JP2021095759A - 音低減構造及び音低減方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】新たな音低減手段を開発すること。【解決手段】空気層を挟んで2つの平板部材が形成された建築構造において、空気層が共鳴を生じる際に音の粒子速度が速い箇所に通気性材料が設置されている音低減構造であって、通気性材料の設置個所が、所望のn(nは整数)次以下の共鳴によって粒子速度が速くなる箇所である音の低減構造。【選択図】図2

Description

音を低減する技術に関する。特に、乾式浮床等の空気層を備えた構造であって、空気伝搬音や固体伝搬音を低減する技術である。
スタジオやホールなど室内の静謐性が求められる室においては室外から室内への高い遮音性能が必要である。また、スポーツジムや設備機械室など音や振動を発生させる室から室外へも高い遮音性能が必要となる。これらの室では防振浮き構造が用いられる。このうち、床に関しては防振浮床が用いられる。防振浮床は建物構造の躯体床の上に防振ゴムを介してさらに床を設置するものである。防振浮床には防振ゴムの上にコンクリートの床を設置する湿式浮床(特許文献1)と、防振ゴムの上に木製や石膏ボード製の床を設置する乾式工法(非特許文献1)がある。湿式浮床も乾式浮床も、多くの場合は躯体床と防振床の間に空気層が存在する。
防振浮床に加わった音や振動は支持点を介して建物躯体に伝搬するが、ゴムなどで支持されているので建物の躯体床への伝搬が小さくなる。ひとつの支持点が負担する質量を大きくすれば防振床の板材から建物躯体に伝わる音や振動は低い周波数から防振でき、結果として低減性能が高くなる。
一方、防振浮床は支持点を介した音や振動の伝搬だけでなく、床下に空気層がある場合には床下空間の空気が影響し、床下で音の共鳴現象が生じ、遮音・防振の性能を低下させる。したがって、板材を厚く重くして防振支持点を介した振動の伝搬を小さくしても床下空間の共鳴によって防振性能はさほど向上しないという問題があった。
また、防振浮床以外の浮き構造、すなわち二重天井の一種である浮き天井や浮き壁といった構造においても、防振浮床と同様に建物構造躯体とは別に防振材を介して天井または壁を設ける構造であるため、躯体との間には空気層が存在し、そこでの音の共鳴現象によって遮音性能が低下するという問題があった。
特開2002−147007号公報
https://www.yacmo.co.jp/Portals/0/images/catlog/pdf/0304.pdf(YS工法、カタログ)
新たな音低減手段を開発することを課題とする。特に、ホール、スタジオなどの高い遮音性能が必要とされる室に関する音の低減手段を開発することを課題とする。
本発明は、空気層を介して配置された平板構造を有し、この空気層を仕切るように通気性材料を配置して共鳴現象を生じさせにくくすることによって、一方の平板から他方の平板を介して伝わる音を低減する。
本発明では、低減する対象の音は、床衝撃音に限らず、楽器の音や、設備などの機器の音などである。
なお、本明細書の「音の粒子速度が速い」又は「音の粒子速度が大きい」との表現は、数字的に大きいということを表していて、同義である。
1.空気層を挟んで2つの平板部材が形成された建築構造において、
空気層が音の共鳴を生じる際に音の粒子速度が速い箇所に通気性材料が設置されている音低減構造であって、
通気性材料の設置箇所が、所望のn(nは整数)次以下の共鳴によって粒子速度が速くなる箇所であることを特徴とする音低減構造。
2.建築構造が浮床、二重天井又は壁であり、これらに形成される空気層内であることを特徴とする1.記載の音低減構造。
3.通気性材料の設置間隔Sは、式1であることを特徴とする1.又は2.記載の音低減構造。
Figure 2021095759
c:音速、f:低減する上限の周波数
4.建築構造が、躯体床の上に梁を設置して構成した乾式浮床であることを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載の音低減構造。
5.梁が炭素繊維補強樹脂製梁であることを特徴とする4.記載の音低減構造。
6.1.〜5.のいずれかに記載された通気性材料の設置用治具が、基板部に立設部を取り付けた略「T」字状治具であることを特徴とする通気性材料設置用治具。
7.空気層を挟んで2つの平板部材が形成された建築構造において、
空気層が共鳴を生じる際に音の粒子速度が速い箇所に通気性材料を設置して音を低減する方法であって、
通気性材料の設置箇所が、n次以下の共鳴によって粒子速度が速くなる箇所であることを特徴とする音を低減する方法。
8.6.記載の通気性材料設置用治具を設置個所に固定したのちに通気性材料を該通気性材料設置用治具に取り付けるか、あるいは、通気性材料に通気性材料設置用治具を取り付けた状態で設置個所に固定することを特徴とする、7.記載の音を低減する方法。
9.通気性材料は、膜、布、網、マット、パンチングメタル、穴空き板、ハニカム板、繊維質材、グラスウールボード、多孔質材のいずれかが適している。
1.浮床などの二重構造によって音を低減する構造として、空気層が共鳴を生じる際に音の粒子速度が速い箇所に通気性材料が設置されて音を低減する構造を新規に開発した。これは1次の共鳴のみではなく、2次、3次といった複数次の共鳴の周波数においても、それぞれの音の粒子速度が速い箇所に通気性材料を設置することにより、それぞれの周波数に対応する音を低減することができる。
通気性材料は、床などの空気層に縦あるいは横に平行配置するか、あるいは縦横に格子状に配置する。
2.適用される建築構造は、防振浮床、二重天井又は壁であり、これらの防振浮床、二重天井、壁に形成される空気層内に、通気性材料を設置する。
防振浮床としては、湿式浮床、乾式浮床など床板と建物のスラブ間に空間がある構造に適用できる。例えば、事務所ビル、スタジオ、ホール、設備機器室、集合住宅への設置を挙げることができる。
3.通気性材料の設置個所は、式1で決めることができ、例えば、1.4m×(0.85〜1.15)間隔に設置することで、約30〜60Hzの音の低減に有効である。
4.本発明を適用する建築構造のひとつとして、防振ゴムの上に下地材として梁を用い、その上に床板材を設置する乾式浮床が挙げられる。梁を用いる場合、図1の(c)に示すように一見、梁方向に空気層が分断されたかのように見える。しかし、梁の下部や上部には隙間が存在するため空気は分断されず、梁と直行する方向にも音の共鳴は生じる。
なお、乾式浮床の梁として炭素繊維補強樹脂製梁を用いれば、一般的な鉄骨梁を使用した工法と比べて梁が非常に軽量となり、施工性に有利である。
5.通気性材料は、膜、布、網、マット、パンチングメタル、穴空き板、ハニカム板、繊維質材、グラスウールボードなどの多孔質材等が挙げられ、設置が容易であり、可撓性や形の変更が柔軟に対応できるので、配線や配管などの浮床あるいは二重天井の空間内の配置に制限を受けない。特に、グラスウールをボードに成形した通気性材料は、自立性と変形適応性があって、乾式浮床にH型断面の梁を用いる場合にもH型のフランジ部対応部に切れ込みを入れることにより、隙間なく設置することができるなど、利用性が高い。
6.設置治具として「T」字状治具を用いることにより通気性材料を安定して支持できる。特に、グラスウールボードなどに対して、治具の立設部を突き刺して固定できるので、位置決めと固定が容易である。穴あき基板や線状基板を用いることにより、接着手段などにより床面に対する固定が容易である。したがって、特殊技能を要することがなく、容易に施工することができる。
浮床構造の例を示す図。(a)湿式浮床の例、(b)架台を用いた湿式浮床の例、(c)梁を用いた乾式浮床の例、(d)束を用いた乾式二重床の例 梁を用いた乾式浮床に通気性材料を配置した例を示す図 辺長6mの室の場合の通気性材料の設置位置と共鳴周波数における粒子速度分布を示す図 辺長12mの室の場合の通気性材料の設置位置と共鳴周波数における粒子速度分布を示す図 固定治具の例を示す図 固定治具の使用例を示す図 炭素繊維補強樹脂製梁を利用した乾式浮床構造の例 実施例1の防振浮床と通気性材料の設置位置を示す図 実施例1の縦横の共鳴周波数を示す表 通気性材料の有無による防振浮床の重量床衝撃音低減量を示す図
本発明は、2つの板状体が空気層を挟んで構成されている建物構造において、一方の板状体側から空気層を介して他方側に伝わる音を、空気層を仕切って分割するように通気性材料を設置することによって音を低減するものである。床懐などの空気層を伝わる音は、様々な音域の音が含まれるが、共鳴を生じると特に伝わりやすい。この共鳴音に注目して、音の粒子速度が速い箇所に通気性材料を設置して、空気層を仕切って分割して、当該の共鳴に起因する音を低減するものである。
このような音は、例えば、上階の床に与えられる衝撃が階下に及ぼす衝撃音や部屋内で発生するピアノなどの楽器の音、設備機器などが音源である。
空気層は、乾式浮床、二重天井、間仕切壁などによって、床懐や天井懐として形成されている。
適用できる建物は、事務所ビル、集合住宅、スタジオ、ホール、設備機器設置フロアなど、衝撃音に限らず、自分の発生音を他の室に伝えない、あるいは、他の室の音を遮断する必要がある場合に本発明を適用することができる。
外壁や隣室間の壁においても壁を二重板にしてその間に空気層を設ける構成がある。体育館では、運動スペースで発生する音が隣接して設けられた事務室や会議室において低減する構造を設ける必要がある。さらに、空気層を介して板状体が対向している構造としては、屋外に面した二重サッシ窓がある。外壁や窓を通して入る交通騒音も低減する音源対象となる。
この通気性材料で空気層を分割して音エネルギーを熱に転換する通気性材料を配置する構造を二重サッシに応用すれば建物外部の音を低減することができ、室内の騒音レベルを低減することができる。
本発明は、この空気層で発生する共鳴現象により最も空気の粒子が振動する箇所に通気性材料を配置して、空気の振動を熱エネルギーに変えることにより、音を低減するものである。本発明は、空気を遮断する必要もなく、吸音を目的とするものでもなく、音源を囲ったりするものでもない。本発明では、一次から複数次の音の共鳴を抑制するために、それぞれに対応した箇所に通気性材料を設置するものである。特に、共鳴が生じやすく浮き構造の遮音性能が低下する30〜80Hzの周波数帯域において音を低減することができる。
本発明を適用する防振浮床の構造の例を図1に示す。
防振浮床は構造スラブである躯体スラブに防振ゴム材を介して床を設置するものである。浮床を作るために大引きや梁などを介して床を作る場合、躯体スラブと浮床の間には空気層が設けられる。本発明では、躯体スラブと新設床との間に空間が設けられる浮床構造を対象としている。浮床としては、コンクリートを打設して形成する湿式浮床方式と、梁を下地に用い、その上に木製などの板材をのせる乾式浮床方式がある。防振浮床は室内から周囲への音を低減させるため、あるいは室外から室内へ伝搬する音を低減させるために使われるが、通気性材料で浮床の下の空間を仕切ることにより、より高い低減性能を得ることができる。
なお、本明細書で浮床は防振浮床を省略して表現したもので、同じ意味である。また、浮床には、二重床構造も含まれる。また、新設建物のほか、改修建物も対象である。
図1(a)は、構造スラブ5に防振ゴム61を設置し、防振ゴム61の上に大引き65をのせてその上にコンクリートを打設してコンクリート床42を形成した湿式浮床である。防振ゴム61と大引き65の厚み分の空間が通気性材料を設置する対象となる。なお、左図は大引き65の長さ方向の図であり、右図は左図と直角方向となる大引きの軸方向の図である。以下(b)、(c)も同様である。
図1(b)は、構造スラブ5に防振ゴム61を設置し、その上に鉄骨材などで構成した架台62を設けて、その上にコンクリートを打設してコンクリート床42を形成した湿式浮床である。防振ゴム61と架台62により形成された空間が通気性材料を設置する対象となる。
図1(c)は、構造スラブ5に防振ゴム61を設置し、その上にH型鋼などの梁63をのせて、その上に床仕上げ材41を張った乾式浮床である。この梁として一般的には鉄骨材が用いられることが多いが、鉄骨鋼材は重く、施工には多くの人手と時間を要する。また安全上注意が必要である。本発明者等は、別途提案した炭素繊維補強樹脂製の軽量な梁を用いることもできる。防振ゴム61と梁63の厚み分の空間が通気性材料を設置する対象となる。
図1(d)は、構造スラブ5に防振ゴム61をのせ、その上に束64を立て、その上に床仕上げ材41を張った乾式浮床である。防振ゴム61の厚みと束64の長さ分の空間が通気性材料を設置する対象となる。
防振浮床に加わった振動は防振支持点から建物躯体床に伝搬する。防振浮床は板材をゴムなどで防振支持することで建物の躯体床への伝搬を小さくするものであり、梁や大引き材を使って防振支持点間距離を大きくする、あるいは重い板材を用いて1つの支持点が負担する質量を大きくすれば板材から建物躯体に伝わる振動の低減性能が高くなる。
一方、防振浮床は支持点を介した振動伝搬だけではなく、床下空間の空気が影響し、床下の共鳴現象が防振性能を低下させる。したがって板材や梁を厚く重くして防振支持点を介した振動を小さくしても床下空間の共鳴によって防振性能が低下してしまうという状況にある。
本発明は、図1に示した防振浮床などの空気層内に懐内を仕切るように通気性材料を設置する。このように設置することで、防振浮床などの防振性能を向上することができる。
本発明を適用する防振浮床とは、湿式浮床か乾式浮床かに関わらず、浮床と建物構造において、二つの板状体の間に空間を有する構造のものである。乾式浮床の場合、防振浮床の梁あるいは大引きの材料として多く用いられるのは鉄骨であるが、鉄骨に限らず、アルミ、木、炭素繊維補強樹脂など、材料には関わらず本発明に使用することができる。
(共鳴抑制構造の基本構成)
図2に梁を用いた乾式浮床に通気性材料を配置した例を示す。(a)は、梁の側面視図において、梁に直角に通気性材料を配置した状態を示し、(b)は、梁の軸方向図において、梁と平行に通気性材料を配置した状態を示し、(c)は、図(a)A−A断面における通気性材料の設置状態を示している。通気性材料は、平面視において、平行あるいは格子状に配置することができる。
図2に示される乾式浮床11は、躯体である構造スラブ5の上に防振ゴム61を置き、その上に鉄骨や炭素繊維補強樹脂製でできたH型の梁63を載せ、梁63の上に根太受けや根太を介して仕上げ床材41を張っている。梁63は両端が壁52に接しないように設置されている。
この梁63を用いた乾式浮床11構造において、通気性材料3を縦横に設置している。通気性材料3は、空気層が共鳴を生じる際に音の粒子速度が速い箇所に設置される。対象とする共鳴音の周波数に応じて通気性材料を設置する間隔が設定される。
この設定間隔は、15Hzで約6m、30Hzで約3m、60Hzで約1.5mであり、この間隔で通気性材料を平行配置する。共鳴は室の縦方向にも横方向にも生じるため、通気性材料は、縦横に格子状に設置する。
図2(a)は、梁63の軸方向に対して通気性材料3を直角に設置している。梁―梁間で通気性材料は遮断されるが、梁の上下の空間も含めて、通気性材料が充填されるように配置される。図2(b)は、通気性材料3を梁63の軸方向に設置している。梁の軸方向では、部屋の両端の壁52、52間に連続して通気性材料3を配置する。
図2(a)に示す通気性材料3は、(c)に示すように、浮床構造の断面にある空間を完全に埋めて、空間を仕切るように設置されている。即ち、梁63の下に生ずる防振ゴム61の厚み分の空間、梁63の上に生ずる根太などの厚み分の空間、H型の梁63の形状に伴うフランジとウェブによる凹凸があるので、これらを隙間なく設置することが、音の伝搬を遮断するために有効である。
このように、床下空間の音の粒子速度が速い箇所に通気性を持った抵抗材(本発明の「通気性材料」に相当)が空間を仕切るように設置して抵抗を与えることにより、床下空間の共鳴現象を抑制することができることになる。
(通気性材料の設置間隔について)
本発明者らは、既に特願2018−118509号を出願して、通気性材料を用いて床衝撃音を低減する基本的技術思想を開示しているので、基本的な説明は重複を割愛する。
床下空間に生ずる共鳴周波数と部屋(床)の大きさ(平面寸法)の関係は下記式2で示される。
Figure 2021095759
ここで、cは音速、lとlは室の辺の長さである。nとnはそれぞれ共鳴次数を示し、0、1、2、・・・である。
例えば室の辺長(lとl)が6mであれば、横方向に1次の共鳴は約30Hz、横方向に2次の共鳴は約60Hz、縦横双方のnが1となる共鳴は約40Hz、縦横双方のnが2となる場合は約80Hzに生じ、床下空間の音が増幅される。
通気性材料を設置する個所は性能を向上させたい周波数によって異なり、低減させたい周波数範囲が63Hz以下であれば、およそ1.4mの間隔で床下空間に設置することとなる。
図3に辺長が6mの部屋の浮床の床下に生ずる共鳴に伴う粒子速度分布と通気性材料の設置個所を示す。
(a)は、横方向に生ずる1次の共鳴周波数約30Hzにおいて辺中央の3mの箇所で粒子速度が最も速くなることを示し、(b)は、横方向に生ずる2次の共鳴周波数約60Hzにおいて辺の4分割位置1.5mで粒子速度が最も速くなることを示している。
(c)は、60Hz周辺とそれ以下(30Hzも含む)の共鳴を抑制するためには、辺の4分割位置に通気性材料を設置することが有効であることを示し、(d)は、縦方向にも通気性材料を配置することにより縦方向の共鳴に対して有効であることを示している。
共鳴を抑制するために図3(c)(d)のように通気性材料を設置すると増幅が抑制され、その結果、防振浮床の防振性能、遮音性能が向上する。
図4に辺長12mの部屋の浮床の床下に生ずる共鳴に伴う粒子速度の分布と通気性材料の設置個所を示す。
(a)は、横方向に生ずる1次の共鳴周波数約15Hzにおいて辺中央の6mで粒子速度が最も速くなることを示し、(b)は、横方向に生ずる2次の共鳴周波数約30Hzにおいて辺の4分割位置3mで粒子速度が最も速くなることを示し、(c)は、横方向に生ずる4次の共鳴周波数約60Hzにおいて辺の8分割位置1.5mで粒子速度が最も速くなることを示している。(d)は、60Hz周辺とそれ以下の共鳴を抑制するためには、辺を8分割する1.5m間隔で通気性材料を設置することが有効であることを示している。
ただし、浮床の下地材などの配置の影響で粒子速度が最大となる位置に正確に通気性材料を設置できない場合もある。その場合は下地材を避けるために通気性材料の位置をずらしてもよい。図3または図4からわかるように粒子速度の分布は緩やかな山形をしており比較的広い範囲で粒子速度が大きくなっているため、通気性材料を設置する位置を設置間隔に対して15%程度ずらしても低減効果は有効である。
通気性材料を設置する間隔Sは次の式1で決めることができる。
Figure 2021095759
c:音速、f:低減する上限の周波数
なお、図2のような梁を使った防振浮床では梁によって床下空間が鉛直方向に仕切られたように見える。しかし、梁の下部は防振ゴムによってわずかであっても隙間が存在し、空間は連続しているため、床下空間には梁と並行する方向のみではなく、梁と直行する方向にも共鳴が生じる。したがって、梁と直行方向のみではなく並行方向に通気性材料を設置することが有効である。
前述のように約60Hzの音の低減を行う場合には約1.5m間隔で通気性材料を設置することにより、この周波数帯域と、これ以下の次数の共鳴に起因する音について、低減することができることとなる。
(通気性材料について)
通気性材料は、流れ抵抗100Pa・s/m〜10000Pa・s/mが適当である。通気性材料は、膜、布、網、マット、パンチングメタル、穴あき板、ハニカム板、繊維質材、多孔質材、グラスウールボードなどが使用できる。
グラスウールボードなどの多孔質材は、成形したボードが自立性と加工が容易であるので、使用性に優れている。
(通気性材料設置用治具について)
通気性材料を設置する箇所は、浮床の空気層内など狭い箇所に細長い通気性材料を、決まった箇所に敷設する必要がある。また、通気性材料を空気層内に設置した後、長年の床の使用の間に通気性材料が倒れたり、ずれたりしてはいけない。これらを防ぐためには、通気性材料を固定する必要がある。
グラスウールボードのような通気性材料はこれまでは吸音材として壁などに全面に設置される場合はあったが、壁に対して平行に設置されるものであった。本発明ではグラスウールボードを床に対して垂直に立てて設置する。本発明の場合は正確な個所に設置される必要がある。そこで、位置決めがしやすく、簡単に、垂直に設置する方法が必要である。
また、固定に際しては抵抗材の通気性を損なわない手段である必要がある。そして、簡単に設置および固定ができる必要がある。
本発明では、基板に線状又は薄片を取り付けた略「T」字状治具を通気性材料設置用治具として開発した。
「T」字状治具の例を図5、図6に示す。
通気性材料設置用治具である「T」字状治具8は、薄板や線材を用いて、基板部81と立設部82から構成される。薄板は穴あき板が適している。穴あき板や線材はスラブ上に治具8を載置したのち接着剤や接着テープ、ステープルで固定しやすい。
図5に「T」字状治具8の例を(a)〜(j)に示す。
(a)〜(f)に示す例は、穴83が開けてある有孔薄板81aを基板部としている。(a)は立設部82として針状部材82aを1本、(b)は針状部材82aを複数本設けている。(c)は立設部82として薄片82bを用い、(d)〜(f)は有孔薄板81aの一部を切り起した切り起こし片82cと折り曲げ片82dを用いている。
(g)〜(j)は、針金のような線材を用いて基板部と立設部を形成したものである。(g)はメッシュ状基板85に針状部材82aを立設したものである。(h)〜(j)は、一本の線材86の上に針状部材82aが設けてあり、(i)は線材86に円形先端部86aを設けてある。(j)は線材86をL型に折り曲げた折り曲げ線86bを設けてある。
一般的な浮床は床懐が90〜500mm程度であり、この場合、立設部の長さは40mm〜80mm程度でよく、基板部の長手寸法は80mm程度でよい。ただし、それらの寸法は懐高さに応じて小さくしても大きくしてもよく、通気性抵抗材が倒れないような寸法であればよい。8fや8jのようなL型の治具の場合は、ボードの両側から押さえるか、千鳥上に配置すれば、安定させることができる。
これらの例は、立設部82をグラスウールボードなどの自立性のある通気性材料に突き刺し、あるいは添えて使うことができる。さらに、通気性材料を設置する箇所にあらかじめ治具8を固定して、通気性材料を設置するか、あるいは、先に治具8を通気性材料に取り付けて、床面の設置箇所に載置することができる。そして、基板部の穴や線に接着剤を塗布あるいは、基板部を粘着テープで止める、あるいは、ステープルで止めるなどの手段で固定することができる。
図6に通気性材料設置用治具である「T」字状治具の使用例を示す。(a)は斜視図、(b)は断面図である。
グラスウールボード31の底面に治具の立設部82を突き刺し、基板部81がグラスウールボード31の底面に接している。断面図(b)に示されるように、構造スラブ5の表面に設置している基板部81の穴に接着剤87を塗布することにより、治具を固定することができる。
治具は通気性材料に刺しこむことで簡単に取り付け可能であり、通気性材料を建物躯体床上に位置決めする際に通気性材料とともに自由に移動させことができる。通気性材料の位置が決まった段階で、治具を建物躯体床に接着することにより、通気性材料が浮床の空気層内で倒れたり、ずれたりすることを防ぐことができる。接着時は治具を持ち上げたり裏返すなどの手間を必要とせず、治具の上部から接着剤を少量塗布することで、底部に設けた穴などから接着剤が建物躯体床に付着し、治具を躯体床に固定することが出来る。
実施例1は、炭素繊維補強樹脂製梁71を使用した乾式浮床に適用した例である。
図7に炭素繊維補強樹脂製梁71を使用した乾式浮床構造(以下、「防振浮床」ともいう。」)11Aを示す。
実施例1の乾式浮床11Aは、建築物の躯体床5上であって既存の構造梁51が存在する部分の上方に設置された防振ゴム61を有する基礎部、この基礎部の上に断面H型の炭素繊維補強樹脂製梁71、この炭素繊維補強樹脂製梁71の上面に根太受け66a、この根太受け66aと直交する方向に延在する根太66と、この根太66の上に配設される床仕上げ材41とを備える。
基礎部は、炭素繊維補強樹脂梁71を、建築物の構造躯体から分離して設置するものである。基礎部は防振ゴム61を有するが、この乾式浮床において、基礎部は、床部材の振動を建築物に減衰して伝えるものであれば防振ゴム61の外、特に制限することなく使用することができる。
炭素繊維補強樹脂製梁71は、炭素繊維を、エポキシ樹脂・フェノール樹脂等の樹脂に含浸させた複合材料を、所望の形状となるように成形したものである。炭素繊維は、引張強度に優れているため、炭素繊維の種類、含有量、繊維方向を調整して成形することにより、軽量で比強度、比弾性率の高い炭素繊維梁を得ることができる。
炭素繊維梁としては、炭素繊維が樹脂に含浸された複合材料からなる梁を特に制限することなく用いることができ、例えば、その断面はH型に限定されず、箱型であってもよい。炭素繊維補強樹脂製梁は例えば、特開2005−54541号公報、特開2001−191418号公報に開示されている。
乾式浮床に使用されるH型の炭素繊維補強樹脂製梁は、6mの長さのH型梁で、たわみが大きくならないためには、断面剛性(ヤング率×断面二次モーメント)が1.5E+12Nmm程度必要である。このとき、炭素繊維補強樹脂製梁の質量は、1mあたり3kg未満である。
図8は図7に示す炭素繊維補強樹脂製梁71を用いた乾式浮床11Aの床懐(床下空間)2に通気性材料3を設置し実験を行った例である。乾式浮床11Aの平面寸法は5.9m×5.518mである。乾式浮床11Aには炭素繊維補強樹脂製のH型梁が用いられており、その上部に床仕上げ材41(面密度48kg/m2)が張られている。梁せい250mm、梁幅80mm、床懐376mmである。
この床下空間2に通気性材料3を床の辺を縦横に4分割するように設置した。
これによって縦横それぞれ2次までの共鳴が抑制される。床の寸法から計算した共鳴周波数の計算値は図9に示す表のとおりであり、85 Hz以下で共鳴が抑制されるはずである。
なお、通気性材料3としてグラスウールボードを用いた。用いたグラスウールボードは、32kg/m3、厚さ50mmである。グラスウールボードは、図8(b)、図2(c)に示すように、床下空間の高さ全体を区切るように配置されている。
この乾式浮床11Aの床下空間に通気性材料を設置した条件と、通気性材料を設置しない条件で、それぞれJIS A 1418-1:2000に従ってタイヤ衝撃源による重量床衝撃音を測定し、浮床が無いコンクリート床の条件との床衝撃音レベル差から浮床の性能(低減量)を求めた結果を図10に示す。図10は、図9における想定周波数に対する計測値との差を示している。図10に該当する周波数帯をアルファベットで示している。
図10に示されるように通気性材料を設置したことにより80Hz帯域以下で大幅に改善されたことが確認できる。
この実施例のように、浮床のような空気層を挟んでいる構造において、通気性材料で空気層を仕切ることにより、共鳴周波数付近において共鳴を抑制し、音の低減性能を向上できることが画することができた。これは乾式浮床のみではなく、湿式浮床、二重天井、二重壁についても同様のことがいえる。
1 浮床
11、11A 乾式浮床
12 湿式浮床

2 空気層(床懐(床下空間))
3 通気性材料
31 グラスウールボード
41 床仕上げ材
42 コンクリート床(浮床)
5 構造スラブ(躯体床)
51 構造梁
52 壁

61 防振ゴム
62 架台
63 梁
64 束
65 大引
66 根太
66a 根太受け

71 炭素繊維補強樹脂製梁
8 「T」字状治具(治具)
81 基板部
81a 有孔薄板
82 立設部
82a 針状部材
82c 切り起こし片
82d 折り曲げ片
83 穴
85 メッシュ状基板
86 線材
86a 円形先端部
86b 折り曲げ線
87 接着剤

Claims (8)

  1. 空気層を挟んで2つの平板部材が形成された建築構造において、
    空気層が音の共鳴を生じる際に音の粒子速度が速い箇所に通気性材料が設置されている音低減構造であって、
    通気性材料の設置箇所が、所望のn(nは整数)次以下の共鳴によって粒子速度が速くなる箇所であることを特徴とする音低減構造。
  2. 建築構造が浮床、二重天井又は壁であり、これらに形成される空気層内であることを特徴とする請求項1記載の音低減構造。
  3. 通気性材料の設置間隔Sは、式1であることを特徴とする請求項1又は2記載の音低減構造。
    Figure 2021095759
    c:音速、f:低減する上限の周波数
  4. 建築構造が、躯体床の上に梁を設置して構成した乾式浮床であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の音低減構造。
  5. 梁が炭素繊維補強樹脂製梁であることを特徴とする請求項4記載の音低減構造。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載された通気性材料の設置用治具が、基板部に立設部を取り付けた略「T」字状治具であることを特徴とする通気性材料設置用治具。
  7. 空気層を挟んで2つの平板部材が形成された建築構造において、
    空気層が共鳴を生じる際に音の粒子速度が速い箇所に通気性材料を設置して音を低減する方法であって、
    通気性材料の設置箇所が、n次以下の共鳴によって粒子速度が速くなる箇所であることを特徴とする音を低減する方法。
  8. 請求項6記載の通気性材料設置用治具を設置個所に固定したのちに通気性材料を該通気性材料設置用治具に取り付けるか、あるいは、通気性材料に通気性材料設置用治具を取り付けた状態で設置個所に固定することを特徴とする、請求項7記載の音を低減する方法。
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