以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
<車両の駆動系>
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。
エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン2には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。エンジン2の動力は、トルクコンバータ3および変速機4を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介してそれぞれ左右の駆動輪7L,7Rに伝達される。
エンジン2は、E/G出力軸11を備えている。E/G出力軸11は、エンジン2が発生する動力により回転される。
トルクコンバータ3は、フロントカバー21、ポンプインペラ22、タービンランナ23およびロックアップ機構24を備えている。フロントカバー21には、E/G出力軸11が接続され、フロントカバー21は、E/G出力軸11と一体に回転する。ポンプインペラ22は、フロントカバー21に対するエンジン2側と反対側に配置されている。ポンプインペラ22は、フロントカバー21と一体回転可能に設けられている。タービンランナ23は、フロントカバー21とポンプインペラ22との間に配置されて、フロントカバー21と共通の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。
ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25を備えている。ロックアップピストン25は、フロントカバー21とタービンランナ23との間に設けられている。ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25とフロントカバー21との間の解放油室26の油圧とロックアップピストン25とポンプインペラ22との間の係合油室27の油圧との差圧により、ロックアップオン(係合)/オフ(解放)される。すなわち、解放油室26の油圧が係合油室27の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21から離間し、ロックアップオフとなる。係合油室27の油圧が解放油室26の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21に押し付けられて、ロックアップオンとなる。
ロックアップオフの状態では、E/G出力軸11が回転されると、ポンプインペラ22が回転する。ポンプインペラ22が回転すると、ポンプインペラ22からタービンランナ23に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ23で受けられて、タービンランナ23が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ23には、E/G出力軸11のトルクよりも大きなトルクが発生する。
ロックアップオンの状態では、E/G出力軸11が回転されると、E/G出力軸11、ポンプインペラ22およびタービンランナ23が一体となって回転する。
変速機4は、インプット軸31およびアウトプット軸32を備え、インプット軸31に入力される動力を2つの経路に分岐してアウトプット軸32に伝達可能に構成された、いわゆる動力分割式(トルクスプリット式)変速機である。2つの動力伝達経路を構成するため、変速機4は、無段変速機構33、前減速ギヤ機構34、遊星歯車機構35およびスプリット変速機構36を備えている。
インプット軸31は、トルクコンバータ3のタービンランナ23に連結され、タービンランナ23と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
アウトプット軸32は、インプット軸31と平行に設けられている。アウトプット軸32には、出力ギヤ37が相対回転不能に支持されている。出力ギヤ37は、デファレンシャルギヤ5(デファレンシャルギヤ5のリングギヤ)と噛合している。
無段変速機構33は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成を有している。具体的には、無段変速機構33は、プライマリ軸41と、プライマリ軸41と平行に設けられたセカンダリ軸42と、プライマリ軸41に相対回転不能に支持されたプライマリプーリ43と、セカンダリ軸42に相対回転不能に支持されたセカンダリプーリ44と、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とに巻き掛けられたベルト45とを備えている。
プライマリプーリ43は、プライマリ軸41に固定された固定シーブ51と、固定シーブ51にベルト45を挟んで対向配置され、プライマリ軸41にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ52とを備えている。可動シーブ52に対して固定シーブ51と反対側には、プライマリ軸41に固定されたシリンダ53が設けられ、可動シーブ52とシリンダ53との間に、油圧室54が形成されている。
セカンダリプーリ44は、セカンダリ軸42に固定された固定シーブ55と、固定シーブ55にベルト45を挟んで対向配置され、セカンダリ軸42にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ56とを備えている。可動シーブ56に対して固定シーブ55と反対側には、セカンダリ軸42に固定されたシリンダ57が設けられ、可動シーブ56とシリンダ57との間に、油圧室58が形成されている。回転軸線方向において、固定シーブ55と可動シーブ56との位置関係は、プライマリプーリ43の固定シーブ51と可動シーブ52との位置関係と逆転している。
無段変速機構33では、プライマリプーリ43の油圧室54およびセカンダリプーリ44の油圧室58に供給される油圧がそれぞれ制御されて、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の各溝幅が変更されることにより、変速比(プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比)が連続的に無段階で変更される。
具体的には、変速比が小さくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が上げられる。これにより、プライマリプーリ43の可動シーブ52が固定シーブ51側に移動し、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔(溝幅)が小さくなる。これに伴い、プライマリプーリ43に対するベルト45の巻きかけ径が大きくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔(溝幅)が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が小さくなる。
変速比が大きくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が下げられる。これにより、セカンダリプーリ44の推力(セカンダリ推力)に対するプライマリプーリ43の推力(プライマリ推力)の比である推力比が小さくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔が小さくなるとともに、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が大きくなる。
一方、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の推力は、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44とベルト45との間で滑り(ベルト滑り)が生じない大きさを必要とする。そのため、ベルト滑りを生じない必要十分な挟圧が得られるよう、プライマリプーリ43の油圧室54およびセカンダリプーリ44の油圧室58に供給される油圧が制御される。
前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に入力される動力を逆転かつ減速させてプライマリ軸41に伝達する構成である。具体的には、前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に相対回転不能に支持されるインプット軸ギヤ61と、インプット軸ギヤ61よりも大径で歯数が多く、プライマリ軸41にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されて、インプット軸ギヤ61と噛合するプライマリ軸ギヤ62とを含む。
遊星歯車機構35は、サンギヤ71、キャリヤ72およびリングギヤ73を備えている。サンギヤ71は、セカンダリ軸42にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。キャリヤ72は、アウトプット軸32に相対回転可能に外嵌されている。キャリヤ72は、複数個のピニオンギヤ74を回転可能に支持している。複数個のピニオンギヤ74は、円周上に配置され、サンギヤ71と噛合している。リングギヤ73は、複数個のピニオンギヤ74を一括して取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ74にセカンダリ軸42の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ73には、アウトプット軸32が接続され、リングギヤ73は、アウトプット軸32と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
スプリット変速機構36は、スプリットドライブギヤ81と、スプリットドライブギヤ81と噛合するスプリットドリブンギヤ82とを含む平行軸式歯車機構である。
スプリットドライブギヤ81は、インプット軸31に相対回転可能に外嵌されている。
スプリットドリブンギヤ82は、遊星歯車機構35のキャリヤ72と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。スプリットドリブンギヤ82は、スプリットドライブギヤ81よりも小径に形成され、スプリットドライブギヤ81よりも少ない歯数を有している。
また、変速機4は、クラッチC1,C2およびブレーキB1を備えている。
クラッチC1は、油圧により、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
クラッチC2は、油圧により、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
ブレーキB1は、油圧により、遊星歯車機構35のキャリヤ72を制動する係合状態と、キャリヤ72の回転を許容する解放状態とに切り替えられる。
<動力伝達モード>
図2は、車両1の前進時および後進時におけるクラッチC1,C2およびブレーキB1の状態を示す図である。図3は、遊星歯車機構35のサンギヤ71、キャリヤ72およびリングギヤ73の回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。図4は、無段変速機構33によるベルト変速比(プーリ比)と変速機4の全体での減速比(ユニット変速比)との関係を示す図である。
図2において、「○」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が係合状態であることを示している。「×」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が解放状態であることを示している。
車両1の車室内には、運転者が操作可能な位置に、シフトレバー(セレクトレバー)が配設されている。シフトレバーの可動範囲には、たとえば、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、D(ドライブ)ポジション、S(スポーツ)ポジションおよびB(ブレーキ)ポジションがこの順に一列に並べて設けられている。
シフトレバーがPポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2およびブレーキB1のすべてが解放され、パーキングロックギヤ(図示せず)が固定されることにより、変速機4の変速レンジの1つであるPレンジが構成される。また、シフトレバーがNポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2およびブレーキB1のすべてが解放されて、パーキングロックギヤが固定されないことにより、変速機4の変速レンジの1つであるNレンジが構成される。クラッチC1およびブレーキB1の両方が解放された状態では、エンジン2の動力がセカンダリ軸42まで伝達されて、セカンダリ軸42が回転するが、遊星歯車機構35のサンギヤ71およびピニオンギヤ74が空転し、エンジン2の動力は駆動輪7L,7Rに伝達されない。
シフトレバーがDポジション、SポジションまたはBポジションに位置する状態では、変速機4の変速レンジの1つである前進レンジが構成される。この前進レンジでの動力伝達モードには、ベルトモードおよびスプリットモードが含まれる。ベルトモードとスプリットモードとは、クラッチC1が係合している状態とクラッチC2が係合している状態との切り替え(クラッチC1,C2の掛け替え)により切り替えられる。
ベルトモードでは、図2に示されるように、クラッチC1およびブレーキB1が解放され、クラッチC2が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72がフリー(自由回転状態)になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結される。
インプット軸31に入力される動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、無段変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41およびプライマリプーリ43を回転させる。プライマリプーリ43の回転は、ベルト45を介して、セカンダリプーリ44に伝達され、セカンダリプーリ44およびセカンダリ軸42を回転させる。遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結されているので、セカンダリ軸42と一体となって、サンギヤ71、リングギヤ73およびアウトプット軸32が回転する。したがって、ベルトモードでは、図3および図4に示されるように、変速機4の減速比(ユニット変速比)が無段変速機構33のベルト変速比(プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比)に前減速比(インプット軸31の回転数/プライマリ軸41の回転数)を乗じた値と一致する。
スプリットモードでは、図2に示されるように、クラッチC1が係合され、クラッチC2およびブレーキB1が解放される。これにより、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とが結合されて、インプット軸31の回転がスプリットドライブギヤ81およびスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に伝達可能になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離される。
インプット軸31に入力される動力は、スプリットドライブギヤ81からスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に増速されて伝達される。キャリヤ72に伝達される動力は、キャリヤ72からサンギヤ71およびリングギヤ73に分割して伝達される。サンギヤ71の動力は、セカンダリ軸42、セカンダリプーリ44、ベルト45、プライマリプーリ43およびプライマリ軸41を介してプライマリ軸ギヤ62に伝達され、プライマリ軸ギヤ62からインプット軸ギヤ61に伝達される。そのため、ベルトモードでは、インプット軸ギヤ61が駆動ギヤとなり、プライマリ軸ギヤ62が被動ギヤとなるのに対し、スプリットモードでは、プライマリ軸ギヤ62が駆動ギヤとなり、インプット軸ギヤ61が被動ギヤとなる。
スプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比は一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、インプット軸31に入力される動力が一定であれば、遊星歯車機構35のキャリヤ72の回転が一定速度に保持される。そのため、変速比が上げられると、遊星歯車機構35のサンギヤ71の回転数が下がるので、図3に破線で示されるように、遊星歯車機構35のリングギヤ73(アウトプット軸32)の回転数が上がる。その結果、スプリットモードでは、図4に示されるように、無段変速機構33のベルト変速比が大きいほど、変速機4の減速比が小さくなり、ベルト変速比に対する減速比の感度(ベルト変速比の変化量に対する減速比の変化量の割合)がベルトモードと比べて低い。
ベルトモードおよびスプリットモードにおけるアウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6Rおよび駆動輪7L,7Rが前進方向に回転する。
なお、シフトレバーがDポジション、SポジションまたはBポジションのいずれに位置する状態であっても、前進レンジでは、変速比を自動的かつ連続的に無段階で変化させる変速制御が行われる。ただし、シフトレバーがSポジションに位置する状態(Sレンジ)では、シフトレバーがDポジションに位置する状態(Dレンジ)と比較して、エンジン回転数が高めに維持されるように変速比が変更される。これにより、Sレンジでは、Dレンジと比較して、運転者がスポーティな走行を楽しむことができ、また、減速時に強いエンジンブレーキが得られる。シフトレバーがBポジションに位置する状態(Bレンジ)では、Sレンジよりもエンジン回転数がさらに高めに維持されるように変速比が変更され、減速時にSレンジよりもさらに強いエンジンブレーキが得られる。
シフトレバーがRポジションに位置する状態では、変速機4の変速レンジの1つである後進レンジが構成される。後進レンジでは、図2に示されるように、クラッチC1,C2が解放され、ブレーキB1が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動される。
インプット軸31に入力される動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、無段変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41からプライマリプーリ43、ベルト45およびセカンダリプーリ44を介してセカンダリ軸42に伝達され、セカンダリ軸42と一体に、遊星歯車機構35のサンギヤ71を回転させる。遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動されているので、サンギヤ71が回転すると、遊星歯車機構35のリングギヤ73がサンギヤ71と逆方向に回転する。このリングギヤ73の回転方向は、前進時(ベルトモードおよびスプリットモード)におけるリングギヤ73の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ73と一体に、アウトプット軸32が回転する。アウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6Rおよび駆動輪7L,7Rが後進方向に回転する。
<車両の制御系>
図5は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)を含む構成のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)91が備えられている。図5には、1つのECU91のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、ECU91と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU91を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
ECU91は、エンジン2の始動、停止および出力調整などのため、エンジン2に設けられた電子スロットルバルブ、インジェクタおよび点火プラグなどを制御する。また、トルクコンバータ3のロックアップ制御および変速機4の変速制御などのため、トルクコンバータ3および変速機4を含むユニットの各部に油圧を供給するための油圧回路92に含まれる各種のバルブを制御する。
ECU91には、制御に必要な各種のセンサが接続されており、それらのセンサから検出信号が入力される。ECU91に接続されているセンサには、たとえば、アウトプット軸32の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するアウトプット回転センサ93と、セカンダリ軸42の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するセカンダリ回転センサ94と、SL2ソレノイドバルブ104(図6参照)に供給される電流を検出するSL2電流センサ95と、シフトレバーのポジションに応じた検出信号(レンジ接点信号)を出力するシフトポジションセンサ96とが含まれる。
<油圧回路>
図6は、油圧回路92の構成を示す回路図である。
油圧回路92には、マニュアルバルブ101、リレーバルブ102、SL1ソレノイドバルブ103、SL2ソレノイドバルブ104、SRスイッチバルブ105、C1カットバルブ106、C2カットバルブ107、フェイルセーフバルブ108およびSLPソレノイドバルブ109が含まれる。
マニュアルバルブ101は、シフトレバーのポジションに対応して油圧を出力するバルブである。
リレーバルブ102は、マニュアルバルブ101から選択的に出力されるD圧およびR圧をSL1ソレノイドバルブ103に供給し、SL1ソレノイドバルブ103から出力されるSL1圧の出力先をクラッチC1とブレーキB1とに切り替えるためのバルブである。マニュアルバルブ101には、クラッチ元圧が入力され、D圧およびR圧は、そのクラッチ元圧である。
SL1ソレノイドバルブ103は、ノーマルクローズタイプのリニアソレノイドバルブである。SL1ソレノイドバルブ103は、電磁コイルへの通電が制御されることにより、リレーバルブ102から入力されるクラッチ元圧の調圧により得られるSL1圧(制御圧)を出力する。
SL2ソレノイドバルブ104は、ノーマルクローズタイプのリニアソレノイドバルブである。SL2ソレノイドバルブ104には、マニュアルバルブ101からD圧が入力される。SL2ソレノイドバルブ104は、電磁コイルへの通電が制御されることにより、クラッチ元圧であるD圧の調圧により得られるSL2圧(制御圧)を出力する。
SRスイッチバルブ105は、ノーマルクローズタイプのオン/オフソレノイドバルブである。SRスイッチバルブ105は、電磁コイルへの通電によりオン(開成)し、電磁コイルへの通電の遮断によりオフ(閉成)する。
C1カットバルブ106は、スプールの位置がC1位置(過渡位置)とC2位置とに切り替わるバルブである。
C2カットバルブ107は、スプールの位置がC1位置とC2位置(過渡位置)とに切り替わるバルブである。
フェイルセーフバルブ108は、スプールの位置が通常位置(P,N,D,R過渡位置)とフェイル位置(R位置)とに切り替わるバルブである。
SRスイッチバルブ105がオンの状態では、SRスイッチバルブ105から出力される油圧がC1カットバルブ106およびC2カットバルブ107に入力される。これにより、C1カットバルブ106は、スプールの位置がC1位置となり、C2カットバルブ107は、スプールの位置がC2位置となる。この状態では、SL1ソレノイドバルブ103から出力されるSL1圧がC2カットバルブ107を経由してC1カットバルブ106に入力され、そのSL1圧がC1カットバルブ106からクラッチC1に供給される。また、SL2ソレノイドバルブ104から出力されるSL2圧がC2カットバルブ107を経由してC1カットバルブ106に入力され、そのSL2圧がC1カットバルブ106からクラッチC2に供給される。したがって、SL1ソレノイドバルブ103およびSL2ソレノイドバルブ104への通電を制御して、SL1圧およびSL2圧を増減させることにより、クラッチC1,C2に供給される油圧を増減させることができ、クラッチC1,C2の係合/解放を切り替えることができる。
また、SRスイッチバルブ105がオンの状態では、SRスイッチバルブ105から出力される油圧がフェイルセーフバルブ108に入力される。これにより、フェイルセーフバルブ108は、スプールの位置がフェイル位置となる。そのため、マニュアルバルブ101からR圧が出力されるときには、R圧がフェイルセーフバルブ108に入力され、フェイルセーフバルブ108からブレーキB1にR圧が供給される。これにより、ブレーキB1が係合する。
クラッチC1がSL1圧によって係合し、クラッチC2が解放されている状態で、SRスイッチバルブ105がオフされた場合には、C2カットバルブ107のスプールがC2位置からC1位置に移動する。一方、C1カットバルブ106のスプールは、C1カットバルブ106に内蔵されているスプリングの付勢力により、C1位置に保持される。これにより、マニュアルバルブ101から出力されるD圧がC2カットバルブ107に入力され、そのD圧がC2カットバルブ107からC1カットバルブ106に入力され、C1カットバルブ106からクラッチC1にD圧が供給される。そのため、SL1ソレノイドバルブ103からのSL1圧の出力が停止されても、クラッチC1の係合状態が保持される。
クラッチC2がSL2圧によって係合し、クラッチC1が解放されている状態で、SRスイッチバルブ105がオフされた場合には、C2カットバルブ107に内蔵されているスプリングの付勢力により、C2カットバルブ107のスプールがC2位置に保持される。一方、C1カットバルブ106のスプールは、SL2圧により、C1位置からC2位置に移動する。これにより、マニュアルバルブ101から出力されるD圧がC2カットバルブ107内を通らずにC1カットバルブ106に入力され、C1カットバルブ106からクラッチC2にD圧が供給される。そのため、SL2ソレノイドバルブ104からのSL2圧の出力が停止されても、クラッチC2の係合状態が保持される。
また、SRスイッチバルブ105がオフの状態では、フェイルセーフバルブ108のスプールの位置が通常位置となる。そのため、マニュアルバルブ101からR圧が出力されるときには、リレーバルブ102を経由してSL1ソレノイドバルブ103に入力され、SL1ソレノイドバルブ103からのSL1圧がリレーバルブ102を経由してフェイルセーフバルブ108に入力され、フェイルセーフバルブ108からブレーキB1にSL1圧が供給される。これにより、ブレーキB1が係合する。
SLPソレノイドバルブ109は、たとえば、ノーマルオープンタイプのリニアソレノイドバルブである。SRスイッチバルブ105がオンであり、フェイルセーフバルブ108のスプールの位置がフェイル位置である状態において、SLPソレノイドバルブ109から出力される油圧がフェイルセーフバルブ108に入力されると、その油圧がフェイルセーフバルブ108からC1カットバルブ106に入力される。これにより、C1カットバルブ106にSL2圧が入力されていなくても、C1カットバルブ106のスプールがC2位置に保持され、C1カットバルブ106からクラッチC2にD圧が供給されて、クラッチC2が係合する。
<フェイル処理>
図7Aおよび図7Bは、フェイル処理の流れを示すフローチャートである。
変速機4では、たとえば、SL2ソレノイドバルブ104またはSRスイッチバルブ105に故障が発生すると、クラッチC2の係合が異常(係合不良)となり、クラッチC2の滑りが発生するおそれがある。
そこで、車両1の走行中、ECU91により、フェイル処理が繰り返し実行される。フェイル処理では、まず、ECU91によりクラッチC2を定常的に係合させる定常係合制御が行われている状態、つまりクラッチC2に供給されるPL2圧の指示値が最大値に設定される制御状態またはSRスイッチバルブ105をオフにする制御状態であるときに、クラッチC2が解放しているか否かが判定される(S11)。たとえば、クラッチC2に生じている差回転が閾値以上である場合、クラッチC2が解放し、クラッチC2に滑りが発生していると判定される。クラッチC2に生じる差回転は、アウトプット軸32の回転とセカンダリ軸42の回転との差である。ECU91では、アウトプット回転センサ93の検出信号からアウトプット軸32の回転数が算出され、セカンダリ回転センサ94の検出信号からセカンダリ軸42の回転数が算出される。
クラッチC2が解放していないと判定される場合(ステップS11のNO)、つまりクラッチC2が係合している場合は、フェイル処理は次に進まず、クラッチC2が解放しているか否かが繰り返し判定される。
クラッチC2が解放していると判定された場合(ステップS11のYES)、クラッチC2を再係合させる再係合制御が開始される(ステップS12)。再係合制御では、SRスイッチバルブ105がオンにされて、SL2ソレノイドバルブ104への通電が制御されることにより、係合過渡制御および定常係合制御がこの順に続けて行われる。係合過渡制御では、クラッチC2に供給されるPL2圧の指示値が最小値(たとえば、0)から最大値まで漸増される。定常係合制御では、前述したように、クラッチC2に供給されるPL2圧の指示値が最大値に設定される。
再係合制御中もクラッチC2の係合/解放が繰り返し判定されており、係合過渡制御中にクラッチC2の係合が判定された場合には(ステップS13のYES)、自己保持制御が開始される(ステップS14)。自己保持制御では、SRスイッチバルブ105がオフにされて、クラッチC2に供給されるPL2圧の指示値が最大値に設定される。これにより、SRスイッチバルブ105が正常にオフになれば、C1カットバルブ106からクラッチC2にD圧が供給される。一方、SRスイッチバルブ105がオンで固着する故障が発生している場合には、SL2ソレノイドバルブ104から出力される最大のPL2圧がクラッチC2に供給される。
その後、公知の演算方法により、クラッチC2に入力される入力トルクと、最大のPL2圧が供給されている状態でのクラッチC2の伝達トルク容量とが算出され、その入力トルクが伝達トルク容量よりも大きいか否かが判定される(図7BのステップS15)。
クラッチC2の入力トルクが伝達トルク容量よりも大きい場合(ステップS15のYES)、自己保持制御中にクラッチC2が解放したか否かが判定される(ステップS16)。
クラッチC2の入力トルクが伝達トルク容量を超えているにもかかわらず、クラッチC2が係合している場合(ステップS16のNO)、SRスイッチバルブ105が正常にオフになり、C1カットバルブ106からクラッチC2にD圧が供給されているので、クラッチC2の係合が保持されていると考えられる。この場合、C1カットバルブ106およびC2カットバルブ107で構成される自己保持バルブによるクラッチC2の係合保持機能が正常であると判定されて(ステップS17)、フェイル処理が終了される。
クラッチC2の入力トルクが伝達トルク容量を超えている状態でクラッチC2が解放した場合には(ステップS16のYES)、SRスイッチバルブ105がオンで固着する故障が発生しているために、自己保持バルブによるクラッチC2の係合保持機能が損失していると判定される(ステップS18)。この場合、フェイルセーフ制御として、エンジン2のトルクを低減させるエンジントルクダウン制御が開始されて(ステップS19)、フェイル処理が終了される。エンジントルクダウン制御では、クラッチC2の入力トルクが伝達トルク容量を超えないように、エンジントルクが抑えられる。
クラッチC2の入力トルクが伝達トルク容量を超えていない状況においても(ステップS15のNO)、自己保持制御中にクラッチC2が解放したか否かが判定される(ステップS21)。クラッチC2が係合している場合(ステップS21のNO)、クラッチC2の入力トルクが伝達トルク容量よりも大きいか否かが再び判定される(ステップS15)。
クラッチC2の入力トルクが伝達トルク容量を超えていないにもかかわらず、クラッチC2が解放したと判定された場合(ステップS21のYES)、SL2ソレノイドバルブ104の故障が発生しているために、SL2ソレノイドバルブ104から出力されるSL2圧によるクラッチC2の係合機能が損失していると判定される(ステップS22)。この場合、フェイルセーフ制御として、SRスイッチバルブ105がオンされて、フェイルセーフバルブ108のスプールの位置がフェイル位置である状態において、SLPソレノイドバルブ109から出力される油圧がフェイルセーフバルブ108に入力される。その結果、前述したように、C1カットバルブ106のスプールがC2位置に保持され、C1カットバルブ106からクラッチC2にD圧が供給されて、クラッチC2が係合する。フェイルセーフ制御の開始後、フェイル処理が終了される。
一方、再係合制御が行われても、クラッチC2の係合が判定されない場合には(ステップS13のNO)、SL2ソレノイドバルブ104の故障が発生しているために、SL2ソレノイドバルブ104から出力されるSL2圧によるクラッチC2の係合機能が損失していると判定される(ステップS22)。この場合にも、フェイルセーフ制御が開始され、SRスイッチバルブ105がオンされて、SLPソレノイドバルブ109から出力される油圧がフェイルセーフバルブ108に入力される(ステップS23)。フェイルセーフ制御の開始後、フェイル処理が終了される。
<作用効果>
以上のように、SRスイッチバルブ105がオンの状態では、SL2ソレノイドバルブ104から出力されるSL2圧がクラッチC2に供給される。そのため、SL2ソレノイドバルブ104から出力されるSL2圧の制御により、クラッチC2を係合させることができる。クラッチC2が係合した状態でSRスイッチバルブ105がオンからオフに切り替えられると、C1カットバルブ106およびC2カットバルブ107で構成される自己保持バルブが自己保持状態となり、SL2ソレノイドバルブ104を経由しないD圧がクラッチC2に供給されることにより、クラッチC2の係合状態が保持される。
クラッチC2を定常的に係合させる定常係合制御状態において、クラッチC2の係合の異常(滑り)が判定された場合、再係合制御が行われて、SRスイッチバルブ105がオンにされ、SL2ソレノイドバルブ104からクラッチC2を係合させるSL2圧が出力される。
再係合制御中にクラッチC2が係合した場合には、SL2ソレノイドバルブ104の出力による係合機能は正常であり、自己保持バルブの出力による係合保持機能が損失している可能性があると判断できる。この場合、フェイルセーフ制御により、SRスイッチバルブ105がオフにされて、SL2ソレノイドバルブ104から最大圧が出力される。これにより、クラッチC2に入力されるトルクがクラッチC2の伝達トルク以下であれば、クラッチC2の係合が維持されて、変速機4から車両1を走行させる動力が出力される。その結果、車両1の走行性能を確保することができる。
一方、再係合制御によりクラッチC2が係合しない場合には、SL2ソレノイドバルブ104の出力による係合機能が損失している可能性があると判断できる。この場合、フェイルセーフ制御により、フェイルセーフバルブから自己保持バルブに油圧が供給されて、自己保持バルブが自己保持状態にされ、SL2ソレノイドバルブ104を経由しない油圧がクラッチC2に供給される。これにより、クラッチC2が係合し、変速機4から車両を走行させる動力が出力される。その結果、車両1の走行性能を確保することができる。
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
たとえば、前述の実施形態では、単一のECU91により、エンジン2ならびにトルクコンバータ3およびCVT4の油圧回路92が制御されるとしたが、エンジン2と油圧回路92とは、別々のECUによって制御されてもよい。
また、変速機4として、動力分割式(トルクスプリット式)の変速機を取り上げたが、本発明は、動力分割式の変速機に限らず、無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)や有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)など、種々の形式の自動変速機に適用することができる。
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。