノールを含む反応生成液の組成分析は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
・装置:島津製作所社製LC−2010A
Imtakt ScherzoSM−C18 3μm 250mm×3.0mmID
・方式:低圧グラジェント法
・分析温度:40℃
・溶離液組成:
A液 酢酸アンモニウム:酢酸:脱塩素水=3.000g:1mL:1Lの溶液
B液 酢酸アンモニウム:酢酸:アセトニトリル=1.500g:1mL:900mLの溶液
・分析時間0分では、A液:B液=60:40(体積比、以下同様。)
分析時間0〜42分は、溶離液組成をA液:B液=10:90へ徐々に変化させ、
分析時間42〜50分は、A液:B液=10:90に維持した。
・流速0.34mL/分
・検出波長は280nm
<色調の評価>
ビスフェノールの色調の評価は以下の方法で実施した。
・装置:日本電色工業社製 SE6000 アルミブロックヒーター
・器具:日電理化硝子製の試験管(24mm×200m/m P−24)
試験管に製品ビスフェノールを20g計り取り、アルミブロックヒーターを用いて190℃に加温・溶融し、加温開始から30分経過時点のハーゼン色数を測定した。
<トルクの測定方法>
・装置:新東科学株式会社製 HEIDON BLh1200R
・回転数:600回転毎分
・反応液1を600回転毎分で撹拌した時にかかるトルクを0.010Nmに合わせた。
<ビスフェノールの重合活性評価>
得られたビスフェノールを用いてポリカーボネート樹脂を製造し、280℃に昇温してから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)をビスフェノールの重合活性として評価した。ビスフェノールの重合活性は、以下の基準に基づき、評価した。
○:140〜200分
△:140分未満、及び200分以上
×:既定の重合触媒量で重合反応が進行しない
[実施例1]
(1−1)ビスフェノールを生成する反応
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えた1Lのガラス製セパラブルフラスコを用意した。このセパラブルフラスコに、トルエン261.3g、オルトクレゾール230.4g、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール20.0gを入れて600回転毎分で撹拌し、反応液1とした。この時にかかるトルクを0.010Nmに合わせた。
なお、析出したビスフェノールCの固体の滞留が観察しやすいよう、温度計はセパラブルフラスコの内壁から1cmの位置に設置した(図1参照)。通常、温度計を、イカリ型撹拌翼のシャフトやフラスコの内壁にくっつけて配置するため、析出したビスフェノールCは滞留しにくいが、本実施例では、撹拌翼や温度計の位置を任意に調整できずビスフェノールCが滞留しやすい装置で反応を行った場合を想定しているため、温度計を、撹拌翼のシャフトやフラスコの内壁から離して配置した。
反応液1を10℃以下に維持しつつ、撹拌しながら98質量%の硫酸131.1g(硫酸に対する2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールの質量比は、0.16であった)を入れ、反応液2とした。
次に、前記滴下ロートに、アセトン65.0g、ドデカンチオール5.4g、トルエン87.1gを入れた。反応液2を10℃以下に維持した状態で、該滴下ロート内の溶液を撹拌しながら45分かけて反応液2へ滴下した。得られた反応液を反応液3とした。
反応液3を10℃に維持した状態で更に1時間撹拌した。
なお、該滴下ロート内の溶液を反応液2に滴下している途中で、ビスフェノールCの析出により反応液はスラリー液になり、スラリー状態で反応が行われた。
その後、反応液3へ25質量%水酸化ナトリウム溶液120gを加えて撹拌し75℃まで昇温した後、静置させて油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去した。得られた有機相に、3質量%炭酸水素ナトリウム溶液を加えて撹拌して中和し、油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、ビスフェノールCを含む反応生成液642.9gを得た。
なお、撹拌の回転数は全工程600回転毎分で行った。
(1−2)ビスフェノール反応生成液の組成分析
高速液体クロマトグラフィーを用いてビスフェノールCを含む反応生成液の組成を分析したところ、ビスフェノールCが36.7質量%生成していた。ビスフェノールCの反応収率((生成したビスフェノールCのオルトクレゾール換算のモル数)/原料のオルトクレゾールのモル数)×100)は、88.6モル%((36.7[質量%]×反応生成液の質量649.2[g]/ビスフェノールCの分子量256[g/モル])×2/原料のオルトクレゾールのモル数2.1[モル]×100[%]=88.6モル%)であった。ビスフェノールCの選択率((生成したビスフェノールCのオルトクレゾール換算のモル数)/(反応に使用されたオルトクレゾールのモル数)×100)は、96モル%であった。
(1−3)反応液3のトルク測定
反応液3の1時間撹拌後のトルクを測定したところ、その時点のトルクは0.067Nmであった。
(1−4)ビスフェノールの精製
(1−1)で得られたビスフェノールCを含む反応生成液を、80℃から5℃まで徐々に冷却し、ビスフェノールCの結晶を析出させた。得られたビスフェノールの結晶を含む液を、遠心分離機を用いて固液分離を行い、粗ウェットケーキを得た。この粗ウェットケーキにトルエンを175g供給し、ケーキをほぐしながら懸濁洗浄を実施し、再度遠心分離機を用いて固液分離を行った。この作業を更に2回繰り返し、精ケーキを得た。オイルバスを備えたエバポレータを用いて、減圧下オイルバス温度100℃で軽沸分を留去することで、白色の精製ビスフェノールC224gを得た。
(1−5)ビスフェノールの色調評価
(1−4)で得られた精製ビスフェノールCを試験管に20g計り取り、190℃に加熱したアルミブロックヒーターを用いて溶融した。溶融開始から30分時点でのハーゼン色数を測定したところ、APHA25であった。
(1−6)ビスフェノールの重合活性評価
撹拌機及び留出管を備えた内容量150mLのガラス製反応槽に、(1−4)で得られた精製ビスフェノールCを100.00g(0.39モル)、炭酸ジフェニル86.49g(0.4モル)及び、400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μLを入れた。該ガラス製反応槽を約100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応槽の内部を窒素に置換した。その後、該反応槽を200℃のオイルバスに浸漬させ、内容物を溶融した。
撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内の精製ビスフェノールCと炭酸ジフェニルのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応槽内の圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。続いて反応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応槽外部温度を250℃に昇温すると共に、40分間かけて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。
その後、反応槽外部温度を280℃に昇温、反応槽の絶対圧力を30Paまで減圧し、重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。
280℃に昇温してから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)は170分であった。
[実施例2]
(2−1)ビスフェノールを生成する反応
実施例1において、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールを、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール15.0g(硫酸に対する2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールの質量比は、0.12であった)と、メタノール5.0gとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、ビスフェノールCを含む反応生成液642.5gを得た。
なお、実施例1と同様に、滴下ロート内の溶液を反応液2に滴下している途中で、ビスフェノールCの析出により反応液はスラリー液になり、スラリー状態で反応が行われた。
(2−2)ビスフェノール反応生成液の組成分析
高速液体クロマトグラフィーを用いてビスフェノールCを含む反応生成液の組成を分析したところ、反応生成液中のビスフェノールCは36.1質量%生成していた。ビスフェノールCの反応収率は、86.3モル%((36.1[質量%]×反応生成液の質量642.5[g]/ビスフェノールCの分子量256[g/モル])×2/原料のオルトクレゾールのモル数2.1[モル]×100[%]=86.3モル%)であった。ビスフェノールCの選択率は、95モル%であった。
(2−3)反応液3のトルク測定
反応液3の1時間撹拌後のトルクを測定したところ、その時点のトルクは0.120Nmであった。
(2−4)ビスフェノールの精製
実施例1と同様に実施し、白色の精製ビスフェノールCを218g得た。
(2−5)ビスフェノールの色調評価
(2−4)で得られた精製ビスフェノールCを用い、実施例1と同様に実施した。溶融開始から30分時点でのハーゼン色数は、APHA23であった。
(2−6)ビスフェノールの重合活性評価
(2−4)で得られた精製ビスフェノールCを用い、実施例1と同様に重合反応を実施した。280℃に昇温してから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)は165分であった。
[実施例3]
(3−1)ビスフェノールを生成する反応
実施例1において、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールを、メトキシエタノール20.0g(硫酸に対するメトキシエタノールの質量比は、0.16であった)とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、ビスフェノールCを含む反応生成液645.7gを得た。
なお、実施例1と同様に、滴下ロート内の溶液を反応液2に滴下している途中で、ビスフェノールCの析出により反応液はスラリー液になり、スラリー状態で反応が行われた。
(3−2)ビスフェノール反応生成液の組成分析
高速液体クロマトグラフィーを用いてビスフェノールCを含む反応生成液の組成を分析したところ、反応生成液中のビスフェノールCは38.1質量%生成していた。ビスフェノールCの反応収率は、91.5モル%((38.1[質量%]×反応生成液の質量645.7[g]/ビスフェノールCの分子量256[g/モル])×2/原料のオルトクレゾールのモル数2.1[モル]×100[%]=91.5モル%)であった。ビスフェノールCの選択率は、96モル%であった。
(3−3)反応液3のトルク測定
反応液3の1時間撹拌後のトルクを測定したところ、その時点のトルクは0.078Nmであった。
(3−4)ビスフェノールの精製
実施例1と同様に実施し、白色の精製ビスフェノールCを232g得た。
(3−5)ビスフェノールの色調評価
(3−4)で得られた精製ビスフェノールCを用い、実施例1と同様に実施した。溶融開始から30分時点でのハーゼン色数は、APHA23であった。
(3−6)ビスフェノールの重合活性評価
(3−4)で得られた精製ビスフェノールCを用い、実施例1と同様に重合反応を実施した。280℃に昇温してから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)は175分であった。
[実施例4]
(4−1)ビスフェノールを生成する反応
実施例1において、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールを、エトキシエタノール20.0g(硫酸に対するエトキシエタノールの質量比は、0.16であった)とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、ビスフェノールCを含む反応生成液646.1gを得た。
なお、実施例1と同様に、滴下ロート内の溶液を反応液2に滴下している途中で、ビスフェノールCの析出により反応液はスラリー液になり、スラリー状態で反応が行われた。
(4−2)ビスフェノール反応生成液の組成分析
高速液体クロマトグラフィーを用いてビスフェノールCを含む反応生成液の組成を分析したところ、反応生成液中のビスフェノールCは36.4質量%生成していた。ビスフェノールCの反応収率は、87.5モル%((36.4[質量%]×反応生成液の質量646.1[g]/ビスフェノールCの分子量256[g/モル])×2/原料のオルトクレゾールのモル数2.1[モル]×100[%]=87.5モル%)であった。ビスフェノールCの選択率は、96モル%であった。
(4−3)反応液3のトルク測定
反応液3の1時間撹拌後のトルクを測定したところ、その時点のトルクは0.072Nmであった。
(4−4)ビスフェノールの精製
実施例1と同様に実施し、白色の精製ビスフェノールCを220g得た。
(4−5)ビスフェノールの色調評価
(4−4)で得られた精製ビスフェノールCを用い、実施例1と同様に実施した。溶融開始から30分時点でのハーゼン色数は、APHA24であった。
(4−6)ビスフェノールの重合活性評価
(4−4)で得られた精製ビスフェノールCを用い、実施例1と同様に重合反応を実施した。280℃に昇温してから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)は180分であった。
[比較例1]
(比較1−1)ビスフェノールを生成する反応
実施例1において、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールを、メタノール20.0gとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、ビスフェノールCを含む反応生成液638.8gを得た。
(比較1−2)ビスフェノール反応生成液の組成分析
高速液体クロマトグラフィーを用いてビスフェノールCを含む反応生成液の組成を分析したところ、反応生成液中のビスフェノールCは32.0質量%生成していた。ビスフェノールCの反応収率は、76.0モル%((32.0[質量%]×反応生成液の質量638.8[g]/ビスフェノールCの分子量256[g/モル])×2/原料のオルトクレゾールのモル数2.1[モル]×100[%]=76.0モル%)であった。ビスフェノールCの選択率は、92モル%であった。
(比較1−3)反応液3のトルク測定
反応液3の1時間撹拌後のトルクを測定したところ、その時点のトルクは0.083Nmであったが、反応槽内にビスフェノールCの固体が滞留し、全体が撹拌できていないため、参考値とした。
(比較1−4)ビスフェノールの精製
実施例1と同様に実施し、白色の精製ビスフェノールCを192g得た。
(比較1−5)ビスフェノールの色調評価
(比較1−4)で得られた精製ビスフェノールCを用い、実施例1と同様に実施した。溶融開始から30分時点でのハーゼン色数は、APHA45であった。
(比較1−6)ビスフェノールの重合活性評価
(比較1−4)で得られた精製ビスフェノールCを用い、実施例1と同様に重合反応を実施したが、既定の重合触媒量(400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μL)では重合反応が進行しなかった。
[比較例2]
(比較2−1)ビスフェノールを生成する反応
実施例1において、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールを、メタノール10.0gとした以外は、実施例1と同様の操作を行った。該滴下ロート内の溶液を45分かけて反応液2へ滴下する途中、急激なビスフェノールCの固体の析出が起こり、撹拌翼の動力を超える負荷がかかり撹拌不能となった。この時点で反応の継続を中止し、反応液3へ25質量%水酸化ナトリウム溶液120gを加えて撹拌し75℃まで昇温した後、静置させて油水分離した。その後は実施例1と同様の操作により洗浄を実施し、ビスフェノールCを含む反応生成液641.7gを得た。
(比較2−2)ビスフェノール反応生成液の組成分析
高速液体クロマトグラフィーを用いてビスフェノールCを含む反応生成液の組成を分析したところ、反応生成液中のビスフェノールCは31.9質量%生成していた。ビスフェノールCの反応収率は、76.2モル%((31.9[質量%]×反応生成液の質量641.7[g]/ビスフェノールCの分子量256[g/モル])×2/原料のオルトクレゾールのモル数2.1[モル]×100[%]=76.2モル%)であった。ビスフェノールCの選択率は、85モル%であった。
(比較2−3)反応液3のトルク測定
ビスフェノールCを生成する反応の際、急激なビスフェノールCの固体の析出が起こり、撹拌翼の回転動力を上回る負荷がかかったためトルクの測定は不可能であった。
(比較2−4)ビスフェノールの精製
実施例1と同様に実施し白色の精製ビスフェノールCを195g得た。
(比較2−5)ビスフェノールの色調評価
(比較2−4)で得られた精製ビスフェノールCを用い、実施例1と同様に実施した。溶融開始から30分時点でのハーゼン色数は、APHA52であった。
(比較2−6)ビスフェノールの重合活性評価
(比較2−4)で得られた精製ビスフェノールCを用い、実施例1と同様に重合反応を実施したが、既定の重合触媒量(400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μL)では重合反応が進行しなかった。
実施例1〜4と比較例1〜2において、用いた一般式(A)で表される1価アルコール、硫酸に対する一般式(A)で表される1価アルコールの質量比、反応液3の混合性、トルク、ビスフェノールCの反応収率、ビスフェノールCの選択率、精製ビスフェノールCのハーゼン色数、精製ビスフェノールCの重合活性を表1に示す。
メタノールは、ビスフェノールCを溶解しやすいため、比較例1、2は、実施例1〜4に比べてビスフェノールが析出しにくく、実施例1〜4に比べて混合不良が生じにくい条件である。
得られたビスフェノールCから算出される反応液3中のスラリー濃度の比較からも、比較例1、2は、実施例1〜4に比べて混合不良が生じにくい条件であることがわかる。
例えば、ビスフェノールCは、トルエン及び2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールにほとんど溶解しないため、実施例1においては、反応液3のスラリー濃度は、得られたビスフェノールCの質量(224g)/反応液3の質量(800.3g)×100%=28%と同程度である。一方、比較例1においては、得られたビスフェノールCの質量(192g)/反応液3の質量(800.3g)×100%=24%であり、さらに、メタノールはビスフェノールCを溶解しやすいため、反応液3のスラリー濃度は24%より低くなる。
しかし、表1に示す通り、実施例1〜4は、比較例1、2に比べて反応液3の混合性が良好であり、ビスフェノールCの反応収率、選択性、ハーゼン色数、重合活性も良好であった。
表1の結果から、一般式(A)で表される1価アルコールの存在下でビスフェノールCを生成する反応を実施することで良好な流動性を呈し、その結果、高収率・高選択率で色調及び重合活性に優れた品質の製品ビスフェノールCを得られることが分かる。
Figure 2021102585
本発明のビスフェノールの製造方法で得られたビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの樹脂原料や、硬化剤、顕色剤、退色防止剤、その他殺菌剤や防菌防カビ剤等の添加剤として有用である。

Claims (7)

  1. 酸触媒及び下記一般式(A)で表される1価アルコールの存在下で、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとの縮合反応によりビスフェノールを生成するビスフェノールの製造方法。
    Figure 2021102585
    一般式(A)において、nは、1〜5の整数を示し、Raは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を示す。
  2. 前記縮合反応によって生成するビスフェノールを析出させ、前記縮合反応をスラリー状態で行う、請求項1に記載のビスフェノールの製造方法。
  3. 前記酸触媒に対する前記一般式(A)で表される1価アルコールの質量比が0.01〜1.0の範囲である、請求項1又は2に記載のビスフェノールの製造方法。
  4. 前記酸触媒が硫酸である、請求項1から3のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造方法。
  5. 前記ビスフェノールを生成する反応が、グラスライニング製の反応装置内で行われる、請求項1から4のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造方法。
  6. 前記ビスフェノールが、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、及び1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサンからなる群から選択されるいずれかである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造方法。
  7. 請求項1〜6いずれか1項に記載のビスフェノールの製造方法で製造したビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法。
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