以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
<車両の駆動系>
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。
エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン2には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。エンジン2の動力は、トルクコンバータ3および変速機4を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介してそれぞれ左右の駆動輪7L,7Rに伝達される。
エンジン2は、E/G出力軸11を備えている。E/G出力軸11は、エンジン2が発生する動力により回転される。
トルクコンバータ3は、フロントカバー21、ポンプインペラ22、タービンランナ23およびロックアップ機構24を備えている。フロントカバー21には、E/G出力軸11が接続され、フロントカバー21は、E/G出力軸11と一体に回転する。ポンプインペラ22は、フロントカバー21に対するエンジン2側と反対側に配置されている。ポンプインペラ22は、フロントカバー21と一体回転可能に設けられている。タービンランナ23は、フロントカバー21とポンプインペラ22との間に配置されて、フロントカバー21と共通の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。
ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25を備えている。ロックアップピストン25は、フロントカバー21とタービンランナ23との間に設けられている。ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25とフロントカバー21との間の解放油室26の油圧とロックアップピストン25とポンプインペラ22との間の係合油室27の油圧との差圧により、ロックアップオン(係合)/オフ(解放)される。すなわち、解放油室26の油圧が係合油室27の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21から離間し、ロックアップオフとなる。係合油室27の油圧が解放油室26の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21に押し付けられて、ロックアップオンとなる。
ロックアップオフの状態では、E/G出力軸11が回転されると、ポンプインペラ22が回転する。ポンプインペラ22が回転すると、ポンプインペラ22からタービンランナ23に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ23で受けられて、タービンランナ23が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ23には、E/G出力軸11の動力(トルク)よりも大きな動力が発生する。
ロックアップオンの状態では、E/G出力軸11が回転されると、E/G出力軸11、ポンプインペラ22およびタービンランナ23が一体となって回転する。
変速機4は、インプット軸31およびアウトプット軸32を備え、インプット軸31に入力される動力を2つの経路に分岐してアウトプット軸32に伝達可能に構成された、いわゆる動力分割式(トルクスプリット式)変速機である。2つの動力伝達経路を構成するため、変速機4は、無段変速機構33、前減速ギヤ機構34、遊星歯車機構35およびスプリット変速機構36を備えている。
インプット軸31は、トルクコンバータ3のタービンランナ23に連結され、タービンランナ23と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
アウトプット軸32は、インプット軸31と平行に設けられている。アウトプット軸32には、出力ギヤ37が相対回転不能に支持されている。出力ギヤ37は、デファレンシャルギヤ5(デファレンシャルギヤ5のリングギヤ)と噛合している。
無段変速機構33は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成を有している。具体的には、無段変速機構33は、プライマリ軸41と、プライマリ軸41と平行に設けられたセカンダリ軸42と、プライマリ軸41に相対回転不能に支持されたプライマリプーリ43と、セカンダリ軸42に相対回転不能に支持されたセカンダリプーリ44と、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とに巻き掛けられたベルト45とを備えている。
プライマリプーリ43は、プライマリ軸41に固定された固定シーブ51と、固定シーブ51にベルト45を挟んで対向配置され、プライマリ軸41にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ52とを備えている。可動シーブ52に対して固定シーブ51と反対側には、プライマリ軸41に固定されたシリンダ53が設けられ、可動シーブ52とシリンダ53との間に、油圧室54が形成されている。
セカンダリプーリ44は、セカンダリ軸42に固定された固定シーブ55と、固定シーブ55にベルト45を挟んで対向配置され、セカンダリ軸42にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ56とを備えている。可動シーブ56に対して固定シーブ55と反対側には、セカンダリ軸42に固定されたシリンダ57が設けられ、可動シーブ56とシリンダ57との間に、油圧室58が形成されている。回転軸線方向において、固定シーブ55と可動シーブ56との位置関係は、プライマリプーリ43の固定シーブ51と可動シーブ52との位置関係と逆転している。
無段変速機構33では、プライマリプーリ43の油圧室54およびセカンダリプーリ44の油圧室58に供給される油圧がそれぞれ制御されて、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の各溝幅が変更されることにより、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が連続的に無段階で変更される。
具体的には、プーリ比が小さくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が上げられる。これにより、プライマリプーリ43の可動シーブ52が固定シーブ51側に移動し、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔(溝幅)が小さくなる。これに伴い、プライマリプーリ43に対するベルト45の巻きかけ径が大きくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔(溝幅)が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が小さくなる。
プーリ比が大きくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が下げられる。これにより、セカンダリプーリ44の推力(セカンダリ推力)に対するプライマリプーリ43の推力(プライマリ推力)の比である推力比が小さくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔が小さくなるとともに、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が大きくなる。
一方、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の推力は、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44とベルト45との間で滑り(ベルト滑り)が生じない大きさを必要とする。そのため、ベルト滑りを生じない必要十分な挟圧が得られるよう、プライマリプーリ43の油圧室54およびセカンダリプーリ44の油圧室58に供給される油圧が制御される。
前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に入力される動力を逆転かつ減速させてプライマリ軸41に伝達する構成である。具体的には、前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に相対回転不能に支持されるインプット軸ギヤ61と、インプット軸ギヤ61よりも大径で歯数が多く、プライマリ軸41にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されて、インプット軸ギヤ61と噛合するプライマリ軸ギヤ62とを含む。
遊星歯車機構35は、サンギヤ71、キャリヤ72およびリングギヤ73を備えている。サンギヤ71は、セカンダリ軸42にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。キャリヤ72は、アウトプット軸32に相対回転可能に外嵌されている。キャリヤ72は、複数個のピニオンギヤ74を回転可能に支持している。複数個のピニオンギヤ74は、円周上に配置され、サンギヤ71と噛合している。リングギヤ73は、複数個のピニオンギヤ74を一括して取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ74にセカンダリ軸42の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ73には、アウトプット軸32が接続され、リングギヤ73は、アウトプット軸32と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
スプリット変速機構36は、スプリットドライブギヤ81と、スプリットドライブギヤ81と噛合するスプリットドリブンギヤ82とを含む平行軸式歯車機構である。
スプリットドライブギヤ81は、インプット軸31に相対回転可能に外嵌されている。
スプリットドリブンギヤ82は、遊星歯車機構35のキャリヤ72と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。スプリットドリブンギヤ82は、スプリットドライブギヤ81よりも小径に形成され、スプリットドライブギヤ81よりも少ない歯数を有している。
また、変速機4は、クラッチC1,C2およびブレーキB1を備えている。
クラッチC1は、油圧により、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
クラッチC2は、油圧により、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
ブレーキB1は、油圧により、遊星歯車機構35のキャリヤ72を制動する係合状態と、キャリヤ72の回転を許容する解放状態とに切り替えられる。
<動力伝達モード>
図2は、車両1の前進時および後進時におけるクラッチC1,C2およびブレーキB1の状態を示す図である。図3は、遊星歯車機構35のサンギヤ71、キャリヤ72およびリングギヤ73の回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。図4は、無段変速機構33による変速比であるプーリ比と変速機4の全体での減速比(ユニット変速比)、つまりインプット軸31とアウトプット軸32との回転数比である減速比の関係を示す図である。
図2において、「○」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が係合状態であることを示している。「×」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が解放状態であることを示している。
変速機4は、車両1の前進時の動力伝達モードとして、ベルトモードおよびスプリットモードを有している。ベルトモードとスプリットモードとは、クラッチC1が係合している状態とクラッチC2が係合している状態との切り替え(クラッチC1,C2の掛け替え)により切り替えられる。
ベルトモードでは、図2に示されるように、クラッチC1およびブレーキB1が解放され、クラッチC2が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72がフリー(自由回転状態)になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結される。
インプット軸31に入力される動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、無段変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41およびプライマリプーリ43を回転させる。プライマリプーリ43の回転は、ベルト45を介して、セカンダリプーリ44に伝達され、セカンダリプーリ44およびセカンダリ軸42を回転させる。遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結されているので、セカンダリ軸42と一体となって、サンギヤ71、リングギヤ73およびアウトプット軸32が回転する。したがって、ベルトモードでは、図3および図4に示されるように、減速比がプーリ比(無段変速機構33のプライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比)に前減速比(インプット軸31の回転数/プライマリ軸41の回転数)を乗じた値と一致する。
スプリットモードでは、図2に示されるように、クラッチC1が係合され、クラッチC2およびブレーキB1が解放される。これにより、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とが結合されて、インプット軸31の回転がスプリットドライブギヤ81およびスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に伝達可能になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離される。
インプット軸31に入力される動力は、スプリットドライブギヤ81からスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に増速されて伝達される。キャリヤ72に伝達される動力は、キャリヤ72からサンギヤ71およびリングギヤ73に分割して伝達される。サンギヤ71の動力は、セカンダリ軸42、セカンダリプーリ44、ベルト45、プライマリプーリ43およびプライマリ軸41を介してプライマリ軸ギヤ62に伝達され、プライマリ軸ギヤ62からインプット軸ギヤ61に伝達される。そのため、ベルトモードでは、インプット軸ギヤ61が駆動ギヤとなり、プライマリ軸ギヤ62が被動ギヤとなるのに対し、スプリットモードでは、プライマリ軸ギヤ62が駆動ギヤとなり、インプット軸ギヤ61が被動ギヤとなる。
スプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比は一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、インプット軸31に入力される動力が一定であれば、遊星歯車機構35のキャリヤ72の回転が一定速度に保持される。そのため、プーリ比が上げられると、遊星歯車機構35のサンギヤ71の回転数が下がるので、図3に破線で示されるように、遊星歯車機構35のリングギヤ73(アウトプット軸32)の回転数が上がる。その結果、スプリットモードでは、図4に示されるように、無段変速機構33のプーリ比が大きいほど、変速機4の減速比が小さくなり、プーリ比に対する減速比の感度(プーリ比の変化量に対する減速比の変化量の割合)がベルトモードと比べて低い。
ベルトモードおよびスプリットモードにおけるアウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6Rおよび駆動輪7L,7Rが前進方向に回転する。
車両1の後進時のリバースモードでは、図2に示されるように、クラッチC1,C2が解放され、ブレーキB1が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動される。
インプット軸31に入力される動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、無段変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41からプライマリプーリ43、ベルト45およびセカンダリプーリ44を介してセカンダリ軸42に伝達され、セカンダリ軸42と一体に、遊星歯車機構35のサンギヤ71を回転させる。遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動されているので、サンギヤ71が回転すると、遊星歯車機構35のリングギヤ73がサンギヤ71と逆方向に回転する。このリングギヤ73の回転方向は、前進時(ベルトモードおよびスプリットモード)におけるリングギヤ73の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ73と一体に、アウトプット軸32が回転する。アウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6Rおよび駆動輪7L,7Rが後進方向に回転する。
<車両の制御系>
図5は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)を含む構成のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が備えられている。マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。図5には、変速機4を制御するための1つのECU101のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、ECU101と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU101を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
ECU101には、制御に必要な各種センサが接続されている。その一例として、ECU101には、トルクコンバータ3のタービンランナ23の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するタービン回転センサ111と、プライマリ軸41の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するプライマリ回転センサ112と、セカンダリ軸42の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するセカンダリ回転センサ113と、アウトプット軸32の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するアウトプット回転センサ114と、運転者により操作されるアクセルペダル(図示せず)の操作量に応じた検出信号を出力するアクセルセンサ115とが接続されている。
ECU101では、タービン回転センサ111、プライマリ回転センサ112、セカンダリ回転センサ113およびアウトプット回転センサ114の各検出信号から、タービンランナ23の回転数であるタービン回転数、プライマリ回転数(プライマリプーリ43)の回転数であるプライマリ回転数、セカンダリ軸42(セカンダリプーリ44)の回転数であるセカンダリ回転数、およびアウトプット軸32の回転数であるアウトプット回転数が取得される。また、ECU101では、アクセルセンサ115の検出信号から、アクセルペダルの最大操作量に対する操作量の割合、つまりアクセルペダルが踏み込まれていないときを0%とし、アクセルペダルが最大に踏み込まれたときを100%とする百分率であるアクセル開度が求められる。そして、ECU101により、各種のセンサから取得される情報、他のECUから入力される情報などに基づいて、変速機4の変速制御などのため、変速機4を含むユニットの各部に油圧を供給するための油圧回路に含まれる各種のバルブなどが制御される。
<変速制御>
変速機4の減速比は、ECU101によるプーリ比(シーブ変速比)の変更ならびにクラッチC1,C2およびブレーキB1の係合/解放により制御される。この変速制御では、まず、変速線図に基づいて、アクセル開度および車速に応じた目標回転数が設定される。変速線図は、アクセル開度および車速と目標回転数との関係を定めたマップであり、ECU101のROMに格納されている。車速の情報は、たとえば、エンジン2を制御するエンジンECUからECU101に送信される。目標回転数が設定されると、インプット軸31に入力される回転数を目標回転数に一致させる目標減速比が求められ、目標減速比に応じた目標プーリ比が設定される。
その後、目標プーリ比に基づいて、プライマリ推力およびセカンダリ推力から、プライマリプーリ43の可動シーブ52に供給される油圧であるプライマリ圧およびセカンダリプーリ44の可動シーブ56に供給される油圧であるセカンダリ圧の指令値が設定され、各指令値に基づいて、目標プーリ比と実プーリ比との偏差が零に近づくように、プライマリ圧およびセカンダリ圧が制御される。実プーリ比は、プライマリ回転数をセカンダリ回転数で除することにより求められる。
減速比がスプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比に等しいスプリット点を跨いで変更される場合、その減速比の変更には、ベルトモードとスプリットモードとの切り替え(以下、単に「モード切替」という。)が伴う。モード切替は、クラッチC1,C2の係合の切り替えにより達成される。すなわち、クラッチC1,C2に供給される油圧の制御により、解放状態のクラッチC1(係合側)が係合され、係合状態のクラッチC2(解放側)が解放されることにより、ベルトモードからスプリットモードに切り替えられる。逆に、係合状態のクラッチC1(解放側)が解放され、解放状態のクラッチC2(係合側)が係合されることにより、スプリットモードからベルトモードに切り替えられる。
<変速速度制御>
図6は、変速速度の制御のための処理の流れを示すフローチャートである。
変速制御では、ECU101により、実プーリ比を変更する速度である変速速度が制御される。この変速速度制御では、まず、現在のモードがスプリットモードであるか否かが判別される(S1)。
現在のモードがスプリットモードである場合(ステップS1のYES)、次に、目標減速比がスプリット点よりも大きいベルトモード域内の値であるか否か、すなわち、スプリットモードからベルトモードへのモード切替を伴う目標減速比が設定されたか否かが判別される(ステップS2)。
目標減速比がスプリット点よりも大きいベルトモード域内の値である場合(ステップS2:YES)、変速速度が第1変速速度に設定されて、実プーリ比が第1変速速度で変化するよう、プライマリ圧の下降速度およびセカンダリ圧の上昇速度が制御される(ステップS3)。
実プーリ比が第1変速速度で変化し、実プーリ比がスプリット点と一致すると(ステップS4のYES)、変速速度が第1変速速度よりも小さい第2変速速度に設定される。この後は、実プーリ比が第2変速速度で変化するよう、プライマリ圧の下降速度およびセカンダリ圧の上昇速度が制御される(ステップS5)。すなわち、実際の減速比(実減速比)がスプリット点以下のスプリットモード域内を越えてベルトモード域内の値まで上昇すると、その後は、実プーリ比が第1変速速度よりも小さい第2変速速度で緩やかに変更される。
そして、実減速比が目標減速比に一致すると(ステップS6のYES)、この変速速度制御が終了される。
一方、現在のモードがベルトモードである場合(ステップS1のNO)、または、現在のモードがスプリットモードであるが目標減速比がスプリット点以下である場合には(ステップS2のNO)、当初から変速速度が第2変速速度に設定されて(ステップS5)、実プーリ比が第2変速速度で変化するよう、プライマリ圧の下降速度およびセカンダリ圧の上昇速度が制御される(ステップS5)。
<作用効果>
以上のように、変速機4は、プーリ比に対する減速比の感度(プーリ比の変化量に対する減速比の変化量の割合)が相対的に低いスプリットモードと、その感度が相対的に高いベルトモードとを有している。スプリットモードでは、減速比がスプリット点を上限とするスプリットモード域内の値をとり、ベルトモードでは、減速比がスプリット点を下限とするベルトモード域内の値をとる。
変速制御では、目標減速比が設定されて、実減速比が目標減速比に近づくようプーリ比が変更される。スプリットモードからベルトモードへの切り替えを伴う目標減速比が設定された場合、すなわち、スプリットモードにおいて目標減速比がベルトモード域内の値に設定された場合、減速比がスプリット点に上昇するまでの間は、減速比がスプリット点を超えた後よりも、プーリ比が高速で変更される。
プーリ比が高速で変更されることにより、減速比がスプリット点に上昇するまでに要する時間を短縮することができる。その結果、スプリットモードからベルトモードへの切り替えを伴う変速に要する時間を短縮でき、スプリットモードからベルトモードへの切り替えを伴う変速の際のドライバビリティが向上する。また、そのドライバビリティの向上により、運転者がアクセルペダルを無駄に踏み増すことを抑制でき、変速機4が搭載された車輌の走行燃費を向上させることができる。
減速比がスプリット点に上昇するまでの間は、プーリ比に対する減速比の感度が相対的に低いので、プーリ比が高速で変更されても、減速比が頻繁に変化する変速ビジーの発生などはなく、制御性に悪影響を及ぼさない。減速比がスプリット点を超えた後は、プーリ比に対する減速比の感度が相対的に高いが、プーリ比の変化速度(変速速度)が低減されるので、実減速比を目標減速比に良好に合わせることができ、変速ビジーの発生を抑制できる。
また、スプリットモードからベルトモードへの切り替えを伴う変速の際に、クラッチC1,C2の係合の切り替え時における目標減速比に応じた回転と実減速比に応じた回転との偏差を小さくすることができ、クラッチC1,C2の係合の切り替えによる駆動力の途切れを短くすることができる。
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明が、本発明は、他の形態で実施することもできる。
たとえば、第1変速速度は、図7に示されるように、第2変速速度よりも大きい範囲において、目標減速比が大きいほど大きな値に設定されてもよい。これにより、減速比がスプリット点に上昇するまでの間、目標減速比が大きいほどプーリ比を高速で変更することができ、減速比がスプリット点に上昇するまでに要する時間をより短縮することができる。
また、前述の実施形態では、変速機4として、動力分割式(トルクスプリット式)の変速機を取り上げたが、本発明に係る制御装置は、動力分割式の変速機に限らず、動力を単一の動力伝達経路で伝達する一般的な無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)や副変速機付きの無段変速機などに用いることができる。
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。