変速上段側及び変速下段側の同時噛合いから変速完了に至るとき変速ショック及び異音をより軽減して変速を行なわせることを可能とするという目的を、以下のように実現した。
トランスミッションは、駆動力伝達軸に相対回転可能に支持された複数段の変速ギヤと、前記変速ギヤを前記駆動力伝達軸に選択的に結合して変速出力するために複数備えられ前記変速ギヤに選択的な噛合いが可能なクラッチ・リングとを含み、シフト・アップ動作又はシフト・ダウン動作により変速下段及び変速上段のクラッチ・リングが同時噛合いした時に前記変速下段又は変速上段のクラッチ・リングにコースティングトルクにより噛合い解除方向の軸力を生じさせて変速を行うトランスミッションであって、前記クラッチ・リング及び変速ギヤは、回転方向に噛合うクラッチ歯を備え、前記クラッチ歯の一方の歯先側に、前記駆動力伝達軸の軸心に対し漸次傾斜しコースティングトルクによりクラッチ歯の他方をガイドして噛合い解除方向のスラスト力を発生させるガイド面を備え、前記ガイド面は、回転方向に沿って設定された。
前記クラッチ歯の一方の歯元側に、エンジンブレーキ時に前記クラッチ歯の他方が噛合うコースト噛合い面を備え、前記コースト噛合い面は、軸心方向に沿って設定されている。
前記シフト・アップ動作又はシフト・ダウン動作に応じ、前記同時噛み合いに際し前記クラッチ・リングを深く噛み合う第1の噛合い位置から浅く噛み合う第2の噛合い位置へと移動させる。
相対回転自在な一対のクラッチ体と、前記一対のクラッチ体にそれぞれ設けられ回転方向に噛合うクラッチ歯とを備え、前記クラッチ歯の一方の歯先側に、前記相対回転の回転軸心に対し漸次傾斜し前記クラッチ歯の他方をガイドして噛合い解除方向のスラスト力を発生させるガイド面を備え、前記ガイド面は、回転方向に沿って設定された。
前記クラッチ歯の一方の歯元側に、エンジンブレーキ時に前記クラッチ歯の他方が噛合うコースト噛合い面を備え、前記コースト噛合い面は、軸心方向に沿って設定されている。
[トランスミッションの概要]
図1は、本発明の実施例1に係るトランスミッションをフロント・デファレンシャル装置と共に示す概略断面図である。
図1のように、トランスミッション1は、駆動力伝達軸として中実のメイン・シャフト3及びカウンター・シャフト5、アイドラー・シャフト(図示せず。)を備えている。これらメイン・シャフト3及びカウンター・シャフト5は、軸受9,11,13,15等によりトランスミッション・ケース(図示せず。)に回転自在に支持されている。アイドラー・シャフトは、トランスミッション・ケース側に固定されている。
メイン・シャフト3とカウンター・シャフト5とには、複数段の変速ギヤとして1速ギヤ19、2速ギヤ21、3速ギヤ23、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29が相対回転可能に支持されている。
カウンター・シャフト5上の1速ギヤ19、3速ギヤ23は、メイン・シャフト3の出力ギヤ31,33に噛合い、メイン・シャフト3上の2速ギヤ21、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29は、カウンター・シャフト5の入力ギヤ35,37,39,41にそれぞれ噛合っている。
アイドラー・シャフト(図示せず。)上のリバース・アイドラーは、軸方向移動によりメイン・シャフト3上の出力ギヤ44及びカウンター・シャフト5上の入力ギヤ45に噛合い可能に配置されている。
1速ギヤ19、3速ギヤ23は、第1の噛合いクラッチ47によりカウンター・シャフト5に選択的に結合され、2速ギヤ21、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29は、第2、第3の噛合いクラッチ49,51によりメイン・シャフト3に選択的に結合される。この選択的な結合によりメイン・シャフト3からカウンター・シャフト5に変速出力可能となっている。
第1〜第3の噛合いクラッチ47,49,51は、複数段の変速ギヤの変速上段への変速を、複数の第1〜第3の噛合いクラッチ47,49,51を変更して行なうようになっている。
すなわち、複数段の変速ギヤである1速ギヤ19、2速ギヤ21、3速ギヤ23、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29は、第1〜第3の噛合いクラッチ47,49,51を変更して変速を行うように配列されている。
例えば1速ギヤ19から2速ギヤ21への変速は、複数の第1、第2の噛合いクラッチ47,49を変更して行なう。
第1〜第3の噛合いクラッチ47,49,51は、基本的には同一構造であり、クラッチ・ベース・リング53,55,57、クラッチ・リング59,61,63、クラッチ歯47a,47b,49a,49b,51a,51b、19a,21a,23a,25a,27a,29aを備えている。クラッチ歯47a,47b,49a,49b,51a,51b、19a,21a,23a,25a,27a,29aは、相対回転自在な一対のクラッチ体であるクラッチ・リング59,61,63及び1速ギヤ19〜6速ギヤ29の各対向面に形成されている。
したがって、クラッチ・リング59,61,63は、メイン・シャフト3、カウンター・シャフト5の軸方向へ噛合い移動してクラッチ歯47a,47b,49a,49b,51a,51b、19a,21a,23a,25a,27a,29aの選択的な噛合いにより変速出力のための結合を行わせる。
第1〜第3の噛合いクラッチ47,49,51のクラッチ・ベース・リング53,55,57は、カウンター・シャフト5にスプライン嵌合などにより結合され、一体回転可能となっている。第2,第3の噛合いクラッチ49,51のクラッチ・ベース・リング55,57は、メイン・シャフト3にスプライン嵌合などにより結合され、一体回転可能となっている。
第1〜第3の噛合いクラッチ47,49,51のクラッチ・リング59,61,63は、クラッチ・ベース・リング53,55,57の外周に嵌合配置され、軸方向へ移動可能にスプアライン結合されている。このクラッチ・リング61,63は、変速ギヤである2速ギヤ21、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29を駆動力伝達軸であるメイン・シャフト3に選択的に結合して変速出力するために複数備えられている。クラッチ・リング59は、変速ギヤである1速ギヤ19、3速ギヤ23を駆動力伝達軸であるカウンター・シャフト5に選択的に結合して変速出力するために備えられている。
クラッチ・リング59には、シフト・フォークが嵌合する周凹条81が形成されている。リバース・アイドラー(図示せず。)にも、シフト・フォークが嵌合する周凹条が形成されている。クラッチ・リング59には、さらに前記入力ギヤ45が形成されている。クラッチ・リング61,63には、シフト・フォーク85,87が嵌合する周凸条89,91が形成されている。クラッチ・リング59,61,63の両サイドには、1速ギヤ19、2速ギヤ21、3速ギヤ23、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29を選択して各両サイドに2速以上はなして配置し、それぞれ両サイドの変速ギヤに選択的な噛み合いが可能となっている。
つまり、クラッチ・リング59の両サイドには1速ギヤ19、3速ギヤ23が配置され、クラッチ・リング61の両サイドには2速ギヤ21、5速ギヤ27が配置され、クラッチ・リング63の両サイドには4速ギヤ25、6速ギヤ29が配置されている。
第1〜第3の噛合いクラッチ47,49,51は、変速操作部(図示せず。)により選択的に操作されるようになっている。リバース・アイドラー(図示せず。)も、変速操作部(図示せず。)により操作されるようになっている。
変速操作部(図示せず。)は、周知の構造であり、トランスミッション・ケース(図示せず。)内に備えられ、複数のシフト・フォークと複数のシフト・ロッドとシフト・アームとシフト・ドラムとを備えている。
シフト・フォークは、第1〜第3の各噛合いクラッチ47,49,51毎及びリバース・アイドラー(図示せず。)に備えられ、各噛合いクラッチ47,49,51、リバース・アイドラー(図示せず。)を連動させるものである。
シフト・ロッド(図示せず。)は、各シフト・フォーク85,87等を支持している。
シフト・アーム(図示せず。)は、各シフト・ロッド(図示せず。)に結合されている。
シフト・ドラム(図示せず。)は、変速段に応じた複数のシフト溝(図示せず。)を備え、このシフト溝に各シフト・アーム(図示せず。)の先端突部を係合させている。
シフト・フォーク85,87側とトランスミッション・ケース側との間には、凹凸部(図示せず。)及びチェック部が設けられている。他のシフト・フォーク側とトランスミッション・ケース側との間にも、同一構造の、凹凸部及びチェック部が設けられているが、図示は省略する。
シフト・フォーク85,87のフォーク部は、山形の位置決め凹部(図示せず。)を備えている。ニュートラル位置に対応する位置決め凹部、コースト噛合い位置に対応する位置決め凹部を有している。
チェック部は、トランスミッション・ケース側に支持され、チェック・ボールをチェック・スプリングにより付勢し、凹凸部に弾性力を持って係合させている。この係合により第1〜第3の噛合いクラッチ47,49,51をニュートラル位置とコースト噛合い位置とへ位置決めることができる。
トランスミッション1の出力は、カウンター・シャフト5の出力ギヤ93に噛合うフロント・デファレンシャル装置95から行う。
すなわち、シフト・レバーのマニュアル操作信号に基づき、或いはアクセル・ペダルの操作によるアクセル開度及び車速信号等に基づき、シフト・モータ(図示せず)によりシフト・ドラムが回転駆動されると、シフト溝のガイドにより何れかのシフト・アームを介してシフト・ロッドが選択的に軸方向へ選択駆動される。
このシフト・ロッドの選択駆動によりシフト・フォークの何れかを介して第1〜第3の噛合いクラッチ47,49,51、或いはリバース・アイドラーが選択操作される。この選択操作により、1速ギヤ19〜6速ギヤ29、リバース・アイドラーが選択的に動作し、シフト・アップ、シフト・ダウン、リバースのチェンジを行わせることができる。
[ガイド面、コースト噛合い面]
図2は、クラッチ・リングを示す拡大斜視図である。図3は、クラッチ歯の噛合いを示す展開図である。なお、図3は、ドライブトルクが作用している状態である。
トランスミッション1のクラッチ・リング59は、前記のようにカウンター・シャフト5に軸方向移動可能に結合され、クラッチ・リング61、63は、メイン・シャフト3に軸方向移動可能に結合されている。
すなわち、トランスミッション1は、駆動力伝達軸であるメイン・シャフト3又はカウンター・シャフト5に相対回転可能に支持された複数段の変速ギヤである1速ギヤ19、2速ギヤ21、3速ギヤ23、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29と、変速ギヤをメイン・シャフト3又はカウンター・シャフト5に選択的に結合して変速出力するために複数備えられ変速ギヤが2速以上はなれて両サイドにそれぞれ配置され両サイドの変速ギヤに噛合いクラッチにより選択的な噛合いが可能なクラッチ・リング59、61、63とを備えた構成となっている。
前記クラッチ・リング59、61、63は、1速ギヤ19、3速ギヤ23、2速ギヤ21、5速ギヤ27、4速ギヤ25、6速ギヤ29に対し、噛み合っている状態において軸方向の第1の噛合い位置(図3参照)と第2の噛合い位置(図6(B)参照)とに移動可能である。
第1の噛合い位置は、第1〜第3の噛合いクラッチ47,49,51が深く噛み合う状態である。第2の噛合い位置は、第1〜第3の噛合いクラッチ47,49,51が第1の噛合い位置よりも後述のように浅く噛み合う状態である。
このクラッチ・リング59、61、63の第2の噛合い位置への移動は、クラッチ・ドライバ66により行わせることができる。クラッチ・ドライバ66は、例えば変速操作部により構成でき、シフト・ドラムのシフト溝の設定とシフト・アームとの関係等で設定できる。
つまり、シフト・アップ時にシフト・ドラムのシフト溝の設定により変速下段側のクラッチ・リングを第2の噛合い位置に移動させ、変速上段側のクラッチ・リングをそのまま噛合い移動させ、変速上段側と変速下段側とで同時噛合いとする。
なお、クラッチ・ドライバ66は、例えばクラッチ・リング59,61,63を軸方向に移動させるアクチュエータ等とすることも可能である。図1においては、クラッチ・ドライバ66を概念的にのみ示している。
本実施例の第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51は同一構造に形成されている。このため、図2、図3を用い第2の噛合いクラッチ49に関して説明し、第1、第3の噛合いクラッチ47、51に関する説明は省略する。
図2、図3のように、第2の噛合いクラッチ49は、クラッチ・リング61の複数のクラッチ歯49aA及び49bB、及びこれに噛み合う5速ギヤ27の複数のクラッチ歯27aA及び27aBを有している。
本実施例のクラッチ・リング61のクラッチ歯49bA、49bB、及び5速ギヤ27のクラッチ歯27aA、27aBは、周方向所定間隔毎、本実施例では1歯毎に高低を有するように形成されている。この高低は、クラッチ・リング61及び5速ギヤ27の回転軸心方向の高さとなっている。
本実施例では、クラッチ歯49bA、27aAの高さが相対的に高く、クラッチ歯49bB、27aBの高さが、相対的に低く形成され、周方向へ1歯置きに連接されている。
なお、相対的に低いクラッチ歯49bB、27aBを二つ連続して配置するなどのように、相対的に高いクラッチ歯49bA、27aAと相対的に低いクラッチ歯49bB、27aBとを一歯置きに設けなくてもよい。また、クラッチ歯49bA、49bB及び27aA、27aBは、全て同一の高さに形成してもよい。
また、相対的に高いクラッチ歯49bA、27aAは、周方向に相対的に長く、相対的に低いクラッチ歯49bB、27aBは、周方向の相対的に短い。逆に、相対的に高いクラッチ歯49bA、27aAを周方向に相対的に短く、相対的に低いクラッチ歯49bB、27aBを周方向の相対的に長く形成してもよい。また、クラッチ歯49bA、27aA及び49bB、27aBは、周方向に同一長さとしてもよい。
前記クラッチ歯49bA、49bB、27aA、27aBは、メイン・シャフト3の軸心Oに対して螺旋状に形成されている。このため、クラッチ歯49bA、49bBがクラッチ歯27aA、27aBに噛合う時、或は、離脱するとき、両者の噛合いは、ネジのような動作を伴って螺旋ガイドされる。軸心Oに対して螺旋状とは、軸心Oを中心とする螺旋状、軸心Oから螺旋の中心がオフセットされた螺旋状の何れも含み意味である。
さらに説明すると、第2の噛合いクラッチ49のクラッチ歯27aA、49bAの一方として、例えばクラッチ歯49bAの歯先側には、ガイド面97が備えられ、クラッチ歯49bAの歯元側には、噛合い面としてコースト噛合い面99が備えられている。ガイド面97及びコースト噛合い面99は、共にクラッチ歯49bAを螺旋状とするために螺旋面で構成されている。
前記ガイド面97は、前記のように螺旋面であり、且つメイン・シャフト3の軸心Oに対し回転方向に漸次傾斜しコースティングトルクにより他方のクラッチ歯27aAを相対的にガイドしてクラッチ・リング61に噛合い解除方向のスラスト力を発生させる機能を有する。
つまり、変速操作部の動作により変速下段及び変速上段のクラッチ・リング61、63が同時噛合いした時にコースティングトルクにより変速下段のクラッチ・リング61に噛合い解除方向のスラスト力を生じさせるものである。
本実施例において、ガイド面97は回転方向に沿って傾斜形成され、その傾斜角度は、メイン・シャフト3の軸心Oに対し45°以上80°以下に設定されている。但し、ガイド面97の傾斜角度は、変速下段及び変速上段のクラッチ・リング61、63が同時噛合いした時にコースティングトルクにより変速下段のクラッチ・リング61に噛合い解除方向のスラスト力を生じさせるものであればよく、上限を80°を越えて設定することもできる。
ここで「ガイド面97が、回転方向に沿って傾斜形成されている。」とは、前記のように軸心Oに対する傾斜角度が45°以上であることを意味する。傾斜角度45°では、周方向の分力と軸心O方向の分力とが拮抗するが、軸心O方向の分力が上回る傾斜角度45°未満の場合に比較して後述の内部循環トルクの増大を抑制することのできる限界として定義づけることができる。
なお、ガイド面97は、途中から歯先113にかけて傾斜角度を大きくすることもできる。
ガイド面97は、クラッチ・リング61の周方向で歯厚のほぼ全体に形成され、内径側から外径側に向けて螺旋面となっている。
なお、ガイド面97は、螺旋面とすることなく、径方向に沿った面で構成することもできる。
前記コースト噛合い面99は、エンジンブレーキ時に5速ギヤ27のクラッチ歯27aAが係合するものである。コースト噛合い面99は、螺旋面で構成されている。但し、コースト噛合い面99もガイド面97に合わせて径方向に沿った面としてもよい。コースト噛合い面99は、メイン・シャフト3の軸心Oに対する傾斜が前記ガイド面97よりも小さく設定され、メイン・シャフト3の軸心方向に沿って立ち上がっている。
このコースト噛合い面99の傾斜の設定により、エンジンブレーキ時にクラッチ・リング61に働くスラスト力はごく僅かであり、シフト・アームのシフト溝でのガイドなどによりクラッチ歯27a、49bAとを無理なく係合維持させることができる。
コースト噛合い面99の回転軸心方向での高さは、エンジンブレーキ時に他方の5速ギヤ27のクラッチ歯27aAが抜けない範囲においてできるだけ低いのがよい。コースト噛合い面99は、メイン・シャフト3の軸心Oに対する傾斜を零に設定することもできる。
コースト噛合い面99の傾斜角度は、エンジンブレーキ時に他方の5速ギヤ27のクラッチ歯27aAが自律的には抜けない範囲とするか、発生するスラスト力が小さく変速操作部側の例えばシフト溝の設定等で抜けを規制する場合に負担を軽減できればよい。
つまり、「コースト噛合い面99が軸心方向に沿っている」とは、軸心Oに対して45°未満の傾斜角度である状態から軸心Oに対する傾斜角度が零である状態までをいう。 クラッチ歯49bAの回転方向の他側には、ドライブ噛合い面101が形成されている。ドライブ噛合い面101は、ガイド面97及びコースと噛合い面99と共にクラッチ歯49bAを螺旋状とする螺旋面で構成されている。但し、ドライブ噛合い面101もガイド面97に合わせて径方向に沿った面としてもよい。
なお、ドライブ噛合い面101は、軸心Oに対して傾斜角度を持たせることもできる。
クラッチ歯49bAの歯先103は、平坦面やアール面(曲面)で形成している。
高さが相対的に低いクラッチ歯49bBは、クラッチ歯49bAと同様にメイン・シャフト3の軸心Oに対して螺旋状に形成されている。
従って、低いクラッチ歯49bBには、高さの高いクラッチ歯49bAと同様にガイド面105、コースト噛合い面107、ドライブ噛合い面109、歯先111が形成されている。ガイド面105、コースト噛合い面107、ドライブ噛合い面109、及び歯先111は、クラッチ歯49bBの螺旋状をクラッチ歯49bAの螺旋状に合わせた形態とするために螺旋面で構成されている。
前記5速ギヤ27のクラッチ歯27aAは、クラッチ歯49bAに対応して高さが相対的に高く、同クラッチ歯27aBは、クラッチ歯49bBに対応して高さが相対的に低く設定されている。
クラッチ歯27aAには、歯先113、ドライブ噛合い面109、及びコースト噛合い面115が形成されている。クラッチ歯27aBには、歯先123、ドライブ噛合い面125、及びコースト噛合い面127が形成されている。
歯先113、123、ドライブ噛合い面109、125、及びコースト噛合い面115、127は、クラッチ歯27aA、27aBを前記のように螺旋状とするためにメイン・シャフト3の軸心Oに対して螺旋面で形成されている。
ここで、図3では、5速ギア27のクラッチ歯27aAがクラッチ・リング61のクラッチ歯49bBに噛み合っており、コースト噛合い面115がクラッチ歯49bAのコースト噛合い面99に対向している。ただし、5速ギア27のクラッチ歯27aAがクラッチ・リング61のクラッチ歯49bAに噛み合う場合もある。この場合、コースト噛合い面115は、クラッチ歯49bBのコースト噛合い面107に対向する。
以下の説明では、図3のように5速ギア27のクラッチ歯27aAがクラッチ・リング61のクラッチ歯49bBに噛み合う場合においてさらに説明する。
コースト噛合い面115は、歯先113に連続している。歯先113は、周方向に沿った平坦面で形成されている。コースト噛合い面115は、クラッチ歯27aAの高さ方向のほぼ全体に形成されている。コースト噛合い面115は、クラッチ歯49bAのコースト噛合い面99に対応して傾斜角度θ1(図4(A)参照)に設定されている。
クラッチ歯27aAのドライブ噛合い面119は、クラッチ歯49bBのドライブ噛合い面109に対応している。ドライブ噛合い面119は、周方向に平坦な歯先113に連続している。ドライブ噛合い面119は、クラッチ歯27aAの高さ方向のほぼ全体に形成されている。ドライブ噛合い面119は、クラッチ歯49bBのドライブ噛合い面109に対応してメイン・シャフト3の軸心Oに対して傾斜角度零の平坦面で形成されている。歯先113とドライブ噛合い面119との間は、アール面(曲面)121が設定されている。
高さが相対的に低いクラッチ歯29aBには、高さの高いクラッチ歯29aAと同様に、前記のように歯先123に連続するドライブ噛合い面125、コースト噛合い面127が形成され、且つアール面129が形成されている。コースト噛合い面127の傾斜度は、コースト噛合い面99,107と同一である。
図4(A)及び(B)は、クラッチ歯のガイド面等の傾斜及びクラッチ歯の高低を示す展開図である。図4(A)は実施例1を示し、図4(B)は変形例を示す。なお、図4においては、煩雑となるため主な符号のみを付す。図4にない符合は、図3を参照する。
図4(A)のように、コースト噛合い面99の傾斜角度θ1としガイド面97の傾斜角度をθ2とするとθ2>θ1に設定されている。図4(B)の変形例では、コースト噛合い面99の傾斜を零とし、ガイド面97の傾斜角度θ2がθ2>0に設定されている。ただし、ガイド面97の傾斜角度θ2は、上記の通り45°以上であるため、結果としてθ2≧45°となる。
ガイド面105の傾斜角度は、ガイド面97と同一のθ2である。コースト噛合い面107の傾斜角度は、コースト噛合い面99と同一のθ1である。コースト噛合い面107の高さは、コースト噛合い面99の高さH3と同一である。
コースト噛合い面99、115は、傾斜角度θ1の設定により、傾斜はしているが発生する噛合い離脱方向のスラスト力は小さい。このため、コースト噛合い面99、115の傾斜によりクラッチ・リング61に働く噛合い離脱方向のスラスト力を、変速操作部側で受けることによりコースト噛合いを無理なく維持させることができる。
高いクラッチ歯49bA、27aAの回転軸心方向の高さはH1、低いクラッチ歯49bB、27aBの高さはH2(<H1)に設定されている。低いクラッチ歯49bB、27aBの歯先と相手の歯底との間の隙間はhである。
高いクラッチ歯49bA、27aAの回転方向の歯先での歯厚はW1、低いクラッチ歯49bB、27aBの歯先での歯厚はW2(<W1)に設定されている。本実施例において、クラッチ・リング63側の高いクラッチ歯49bAの歯厚W1に対し、5速ギヤ27側の高いクラッチ歯27aA相互の間隔A(A:W1)は、本実施例において3倍弱に設定されている。
低いクラッチ歯49bB、27aBの高さH2は、高いクラッチ歯49bA、27aAの高さH1よりも寸法hだけ低く設定されている。この設定及び歯厚W1、W2の設定によって、前記A:W1の関係を作ることができる。
変速に際しては、変速操作部側での設定等により変速下段側のクラッチ・リング61をコースト噛合い面99がコースト噛合い面115から外れる程度(コースト噛合い面99の高さH3よりも大きく)の第2の噛合い位置に事前に移動させるように構成している。
[変速操作]
図5は、シフト・アップ操作時の6速側のクラッチ・リング63の動作を示し、図6は、同5速側のクラッチ・リング61の動作を示す展開図である。
エンジンからドライブトルクが入力されていると、図4(A)のようにクラッチ・リング61のドライブ噛合い面101、109が、5速ギヤ27のドライブ噛合い面125、119に噛合いドライブトルクの伝達が行われる。この時の噛合いは、クラッチ歯49bA,27aB間、クラッチ歯49bB、27aA間の何れにおいても高さH2で行われる。
シフト・レバーの操作によりシフト・ドラムが回転し、例えば、5速から6速へのシフト・アップ操作が行われると、シフト溝が働き、シフト・アーム、シフト・ロッド、シフト・フォークを介して変速上段側のクラッチ・リング63(図1、図5)が操作される。この操作により変速上段側のクラッチ・リング63が6速ギヤ29側に移動して両者間の噛合いが行われる。
この噛合い時には、図5のように、クラッチ歯51bAのガイド面97の斜面の作用でクラッチ・リング63が6速ギヤ29側に案内され、クラッチ・リング63及び6速ギヤ29間の噛合いを円滑に行わせることができる。
一方、変速下段側のクラッチ・リング61は、変速上段側のクラッチ・リング63の移動に先立って、シフト・レバーの操作に応じ、図6(A)のように、クラッチ・リング61のコースト噛合い面99が5速ギヤ27のコースト噛合い面115から外れる程度の第2の噛合い位置に移動する。
この移動は、上記のようにクラッチ・ドライバ66、例えば変速操作部のシフト溝の形状やアクチュエータによる駆動によって行うことができる。
従って、トランスミッション1では、シフト・アップ動作(又はシフト・ダウン動作)に応じ、同時噛み合いの前に既に5速ギヤ27に噛み合っているクラッチ・リング61を深く噛み合う第1の噛合い位置から浅く噛み合う第2の噛合い位置へと移動させ、クラッチ歯49bA及び49bBのコースト噛合い面99及び107をクラッチ歯27aA及び27aBのコースト噛合い面115及び127から外れさせる。
こうしてクラッチ・リング61が第2噛合い位置に移動した5速ギヤ27側の第2の噛合いクラッチ49と噛合いを行った6速ギヤ29側の第3の噛合いクラッチ51とが同時噛合い状態となる。
このとき、エンジン出力トルクの如何に係らず同時噛合いによる機構的必然による内部循環トルクにより5速側にはコースティングトルク、6速側にはドライブトルクが働く。
そして、5速側では、図6(B)のように、コースティングトルクにより、クラッチ・リング61のクラッチ歯49bAのガイド面97が5速ギヤ27のクラッチ歯27aAのコースト噛合い面115の歯先側部分に押し付けられる。
このため、ガイド面97の斜面の作用で5速位置にあるクラッチ・リング61に対し噛合い解除(ニュートラル)方向のスラスト力を発生させ、クラッチ・リング61は5速位置から解除位置に移動する。なお、本実施例では、クラッチ歯49bA及び49bBに高低差があるため、相対的に高いクラッチ歯49bAのガイド面97のみが噛合い解除方向のスラスト力の発生に寄与している。
このとき、ガイド面97は、コースト噛合い面99よりも傾斜が大きく45°以上であるため、斜面方向の分力を大きくすることができ、クラッチ歯49bA、27aA間の噛合い離脱動作において、クラッチ・リング61の5速ギヤ27に対する相対回転を許容する。
この同時噛合いの離脱動作におけるクラッチ・リング61の5速ギヤ27に対する相対回転の許容により同時噛合いによる内部循環トルクの増大を規制する。
同時噛合いの離脱動作における相対回転は、クラッチ歯49bA、27aAが各面の螺旋面の設定により螺旋状に形成されてネジのよう動作を伴って螺旋ガイドされるから、前記内部循環トルク増大の規制動作を無理なく行わせることができる。但し、ガイド面97が45°以上の斜面である限り、クラッチ歯49bA、27aAが螺旋状に形成されなくても内部循環トルク増大の規制動作を行わせることはできる。
そして、5速ギヤ27に対するクラッチ・リング61の離脱は、噛合っているクラッチ歯49bA、27aAが外れる動作を行うときに、内部循環トルクの増大が抑制された状態で相互の噛合い面の圧接を極力小さくしながら軸心O方向に相対的にずれて行く。
しかも、クラッチ・リング61の軸心O方向の移動速度は、ガイド面97の周方向に沿った傾斜により小さくなる。
最終的に噛合いの端末でクラッチ歯49bA、27aAが静かに外れて同時噛合いが解放されるという挙動のため、変速ショック及び異音を極めて小さくすることができる。
つまり、本実施例では、5速ギヤ27及び6速ギヤ29が同時噛合い状態となると、直ちにクラッチ・リング61が図6(B)の状態となってガイド面97の作用による5速ギヤ27からの噛合い解除が行われる。
このため、同時噛合いによる内部循環トルクが大きくなる前に、クラッチ・リング61を5速ギヤ27から噛合い解除させることができ、噛合い解除される際の変速ショックや異音が抑制される。
さらに、クラッチ・リング61の移動がガイド面97でガイドされるとき、ガイド面97が螺旋面であることにより、一定の傾斜角度θ2を維持することでクラッチ・リング61と5速ギヤ27との噛合い解除を一定速度で安定して行わせることができる。従って、本実施例では、より確実に変速ショックや異音が抑制される。
なお、ガイド面97の傾斜角度を途中から歯先113にかけて大きくした場合には、クラッチ・リング61の軸心O方向の移動速度を途中からさらに抑制でき、より滑らかに離脱動作を行わせ、変速ショックや異音を抑制することができる。
かかる下段側の解除及び上段側の噛合いにより、5速から6速へのシフト・アップが終了する。
なお、シフト・アップ時の変速上段側のクラッチ歯の噛合いの容易さは、図5のように、ガイド面97の斜面のガイドによって実現できているが、クラッチ歯相互の周方向の間隔の大きさにも依存する。本実施例では、高さの高いクラッチ歯29aA相互の広い間隔で高いクラッチ歯51bAを高いクラッチ歯29aA側に噛合わせることもできる。
従って、相対回転の大きいときにおいても、レバー操作により、高いクラッチ歯49bA、27aA相互が確実に噛合いを開始する。高いクラッチ歯49bA、27aA相互が噛み合うと、相対回転がなくなるため、確実に結合させることができる。
走行時にエンジンブレーキが働くと、5速ギヤ27にコースティングトルクが働き、コースト噛合い面99にコースト噛合い面115が噛合う。この噛合いによりエンジンブレーキを働かせることができる。エンジンブレーキは、ドライブトルクに比べて小さいため、ドライブ噛合い面101、125、109、119での高さH2に比較して低い高さH3の噛合いであっても問題はない。
また、クラッチ・リング61の高いクラッチ歯49bAのドライブ噛合い面101が5速ギヤ27の高いクラッチ歯27aAのドライブ噛合い面119に噛合う噛合い状態であるとき、エンジンブレーキが働くと、コースト噛合い面107にコースト噛合い面127が噛合うことになる。この場合高さH3の噛合いよりも噛合い代は減少するが、エンジンブレーキ時のコースティングトルクを受けるのに十分な噛合いとなっている。
その他の変速段におけるシフト・アップも同様に行わせることができる。
減速時は加速時のような、シームレスシフトの必要性は無い。減速は主にブレーキにより受け持たれ、エンジンからの出力は基本的に関係しないから、エンジンからの駆動トルクやエンジンブレーキトルクが途切れても問題ないためである。
このため、通常のマニアルトランスミッションと同じように、まず変速上段の5速位置にあるクラッチ・リング63をニュートラルに移動させて動力を遮断し、次にクラッチ・リング61を5速ギヤ27に噛み合わせることでシフト・ダウンする。
シフト・アップとシフト・ダウンで、噛合い移行の形態が異なることは、ドラム溝の設定により実現できる。
なお、クラッチ・リング59,61,63は、同時噛合い時に第2の噛合い位置において噛合い解除方向のスラスト力が働けば良く、変速ギヤが2速以上はなれて両サイドにそれぞれ配置される必要はない。
また、ガイド面等の構造は、クラッチ・リングと変速ギヤとで実施例とは逆に形成することもできる。
さらに、シームレスシフトの上記構造を減速側にも設けることができる。
[実施例1の効果]
本実施例のトランスミッション1は、例えば、代表的にクラッチ・リング61及び5速ギヤ27が、回転方向に噛合うクラッチ歯49bA、49bB、27aA、27aBを備え、クラッチ歯の一方49bA、49bBの歯先側に、メイン・シャフト3又はカウンター・シャフト5の軸心Oに対し漸次傾斜しコースティングトルクにより他方のクラッチ歯27aA及び27aBをガイドして噛合い解除方向のスラスト力を発生させるガイド面97及び105を備え、クラッチ歯の一方49bA、49bBの歯元側に、エンジンブレーキ時に他方のクラッチ歯27aA及び27aBが係合する軸心Oに対する傾斜がガイド面97及び105よりも小さいコースト噛合い面99、107を備えた。
そして、ガイド面97及び105の傾斜は、回転方向に沿っており、例えば45°以上80°以下に設定され、コースト噛合い面99、107の傾斜は、45°を下回るように設定され、下限は零である。
従って、本実施例では、変速上段側及び変速下段側の同時噛合いから変速完了に至るとき、クラッチ歯49bAのガイド面97によりクラッチ歯27aAを相対的にガイドして噛合い解除方向のスラスト力を発生させる。
このため、例えば5速ギヤ27に対するクラッチ・リング61の離脱は、噛合っているクラッチ歯49bA、27aAが外れるときに、内部循環トルクの増大が抑制された状態で相互の噛合い面の圧接を極力小さくしながら軸心O方向に相対的にずれて行き、最終的に噛合いの端末でクラッチ歯が静かに外れて同時噛合いが解放されるという挙動のため、変速ショック及び異音を極めて小さくすることができる。
エンジンブレーキ時には、例えばコースト噛合い面99にコースト噛合い面115を噛合わせることができ、エンジンブレーキを有効に働かせることができる。
しかも、クラッチ歯49bA、27aAが各面の螺旋面の設定により螺旋状に形成されてネジのよう動作を伴って螺旋ガイドされるから、前記内部循環トルク増大の規制動作を滑らかに無理なく行わせることができる。
クラッチ・リング61の移動がガイド面97及び105でガイドされるときは、ガイド面97及び105が傾斜度が一定した螺旋面であることにより、クラッチ・リング61と5速ギヤ27との噛合い解除を一定速度で安定して行わせることができる。
従って、本実施例では、より確実に変速ショックや異音が抑制される。
また、本実施例のトランスミッション1は、シフト・アップ動作(又はシフト・ダウン動作)に応じ、同時噛み合いの前に既に5速ギヤ27に噛み合っているクラッチ・リング61を深く噛み合う第1の噛合い位置から浅く噛み合う第2の噛合い位置へと移動させ、クラッチ歯の一方49bA、49bBのコースト噛合い面99及び107をクラッチ歯の他方27aA及び27aBのコースト噛合い面115及び127から外れさせる構造としている。
従って、変速下段側及び上段側の同時噛合い状態となると、直ちにガイド面97及び105によって変速下段側(又は上段側)のクラッチ・リング61の噛合いの解除が行われる。
かかる点においても同時噛合いによる内部循環トルクが大きくなる前に、変速下段側のクラッチ・リング61を噛合い解除させることができ、噛合い解除時の変速ショックや異音を抑制できる。同時に、トランスミッション1は、内部循環トルクによる負荷を軽減することができるため、耐久性を向上することができる。
なお、5速ギヤ27及び6速ギヤ29間のシフト・アップ動作において効果を説明したが、他の変速段におけるシフト・アップ動作においても、同一の効果が得られる。
クラッチ歯は、高い低いの設定をせず、全てクラッチ歯49bA、27aAの組み合わせにすることもできる。この場合でも、変速時の内部循環トルクの増大を抑制でき、且つガイド面97の傾斜により噛合い動作を円滑に行わせることができる。
コースト噛合い面は必ずしも必要はなく、エンジンブレーキ時等のコースト噛合い状態を変速操作部側の設定で維持させることもできる。他の実施例でも同様である。