JP2021008686A - ポリビニルアルコール系繊維及びその製造方法 - Google Patents

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小林 謙一
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謙一 小林
宗紀 偉士大
Munenori Ishidai
宗紀 偉士大
守 大倉
Mamoru Okura
守 大倉
翔平 柴田
Shohei Shibata
翔平 柴田
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Abstract

【課題】延伸倍率が低い製造方法においても、強度に優れるポリビニルアルコール系繊維及びその製造方法の提供。【解決手段】X線小角散乱強度の長周期像を測定した際に得られる値Aと値BがA/B≧1.3、X線散乱強度が2θ=0.15°時の赤道線領域/子午線領域の強度比が60以上であるポリビニルアルコール系繊維。A:繊維軸方向が子午線方向の4つのX線小角散乱強度の長周期像のうち一つの像X1を選択し、その中で最もピーク散乱強度の高い点X1maxを通過し、且つ4つの像の中でX1と同じ側にある別の像X2を通過し、且つ赤道線と平行となる直線領域をYとし、YにおけるX1由来のピーク散乱強度の最大値とX2由来のピーク散乱強度の最大値の平均値。B:YにおけるX1由来のピーク散乱強度の最大値を与える点のピクセル数位置と、X2由来のピーク散乱強度の最大値のピクセル数位置との間のピクセル数範囲における散乱強度の最小値。【選択図】なし

Description

本発明は、ポリビニルアルコール系繊維及びその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、分子量分布が狭いポリビニルアルコール樹脂を含む、欠陥が著しく低減されたポリビニルアルコール系繊維及びその製造方法に関する。
ポリビニルアルコール系繊維は、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維などの汎用合成繊維に比べて強度弾性率が高く、その主用途である産業資材用繊維としてはもちろん、アスベスト代替のセメント補強材、ゴム補強材あるいはプラスチック補強材などに利用される。
近年、ポリビニルアルコール系繊維の強度や弾性率をさらに高める方法として,高分子量ポリエチレンのゲル紡糸−超延伸と同様の考え方に基づき、分子量50万以上のポリビニルアルコールを使用する方法等が提案されている(特許文献1)。その結果、いわゆるゲル紡糸方法によるポリエチレン繊維には及ばないものの、高強度、高弾性率繊維の代表とされるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に匹敵する高強度、高弾性率の繊維が得られている。しかしながら、同方式は、コストアップ、紡糸性が課題であった。
従来のポリビニルアルコール系繊維で強度を向上させる方法としては、重合度を高くする方法や延伸倍率向上させる方法がある。しかしながら、重合度を高くすると、コストアップにもなりえる。
また一般に、強度を向上させるためには分子鎖の高配向化と高結晶化が不可欠であり、そのためには高倍率延伸が必要であった(特許文献2)。
ところで、近年、いわゆるリビングラジカル重合技術の進歩により、酢酸ビニルのラジカル重合反応を制御する方法がいくつか提案されてきた。例えば、ラジカル重合開始剤と特定の制御剤の存在下で酢酸ビニルのラジカル重合反応を行うことによって、分子量分布が狭く、かつ高分子量のポリ酢酸ビニルを得る方法が提案されている。このような重合反応においては、ポリ酢酸ビニルの分子鎖の生長ラジカル末端が制御剤と共有結合してドーマント種を形成し、当該ドーマント種とそれが解離して生じるラジカル種との間で平衡を形成しながら重合が進行する。このような重合反応は制御ラジカル重合と呼ばれる。
特許文献3には、ラジカル重合開始剤とヨウ素化合物からなる制御剤の存在下で酢酸ビニルのラジカル重合反応を行うことによって、数平均分子量(Mn)が92,000で、分子量分布(Mw/Mn)が1.57のポリ酢酸ビニルを合成し、それをけん化してポリビニルアルコールを製造した例が報告されている。しかしながら、ヨウ素化合物を制御剤に用いた重合方法においては、ポリ酢酸ビニルの重合末端にアルデヒド基が形成されることが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。このようなアルデヒド基を末端に有するポリ酢酸ビニルをけん化した場合、複数の炭素−炭素二重結合が共役した共役ポリエン構造が形成され、着色の著しいポリビニルアルコールが得られることが知られている。このように着色したポリビニルアルコールは繊維として適さない。
また最近、有機コバルト錯体を制御剤とする制御ラジカル重合によって、ポリ酢酸ビニルを合成する手法が提案されている。この重合反応においては、ポリ酢酸ビニルの分子鎖の生長ラジカル末端が有機コバルト錯体のコバルト原子と共有結合してドーマント種を形成し、当該ドーマント種とそれが解離して生じるラジカル種との間で平衡を形成しながら重合が進行する。例えば非特許文献2には、コバルト(II)アセチルアセトナートの存在下に酢酸ビニルを重合させることによって、数平均分子量(Mn)が99,000で、分子量分布(Mw/Mn)が1.33のポリ酢酸ビニルを合成した例が報告されている。
非特許文献3には、コバルト(II)アセチルアセトナートの存在下に酢酸ビニルを重合させて得られたポリ酢酸ビニル鎖を、1−プロパンチオールで処理することが記載されている。当該ポリ酢酸ビニル鎖は末端にコバルト(III)錯体が結合したドーマント種を形成しているが、当該ドーマント種が開裂して形成される末端ラジカルが1−プロパンチオールと反応することによって、ポリ酢酸ビニル鎖からコバルト錯体を切り離すことができる。ドーマント種を形成しているポリ酢酸ビニルは緑色であるが、切り離されたコバルト錯体を析出させた後にセライト濾過して取り除くことによって、着色の低減されたポリ酢酸ビニルが得られたことが記載されている。また、1−プロパンチオールの代わりに、安定ラジカル化合物であるTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル)を用いることによって、末端ラジカルにTEMPOを結合させてラジカルを捕捉することもできる。この場合にも、コバルト錯体を酸性アルミナで濾過して取り除くことで、無色のポリ酢酸ビニルが得られたことが記載されている。
このように、非特許文献3に記載された方法によれば着色の低減されたポリ酢酸ビニルを得ることができるとされている。しかしながら、こうして得られたポリ酢酸ビニルをけん化してポリビニルアルコールを得ることについては、非特許文献3には記載されていない。本発明者らが実験したところ、非特許文献3で得られたポリ酢酸ビニルをけん化して得られたポリビニルアルコールは着色してしまうことがわかった。
そこで、特許文献4には、分子量分布が狭く、着色しないポリビニルアルコール樹脂の製造方法が提案されている。しかしながら、特許文献4には、繊維化については記載されていない。
特開昭59−130314号公報 特開平2−154008号公報 特開平11−147914号公報 国際公開第2019/13267号
Controlled/Living Radical Polymerization of Vinyl Acetate by Degenerative Transfer with Alkyl Iodides, Macromolecules, 2003, vol.36,Issue 25, p9346-9354 Highly Efficient Cobalt-Mediated Radical Polymerization of Vinyl Acetate, Angewandte Chemie International Edition, 2005, vol.44, p1101-1104 Synthesis of End-Functional Poly(vinyl acetate) by Cobalt-Mediated Radical Polymerization, Macromolecules, 2005, vol.38,Issue 13, p5452-5458
本発明は,上記の問題を解決し,延伸倍率が低い場合においても、強度の優れたポリビニルアルコール系繊維を提供することを目的とし、またその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、延伸時の繊維欠陥を少なくする方法として、分子量分布を狭くする技術に着目し、さらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]X線小角散乱強度の長周期像を測定した際に得られる下記値Aと値Bについて、A/Bが1.3以上であり、X線散乱強度が2θ=0.15°時の赤道線領域/子午線領域の強度比が60以上であるポリビニルアルコール系繊維。
A:ポリビニルアルコール系繊維の繊維軸方向が子午線方向となるようにポリビニルアルコール系繊維のX線小角散乱強度の長周期像の測定を行い、当該測定で取得できるX線小角散乱強度の長周期像を構成する4つの像を観察する。当該4つの像の中からいずれかの一つの像(X1)を選択し、その像(X1)の中で最もピーク散乱強度の高い点(X1max)を特定する。当該点(X1max)を通過し、かつ、前記4つの像の中で赤道線から見て像(X1)と同じ側にある別の像(X2)を通過し、かつ、赤道線と平行となる直線領域(Y)を決定する。当該直線領域(Y)においてピーク散乱強度を観察することで得られる、像(X1)由来のピーク散乱強度の最大値(X1−maxvalue)と、像(X2)由来のピーク散乱強度の最大値(X2−maxvalue)の2つの平均値を値Aとする。
B:上記直線領域(Y)において、ピーク散乱強度を観察した際に、上記像(X1)由来のピーク散乱強度の最大値(X1−maxvalue)を与える点(X1max)のピクセル数位置(X1P)と、上記像(X2)由来のピーク散乱強度の最大値(X2−maxvalue)のピクセル数位置(X2P)との間のピクセル数範囲における散乱強度の最小値を値Bとする。
[2]引張強度が9.0cN/dtex以上である、[1]に記載のポリビニルアルコール系繊維。
[3]分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.95であるポリビニルアルコール樹脂を含んでなる、[1]又は[2]に記載のポリビニルアルコール系繊維。
[4]前記ポリビニルアルコール樹脂のけん化度が95.0〜99.9mol%である、[3]に記載のポリビニルアルコール系繊維。
[5]前記ポリビニルアルコール樹脂が下記式(I)で表される末端基を有する、[3]又は[4]に記載のポリビニルアルコール系繊維。
(式中、R1は置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族基を表し、R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族基を表す。)
[6]前記ポリビニルアルコール樹脂の重量平均分子量(Mw)が100,000〜555,000である、[3]〜[5]のいずれかに記載のポリビニルアルコール系繊維。
[7]乾式紡糸法によって紡糸する紡糸工程を備える、[1]〜[6]のいずれかに記載のポリビニルアルコール系繊維の製造方法。
[8]乾式紡糸法が、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.95であるポリビニルアルコール樹脂を、加熱された気体中に吐出する工程を備える、[7]に記載のポリビニルアルコール系繊維の製造方法。
[9]さらに延伸工程を備え、前記延伸工程における全延伸倍率が18.0倍未満である、[7]又は[8]に記載のポリビニルアルコール系繊維の製造方法。
本発明によれば、延伸倍率が低い場合においても、強度の優れたポリビニルアルコール系繊維及びその製造方法を提供することができる。
図1は本発明にかかるX線小角散乱強度の測定方法の説明図である。 図2は本発明にかかるX線小角散乱強度の測定結果からの値A(赤道線と平行となる直線領域のピーク散乱強度の2つの最大値の平均値)の算出方法及び2θ=0.15°時の赤道線領域/子午線領域の強度比を説明する説明図である。 図3は実施例1〜3及び比較例1〜3のX線小角散乱強度の測定結果を示す図である。 図4は実施例1及び比較例1におけるポリビニルアルコール系繊維のサンプルの赤道線と平行となる直線領域の小角X線散乱像から得られるピーク散乱強度を示す図である。 図5は実施例2及び比較例2におけるポリビニルアルコール系繊維のサンプルの赤道線と平行となる直線領域の小角X線散乱像から得られるピーク散乱強度を示す図である。 図6は実施例3及び比較例3におけるポリビニルアルコール系繊維のサンプルの赤道線と平行となる直線領域の小角X線散乱像から得られるピーク散乱強度を示す図である。
本発明のポリビニルアルコール系繊維は、X線小角散乱強度の長周期像を測定した際に得られる下記値Aと値Bについて、A/Bが1.3以上であり、X線散乱強度が2θ=0.15°時の赤道線領域/子午線領域の強度比が60以上である。
A:ポリビニルアルコール系繊維の繊維軸方向が子午線方向となるようにポリビニルアルコール系繊維のX線小角散乱強度の長周期像の測定を行い、当該測定で取得できるX線小角散乱強度の長周期像を構成する4つの像を観察する。当該4つの像の中からいずれかの一つの像(X1)を選択し、その像(X1)の中で最もピーク散乱強度の高い点(X1max)を特定する。当該点(X1max)を通過し、かつ、前記4つの像の中で赤道線から見て像(X1)と同じ側にある別の像(X2)を通過し、かつ、赤道線と平行となる直線領域(Y)を決定する。当該直線領域(Y)においてピーク散乱強度を観察することで得られる、像(X1)由来のピーク散乱強度の最大値(X1−maxvalue)と、像(X2)由来のピーク散乱強度の最大値(X2−maxvalue)の2つの平均値を値Aとする。
B:上記直線領域(Y)において、ピーク散乱強度を観察した際に、上記像(X1)由来のピーク散乱強度の最大値(X1−maxvalue)を与える点(X1max)のピクセル数位置(X1P)と、上記像(X2)由来のピーク散乱強度の最大値(X2−maxvalue)のピクセル数位置(X2P)との間のピクセル数範囲における散乱強度の最小値を値Bとする。
なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、製造方法等における各条件、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
本発明において、X線小角散乱強度は、公知の小角X線散乱法(SAXS)に準じて測定できる。例えば、後記する実施例の記載の条件で、図1に示されるように、所定のサイズのスリット2に、繊維軸方向が子午線方向となるようにポリビニルアルコール系繊維1のサンプルを設置し、所定のナノスケールX線構造評価装置(例えば、NANO−Viewer(株式会社リガク製)等)を用いて、入射X線3を照射し、散乱X線を測定することで、X線小角散乱強度の長周期像を測定することができる。本明細書において、小角X線散乱法で測定される4つの干渉像をまとめて、長周期像と称する。なお、図3に示されるように、比較例1〜3の従来のポリビニルアルコール樹脂を含んでなるポリビニルアルコール系繊維では、4つに分離した像が観察されない。
次に、値A(赤道線と平行となる直線領域のピーク散乱強度の2つの最大値の平均値)について説明する。小角X線散乱法で得られたX線小角散乱強度の長周期像の測定結果に対して、四つ葉状の4つの干渉像のうちから1つの干渉像(X1)を選択し、その像(X1)の中で最もピーク散乱強度の高い点(X1max)を特定する。当該点(X1max)を通過し、かつ、前記4つの像の中で赤道線から見て像(X1)と同じ側にある別の像(X2)を通過し、かつ、赤道線と平行となる直線領域(Y)を決定する。
図2においては、点線で囲まれた部分において、一点破線で示された軸方向の領域が、赤道線30と平行となる直線領域(Y)である。図2においては、4つの干渉像のうち図面中の左上の干渉像を干渉像(X1)として選択し、その像(X1)の中で最もピーク散乱強度の高い点(X1max:図2中で「+」で示す点)を特定している。この場合、図面中左下の干渉像が別の像(X2)となる。
当該直線領域(Y)においてピーク散乱強度を観察すると、図4に示されるような結果が得られる。図4は、実施例1及び比較例1のポリビニルアルコール系繊維のサンプルの赤道線と平行となる直線領域の小角X線散乱像から得られるピーク散乱強度を示す。図4では、横軸はピクセル数を示し、縦軸が散乱強度を示す。図4に示されるように、像(X1)由来のピーク散乱強度の最大値(X1−maxvalue)(図4の点4)と、像(X2)由来のピーク散乱強度の最大値(X2−maxvalue)(図4の点5)の2つの平均値が値Aである。
値Bは、図4に示されるように、上記直線領域(Y)において、ピーク散乱強度を観察した際に、上記像(X1)由来のピーク散乱強度の最大値(X1−maxvalue)を与える点(X1max)のピクセル数位置(X1P)と、上記像(X2)由来のピーク散乱強度の最大値(X2−maxvalue)のピクセル数位置(X2P)との間のピクセル数範囲における散乱強度の最小値(図4の点6)である。
本発明のポリビニルアルコール系繊維において、A/Bは1.3以上であり、強度により優れる点から、1.35以上が好ましく、1.36以上がより好ましい。また、A/Bは、特に限定されないが、20以下であってもよく、10以下であってもよく、6以下であってもよい。
本発明のポリビニルアルコール系繊維において、X線散乱強度が2θ=0.15°時の赤道線領域/子午線領域の強度比(以下、「散乱強度指数」ともいう。)は、60以上であり、強度により優れる点から、70以上がより好ましく、80以上がさらに好ましい。2θは、図2に示す距離を意味する。また、当該赤道線領域/子午線領域の強度比は、特に限定されないが、400以下であってもよく、300以下であってもよく、250以下であってもよい。
本発明のポリビニルアルコール系繊維は、引張強度が8.9cN/dtex以上であるものが好ましく、9.0cN/dtex以上であるものがより好ましく、9.5cN/dtex以上であるものがさらに好ましい。引張強度は、後記する実施例に記載の方法で測定できる。
本発明のポリビニルアルコール系繊維は、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.95であるポリビニルアルコール樹脂を含んでなることが好ましい。制御ラジカル重合によって重合することで分子量分布の狭いポリビニルアルコール樹脂を得ることができる。分子量分布(Mw/Mn)が狭いポリビニルアルコール樹脂を用いることにより、得られるポリビニルアルコール系繊維の強度が、重量平均分子量(Mw)が同じであるポリビニルアルコール樹脂を用いて得られる従来のポリビニルアルコール系繊維と比較して、驚くべきことに顕著に向上する。したがって、成形性の低下を抑制しつつ、得られるポリビニルアルコール系繊維の強度を高めることができる。前記分子量分布(Mw/Mn)は、1.90以下が好ましく、1.85以下がより好ましく、1.70以下がさらに好ましい。また、前記分子量分布(Mw/Mn)は、1.10以上が好ましく、1.15以上がより好ましく、1.20以上がさらに好ましい。分子量分布(Mw/Mn)は、後記する実施例に記載の方法で測定できる。
前記ポリビニルアルコール樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは100,000〜1,000,000である。当該重量平均分子量(Mw)が100,000以上であることにより、優れた強度を有するポリビニルアルコール系繊維が得られる。前記重量平均分子量(Mw)は150,000以上が好適であり、180,000以上がより好適であり、190,000以上がさらに好適である。一方、前記重量平均分子量(Mw)が1,000,000以下であることにより、成形性が良好となる。前記重量平均分子量(Mw)は800,000以下が好適であり、500,000以下がより好適である。本発明における重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定される。当該測定において、標準物質としてポリメチルメタクリレートが用いられる。また、移動相としてHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)が用いられ、カラムとしてHFIP用のカラムが用いられる。具体的には、実施例に記載された方法により、本発明におけるGPC法による測定が行われる。
前記ポリビニルアルコール樹脂のけん化度は、繊維強度がより優れる点から、95.0〜99.99mol%が好ましい。けん化度は、好適には98mol%以上であり、より好適には99mol%以上であり、さらに好適には99.9mol%以上である。一方、けん化度が99.99mol%を超えると、ポリビニルアルコール樹脂の製造が困難となるおそれがある。けん化度は、好適には99.95mol%以下である。なお、本明細書におけるポリビニルアルコール樹脂のけん化度とは、ポリビニルアルコール樹脂が有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。ポリビニルアルコール樹脂のけん化度は後記する実施例に記載の方法で測定できる。
前記ポリビニルアルコール樹脂中の全単量体単位に対する、ビニルエステル単位及びビニルアルコール単位の合計量は、50mol%以上が好ましく、80mol%以上がより好ましく、90mol%以上がさらに好ましく、95mol%以上が特に好ましく、100mol%であってもよい。
前記ポリビニルアルコール樹脂中の1,2−グリコール結合の含有量は0.7〜1.5mol%であることが好ましい。1,2−グリコール結合の含有量が1.5mol%以下であることにより、得られる繊維の強度がさらに向上する。1,2−グリコール結合の含有量は、1.4mol%以下であることがより好ましい。一方、1,2−グリコール結合の含有量が0.7mol%未満の場合、水溶性が低下して取扱いにくくなるおそれがある。1,2−グリコール結合の含有量は、1mol%以上であることがより好ましい。
前記ポリビニルアルコール樹脂は、下記式(I)で表される末端基を有するものが好ましい。
(式中、R1は置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族基を表し、R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族基を表す。)
上記式(I)中、R1は置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族基を表す。R1が置換基を有する芳香族基である場合、置換基の炭素も含めた炭素数が前記範囲である必要がある。R1として用いられる芳香族基の炭素数は、10以下が好ましい。R1として用いられる芳香族基は、芳香族炭化水素基と複素芳香族基のどちらであっても構わないが前者が好ましい。R1として用いられる芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基及びフェナントリル基等が挙げられ、中でもフェニル基が好ましい。
1は置換基を有する芳香族基であってもよい。このときの置換基として、アルキル基等が挙げられる。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基等が挙げられる。さらに狭い分子量分布、色相及び水溶性を有するポリビニルアルコール樹脂が得られる観点からは、R1が置換基を有しない芳香族基であることが好ましい。
上記式(I)中、R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族基を表す。R2として用いられるアルキル基の炭素数は、10以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基等が挙げられ、中でもメチル基が好ましい。
さらに狭い分子量分布を有するポリビニルアルコール樹脂が得られる観点からは、R2が芳香族基であることが好ましい。R2の芳香族基としては、R1として用いられる芳香族基と同様のものが好ましい。
当該末端基は、下記式(II)で表される重合停止剤に由来することが好ましい。
(式中、R1及びR2は上記式(I)で示したものと同一意味を有する。)
当該重合停止剤がポリビニルエステル鎖のラジカルと反応して、当該ポリビニルエステル鎖の末端に結合した後、新たに生じたラジカルがプロトネーションされることによって、前記末端基が形成されるものと考えられる。
上記式(II)で表される重合停止剤として具体的には、1,1−ジフェニルエチレン、スチレン、α−メチルスチレン及び4−tert−ブチルスチレン等が挙げられ、中でも1,1−ジフェニルエチレン、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく、1,1−ジフェニルエチレン及びスチレンがより好ましく、1,1−ジフェニルエチレンがさらに好ましい。
本発明で用いられるポリビニルアルコール樹脂は、全単量体単位に対する上記式(I)で表される末端基のモル比(X)と数平均分子量(Mn)が下記式(Z)を満足するものである。
X・Mn/44≧0.5 (Z)
上記式(Z)中、左辺(X・Mn/44)は、前記ポリビニルアルコール樹脂中の全単量体単位に対する上記式(I)で表される末端基のモル比(X)に、前記ポリビニルアルコール樹脂の数平均重合度(Mn/44)を掛けたものである。すなわち、X・Mn/44は、全ポリビニルアルコール鎖に対する、前記末端基を有するポリビニルアルコール鎖の比に相当する。したがって、X・Mn/44が一定値以上ということは、全ポリビニルアルコール鎖に対する前記末端基を有するポリビニルアルコール鎖の比が一定値以上ということである。上述したように、上記式(II)で表される重合停止剤がポリビニルエステル鎖の末端に結合して、ラジカルが共役安定化されることによって、分子量分布が狭いポリビニルアルコール樹脂が得られる。
上記式(II)で表される重合停止剤を添加してビニルエステル単量体の重合反応を停止させて、ポリビニルエステル鎖に上記式(I)で示される末端基を導入した場合には、けん化後のポリビニルアルコール樹脂における、主鎖の炭素−炭素二重結合の含有量が少なくなり、色相の良好なポリビニルアルコール樹脂を得ることができ、これを用いるポリビニルアルコール系繊維は強度が優れる。X・Mn/44は0.65以上が好適であり、0.8以上がより好適である。一方、X・Mn/44は通常2以下である。すべてのポリビニルアルコール鎖に前記末端基が結合したとしても計算上X・Mn/44は1であるが、数平均分子量(Mn)の測定誤差等によって、実際に求められる値は1を超えることがある。
本発明のポリビニルアルコール系繊維の製造方法は、特に限定されないが、乾式紡糸法によって紡糸する紡糸工程を備える、ポリビニルアルコール系繊維の製造方法が挙げられる。
本発明のポリビニルアルコール系繊維の製造方法で使用される乾式紡糸法としては、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.95であるポリビニルアルコール樹脂を、空気中に吐出する工程を備えることが好ましい。
分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.95であるポリビニルアルコール樹脂の好適な製造方法は、ラジカル開始剤及び有機コバルト錯体の存在下に制御ラジカル重合によってビニルエステル単量体を重合させる重合工程;前記重合工程の後に、上記式(I)で表される重合停止剤又はプロトン供与性重合停止剤を添加することによって前記重合を停止させてポリビニルエステルを得る停止工程;及び前記停止工程で得られたポリビニルエステルをけん化してポリビニルアルコール樹脂を得るけん化工程;を有する。当該方法によれば、分子量分布が狭く、重量平均分子量が高く、しかも色相が良好であるポリビニルアルコール樹脂が得られる。以下、ポリビニルアルコール樹脂の製造方法を詳細に説明する。
まず、重合工程について説明する。重合工程では、ラジカル開始剤及び有機コバルト錯体の存在下に制御ラジカル重合によってビニルエステル単量体を重合させる。制御ラジカル重合とは、生長ラジカル末端(活性種)が制御剤と結合した共有結合種(ドーマント種)との平衡状態におかれて反応が進行する重合反応のことである。制御ラジカル重合を行うことによって、副反応が抑制されるため、重量平均分子量(Mw)が高く、かつ分子量分布(Mw/Mn)が狭いポリビニルエステルを得ることができる。前記製造方法では、制御剤として有機コバルト錯体が用いられる。
前記製造方法で用いられるビニルエステル単量体としては、例えばギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的観点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
製造されるポリビニルエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で、ビニルエステル単量体と共重合可能なエチレン性不飽和単量体に由来する単量体単位を含んでいてもよい。エチレン性不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和カルボン酸、その塩、そのモノ又はジアルキルエステル又はその無水物;アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド;メタクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;アルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン、酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。共重合させるエチレン性不飽和単量体の炭素数は特に限定されないが、炭素数が2〜20であることが好ましい。前記ポリビニルアルコール樹脂中の全単量体単位に対する、前記エチレン性不飽和単量体に由来する単量体単位の含有率は、20mol%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、1モル%以下がさらに好ましく、0.1モル%以下が特に好ましい。
ビニルエステル単量体の重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒で重合する塊状重合法あるいは種々の有機溶媒中で重合する溶液重合法が通常採用される。分子量分布の狭い重合体を得るためには、連鎖移動等の副反応を起こすおそれのある溶媒や分散媒を使用しない塊状重合法が好ましい。一方、反応液の粘度調整や、重合速度の制御等の面からは、溶液重合が好ましい場合もある。溶液重合時に溶媒として使用される有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール等の低級アルコール;等が挙げられる。これらのうち、連鎖移動を防ぐためには、エステルや芳香族炭化水素が好ましく用いられる。溶媒の使用量は、目的とするポリビニルアルコール樹脂の重量平均分子量に合わせ、反応溶液の粘度を考慮して決定すればよい。例えば、質量比(溶媒/単量体)が0.01〜10の範囲から選択される。質量比(溶媒/単量体)は好適には0.1以上であり、好適には5以下である。
重合工程で使用されるラジカル開始剤としては、従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジエトキシエチルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート化合物;t−ブチルペルオキシネオデカネート、α−クミルペルオキシネオデカネート、t−ブチルペルオキシネオデカネート等のペルオキシエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルペルオキシド、ジイソブチリルペルオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−ペルオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることができる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。開始剤の使用量は、重合触媒により異なり一概には決められず、重合速度に応じて任意に選択される。
重合工程で制御剤として使用される有機コバルト錯体は、2価のコバルト原子と有機配位子を含むものが好ましい。好適な有機コバルト錯体としては、例えばコバルト(II)アセチルアセトナート[Co(acac)2]、コバルト(II)ポルフィリン錯体等が挙げられる。中でも、製造コストの観点からコバルト(II)アセチルアセトナートが好適である。
例えば、制御ラジカル重合では、まず、ラジカル開始剤の分解により発生したラジカルが少数のビニルエステル単量体と結合して生じた短鎖の重合体の生長末端のラジカルが有機コバルト(II)錯体と結合して、有機コバルト(III)錯体が重合体末端と共有結合したドーマント種が生成する。反応開始後の一定期間は、短鎖の重合体が生成してはドーマント種に変換されるだけで、高重合度化は実質的に進行しない。この期間を誘導期という。有機コバルト(II)錯体が消費された後は、高重合度化が進行する生長期に入り、反応系内のほとんどの分子鎖の分子量が重合時間に比例して同じように増加する。これによって、分子量分布の狭いポリビニルエステルを得ることができる。
前記制御ラジカル重合では、理論上は、添加する有機コバルト錯体一分子から一つのポリビニルエステル鎖が生成する。したがって、反応液に添加される有機コバルト錯体の量は、目的とする重量平均分子量と重合率とを考慮して決定される。通常、ビニルエステル単量体100molに対して、0.001〜1molの有機コバルト錯体を使用することが好ましい。
前記制御ラジカル重合に用いられるラジカル開始剤のモル数は有機コバルト錯体のモル数の1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましい。一方、発生するラジカルのモル数が有機コバルト錯体のモル数よりも多くなりすぎると、制御されないラジカル重合の割合が増えるので分子量分布が広がってしまう。用いられるラジカル開始剤のモル数は有機コバルト錯体のモル数の10倍以下であることが好ましく、6倍以下であることがより好ましい。
ドーマント種が生成されて、ポリビニルエステルの高重合度化を制御できる方法であれば、ラジカル開始剤、有機コバルト錯体及びビニルエステル単量体の混合方法は、特に限定されない。例えば、ラジカル開始剤及び有機コバルト錯体を混合した後に、得られた混合物とビニルエステル単量体を混合する方法、ラジカル開始剤、有機コバルト錯体及びビニルエステル単量体を一度に混合する方法、有機コバルト錯体とビニルエステル単量体を混合した後に、得られた混合物とラジカル開始剤を混合する方法などが挙げられる。また、ラジカル開始剤、有機コバルト錯体、ビニルエステル単量体は分割して混合してもよい。例えば、ラジカル開始剤及び有機コバルト錯体と、ビニルエステル単量体の一部を混合することにより、有機コバルト(III)錯体が短鎖のポリビニルエステル末端と共有結合したドーマント種を生成させた後に、当該ドーマント種とビニルエステル単量体の残部を混合して高重合度化させる方法等が挙げられる。なお、当該ドーマント種をマクロ開始剤として単離してから、ビニルエステル単量体の残部と混合して高重合度化させてもよい。
重合温度は、例えば0℃〜80℃が好ましい。重合温度が0℃未満の場合は重合速度が不十分となり、生産性が低下する傾向にある。この点からは重合温度は10℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。一方、重合温度が80℃を超えると得られるポリビニルエステルの分子量分布が広くなる傾向にある。この点からは重合温度は65℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましい。ビニルエステル単量体の重合工程に要する時間は、通常3〜50時間である。
前記重合工程において目的とする重合率になったところで、上記式(I)で表される重合停止剤又はプロトン供与性重合停止剤を添加することによって重合反応を停止させる。
プロトン供与性重合停止剤はポリ酢酸ビニル鎖の末端のラジカルに対してプロトンラジカルを提供できる重合停止剤であって、60℃での酢酸ビニルに対する連鎖移動定数が0.1以上であることが好ましい。例えば、ソルビン酸等が挙げられる。また、金属−水素結合を有する有機金属化合物等を用いることもできる。
添加される上記式(II)で表される重合停止剤のモル数は、添加された有機コバルト錯体1molに対して、1〜100molであることが好ましい。前記重合停止剤のモル数が少なすぎると、ポリマー末端のラジカルを十分に捕捉できず、得られるポリビニルアルコール樹脂の色調が悪化するおそれがある。そのため、前記重合停止剤のモル数は、有機コバルト錯体1molに対して、3mol以上であることがより好ましい。一方、前記重合停止剤のモル数が多すぎると生産コストが上昇するおそれがある。前記重合停止剤のモル数は、有機コバルト錯体1molに対して、50mol以下であることがより好ましい。
停止工程における反応液の温度は、上記式(II)で表される重合停止剤がポリ酢酸ビニル鎖の末端のラジカルと反応できる温度又はプロトン供与性重合停止剤がポリ酢酸ビニル鎖の末端のラジカルに対してプロトンラジカルを提供できる温度であればよく、0〜80℃であることが好ましい。反応液の温度が0℃未満の場合は停止工程に時間がかかり過ぎて生産性が低下する。この点からは停止工程における反応液の温度は10℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。一方、反応液の温度が80℃を超えると、不必要な酢酸ビニルの重合が進行して分子量分布(Mw/Mn)が大きくなる傾向にある。この点から上記温度は70℃以下がより好ましく、60℃以下がさらに好ましい。停止工程に要する時間は、通常、10分〜5時間である。
停止工程の後、得られたポリビニルエステル溶液を、水溶性配位子を含む水溶液に接触させて、前記ポリビニルエステル溶液からコバルト錯体を抽出除去する抽出工程を行うことが好ましい。このように、ポリビニルエステル溶液中に含まれるコバルト錯体を予め除去してからけん化工程を行うことによって、色相がよく、ゲル化しにくいポリビニルアルコール樹脂を得ることができる。具体的には、相互に溶解しない前記水溶液と前記ポリビニルエステル溶液とを、両者の界面の面積が大きくなるように激しく撹拌してから静置し、油層と水層に分離した後で水層を除く操作を行えばよい。この操作は複数回繰り返してもよい。
抽出工程に用いられる水溶性配位子は、25℃におけるpKaが0〜12の酸であることが好ましい。pKaが0未満の強酸を用いた場合、コバルト錯体を効率的に抽出することが困難であり、pKaは2以上であることが好ましい。またpKaが12を超える弱酸を用いた場合にもコバルト錯体を効率的に抽出することが困難であり、pKaは7以下であることが好ましい。前記酸が多価の酸である場合には、第一解離定数(pKa1)が上記範囲であることが必要である。pKaが0〜12の酸がカルボン酸又はリン酸(pKa1は2.1)であることが好ましく、カルボン酸であることがより好ましい。中でも酢酸(pKaは4.76)であることが特に好ましい。
水溶性配位子を含む水溶液のpHは、0〜5であることが好ましい。pHはより好適には1以上であり、さらに好適には1.5以上である。pHはより好適には4以下であり、さらに好適には3以下である。
けん化工程では、停止工程で得られたポリビニルエステルをけん化してポリビニルアルコール樹脂を得る。このとき、停止工程の後に抽出工程を行なってから、けん化工程を行なってもよい。
けん化工程では、前述の方法で製造されたポリビニルエステルをアルコール又は含水アルコールに溶解した状態でけん化してポリビニルアルコール樹脂を得る。けん化反応に使用されるアルコールとしては、メタノール、エタノール等の低級アルコールが挙げられ、メタノールが特に好適に使用される。けん化反応に使用されるアルコールは、アセトン、酢酸メチルや酢酸エチル等のエステル、トルエン等の溶剤を含有していてもよい。けん化反応に用いられる触媒としては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムメチラート等のアルカリ触媒、あるいは鉱酸等の酸触媒が挙げられる。けん化反応の温度については、例えば20〜60℃の範囲が適当である。けん化反応の進行に伴って、ゲル状生成物が析出してくる場合には、その時点で生成物を粉砕し、洗浄後、乾燥することにより、ポリビニルアルコール樹脂が得られる。
ポリビニルアルコール系繊維を製造するにあたり、ポリビニルアルコール樹脂の紡糸方法には特に制限はないが、乾式紡糸法が好ましい。乾式紡糸法では、特に限定されず、公知の乾式紡糸装置を用いることができる。乾式紡糸装置としては、例えば、混練溶解装置と、ノズルと、ガス導入口と、ガス排出口と、紡糸原液を加熱されたガス中に吐出する紡糸筒とを備える装置、仮撚装置、各種ローラー(延伸ローラー、仕上げローラー等)及び巻取装置から構成される複合装置が挙げられる。ノズルから、ポリビニルアルコール樹脂を含有する紡糸原液を加熱されたガス中に吐出する。紡糸筒には、ガス導入口から、加熱されたガスが導入されており、ガス排出口から該加熱されたガスが排出される。ポリビニルアルコール樹脂を含有する紡糸原液に用いる溶媒としては、ポリビニルアルコール系繊維の製造に際して乾式紡糸法で従来から用いられている揮発性溶媒が挙げられる。乾式紡糸では、固化は溶媒の揮発によるものなので、紡糸原液の溶媒の揮発性が高いほど、固化性は高くなる。紡糸原液に用いる溶媒としては、例えば水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール等の多価アルコールなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。この中でも、供給性、環境負荷への影響の観点から、水及びDMSOが特に好ましい。紡糸原液中のポリビニルアルコール樹脂の濃度は、ポリビニルアルコール樹脂の組成や重合度、溶媒によって異なるが、8〜60質量%の範囲が好ましい。紡糸原液の吐出時の液温は、紡糸原液が分解、着色しない範囲があることが好ましく、具体的には50〜200℃とすることが好ましい。本発明の効果を損なわない範囲であれば、紡糸原液にはポリビニルアルコール樹脂以外にも、目的に応じて、界面活性剤、分解抑制剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、特殊機能材などの添加剤などが含まれていてもよい。
紡糸原液に用いる溶媒に水を用いる乾式紡糸では、ノズル径及び紡糸原液濃度を変更することにより、3〜4,000dtex/fまでの調整が可能である。
本発明のポリビニルアルコール系繊維の製造方法では、上記した所定の分子量分布(Mw/Mn)を有するポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶液を、加熱された気体(ガス)中に吐出させる工程を備えることが好ましい。かかる方法は製造工程が簡素でかつ設備がコンパクトであり、さらに乾燥が効率的に行えることから糸条の太さ(集束度、トータルデニール)を大きくできるため大量生産に好適である。
本発明のポリビニルアルコール系繊維の製造方法において用いる加熱ガスは、紡糸原液の溶媒の種類に応じて、適宜変更できる。加熱ガスとしては、特に限定されず、空気、不活性ガス等が挙げられる。不活性ガスとしては、ヘリウムガス、アルゴンガス、ネオンガス、窒素ガス等が挙げられる。加熱ガスは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリビニルアルコール系繊維の製造方法において、紡糸原液は、加熱された気体中に吐出される前に、予め加熱されていてもよい。予め紡糸原液を加熱する際の温度としては、特に限定されないが、50〜120℃程度であってもよい。
有機溶媒を用いた紡糸原液の場合は、固化溶媒と原液溶媒からなる混合液が好ましく、その固化溶媒としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などのポリビニルアルコール樹脂に対して固化能を有する有機溶媒が好ましい。
前記の紡糸方法により得られた固化糸(糸条)は、抽出及び洗浄され、乾燥後、延伸熱処理される。
本発明のポリビニルアルコール系繊維は、破断強度を9.0cN/dtex以上とするために、延伸熱処理されることが好ましい。この延伸熱処理の温度は、一般的には210℃以上であり、好ましくは220℃〜260℃である。延伸熱処理の全延伸倍率は、繊維の結晶化度と配向度が向上し、それに伴って繊維の機械特性が向上する点から、好ましくは8.0倍以上であり、前記散乱強度指数がより高くなる点から、より好ましくは9.0倍以上である。また、延伸熱処理の全延伸倍率は、20.0倍未満が好ましく、18.0倍未満がより好ましく、16.0倍未満がさらに好ましい。上記した製造方法によって、前記A/Bが1.3以上であり、かつX線散乱強度が2θ=0.15°時の赤道線領域/子午線領域の強度比が60以上であるポリビニルアルコール系繊維が得られる。
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形が当分野において通常の知識を有する者により可能である。
[重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)の測定]
東ソー株式会社製サイズ排除高速液体クロマトグラフィー装置「HLC−8320GPC」を用い、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。測定条件は以下の通りである。
カラム:東ソー株式会社製HFIP系カラム「TSKgel GMHHR−H(S)」2本直列接続
標準試料:ポリメチルメタクリレート
溶媒及び移動相:トリフルオロ酢酸ナトリウム−HFIP溶液(濃度20mM)
流量:0.2mL/min
温度:40℃
試料溶液濃度:0.1wt%(開口径0.45μmのフィルターでろ過)
注入量:10μL
検出器:RI
[けん化度の測定]
合成例1と比較例1で使用したポリビニルアルコール樹脂に関して、90℃で減圧乾燥を2日間行ったポリビニルアルコール樹脂を、DMSO−d6に溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えた試料を調製し測定に供した。日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「LAMBDA 500」を用い、80℃で1H−NMR測定を行った。ポリビニルアルコール樹脂中の残存アセチル基とビニル基由来のメチン基のピーク積分値の比からけん化度を算出した。
[繊度測定]
実施例及び比較例で得られた各ポリビニルアルコール系繊維について、JIS L 1013:2010を参考に、試長30mの絶乾重量から計算し、サンプル数4(n=4)の平均値を整数位に四捨五入して繊度(dtex)を求めた。単糸繊度は繊度をノズル孔数で割って算出した。
[引張強度測定]
実施例及び比較例で得られた各ポリビニルアルコール系繊維について、80TPMの撚りをかけ、JIS L 1015:2010を参考に、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/分の条件にて測定を行い、サンプル数20(n=20)の平均値を整数位に四捨五入した。得られた強力(cN)の値を繊度(dtex)で割り、引張強度(cN/dtex)を算出した。
[乾式紡糸全延伸倍率の求め方]
全延伸倍率=延伸出口ローラー速度/1stローラー速度
[小角X線散乱強度からのピーク間隔測定]
実施例及び比較例で得られた各ポリビニルアルコール系繊維について、以下の条件で、小角X線散乱法(SAXS)により小角X線散乱強度の像を得た。図1に示されるように、ポリビニルアルコール系繊維のサンプルを設置して測定を行った。
装置:ナノスケールX線構造評価装置「NANO−Viewer」(株式会社リガク製)
検出器:2次元半導体検出器 PILATUS−100K
X線源:Cu
電流:20mA
電圧:40kv
カメラ距離:987.78mm
測定モード:通常測定
露光時間:30分又はそれ以上
スリット条件;第1=0.4mm、第2=0.2mm、第3=0.45mm
ビームストッパー径:4mm
真空パス:真空状態
サンプルセット位置:3rdスリット後
サンプルセット方法:ヤーン1本を横置きにセット
(赤道線と平行となる直線領域の散乱強度ピーク間隔の求め方)
得られた2次元像(図2、図3)を、汎用2次元データ処理ソフト(株式会社リガク製2DP)を使用して画像処理することにより、ポリビニルアルコール系繊維のサンプルの赤道線と平行となる直線領域(Y)の散乱強度プロファイルを得た。直線領域(Y)は、上述した方法にて、値A及び値Bを算出するために使用するものである。画像処理はサンプルありの状態の測定データからサンプルなしの状態で測定したデータを差し引いたものを使用した。
変換方法;Convert Image to Slit Profile
変換モード;Pixel vs intensity
変換条件;step=0.5pixel
なお、4つの像の中からいずれかの一つの像(X1)を選択し、その像(X1)の中で最もピーク散乱強度の高い点(X1max)を特定するため、画像(サンプル)によってセンター位置は異なる
Region(pixel)Left=85、Right=95、Top=10、Bottom=10
Rotation(deg)270
スムージング処理;Smoothing factor=10
1PixelSIZE=0.172mm
上記変換して得られたプロファイルは、二つの山型になる。
この二つの山のピークトップ間隔をピクセルで求め、0.5ピクセル刻みで、赤道線と平行となる直線領域(Y)のピーク散乱強度の値を得た。
上述した方法にて、値A及び値Bを算出し、A/Bを求めた。各サンプルについて、図4〜6に示される二つの山のピークの値の平均が値Aとなり、二つの山の間の最小値が値Bとなる。
値Aと値Bの間隔であるピーク間隔が広い方が、繊維が規則正しく配列していることを意味するため、繊維配列の規則性に関する情報がピーク間隔解析で得られる。すなわち、A/Bの値が大きければ繊維が規則正しく配列しているといえる。
(X線散乱強度が2θ=0.15°時の赤道線領域/子午線領域の強度比の求め方)
上記したように、実施例及び比較例で得られた各ポリビニルアルコール系繊維について、前記小角X線散乱強度からのピーク間隔測定と同条件で、小角X線散乱法(SAXS)による小角X線散乱強度の像を得た。得られた2次元像(図2、図3)を、汎用2次元データ処理ソフト(株式会社リガク製2DP)を使用して画像処理することにより、赤道線領域と子午線領域の1次元プロファイルを得た。データ変換条件は次に示す通り。
(赤道線方向)
2θ範囲:0〜2.4deg、β範囲:85〜95deg、ステップ幅:0.003deg
(子午線方向)
2θ範囲:0〜2.4deg、β範囲:175〜185deg、ステップ幅:0.003deg
上述の方法で得たプロファイルから、2θ=0.15degのX線散乱強度を読み取る。強度比は以下の計算式で求めた。
強度比=(赤道線方向2θ=0.15degのX線散乱強度)÷(子午線方向2θ=0.15degのX線散乱強度)
低角度側に観測される散乱X線は繊維欠陥由来の散乱と考えることができ、繊維欠陥量が多いと散乱X線強度が強くなる。赤道線方向と子午線方向の強度比を取ることで、繊維欠陥の方向性が確認できる。
[合成例1]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル100質量部、有機コバルト錯体としてコバルト(II)アセチルアセトナート0.04質量部を仕込み、窒素バブリングをしながら30分間反応器内を不活性ガス置換した。水浴を加熱して反応器の昇温を開始し、内温が40℃となったところで、ラジカル開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)を0.13質量部添加して2時間撹拌し、降温し内温を30℃に維持して重合を開始させた。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、酢酸ビニルの転化率が20%に到達したところで重合停止剤として1,1−ジフェニルエチレン0.13質量部を添加し、30℃で撹拌した。重合開始後から目標の重合率に至るまでに3時間反応させた。重合停止剤を添加してから、さらに濃度25質量%の酢酸水溶液92質量部を添加し、5分撹拌した後、30分静置し二層に分離し、水層を除去した。以上の分液操作を計3回繰り返した後に、酢酸水溶液を脱イオン水に変えて同様の分液操作を計3回繰り返した。その後反応器に真空ラインに接続し、残留する酢酸ビニルをメタノールとともに30℃で減圧留去した。反応器内を目視で確認しながら、粘度が上昇したところで適宜メタノールを添加しながら留去を続け、ポリ酢酸ビニルの20質量%メタノール溶液を得た。次に、上記と同様の反応器に、得られたポリ酢酸ビニルの20質量%メタノール溶液100質量部とメタノール20質量部を添加し溶解した後、水浴を加熱して内温が40℃になるまで加熱撹拌した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%)13.3質量部(水酸化ナトリウムとして1.9質量部)を添加して、40℃でけん化を行った。生成したゲル化物を粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で放置して1時間けん化を進行させた。得られたけん化物にさらに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%)1.9質量部を添加し、65℃の加熱還流下でさらに1時間けん化反応を行った。その後、酢酸メチル30質量部を加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別することによって固体を得て、これにメタノール75質量部を加えて1時間加熱還流した。その後、遠心脱水して得られた固体を真空乾燥機にて40℃で24時間乾燥させ、目的のポリビニルアルコール樹脂<ポリマー種A>を得た。ポリマー種Aは、重量平均分子量(Mw)が197,000、ケン化度が99.9モル%、分子量分布(Mw/Mn)が1.6であった。
[実施例1]
合成例1で作製したポリビニルアルコール樹脂と、溶媒として水を使用した紡糸原液を作製し、乾式紡糸を実施した。乾式紡糸には、ノズルと、ガス導入口と、ガス排出口と、紡糸原液を加熱されたガス中に吐出する紡糸筒とを備える装置、仮撚装置、延伸ローラー、乾燥装置及び巻取装置から構成される複合装置を使用した。該紡糸原液を該ノズルより、紡糸筒中において70℃に加熱された空気中に吐出させ、糸条にした。その後、水分を除去するため、乾燥を行い、巻取機により巻き取った。巻き取ったサンプルを235℃にて延伸出口ローラーを用い、延伸処理を行った。全延伸倍率を延伸出口ローラー速度と1stローラー速度比から算出した結果9.6倍であった。得られたポリビニルアルコール系繊維のサンプルのA/B、散乱強度指数及び引張強度について上記の方法で得た結果を下記表1に示す。得られたポリビニルアルコール系繊維のサンプルのX線小角散乱強度の測定結果を図3に示し、該サンプルの赤道線と平行となる直線領域の小角X線散乱像から得られるピーク散乱強度を図4に示す。
[比較例1]
比較対象となるポリビニルアルコール樹脂(重量平均分子量が197,400、ケン化度99.9モル%、分子量分布(Mw/Mn)が2.2、表1の<ポリマー種B>)と、溶媒としての水を使用した紡糸原液を作製し乾式紡糸を実施した。該紡糸原液をノズルより、紡糸筒中において70℃に加熱された空気中に吐出させ、糸条にした。その後、水分を除去するため、乾燥を行い、巻取機により巻き取った。巻き取ったサンプルを235℃にて延伸出口ローラーを用い、延伸処理を行った。全延伸倍率を延伸出口ローラー速度と1stローラー速度比から算出した結果9.7倍であった。得られたポリビニルアルコール系繊維のサンプルのA/B、散乱強度指数及び引張強度について上記の方法で得た結果を下記表1に示す。得られたポリビニルアルコール系繊維のサンプルのX線小角散乱強度の測定結果を図3に示し、該サンプルの赤道線と平行となる直線領域の小角X線散乱像から得られるピーク散乱強度を図4に示す。
[実施例2]
全延伸倍率を変更したこと以外は、実施例1と同一条件でポリビニルアルコール系繊維の製造を行った。全延伸倍率を延伸出口ローラー速度と1stローラー速度比から算出した結果11.0倍であった。得られたポリビニルアルコール系繊維のサンプルのA/B、散乱強度指数及び引張強度について上記の方法で得た結果を下記表1に示す。得られたポリビニルアルコール系繊維のサンプルのX線小角散乱強度の測定結果を図3に示し、該サンプルの赤道線と平行となる直線領域の小角X線散乱像から得られるピーク散乱強度を図5に示す。
[比較例2]
全延伸倍率を変更したこと以外は、比較例1と同一条件でポリビニルアルコール系繊維の製造を行った。全延伸倍率を延伸出口ローラー速度と1stローラー速度比から算出した結果11.3倍であった。得られたポリビニルアルコール系繊維のサンプルのA/B、散乱強度指数及び引張強度について上記の方法で得た結果を下記表1に示す。得られたポリビニルアルコール系繊維のサンプルのX線小角散乱強度の測定結果を図3に示し、該サンプルの赤道線と平行となる直線領域の小角X線散乱像から得られるピーク散乱強度を図5に示す。
[実施例3]
全延伸倍率を変更したこと以外は、実施例1と同一条件でポリビニルアルコール系繊維の製造を行った。得られたポリビニルアルコール系繊維のサンプルのA/B、散乱強度指数及び引張強度について上記の方法で得た結果を下記表1に示す。得られたポリビニルアルコール系繊維のサンプルのX線小角散乱強度の測定結果を図3に示し、該サンプルの赤道線と平行となる直線領域の小角X線散乱像から得られるピーク散乱強度を図6に示す。
[比較例3]
全延伸倍率を変更したこと以外は、比較例1と同一条件でポリビニルアルコール系繊維の製造を行った。得られたポリビニルアルコール系繊維のサンプルのA/B、散乱強度指数及び引張強度について上記の方法で得た結果を下記表1に示す。得られたポリビニルアルコール系繊維のサンプルのX線小角散乱強度の測定結果を図3に示し、該サンプルの赤道線と平行となる直線領域の小角X線散乱像から得られるピーク散乱強度を図6に示す。
上記のように、実施例1〜3では、製造時の全延伸倍率が20倍未満であっても、比較例1〜3に対して、強度が優れていた。上記結果から、本発明のポリビニルアルコール系繊維は、延伸倍率が低い製造方法においても、強度に優れることが確認できた。
本発明のポリビニルアルコール系繊維は、延伸倍率が低い製造方法においても、強度に優れる。
1 ポリビニルアルコール系繊維
2 スリット
3 入射X線
30 赤道線
4 像(X1)由来のピーク散乱強度の最大値(X1−maxvalue)
5 像(X2)由来のピーク散乱強度の最大値(X2−maxvalue)
6 像(X1)由来のピーク散乱強度の最大値(X1−maxvalue)を与える点(X1max)のピクセル数位置(X1P)と、像(X2)由来のピーク散乱強度の最大値(X2−maxvalue)のピクセル数位置(X2P)との間のピクセル数範囲における散乱強度の最小値

Claims (9)

  1. X線小角散乱強度の長周期像を測定した際に得られる下記値Aと値Bについて、A/Bが1.3以上であり、X線散乱強度が2θ=0.15°時の赤道線領域/子午線領域の強度比が60以上であるポリビニルアルコール系繊維。
    A:ポリビニルアルコール系繊維の繊維軸方向が子午線方向となるようにポリビニルアルコール系繊維のX線小角散乱強度の長周期像の測定を行い、当該測定で取得できるX線小角散乱強度の長周期像を構成する4つの像を観察する。当該4つの像の中からいずれかの一つの像(X1)を選択し、その像(X1)の中で最もピーク散乱強度の高い点(X1max)を特定する。当該点(X1max)を通過し、かつ、前記4つの像の中で赤道線から見て像(X1)と同じ側にある別の像(X2)を通過し、かつ、赤道線と平行となる直線領域(Y)を決定する。当該直線領域(Y)においてピーク散乱強度を観察することで得られる、像(X1)由来のピーク散乱強度の最大値(X1−maxvalue)と、像(X2)由来のピーク散乱強度の最大値(X2−maxvalue)の2つの平均値を値Aとする。
    B:上記直線領域(Y)において、ピーク散乱強度を観察した際に、上記像(X1)由来のピーク散乱強度の最大値(X1−maxvalue)を与える点(X1max)のピクセル数位置(X1P)と、上記像(X2)由来のピーク散乱強度の最大値(X2−maxvalue)のピクセル数位置(X2P)との間のピクセル数範囲における散乱強度の最小値を値Bとする。
  2. 引張強度が9.0cN/dtex以上である、請求項1に記載のポリビニルアルコール系繊維。
  3. 分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.95であるポリビニルアルコール樹脂を含んでなる、請求項1又は2に記載のポリビニルアルコール系繊維。
  4. 前記ポリビニルアルコール樹脂のけん化度が95.0〜99.9mol%である、請求項3に記載のポリビニルアルコール系繊維。
  5. 前記ポリビニルアルコール樹脂が下記式(I)で表される末端基を有する、請求項3又は4に記載のポリビニルアルコール系繊維。
    (式中、R1は置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族基を表し、R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族基を表す。)
  6. 前記ポリビニルアルコール樹脂の重量平均分子量(Mw)が100,000〜555,000である、請求項3〜5のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系繊維。
  7. 乾式紡糸法によって紡糸する紡糸工程を備える、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系繊維の製造方法。
  8. 乾式紡糸法が、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.95であるポリビニルアルコール樹脂を、加熱された気体中に吐出する工程を備える、請求項7に記載のポリビニルアルコール系繊維の製造方法。
  9. さらに延伸工程を備え、前記延伸工程における全延伸倍率が18.0倍未満である、請求項7又は8に記載のポリビニルアルコール系繊維の製造方法。
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