JP2020063515A - 摺動接点材料及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】モーターブラシ用の摺動接点材料について、従来技術よりも耐磨耗性に優れたものを提供する。【解決手段】本発明は、20.0質量%以上50.0質量%以下のPdと、合計濃度で0.6質量%以上3.0質量%以下のNiと、残部Ag及び不可避不純物からなる摺動接点材料である。また、更に、CoをNiとの合計濃度が0.6質量%以上3.0質量%以下となるように含むこともできる。そして、本発明は、これらの摺動接点材料をブラシの構成材料とする一方、相手側の整流子の構成材料として特定のAgCuNi系合金とするモーターも提示する。【選択図】図8

Description

本発明は、Ag合金からなる摺動接点材料に関する。特に、高回転数化等により負荷が増大し得るモーターのブラシ用途で好適に使用できる摺動接点材料に関する。
モーターは、各種家電製品や自動車等、多くの用途で使用されている機器であるが、近年、その小型化、高出力化に関して一層高いレベルのものが要求されている。図7は、小型モーターの一態様であるマイクロモーターの構成を示す図である。また、図8は、同じく小型モーターの一態様であるコアレスモーターの構造を説明する図である。モーターの小型化、高出力化により、モーター回転数は増大することとなり、この要求に対応できる耐久性を有する長寿命なモーターが求められる。
モーターの寿命改善の手法としては、構成部材の材質調整がまず挙げられる。特に、主要な構成部材であるブラシは、整流子(コミテータ)の上を絶えず摺動する部材であり、磨耗によるブラシ折れがモーターの停止の要因となる。そのため、従来からブラシ用の材料として耐磨耗性に優れるものが要求されている。ここで、これまでのモーターブラシ用の摺動接点材料として、AgとPdとの合金(AgPd30合金、AgPd50合金等)が知られている。
AgPd合金はモーターブラシ用の摺動接点材料として従来から知られているが、その耐磨耗性の改善には限界がある。これは、AgPd合金はPd含有量の増大によって耐磨耗性を向上させることができるが、50質量%を超えて添加すると、摺動中に接点表面の有機ガスがPdの触媒作用により反応してブラウンパウダーを生成して接触抵抗を不安定にするからである。そのため、AgPd合金は、今後負荷が増大するモーターへの対応は困難となっている。
AgPd合金系のモーターブラシ用の摺動接点材料の耐磨耗性改善の手法としては、添加元素としてCuを合金化する方策が知られている。また、AgPdCu合金に更なる添加元素を添加して、耐磨耗性をより向上させた材料が知られている(特許文献1、2)。これらの従来のモーターブラシ用の摺動接点材料は、耐磨耗性について一定の評価を得ている。
特開2000−192169号公報 特開2000−192171号公報
しかし、AgPdCu系合金からなる摺動接点材料については、摺動中の熱によりCuが酸化して材料の接触抵抗が不安定になるという問題が指摘されている。また、この摺動接点材料についても、今後、高出力化・高回転数化が要求されるモーターに対して、どこまで対応可能かが懸念されている。
更に、モーターの高性能化に際しては、ブラシの構成材料だけではなく、ブラシと対になる部材である整流子(コミテータ)の材質についての改良・耐磨耗性向上も検討されている。よって、ブラシの構成材料の開発にあっては、こうした相手材の改良の傾向も考慮することが好ましい。
本発明は、以上のような背景の元になされたものであり、モーターブラシ用の摺動接点材料について、従来技術よりも耐磨耗性に優れたものを提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明は、20.0質量%以上50.0質量%以下のPdと、合計濃度で0.6質量%以上3.0質量%以下のNi及び/又はCoと、残部Ag及び不可避不純物からなる摺動接点材料である。
以下、本発明について詳細に説明する。本発明に係る摺動接点材料は、AgPd合金にNi及び/又はCoを添加することで耐磨耗性を向上させている。この耐磨耗性向上のメカニズムは、Ni,Coの添加によって、マトリックスとなるAgPd合金相の結晶粒微細化に基づく強度上昇作用を基礎とする。本発明では、Cuを添加することなくAgPd合金の耐磨耗性を向上させるものであり、Cuの酸化に起因する接触抵抗の不安定化を懸念する必要のない接点材料である。
まず、本発明に係る摺動接点材料の構成する各金属元素について説明する。まず、Pd濃度は、20.0質量%以上50.0質量%以下とする。本発明の材料においても、Pdは耐磨耗性を向上させる元素であり、20.0質量%未満では十分な耐磨耗性を確保できない。また、Pd濃度が50.0質量%を超える場合、摺動時にブラウンパウダーの生成による接触抵抗の不安定化が懸念される。
そして、本発明では、AgPd合金にNi及び/又はCoを添加することで、合金のマトリックスの結晶粒が微細化されて材料強度・耐磨耗性を向上させている。Ni,Coの添加濃度は、合計で0.6質量%以上3.0質量%以下とする。0.6質量%未満であるとこれらの効果が期待できず、3.0質量%を超えても材料強化の効果は少ない。Ni,Coは、いずれか一方を添加しても良いが、双方添加しても良い。上記の通り、合計濃度を示すので、Ni,Coの双方を添加する場合には合計で3.0質量%以下とする。
以上説明したAgPd(Ni,Co)合金からなる摺動接点材料は、Ni,Coの添加により、従来のAgPd合金に対して高い耐磨耗性を発揮させることができる。そして、このAgPd(Ni,Co)合金の摺動接点材料は、Sn、Inの少なくともいずれかからなる添加元素Mを添加することで、より高い耐磨耗性を発揮する。この添加元素Mによる耐磨耗性向上のメカニズムは、Pdと添加元素Mとの金属間化合物を含む複合分散粒子による分散強化効果である。
ここで、Sn、Inは、いずれもPdと金属間化合物を形成可能な金属元素であり、1種類ではなく複数種の金属間化合物を形成する可能性がある。例えば、SnとPdとの金属間化合物についてみると、図1のPd−Sn系状態図から把握できるように、この系ではSnとPdとの構成比率が相違した複数種の金属間化合物が形成され得る。本発明者等によれば、AgPd(Ni,Co)合金にSnを添加する場合、材料強化の作用を有する金属間化合物は、PdSnであると考察している。そして、それ以外の構成比率の金属間化合物は材料強化に寄与しないと考えている。
同様に、Inを添加した場合も特定の金属間化合物が材料強化に寄与することができる。Inの場合も複数の金属間化合物が形成され得るが、有効な強化作用がある金属間化合物は、PdInであると考察している。
また、本発明では、SnとInの双方を同時に添加することも許容される。SnとInは、本発明の合金系で類似する挙動を示すと考えられる。SnとInはPdと結合して金属間化合物(Pd(Sn,In))を形成して強化作用を発揮すると考えられる。
そして、有効な金属間化合物を含む複合分散粒子においては、粒子中のPd含有量(質量%)と添加元素Mの含有量(質量%)との比率(KPd/K)が一定の範囲にあることが明らかとなっている。この比率(KPd/K)は、2.4以上3.6以下である。本発明に係る摺動接点材料では、存在するPdと添加元素Mの双方を含む分散粒子に関し、それらのほぼ全て(粒子数基準で90〜100%)のKPd/Kが2.4以上3.6以下となっている。そして、複合分散粒子におけるKPd/Kの算出にあたっては、添加元素Mの含有量は、Sn含有量(質量%)とIn含有量(質量%)との合計を元に算出され、その範囲が2.4以上3.6以下となる。
尚、複合分散粒子の構成は、Pdと添加元素Mとからなる金属間化合物を含むことを必須とするが、この金属間化合物のみからなることは要求されない。複合分散粒子は、金属間化合物と共にマトリックスを構成するAg、Ni,Coを含んでいても良い。複合分散粒子は、それらの金属元素を含みつつも、Pd、添加金属Mの含有量によって特徴付けられKPd/Kの比率が2.4以上3.6以下であれば良い。
そして、複合分散粒子は、平均粒径が、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。分散強化作用による耐磨耗性向上を図るため、粗大化した分散粒子では強化作用に乏しいからである。
添加元素M(Sn、In)の添加量については、合計濃度で、0.1質量%以上3.0質量%以下とする。複合分散粒子の構成を適切なものとすると共に、分散粒子の粗大化及びそれによる強度低下を防止するためである。好ましくは、Snの含有量は0.5質量%以上1.0質量%以下とする。また、Inの含有量については、1.0質量%以上2.0質量%以下とするのが好ましい。SnとInの双方を添加する場合、合計含有量が0.5質量%以上3.0質量%以下とするのが好ましい。
以上の通り、AgPd(Ni,Co)合金にSn、Inを添加する摺動接点材料では、複合分散粒子(PdSn、PdIn)の作用により材料強化がなされている。但し、本発明では、これら特定の金属間化合物以外の相(析出物)の存在を否定するものではない。そのような相は、材料強化に寄与することは無いが、阻害要因にもならないことから存在が許容される。
複合分散粒子以外の分散粒子相としては、PdとNi,Coとの合金粒子(PdNi合金粒子、PdCo合金粒子)が挙げられる。PdNi合金粒子、PdCo合金粒子は、球状又は針状の分散相であり、Pdとの濃度比(Ni/Pd、Co/Pd)が0.67〜1.5の範囲内にある合金相である。この合金相は、合金全体の強度には影響を与えるものではない。
尚、本発明に係る摺動接点材料のマトリックス(母相)は、Sn、Inの有無を問わずAgPd合金からなる。但し、接点材料全体のNi,Coの含有量によっては0.5質量%以下の微量のNi,Coを含むAgPd合金となっていることがある。
本発明に係る摺動接点材料は、従来のモーターブラシ用材料であるAgPd合金よりも耐磨耗性が高く長寿命化が期待できる。ところで、本発明に係る摺動接点材料は、モーターブラシへの適用が検討される材料であるが、ブラシの相手材である整流子の構成材料との組合わせで構成される接点構造としての性能を考慮することが好ましい。
ここで、モーターの整流子の構成材料としては、従来から知られているのは、AgCu合金系の材料である、AgCu合金、AgCuNi合金等がある。具体的な組成として、4.0質量%以上10.0質量%以下のCuと0.1質量%以上1.0質量%以下のNiを含み残部AgのAgCuNi合金が特に知られている。また、このAgCuNi合金に、0.1質量%以上2.0質量%以下のZn、0.1質量%以上2.0質量%以下のMg、0.1質量%以上2.0質量%以下のPd、の少なくともいずれかを添加したAgCuNi系合金も適用されている。これら従来型の整流子の構成材料は、ビッカース硬度がHv120以上150以下となっている。
一方で、近年、耐磨耗性を向上させた改良型の整流子用の材料として、上記で列記したAgCu合金、AgCuNi系合金に、0.1質量%以上0.8質量%以下の希土類金属(Sm、La)やZrの少なくともいずれか添加し金属間化合物を分散させた材料が開発されている。こうした改良型の整流子の構成材料は、上記従来型の材料よりも高硬度であり、ビッカース硬度でHv140以上180以下を示す。
そして、本発明に係る摺動接点材料は、AgPd(Ni,Co)合金で構成される場合と、更にSn、Inの少なくともいずれかを添加した合金で構成される場合がある。本発明は、基本的に、上記した従来型及び改良型の整流子用の材料と組み合わせた接点構造において、従来技術のAgPd合金を適用する場合よりも高い耐磨耗性・長寿命化を図ることができる。
但し、好ましい組み合わせとして、AgPd(Ni,Co)合金からなる接点材料は、AgCu合金、AgCuNi系合金といった従来型の整流子材料との組み合わせにおいて好適な耐久性を発揮する。
一方、本発明でAgPd(Ni,Co)合金に、更に、Sn、Inを添加した材料は、AgCu合金、AgCuNi系合金等の従来型の整流子材料はもとより、上記の希土類元素、Zrを添加した改良型の整流子材料に対しても高耐久性を発揮する。
次に、本発明に係る摺動接点材料の製造方法について説明する。本発明に係る摺動接点材料は、基本的に溶解鋳造法により製造可能である。溶解鋳造工程は、所定組成に調整したAg合金の溶湯を調整し、鋳造温度になったAg合金の溶湯を冷却して凝固させる工程である。Ag合金の溶湯は、製造目的の合金組成であり、上記した合金組成である。AgPd(Ni,Co)合金に関しては、通常の溶解鋳造法が適用できることが多い。
但し、AgPd(Ni,Co)合金にSn、Inの少なくともいずれかを添加した合金材料については、所定の組成(Ni含有量と添加元素Mの含有量との比率(KPd/K))を含有する複合分散粒子が分散している必要がある。このように組成が規定された金属間化合物を析出させるためには、鋳造温度(溶湯温度)の管理と冷却速度の調整が要求される。上記した有効な金属間化合物は、いずれの場合も高融点であり固相線温度が高い。かかる高融点の金属間化合物の析出が要求される合金については、鋳造温度と冷却速度の双方についての管理が必要となる。
具体的には、鋳造温度については、製造目的のAg合金のPd濃度と等しいPd濃度のAgPd2元系合金の液相線温度より100℃以上高温に設定する。この鋳造温度の設定方法は、図2のようなAgPd2元系合金の状態図を使用し、製造目的のAg合金のPd濃度のAgPd合金の液相線温度を状態図から読み取り、そこから100℃以上の温度を鋳造温度とする。本発明に係る合金材料は、Ag、Pd、Ni,Co、Sn、Inの多数の金属元素で構成されるが、AgPd2元系合金の状態図を使用するのは、鋳造温度の設定を簡便化するためである。鋳造温度をAgPd2元系合金における液相線温度より100℃以上とするのは、それ以下の温度では目的とする金属間化合物が生成しないからである。尚、鋳造温度の上限については、エネルギーコストや装置保全等の現実的な観点から前記液相線温度より200℃以下の高温にするのが好ましい。この鋳造温度は、冷却前に溶湯が前記温度に達していれば良く、長時間鋳造温度に保持する必要は無いが、5〜10分間程度保持した後に冷却することが好ましい。
更に、本発明に係る合金材料製造に際しては、鋳造工程における冷却速度の設定も重要となる。本発明の複合分散粒子を構成する金属間化合物は高融点を生成するためには冷却速度を高める必要がある。冷却速度が過度に遅くなると、低融点の好ましくない金属間化合物が析出するおそれがある。このようなことから、本発明では凝固時の冷却速度を100℃/min以上とする。冷却速度の上限については3000℃/min以下とするのが好ましい。
以上説明したように、本発明に係る摺動接点材料は、従来のAgPd合金よりも高い耐磨耗性を発揮することができる。本発明は、小型化・高回転数化が進むモーターのブラシ用の材料として有用である。
本発明で生成する金属間化合物について説明するためのPd−Sn系状態図。 Ag−Pd2元合金の状態図。 本実施形態で行った摺動試験の試験方法を説明する図。 第2実施形態で製造した接点材料についてのSEMによる組織観察結果。 第2実施形態のB2(Ni1%+Sn1%)の分析ポイントを説明する拡大写真及びEDX分析結果。 第2実施形態のB5(Ni1%+In2%)の分析ポイントを説明する拡大写真及びEDX分析結果。 マイクロモーターの構成を説明する図。 コアレスモーターの構造を説明する図。
第1実施形態:以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、AgPd(Ni,Co)合金からなる摺動接点材料を製造しその特性評価を行った。
試験材の製造は、各金属元素の高純度原料を所定組成になるように混合し、高周波溶解しAg合金の溶湯とし、鋳造温度を1300℃とし、その後急冷して合金インゴットを製造した。冷却速度は100℃/minとした。合金を鋳造後、圧延加工して600℃でアニーリングした後、再圧延加工し、切断加工して試験片(長さ45mm、幅4mm、厚さ1mm)とした。
本実施形態では、後述の表1における、A1〜A5の試験材について上記工程により各種組成の摺動接点材料を製造した。また、従来技術との対比のため、Ni,Coの添加のないAgPd合金を製造した(A6)。
次に、各試験片について耐磨耗性評価のための摺動試験を行った。図3は、摺動試験の方法を概略説明するものであるが、この試験では、各試験材ブラシを想定した可動接点に加工し、整流子を想定した固定接点の上で可動接点を摺動させた。このとき、可動接点を12V、100mAで常時通電しつつ荷重40gを掛け、始点から前後5mm(10mm)を往復したとき(20mm)を1サイクルとし、50000サイクル摺動させた(摺動長合計1km)。この試験後、可動接点の摺動部分の磨耗深さ(μm)を測定した。
この摺動試験では2種類の固定接点用材料を使用した。使用した固定接点材料は、従来型のブラシ用の接点材料であるAgCuNi合金(92.5質量%Ag−6質量%Cu−1質量%Zn−0.5質量%Ni:以下「AgCuNi−1」と称する。)と、改良型のブラシ用の接点材料であるAgCuNi系合金に希土類金属(Sm)を添加した合金(89.6質量%Ag−8質量%Cu−1質量%Zn−1質量%Ni−0.4質量%Sm:以下「AgCuNi−2」と称する。)の2種である。
摺動試験における評価は、従来技術であるNi,Coの添加のないAgPd合金(A6)の、2種の相手材(AgCuNi−1、AgCuNi−2)に対する磨耗深さの測定値を基準とし、それらの約75%の磨耗量(AgCuNi−1に対する磨耗深さ2500μm、AgCuNi−2に対する磨耗深さ3500μm)を基準値とした。そして、各試験材について、基準値より磨耗量が少ない場合を「合格」と判定した。本実施形態で製造した各試験材の磨耗試験の結果を表1に示す。
Figure 2020063515
表1から、まず、従来のブラシ用摺動接点材料であるAgPd合金(試料A6)に、Ni及び/又はCoを添加することで耐磨耗性を改善できることが確認される。但し、Niを4%と過度に添加すると、添加しない場合の磨耗面積に近づき効果が薄くなることがわかる(試料A3)。
第2実施形態:本実施形態では、AgPd(Ni,Co)合金に更にSn、Inを添加したAg合金からなる摺動接点材料を各種製造してその特性評価を行った。
試験材の製造は基本的に第1実施形態と同じである。各金属元素の高純度原料を混合・溶解してAg合金の溶湯とし、溶湯温度を測定しながらAgPd2元系状態図の液相線温度より100℃以上の高温になるように加熱し、その後急冷して合金インゴットを製造した。この鋳造温度は、Pd30質量%の合金で1350℃であり、Pd40質量%の合金で1450℃であり。そして、冷却速度はいずれも100℃/minとした。合金鋳造後、圧延加工・アニーリング・再圧延加工して第1実施形態と同寸法の試験片(長さ45mm、幅4mm、厚さ1mm)を得た。
本実施形態では、後述の表2における、B1〜B12について上記の製造工程で各種組成の摺動接点材料を製造した。更に、本実施形態では合金の製造条件による影響も検討している。ここでは、鋳造温度をAgPd2元系状態図の液相線温度より約50℃高温(1250℃)としてそこから急冷した合金(B13)、溶湯温度をAgPd2元系状態図の液相線温度より100℃の高温(1350℃)としつつ、徐冷(炉冷)により冷却速度を100℃/min未満に低くした合金も製造した(B14)。
本実施形態では、作製した各試験材について、まず、SEMにより組織観察を行い複合分散粒子の析出の有無を調べた。そして、複合分散粒子を20個無作為に選出し、分散粒子の定性分析をEDXで行って分散粒子中のPd含有量とM含有量を測定し、それらの比率(KPd/K)を算出した。また、分散粒子の平均粒径も測定した。平均粒径は、分散粒子の高倍率(20000倍)のSEM像を基に粒子の長径(L1)と短径(L2)を測定し、それらの算術平均((L1+L2)/2)を算出してその値を当該分散粒子の粒径Dとした。そして、20個の分散粒子についての粒径(Dn(n=1〜20))を測定し、それらの平均値を分散粒子の平均粒径とした。
図4に、各試験片について行った組織観察結果において、その一部を例示する。これらの材料組織において、より詳細にマトリックスと分散粒子の分析を行った。図5は、B2(Ni1%、Sn1%添加)について分析ポイント(3点)を説明する拡大写真及び分析結果の結果である。また、図6は、B5(Ni1%、In2%添加)について分析ポイント(3点)を説明する拡大写真及び分析結果の結果である。本実施形態では、各試験片について、組織観察及び分散粒子の組成及び平均粒径の測定を行った。本実施形態においては、B1〜B8、B10〜B12の各実施例の合金においては、測定した複合分散粒子の全てにおいてKPd/Kが適正範囲内にあることが確認された。本実施形態ではそれらの平均値を算出している(表2)。
一方、鋳造工程の条件に適正なものではない試験材(B13、B14)は、Pdと添加元素Mを含む分散粒子が観察されたものの、KPd/Kの値が適正範囲内にある分散粒子は一つも発見できず、複合分散粒子が存在する状態にはなかった。
次に、各試験片について耐磨耗性評価のための摺動試験を行った。摺動試験の試験条件は、第1実施形態と同様とした。また、ここでも2種の相手材(AgCuNi−1、AgCuNi−2)に対する磨耗深さの測定値を測定した。本実施形態で製造した各摺動接点材料について、組織観察結果及び摺動試験の結果を表2に示す。
Figure 2020063515
AgPd(Ni,Co)合金にSn及び/又はInを添加することで、更なる耐磨耗性の改善効果が発揮されることが分かる。特に、相手材(整流子)として耐磨耗性の高い改良型のAgCuNi−2を適用したときの耐磨耗性の改善効果が顕著となっている。そして、総合的に耐磨耗性に優れた組成としては、Snについては0.5%以上1.0%以下とし(B1、B2)、Inについては1.0質量%以上2.0質量%以下(B4、B5)とするのが好ましい。これらの適正値を超えた合金は、分散粒子が粗大となっておりAgCuNi−1に対する磨耗面積が基準値を超えていた。また、B9の試験材は、Sn及びInを添加しつつ合計量が3質量%を超えた合金であるが、Pdと添加元素Mを含む分散粒子が観察されたものの、いずれもKPd/Kの値が適正範囲内になかった。これらについては、参考のため分散粒子の粒径測定のみ行った。粒径が粗大化しており、耐磨耗性も不十分であった。
そして、B13、B14のように合金製造の差異の鋳造条件を適正にしない場合、好適な複合分散粒子が生成されなかった。これらは、Sn、Inを添加しても耐磨耗性の改善効果が全く発揮されておらず、AgPd合金よりも耐磨耗性に劣る合金となった。本発明に係る材料は、組成制御だけではなく鋳造条件を適切にして材料組織を好適にする必要があることが確認された。
また、第1実施形態のSn、Inを添加しないAgPd(Ni,Co)合金(A1〜A5)の結果を併せて考慮すると、それらは相手材がAgCuNi合金2であるときの耐磨耗性の改善効果はさほど高くはないが、AgCuNi合金1に対してはかなり有効であると考えられる。従って、本発明に係る摺動接点材料は、ブラシに適用する際に相手材である整流子の構成材料に考慮して選択することが好ましい。AgCuNi合金1のような従来型の材料で整流子を構成する場合は、AgPd(Ni,Co)合金をブラシとした接点構造を適用することができる。もっとも、AgPdNi合金にSn、Inを添加した材料については、相手材の材質を特に限定する必要はない。
以上説明したように、本発明に係る摺動接点材料は、従来のAg系摺動接点材料に対して高い耐磨耗性を有する。本発明は、特に、小型化・高回転数化が進むマイクロモーターやコアレスモーター等の小型モーターのブラシ用の摺動接点材料として有用である。

Claims (4)

  1. 20.0質量%以上50.0質量%以下のPdと、
    合計濃度で0.6質量%以上3.0質量%以下のNiと、
    残部Ag及び不可避不純物からなる摺動接点材料。
  2. Niとの合計濃度が0.6質量%以上3.0質量%以下となるように、Coを含む請求項1記載の摺動接点材料。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の摺動接点材料をブラシに適用したモーター。
  4. ブラシと、前記ブラシの相手材である整流子とを備えるモーターにおいて、
    前記ブラシの構成材料は、20.0質量%以上50.0質量%以下のPdと、合計濃度で0.6質量%以上3.0質量%以下のNi及び/又はCoと、残部Ag及び不可避不純物からなり、
    前記整流子の構成材料は、4.0質量%以上10.0質量%以下のCuと0.1質量%以上1.0質量%以下のNiを含み残部AgのAgCuNi合金、
    又は、前記AgCuNi合金に、0.1質量%以上2.0質量%以下のZn、0.1質量%以上2.0質量%以下のMg、0.1質量%以上2.0質量%以下のPd、0.1質量%以上0.8質量%以下のSm、0.1質量%以上0.8質量%以下のLa、0.1質量%以上0.8質量%以下のZr、の少なくともいずれかを添加したAgCuNi系合金、のいずれかであることを特徴とするモーター。
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