JP2021019597A - 改変されたヘルパーファージを用いて抗原結合分子を作製する方法 - Google Patents
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Abstract
Description
本特許出願は、2013年9月30日に出願された日本国特許出願2013-203528号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、援用することにより本明細書の一部とされる。
BsAb には通常2種類のH鎖と2種類のL鎖が含まれるが、BsAbを製造する際の問題点として、それらのH鎖とL鎖を一つの細胞に導入し発現させた場合、免疫グロブリンのH鎖及びL鎖が無作為に組み合わされるため、10種類の異なる抗体分子が産生される可能性がある(非特許文献4、特許文献1)。産生される10種類の抗体のうち、所望の二重特異性を有する抗体は、正しいH鎖とL鎖が組み合わさり、さらに結合特異性の異なる2組のH鎖およびL鎖のペアが組み合わせることによって構成された1種類の抗体のみである。
しかし、これらの方法により製造されたH鎖も、依然として誤ったL鎖と対形成し得る。そこで、H鎖のヘテロダイマー化を促進しつつ、共通のL鎖を有する多重特異性抗体を製造する方法が報告されている。共通のL鎖を取得する方法として、L鎖のライブラリーを作製し、それを2つの抗体のH鎖と連続的に組み合わせてそれぞれの抗原に結合可能な抗体をスクリーニングすることにより、共通L鎖を取得する方法(特許文献4);L鎖のレパートリーが制限された抗体ライブラリーから異なる抗原に結合する抗体を取得し、それらの中から同一のL鎖をもつ抗体を選択する方法(非特許文献7、特許文献1);2種類の抗体L鎖のCDRをシャッフリングしたキメラL鎖を作成し、両方の抗原に結合可能な共通L鎖をスクリーニングする方法(非特許文献8);特定のL鎖遺伝子が導入されたトランスジェニクマウスに免疫してL鎖が共通の抗体を取得する方法(特許文献5、特許文献6);特定のL鎖遺伝子が導入され、H鎖のみが多様性をもつ抗体ライブラリーから、異なる抗原に結合する抗体を取得し、L鎖が共通の抗体を取得する方法(非特許文献14)等が知られている。
また、別の方法として、H鎖とL鎖の定常領域を改変することにより、選択的なヘテロダイマー化を促進する方法(特許文献3);H鎖可変領域/L鎖可変領域(VH/VL)もしくはH鎖定常領域CH1/L鎖定常領域(CH1/CL)を入れ替えることにより、所望のヘテロダイマーのみを作成する方法(Crossmab: 特許文献7);2種類の抗体を調製した後、in vitroでジスルフィド結合を異性化させることにより二重特異性抗体を作製する方法(DuoBody: 特許文献8)等も知られている。
ファージ提示技術に用いられる代表的なファージは繊維状ファージM13である。ファージ粒子上への抗体の提示は、通常、g3pなどの、ファージのコートタンパク質をコードする遺伝子に、抗体のH鎖可変領域の遺伝子およびL鎖可変領域の遺伝子が連結されたものをファージミドベクターに挿入して、それを大腸菌に導入し、そこにヘルパーファージを感染させることにより行うことができる。ファージ抗体ライブラリーからの抗体のスクリーニングは、固定化した抗原と抗体ライブラリーを混合して、結合、洗浄、溶出の操作(パンニング、panning)を行うことにより、抗原に結合可能な抗体を提示したファージを選択(選別)することができる。回収したファージは宿主である大腸菌などに感染させて増幅させることが可能であり、そのようにして増幅されたファージを用いてパンニングを繰り返し行うことにより、抗原に特異的に結合する抗体の比率を高めていくことができる(非特許文献9)。
ファージディスプレイの方法により抗体断片を取得する際には、通常、Fabもしくは一本鎖Fv(scFv)とファージコートタンパク質との融合タンパク質の形態で抗体ライブラリーを作製する。当初は、バクテリオファージのすべての遺伝子情報を含むファージベクターが用いられていたが、現在ではファージミドベクターを用いた方法が一般的になっている。ファージミドベクターはファージベクターに比べてサイズの小さいプラスミドベクターである。提示させたいタンパク質をコードする遺伝子をgene 3やgene 8等のファージコートタンパク質をコードする遺伝子のN末端側に連結した遺伝子がファージミドベクターに挿入される。ファージディスプレイの方法においては、提示されるタンパク質をコードする遺伝子がファージ粒子内にパッケージングされる必要があるため、ファージミドベクター上にはファージのパッケージングシグナルが必要である。また、ファージミドベクターを含む大腸菌からファージを産生させるためには、ファージの構造タンパク質等を供給するM13KO7やVCSM13等のヘルパーファージを感染させる必要がある。
このようにして作製したファージ抗体ライブラリーを用いて、対象とする抗原に高親和性の抗体断片を同定する方法として、鎖シャッフリングが用いられてもよい。この方法では、例えば、抗体の抗原結合部位(例えば、L鎖可変領域)をコードするポリヌクレオチドは、ランダムまたは部位特異的突然変異生成により多様化される一方で、抗体の別の抗原結合部位(例えば、H鎖可変領域)をコードするポリヌクレオチドは固定される。これは、例えば、対象とする抗原に結合する抗体のH鎖可変領域をコードする野生型のポリヌクレオチドを、多様化されたL鎖可変領域のポリヌクレオチドのライブラリーを有するファージディスプレイベクター系にクローニングし、次いで、抗原に対して高親和性で結合するものをスクリーニングすることによって達成できる。典型的には、最初に、H鎖可変領域を固定しながら、L鎖可変領域をシャッフリングする。このような、L鎖シャッフリングを利用した抗体のaffinity maturationの方法としては、pLf1T-3(L鎖)ファージミドベクターとpHg3A-3(H鎖-gene3)プラスミドのセットから成るdual-vector system-III (DVS-III)を用いる手法(非特許文献15);H鎖可変領域のファージディスプレイライブラリーを用いて、抗原に対してパンニング操作を行い、その後、パンニング操作により濃縮したH鎖可変領域に対し、ライブラリー化したVL遺伝子を組み合わせ、再度パンニング操作を行う手法(非特許文献16)を挙げてもよい。
〔1〕 抗原結合分子を提示するバクテリオファージを作製する方法であって、第一のポリペプチドを発現可能なヘルパーファージを、第二のポリペプチドを発現可能なバクテリアに接触させる工程を含み、当該第一のポリペプチドと当該第二のポリペプチドが会合して当該抗原結合分子を形成することを特徴とする、方法。
〔2〕 ヘルパーファージのゲノム中に、第一のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挿入されている、〔1〕に記載の方法。
〔3〕 第一のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドがプロモーターに機能的に連結されている、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕 第一のポリペプチドがファージのコートタンパク質と融合している、〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の方法。
〔5〕 ヘルパーファージがM13KO7である、〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の方法。
〔6〕 バクテリアが第二のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、〔1〕から〔5〕のいずれか一項に記載の方法。
〔7〕 第二のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドがファージミドベクターに挿入されている、〔1〕から〔6〕のいずれか一項に記載の方法。
〔8〕 第二のポリペプチドがファージのコートタンパク質と融合している、〔1〕から〔7〕のいずれか一項に記載の方法。
〔9〕 抗原結合分子が抗体可変領域である、〔1〕から〔8〕のいずれか一項に記載の方法。
〔10〕 第一のポリペプチドおよび第二のポリペプチドが、L鎖可変領域を含むポリペプチドおよびH鎖可変領域を含むポリペプチドからなる群からそれぞれ選択され、かつ互いに異なる、〔9〕に記載の方法。
〔11〕 L鎖可変領域を含むポリペプチドがさらにL鎖定常領域を含むポリペプチドであり、かつ/または、H鎖可変領域を含むポリペプチドがさらにH鎖定常領域を含むポリペプチドである、〔10〕に記載の方法。
〔12〕 共通した第一のポリペプチドを含む抗原結合分子提示ライブラリーを作製する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) 〔1〕から〔11〕のいずれか一項に記載の方法を複数回行う工程であって、当該工程において用いられる複数のバクテリアは、アミノ酸配列の異なる複数の第二のポリペプチドを発現可能なバクテリア集団であり、かつ当該工程において用いられるヘルパーファージは同じアミノ酸配列の第一のポリペプチドを発現可能なヘルパーファージである工程、および
(b) 工程(a)で作製された、抗原結合分子を提示する複数のバクテリオファージを回収する工程。
〔13〕 〔12〕に記載の方法により作製された抗原結合分子提示ライブラリー。
〔14〕 所定の抗原に対して特異的に結合する抗原結合分子を取得する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) 〔13〕に記載の抗原結合分子提示ライブラリーに抗原を接触させる工程、および
(b) 当該抗原結合分子提示ライブラリーの中から、当該抗原に結合する抗原結合分子を選択する工程。
〔15〕 共通した第一のポリペプチドを含む多重特異性抗原結合分子を作製する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) 〔14〕に記載の方法を複数の抗原に対して行う工程、および
(b) 工程(a)で取得された複数の抗原結合分子に含まれる、複数の同じアミノ酸配列の第一のポリペプチドおよび複数の異なるアミノ酸配列の第二のポリペプチドを用いて、多重特異性抗原結合分子を作製する工程であって、当該複数の第二のポリペプチドの各々に当該第一のポリペプチドが会合して、当該複数の抗原に対して特異的に結合する当該複数の抗原結合分子を形成することを特徴とする工程。
〔16〕 共通した第一のポリペプチドを含む多重特異性抗原結合分子を作製する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) 〔14〕に記載の方法を複数の抗原に対して行う工程、
(b) 工程(a)で取得された複数の抗原結合分子に含まれる、複数の同じアミノ酸配列の第一のポリペプチドおよび複数の異なるアミノ酸配列の第二のポリペプチドについて、当該第一のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび当該複数の第二のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをそれぞれ調製する工程、
(c) 工程(b)で調製された各ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する工程、および
(d) 工程(c)の宿主細胞を培養し、多重特異性抗原結合分子を回収する工程であって、当該複数の第二のポリペプチドの各々に当該第一のポリペプチドが会合して、当該複数の抗原に対して特異的に結合する当該複数の抗原結合分子を形成することを特徴とする工程。
〔17〕 多重特異性抗原結合分子が二重特異性抗原結合分子である、〔15〕または〔16〕に記載の方法。
〔18〕 抗原結合分子の製造方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) 所定の抗原に対して特異的に結合できる、第一のポリペプチドおよび第二のポリペプチドが会合された、参照となる抗原結合分子(親抗原結合分子)の第一のポリペプチドと同じアミノ酸配列の第一のポリペプチドを発現可能なヘルパーファージを、親抗原結合分子の第二のポリペプチドと異なるアミノ酸配列の第二のポリペプチドをそれぞれ発現可能なバクテリア集団に接触させて、共通した第一のポリペプチドと、アミノ酸配列の異なる第二のポリペプチドとがそれぞれ会合された、抗原結合分子(子供抗原結合分子)を提示する複数のバクテリオファージを含む、抗原結合分子提示ライブラリーを作製する工程、および
(b) 工程(a)で作製された抗原結合分子提示ライブラリーに前記抗原を接触させて、前記抗原に対して特異的に結合できる子供抗原結合分子を選択する工程。
〔19〕 〔18〕に記載の方法であって、以下の工程をさらに含む方法:
(d) 〔18〕に記載の工程(b)で得られた子供抗原結合分子の第二のポリペプチドと同じアミノ酸配列の第二のポリペプチドを発現可能なヘルパーファージを、子供抗原結合分子の第一のポリペプチドと異なるアミノ酸配列の第一のポリペプチドをそれぞれ発現可能なバクテリア集団に接触させて、共通した第二のポリペプチドと、アミノ酸配列の異なる第一のポリペプチドとがそれぞれ会合された、抗原結合分子(孫抗原結合分子)を提示する複数のバクテリオファージを含む、抗原結合分子提示ライブラリーを作製する工程、および
(e) 工程(d)で作製された抗原結合分子提示ライブラリーに前記抗原を接触させて、前記抗原に対して特異的に結合できる孫抗原結合分子を選択する工程。
〔20〕 改変されたヘルパーファージおよび当該ヘルパーファージが感染可能なバクテリアの組合せであって、当該ヘルパーファージは、第一のポリペプチドを発現可能なヘルパーファージであり、かつ当該バクテリアは、第二のポリペプチドを発現可能なバクテリアであって、当該第一のポリペプチドと当該第二のポリペプチドが会合して、抗原結合分子を形成することを特徴とする、組合せ。
〔21〕 あるポリペプチドを発現可能な改変されたヘルパーファージであって、当該ポリペプチドが、会合して抗原結合分子を形成することを特徴とする二本のポリペプチドのいずれか一方である、ヘルパーファージ。
〔22〕 上記に記載の1又は複数の態様を任意に組み合わせたものも、当業者の技術常識に基づいて技術的に矛盾しない限り、本発明に含まれることが当業者には当然に理解される。
本発明における第一のポリペプチドと第二のポリペプチドは、互いに会合して、一つの抗原結合分子を形成することを特徴とする。ヘルパーファージをバクテリアに接触させた結果としては、当該ヘルパーファージが当該バクテリアに感染することが望ましい。
一態様において、本発明に用いられるヘルパーファージとしては、M13KO7、R408、VCSM13、KM13(Res Microbiol (2001) 152, 187-191)、M13MDD3.2(FEMS Microbiol Lett (1995) 125, 317-321)、R408d3(Gene (1997) 198, 99-103)、VCSM13d3(Gene (1997) 198, 99-103)、Hyperphage(Nat Biotechnol (2001) 19, 75-78)、CT helper phage(Nucleic Acids Res (2003) 31, e59)、Ex-phage(Nucleic Acids Res (2002) 30, e18)、Phaberge(J Immunol Methods (2003) 274, 233-244)、XP5(J Immunol Methods (2012) 376, 46-54)、DeltaPhage(Nucleic Acids Res (2012) 40, e120)などを挙げることができる。一般にM13系のヘルパーファージが好ましく、特に好ましい例としては、M13KO7を挙げることができる。
第一のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドがヘルパーファージのゲノム中に挿入される位置は特に限定されないが、ヘルパーファージ本来の機能に影響を与えないよう、ファージタンパク質をコードしないゲノムの非翻訳領域に挿入されることが好ましい。そのような好ましい位置の具体例として、ヘルパーファージがM13KO7の場合、カナマイシン耐性遺伝子とp15A oriの間に位置しているSacIサイトや、p15A oriとM13 oriの間に位置しているSacIIサイトなどを挙げることができる。あるいは、後述するように、第一のポリペプチドがファージのコートタンパク質と融合している場合には、第一のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドがゲノム中のファージのコートタンパク質をコードするポリヌクレオチドと読み枠が合う形で連結する位置に挿入されてもよい。
本明細書における抗原結合分子は、いかなる動物種(例えば、ヒト;あるいは、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ウシ、ラクダなどの非ヒト動物)やいかなる鳥類に由来してもよい。
一態様において、本発明における抗原結合分子が抗体の場合、第一のポリペプチドはL鎖を含む(もしくは、からなる)、同一の二本のポリペプチドであり、かつ第二のポリペプチドはH鎖を含む(もしくは、からなる)、同一の二本のポリペプチドである;あるいは、第一のポリペプチドはH鎖を含む(もしくは、からなる)、同一の二本のポリペプチドであり、かつ第二のポリペプチドはL鎖を含む(もしくは、からなる)、同一の二本のポリペプチドであることが好ましい。すなわち、第一のポリペプチドおよび第二のポリペプチドは、L鎖を含む(もしくは、からなる)、二本のポリペプチド、およびH鎖を含む(もしくは、からなる)、二本のポリペプチドからなる群からそれぞれ選択され、かつ互いに異なることが好ましい。そのような抗体を用いたファージライブラリー(IgG phage display)は、例えば、FEBS J. 2010 May;277(10):2291-303やWO2011062859に記載されるとおり、当業者に公知であり、本発明の抗原結合分子として抗体が使用できることが当業者には当然に理解される。
一態様において、本発明における抗原結合分子がF(ab')2の場合、第一のポリペプチドはL鎖可変領域を含む、同一の二本のポリペプチドであり、かつ第二のポリペプチドはH鎖可変領域を含む、同一の二本のポリペプチドである;あるいは、第一のポリペプチドはH鎖可変領域を含む、同一の二本のポリペプチドであり、かつ第二のポリペプチドはL鎖可変領域を含む、同一の二本のポリペプチドであることが好ましい。すなわち、第一のポリペプチドおよび第二のポリペプチドは、L鎖可変領域を含む二本のポリペプチド、およびH鎖可変領域を含む二本のポリペプチドからなる群からそれぞれ選択され、かつ互いに異なることが好ましい。そのようなF(ab')2を用いたファージライブラリーは、例えば、J Immunol Methods. 2004 Jan;284(1-2):119-32に記載されるとおり、当業者に公知であり、本発明の抗原結合分子としてF(ab')2が使用できることが当業者には当然に理解される。当該文献では、FabとM13バクテリオファージのg3p (gene 3 protein)との間に、IgG1ヒンジ領域とホモ二量体化したロイシンジッパーとからなる二量化ドメインを挿入した「Fab'-zip-」をファージ上に提示させることにより、ファージ上でF(ab')2を形成させて(「Fab'-zip-phage」)、IgG抗体に類似した、結合力の高い二価のFabを提示するファージライブラリーを構築している。
diabodyを構成するフラグメントは、H鎖可変領域(またはその断片)とL鎖可変領域(またはその断片)を結合したものが好ましい。diabodyを構成するフラグメント中において、可変領域と可変領域を結合するリンカーは特に制限されないが、同一フラグメント中の可変領域の間で非共有結合が起こらない程度に短いリンカーを用いることが好ましい。そのようなリンカーの長さは当業者が適宜決定することができ、通常、2〜14アミノ酸、好ましくは3〜9アミノ酸、特に好ましくは4〜6アミノ酸である。この場合、同一フラグメント上にコードされるH鎖可変領域(またはその断片)とL鎖可変領域(またはその断片)とは、その間のリンカーが短いため、同一鎖上のH鎖可変領域(またはその断片)とL鎖可変領域(またはその断片)との間で非共有結合が起こらず、単鎖V領域フラグメントが形成されないため、他のフラグメントとの二量体を形成することができる。二量体を形成する際、diabodyを構成するフラグメント間の結合は、非共有結合(例えば、水素結合、静電的相互作用、またはファンデルワールス力)、共有結合(例えばジスルフィド結合)、または、共有結合と非共有結合の両方でもよい。
一態様において、本発明における抗原結合分子がdiabodyの場合、第一のポリペプチドはH鎖可変領域(またはその断片)とL鎖可変領域(またはその断片)をリンカーで結合したものであり、第二のポリペプチドはL鎖可変領域(またはその断片)とH鎖可変領域(またはその断片)をリンカーで結合したものである;あるいは、第一のポリペプチドはL鎖可変領域(またはその断片)とH鎖可変領域(またはその断片)をリンカーで結合したものであり、第二のポリペプチドはH鎖可変領域(またはその断片)とL鎖可変領域(またはその断片)をリンカーで結合したものであることが好ましい。すなわち、第一のポリペプチドおよび第二のポリペプチドは、H鎖可変領域(またはその断片)とL鎖可変領域(またはその断片)をリンカーで結合したもの、およびL鎖可変領域(またはその断片)とH鎖可変領域(またはその断片)をリンカーで結合したもの、からなる群からそれぞれ選択され、かつ互いに異なることが好ましい。そのようなdiabodyを用いたファージライブラリーは、例えば、Nat Biotechnol. 1996 Sep;14(9):1149-54;US 20070036789に記載されるとおり、当業者に公知であり、本発明の抗原結合分子としてdiabodyが使用できることが当業者には当然に理解される。
別の態様において、上記Fcタンパク質に、タンパク質(例えば、サイトカインまたは受容体細胞外ドメイン)やペプチドを融合させたFc融合タンパク質も、本発明の抗原結合分子に含むことができる。Fc融合タンパク質は、抗体ヒンジ領域および/またはリンカーを含んでもよい。可溶性Fc融合タンパク質は、in vitro, in vivo実験で広く用いられており、非融合タンパク質に比べて多くの長所を有し得る(Meg L et al., Methods in Molecular Biology 378:33-52, 2007)。また、可溶性Fc融合タンパク質は、ヒト抗体製剤の生産において、抗原特異性を維持しながら多くの免疫学的な問題を排除し得る。代表的な可溶性Fc融合ヒト抗体製剤として、自己免疫疾患治療剤であるEtanercept(Amgen)が挙げられ、これは、可溶性TNFレセプター2に、ヒトIgG1のFcを融合させて製造された。当業者は、例えば、WO2009/136568、WO2007/048122、WO2011/115323に記載されるような、当業者に公知の方法を用いて、適宜、Fc融合タンパク質を製造し、ファージライブラリーに用いることができることが理解される。
(a) 抗原結合分子を提示するバクテリオファージを作製する本発明の方法を複数回行う工程であって、当該工程において用いられる複数のバクテリアは、アミノ酸配列の異なる複数の第二のポリペプチドを発現可能なバクテリア集団であり、かつ当該工程において用いられるヘルパーファージは同じアミノ酸配列の第一のポリペプチドを発現可能なヘルパーファージである工程、および
(b) 工程(a)で作製された、抗原結合分子を提示する複数のバクテリオファージを回収する工程。
(a) 本発明の抗原結合分子提示ライブラリーに抗原を接触させる工程、および
(b) 当該抗原結合分子提示ライブラリーの中から、当該抗原に結合する抗原結合分子を選択する工程。
(a) 所定の抗原に対して特異的に結合する抗原結合分子を取得する本発明の方法を複数の抗原に対して行う工程、および
(b) 工程(a)で取得された複数の抗原結合分子に含まれる、複数の同じアミノ酸配列の第一のポリペプチドおよび複数の異なるアミノ酸配列の第二のポリペプチドを用いて多重特異性抗原結合分子を作製する工程であって、当該複数の第二のポリペプチドの各々に当該第一のポリペプチドが会合して、当該複数の抗原に対して特異的に結合する当該複数の抗原結合分子を形成することを特徴とする工程。
(a) 所定の抗原に対して特異的に結合する抗原結合分子を取得する本発明の方法を複数の抗原に対して行う工程、
(b) 工程(a)で取得された複数の抗原結合分子に含まれる、複数の同じアミノ酸配列の第一のポリペプチドおよび複数の異なるアミノ酸配列の第二のポリペプチドについて、当該第一のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび当該複数の第二のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをそれぞれ調製する工程、
(c) 工程(b)で調製された各ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する工程、および
(d) 工程(c)の宿主細胞を培養し、多重特異性抗原結合分子を回収する工程であって、当該複数の第二のポリペプチドの各々に当該第一のポリペプチドが会合して、当該複数の抗原に対して特異的に結合する当該複数の抗原結合分子を形成することを特徴とする工程。
(a) 所定の抗原に対して特異的に結合できる、第一のポリペプチドおよび第二のポリペプチドが会合された、参照となる抗原結合分子(親抗原結合分子)の第一のポリペプチドと同じアミノ酸配列の第一のポリペプチドを発現可能なヘルパーファージを、親抗原結合分子の第二のポリペプチドと異なるアミノ酸配列の第二のポリペプチドをそれぞれ発現可能なバクテリア集団に接触させて、共通した第一のポリペプチドと、アミノ酸配列の異なる第二のポリペプチドとがそれぞれ会合された、抗原結合分子(子供抗原結合分子)を提示する複数のバクテリオファージを含む、抗原結合分子提示ライブラリーを作製する工程、および
(b) 工程(a)で作製された抗原結合分子提示ライブラリーに前記抗原を接触させて、前記抗原に対して特異的に結合できる子供抗原結合分子を選択する工程。
当該方法は、さらに、以下の工程を含んでよい。
(c) 工程(b)で選択した子供抗原結合分子の中から、親抗原結合分子と比較して異なる物性を有する子供抗原結合分子を取得する工程。
さらなる態様において、当該抗原結合分子の製造方法は、以下の工程をさらに含む方法に関してもよい:
(d) 前記工程(b)で選択されたか、または前記工程(c)で取得された子供抗原結合分子の第二のポリペプチドと同じアミノ酸配列の第二のポリペプチドを発現可能なヘルパーファージを、子供抗原結合分子の第一のポリペプチドと異なるアミノ酸配列の第一のポリペプチドをそれぞれ発現可能なバクテリア集団に接触させて、共通した第二のポリペプチドと、アミノ酸配列の異なる第一のポリペプチドとがそれぞれ会合された、抗原結合分子(孫抗原結合分子)を提示する複数のバクテリオファージを含む、抗原結合分子提示ライブラリーを作製する工程、および
(e) 工程(d)で作製された抗原結合分子提示ライブラリーに前記抗原を接触させて、前記抗原に対して特異的に結合できる孫抗原結合分子を選択する工程。
当該方法は、さらに、以下の工程を含んでよい。
(f) 工程(e)で選択した孫抗原結合分子の中から、子供抗原結合分子と比較して異なる物性を有する孫抗原結合分子を取得する工程。
さらに、当該方法により物性が劣った抗体が得られた場合であっても、例えば、非ヒト動物由来抗体のヒト化等に用いることができるので有利である(J Mol Biol. 2000 Feb 25;296(3):833-49.)。例えば、非ヒト動物由来の第一のポリペプチドを固定し、ヒト由来の第二のポリペプチドのライブラリーと組み合わせ、抗原に対してパンニング操作を行うことにより、ヒト由来の第二のポリペプチドを取得することができる。引き続き、第二のポリペプチドを固定しヒト由来の第一のポリペプチドのライブラリーと組み合わせ、抗原に対してパンニング操作を行うことにより、ヒト由来の第一のポリペプチドを取得することができる。このように、順次、ヒト抗体Libraryと置き換えることにより、非ヒト動物由来抗体を元としてヒト抗体を取得することが可能である。
例えば、抗体のH鎖可変領域とL鎖可変領域の界面にあるアミノ酸残基を変えることで、熱安定性を向上させることが可能であることが報告されている(J Mol Biol. 2003 Jan 17;325(3):531-53)。
例えば、抗体可変領域のグルタミン残基をグルタミン酸残基に置換することにより、化学的安定性を向上させることが可能であることが報告されている(Anticancer Drugs. 2010 Nov;21(10):907-16)。
例えば、抗体可変領域の疎水性残基を疎水性の低い残基に置換することにより、溶解度を向上させることが可能であることが報告されている(Protein Sci. 2010 May;19(5):954-66)。
また、抗体可変領域からN型糖鎖付加配列を除くことにより、産生される抗体の不均一性を低減させることが可能であることが報告されている(J Mol Biol. 2011 Oct 14;413(1):261-78)。
したがって、当業者は、所与の目的に応じて、当該抗原結合分子の製造方法により、抗体の安定性や等電点などを変えることで、例えば、抗体の血中半減期、平均血中滞留時間を延長または短縮するか、あるいは、血中クリアランスを低下または向上させることができることを理解する。
例えば、抗原と接触させて、当該抗原に対して特異的に結合できる抗原結合分子を選択してきた後に、所望の物性を有する抗原結合分子群についてパンニング操作を行わずに、当該物性を評価(例えば、測定または予測)してもよい(MAbs. 2011 May-Jun;3(3):243-52)。あるいは、パンニング操作を行い、候補となる抗原結合分子を選抜した(絞り込んだ)後に、当該物性を評価してもよい。
例えば、前記「異なる物性」が抗原に対する親和性の場合には、ELISA、FACS、表面プラズモン共鳴を利用するBiacore、あるいは、本実施例で用いたOctet systemのようなバイオレイヤー干渉法(BioLayer Interferometry: BLI)を利用してもよい。
例えば、前記「異なる物性」が等電点の場合には、得られた抗原結合分子のアミノ酸配列に基づいて、Getetyx等の当業者に公知の市販のソフトを用いて、等電点を計算(予測)することが可能である。一実施態様において、抗原に対して十分な特異的結合能を有する抗原結合分子のアミノ酸配列について等電点予測を行い、所望の等電点を有する分子を選択してよい。あるいは、等電点電気泳動(IEF)等を用いて、実際に等電点を測定してもよい(Protein Eng Des Sel. 2010 May;23(5):385-92)。
例えば、前記「異なる物性」が熱安定性または化学的安定性の場合には、パンニング操作の前に抗原結合分子に熱を加えた後、あるいは抗原結合分子を変性させた後に、抗原に対してパンニング操作を行ってもよい(Methods Mol Biol. 2012;907:123-44)。
本発明における第一のポリペプチドと第二のポリペプチドは、互いに会合して、一つの抗原結合分子を形成することを特徴とする。
(1−1)L鎖発現ユニットを組み込んだL鎖発現ヘルパーファージの構築
ヘルパーファージのゲノムに、プロモーター、シグナル配列、抗体L鎖遺伝子などを組み込むことにより、L鎖発現ヘルパーファージの構築を行った。本ヘルパーファージが感染した大腸菌からは抗体L鎖の発現が可能となる。
具体的には、ヘルパーファージ(M13KO7: Invitrogen)を大腸菌株XL1-Blueへ感染させ、一晩振とう培養を行った後、ヘルパーファージからのゲノム抽出を行った(QIAprep Spin Miniprep Kit : QIAGEN)。ヘルパーファージゲノムに含まれるgene 3遺伝子のN2ドメインにBamHIサイト、gene 1にPacIサイトがある。得られたヘルパーファージゲノムをBamHI, PacIで切断した後、0.6% アガロースゲルにて電気泳動を行い、ゲル切り出し精製(Wizard SV Gel and PCR Clean-Up system: Promega)を行うことにより、gene 3〜gene 1部分のDNA断片および残りのゲノム側のDNA断片をそれぞれ調製した。調製されたgene 3〜gene 1部分のDNA断片を鋳型としてPCRを行い、gene 3のN2ドメインとCTドメインの間にトリプシン切断配列をコードするDNAが挿入されたDNA断片を新たに作成した。改変前のgene 3のアミノ酸配列を配列番号:1に、改変されたgene 3のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。このDNA断片を、先に調製した残りのゲノム側のDNA断片と再び連結させることにより、ヘルパーファージのpIIIタンパク質のN2ドメインとCTドメインの間にトリプシン切断配列を挿入したヘルパーファージM13KO7TCが構築された(特表2002-514413を参照)。
ヘルパーファージM13KO7TCを大腸菌株ER2738へ感染させ、一晩振とう培養を行った後、感染大腸菌からヘルパーファージM13KO7TCのゲノム抽出を行った(NucleoBond Xtra Midi Plus)。L鎖発現ユニットを組み込む場所として、カナマイシン耐性遺伝子とp15A oriの間に位置しているSacIサイトを選択した(図1)。この場所に限らず、p15A oriとM13 oriの間に位置しているSacIIサイト等への挿入でも問題ないと考えられる。上記方法にて精製したヘルパーファージM13KO7TCゲノムをSacIで切断した後、0.6% アガロースゲルにて電気泳動を行い、ゲル切り出し精製(Wizard SV Gel and PCR Clean-Up system: Promega)を行うことにより、目的のDNA断片(M13KO7TC/SacI)を得た。
導入する抗体L鎖(VLおよびCL)として、抗ヒトIL-6R抗体であるPF1のL鎖を用いた。この際、L鎖定常領域のC末端にあるCysのAlaへの置換が大腸菌におけるFab発現に有利であることが知られているので(J Biol Chem. 2003 Oct 3; 278(40): 38194-38205)、そのような配列を用いた。lacプロモーター - pelBシグナル配列 - PF1 L鎖遺伝子をin-fusion法(In-Fusion HD Cloning Kit: Clontech)にて 、M13KO7TC/SacIへ挿入し、大腸菌株ER2738へエレクトロポレーション法により導入した。 lacプロモーターの核酸配列を配列番号:3に、pelBシグナル配列のアミノ酸配列および核酸配列を配列番号:4および配列番号:5に、PF1 L鎖のアミノ酸配列および核酸配列を配列番号:6および配列番号:7にそれぞれ示す。
得られた大腸菌を培養し、培養上清に2.5 M NaCl/10%PEGを添加してPEG沈殿法によりヘルパーファージを精製した。得られたヘルパーファージM13KO7TC-PF1Lのタイターを一般的なプラーク形成法にて確認した。
ファージ表面上に抗体H鎖を発現するためのファージミドベクターを構築した。ファージミドベクターは、プラスミドベクターにファージ粒子へのパッケージングシグナル、プロモーター、シグナル配列、抗体H鎖遺伝子、リンカー遺伝子、gene3遺伝子などをそれぞれ機能的に挿入することにより作製した。抗体H鎖はリンカーペプチドを介してgene3タンパク質(g3p)と融合している。導入する抗体H鎖(VHおよびCH1からなるFd)として、抗ヒトIL-6R抗体であるPF1のH鎖を用いた。PF1 H鎖のアミノ酸配列を配列番号:8に示す。構築したファージミドベクターを大腸菌株ER2738へエレクトロポレーション法により導入し、PF1 H鎖発現ファージミドベクターを保持する大腸菌ER2738/pAG-PF1Hを構築した。
大腸菌ER2738/pAG-PF1HをOD 0.5付近まで培養した後、ヘルパーファージM13KO7TC-PF1LもしくはM13KO7TCを感染させた。培地交換を実施後、30℃で一晩培養し、培養上清を回収した。ファージが産生された大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加してファージを沈殿させ、それをTBSにて溶解しファージ液を取得した。得られたファージのタイターを一般的なコロニー形成法にて確認した。
ファージELISA法により、産生されたファージのFab提示の確認および抗原への結合能の確認を行った。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)へGoat anti-Human Kappa Biotin抗体(EY LABORATORIES)、もしくはビオチン標識ヒトIL-6Rを含む100μLのPBSを添加し、プレートをコーティングした。当該プレートの各ウェルを0.1xTBST(0.1%Tween20を含む0.1xTBS)にて洗浄することによって抗原を除いた後、当該ウェルに0.02% Skim Milk-0.1xTBS(0.02% Skim Milkを含む0.1xTBS) 250μLを加え1時間以上ブロッキングした。0.02% Skim Milk-0.1xTBSを除いた後、各ウェルに0.02% Skim Milk-0.1xTBSにて希釈されたファージ液を加え37℃で1時間静置することによって、ファージ上に提示された抗体をGoat anti-Human Kappa Biotin抗体もしくはビオチン化ヒトIL-6Rに結合させた。0.1xTBSTにて洗浄された後、各ウェルに0.1xTBSTにて希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)を添加し1時間インキュベーションした。0.1xTBSTにて洗浄後、各ウェルにTMB single溶液(ZYMED)を添加し、さらに硫酸を添加して溶液の発色反応を停止させた後、450 nmの吸光度を測定した。
その結果、H鎖発現ファージミドベクターとL鎖発現ヘルパーファージM13KO7TC-PF1Lとを組み合わせてファージを産生させた場合にのみファージ上にFabが提示され(図2)、また、ファージ上に提示されたFabが抗原結合能を維持していることが確認された(図3)。
ヒト末梢血単核球(PBMC)から調製したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型として、PCR法によりナイーブH鎖可変領域遺伝子が増幅された。これらをファージミドベクターへ挿入し、構築されたファージミドベクターを大腸菌株ER2738へエレクトロポレーション法により導入したところ、1.1x1010程度のコロニーが得られた。
これらの大腸菌に実施例1で構築したヘルパーファージM13KO7TC-PF1Lを感染させ培養することにより、ナイーブH鎖とPF1 L鎖を含むFabを提示するヒト抗体ファージディスプレイライブラリー(NH-PF1Lライブラリー)を構築した。
(3−1)ビオチン標識ヒトPlexinA1の調製
単回膜貫通タンパク質であるヒトプレキシンA1(hPlexinA1)の細胞外領域を以下のように調製した。NCBI Reference Sequence NP_115618(配列番号:9)のアミノ酸配列をもとに合成されたhPlexinA1遺伝子から、膜貫通領域と予想される1245番目のアラニン以降を除去し、代わりにFLAG タグ配列(配列番号:13) を付加した。さらに1-26番目までのシグナルペプチド (配列番号:14) を人工シグナルペプチドHMM+38 (配列番号:15) に置換した。作製されたhPlexinA1(配列番号:10)をコードする遺伝子を動物細胞用発現ベクターに組み込み、293Fectin (Invitorgen)を用いてFreeStyle293細胞(Invitorgen)に導入した。このとき、目的遺伝子の発現効率の向上のため、EBNA1(配列番号:17)を発現する遺伝子を同時に導入した。前述の手順に従って遺伝子導入された細胞を37℃、8% CO2で6日間培養し、目的のタンパク質を培養上清中に分泌させた。
目的のhPlexinA1を含む細胞培養液を0.22μmボトルトップフィルターでろ過し、培養上清を得た。D-PBS(-)(和光純薬)で平衡化された抗FLAG抗体M2アガロース(Sigma-Aldrich) に培養上清をアプライした後、FLAGペプチドを溶解したD-PBSを加えることにより目的のhPlexinA1を溶出させた。次に、D-PBS(-)で平衡化されたSuperdex 200(GEヘルスケア)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより、hPlexinA1を含む画分を分取した。
上述のように作製されたhPlexinA1に対してEZ-Link NHS-PEG4-Biotin (Thermo SCIENTIFIC)を用いることにより、ビオチン標識hPlexinA1が調製された。
マウスIgA-Fc領域(mIgA-Fc: マウスIgAのCH2およびCH3ドメイン、配列番号:11)のC末端にビオチンを付加する目的で、mIgA-Fcをコードする遺伝子断片の下流に、ビオチンリガーゼによってビオチンが付加される特異的な配列(AviTag配列、配列番号:16)をコードする遺伝子断片をリンカーを介して連結させた。mIgA-FcとAviTag配列が連結されたタンパク質(mIgA_CH2-CH3-Avitag(配列番号:12))をコードする遺伝子断片を動物細胞発現用ベクターに組み込み、構築されたプラスミドベクターを293Fectin (Invitrogen)を用いてFreeStyle293細胞 (Invitrogen)に導入した。このときEBNA1(配列番号:17)を発現する遺伝子およびビオチンリガーゼ(BirA、配列番号:18)を発現する遺伝子を同時に導入し、さらにmIgA-Fcをビオチン標識する目的でビオチンを添加した。前述の手順に従って遺伝子が導入された細胞を37℃、8% CO2で6日間培養し、目的のタンパク質を培養上清中に分泌させた。
目的のmIgA-Fcを含む細胞培養液を0.22μmボトルトップフィルターでろ過し、培養上清を得た。20 mM Tris-HCl, pH7.4で平衡化されたHiTrap Q HP (GEヘルスケア)に、同溶液で希釈された培養上清をアプライし、NaClの濃度勾配により目的のmIgA-Fcを溶出させた。次に、50 mM Tris-HCl, pH8.0で平衡化されたSoftLink Avidin カラム(Promega)に、同溶液で希釈された前記HiTrap Q HP溶出液をアプライし、5 mM ビオチン, 150 mM NaCl, 50 mM Tris-HCl, pH8.0で目的のmIgA-Fcを溶出させた。その後、Superdex200(GEヘルスケア)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーによって、目的外の不純物であるmIgA-Fc会合体を除去し、バッファーが20 mM Histidine-HCl, 150 mM NaCl, pH6.0に置換された精製mIgA-Fcを得た。
可溶型ヒトIL-6R(hIL-6R、配列番号:19)のC末端にビオチンを付加する目的で、可溶型hIL-6Rをコードする遺伝子断片の下流に、ビオチンリガーゼによってビオチンが付加される特異的な配列(AviTag配列、配列番号:16)をコードする遺伝子断片をリンカーを介して連結させた。可溶型hIL-6RとAviTag配列が連結されたタンパク質(shIL6R-Avitag、配列番号:20)をコードする遺伝子断片を動物細胞発現用ベクターに組み込み、構築されたプラスミドベクターを293Fectin (Invitrogen)を用いてFreeStyle293細胞 (Invitrogen)に導入した。このときEBNA1(配列番号:17)を発現する遺伝子およびビオチンリガーゼ(BirA、配列番号:18)を発現する遺伝子を同時に導入し、さらに可溶型hIL-6Rをビオチン標識する目的でビオチンを添加した。前述の手順に従って遺伝子が導入された細胞を37℃、8% CO2で培養し、目的のタンパク質を培養上清中に分泌させた。
目的の可溶型hIL-6Rを含む細胞培養液から、(3−2)と同様の方法で精製を行い、ビオチン標識hIL-6Rを得た。
実施例2で構築されたPF1 L鎖を含む抗体ライブラリー(NH-PF1Lライブラリー)から、各種抗原(hPlexinA1、mIgA-Fc、hIL-6R)に結合する抗体断片の選抜を、各抗原への結合能を指標として実施した。
ヒトナイーブH鎖遺伝子が挿入されたファージミドベクターを保持する大腸菌に、ヘルパーファージM13KO7TC-PF1Lを感染させ培養することにより、ヒト抗体H鎖とPF1 L鎖を含むFabを提示するヒト抗体ファージディスプレイライブラリー(NH-PF1Lライブラリー)が構築された。ファージが産生された大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加してファージを沈殿させ、それをTBSにて希釈することによってファージライブラリー液を得た。次に、ファージライブラリー液に終濃度4%となるようBSAを添加して、ファージライブラリー液をブロッキングした。パンニング方法として、一般的な方法である磁気ビーズに固定化された抗原を用いるパンニング方法が参照された(J. Immunol. Methods. (2008) 332(1-2), 2-9、J. Immunol. Methods. (2001) 247(1-2), 191-203、Biotechnol. Prog. (2002) 18(2), 212-220、Mol. Cell Proteomics (2003) 2(2), 61-69)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。具体的には、調製されたファージライブラリー液にビオチン標識抗原(ビオチン標識hPlexinA1、ビオチン標識mIgA-Fc、ビオチン標識hIL-6R)を加え、ファージライブラリー液と抗原を室温にて60分間接触させた。1回目のパンニングでは250 pmol、2回目のパンニングでは40 pmol、3回目のパンニングでは10 pmolのビオチン標識抗原がそれぞれ用いられた。そこにBSA溶液でブロッキングされた磁気ビーズを加え、抗原−ファージ複合体と磁気ビーズを室温にて15分間結合させた。回収されたビーズは1 mLのTBST(0.1% Tween20を含むTBS)と1 mLのTBSにて洗浄された。その後、ビーズに1 mg/mLのトリプシン溶液0.5 mLを加えて室温で15分間懸濁させた後、即座に磁気スタンドを用いてビーズを分離し、上清のファージ溶液を回収した。回収されたファージ溶液を、対数増殖期(OD600 =0.4-0.7)まで培養された10 mLの大腸菌株ER2738に添加し、37℃で1時間緩やかに攪拌培養することによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染された大腸菌は225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌を回収して培養した後、ヘルパーファージM13KO7TC-PF1Lを感染させ培養することにより、PF1 L鎖を含むFabを提示するファージを産生させた。培養液からファージを回収することによって、ファージライブラリー液が調製された。これを1回のパンニングとし、合計3回のパンニングが繰り返された。
(3−4)で実施されたパンニングが2回または3回終了した後に得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習ってファージの産生を行い、ファージ含有培養上清を回収した。その際、ヘルパーファージにはM13KO7TC-PF1Lを用いた。培養上清は以下の手順でELISAに供された。
ビオチン標識抗原(hPlexinA1、mIgA-Fc、hIL-6R)を含む、もしくは含まない100μLのPBSにて、StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)を一晩コーティングした。当該プレートの各ウェルを0.1xTBST(0.1% Tween20を含む0.1xTBS)にて洗浄することによって抗原を除いた後、各ウェルを250μLの0.02% SkimMilk-0.1xTBS(0.02% SkimMilkを含む0.1xTBS)にて1時間以上ブロッキングした。0.02% SkimMilk-0.1xTBSを除いた後、各ウェルにファージ培養上清を加え、プレートを37℃で1時間静置することによって、ファージ上に提示された抗体を各ウェルに存在するビオチン標識抗原に結合させた。各ウェルを0.1xTBSTにて洗浄した後、0.1xTBSTによって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)を添加し、プレートを1時間インキュベーションした。各ウェルをTBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)を添加し、さらに溶液の発色反応を硫酸の添加により停止させた後、各ウェルの450 nmの吸光度を測定した。
上記のファージELISAの結果、抗原をコーティングしていないプレートに対する抗原をコーティングしたプレートの発色比が2倍以上で、かつ抗原をコーティングしたプレートでの発色が0.2以上のものを抗原特異的に結合するクローンと判断した。さらに、抗原特異的に結合すると判断されたクローンに対し、抗体断片遺伝子の塩基配列解析が行われた。
ファージELISAの結果を表1に示す。表中におけるR2はパンニング2回終了後のクローン、R3はパンニング3回終了後のクローンをそれぞれ表す。その結果、hPlexinA1、mIgA-Fc、hIL-6Rの各抗原に対して特異的に結合し、かつ配列の異なる複数のクローンが得られた。
(4−1)取得されたPF1 L鎖を有する各種抗原(ヒトPlexinA1、マウスIgA-Fc、ヒトIL-6R)結合抗体の発現および精製
実施例3においてヒトIL-6Rに対する結合抗体として取得された抗体のうち、6RNH-2_02(重鎖、配列番号:21), 6RNH-2_37(重鎖、配列番号:22), 6RNH-3(2)_32(重鎖、配列番号:23), 6RNH-2_42(重鎖、配列番号:24)の4抗体を、ヒトPlexinA1に対する結合抗体として取得された抗体のうち、PANH-2_52(重鎖、配列番号:25), PANH-2_68(重鎖、配列番号:26), PANH-3_10(重鎖、配列番号:27)の3抗体を、マウスIgA-Fcに対する結合抗体として取得された抗体のうち、mIANH-2_27(重鎖、配列番号:28), mIANH-3_79(重鎖、配列番号:29)の2抗体を、以下の方法を用いて発現して、当該抗体の精製が行われた。これら全ての抗体は、軽鎖としてPF1のL鎖(軽鎖、配列番号:67)を有する抗体である。また、比較対象として、抗IL-6R抗体であるPF1抗体(重鎖、配列番号:68;軽鎖、配列番号:67)についても、以下の方法を用いて発現し、当該抗体の精製が行われた。FreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁されたヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)が1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ播種された。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われた。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
Octet RED384(forteBIO)を用いて、(4−1)で取得された抗体(6RNH-2_02, 6RNH-2_37, 6RNH-3(2)_32, 6RNH-2_42)の可溶型ヒトIL-6Rに対する結合活性が評価された。バッファーとしてHBS-EP+ Buffer(GE Healthcare)を用いて結合評価が行われた。
Protein G Biosensors (forteBIO)に、抗体を結合させた後、可溶型ヒトIL-6Rと120秒接触させ、バイオセンサー上の抗体と相互作用させ、引き続きバッファーに120秒接触させ、抗体・抗原の相互作用を測定した。その後、10mmol/L Glycin-HCl, pH1.5と接触させ、バイオセンサーが再生された。測定は30℃で行われた。得られたセンサーグラムを図4に示した。6RNH-2_02, 6RNH-2_37, 6RNH-3(2)_32, 6RNH-2_42のすべての抗体が、可溶型ヒトIL-6Rと結合することが示された。
Octet RED384(forteBIO)を用いて、(4−1)で取得された抗体(PANH-2_52, PANH-2_68, PANH-3_10)および、抗ヒトIL-6R抗体であるPF1抗体の、可溶型ヒトPlexinA1、可溶型ヒトIL-6Rに対する結合活性が評価された。バッファーとしてHBS-EP+ Buffer(GE Healthcare)を用いて結合評価が行われた。
Protein G Biosensors (forteBIO)に、抗体を結合させた後、可溶型ヒトPlexinA1もしくは可溶型ヒトIL-6Rと120秒接触させ、バイオセンサー上の抗体と相互作用させ、引き続きバッファーに120秒接触させ、抗体・抗原の相互作用を測定した。その後、10mmol/L Glycin-HCl, pH1.5と接触させ、バイオセンサーが再生された。測定は30℃で行われた。得られたセンサーグラムを図5に示した。PANH-2_52, PANH-2_68, PANH-3_10のすべての抗体が、可溶型ヒトIL-6Rと結合せず、可溶型ヒトPlexinA1に結合することが示された。
Octet RED384(forteBIO)を用いて、(4−1)で取得された抗体(mIANH-2_27, mIANH-3_79)、および、PF1抗体の、マウスIgA、可溶型ヒトIL-6Rに対する結合活性が評価された。バッファーとしてHBS-EP+ Buffer(GE Healthcare)を用いて結合評価が行われた。
Protein G Biosensors (forteBIO)に、抗体を結合させた後、マウスIgAもしくは可溶型ヒトIL-6Rと120秒接触させ、バイオセンサー上の抗体と相互作用させ、引き続きバッファーに120秒接触させ、抗体・抗原の相互作用を測定した。その後、10mmol/L Glycin-HCl, pH1.5と接触させ、バイオセンサーが再生された。測定は30℃で行われた。得られたセンサーグラムを図6に示した。mIANH-2_27, mIANH-3_79のすべての抗体が、可溶型ヒトIL-6Rと結合せず、マウスIgAに結合することが示された。
(5−1)固定L鎖(同じアミノ酸配列のL鎖)を持つFabファージライブラリーの産生
実施例1に記載の方法により、抗ヒトPlexinA1抗体hPANKB2-3#135のL鎖(配列番号:30)を発現するヘルパーファージとしてM13KO7TC-PAL、抗マウスIgA抗体mIANMIgL_095のL鎖(配列番号:31)を発現するヘルパーファージとしてM13KO7TC-IAL、および、抗ヒトCD3抗体ヒト化CE115のL鎖であるL0000(配列番号:32)を発現するヘルパーファージとしてM13KO7TC-CELを構築した。
実施例2に記載のナイーブH鎖を含むファージミドライブラリーを導入した大腸菌に、上記ヘルパーファージを感染させることにより、ナイーブH鎖と抗PlexinA1抗体L鎖を含むFabを提示するヒト抗体ファージディスプレイライブラリー(NH-PALライブラリー)、ナイーブH鎖と抗マウスIgA抗体L鎖を含むFabを提示するヒト抗体ファージディスプレイライブラリー(NH-IALライブラリー)、ナイーブH鎖と抗CD3抗体L鎖を含むFabを提示するヒト抗体ファージディスプレイライブラリー(NH-CELライブラリー)を構築した。ファージが産生された大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加してファージを沈殿させ、それをTBSにて希釈することによってファージライブラリー液を得た。
(5−1)で構築された固定L鎖抗体ライブラリー(NH-PALライブラリー、NH-IALライブラリー、NH-CELライブラリー)のファージライブラリー液から、ヒトIL-6Rに結合する抗体断片の選抜を、ヒトIL-6Rへの結合能を指標として実施した。
それぞれのファージライブラリー液に終濃度4%となるようBSAを添加して、ファージライブラリー液をブロッキングした。パンニング方法として、一般的な方法である磁気ビーズに固定化された抗原を用いるパンニング方法が参照された(J. Immunol. Methods. (2008) 332(1-2), 2-9、 J. Immunol. Methods. (2001) 247(1-2), 191-203、 Biotechnol. Prog. (2002) 18(2), 212-220、 Mol. Cell Proteomics (2003) 2(2), 61-69)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。具体的には、調製されたファージライブラリー液にビオチン標識抗原(ビオチン標識hIL-6R)を加え、ファージライブラリー液と抗原を室温にて60分間接触させた。1回目のパンニングでは250 pmol、2回目のパンニングでは40 pmol、3回目のパンニングでは10 pmolのビオチン標識抗原がそれぞれ用いられた。そこにBSA溶液でブロッキングされた磁気ビーズを加え、抗原−ファージ複合体と磁気ビーズを室温にて15分間結合させた。回収されたビーズは1 mLのTBST(0.1% Tween20を含むTBS)と1 mLのTBSにて洗浄された。その後、ビーズに1 mg/mLのトリプシン溶液0.5 mLを加えて室温で15分間懸濁させた後、即座に磁気スタンドを用いてビーズを分離し、上清のファージ溶液を回収した。回収されたファージ溶液を、対数増殖期(OD600 =0.4-0.7)まで培養された10 mLの大腸菌株ER2738に添加し、37℃で1時間緩やかに攪拌培養することによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染された大腸菌は225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌を回収して培養した後、ヘルパーファージ(M13KO7TC-PAL、M13KO7TC-IAL, もしくはM13KO7TC-CEL)を感染させ培養することにより、抗PlexinA1抗体L鎖、抗マウスIgA抗体L鎖、もしくは抗CD3抗体L鎖を含むFabを提示するファージを産生させた。培養液からファージを回収することによって、ファージライブラリー液が調製された。これを1回のパンニングとし、合計3回のパンニングが繰り返された。
(5−2)で実施されたパンニングが2回または3回終了した後に得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習ってファージの産生を行い、ファージ含有培養上清を回収した。その際、ヘルパーファージには用いたファージライブラリーに応じてM13KO7TC-PAL、M13KO7TC-IAL, もしくはM13KO7TC-CELを用いた。培養上清は以下の手順でELISAに供された。
ビオチン標識抗原(ビオチン標識hIL-6R)を含む、もしくは含まない100μLのPBSにて、StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)を一晩コーティングした。当該プレートの各ウェルを0.1xTBST(0.1% Tween20を含む0.1xTBS)にて洗浄することによって抗原を除いた後、各ウェルを250μLの0.02% SkimMilk-0.1xTBS(0.02% SkimMilkを含む0.1xTBS)にて1時間以上ブロッキングした。0.02% SkimMilk-0.1xTBSを除いた後、各ウェルにファージ培養上清を加え、1時間静置することによって、ファージ上に提示された抗体を各ウェルに存在するビオチン標識抗原に結合させた。各ウェルを0.1xTBSTにて洗浄した後、0.1xTBSTによって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)を添加し、プレートを1時間インキュベーションした。各ウェルをTBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)を添加し、さらに溶液の発色反応を硫酸の添加により停止させた後、各ウェルの450 nmの吸光度を測定した。
上記のファージELISAの結果、抗原をコーティングしていないプレートに対する抗原をコーティングしたプレートの発色比が2倍以上で、かつ抗原をコーティングしたプレートでの発色が0.2以上のものを抗原特異的に結合するクローンと判断した。さらに、抗原特異的に結合すると判断されたクローンに対し、抗体断片遺伝子の塩基配列解析が行われた。
ファージELISAの結果を表2に示す。表中におけるR2はパンニング2回終了後のクローン、R3はパンニング3回終了後のクローンをそれぞれ表す。その結果、各々のファージライブラリーからhIL-6Rに対して特異的に結合し、かつ配列の異なる複数のクローンが得られた。
(6−1)ヒトCD3e(hCD3e)の調製
ヒトCD3e(hCD3e)の細胞外領域を以下のように調製した。NCBI Reference Sequence NP_000724(配列番号:33)のアミノ酸配列をもとに合成されたhCD3e遺伝子から、膜貫通領域と予想される130番目のバリン以降を除去し、代わりにFLAG タグ配列(配列番号:13) を付加した。作製されたhCD3e(配列番号:34)をコードする遺伝子が挿入された発現ベクターが作製された。
作製された発現ベクターがFreeStyle293-F細胞(Invitrogen社)に導入され、一過性にhCD3eが発現した。得られた培養上清が20 mM Tris-HCl, pH7.4により平衡化されたQ Sepharose FFカラム(GE Healthcare社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、塩化ナトリウムの濃度勾配による溶出が実施された。hCD3eを含む画分が10 mM リン酸ナトリウム緩衝液pH7.4により平衡化されたmacro-Prep Ceramic Hydroxyapatite Type-I, 20μmカラム(Bio-Rad社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、リン酸ナトリウム緩衝液の濃度勾配による溶出が実施された。hCD3eを含む画分が限外ろ過膜で濃縮された後、濃縮液がD-PBS(-)により平衡化されたSuperdex 200カラム(GE Healthcare社)に添加された。その溶出液のhCD3e画分のみを回収することにより、精製hCD3eが得られた。
実施例5において、抗マウスIgA抗体mIANMIgL_095 のL鎖を有する、ヒトIL-6Rに対する結合抗体として取得された抗体のうち、6RmIAB3(2)_02(重鎖、配列番号:35;軽鎖、配列番号:65), 6RmIAB3(2)_06(重鎖、配列番号:36;軽鎖、配列番号:65), 6RmIAB3(2)_16(重鎖、配列番号:37;軽鎖、配列番号:65)の3抗体を、以下の方法を用いて発現して、培養上清が回収された。FreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁されたヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)が8.0 x 105細胞/mLの細胞密度で96ウェルディープウェルプレートの各ウェルへ0.4mLずつ播種された。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、450 rpm)中で4日間培養が行われた。
実施例5において抗PlexinA1抗体hPANKB2-3#135のL鎖を有するヒトIL-6Rに対する結合抗体として取得された抗体のうち、6RPAB3_03(重鎖、配列番号:38;軽鎖、配列番号:64)の 1抗体を、抗CD3抗体ヒト化CE115のL鎖を有するヒトIL-6Rに対する結合抗体として取得された抗体のうち、6RhCEB3(2)_10(重鎖、配列番号:39;軽鎖、配列番号:66)の1抗体を、以下の方法を用いて発現して、当該抗体の精製が行われた。FreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁されたヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)が1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ播種された。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われた。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
Octet RED384(forteBIO)を用いて、(6−2)で取得された抗体(6RPAB3_03)および抗PlexinA1抗体hPANKB2-3#135(重鎖、配列番号:40; 軽鎖、配列番号:64)の、可溶型ヒトIL-6Rおよび可溶型ヒトPlexinA1に対する結合活性が評価された。バッファーとしてHBS-EP+ Buffer(GE Healthcare)を用いて結合評価が行われた。
Protein G Biosensors (forteBIO)に抗体を結合させた後、可溶型ヒトIL-6Rおよび可溶型ヒトPlexinA1と120秒接触させ、バイオセンサー上の抗体と相互作用させ、引き続きバッファーに120秒接触させ、抗体・抗原の相互作用を測定した。その後、10mmol/L Glycin-HCl, pH1.5と接触させ、バイオセンサーが再生された。測定は30℃で行われた。得られたセンサーグラムを図7に示した。
6RPAB3_03抗体が、可溶型ヒトPlexinA1と結合せず、可溶型ヒトIL-6Rに結合することが示された。
Octet RED384(forteBIO)を用いて、(6−2)で取得された抗体(6RmIAB3(2)_02, 6RmIAB3(2)_06, 6RmIAB3(2)_16)および抗マウスIgA抗体mIANMIgL_095(重鎖、配列番号:41; 軽鎖、配列番号:65)の、可溶型ヒトIL-6RおよびマウスIgAに対する結合活性が評価された。バッファーとしてHBS-EP+ Buffer(GE Healthcare)を用いて結合評価が行われた。
Protein G Biosensors (forteBIO)に抗体を結合させた後、可溶型ヒトIL-6RおよびマウスIgAと120秒接触させ、バイオセンサー上の抗体と相互作用させ、引き続きバッファーに120秒接触させ、抗体・抗原の相互作用を測定した。その後、10mmol/L Glycin-HCl, pH1.5と接触させ、バイオセンサーが再生された。測定は30℃で行われた。得られたセンサーグラムを図8に示した。
6RmIAB3(2)_02, 6RmIAB3(2)_06, 6RmIAB3(2)_16のすべての抗体が、マウスIgAと結合せず、可溶型ヒトIL-6Rに結合することが示された。
Octet RED384(forteBIO)を用いて、(6−2)で取得された抗体(6RhCEB3(2)_10)および抗CD3抗体hCE115HA/L0000(重鎖、配列番号:42;軽鎖、配列番号:66)の、可溶型ヒトIL-6RおよびヒトCD3e(hCD3e)に対する結合活性が評価された。バッファーとしてHBS-EP+ Buffer(GE Healthcare)を用いて結合評価が行われた。
Protein G Biosensors (forteBIO)に、抗体を結合させた後、可溶型ヒトIL-6RおよびヒトCD3eと120秒接触させ、バイオセンサー上の抗体と相互作用させ、引き続きバッファーに120秒接触させ、抗体・抗原の相互作用を測定した。その後、10mmol/L Glycin-HCl, pH1.5と接触させ、バイオセンサーが再生された。測定は30℃で行われた。得られたセンサーグラムを図9に示した。
6RhCEB3(2)_10抗体が、ヒトCD3eと結合せず、可溶型ヒトIL-6Rに結合することが示された。
(7−1)H鎖-gene3融合体発現ユニットを組み込んだH鎖発現ヘルパーファージの構築
ヘルパーファージのゲノムに、プロモーター、シグナル配列、抗体H鎖遺伝子、phage gene3遺伝子などを組み込むことにより、H鎖(VHおよびCH1からなるFd)-gene3発現ヘルパーファージの構築を行った。本ヘルパーファージが感染した大腸菌からは抗体H鎖(VHおよびCH1からなるFd)-gene3の発現が可能となる。
具体的には、ヘルパーファージM13KO7TCを大腸菌株ER2738へ感染させ、一晩振とう培養を行った後、感染大腸菌からヘルパーファージM13KO7TCのゲノム抽出を行った(NucleoBond Xtra Midi Plus)。H鎖-gene3発現ユニットを組み込む場所として、カナマイシン耐性遺伝子(KanR)とp15A oriの間に位置しているSacIサイトを選択した(図1)。この場所に限らず、p15A oriとM13 oriの間に位置しているSacIIサイト等への挿入でも問題ないと考えられる。上記方法にて精製したヘルパーファージM13KO7TCゲノムをSacIで切断した後、0.6% アガロースゲルにて電気泳動を行い、ゲル切り出し精製(Wizard SV Gel and PCR Clean-Up system: Promega)を行うことにより、目的のDNA断片(M13KO7TC/SacI)を得た。
導入する抗体H鎖(VHおよびCH1からなるFd)として、抗ヒトIL-6R抗体であるPF1のH鎖を用いた。PF1のH鎖のアミノ酸配列を配列番号8に、塩基配列を配列番号43にそれぞれ示す。抗体H鎖(VHおよびCH1からなるFd)はリンカーペプチドを介してgene3タンパク質(g3p)と融合している。araCリプレッサー - araBAD改変プロモーター- malEシグナル配列 - PF1H鎖遺伝子 - gene3遺伝子をin-fusion法(In-Fusion HD Cloning Kit: Clontech)にて、M13KO7TC/SacIへ挿入し、大腸菌株ER2738へエレクトロポレーション法により導入した。 araCリプレッサーの核酸配列を配列番号:44に、araBAD改変プロモーターの核酸配列を配列番号:45に、malEシグナル配列のアミノ酸配列および核酸配列を配列番号:46および配列番号:47にそれぞれ示す。Gene3遺伝子としては、Helper phageに存在するgene3遺伝子と異なる核酸配列(配列番号48)のものを用いた。
得られた大腸菌を培養し、培養上清に2.5 M NaCl/10%PEGを添加してPEG沈殿法によりヘルパーファージを精製した。得られたヘルパーファージM13KO7AG-PF1Hのタイターを一般的なプラーク形成法にて確認した。
抗体L鎖を発現するためのファージミドベクターを構築した。ファージミドベクターは、プラスミドベクターにファージ粒子へのパッケージングシグナル、プロモーター、シグナル配列、抗体L鎖遺伝子などをそれぞれ機能的に挿入することにより作製した。この際、L鎖定常領域のC末端にあるCysのAlaへの置換が大腸菌におけるFab発現に有利であることが知られているので(J Biol Chem. 2003 Oct 3; 278(40): 38194-38205)、そのような配列を用いた。構築したファージミドベクターを大腸菌株ER2738へエレクトロポレーション法により導入し、PF1 L鎖発現ファージミドベクターを保持する大腸菌ER2738/pL-PF1Lを構築した。
大腸菌ER2738/pL-PF1LをOD 0.5付近まで培養した後、ヘルパーファージM13KO7AG-PF1HもしくはM13KO7TCを感染させた。IPTG 25uM、Arabinose 0.2%を含む培地に培地交換を実施後、30℃で一晩培養し、培養上清を回収した。ファージが産生された大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加してファージを沈殿させ、それをTBSにて溶解しファージ液を取得した。得られたファージのタイターを一般的なコロニー形成法にて確認した。
ファージELISA法により、産生されたファージのFab提示の確認および抗原への結合能の確認を行った。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)へGoat anti-Human Kappa Biotin抗体(EY LABORATORIES)、もしくはビオチン標識ヒトIL-6Rを含む100μLのPBSを添加し、プレートをコーティングした。当該プレートの各ウェルを0.1xTBST(0.1%Tween20を含む0.1xTBS)にて洗浄することによって抗原を除いた後、当該ウェルに0.02% Skim Milk-0.1xTBS(0.02% Skim Milkを含む0.1xTBS) 250μLを加え1時間以上ブロッキングした。0.02% Skim Milk-0.1xTBSを除いた後、各ウェルに0.02% Skim Milk-0.1xTBSにて希釈されたファージ液を加え1時間静置することによって、ファージ上に提示された抗体をGoat anti-Human Kappa Biotin抗体もしくはビオチン標識ヒトIL-6Rに結合させた。0.1xTBSTにて洗浄された後、各ウェルに0.1xTBSTにて希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)を添加し1時間インキュベーションした。0.1xTBSTにて洗浄後、各ウェルにTMB single溶液(ZYMED)を添加し、さらに硫酸を添加して溶液の発色反応を停止させた後、450 nmの吸光度を測定した。
その結果、L鎖発現ファージミドベクターとH鎖発現ヘルパーファージM13KO7AG-PF1Hとを組み合わせてファージを産生させた場合にのみファージ上にFabが提示され(図10)、また、ファージ上に提示されたFabが抗原結合能を維持していることが確認された(図11)。
(8−1)ナイーブL鎖を含むファージミドライブラリーの構築
ヒト末梢血単核球(PBMC)から調製したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型として、PCR法によりナイーブL鎖遺伝子が増幅された。これらをファージミドベクターへ挿入し、構築されたファージミドベクターを大腸菌株ER2738へエレクトロポレーション法により導入したところ、6.5x106程度のコロニーが得られた。
実施例7に記載の方法により、抗PlexinA1抗体hPANLB2-3_264のH鎖(配列番号:49)、抗PlexinA1抗体hPANLB2-3_342のH鎖(配列番号:50)、および抗PlexinA1抗体hPANLB2-3_359のH鎖(配列番号:51)を発現するヘルパーファージ(M13KO7AG-hPNL264H、M13KO7AG-hPNL342H、M13KO7AG-hPNL359H)をそれぞれ構築した。
(8−1)に記載のナイーブL鎖を含むファージミドライブラリーを導入した大腸菌に、上記ヘルパーファージ(M13KO7AG- hPNL264H、M13KO7AG-hPNL342H、M13KO7AG-hPNL359H)をそれぞれ感染させることにより、ナイーブL鎖と各種抗PlexinA1抗体H鎖を含むFabを提示するヒト抗体ファージディスプレイライブラリー(264H-NLライブラリー、342H-NLライブラリー、359H-NLライブラリー)を構築した。ファージが産生された大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加してファージを沈殿させ、それをTBSにて希釈することによってファージライブラリー液を得た。
(9−1)固定H鎖抗体ライブラリーを用いた、ヒトPlexinA1に強く結合する抗体断片の取得
実施例8で構築された固定H鎖抗体ライブラリー(264H-NLライブラリー、342H-NLライブラリー、359H-NLライブラリー)のファージライブラリー液から、ヒトPlexinA1に結合する抗体断片の選抜を、ヒトPlexinA1への結合能を指標として実施した。
それぞれのファージライブラリー液に終濃度4%となるようBSAを添加して、ファージライブラリー液をブロッキングした。パンニング方法として、一般的な方法である磁気ビーズに固定化された抗原を用いるパンニング方法が参照された(J. Immunol. Methods. (2008) 332(1-2), 2-9、 J. Immunol. Methods. (2001) 247(1-2), 191-203、 Biotechnol. Prog. (2002) 18(2), 212-220、 Mol. Cell Proteomics (2003) 2(2), 61-69)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。具体的には、調製されたファージライブラリー液にビオチン標識抗原(ビオチン標識hPlexinA1)を加え、ファージライブラリー液と抗原を室温にて60分間接触させた。1回目のパンニングでは10 pmol、2回目以降のパンニングでは1 pmolのビオチン標識抗原がそれぞれ用いられた。その後、用いたビオチン標識抗原の100倍量の未標識抗原(可溶型ヒトPlexinA1)を加え、10分間競合させた。そこにBSA溶液でブロッキングされた磁気ビーズを加え、抗原−ファージ複合体と磁気ビーズを室温にて15分間結合させた。回収されたビーズは1 mLのTBST(0.1% Tween20を含むTBS)と1 mLのTBSにて洗浄された。その後、ビーズに1 mg/mLのトリプシン溶液0.5 mLを加えて室温で15分間懸濁させた後、即座に磁気スタンドを用いてビーズを分離し、上清のファージ溶液を回収した。回収されたファージ溶液を、対数増殖期(OD600 =0.4-0.7)まで培養された10 mLの大腸菌株ER2738に添加し、37℃で1時間緩やかに攪拌培養することによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染された大腸菌は225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌を回収して培養した後、(8−2)で構築された抗PlexinA1抗体H鎖遺伝子が導入されたヘルパーファージを当該大腸菌に感染させ、培養することにより、各種抗PlexinA1抗体H鎖を含むFabを提示するファージを産生させた。培養液からファージを回収することによって、ファージライブラリー液が調製された。これを1回のパンニングとし、合計4回のパンニングが繰り返された。
(9−1)で実施されたパンニングが2回、3回もしくは4回終了した後に得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習ってファージの産生を行い、ファージ含有培養上清を回収した。その際、ヘルパーファージには、用いたファージライブラリーに応じてM13KO7AG-hPNL264H、M13KO7AG-hPNL342H、もしくはM13KO7AG-hPNL359Hを用いた。培養上清は以下の手順でELISAに供された。
ビオチン標識抗原(ビオチン標識hPlexinA1)を含む、もしくは含まない100μLのPBSにて、StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)を一晩コーティングした。当該プレートの各ウェルを0.1xTBST(0.1% Tween20を含む0.1xTBS)にて洗浄することによって抗原を除いた後、各ウェルを250μLの0.02% SkimMilk-0.1xTBS(0.02% SkimMilkを含む0.1xTBS)にて1時間以上ブロッキングした。0.02% SkimMilk-0.1xTBSを除いた後、各ウェルにファージ培養上清を加え、プレートを1時間静置することによって、ファージ上に提示された抗体を各ウェルに存在するビオチン標識抗原に結合させた。各ウェルを0.1xTBSTにて洗浄した後、0.1xTBSTによって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)を添加し、プレートを1時間インキュベーションした。各ウェルをTBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)を添加し、さらに溶液の発色反応を硫酸の添加により停止させた後、各ウェルの450 nmの吸光度を測定した。
上記のファージELISAの結果、抗原をコーティングしていないプレートに対する抗原をコーティングしたプレートの発色比が2倍以上で、かつ抗原をコーティングしたプレートでの発色が0.2以上のものを抗原特異的に結合するクローンと判断した。さらに、抗原特異的に結合すると判断されたクローンに対し、抗体断片遺伝子の塩基配列解析が行われた。
ファージELISAの結果を表3に示す。表中におけるR2はパンニング2回終了後のクローン、R3はパンニング3回終了後のクローン、R4はパンニング4回終了後のクローンをそれぞれ表す。その結果、各々のファージライブラリー(264H-NLライブラリー、342H-NLライブラリー、359H-NLライブラリー)から、hPlexinA1に対して特異的に結合し、かつ配列の異なる複数のクローンが得られた。
(10−1)取得されたヒトPlexinA1結合抗体の発現および精製
実施例9において、264H-NLライブラリーからヒトPlexinA1に対する結合抗体として取得された抗体のうち、PLR2H264#002(重鎖、配列番号:58;軽鎖、配列番号:52)、PLR4H264#061(重鎖、配列番号:58;軽鎖、配列番号:53)、PLR3H264#022(重鎖、配列番号:58;軽鎖、配列番号:54)の3抗体を、342H-NLライブラリーからヒトPlexinA1に対する結合抗体として取得された抗体のうち、PLR2H342#009(重鎖、配列番号:59;軽鎖、配列番号:55)の1抗体を、359H-NLライブラリーからヒトPlexinA1に対する結合抗体として取得された抗体のうち、PLR2H359#087(重鎖、配列番号:60;軽鎖、配列番号:56)、PLR2H359#062(重鎖、配列番号:60;軽鎖、配列番号:57)の2抗体を、以下の方法を用いて発現させて、当該抗体の精製が行われた。また、比較対象として、親抗体であるhPANLB2-3_264(重鎖、配列番号:58、軽鎖、配列番号:61)、hPANLB2-3_342(重鎖、配列番号:59、軽鎖、配列番号:62)、hPANLB2-3_359(重鎖、配列番号:60、軽鎖、配列番号:63)、についても以下の方法を用いて発現し、当該抗体の精製が行われた。FreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁されたヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)が1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ播種された。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われた。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(10−1)で得られた抗体の抗原に対する結合性を表面プラズモン共鳴(SPR)解析により評価した。
SPR解析においてはBiacoreT200(GEヘルスケアジャパン社)を用いて解析を行った。Sensor Chip CM4の表面に組換え型ProteinA/G(サーモサイエンティフィック社)とAmine Coupling Kit(GEヘルスケアジャパン社)を用いて抗ヒトPlexinA1抗体を固相化した。抗原はタンパク質のC末側にFLAGタグを付加した、ヒトPlexinA1タンパク質のセマドメイン (28番目グルタミン酸-514番目セリン)を使用した。抗原の調製は以下の通り。ヒトPlexinA1のセマドメインに対応するcDNAを組み込んだ発現ベクターをFreeStyle293細胞に導入して培養後、得られた培養液を抗FLAG-M2抗体を固相化したアフィニティーカラムに通し、FALGペプチドで溶出された画分をゲルろ過精製した。得られた抗原を20 mM ACES, 150 mM NaCl, 0.05% ポリソルベート20, 1.2 mM CaCl2, pH7.4で段階希釈し、流速30 μL/minで添加した。この測定系によりヒトPlexinA1タンパク質と抗ヒトPlexinA1抗体との解離定数(KD)をデータ解析ソフトウェア(BIA T200 Evaluation software ver.2)を用いて計算した。結果を表4に示す。
L鎖を再選択する前の抗体と比較し、結合能が増強された抗体を取得することができた。
また、この方法の別の利用法として、結合能が増強されなかった抗体であっても、非ヒト動物由来抗体のヒト化に用いることが可能である(J Mol Biol. 2000 Feb 25;296(3):833-49.)。非ヒト動物由来抗体のH鎖を固定し、ヒトナイーブ由来L鎖抗体ライブラリーと組み合わせ、抗原に対してパンニング操作を行うことにより、ヒト由来抗体L鎖を取得することができる。引き続き、L鎖を固定しヒトナイーブ由来H鎖抗体ライブラリーと組み合わせ、抗原に対してパンニング操作を行うことにより、ヒト由来抗体H鎖を取得することができる。このように、順次、ヒト抗体Libraryと置き換えることにより、非ヒト動物由来抗体を元としてヒト抗体を取得することが可能であることが当業者には理解されよう。
従来のファージディスプレイ技術によっても、第一のポリペプチドの配列が固定された抗原結合分子提示ライブラリーを作製することは可能であったが、第一のポリペプチドと第二のポリペプチドの両方を同時に発現可能なバクテリアのライブラリーを作製することから、一度作製されたライブラリー中の第一のポリペプチドの配列を後から変更することは極めて困難であり、また、抗原結合分子提示ライブラリーの作製には通常多大な時間と労力を要するものであることから、第一のポリペプチドの配列が固定されたライブラリーを複数作製することは非常に困難であった。
一方、本発明においては、第二のポリペプチドを発現可能なバクテリアのライブラリーを一度作製すれば、ヘルパーファージに含まれる第一のポリペプチドのみを変更することによって、第一のポリペプチドの配列が固定された抗原結合分子提示ライブラリーを次々と簡便に作製することができるため、作業効率を飛躍的に高めることが可能となる。本発明は、新規なファージディスプレイ技術として極めて有用である。本発明を応用した一例として、共通したL鎖またはH鎖を含む多重特異性抗体の創出などを挙げることができる。
Claims (21)
- 抗原結合分子を提示するバクテリオファージを作製する方法であって、第一のポリペプチドを発現可能なヘルパーファージを、第二のポリペプチドを発現可能なバクテリアに接触させる工程を含み、当該第一のポリペプチドと当該第二のポリペプチドが会合して当該抗原結合分子を形成することを特徴とする、方法。
- ヘルパーファージのゲノム中に、第一のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挿入されている、請求項1に記載の方法。
- 第一のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドがプロモーターに機能的に連結されている、請求項1または2に記載の方法。
- 第一のポリペプチドがファージのコートタンパク質と融合している、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
- ヘルパーファージがM13KO7である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
- バクテリアが第二のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
- 第二のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドがファージミドベクターに挿入されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
- 第二のポリペプチドがファージのコートタンパク質と融合している、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
- 抗原結合分子が抗体可変領域である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
- 第一のポリペプチドおよび第二のポリペプチドが、L鎖可変領域を含むポリペプチドおよびH鎖可変領域を含むポリペプチドからなる群からそれぞれ選択され、かつ互いに異なる、請求項9に記載の方法。
- L鎖可変領域を含むポリペプチドがさらにL鎖定常領域を含むポリペプチドであり、かつ/または、H鎖可変領域を含むポリペプチドがさらにH鎖定常領域を含むポリペプチドである、請求項10に記載の方法。
- 共通した第一のポリペプチドを含む抗原結合分子提示ライブラリーを作製する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) 請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を複数回行う工程であって、当該工程において用いられる複数のバクテリアは、アミノ酸配列の異なる複数の第二のポリペプチドを発現可能なバクテリア集団であり、かつ当該工程において用いられるヘルパーファージは同じアミノ酸配列の第一のポリペプチドを発現可能なヘルパーファージである工程、および
(b) 工程(a)で作製された、抗原結合分子を提示する複数のバクテリオファージを回収する工程。 - 請求項12に記載の方法により作製された抗原結合分子提示ライブラリー。
- 所定の抗原に対して特異的に結合する抗原結合分子を取得する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) 請求項13に記載の抗原結合分子提示ライブラリーに抗原を接触させる工程、および
(b) 当該抗原結合分子提示ライブラリーの中から、当該抗原に結合する抗原結合分子を選択する工程。 - 共通した第一のポリペプチドを含む多重特異性抗原結合分子を作製する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) 請求項14に記載の方法を複数の抗原に対して行う工程、および
(b) 工程(a)で取得された複数の抗原結合分子に含まれる、複数の同じアミノ酸配列の第一のポリペプチドおよび複数の異なるアミノ酸配列の第二のポリペプチドを用いて、多重特異性抗原結合分子を作製する工程であって、当該複数の第二のポリペプチドの各々に当該第一のポリペプチドが会合して、当該複数の抗原に対して特異的に結合する当該複数の抗原結合分子を形成することを特徴とする工程。 - 共通した第一のポリペプチドを含む多重特異性抗原結合分子を作製する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) 請求項14に記載の方法を複数の抗原に対して行う工程、
(b) 工程(a)で取得された複数の抗原結合分子に含まれる、複数の同じアミノ酸配列の第一のポリペプチドおよび複数の異なるアミノ酸配列の第二のポリペプチドについて、当該第一のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび当該複数の第二のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをそれぞれ調製する工程、
(c) 工程(b)で調製された各ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する工程、および
(d) 工程(c)の宿主細胞を培養し、多重特異性抗原結合分子を回収する工程であって、当該複数の第二のポリペプチドの各々に当該第一のポリペプチドが会合して、当該複数の抗原に対して特異的に結合する当該複数の抗原結合分子を形成することを特徴とする工程。 - 多重特異性抗原結合分子が二重特異性抗原結合分子である、請求項15または16に記載の方法。
- 抗原結合分子の製造方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) 所定の抗原に対して特異的に結合できる、第一のポリペプチドおよび第二のポリペプチドが会合された、参照となる抗原結合分子(親抗原結合分子)の第一のポリペプチドと同じアミノ酸配列の第一のポリペプチドを発現可能なヘルパーファージを、親抗原結合分子の第二のポリペプチドと異なるアミノ酸配列の第二のポリペプチドをそれぞれ発現可能なバクテリア集団に接触させて、共通した第一のポリペプチドと、アミノ酸配列の異なる第二のポリペプチドとがそれぞれ会合された、抗原結合分子(子供抗原結合分子)を提示する複数のバクテリオファージを含む、抗原結合分子提示ライブラリーを作製する工程、および
(b) 工程(a)で作製された抗原結合分子提示ライブラリーに前記抗原を接触させて、前記抗原に対して特異的に結合できる子供抗原結合分子を選択する工程。 - 請求項18に記載の方法であって、以下の工程をさらに含む方法:
(d) 請求項18に記載の工程(b)で得られた子供抗原結合分子の第二のポリペプチドと同じアミノ酸配列の第二のポリペプチドを発現可能なヘルパーファージを、子供抗原結合分子の第一のポリペプチドと異なるアミノ酸配列の第一のポリペプチドをそれぞれ発現可能なバクテリア集団に接触させて、共通した第二のポリペプチドと、アミノ酸配列の異なる第一のポリペプチドとがそれぞれ会合された、抗原結合分子(孫抗原結合分子)を提示する複数のバクテリオファージを含む、抗原結合分子提示ライブラリーを作製する工程、および
(e) 工程(d)で作製された抗原結合分子提示ライブラリーに前記抗原を接触させて、前記抗原に対して特異的に結合できる孫抗原結合分子を選択する工程。 - 改変されたヘルパーファージおよび当該ヘルパーファージが感染可能なバクテリアの組合せであって、当該ヘルパーファージは、第一のポリペプチドを発現可能なヘルパーファージであり、かつ当該バクテリアは、第二のポリペプチドを発現可能なバクテリアであって、当該第一のポリペプチドと当該第二のポリペプチドが会合して、抗原結合分子を形成することを特徴とする、組合せ。
- あるポリペプチドを発現可能な改変されたヘルパーファージであって、当該ポリペプチドが、会合して抗原結合分子を形成することを特徴とする二本のポリペプチドのいずれか一方である、ヘルパーファージ。
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