JP2020059671A - ジアルデヒドの製造方法 - Google Patents

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【課題】ジアルデヒドを高収率に製造する方法を提供すること。【解決手段】触媒担体に単核のルテニウムが固定化された触媒存在下で、環状アルケンと酸化剤とを反応させる工程を含む、ジアルデヒドの製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、ジアルデヒドの製造方法に関する。
ジアルデヒドは樹脂原料や繊維原料、また他のモノマー製造中間体として有用な化合物であり、一般的に環状アルケンの酸化開裂反応により製造される。特に、炭素数6の直鎖ジアルデヒドであるアジポアルデヒドはナイロン原料であるヘキサメチレンジアミンやカーボネート原料であるヘキサンジオールへと変換が可能なことから、その効率的な製造方法の確立が求められている。しかしながら、アルデヒドはカルボン酸へと容易に酸化され得るため、酸化反応により環状アルケンから収率良くジアルデヒドを製造することは困難な課題となる。環状アルケンよりジアルデヒドを製造する方法は、例えば、非特許文献1、2、3及び4に開示されている。
J. K. Bera et al. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 13987. R. Ramesh et al. RSC Advances, 2016, 6, 97107. K. R. Rao et al. Synlett, 2009, 5, 739. C.−M. Che et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 3303.
環状アルケンの酸化開裂反応を促進する触媒系として、単核の均一系ルテニウム触媒と過ヨウ素酸ナトリウム酸化剤とを組み合わせた系が挙げられる(例えば、非特許文献1及び2参照)。しかしながら、これらの均一系触媒では精密に合成された配位子が必須である上、活性種が溶液に溶け込む均一系触媒であるため、反応後に高価なルテニウム触媒を回収することが困難である。また、これらの課題は、既存均一系ルテニウム触媒の工業利用において非常に大きな障壁となる。
本反応を促進する固体ルテニウム触媒系として、ルテニウム酸化物を担体上に固定化した触媒が報告されている(例えば、非特許文献3及び4参照)。しかしながら、これらの不均一系触媒ではアルケンの水和反応などの副反応も促進することから、目的生成物であるジアルデヒドの収率は50%程度と、均一系触媒と比較して選択率が低いことが課題である。
本発明は、ジアルデヒドを、対応する環状アルケンと酸化剤とから選択的(高収率)に製造する方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、環状アルケンの酸化開裂反応において、触媒担体(例えば、ヒドロキシアパタイト)上に固定化した単核のルテニウム種が有効な触媒として機能することを見出し、対応するジアルデヒドが選択的(高収率)に得られるという知見に基づいて本発明をなすに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]
触媒担体に単核のルテニウムが固定化された触媒存在下で、環状アルケンと酸化剤とを反応させる工程を含む、ジアルデヒドの製造方法。
[2]
前記触媒担体がイオン交換能を有する化合物である[1]に記載のジアルデヒドの製造方法。
[3]
前記触媒担体がヒドロキシアパタイトである[1]又は[2]に記載のジアルデヒドの製造方法。
[4]
前記環状アルケンがシクロヘキセンである[1]〜[3]のいずれかに記載のジアルデヒドの製造方法。
[5]
前記酸化剤が過ヨウ素酸ナトリウムである[1]〜[4]のいずれかに記載のジアルデヒドの製造方法。
本発明では、触媒担体表面に固定化した単核ルテニウム触媒により、環状アルケンの水和反応などの副反応を抑制しつつ、環状アルケンから高収率にジアルデヒドを得ることができる。また、本発明に用いる触媒は固体であるため反応液からの分離が容易である。
本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施形態のジアルデヒドの製造方法は、触媒担体に単核のルテニウムが固定化された触媒存在下で、環状アルケンと酸化剤とを反応させる工程を含む。
[1]触媒
本実施形態のジアルデヒドの製造方法では、触媒担体に単核のルテニウムが固定化された触媒(ルテニウム触媒)を用いる。このような単核構造を有するルテニウム触媒は、酸化開裂反応において反応液に溶解しない不均一系触媒として機能する。本実施形態における単核構造とは、活性種であるルテニウムがRu−Ru結合及びRu−O−Ru結合を有さない状態を示す。
単核構造を有する金属種(ルテニウム)を固体の触媒担体表面へと固定化する手段として、特に限定されないが、例えば、イオン交換法が挙げられる。この時、触媒担体がイオン交換能を有する化合物であることが好ましく、カチオン交換能を有する化合物であることがより好ましい。イオン交換法において、触媒担体がカチオン交換能を有する化合物であれば単核のルテニウム触媒の製造に好適に使用できる。カチオン交換能を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシアパタイトやハイドロタルサイトなどの粘土鉱物やゼオライト、有機ポリマーなどが挙げられるが、有機化合物との親和性の点からヒドロキシアパタイトが好ましい。
単核のルテニウム触媒の合成法としては、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシアパタイトを塩化ルテニウムで処理する合成法が用いられる(非特許文献5:J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 7144/非特許文献6:J. Catal.2003,219,417)。本法ではヒドロキシアパタイト表面のカルシウムイオンと溶液中のルテニウムイオンとが交換することでルテニウムがヒドロキシアパタイト表面に固定化されるため、触媒中のルテニウムは明確に単核構造を有する。また、上記文献では、イオン交換法で得られたルテニウム固定化ヒドロキシアパタイト(以下「RuHAP」とも記す)表面のルテニウム活性種が単核構造を有することを種々の分析方法で立証している。つまり、イオン交換法は単核のルテニウム触媒を合成する確かな手法となる。本実施形態に用いるRuHAPは、非特許文献5と同様のイオン交換法で合成したことから、触媒中のルテニウムは単核構造を明確に有すると考える。
[2]原料
本実施形態のジアルデヒドの製造方法においては、環状アルケンを原料として使用する。
環状アルケンは、特に限定されないが、例えば、下記式(1)
(式(1)中、nは1〜10の整数である。また、脂環上に置換基を有していてもよい。)
で表される化合物が挙げられる。このような化合物としては、特に限定されないが、例えば、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロへプテン、シクロオクテンが挙げられる。この中でも、生成物の安定性の点からシクロヘキセンが好ましい。
[3]酸化剤
本実施形態に用いる酸化剤は触媒におけるルテニウム活性種に活性酸素を受け渡すことのできる化合物であることが好ましい。このような化合物としては、特に限定されないが、例えば、過酸化水素、過ヨウ素酸塩、過塩素酸塩、オゾン及び酸素分子などが挙げられる。この中でも、反応速度の点から過ヨウ素酸ナトリウムが好ましい。
[4]溶媒
本実施形態のジアルデヒドの製造方法において、環状アルケンと酸化剤との反応は溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、炭化水素系溶媒(例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ペンタン、ヘキサン)、エーテル系溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン)、アルコール系溶媒(例えば、エチレングリコール、エタノール、メタノール、t−ブタノール)、アミド系溶媒(例えば、ジメチルアセトアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン)、ハロゲン系溶媒(例えば、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリフルオロトルエン)などが挙げられる。この中でも疎水性溶媒が好ましく、具体的には、特に限定されないが、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン及びトリフルオロトルエンが挙げられる。
[5]反応条件
前記工程において、触媒の使用量としては、反応速度と反応後の触媒分離の点から、例えば、環状アルケン(例えば、シクロヘキセン)1グラムに対して、好ましくは0.05〜3.0グラム、より好ましくは0.05〜2.0グラム、さらに好ましくは0.1〜1.5グラムである。
前記工程において、酸化剤の量は、収率と反応後の生成物単離との点から、環状アルケンに対して、好ましくは、0.5当量〜10当量、より好ましくは1.0当量〜4.0当量、さらに好ましくは2.0当量〜3.0当量である。
前記工程において、反応温度としては、好ましくは0℃〜150℃、より好ましくは0℃〜80℃、さらに好ましくは10℃〜40℃程度である。
上記反応は、例えば、回分式、半回分式、連続式等の慣用の方法により行うことができる。
反応終了後、反応生成物であるジアルデヒドは、例えば、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下に記載の実施例によって制限されるものではない。
[実施例1]
触媒調製:RuHAPは非特許文献5に倣い以下のとおり調製した。まず、2.67M塩化ルテニウム水溶液150gにヒドロキシアパタイト2.0gを加えて室温下で24時間攪拌した。次に、得られた懸濁液を濾過し、固体分をイオン交換水で洗浄することでRuHAPを得た。
反応:ガラス製反応器に、RuHAP0.19g、ジクロロエタン21.0g、シクロヘキセン0.16gを加え、予め10gのイオン交換水に溶解させた過ヨウ素酸ナトリウム0.87g(2.4当量)を反応液へと滴下し、20℃で1時間撹拌してアジポアルデヒドを得た(アジポアルデヒド収率:80.4%、アジピン酸収率:5.1%)。この時、ジオール副生物は観察されなかった。また、RuHAPは固体であるため、反応液からの分離が容易であった。尚、アジポアルデヒド及びアジピン酸の収率は液体クロマトグラフィーを使用して以下の分析条件にて内部標準法で測定した。
(分析条件)
装置:島津 LC−10Avp
カラム:ODS−80Ts 4.6*250mm
条件:
・移動相:アセトニトリル20%、0.01Mリン酸水溶液80%
・送液量:1mL/分
・検出器ガス:乾燥空気400mL/分、水素40mL/分
・検出器:UV(190nm)/RI
内標:ジクロロメタン
[実施例2]
実施例2は、溶媒であるジクロロエタンを酢酸エチルに変更した以外は実施例1と同様にして実施した。この時、アジポアルデヒド収率は64.2%であった。
[実施例3]
実施例3は、シクロヘキセンをシクロペンテンに変更した以外は実施例1と同様にして実施した。この時、グルタルアルデヒド収率は70.9%であった。
[実施例4]
実施例4は過ヨウ素酸ナトリウムを過塩素酸ナトリウムに変更した以外は実施例1と同様にして実施した。この時、アジポアルデヒド収率は60.3%であった。
[比較例1]
比較例1は、触媒を均一系触媒である塩化ルテニウム0.33gに変更した以外は実施例1と同様にして実施した。反応結果は、アジポアルデヒド収率:51.0%、アジピン酸収率:12.0%であった。本比較例では、触媒担体へと固定化されていない単核のルテニウム触媒を使用したためアジポアルデヒド収率が低下した。また、塩化ルテニウムは、溶液に溶け込む均一系触媒であるため、反応後に高価なルテニウム触媒を回収することが困難であった。
[比較例2]
比較例2は、酸化剤を使用せずに行った以外は実施例1と同様にして実施した。本比較例ではアジポアルデヒドが得られず、本発明には酸化剤が必須であることがわかる。
本発明は、例えば、環状アルケンの酸化開裂反応により高収率にジアルデヒドを得ることができるため、ジアルデヒドの製造方法として好適である。

Claims (5)

  1. 触媒担体に単核のルテニウムが固定化された触媒存在下で、環状アルケンと酸化剤とを反応させる工程を含む、ジアルデヒドの製造方法。
  2. 前記触媒担体がイオン交換能を有する化合物である請求項1に記載のジアルデヒドの製造方法。
  3. 前記触媒担体がヒドロキシアパタイトである請求項1又は2に記載のジアルデヒドの製造方法。
  4. 前記環状アルケンがシクロヘキセンである請求項1〜3のいずれか一項に記載のジアルデヒドの製造方法。
  5. 前記酸化剤が過ヨウ素酸ナトリウムである請求項1〜4のいずれか一項に記載のジアルデヒドの製造方法。
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