以下、図1〜図6を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る車両制御装置は、自動運転機能を有する車両(自動運転車両)に適用される。まず、自動運転車両の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る車両制御装置が適用される自動運転車両100(単に車両と呼ぶ場合もある)の走行駆動系の概略構成を示す図である。車両100は、ドライバによる運転操作が不要な自動運転モードでの走行だけでなく、ドライバの運転操作による手動運転モードでの走行も可能である。
図1に示すように、車両100は、エンジン1と、変速機2とを有する。エンジン1は、スロットルバルブ11を介して供給される吸入空気とインジェクタ12から噴射される燃料とを適宜な割合で混合し、点火プラグ等により点火して燃焼させ、これにより回転動力を発生する内燃機関(例えばガソリンエンジン)である。なお、ガソリンエンジンに代えてディーゼルエンジン等、各種エンジンを用いることもできる。吸入空気量はスロットルバルブ11により調節され、スロットルバルブ11の開度は、電気信号により作動するスロットル用アクチュエータ13の駆動によって変更される。スロットルバルブ11の開度およびインジェクタ12からの燃料の噴射量(噴射時期、噴射時間)はコントローラ40(図2)により制御される。
変速機2は、エンジン1と駆動輪3との間の動力伝達径路に設けられる自動変速機であり、エンジン1からの回転を変速し、かつエンジン1からのトルクを変換して出力する。変速機2で変速された回転は駆動輪3に伝達され、これにより車両100が走行する。なお、エンジン1の代わりに、あるいはエンジン1に加えて、駆動源としての走行用モータを設け、電気自動車やハイブリッド自動車として車両100を構成することもできる。
変速機2は、例えば複数の変速段(例えば6段)に応じて変速比を段階的に変更可能な有段変速機である。なお、変速比を無段階に変更可能な無段変速機を、変速機2として用いることもできる。図示は省略するが、トルクコンバータを介してエンジン1からの動力を変速機2に入力してもよい。変速機2は、例えばドグクラッチや摩擦クラッチなどの係合機構21を備え、油圧制御装置22が油圧源から係合機構21への油の流れを制御することにより、変速機2の変速段を目標変速段に変更することができる。目標変速段は、予め定められたシフトマップに従い、車速と要求駆動力とに応じて決定される。油圧制御装置22は、電気信号により作動するソレノイドバルブなどの変速機用のバルブ機構23を有し、バルブ機構23の作動に応じて係合機構21への圧油の流れを変更することで、適宜な変速段を設定できる。バルブ機構23は変速用アクチュエータを構成する。
図2は、図1の自動運転車両100を制御する自動運転車両システム101の基本的な全体構成を概略的に示すブロック図である。図2に示すように、自動運転車両システム101は、コントローラ40と、コントローラ40にそれぞれ電気的に接続された外部センサ群31と、内部センサ群32と、入出力装置33と、GPS受信機34と、地図データベース35と、ナビゲーション装置36と、通信ユニット37と、走行用のアクチュエータACとを主に有する。
外部センサ群31は、車両100の周辺情報である外部状況を検出する複数のセンサの総称である。例えば外部センサ群31には、車両100の全方位の照射光に対する散乱光を測定して車両100から周辺の障害物までの距離を測定するライダ、電磁波を照射し反射波を検出することで車両100の周辺の他車両や障害物等を検出するレーダ、車両100に搭載され、CCDやCMOS等の撮像素子を有して自車両の周辺(前方、後方および側方)を撮像するカメラなどが含まれる。
内部センサ群32は、車両100の走行状態を検出する複数のセンサの総称である。例えば内部センサ群32には、車両100の車速を検出する車速センサ、車両100の前後方向の加速度および左右方向の加速度(横加速度)をそれぞれ検出する加速度センサ、エンジン1の回転数を検出するエンジン回転数センサ、車両100の重心の鉛直軸回りの回転角速度を検出するヨーレートセンサ、スロットルバルブ11の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサなどが含まれる。手動運転モードでのドライバの運転操作、例えばアクセルペダルの操作、ブレーキペダルの操作、ステアリングの操作等を検出するセンサも内部センサ群32に含まれる。
入出力装置33は、ドライバから指令が入力されたり、ドライバに対し情報が出力されたりする装置の総称である。例えば入出力装置33には、操作部材の操作によりドライバが各種指令を入力する各種スイッチ、ドライバが音声で指令を入力するマイク、ドライバに表示画像を介して情報を提供する表示部、ドライバに音声で情報を提供するスピーカなどが含まれる。各種スイッチには、自動運転モードおよび手動運転モードのいずれかを指令する手動自動切換スイッチ33aが含まれる。
手動自動切換スイッチ33aは、例えばドライバが手動操作可能なスイッチとして構成され、スイッチ操作に応じて、自動運転機能を有効化した自動運転モードまたは自動運転機能を無効化した手動運転モードへの切換指令を出力する。手動自動切換スイッチ33aの操作によらず、所定の走行条件が成立したときにも、手動運転モードから自動運転モードへの切換、あるいは自動運転モードから手動運転モードへの切換が指令される。すなわち、手動自動切換スイッチ33aが自動的に切り換わることで、モード切換が手動ではなく自動で行われる場合もある。
GPS受信機34は、複数のGPS衛星からの測位信号を受信し、これにより車両100の絶対位置(緯度、経度など)を測定する。
地図データベース35は、ナビゲーション装置36に用いられる一般的な地図情報を記憶する装置であり、例えばハードディスクにより構成される。地図情報には、道路の位置情報、道路形状(曲率など)の情報、交差点や分岐点の位置情報が含まれる。なお、地図データベース35に記憶される地図情報は、コントローラ40の記憶部42に記憶される高精度な地図情報とは異なる。
ナビゲーション装置36は、ドライバにより入力された目的地までの道路上の目標経路を探索するとともに、目標経路に沿った案内を行う装置である。目的地の入力および目標経路に沿った案内は、入出力装置33を介して行われる。入出力装置33を介さずに、目的地を自動的に設定することもできる。目標経路は、GPS受信機34により測定された自車両の現在位置と、地図データベース35に記憶された地図情報とに基づいて演算される。
通信ユニット37は、インターネット回線などの無線通信網を含むネットワークを介して図示しない各種サーバと通信し、地図情報および交通情報などを定期的に、あるいは任意のタイミングでサーバから取得する。取得した地図情報は、地図データベース35や記憶部42に出力され、地図情報が更新される。取得した交通情報には、渋滞情報や、信号が赤から青に変わるまでの残り時間等の信号情報が含まれる。
アクチュエータACは、車両100の走行動作に関する各種機器を作動するための走行用アクチュエータである。アクチュエータACには、エンジン1のスロットルバルブ11の開度(スロットル開度)を調整するスロットル用アクチュエータ13、係合機構21への油の流れを制御して変速機2の変速段を変更する変速用アクチュエータ、制動装置を作動するブレーキ用アクチュエータ、およびステアリング装置を駆動する操舵用アクチュエータなどが含まれる。
コントローラ40は、電子制御ユニット(ECU)により構成される。なお、エンジン制御用ECU、変速機制御用ECU等、機能の異なる複数のECUを別々に設けることができるが、図2では、便宜上、これらECUの集合としてコントローラ40が示される。コントローラ40は、主に自動運転に関する処理を行うCPU等の演算部41と、ROM,RAM,ハードディスク等の記憶部42と、図示しないその他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。
記憶部42には、車線の中央位置の情報や車線位置の境界の情報等を含む高精度の詳細な地図情報が記憶される。より具体的には、地図情報として、道路情報、交通規制情報、住所情報、施設情報、電話番号情報等が記憶される。道路情報には、高速道路、有料道路、国道などの道路の種別を表す情報、道路の車線数、各車線の幅員、道路の勾配、道路の3次元座標位置、車線のカーブの曲率、車線の合流ポイントおよび分岐ポイントの位置、道路標識等の情報が含まれる。交通規制情報には、工事等により車線の走行が制限または通行止めとされている情報などが含まれる。記憶部42には、変速動作の基準となるシフトマップ(変速線図)、各種制御のプログラム、プログラムで用いられる閾値等の情報も記憶される。
演算部41は、自動走行に関する機能的構成として、自車位置認識部43と、外界認識部44と、行動計画生成部45と、走行制御部46とを有する。
自車位置認識部43は、GPS受信機34で受信した車両100の位置情報および地図データベース35の地図情報に基づいて、地図上の車両100の位置(自車位置)を認識する。記憶部42に記憶された地図情報(建物の形状などの情報)と、外部センサ群31が検出した車両100の周辺情報とを用いて自車位置を認識してもよく、これにより自車位置を高精度に認識することができる。なお、道路上や道路脇の外部に設置されたセンサで自車位置を測定可能であるとき、そのセンサと通信ユニット37を介して通信することにより、自車位置を高精度に認識することもできる。
外界認識部44は、ライダ、レーダ、カメラ等の外部センサ群31からの信号に基づいて車両100の周囲の外部状況を認識する。例えば車両100の周辺を走行する周辺車両(前方車両や後方車両)の位置や速度や加速度、車両100の周囲に停車または駐車している周辺車両の位置、および他の物体の位置や状態などを認識する。他の物体には、標識、信号機、道路の境界線や停止線、建物、ガードレール、電柱、看板、歩行者、自転車等が含まれる。他の物体の状態には、信号機の色(赤、青、黄)、歩行者や自転車の移動速度や向きなどが含まれる。
行動計画生成部45は、例えばナビゲーション装置36で演算された目標経路と、自車位置認識部43で認識された自車位置と、外界認識部44で認識された外部状況とに基づいて、現時点から所定時間先までの車両100の走行軌道(目標軌道)を生成する。目標経路上に目標軌道の候補となる複数の軌道が存在するときには、行動計画生成部45は、その中から法令を順守し、かつ効率よく安全に走行する等の基準を満たす最適な軌道を選択し、選択した軌道を目標軌道とする。そして、行動計画生成部45は、生成した目標軌道に応じた行動計画を生成する。
行動計画には、現時点から所定時間T(例えば5秒)先までの間に単位時間Δt(例えば0.1秒)毎に設定される走行計画データ、すなわち単位時間Δt毎の時刻に対応付けて設定される走行計画データが含まれる。走行計画データは、単位時間Δt毎の車両100の位置データと車両状態のデータとを含む。位置データは、例えば道路上の2次元座標位置を示す目標点のデータであり、車両状態のデータは、車速を表す車速データと車両100の向きを表す方向データなどである。走行計画は単位時間Δt毎に更新される。
行動計画生成部45は、現時点から所定時間T先までの単位時間Δt毎の位置データを時刻順に接続することにより、目標軌道を生成する。このとき、目標軌道上の単位時間Δt毎の各目標点の車速(目標車速)に基づいて、単位時間Δt毎の加速度(目標加速度)を算出する。すなわち、行動計画生成部45は、目標車速と目標加速度とを算出する。なお、目標加速度を走行制御部46で算出するようにしてもよい。
走行制御部46は、運転モード(自動運転モード、手動運転モード)に応じてアクチュエータACを制御する。例えば自動運転モードにおいて、走行制御部46は、行動計画生成部45で生成された目標軌道103に沿って車両100が走行するように各アクチュエータACを制御する。すなわち、単位時間Δt毎の目標点Pを車両100が通過するように、スロットル用アクチュエータ13、変速用アクチュエータ、ブレーキ用アクチュエータ、および操舵用アクチュエータなどをそれぞれ制御する。
より具体的には、走行制御部46は、自動運転モードにおいて道路勾配などにより定まる走行抵抗を考慮して、行動計画生成部45で算出された単位時間Δt毎の目標加速度を得るための要求駆動力を算出する。そして、例えば内部センサ群32により検出された実加速度が目標加速度となるようにアクチュエータACをフィードバック制御する。すなわち、自車両が目標車速および目標加速度で走行するようにアクチュエータACを制御する。なお、手動運転モードでは、走行制御部46は、内部センサ群32により取得されたドライバからの走行指令(アクセル開度等)に応じて各アクチュエータACを制御する。
ところで、手動運転モードで走行中に変速機2に故障が生じると、自動運転モードへの切換を禁止または制限することが好ましい。すなわち、自動運転モードでは、ドライバは自身で車両100を運転していないため、変速機2が故障した状態で自動運転モードに切り換わったとしても、故障に気付かないおそれがある。したがって、変速機2が故障した状態で、手動自動切換スイッチ33aが操作されて自動運転モードから手動運転モードに切り換わると、ドライバの意図した挙動と車両100の実際の挙動とが異なり、ドライバは違和感を抱く。例えば、前方車両を追い越そうとして手動運転モードでアクセルペダルを踏み込んだにも拘らず、変速機2がドライバの操作に応じた所望の変速段にダウンシフトせずに、十分な加速感を得ることができないおそれがある。そこで、本実施形態では、以下のように車両制御装置を構成する。
図3は、本発明の実施形態に係る車両制御装置50の要部構成を示すブロック図である。この車両制御装置50は、車両100の走行動作を制御するものであり、図2の自動運転車両システム101の一部を構成する。車両制御装置50は、係合機構21への圧油の流れを制御する油圧制御装置22内のバルブ機構23等、変速機2の全ての要素の故障の有無を判定するが、以下では、変速機2の故障の例として、バルブ機構23に固着などの異常が生じた場合を想定する。
図3に示すように、車両制御装置50は、コントローラ40と、コントローラ40にそれぞれ接続された手動自動切換スイッチ33aと、圧力センサ32aと、パーキング用アクチュエータ24と、変速用アクチュエータ25と、ディスプレイ33bとを有する。ディスプレイ33bは、故障情報を表示する表示装置であり、入出力装置33の一部を構成する。
圧力センサ32aは、変速機2のバルブ機構23の作動に応じた油圧力の変化を検出する検出器であり、内部センサ群32の一部を構成する。圧力センサ32aにより検出される油圧力は、バルブ機構23が正常に作動しているとき、変速段のインギヤ指令に対応した所定範囲内に収まる。一方、バルブ機構23に固着などの異常が生じると、油圧力が所定範囲から外れる。なお、圧力センサ32aは変速段に対応して複数設けられるが、図3では、所定の変速段に対応した単一の圧力センサ32aが示される。
パーキング用アクチュエータ24は、パーキング装置に設けられたパーキングロックを作動および解除するアクチュエータ(例えば電動モータ)である。パーキング装置は、例えば変速機ケースに取り付けられたパーキング用シャフトと、パーキング用シャフトに揺動可能に支持され、パーキング用アクチュエータ24により駆動されるパーキングポールとを有する。パーキング用アクチュエータ24の駆動によりパーキングポールの爪部がパーキングギヤに係合されることで、パーキングロックが作動する。パーキングロックの作動により駆動輪3の回転が阻止される。一方、パーキングロックの作動が解除されることにより駆動輪3が回転可能となる。変速用アクチュエータ25は、バルブ機構23などにより構成される。
コントローラ40は、機能的構成として、アクチュエータ制御部51と、走行態様推定部52と、故障判定部53と、出力部54と、を有する。
アクチュエータ制御部51は、手動運転モード時に、手動自動切換スイッチ33aの操作により自動運転モードへの切換が指令されると、変速機2の故障の有無を判定するためのアクティブ診断を行う。アクティブ診断では、車両100を停車させたまま、変速機2を走行中と同様の状態に制御して、故障の有無を判定する。したがって、停車時に手動自動切換スイッチ33aが操作されると、アクチュエータ制御部51は、まずパーキング用アクチュエータ24に制御信号を出力し、車両100を停車状態に維持する。
走行中に手動自動切換スイッチ33aが操作されたときは、車両100が所定の停車状態になるまで待機する。所定の停車状態とは、アクティブ診断に要する所定時間(例えば数秒程度)だけ停車が継続される状態であり、交差点での一時停止や、所定時間内の信号待ちの状態は所定の停車状態から除外される。なお、エンジン始動直後で車両100が走行を開始する前の状態は、所定の停車状態に含まれる。
アクチュエータ制御部51は、アクティブ診断において、パーキングロックを作動したまま変速用アクチュエータ25に制御信号を出力し、例えば変速機2の全ての変速段のインギヤ動作を実行する。図4は、アクティブ診断の一例を示すタイムチャートである。図4に示すように、所定の停車状態において、時点t1で自動運転モードへの切換が指令されると、アクチュエータ制御部51は、パーキングロックを作動(オン)する。次いで、アクチュエータ制御部51は、全ての変速段に対するインギヤ指令を出力する。特に時点t2〜時点t3にかけて、アクチュエータ制御部51は、所定の変速段のインギヤ指令を出力(オン)する。
このとき、変速機2が正常であれば、圧力センサ32aの出力は、図4の実線に示すように、例えば0から所定値P1まで上昇する。一方、バルブ機構23に固着等が生じて正常な変速動作が行われないとき、圧力センサ32aの出力は例えば図4の点線に示すように0のままである。なお、変速用アクチュエータ25の駆動により圧力センサ32aの出力が所定値P1まで上昇すると、通常であれば、走行駆動力は図4の点線に示すように増加するが、パーキングロックが作動しているため、図4の実線に示すように走行駆動力は0のままである。時点t4で、全ての変速段に対するアクティブ診断が終了すると、アクチュエータ制御部51は、パーキング用アクチュエータ24に制御信号を出力し、パーキングロックを解除(オフ)する。
走行態様推定部52は、ナビゲーション装置36で演算された目標経路に沿った車両100の走行態様を推定する。例えば目標経路に高速道路が含まれるとき、高速道路の区間は、車両100が所定車速以上で走行すると判定する。走行態様推定部52は、目標経路上に、所定の停車状態とできる地点があるか否かも推定する。
故障判定部53は、アクティブ診断の後に、圧力センサ32aからの信号に基づいて変速機2の故障の有無、すなわち自動運転走行が可能か否かを判定する。さらに故障判定部53は、変速機2の一部が故障していると判定するとき、その故障部位が車両100の走行にとって支障がないか否かを判定する。すなわち、変速機2の一部が故障していると、走行制御部46(図2)は、トルク制限、最高速制限、変速段の制限などの走行制限を行うことで、故障部位を使用しない状態で車両100を自動運転で走行(限定付自動運転走行)させる。換言すると、走行制御部46は、フェールセーフ制御により車両100を自動運転で走行させる。そこで、故障判定部53は、走行態様推定部52により推定された走行態様に基づき、目標経路上を車両100が限定付自動運転で走行することが可能か否かを判定する。例えば目標経路上に高速道路を含み、変速機2の故障により車両を高速走行させることができないとき、故障判定部53は、限定付自動運転走行が不可能と判定する。
手動自動切換スイッチ33aの操作により自動運転モードへの切換が指令され、アクティブ診断を開始したが、アクティブ診断が完了する前に手動運転での走行が開始されたとき、つまり、変速機2の一部の要素のアクティブ診断のみが行われたとき、故障判定部53は、未診断の要素を特定する。そして、走行態様推定部52により推定された走行態様に基づき、その未診断の要素を用いずに、目標経路上を車両100が自動運転で走行することが可能か否かを判定する。例えば、未診断の要素が後進走行に係る要素であり、目標経路上に後進走行が含まれないとき、自動運転で走行することが可能と判定する。
出力部54は、故障判定部53による判定結果、すなわち自動運転走行許可、自動運転走行禁止、および限定付自動運転走行許可のいずれかの指令を走行制御部46に出力する。出力部54が自動運転走行許可の指令を出力すると、走行制御部46は、運転モードを自動運転モードに切り換え、以降、自動運転モードでアクチュエータACを制御する。出力部54が自動運転走行禁止の指令を出力すると、走行制御部46は、自動運転モードへの切換を禁止し、手動運転モードでの走行を継続する。出力部54が限定付自動運転走行許可との指令を出力すると、走行制御部46は、自動運転モードに切り換え、トルク制限、最高速制限、変速段制限等の走行制限の下、自動運転モードでアクチュエータACを制御する。
さらに出力部54は、故障判定部53による判定結果をディスプレイ33bに出力する。これにより自動運転モードへの切換が禁止または制限される旨がディスプレイ33bに表示される。したがって、ドライバは自動運転モードへの切換が問題なく行われたか否かを容易に認識できる。
図5は、予め記憶部42に記憶されたプログラムに従い図3のコントローラ40のCPUで実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えば手動運転モードにおいて開始され、所定周期で繰り返される。
まず、ステップS1で、手動自動切換スイッチ33aからの信号に基づき、自動運転が要求されたか否かを判定する。ステップS1で否定されるとステップS2に進み、走行制御部46に対し、手動運転走行指令を出力する。一方、ステップS1で肯定されるとステップS3に進み、エンジン始動直後等で、車両100を所定の停車状態とすることが可能か否かを判定する。ステップS3で肯定されるとステップS4に進み、パーキング用アクチュエータ24に制御信号を出力し、パーキングロックを作動するとともに、変速用アクチュエータ25に制御信号を出力し、変速機2の全要素の故障の有無を診断、すなわちアクティブ診断を行う。
次いで、ステップS5で、アクティブ診断が完了したか否かを判定する。すなわち、変速機2の全ての要素についての故障診断が完了したか否かを判定する。ステップS5で肯定されるとステップS6に進み、否定されるとステップS3に戻る。ステップS6では、アクティブ診断の結果、変速機2の全ての要素が正常であるか否かを判定する。ステップS6で肯定されるとステップS7に進み、自動運転走行の許可指令を出力する。
ステップS6で否定されるとステップS8に進み、正常でないと判定された要素の使用を制限した走行、すなわちトルク制限、最高速制限、変速段制限などの制限走行が、目標経路上で可能か否かを判定する。ステップS8で肯定されるとステップS9に進み、否定されるとステップS12に進む。ステップS9では、限定付自動運転走行の許可指令を出力する。一方、ステップS12では、自動運転走行の禁止指令を出力する。
ステップS3で否定されるとステップS10に進み、目標経路上で、アクティブ診断の完了していない未診断の要素の使用予定があるか否かを判定する。ステップS10で否定されるとステップS7に進み、肯定されるとステップS11に進む。ステップS11では、目標経路上で、未診断の要素のアクティブ診断が可能か否か、すなわち所定の停車状態(ステップS3)とすることが可能か否かを判定する。ステップS11で肯定されるとステップS7に進み、否定されるとステップS12に進む。
本実施形態に係る車両制御装置50の動作をより具体的に説明する。手動運転モードにおいて手動自動切換スイッチ33aの操作により自動運転モードへの切換が指令されると、車両100が停車状態であれば、アクティブ診断が実行される(ステップS4)。この場合、パーキングロックが作動された状態で、変速用アクチュエータ25に制御信号が出力され、変速機2の要素が走行中と同様に作動させられる。アクティブ診断の結果、変速機2の全要素が正常と判定されると、自動運転走行が許可され、自動運転モードに切り換わる(ステップS7)。
すなわち、本実施形態では、ドライバの操作により自動運転モードへの切換が指令されても、即座に自動運転モードに切り換わらず、アクティブ診断の結果、変速機2の全ての要素が正常と判定されると、運転モードが自動運転モードに切り換わる。これにより、変速機2が正常状態のときに車両100が自動運転モードで走行する。したがって、その後、手動自動切換スイッチ33aの操作により自動運転モードから手動運転モードに切り換わったとき、変速機2は正常に動作するため、ドライバが変速機2の挙動に違和感を抱くことを防止することができる。
変速機2の一部の要素が異常と判定されたとき、車両100はフェールセーフ制御によりその一部の要素の使用を制限して走行することが可能である。この場合、目標経路上において、フェールセーフ制御による走行が問題なければ、限定付自動運転での走行が許可される(ステップS9)。例えばトルク制限、最高速制限、変速段の制限などを行いながら、自動運転モードで車両100が走行する。したがって、変速機2の一部の要素に異常があっても、自動運転走行が可能である。
停車状態でアクティブ診断を開始した後、アクティブ診断が完了する前に車両100が走行するときも、自動運転モードに切り換えられる場合がある。例えば未診断の要素が後進段のインギヤ動作を行う要素であり、目標経路上に後進走行の予定がない場合、自動運転に切り換えられる(ステップS10→ステップS7)。すなわち、この場合には、後進段のインギヤに係る要素が正常か異常か不明であるが、目標経路上を後進走行する予定はないので、自動運転モードで支障なく走行することができる。
また、未診断の要素が後進段のインギヤ要素を行う要素であり、後進走行する予定があるときであっても、後進走行する前に目標経路上で所定の停車状態とすることが可能である場合、自動運転で走行後に未診断の要素のアクティブ診断が行われる(ステップS4)。この場合、アクティブ診断を行って異常があれば、自動運転モードでの走行を禁止する(ステップS12)。
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)車両制御装置50は、手動運転で走行する手動運転モードと、自動運転で走行する自動運転モードとに、運転モードを切換可能に車両100を制御する。この車両制御装置50は、車両100に搭載された変速機2に用いられるバルブ機構23等の変速用アクチュエータ25を制御するアクチュエータ制御部51と、手動運転モードから自動運転モードに切り換える前に、アクチュエータ制御部51により変速用アクチュエータ25を動作させ、動作結果に基づいて変速機2の故障の有無を判定する故障判定部53と、故障判定部53により変速機2が故障していると判定されると、自動運転モードへの切換を禁止する指令を出力する出力部54と、を備える(図3)。
これにより、変速機2が正常であることを前提として自動運転モードへの切換が行われるため、自動運転モードから手動運転モードに切り換わった際に、ドライバが変速機2の故障に起因した違和感、例えば所望の加速感を得られない等の違和感を抱くことを防止できる。
(2)変速用アクチュエータ25は、走行中に動作するアクチュエータ、すなわちインギヤ用アクチュエータを含み、アクチュエータ制御部51は、故障判定部53により故障の有無を判定するとき、パーキングロックを作動させて車両100を停車させた状態で、インギヤ用アクチュエータを動作させる。これにより車両100を停車状態に保ったまま、変速機2を実際に動作させてアクティブ診断を行うことができる。
(3)車両制御装置50は、目標経路に沿った車両100の走行態様を推定する走行態様推定部52をさらに備える(図3)。故障判定部53は、変速機2の全要素のうち、走行態様推定部52により推定された走行態様での走行を実現するための変速機2の一部の要素の故障の有無を判定する。出力部54は、故障判定部53により変速機の一部の要素が故障していないと判定されると、変速機2の他の要素(例えば後進走行のための要素)が故障していると判定されても、自動運転モードへの切換を許可する指令を出力する。これにより、変速機2の全ての要素に故障が生じていない場合以外にも、自動運転を行うことが可能である。
上記実施形態は種々の形態に変更することができる。以下、変形例について説明する。上記実施形態では、変速機2のアクティブ診断を行うときにパーキングロックを作動して車両100を停車させるようにしたが、一対のクラッチのインギヤ指令を同時に行うようにしてもよい。図6は、そのような動作の一例を示すタイムチャートである。図6では、車両100の停車状態において、時点t5で自動運転モードへの切換が指令された後、時点t6で変速機2に含まれる第1クラッチと第2クラッチの双方にインギヤ指令(第1インギヤ指令、第2インギヤ指令)が同時に出力され、クラッチが共噛み状態とされて車両100の走行駆動力が0とされる。このとき、変速機2が正常であれば、第1クラッチ用の圧力センサ32aの出力(第1センサ出力)と第2クラッチ用の圧力センサ32aの出力(第2センサ出力)は、それぞれ例えば所定値P2,P3まで上昇する。一方、変速機2が異常であれば、例えばセンサ出力は0となる。その後、時点t7で、第2クラッチのインギヤ指令がオフされると、クラッチが共噛み状態ではなくなる。このとき、通常であれば走行駆動力が点線に示すように増加するが、パーキングロックが作動しているため、図4の実線に示すように走行駆動力は0のままである。
上記実施形態では、故障判定部53により故障の有無を判定するとき、パーキングブレーキを自動的に作動して、走行中に動作する走行用アクチュエータとして変速用アクチュエータ25を動作させるようにしたが、フットブレーキを自動的に作動して走行用アクチュエータを動作させるようにしてもよい。上記実施形態では、アクチュエータ制御部51により変速用アクチュエータ25を動作させたときの圧力センサ32aの信号に基づいて変速機2の故障の有無を判定するようにしたが、回転数センサや温度センサ等、他のセンサ信号に基づいて変速機2の故障の有無を判定するようにしてもよく、故障判定部の構成は上述したものに限らない。
上記実施形態では、故障判定部53により変速機2が故障していると判定されると、出力部54が手動運転モードから自動運転モードへの切換を禁止するだけでなく、制限走行が可能であるときには限定付自動運転での走行を許可するようにしたが、少なくとも自動運転モードへの切換を禁止する指令を出力するのであれば、出力部の構成はいかなるものでもよい。上記実施形態では、変速機2の全要素のうち、走行態様推定部52により推定された走行態様での走行を実現するための変速機2の一部の要素(例えば前進走行に係る要素)の故障の有無を判定し、出力部54は、故障判定部53により変速機2の一部の要素が故障していないと判定されると、変速機2の他の要素(例えば後進走行に係る要素)が故障していると判定されても、自動運転モードへの切換を許可する指令を出力するようにしたが、変速機2の全ての要素が正常であると判定されない限り、走行態様を考慮せずに自動運転モードでの走行を禁止するようにしてもよい。
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。