JP2021102221A - 連続鋳造鋳型内可視化装置、方法、およびプログラム - Google Patents

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Yutaka Kishida
豊 岸田
健介 岡澤
Kensuke Okazawa
健介 岡澤
和政 筒井
Kazumasa Tsutsui
和政 筒井
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Abstract

【課題】連続鋳造設備の鋳型内の溶鋼の状態を可視化することができるようにする。【解決手段】可視化装置100は、熱電対で測定された温度Tiobを用いて逆問題を解くことにより、熱伝達係数α、β、および凝固シェルの厚みsを導出する。可視化装置100は、熱電対で測定された温度Tiob、熱流束qi、熱伝達係数βi、および凝固シェルの厚みsiobを観測データとして用いて状態ベクトルの尤度関数を導出する。可視化装置100は、時刻tでの状態ベクトルの第1の確率密度関数と、当該時刻tでの状態ベクトルの尤度関数とを、データ同化を行うフィルタのアルゴリズムに与えることにより、時刻tでの状態ベクトルの第2の確率密度関数を導出する。可視化装置100は、第2の確率密度関数の最頻値を、時刻tでの状態ベクトルの推定値として導出する。【選択図】図1

Description

本発明は、連続鋳造鋳型内可視化装置、方法、およびプログラムに関し、特に、連続鋳造設備に用いて好適なものである。
図6は、連続鋳造設備の概略構成の一例を示す図である。尚、各図において、X軸、Y軸、Z軸は、向きを示すものである。○の中に×を示しているものは、紙面の手前側から奥側に向く方向を示す。
取鍋1からタンディッシュ2へ供給された溶鋼3は、鋳型4へ注入される。タンディッシュ2の底部にはスライディングノズル5が設けられている。スライディングノズル5の下部には、浸漬ノズル6が設けられている。浸漬ノズル6は、鋳型4の水平断面(Y−Z断面)の中央部に配置される。浸漬ノズル6の先端の側面には、左右一対の吐出口7(Y軸方向の両端の一対の吐出口7)が形成されている。浸漬ノズル6の先端(吐出口7)は、鋳型4内(鋳型4で囲まれた領域)に供給された溶鋼3に浸漬された状態にされる。また、鋳型4と溶鋼3・凝固シェル8との潤滑等の目的のために添加されるフラックス(パウダー)によりモールドフラックス層10が形成される。図7は、鋳型4内の溶鋼3の流れの一例を示す図である。
タンディッシュ2に供給された溶鋼3は、スライディングノズル5を介して浸漬ノズル6内を流下し、左右一対の吐出口7から鋳型4内に注入される。左右一対の吐出口7から吐出された溶鋼3は、凝固シェル8に衝突した後、図7の矢印で表されるように上昇流と下降流とに分流される。
図7(a)に示すように、定常時では、左右一対の吐出口7から吐出される溶鋼の量はほぼ均等になっている。しかしながら、図7(b)に示すように、左右一対の吐出口7から吐出される溶鋼の量が不均等になることがある。このように左右一対の吐出口7から吐出される溶鋼の量が不均等になることを偏流という。偏流が生じると、浸漬ノズル6を挟んだ左右両側における溶鋼3の流速に差異が生じる。
かかる偏流が生じる原因としては、浸漬ノズル6の内面等にアルミナ等の酸化物が付着したり、吐出口7が溶損して吐出口7の形状が歪んだりすることが挙げられる。また、スライディングノズル5の構造上、溶鋼3が浸漬ノズル6内を軸対称に流下せず、左右何れかに偏って流下することも、偏流が生じる原因として挙げられる。
以上のような理由により鋳型4内で溶鋼3の偏流が生じると、浸漬ノズル6を挟んだ左右両側の領域のうち、溶鋼3の量が多い側の領域では、溶鋼3が凝固シェル8の内面に沿って上方および下方に勢いよく分流することになる。勢いの強い溶鋼3の上昇流は、溶鋼3の湯面(メニスカス)の盛り上がりを生起する。これにより、溶鋼3の湯面上に散布されたフラックスが鋳型4の内壁面と凝固シェル8との間に供給されるのが阻害される。そうすると、凝固シェル8の形状が不均一となりやすく、連続鋳造設備で鋳造される鋳片に発生する皺や割れ等の原因となる。
また、勢いの強い溶鋼3の下降流は、溶鋼3の深くまで達して非金属介在物の浮上を妨げる。非金属性介在物がストランド深くまで進入することは、連続鋳造設備で鋳造される鋳片に非金属介在物性欠陥をもたらす等の原因となる。溶鋼3の湯面レベル(溶鋼3の湯面(メニスカス)の高さ方向(X軸方向)の位置)は、湯面レベル計9で測定される。湯
面レベル計9としては渦流センサ等が用いられる。
一方、浸漬ノズル6を挟んだ左右両側の領域のうち、溶鋼3の量が少ない側の領域では、溶鋼3の吐出される流れの勢いが弱くなる。溶鋼3の吐出される流れの勢いが弱いと、吐出口7内の溶鋼3の流れによどみが発生しやすくなり、アルミナ等の析出物が浸漬ノズル6内に付着する虞がある。アルミナ等の析出物の付着は、浸漬ノズル6内の流路を閉塞する等の原因となる。
以上述べたように鋳型4内に偏流が生じると、連続鋳造の操業に支障があるばかりではなく、鋳片の品質の低下を招き、好ましくない。従って、偏流が生じた場合には、例えば、鋳造の速度を変更したり、フラックスを変更したり、浸漬ノズル6を交換したりする等の処置が必要である。これらの処置を、適切かつ迅速に行うためには、偏流の発生のような鋳型4内の状態を、常時監視して把握しておく必要がある。
鋳型4内は非常に高温であり且つ不透明である。従って、鋳型4内における溶鋼3の伝熱および流動の状態を直接的に観察することはできない。
そこで、特許文献1には、以下の技術が開示されている。まず、鋳型4の相互に対向する領域に埋め込まれた熱電対により測定された温度を用いて伝熱逆問題解析を行う。この逆問題解析により、鋳型4の相互に対向する領域の一方および他方の側(N側、S側)における熱流束の時系列の情報を算出する。この熱流束の時系列の情報から、遅延ベクトルを算出し、この遅延ベクトルの時間推移による軌道を作成することにより、N側のアトラクタおよびS側のアトラクタを再構成する。N側のアトラクタおよびS側のアトラクタに基づいて、N側の熱流束の分布およびS側の熱流束の分布を変数とするリカレンスプロットを作成し、このリカレンスプロットに基づいて、偏流の有無を診断する。
また、特許文献2には、以下の技術が開示されている。まず、鋳型4の相互に対向する領域に埋め込まれた熱電対により測定された温度を用いて伝熱逆問題解析を行う。この伝熱逆問題解析により、鋳型4の内壁面における熱流束の鋳造方向の成分値に基づいて、溶鋼3の湯面レベルを、鋳型4の相互に対向する内壁面の双方において求める。この溶鋼3の湯面レベルの差を、偏流の指標として求める。
特開2003−305553号公報 特開2016−175106号公報 特開2016−22523号公報 国際公開第2015/115651号
J. Szekely and T. Yadoya, "The physical and mathematical modeling of the flow field in the mold region in continuous casting systems: Part II. The mathematical representation of the turbulent flow", Metallurgical Transactions, Vo.4, 1379 (1973) 樋口知之編著、「データ同化入門」、朝倉書店、2011年 北川源四朗著、「時系列解析入門」、岩波書店、2005年 King, Aaron A., Dao Nguyen, and Edward L. Ionides. "Statistical Inference for Partially Observed Markov Processes via the R Package pomp." Journal of Statistical Software 69.i12 (2016)
特許文献1に記載の技術では、リカレンスプロットを偏流の指標とし、特許文献2に記載の技術では、溶鋼3の湯面レベルの差を偏流の指標とする。即ち、特許文献1、2に記載の技術は、単に偏流の指標を求めているだけである。しかしながら、これらの指標では、連続鋳造の操業に支障があるか否か、あるいは、鋳片の品質低下を招くか否かを必ずしも正確に予測(推定)できる訳ではない。そして、予測(推定)が外れても、その原因を究明するための情報が少なく、指標を改善するなどの対策を打つことは困難である。そこで、本発明者らは、鋳型内の溶鋼の状態(温度や流速などの物理量)を可視化することができれば、多くの情報が得られ、操業状態や鋳片の品質との因果関係がより明瞭となり、この因果関係に不整合が生じたとしても対策を講じることを容易くするとの考えに至った。
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、連続鋳造設備の鋳型内の溶鋼の状態を可視化することができるようにすることを目的とする。
本発明の連続鋳造鋳型内可視化装置は、連続鋳造設備の鋳型に注入される溶融金属の可視化対象領域の各計算位置における物理量を含むベクトルである状態ベクトルについて、時刻tでの前記状態ベクトルのデータである数値解析データを数値シミュレーションにより時間隔Δtごとに導出することを、時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t−Δtでの前記溶融金属の温度と、当該時刻t−Δtでの前記溶融金属の流速と、当該時刻t−Δtから当該時刻tまでの間での境界条件のパラメータの少なくとも1つとのうち、少なくとも1つが異なる複数のケースのそれぞれについて行う数値シミュレーション手段と、前記数値シミュレーション手段により導出された前記複数のケースの時刻tでの数値解析データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの第1の確率密度関数を導出する第1の確率密度関数導出手段と、前記連続鋳造設備の各観測位置における物理量を含むベクトルである観測ベクトルについて、時刻tでの前記観測ベクトルのデータである観測データを、前記各観測位置に配置されたセンサにおける測定値を用いて前記時間隔Δtごとに導出する観測データ導出手段と、前記観測データ取得手段により取得された時刻tでの観測データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの尤度関数を導出する尤度関数導出手段と、前記第1の確率密度関数導出手段により導出された時刻tでの前記状態ベクトルの前記第1の確率密度関数と、前記尤度関数導出手段により導出された当該時刻tでの前記状態ベクトルの前記尤度関数とに基づいて、ベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタにより、当該時刻tでの前記状態ベクトルの第2の確率密度関数を導出し、当該状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて、当該時刻tでの前記状態ベクトルの推定値を導出するデータ同化手段と、を有し、前記数値シミュレーション手段において時刻tでの前記数値解析データを導出する際の前記複数のケースは、前記データ同化手段により導出された当該時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t−Δtでの前記状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて導出され、前記センサは、前記鋳型に埋設された複数の測温手段であって、鋳造方向における位置が相互に異なる複数の測温手段を有し、前記観測データ導出手段は、前記複数の測温手段で測定された温度のデータを取得する観測データ取得手段と、前記複数の測温手段で測定された温度を用いて、前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量を、逆問題を解くことにより導出する逆問題求解手段と、を有し、前記観測データは、前記複数の測温手段で測定された温度と、前記逆問題求解手段により導出された前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量の少なくとも1つとを含み、前記数値解析データは、前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量、または、前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量と相関関係にある物理量を含むことを特徴とする。
本発明の連続鋳造鋳型内可視化方法は、連続鋳造設備の鋳型に注入される溶融金属の可
視化対象領域の各計算位置における物理量を含むベクトルである状態ベクトルについて、時刻tでの前記状態ベクトルのデータである数値解析データを数値シミュレーションにより時間隔Δtごとに導出することを、時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t−Δtでの前記溶融金属の温度と、当該時刻t−Δtでの前記溶融金属の流速と、当該時刻t−Δtから当該時刻tまでの間での境界条件のパラメータの少なくとも1つとのうち、少なくとも1つが異なる複数のケースのそれぞれについて行う数値シミュレーション工程と、前記数値シミュレーション工程により導出された前記複数のケースの時刻tでの数値解析データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの第1の確率密度関数を導出する第1の確率密度関数導出工程と、前記連続鋳造設備の各観測位置における物理量を含むベクトルである観測ベクトルについて、時刻tでの前記観測ベクトルのデータである観測データを、前記各観測位置に配置されたセンサにおける測定値を用いて前記時間隔Δtごとに導出する観測データ導出工程と、前記観測データ取得工程により取得された時刻tでの観測データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの尤度関数を導出する尤度関数導出工程と、前記第1の確率密度関数導出工程により導出された時刻tでの前記状態ベクトルの前記第1の確率密度関数と、前記尤度関数導出工程により導出された当該時刻tでの前記状態ベクトルの前記尤度関数とに基づいて、ベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタにより、当該時刻tでの前記状態ベクトルの第2の確率密度関数を導出し、当該状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて、当該時刻tでの前記状態ベクトルの推定値を導出するデータ同化工程と、を有し、前記数値シミュレーション工程において時刻tでの前記数値解析データを導出する際の前記複数のケースは、前記データ同化工程により導出された当該時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t−Δtでの前記状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて導出され、前記センサは、前記鋳型に埋設された複数の測温手段であって、鋳造方向における位置が相互に異なる複数の測温手段を有し、前記観測データ導出工程は、前記複数の測温手段で測定された温度のデータを取得する観測データ取得工程と、前記複数の測温手段で測定された温度を用いて、前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量を、逆問題を解くことにより導出する逆問題求解工程と、を有し、前記観測データは、前記複数の測温手段で測定された温度と、前記逆問題求解工程により導出された前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量の少なくとも1つとを含み、前記数値解析データは、前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量、または、前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量と相関関係にある物理量を含むことを特徴とする。
本発明のプログラムは、前記連続鋳造鋳型内可視化装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのものである。
本発明によれば、連続鋳造設備の鋳型内の溶鋼の状態を可視化することができる。
連続鋳造鋳型内可視化装置の機能的な構成の一例を示す図である。 鋳型の長辺部に埋め込まれる熱電対の一例を示す図である。 連続鋳造鋳型内可視化装置の処理の一例を説明するフローチャートである。 1回目の鋳造試験に対してデータ同化による可視化を行った結果を示す図である。 2回目の鋳造試験に対してデータ同化による可視化を行った結果を示す図である。 連続鋳造設備の概略構成の一例を示す図である。 鋳型内の溶鋼の流れの一例を示す図である。
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
<本発明者らが得た知見>
特願2018−114563号には、連続鋳造設備の鋳型内の溶鋼の状態を可視化する技術が提案されている。かかる技術では、時刻t0から時刻t−Δtまでの観測データyt0:t-Δtを基に決定される時刻tでの状態ベクトルxtの条件付き確率密度関数である第1の確率密度関数p(xt|y0:t-Δt)と、当該時刻tでの状態ベクトルxtが得られたときの観測ベクトルytの条件付き確率密度関数p(yt|xt)と当該時刻tでの観測データytとから導出される状態ベクトルxtの尤度関数L(xt|yt)とを、データ同化を行うフィルタのアルゴリズムに与えることにより、時刻t0から時刻tまでの観測データyt0:tを基に決定される時刻tでの状態ベクトルxtの条件付き確率密度関数である第2の確率密度関数p(xt|y0:t)を導出し、第2の確率密度関数p(xt|y0:t)の最頻値を、時刻tでの状態ベクトルxtの推定値として導出する。また、第2の確率密度関数p(xt|y0:t)におけるアンサンブルメンバーxt (k)(kは、アンサンブルメンバーを指定する添字)に基づいて、時刻t+Δtでの数値解析データxt+Δt (k)を数値シミュレーションにより求めるための溶鋼3の温度および流速、並びに境界条件のパラメータを複数導出する。ここで、状態ベクトルxtは、計算格子点における溶鋼の温度および流速の全ての瞬時値で構成されるベクトルとする。
特願2018−114563号では、全ての計算格子点における溶鋼3の温度および流速を状態ベクトルに含める。また、鋳型に埋め込まれた温度計で測定された温度を用いて、鋳型における伝熱状態が1次元定常熱伝導であるとの仮定をおいて、鋳型の冷却水の温度と、鋳型の熱伝導度とに基づいて、各位置での溶鋼の温度を導出し、導出した温度を観測データに含める。
しかしながら、鋳型内で測定された温度は、溶鋼3から凝固シェル8、モールドフラックス層10を経て伝熱された後のものである。従って、数値シミュレーションにより求められる温度との乖離が生じる虞がある。この場合、データ同化によって得られる状態ベクトルの推定値(可視化の結果)の精度が低下し、実際の溶鋼の挙動とは異なる結果が得られる虞がある。
そこで、本発明者らは、溶鋼3から鋳型4への熱伝達に関係する物理量を観測データに含めることに想到した。このようにすれば、より溶鋼3に近い位置での伝熱を考慮してデータ同化を行うことができる。従って、データ同化によって得られる状態ベクトルの推定値の精度を向上させることができ、実際の溶鋼の挙動とは異なる結果が得られることを抑制することができる。以下に説明する本発明の実施形態は、このような知見に基づいてなされたものである。
<連続鋳造鋳型内可視化装置100の構成>
図1は、連続鋳造鋳型内可視化装置100の機能的な構成の一例を示す図である。連続鋳造鋳型内可視化装置100のハードウェアは、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、および各種のインターフェースを有する情報処理装置、または専用のハードウェアを用いることにより実現される。連続鋳造鋳型内可視化装置100は、連続鋳造設備の鋳型4内における溶鋼3(溶融金属)の流動および温度の状態を可視化するためのデータを作成する装置である。本発明において、連続鋳造鋳型内の全部または一部の領域における溶鋼(場合によっては凝固シェル)の物理量(流速や温度など)の分布を導出することを可視化と称し、可視化によって溶鋼の物理量の分布を導出する領域を可視化対象領域と称する。尚、以下の説明では、連続鋳造鋳型内可視化装置を必要に応じて可視化装置と略称する。
本実施形態では、図6に示した連続鋳造設備の鋳型4内における溶鋼3の流動および温度の状態を可視化する。図2は、鋳型4の長辺部4c、4dに埋め込まれる熱電対L1〜
L12、F1〜F12の一例を示す図である。
図2(a)〜図2(c)に示すように、鋳型4の或る高さ位置(鋳造方向(X軸方向)の位置)において、鋳型4の長辺部4c側の面(「F面」と称する)には、鋳造幅方向(Y軸方向)の中心を対称点とする点対称となる位置に、複数の熱電対F1、F3、F5、F7、F9、F11が埋め込まれている。また、鋳造方向(X軸方向)の位置において、鋳型4の長辺部4d側の面(「L面」と称する)には、鋳造幅方向(Y軸方向)の中心を対称点とする点対称となる位置に、複数の熱電対L1、L3、L5、L7、L9、L11が埋め込まれている。
また、鋳型4のF面において、複数の熱電対F1、F3、F5、F7、F9、F11の下方には、複数の熱電対F2、F4、F6、F8、F10、F12が埋め込まれている。複数の熱電対F1〜F12の鋳造厚方向(Z軸方向)の位置は同じである。また、複数の熱電対F1、F3、F5、F7、F9、F11のY軸方向の間隔と、複数の熱電対F2、F4、F6、F8、F10、F12のY軸方向の間隔は、同じである。また、熱電対F1、F2のX軸方向の位置、熱電対F3、F4のY軸方向の位置、熱電対F5、F6のX軸方向の位置、熱電対F7、F8のY軸方向の位置、熱電対F9、F10のY軸方向の位置、および熱電対F11、F12のY軸方向の位置は、同じである。
同様に、鋳型4のL面において、複数の熱電対L1、L3、L5、L7、L9、L11の下方には、複数の熱電対L2、L4、L6、L8、L10、L12が埋め込まれている。複数の熱電対L1〜L12の鋳造厚方向(Z軸方向)の位置は同じである。また、複数の熱電対L1、L3、L5、L7、L9、L11のY軸方向の間隔と、複数の熱電対L2、L4、L6、L8、L10、L12のY軸方向の間隔は、同じである。また、熱電対L1、L2のY軸方向の位置、熱電対L3、L4のY軸方向の位置、熱電対L5、L6のY軸方向の位置、熱電対L7、L8のY軸方向の位置、熱電対L9、L10のY軸方向の位置、および熱電対L11、L12のY軸方向の位置は、同じである。
また、鋳型4のF面において上側にある複数の熱電対F1、F3、F5、F7、F9、F11のX軸方向の位置と、鋳型4のL面において上側にある複数の熱電対L1、L3、L5、L7、L9、L11のX軸方向の位置は、全て同じである。鋳型4のF面において下側にある複数の熱電対F2、F4、F6、F8、F10、F12のX軸方向の位置と、鋳型4のL面において下側にある複数の熱電対L2、L4、L6、L8、L10、L12のX軸方向の位置は、全て同じである。
また、熱電対F1、L1のY軸方向の位置、熱電対F3、L3のY軸方向の位置、熱電対F5、L5のY軸方向の位置、熱電対F7、L7のY軸方向の位置、熱電対F9、L9のX軸方向の位置、熱電対F11、L11のY軸方向の位置、熱電対F2、L2のY軸方向の位置、熱電対F4、L4のY軸方向の位置、熱電対F6、L6のY軸方向の位置、熱電対F8、L8のY軸方向の位置、熱電対F10、L10のY軸方向の位置、および熱電対F12、L12のY軸方向の位置は、同じである。
また、熱電対F1、F2、F3、F4、F5、F6、F7、F8、F9、F10、F11、F12のF面(内壁面)からのZ軸方向の距離と、熱電対L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L8、L9、L10、L11、L12のL面(内壁面)からのZ軸方向の距離とは、同じである。
以下の説明では、複数の熱電対F1〜F12、L1〜L12を、必要に応じて熱電対F、Lと総称する。本実施形態では、以上のようにして熱電対F、Lを配置する場合を例に挙げて示す。しかしながら、鋳型4内に配置する熱電対の位置および数は、図6に示したものに限定されず、可視化対象領域に応じて定められる。例えば、鋳型4の短辺部(鋳型4の領域のうち、鋳造幅方向(Y軸方向)において間隔を有して対向する部分)内に、複数の熱電対を配置してもよい。
以下に、本実施形態の可視化装置100が有する機能の一例を説明する。本実施形態では、鋳型4の鋳造厚方向(Z軸方向)の中心の位置において、鋳型4の幅方向(Y軸方向)と鋳造方向(X軸方向)とにより定まる2次元平面(X−Y平面)における溶鋼3の流動および温度の状態を可視化する場合を例に挙げて説明する。尚、鋳型4の鋳造幅方向(Y軸方向)および鋳造厚方向(Z軸方向)の中心の位置は、浸漬ノズル6の軸の位置に対応する。以下の説明では、この2次元平面を必要に応じて可視化断面と称し、可視化断面において可視化の対象となる領域を可視化対象平面領域と称する。本実施形態では、可視化対象平面領域が可視化対象領域の一例になる。
(数値シミュレーション部101)
数値シミュレーション部101は、可視化の対象となる連続鋳造設備における非定常の伝熱および流動の数値シミュレーションを、連続鋳造設備の操業パラメータと、溶鋼3、凝固シェル8、および鋳型4の物性値と、凝固潜熱等を用いて行う。連続鋳造設備の操業パラメータ、溶鋼3、凝固シェル8、および鋳型4の物性値、および凝固潜熱等は、予め数値シミュレーション部101が記憶しているものである。
溶鋼3内の伝熱および流動の数値シミュレーションは、ナビエストークス方程式を連続の式およびエネルギー保存式と共に解いて求めることができる。例えば、有限体積法を用いて各式を離散化して解くことにより数値シミュレーションは実行される。
数値シミュレーションを実行する際には、初期条件と境界条件とを設定する必要がある。流動および伝熱の境界条件は、例えば、鋳型4の内壁面と、溶鋼3の湯面と、浸漬ノズル6の壁面(即ち、外壁面、吐出口7a、7bが形成されている部分以外の内壁面、及び吐出口7a、7bが形成されている部分の内壁面)と、タンディッシュ2と浸漬ノズル6との境界面(浸漬ノズル6の上端)と、凝固シェル8と溶鋼3との境界面と、鋳型4の壁面と、溶鋼3の下端とにおいて設定される。溶鋼3の下端とは、可視化対象平面領域のうち最も下の位置(X軸の正の方向の端の位置)を指す。流動および伝熱の初期条件は、溶鋼3において設定される。
数値シミュレーション部101は、時刻tにおいて、時刻t−Δtでの計算格子点における溶鋼3の温度と、時刻t−Δtでの計算格子点における溶鋼3の流速と、時刻t−Δtから時刻tまでの間での境界条件のパラメータ(例えば、熱流束、流速、圧力)の少なくとも何れか1つとのうち、少なくとも何れか1つが異なる複数のケースのそれぞれについて数値シミュレーションを実行することにより、時刻tにおける以下の物理量を導出する。即ち、数値シミュレーション部101は、溶鋼3の流速ufgh、vfgh、wfgh、溶鋼3の温度Tfgh、鋳型4を通過する熱流束qi' sim、溶鋼3の運動エネルギー密度(単位体積当たりの運動エネルギー)KEi'、および凝固シェル8の厚みsi' simを導出する。また、本実施形態では、数値シミュレーション部101は、鋳型4の内部の温度も数値シミュレーションを実行することにより導出し、熱電対F、Lの位置における温度Ti' simを導出するものとする。熱電対F、Lの位置における温度Ti' simは、実際の熱電対F、Lの位置に対応する計算格子点における温度である。
ここで、fは、鋳造幅方向(Y軸方向)における計算格子点を特定する変数であり、1〜Fの値をとる。gは、鋳造厚方向(Z軸方向)における計算格子点を特定する変数であり、1〜Gの値をとる。hは、鋳造方向(X軸方向)における計算格子点を特定する変数であり、1〜Hの値をとる。変数f、g、hの組み合わせにより計算格子点が特定される。u、v、wは、流速ベクトルUの3成分(u,v,w)であり、それぞれ、溶鋼3の流速の鋳造幅方向(Y軸方向)成分、鋳造厚方向(Z軸方向)成分、鋳造方向(X軸方向)成分である。i'は、観測位置i(鋳造幅方向(Y軸方向)および鋳造方向(X軸方向)における熱電対F、Lの位置(熱電対F、Lの位置を示す座標(z,x)))に対応する
計算格子点jを特定する変数であり、1〜I'の値をとる。図2に示す例では、熱電対F、Lは24個あるので、観測位置iの数Iは24であり、観測位置iに対応する計算格子点jを特定する変数i'の数も24である。尚、例えば、鋳造幅方向(Y軸方向)および鋳造方向(X軸方向)により定まる2次元断面において2次元の数値シミュレーションを行う場合には、鋳造幅方向(Y軸方向)および鋳造方向(Z軸方向)の位置が同じ熱電対F、Lを区別せずに、変数i、i'の数を12(=24÷2)としてもよい。観測位置iと計算格子点j(の座標(z,x))は一致することもあれば、一致しないこともある。尚、simは、数値シミュレーションにより導出されるものであることを示し、後述する観測データと区別するためのものである。
溶鋼3の運動エネルギー密度KEは、溶鋼3の密度をρとすると、ρ(u2+v2+w2)/2で表される。凝固シェル8の溶鋼3との界面の位置における流速は0(ゼロ)となる。このため、凝固シェル8の界面の位置においては溶鋼3の運動エネルギー密度KEi'は0(ゼロ)となり定数値になる。そこで、数値シミュレーション部101は、凝固シェル8と溶鋼3との界面よりも乱流境界層厚みδだけ溶鋼3側の位置に対応する計算格子点であって、鋳造幅方向(Y軸方向)および鋳造方向(X軸方向)における熱電対F、Lの位置に対応する計算格子点において、溶鋼3の運動エネルギー密度KEi'を導出する。乱流境界層厚みδは、例えば、鋳造速度をVc、鋳型4の鋳造幅(鋳型4の長辺部の内壁面の鋳造幅方向(Y軸方向)の間隔)をLw、溶鋼3の動粘性をνとして、以下の(1)式で表される。
Figure 2021102221
(1)式に示す乱流境界層厚みδは、慣性力と粘性力とのバランスを次元解析することにより得られる代表長さである。尚、溶鋼3の凝固状態を考慮して、凝固シェル8と溶鋼3との界面の近傍における溶鋼3の伝熱および流動を数値シミュレーションする際には、例えば、公知の壁関数を用いることができる。
後述するように境界条件のパラメータは、ステップ幅Δtの時間隔毎に更新されるが、時刻t−Δtから時刻tまで時間が進行する際には不変であるとして、数値シミュレーションを実行するため、ステップ幅Δtを小さく設定するほど、境界条件のパラメータの変化に起因する溶鋼3の流動および温度の状態の変化を精度良く捉えた可視化を行うことができる。一方、ステップ幅Δtを大きく設定するほど、可視化を実行するときの処理時間が短くなる。溶鋼3の偏流を可視化する場合、ステップ幅Δtは、0.1秒以上かつ100秒以下とするのが好ましく、1秒以上かつ10秒以下とするのがより好ましい。
尚、連続鋳造設備に対するナビエストークス方程式、連続の式、およびエネルギー保存式や、初期条件および境界条件の内容については、例えば、特許文献3や非特許文献1に記載されているので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
数値シミュレーション部101は、最初の時刻t(=t0)での溶鋼3の温度と、最初の時刻t(=t0)での溶鋼3の流速と、時刻t0から時刻t0+Δtまでの間での境界条件のパラメータの少なくとも1つとのうち、少なくとも何れか1つが異なる複数のケースに対して、初期値として、予め設定された値を用いる。2番目の時刻t以降に関しては、後述するデータ同化部106で導出された結果を、時刻tでの溶鋼3の温度および流速、並びに時刻tから時刻t+Δtまでの間での境界条件のパラメータとして用いる。この点
の詳細については後述する。数値シミュレーション部101は、溶鋼3の流速ufgh、vfgh、wfgh、溶鋼3の温度Tfgh、鋳型4を通過する熱流束qi' sim、溶鋼3の運動エネルギー密度KEi'、凝固シェル8の厚みsi' sim、および熱電対F、Lの位置における温度Ti' simの全てで構成されるベクトルを生成する。以下の説明では、当該ベクトルを必要に応じて状態ベクトルと称し、数値シミュレーション部101により導出される各種の物理量を必要に応じて数値解析データと称する。本実施形態では、時刻tでの状態ベクトルxtは、以下の(2)式のようになる。(2)式の右辺のTは、転置行列であることを示す。
Figure 2021102221
(第1の確率密度関数導出部102)
第1の確率密度関数導出部102は、後述する観測データ取得部103で取得された時刻t−Δtまでの観測データ(情報)yt0:t-Δtを基に推定される時刻tでの状態ベクトルxtの条件付き確率密度関数p(xt|yt0:t-Δt)を導出する。確率密度関数p(xt|yt0:t-Δt)は、数値シミュレーション部101により導出された複数の数値解析データ{xt (k)kが示す確率密度関数である。以下の説明では、この確率密度関数p(xt|yt0:t-Δt)を必要に応じて第1の確率密度関数とも称する。第1の確率密度関数導出部102は、ステップ幅Δtの時間隔で、各時刻tでの状態ベクトルxtの第1の確率密度関数p(xt|yt0:t-Δt)を導出する。
第1の確率密度関数導出部102は、数値シミュレーション部101により導出された時刻tでの複数の数値解析データ{xt|t-Δt (k)kの相対度数(度数を全データ数で除した値)を用いた度数分布を導出する。この度数分布が、時刻tでの状態ベクトルxtの第1の確率密度関数p(xt|yt0:t-Δt)となる。また、これらの度数分布を所定の関数(例えば、スプライン関数)で近似したものを第1の確率密度関数としてもよい。
また、第1の確率密度関数導出部102は、数値シミュレーション部101により導出された時刻tでの複数の数値解析データ{xt|t-Δt (k)kを用いてアンサンブル近似(モンテカルロ近似)を行うことで、時刻tでの状態ベクトルxtの確率密度関数p(xt|yt0:t-Δt)を導出することもできる。
また、第1の確率密度関数導出部102は、時刻tでの状態ベクトルxtの第1の確率密度関数p(xt|yt0:t-Δt)がガウス分布であると仮定して、数値シミュレーション部101により導出された時刻tでの複数の数値解析データ{xt (k)kから平均値と分散値を導出してもよい。
尚、第1の確率密度関数導出部102は、以上のようにして導出される時刻tでの状態ベクトルxtの第1の確率密度関数p(xt|yt0:t-Δt)を、ガウス分布のような確率密度関数をもつノイズを用いて修正してもよい。
(観測データ取得部103)
観測データ取得部103は、連続鋳造設備において測定された時系列データ(測定値)に基づいて観測データを取得する。
観測データ取得部103は、熱電対F、Lで測定される温度(鋳型4内の温度)Ti obを含む測定値を入力する。ここで、obは、観測データであることを示し、前述した数値シミュレーションにより導出されるものと区別するためのものである。
以上のように、観測データ取得部103は、鋳造幅方向(Y軸方向)および鋳造方向(X軸方向)における熱電対F、Lの位置での鋳型4内の温度を観測データの一部として取得する。以下の説明では、当該位置を必要に応じて観測位置と称する。
(逆問題求解部104)
逆問題求解部104は、熱電対F、Lで測定される温度(鋳型4内の温度)Ti obに基づいて、溶鋼3から鋳型4への熱伝達を表す物理量を、鋳型4、凝固シェル8、鋳型4内の溶鋼3を含む領域における熱伝導を表現する熱伝導方程式における解となる温度から、当該熱伝導方程式の解を導出する際に用いる境界条件を求める問題である逆問題を解くことによって導出する。具体的に逆問題導出部104は、鋳型4内のモールドフラックス層10を間に挟む凝固シェル8と鋳型4との間の単位温度差あたりの熱流束である熱伝達係数αと、鋳型4内の溶鋼3と凝固シェル8との間の単位温度差あたりの熱流束である熱伝達係数βと、凝固シェル8の厚みsとを導出する。熱伝達係数α、βおよび凝固シェル8の厚みsをオンラインで導出する方法自体は、例えば、特許文献4に記載のように公知の技術で実現することができる。そこで、まず、特許文献4に記載の技術を例に挙げ、熱伝達係数α、βおよび凝固シェル8の厚みsをオンラインで導出する手法の一例を説明する。
本実施形態において使用する数理モデルについて説明する。一般に、数理モデルは現象の要因となる構成の簡略化によって異なるものが考えられるため、同じ現象を表すにも複数の選択肢がある。本実施形態で使用する数理モデルは、鋳型内壁面垂直方向(鋳型4の厚み(鋳造厚)方向(Z軸方向))、および、鋳造方向(X軸方向)の2方向からなる2次元断面上で、溶鋼3から、凝固シェル8、モールドフラックス層10、鋳型4、鋳型4内を流れる冷却水までの範囲における凝固伝熱現象を表す数理モデル(即ち、鋳型4の長辺における溶鋼3の凝固状態を推定する数理モデル)であり、その数理モデルの枠組みの中で後述する逆問題が成立し、なおかつ、その逆問題を数値的・近似的に解くことができるものである。前記条件を満たすモデルのうち、計算機で実行可能となるものには、鋳型4内の凝固伝熱現象を表す(3)式〜(7)式を連立した偏微分方程式と、鋳型4を通過する熱流束を異なる表現で表した(8)式〜(10)式を組み合わせたものがある。
Figure 2021102221
ここで、tは時間である。xはx=0を溶鋼3の湯面レベルとした鋳造方向の座標である。xはx=0を鋳型4の内壁面の位置とした鋳型内壁面垂直方向の座標である。zeは鋳型4に埋設された熱電対F、Lのうち、最下端にある熱電対F、Lの鋳造方向の位置である。csは凝固シェル8の比熱、ρsは凝固シェル8の密度、λsは凝固シェル8の熱伝導率、Lhは凝固潜熱である。Vcは鋳造速度である。T0は溶鋼3の温度、Tsは凝固温度、Tm=Tm(t,x)は鋳型4の内壁面の温度、T=T(t,x,z)は凝固シェル8の温度である。s=s(t,x)は凝固シェル8の厚み(鋳型4の内壁面に垂直な方向の長さ(x軸方向、以下、必要に応じて鋳型内壁面垂直方向と称する))である。α=α(t,x)は、モールドフラックス層10を間に挟む凝固シェル8と鋳型4との間の熱伝達係数である。β=β(t,x)は溶鋼3と凝固シェル8との間の熱伝達係数である。qout=qout(t,x)は鋳型4を通過する熱流束である。λmは鋳型4の熱伝導率である。d1は鋳型4の内壁面からの熱電対F、Lの埋め込み深さ(鋳型内壁面垂直方向の距離)、d2は熱電対F、Lから冷却水5までの鋳型内壁面垂直方向の距離である。hwは鋳型4と冷却水5との間の熱伝達係数である。Tc=Tc(t,x)は熱電対F、Lの埋め込み深さ位置での鋳型4の温度である。Tw=Tw(t,x)は、鋳型4の長辺部4c、4d内を流れる冷却水の温度である。
この数理モデルは、鋳型4の内壁面に並行な水平方向に関し温度変化がほとんどなく、凝固シェル8内の鋳造方向の熱流束が鋳型内壁面垂直方向に比べて極端に小さい鋳型4内の状態を模擬するモデルと、熱伝導率の高い鋳型4の伝熱現象を模擬するモデルとの組み
合わせである。後述するプロファイル法によってα、βおよびTmが与えられていれば、凝固シェル8の温度分布Tと凝固シェル8の厚みsの近似解を構成することができ、現象を模擬する上で十分な精度と数値計算負荷の軽量化が両立する。この特徴から、後述する逆問題を解くリアルタイム計算が可能となる。
次に、前記数理モデルのプロファイル法による近似解の導出を説明する。プロファイル法は、対象としている偏微分方程式そのものを解く方法ではなく、偏微分方程式の解が満たす条件をいくつか導出しておき、その条件を満たす解に関して、プロファイルに制約を設けて求める方法である。具体的には以下のようにする。まず、変数(t,x)から(11)式による変数変換によって、(t0,η)を新たな変数とし、(3)式〜(7)式を変換し、(8)式を用いてαを消去すると、それぞれ(12)式〜(16)式となる。
Figure 2021102221
(12)式〜(16)式には、t0の微分が現れないため、以降では、t0を固定値として取り扱う。次に、プロファイル法に利用する関数Ψを(17)式で定義する。
Figure 2021102221
このΨをηで微分し、(12)式〜(15)式を用いると、熱流束の収支を表す(18)式を得る。
Figure 2021102221
(18)式は、(17)式の両辺をηで微分して(19)式を代入することにより得られる。
Figure 2021102221
また、(15)式の両辺をηで微分すると、(20)式が得られ、(12)式と(15)式を満たすTが存在すれば、境界でも(12)式の等号が成り立つことから、(14)式を用いて(20)式から∂T/∂η及び∂s/∂ηを消去すると、(21)式を得る。
Figure 2021102221
以上をまとめて、プロファイル法による近似解が満たす条件として、(22)式〜(28)式を採用する。
Figure 2021102221
Tのプロファイルをxに関し2次として、(27)式を常に満たすように、(29)式でTを与える。
Figure 2021102221
ここで、a=a(η)およびb=b(η)はzと独立であり、(29)式を(24)式および(26)式に代入することで具体的に求めることができる。(29)式をzで微分すると(30)式が成り立ち、(24)式および(26)式〜(31)式が得られるため、熱流束が溶鋼3側から凝固シェル8へ向かうことを表す∂T/∂z|z=s>0の条件の下、(32)式および(33)式を得る。
Figure 2021102221
また、(29)式をzについて積分すると(34)式になることから、(22)式に(34)式、(33)式、(32)式を代入することで、(35)式を得る。
Figure 2021102221
一方、(29)式にz=0、(33)式および(32)式を代入すると、(36)式を得る。
Figure 2021102221
この(36)式に(25)式を代入し、T|z=0−Tmで整理すれば、(37)式を得る。
Figure 2021102221
ただし、上記A2、A1、およびA0はそれぞれ(38)式、(39)式、および(40)式で与えられる。
Figure 2021102221
(36)式でs=0であればT|z=0=Tsになることを考慮すると、T|z=0に関する(37)式の2つの解のうち、(41)式で与えられるT|z=0が、(36)式と(25)式を同時に満足する。
Figure 2021102221
以上をまとめると、プロファイル法による近似解は、(42)式〜(46)式を満たす。
Figure 2021102221
ただし、(43)式のA2、A1、及びA0は(38)式〜(40)式で与えられるものである。(42)式〜(46)式を満たすsを構成できれば、(44)式からqoutが求まる。このため、(32)式および(33)式から(29)式でTが定まり、(22)式〜(28)式を満たすことが判る。従って、(42)式〜(46)式を満たすsが求まれば、プロファイル法による近似解が構成できることになる。これは、(45)式を差分化することで、数値的に得ることができる。具体的には下記のようになる。cs、ρs、λs、Lh、T0、Tsを既知定数とし、ηに関し、計算点をη0=0、ηi=ηi-1+dη(dη>0、i=1、2、・・・、n)、ηn=xe/Vcとする。α、β、およびTmがη=ηiで与えられているとして、それぞれαi、βi、およびTmiとする。(45)式をオイラー法で差分化し、Ψ(ηi)の近似値をΨiで表すと、(47)式のようになる。
Figure 2021102221
このようにするとs(ηi)の近似値siは、以下に示すように帰納的に計算することができる。まず、(42)式よりs0=0となり、(46)式からΨ0=0となる。次に、si及びΨiが与えられている場合、(38)式〜(40)式のα、β、Tm、およびsにそれぞれαi、βi、Tmi、およびsiを代入すると、(43)式からT|z=0が求まり、(44)式からqoutが求まり、従って、(47)式からΨi+1が求まる。次に、(46)式のΨ及びβにそれぞれΨi+1及びβi+1を代入し、qoutに(44)式で得られているqoutを代入して、sについて解き、si+1とする。この方法によりsi及びΨiからsi+1及びΨi+1が求まる。このため、帰納的にsiを定めることができる。
以上により、cs、ρs、λs、Lh、T0、Ts、Vcが既知であり、α、β、Tmが与えら
れれば、t0を任意時刻として、η∈[0,xe/Vc]に対しt=t0+η、x=Vc・η上で、Tとsを、プロファイル法を用いて求めることができる。以下、前記プロファイル法で得られるTおよびsをα、β、およびTmに因っているとして、(48)式のように表す。
Figure 2021102221
次に、逆問題としての定式化とその解法について説明する。逆問題は、結果から原因を推定する問題の総称である。鋳型4内の凝固伝熱現象を表す数理モデルの枠組みの中では、次のようになる。λm、d1、d2、hw、cs、ρs、λs、Lh、T0、Ts、Tw、およびVcを既知とし、x1∈(0,xe)に対し、t1−x1/Vcが鋳造時間中になるような(t1,x1)において、t0=t1−x1/Vcとし、η∈(0,x1/Vc)に対し鋳型4に埋設された熱電対F、Lによる計測値をt=t0+η、x=Vc・η上で補間したTcが得られているとき、(9)式および(10)式から鋳型4の内壁面の温度および鋳型4を通過する熱流束である(49)式および(50)式は直ちに計算できる。
Figure 2021102221
一方、(8)式および(9)式から、モールドフラックス層10を通過する熱流束は(51)式で表せる。
Figure 2021102221
従って、(50)式で与えられるqoutに対し、(51)式が成り立つようにαおよびβを推定する問題が鋳型4内の凝固伝熱現象における逆問題となる。この逆問題は、(50)式で与えられるqoutに対し、(52)で表せる最小自乗法による最小化問題を解くことに帰着される。
Figure 2021102221
ここで、η0=0、ηi=ηi-1+dη(dη>0、i=1、2、・・・、n)、ηn=x1/Vcであり、前述したとおり、Tprof(α、β、Tm)が数値的に計算できることから、前記最小化問題は、ガウス・ニュートン法等を用いた一般的な数値解法で解くことができる。この(52)式の最小化問題を解くことにより各時刻、各位置(t,x)において決定したα、β、およびTmを(48)式に適用すれば、凝固シェル8の厚み、及び凝固シェル8の温度が得られる。このため、(t,x)における鋳型内凝固状態推定量である熱伝達係数α、熱伝達係数β、凝固シェル8の厚みs、凝固シェル8の温度Tが得られる。
以上のように、複数の熱電対F、Lにより測定された温度を用いて、非定常伝熱逆問題解析を行うことにより、鋳型内凝固状態推定量が導出される。ここで、非定常伝熱逆問題とは、計算領域を支配する非定常熱伝導方程式を基にして、当該非定常熱伝導方程式で求める解となる領域内部の温度情報を既知として、領域境界での温度や熱流束や熱伝達係数などの、当該非定常熱伝導方程式を解く際の境界条件または初期条件を推定する問題を指す。これに対して、非定常伝熱順問題は、既知である境界条件を基にして、領域内部の温度情報を推定する問題を指す。
以上が、特許文献4に記載の鋳型4内の凝固状態の推定方法である。
逆問題求解部104は、観測データ取得部103により、熱電対F、Lで測定される温度(鋳型4内の温度)Ti obが取得されると、当該取得された時刻tにおける熱伝達係数α(t,x)、熱伝達係数β(t,x)、および凝固シェル8の厚みs(t,x)を、以上のようにして導出する。そして、逆問題求解部104は、数値シミュレーション部101で数値シミュレーションを行う時刻に対応する時刻tにおける、熱流束qout(=qout(t,x))、熱伝達係数α(t,x)、熱伝達係数β(t,x)、および凝固シェル8の厚みs(t,x)から、観測位置iにおける熱流束qi、熱伝達係数αi、熱伝達係数βi、および凝固シェル8の厚みsi obを導出する。前述したように、観測位置iは、鋳造幅方向(Y軸方向)および鋳造方向(X軸方向)における熱電対F、Lの位置(熱電対F、Lの位置を示す座標(z,x))である。尚、熱流束qout(=qout(t,x))は、(44)式から導出される。
そして、逆問題求解部104は、熱電対F、Lで測定される温度Ti ob、熱流束qi ob、熱伝達係数βi、および凝固シェル8の厚みsi obの全てで構成されるベクトルを生成する。以下の説明では、当該ベクトルを必要に応じて観測ベクトルと称する。時刻tにおいて熱電対F、Lで測定される温度Ti obと、当該温度Ti obを用いて導出される熱流束qi ob、熱伝達係数βi、および凝固シェル8の厚みsi obが、時刻tにおける観測データyt (0)となる。本実施形態では、時刻tでの観測ベクトルytは、以下の(53)式のようになる。(53)式の右辺のTは、転置行列であることを示す。
Figure 2021102221
(尤度関数導出部105)
尤度関数導出部105は、時刻tでの観測データyt (0)の観測ノイズを、過去の当該観測データから評価することにより、時刻tでの状態ベクトルxtが得られたときの観測ベクトルytの条件付き確率密度関数p(yt|xt)に対する状態ベクトルxtの尤度関数L(xt|yt)を導出する。尤度関数L(xt|yt)とは、条件付き確率密度関数p(yt|xt)を状態ベクトルxtの関数と見做したもので、観測ベクトルytに観測データyt (0)を代入することによって状態ベクトルxtの関数として確定する。本実施形態では、尤度関数導出部105は、ステップ幅Δtの時間隔で、各時刻tでの状態ベクトルxtの尤度関数L(xt|yt)を導出する。
観測ノイズは、例えば、平均ベクトルが0(ゼロベクトル)のガウス分布に従うものとし、観測データの分散共分散行列を観測ノイズの共分散行列として用いることができる。この場合、過去の同種の観測データの分散共分散行列値を、全ての種類の観測データについて予め計算しておき、尤度関数導出部105が記憶しておく。即ち、尤度関数導出部105は、観測データの種類毎の分散共分散行列値を記憶する。また、観測データの分散共分散行列値は、観測データの各成分(各観測位置での値)の分散値とし、共分散値は0(ゼロ)としたものでもよい。
尤度関数導出部105は、時刻tでの観測データyt (0)と、観測ノイズwtの分散共分散行列値と、観測行列Htとに基づいて、時刻tでの状態ベクトルxtの尤度関数L(xt|yt)を導出する。
尚、観測ノイズは、ガウス分布に従うとすることに限定されない。例えば、尤度関数導出部105は、時刻tでの観測データyt (0)と、当該時刻tよりも前の所定の期間の当該観測データyt (0)とに基づいて、これらの複数の観測データ{yt-nΔt (0),・・・,yt (0)}の平均ベクトルm(yt (0))を導出し、複数のデータ{yt-nΔt (0)−m(yt (0)),・・・,yt (0)−m(yt (0))}の相対度数(度数を全データ数で除した値)を用いた度数分布を導出する。そして、尤度関数導出部105は、当該度数分布を、時刻tでの観測ノイズの確率密度関数として導出する。また、複数のデータ{yt-nΔt (0)−m(yt (0)),・・・,yt (0)−m(yt (0))}の各成分(各観測位置iにおける各データ)の度数分布を導出して、これらの積を取ったものを複数のデータ{yt-nΔt (0)−m(yt (0)),・・・,yt (0)−m(yt (0))}の度数分布としてもよい。また、尤度関数導出部105は、この度数分布を所定の関数(例えば、スプライン関数)で近似したものを観測ノイズの確率密度関数としてもよい。
ここで、本実施形態で用いる観測行列Htについて説明する。観測方程式は、観測データytと、状態ベクトルxtとの関係式を示すものであり、(54)式で与えられる。
t=Htt+wt ・・・(54)
本実施形態では、観測ベクトルytの成分数は3Iであり、状態ベクトルxtの成分数は4×(F×G×H)+3I'である。従って、観測行列Htは、行数が3I、列数が4×(F×G×H)+3I'の行列であり、横長の大きな行列である。尚、IとI'は等しい。
ここで、観測行列Htのp行q列の成分をHpqとする。成分Hpqは、観測ベクトルytのp番目の成分(観測データ)と、状態ベクトルxtのq番目の成分(数値解析データ)との比例関係を示す定数である。観測ベクトルytのp番目の成分と、状態ベクトルxtのq番目の成分とが同じ物理量であり、且つ、当該観測ベクトルytのp番目の成分の観測位置iと当該状態ベクトルxtのq番目の成分の計算格子点jの位置とが同じである場合、尤度関数導出部105は、観測行列Htの成分Hpqを1に設定する。
また、観測ベクトルytのp番目の成分の観測位置iと状態ベクトルxtのq番目の成分の計算格子点jとが一致しない場合がある。この場合、例えば、観測ベクトルytのp番目の成分の観測位置iの近傍の複数の計算格子点jの状態ベクトルxtの成分であって、当該観測ベクトルytのq番目の成分と同じ物理量または相関関係にある物理量の成分を線形補間した値を用いる。
この場合、尤度関数導出部105は、例えば、観測ベクトルytのp番目の成分と、当該観測ベクトルytのp番目の成分の観測位置iの近傍の計算格子点jの状態ベクトルxtの成分であって、当該観測ベクトルytのp番目の成分と同じ物理量または相関関係にある物理量の成分との比例関係を示す定数(=観測行列Htの成分Hpq)を、0を上回り1を下回る値に設定する。
例えば、観測ベクトルytのp番目の成分の観測位置iに近いものから順に、観測位置iから閾値以内の距離にあるr個の計算格子点jを選択するものとする。閾値として、観測位置iの近傍と見なせる距離が予め設定される。
そして、r個の計算格子点jの状態ベクトルxtの成分の値であって、観測ベクトルytのp番目の成分と同じ物理量または相関関係にある物理量の成分の重み付き線形和で、観測位置iと同じ位置での状態ベクトルxtの当該成分の値で表すものとする。
重み付き線形和の計算においては、r個の計算格子点jのそれぞれに対するr個の重み係数であって、計算格子点jと観測位置iとの距離が短いほど大きくなり、且つ、r個の重み係数の総和が1になるr個の重み係数を用いる。
このようにして重み係数を設定する場合、観測ベクトルytのp番目の成分と、計算格子点jの状態ベクトルxtの成分であって、当該観測ベクトルytのp番目の成分と同じ物理量または相関関係にある物理量の成分とのそれぞれの比例関係を示す定数(=観測行列Htの成分Hpq)を、当該計算格子点jに対する重み係数とする。
また、観測ベクトルytのp番目の成分の観測位置iの近傍に前述したr個の計算格子点jがない場合、尤度関数導出部105は、前述したr個の重み係数を観測行列Htの成分Hpqに設定することをしない。この場合、尤度関数導出部105は、観測行列Htの成分Hpqに0を設定する。
また、観測ベクトルytのp番目の成分と、状態ベクトルxtのq番目の成分とが同じ物理量でも相関関係のある物理量でもない場合、尤度関数導出部105は、観測行列Htの成分Hpqを0に設定する。尚、ここでは、物理量自体が同じであっても、当該物理量の対象物が異なる場合には、異なる物理量であるものとする。従って、溶鋼3の温度Tfghと、熱電対F、Lで測定される温度(鋳型4内の温度)Ti obは、異なる物理量である。
また、本実施形態では、熱伝達係数βiと、溶鋼3の運動エネルギー密度KEi'とは、βi=c×KEi'で表され、比例関係にあると考えて相関関係にあるとする。観測ベクトルytのp番目の成分が熱伝達係数βiであり、状態ベクトルxtのq番目の成分が溶鋼3の運動エネルギー密度KEi'である場合、尤度関数導出部105は、観測行列Htの成分Hpqにcに設定する。
定数cは、例えば、以下のようにして得ることができる。まず、数値シミュレーション部101で説明したのと同様の数値シミュレーションを、鋼種を含む操業条件を異ならせてオフラインで実行して、熱伝達係数βと、溶鋼3の運動エネルギー密度KEとを導出し、操業条件毎に、熱伝達係数βと、溶鋼3の運動エネルギー密度KEとを収集する。そして、前述したように、熱伝達係数βと、溶鋼3の運動エネルギー密度KEとが比例関係にあるとして、定数cを最小二乗法等により操業条件毎に導出して可視化装置100に記憶しておく。尤度関数導出部105は、操業条件毎の定数cから、オンラインで可視化を行う際の操業条件に合う定数cを読み出して観測行列Htの成分Hpqを設定する。定数cは、場所ごとに定めてもよいし、全体の代表値(例えば平均値)であってもよい。
(データ同化部106)
データ同化部106は、第1の確率密度関数導出部102により導出された時刻tでの状態ベクトルxtの第1の確率密度関数p(xt|y0:t-Δt)と、尤度関数導出部105により導出された時刻tでの観測データが得られたときの当該時刻tでの状態ベクトルxtの尤度関数L(xt|yt)とを、ベイズの定理を基礎としたベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタのアルゴリズムに与えることにより、時刻tまでの観測データが得られたときの時刻tでの状態ベクトルxtの条件付き確率密度関数p(xt|yt0:t)を導出する。以下の説明では、この確率密度関数p(xt|yt0:t)を必要に応じて第2の確率密度関数とも称する。データ同化部106は、ステップ幅Δtの時間隔で、各時刻tでの状態ベクトルxtの第2の確率密度関数p(xt|y0:t)を導出する。
データ同化を行う際には、システム方程式(状態方程式)と観測方程式とを定める必要がある。システム方程式は、ステップ幅Δtの時間隔で、前後の時刻の状態ベクトルxt+Δt、xtの関係を定義する式である。本実施形態では、数値シミュレーション部101による複数の数値シミュレーションでこの関係は決定される。また、観測方程式は、前述した(54)式で与えられる。
ベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタとしては、例えば、アンサンブルカルマンフィルタを用いることができる。
この場合、データ同化部106は、第1の確率密度関数導出部102により導出された時刻tでの状態ベクトルxtの第1の確率密度関数p(xt|y0:t-Δt)と、尤度関数導出部105により導出された当該時刻tでの状態ベクトルxtの尤度関数L(xt|yt)とを、アンサンブル近似し、アンサンブルメンバー(粒子)を導出する。時刻t−Δtの各アンサンブルメンバーxt-Δt (k)を、システム方程式に基づいて更新し、一期先(時刻t)の予測分布のアンサンブルxt|t-Δt (k)を第1の確率密度関数導出部102により導出する。そして、データ同化部106は、一期先の予測分布のアンサンブルxt|t-Δt (k)から、フィルタ分布のアンサンブルxt (k)を導出する。このようなフィルタ分布のアンサンブルの導出を行うことにより、時刻tでの状態ベクトルxtの第2の確率密度関数が導出される。
連続鋳造設備においては、全ての位置における溶鋼3の流速を測定することはできない。しかしながら、システム方程式において、溶鋼3の温度と流速はカップリングされるので、状態ベクトルの確率密度関数は、溶鋼3の流速の確率密度関数を包含している。本実施形態では、溶鋼3の湯面での鋳造方向の流速については測定しているので、溶鋼3の湯面での鋳造方向の流速についてもデータ同化を行うことにより、溶鋼3の流速の確率密度関数の精度を向上させることができる。
ベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタは、アンサンブルカルマンフィルタに限定されない。例えば、粒子フィルタを用いてもよい。アンサンブルカルマンフィルタや粒子フィルタについては、非特許文献2、3に記載されている。また、アンサン
ブルカルマンフィルタや粒子フィルタの具体的な計算アルゴリズムについては、非特許文献4に記載されている。従って、これらについての詳細な説明を省略する。
データ同化部106は、時刻tでの状態ベクトルxtの第2の確率密度関数p(xt|yt)の最頻値xmを、時刻tでの状態ベクトルxtの推定値として導出する。また、状態ベクトルxtの各成分(各計算格子点jにおける各物理量)について、第2の確率密度関数p(xt|yt)の周辺確率密度関数を導出し、周辺確率密度関数の各成分の最頻値で構成されるベクトルを第2の確率密度関数p(xt|yt)の最頻値xmとしてもよい。
以上のように、データ同化部106は、第1の確率密度関数導出部102により導出された時刻tでの状態ベクトルxtの第1の確率密度関数p(xt|y0:t-Δt)と、尤度関数導出部105により導出された当該時刻tでの状態ベクトルxtの尤度関数L(xt|yt)とを融合させて、時刻tでの最も合理的な状態ベクトルxtの第2の確率密度関数p(xt|yt)を導出し、その最頻値xmを、時刻tでの状態ベクトルxtの推定値として導出する。
また、データ同化部106は、状態ベクトルxtの確率密度関数p(xt|yt)を数値シミュレーション部101に出力する。数値シミュレーション部101は、状態ベクトルxtの第2の確率密度関数p(xt|yt)に基づいて、時刻tでの溶鋼3の温度および流速、並びに時刻tから時刻t+Δtまでの間での境界条件のパラメータを複数導出する。例えば、データ同化部106は、状態ベクトルxtの第2の確率密度関数p(xt|yt)におけるアンサンブルメンバーを用いて、時刻tでの溶鋼3の温度および流速、並びに時刻tから時刻t+Δtまでの間での境界条件のパラメータを複数設定する。そして、数値シミュレーション部101は、次の時刻t+Δtにおける複数の数値解析データを導出する。
データ同化部106は、時刻tでの状態ベクトルxtの推定値を、可視化データ作成部107に出力する。
尚、データ同化部106により導出された時刻tでの状態ベクトルの推定値を構成する各位置における溶鋼3の温度と流速の少なくとも何れか一方の表示データを作成して表示してもよい。
(可視化データ作成部107)
可視化データ作成部107は、データ同化部106により導出された時刻tでの状態ベクトルの推定値を構成する各位置における物理量(溶鋼3の流速ufgh、vfgh、wfgh、溶鋼3の温度Tfgh、鋳型4を通過する熱流束qi' sim、溶鋼3の運動エネルギー密度KEi'、および熱電対F、Lの位置における温度Ti' sim)の少なくとも1つの表示データを作成する。
可視化データ作成部107は、各時刻における各位置における物理量を、可視化装置100のユーザが認識できるようにしていれば、どのような表示データを作成してもよい。ただし、可視化データ作成部107は、可視化装置100のユーザが直感的に分かり易い表示データを作成するのが好ましい。
例えば、可視化データ作成部107は、溶鋼3の温度として想定される温度範囲を複数の領域に分けた場合の、それぞれの領域に対し異なる表示態様を予め記憶する。表示態様としては、例えば、色、模様、および濃度の少なくとも1つを採用することができる。可視化データ作成部107は、データ同化部106により導出された時刻tでの各位置における溶鋼3の温度から、各位置における温度を特定し、可視化対象面の各位置の画像が、特定した温度に対応する表示態様で表示されるように表示データを作成する。
また、可視化データ作成部107は、溶鋼3の流速として想定される流速範囲を複数の
領域に分けた場合の、それぞれの領域に対し異なる表示態様を予め記憶する。表示態様としては、例えば、色、模様、および濃度の少なくとも1つを採用することができる。可視化データ作成部107は、データ同化部106により導出された時刻tでの各位置における溶鋼3の流速から、各位置における流速を特定し、可視化対象面の各位置の画像が、特定した流速に対応する表示態様で表示されるように表示データを作成する。また、可視化データ作成部107は、可視化対象面に対して予め設定された領域ごとに溶鋼3の代表的な向きを導出し、当該向きの方向を向く矢印線が、可視化対象面の当該領域の画像に重ねて表示されるように表示データを作成する。
その他、可視化データ作成部107は、溶鋼3の温度および流速以外の物理量の表示データについても、溶鋼3の温度および流速の表示データと同様にして作成することができる。
(出力部108)
出力部108は、可視化データ作成部107で作成された表示データをコンピュータディスプレイに表示する。また、出力部108は、このような表示データに代えてまたは加えて、データ同化部106により導出された各時刻での状態ベクトルの推定値を構成する各位置における物理量のデータを出力することができる。出力の態様は、可視化装置100の内部または外部の記憶媒体への送信、外部装置への送信が挙げられる。このようにすれば、各時刻での各位置における物理量を表示するための表示データを、後で別途作成することができる。
(動作フローチャート)
次に、図3のフローチャートを参照しながら、可視化装置100の処理の一例を説明する。
まず、ステップS301において、数値シミュレーション部101は、時刻tを初期値(t0)に設定する。
次に、ステップS302において、数値シミュレーション部101は、時刻tでの溶鋼3の温度および流速、並びに時刻tから時刻t+Δtまでの間での境界条件のパラメータの初期値を設定する。
次に、ステップS303において、数値シミュレーション部101は、時刻tを時刻t+Δtに更新して、処理は、ステップS304に進む。
次に、ステップS304において、数値シミュレーション部101は、時刻tにおける計算格子点jにおける各種の物理量(溶鋼3の温度、溶鋼3の流速、鋳型4を通過する熱流束、溶鋼3の運動エネルギー密度、および熱電対F、Lの位置における温度)を導出する。
次に、ステップS305において、第1の確率密度関数導出部102は、時刻tでの状態ベクトルxtの第1の確率密度関数p(xt|yt-Δt)を導出する。状態ベクトルxtには、各計算格子点jにおける各種の物理量(溶鋼3の温度Tfghおよび溶鋼3の流速ufgh、vfgh、wfgh)と、観測位置iに対応する計算格子点j(=i')における各種の物理量(鋳型4を通過する熱流束qi'、溶鋼3の運動エネルギー密度KEi'、凝固シェル8の厚みsi' sim、および熱電対F、Lの位置における温度Ti' sim)とが含まれる。
次に、ステップS306において、観測データ取得部103は、時刻tでの観測データyt (0)(各観測位置iにおける溶鋼3の温度Ti ob)を取得する。
次に、ステップS307において、逆問題求解部104は、逆問題を解くことによって、時刻tでの熱伝達係数α、βおよび凝固シェル8の厚みsを導出する。そして、逆問題求解部104は、時刻tでの観測ベクトルytを導出する。観測ベクトルytには、各観測
位置iにおける各種の物理量(熱電対F、Lで測定される温度Ti ob、熱流束qi ob、熱伝達係数βi、および凝固シェル8の厚みsi ob)が含まれる。
次に、ステップS308において、尤度関数導出部105は、時刻tでの観測行列Htを導出し、時刻tでの観測行列Htおよび観測ベクトルytに基づいて、時刻tでの状態ベクトルxtの尤度関数L(xt|yt)を導出する。
次に、ステップS309において、データ同化部106は、時刻tでの状態ベクトルxtの第1の確率密度関数p(xt|y0:t-Δt)と、当該時刻tでの状態ベクトルxtの尤度関数L(xt|yt)とを、ベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタのアルゴリズムに与えることにより、時刻tでの状態ベクトルxtの第2の確率密度関数p(xt|yt0:t)を導出する。
次に、ステップS310において、データ同化部106は、時刻tでの状態ベクトルxtの第2の確率密度関数p(xt|yt)の最頻値を、時刻tでの状態ベクトルの推定値として導出する。
次に、ステップS311において、可視化データ作成部107は、データ同化部106により導出された時刻tでの状態ベクトルの推定値を構成する各位置における物理量の表示データを作成する。
次に、ステップS312において、出力部108は、可視化データ(可視化データ作成部107で作成された表示データと、データ同化部106により導出された各時刻での状態ベクトルの推定値を構成する各位置における物理量のデータ)を出力する。
次に、ステップS313において、出力部108は、時刻tが、予め設定された時刻Tになったか否かを判定する。この判定の結果、時刻tが、予め設定された時刻Tになっていない場合、処理は、ステップS314に進む。
処理がステップS314に進むと、数値シミュレーション部101は、数値シミュレーションで使用するデータである時刻tでの溶鋼3の温度および流速、並びに時刻tから時刻t+Δtまでの間での境界条件のパラメータを、ステップS308でデータ同化部106により導出された、時刻tでの状態ベクトルxtの第2の確率密度関数p(xt|yt0:t)に基づいて導出する。
そして、処理は、ステップS303に進み、時刻tが、予め設定された時刻Tになるまで、ステップS303〜S314の処理が繰り返し実行される。尚、ステップS304においては、ステップS304の直前のステップS314で導出された溶鋼3の温度および流速、並びに境界条件のパラメータが用いられる。
そして、ステップS313において、出力部108により、時刻tが、予め設定された時刻Tになったと判定されると、図3のフローチャートによる処理が終了する。
(まとめ)
以上のように本実施形態では、可視化装置100は、熱電対F、Lで測定された温度Ti obを用いて逆問題を解くことにより、熱伝達係数α、β、および凝固シェル8の厚みsを導出する。可視化装置100は、熱電対F、Lで測定された温度Ti ob、熱流束qi ob、熱伝達係数βi、および凝固シェル8の厚みsi obを観測データ(観測ベクトルyt)として用いて状態ベクトルxtの尤度関数L(xt|yt)を導出する。可視化装置100は、時刻tでの状態ベクトルxtの第1の確率密度関数p(xt|y0:t-Δt)と、当該時刻tでの状態ベクトルxtの尤度関数L(xt|yt)とを、データ同化を行うフィルタのアルゴリズムに与えることにより、時刻tでの状態ベクトルxtの第2の確率密度関数p(xt
|y0:t)を導出する。可視化装置100は、この第2の確率密度関数p(xt|y0:t)の最頻値を、時刻tでの状態ベクトルxtの推定値として導出する。また、可視化装置100は、この第2の確率密度関数p(xt|y0:t)に基づいて、時刻t+Δtでの数値解析データxtを求めるための溶鋼3の温度および流速、並びに境界条件のパラメータを複数導出する。従って、連続鋳造機の内部における溶融金属の流動および温度の分布を、観測データによる事実と、物理法則に基づいた数値シミュレーションによる合理的な数値データとして可視化できて、溶鋼3の偏流の様な異常現象の発生の様子を、時々刻々と知ることがきる。また、観測データに、溶鋼3から鋳型4への熱伝達に関係する物理量(熱伝達係数β、および凝固シェル8の厚みs)を含めるため、溶鋼3に近い位置での伝熱を考慮してデータ同化を行うことができる。よって、鋳造の操業条件を臨機応変に制御したり、問題のある部材の変更、交換をタイミングよく行ったりすることが可能になり、高品質の鋼材を歩留まり良くかつ生産性良く製造することができる。
(変形例)
<第1の変形例>
本実施形態において、可視化装置100は、第2の確率密度関数p(xt|y0:t)の最頻値を、時刻tでの状態ベクトルxtの推定値として導出したが、第2の確率密度関数p(xt|y0:t)の平均値を、時刻tでの状態ベクトルxtの推定値として導出してもよいし、第2の確率密度関数p(xt|y0:t)の中央値を、時刻tでの状態ベクトルxtの推定値として導出してもよい。
<第2の変形例>
本実施形態において、熱伝達係数βi、および凝固シェル8の厚みsi obを観測ベクトルytに含める場合を例に挙げて説明した。このようにすれば、より多くの情報を観測ベクトルytに含めることができるので好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、熱伝達係数βi、および凝固シェル8の厚みsi obのうち、少なくとも1つを観測ベクトルytに含めていればよい。また、凝固シェル8の温度を観測ベクトルytに含めてもよい。尚、観測ベクトルytに含める物理量に応じて、状態ベクトルxtに含める物理量も変わる。即ち、観測ベクトルytに含まれる物理量と相関関係のない物理量は、状態ベクトルxtに含まれない。例えば、熱伝達係数βiを観測ベクトルytに含めない場合、溶鋼3の運動エネルギー密度KEi'を状態ベクトルxtに含めない。また、凝固シェル8の厚みsi obを観測ベクトルytに含めない場合、凝固シェル8の厚みsi' simを状態ベクトルxtに含めない。
<第3の変形例>
本実施形態において、可視化装置100は、鋳型4の内部の温度も数値シミュレーションを実行することにより導出するものとした。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、可視化装置100は、凝固シェル8と溶鋼3との界面よりも乱流境界層厚みδだけ溶鋼3側の位置に対応する計算格子点であって、鋳造幅方向(Y軸方向)および鋳造方向(X軸方向)における位置が観測位置iと等しい計算格子点、における溶鋼3の温度Tfghと、観測位置iにおける熱流束qi ob、熱伝達係数αi、熱伝達係数βi、および凝固シェル8の厚みsi obとを用いて、熱流の収支から得られる以下の(55)式の計算を行うことにより、熱電対F、Lの位置(観測位置i)における温度Ti simを導出してもよい。
Figure 2021102221
λmは鋳型4の熱伝導率であり、λsは凝固シェル8の熱伝導率であり、d1は鋳型4の内壁面からの熱電対F、Lの埋め込み深さ(鋳型内壁面垂直方向の距離)である。
ここで、観測ベクトルytのp番目のTi obの観測位置iと、状態ベクトルxtのq番目のTi simの位置とが同じである場合、観測行列Htの成分Hpqを1に設定することができる。この場合、数値シミュレーション部101は、(2)式のTi' simに代えてTi simを用いて状態ベクトルxtを導出する。
尚、(55)式を用いる場合には、逆問題の求解により導出された熱流束qi ob、熱伝達係数αi、熱伝達係数βi、および凝固シェル8の厚みsi obを用いる。従って、ステップS306の観測データの取得を、ステップS303よりも後のタイミングから、ステップS304よりも前のタイミングまでの間に行い、その後、ステップS307の逆問題の求解を、ステップS304の前のタイミングで行う。
<第4の変形例>
状態ベクトルxt(数値解析データ)は、(2)式に示したものに限定されない。例えば、湯面レベル計9で測定された湯面レベルの単位時間当たりの変化から、可視化対象平面領域の溶鋼3の湯面に対応する各計算格子点での鋳造方向(Z軸方向)の流速を導出し、状態ベクトルxt(数値解析データ)に含めてもよい。
(実施例)
次に、実施例を説明する。尚、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
本実施例では、図6に示す構成の鉄鋼の連続鋳造機について、可視化装置100によって可視化を行った。鋳型4の長辺の長さは1500mm、短辺の長さは250mmである。
本実施例では、数値シミュレーション部101は、凝固シェル8の生成を考慮せずに(即ち、凝固シェル8は生成されないものとして)、有限体積法により、可視化対象平面領域の各時刻tでの各位置における溶鋼3の流速を計算した。可視化対象平面領域の幅(Y軸方向の長さ)は1500mm、深さ(X軸方向の長さ)は、5000mmとした。この可視化対象平面領域内に2600点の計算格子点を設定した。また、溶鋼3の熱伝導度、比熱、密度、および粘性係数などの必要な物性値を設定した。
更に、伝熱の境界条件は、溶鋼3の外周境界において熱流束を定数で与えるものとした。また、流動の境界条件は、溶鋼3の湯面において流速の鉛直成分(X軸方向の成分)を与えるものとし、鋳型4の内壁面と、浸漬ノズル6の外壁面と、溶鋼3の下端とにおいて流速の全成分を与えるものとし、吐出口7においては圧力を与えるものとした。そして、湯面における流速の鉛直成分(X軸方向の成分)の初期値として、0(ゼロ)を設定(スリップ条件)した。また、鋳型4の内壁面と、浸漬ノズル6の外壁面とにおける流速の全成分の初期値として、0(ゼロ)に設定した。また、湯面から5000mm下側(X軸の正の方向)に離れた位置(溶鋼3の下端)における流速の初期値として、Y軸方向を0(ゼロ)、X軸方向を鋳造速度(鋳片の引き抜き速度)と同じに設定した。また、吐出口7における圧力の初期値として、浸漬ノズル6の外壁面との境界では0(ゼロ)以外の値を
もつが、それらの平均値が0(ゼロ)になるように設定した。
数値シミュレーション部101は、時刻tでの各計算格子点jにおける溶鋼3の温度および流速の値、並びに、時刻tから時刻t+Δtまでの間での溶鋼3の外周における熱流束分布、吐出口7における圧力、および鋳造速度を入力する。そうすると、数値シミュレーション部101は、時刻tを時刻t+Δtに更新して、時刻tでの各計算格子点jにおける溶鋼3の温度と流速を数値シミュレーションにより算出する。これにより、各時刻tでの数値解析データxt (k)(各計算格子点jにおける溶鋼3の温度および流速)が得られる。
数値シミュレーション部101は、各時刻tにおいて、時刻t−Δtでの溶鋼3の温度と、時刻t−Δtでの溶鋼3の流速と、時刻t−Δtから時刻tまでの間での境界条件のパラメータの少なくとも1つとのうち、少なくとも1つが異なる最大100ケースのそれぞれについて数値シミュレーションを同時並行で行う。これにより、各時刻tにおいて、多数の計算結果(数値解析データ(各計算格子点jにおける各種の物理量)のアンサンブル{xt (k)k)が得られる。
ただし、数値シミュレーション部101は、鋳型4の内部の温度については数値シミュレーションを実行することにより導出せず、(55)式を用いてT^i' simを導出し、状態ベクトルxtに含めた。
第1の確率密度関数導出部102は、多数の計算結果(数値解析データ(各計算格子点jにおける各種の物理量)のアンサンブル{xt (k)k)から、各時刻tでの状態ベクトルxtの第1の確率密度関数p(xt|yt-Δt)を導出する。
本実施例では、鋳型4に埋め込まれた温度計F1〜F12、L1〜L12で測定された温度を利用して、観測データを得た。
逆問題求解部104は、各時刻tでの温度計F1〜F12、L1〜L12で測定された温度Ti obを用いて、特許文献4に記載された前述した手法で逆問題を解くことにより、熱流束qout(=qout(t,x))、熱伝達係数α(t,x)および熱伝達係数β(t,x)を各時刻tにおいて導出する。逆問題求解部104は、当該導出した結果から、観測位置iにおける熱流束qi、熱伝達係数βi、および凝固シェル8の厚みsi obを各時刻tにおいて導出する。そして、逆問題求解部104は、当該導出した観測位置iにおける物理量を用いて、各時刻tでの観測ベクトルytを導出する。発明例では、熱電対F、Lで測定された温度Ti ob、熱流束qi、および熱伝達係数βiから構成される観測ベクトルytを用いる。一方、比較例では、熱電対F、Lで測定された温度Ti obおよび熱流束qiから構成される観測ベクトルytを用いる。このように比較例では、熱伝達係数βiを観測ベクトルytに含めない。従って、状態ベクトルxtには、溶鋼3の運動エネルギー密度KEi'を含めない。また、本実施例では、凝固シェル8の厚みsi obを観測ベクトルytに含めない。従って、状態ベクトルxtには、凝固シェル8の厚みsi' simを含めない。このように、発明例と比較例との相違は、熱伝達係数αiおよび熱伝達係数βiの使用の有無である。
尤度関数導出部105は、同一の時刻tにおける状態ベクトルxtと、観測ベクトルytから、各時刻tにおける観測行列Htを導出する。この際、尤度関数導出部105は、観測位置iと計算格子点jの位置とが一致しない場合、当該位置における値が、計算格子点jの周囲の計算格子点jの値を線形補間した値となるように観測行列Htを導出する。
尤度関数導出部105は、観測ベクトルytの観測ノイズとして、測定直前の一定期間(例えば、6時間または24時間)に導出された、複数の観測データ{yt-nΔt (0),…
,yt (0)}を統計処理する。本実施例では、尤度関数導出部105は、時刻tでの観測ノイズは、平均ベクトルが0(ゼロベクトル)のガウス分布に従うものとし、その分散共分
散行列値を算出する。これにより、各時刻tでの状態ベクトルxtの尤度関数L(xt|yt)が得られる。観測ノイズwtは、平均ベクトルが0(ゼロベクトル)で、分散共分散行列の分散値は、各温度計F1〜F12、L1〜L12の位置で評価した観測データytの変動の過去24時間分の分散値、共分散値が0(ゼロ)となるようにした。
データ同化部106は、各時刻tでの状態ベクトルxtの第1の確率密度関数p(xt|y0:t-Δt)と、各時刻tでの状態ベクトルxtの尤度関数L(xt|yt)とを、アンサンブルカルマンフィルタのアルゴリズムに与えることにより、フィルタ演算を行う。これにより、時刻tでの状態ベクトルxtの第2の確率密度関数p(xt|yt0:t)が得られる。
データ同化部106は、時刻tでの状態ベクトルxtの第2の確率密度関数p(xt|yt0:t)の最頻値を、時刻tでの状態ベクトルxtの推定値として導出する。
また、数値シミュレーション部101は、データ同化部105により導出された、時刻tでの状態ベクトルxtの第2の確率密度関数p(xt|yt0:t)から、時刻tでの溶鋼3の温度および流速、並びに時刻tから時刻t+Δtまでの間での境界条件のパラメータの組をランダムに100組ほど構築し、時刻tから時刻t+Δtまでの数値シミュレーションを行う。新たな境界条件は、浸漬ノズル6の吐出口7の位置での圧力の分布のみを、時刻tでの状態ベクトルxtの第2の確率密度関数p(xt|yt0:t)に基づいて修正し、その他の境界条件は、変更初期のままで固定した。時間隔Δtは10秒とした。
可視化データ作成部107は、データ同化部105により導出された、時刻tでの状態ベクトルの推定値を構成する各位置における溶鋼3の流速に基づいて、可視化データを作成する。出力部107は、可視化データ作成部106により可視化データが作成される度に、可視化データをコンピュータディスプレイに表示する。
本実施例では、以上の条件で、発明例および比較例のそれぞれについて、異なる操業条件で行った2回の鋳造試験に対する可視化データを作成した。
図4は、1回目の鋳造試験に対してデータ同化による可視化を行った結果を示す図である。図5は、2回目の鋳造試験に対してデータ同化による可視化を行った結果を示す図である。図4(a)および図5(a)は、比較例における溶鋼3の流速Uと時間との関係を示す。図4(b)および図5(b)は、発明例における溶鋼3の流速Uと時間との関係を示す。図4(c)および図5(c)は、熱伝達係数αと時間との関係を示す。図4(d)および図5(d)は、熱伝達係数βと時間との関係を示す。図4(e)および図5(e)は、熱流束qと時間との関係を示す。
図4および図5は、何れも、鋳型4の鋳造厚方向(Z軸方向)の中心の位置であって、浸漬ノズル6の吐出口7aの近傍の吐出流(浸漬ノズル6の吐出口7から吐出される溶鋼3の流れ)の経路上の同一の位置における値を示す。前述したように比較例では、熱伝達係数α、βを用いていない。従って、図4(c)〜図4(d)および図5(c)〜図5(d)は、発明例において導出されたものである。
図4(b)に示す発明例における溶鋼3の流速Uは、図4(a)に示す比較例における溶鋼3の流速Uに対し、50sから150sの間で大きくなっている。しかしながら、図4(d)に示すように、鋳型4内の溶鋼3と凝固シェル8との間の単位温度差あたりの熱流束である熱伝達係数βも、50sから150sの間で大きくなっている。熱伝達係数βが大きいことは、溶鋼3の流動の変動が大きいことを示す。従って、比較例よりも、発明例の結果の方が、より鋳型4内の状況を反映していることになる。尚、図4(c)および図4(d)に示すように、50sから150sの間では、熱伝達係数αおよび鋳型4を通過する熱流束qはほとんど変化していない。
また、図5(a)に示す比較例における溶鋼3の流速Uの振幅は、80sあたりから徐々に小さくなる。これに対し、図5(b)に示す発明例における溶鋼3の流速Uの振幅は小さくならず、溶鋼3の流速に変動のある状態が継続する。図5(c)に示すように、凝固シェル8と鋳型4との間の単位温度差あたりの熱流束である熱伝達係数αは、80sあたりから徐々に小さくなっている。熱伝達係数αが小さいことは、鋳型4と凝固シェル8との熱伝達が小さくなっており、溶鋼3の流動の影響が鋳型4に伝わりにくくなっていることを意味している。このように、発明例では、溶鋼3の流動の影響が鋳型4に伝わりにくくなっても、溶鋼3の流動を的確に反映した結果が得られる。従って、比較例よりも、発明例の結果の方が、より鋳型4内の状況を反映した結果になる。尚、図4(d)に示すように、熱伝達係数βの値はほとんど変化していない。
以上より、本実施例では、逆問題解析による熱伝達係数α、βの値をデータ同化に反映させる事で、より良い流動の可視化ができることが示された。
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
1:取鍋、2:タンディッシュ、3:溶鋼、4:鋳型、5:スライディングノズル、6:浸漬ノズル、7:吐出口、8:凝固シェル、9:湯面レベル計、10:モールドフラックス層、100:連続鋳造鋳型内可視化装置、101:数値シミュレーション部、102:第1の確率密度関数導出部、103:観測データ取得部、104:尤度関数導出部、105:逆問題求解部、106:データ同化部、107:可視化データ作成部、108:出力部、F1〜F12、L1〜L12:温度計

Claims (11)

  1. 連続鋳造設備の鋳型に注入される溶融金属の可視化対象領域の各計算位置における物理量を含むベクトルである状態ベクトルについて、時刻tでの前記状態ベクトルのデータである数値解析データを数値シミュレーションにより時間隔Δtごとに導出することを、時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t−Δtでの前記溶融金属の温度と、当該時刻t−Δtでの前記溶融金属の流速と、当該時刻t−Δtから当該時刻tまでの間での境界条件のパラメータの少なくとも1つとのうち、少なくとも1つが異なる複数のケースのそれぞれについて行う数値シミュレーション手段と、
    前記数値シミュレーション手段により導出された前記複数のケースの時刻tでの数値解析データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの第1の確率密度関数を導出する第1の確率密度関数導出手段と、
    前記連続鋳造設備の各観測位置における物理量を含むベクトルである観測ベクトルについて、時刻tでの前記観測ベクトルのデータである観測データを、前記各観測位置に配置されたセンサにおける測定値を用いて前記時間隔Δtごとに導出する観測データ導出手段と、
    前記観測データ取得手段により取得された時刻tでの観測データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの尤度関数を導出する尤度関数導出手段と、
    前記第1の確率密度関数導出手段により導出された時刻tでの前記状態ベクトルの前記第1の確率密度関数と、前記尤度関数導出手段により導出された当該時刻tでの前記状態ベクトルの前記尤度関数とに基づいて、ベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタにより、当該時刻tでの前記状態ベクトルの第2の確率密度関数を導出し、当該状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて、当該時刻tでの前記状態ベクトルの推定値を導出するデータ同化手段と、
    を有し、
    前記数値シミュレーション手段において時刻tでの前記数値解析データを導出する際の前記複数のケースは、前記データ同化手段により導出された当該時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t−Δtでの前記状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて導出され、
    前記センサは、前記鋳型に埋設された複数の測温手段であって、鋳造方向における位置が相互に異なる複数の測温手段を有し、
    前記観測データ導出手段は、前記複数の測温手段で測定された温度のデータを取得する観測データ取得手段と、前記複数の測温手段で測定された温度を用いて、前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量を、逆問題を解くことにより導出する逆問題求解手段と、を有し、
    前記観測データは、前記複数の測温手段で測定された温度と、前記逆問題求解手段により導出された前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量の少なくとも1つとを含み、
    前記数値解析データは、前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量、または、前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量と相関関係にある物理量を含むことを特徴とする連続鋳造鋳型内可視化装置。
  2. 前記逆問題求解手段は、前記鋳型内の凝固シェルと前記鋳型との間に存在するモールドフラックス層を挟む前記凝固シェルと前記鋳型との間の熱伝達係数αと、前記溶鋼と前記凝固シェルとの間の熱伝達係数βと、前記鋳型を通過する熱流束と、を導出し、
    前記観測データは、前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量の少なくとも1つとして、熱伝達係数βを含むことを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  3. 前記数値解析データは、熱伝達係数βと相関関係にある物理量として、前記溶融金属の
    運動エネルギー密度を含むことを特徴とする請求項2に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  4. 前記逆問題求解手段は、前記鋳型内の凝固シェルと前記鋳型との間に存在するモールドフラックス層を挟む前記凝固シェルと前記鋳型との間の熱伝達係数αと、前記溶鋼と前記凝固シェルとの間の熱伝達係数βを導出し、熱伝達係数αおよび熱伝達係数βに基づいて前記凝固シェルの厚みsを導出し、
    前記観測データは、前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量の少なくとも1つとして、前記凝固シェルの厚みsを含むことを特徴とする請求項2または3に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  5. 前記数値解析データは、前記凝固シェルの厚みsを含むことを特徴とする請求項4に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  6. 前記数値シミュレーション手段は、前記鋳型の内部においては前記数値シミュレーションを行わず、複数の測温手段の位置に対応する計算位置における、前記熱伝達係数α、前記熱伝達係数β、前記凝固シェルの厚み、および前記熱流束と、所定の前記計算位置における前記溶融金属の温度と、に基づいて、複数の測温手段の位置に対応する計算位置における温度を導出し、前記数値解析データに含めることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  7. 前記データ同化手段により導出された時刻tでの前記状態ベクトルの推定値に基づいて、時刻tでの前記可視化対象領域の各計算位置における前記物理量の表示データを作成する可視化データ作成手段を更に有することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  8. 前記データ同化手段は、時刻tでの前記状態ベクトルの第2の確率密度関数の最頻値を、時刻tでの前記状態ベクトルの推定値として導出することを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  9. 前記フィルタは、アンサンブルカルマンフィルタまたは粒子フィルタであることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置。
  10. 連続鋳造設備の鋳型に注入される溶融金属の可視化対象領域の各計算位置における物理量を含むベクトルである状態ベクトルについて、時刻tでの前記状態ベクトルのデータである数値解析データを数値シミュレーションにより時間隔Δtごとに導出することを、時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t−Δtでの前記溶融金属の温度と、当該時刻t−Δtでの前記溶融金属の流速と、当該時刻t−Δtから当該時刻tまでの間での境界条件のパラメータの少なくとも1つとのうち、少なくとも1つが異なる複数のケースのそれぞれについて行う数値シミュレーション工程と、
    前記数値シミュレーション工程により導出された前記複数のケースの時刻tでの数値解析データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの第1の確率密度関数を導出する第1の確率密度関数導出工程と、
    前記連続鋳造設備の各観測位置における物理量を含むベクトルである観測ベクトルについて、時刻tでの前記観測ベクトルのデータである観測データを、前記各観測位置に配置されたセンサにおける測定値を用いて前記時間隔Δtごとに導出する観測データ導出工程と、
    前記観測データ取得工程により取得された時刻tでの観測データから当該時刻tでの前記状態ベクトルの尤度関数を導出する尤度関数導出工程と、
    前記第1の確率密度関数導出工程により導出された時刻tでの前記状態ベクトルの前記
    第1の確率密度関数と、前記尤度関数導出工程により導出された当該時刻tでの前記状態ベクトルの前記尤度関数とに基づいて、ベイズ統計のモデリングによるデータ同化を行うフィルタにより、当該時刻tでの前記状態ベクトルの第2の確率密度関数を導出し、当該状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて、当該時刻tでの前記状態ベクトルの推定値を導出するデータ同化工程と、
    を有し、
    前記数値シミュレーション工程において時刻tでの前記数値解析データを導出する際の前記複数のケースは、前記データ同化工程により導出された当該時刻tの前記時間隔Δtだけ前の時刻t−Δtでの前記状態ベクトルの前記第2の確率密度関数に基づいて導出され、
    前記センサは、前記鋳型に埋設された複数の測温手段であって、鋳造方向における位置が相互に異なる複数の測温手段を有し、
    前記観測データ導出工程は、前記複数の測温手段で測定された温度のデータを取得する観測データ取得工程と、前記複数の測温手段で測定された温度を用いて、前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量を、逆問題を解くことにより導出する逆問題求解工程と、を有し、
    前記観測データは、前記複数の測温手段で測定された温度と、前記逆問題求解工程により導出された前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量の少なくとも1つとを含み、
    前記数値解析データは、前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量、または、前記溶融金属から前記鋳型への熱伝達に関係する物理量と相関関係にある物理量を含むことを特徴とする連続鋳造鋳型内可視化方法。
  11. 請求項1〜9の何れか1項に記載の連続鋳造鋳型内可視化装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
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