JP2020066788A - 溶鋼の取鍋精錬方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】通電加熱を伴う取鍋精錬において、吸窒反応の発生をより確実に抑制すること。【解決手段】2本又は3本の電極がスラグ層に浸漬され、2本のガス吹込み用プラグが取鍋の底部に配置され、溶鋼表面における取鍋内径をDsとし、2本又は3本の電極に外接し、かつ、直径が最小となる電極外接円の直径をDとしたときに、比DS/Dが所定の範囲の値であり、第1ガス吹込み用プラグの中心Aは、電極外接円上又は内側に位置し、第2ガス吹込み用プラグの中心Bは、電極外接円の外側に位置し、取鍋の底面に投影された電極外接円の中心を点Oとしたときに、直線OAと直線OBのなす角θは90度以上180度以下であり、取鍋の底面の半径をRとしたとき、中心Bと取鍋の内壁面との距離は0.1R以上であり、第1ガス吹込み用プラグのガスの流量PA及び第2ガス吹込み用プラグのガスの流量PBは、所定の条件を満足する、溶鋼の取鍋精錬方法。【選択図】図4

Description

本発明は、溶鋼の取鍋精錬方法に関する。
鉄鋼材料の製造時、転炉で脱炭した溶鋼は、用途に応じて二次精錬される。かかる二次精錬では、製造する製品の規格に応じて、合金添加、昇温、還元、不純物元素の除去が行われる。
上記のような二次精錬の方法の一つに、溶鋼表面上に存在するスラグ層中に通電電極を浸漬させて通電加熱しながら、取鍋底部に設けられたポーラスプラグを通じて溶鋼内に不活性ガスを吹き込んで溶鋼を攪拌する方法がある。このような通電加熱を伴う二次精錬方法では、不活性ガスによる攪拌により、溶鋼とスラグとの間で精錬反応が生じる。
かかる通電加熱を伴う二次精錬方法では、例えば以下の特許文献1に開示されているように、通電加熱によって取鍋の内壁面に設けられた耐火物を溶損しないように注意を払いながら、通電のための電極が配置されている。
ここで、通電加熱を伴う二次精錬方法において、雰囲気中の窒素ガスが溶鋼と接触すると、溶鋼において窒素の吸収反応(以下、「吸窒反応」という。)が生じ、溶鋼中の窒素濃度が上昇してしまう。そのため、従来、吸窒反応を防止するための技術が各種提案されている。
例えば以下の特許文献2には、電極の下部に開口するガス通流道を形成し、かかるガス通流道を介して不活性ガスを吐出することで、溶鋼面上部を不活性ガス雰囲気とする技術が開示されている。
また、以下の特許文献3には、二酸化炭素を取鍋蓋内に供給して、溶鋼と接する気相を二酸化炭素ガス雰囲気とし、溶鋼面上部のガス雰囲気を低窒素濃度とする技術が開示されている。
また、以下の特許文献4には、造滓剤を添加するとともに溶鋼を攪拌して、溶鋼熱により少なくとも造滓剤の一部を溶融させ、次いで電極を溶融造滓剤中に挿入してアーク加熱を行う低窒素化技術が開示されている。
特開2010−17756号公報 特開昭61−276684号公報 特開平3−104814号公報 特開平1−208413号公報
しかしながら、上記特許文献2及び特許文献3に開示されている技術は、溶鋼面上部の雰囲気を低窒素化する技術であり、雰囲気を低窒素化するまでに吸窒が進行する場合がある。また、上記特許文献4に開示されている技術では、造滓剤を溶融させるために要する通電時間が長くなる場合があり、却って吸窒反応が進行してしまう場合がある。
このように、上記特許文献2〜特許文献4に開示されている技術は、より確実な吸窒反応の抑制という観点では、未だ改良の余地がある。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、通電加熱を伴う取鍋精錬において、吸窒反応の発生をより確実に抑制することが可能な、溶鋼の取鍋精錬方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、吸窒反応は、(a)攪拌ガスの気泡が溶鋼表面で破泡する結果生じる溶鋼露出面、(b)未溶融のスラグ塊同士の隙間に存在する溶鋼露出面、(c)溶融スラグの偏在により局所的に被覆されていない溶鋼露出面、という3種類の溶鋼露出面にて進行することを見出した。かかる知見に基づき、溶鋼表面を全体にわたって溶融スラグにより被覆し、かつ、攪拌ガスの気泡が溶鋼表面で破泡しないようにすれば、吸窒反応の発生をより確実に抑制可能であるとの着想を得るに至った。本発明者らは、かかる着想に基づき更なる検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
かかる検討結果に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 取鍋内の溶鋼の表面にスラグ層を形成し、電極を前記スラグ層に浸漬して通電し、前記取鍋の底部に配置されたガス吹込み用プラグから前記溶鋼にガスを吹き込む溶鋼の取鍋精錬方法において、
前記スラグ層に浸漬される前記電極の数量は、2本又は3本であり、
2本の前記ガス吹込み用プラグが前記取鍋の底部に配置され、
溶鋼表面における取鍋内径をDs[m]とし、前記溶鋼の表面を前記取鍋の上方から見たときに、前記溶鋼表面での前記2本もしくは3本の電極の位置、又は、前記2本もしくは3本の電極の前記溶鋼表面への投影位置に外接し、かつ、直径が最小となる円である電極外接円の直径をD[m]としたときに、前記電極外接円の直径Dに対する前記取鍋内径Dの比D/Dが下記式(1)を満足し、
前記取鍋の内側底面を前記取鍋の上方から見たときに、
2本の前記ガス吹込み用プラグのうちの第1ガス吹込み用プラグの中心は、前記電極外接円上又は前記電極外接円の内側に位置し、
2本の前記ガス吹込み用プラグのうちの第2ガス吹込み用プラグの中心は、前記電極外接円の外側に位置し、
前記取鍋の内側底面に投影された前記電極外接円の中心を点Oとし、前記第1ガス吹込み用プラグの前記取鍋の内側底面における中心を点Aとし、前記第2ガス吹込み用プラグの前記取鍋の内側底面における中心を点Bとしたときに、点O及び点Aを通る直線OAと、点O及び点Bを通る直線OBのなす角θは、90度以上180度以下であり、
前記取鍋の内側底面の半径をRとしたとき、前記第2ガス吹込み用プラグの中心と、前記取鍋の内側底面における内壁面との距離は、0.1R以上であり、
前記第1ガス吹込み用プラグから前記溶鋼に吹き込まれるガスの流量Pは、0.3NL/min/t以上4.5NL/min/t以下であり、
前記第2ガス吹込み用プラグから前記溶鋼に吹き込まれるガスの流量Pは、0.3NL/min/t以上4.5NL/min/t以下であり、
流量Pに対する流量Pの比P/Pは、下記式(2)又は下記式(3)を満足する、溶鋼の取鍋精錬方法。
1.8≦Ds/D≦3.5 式(1)
/P≦0.60 式(2)
1.67≦P/P 式(3)
[2] 前記スラグ層の厚みは、100mm以上である、[1]に記載の溶鋼の取鍋精錬方法。
以上説明したように本発明によれば、通電加熱を伴う取鍋精錬において、吸窒反応の発生をより確実に抑制することが可能となる。
本発明の実施形態に係る取鍋精錬設備を取鍋の深さ方向に切断した際の断面を模式的に示した断面図である。 同実施形態に係る取鍋精錬設備を取鍋の深さ方向に切断した際の断面を模式的に示した断面図である。 同実施形態に係る取鍋精錬設備の溶鋼高さHにおける水平断面を模式的に示した断面図である。 同実施形態に係る取鍋精錬方法を説明するための説明図である。 同実施形態に係る取鍋精錬方法を説明するための説明図である。 同実施形態に係る取鍋精錬方法を説明するための説明図である。 同実施形態に係る取鍋精錬方法を説明するための説明図である。 同実施形態に係る取鍋精錬方法を説明するための説明図である。 同実施形態に係る取鍋精錬方法を説明するための説明図である。 同実施形態に係る取鍋精錬方法を説明するための説明図である。 同実施形態に係る取鍋精錬方法を説明するための説明図である。 同実施形態に係る取鍋精錬方法を説明するための説明図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、図中の各構成要素の比率、寸法は、実際の各構成要素の比率、寸法を表すものではない。
(溶鋼の取鍋精錬方法について)
以下に、本発明の実施形態に係る溶鋼の取鍋精錬方法について、図1〜図12を参照しながら詳細に説明する。図1及び図2は、本実施形態に係る取鍋精錬設備を取鍋の深さ方向に切断した際の断面を模式的に示した断面図である。図3は、本実施形態に係る取鍋精錬設備の溶鋼高さHにおける水平断面を模式的に示した断面図である。図4〜図12は、本実施形態に係る取鍋精錬方法を説明するための説明図である。
<取鍋精錬設備について>
まず、図1及び図2を参照しながら、本実施形態に係る溶鋼の取鍋精錬方法(以下、単に、「取鍋精錬方法」ともいう。)に用いられる取鍋精錬設備について説明する。なお、以下では、便宜的に、図1及び図2に示した座標系を用いて説明を行うものとする。
本実施形態に係る取鍋精錬方法で用いられる取鍋精錬設備1は、図1に模式的に示したように、所定の容量の取鍋10を少なくとも有している。かかる取鍋10の大きさ(容量)については、特に限定されるものではなく、公知の各種の取鍋を用いることが可能である。
また、取鍋10の底部には、ガス吹込み用プラグの一例としてのポーラスプラグ20が2本設けられている。かかるポーラスプラグ20は、取鍋10の内部に保持される溶鋼30中に所定の不活性ガスを吹き込んで、溶鋼30を攪拌するためのガス吐出口として用いられる。かかるポーラスプラグ20については、以下で詳述するようなガス流量を実現することが可能なものであれば、公知の各種のポーラスプラグを使用することが可能である。
なお、本実施形態では、例えば図1に示したように、取鍋10の形状を模式化して示しているが、取鍋の詳細な構造についても、特に限定されるものではない。例えば、本実施形態に係る取鍋精錬方法に用いられる取鍋は、二次精錬が終了した後の溶鋼を外部に取り出すための溶鋼取出し口を有していてもよいし、その他の構造物が設けられていてもよい。
取鍋10の内部には、溶鋼30が保持されており、溶鋼30の表面(z軸正方向側の表面)には、CaO、SiO、Al、FeO等を含むスラグ層40が浮いた状態で存在している。また、スラグ層40には、取鍋精錬工程で添加される各種のフラックス(造滓剤)が存在していてもよい。かかるスラグ層40は、フラックス層と呼ばれることもある。
ここで、本実施形態において、図1に模式的に示したように、取鍋10の底面Eの位置を便宜的にz軸方向の原点(z=0)の位置とする。また、溶鋼30の高さHは、図1に模式的に示したように、溶鋼30及びスラグ層40を取鍋10の内部に出鋼して静置した後における、溶鋼30の表面の位置とする。
また、用いる取鍋10の底面E(z=0)の位置における取鍋10の半径を、R[m]と表すこととし、溶鋼表面(z=H)における取鍋10の内径を、Ds[m]と表すこととし、スラグ層40の厚みを、d[mm]と表すこととする。
取鍋10内に保持された溶鋼30に対して、本実施形態に係る取鍋精錬方法を適用する場合、2本又は3本の電極50が、スラグ層40の内部に浸漬される。本実施形態では、3本の電極50がスラグ層40の内部に浸漬されている場合を説明するが、電極50の本数は、2本であってもよい。
本実施形態に係る取鍋精錬方法に用いられる電極は、特に限定されるものではなく、公知の各種の素材を用いた電極を用いることが可能であるが、炭素製の電極(カーボン電極)を用いることが簡便である。また、電極の形状や大きさについても、特に限定されるものではなく、公知の各種の電極を適宜利用することが可能である。
ただし、電極50のスラグ層40への浸漬深さは、溶鋼30に接触しないような深さであることが好ましい。特に電極50にカーボン電極を用いる場合に、電極50が溶鋼30に接触してしまうと、溶鋼30が有している熱により、カーボン電極が溶解してしまう可能性がある。カーボン電極が溶解すると、溶鋼30中に溶解した炭素が混入して、溶鋼30の炭素含有量が変化してしまう可能性がある。また、その他の素材を用いた電極を用いる場合であっても、電極が溶鋼30に接触してしまうと、電極の溶解が発生する可能性がある。そのため、溶鋼30に接触しないような深さまで電極を浸漬させることで、溶鋼30への不純物の混入を防止することが可能となる。
スラグ層40中に浸漬された電極50に所定の電力を投入することで、電極50の先端部と溶鋼30との間でアークプラズマが発生し、更に、溶鋼30を介して、発生したアークプラズマ間が通電される。かかるアークプラズマ及び通電によって発生する熱により、スラグが加熱及び溶融され、溶鋼30とスラグ層40との間で各種の精錬反応が進行するようになる。
また、上記のような通電とともに、取鍋の底部に設けられたポーラスプラグ20からアルゴン等の不活性ガスを、以下で詳述するような流量で吐出させることで、図2に示したような、溶鋼30中に不活性ガスの気泡60が生じる。気泡60が上昇する気泡上昇領域61は、ポーラスプラグ20からの不活性ガスの流量によって変化する。この気泡60によって、溶鋼30中に流れが生じ、例えば、図2の矢印で示したような溶鋼の流動に乗って、溶融したスラグが溶鋼表面を移動する。これにより、溶鋼表面におけるガス気泡の破泡を防止しながら未溶融状態のスラグの溶融を促進することができ、また、溶融したスラグが溶鋼30の表面の全体を覆うようになる。その結果、取鍋10内の雰囲気中に存在する窒素ガスと、溶鋼30と、の接触を遮断することができる。その結果、溶鋼30における吸窒反応の反応速度を、より確実に低減することができる。
なお、上記のように、電極50と溶鋼30との間に発生するアークプラズマを用いて、スラグの加熱及び溶融が実現されることから、電極50は、電極50の先端部で発生したアークプラズマが溶鋼30に到達可能な深さまで、スラグ層40中に浸漬されることが好ましい。
<取鍋精錬方法の詳細について>
次に、図3〜図12を参照しながら、本実施形態に係る取鍋精錬方法について、詳細に説明する。
本実施形態に係る取鍋精錬方法では、図2及び図3に示したように、取鍋10内に存在するスラグ層40に対して、2本又は3本の電極50が浸漬される。なお、以下では、スラグ層40に対して、3本の電極50が浸漬される場合を例に挙げて、説明を行うものとする。
[取鍋内径と電極外接円の直径との比率]
本実施形態に係る取鍋精錬方法では、例えば図3に模式的に示したように、2本又は3本の電極50の浸漬位置に基づき規定される電極外接円Cに着目する。この電極外接円Cは、溶鋼30の表面(z=Hの面)を取鍋10の上方(z軸方向正方向側)から見たときに、溶鋼30の表面での2本もしくは3本の電極50の位置、又は、かかる2本もしくは3本の電極50の溶鋼30の表面への投影位置に外接し、かつ、直径が最小となる円である。
本実施形態に係る取鍋精錬方法において、溶鋼30の表面における電極外接円Cの中心Oは、取鍋の底面Eの半径をR[m]としたときに、溶鋼30の表面における取鍋10の中心位置から0.1×Rまでの領域内に位置することが好ましい。通常、電極は、電極と取鍋との位置関係がこの要件を満足するように配置されている。電極外接円Cの中心が上記の領域内に位置することで、取鍋10内に存在するスラグ層40を、伝熱の偏りが生じることを抑制しながら、より均等に加熱することが可能となる。
また、電極外接円Cにおける2本又は3本の電極50のそれぞれの位置については、特に限定されるものではないが、電極外接円Cの中心に対して、なるべく均等に配置されていることが好ましい。
ここで、取鍋中のスラグは、取鍋の内壁面に近づくほど温度が低下して未溶融のスラグが残存しやすくなる。そのため、本発明者らは、先だって言及したような知見に基づき、効率良くスラグを加熱及び溶融させるためには、通電加熱によりスラグの溶融を促進させるとともに、電極からの輻射熱により取鍋壁面を加熱することで、溶鋼表面を全面にわたって加熱することが重要であるとの知見を得るに至った。電極によりスラグが加熱される領域である電極加熱領域にて効率良くスラグを加熱溶融させつつ、電極からの輻射熱を取鍋壁面に伝達させるためには、取鍋の内径と、電極の浸漬位置と、の関係を適切に設定することが重要である。そこで、本発明者らは、電極外接円Cの最小直径Dと、溶鋼30の表面(z=Hの位置)における取鍋10の内径Dsと、が満たすべき関係について、通常用いられる取鍋の内径の範囲内にある様々な内径Ds(Ds:2.5〜4.7m)を有する取鍋10に着目し、溶鋼単位量あたりの電極50への投入電力及び通電時間を、一般的な取鍋精錬工程を考慮して、それぞれ、0.5〜2.0kW/t、3〜60分とした上で、鋭意検討を行った。その結果、取鍋内径Dsに対する電極外接円の直径Dの比(Ds/D)が、以下の式(101)を満足する場合に、電極によりスラグが加熱される領域である電極加熱領域にて効率良くスラグを加熱溶融させつつ、電極からの輻射熱を取鍋壁面に伝達させることが可能となるとの知見を得るに至った。
1.8 ≦ Ds/D ≦3.5 ・・・式(101)
スラグ層40に浸漬された電極50に電力が投入されると、電極外接円Cの内側の領域のスラグ及び溶鋼が加熱される。比率(Ds/D)が、上記式(101)を満足することで、スラグ及び溶鋼が加熱される領域(加熱領域)の大きさが、取鍋10の内径Dsに対して適切な大きさとなり、スラグが効率良く加熱溶融される。加えて、2本又は3本の電極50からの輻射熱が、取鍋10の内壁まで確実に伝播して、取鍋10の内壁近傍の領域のスラグを加熱して、未溶融のスラグ(スラグ塊)の残存を抑制することが可能となる。その結果、溶鋼とスラグとの間で精錬反応がより一層生じやすくなり、各種精錬反応速度を向上させることが可能となる。
また、後述するポーラスプラグ20からの不活性ガスの吐出により、例えば図4の矢印で模式的に示したような溶鋼流が生じ、溶融したスラグが、かかる溶鋼流に乗って溶鋼30の表面を流動する。上記のような比率(Ds/D)の適正化に伴うスラグの溶融促進効果と、溶融スラグの流動と、が相乗的に機能し、溶鋼30の表面は、スラグ層40によって被覆されるようになる。
ここで、比率(Ds/D)が、1.8未満となる場合には、図5に模式的に示したように、溶鋼表面(z=Hの位置)における取鍋10の内径Dsに対して、電極外接円C1の直径Dが相対的に大きくなりすぎる。その結果、加熱領域の範囲が広くなり、電極50間でのスラグの加熱に関して温度偏差が顕著となって、図5に模式的に示したように、電極と電極との間の領域のスラグが比較的低温の低温スラグ42Aとなり、低温スラグ42Aにおいて、未溶融のスラグ(スラグ塊)が発生してしまう。
また、比率(Ds/D)が、3.5を超える場合には、図6に模式的に示したように、溶鋼表面(z=Hの位置)における取鍋10の内径Dsに対して、電極外接円C2の直径Dが相対的に小さくなりすぎる。その結果、加熱領域の範囲が狭くなり、通電加熱により加熱されるスラグの量が減少し、スラグ全体を適切に加熱することができない。また、電極50と取鍋10の内壁面との間の距離が大きくなるため、電極50からの輻射熱が取鍋10の内壁面まで伝播しにくくなり、取鍋10の内壁面近傍の温度が低下して、低温スラグ42Bとなり、低温スラグ42Bにおいて、未溶融のスラグ(スラグ塊)が発生してしまう。
なお、スラグが低温となった部分、及び、未溶融のスラグが残存した部分は、溶融状態のスラグと比較して黒色が強いため、目視により、かかる部分が存在しているか否かを、容易に判断することができる。
加熱領域における効率の良いスラグの加熱、及び、取鍋内壁面近傍の領域における未溶融スラグの発生の抑制を、より確実に実現するために、上記比率(Ds/D)は、2.0以上であることが好ましく、2.1以上であることがより好ましい。また、電極加熱領域における効率の良いスラグの加熱、及び、取鍋内壁面近傍の領域における未溶融スラグの発生の抑制を、より確実に実現するために、上記比率(Ds/D)は、3.2以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましい。
ここで、溶鋼30の表面における取鍋10の内径は、溶鋼30及びスラグ層40を取鍋10の内部に出鋼して静置した後において、取鍋10の内径を実際に計測することで、特定することができる。また、電極外接円Cの直径及び中心は、電極50の幾何学的な配置状態から特定することが可能である。
[ポーラスプラグ20の中心の位置]
本実施形態に係る取鍋精錬方法においては、取鍋10の底部には2本のポーラスプラグ20が設けられる。本実施形態に係る取鍋精錬方法においては、図7に模式的に示したように、取鍋10の底面Eを取鍋10の上方から見たときに、取鍋10の底面Eにおける2本のポーラスプラグ20のうちの第1ポーラスプラグ20Aの中心Aが、電極外接円C上、又は、電極外接円Cの内側に位置することを前提とする。また、本実施形態に係る取鍋精錬方法においては、取鍋10の底面Eにおける2本のポーラスプラグ20のうちの第2ポーラスプラグ20Bの中心Bは、電極外接円Cの外側に位置することを前提とする。例えば、電極外接円Cの半径(D/2)に対する、鉛直方向から取鍋10の底面Eに投影された電極外接円の中心Oと中心Aとの距離OA(r)の比をr/(D/2)とする。このとき、r/(D/2)が1以下である場合、第1ポーラスプラグの中心Aは、電極外接円上又は電極外接円の内側に位置していることを意味する。同様に、例えば、電極外接円Cの半径(D/2)に対する、中心Oと中心Bとの距離OB(r)の比をr/(D/2)とする。このとき、r/(D/2)が1超である場合、第2ポーラスプラグ20Bの中心Bは、電極外接円Cの外側に位置していることを意味する。
上記した第1ポーラスプラグ20A、及び第2ポーラスプラグ20Bを上記の位置に配置する場合、取鍋10の底面Eを取鍋10の上方から見たときに、中心O及び中心Aを通る直線OAと、中心O及び中心Bを通る直線OBと、のなす角θが、90度以上180度以下となるように、第1ポーラスプラグ20A及び第2ポーラスプラグ20Bは位置する必要がある。言い換えると、第1ポーラスプラグ20A及び第2ポーラスプラグ20Bは、取鍋10の底面Eを、中心Oをとおり、直線OAに垂直な直線で分割した際に、中心Aと中心Bとが異なる側に存在するように配置される。角θが、90度以上180度以下となるように、第1ポーラスプラグ20A及び第2ポーラスプラグ20Bが位置することで、スラグの搬送が溶鋼表面の全体におよび、溶鋼表面がスラグによってより一層迅速に被覆される。
直線OAと直線OBのなす角θが90度未満である場合、溶融スラグの搬送方向に偏りが生じ、図9に模式的に示したように、溶鋼30が溶融スラグで覆われずに露出した溶鋼露出面が生じる。その結果、この溶鋼露出面にて溶鋼30と雰囲気中の窒素とが接触してしまう。
また、取鍋10の底面Eの半径をRとしたとき、第2ポーラスプラグ20Bの中心Bと、取鍋10の底面における内側面との距離Dbは、0.1R以上となるように、第2ポーラスプラグ20Bは位置する必要がある。距離Dbが0.1R未満である場合、第2ポーラスプラグ20Bから吐出される不活性ガスの気泡の浮上挙動が取鍋10の内壁によって乱れるため、溶鋼30の流れが乱れる。その結果、図8に模式的に示したように、低温スラグ42Cにおける未溶融のスラグが溶鋼30の表面を移動する。この未溶融のスラグの移動の際に、例えば、未溶融のスラグの塊にひびが入る等して隙間が生じ、当該隙間に生じる溶鋼露出面にて、溶鋼30と雰囲気中の窒素とが接触してしまう。
なお、例えば、転炉からの出鋼流を直接受ける湯あたりブロック等の構造物が取鍋の底部に設けられる場合、ポーラスプラグは、当該構造物を避けるように設けられることが好ましい。例えば、取鍋10の底部の中央近傍には、転炉からの出鋼流を受けるための湯あたりブロックが配置されることがある。そのため、第2ポーラスプラグ20Bを、その中心Bが電極外接円Cの中心Oからの距離がD/2×1.0超、D/2×1.1未満の領域に位置するように配置すると、第2ポーラスプラグ20Bは、湯あたりブロックの位置と重なる場合がある。よって、例えば、第2ポーラスプラグ20Bは、その中心Bと、中心Oとの距離がD/2×1.1以上の位置に配置されることが好ましい。
ここで、図1に示したように、溶鋼30の表面における第1のポーラスプラグ20Aの中心軸Caの位置及び第2のポーラスプラグ20Bの中心軸Cbの位置を定める場合は、取鍋10の底面におけるポーラスプラグ20の設置位置及び設置角度と、溶鋼30の高さHと、から、幾何学的に特定することが可能である。
[攪拌用ガスの流量]
本実施形態に係る取鍋精錬方法において、ポーラスプラグ20から吐出される、攪拌用ガスの一例としての不活性ガスの流量Pを、溶鋼1トンあたりの毎分のノルマルリットル[NL/min/t]を単位として表記する。この際、第1ポーラスプラグ20Aから吐出される不活性ガスの流量P、及び第2ポーラスプラグ20Bから吐出される不活性ガスの流量Pは、0.3NL/min/t以上4.5NL/min/t以下である必要がある。また、第2ポーラスプラグ20Bから吐出される不活性ガスの流量Pに対する、第1ポーラスプラグ20Aから吐出される不活性ガスの流量Pの比である流量比P/Pは、以下の式(102)又は式(103)を満たす必要がある。
/P≦0.60・・・式(102)
1.67≦P/P・・・式(103)
流量P及び流量Pが上記の範囲内となることで、溶鋼30の表面(z=Hの位置)において、ガス気泡の破泡を生じさせずに、電極外接円Cの内側のスラグと電極外接円Cの外側のスラグの置換が促進され、電極外接円Cの内側で加熱されたスラグが溶鋼表面全体に行き渡り、電極外接円Cの外側に存在する比較的低温のスラグが電極外接円Cの内部に搬送される。これにより、適切な溶鋼30の流れを取鍋10の全体にわたって生じさせることが可能となる。その結果、溶鋼30の表面の全体を、通電加熱により生じた溶融スラグで被覆することが可能となり、溶鋼30と雰囲気中の窒素ガスとの接触をより確実に抑制することが可能となる。これにより、溶鋼30における吸窒反応の発生を、より確実に抑制することができる。
第1ポーラスプラグ20Aから吐出される不活性ガスの流量P、又は第2ポーラスプラグ20Bから吐出される不活性ガスの流量Pが、0.3NL/min/t未満である場合には、図10に模式的に示したように、溶鋼30内へと吐出される不活性ガスの流量が少なすぎて、溶融スラグを搬送する流動を形成することができず、溶鋼30の表面に未溶融のスラグが残存する。その結果、溶鋼30と雰囲気中の窒素ガスとが接触しうる部分が残存して、溶鋼30の吸窒反応が進行してしまう。流量P及び流量Pは、1.0NL/min/t以上であることが好ましく、1.4NL/min/t以上であることがより好ましい。
一方、第1ポーラスプラグ20Aから吐出される不活性ガスの流量P、又は第2ポーラスプラグ20Bから吐出される不活性ガスの流量Pが、4.5NL/min/tを超える場合には、図11に模式的に示したように、気泡上昇領域61が拡大し、不活性ガスの気泡が溶鋼30の表面で破泡して、溶鋼30が雰囲気に露出する.その結果、雰囲気中の窒素ガスが溶鋼30に巻き込まれてしまう。これにより、溶鋼30における吸窒反応の発生を抑制することができない。流量P及び流量Pは、3.0NL/min/t以下であることが好ましく、2.5NL/min/t以下であることがより好ましい。
また、流量比P/Pが0.60超1.67未満である場合、第1ポーラスプラグ20Aから吐出される不活性ガスの気泡上昇領域61G及び第2ポーラスプラグ20Bから吐出される不活性ガスの気泡上昇領域61Hが同程度となる。そのため、気泡上昇領域61Gで生じる溶鋼流と、気泡上昇領域61Hで生じる溶鋼流とが拮抗する。そのため、溶鋼30の表面のスラグの搬送が滞り、電極外接円Cの内側の領域に存在するスラグと、電極外接円Cの外側の領域に存在するスラグとが互いに置換され難くなる。これにより、図12に模式的に示したように、電極外接円Cの内部で加熱されたスラグは溶鋼30の表面全体には行き渡りにくくなり、スラグ層40には、加熱溶融した高温スラグ41Dと、低温スラグ42Dとが存在することになる。その結果、低温スラグ42において未溶融のスラグ塊が生じ、かかるスラグ塊にひび等が入ることで生じた隙間に溶鋼露出面が生じ、溶鋼30と雰囲気中の窒素とが接触してしまう。よって、P/Pは、0.60以下、又は1.67以上である。流量比P/Pは、好ましくは、0.50以下、又は2.00以上であり、より好ましくは、0.40以下、又は2.50以上である。
なお、溶鋼30の高さ(図1における高さH)と、溶鋼30の表面における不活性ガスの気泡60の大きさ(面積)及び破泡時の衝撃力の大きさとの間には、所定の関係が成立する。すなわち、溶鋼30の高さHが高くなるほど、溶鋼30の表面における不活性ガスの気泡60の大きさは大きくなるが、破泡時の衝撃力は相対的に小さくなり、溶鋼30の高さHが低くなるほど、溶鋼30の表面における不活性ガスの気泡60の大きさは小さくなるが、破泡時の衝撃力は相対的に大きくなる。しかしながら、第1ポーラスプラグ20Aから吐出される不活性ガスの流量P、又は第2ポーラスプラグ20Bから吐出される不活性ガスの流量Pを0.3NL/min/t以上4.5NL/min/t以下の範囲内とすることで、一般的な操業における溶鋼30の高さHにおいて、溶鋼30が雰囲気と接触するほどの破泡を生じさせることなく、適切な溶鋼30の流れを生じさせることができる。
ここで、不活性ガスの流量は、ポーラスプラグ20に対して不活性ガスを供給する配管に設置されたバルブ等といった各種の弁体の開閉等を制御することで、所望の値に制御することが可能である。
また、不活性ガスの吹き込み時間(溶鋼30の攪拌時間と捉えることもできる。)は、特に限定するものではないが、例えば、2分以上60分以下とすることが好ましい。不活性ガスの吹き込み時間を上記の範囲内とすることで、溶鋼30の表面全体を、溶融スラグによってより確実に被覆することが可能となる。
[スラグ層40の厚み]
本実施形態に係る取鍋精錬方法において、図1に模式的に示したスラグ層40の厚みdは、100mm以上であることが好ましい。ここで、スラグ層40の厚みdは、溶鋼30及びスラグ層40を取鍋10の内部に出鋼して静置した後、必要に応じてフラックスを添加した後、通電及び不活性ガスの吹き込み前におけるスラグ層40の厚みとする。
スラグ層40の厚みdを100mm以上とすることで、溶鋼30の雰囲気への露出をより確実に抑制することができ、溶鋼30における吸窒反応をより確実に防止することができる。スラグ層40の厚みdの上限値については、特に規定するものではない。ただし、スラグフォーミングの抑制等といった操業の容易さの確保という観点から、スラグ層40の厚みdは、250mm以下とすることが好ましい。
以上説明したように、本実施形態に係る溶鋼の取鍋精錬方法によれば、電極の近傍で加熱されて溶融したスラグは、再凝固が抑制されるとともに、底吹き攪拌による溶鋼表面流動によって、溶鋼表面の全面を被覆し、溶鋼と蓋内に混入した大気中の窒素ガスとの反応を遮断する。これにより、本実施形態に係る溶鋼の取鍋精錬方法では、吸窒反応の速度を低減することができ、通電加熱を伴う取鍋精錬において、吸窒反応の発生をより確実に抑制することが可能となる。
以上、本実施形態に係る溶鋼の取鍋精錬方法について、詳細に説明した。
以下では、本発明例及び比較例を示しながら、本発明に係る溶鋼の取鍋精錬方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す本発明例は、本発明に係る溶鋼の取鍋精錬方法のあくまでも一例にすぎず、本発明に係る溶鋼の取鍋精錬方法が下記に示す例に限定されるものではない。
まず、転炉で脱炭処理を行った80〜90tの溶鋼を、取鍋内に出鋼した。このとき、CaO、SiO、Al、FeOなどからなる転炉スラグが、約500kg流出した。出鋼中に、脱酸元素であるAl等の合金と、CaOを主体とする造滓剤(フラックス)とを、スラグ厚みdが50〜250mmになるように添加した。なお、溶鋼表面の位置における取鍋内径(D)は、2.8mであった。
続いて、取鍋を通電加熱処理を行う処理位置に移送した。通電加熱開始時における溶鋼中のAl濃度は、0.03〜0.10質量%であり、S濃度は、0.0020〜0.0050質量%であり、N濃度は、0.0020〜0.0024質量%であった。
取鍋を通電加熱処理を行う処理位置へと移送した後、取鍋に容器蓋を取り付け、直径が320mmである通電用の電極3本を、溶鋼表面上のスラグ層中に下降させた。3本の電極、第1ポーラスプラグ及び第2ポーラスプラグは、表1に示した条件で配置した。表1には、電極外接円の半径(D/2)に対する、取鍋の底面に投影された電極外接円の中心Oと、取鍋の底面における第1ポーラスプラグの中心Aとの距離OA(r)の比r/(D/2)を示した。r/(D/2)が1以下である場合、第1ポーラスプラグの水平断面における中心は、電極外接円上又は電極外接円の内側に位置していることを意味する。また、表1に、取鍋の内側底面の半径Rに対する、中心Oと、取鍋の底面における第2ポーラスプラグの中心Bとの距離(r)の比r/R、及び、電極外接円の半径(D/2)に対する、距離OB(r)の比r/(D/2)を示した。r/Rが、0.9以下である場合、第2ポーラスプラグの中心Bと、前記取鍋の内側底面における内側面との距離は、0.1R以上であることを意味する。また、r/(D/2)が1超である場合、第2ポーラスプラグの水平断面における中心は、電極外接円の外側に位置していることを意味する。
また、表1に示した条件で、取鍋底部の第1ポーラスプラグ及び第2ポーラスプラグから不活性ガス(Ar)を導入して攪拌しながら、通電による加熱処理を開始した。ここで、溶鋼の高さ(浴深)Hは、約2.0mであった。ここで、かかる加熱処理に際して、溶鋼単位量あたりの投入電力は、1.0〜1.1kW/tとし、通電時間及びガス攪拌時間は、5分間とした。また、比較として、別途、通電を行わなかった場合についても実施した。なお、取鍋底部での取鍋の半径をR[m]が1.2とし、溶鋼30の表面における電極外接円Cの中心は、溶鋼30の表面における取鍋10の中心位置から0〜0.1×R[m]の領域内に配置した。
通電前後でサンプル採取を行い、通電攪拌後のN濃度を評価した。かかる評価では、以下に示す試験No.18の通電前後での窒素濃度(質量%)の増分(吸窒量)を1.0とし、その他の条件を指数化した。指数の評価基準は、以下の通りである。
A:指数0.72未満
B:指数0.72以上0.94未満(評価がAのものよりN濃度は高いが実用可能)
C:指数0.94以上
得られた結果を、以下の表1に示した。なお、表中の下線を引いたパラメータは、本発明の範囲から外れていることを示している。
Figure 2020066788
表1に示したように、試験条件が本発明の範囲内である試験No.1〜No.10の吸窒量評価は、「B」であった。特に、スラグ層の厚みdが100mm以上である試験No.13〜No.16の吸窒量評価は「A」であり、試験No.1〜No.10の場合よりも吸窒量は低くなった。また、D/Dが好ましい範囲内にある、試験No.11及び試験No.12について、スラグ厚みは50mmであったが、吸窒量評価は「A」であった。
一方、試験条件が本発明の範囲から外れた試験No.17〜No.27の吸窒量評価は、「C」であった。以下は、試験No.17〜No.27のそれぞれの条件において、吸窒量が高かった理由である。
試験No.17の比較例は、D/Dが小さく、通電加熱される領域が大きいため、図5に模式的に示したように、電極間でのスラグ加熱に温度偏差が顕著となり、スラグに未溶融部が発生して、スラグ塊が残存した。
試験No.18の比較例は、D/Dが大きく、通電加熱される領域が小さいため、通電加熱される領域に存在するスラグの割合が減少し、加熱されるスラグ量が減少してしまい、図6に模式的に示したように、取鍋壁面近傍まで溶融スラグが行き渡らなかった。
試験No.19の比較例は、第2ポーラスプラグが取鍋壁面近傍に配置されたため、不活性ガスの気泡が溶鋼内を浮上する際、気泡が取鍋壁面と接触して、気泡の浮上挙動が不安定になったために、溶鋼の流れも不安定になった結果、図8に模式的に示したように、取鍋壁面にて冷却された未溶融スラグを搬送してしまった。
試験No.20の比較例は、電極外接円Cの中心O及び中心Aを通る直線OAと、中心O及び中心Bを通る直線OBと、のなす角θが小さくなるように第1ポーラスプラグ及び第2ポーラスプラグが設置された例である。第1ポーラスプラグと第2ポーラスプラグとが取鍋の同じ側(言い換えると、第1ポーラスプラグ及び第2ポーラスプラグは、取鍋の底面を、中心Oをとおり、直線OAに垂直な直線で分割した際に、中心Aと中心Bとが同じ側に存在するように)設置されたため、溶融スラグの搬送方向に偏りが生じ、5分の処理時間では、図9に模式的に示したように、溶融スラグに被覆されない領域が残存した。
試験No.21の比較例及び試験No.23の比較例は、第1ポーラスプラグからの不活性ガスの流量又は第2ポーラスプラグからの不活性ガスの流量が過度に小さかったため、溶融スラグを搬送する流動を形成できず、溶鋼面上に存在するスラグ全体を溶融できなかった。
試験No.22の比較例及び試験No.24の比較例は、第1ポーラスプラグからの不活性ガスの流量又は第2ポーラスプラグからの不活性ガスの流量が過度に大きかったため、図11に模式的に示したように、攪拌ガス気泡が溶鋼表面で破泡して窒素が溶鋼に巻き込まれ、吸窒反応が抑制できなかった。
試験No.25の比較例は、第1ポーラスプラグからの不活性ガスの流量及び第2ポーラスプラグからの不活性ガスの流量が同程度であったため、双方からのガス吹込みによる溶鋼流が拮抗し、溶鋼表面のスラグの搬送が滞る傾向が見られ、電極外接円の内部と外部のスラグの置換が推進されず、加熱された外接円内部のスラグが溶鋼表面全体に行きわたらなかった。
試験No.26の比較例及び試験No.27の比較例は、通電加熱しなかったことで、スラグの溶融が進まず、スラグ塊が残存した。
なお、上記実施例は、取鍋内径Dsが2.8mとなる取鍋を用いて検討した結果である。この知見に基づけば、取鍋内径Dsが2.5〜3.0mとなる取鍋を用いる場合であっても、本実施例と同様の傾向が得られるものと考えられる。
また、取鍋内径Dsが4.7m(取鍋内径の拡大に伴い、溶鋼量は350トンに増加させて検討した。)においても、本実施例と同様の傾向が得られた。そのため、本発明は、少なくとも、取鍋内径Dsが2.5〜4.7mの範囲では効果が得られるものと考えられる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
1 取鍋精錬装置
10 取鍋
20、20A、20B ポーラスプラグ
30 溶鋼
40 スラグ層
50 電極
41、41A、41B、41C、41D 高温スラグ
42、42A、42B、42C、42D 低温スラグ
60 気泡
61、61A、61B、61C、61D、61E、61F 気泡上昇領域
C、C1、C2 電極外接円

Claims (2)

  1. 取鍋内の溶鋼の表面にスラグ層を形成し、電極を前記スラグ層に浸漬して通電し、前記取鍋の底部に配置されたガス吹込み用プラグから前記溶鋼にガスを吹き込む溶鋼の取鍋精錬方法において、
    前記スラグ層に浸漬される前記電極の数量は、2本又は3本であり、
    2本の前記ガス吹込み用プラグが前記取鍋の底部に配置され、
    溶鋼表面における取鍋内径をDs[m]とし、前記溶鋼の表面を前記取鍋の上方から見たときに、前記溶鋼表面での前記2本もしくは3本の電極の位置、又は、前記2本もしくは3本の電極の前記溶鋼表面への投影位置に外接し、かつ、直径が最小となる円である電極外接円の直径をD[m]としたときに、前記電極外接円の直径Dに対する前記取鍋内径Dの比D/Dが下記式(1)を満足し、
    前記取鍋の内側底面を前記取鍋の上方から見たときに、
    2本の前記ガス吹込み用プラグのうちの第1ガス吹込み用プラグの中心は、前記電極外接円上又は前記電極外接円の内側に位置し、
    2本の前記ガス吹込み用プラグのうちの第2ガス吹込み用プラグの中心は、前記電極外接円の外側に位置し、
    前記取鍋の内側底面に投影された前記電極外接円の中心を点Oとし、前記第1ガス吹込み用プラグの前記取鍋の内側底面における中心を点Aとし、前記第2ガス吹込み用プラグの前記取鍋の内側底面における中心を点Bとしたときに、点O及び点Aを通る直線OAと、点O及び点Bを通る直線OBのなす角θは、90度以上180度以下であり、
    前記取鍋の内側底面の半径をRとしたとき、前記第2ガス吹込み用プラグの中心と、前記取鍋の内側底面における内壁面との距離は、0.1R以上であり、
    前記第1ガス吹込み用プラグから前記溶鋼に吹き込まれるガスの流量Pは、0.3NL/min/t以上4.5NL/min/t以下であり、
    前記第2ガス吹込み用プラグから前記溶鋼に吹き込まれるガスの流量Pは、0.3NL/min/t以上4.5NL/min/t以下であり、
    流量Pに対する流量Pの比P/Pは、下記式(2)又は下記式(3)を満足する、溶鋼の取鍋精錬方法。
    1.8≦Ds/D≦3.5 式(1)
    /P≦0.60 式(2)
    1.67≦P/P 式(3)
  2. 前記スラグ層の厚みは、100mm以上である、請求項1に記載の溶鋼の取鍋精錬方法。
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