JP2020069494A - 鋳片品質推定方法、鋼材の製造方法、鋳片品質推定装置、およびプログラム - Google Patents

鋳片品質推定方法、鋼材の製造方法、鋳片品質推定装置、およびプログラム Download PDF

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Abstract

【課題】 連続鋳造工程で製造される鋳片の品質を高速に且つ高精度に推定することができるようにする。【解決手段】 鋳片品質推定装置100は、kを予め設定される正の係数として、熱伝達係数βと、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtsとの関係が、β>k・δtsを満足する場合に、鋳片に欠陥が存在する確率は相対的に低いと判定し、そうでない場合には、当該鋳片に欠陥が存在する確率は相対的に高いと判定する。【選択図】 図2

Description

本発明は、鋳片品質推定方法、鋼材の製造方法、鋳片品質推定装置、およびプログラムに関し、特に、連続鋳造工程で製造される鋳片の品質を推定するために用いて好適なものである。
図6に、連続鋳造設備の概要の一例を示す。転炉および二次精錬で作られた溶鋼は取鍋51に入れられ、タンデッシュ52を介して鋳型4へ注がれる。鋳型4に接触した溶鋼は冷やされて凝固し、鋳造速度がコントロールされながらロール54で運ばれて、ガス切断機55で適当な長さに切断され、スラブ、ブルーム、ビレット等、断面の形状が異なる鋳片が製造される。鋳片の表層に欠陥がある場合、表層除去装置56により鋳片の表層が除去(削剥)される。表層除去装置56としては、鋳片の表層を溶削するスカーフィング装置や、鋳片の表層を研削するグラインダー装置がある。
図7に、連続鋳造設備の鋳型付近の断面の一例を示す。1は溶鋼、2は凝固シェル、3はモールドフラックス層、4は鋳型、5は冷却水、6は浸漬ノズルである。
図7に示すように、連続鋳造工程では、浸漬ノズル6から鋳型4内に溶鋼1が注入される。鋳型4内に注入された溶鋼1は、鋳型4で冷却され、その表面から凝固シェル2が形成されて凝固する。表面は凝固シェル2となっているが内部は凝固していない鋼が、鋳型4の下端部から、鋳造速度がコントロールされて連続的に引き出され、ロールにより搬送される。このようにして鋳型4から引き出される過程で、鋳型4の下方に配置される2次冷却部分(冷却スプレーから噴射される冷却水)によって鋼の冷却を進めることで、内部まで鋼が凝固される。
浸漬ノズル6の吐出孔から鋳型4内に吐出される溶鋼流には、不活性ガスの気泡や、アルミナクラスター等の非金属介在物が随伴する。また、メニスカスに達した溶鋼1の上昇流にモールドフラックス(パウダー)が巻き込まれることがある。気泡が、凝固シェル2に捕捉(トラップ)されると、鋳片にピンホールが生じ、これが製品歩留りや製品品質の低下の要因となる。また、非金属介在物やモールドフラックスが凝固シェル2に捕捉されると、熱延工程においてスリバー疵と称される線状の欠陥が生じる等、製品歩留りや製品品質の低下の要因となる。
そこで、鋳片の品質をオンライン(鋳造段階)で推定し、操業条件をいち早く変更したり、表層除去装置56を用いた鋳片に対する手入作業の必要性を事前に判断したりすることができるようにすることが求められる。
特許文献1には、鋳型内および鋳型の下部の3次元的な溶鋼流速分布を推定し、この流速分布を用いて凝固シェル厚みと溶鋼中の介在物・気泡分布とを計算し、この凝固シェル厚み分布と溶鋼中の介在物・気泡分布とから鋳片の品質を判定することが記載されている。また、特許文献2には、流体解析を行うことにより溶鋼流速、凝固速度、凝固界面におけるArガス気泡の個数密度を得て、これらと、凝固シェルの移動速度とに基づいて、凝固シェル中のArガス気泡の個数密度を導出し、凝固界面での単位面積当たりのピンホールの個数を導出することが記載されている。
特開2002−96147号公報 特開2015−157309号公報 国際公開第2015/115651号
J.P.ホールマン著、平田 賢訳、「伝熱工学 上」、第1版、丸善株式会社、昭和57年3月2日
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、鋳型内および鋳型の下部の3次元的な溶鋼流速分布、凝固シェル厚み分布、溶鋼中の介在物・気泡分布を数値解析するので、計算負荷が大きくなる(計算時間が長くなる)。また、特許文献1に記載の技術では、凝固シェル厚み分布と溶鋼中の介在物・気泡分布とからどのようにして鋳片の品質を判定するのかが具体的に示されていないので、鋳片の品質を高精度に推定することが容易ではない。
また、特許文献2に記載の技術では、流体解析を行うための数値解析と、凝固シェル中のArガス気泡の個数密度を行うための数値解析とを行うことが必要になる。更に、特許文献2に記載の技術では、凝固界面におけるArガス気泡の個数密度を求める必要がある。このため、計算負荷が大きくなる(計算時間が長くなる)。
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、連続鋳造工程で製造される鋳片の品質を高速に且つ高精度に推定することができるようにすることを目的とする。
本発明の鋳片品質推定方法は、連続鋳造設備で製造される鋳片に欠陥が存在するか否かを推定する鋳片品質推定方法であって、鋳型に埋設された複数の測温手段であって、鋳造方向における位置が相互に異なる複数の測温手段で測定された温度を取得する温度取得工程と、前記温度取得工程により取得された温度を用いて、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する指標と、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値とを導出する導出工程と、前記導出工程により導出された、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標、および、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値に基づいて、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いのかそれとも低いのかを判定する判定工程と、を有し、前記判定工程は、前記導出工程により導出された、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標、および、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値が、予め設定されている第1の範囲および第2の範囲の何れの範囲に含まれるかによって、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いのかそれとも低いのかを判定し、前記第1の範囲は、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標と、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値とを用いて規定される範囲であって、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いことを示す範囲であり、前記第2の範囲は、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標と、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値とを用いて規定される範囲であって、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に低いことを示す範囲であることを特徴とする。
本発明の鋼材の製造方法は、連続鋳造設備により製造された鋳片の表層を除去する表層除去工程を含む鋼材の製造方法であって、前記鋳片品質推定方法により、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に低いと判定された場合には、前記表層除去工程において、当該鋳片の表層を除去しないことを特徴とする。
本発明の鋳片品質推定装置は、連続鋳造設備で製造される鋳片に欠陥が存在するか否かを推定する鋳片品質推定装置であって、鋳型に埋設された複数の測温手段であって、鋳造方向における位置が相互に異なる複数の測温手段で測定された温度を取得する温度取得手段と、前記温度取得手段により取得された温度を用いて、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する指標と、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値とを導出する導出手段と、前記導出手段により導出された、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標、および、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値に基づいて、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いかそれとも低いかを判定する判定手段と、を有し、前記判定手段は、前記導出手段により導出された、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標、および、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値が、予め設定されている第1の範囲および第2の範囲の何れの範囲に含まれるかによって、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いかそれとも低いかを判定し、前記第1の範囲は、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標と、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値とを用いて規定される範囲であって、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いことを示す範囲であり、前記第2の範囲は、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標と、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値とを用いて規定される範囲であって、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に低いことを示す範囲であることを特徴とする。
本発明のプログラムは、前記鋳片品質推定方法の各ステップをコンピュータに実行させるものである。
本発明によれば、連続鋳造工程で製造される鋳片の品質を高速に且つ高精度に推定することができる。
図1は、連続鋳造設備の鋳型付近の断面の一部を示す図である。 図2は、鋳片品質推定装置の機能的な構成の一例を示す図である。 図3は、鋳片に欠陥が存在するか否かを判定するための判定式の一例をグラフ化して示す図である。 図4は、鋳片に欠陥が存在するか否かを判定するための判定式を設定する際の鋳片品質推定装置の動作の一例を説明するフローチャートである。 図5は、鋳片に欠陥が存在するか否かを推定する際の鋳片品質推定装置の動作の一例を説明するフローチャートである。 図6は、連続鋳造設備の概要の一例を示す図である。 図7は、連続鋳造設備の鋳型付近の断面の一例を示す図である。
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
<着想>
特許文献1、2に記載のように、気泡等の分布や個数密度を導出すると、溶鋼の流速等を導出するための数値計算に加えて、気泡等の分布や個数密度を導出するための数値計算が必要になり、計算時間が長くなる。このため、オンライン(鋳造の段階)で鋳片の欠陥を推定することが容易ではない。一方で、製品歩留りや製品品質の低下の要因となる欠陥が鋳片に存在するか否かを推定することができれば、操業の変更や、鋳片に対する手入作業の必要性をいち早く判断することができ、製品歩留りや製品品質の低下を抑制することができる。そこで、本発明者らは、特許文献1、2に記載のように、気泡等の分布や個数密度といった、気泡等の詳細な情報を導出せずに、鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いのかそれとも低いのかを判定することによって鋳片の品質を推定することを着想した。
また、溶鋼1の流速が速ければ、所謂シェルウォッシングが生じ、気泡や介在物は、凝固シェル2に捕捉されづらくなる。また、凝固シェル2の厚みの時間微分値が大きい(凝固シェル2の成長速度が速い)と、気泡や介在物は、凝固シェル2に捕捉され易くなる。
以上のことから、本発明者らは、溶鋼1の流速と、凝固シェル2の厚みの時間微分値とから、鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いのかそれとも低いのかを判定することを着想した。以下に説明する実施形態は、以上のような着想に基づいてなされたものである。
このような着想の下で鋳片の欠陥を推定するためには、溶鋼1の流速と、凝固シェル2の厚みをオンラインで導出する必要がある。溶鋼1の流速と、凝固シェル2の厚みをオンラインで導出する方法自体は、例えば、特許文献3に記載のように公知の技術で実現することができる。そこで、まず、特許文献3に記載の技術を例に挙げ、溶鋼1の流速と、凝固シェル2の厚みをオンラインで導出する手法の一例を説明する。
ここで、溶鋼1の流速は、凝固シェル2に沿う速度境界層内の流速ではなく、凝固シェル2に沿う速度境界層の外縁(速度境界層と主流となっている領域との境界)における流速である。
また、非特許文献1に記載のように、溶鋼1の流速は、溶鋼1と凝固シェル2との間の熱伝達係数(単位温度差あたりの熱流束)の関数として表される。溶鋼1と凝固シェル2との間の熱伝達係数に基づいて溶鋼1の流速を導出してもよいが、本発明者らは、溶鋼1の流速に代えて、溶鋼1と凝固シェル2との間の熱伝達係数を用いても鋳片の欠陥の推定精度に大きな差が生じないという知見を得た。そこで、計算時間をより短縮するために、本実施形態では、溶鋼1の流速に代えて、溶鋼1と凝固シェル2との間の熱伝達係数を用いる場合を例に挙げて説明する。
また、本実施形態では、鋳片の欠陥がピンホールである場合を例に挙げて説明する。
<鋳型4内の凝固状態の推定方法>
図1は、連続鋳造設備の鋳型付近の断面の一部(浸漬ノズルを除く右半分)を示す図である。溶鋼1から鋳型4用の冷却水5までの間に凝固シェル2、モールドフラックス層3、および鋳型4の各熱伝導体が存在する。鋳型4には、複数の測温手段である熱電対7が鋳造方向(鋳型4の高さ方向、z軸方向)に位置をずらして埋設されている。また、鋳片の欠陥を推定する装置として機能する鋳片品質推定装置100が装備されている。鋳片品質推定装置100は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、および各種のインターフェースを備えた情報処理装置、または、専用のハードウェアを用いることにより実現される。
本実施形態において使用する数理モデルについて説明する。一般に、数理モデルは現象の要因となる構成の簡略化によって異なるものが考えられるため、同じ現象を表すにも複数の選択肢がある。本実施形態で使用する数理モデルは、図1に示すように、鋳型内壁面垂直方向(鋳型4の幅(鋳造幅)方向(x軸方向))、および、鋳造方向(z軸方向)の2方向からなる2次元断面上で、溶融金属から、凝固シェル2、モールドフラックス層3、鋳型4、冷却水5までの範囲における凝固伝熱現象を表す数理モデル(即ち、鋳型4の短辺における溶鋼1の凝固状態を推定する数理モデル)であり、その数理モデルの枠組みの中で後述する逆問題が成立し、なおかつ、その逆問題を数値的・近似的に解くことができるものである。前記条件を満たすモデルのうち、計算機で実行可能となるものには、鋳型4内の凝固伝熱現象を表す式(1)〜式(5)を連立した偏微分方程式と、鋳型4を通過する熱流束を異なる表現で表した式(6)〜式(8)を組み合わせたものがある。
Figure 2020069494
ここで、tは時間である。zはz=0を溶鋼1の湯面レベルとした鋳造方向の座標である。xはx=0を鋳型4の内壁面の位置とした鋳型内壁面垂直方向の座標である。zeは鋳型4に埋設された熱電対7のうち、最下端にある熱電対7の鋳造方向の位置である。csは凝固シェル2の比熱、ρsは凝固シェル2の密度、λsは凝固シェル2の熱伝導率、Lは凝固潜熱である。Vcは鋳造速度である。T0は溶鋼1の温度、Tsは凝固温度、Tm=Tm(t,z)は鋳型4の内壁面の温度、T=T(t,z,x)は凝固シェル2の温度である。s=s(t,z)は凝固シェル2の厚み(鋳型4の内壁面に垂直な方向の長さ(x軸方向、以下、必要に応じて鋳型内壁面垂直方向と称する))である。α=α(t,z)は、モールドフラックス層3を間に挟む凝固シェル2と鋳型4との間の熱伝達係数である。β=β(t,z)は溶鋼1と凝固シェル2との間の熱伝達係数である。qout=qout(t,z)は鋳型4を通過する熱流束である。λmは鋳型4の熱伝導率である。d1は鋳型4の内壁面からの熱電対7の埋め込み深さ(鋳型内壁面垂直方向の距離)、d2は熱電対7から冷却水5までの鋳型内壁面垂直方向の距離である。hwは鋳型4と冷却水5との間の熱伝達係数である。Tc=Tc(t,z)は熱電対7の埋め込み深さ位置での鋳型4の温度である。Tw=Tw(t,z)は冷却水5の温度である。
この数理モデルは、鋳型4の内壁面に並行な水平方向に関し温度変化がほとんどなく、凝固シェル2内の鋳造方向の熱流束が鋳型内壁面垂直方向に比べて極端に小さい鋳型4内の状態を模擬するモデルと、熱伝導率の高い鋳型4の伝熱現象を模擬するモデルとの組み合わせである。後述するプロファイル法によってα、βおよびTmが与えられていれば、凝固シェル2の温度分布Tと凝固シェル2の厚みsの近似解を構成することができ、現象を模擬する上で十分な精度と数値計算負荷の軽量化が両立する。この特徴から、後述する逆問題を解くリアルタイム計算が可能となる。
次に、前記数理モデルのプロファイル法による近似解の導出を説明する。プロファイル法は、対象としている偏微分方程式そのものを解く方法ではなく、偏微分方程式の解が満たす条件をいくつか導出しておき、その条件を満たす解に関して、プロファイルに制約を設けて求める方法である。具体的には以下のようにする。まず、変数(t,z)から式(9)による変数変換によって、(t0,η)を新たな変数とし、式(1)〜式(5)を変換し、式(6)を用いてαを消去すると、それぞれ式(10)〜式(14)となる。
Figure 2020069494
式(10)〜式(14)には、t0の微分が現れないため、以降では、t0を固定値として取り扱う。次に、プロファイル法に利用する関数Ψを式(15)で定義する。
Figure 2020069494
このΨをηで微分し、式(10)〜式(13)を用いると、熱流束の収支を表す式(16)を得る。
Figure 2020069494
式(16)は、式(15)の両辺をηで微分して式(17)を代入することにより得られる。
Figure 2020069494
また、式(13)の両辺をηで微分すると、式(18)が得られ、式(10)と式(13)を満たすTが存在すれば、境界でも式(10)の等号が成り立つことから、式(12)を用いて式(18)から∂T/∂η及び∂s/∂ηを消去すると、式(19)を得る。
Figure 2020069494
以上をまとめて、プロファイル法による近似解が満たす条件として、式(20)〜式(26)を採用する。
Figure 2020069494
Tのプロファイルをxに関し2次として、式(25)を常に満たすように、式(27)でTを与える。
Figure 2020069494
ここで、a=a(η)およびb=b(η)はxと独立であり、式(27)を式(22)および式(24)に代入することで具体的に求めることができる。式(27)をxで微分すると式(28)が成り立ち、式(22)および式(24)〜式(29)が得られるため、熱流束が溶鋼1側から凝固シェル2へ向かうことを表す∂T/∂x|x=s>0の条件の下、式(30)および式(31)を得る。
Figure 2020069494
また、式(27)をxについて積分すると式(32)になることから、式(20)に式(32)、式(31)、式(30)を代入することで、式(33)を得る。
Figure 2020069494
一方、式(27)にx=0、式(31)および式(30)を代入すると、式(34)を得る。
Figure 2020069494
この式(34)に式(23)を代入し、T|x=0−Tmで整理すれば、式(35)を得る。
Figure 2020069494
ただし、上記A2、A1、およびA0はそれぞれ式(36)、式(37)、および式(38)で与えられる。
Figure 2020069494
式(34)でs=0であればT|x=0=Tsになることを考慮すると、T|x=0に関する式(35)の2つの解のうち、式(39)で与えられるT|x=0が、式(34)と式(23)を同時に満足する。
Figure 2020069494
以上をまとめると、プロファイル法による近似解は、式(40)〜式(44)を満たす。
Figure 2020069494
ただし、式(41)のA2、A1、及びA0は式(36)〜式(38)で与えられるものである。式(40)〜式(44)を満たすsを構成できれば、式(42)からqoutが求まる。このため、式(30)および(31)から式(27)でTが定まり、式(20)〜式(26)を満たすことが判る。従って、式(40)〜式(44)を満たすsが求まれば、プロファイル法による近似解が構成できることになる。これは、式(43)を差分化することで、数値的に得ることができる。具体的には下記のようになる。cs、ρs、λs、L、T0、Tsを既知定数とし、ηに関し、計算点をη0=0、ηi=ηi-1+dη(dη>0、i=1、2、・・・、n)、ηn=ze/Vcとする。α、β、およびTmがη=ηiで与えられているとして、それぞれαi、βi、およびTmiとする。式(43)をオイラー法で差分化し、Ψ(ηi)の近似値をΨiで表すと、式(45)のようになる。
Figure 2020069494
このようにするとs(ηi)の近似値siは、以下に示すように帰納的に計算することができる。まず、式(40)よりs0=0となり、式(44)からΨ0=0となる。次に、si及びΨiが与えられている場合、式(36)〜式(38)のα、β、Tm、およびsにそれぞれαi、βi、Tmi、およびsiを代入すると、式(41)からT|x=0が求まり、式(42)からqoutが求まり、従って、式(45)からΨi+1が求まる。次に、式(44)のΨ及びβにそれぞれΨi+1及びβi+1を代入し、qoutに式(42)で得られているqoutを代入して、sについて解き、si+1とする。この方法によりsi及びΨiからsi+1及びΨi+1が求まる。このため、帰納的にsiを定めることができる。
以上により、cs、ρs、λs、L、T0、Ts、Vcが既知であり、α、β、Tmが与えられれば、t0を任意時刻として、η∈[0,ze/Vc]に対しt=t0+η、z=Vc・η上で、Tとsを、プロファイル法を用いて求めることができる。以下、前記プロファイル法で得られるTおよびsをα、β、およびTmに因っているとして、式(46)のように表す。
Figure 2020069494
次に、逆問題としての定式化とその解法について説明する。逆問題は、結果から原因を推定する問題の総称である。鋳型4内の凝固伝熱現象を表す数理モデルの枠組みの中では、次のようになる。λm、d1、d2、hw、cs、ρs、λs、L、T0、Ts、Tw、およびVcを既知とし、z1∈(0,ze)に対し、t1−z1/Vcが鋳造時間中になるような(t1,z1)において、t0=t1−z1/Vcとし、η∈(0,z1/Vc)に対し鋳型4に埋設された熱電対7による計測値をt=t0+η、z=Vc・η上で補間したTcが得られているとき、式(7)および式(8)から鋳型4の内壁面の温度および鋳型4を通過する熱流束である式(47)および式(48)は直ちに計算できる。
Figure 2020069494
一方、式(6)および式(7)から、モールドフラックス層3を通過する熱流束は式(49)で表せる。
Figure 2020069494
従って、式(48)で与えられるqoutに対し、式(49)が成り立つようにαおよびβを推定する問題が鋳型4内の凝固伝熱現象における逆問題となる。この逆問題は、式(48)で与えられるqoutに対し、式(50)で表せる最小自乗法による最小化問題を解くことに帰着される。
Figure 2020069494
ここで、η0=0、ηi=ηi-1+dη(dη>0、i=1、2、・・・、n)、ηn=z1/Vcであり、前述したとおり、Tprof(α、β、Tm)が数値的に計算できることから、前記最小化問題は、ガウス・ニュートン法等を用いた一般的な数値解法で解くことができる。この式(50)の最小化問題を解くことにより各時刻、各位置(t,z)において決定したα、β、およびTmを式(46)に適用すれば、凝固シェル2の厚み、及び凝固シェル2の温度が得られる。このため、(t,z)における鋳型内凝固状態推定量である熱伝達係数α、熱伝達係数β、凝固シェル2の厚みs、凝固シェル2の温度Tが得られる。この鋳型内凝固状態推定量を、以下では、それぞれαest(t,z)、βest(t,z)、sest(t,z)、Test(t,z,x)と表すことにする。
以上のように、複数の熱電対7により測定された温度を用いて、非定常伝熱逆問題解析を行うことにより、鋳型内凝固状態推定量が導出される。ここで、非定常伝熱逆問題とは、計算領域を支配する非定常熱伝導方程式を基にして、当該非定常熱伝導方程式で求める解となる領域内部の温度情報を既知として、領域境界での温度や熱流束や熱伝達係数などの、当該非定常熱伝導方程式を解く際の境界条件または初期条件を推定する問題を指す。これに対して、非定常伝熱順問題は、既知である境界条件を基にして、領域内部の温度情報を推定する問題を指す。
以上が、特許文献3に記載の鋳型4内の凝固状態の推定方法である。
<熱電対7の位置>
熱電対7の埋設位置は、鋳造状況を監視するために従来から使用している熱電対7の埋設位置(既存の鋳型4における熱電対7の埋設位置)でも、特許文献3に記載されている熱電対7の埋設位置でもよい。ただし、本実施形態では、鋳片の欠陥がピンホールである場合を例に挙げて説明する。ピンホールの発生要因となる気泡は、湯面下0〜100[mm]の範囲内(鋳型4内の溶鋼1の湯面レベルの位置を最高位置とし、鋳型4内の溶鋼1の湯面レベルの位置より100[mm]下方の位置(鋳型4内の溶鋼1の湯面レベルの位置から、鋳型4の高さ方向(z軸方向)に沿って下方に100[mm]離れた位置)を最低位置とする範囲内)で凝固シェル2に捕捉される。従って、この範囲内の熱伝達係数βおよび凝固シェル2の厚みsを導出することができるように、熱電対7の埋設位置がこのような範囲内の位置を含むようにする。
<鋳片品質推定装置100>
図2は、鋳片品質推定装置100の機能的な構成の一例を示す図である。
[温度取得部201]
温度取得部201は、鋳造方向の埋設位置が相互に異なる複数の熱電対7で測定された温度を取得する。温度取得部201は、取得した温度を用いて補間処理および補外処理の少なくとも何れか一方を行うことにより、鋳造方向における鋳型4の温度分布を導出する。これにより、熱電対7の埋め込み深さ位置での鋳型4の温度Tc(t,z)が得られる。温度取得部201は、複数の熱電対7で測定された温度を0.01[s]以上、20[s]以下の間隔で取得するのが好ましい。複数の熱電対7で測定された温度の取得間隔(サンプリング間隔)を0.01[s]未満とすると、鋳片品質推定装置100のメモリ容量が足りなくなる。このため、処理がオーバーフローを起こす虞がある。また、複数の熱電対7で測定された温度の取得間隔を0.01[s]未満としても、鋳片の欠陥の推定精度は大きく向上しない。
また、後述するように、本実施形態では、鋳型4の高さ方向(z軸方向)の位置であって、湯面下0〜100[mm]の範囲内の所定の一箇所の位置zpにおいて、1つの鋳片を鋳造しているときに導出される熱伝達係数βest(t,zp)および凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値をそれぞれ導出する。従って、複数の熱電対7で測定された温度の取得間隔が20[s]を上回ると、時間平均値を導出するために用いる熱伝達係数βest(t,zp)および凝固シェル2の厚みsest(t,zp)の数が少なくなるため、鋳片の欠陥の推定精度が低下する。以下の説明では、鋳型4の高さ方向(z軸方向)の位置であって、湯面下0〜100[mm]の範囲内の所定の一箇所の位置zpを、必要に応じて、推定位置zpと称する。
尚、鋳型4のサイズや物性値、および、鋳造対象となる溶鋼1の物性値に関し、事前に知ることのできる鋳型4の熱伝導率λm、鋳型4の内壁面からの熱電対7の埋め込み深さd1、熱電対7から冷却水5までの鋳型内壁面垂直方向の距離d2、鋳型4と冷却水5との間の熱伝達係数hw、凝固シェル2の比熱cs、凝固シェル2の密度ρs、凝固シェル2の熱伝導率λs、凝固潜熱L、および凝固温度Tsは既知とする。鋳造中に変化する可能性のある溶鋼1の温度T0、冷却水5の温度Tw、および鋳造速度Vcに関しては、平均的な値を用いることで既知とできるが、熱電対7の埋め込み深さ位置での鋳型4の温度Tcと同じく計測することが好ましい。
[熱流束導出部202]
熱流束導出部202は、温度取得部201で得られた、各熱電対7の埋め込み深さ位置での鋳型4の温度Tc(t,z)から式(48)を用いて、鋳型4を通過する熱流束qout(t,z)を導出する。
[鋳型内壁面温度導出部203]
鋳型内壁面温度導出部203は、温度取得部201で得られた、各熱電対7の埋め込み深さ位置での鋳型4の温度Tc(t,z)から式(47)を用いて、鋳型4の内壁面の温度Tm(t,z)を導出する。
[熱伝達係数導出部204]
熱伝達係数導出部204は、温度取得部201で得られた、熱電対7の埋め込み深さ位置での鋳型4の温度Tcと、熱流束導出部202で得られた、鋳型4を通過する熱流束qoutと、鋳型内壁面温度導出部203で得られた、鋳型4の内壁面の温度Tmとを用いて式(50)の最小化問題を解くことにより、熱伝達係数αest(t,z)、βest(t,z)を同時に導出(決定)する。
[凝固シェル厚導出部205]
凝固シェル厚導出部205は、鋳型内壁面温度導出部203で得られた、鋳型4の内壁面の温度Tmと、熱伝達係数導出部204で得られた、熱伝達係数αest(t,z)、βest(t,z)とを式(46)に適用して、凝固シェル2の厚みsest(t,z)および凝固シェル2の温度Test(t,z,x)を導出する。これにより、熱電対7による温度の測定時刻t、推定位置zpにおける凝固シェル2の厚みsest(t,zp)が得られる。尚、凝固シェル2の温度Test(t,z,x)については必ずしも導出する必要はない。
[凝固シェル厚時間微分値導出部206]
凝固シェル厚時間微分値導出部206は、時刻tにおける凝固シェル2の厚みsest(t,zp)の時間微分値δtest(t,zp)を導出する。例えば、凝固シェル厚時間微分値導出部206は、熱電対7において温度を取得する時間隔をΔt、推定位置zpの上方に隣接する凝固シェル2の厚みsestの計算位置をzqとして、以下の式(51)により凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)を導出する。尚、δtは、(sest(t,zp)に対する)時間微分(ラグランジュ微分)を表す記号である。
Figure 2020069494
温度取得部201、熱流束導出部202、鋳型内壁面温度導出部203、熱伝達係数導出部204、凝固シェル厚導出部205、および凝固シェル厚時間微分値導出部206における処理は、熱電対7で測定された温度が取得される度に繰り返し行われる。
[平均値導出部207]
平均値導出部207は、1つの鋳片に対して熱伝達係数導出部204により導出された熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値を導出する。また、平均値導出部207は、1つの鋳片に対して凝固シェル厚時間微分値導出部206により導出された凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値を導出する。
例えば、平均値導出部207は、鋳造スケジュールから、1つのキャストで鋳造される鋳片の識別情報としての識別番号と、当該識別番号で識別される鋳片の鋳造順と、当該識別番号で識別される鋳片の長さとを特定する。
そして、平均値導出部207は、キャストの開始の時刻からの経過時間と、鋳造速度Vcと、推定位置zp(z軸の座標)とに基づいて、推定位置zpを通過した鋼の長さ(当該キャストにおいて推定位置zpよりも下流側にある鋼の長さ)を特定する。
平均値導出部207は、以上のようにして特定した、鋳片の識別番号、鋳造順、および長さと、推定位置zpを通過した鋼の長さとに基づいて、現時点において、どの識別番号の鋳片(鋼)が推定位置zpを通過したのかを判定することができる。
例えば、或るキャストにおいて最初に鋳造される鋳片の識別番号がi1であり、当該鋳片の長さがX1であり、2番目に鋳造される鋳片の識別番号がi2であり、当該鋳片の長さがX2であるとする。
平均値導出部207は、キャストの開始の時刻から経過時間と、鋳造速度Vcと、推定位置zp(z軸の座標)とに基づいて、推定位置zpを通過した鋼の長さがX1になると、識別番号がi1の鋳片が推定位置zpを通過したと判定する。
平均値導出部207は、キャストの開始の時刻から、識別番号がi1の鋳片が推定位置zpを通過したと判定した時刻までの間に熱伝達係数導出部204により導出された熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値を、識別番号がi1の鋳片に対する値として導出する。また、平均値導出部207は、キャストの開始の時刻から、識別番号がi1の鋳片が推定位置zpを通過したと判定した時刻までの間に凝固シェル厚時間微分値導出部206により導出された凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値を、識別番号がi1の鋳片に対する値として導出する。
また、平均値導出部207は、キャストの開始の時刻から経過時間と、鋳造速度Vcと、推定位置zpの位置(z軸の座標)とに基づいて、推定位置zpを通過した鋼の長さがX1+X2になると、識別番号がi2の鋳片が推定位置zpを通過したと判定する。
平均値導出部207は、識別番号がi1の鋳片が推定位置zpを通過したと判定した時刻から、識別番号がi2の鋳片が推定位置zpを通過したと判定した時刻までの間に熱伝達係数導出部204により導出された熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値を、識別番号がi2の鋳片に対する値として導出する。また、平均値導出部207は、識別番号がi1の鋳片が推定位置zpを通過したと判定した時刻から、識別番号がi2の鋳片が推定位置zpを通過したと判定した時刻までの間に凝固シェル厚時間微分値導出部206により導出された凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値を、識別番号がi2の鋳片に対する値として導出する。尚、チャージとチャージとの間に何れの鋳片にもならない部分が生じる場合には、当該部分の長さを考慮して、各鋳片が推定位置zpを通過したか否かを判定する。
[欠陥実績取得部208]
欠陥実績取得部208は、連続鋳造設備で実際に製造された鋳片の欠陥の有無を示す情報を欠陥実績情報として取得する。本実施形態では、欠陥がピンホールである場合を例に挙げて説明する。従って、実際に製造された鋳片の欠陥の有無は、例えば、検査員の目視によって判定することができる。尚、鋳片に欠陥があっても、当該欠陥が、製品歩留りや製品品質の観点から問題のない欠陥である場合には、欠陥がないものとして扱ってもよい。即ち、実際に製造された鋳片に、製品歩留りや製品品質の観点から問題のある欠陥がある場合にのみ、実際に製造された鋳片に欠陥があると判定してもよい。本実施形態では、欠陥実績取得部208は、鋳片の識別番号と、当該識別番号の鋳片の欠陥の有無を示す情報とが相互に関連付けられた情報を欠陥実績情報として取得する。欠陥実績情報の取得形態として、例えば、鋳片品質推定装置100に対するオペレータによる入力操作、外部装置からの受信、および鋳片品質推定装置100に接続される可搬型の記憶媒体からの読み取りのうち、少なくとも何れか1つを採用することができる。
[実績設定部209]
実績設定部209は、熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値と、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値と、欠陥の有無を示す情報とを、鋳片毎(識別番号毎)に相互に関連付けて記憶する。即ち、実績設定部209は、平均値導出部207により導出された、熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値および凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値と、欠陥実績取得部208により取得された、欠陥実績情報とから、同じ識別番号の情報を抽出し、抽出した情報を当該識別番号と関連付ける。
実績設定部209は、このようにして関連付けた情報を、鋼種別・鋳造速度別・鋳造幅別に分類して記憶する。鋳片品質推定装置100には、各識別番号の鋳片の鋼種の情報と、鋳造幅の情報が予め設定されているものとする。また、鋳造速度は、ロール54の回転数(回転速度)に基づいて実績設定部209が導出しても、外部装置から取得されるようにしてもよい。鋳造速度は、例えば、ロール54の回転数(回転速度)に基づいて導出される。尚、鋼種については同じ鋼種に限らず、所定の属性(特性)が所定の範囲内である鋼種を同じ鋼種として扱って分類してもよい。鋳造速度・鋳造幅についても、同じ鋳造速度・鋳造幅に限らず、所定の範囲内である鋳造速度・鋳造幅を同じ鋳造速度として扱って分類してもよい。本実施形態では、所定の属性(特性)が所定の範囲内である鋼種を同じ鋼種として扱い、所定の範囲内である鋳造速度・鋳造幅を同じ鋳造速度・鋳造幅として扱うものとする。
以下の説明では、以上のようにして鋼種別・鋳造速度別・鋳造幅別に分類して記憶される情報を、必要に応じて、実績データと称する。
[判定式設定部210、判定式記憶部211]
判定式設定部210は、実績設定部209により、同一の鋼種、同一の鋳造速度、および同一の鋳造幅における実績データとして所定の数以上の実績データが記憶されたか否かを判定する。判定式設定部210は、同一の鋼種、同一の鋳造速度、および同一の鋳造幅における実績データとして所定の数以上の実績データが記憶されている場合、当該鋼種、当該鋳造速度、および当該鋳造幅における実績データを用いて、当該鋼種、当該鋳造速度、および当該鋳造幅における判定式を設定する。ここで、所定の数は、後述する係数kを導出するために必要な数であればよいが、100以上とするのが好ましく、1000以上とするのがより好ましく、10000以上とするのがさらに好ましい。例えば、所定の数は、後述する係数kの値を導出するための公知の線形分類器等のアルゴリズムに応じて定めることができ、多いほどけ分類精度は高まるが計算負荷も高くなる。従って、例えば、実績データに対応する模擬データを用いて、当該アルゴリズムにおける分類精度と計算負荷との関係を調査し、実用的な計算時間内で分類精度が実用上要求される値以上になるように、所定の数を決定することができる。このようにして決定される所定の数は、鋳片品質推定装置100に予め設定されているものとする。
<着想>の項で説明したように、溶鋼1の流速が速ければ、気泡や介在物は、凝固シェル2に捕捉されづらくなる。また、凝固シェル2の厚みの時間微分値が大きい(凝固シェル2の成長速度が速い)と、気泡や介在物は、凝固シェル2に捕捉され易くなる。このことから、本発明者らは、推定位置zpにおいて計算された、溶鋼1の流速v(熱伝達係数β)および凝固シェル2の厚みの時間微分値δtsにより定まる点が、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtsが大きくなるにつれて、溶鋼1の流速v(熱伝達係数β)が大きくなる関係を示す関数を境界とする2つの範囲の何れの範囲にあるかによって、鋳片に欠陥が存在する確率が高いか否かを判定することができることを見出した。具体的に、推定位置zpにおいて計算された溶鋼1の流速v(熱伝達係数β)が、推定位置zpにおいて計算された凝固シェル2の厚みの時間微分値δtsを当該関数に与えることにより導出される溶鋼1の流速v(熱伝達係数β)を上回る(または以上である)場合には、鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に低く、そうでない場合には、鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いと判定することができることを見出した。
更に、本発明者らは、当該関数として、溶鋼1の流速v(熱伝達係数β)が、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtsを正の係数(=k>0)倍した値に等しいことを示す関数(v=k・δtsまたはβ=k・δts)に基づいて、鋳片に欠陥が存在する確率が高いか否かを精度良く判定することができることを見出した。
即ち、推定位置zpにおいて計算された溶鋼1の流速v(熱伝達係数β)が、推定位置zpにおいて計算された凝固シェル2の厚みの時間微分値δtsに係数kを乗算することにより導出される溶鋼1の流速v(熱伝達係数β)を上回る(または以上である)場合(即ち、式(52a)、式(52b)、式(53a)、または式(53b)を満たす場合)には、鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に低く、そうでない場合には、鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いと判定することができる。
v>k・δts ・・・(52a)
v≧k・δts ・・・(52b)
β>k・δts ・・・(53a)
β≧k・δts ・・・(53b)
本実施形態では、溶鋼1の流速vに代えて、熱伝達係数βを用いる。従って、式(53a)または式(53b)を用いる。以下の説明では、式(53a)を用いるものとする。
判定式設定部210は、同一の鋼種、同一の鋳造速度、および同一の鋳造幅における実績データとして所定の数以上の実績データが記憶されている場合、当該鋼種、当該鋳造速度、および当該鋳造幅における実績データを用いて、当該鋼種、当該鋳造速度、および当該鋳造幅における係数kを導出する。即ち、判定式設定部210は、係数kの値を、例えば、公知の線形分類器のアルゴリズムを適用することにより導出する。
鋳片の欠陥の有無の推定精度(鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に低いとするレベル、鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いとするレベル、又はその両方)として要求される精度に応じて、実績データを、鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に低いと判定されるものと、そうでないものとに分類するように係数kを設定することができれば、必ずしも、判定式設定部210が、係数kの値を自動的に導出する必要はない。例えば、オペレータが係数kを決定してもよい。このようにする場合、判定式設定部210は、オペレータにより決定された係数kを取得することになる。式(52a)〜式(53b)では、係数k(傾き)だけを決定すればよいので、オペレータであっても容易に決定することができる。
判定式設定部210は、以上のようにして係数kを導出することを、鋼種別・鋳造速度別・鋳造幅別に行うことにより、鋼種別・鋳造速度別・鋳造幅別に係数kを導出することができる。鋼種、鋳造速度、および鋳造幅を限定することによって溶鋼中の介在物・気泡の分布の状態は限定される。従って、このようにして同一の鋼種、同一の鋳造速度、および同一の鋳造幅における判定式(ここでは式(53a)の係数k)を設定し、当該判定式を用いて後述する欠陥有無判定部212により鋳片に欠陥が存在するか否かを判定することによって鋳片の品質を高精度に推定することが可能になる。
判定式記憶部211は、判定式設定部210により導出された、鋼種別・鋳造速度別・鋳造幅別の係数kの値を記憶する。
以上のようにして、判定式記憶部211に、所定の鋼種、所定の鋳造速度、および所定の鋳造幅における係数kの値が記憶されると、鋳片に欠陥が存在するか否かの推定のための処理を開始することができる。
判定式記憶部211に、所定の鋼種、所定の鋳造速度、および所定の鋳造幅における係数kの値が記憶された後に、前述したようにして、温度取得部201、熱流束導出部202、鋳型内壁面温度導出部203、熱伝達係数導出部204、凝固シェル厚導出部205、および凝固シェル厚時間微分値導出部206による処理が、熱電対7で測定された温度が取得される度に実行される。そして、平均値導出部207により、熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値と、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値とが、1つの鋳片毎に導出される。このようにして導出された、熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値および凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値は、欠陥有無判定部212に出力される。
[欠陥有無判定部212]
欠陥有無判定部212は、判定式記憶部211に、所定の鋼種、所定の鋳造速度、および所定の鋳造幅における係数kの値が記憶された後に起動する。
欠陥有無判定部212は、現時点において、どの識別番号の鋳片(鋼)が推定位置zpを通過したのかを判定する。この判定は、[平均値導出部207]の項で説明した方法と同じ方法で実現することができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。そして、欠陥有無判定部212は、現時点において推定位置zpを通過した鋳片の鋼種および鋳造幅と、現時点における鋳造速度とを取得する。鋼種および鋳造幅は、識別番号を参照することによって、鋳片品質推定装置100に予め設定されている鋼種の情報と鋳造幅の情報の中から現時点において推定位置zpを通過した鋳片に関するものを取得する。鋳造速度は、ロール54の回転数(回転速度)に基づいて欠陥有無判定部212が導出しても、外部装置から取得されるようにしてもよい。
そして、欠陥有無判定部212は、以上のようにして取得された鋼種、鋳造速度、および鋳造幅に対応する係数kを、判定式記憶部211から読み出し、式(53a)に代入する。欠陥有無判定部212は、平均値導出部207から出力された、熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値および凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値が、読み出した係数kを代入した式(53a)を満足するか否かを判定する。
この判定の結果、熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値と、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値が、式(53a)を満足する場合、前述したようにして特定された識別番号の鋳片に欠陥が存在する確率は相対的に低いと判定し、そうでない場合には、前述したようにして特定された識別番号の鋳片に欠陥が存在する確率は相対的に高いと判定する。
欠陥有無判定部212は、以上のような判定を、平均値導出部207から、熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値および凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値が出力される度に実行する。従って、推定対象の鋳片が製造される前に、欠陥有無判定部212によって、当該鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いのかそれとも低いのかが判定される。
[出力部213]
出力部213は、欠陥有無判定部212による判定の結果を示す情報を欠陥有無情報として出力する。本実施形態では、鋳片の識別番号と、当該識別番号の鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いのかそれとも低いのかを示す情報とを含む情報を欠陥有無情報とする。欠陥有無情報の出力の形態としては、例えば、コンピュータディスプレイへの表示、外部装置への送信、および鋳片品質推定装置100の外部または内部の記憶媒体への記憶のうち、少なくとも何れか1つを採用することができる。
<調査結果>
図3は、鋳片に欠陥が存在するか否かを判定するための判定式(式(53a))の一例をグラフ化して示す図である。図3の横軸は、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値であり、縦軸は、熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値である。
ここでは、IF鋼のスラブを調査対象とし、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値および熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値は、長辺において導出(後述する第7の変形例)した。鋳造幅は、1000〜1200[mm]であり、鋳造速度は、1.0〜1.1[m/min]であり、スラブの数は、137873枚である。推定対象の欠陥をピンホールとし、連続鋳造設備で実際に製造されたスラブにピンホールが存在するか否かを目視で観察することにより判定した。
図3において、黒丸は、ピンホールがあったスラブに対する値を示し、白丸は、ピンホールがなかったスラブに対する値を示す。これらの値から、係数kとして、18200[kcal・min/m3・hr・K]が得られた。この場合、式(53a)を満足する値のうち、ピンホールがあったスラブに対する値の、式(53a)を満足する値に対する割合は、0.00038(=19/50111)であった。また、式(53a)を満足しない値のうち、ピンホールのあったスラブに対する値の、式(53a)を満足しない値に対する割合は、0.089(=7811/87762)であった。このように、式(53a)を満足する範囲では、ピンホールがあったスラブの数の割合は1[%]を大きく下回っており、十分に低いレベルである。従って、式(53a)式を満足するか否かによって、IF鋼のスラブにピンホールが存在する確率が相対的に高いのかそれとも低いのかを判定すれば、IF鋼のスラブにピンホールが存在するか否かをオンライン(鋳造の段階)で高精度に推定することができることが分かる。尚、表記の都合上、図3に示す黒丸および白丸の数は、実際のスラブの数(13787)よりも少ない。
<動作フローチャート>
図4のフローチャートを参照しながら、鋳片に欠陥が存在するか否かを判定するための判定式(式(53a))を設定する際の鋳片品質推定装置100の動作の一例を説明する。尚、前述した計算で使用する既知の値については、図4のフローチャートの開始前に得られているものとする。
まず、ステップS401において、温度取得部201は、鋳造方向の位置が異なる複数の熱電対7で測定された温度を取得し、各熱電対7の埋め込み深さ位置での鋳型4の温度Tc(t,z)を取得する。
次に、ステップS402において、熱流束導出部202は、ステップS401で得られた、各熱電対7の埋め込み深さ位置での鋳型4の温度Tc(t,z)から式(48)を用いて、鋳型4を通過する熱流束qout(t,z)を導出する。
次に、ステップS403において、鋳型内壁面温度導出部203は、ステップS401で得られた、各熱電対7の埋め込み深さ位置での鋳型4の温度Tc(t,z)から式(47)を用いて、鋳型4の内壁面の温度Tm(t,z)を導出する。
次に、ステップS404において、熱伝達係数導出部204は、ステップS401で得られた、各熱電対7の埋め込み深さ位置での鋳型4の温度Tcと、ステップS402で得られた、鋳型4を通過する熱流束qoutと、ステップS403で得られた、鋳型4の内壁面の温度Tmとを用いて式(50)の最小化問題を解くことにより、熱伝達係数αest(t,z)、βest(t,z)を同時に決定する。
次に、ステップS405において、凝固シェル厚導出部205は、ステップS403で得られた、鋳型4の内壁面の温度Tmと、ステップS404で得られた、熱伝達係数αest(t,z)、βest(t,z)とを式(46)に適用して、凝固シェル2の厚みsest(t,z)を導出し、推定位置zpにおける凝固シェル2の厚みsest(t,zp)を導出する。
次に、ステップS406において、凝固シェル厚時間微分値導出部206は、時刻tにおける凝固シェル2の厚みsest(t,zp)の時間微分値δtest(t,zp)を導出する。
次に、ステップS407において、平均値導出部207は、熱伝達係数βest(t,zp)および凝固シェル2の厚みsest(t,zp)の時間微分値δtest(t,zp)のデータとして、1つの鋳片に対するデータが得られたか否かを判定する。この判定の結果、1つの鋳片に対するデータが得られていない場合、処理は、ステップS401に戻る。そして、1つの鋳片に対するデータが得られるまで、ステップS401〜S407の処理が繰り返し実行される。
そして、1つの鋳片に対するデータが得られると、処理は、ステップS408に進む。ステップS408において、平均値導出部207は、1つの鋳片に対してステップS404、S406で導出された、熱伝達係数βest(t,zp)、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値をそれぞれ導出する。
次に、ステップS409において、欠陥実績取得部208は、欠陥実績情報(鋳片の識別番号と、当該識別番号の鋳片の欠陥の有無を示す情報)を取得する。
次に、ステップS410において、実績設定部209は、熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値と、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値と、欠陥の有無を示す情報とを、鋼種別・鋳造速度別・鋳造幅別に分類し、実績データとして記憶する。
次に、ステップS411において、判定式設定部210は、所定の実績データが記憶されたか否かを判定する。所定の実績データとは、鋼種、鋳造速度、および鋳造幅の組み合わせとして予め設定されている1つまたは複数の組み合わせのそれぞれについての予め設定された数以上の実績データを指す。
この判定の結果、所定の実績データが記憶されていない場合、処理は、ステップS401に戻る。そして、所定の実績データが記憶されるまで、ステップS401〜S411の処理が繰り返し実行される。
そして、所定の実績データが記憶されると、処理は、ステップS412に進む。ステップS412において、判定式設定部210は、ステップS410で記憶された実績データ(熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値および凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値)を用いて、係数kを導出することを、鋼種別・鋳造速度別・鋳造幅別に行う。
次に、ステップS413において、判定式記憶部211は、ステップS412で導出された、鋼種別・鋳造速度別・鋳造幅別の係数kの値を記憶する。そして、図4のフローチャートによる処理が終了する。
次に、図5のフローチャートを参照しながら、鋳片に欠陥が存在するか否かを推定する際の鋳片品質推定装置100の動作の一例を説明する。尚、図5のフローチャートは、図4のフローチャートが実行された後に開始される。また、前述した計算で使用する既知の値については、図5のフローチャートの開始前に得られているものとする。
図5のステップS501〜S508は、図4のステップS401〜S408と同じであるため、その詳細な説明を省略する。ステップS508において、1つの鋳片に対して、熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値と、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値とが導出される。
ステップS509において、欠陥有無判定部212は、現時点において推定位置zpを通過した鋳片の鋼種および鋳造幅と、現時点における鋳造速度とを取得し、取得された鋼種、鋳造速度、および鋳造幅に対応する係数kを読み出す。そして、欠陥有無判定部212は、ステップS508で導出された、熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値と、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値が、読み出した係数kを代入した式(53a)を満足するか否かを判定する。欠陥有無判定部212は、式(53a)を満足する場合、前述したようにして特定された識別番号の鋳片に欠陥が存在する確率が低いと判定し、そうでない場合には、当該鋳片に欠陥が存在する確率が高いと判定する。
この判定の結果、鋳片に欠陥が存在する確率が低い場合、処理は、ステップS510に進む。ステップS510において、出力部213は、推定対象の鋳片の識別番号と、当該識別番号の鋳片に欠陥が存在する確率が低いことを示す情報とを含む情報を欠陥有無情報として出力する。そして、図5のフローチャートによる処理が終了する。
一方、ステップS509の判定の結果、鋳片に欠陥が存在する確率が高い場合、処理は、ステップS511に進む。ステップS511において、出力部213は、推定対象の鋳片の識別番号と、当該識別番号の鋳片に欠陥が存在する確率が高いことを示す情報とを含む情報を欠陥有無情報として出力する。そして、図5のフローチャートによる処理が終了する。
以上のようにして、鋳片の識別番号と、当該識別番号の鋳片に欠陥が存在する確率が低いことを示す情報とを含む情報が出力された場合、作業者は、当該鋳片に対し、表層除去装置56により、表層の除去(溶削や研削)を行う必要はないと判断する。この場合、当該鋳片に対し、表層の除去(溶削や研削)は行われない。
一方、鋳片の識別番号と、当該識別番号の鋳片に欠陥が存在する確率が低いことを示す情報とを含む情報が出力された場合、作業者は、当該鋳片に対し、表層除去装置56により、表層の除去(溶削や研削)を行う必要があると判断する。この場合、表層除去装置56により、当該鋳片に対し、表層の除去(溶削や研削)が行われる。
以上のようにすれば、鋳片の欠陥の有無を検査する工程を省略することができる。
また、鋳片の欠陥の有無を検査する工程における作業者は、欠陥有無情報を参考に、鋳片の欠陥の有無を事前に推定した上で検査することができ、検査負担を軽減することができる。
尚、全ての鋳片を、ピンホールの有無の検査対象とせずに、一部の鋳片のみを、ピンホールの有無の検査対象とする場合には、当該一部の鋳片以外の鋳片に対してのみ、鋳片の識別番号と、当該識別番号の鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いのかそれとも低いのかを示す情報を出力する構成を採用することができる。このようにする場合には、式(53a)を満足しない場合であっても、ピンホールの有無の検査対象ではない鋳片に対しては、(検査自体が行われないので)表層の除去(溶削や研削)は行われない。ただし、ピンホールの有無の検査対象であるか否かに関わらず、鋳片の識別番号と、当該識別番号の鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いのかそれとも低いのかを示す情報を出力する構成を採用し、検査対象ではない鋳片に対しても、表層の除去(溶削や研削)を行うようにしてもよい。
<まとめ>
以上のように本実施形態では、鋳片品質推定装置100は、kを予め設定される正の係数として、熱伝達係数βと、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtsとの関係が、β>k・δtsを満足する場合に、鋳片に欠陥が存在する確率は相対的に低いと判定し、そうでない場合には、当該鋳片に欠陥が存在する確率は相対的に高いと判定する。従って、欠陥の個数密度や分布を導出するための数値計算が不要になるため、計算時間を短くすることができ、鋳片に欠陥が存在するか否かをオンライン(鋳造段階)で推定することができる。また、熱伝達係数βと、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtsとを指標とするので、鋳片に欠陥が存在するか否かを高精度に推定することができる。
また、本実施形態では、モールドフラックス層3および凝固シェル2にそれぞれ熱抵抗があるという条件の下で、熱伝達係数βおよび凝固シェル2の厚みsを導出する。具体的には、鋳造方向の埋設位置が相互に異なる複数の熱電対7で測定された温度を用いて、熱伝達係数α、βを、逆問題を解くことにより導出し、熱伝達係数α、βを用いて、凝固シェル2の厚みsを導出する。従って、モールドフラックス層3および凝固シェル2の影響を考慮して、熱伝達係数βおよび凝固シェル2の厚みsの時間微分値を導出することができる。よって、鋳片に欠陥が存在するか否かの推定精度をより向上させることができる。
また、以上のような推定の結果に応じて、表層の除去(溶削や研削)を行うか否かを切り替えることで、作業負荷を軽減することができる。
<変形例>
[第1の変形例]
本実施形態では、溶鋼1の流速vそのものではなく、溶鋼1の流速を反映する指標χの一例として熱伝達係数βを用いて、鋳片の欠陥の有無の推定を行う場合を例に挙げて説明した。しかしながら、熱伝達係数β(溶鋼1の流速を反映する指標χ)に代えて溶鋼1の流速vを用いてもよい。このようにする場合には、式(53a)、式(53b)ではなく、式(52a)または式(52b)を用いる。尚、非特許文献1に記載されているように、溶鋼1の流速vは、熱伝達係数βの関数として表されるので、例えば、熱伝達係数βを用いて溶鋼1の流速vを導出することができる。また、溶鋼1の流速を反映する指標χとして熱伝達係数β以外の指標を用いてもよい。
[第2の変形例]
本実施形態では、1つの鋳片毎に、熱伝達係数βest(t,zp)および凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値を用いる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、1つの鋳片毎に時間平均値をとる必要はない。例えば、チャージ単位で時間平均値をとってもよい。このようにする場合、当該チャージに含まれる複数の鋳片における欠陥の有無を推定することができる。
また、必ずしも時間平均値を用いる必要はない。例えば、熱伝達係数βest(t,zp)および凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の瞬時値を用いてもよい。このようにする場合、熱伝達係数βest(t,zp)および凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の瞬時値を、熱電対7で測定された温度が取得される度に、式(52a)〜式(53b)式に与えて、式(52a)〜式(53b)式による判定を行うことができる。
[第3の変形例]
本実施形態では、推定位置zpが固定である場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、鋳型4の高さ方向(z軸方向)の位置であって、各時刻tにおいて、湯面下0〜100[mm]の範囲内で熱伝達係数βest(t,z)が最大となる位置を推定位置zpとしてもよい。また、推定位置zpは、複数であってもよい。
[第4の変形例]
本実施形態では、鋳片に欠陥が存在するか否かを判定するための判定式が、式(52a)、式(52b)、式(53a)、または式(53b)で表される場合を例に挙げて説明した。しかしながら、鋳片に欠陥が存在するか否かを判定するための判定式は、これらに限定されない。例えば、切片が0以外の値となるようにしてもよい(各式のk・δtsをk・δts+b(b≠0)としてもよい)。また、溶鋼1の流速v(熱伝達係数β)と、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtsとの関係を非線形な関係として表現してもよい。このようにする場合、例えば、公知の非線形分類器のアルゴリズムを用いることができる。また、不等式の形ではなく、例えば、式(52a)、式(52b)、式(53a)、または式(53b)を満足しない範囲(第1の範囲)を示す情報と、鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いことを示す情報とを相互に関連づけると共に、式(52a)、式(52b)、式(53a)、または式(53b)を満足する範囲(第2の範囲)を示す情報と、鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に低いことを示す情報とを相互に関連づけて記憶するテーブルを予め作成しておいてもよい。このようにする場合、鋳片品質推定装置100は、当該テーブルを用いて、鋳片に欠陥が存在する確率は相対的に高いのかそれとも低いのかを判定する。
[第5の変形例]
本実施形態では、鋳片に存在する欠陥が、ピンホールである場合を例に挙げて説明した。しかしながら、鋳片に存在する欠陥は、ピンホールに限定されない。例えば、ピンホールが存在する可否かに加えてまたは代えて、凝固シェル2に巻き込まれる物質(非金属介在物やモールドフラックス(パウダー))が鋳片に存在するか否かを推定してもよい。このようにする場合、凝固シェル2に巻き込まれる物質の種類毎に、鋳片に欠陥が存在するか否かを判定するための判定式(本実施形態の例では、係数k)を事前に設定する。非金属介在物やモールドフラックス(パウダー)が凝固シェル2に巻き込まれる位置は、湯面下0〜100[mm]の位置に限らず、それよりも下の領域になることもある。従って、湯面下0〜100[mm]よりも下の位置における熱伝達係数βest(t,z)および凝固シェル2の厚みsest(t,z)を導出してもよい。
例えば、鋳片にピンホールが存在するか否かと、鋳片に非金属介在物が存在するか否かを判定する場合には、それぞれについて係数kを設定する。例えば、式(53a)を用いる場合、鋳片にピンホールが存在するか否かを判定するための判定式における係数kをk1とし、鋳片に或る非金属介在物が存在するか否かを判定するための判定式における係数kをk2とすると、以下の式(54a)および式(54b)の2つの判定式を設定する。
β>k1・δts ・・・(54a)
β>k2・δts ・・・(54b)
そして、本実施形態で説明した例では、欠陥有無判定部212は、平均値導出部207から出力された、熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値と、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値が、これら2つの判定式を満足するか否かを判定する。熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値と、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値が、式(54a)を満足する場合には、鋳片にピンホールが存在する確率は相対的に低いと判定し、そうでない場合には、鋳片にピンホールが存在する確率は相対的に高いと判定する。また、熱伝達係数βest(t,zp)の時間平均値と、凝固シェル2の厚みの時間微分値δtest(t,zp)の時間平均値が、式(54b)を満足する場合には、鋳片に非金属介在物が存在する確率は相対的に低いと判定し、そうでない場合には、鋳片に非金属介在物が存在する確率は相対的に高いと判定する。
[第6の変形例]
前述したように、モールドフラックス層3および凝固シェル2にそれぞれ熱抵抗があるという条件の下で、熱伝達係数βおよび凝固シェル2の厚みsを導出すれば、モールドフラックス層3および凝固シェル2の影響を考慮することができるので好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにして熱伝達係数βおよび凝固シェル2の厚みsを導出する必要はない。例えば、特許文献1に記載のようにして溶鋼1の流速vおよび凝固シェル2の厚みsを導出してもよい。
[第7の変形例]
本実施形態では、鋳型4の幅(鋳造幅)方向(x軸方向)および鋳造方向(z軸方向)の2方向からなる2次元断面上で鋳型4の短辺における溶鋼1の凝固状態を推定する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしも鋳型4の短辺における溶鋼1の凝固状態を推定しなくてもよい。例えば、鋳型4の厚み方向(y軸方向)および鋳造方向(z軸方向)の2方向からなる2次元断面上で鋳型4の長辺における溶鋼1の凝固状態を推定することもできる。また、鋳片は、スラブに限らず、ブルーム、ビレット等、連続鋳造設備で製造される鋳片であれば、どのような鋳片であってもよい。
[その他の変形例]
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
1:溶鋼、2:凝固シェル、3:モールドフラックス層、4:鋳型、5:冷却水、6:浸漬ノズル、7:熱電対、100:鋳片品質推定装置、201:温度取得部、202:熱流束導出部、203:鋳型内壁面温度導出部、204:熱伝達係数導出部、205:凝固シェル厚導出部、206:凝固シェル厚時間微分値導出部、207:平均値導出部、208:欠陥実績取得部、209:実績設定部、210:判定式設定部、211:判定式記憶部、212:欠陥有無判定部、213:出力部

Claims (14)

  1. 連続鋳造設備で製造される鋳片に欠陥が存在するか否かを推定する鋳片品質推定方法であって、
    鋳型に埋設された複数の測温手段であって、鋳造方向における位置が相互に異なる複数の測温手段で測定された温度を取得する温度取得工程と、
    前記温度取得工程により取得された温度を用いて、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する指標と、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値とを導出する導出工程と、
    前記導出工程により導出された、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標、および、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値に基づいて、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いのかそれとも低いのかを判定する判定工程と、を有し、
    前記判定工程は、前記導出工程により導出された、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標、および、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値が、予め設定されている第1の範囲および第2の範囲の何れの範囲に含まれるかによって、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いのかそれとも低いのかを判定し、
    前記第1の範囲は、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標と、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値とを用いて規定される範囲であって、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いことを示す範囲であり、
    前記第2の範囲は、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標と、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値とを用いて規定される範囲であって、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に低いことを示す範囲であることを特徴とする鋳片品質推定方法。
  2. 前記鋳片を鋳造している際に前記導出工程における方法と同じ方法で導出された、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標、および、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値と、実際に製造された当該鋳片に欠陥が存在するか否かを示す情報とをそれぞれが含む複数の実績データを用いて、前記第1の範囲および前記第2の範囲を設定する設定工程を更に有することを特徴とする請求項1に記載の鋳片品質推定方法。
  3. 前記判定工程は、前記導出工程により導出された、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標、および、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値が、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標と、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値とを変数として含む不等式を満足するか否かを判定することによって、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いのかそれとも低いのかを判定し、
    前記第1の範囲および前記第2の範囲は、前記不等式によって定められる範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の鋳片品質推定方法。
  4. 前記不等式は、以下の(A)式または(B)式であり、
    前記判定工程は、kを0を上回る係数として、前記導出工程により導出された、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標χ、および、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値δtsが、以下の(A)式または(B)式を満足する場合に、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に低いと判定し、そうでない場合に、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いと判定することを特徴とする請求項3に記載の鋳片品質推定方法。
    χ>k・δts ・・・(A)
    χ≧k・δts ・・・(B)
  5. 前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標は、前記鋳型内の溶鋼と凝固シェルとの間の熱伝達係数であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の鋳片品質推定方法。
  6. 前記鋳型内の凝固シェルと前記鋳型との間にはモールドフラックス層が存在し、
    前記導出工程は、前記温度取得工程により取得された温度を用いて、前記モールドフラックス層を挟む前記凝固シェルと前記鋳型との間の熱伝達係数αと、前記溶鋼と前記凝固シェルとの間の熱伝達係数βとを逆問題を解くことにより導出し、熱伝達係数αおよび熱伝達係数βに基づいて前記凝固シェルの厚みを導出し、前記凝固シェルの厚みに基づいて前記凝固シェルの厚みの時間微分値を導出することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の鋳片品質推定方法。
  7. 前記判定工程は、実際に前記鋳片が製造される前に、当該鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いのかそれとも低いのかを判定することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の鋳片品質推定方法。
  8. 前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標に代えて、前記鋳型内の溶鋼の流速を用いることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の鋳片品質推定方法。
  9. 前記欠陥は、ピンホール、非金属介在物、およびモールドフラックスの少なくとも何れか1つを含むことを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の鋳片品質推定方法。
  10. 前記欠陥は、ピンホールを含み、
    前記導出工程は、前記鋳型の湯面レベルの位置を最高位置とし、前記鋳型の湯面レベルの位置より100[mm]下方の位置を最低位置とする範囲内の何れかの位置において、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標と、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値とを導出することを特徴とする請求項9に記載の鋳片品質推定方法。
  11. 連続鋳造設備により製造された鋳片の表層を除去する表層除去工程を含む鋼材の製造方法であって、
    請求項9または10に記載の鋳片品質推定方法により、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に低いと判定された場合には、前記表層除去工程において、当該鋳片の表層を除去しないことを特徴とする鋼材の製造方法。
  12. 請求項9または10に記載の鋳片品質推定方法により、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いと判定された場合に、前記表層除去工程において、当該鋳片の表層を除去することを特徴とする請求項11に記載の鋼材の製造方法。
  13. 連続鋳造設備で製造される鋳片に欠陥が存在するか否かを推定する鋳片品質推定装置であって、
    鋳型に埋設された複数の測温手段であって、鋳造方向における位置が相互に異なる複数の測温手段で測定された温度を取得する温度取得手段と、
    前記温度取得手段により取得された温度を用いて、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する指標と、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値とを導出する導出手段と、
    前記導出手段により導出された、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標、および、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値に基づいて、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いかそれとも低いかを判定する判定手段と、を有し、
    前記判定手段は、前記導出手段により導出された、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標、および、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値が、予め設定されている第1の範囲および第2の範囲の何れの範囲に含まれるかによって、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いかそれとも低いかを判定し、
    前記第1の範囲は、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標と、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値とを用いて規定される範囲であって、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に高いことを示す範囲であり、
    前記第2の範囲は、前記鋳型内の溶鋼の流速を反映する前記指標と、前記鋳型内の凝固シェルの厚みの時間微分値とを用いて規定される範囲であって、前記鋳片に欠陥が存在する確率が相対的に低いことを示す範囲であることを特徴とする鋳片品質推定装置。
  14. 請求項1〜10の何れか1項に記載の鋳片品質推定方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
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