JP2021124126A - 車両用制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】P/NレンジからRレンジが構成されるまでの変速過渡期間内にベルト変速機構のプーリ比をハイプーリ比に下げきることができる、車両用制御装置を提供する。【解決手段】PレンジからRレンジが構成される変速過渡時には、ベルト変速機構の目標プーリ比がハイプーリ比に設定される。これに先立ち、Pレンジでの待機中に、目標プーリ比が最大プーリ比とハイプーリ比との間の準備プーリ比に設定されている。【選択図】図6

Description

本発明は、無段変速機を搭載した車両に用いられる制御装置に関する。
エンジンの動力により走行するコンベンショナルな車両には、変速機が搭載されている。エンジンの動力は、変速機のインプット軸に入力されて、変速機内で変速され、変速機のアウトプット軸からデファレンシャルギヤなどを介して左右の駆動輪に伝達される。
変速機の一種であるベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)は、プライマリプーリとセカンダリプーリとに無端状のベルトが巻きかけられた構成を備えている。プライマリプーリおよびセカンダリプーリに対するベルトの巻きかけ径の変更により、プーリ比が連続的に無段階で変化し、プーリ比の変化に伴って変速比が変化する。
また、ベルト式の無段変速機には、車両の前進/後進を切り替えるため、遊星歯車機構を備えたものがある。遊星歯車機構は、たとえば、セカンダリプーリを支持するセカンダリ軸とアウトプット軸との間に設けられる。遊星歯車機構のサンギヤには、セカンダリ軸が相対回転不能に連結され、遊星歯車機構のリングギヤには、アウトプット軸が相対回転不能に連結される。
車両の前進時には、遊星歯車機構のキャリヤが自由回転状態にされて、前進クラッチの係合により、サンギヤとリングギヤとが直結される。これにより、セカンダリ軸に伝達される動力により、サンギヤとリングギヤとが一体に回転し、アウトプット軸がリングギヤと一体に回転する。一方、車両の後進(後退)時には、サンギヤとリングギヤとの直結が解除され、後進クラッチ(ブレーキ)の係合により、キャリヤが回転不能に固定される。これにより、セカンダリ軸の動力によりサンギヤが回転すると、リングギヤがサンギヤと逆方向に回転し、アウトプット軸が前進時とは逆方向に回転する。
従来、無段変速機を搭載した車両では、車両の発進性能を高める目的で、Pレンジ(駐車レンジ)およびNレンジ(中立レンジ)での目標プーリ比が最大プーリ比に設定されている。ところが、無段変速機が前後進切替のための遊星歯車機構を備えている場合、遊星歯車機構の構成上、リングギヤの回転速度がサンギヤの回転速度よりも必ず低くなるので、インプット軸に入力される動力およびプーリ比をそれぞれ一定として、Dレンジ(前進レンジ)とRレンジ(後進レンジ)とを比較すると、アウトプット軸に出力される駆動力がRレンジでDレンジよりも大きくなる。車両の後進発進時にアウトプット軸に出力される駆動力が大きいと、ドライブシャフトのねじれ量が大きくなる。
そこで、後進クラッチを解放状態から係合させるガレージ制御中、つまりRレンジが構成されるまでの変速過渡期間内に、プーリ比を最大プーリ比からそれよりも小さいハイプーリ比に低減させることが提案されている。
特開2017−198237号公報
しかしながら、変速過渡期間中に実プーリ比が最大プーリ比からハイプーリ比まで低下せず、ドライブシャフトのねじれ量が残留したままとなって、そのねじれによる異音が発生する場合がある。
本発明の目的は、第1走行レンジと第2走行レンジとを無段変速機構のプーリ比を同一として比較したときに、変速比が第2走行レンジで第1走行レンジよりも大きくなる構成において、非走行レンジ(P/Nレンジ)から第2走行レンジが構成されるまでの変速過渡期間内にプーリ比をハイプーリ比に下げきることができる、車両用制御装置を提供することである。
前記の目的を達成するため、本発明に係る車両用制御装置は、インプット軸とアウトプット軸との間の動力伝達経路上に、無端状のベルトがプライマリプーリとセカンダリプーリとに巻き掛けられた構成のベルト式の無段変速機構と、アウトプット軸から第1方向の動力が出力される第1走行レンジを構成するために係合される第1係合要素と、アウトプット軸から第1方向と反対の第2方向の動力が出力される第2走行レンジを構成するために係合される第2係合要素とが設けられて、第1走行レンジと第2走行レンジとを無段変速機構のプーリ比を同一として比較したときに、変速比が第2走行レンジで第1走行レンジよりも大きくなる構成の無段変速機を搭載した車両に用いられる制御装置であって、第1係合要素および第2係合要素が解放される非走行レンジにおいて、無段変速機構の目標プーリ比を無段変速機構の最大プーリ比よりも小さい準備プーリ比に設定する準備プーリ比設定手段と、非走行レンジから第2係合要素の係合により第2走行レンジが構成される変速過渡時に、目標プーリ比を準備プーリ比よりも小さいハイプーリ比に設定するハイプーリ比設定手段とを含む。
この構成によれば、無段変速機では、第1走行レンジと第2走行レンジとを無段変速機構のプーリ比を同一として比較したときに、変速比が第2走行レンジで第1走行レンジよりも大きくなる。そのため、第1走行レンジと第2走行レンジとをインプット軸に入力される動力を一定として比較したときに、アウトプット軸に出力される駆動力が第2走行レンジで第1走行レンジよりも大きくなる。
非走行レンジでは、第1係合要素および第2係合要素の両方が解放される。非走行レンジから、第1係合要素が係合されることにより第1走行レンジが構成され、第2係合要素が係合されることにより第2走行レンジが構成される。
非走行レンジから第2走行レンジが構成される変速過渡時には、無段変速機構の目標プーリ比がハイプーリ比に設定される。これに先立ち、非走行レンジでの待機中に、目標プーリ比が最大プーリ比とハイプーリ比との間の準備プーリ比に設定されている。そのため、変速過渡時には、無段変速機構のプーリ比を準備プーリ比からハイプーリ比に下げればよいので、変速過渡期間が短くても、変速過渡期間内にプーリ比をハイプーリ比に下げることができる。
車両がエンジンの動力により走行する車両である場合、準備プーリ比設定手段およびハイプーリ比設定手段は、エンジンを冷却する冷却水の水温(エンジン水温)に応じて、それぞれ準備プーリ比およびハイプーリ比を設定する構成であってもよい。
エンジン水温が低い冷機時のファーストアイドル状態では、エンジン回転数が高いので、第2走行レンジでの車両の発進時のクリープトルク(エンジンのアイドル回転状態でアウトプット軸に出力されるトルク)が過大となる。そのため、エンジン水温に応じてハイプーリ比が設定されることにより、第2走行レンジでの車両の発進時に、クリープトルクが過大となることを抑制できる。その結果、車両のブレーキ解除時のクリープによる飛び出しや制動力不足、パーキングロック解除の際の大きな音などの発生を抑制することができる。そして、エンジン水温に応じて準備プーリ比が設定されることにより、ハイプーリ比が小さい値に設定されても、変速過渡期間内にプーリ比を準備プーリ比からハイプーリ比に下げきることができる。
車両用制御装置は、非走行レンジから第1走行レンジが構成される変速過渡時に、目標プーリ比を準備プーリ比よりも大きいロープーリ比に設定するロープーリ比設定手段をさらに含む構成であってもよい。
非走行レンジから第1走行レンジが構成される変速過渡時には、無段変速機構の目標プーリ比がロープーリ比に設定される。これに先立ち、非走行レンジでの待機中に、目標プーリ比が最大プーリ比よりも小さい準備プーリ比に設定されている。そのため、変速過渡時には、無段変速機構のプーリ比を準備プーリ比からロープーリ比に上げればよいので、非走行レンジでの待機中にハイプーリ比まで下げられる構成と比較して、第1走行レンジでの発進時のロープーリ比を実現しやすい。
本発明によれば、非走行レンジ(P/Nレンジ)から第2走行レンジが構成されるまでの変速過渡期間内にプーリ比をハイプーリ比に下げきることができる。
本発明の一実施形態に係る車両用制御装置が搭載される車両の駆動系の構成を示すスケルトン図である。 車両の前進時および後進時におけるクラッチおよびブレーキの状態を示す図である。 遊星歯車機構のサンギヤ、キャリヤおよびリングギヤの回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。 ベルト変速機構によるベルト変速比と変速機の全体でのトータル変速比との関係を示す図である。 車両の制御系の構成を示すブロック図である。 エンジンの始動時のレンジ位置、プーリ比、クラッチ指示圧およびタービン回転数の時間変化の一例を示す図である。 エンジン水温と各変速レンジでの目標プーリ比との関係を示す図である。
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
<車両の駆動系>
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。
エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン2には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。エンジン2の動力は、トルクコンバータ3および無段変速機4を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介してそれぞれ左右の駆動輪7L,7Rに伝達される。
エンジン2は、E/G出力軸11を備えている。E/G出力軸11は、エンジン2が発生する動力により回転される。
トルクコンバータ3は、フロントカバー21、ポンプインペラ22、タービンランナ23およびロックアップ機構24を備えている。フロントカバー21には、E/G出力軸11が接続され、フロントカバー21は、E/G出力軸11と一体に回転する。ポンプインペラ22は、フロントカバー21に対するエンジン2側と反対側に配置されている。ポンプインペラ22は、フロントカバー21と一体回転可能に設けられている。タービンランナ23は、フロントカバー21とポンプインペラ22との間に配置されて、フロントカバー21と共通の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。
ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25を備えている。ロックアップピストン25は、フロントカバー21とタービンランナ23との間に設けられている。ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25とフロントカバー21との間の解放油室26の油圧とロックアップピストン25とポンプインペラ22との間の係合油室27の油圧との差圧により、ロックアップオン(係合)/オフ(解放)される。すなわち、解放油室26の油圧が係合油室27の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21から離間し、ロックアップオフとなる。係合油室27の油圧が解放油室26の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21に押し付けられて、ロックアップオンとなる。
ロックアップオフの状態では、E/G出力軸11が回転されると、ポンプインペラ22が回転する。ポンプインペラ22が回転すると、ポンプインペラ22からタービンランナ23に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ23で受けられて、タービンランナ23が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ23には、E/G出力軸11のトルクよりも大きなトルクが発生する。
ロックアップオンの状態では、E/G出力軸11が回転されると、E/G出力軸11、ポンプインペラ22およびタービンランナ23が一体となって回転する。
無段変速機4は、インプット軸31およびアウトプット軸32を備え、インプット軸31に入力される動力を2つの経路に分岐してアウトプット軸32に伝達可能に構成された、いわゆる動力分割式(トルクスプリット式)変速機である。2つの動力伝達経路を構成するため、無段変速機4は、ベルト変速機構33、前減速ギヤ機構34、遊星歯車機構35およびスプリット変速機構36を備えている。
インプット軸31は、トルクコンバータ3のタービンランナ23に連結され、タービンランナ23と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
アウトプット軸32は、インプット軸31と平行に設けられている。アウトプット軸32には、出力ギヤ37が相対回転不能に支持されている。出力ギヤ37は、デファレンシャルギヤ5(デファレンシャルギヤ5のリングギヤ)と噛合している。
ベルト変速機構33は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成を有している。具体的には、ベルト変速機構33は、プライマリ軸41と、プライマリ軸41と平行に設けられたセカンダリ軸42と、プライマリ軸41に相対回転不能に支持されたプライマリプーリ43と、セカンダリ軸42に相対回転不能に支持されたセカンダリプーリ44と、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とに巻き掛けられたベルト45とを備えている。
プライマリプーリ43は、プライマリ軸41に固定された固定シーブ51と、固定シーブ51にベルト45を挟んで対向配置され、プライマリ軸41にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ52とを備えている。可動シーブ52に対して固定シーブ51と反対側には、プライマリ軸41に固定されたシリンダ53が設けられ、可動シーブ52とシリンダ53との間に、油圧室54が形成されている。
セカンダリプーリ44は、セカンダリ軸42に固定された固定シーブ55と、固定シーブ55にベルト45を挟んで対向配置され、セカンダリ軸42にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ56とを備えている。可動シーブ56に対して固定シーブ55と反対側には、セカンダリ軸42に固定されたシリンダ57が設けられ、可動シーブ56とシリンダ57との間に、油圧室58が形成されている。回転軸線方向において、固定シーブ55と可動シーブ56との位置関係は、プライマリプーリ43の固定シーブ51と可動シーブ52との位置関係と逆転している。
ベルト変速機構33では、プライマリプーリ43の油圧室54およびセカンダリプーリ44の油圧室58に供給される油圧がそれぞれ制御されて、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の各溝幅が変更されることにより、ベルト変速比(プーリ比)が連続的に無段階で変更される。
具体的には、ベルト変速比が小さくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が上げられる。これにより、プライマリプーリ43の可動シーブ52が固定シーブ51側に移動し、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔(溝幅)が小さくなる。これに伴い、プライマリプーリ43に対するベルト45の巻きかけ径が大きくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔(溝幅)が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が小さくなる。
ベルト変速比が大きくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が下げられる。これにより、セカンダリプーリ44の推力(セカンダリ推力)に対するプライマリプーリ43の推力(プライマリ推力)の比である推力比が小さくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔が小さくなるとともに、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が大きくなる。
一方、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の推力は、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44とベルト45との間で滑り(ベルト滑り)が生じない大きさを必要とする。そのため、ベルト滑りを生じない必要十分な挟圧が得られるよう、プライマリプーリ43の油圧室54およびセカンダリプーリ44の油圧室58に供給される油圧が制御される。
前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に入力される動力を逆転かつ減速させてプライマリ軸41に伝達する構成である。具体的には、前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に相対回転不能に支持されるインプット軸ギヤ61と、インプット軸ギヤ61よりも大径で歯数が多く、プライマリ軸41にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されて、インプット軸ギヤ61と噛合するプライマリ軸ギヤ62とを含む。
遊星歯車機構35は、サンギヤ71、キャリヤ72およびリングギヤ73を備えている。サンギヤ71は、セカンダリ軸42にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。キャリヤ72は、アウトプット軸32に相対回転可能に外嵌されている。キャリヤ72は、複数個のピニオンギヤ74を回転可能に支持している。複数個のピニオンギヤ74は、円周上に配置され、サンギヤ71と噛合している。リングギヤ73は、複数個のピニオンギヤ74を一括して取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ74にセカンダリ軸42の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ73には、アウトプット軸32が接続され、リングギヤ73は、アウトプット軸32と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
スプリット変速機構36は、スプリットドライブギヤ81と、スプリットドライブギヤ81と噛合するスプリットドリブンギヤ82とを含む平行軸式歯車機構である。
スプリットドライブギヤ81は、インプット軸31に相対回転可能に外嵌されている。
スプリットドリブンギヤ82は、遊星歯車機構35のキャリヤ72と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。スプリットドリブンギヤ82は、スプリットドライブギヤ81よりも小径に形成され、スプリットドライブギヤ81よりも少ない歯数を有している。
また、アウトプット軸32には、パーキングギヤ83が相対回転不能に支持されている。パーキングギヤ83の周囲には、パーキングポール(図示せず)が設けられている。パーキングポールがパーキングギヤ83の歯溝に係合することにより、パーキングギヤ83の回転が規制(パーキングロック)され、パーキングポールがパーキングギヤ83の歯溝から離脱することにより、パーキングギヤ83の回転が許容(パーキングロック解除)される。
また、無段変速機4は、クラッチC1,C2およびブレーキB1を備えている。
クラッチC1は、油圧により、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
クラッチC2は、油圧により、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
ブレーキB1は、油圧により、遊星歯車機構35のキャリヤ72を制動する係合状態と、キャリヤ72の回転を許容する解放状態とに切り替えられる。
<動力伝達モード>
図2は、車両1の前進時および後進時におけるクラッチC1,C2およびブレーキB1の状態を示す図である。図3は、遊星歯車機構35のサンギヤ71、キャリヤ72およびリングギヤ73の回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。図4は、ベルト変速機構33によるベルト変速比と無段変速機4の全体でのトータル変速比との関係を示す図である。
図2において、「○」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が係合状態であることを示している。「×」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が解放状態であることを示している。
車両1の車室内には、運転者が操作可能な位置に、シフトレバー(セレクトレバー)が配設されている。シフトレバーの可動範囲には、たとえば、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジションおよびD(ドライブ)ポジションの各レンジ位置がこの順に一列に並べて設けられている。
シフトレバーがPポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2およびブレーキB1のすべてが解放され、パーキングギヤ83が固定されることにより、無段変速機4の変速レンジの1つであるPレンジ(駐車レンジ)が構成される。また、シフトレバーがNポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2およびブレーキB1のすべてが解放されて、パーキングロックギヤが固定されないことにより、無段変速機4の変速レンジの1つであるNレンジ(中立レンジ)が構成される。クラッチC1およびブレーキB1の両方が解放された状態では、エンジン2の動力がセカンダリ軸42まで伝達されて、セカンダリ軸42が回転するが、遊星歯車機構35のサンギヤ71およびピニオンギヤ74が空転し、エンジン2の動力は駆動輪7L,7Rに伝達されない。
シフトレバーがDポジションに位置する状態では、無段変速機4の変速レンジの1つであるDレンジ(前進レンジ)が構成される。このDレンジでの動力伝達モードには、ベルトモードおよびスプリットモードが含まれる。ベルトモードとスプリットモードとは、クラッチC1が係合している状態とクラッチC2が係合している状態との切り替え(クラッチC1,C2の掛け替え)により切り替えられる。
ベルトモードでは、図2に示されるように、クラッチC1およびブレーキB1が解放され、クラッチC2が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72がフリー(自由回転状態)になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結される。
インプット軸31に入力される動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、ベルト変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41およびプライマリプーリ43を回転させる。プライマリプーリ43の回転は、ベルト45を介して、セカンダリプーリ44に伝達され、セカンダリプーリ44およびセカンダリ軸42を回転させる。遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結されているので、セカンダリ軸42と一体となって、サンギヤ71、リングギヤ73およびアウトプット軸32が回転する。したがって、ベルトモードでは、図3および図4に示されるように、無段変速機4全体でのトータル変速比がベルト変速機構33のベルト変速比に前減速比(インプット軸31の回転数/プライマリ軸41の回転数)を乗じた値と一致する。
スプリットモードでは、図2に示されるように、クラッチC1が係合され、クラッチC2およびブレーキB1が解放される。これにより、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とが結合されて、インプット軸31の回転がスプリットドライブギヤ81およびスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に伝達可能になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離される。
インプット軸31に入力される動力は、スプリットドライブギヤ81からスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に増速されて伝達される。キャリヤ72に伝達される動力は、キャリヤ72からサンギヤ71およびリングギヤ73に分割して伝達される。サンギヤ71の動力は、セカンダリ軸42、セカンダリプーリ44、ベルト45、プライマリプーリ43およびプライマリ軸41を介してプライマリ軸ギヤ62に伝達され、プライマリ軸ギヤ62からインプット軸ギヤ61に伝達される。そのため、ベルトモードでは、インプット軸ギヤ61が駆動ギヤとなり、プライマリ軸ギヤ62が被動ギヤとなるのに対し、スプリットモードでは、プライマリ軸ギヤ62が駆動ギヤとなり、インプット軸ギヤ61が被動ギヤとなる。
スプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比は一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、インプット軸31に入力される動力が一定であれば、遊星歯車機構35のキャリヤ72の回転が一定速度に保持される。そのため、ベルト変速比が上げられると、遊星歯車機構35のサンギヤ71の回転数が下がるので、図3に破線で示されるように、遊星歯車機構35のリングギヤ73(アウトプット軸32)の回転数が上がる。その結果、スプリットモードでは、図4に示されるように、ベルト変速機構33のベルト変速比が大きいほど、無段変速機4のトータル変速比が小さくなり、ベルト変速比に対するトータル変速比の感度(ベルト変速比の変化量に対するトータル変速比の変化量の割合)がベルトモードと比べて低い。
ベルトモードおよびスプリットモードにおけるアウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6Rおよび駆動輪7L,7Rが前進方向に回転する。
シフトレバーがRポジションに位置する状態では、無段変速機4の変速レンジの1つであるRレンジ(後進レンジ)が構成される。Rレンジでは、図2に示されるように、クラッチC1,C2が解放され、ブレーキB1が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動される。
インプット軸31に入力される動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、ベルト変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41からプライマリプーリ43、ベルト45およびセカンダリプーリ44を介してセカンダリ軸42に伝達され、セカンダリ軸42と一体に、遊星歯車機構35のサンギヤ71を回転させる。遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動されているので、サンギヤ71が回転すると、遊星歯車機構35のリングギヤ73がサンギヤ71と逆方向に回転する。このリングギヤ73の回転方向は、前進時(ベルトモードおよびスプリットモード)におけるリングギヤ73の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ73と一体に、アウトプット軸32が回転する。アウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6Rおよび駆動輪7L,7Rが後進方向に回転する。
車両1の前進時には、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73との直結により、サンギヤ71の回転速度とリングギヤ73の回転速度とが一致するのに対し、車両1の後進時には、遊星歯車機構35の構成上、リングギヤ73の回転速度がサンギヤ71の回転速度よりも必ず低くなる。そのため、Rレンジでは、変速比が最大プーリ比よりも大きくなり、DレンジおよびRレンジで最大プーリ比が構成されている場合、車両1の後進時に、前進時と比較して、変速比が大きくなり、アウトプット軸32から出力される動力が大きくなる。
<車両の制御系>
図5は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)を含む構成のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が備えられている。マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。図5には、1つのECU91のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、ECU91と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU91を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
トルクコンバータ3および無段変速機4を含むユニットには、各部に油圧を供給するための油圧回路92が備えられている。ECU91は、無段変速機4の変速制御などのため、油圧回路92に含まれる各種のバルブなどを制御する。
ECU91には、制御に必要な各種センサが接続されている。センサの一例として、ECU91には、シフトレバーの位置に応じた検出信号(レンジ接点信号)を出力するシフトポジションセンサ93と、エンジン2を流通する冷却水の温度(エンジン水温)に応じた検出信号を出力するエンジン水温センサ94とが接続されている。
また、ECU91には、各種センサから入力される検出信号から取得する情報以外に制御に必要な情報が他のECUから入力される。他のECUからECU91に入力される情報は、その情報を取得するためのセンサがECU91に接続されて、ECU91において、そのセンサの検出信号から当該情報が取得されてもよい。
<プーリ比変更処理>
図6は、エンジン2の始動時のレンジ位置、プーリ比、クラッチ指示圧およびタービン回転数の時間変化の一例を示す図である。
車両1の発進性能を高める目的で、通常、車両1の停車中における無段変速機4のトータル変速比が最大変速比となるように、車両1の停車前に、ベルト変速機構33のプーリ比が最大プーリ比に変更される(いわゆる、ロー戻し)。ベルト変速機構33のプーリ比を最大プーリ比に変更するため、ECU91により、ベルト変速機構33のプーリ比の目標である目標プーリ比がベルト変速機構33の最大プーリ比に設定され、プーリ比が目標プーリ比に一致するように、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44に供給される油圧が制御される。また、エンジン2の始動時にも、無段変速機4のトータル変速比が最大変速比となるように、ECU91により、プーリ比が最大プーリ比に変更される。
一方、エンジン水温が低い状態、つまりエンジン2が冷機状態であるときには、ECU91により、エンジン2の暖機のために、エンジン2のアイドル回転数がエンジン2の暖機状態におけるアイドル回転数(通常のアイドル回転数)よりも高くなるように、エンジン2が制御される。アイドル回転数が通常よりも高い状態では、エンジン2のアイドル回転によりアウトプット軸32に出力される動力(クリープトルク)が大きくなる。また、ベルト変速機構33のプーリ比が最大プーリ比である場合、DレンジとRレンジとで比較すると、無段変速機4のトータル変速比がRレンジでDレンジよりも大きく、それゆえ、クリープトルクがRレンジでDレンジよりも大きくなる。そのため、エンジン水温が低い冷機時のファーストアイドル状態では、プーリ比が最大プーリ比に設定されていると、車両1のRレンジでの発進時のクリープトルクが過大となる懸念がある。この懸念をなくすには、冷機時のファーストアイドル状態における車両1のRレンジでの発進時に、プーリ比を最大プーリ比からそれよりも小さいハイプーリ比に下げるとよい。
ところが、PレンジまたはNレンジなどの非走行レンジからRレンジが構成されるまでの変速過渡期間内、つまり解放状態のブレーキB1を係合させるガレージ制御中にプーリ比が最大プーリ比からハイプーリ比まで下がらない可能性がある。
そこで、エンジン2の始動時には、Pレンジでの目標プーリ比が最大プーリ比よりも小さい準備プーリ比に設定される。そして、ベルト変速機構33のプーリ比(実プーリ比)を目標プーリ比である準備プーリ比に下げるべく、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44に供給される油圧が制御される(時間T1−T2)。
その後、シフトレバーがPポジションからRポジションに移動されて、Rレンジの構成が指示されると(時刻T2)、ガレージ制御が開始されて、ブレーキB1を係合させるためのクラッチ指示圧が設定されて、そのクラッチ指示圧に応じた油圧がブレーキB1に供給される。
このブレーキB1を係合させるためのガレージ制御と並行して、ベルト変速機構33の目標プーリ比が準備プーリ比よりもさらに小さいハイプーリ比に設定される。そして、ベルト変速機構33のプーリ比を目標プーリ比であるハイプーリ比に下げるべく、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44に供給される油圧が制御される。
図7は、エンジン水温と各変速レンジでの目標プーリ比との関係を示す図である。
PレンジまたはNレンジで目標プーリ比に設定される準備プーリ比は、Dレンジでの車両1の発進時に設定されるロープーリ比よりも小さく、Rレンジでの車両1の発進時に設定されるハイプーリ比よりも大きい。
また、準備プーリ比、ロープーリ比およびハイプーリ比のいずれも、エンジン水温に応じて設定される。たとえば、エンジン水温が20℃以下の温度範囲では、準備プーリ比、ロープーリ比およびハイプーリ比がそれぞれ最小値に設定され、エンジン水温が70℃以上の温度範囲では、準備プーリ比、ロープーリ比およびハイプーリ比がそれぞれ最大値に設定される。そして、エンジン水温が20℃から70℃までの温度範囲では、エンジン水温が低いほど、準備プーリ比、ロープーリ比およびハイプーリ比が小さい値に設定される。
<作用効果>
以上のように、PレンジからRレンジが構成される変速過渡時には、ベルト変速機構33の目標プーリ比がハイプーリ比に設定される。これに先立ち、Pレンジでの待機中に、目標プーリ比が最大プーリ比とハイプーリ比との間の準備プーリ比に設定されている。そのため、変速過渡時には、ベルト変速機構33のプーリ比を準備プーリ比からハイプーリ比に下げればよいので、変速過渡期間が短くても、変速過渡期間内(ガレージ制御中)にプーリ比をハイプーリ比に下げることができる。
また、準備プーリ比およびハイプーリ比は、エンジン水温に応じて設定される。エンジン水温が低い冷機時のファーストアイドル状態では、エンジン回転数が高いので、Rレンジでの車両1の発進時のクリープトルク(エンジンのアイドル回転状態でアウトプット軸に出力されるトルク)が過大となる。そのため、エンジン水温に応じてハイプーリ比が設定されることにより、Rレンジでの車両1の発進時に、クリープトルクが過大となることを抑制できる。その結果、車両1のブレーキ解除時のクリープによる飛び出しや制動力不足、パーキングロック解除の際の大きな音などの発生を抑制することができる。そして、エンジン水温に応じて準備プーリ比が設定されることにより、ハイプーリ比が小さい値に設定されても、変速過渡期間内にプーリ比を準備プーリ比からハイプーリ比に下げきることができる。
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
たとえば、前述の実施形態では、PレンジからRレンジが構成される場合のベルト変速機構33のプーリ比を変更する処理について説明した。PレンジからDレンジが構成される場合にも、PレンジからRレンジが構成される場合と同様のプーリ比変更処理が実行されてもよい。PレンジからRレンジが構成される場合のプーリ比変更処理では、Pレンジでの待機中に、ベルト変速機構33の目標プーリ比が準備プーリ比に設定され、PレンジからDレンジが構成される変速過渡時には、目標プーリ比がロープーリ比に設定される。
これにより、PレンジからRレンジへの変速過渡時には、ベルト変速機構33のプーリ比を準備プーリ比からロープーリ比に上げればよいので、Pレンジでの待機中にハイプーリ比まで下げられる構成と比較して、Dレンジでの発進時のロープーリ比を実現しやすい。
また、NレンジからRレンジまたはDレンジが構成される場合にも、同様のプーリ比変更処理が実行されてもよい。
本発明は、インプット軸とアウトプット軸との間の動力伝達経路上に、無端状のベルトがプライマリプーリとセカンダリプーリとに巻き掛けられた構成のベルト式の無段変速機構を設けるとともに、その無段変速機構と直列に前進クラッチ/後進クラッチを設けた構成の車両に適用することもできる。
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
1:車両
2:エンジン
4:無段変速機
31:インプット軸
32:アウトプット軸
33:ベルト変速機構(無段変速機構)
43:プライマリプーリ
44:セカンダリプーリ
45:ベルト
91:ECU(車両用制御装置、準備プーリ比設定手段、ハイプーリ比設定手段、ロープーリ比設定手段)
B1:ブレーキ(第2係合要素)
C1,C2:クラッチ(第1係合要素)

Claims (3)

  1. インプット軸とアウトプット軸との間の動力伝達経路上に、無端状のベルトがプライマリプーリとセカンダリプーリとに巻き掛けられた構成のベルト式の無段変速機構と、前記アウトプット軸から第1方向の動力が出力される第1走行レンジを構成するために係合される第1係合要素と、前記アウトプット軸から前記第1方向と反対の第2方向の動力が出力される第2走行レンジを構成するために係合される第2係合要素とが設けられて、前記第1走行レンジと前記第2走行レンジとを前記無段変速機構のプーリ比を同一として比較したときに、変速比が前記第2走行レンジで前記第1走行レンジよりも大きくなる構成の無段変速機を搭載した車両に用いられる制御装置であって、
    前記第1係合要素および前記第2係合要素が解放される非走行レンジにおいて、前記無段変速機構の目標プーリ比を前記無段変速機構の最大プーリ比よりも小さい準備プーリ比に設定する準備プーリ比設定手段と、
    前記非走行レンジから前記第2係合要素の係合により前記第2走行レンジが構成される変速過渡時に、前記目標プーリ比を前記準備プーリ比よりも小さいハイプーリ比に設定するハイプーリ比設定手段と、を含む、車両用制御装置。
  2. 前記車両は、エンジンの動力により走行する車両であり、
    前記準備プーリ比設定手段は、前記エンジンを冷却する冷却水の水温に応じて前記準備プーリ比を設定し、
    前記ハイプーリ比設定手段は、前記冷却水の水温に応じて前記ハイプーリ比を設定する、請求項1に記載の車両用制御装置。
  3. 前記非走行レンジから前記第1走行レンジが構成される変速過渡時に、前記目標プーリ比を前記準備プーリ比よりも大きいロープーリ比に設定するロープーリ比設定手段、をさらに含む、請求項1または2に記載の車両用制御装置。
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