JP2021052052A - 希土類磁石用焼結体の製造方法 - Google Patents

希土類磁石用焼結体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】磁気特性に悪影響を及ぼす異相が少なく密度が高い希土類磁石用焼結体の製造方法を提供する。【解決手段】焼結体の全体組成が下記の組成式R(Fe1−yCoy)w-zMzCuαOβで表され、RはR1及びR1以外の希土類元素の少なくとも1種であり、MはSi、Al、Ti、V、Cr、Nb、Mo、Ta、Wからなる群から選択される少なくとも1種であり、y、z、w、αおよびβはそれぞれ、0≦y≦0.4、0.35≦z≦1.0、7≦w≦12、0.2≦α≦1.0、0.02≦β≦0.5、および−0.06≦1−1.45z−0.5α—0.5β≦0.02を満足し、ThMn12型結晶構造を有する相を主相とする。成形体を1160℃以上1210℃未満で0.5時間以上50時間以下の熱処理をして焼結体を得る工程と、前記焼結体を900℃以上1150℃未満で0.5時間以上50時間以下の追加熱処理をする工程とを含む。【選択図】なし

Description

本発明は、希土類磁石用焼結体の製造方法に関する。
永久磁石は自動車部品や産業機械、家電製品などの各種モータに使用されている。
代表的な高性能永久磁石としてNd−Fe−B系磁石が挙げられる。Nd−Fe−B系磁石は、主として電気自動車(EV、HV、PHVなど)やハイブリッド自動車の駆動モータなどに使用されている。モータの更なる高効率化や小型化のニーズが高まり、より高い磁気物性を有する永久磁石の開発が期待されている。
Nd−Fe−B系磁石の磁気物性を超える永久磁石の主相系合金の候補の一つとして、ThMn12型結晶構造またはその類似構造を有するRT12化合物が注目されている。RT12化合物はNd−Fe−B系磁石の主相を構成する化合物であるR14B(Rは希土類元素の少なくとも一種、Tは少なくともFeを含んだ1種以上の鉄族遷移金属元素)より高い濃度の鉄族遷移金属を含有するため高い磁気物性が期待される。以下、ThMn12型結晶構造またはその類似構造を有するRT12化合物からなる相を1−12相と記述することがある。
特許文献1には、T元素であるFeの一部を、構造安定化元素であるTiにより部分的に置換して、高い磁化と引き換えに、熱安定性を高めた希土類永久磁石が開示されている。
特許文献2には、RFe12系化合物のR元素を、Zr、Hf等の置換元素M1により部分的に置換することで、遷移金属元素を置換するTi等の置換元素M2の量を減らして飽和磁化を保ったまま、ThMn12型結晶構造を安定化した希土類永久磁石が開示されている。
特許文献3には、RFe12のR元素の一部としてYまたはGdを選択した、R´−Fe−Co系強磁性合金が開示されており、このR´−Fe−Co系強磁性合金が、超急冷法により生成させたThMn12型結晶構造を有することで、高い磁気特性を示す点が記載されている。
特許文献4には、Cuを添加することで非磁性かつ低融点の1−4組成(SmCu相)の相が生成し、焼結と高保磁力化が可能なことが記載されている。
特許文献5には、ThMn12型の主相に対し副相としてSmFe17系相、SmCo系相、Sm系相、およびSmCu系相の少なくともいずれかを含むことで、高保磁力化が可能なことが記載されている。
特許文献6には、Cuを添加することで液相が生成し緻密なバルク体が形成可能なことが記載されている。
特許文献7には、Yを含むThMn12型の相を主相とする強磁性合金をストリップキャスト法で作製することで、主相組成の不均一性が少なく、主相比率が高い合金が得られることが記載されている。
特許文献8には、Yを含むThMn12型の相を主相とする磁石材料で高い飽和磁化や異方性磁界が得られることが記載されている。
特許文献9には、Yを含むThMn12型の相を主相とする熱安定性が高い強磁性合金が得られることが記載されている。
特許文献10には、Cuを添加することで異方性焼結磁粉作製に適した合金が得られることが記載されている。
特許文献11には、Yを含むThMn12型の相を主相とする磁石材料で高い飽和磁化が得られることが記載されている。
特開昭64−76703号公報 特開平4−322406号公報 特開2015−156436号公報 特開2001−189206号公報 特開2017−112300号公報 国際公開第2016/162990号 特開2018−103211号公報 特開2018−125512号公報 国際公開第2018/123988号 特開2019−44259号公報 特開2019−54217号公報
高性能磁石に用いる焼結体の条件の一つとして、磁気特性に悪影響を及ぼす異相が少ない組織であることが必要である。焼結体中にbcc−Fe相に代表される軟磁性相が存在すると、その軟磁性相が磁化反転の起点となり、容易に磁化反転が進行するため、保磁力、角形性、残留磁束密度といった磁気特性が著しく低下する。そのため、このような軟磁性の異相が極力存在しないような焼結体が求められる。また、高い磁気特性を得るためには、密度の高い焼結体が求められる。
特許文献1に記載の希土類永久磁石は、TiによるFeの元素置換により、熱安定性が高められているものの、TiによるFe置換量が多いため、その分磁化が小さくなり、十分な磁気特性を得られない。
一方、特許文献2に記載の希土類永久磁石では、Ti等で遷移金属元素を置換することによりThMn12構造の安定化を図っているものの、その効果は必ずしも十分でない。
特許文献3に記載のR´−Fe−Co系強磁性合金は、Fe元素を構造安定化元素M(Ti等)で置換していないため、高い磁化と大きい磁気異方性と高いキュリー温度を得られているが、非平衡相であるために、焼結等の高温での緻密化プロセスにおいて主相化合物が分解することがある。
特許文献4に記載の希土類磁石では、Ti添加量が多いために磁気物性値が高くないことがある。
特許文献5に記載の希土類磁石では、希土類リッチな副相SmCuを使用した場合、熱処理時に主相とSmCuの反応により、主相よりも希土類リッチな相が生成することが懸念される。
特許文献6に記載の希土類磁石では、Fe元素を構造安定化元素Mで置換していないため、高い磁化と大きい磁気異方性と高いキュリー温度を得られ、かつバルク体としての密度が高いが、非平衡相であるために、1000℃以上の焼結等の高温でのプロセスにおいて主相化合物が分解することがある。
特許文献7に記載の強磁性合金や特許文献8に記載の磁石材料、特許文献9に記載の強磁性合金、特許文献10に記載の希土類磁石用合金、ならびに特許文献11に記載の磁石材料の組成は、焼結体の作製工程で不可避的に混入する酸素の影響が考慮されていないため、酸素が希土類元素と優先的に反応し、主相が分解し、bcc−Fe相などの軟磁性相が生成することが懸念される。
本開示の実施形態は、磁気特性に悪影響を及ぼす異相が少なく、密度の高い希土類磁石用焼結体の製造方法を提供する。
本開示の希土類磁石用焼結体の製造方法は、例示的な実施形態において、
焼結体の全体組成が下記の組成式(1)で表され、
R(Fe1−yCow-zCuαβ (1)
RはR1及びR1以外の希土類元素の少なくとも1種であり、R1はY、Gd、HfおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、 MはSi、Al、Ti、V、Cr、Nb、Mo、Ta、Wからなる群から選択される少なくとも1種であり、 y、z、w、αおよびβはそれぞれ、 0≦y≦0.4、 0.35≦z≦1.0、 7≦w≦12、 0.2≦α≦1.0、 0.02≦β≦0.5、および −0.06≦1−1.45z−0.5α―0.5β≦0.02、を満足する、ThMn12型結晶構造を有する相を主相とする希土類磁石用焼結体の製造方法であって、 原料粉末を得る工程と、 前記原料粉末を成形して成形体を得る工程と、 前記成形体を1160℃以上1210℃未満で0.5時間以上50時間以下の熱処理をして焼結体を得る工程と、 前記焼結体を900℃以上1150℃未満で0.5時間以上50時間以下の追加熱処理をする工程と、を含む。
ある実施形態において、前記焼結体の組成において、R1を含有し、R1がR全体の10mol%以上70mol%以下である。
ある実施形態において、前記焼結体の組成において、Smを含有し、SmがR全体の20mol%以上80mol%以下である。
ある実施形態において、前記焼結体の組成において、Tiを含有し、TiがM全体の50mol%以上である。
本開示の実施形態によれば、磁気特性に悪影響を及ぼす異相が少なく、密度の高い希土類磁石用焼結体の製造方法を提供することができる。
[希土類磁石用焼結体の組成]
本開示の希土類磁石用焼結体は、全体の組成が下記の組成式(1)によって表される。
R(Fe1−yCow-zCuαβ (1)
ここで、RはR1及びR1以外の希土類元素の少なくとも1種であり、R1はY、Gd、HfおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、MはSi、Al、Ti、V、Cr、Nb、Mo、Ta、Wからなる群から選択される少なくとも1種である。
またy、z、w、αおよびβはそれぞれ、0≦y≦0.4、0.35≦z≦1.0、7≦w≦12、0.2≦α≦1.0および0.02≦β≦0.5を満足し、さらに関係式−0.06≦1−1.45z−0.5α―0.5β≦0.02を満たす。
本発明者らが鋭意研究した結果、焼結体を上記の式(1)に示されるような特定の組成範囲に設定することにより、磁気特性に悪影響を及ぼすbcc−(Fe,Co,Ti)相や、ThNi17型結晶あるいはその類似構造となる化合物の相(以下、2−17相と記述することがある)の生成量を低減できることを見出した。さらに、本開示の特定組成の焼結体を作製する時に、後述する特定の狭い温度範囲で成形体を熱処理することで密度の高い焼結体が得られることを見出した。
[焼結体の組成等の限定理由について]
(Rの種類)
RはR1及びR1以外の希土類元素の少なくとも1種であり、R1はY、Gd、HfおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種である。「R1以外の希土類元素」とは、R1のうちの希土類元素であるY及びGd以外の希土類元素のことをいう。Rは1−12相、Cu含有の粒界相、および酸化物相構成に必要な元素である。好ましくはR1がR全体の10mol%以上70mol%以下であることが好ましい。Y、Gd、HfおよびZrは1−12相を安定化させる役割があるため、1−12相の分解を抑制するために添加したほうが好ましい。さらに、YがR1全体の50mol%以上であることがより好ましく、R1はYからなることがもっとも好ましい。GdやHfはYよりも高価である。また、R1がZrの場合はThMn23型の相、およびそれに伴ったbcc−(Fe,Co,Ti)相が生成する可能性がある。また、磁気物性値の観点から、SmがR全体の20mol%以上80mol%以下含まれている方が好ましく、Smは50mol%以上80mol%以下含まれている方がさらに好ましい。RにSmが含まれることで、1−12相が強い一軸異方性(正方晶のc軸方向が磁化容易軸)を発現する。
(Mの種類)
MはSi、Al、Ti、V、Cr、Nb、Mo、Ta、Wからなる群から選択される少なくとも1種である。これらの元素は1−12相を安定化させる役割がある。好ましくは、TiがM元素全体の50mol%以上であることが好ましく、TiがM元素全体の80mol%以上であることがさらに好ましい。M元素の中でもTiは少量でも1−12相を安定化させる効果があり、1−12相の磁気物性値の低下を最小限にとどめることができる。
(FeとCoの比率)
FeとCoの合計に対するCoの原子数比率を示すy(Co置換量y)の範囲は0≦y≦0.4である。1−12相のキュリー温度の低下を避けるためyは0.05以上であることがより好ましい。また、yが0.4より大きいと1−12相の体積磁化および磁気異方性磁界が低下するため好ましくない。
(Mの含有量)
R含有量に対するMの含有量の原子数比率を示すz(M含有量z)の範囲は0.35≦z≦1.0である。zが0.35未満であると焼結中に2−17相やbcc−(Fe,Co,Ti)相が安定して生成するため好ましくない。また、zが1.0より大きいと1−12相の磁気物性が低下するため好ましくない。より高い磁気特性、特にJを得るためにはM含有量は少ない方が好ましい。具体的には、zの範囲が0.35≦z≦0.60であることがさらに好ましい。
(Cuの含有量)
R含有量に対するCuの含有量の原子数比率を示すα(Cu含有量α)の範囲は、0.2≦α≦1.0である。αが0.2未満であると、熱処理中の液相量が少なくなるため、溶体化処理時の異相低減や、焼結時の緻密化が進行しにくくなるため好ましくない。αが1.0より大きいと、副相であるR−Cu相の比率が高くなり、主相の比率が低下し、焼結体全体としての磁化が低下するため好ましくない。また、焼結時の緻密化促進のためにαの範囲は0.4≦α≦1.0であることがより好ましい。
(Fe、Co、Mの総量)
R含有量に対するFe、Co、Mの総量の原子数比率を示すwの範囲は、7≦w≦12である。wが12より大きいと、bcc-(Fe、Co、Ti)相が顕著に生成するため好ましくない。またwが7より小さいと、2−17相のような1−12相よりも希土類含有量が多く磁気特性に悪影響を及ぼす相が顕著に生成するため好ましくない。
(酸素(O)の含有量)
R含有量に対する酸素の含有量の原子数比率を示すβは、0.02≦β≦0.5の範囲が適切である。βが0.02より小さいと、焼結前の微粉が発火しやすくなり、ハンドリングが困難になるため好ましくない。また、βが0.5より大きいと、焼結体中の酸化物相の比率が高くなり、1−12相の比率が低下し、磁石全体としての磁化が低下するため好ましくない。
(酸素量と他の元素の量の関係)
z、α、βは関係式−0.06≦1−1.45z−0.5α―0.5β≦0.02を満たす。焼結体は一般的に粉末を用いるため、通常、原料合金よりも酸素量が高くなる。そのため、原料合金の段階では異相が少ないような合金でも、粉砕や焼結時に酸素が主相や粒界相(焼結時は液相)中の希土類と反応して酸化物相となり、結果として1−12相が分解してbcc-(Fe、Co、Ti)相が生成する場合がある。筆者らは鋭意研究の結果、各相にRがどのように配分されるかを突き止めた。上記関係式は、zの値から1−12相として消費されるRの量を1.45z、αの値からR−Cu相として消費されるRを0.5α、βの値からR酸化物相として消費されるRを0.5βとそれぞれ記述し、Rの実際の量1からz、α、βから計算したRの量を差し引いたものの上下限を定めた式である。1−1.45z−0.5α―0.5βが小さくなるほど、1−12相、R−Cu相およびR酸化物相生成に必要なRが不足していることを意味し、逆に大きくなるほどRが余剰になることを意味する。1−1.45z−0.5α―0.5βが−0.06未満であると、bcc−(Fe、Co、Ti)相が多量生成するため好ましくない。また、0.02より大きいと2−17相のような1−12相よりも希土類含有量の多い相が多量生成するため好ましくない。焼結体中の相比率でいうと、bcc-(Fe、Co、Ti)相および2−17相はいずれも10体積%以下であることが好ましい。
[作製方法の限定理由について]
<工程A>原料粉末を得る工程
上述した希土類磁石用焼結体の組成になるように各元素を秤量し原料粉末を得る。原料粉末は、溶解時や焼結時の希土類元素(例えばSm)の蒸発を加味して準備する。原料粉末の作製方法としては、インゴットやフレーク、リボン状などの原料合金を作製したあと粉砕することで粉末を得る方法や、アトマイズ法などで直接粉末を得る方法が採用できる。インゴットやフレーク、リボン状などの原料合金の作製法としては、金型鋳造法、遠心鋳造法、ストリップキャスト法、液体超急冷法などの公知の方法を採用できる。これらの方法は、合金の溶湯を作製した後、この溶湯を冷却して凝固させる。合金溶湯の凝固時に粗大なbcc−(Fe、Co、Ti)相や2−17相の生成を極力抑えることが望ましい。比較的冷却速度の高い、ストリップキャスト法または液体超急冷法など、回転ロール上に溶湯を供給して凝固させ、薄帯又薄片状の合金を作製する方法を採用することにより、粗大なbcc−(Fe、Co、Ti)相や2−17相の生成を抑制することができる。凝固時の冷却速度が低いと、析出する異相の粒サイズが大きくなる。合金中に含まれる異相の粒サイズが大きくなると、焼結工程などの熱処理時に異相を消失しにくくなる。
なお、凝固過程で生成した異相の低減や主相粒の粗大化などを目的とした合金熱処理をおこなってもよい。合金の組成に応じて変わるが、R−Cu相の融点が850〜900℃である。そのため、熱処理温度は900℃以上1250℃以下が好ましく、1000℃以上1150℃以下がより好ましい。また、熱処理時間は、熱処理温度によるが、5分以上50時間以下が望ましい。時間が短すぎると、異相を消失させるのに十分な反応が起こらない。時間が長すぎると、希土類元素の蒸発および酸化が生じ、かつ操業上の効率も悪い。
さらに、粉砕工程の前に、合金を水素中で熱処理して合金中にクラックを導入させてもよい。合金中のR−Cu相は水素を吸収および放出することができる。本合金によれば、たとえば、250℃から400℃の温度で水素の吸収が生じ、540℃から660℃の間で水素の放出が生じる。そのため、この合金を水素中で250℃以上まで昇温して水素を吸収させた後、真空や不活性ガス雰囲気に切り替えて十分に水素を放出させることができる。その場合、真空雰囲気に切り替える温度は700℃以下である。このように本合金に含まれる副相は、少なくとも700℃以下の温度で水素吸収と放出が起こる。なお、700℃を超える温度で水素雰囲気中に本合金をさらすと水素化−不均化反応による主相の分解が起こる可能性がある。水素の吸収と放出を行うことにより、希土類リッチ相(副相)は体積膨張と収縮を起し、主相結晶粒と副相との間にクラックが生じる。これによって、粉砕工程における粉砕効率が高まる。
粉砕をおこなう前に予備粉砕をおこなってもよい。予備粉砕は、例えば、ジョークラッシャーやハンマーミル、ローラーミルなどの公知の方法を採用できる。粉砕方法は、例えば、ジェットミルやスタンプミル、ボールミルなどの公知の方法を採用できる。予備粉砕及び粉砕時に、粉砕の効率化のために粉砕助剤を添加してもよい。粉砕助剤には、ステアリン酸亜鉛などの公知の助剤を使用できる。粉末の酸化の抑制、および発火や爆発の危険性の低減のために、窒素やアルゴン、ヘリウムといった不活性ガス中で粉砕をおこなう。粉砕後の微粉のハンドリング性の向上のために不活性ガスに少量の空気や酸素を混合してもよい。粉末のハンドリングや成形性を考慮して、粉砕後の粉末の粒度は、気流分散法によるレーザー回折法で得られたD50(頻度の累積が50%になるときの粒子の体積基準メジアン径)が1μm以上20μm以下となるようにすることが好ましい。D50が1μm未満であると、発火の危険性が高くなったり、成形時に金型を傷めたりするため好ましくない。また、D50が20μmより大きいと焼結工程において緻密化が進行しにくくなるため好ましくない。焼結体中の酸素量は本粉砕工程の影響が大きく、粉砕粒度や粉砕ガス中の酸素濃度が大きく寄与する。粉末の粒度が細かいほど、また、粉砕ガス中の酸素濃度が高いほど焼結体中の酸素量βは大きい値となる。逆に、粉末の粒度が粗いほど、また、粉砕ガス中の酸素濃度が低いほどβは小さい値となる。なお、アトマイズ法など直接粉末が作製可能な方法で合金を作製した場合は必ずしも粉砕工程をおこなう必要はない。このような粉末を得る際に、所望の焼結体の組成となるように単一の原料合金から作製してもよいし、複数の原料合金の混合粉として得てもよい。
<工程B>成形工程
工程Aで得られた原料粉末を成形し、成形体を得る。結晶を配向させるために成形時に磁界を印加しながら成形することが好ましい。また成形は、金型のキャビティー内に乾燥した原料粉末を挿入し成形する乾式成形法、金型のキャビティー内にスラリー(分散媒中に原料粉末が分散している)を注入しスラリーの分散媒を排出しながら成形する湿式成形法を含む公知の方法を採用することができる。
<工程C>焼結工程
工程Bで得られた成形体を熱処理することで焼結体を得る。焼結方法として、真空や不活性ガス雰囲気で高温に保持して固相焼結や液相焼結を進行させる方法や、成形体に圧力を付与しながら高温に保持する方法などが採用できる。操業コストなどの面から、真空や不活性ガス雰囲気で固相焼結や液相焼結をおこなうことが好ましい。なお、焼結時の雰囲気による酸化を防止するために、焼結は真空雰囲気中やアルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス中でおこなうことが好ましい。さらに、高温では特にSmが顕著に蒸発するため、成形体を覆う、密閉する、Smを含む物質とともに密閉するなどの方法で、Smの蒸発を抑制することがより好ましい。焼結処理温度は1160℃以上1210℃以下である。焼結処理温度を1160℃以上1210℃以下という、特定の狭い温度範囲で行うことにより密度の高い焼結体を得ることができる。焼結処理温度が1160℃未満であると緻密化が不十分となる。また、焼結処理温度が1210℃超であると、焼結処理中に粗大な(Fe,Co,Ti)相(焼結処理温度ではbcc構造でない可能性も考えられるので単に(Fe,Co,Ti)相と記述する)や2−17相が生成してしまい、その後の追加熱処理工程でも十分に異相が低減できない場合がある。焼結処理温度は1180℃以上1210℃以下がより好ましい。焼結処理時間は、0.5時間以上50時間以下である。焼結処理時間が0.5時間未満であると緻密化が十分進行しないおそれがある。また、焼結処理時間が50時間超であると、リードタイムが長くなり操業上好ましくない。また、成形体が湿式の場合は、焼結温度に到達する前に、油が蒸発する温度で脱油処理をおこなった方がよい。
<工程D>追加熱処理
工程Dで得られた焼結体を追加で熱処理することにより、異相の少ない焼結体を得る。工程Cにおける焼結温度の領域では1−12相だけでなく、2−17相や(Fe,Co,Ti)相も安定な領域となるため焼結中に異相が増加する。そこで、1−12相が安定な温度領域で追加熱処理をおこない、2−17相+(Fe,Co,Ti)相→1−12相の反応を促進させ異相を低減する。熱処理温度は900℃以上1150℃以下である。熱処理温度が900℃未満であると原子が十分に拡散されず、2−17相+(Fe,Co,Ti)相→1−12相の反応が進行しにくい。また、熱処理温度が1150℃超であると、2−17相やα−Fe相も安定な領域となるため異相低減が不十分となり不適である。熱処理温度は950℃以上1120℃以下がより好ましい。熱処理時間は、0.5時間以上50時間以下である。熱処理時間が0.5時間未満であると異相の低減が十分進行しないおそれがある。また、熱処理時間が50時間超であると、リードタイムが長くなり操業上好ましくない。
追加熱処理後の焼結体に対し、保磁力向上などの目的でさらに追加で熱処理や特定元素の拡散処理などをおこなってもよい。
以下、本開示の実施例を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
実験例1
まず、主相系原料合金として、表1のA1、A2およびA3の組成となるように各元素を秤量し、ストリップキャスト法で作製した。具体的には、純度が99.9%以上のY、Sm、Fe、Co、Ti、Cuの原料金属(なお、Siは製造工程中に不可避的不純物として含有)を、溶解時の希土類元素の蒸発を加味し、得られる合金組成がねらい値になるように秤量した。秤量した各金属を混合してシリカ坩堝に投入し、高周波誘導加熱により1500℃まで昇温して原料を溶解した。その後、溶湯を1450℃まで降温させ、タンディッシュで一時的に貯湯した後、周速度1.5m/sで回転している銅製の冷却ロール上に供給して冷却させた。冷却された合金は冷却ロール下部に設置した解砕機で解砕された。
次に副相系合金として、表1のB1の組成となるように各元素を秤量し、超急冷法で作製した。具体的には、純度が99.9%以上のY、Sm、Fe、Co、Ti、Cuの原料金属(なお、Siは製造工程中に不可避的不純物として含有)を、溶解時の希土類元素の蒸発を加味し、得られる合金組成がねらい値になるように秤量した。これらの原料金属を液体超急冷装置(メルトスピニング装置)の出湯管内で十分に溶解して合金の要等を形成した後、20m/sのロール周速度で回転するCu製のロール上に溶湯を出湯した。
作製した主相系合金A1〜A3および副相系合金B1の一部をそれぞれ乳鉢で粉砕し、425μmメッシュおよび75μmメッシュを用いて分級した。粒径75〜425μmの粉砕粉を用いて、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法にてY・Sm・Fe・Co・Ti・Cu・Siの成分分析をおこなった。各合金の組成を表1に示す。
Figure 2021052052
作製した主相系合金A1〜A3について合金熱処理をおこなった。具体的には、それぞれを500g秤量してモリブデン製の容器に入れ、容器を管状熱処理炉の内部に挿入した。炉内をArで置換したのち、Arを2L/分流気させた雰囲気で1100℃、1.5時間の熱処理をおこなった。合金熱処理終了後は熱処理炉を開放して合金を冷却させた。このとき、1100℃から100℃までの平均冷却速度は10℃/分以上であった。
上記工程で得た合金熱処理後の主相系合金A1〜A3および副相系合金B1を、モリブデン製の容器に入れ、容器を管状熱処理炉の内部に挿入した。炉内をHで置換したのち、Hを2L/分流気させた雰囲気で350℃、1.5時間の熱処理をおこなった。熱処理終了後は炉内をArに置換したのち、熱処理炉を開放して合金を冷却させた。
上記工程で得た水素処理後の主相系合金および副相系合金をそれぞれAr流気雰囲気のグローブボックス内で乳鉢を用いて粉砕した。粉砕粉を1mmメッシュで篩い分け、メッシュを通った粉を回収した。回収した主相系合金粉末および副相系合金粉末とステアリン酸亜鉛(次工程のための粉砕助剤)をロッキングミキサーで20分間混合した。
上記工程で得た混合粉を日本ニューマチック工業製の気流式ジェットミルPJM−100を用いて微粉砕して微粉を得た。粉砕ガスには窒素ガスを用い、粉砕圧7.0MPaで粉砕して粉末を得た。このときの粉末のD50はいずれも5μmであった。
上記工程で得た粉末を油と混ぜてスラリー状にしたのち、磁界中成形をおこない成形体を得た。成形装置は磁界印加方向と加圧方向とが直交する、いわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。得られた成形体をニオブ箔で被覆した。
上記工程で得られた成形体をモリブデン製の容器に入れ、熱処理炉にて真空雰囲気で200℃、5時間の脱油処理をしたのち炉内にArを満たし、表2に示す焼結処理温度で20時間の焼結工程をおこなった。
上記工程で得られた焼結体の一部をモリブデン製の容器に入れ、容器を管状熱処理炉の内部に挿入した。炉内をArで置換したのち、Arを2L/分流気させた雰囲気で1100℃、20時間の追加熱処理をする工程をおこなった。熱処理終了後は熱処理炉を開放して合金を冷却させた。このとき、1100℃から100℃までの平均冷却速度は10℃/分以上であった。
上記工程で得られた焼結体の一部を乳鉢で粉砕し、425μmメッシュおよび75μmメッシュを用いて分級した。粒径75〜425μmの粉砕粉を用いて、ICP発光分光分析法にてY・Sm・Fe・Co・Ti・Cu・Siの成分分析を、燃焼・赤外線吸収法にて炭素量の分析をおこなった。また、粒径425μm以上の粉砕粉を用いて、不活性ガス溶融・熱伝導法にて酸素量・窒素量の分析をおこなった。分析結果から、各焼結体のy、z、w、α、β、および1−1.45z−0.5α―0.5βの値を求めた。また、焼結体密度はイオン交換水を用いたアルキメデス法により求めた。なお、粒径75μm以下の粉砕粉を用いた粉末X線回折法により、ThMn12型結晶構造を有する相が主相であることを確認した。
焼結体を外周刃切断機で切断した。切断した焼結体を樹脂に埋め、研磨し、焼結体断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。SEMは日本電子製JCM−6000Plus NeoScope(登録商標)を用い、加速電圧15kVで反射電子像を撮影した。撮影した反射電子像を画像処理ソフトを用いて解析した。各相のコントラストをもとに、400μm×600μmの領域でbcc−(Fe、Co、Ti)相および2−17相の断面積比率を求めた。
作製した焼結体に用いた主相系合金および副相系合金の種類、主相系合金の重量を1としたときの副相系合金の混合重量比、焼結体の組成、y、z、w、α、β、1−1.45z−0.5α−0.5βの値、焼結処理温度、追加熱処理の有無、焼結体密度、bcc−(Fe,Co,Ti)相比率および2−17相比率を表2に示す。なお、No.21〜25の試料は主相系合金のみを用いており、副相系合金の混合をおこなわなかった。
Figure 2021052052
No.1、6、11、16、21は焼結温度が1150℃の実験例である。No.1、6、11、16、21以外の試料と比較すると、焼結体密度が著しく低い結果となった。
No.2、3、7,8、12、13、17、18、22、23は1200℃あるいは1220℃で焼結後、追加熱処理をおこなわなかった試料である。焼結体密度は高いが、bcc−(Fe,Co,Ti)相比率と2−17相比率のいずれか、あるいはその両方が10%を超えており、異相が非常に多い結果となった。
No.4、9、19、24は1200℃焼結処理後、1100℃で追加熱処理をおこなった試料である。焼結体密度が高く、bcc−(Fe,Co,Ti)相比率および2−17相比率のいずれも10%以下に抑制することができた。
No.14は、No.4、9、19、24と同様に1200℃焼結処理後、1100℃で追加熱処理をおこなった試料であるが、1−1.45z−0.5α−0.5βの値が0.023であり、0.02よりも高い試料である。焼結体密度は高いが、2−17相比率が10%を超えており、異相が非常に多い結果となった。
No.5、10、15、20、25は1220℃焼結処理後、1100℃で追加熱処理をおこなった試料である。焼結体密度は高いが、bcc−(Fe,Co,Ti)相比率と2−17相比率のいずれか、あるいはその両方が10%を超えており、異相が非常に多い結果となった。
本開示の希土類磁石用焼結体は、Nd−Fe−B系磁石の磁気物性を超える永久磁石が求められている各技術分野、特にモータおよびアクチュエータなどに好適に利用され、産業上の様々な用途を持つ。

Claims (4)

  1. 焼結体の全体組成が下記の組成式(1)で表され、
    R(Fe1−yCow-zCuαβ (1)
    RはR1及びR1以外の希土類元素の少なくとも1種であり、R1はY、Gd、HfおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、
    MはSi、Al、Ti、V、Cr、Nb、Mo、Ta、Wからなる群から選択される少なくとも1種であり、
    y、z、w、αおよびβはそれぞれ、
    0≦y≦0.4、
    0.35≦z≦1.0、
    7≦w≦12、
    0.2≦α≦1.0、
    0.02≦β≦0.5、および
    −0.06≦1−1.45z−0.5α―0.5β≦0.02、
    を満足する、ThMn12型結晶構造を有する相を主相とする希土類磁石用焼結体の製造方法であって、
    原料粉末を得る工程と、
    前記原料粉末を成形して成形体を得る工程と、
    前記成形体を1160℃以上1210℃未満で0.5時間以上50時間以下の熱処理をして焼結体を得る工程と、
    前記焼結体を900℃以上1150℃未満で0.5時間以上50時間以下の追加熱処理をする工程と、
    を含む希土類磁石用焼結体の製造方法。
  2. 前記焼結体の組成において、R1を含有し、R1がR全体の10mol%以上70mol%以下である、請求項1に記載の希土類磁石用焼結体の製造方法。
  3. 前記焼結体の組成において、Smを含有し、SmがR全体の20mol%以上80mol%以下である、請求項1または2に記載の希土類磁石用焼結体の製造方法。
  4. 前記焼結体の組成において、Tiを含有し、TiがM全体の50mol%以上である、請求項1から3のいずれかに記載の希土類磁石用焼結体の製造方法。

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