JP2020055407A - カスケードロック防止装置 - Google Patents

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【課題】種々の車両のカスケードロックを検出する。【解決手段】カスケードロック防止装置50は、ブレーキ圧センサ17と、ブレーキ圧からブレーキトルクを算出するブレーキトルク算出部23と、車輪速センサ18と、車輪速から車輪減速度を算出する車輪減速度算出部24と、車輪および車両の慣性モーメントを設定する慣性モーメント設定部25と、車輪減速度と車輪の慣性モーメントとから車輪の回転を停止させるための車輪停止トルクを算出する車輪停止トルク算出部26と、車輪減速度と車両の慣性モーメントとから車両を停止させるための車両停止トルクを算出する車両停止トルク算出部27と、ブレーキトルクと車輪停止トルクおよび車両停止トルクとの差異の程度からカスケードロックの度合を検出するカスケードロック検出部28と、カスケードロックの度合に応じて車両の走行動作を制御する走行制御部29とを備える。【選択図】図3

Description

本発明は、車両のカスケードロックを防止するカスケードロック防止装置に関する。
従来、車両のすべての車輪がロックしたカスケードロックの状態を検出し、アンチロックブレーキ制御を行う方法が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1記載の方法では、差動装置を介して前軸と後軸とが連結された四輪駆動車両において、差動装置により吸収される前軸の回転速度と後軸の回転速度との差(前後差)に基づいてカスケードロックの状態を検出する。
特許文献1:特開平10−6964号公報
しかしながら、上記特許文献1記載の方法は、差動装置による前後差の吸収を前提としているため、四輪駆動車両以外に適用することが難しく、汎用性に乏しい。
本発明の一態様であるカスケードロック防止装置は、ブレーキ装置に作用するブレーキ圧を検出するブレーキ圧検出部と、ブレーキ圧検出部により検出されたブレーキ圧に基づいて、ブレーキ装置が発生するブレーキトルクを算出するブレーキトルク算出部と、車輪の回転速度を検出する回転速度検出部と、回転速度検出部により検出された車輪の回転速度に基づいて、車輪の減速度を算出する車輪減速度算出部と、車輪の慣性モーメントと走行駆動源を有する車両の慣性モーメントとを設定する慣性モーメント設定部と、車輪減速度算出部により算出された車輪の減速度と、慣性モーメント設定部により設定された車輪の慣性モーメントと、に基づいて、車輪の回転を停止させるための車輪停止トルクを算出する車輪停止トルク算出部と、車輪減速度算出部により算出された車輪の減速度と、慣性モーメント設定部により設定された車両の慣性モーメントと、に基づいて、車両を停止させるための車両停止トルクを算出する車両停止トルク算出部と、ブレーキトルク算出部により算出されたブレーキトルクと、車輪停止トルク算出部により算出された車輪停止トルクおよび車両停止トルク算出部により算出された車両停止トルクとの差異の程度に基づいて、車両のカスケードロックの度合を検出するカスケードロック検出部と、カスケードロック検出部により検出された車両のカスケードロックの度合に応じて、車両の走行動作を制御する走行制御部と、を備える。
本発明は、種々の車両のカスケードロックの検出に適用することができ、汎用性が高い。
本発明の実施形態に係るカスケードロック防止装置が適用される車両の走行系の概略構成を示す図。 すべてのタイヤがグリップした車両の制動時の状態を示す説明図。 一部のタイヤがスリップした車両の制動時の状態を示す説明図。 一部のタイヤがロックした車両の制動時の状態を示す説明図。 すべてのタイヤがロックした車両の制動時の状態を示す説明図。 本発明の実施形態に係るカスケードロック防止装置の要部構成を示すブロック図。 図3のブレーキトルク算出部による処理の説明図。 図3の車輪減速度算出部および車輪停止トルク算出部による処理の説明図。 図3の車輪減速度算出部および車両停止トルク算出部による処理の説明図。 カスケードロックの度合とブレーキトルクとの関係を示す説明図。 図3の走行制御部によるカスケードロック防止制御の説明図。 図3のコントローラで実行される処理の一例を示すフローチャート。
以下、図1〜図9を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係るカスケードロック防止装置は、車輪を介して路面に走行駆動力を伝えて走行する車両に適用される。まず、車両の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係るカスケードロック防止装置が適用される車両100の走行駆動系の概略構成を示す図である。図1に示すように、車両100は、前輪FLW,FRWおよび後輪RLW,RRWの双方が駆動輪である四輪駆動車両として構成される。車両100の前部には、エンジン1と、変速機2とが搭載される。
エンジン1は、スロットルバルブ3を介して供給される吸入空気とインジェクタ4から噴射される燃料とを適宜な割合で混合し、点火プラグ等により点火して燃焼させ、これにより回転動力を発生する内燃機関(例えばガソリンエンジン)である。なお、ガソリンエンジンに代えてディーゼルエンジン等、各種エンジンを用いることもできる。吸入空気量はスロットルバルブ3により調節され、スロットルバルブ3の開度は、電気信号により作動するスロットル用アクチュエータの駆動によって変更される。スロットルバルブ3の開度およびインジェクタ4からの燃料の噴射量(噴射時期、噴射時間)はコントローラ20(図3)により制御される。
変速機2は、エンジン1で発生した走行駆動力が入力されるトルクコンバータ5を含み、トルクコンバータ5から出力された走行駆動力を変速して出力する自動変速機である。変速機2は、例えば複数の変速段に応じて変速比を段階的に変更可能な有段変速機である。なお、変速比を無段階に変更可能な無段変速機を、変速機2として用いることもできる。変速機2は、例えばドグクラッチや摩擦クラッチなどの係合機構を備え、コントローラ20(図3)からの指令により、油圧源(油圧ポンプなど)から係合機構への油の流れを制御することにより、変速機2の変速比を目標変速比に変更することができる。目標変速比は、予め定められたシフトマップに従い、車速と要求駆動力とに応じて決定される。
トルクコンバータ5は、係合状態でエンジン1の出力軸と変速機2の入力軸とを直結するロックアップクラッチ6を有する、ロックアップ機構付きのトルクコンバータである。ロックアップクラッチ6を駆動するロックアップクラッチ用アクチュエータはコントローラ20(図3)により制御される。
エンジン1と変速機2とは、走行駆動力を発生する駆動力発生部7を構成する。駆動力発生部7で発生した走行駆動力は、フロントの差動機構8およびドライブシャフト9を介して左右の前輪FLW,FRWに伝達される。駆動力発生部7で発生した走行駆動力は、プロペラシャフト10、リアのデフユニット11およびドライブシャフト12を介して左右の後輪RLW,RRWにも伝達可能である。なお、エンジン1の代わりに、あるいはエンジン1に加えて、走行用モータを設け、電気自動車やハイブリッド自動車として車両100を構成することもできる。すなわち、走行用モータを駆動力発生部として用いることもできる。
デフユニット11は、駆動力発生部7の走行駆動力の一部を後輪RLW,RRWに配分する駆動力配分機構13と、駆動力配分機構13を介して配分された走行駆動力を左後輪RLWと右後輪RRWとに配分する差動機構14とを有する。駆動力配分機構13は、前後輪の駆動力配分機構の他に、前後輪の回転差を吸収する差動機構、低μ路走行時等に差動機構の動作を制限する差動制限機構等としても機能する。駆動力配分機構13は、例えばプロペラシャフト10と差動機構14の入力軸14aとを連結する湿式多板式の電磁クラッチ(電子制御カップリング)を有する。電磁クラッチの締結力はコントローラにより制御され、電磁クラッチの締結力を制御することで、前輪FLW,FRW側と後輪RLW,RRW側との駆動力配分を、100:0(2WDモード)から50:50までの範囲で連続的に変更することができる。駆動力配分機構13を駆動する駆動力配分用アクチュエータ(電磁クラッチなど)はコントローラ20(図3)により制御される。なお、ドライバのスイッチ操作等により駆動力配分を任意に変更することも可能である。
各車輪FLW,FRW,RLW,RRWにはディスクブレーキなどのブレーキ装置15が設けられる。ブレーキ装置15には、マスタシリンダ(不図示)を介して、車両運転席に設けられたブレーキペダル16の操作量に応じた油圧(ブレーキ圧)が供給される。ブレーキ装置15は、ブレーキ圧に応じたブレーキトルクを発生する。各車輪FLW,FRW,RLW,RRWのブレーキ装置15にはそれぞれブレーキ圧センサ17が設けられ、各車輪のブレーキ装置15に供給されるブレーキ圧を示す信号を出力する。
また、各車輪FLW,FRW,RLW,RRWの適宜位置には車輪速センサ18が設けられ、各車輪の回転速度を示す信号を出力する。各車輪のタイヤが路面をグリップしている場合、車両100は各車輪の回転速度に応じた車速で走行する。
図2A〜2Dは、車両100の制動時の状態を示す説明図である。図2Aに示すように、路面RDの状態に応じた適切なブレーキ操作で車両100の制動を行うと、すべてのタイヤが路面をグリップした状態で各車輪が減速し、車両100が減速する。このとき、実際の車速Vaは、各車輪の回転速度(図では、VFRW=VRRW)から算出される車速Vcと一致する。この場合、車両100の安定した走行状態が維持され、車両100を適切に制動することができる。
図2Bに示すように、路面RDの状態に応じた適切な範囲を超えた急なブレーキ操作で車両100の制動を行うと、一部のタイヤがスリップする。このとき、実際の車速Vaは、スリップしていない車輪の回転速度(図では、VRRW)から算出される車速Vc(RR)とは一致するが、スリップしている車輪の回転速度(図では、VFRW)から算出される車速Vc(FR)よりも大きくなる。この場合、車両100の走行状態が不安定になり、車両100の制動距離が増大する。
図2Cに示すように、さらに急なブレーキ操作で車両100の制動を行うと、一部のタイヤ(図では、FRW)がロックする。この場合、車両100の走行状態がさらに不安定になり、車両100の制動距離がさらに増大する。
図2Dに示すように、さらに急なブレーキ操作で車両100の制動を行うと、すべての車輪がロックしたカスケードロックの状態となる。この場合、車両100の走行状態が極めて不安定になり、車両100の制動が困難になる。このようなカスケードロックは、車輪を介して路面に走行駆動力を伝えて走行するあらゆるタイプの車両において生じ得る。したがって、四輪駆動車両だけでなく二輪駆動車両や二輪車を含む種々の車両においても、カスケードロックに至る前の状態を検出してカスケードロックを防止することが望まれる。
カスケードロックに至る前の状態は、例えば、駆動力配分機構13により吸収される前後のドライブシャフト9,12の回転差に基づいて検出することができるが、四輪駆動車両以外に適用することが難しい。ブレーキ圧センサ17により検出されるブレーキ圧の変化量から各車輪の減速度の変化量の推定値を算出し、車輪速センサ18により検出される車輪速から各車輪の減速度の変化量の実際値を算出し、推定値と実際値との比較結果に基づいて検出することもできる。しかしながら、車輪速から各車輪の減速度の変化量を算出する場合は、車輪速を2回微分する必要があるため、特に減速度が小さい場合には正確な値を得ることが難しく、カスケードロックに至る前の状態を確実に検出することが難しい。そこで本実施形態では、四輪駆動車両以外にも適用可能な汎用性の高い手法により、車両100のカスケードロックの状態を検出できるよう、以下のように車両制御装置を構成する。
図3は、本実施形態に係るカスケードロック防止装置50の要部構成を示すブロック図である。図3に示すように、カスケードロック防止装置50は、コントローラ20と、コントローラ20にそれぞれ接続されたブレーキ圧センサ17と、車輪速センサ18と、センサ群19と、変速用アクチュエータAC1と、ロックアップクラッチ用アクチュエータAC2と、インジェクタ用アクチュエータAC3と、スロットル用アクチュエータAC4と、駆動力配分用アクチュエータAC5とを有する。
センサ群19は、車両100の走行状態を検出する複数のセンサの総称である。例えばセンサ群19には、エンジン1の回転数を検出するエンジン回転数センサ、スロットルバルブ3の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサなどが含まれる。
変速用アクチュエータAC1は、変速機2の係合機構への油の流れを制御して変速機2の変速比を変更する。ロックアップクラッチ用アクチュエータAC2は、ロックアップクラッチ6を駆動して係合または解放する。インジェクタ用アクチュエータAC3は、エンジン1のインジェクタ4の噴射量(噴射時期、噴射時間)を調整する。スロットル用アクチュエータAC4は、エンジン1のスロットルバルブ3の開度(スロットル開度)を調整する。駆動力配分用アクチュエータ(電磁クラッチなど)AC5は、駆動力配分機構13を駆動する。
コントローラ20は、電子制御ユニット(ECU)により構成される。なお、エンジン制御用ECU、変速機制御用ECU等、機能の異なる複数のECUを別々に設けることができるが、図3では、便宜上、これらECUの集合としてコントローラ20が示される。コントローラ20は、走行制御に係る処理を行うCPU等の演算部21と、ROM,RAM,ハードディスク等の記憶部22と、図示しないその他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。
記憶部22には、車両100の重量WV、タイヤおよびホイールを含む各車輪の重量WWおよび半径RWが記憶される。記憶部22には、変速動作の基準となるシフトマップ(変速線図)、各種制御のプログラム、プログラムで用いられる閾値等の情報も記憶される。
演算部21は、機能的構成として、ブレーキトルク算出部23と、車輪減速度算出部24と、慣性モーメント設定部25と、車輪停止トルク算出部26と、車両停止トルク算出部27と、カスケードロック検出部28と、走行制御部29とを有する。
図4は、ブレーキトルク算出部23による処理の説明図である。図4に示すように、ブレーキトルク算出部23は、各車輪FLW,FRW,RLW,RRWのブレーキ圧センサ17により検出される各車輪のブレーキ装置15のブレーキ圧PFLW,PFRW,PRLW,PRRWに基づいて、各車輪のブレーキ装置15が発生するブレーキトルクTFLW,TFRW,TRLW,TRRWを算出する。各車輪のブレーキトルクは、予め設定されて記憶部22に記憶されたブレーキトルク特性に基づいて算出することができる。さらにブレーキトルク算出部23は、各車輪のブレーキトルクTFLW,TFRW,TRLW,TRRWの合計値を車両100のブレーキトルクTBとして算出する。
図5は、車輪減速度算出部24および車輪停止トルク算出部26による処理の説明図であり、図6は、車輪減速度算出部24および車両停止トルク算出部27による処理の説明図である。図5および図6に示すように、車輪減速度算出部24は、各車輪FLW,FRW,RLW,RRWの車輪速センサ18により検出される各車輪の車輪速VFLW,VFRW,VRLW,VRRWに基づいて、各車輪の減速度DFLW,DFRW,DRLW,DRRWを算出する。各車輪の減速度は、各車輪の車輪速を時間微分して算出することができる。
慣性モーメント設定部25は、記憶部22に記憶された各車輪の重量WW(例えば、12.5kg)および半径RWに基づいて、回転軸を中心に回転する各車輪の慣性モーメントIWを設定する。各車輪の慣性モーメントIWは、例えば各車輪が質量分布の一様なディスク状の回転体であると仮定し、適宜な定数C(例えば、C=0.8)を用いて以下の式(i)のように設定することができる。
IW=WW×(RW×C)^2 ・・・(i)
また、慣性モーメント設定部25は、記憶部22に記憶された車両100の重量WV(例えば、1500kg)および各車輪の半径RWに基づいて、車両100の慣性モーメントIVを設定する。車両100の慣性モーメントIVについても、車両100が各車輪の回転軸を中心に回転する質量分布の一様なディスク状の回転体であると仮定し、適宜な定数C(例えば、C=0.8)を用いて以下の式(ii)のように設定することができる。
IV=WV×(RW×C)^2 ・・・(ii)
車輪停止トルク算出部26は、図5に示すように、車輪減速度算出部24により算出された各車輪の減速度と慣性モーメント設定部25により設定された各車輪の慣性モーメントIWとに基づいて、車両100のすべての車輪の回転を停止、すなわちロックさせるための車輪停止トルクT1を算出する。具体的には、車輪停止トルク算出部26は、車輪減速度算出部24により算出された各車輪の減速度DFLW,DFRW,DRLW,DRRWにそれぞれ慣性モーメント設定部25により設定された各車輪の慣性モーメントIWを乗じて、各車輪をロックさせるための車輪停止トルクT1FLW,T1FRW,T1RLW,T1RRWを算出する。さらに車輪停止トルク算出部26は、各車輪をロックさせるための車輪停止トルクT1FLW,T1FRW,T1RLW,T1RRWの合計値を車両100のすべての車輪をロックさせるための車輪停止トルクT1として算出する。車輪停止トルクT1は、車両100のすべての車輪がロックしたカスケードロックの状態に向かう過渡状態のブレーキトルクである。
車両停止トルク算出部27は、図6に示すように、車輪減速度算出部24により算出された各車輪の減速度と慣性モーメント設定部25により設定された車両100の慣性モーメントIVとに基づいて、車両100を停止させる、すなわち制動するための車両停止トルクT2を算出する。具体的には、車両停止トルク算出部27は、車輪減速度算出部24により算出された各車輪の減速度DFLW,DFRW,DRLW,DRRWにそれぞれ、慣性モーメント設定部25により設定された車両100の慣性モーメントIVの1/4の値を乗じて、各車輪が車両100を制動するための車両停止トルクT2FLW,T2FRW,T2RLW,T2RRWを算出する。すなわち、各車輪が車両100の重量を均等に分担すると仮定して、各車輪がそれぞれ車両100の1/4を制動するための車両停止トルクを算出する。さらに車両停止トルク算出部27は、各車輪が車両100を制動するための車両停止トルクT2FLW,T2FRW,T2RLW,T2RRWの合計値を、車両100全体を制動するための車両停止トルクT2として算出する。車両停止トルクT2は、すべてのタイヤが路面をグリップした状態で車両100を制動するときのブレーキトルクである。
カスケードロック検出部28は、ブレーキトルク算出部23により算出されたブレーキトルクTBと、車輪停止トルク算出部26により算出された車輪停止トルクT1および車両停止トルク算出部27により算出された車両停止トルクT2との差異の程度に基づいて、車両100のカスケードロックの度合を検出する。
図7は、カスケードロックの度合とブレーキトルクTBとの関係を示す説明図であり、実際のブレーキトルクTBと、カスケードロック状態に向かう過渡状態のブレーキトルク(車輪停止トルク)T1と、タイヤグリップ状態で車両100を制動するときのブレーキトルク(車両停止トルク)T2とを示す。実際のブレーキトルクTBがタイヤグリップ状態に近いほど((T2−TB)が小さいほど)カスケードロックの度合は低くなる。一方、実際のブレーキトルクTBがカスケードロック過渡状態に近いほど((TB−T1)が小さいほど)カスケードロックの度合は高くなる。カスケードロック検出部28は、例えば以下の式(iii)のようにカスケードロックの度合Rを算出する。
R=(TB−T1)/(T2−T1) ・・・(iii)
さらにカスケードロック検出部28は、カスケードロックの度合Rが所定値RTH(例えば0.5)未満の場合はカスケードロックの状態に向かう過渡状態であると判定する。カスケードロック検出部28により車両100がカスケードロックの状態に向かう過渡状態であると判定されると、走行制御部29によりカスケードロックを防止するための走行制御が行われる。
走行制御部29は、アクチュエータAC1〜AC5を制御して、カスケードロックを防止するように車両100の走行動作を制御するカスケードロック防止制御を行う。例えば、走行制御部29は、変速機2の変速比をOD側(ハイ側)にするように変速用アクチュエータAC1を制御する。これにより駆動力発生部7で発生する走行駆動力を低減し、各車輪に伝達される走行駆動力を低減することで、各車輪のロックを防止する。
図8は、走行制御部29によるカスケードロック防止制御の説明図であり、カスケードロック防止制御時のエンジン回転数の変化を示す。カスケードロック防止制御時は、例えば、通常制御時にDレンジでアクセルオフしたときのエンジン回転数NEを目標値として、変速機2の変速比をOD側に移行する。また、図8に示すように、通常制御時よりも速い速度でアップシフトを行い、より短い時間で目標エンジン回転数NEに移行する(t2<t1)。
また、走行制御部29は、ロックアップクラッチ6を解放するようにロックアップクラッチ用アクチュエータAC2を制御する。ロックアップクラッチ6を解放してエンジン1と変速機2との直結状態を解除し、トルクコンバータ5によるトルク伝達に切り替えることで、各車輪に伝達される走行駆動力を低減し、各車輪のロックを防止する。
また、走行制御部29は、エンジン1のインジェクタ4が燃料を噴射するようにインジェクタ用アクチュエータAC3を制御する。車両100の減速時に燃料噴射が停止された燃料カットの状態では、エンジン1がフリクションとなり各車輪がロックすることがある。燃料を噴射するようにインジェクタ用アクチュエータAC3を制御することで、エンジン1のアイドル回転数が所定値(例えば、1000rpm)以上となるように駆動力発生部7で発生する走行駆動力を維持し、各車輪のロックを防止する。エンジン1の吸気量が増加するようにスロットル用アクチュエータAC4を制御して、エンジン1のアイドル回転数が所定値以上にしてもよい。カスケードロック防止制御時のアイドル回転数の目標値は、通常制御時のアイドル回転数より高く、エンジン始動直後のファーストアイドル回転数以下とする。
さらに、走行制御部29は、前輪FLW,FRW側と後輪RLW,RRW側との駆動力配分が100:0の2WDモードである場合には、4WDモードに切り替えるように駆動力配分用アクチュエータAC5を制御する。例えば、前輪FLW,FRWと後輪RLW,RRWとの駆動力配分が50:50となるように駆動力配分用アクチュエータAC5を制御する。4WDモードに切り替えることで、車両100の走行状態を安定させ、各車輪のロックを防止する。
図9は、予め記憶部22に記憶されたプログラムに従い図3のコントローラ20のCPUで実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えばブレーキスイッチなどによりブレーキ装置15の作動が検出されると開始され、所定周期で繰り返される。
まず、ステップS1で、ブレーキトルク算出部23での処理により、ブレーキ圧センサ17の検出値を読み込み、車両100のブレーキトルクTBを算出する。次いで、ステップS2で、車輪減速度算出部24での処理により、車輪速センサ18の検出値を読み込み、各車輪の減速度DFLW,DFRW,DRLW,DRRWを算出する。次いで、ステップS3で、慣性モーメント設定部25での処理により、記憶部22に記憶された車輪の重量WW、半径RWおよび車両100の重量WVを読み込み、車輪の慣性モーメントIWおよび車両100の慣性モーメントIVを設定する。次いで、ステップS4で、車輪停止トルク算出部26での処理により、ステップS2で算出された各車輪の減速度とステップS3で設定された車輪の慣性モーメントIWとに基づいて車輪停止トルクT1を算出する。次いで、ステップS5で、車輪停止トルク算出部26での処理により、ステップS2で算出された各車輪の減速度とステップS3で設定された車両の慣性モーメントIVとに基づいて車両停止トルクT2を算出する。次いで、ステップS6で、カスケードロック検出部28での処理により、ステップS1で算出されたブレーキトルクTBと、ステップS4で算出された車輪停止トルクT1と、ステップS5で算出された車両停止トルクT2とに基づいて車両100のカスケードロックの度合Rを検出する。
ステップS7では、カスケードロック検出部28での処理により、ステップS6で検出されたカスケードロックの度合Rが所定値RTH未満であるか否か判定する。ステップS7で肯定されると、車両100がカスケードロックの状態に向かう過渡状態であると判定され、ステップS8に進んでカスケードロック防止制御を行う。一方、ステップS7で否定されると処理を終了する。ステップS8では、走行制御部29での処理により、変速用アクチュエータAC1を制御して変速機2の変速比をOD側に移行する。次いで、ステップS9で、ロックアップクラッチ用アクチュエータAC2を制御してロックアップクラッチ6を解放する。次いで、ステップS10で、インジェクタ用アクチュエータAC3を制御してエンジン1の燃料を噴射する。次いで、ステップS11で、2WDモードであるか否かを判定する。ステップS11で肯定されるとステップS12に進み、否定されると処理を終了する。ステップS12では、駆動力配分用アクチュエータAC5を制御して4WDモードに切り替える。
ブレーキ装置15が発生する実際のブレーキトルクTBと車輪をロックさせるための車輪停止トルクT1との差異と、実際のブレーキトルクTBと車両を制動するための車両停止トルクT2との差異とを比較することで、実際の車両100状態がカスケードロックに至る過渡状態に近いのか、タイヤグリップの制動状態に近いのかを検出することができる(ステップS1〜S6)。また、車両100がカスケードロックの状態に向かう過渡状態であると判定されると(ステップS7)、駆動力発生部7から各車輪に伝達される走行駆動力を低減する(ステップS8,S9)、あるいは駆動力発生部7が発生する走行駆動力を維持することで(ステップS10)、各車輪のロックを防止し、カスケードロックを防止することができる。また、2WDモードで走行している場合は4WDモードに切り替えることで、車両100の走行状態を安定させ、カスケードロックを防止することができる(ステップS11,S12)。
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)カスケードロック防止装置50は、ブレーキ装置15に作用するブレーキ圧PFLW,PFRW,PRLW,PRRWを検出するブレーキ圧センサ17と、ブレーキ圧センサ17により検出されたブレーキ圧に基づいて、ブレーキ装置15が発生するブレーキトルクTBを算出するブレーキトルク算出部23と、車輪FLW,FRW,RLW,RRWの車輪速VFLW,VFRW,VRLW,VRRWを検出する車輪速センサ18と、車輪速センサ18により検出された車輪速に基づいて、車輪の減速度DFLW,DFRW,DRLW,DRRWを算出する車輪減速度算出部24と、車輪の慣性モーメントIWとエンジン1を有する車両100の慣性モーメントIVとを設定する慣性モーメント設定部25と、車輪減速度算出部24により算出された車輪の減速度と、慣性モーメント設定部25により設定された車輪の慣性モーメントIWと、に基づいて、車輪の回転を停止させるための車輪停止トルクT1を算出する車輪停止トルク算出部26と、車輪減速度算出部24により算出された車輪の減速度と、慣性モーメント設定部25により設定された車両100の慣性モーメントIVと、に基づいて、車両100を停止させるための車両停止トルクT2を算出する車両停止トルク算出部27と、ブレーキトルク算出部23により算出されたブレーキトルクTBと、車輪停止トルク算出部26により算出された前記車輪停止トルクT1および車両停止トルク算出部27により算出された車両停止トルクT2との差異の程度に基づいて、車両100のカスケードロックの度合Rを検出するカスケードロック検出部28と、カスケードロック検出部28により検出された車両100のカスケードロックの度合Rに応じて、車両100の走行動作を制御する走行制御部29と、を備える(図3)。
すなわち、ブレーキ装置15が発生する実際のブレーキトルクTBと車輪をロックさせるための車輪停止トルクT1との差異と、実際のブレーキトルクTBと車両を制動するための車両停止トルクT2との差異とを比較することで、実際の車両100状態がカスケードロックに至る過渡状態に近いのか、タイヤグリップの制動状態に近いのかを検出する。これにより、車輪を介して路面に走行駆動力を伝えて走行するあらゆるタイプの車両に適用することができる。また、車輪停止トルクT1および車両停止トルクT2は、車輪速の1回微分により得られる各車輪の減速度と、各車輪および車両の慣性モーメントとに基づいて算出されるため、各車輪の減速度が小さい場合であっても正確に算出することができる。このため、各車輪の減速度が小さい場合にもカスケードロックの状態を検出することができる。
(2)慣性モーメント設定部25は、車輪の重量に基づいて予め車輪の慣性モーメントIWを設定するとともに、車両100の重量に基づいて予め車両100の慣性モーメントIVを設定する。これにより、カスケードロックの検出に用いる慣性モーメントIW,IVの値を簡易に設定することができ、計算負荷を低減することができる。
(3)車両100は、エンジン1で発生した走行駆動力を車輪に伝達する変速機2をさらに有する(図1)。走行制御部29は、カスケードロック検出部28により検出された車両100のカスケードロックの度合Rが所定値RTHを超えると、エンジン1から車輪に伝達される走行駆動力を低減するように変速機2を制御する。これにより車輪のロックを防止することができる。
(4)エンジン1は内燃機関である。走行制御部29は、カスケードロック検出部28により検出された車両100のカスケードロックの度合Rが所定値RTHを超えると、エンジン1のアイドル回転数が所定値以上となるようにエンジン1を制御する。これによりエンジン1で発生する走行駆動力を維持し、各車輪のロックを防止することができる。
(5)車両100は、車両100の走行状態に応じて4WDモードと2WDモードとを選択可能に切り替える駆動力配分機構13をさらに有する(図1)。走行制御部29は、駆動力配分機構13により2WDモードが選択されているときに、カスケードロック検出部28により検出された車両100のカスケードロックの度合Rが所定値RTHを超えると、4WDモードに切り替えるように駆動力配分機構13を制御する。これにより車両100の走行状態を安定させ、各車輪のロックを防止することができる。
上記実施形態は種々の形態に変更することができる。以下、変形例について説明する。上記実施形態では、カスケードロック防止装置50を四輪駆動車両100に適用したが、本発明のカスケードロック防止装置は、車輪を介して路面に走行駆動力を伝えて走行する二輪駆動車両や二輪車を含むあらゆるタイプの車両に適用することができる。
上記実施形態では、慣性モーメント設定部25が記憶部22に記憶された各車輪の重量WWおよび車両100の重量WVに基づいて車輪の慣性モーメントIWと車両100の慣性モーメントIVとを予め設定するようにしたが、車輪および車両の慣性モーメントを設定する慣性モーメント設定部はこのようなものに限らない。例えば、通常走行時の車輪や車両の減速度に基づいて車輪や車両の慣性モーメントを補正してもよい。この場合、積載量やタイヤの磨耗による影響を考慮してカスケードロックを検出することができる。
上記実施形態では、カスケードロック検出部28によるカスケードロックの度合Rの算出式として式(iii)を例示したが、カスケードロック検出部はブレーキトルクと車輪停止トルクおよび車両停止トルクとの差異の程度に基づいてカスケードロックの度合を検出するものであればよく、算出方法は上記したものに限らない。
上記実施形態では、カスケードロックの度合Rが所定値RTHを超えると走行制御部29がカスケードロック防止制御を行うようにしたが、カスケードロックの度合に応じて車両の走行動作を制御する走行制御部はこのようなものに限らない。例えば、カスケードロックの度合に応じて段階的に走行駆動力を低減するようにしてもよい。また、所定値RTHを0.5として例示したが、所定値はこれに限定されない。所定値RTを複数設定し、ドライバが適宜選択できるように構成してもよい。
上記実施形態では、走行制御部29が変速機2の変速比をOD側に移行する、あるいはロックアップクラッチ6を解放するようにしたが、走行駆動源から車輪に伝達される走行駆動力を低減するようにトルク伝達部を制御する走行制御部はこのようなものに限らない。また、走行制御部29がエンジン1に燃料を噴射するようにインジェクタ4を制御する、あるいはエンジン1の吸気量が増加するようにスロットルバルブ3を制御するようにしたが、アイドル回転数が所定値以上となるように内燃機関を制御する走行制御部はこのようなものに限らない。
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
1 エンジン、2 変速機、3 スロットルバルブ、4 インジェクタ、5 トルクコンバータ、6 ロックアップクラッチ、7 駆動力発生部、13 駆動力配分機構、15 ブレーキ装置、17 ブレーキ圧センサ、18 車輪速センサ、20 コントローラ、23 ブレーキトルク算出部、24 車輪減速度算出部、25 慣性モーメント設定部、26 車輪停止トルク算出部、27 車両停止トルク算出部、28 カスケードロック検出部、29 走行制御部、50 カスケードロック防止装置、100 車両、FLW,FRW,RLW,RRW 車輪

Claims (5)

  1. ブレーキ装置に作用するブレーキ圧を検出するブレーキ圧検出部と、
    前記ブレーキ圧検出部により検出されたブレーキ圧に基づいて、前記ブレーキ装置が発生するブレーキトルクを算出するブレーキトルク算出部と、
    車輪の回転速度を検出する回転速度検出部と、
    前記回転速度検出部により検出された前記車輪の回転速度に基づいて、前記車輪の減速度を算出する車輪減速度算出部と、
    前記車輪の慣性モーメントと走行駆動源を有する車両の慣性モーメントとを設定する慣性モーメント設定部と、
    前記車輪減速度算出部により算出された前記車輪の減速度と、前記慣性モーメント設定部により設定された前記車輪の慣性モーメントと、に基づいて、前記車輪の回転を停止させるための車輪停止トルクを算出する車輪停止トルク算出部と、
    前記車輪減速度算出部により算出された前記車輪の減速度と、前記慣性モーメント設定部により設定された前記車両の慣性モーメントと、に基づいて、前記車両を停止させるための車両停止トルクを算出する車両停止トルク算出部と、
    前記ブレーキトルク算出部により算出されたブレーキトルクと、前記車輪停止トルク算出部により算出された前記車輪停止トルクおよび前記車両停止トルク算出部により算出された前記車両停止トルクとの差異の程度に基づいて、前記車両のカスケードロックの度合を検出するカスケードロック検出部と、
    前記カスケードロック検出部により検出された前記車両のカスケードロックの度合に応じて、前記車両の走行動作を制御する走行制御部と、を備えることを特徴とするカスケードロック防止装置。
  2. 請求項1に記載のカスケードロック防止装置において、
    前記慣性モーメント設定部は、前記車輪の重量に基づいて予め前記車輪の慣性モーメントを設定するとともに、前記車両の重量に基づいて予め前記車両の慣性モーメントを設定することを特徴とするカスケードロック防止装置。
  3. 請求項1または2に記載のカスケードロック防止装置において、
    前記車両は、前記走行駆動源で発生した走行駆動力を前記車輪に伝達するトルク伝達部をさらに有し、
    前記走行制御部は、前記カスケードロック検出部により検出された前記車両のカスケードロックの度合が所定値を超えると、前記走行駆動源から前記車輪に伝達される走行駆動力を低減するように前記トルク伝達部を制御することを特徴とするカスケードロック防止装置。
  4. 請求項1または2に記載のカスケードロック防止装置において、
    前記走行駆動源は内燃機関であり、
    前記走行制御部は、前記カスケードロック検出部により検出された前記車両のカスケードロックの度合が所定値を超えると、前記内燃機関のアイドル回転数が所定値以上となるように前記内燃機関を制御することを特徴とするカスケードロック防止装置。
  5. 請求項1から4のいずれか一項に記載のカスケードロック防止装置において、
    前記車両は、前記車両の走行状態に応じて四輪駆動モードと二輪駆動モードとを選択可能に切り替えるモード切替部をさらに有し、
    前記走行制御部は、前記モード切替部により前記二輪駆動モードが選択されているときに、前記カスケードロック検出部により検出された前記車両のカスケードロックの度合が所定値を超えると、前記四輪駆動モードに切り替えるように前記モード切替部を制御することを特徴とするカスケードロック防止装置。
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