JP2020028892A - 冷間圧延方法 - Google Patents
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一方、冷間圧延において、ワークロールが被圧延材の鋼板に対して滑って回転する現象、すなわちスリップが発生すれば、鋼板の表面に疵が生じて外観品質を損なったり、また圧延機の板厚制御のためのAGC制御に誤差が生じて、出側板厚の精度が低下してしまう、などの問題を招く。そのため、スリップが発生することはできるだけ抑えることが必要である。
fs=(VO−VR)/VR
によって与えられる。したがってスリップが発生すれば、先進率が負の値となる。
一方特許文献2の提案は、鋼板の冷間圧延において潤滑油の油膜厚みを制御することによってスリップの発生を防止しようとするものであるが、特許文献2に開示されている技術事項を実施しただけでは、スリップの発生を確実に抑えることは困難であり、スリップ発生防止の技術としては不十分と言わざるを得ない。
冷間圧延機のロールスタンドの入側において鋼板表面に潤滑油を供給しながら鋼板を冷間圧延するにあたり、
前記ロールスタンドの出側において鋼板の板速を実測し、
出側板速と前記ロールスタンドにおけるワークロールの周速とから先進率fsを求め、
求められた先進率fsと圧延荷重Pとからワークロールと鋼板との間の摩擦係数μを算出し、
先進率fsが、fs<0の場合に、先進率fs≧0となるように摩擦係数μを増加させることを特徴とするものである。
前記第1の態様の冷間圧延方法において、
予め得られている圧下率rと先進率fsと摩擦係数μのデータに基づき、摩擦係数μを変化させた場合の、先進率fsと圧下率rとの関係fs=f(r)を、圧下率rを横軸とするとともに先進率fsを縦軸としてグラフ化し、fs=f(r)を示す曲線群の内、横軸に対して水平な曲線における摩擦係数μを基準摩擦係数μ0とし、前記算出された摩擦係数μがμ<μ0の場合には、先進率fs≧0となるように摩擦係数μを増加させることを特徴とするものである。
前記第1の態様の冷間圧延方法において、
予め実際の冷間圧延操業で使用される種々の径のワークロールのうちの最小径を予測しておき、
その最小径のワークロールについて、予め得られている圧下率rと先進率fsと摩擦係数μのデータに基づき、摩擦係数μを変化させた場合の、先進率fsと圧下率rとの関係fs=f(r)を、圧下率rを横軸とするとともに先進率fsを縦軸としてグラフ化し、fs=f(r)を示す曲線群の内、横軸に対して水平な曲線における摩擦係数μを最小径ロール基準摩擦係数μ0pとし、
実際に使用しているワークロールの径が前記最小径以上のいずれの径であっても、前記算出された摩擦係数μがμ<μ0pの場合に、先進率fs≧0となるように摩擦係数μを増加させることを特徴とするものである。
前記第1の態様の冷間圧延方法において、
前記算出された摩擦係数μがμ<0.042の場合に、先進率fs≧0となるように摩擦係数μを増加させることを特徴とするものである。
前記第1〜第4のいずれかの態様の冷間圧延方法において、
圧下率rがr≧20%の条件下で、先進率fs≧0となるように摩擦係数μを増加させることを特徴とするものである。
前記摩擦係数μを増加させるにあたり、ロールスタンドの入側において鋼板表面に供給する潤滑油の供給量を減少させることを特徴とするものである。
前記摩擦係数μを増加させるにあたり、ロールスタンドの入側において鋼板表面に供給する潤滑油の濃度を低下させることを特徴とするものである。
図1の例では、鋼板2を連続的に冷間圧延するための、タンデム冷間圧延用の複数基、例えば5基のロールスタンドF1〜F5を直列状に配列した冷間圧延設備1を示している。各ロールスタンドF1〜F5は、それぞれ上下のワークロール3A、3Bと上下のバックアップロール4A、4Bとを有する4重式圧延機(4Hiミル)で構成されている。そして各ロールスタンドF1〜F5の入側には、鋼板2の上下の板面に潤滑油を供給するための潤滑油供給装置6A、6Bが配設されている。これらの潤滑油供給装置6A、6Bは、例えば潤滑油原液を水等によってエマルションとした状態で鋼板2の板面に向けて、各ロールスタンドF1〜F5における入側ロールバイトに近い位置で噴射するノズルによって構成される。ここまで説明した構成は、従来の一般的な冷間圧延設備と同様である。
fs=(VO−VR)/VR
によって算出される。先進率演算装置20で算出された先進率fsについての信号は、摩擦係数演算部22および潤滑油量制御部16に与えられる。
摩擦係数μを求める手法は特に限定されるものではないが、例えば非特許文献1のp1270に記載されている手法によって求めることができる。
fs:先進率、μ:摩擦係数、P:圧延荷重、Ke:変形抵抗、σb:後方張力、σf:前方張力、Re:扁平ロール半径、H:入側板厚、h:出側板厚、r:圧下率、ν:ポアソン比、E:ヤング率、b:板幅、R:ロール半径
潤滑油量制御部16は、基本的には、先進率fsがfs<0の場合の場合に、先進率fsがfs≧0となるように、例えば潤滑油供給装置6A、6Bから供給する潤滑油量を減少させる制御を行って、摩擦係数μを増加させればよい。
そこで、予め実際の冷間圧延操業で使用される種々の径のワークロールのうちの最小径を予測しておき、その最小径のワークロールに関して、前記Aの制御態様の場合と同様に、実験やこれまでの冷間圧延操業の実績、もしくは計算やシミュレーションによって、圧下率rと先進率fsと摩擦係数μのデータの相関関係を調べておく。そして、最小径のワークロールについて、摩擦係数μを変化させた場合の、先進率fsと圧下率rとの関係fs=f(r)を、圧下率rを横軸、先進率fsを縦軸としてグラフ化しておき、そのグラフにおけるfs=f(r)を示す曲線群の内、横軸に対して水平な曲線における摩擦係数μを、最小径ロール基準摩擦係数μ0pとする。そして、実際に使用しているワークロールの径の如何にかかわらず(すなわち実際に使用しているワークロールの径が前記最小径以上のどのような径であっても)、前述のように式(1)〜式(3)から算出された摩擦係数μがμ<μ0pの場合には、先進率fs≧0となるように、潤滑油量を減少させる制御を行って、摩擦係数μを増加させる。
図5は、ロール径がφ350mmの場合についての普通鋼の例を示し、図6は同じくロール径がφ350mmの場合の高張力鋼の例を示し、いずれも摩擦係数μは0.030、0.042、0.050、0.060の4段階で変化させた。
図7は、ロール径がφ480mmの場合についての普通鋼の例を示し、図8は同じくロール径がφ480mmの場合の高張力鋼の例を示し、いずれも摩擦係数μは0.020、0.031、0.050、0.060の4段階で変化させた。
fsave=(fsmax+fsmin)/2
とする。
そして、
fsmax−fsave<+0.08%
でかつ
fsmin−fsave<−0.08%
の範囲内にある場合を、前記曲線が水平であるとみなすこととする。言い換えれば、圧下率が10〜30%の範囲内における、先進率fsの最大値fsmax、最小値fsminとの差Δfs=fsmax−fsminが、±0.08%内の範囲内にある場合を、前記曲線が水平であるとみなすこととする。
ちなみに、上記のΔfs=fsmax−fsminが、±0.08%内の範囲を、図3〜図8に記載した各鋼種、各ロール径のグラフ中に付記している。
ここで、普通鋼についての図3、図5、図7の比較、並びに高張力鋼についての図4、図6、図8の比較から、ロール径が小さいほど、先進率fsが小さくなってスリップが発生しやすくなる傾向を示すこと、逆に言えば、同じ摩擦係数でもロール径が大きいほど、先進率fsが大きくなってスリップが発生しにくくなる傾向を示すことが分かる。そしてまた、各グラフ上でfs=f(r)を示す曲線群の内、横軸に対して水平な曲線における摩擦係数(基準摩擦係数μ0)も、ロール径が大きいほど大きくなることが分かる。
このことから、前述の制御態様Bに示したように、予め実際の冷間圧延操業で使用される種々の径のワークロールのうちの最小径を予測しておき、その最小径のワークロールについての基準摩擦係数μを求めて、その値(最小径ロール基準摩擦係数μ0p)を基準として、実際に使用しているワークロールの径の如何にかかわらず(すなわち実際に使用しているワークロールの径がどのような径であっても)、式(1)〜式(3)から算出された摩擦係数μがμ<μ0pの場合に、先進率fs≧0となるように、潤滑油量を減少させる制御を行って、摩擦係数μを増加させてもよい。
具体的な手法としては、例えば潤滑油供給装置として、原液濃度の異なる潤滑油エマルションを供給する2以上のノズルを設置しておき、実際に鋼板に供給するノズルを、前述のような制御態様にしたがって切り替える手法がある。あるいは、潤滑油供給装置(ノズル)の上流に、原液濃度の異なる潤滑油エマルションを供給する2以上の潤滑油供給経路を設けておき、前述のような制御態様にしたがってノズルに供給する潤滑油供給経路を切り替える手法がある。
なお、潤滑油の供給量と濃度との両者を変えることによって摩擦係数を制御してもよいことはもちろんである。
この実施例1は、ワークロール径がφ290mmの1スタンドの4重式冷間圧延機(4Hiミル)を用いて、980MPa級高張力鋼を試験材鋼板として、実験的に冷間コイル圧延を行ったモデル実験例である。
すなわち、図10に示しているように、4段圧延機(4Hiミル)からなる1スタンドのロールスタンドFの入側に、2対の潤滑油供給ノズル61A、61B;62A、62Bを設置して、冷間圧延を行った。2対のノズルのうち、一対のノズル61A、61Bは、高濃度(本例では原液濃度2.0%)の潤滑油エマルションを供給するノズルとし、他の一対のノズル62A、62B61Bは、低濃度(本例では原液濃度1.0%)の潤滑油エマルションを供給するノズルとした。
そして摩擦係数μが0.038,0.042となるように式(1)〜式(3)を用いて圧延条件を決定し、圧下率を15%と25%の2水準とした。この圧延条件において高濃度側のノズル61A、61Bにより原液濃度2.0%の潤滑油エマルションを供給しながら冷間圧延した。なお潤滑油エマルションの鋼板表面への供給量は、4L/min、6L/minの2水準とした。
各条件における先進率およびスリップ発生の有無を調べた。その結果を、表1の左側の「調整前」の欄に示す。
一方、摩擦係数μが0.038でも圧下率が15%の場合にはスリップは発生しなかったが、圧下率が25%の場合にはスリップが発生した。
このケースについて、前記と同様に先進率およびスリップ発生の有無を調べた。その結果を、表1の右側の「調整後」の欄に示す。
この場合、潤滑油エマルションの濃度を2.0%から1.0%に切り替えることにより、摩擦係数μは0.051に上昇して、先進率は正の値となり、スリップは抑制された。
この実施例2は、実機5スタンドタンデム冷間圧延機によって、普通鋼と980MPa級高張力鋼を試験材として実機試験を行った例である。鋼板の初期厚み(元厚)は普通鋼と980MPa級高張力鋼でそれぞれ、2.7mmと2.5mmであり、5スタンドにより最終的にそれぞれ0.404mmと1.27mmまで冷間圧延するものとした。
普通鋼、高張力鋼についての、その他の圧延条件について、それぞれ表2、表3に示す。
さらに第4段目スタンドの入側のノズルを、低濃度側のノズル62A、62Bに切り替え、濃度1.0%の潤滑油エマルションを供給しながら、普通鋼および高張力鋼をそれぞれタンデム冷間圧延した。第4段目スタンド出側における先進率、スリップ発生状況を調べた結果を、表4、表5の右側の「制御後」の欄に示す。
そこで、供給する潤滑油エマルションの濃度を2.0%から1.0%に低下させた結果、普通鋼と980MPa級高張力鋼のいずれにおいても、摩擦係数μが0.042以上に増加してスリップの発生はなくなった。
3A、3B ワークロール
6A、6B 潤滑油供給装置6A、6B
F1〜F5 ロールスタンド
Claims (7)
- 冷間圧延機のロールスタンドの入側において鋼板表面に潤滑油を供給しながら鋼板を冷間圧延するにあたり、
前記ロールスタンドの出側において鋼板の板速を実測し、
出側板速と前記ロールスタンドにおけるワークロールの周速とから先進率fsを求め、
求められた先進率fsと圧延荷重Pとからワークロールと鋼板との間の摩擦係数μを算出し、
先進率fsが、fs<0の場合に、先進率fs≧0となるように摩擦係数μを増加させることを特徴とする冷間圧延方法。 - 請求項1に記載の冷間圧延方法において、
予め得られている圧下率rと先進率fsと摩擦係数μのデータに基づき、摩擦係数μを変化させた場合の、先進率fsと圧下率rとの関係fs=f(r)を、圧下率rを横軸とするとともに先進率fsを縦軸としてグラフ化し、fs=f(r)を示す曲線群の内、横軸に対して水平な曲線における摩擦係数μを基準摩擦係数μ0とし、前記算出された摩擦係数μがμ<μ0の場合には、先進率fs≧0となるように摩擦係数μを増加させることを特徴とする冷間圧延方法。 - 請求項1に記載の冷間圧延方法において、
予め実際の冷間圧延操業で使用される種々の径のワークロールのうちの最小径を予測しておき、
その最小径のワークロールについて、予め得られている圧下率rと先進率fsと摩擦係数μのデータに基づき、摩擦係数μを変化させた場合の、先進率fsと圧下率rとの関係fs=f(r)を、圧下率rを横軸とするとともに先進率fsを縦軸としてグラフ化し、fs=f(r)を示す曲線群の内、横軸に対して水平な曲線における摩擦係数μを最小径ロール基準摩擦係数μ0pとし、
実際に使用しているワークロールの径が前記最小径以上のいずれの径であっても、前記算出された摩擦係数μがμ<0pの場合に、先進率fs≧0となるように摩擦係数μを増加させることを特徴とする冷間圧延方法。 - 請求項1に記載の冷間圧延方法において、
前記算出された摩擦係数μがμ<0.042の場合に、先進率fs≧0となるように摩擦係数μを増加させることを特徴とする冷間圧延方法。 - 請求項1〜請求項4のいずれかの請求項に記載の冷間圧延方法において、
圧下率rがr≧20%の条件下で、先進率fs≧0となるように摩擦係数μを増加させることを特徴とする冷間圧延方法。 - 請求項1〜請求項5のいずれかの請求項に記載の冷間圧延方法において、
前記摩擦係数μを増加させるにあたり、ロールスタンドの入側において鋼板表面に供給する潤滑油の供給量を減少させることを特徴とする冷間圧延方法。 - 請求項1〜請求項5のいずれかの請求項に記載の冷間圧延方法において、
前記摩擦係数μを増加させるにあたり、ロールスタンドの入側において鋼板表面に供給する潤滑油の濃度を低下させることを特徴とする冷間圧延方法。
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