JP7332875B2 - 連続鋳造鋳型内可視化装置、方法、およびプログラム - Google Patents

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本発明は、連続鋳造鋳型内可視化装置、方法、およびプログラムに関し、特に、連続鋳造設備に用いて好適なものである。
図12は、連続鋳造設備の概略構成の一例を示す図である。尚、各図において、X軸、Y軸、Z軸は、向きを示すものである。○の中に×を示しているものは、紙面の手前側から奥側に向く方向を示す。
取鍋1からタンディッシュ2へ供給された溶鋼3は、鋳型4へ注入される。タンディッシュ2の底部にはスライディングノズル5が設けられている。スライディングノズル5の下部には、浸漬ノズル6が設けられている。浸漬ノズル6は、鋳型4の水平断面(Y-Z断面)の中央部に配置される。浸漬ノズル6の先端の側面には、左右一対の吐出口7a、7b(Y軸方向の両端の一対の吐出口7a、7b)が形成されている。浸漬ノズル6の先端(吐出口7a、7b)は、鋳型4内(鋳型4で囲まれた領域)に供給された溶鋼3に浸漬された状態にされる。図13は、鋳型4内の溶鋼3の流れの一例を示す図である。
タンディッシュ2に供給された溶鋼3は、スライディングノズル5を介して浸漬ノズル6内を流下し、左右一対の吐出口7a、7bから鋳型4内に注入される。左右一対の吐出口7a、7bから吐出された溶鋼3は、凝固シェル8に衝突した後、図13の矢印で表されるように上昇流と下降流とに分流される。図12に示す例では、吐出口7aから吐出される溶鋼3は、鋳型4の短辺部4aの内壁面の方向に吐出され、吐出口7bから吐出される溶鋼3は、鋳型4の短辺部4bの内壁面の方向に吐出される。
図13(a)に示すように、定常時では、左右一対の吐出口7a、7bから吐出される溶鋼の量はほぼ均等になっている。しかしながら、図13(b)に示すように、左右一対の吐出口7a、7bから吐出される溶鋼3の量が不均等になることがある。このように左右一対の吐出口7a、7bから吐出される溶鋼3の量が不均等になることを偏流という。偏流が生じると、浸漬ノズル6を挟んだ左右両側における溶鋼3の流速に差異が生じる。
かかる偏流が生じる原因としては、浸漬ノズル6の内面等にアルミナ等の酸化物が付着したり、吐出口7a、7bが溶損して吐出口7a、7bの形状が歪んだりすることが挙げられる。また、スライディングノズル5の構造上、溶鋼3が浸漬ノズル6内を軸対称に流下せず、左右何れかに偏って流下することも、偏流が生じる原因として挙げられる。
以上のような理由により鋳型4内で溶鋼3の偏流が生じると、浸漬ノズル6を挟んだ左右両側の領域のうち、溶鋼3の量が多い側の領域では、溶鋼3が凝固シェル8の内面に沿って上方および下方に勢いよく分流することになる。勢いの強い溶鋼3の上昇流は、溶鋼3の湯面(メニスカス)の盛り上がりを生起する。これにより、溶鋼3の湯面上に散布されたフラックスが鋳型4の内壁面と凝固シェル8との間に供給されるのが阻害される。そうすると、凝固シェル8の形状が不均一となりやすく、連続鋳造設備で鋳造される鋳片に発生する皺や割れ等の原因となる。
また、勢いの強い溶鋼3の下降流は、溶鋼3の深くまで達して非金属介在物の浮上を妨げる。非金属性介在物がストランド深くまで進入することは、連続鋳造設備で鋳造される鋳片に非金属介在物性欠陥をもたらす等の原因となる。溶鋼3の湯面レベル(溶鋼3の湯面(メニスカス)の鋳造方向(高さ方向、X軸方向)の位置)は、湯面レベル計9で測定される。湯面レベル計9としては渦流センサ等が用いられる。また、図12に示す例では、鋳型4の短辺部4a、4b(鋳型4の領域のうち、鋳造幅方向(左右方向、Y軸方向)において間隔を有して対向する部分)内には、鋳造方向(X軸方向)に、複数の熱電対10a~10lが埋め込まれている。また、鋳型4の短辺部4a、4bには、冷却水が流通する流路11a、11bが形成されている。
一方、浸漬ノズル6を挟んだ左右両側の領域のうち、溶鋼3の量が少ない側の領域では、溶鋼3の吐出される流れの勢いが弱くなる。溶鋼3の吐出される流れの勢いが弱いと、吐出口7内の溶鋼3の流れによどみが発生しやすくなり、アルミナ等の析出物が浸漬ノズル6内に付着する虞がある。アルミナ等の析出物の付着は、浸漬ノズル6内の流路を閉塞する等の原因となる。
以上述べたように鋳型4内に偏流が生じると、連続鋳造の操業に支障があるばかりではなく、鋳片の品質の低下を招き、好ましくない。従って、偏流が生じた場合には、例えば、鋳造の速度を変更したり、フラックスを変更したり、浸漬ノズル6を交換したりする等の処置が必要である。これらの処置を、適切かつ迅速に行うためには、偏流の発生のような鋳型4内の状態を、常時監視して把握しておく必要がある。
鋳型4内は非常に高温であり且つ不透明である。従って、鋳型4内における溶鋼3の伝熱および流動の状態を直接的に観察することはできない。
そこで、特許文献1には、以下の技術が開示されている。まず、鋳型4の相互に対向する領域に埋め込まれた熱電対により測定された温度を用いて伝熱逆問題解析を行う。この逆問題解析により、鋳型4の相互に対向する領域の一方および他方の側(N側、S側)における熱流束の時系列の情報を算出する。この熱流束の時系列の情報から、遅延ベクトルを算出し、この遅延ベクトルの時間推移による軌道を作成することにより、N側のアトラクタおよびS側のアトラクタを再構成する。N側のアトラクタおよびS側のアトラクタに基づいて、N側の熱流束の分布およびS側の熱流束の分布を変数とするリカレンスプロットを作成し、このリカレンスプロットに基づいて、偏流の有無を診断する。
また、特許文献2には、以下の技術が開示されている。まず、鋳型4の相互に対向する領域に埋め込まれた熱電対により測定された温度を用いて伝熱逆問題解析を行う。この伝熱逆問題解析により、鋳型4の内壁面における熱流束の鋳造方向の成分値に基づいて、溶鋼3の湯面レベルを、鋳型4の相互に対向する内壁面の双方において求める。この溶鋼3の湯面レベルの差を、偏流の指標として求める。
特開2003-305553号公報 特開2016-175106号公報 特開2016-22523号公報
J. Szekely and T. Yadoya, "The physical and mathematical modeling of the flow field in the mold region in continuous casting systems: Part II. The mathematical representation of the turbulent flow", Metallurgical Transactions, Vo.4, 1379 (1973) 樋口知之編著、「データ同化入門」、朝倉書店、2011年 北川源四朗著、「時系列解析入門」、岩波書店、2005年 King, Aaron A., Dao Nguyen, and Edward L. Ionides. "Statistical Inference for Partially Observed Markov Processes via the R Package pomp." Journal of Statistical Software 69.i12 (2016)
特許文献1に記載の技術では、リカレンスプロットを偏流の指標とし、特許文献2に記載の技術では、溶鋼3の湯面レベルの差を偏流の指標とする。即ち、特許文献1、2に記載の技術は、単に偏流の指標を求めているだけである。しかしながら、これらの指標では、連続鋳造の操業に支障があるか否か、あるいは、鋳片の品質低下を招くか否かを必ずしも正確に予測(推定)できる訳ではない。そして、予測(推定)が外れても、その原因を究明するための情報が少なく、指標を改善するなどの対策を打つことは困難である。そこで、本発明者らは、鋳型内の溶鋼の状態(温度や流速などの物理量)を可視化することができれば、多くの情報が得られ、操業状態や鋳片の品質との因果関係がより明瞭となり、この因果関係に不整合が生じたとしても対策を講じることを容易くするとの考えに至った。
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、連続鋳造設備の鋳型内の溶鋼の状態を可視化することができるようにすることを目的とする。
本発明の連続鋳造鋳型内可視化装置は、連続鋳造設備の鋳型に浸漬ノズルを介して注入される溶の可視化対象領域の各計算位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量の少なくとも一方を含む状態ベクトルについて、時刻tでの前記状態ベクトルのデータである数値解析データを、数値シミュレーションの結果に基づいて時間隔Δtごとに導出することを、時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t-Δtから当該時刻tまでの間での流入境界条件のパラメータが少なくとも異なる複数のケースのそれぞれについて行う数値解析データ導出手段と、前記数値解析データ導出手段により導出された前記複数のケースの時刻tでの数値解析データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの第1の確率密度関数を導出する第1の確率密度関数導出手段と、前記連続鋳造設備の各観測位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量との少なくとも一方を含む観測ベクトルについて、時刻tでの前記観測ベクトルのデータである観測データを前記各観測位置に配置されたセンサの測定値に基づいて前記時間隔Δtごとに導出する観測データ導出手段と、前記観測データ導出手段により導出された時刻tでの観測データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの尤度関数を導出する尤度関数導出手段と、前記第1の確率密度関数導出手段により導出された時刻tでの前記状態ベクトルの前記第1の確率密度関数と、前記尤度関数導出手段により導出された当該時刻tでの前記状態ベクトルの前記尤度関数とに基づいて、ベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタにより、当該時刻tでの前記状態ベクトルの第2の確率密度関数を導出し、当該状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて、当該時刻tでの前記状態ベクトルの推定値を導出するデータ同化手段と、を有し、前記数値解析データ導出手段において時刻tでの前記数値解析データを導出する際の前記複数のケースは、前記データ同化手段により導出された当該時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t-Δtでの前記状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて導出され、前記状態ベクトルには、前記各計算位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量の少なくとも一方と、当該各計算位置における物理量を導出する際の数値シミュレーションの際に用いた前記流入境界条件のパラメータとが含まれ、前記各計算位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量には、前記溶鋼における流速は含まれず、且つ、前記溶鋼における温度、前記鋳型における温度、または前記鋳型における熱流束が含まれ、前記流入境界条件のパラメータは、前記浸漬ノズルに流入する溶の流量を含み、前記各観測位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量には、前記鋳型における温度または熱流束が含まれることを特徴とする。
本発明の連続鋳造鋳型内可視化方法は、連続鋳造設備の鋳型に浸漬ノズルを介して注入される溶の可視化対象領域の各計算位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量の少なくとも一方を含む状態ベクトルについて、時刻tでの前記状態ベクトルのデータである数値解析データを、数値シミュレーションの結果に基づいて時間隔Δtごとに導出することを、時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t-Δtから当該時刻tまでの間での流入境界条件のパラメータが少なくとも異なる複数のケースのそれぞれについて行う数値解析データ導出工程と、前記数値解析データ導出工程により導出された前記複数のケースの時刻tでの数値解析データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの第1の確率密度関数を導出する第1の確率密度関数導出工程と、前記連続鋳造設備の各観測位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量との少なくとも一方を含む観測ベクトルについて、時刻tでの前記観測ベクトルのデータである観測データを前記各観測位置に配置されたセンサの測定値に基づいて前記時間隔Δtごとに導出する観測データ導出工程と、前記観測データ導出工程により導出された時刻tでの観測データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの尤度関数を導出する尤度関数導出工程と、前記第1の確率密度関数導出工程により導出された時刻tでの前記状態ベクトルの前記第1の確率密度関数と、前記尤度関数導出工程により導出された当該時刻tでの前記状態ベクトルの前記尤度関数とに基づいて、ベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタにより、当該時刻tでの前記状態ベクトルの第2の確率密度関数を導出し、当該状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて、当該時刻tでの前記状態ベクトルの推定値を導出するデータ同化工程と、を有し、前記数値解析データ導出工程において時刻tでの前記数値解析データを導出する際の前記複数のケースは、前記データ同化工程により導出された当該時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t-Δtでの前記状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて導出され、前記状態ベクトルには、前記各計算位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量の少なくとも一方と、当該各計算位置における物理量を導出する際の数値シミュレーションの際に用いた前記流入境界条件のパラメータとが含まれ、前記各計算位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量には、前記溶の流速は含まれず、且つ、前記溶鋼における温度、前記鋳型における温度、または前記鋳型における熱流束が含まれ、前記流入境界条件のパラメータは、前記浸漬ノズルに流入する溶の流量を含み、前記各観測位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量には、前記鋳型における温度または熱流束が含まれることを特徴とする。
本発明のプログラムは、前記連続鋳造鋳型内可視化装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
本発明によれば、連続鋳造設備の鋳型内の溶鋼の状態を可視化することができる。
図1は、連続鋳造鋳型内可視化装置の機能的な構成の第1の例を示す図である。 図2は、流入境界条件の一例を示す図である。 図3は、連続鋳造鋳型内可視化装置の処理の第1の例を説明するフローチャートである。 図4は、連続鋳造鋳型内可視化装置の機能的な構成の第2の例を示す図である。 図5は、連続鋳造鋳型内可視化装置の処理の第2の例を説明するフローチャートである。 図6は、連続鋳造鋳型内可視化装置の機能的な構成の第3の例を示す図である。 図7は、連続鋳造鋳型内可視化装置の処理の第3の例を説明するフローチャートである。 図8は、実施例(発明例1)の結果を示す図である。 図9は、実施例(発明例2)の結果を示す図である。 図10は、実施例(発明例3)の結果を示す図である。 図11は、実施例(比較例)の結果を示す図である。 図12は、連続鋳造設備の概略構成の一例を示す図である。 図13は、鋳型内の溶鋼の流れの一例を示す図である。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
[第1の実施形態]
まず、第1の実施形態を説明する。
<本発明者らが得た知見>
特願2018-114563号には、連続鋳造設備の鋳型内の溶鋼の状態を可視化する技術が提案されている。かかる技術では、時刻t0から時刻t-Δtまでの観測データyt0:t-Δtを基に決定される時刻tでの状態ベクトルxtの条件付き確率密度関数である第1の確率密度関数p(xt|y0:t-Δt)と、当該時刻tでの状態ベクトルxtが得られたときの観測ベクトルytの条件付き確率密度関数p(yt|xt)と当該時刻tでの観測データytとから導出される状態ベクトルxtの尤度関数L(xt|yt)とを、データ同化を行うフィルタのアルゴリズムに与えることにより、時刻t0から時刻tまでの観測データyt0:tを基に決定される時刻tでの状態ベクトルxtの条件付き確率密度関数である第2の確率密度関数p(xt|y0:t)を導出し、第2の確率密度関数p(xt|y0:t)の最頻値を、時刻tでの状態ベクトルxtの推定値として導出する。また、第2の確率密度関数p(xt|y0:t)におけるアンサンブルメンバーxt (k)(kは、アンサンブルメンバーを指定する添字)に基づいて、時刻t+Δtでの数値解析データxt+Δt (k)を数値シミュレーションにより求めるための溶鋼3の温度および流速、並びに境界条件のパラメータを複数導出する。ここで、状態ベクトルxtは、計算格子点における溶鋼の温度および流速の全ての瞬時値で構成されるベクトルとする。
特願2018-114563号では、全ての計算格子点における溶鋼3の流速を状態ベクトルに含める。しかしながら、溶鋼3のレイノルズ数は大きいことから溶鋼3の流れは大きくゆらぐ。このため、全ての計算格子点における溶鋼3の流速を状態ベクトルに含めると、鋳型4内における溶鋼3の偏流の推定精度が低下する虞があることを本発明者らは見出した。特に、アンサンブルメンバーの数が少ない場合、第2の確率密度関数p(xt|y0:t)におけるアンサンブルメンバーxt (k)に含まれる溶鋼3の流速分布は、物理的に生じえない(即ち、数値シミュレーションで得られた流速分布とはかけ離れた)ものとなり易い傾向にあることが分かった。そして、本発明者らは、その原因が、溶鋼3の流れが大きくゆらぐにも拘らず、アンサンブルメンバーの数が少ないことから、データ同化を行うフィルタにおいて導出する状態ベクトルのサンプル共分散行列(特に、離れた位置にある計算格子点間における溶鋼3の流速のサンプル共分散)の精度が十分でなくなるためであると考えた。しかしながら、このような事態が生じないようにアンサンブルメンバーの数を増やすことは、計算時間の多大な増加につながり、現実的でない。一方、鋳型4内における溶鋼3の主流を決めているのは、タンディッシュ2から浸漬ノズル6に流入する溶鋼3の流量(吐出口7a、7bから鋳型4内へ吐出される溶鋼3の流量)である。この浸漬ノズル6に流入する溶鋼3の流量は、数値シミュレーションにおける境界条件として与えることができる。本発明者らは、この数値シミュレーションにおける境界条件を状態ベクトルに含めると共に、溶鋼3の流速を状態ベクトルに含めないようにすることで、溶鋼3の流速分布の導出において、離れた位置にある計算格子点間における溶鋼3の流速のサンプル共分散の影響を排除し、鋳型4内における溶鋼3の偏流の推定精度を向上させることができると考えた。以下に説明する本発明の第1の実施形態は、このような知見に基づいてなされたものである。
<連続鋳造鋳型内可視化装置100の構成>
図1は、連続鋳造鋳型内可視化装置100の機能的な構成の一例を示す図である。連続鋳造鋳型内可視化装置100のハードウェアは、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、および各種のインターフェースを有する情報処理装置、または専用のハードウェアを用いることにより実現される。連続鋳造鋳型内可視化装置100は、連続鋳造設備の鋳型4内における溶鋼3(溶融金属)の流動および温度の状態を可視化するためのデータを作成する装置である。本発明において、連続鋳造鋳型内の全部または一部の領域における溶鋼(場合によっては凝固シェル)の物理量(流速や温度など)の分布を導出することを可視化と称し、可視化によって溶鋼の物理量の分布を導出する領域を可視化対象領域と称する。尚、以下の説明では、連続鋳造鋳型内可視化装置を必要に応じて可視化装置と略称する。
本実施形態では、図12に示した連続鋳造設備の鋳型4内における溶鋼3の流動および温度の状態を可視化する。図12に示す例では、鋳型4の短辺部4a内には、鋳造方向(X軸方向)に、複数の熱電対10a~10fが埋め込まれている。鋳型4の短辺部4b内には、鋳造方向(X軸方向)に、複数の熱電対10g~10lが埋め込まれている。本実施形態では、熱電対10a、10gの鋳造方向(X軸方向)および鋳型4の鋳造厚方向(奥行方向、Z軸方向)の位置は同じであるものとする(即ち、鋳型4の長辺側の幅方向(Y軸方向)の位置だけが異なるものとする)。同様に、熱電対10b、10h、熱電対10c、10i、熱電対10d、10j、熱電対10e、10k、熱電対10f、10lの鋳造方向(X軸方向)および鋳型4の鋳造厚方向(Z軸方向)の位置もそれぞれ同じであるものとする。本実施形態では、以上のようにして熱電対10a~10lを配置する場合を例に挙げて示す。しかしながら、鋳型4内に配置する熱電対の位置および数は、図12に示したものに限定されず、可視化対象領域に応じて定められる。例えば、鋳型4の短辺部4a、4b内において、鋳型4の鋳造方向(X軸方向)だけでなく鋳造厚方向(Z軸方向)にも並ぶように複数の熱電対を配置してもよい。また、鋳型4の長辺部(鋳型4の領域のうち、鋳造厚方向(Z軸方向)において間隔を有して対向する部分)内に、複数の熱電対を配置してもよい。
以下に、本実施形態の可視化装置100が有する機能の一例を説明する。本実施形態では、鋳型4の鋳造厚方向(Z軸方向)の中心の位置において、鋳型4の幅方向(Y軸方向)と鋳造方向(X軸方向)とにより定まる2次元平面(X-Y平面)における溶鋼3の流動および温度の状態を可視化する場合を例に挙げて説明する。尚、鋳型4の鋳造幅方向(Y軸方向)および鋳造厚方向(Z軸方向)の中心の位置は、浸漬ノズル6の軸の位置に対応する。以下の説明では、この2次元平面を必要に応じて可視化断面と称し、可視化断面において可視化の対象となる領域を可視化対象平面領域と称する。本実施形態では、可視化対象平面領域が可視化対象領域の一例になる。
(数値解析データ導出部101)
数値解析データ導出部101は、数値シミュレーションにより、可視化対象平面領域の各計算格子点における流速および熱電対10a~10lが配置されている位置における温度を第1の状態ベクトルの成分のデータとして導出し、当該第1の状態ベクトル(の成分)のデータを加工したデータを数値解析データとして導出し、当該数値解析データを成分として含む第2の状態ベクトルのデータを導出する。本実施形態では、数値解析データ導出部101は、数値シミュレーション部101aと、数値シミュレーションデータ加工部101bとを有する。
((数値シミュレーション部101a))
数値シミュレーション部101aは、可視化の対象となる連続鋳造設備における非定常の伝熱および流動の数値シミュレーションを、連続鋳造設備の操業パラメータおよび溶鋼3の物性値とを用いて行う。連続鋳造設備の操業パラメータおよび溶鋼3の物性値は、予め数値シミュレーション部101aが記憶しているものである。
溶鋼3内の伝熱および流動の数値シミュレーションは、ナビエストークス方程式を連続の式およびエネルギー保存式と共に解いて求めることができる。例えば、有限体積法を用いて各式を離散化して解くことにより数値シミュレーションは実行される。
数値シミュレーションを実行する際には、初期条件と境界条件とを設定する必要がある。流動および伝熱の境界条件は、例えば、鋳型4の内壁面と、溶鋼3の湯面と、浸漬ノズル6の壁面(即ち、外壁面、吐出口7a、7bが形成されている部分以外の内壁面、及び吐出口7a、7bが形成されている部分の内壁面)と、タンディッシュ2と浸漬ノズル6との境界面(浸漬ノズル6の上端)と、凝固シェル8と溶鋼3との境界面と、溶鋼3の下端とにおいて設定される。溶鋼3の下端とは、可視化対象平面領域のうち最も下の位置(X軸の正の方向の端の位置)を指す。流動および伝熱の初期条件は、溶鋼3において設定される。
数値シミュレーション部101aは、時刻tにおいて、時刻t-Δtから時刻tまでの間での境界条件のうち、少なくとも、タンディッシュ2と浸漬ノズル6との境界面(浸漬ノズル6の上端)における境界条件のパラメータ(タンディッシュ2から浸漬ノズル6へ流入する溶鋼3の流量)が異なる複数のケースのそれぞれについて数値シミュレーションを実行することにより、時刻tにおける計算格子点における溶鋼3の温度および流速を導出する。後述するように境界条件のパラメータは、ステップ幅Δtの時間隔毎に更新されるが、時刻t-Δtから時刻tまで時間が進行する際には不変であるとして、数値シミュレーションを実行するため、ステップ幅Δtを小さく設定するほど、境界条件のパラメータの変化に起因する溶鋼3の流動および温度の状態の変化を精度良く捉えた可視化を行うことができる。一方、ステップ幅Δtを大きく設定するほど、可視化を実行するときの処理時間が短くなる。溶鋼3の偏流を可視化する場合、ステップ幅Δtは、1.5秒以上かつ30秒以下とするのが好ましく、3秒以上かつ15秒以下とするのがより好ましい。以下の説明では、タンディッシュ2と浸漬ノズル6との境界面(浸漬ノズル6の上端)における境界条件を、必要に応じて、流入境界条件と称する。また、流入境界条件のパラメータである、タンディッシュ2から浸漬ノズル6へ流入する溶鋼3の流量を、必要に応じて、単にパラメータと称する。
図2は、流入境界条件の一例を概念的に説明する図である。
図2において、破線で示す仮想線6aは、タンディッシュ2と浸漬ノズル6との境界面(浸漬ノズル6の上端面)を示す。一点鎖線で示す仮想線6bは、浸漬ノズル6の軸を示す。本実施形態では、浸漬ノズル6の内部の領域を、浸漬ノズルの軸6bよりも、吐出口7aが形成されている側の領域6cと、浸漬ノズルの軸6bよりも、吐出口7bが形成されている側の領域6dとに分ける。そして、数値シミュレーションでは、領域6cに流入する溶鋼3は、全て吐出口7aから鋳型4内に注入され、領域6dに流入する溶鋼3は、全て吐出口7bから鋳型4内に注入されるものとする(即ち、領域6cに流入する溶鋼3の流量と、吐出口7aから鋳型4内に注入される溶鋼3の流量は同じであり、領域6dに流入する溶鋼3の流量と、吐出口7bから鋳型4内に注入される溶鋼3の流量は同じであるものとする)。また、タンディッシュ2から浸漬ノズル6に注入される溶鋼3の流量Uは一定であり変化しないものとする。数値シミュレーションでは、タンディッシュ2から領域6dに流入する溶鋼3の流量をuinletとし、タンディッシュ2から領域6cに流入する溶鋼3の流量は、前述した一定の流量Uから、タンディッシュ2から領域6dに流入する溶鋼3の流量uinletを減算することにより導出されるものとする。
また、数値シミュレーション部101aは、時刻t-Δtから時刻tまでの間での流入境界条件のパラメータに加えて、例えば、時刻t-Δtでの計算格子点における溶鋼3の温度と、時刻t-Δtでの計算格子点における溶鋼3の流速と、時刻t-Δtから時刻tまでの間でのその他の境界条件のパラメータの少なくとも何れか1つを異ならせてもよい。
本実施形態では、計算格子点が計算位置の一例となる。尚、流速は、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の3成分の値を有する。本実施形態では、数値シミュレーション部101aは、ステップ幅Δtの時間隔で各計算格子点における温度および流速を導出する。また、本実施形態では、数値シミュレーション部101aは、当該導出した温度に基づいて、熱電対10a~10lが配置されている位置における温度を導出する。例えば、数値シミュレーション部101aは、鋳型4の短辺部4a、4bにおける伝熱状態が鋳造幅方向(Y軸方向)の1次元定常熱伝導であると仮定して、鋳型4の冷却水の温度と、鋳型4の熱伝導度とに基づいて、各計算格子点における温度を外挿し、熱電対10a~10lが配置されている位置における温度を導出する。以下の説明では、このようにして導出された温度を必要に応じて推定温度と称する。
本実施形態では、熱電対10a~10lが配置されている位置における温度が、各計算位置における物理量に基づいて導出される物理量の一例となる。
尚、連続鋳造設備に対するナビエストークス方程式、連続の式、およびエネルギー保存式や、初期条件および境界条件の内容については、例えば、特許文献3や非特許文献1に記載されているので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
数値シミュレーション部101aは、時刻t0(t0は最初の時刻)から時刻t0+Δtまでの間での流入境界条件のパラメータが少なくとも異なる複数のケースに対して、初期値として、予め設定された値を用いる。2番目の時刻t以降に関しては、後述する観測データ取得部103aで取得された観測データ(情報)を基に後述するデータ同化部105で導出された結果を、時刻tから時刻t+Δtまでの間での流入境界条件のパラメータとして用いる。この点の詳細については後述する。
数値シミュレーション部101aは、以上の計算結果に基づいて、第1の状態ベクトルx→(1)(の各成分)のデータを導出する。本実施形態では、第1の状態ベクトルx→(1)が、以下の(1)式で表される場合を例に挙げて説明する。尚、x→(1)の→は、(1)式において、xの上に付されている→に対応する。
Figure 0007332875000001
ここで、vl1~vlNは、計算格子点における鋳造方向(X軸方向)の流速である。vt1~vtNは、計算格子点における鋳造幅方向(Y軸方向)の流速である。vd1~vdNは、計算格子点における鋳造厚方向(Z軸方向)の流速である。T1~TLは、熱電対10a~10lが配置されている位置における温度である。これらの値は、何れも瞬時値(時刻tにおける値)である。
((数値シミュレーションデータ加工部101b))
数値シミュレーションデータ加工部101bは、数値シミュレーション部101aで導出された第1の状態ベクトルx→(1)(の成分)のデータを加工して、第2の状態ベクトルx→(2)のデータを導出する。本実施形態では、第2の状態ベクトルx→(2)が、以下の(2)式で表される場合を例に挙げて説明する。尚、x→(2)の→は、(2)式において、xの上に付されている→に対応する。
Figure 0007332875000002
(2)式に示すように、本実施形態では、溶鋼3の流速を第2の状態ベクトルに含めずに、タンディッシュ2から領域6dに流入する溶鋼3の流量uinletを第2の状態ベクトルに含める。タンディッシュ2から領域6dに流入する溶鋼3の流量uinletは、流入境界条件のパラメータであり、第1の状態ベクトルx(1)(の成分)のデータを導出する際に行われた数値シミュレーションにおける(時刻tでの)境界条件のパラメータの1つである。前述したように、時刻tにおいて、流入境界条件のパラメータが異なる複数のケースについて数値シミュレーションが行われる。従って、第2の状態ベクトルx→(2)のデータは、当該複数のケースの数だけ存在する。第2の状態ベクトルx→(2)の成分のデータが、数値解析データとして第1の確率密度関数導出部102に出力される。
(第1の確率密度関数導出部102)
第1の確率密度関数導出部102は、後述する観測データ取得部103aで取得された時刻t-Δtまでの観測データ(情報)y→(1) t0:t-Δtを基に推定される時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの条件付き確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t-Δt)を導出する。確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t-Δt)は、数値シミュレーションデータ加工部101bにより導出された複数の数値解析データ{x→(2) t (k)kが示す確率密度関数である。以下の説明では、この確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t-Δt)を必要に応じて第1の確率密度関数とも称する。本実施形態では、第1の確率密度関数導出部102は、ステップ幅Δtの時間隔で、各時刻tでの状態ベクトルxtの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t-Δt)を導出する。
第1の確率密度関数導出部102は、数値シミュレーションデータ加工部101bにより導出された時刻tでの複数の数値解析データ{x→(2) t|t-Δt (k)kの相対度数(度数を全データ数で除した値)を用いた度数分布を導出する。この度数分布が、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t-Δt)となる。また、複数の数値解析データ{x→(2) t|t-Δt (k)kの各成分(タンディッシュ2から領域6dに流入する溶鋼3の流量uinlet、及び各熱電対10a~10lが配置されている位置における温度T1~TL)の度数分布を導出して、これらの積を取ったものを複数の数値解析データ{x→(2) t|t-Δt (k)kの度数分布としてもよい。また、これらの度数分布を所定の関数(例えば、スプライン関数)で近似したものを第1の確率密度関数としてもよい。
また、第1の確率密度関数導出部102は、数値シミュレーションデータ加工部101bにより導出された時刻tでの複数の数値解析データ{x→(2) t|t-Δt (k)kを用いてアンサンブル近似(モンテカルロ近似)を行うことで、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t-Δt)を導出することもできる。
また、第1の確率密度関数導出部102は、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t-Δt)がガウス分布であると仮定して、数値シミュレーションデータ加工部101bにより導出された時刻tでの複数の数値解析データ{x→(2) t (k)kから平均値と分散値を導出してもよい。
尚、第1の確率密度関数導出部102は、以上のようにして導出される時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t-Δt)を、ガウス分布のような確率密度関数に従うノイズを用いて修正してもよい。
(観測データ導出部103)
観測データ導出部103は、可視化断面の各観測位置における温度の測定値を観測ベクトルの成分として観測データを導出する。本実施形態では、観測データ導出部103は、観測データ取得部103aを有する。
((観測データ取得部103a))
観測データ取得部103aは、連続鋳造設備において測定された時系列データ(測定値)に基づいて観測データを取得する。
本実施形態では、観測データ取得部103aは、熱電対10a~10lで測定される温度(鋳型4内の温度)の測定値を入力する。
このように本実施形態では、観測データ取得部103aは、熱電対10a~10lで測定される温度を観測データとしてステップ幅Δtの時間隔で取得する。以下の説明では、熱電対10a~10lが配置されている位置を必要に応じて観測位置と称し、観測位置において取得される温度で構成されるベクトルを観測ベクトルと称する。従って、時刻tでの熱電対10a~10lの測定値をT'1~T'Lとすると、観測データy→(1) t (0)は、以下の(3)式で表される。尚、y→(1) t (0)の→は、(3)式において、yの上に付されている→に対応する。観測データ取得部103aは、観測データy→(1) t (0)を導出する。
Figure 0007332875000003
(尤度関数導出部104)
尤度関数導出部104は、観測データ取得部103aで取得された時刻tでの観測データy→(1) t (0)(yt (0)は観測位置において取得される熱電対10a~10lの測定値T'1~T'Lで構成されるベクトル)の観測ノイズを、過去の当該観測データから評価することにより、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tが得られたときの観測ベクトルy→(1) tの条件付き確率密度関数p(y→(1) t|x→(2) t)に対する第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(1) t)を導出する。尤度関数L(x→(2) t|y→(1) t)とは、条件付き確率密度関数p(y→(1) t|x→(2) t)を第2の状態ベクトルx→(2) tの関数と見做したもので、観測ベクトルy→(1) tに観測データy→(1) t (0)を代入することによって第2の状態ベクトルx→(2) tの関数として確定する。本実施形態では、尤度関数導出部104は、ステップ幅Δtの時間隔で、各時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(1) t)を導出する。
観測ノイズは、例えば、平均ベクトルが0(ゼロベクトル)のガウス分布に従うものとし、観測データの分散共分散行列を観測ノイズの共分散行列として用いることができる。この場合、過去の同種の観測データの分散共分散行列値を、全ての種類の観測データについて予め計算しておき、尤度関数導出部104が記憶しておく。即ち、尤度関数導出部104は、観測データの種類毎の分散共分散行列値を記憶する。また、観測データの分散共分散行列値は、観測データの各成分(各観測位置での値)の分散値とし、共分散値は0(ゼロ)としたものでもよい。
尤度関数導出部104は、時刻tでの観測データy→(1) t (0)と、観測ノイズの分散共分散行列値とに基づいて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(1) t)を導出する。
尚、観測ノイズは、ガウス分布に従うとすることに限定されない。例えば、尤度関数導出部104は、時刻tでの観測データy→(1) t (0)と、当該時刻tよりも前の所定の期間の当該観測データy→(1) t (0)とに基づいて、これらの複数の観測データ{y→(1) t-nΔt (0),・・・,y→(1) t (0)}の平均ベクトルm(y→(1) t (0))を導出し、複数のデータ{y→(1) t-nΔt (0)-m(y→(1) t (0)),・・・,y→(1) t (0)-m(y→(1) t (0))}の相対度数(度数を全データ数で除した値)を用いた度数分布を導出する。そして、尤度関数導出部104は、当該度数分布を、時刻tでの観測ノイズの確率密度関数として導出する。また、複数のデータ{y→(1) t-nΔt (0)-m(y→(1) t (0)),・・・,y→(1) t (0)-m(y→(1) t (0))}の各成分(各観測位置における各データ)の度数分布を導出して、これらの積を取ったものを複数のデータ{y→(1) t-nΔt (0)-m(y→(1) t (0)),・・・,y→(1) t (0)-m(y→(1) t (0))}の度数分布としてもよい。また、尤度関数導出部104は、この度数分布を所定の関数(例えば、スプライン関数)で近似したものを観測ノイズの確率密度関数としてもよい。
(データ同化部105)
データ同化部105は、第1の確率密度関数導出部102により導出された時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) 0:t-Δt)と、尤度関数導出部104により導出された時刻tでの観測データが得られたときの当該時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(1) t)とを、ベイズの定理を基礎としたベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタのアルゴリズムに与えることにより、時刻tまでの観測データが得られたときの時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの条件付き確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t)を導出する。以下の説明では、この確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t)を必要に応じて第2の確率密度関数とも称する。本実施形態では、データ同化部105は、ステップ幅Δtの時間隔で、各時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t)を導出する。
データ同化を行う際には、システム方程式(状態方程式)と観測方程式とを定める必要がある。システム方程式は、ステップ幅Δtの時間隔で、前後の時刻の第2の状態ベクトルx→(2) t+Δt、x→(2) tの関係を定義する式である。本実施形態では、数値シミュレーション部101aによる複数の数値シミュレーションでこの関係は決定される。また、観測方程式は、観測ベクトルy→(1) tと、第2の状態ベクトルx→(2) tとの関係式を示すものであり、(4)式で与えられる。
y→(1) t=Htx→(2) t+wt ・・・(4)
ここで、Htは、観測行列であり、wtは、観測ノイズである。例えば、観測ベクトルの第i成分が第2の状態ベクトルの第j成分の物理量と同一であれば、観測行列Htは、その(i,j)成分が1で、第i行の他の成分が0(ゼロ)である行列となる。また、観測位置iがどの計算格子点jとも一致しなければ、第2の状態ベクトルで補間するように観測行列Htを定めることもできる。
ベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタとしては、例えば、アンサンブルカルマンフィルタを用いることができる。
この場合、データ同化部105は、第1の確率密度関数導出部102により導出された時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t-Δt)と、尤度関数導出部104により導出された当該時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(1) t)とを、アンサンブル近似し、アンサンブルメンバー(粒子)を導出する。時刻t-Δtの各アンサンブルメンバーx→(2) t-Δt (k)を、システム方程式に基づいて更新し、一期先(時刻t)の予測分布のアンサンブルx→(2) t|t-Δt (k)を第1の確率密度関数導出部102により導出する。そして、データ同化部105は、一期先の予測分布のアンサンブルx→(2) t|t-Δt (k)から、フィルタ分布のアンサンブルx→(2) t (k)を導出する。このようなフィルタ分布のアンサンブルの導出を行うことにより、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第2の確率密度関数が導出される。
ベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタは、アンサンブルカルマンフィルタに限定されない。例えば、粒子フィルタを用いてもよい。アンサンブルカルマンフィルタや粒子フィルタについては、非特許文献2、3に記載されている。また、アンサンブルカルマンフィルタや粒子フィルタの具体的な計算アルゴリズムについては、非特許文献4に記載されている。従って、これらについての詳細な説明を省略する。
データ同化部105は、時刻tでの第2の状態ベクトルxt(2)の第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t)の最頻値xmを、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの推定値として導出する。また、第2の状態ベクトルx→(2) tの各成分(uinlet、T1~TL)について、第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t)の周辺確率密度関数を導出し、周辺確率密度関数の各成分の最頻値で構成されるベクトルを第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t)の最頻値xmとし、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの推定値としてもよい。そして、データ同化部105は、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの推定値から、時刻tでの第1の状態ベクトルx→(1) tの推定値を、流入境界条件のパラメータ(タンディッシュ2から領域6dに流入する溶鋼3の流量uinlet)を、流入境界条件に相当する流速の成分に置換することにより、導出する。このとき、データ同化部105は、時刻tでの第1の状態ベクトルx→(1) tのうち、流入境界条件に相当する流速に直接に関連のない成分の修正を行わない(uinlet以外を第1の状態ベクトルに戻す操作を行わない)。また、データ同化部105は、第1の状態ベクトルx→(1) tの推定値から、各計算格子点における温度T1~TNの推定値を、例えば、((数値シミュレーション部101a))の項で説明した外挿を行うことにより導出する。
以上のようにして、時刻tにおいて、鋳造方向(X軸方向)の流速vl1~vlN、鋳造幅方向(Y軸方向)の流速vt1~vtN、鋳造厚方向(Z軸方向)の流速vd1~vdN、および温度T1~TNの推定値が、各計算格子点において導出される。
以上のように本実施形態では、データ同化部105は、第1の確率密度関数導出部102により導出された時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t-Δt)と、尤度関数導出部104により導出された当該時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(1) t)とを融合させて、時刻tでの最も合理的な第2の状態ベクトルx→(2) tの第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t)を導出し、その最頻値xmを、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの推定値として導出する。
また、データ同化部105は、第2の状態ベクトルx→(2) tの第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t)を数値シミュレーション部101aに出力する。数値シミュレーション部101aは、第2の状態ベクトルx→(2) tの第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t)に基づいて、少なくとも、時刻tから時刻t+Δtまでの間での流入境界条件のパラメータuinletを複数導出する。例えば、データ同化部105は、第2の状態ベクトルx→(2) tの第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t)におけるアンサンブルメンバーを用いて、時刻tから時刻t+Δtまでの間での流入境界条件のパラメータuinletを複数設定する。そして、数値シミュレーション部101aは、当該複数の流入境界条件のパラメータuinletのそれぞれのケースについて、次の時刻t+Δtにおける数値シミュレーションを行い、複数の第1の状態ベクトルx→(1) tのデータを導出する。
(可視化データ作成部106)
可視化データ作成部106は、データ同化部105により導出された時刻tでの、各計算格子点jにおける、鋳造方向(X軸方向)の流速vl1~vlN、鋳造幅方向(Y軸方向)の流速vt1~vtN、鋳造厚方向(Z軸方向)の流速vd1~vdN、および温度T1~TNの推定値に基づいて、鋳型内4の各位置における溶鋼3の温度と流速の少なくとも何れか一方の表示データを作成する。
可視化データ作成部106は、各時刻における各位置における溶鋼3の温度と流速を、可視化装置100のユーザが認識できるようにしていれば、どのような表示データを作成してもよい。ただし、可視化データ作成部106は、可視化装置100のユーザが直感的に分かり易い表示データを作成するのが好ましい。
例えば、可視化データ作成部106は、溶鋼3の温度として想定される温度範囲を複数の領域に分けた場合の、それぞれの領域に対し異なる表示態様を予め記憶する。表示態様としては、例えば、色、模様、および濃度の少なくとも1つを採用することができる。可視化データ作成部106は、データ同化部105により導出された時刻tでの各位置における溶鋼3の温度から、各位置における温度を特定し、可視化対象平面領域の各位置の画像が、特定した温度に対応する表示態様で表示されるように表示データを作成する。
また、可視化データ作成部106は、溶鋼3の流速として想定される流速範囲を複数の領域に分けた場合の、それぞれの領域に対し異なる表示態様を予め記憶する。表示態様としては、例えば、色、模様、および濃度の少なくとも1つを採用することができる。可視化データ作成部106は、データ同化部105により導出された時刻tでの各位置における溶鋼3の流速から、各位置における流速を特定し、可視化対象平面領域の各位置の画像が、特定した流速に対応する表示態様で表示されるように表示データを作成する。また、可視化データ作成部106は、可視化対象平面領域に対して予め設定された小領域ごとに溶鋼3の代表的な向きを導出し、当該向きの方向を向く矢印線が、可視化対象平面領域の当該小領域の画像に重ねて表示されるように表示データを作成する。
(出力部107)
出力部107は、可視化データ作成部106で作成された表示データをコンピュータディスプレイに表示する。また、出力部107は、このような表示データに代えてまたは加えて、データ同化部105により導出された各時刻での状態ベクトルの推定値を構成する各位置における溶鋼3の温度と流速のデータを出力することができる。出力の態様は、可視化装置100の内部または外部の記憶媒体への送信、外部装置への送信が挙げられる。このようにすれば、各時刻での各位置における溶鋼3の温度と流速を表示するための表示データを、後で別途作成することができる。
<動作フローチャート>
次に、図3のフローチャートを参照しながら、可視化装置100の処理の一例を説明する。
まず、ステップS301において、数値シミュレーション部101aは、時刻tを初期値(t0)に設定する。
次に、ステップS302において、数値シミュレーション部101aは、時刻tから時刻t+Δtまでの間での流入境界条件のパラメータuinletの初期値を設定する。
次に、ステップS303において、数値シミュレーション部101aは、時刻tを時刻t+Δtに更新して、処理は、ステップS304に進む。
次に、ステップS304において、数値シミュレーション部101aは、時刻tにおける計算格子点における溶鋼3の温度および流速を導出し、その結果に基づいて、時刻tにおける第1の状態ベクトルx→(1) tのデータを導出する((1)式を参照)。
次に、ステップS305において、数値シミュレーションデータ加工部101bは、時刻tにおける第1の状態ベクトルx→(1) tのデータを加工して、時刻tにおける第2の状態ベクトルx→(2) tのデータを導出する((2)式を参照)。第2の状態ベクトルx→(2)には、溶鋼3の流速は含まれず、タンディッシュ2から領域6dに流入する溶鋼3の流量uinletが含まれる。
次に、ステップS306において、第1の確率密度関数導出部102は、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t-Δt)を導出する。
次に、ステップS307において、観測データ取得部103aは、時刻tでの観測データy→(1) t (0)(各観測位置iにおける熱電対10a~10lの測定値)を取得する。
次に、ステップS308において、尤度関数導出部104は、観測データy→(1) t (0)に基づいて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(1) t)を導出する。
次に、ステップS309において、データ同化部105は、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) 0:t-Δt)と、当該時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(1) t)とを、ベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタのアルゴリズムに与えることにより、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t)を導出する。
次に、ステップS310において、データ同化部105は、時刻tでの状態ベクトルxtの第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t)の最頻値を、時刻tでの第2の状態ベクトルの推定値として導出し、当該第2の状態ベクトルの推定値に基づいて、時刻tでの第1の状態ベクトルの推定値を導出する。そして、データ同化部105は、時刻tでの第1の状態ベクトルの推定値に基づいて、時刻tでの、各計算格子点jにおける、鋳造方向(X軸方向)の流速vl1~vlN、鋳造幅方向(Y軸方向)の流速vt1~vtN、鋳造厚方向(Z軸方向)の流速vd1~vdN、および温度T1~TNの推定値を導出する。
次に、ステップS311において、可視化データ作成部106は、データ同化部105により導出された時刻tでの、各計算格子点jにおける、鋳造方向(X軸方向)の流速vl1~vlN、鋳造幅方向(Y軸方向)の流速vt1~vtN、鋳造厚方向(Z軸方向)の流速vd1~vdN、および温度T1~TNの推定値に基づいて、時刻tでの鋳型4内の各位置における溶鋼3の温度と流速の表示データを作成する。
次に、ステップS312において、出力部107は、時刻tが、予め設定された時刻tendになったか否かを判定する。この判定の結果、時刻tが、予め設定された時刻tendになっていない場合、処理は、ステップS312に進む。
ステップS313において、数値シミュレーション部101aは、数値シミュレーションで使用するデータである時刻tから時刻t+Δtまでの間での流入境界条件のパラメータuinletを、ステップS308でデータ同化部105により導出された、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t)に基づいて複数導出する。
そして、処理は、ステップS303に進み、時刻tが、予め設定された時刻tendになるまで、ステップS303~S313の処理が繰り返し実行される。尚、ステップS304においては、ステップS304の直前のステップS313で導出された流入境界条件のパラメータuinletの値uinlet (k)が用いられる。
以上のようにして時刻tが、予め設定された時刻tendになると、処理は、ステップS314に進む。ステップS314において、出力部107は、可視化データ(可視化データ作成部106で作成された表示データと、データ同化部105により導出された各時刻での鋳型4内の各位置における溶鋼3の温度と流速のデータ)を出力する。尚、表示データは、ステップS310で表示データが作成される度にコンピュータディスプレイに表示されるようにしてもよい。
<まとめ>
以上のように本実施形態では、可視化装置100は、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) 0:t-Δt)と、当該時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(1) t)とを、データ同化を行うフィルタのアルゴリズムに与えることにより、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) 0:t)を導出する。可視化装置100は、この第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) 0:t)の最頻値を、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの推定値として導出する。また、可視化装置100は、この第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) 0:t)に基づいて、時刻t+Δtでの数値解析データ{xt (k)kを求めるための流入境界条件のパラメータuinletを複数導出する。従って、連続鋳造機の内部における溶融金属の流動および温度の分布を、観測データによる事実と、物理法則に基づいた数値シミュレーションによる合理的な数値データとして可視化できて、溶鋼3の偏流の様な異常現象の発生の様子を、時々刻々と知ることがきる。よって、鋳造の操業条件を臨機応変に制御したり、問題のある部材の変更、交換をタイミングよく行ったりすることが可能になり、高品質の鋼材を歩留まり良くかつ生産性良く製造することができる。
また、本実施形態では、可視化装置100は、数値シミュレーションを行って導出した溶鋼3の流速に代えて、当該数値シミュレーションで用いた流入境界条件のパラメータuinletを第2の状態ベクトルx→(2) tに含める。従って、ノイズの要素になり易い溶鋼3の流速ではなく、溶鋼3の主流にダイレクトに反映される流入境界条件のパラメータuinletを、データ同化を行うフィルタに与えることができる。従って、鋳型4内における溶鋼3の偏流の推定精度を向上させることができる。
<変形例>
本実施形態において、可視化装置100は、第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) 0:t)の最頻値を、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの推定値として導出したが、第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) 0:t)の平均値を、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの推定値として導出してもよいし、第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) 0:t)の中央値を、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの推定値として導出してもよい。
また、本実施形態では、数値シミュレーションでは、タンディッシュ2から領域6dに流入する溶鋼3の流量uinletを導出し、タンディッシュ2から領域6cに流入する溶鋼3の流量を、一定の流量Uから、タンディッシュ2から領域6dに流入する溶鋼3の流量uinletを減算した値とした。しかしながら、例えば、タンディッシュ2から浸漬ノズル6に注入される溶鋼3の流量Uが一定でない場合、タンディッシュ2から領域6cに流入する溶鋼3の流量も数値シミュレーションにより導出してもよい。
また、本実施形態では、熱電対10a~10lが配置されている全ての位置における温度T1~TLを、第2の状態ベクトルx→(2)に含める場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、熱電対10a~10lが配置されている全ての位置における温度T1~TLのうち、一部の温度を、第2の状態ベクトルx→(2)に含めるようにしてもよい。例えば、溶鋼3の偏流が生じているときと生じていないときとで温度差が生じる位置の温度を選択することができる。
また、熱電対10a~10lが配置されている位置における温度に代えてまたは加えて、湯面レベル計9により測定される位置における溶鋼3の湯面レベルを用いてもよい。
また、本実施形態では、可視化対象平面領域を溶鋼3が存在する領域に限定した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、可視化対象平面領域を溶鋼3と凝固シェル8とが存在する領域にしてもよい。このようにする場合、数値シミュレーション部101aは、溶鋼3の物性値と、凝固シェル8の物性値と、凝固潜熱とを用いて、凝固を伴う非定常の伝熱および流動の数値シミュレーションを行えばよい。
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態を説明する。第1の実施形態では、第2の状態ベクトルx→(2) tに含める成分(uinlet、T1~TL)が瞬時値である場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、第2の状態ベクトルx→(2) tに含める成分の少なくとも一部が時間平均値である場合を例に挙げて説明する。このように本実施形態と第1の実施形態とは、第2の状態ベクトルx→(2) tの構成が異なることに基づく構成および処理が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1~図3に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
<本発明者らが得た知見>
第1の実施形態で説明したように、溶鋼3のレイノルズ数は大きいことから溶鋼3は大きくゆらぐ。このため、状態ベクトルおよび観測ベクトルの成分(物理量)として瞬時値を用いると、データ同化において、計算のタイミングにおける溶鋼3のゆらぎに起因して、状態ベクトルを過度に修正したり、状態ベクトルを(殆ど)修正しなかったりする虞がある。そこで、本発明者らは、状態ベクトルおよび観測ベクトルの相互に対応する成分として、時間平均値を用いれば、鋳型4内における溶鋼3の偏流の推定精度を向上させることができると考えた。以下に説明する本発明の第2の実施形態は、このような知見に基づいてなされたものである。
<連続鋳造鋳型内可視化装置400の構成>
図4は、連続鋳造鋳型内可視化装置400の機能的な構成の一例を示す図である。連続鋳造鋳型内可視化装置400のハードウェアは、例えば、第1の実施形態の連続鋳造鋳型内可視化装置100のハードウェアと同じもので実現することができる。
(数値解析データ導出部401)
数値解析データ導出部401は、数値シミュレーションにより、可視化対象平面領域の各計算格子点に流速および熱電対10a~10lが配置されている位置における温度を第1の状態ベクトルの成分のデータとして導出し、当該第1の状態ベクトルのデータを加工して、数値解析データを成分として含む第2の状態ベクトルのデータを導出する。本実施形態では、数値解析データ導出部401は、数値シミュレーション部101aと、数値シミュレーションデータ加工部401aとを有する。
((数値シミュレーションデータ加工部401a))
数値シミュレーションデータ加工部401aは、数値シミュレーション部101aで導出された第1の状態ベクトルx→(1)のデータを加工して、第2の状態ベクトルx→(2)のデータを導出する。本実施形態では、第2の状態ベクトルx→(2)が、以下の(5)式で表される場合を例に挙げて説明する。
Figure 0007332875000004
1ave~TLaveは、熱電対10a~10lが配置されている位置における温度T1~TLの、時刻tより前の時刻から時刻tまでの所定の時間における時間平均値である。所定の時間は、0.5秒以上かつ30秒以下とするのが好ましく、3秒以上かつ10秒以下とするのがより好ましい。
数値シミュレーションデータ加工部401aは、数値シミュレーション部101aにおいて導出された熱電対10a~10lが配置されている位置における推定温度T1 (k)~TL (k)の時間平均値T1ave (k)~TLave (k)を時刻tにおけるT1ave~TLaveの値として導出する。ここで、kは、アンサンブルメンバーを指定する添字である。時間平均値T1ave (k)~TLave (k)は、ステップ幅Δtの時間隔毎に導出された推定温度T1 (k)~TL (k)の値を用いて導出しても良いし、ステップ幅Δtを細分した時間隔毎に導出された推定温度T1 (k)~TL (k)の値を用いて導出しても良い。時間平均値T1ave (k)~TLave (k)を導出する際に用いる推定温度T1 (k)~TL (k)の値は、0.5秒以上かつ10秒以下の時間隔で取得するのが好ましく、1秒以上かつ5秒以下の時間隔で取得するのがより好ましい。以下の説明では、熱電対10a~10lが配置されている位置における推定温度T1 (k)~TL (k)の時間平均値T1ave (k)~TLave (k)を、必要に応じて、熱電対10a~10lの位置における推定温度の時間平均値T1ave (k)~TLave (k)と称する。タンディッシュ2から領域6dに流入する溶鋼3の流量uinletの値uinlet (k)は、時刻tにおける数値シミュレーションで使用した値でも、時刻tより前の時刻から時刻tまでの所定の時間における数値シミュレーションで使用した値の時間平均値であってもよい。ここで、所定の時間は、T1ave~TLaveを温度T1~TLの時間平均値と定義した際の平均する時間と同一である。また、第2の状態ベクトルx→(2)には、熱電対10a~10lが配置されている位置における温度T1~TL(瞬時値)は含まれない。
(第1の確率密度関数導出部102)
第1の確率密度関数導出部102は、第2の状態ベクトルx→(2)の成分として、熱電対10a~10lが配置されている位置における温度T1~TLに代えて、その時間平均値T1ave~TLaveを用いて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの条件付き確率密度関数p(x→(2) t|y→(2) t0:t-Δt)を導出する。
(観測データ導出部402)
観測データ導出部402は、可視化断面の各観測位置における温度の測定値を第1の観測ベクトルの成分として第1の観測データを導出し、当該第1の観測データを加工して第2の観測データを導出する。本実施形態では、観測データ導出部402は、観測データ取得部103aと、観測データ加工部402aとを有する。
((観測データ加工部402a))
観測データ加工部402aは、観測データ取得部103aにより取得された観測データである第1の観測データy→(1) t (0)を加工して、第2の観測データy→(2) t (0)を導出する。本実施形態では、第1の実施形態における観測ベクトルを第1の観測ベクトルと称し、第1の観測ベクトルの時刻tより前の時刻から時刻tまでの所定の時間における時間平均ベクトルを第2の観測ベクトルと称する。ここで、所定の時間は、T1ave~TLaveを温度T1~TLの時間平均値と定義した際の平均する時間と同一である。従って、第2の観測データy→(2) t (0)は、以下の(6)式で表される。尚、y→(2) t (0)の→は、(6)式において、yの上に付されている→に対応する。
Figure 0007332875000005
T'1ave~T'Laveは、熱電対10a~10lの測定値T'1~T'Lの、時刻tより前の時刻から時刻tまでの所定の時間における時間平均値である。熱電対10a~10lの測定値T'1~T'Lは、観測データy→(1) t (0)の成分である。時間平均値T'1ave~T'Laveを導出する際に用いる測定値T'1~T'Lは、時間平均値T1ave (k)~TLave (k)を導出する際に用いる推定温度T1 (k)~TL (k)の値を取得する時刻と同一の時刻に取得する。以下の説明では、熱電対10a~10lの測定値T'1~T'Lの、時刻tより前の時刻から時刻tまでの所定の時間における時間平均値を、必要に応じて、熱電対10a~10lの測定値の時間平均値と称する。ここで、第2の観測データy→(2) t (0)には、熱電対10a~10lの測定値T'1~T'L(瞬時値)は含まれない。
(尤度関数導出部104)
尤度関数導出部104は、(第1の)観測ベクトルy→(1)に代えて第2の観測ベクトルy→(2)を用い、(第1の)観測データy→(1) t (0)に代えて第2の観測データy→(2) t (0)を用いて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(2) t)を導出する。
(データ同化部105)
データ同化部105は、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) 0:t-Δt)に代えて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(2) 0:t-Δt)を用いると共に、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(1) t)に代えて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(2) t)を用いて、第1の実施形態で説明した処理を行う。
(可視化データ作成部106、出力部107)
可視化データ作成部106および出力部107の処理は、第1の実施形態で説明した通りである。
<動作フローチャート>
次に、図5のフローチャートを参照しながら、可視化装置400の処理の一例を説明する。
ステップS301~S304は、図3のフローチャートのステップS301~S304と同じである。ステップS304において、数値シミュレーション部101aにより、時刻tにおける第1の状態ベクトルx→(1) tのデータが導出される((1)式を参照)。
ステップS304の後、処理はステップS501に進む。処理がステップS501に進むと、数値シミュレーションデータ加工部401aは、時刻tにおける第1の状態ベクトルx→(1) tのデータを加工して、時刻tにおける第2の状態ベクトルx→(2) tのデータを導出する((5)式を参照)。第2の状態ベクトルx→(2)のデータには、溶鋼3の流速は含まれず、タンディッシュ2から領域6dに流入する溶鋼3の流量uinlet (k)(の時刻tでの瞬時値)と、熱電対10a~10lの位置における推定温度の時間平均値T1ave (k)~TLave (k)とが含まれる。
次に、ステップS306において、第1の確率密度関数導出部102は、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(2) t-Δt)を導出する。
次に、ステップS307において、観測データ取得部103aは、時刻tでの(第1の)観測データy→(1) t (0)(各観測位置iにおける熱電対10a~10lの測定値)を取得する。
次に、ステップS502において、観測データ加工部402aは、時刻tにおける第1の観測データy→(1) t (0)を加工して、時刻tにおける第2の観測データy→(2) t (0)を導出する((6)式を参照)。時刻tにおける第2の観測データy→(2) t (0)には、熱電対10a~10lの測定値の時刻tにおける時間平均値T'1ave~T'Laveが含まれる。
以降ステップS308~S314においては、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) 0:t-Δt)に代えて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(2) 0:t-Δt)を用い、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(1) t)に代えて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(2) t)を用い、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t)に代えて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(2) t0:t)を用いて、図3を参照しながら説明した処理と同様の処理が行われる。
<まとめ>
以上のように本実施形態では、可視化装置400は、熱電対10a~10lが配置されている位置における推定温度T1 (k)~TL (k)に代えて、その時間平均値T1ave (k)~TLave (k)を含む第2の状態ベクトルx→(2) tのデータを導出し、熱電対10a~10lの測定値T'1~T'Lに代えて、その時間平均値T'1ave~T'Laveを含む第2の観測データy→(2) t (0)を導出する。従って、第1の実施形態で説明した効果に加えて、データ同化において、計算のタイミングにおける溶鋼3のゆらぎに起因して、状態ベクトルを過度に修正したり、状態ベクトルが殆ど修正されなかったりすることを抑制することができる。従って、鋳型4内における溶鋼3の偏流の推定精度をより向上させることができる。
尚、本実施形態においても、第1の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。第1の実施形態の<変形例>の項で説明したのと同様に、熱電対10a~10lが配置されている全ての位置における温度の時間平均値T1ave~TLaveを、第2の状態ベクトルx→(2)に含めなくてもよい。
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態を説明する。第2の実施形態では、観測される物理量(温度)と同じ物理量の時間平均値T1ave~TLave、T'1ave~T'Laveを用いて第2の状態ベクトルx→(2)を構成する場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、第2の状態ベクトルx→(2)に含める成分の少なくとも一部が、観測される物理量と異なる物理量の時間平均値である場合を例に挙げて説明する。このように本実施形態と第1、第2の実施形態とは、第2の状態ベクトルx→(2)の構成が異なることに基づく構成および処理が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1、第2の実施形態と同一の部分については、図1~図5に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
<本発明者らが得た知見>
状態ベクトルおよび観測ベクトルの次数が高いと、データ同化において修正すべき状態ベクトルの成分が多くなり、本来修正すべき成分への修正が適切に修正されなくなる虞がある。そこで、本発明者らは、状態ベクトルおよび観測ベクトルに含める成分を、鋳型4内における溶鋼3の偏流を可及的にダイレクトに反映する物理量に絞る必要があると考えた。このような物理量として、例えば、熱流束が挙げられる。以下に説明する本発明の第3の実施形態は、このような知見に基づいてなされたものである。
<連続鋳造鋳型内可視化装置600の構成>
図6は、連続鋳造鋳型内可視化装置600の機能的な構成の一例を示す図である。連続鋳造鋳型内可視化装置600のハードウェアは、例えば、第1の実施形態の連続鋳造鋳型内可視化装置100のハードウェアと同じもので実現することができる。
(数値解析データ導出部601)
数値解析データ導出部601は、数値シミュレーションにより、可視化対象平面領域の各計算格子点における流速および熱電対10a~10lが配置されている位置における温度を第1の状態ベクトルの成分のデータとして導出し、当該第1の状態ベクトルのデータを加工して、数値解析データを成分として含む第2の状態ベクトルのデータを導出する。本実施形態では、数値解析データ導出部601は、数値シミュレーション部101aと、数値シミュレーションデータ加工部601aとを有する。
((数値シミュレーションデータ加工部601a))
数値シミュレーションデータ加工部601aは、数値シミュレーション部101aで導出された第1の状態ベクトルx→(1)のデータを加工して、第2の状態ベクトルx→(2)のデータを導出する。本実施形態では、第2の状態ベクトルx→(2)が、以下の(7)式で表される場合を例に挙げて説明する。尚、x→(2)の→は、(7)式において、xの上に付されている→に対応する。
Figure 0007332875000006
Δq1ave、Δq2ave、Δq3aveは、鋳型4の短辺部4a、4bの領域41a~41b、42a~42b、43a~43bにおける熱流束の差の時間平均値であり、数値シミュレーションの結果に基づいて導出されるものである。具体的に、Δq1aveは、領域41aにおける熱流束の代表値の時間平均値から領域41bにおける熱流束の代表値の時間平均値を減算したものであり、Δq2aveは、領域42aにおける熱流束の代表値の時間平均値から領域42bにおける熱流束の代表値の時間平均値を減算したものであり、Δq3aveは、領域43aにおける熱流束の代表値の時間平均値から領域43bにおける熱流束の代表値の時間平均値を減算したものである。
ここで、領域41a~43a、41b~43bは、図12に示すように、鋳型4の短辺部4a、4bを鋳造方向(X軸方向)において3等分した領域の1つである。領域41a~43a、41b~43bにおける熱流束の代表値は、当該領域の鋳造幅方向(Y軸方向)における熱流束の代表値であり、例えば、当該(1つの)領域内の複数の位置における熱流束の平均値、中央値、または最頻値である。平均値は、算術平均値であっても、位置に応じて重み付けをした加重平均値であってもよい。また、領域41a~43a、41b~43bにおける熱流束の代表値として、例えば、当該(1つの)領域内の代表的な1つの位置における熱流束を採用してもよい。
また、領域41a~41b、42a~42b、43a~43bにおける熱流束の差の時間平均値Δq1ave、Δq2ave、Δq3aveは、時刻tより前の時刻から時刻tまでの所定の時間における時間平均値である。所定の時間は、0.5秒以上かつ30秒以下とするのが好ましく、3秒以上かつ10秒以下とするのがより好ましい。
数値シミュレーションデータ加工部601aは、例えば、第2の実施形態の数値シミュレーションデータ加工部401aと同様に、熱電対10a~10lの位置における推定温度の時間平均値T1ave (k)~TLave (k)を導出する。そして、数値シミュレーションデータ加工部601aは、鋳型4の短辺部4a、4bにおける伝熱状態が鋳造幅方向(Y軸方向)の1次元定常熱伝導であると仮定して、熱電対10a~10lの位置における推定温度の時間平均値T1ave (k)~TLave (k)と、鋳型4の冷却水の温度と、鋳型4の熱伝導度とに基づいて、熱電対10a~10lの位置における熱流束の時間平均値を導出する。そして、数値シミュレーションデータ加工部601aは、熱電対10a~10lの位置における当該熱流束の時間平均値に基づいて、領域41a~43a、41b~43bにおける熱流束の代表値の時間平均値を導出し、領域41a~41b、42a~42b、43a~43bにおける熱流束の差の時間平均値Δq1ave (k)、Δq2ave (k)、Δq3ave (k)を、熱流束の差の時間平均値Δq1ave、Δq2ave、Δq3aveの値として導出する。
鋳型4の短辺部4a、4b(領域41a~43a、41b~43b)内の温度の時間平均値として、熱電対10a~10lの位置における推定温度の時間平均値T1ave (k)~TLave (k)を用いなくてもよい。このようにする場合、数値シミュレーションデータ加工部601aは、例えば、鋳型4の短辺部4a、4bにおける伝熱状態が鋳造幅方向(Y軸方向)の1次元定常熱伝導であると仮定して、数値シミュレーション部101aにおいて導出された短辺部4a、4bとの境界上にある各計算格子点における温度の時間平均値と、鋳型4の冷却水の温度と、鋳型4の熱伝導度とに基づいて、短辺部4a、4bとの境界上にある各計算格子点における熱流束の時間平均値を導出することにより、鋳型4の短辺部4a、4b(領域41a~43a、41b~43b)における熱流束の代表値の時間平均値を導出する。
(第1の確率密度関数導出部102)
第1の確率密度関数導出部102は、第2の状態ベクトルx→(2)の成分として、熱電対10a~10lが配置されている位置における温度T1~TLに代えて、鋳型上部の熱流束の差の時間平均値Δq1ave、鋳型中央部の熱流束の差の時間平均値Δq2ave、および鋳型下部の熱流束の差の時間平均値Δq3aveを用いて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの条件付き確率密度関数p(x→(2) t|y→(2) t0:t-Δt)を導出する。
(観測データ導出部602)
観測データ導出部602は、可視化断面の各観測位置における温度の測定値を第1の観測ベクトルの成分として第1の観測データを導出し、当該第1の観測データを加工して第2の観測データを導出する。本実施形態では、観測データ導出部602は、観測データ取得部103aと、観測データ加工部602aとを有する。
((観測データ加工部602a))
観測データ加工部602aは、観測データ取得部103aにより取得された観測データである第1の観測データy→(1) t (0)を加工して、第2の観測データy→(2) t (0)を導出する。本実施形態では、第1の実施形態における観測ベクトルを第1の観測ベクトルと称し、鋳型4の短辺部4a、4bの領域41a~41b、42a~42b、43a~43bにおける熱流束の差の時間平均で構成されるベクトルを第2の観測ベクトルと称する。従って、第2の観測データy→(2) t (0)は、以下の(8)式で表される。尚、y→(2) t (0)の→は、(8)式において、yの上に付されている→に対応する。
Figure 0007332875000007
Δq'1ave、Δq'2ave、Δq'3aveは、鋳型4の短辺部4a、4bの領域41a~41b、42a~42b、43a~43bにおける熱流束の差の時間平均値であり、熱電対10a~10lの測定値T'1~T'Lに基づいて導出されるものである。具体的に、Δq'1aveは、領域41aにおける熱流束の代表値の時間平均値から領域41bにおける熱流束の代表値の時間平均値を減算したものであり、Δq'2aveは、領域42aにおける熱流束の代表値の時間平均値から領域42bにおける熱流束の代表値の時間平均値を減算したものであり、Δq'3aveは、領域43aにおける熱流束の代表値の時間平均値から領域43bにおける熱流束の代表値の時間平均値を減算したものである。以下の説明では、Δq'1ave、Δq'2ave、Δq'3aveを、必要に応じて、それぞれ、温度測定値に基づく熱流束の差と総称する。
本実施形態では、鋳型4の短辺部4a、4bの領域41a~41b、42a~42b、43a~43bにおける熱流束の差の時間平均値が、各観測位置における物理量に基づいて導出される物理量の一例となる。
温度測定値に基づく熱流束の差の時間平均値Δq'1ave、Δq'2ave、Δq'3aveは、時刻tより前の時刻から時刻tまでの所定の時間における時間平均値である。ここで、所定の時間は、熱流束の差の時間平均値Δq1ave、Δq2ave、Δq3aveを鋳型4の短辺部4a、4bの領域41a~41b、42a~42b、43a~43bにおける熱流束の差の時間平均値と定義した際の平均する時間と同一である。
観測データ加工部602aは、例えば、第2の実施形態の観測データ加工部402aと同様に、熱電対10a~10lの測定値の時間平均値T'1ave~T'Laveを導出する。そして、観測データ加工部602aは、鋳型4の短辺部4a、4bにおける伝熱状態が鋳造幅方向(Y軸方向)の1次元定常熱伝導であると仮定して、熱電対10a~10lの測定値の時間平均値T'1ave~T'Laveと、鋳型4の冷却水の温度と、鋳型4の熱伝導度とに基づいて、熱電対10a~10lの位置における熱流束の時間平均値を導出する。そして、観測データ加工部602aは、熱電対10a~10lの位置における当該熱流束の時間平均値に基づいて、領域41a~43a、41b~43bにおける熱流束の代表値の時間平均値を導出し、温度測定値に基づく熱流束の差の時間平均値Δq'1ave、Δq'2ave、Δq'3aveを導出する。
(尤度関数導出部104)
尤度関数導出部104は、(第1の)観測ベクトルy→(1)に代えて第2の観測ベクトルy→(2)を用い、(第1の)観測データy→(1) t (0)に代えて第2の観測データy→(2) t (0)を用いて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(2) t)を導出する。
(データ同化部105)
データ同化部105は、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) 0:t-Δt)に代えて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(2) 0:t-Δt)を用いると共に、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(1) t)に代えて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(2) t)を用いて、第1の実施形態で説明した処理を行う。
(可視化データ作成部106、出力部107)
可視化データ作成部106および出力部107の処理は、第1の実施形態で説明した通りである。
<動作フローチャート>
次に、図7のフローチャートを参照しながら、可視化装置600の処理の一例を説明する。
ステップS301~S304は、図3のフローチャートのステップS301~S304と同じである。ステップS304において、数値シミュレーション部101aにより、時刻tにおける第1の状態ベクトルx→(1) tのデータが導出される((1)式を参照)。
ステップS304の後、処理はステップS701に進む。処理がステップS701に進むと、数値シミュレーションデータ加工部601aは、時刻tにおける第1の状態ベクトルx→(1) tのデータを加工して、時刻tにおける第2の状態ベクトルx→(2) tのデータを導出する((7)式を参照)。第2の状態ベクトルx→(2)のデータには、溶鋼3の流速は含まれず、タンディッシュ2から領域6dに流入する溶鋼3の流量uinlet (k)(の時刻tでの瞬時値)と、鋳型4の短辺部4a、4bの領域41a~41b、42a~42b、43a~43bにおける熱流束の差の時間平均値Δq1ave (k)、Δq2ave (k)、Δq3ave (k)とが含まれる。
次に、ステップS306において、第1の確率密度関数導出部102は、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(2) t-Δt)を導出する。
次に、ステップS307において、観測データ取得部103aは、時刻tでの(第1の)観測データy→(1) t (0)(各観測位置iにおける熱電対10a~10lの測定値)を取得する。
次に、ステップS702において、観測データ加工部602aは、時刻tにおける第1の観測データy→(1) t (0)を加工して、時刻tにおける第2の観測データy→(2) t (0)を導出する((8)式を参照)。時刻tにおける第2の観測データy→(2) t (0)には、温度測定値に基づく熱流束の差の時間平均値Δq'1ave、Δq'2ave、Δq'3aveが含まれる。
以降ステップS308~S314においては、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) 0:t-Δt)に代えて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第1の確率密度関数p(x→(2) t|y→(2) 0:t-Δt)を用い、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(1) t)に代えて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの尤度関数L(x→(2) t|y→(2) t)を用い、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(1) t0:t)に代えて、時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの第2の確率密度関数p(x→(2) t|y→(2) t0:t)を用いて、図3を参照しながら説明した処理と同様の処理が行われる。
<まとめ>
以上のように本実施形態では、可視化装置600は、熱電対10a~10lが配置されている位置における推定温度T1 (k)~TL (k)に代えて、鋳型4の短辺部4a、4bの領域41a~41b、42a~42b、43a~43bにおける熱流束の差の時間平均値Δq1ave (k)、Δq2ave (k)、Δq3ave (k)を含む第2の状態ベクトルx→(2) tのデータを導出し、熱電対10a~10lの測定値T'1~T'Lに代えて、温度測定値に基づく熱流束の差の時間平均値Δ'q1ave、Δ'q2ave、Δ'q3aveを含む第2の観測データy→(2) t (0)を導出する。従って、第1、第2の実施形態で説明した効果に加えて、状態ベクトルおよび観測ベクトルに含める成分を、鋳型4内における溶鋼3の偏流を可及的にダイレクトに反映する物理量に絞ることができる。従って、鋳型4内における溶鋼3の偏流の推定精度をより一層向上させることができる。
<変形例>
本実施形態のように、鋳型4の短辺部4a(領域41a~43a)における熱流束の代表値の時間平均値と、鋳型4の短辺部4b(領域41b~43b)における熱流束の代表値の時間平均値との差を用いれば、状態ベクトルの次数を低くすることができるので好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、鋳型4の短辺部4a(領域41a~43a)における熱流束の代表値と、鋳型4の短辺部4b(領域41b~43b)における熱流束の代表値を、状態ベクトルおよび観測ベクトルの成分に含めてもよい。
また、本実施形態のように、鋳型4の短辺部4a~4bを複数の領域41a~43a、41b~43bに分け、当該領域の代表値を用いるようにすれば、状態ベクトルの次数を低くすることができるので好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、鋳型4の短辺部4a、4bにおける熱流束であって、鋳造方向(X軸方向)の位置が、熱電対10a~10lが配置されている位置と同じ位置における熱流束を用いてもよい。
また、例えば、熱電対10a~10lが配置されている全ての位置における温度の時間平均値T1ave~TLaveの中に、溶鋼3の偏流に大きく影響を受ける時間平均値がある場合には、当該時間平均値を本実施形態における第2の状態ベクトルx→(2)にさらに含めるようにしてもよい。このようにする場合、熱電対10a~10lの測定値の時間平均値T'1ave~T'Laveのうち、第2の状態ベクトルx→(2)に含める時間平均値に対応するものを第2の観測データy→(2) t (0)に含める。
この他、本実施形態においても、第1、第2の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
[実施例]
次に、実施例を説明する。
本実施例では、数値シミュレーションとして、以下の(9a)式~(9c)式を基礎式とする数値シミュレーションを行った。
Figure 0007332875000008
(9a)式は、連続の式、(9b)式は、ブジネスク近似による浮力を考慮したナビエストークス方程式、(9c)式は、エネルギー保存式である。尚、u→は、流速ベクトル、Tは温度、tは時間、pは圧力、ρは密度、g→は重力加速度ベクトル、νは動粘性係数、βは熱膨張率、kは熱伝導率、Cpは定圧熱容量、T0は基準温度である。尚、u→、g→は、それぞれ、(9a)式~(9c)式において、uの上に→、gの上に→が付されている記号に対応する。
解析対象領域は、鋳型4およびその下方の領域であり、鋳造幅方向(Y軸方向)の長さが0.6m、鋳造方向(X軸方向)の長さが2.0m、鋳造厚方向(Z軸方向)の長さが0.1mの直方体の領域とした。そのうち、鋳型4内の領域は、0.6m×0.7mの領域である。また、解析対象領域のうち、鋳造幅方向の最も上側の位置(解析対象の領域のうちX軸の値が最小になる位置)がメニスカスの位置に対応するものとした。このような解析対象領域において、空間差分のX軸方向×Y軸方向×Z軸方向の格子点の数は31点×101点×11点とした。
メニスカス、鋳型4との境界、その外の境界(凝固シェル8との境界および浸漬ノズル6との境界)には、温度の境界条件として、それぞれ、54.34W/m2/K、1295.8W/m2/K、418.0W/m2/Kの熱伝達係数を定めた。
また、鋳造速度(鋳片の引き抜き速度)を1.2m/minとした。また、鋳型4内に注入される溶鋼3の温度を1618℃とした。
本実施例では、双子実験によりデータ同化の推定精度を検証した。双子実験は、データ同化の分野で一般的に用いられる手法であるが、その概要を説明すると、計算条件を異ならせた2つの数値シミュレータを用意し、一方の数値シミュレータの計算結果の一部を測定データとし、この測定データを他方の数値シミュレータに送り、当該他方の数値シミュレータでデータ同化を行う。測定データを受け取った当該他方の数値シミュレータの計算結果と、当該一方の数値シミュレータの計算結果とを比較する。両者が近いほど、データ同化から送られた測定データに近い値をするほど、データ同化の推定精度が高いことになる。当該一方の数値シミュレータにおいて、タンディッシュ2から領域6cに流入する溶鋼3の流量:タンディッシュ2から領域6dに流入する溶鋼3の流量uinlet=1.2:0.8とした。データ同化の手法としてはアンサンブルカルマンフィルタを用いた。アンサンブルメンバーの数は、50とした。
以上の条件で、第1の実施形態、第2の実施形態、第3の実施形態のそれぞれの手法で、各時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの推定値を導出し、各時刻tでの第2の状態ベクトルx→(2) tの推定値に基づいて、各時刻tでの第1の状態ベクトルx→(1) tの推定値を導出した。第1の実施形態、第2の実施形態、第3の実施形態の手法を発明例1、発明例2、発明例3と称する。
また、発明例1~3との対比のため、第2の状態ベクトルx→(2)を用いずに第1の状態ベクトルx→(1)と、第1の実施形態における(第1の)観測ベクトルy→(1)とを用いて、各時刻tでの第1の状態ベクトルx→(1) tの推定値を導出した。この手法を比較例と称する。
図8、図9、図10、図11は、それぞれ、発明例1、発明例2、発明例3、比較例の結果を示す図である。何れもステップ幅Δtを3秒とした。また、発明例2と発明例3において、T1ave~TLaveを温度T1~TLの時間平均値と定義した際の平均する時間およびT'1ave~T'Laveを測定値T'1~T'Lの時間平均値と定義した際の平均する時間を3秒とし、時間平均値T1ave (k)~TLave (k)を導出する際に用いる推定温度T1 (k)~TL (k)の値を取得する時間間隔および時間平均値T'1ave~T'Laveを導出する際に用いる測定値T'1~T'Lを取得する時間間隔を1秒とした。
図8(a)、図9(a)、図10(a)、図11(a)は、タンディッシュ2から領域6cに流入する溶鋼3の流量(Inlet Value(left side of nozzle))と時間(time step)との関係を示す図であり、データ同化の結果を示す。尚、タンディッシュ2から領域6cに流入する溶鋼3の流量は、吐出口7aから鋳型4内に流入する溶鋼3の流量と等しく、タンディッシュ2から領域6dに流入する溶鋼3の流量uinletは、吐出口7bから鋳型4内に流入する溶鋼3の流量と等しい。
図8(a)、図9(a)、図10(a)、図11(a)において、correct val.は、データの送信側(一方の数値シミュレータ)で得られた、タンディッシュ2から領域6cに流入する溶鋼3の流量(=1.2)である。Ensは、各時間ステップにおいてデータの受信側(他方の数値シミュレータ)で得られた、タンディッシュ2から領域6cに流入する溶鋼3の流量(アンサンブルメンバーの値)である。Initial val.は、データの受信側(他方の数値シミュレータ)における、タンディッシュ2から領域6cに流入する溶鋼3の流量(アンサンブルメンバーの値)の初期値である。Assim.val.は、各時間ステップにおいてデータの受信側(他方の数値シミュレータ)で得られた、タンディッシュ2から領域6cに流入する溶鋼3の流量(アンサンブルメンバーの値)の標準偏差の範囲(±σ)を示し、●は、その平均値を示す。
図8(b)、図9(b)、図10(b)、図11(b)は、吐出口7a、7bから鋳型4内に流入する溶鋼3の流量を示す。図8(b)、図9(b)、図10(b)、図11(b)において、各矢印線は、各時間ステップにおける、吐出口7aから鋳型4内に流入する溶鋼3の流れを示す。
図8~図10に示す発明例1~3では、時間の経過(データの受診回数の増加)と共に、タンディッシュ2から領域6cに流入する溶鋼3の流量(アンサンブルメンバーの値)の平均値が、データの送信側の値に近づき、標準偏差の範囲が、データの送信側の値に重なるようになる。特に発明例3では、これに対し、タンディッシュ2から領域6cに流入する溶鋼3の流量(アンサンブルメンバーの値)の平均値が、データの送信側の値と略同じになる。これに対し、図11に示す比較例では、時間の経過(データの受診回数の増加)と共に、タンディッシュ2から領域6cに流入する溶鋼3の流量(アンサンブルメンバーの値)の平均値および標準偏差の範囲は、データの送信側の値に近づくものの、発明例1~3に比べて、両者の乖離は大きい。
以上のように第1の実施形態、第2の実施形態、第3の実施形態の手法により、溶鋼3の流れを精度よく導出し、可視化することができることが分かる。
尚、以上説明した本発明の各実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
1:取鍋、2:タンディッシュ、3:溶鋼、4:鋳型、5:スライディングノズル、6:浸漬ノズル、7a~7b:吐出口、8:凝固シェル、9:湯面レベル計、10a~10l:熱電対、100、400、600:連続鋳造鋳型内可視化装置、101a:数値シミュレーション部、101b、401a、601a:数値シミュレーションデータ加工部、102:第1の確率密度関数導出部、103、402、602:観測データ導出部、103a:観測データ取得部、104:尤度関数導出部、105:データ同化部、106:可視化データ作成部、107:出力部、402a、602a:観測データ加工部

Claims (15)

  1. 連続鋳造設備の鋳型に浸漬ノズルを介して注入される溶の可視化対象領域の各計算位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量の少なくとも一方を含む状態ベクトルについて、時刻tでの前記状態ベクトルのデータである数値解析データを、数値シミュレーションの結果に基づいて時間隔Δtごとに導出することを、時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t-Δtから当該時刻tまでの間での流入境界条件のパラメータが少なくとも異なる複数のケースのそれぞれについて行う数値解析データ導出手段と、
    前記数値解析データ導出手段により導出された前記複数のケースの時刻tでの数値解析データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの第1の確率密度関数を導出する第1の確率密度関数導出手段と、
    前記連続鋳造設備の各観測位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量との少なくとも一方を含む観測ベクトルについて、時刻tでの前記観測ベクトルのデータである観測データを前記各観測位置に配置されたセンサの測定値に基づいて前記時間隔Δtごとに導出する観測データ導出手段と、
    前記観測データ導出手段により導出された時刻tでの観測データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの尤度関数を導出する尤度関数導出手段と、
    前記第1の確率密度関数導出手段により導出された時刻tでの前記状態ベクトルの前記第1の確率密度関数と、前記尤度関数導出手段により導出された当該時刻tでの前記状態ベクトルの前記尤度関数とに基づいて、ベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタにより、当該時刻tでの前記状態ベクトルの第2の確率密度関数を導出し、当該状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて、当該時刻tでの前記状態ベクトルの推定値を導出するデータ同化手段と、
    を有し、
    前記数値解析データ導出手段において時刻tでの前記数値解析データを導出する際の前記複数のケースは、前記データ同化手段により導出された当該時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t-Δtでの前記状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて導出され、
    前記状態ベクトルには、前記各計算位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量の少なくとも一方と、当該各計算位置における物理量を導出する際の数値シミュレーションの際に用いた前記流入境界条件のパラメータとが含まれ、
    前記各計算位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量には、前記溶鋼における流速は含まれず、且つ、前記溶鋼における温度、前記鋳型における温度、または前記鋳型における熱流束が含まれ、
    前記流入境界条件のパラメータは、前記浸漬ノズルに流入する溶の流量を含み、
    前記各観測位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量には、前記鋳型における温度または熱流束が含まれることを特徴とする連続鋳造鋳型内可視化装置。
  2. 前記浸漬ノズルは、第1の吐出口および第2の吐出口を有し、
    前記第1の吐出口から、前記鋳型の内壁面であって、相互に対向する2つの内壁面のうちの第1の内壁面の方向に溶が吐出され、前記第2の吐出口から、当該2つの内壁面のうちの第2の内壁面の方向に溶が吐出され、
    前記流入境界条件のパラメータは、前記浸漬ノズルの内部の領域のうち、前記浸漬ノズルの軸よりも、前記第1の吐出口側の領域に流入する溶の流量と、前記浸漬ノズルの内部の領域のうち、前記浸漬ノズルの軸よりも、前記第2の吐出口側の領域に流入する溶の流量とのうち、少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  3. 前記浸漬ノズルに流入する溶の流量は変化しないものとして前記数値シミュレーションが行われ、
    前記データ同化手段において前記第2の確率密度関数に基づいて導出される前記流入境界条件のパラメータは、前記浸漬ノズルの軸よりも、前記第1の吐出口側の領域に流入する溶の流量と、前記浸漬ノズルの領域のうち、前記浸漬ノズルの軸よりも、前記第2の吐出口側の領域に流入する溶の流量とのうち、一方のみを含むことを特徴とする請求項2に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  4. 前記観測位置は、少なくとも前記鋳型の短辺部内に設けられることを特徴とする請求項2または3に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  5. 前記各計算位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量の少なくとも一方と、前記各観測位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量の少なくとも一方は、時間平均値であることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  6. 前記各計算位置における物理量に基づいて導出される物理量は、前記各計算位置における物理量と異なる第2の物理量であり、
    前記各観測位置における物理量に基づいて導出される物理量は、前記第2の物理量であることを特徴とする請求項5に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  7. 前記各計算位置における物理量は、前記溶における温度を含み、
    前記各観測位置における物理量は、前記鋳型における温度を含み、
    前記第2の物理量は、前記鋳型における熱流束を含むことを特徴とする請求項6に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  8. 前記浸漬ノズルは、第1の吐出口および第2の吐出口を有し、
    前記第1の吐出口から、前記鋳型の内壁面であって、相互に対向する2つの内壁面のうちの第1の内壁面の方向に溶が吐出され、前記第2の吐出口から、当該2つの内壁面のうちの第2の内壁面の方向に溶が吐出され、
    前記第2の物理量は、前記鋳型のうち、前記第1の内壁面を構成する部分における熱流束と、前記鋳型のうち、前記第2の内壁面を構成する部分における熱流束との差を表す物理量であることを特徴とする請求項7に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  9. 前記観測位置は、少なくとも前記鋳型の短辺部内に設けられることを特徴とする請求項8に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  10. 前記データ同化手段により導出された時刻tでの前記状態ベクトルの推定値に基づいて、時刻tでの前記可視化対象領域の各計算位置における前記物理量の表示データを作成する可視化データ作成手段を更に有することを特徴とする請求項1~9の何れか1項に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  11. 前記データ同化手段は、時刻tでの前記状態ベクトルの第2の確率密度関数の最頻値を、時刻tでの前記状態ベクトルの推定値として導出することを特徴とする請求項1~10の何れか1項に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  12. 前記各計算位置における物理量は、前記溶における温度を含み、
    前記各計算位置における物理量に基づいて導出される物理量は、前記鋳型における温度を含むことを特徴とする請求項1~11の何れか1項に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  13. 前記フィルタは、アンサンブルカルマンフィルタまたは粒子フィルタであることを特徴とする請求項1~12の何れか1項に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  14. 連続鋳造設備の鋳型に浸漬ノズルを介して注入される溶の可視化対象領域の各計算位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量の少なくとも一方を含む状態ベクトルについて、時刻tでの前記状態ベクトルのデータである数値解析データを、数値シミュレーションの結果に基づいて時間隔Δtごとに導出することを、時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t-Δtから当該時刻tまでの間での流入境界条件のパラメータが少なくとも異なる複数のケースのそれぞれについて行う数値解析データ導出工程と、
    前記数値解析データ導出工程により導出された前記複数のケースの時刻tでの数値解析データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの第1の確率密度関数を導出する第1の確率密度関数導出工程と、
    前記連続鋳造設備の各観測位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量との少なくとも一方を含む観測ベクトルについて、時刻tでの前記観測ベクトルのデータである観測データを前記各観測位置に配置されたセンサの測定値に基づいて前記時間隔Δtごとに導出する観測データ導出工程と、
    前記観測データ導出工程により導出された時刻tでの観測データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの尤度関数を導出する尤度関数導出工程と、
    前記第1の確率密度関数導出工程により導出された時刻tでの前記状態ベクトルの前記第1の確率密度関数と、前記尤度関数導出工程により導出された当該時刻tでの前記状態ベクトルの前記尤度関数とに基づいて、ベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタにより、当該時刻tでの前記状態ベクトルの第2の確率密度関数を導出し、当該状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて、当該時刻tでの前記状態ベクトルの推定値を導出するデータ同化工程と、
    を有し、
    前記数値解析データ導出工程において時刻tでの前記数値解析データを導出する際の前記複数のケースは、前記データ同化工程により導出された当該時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t-Δtでの前記状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて導出され、
    前記状態ベクトルには、前記各計算位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量の少なくとも一方と、当該各計算位置における物理量を導出する際の数値シミュレーションの際に用いた前記流入境界条件のパラメータとが含まれ、
    前記各計算位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量には、前記溶鋼における流速は含まれず、且つ、前記溶鋼における温度、前記鋳型における温度、または前記鋳型における熱流束が含まれ、
    前記流入境界条件のパラメータは、前記浸漬ノズルに流入する溶の流量を含み、
    前記各観測位置における物理量および当該物理量に基づいて導出される物理量には、前記鋳型における温度または熱流束が含まれることを特徴とする連続鋳造鋳型内可視化方法。
  15. 請求項1~13の何れか1項に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
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