JP2019189841A - 疎水変性セルロース繊維及び有機媒体を有する膜 - Google Patents

疎水変性セルロース繊維及び有機媒体を有する膜 Download PDF

Info

Publication number
JP2019189841A
JP2019189841A JP2018167355A JP2018167355A JP2019189841A JP 2019189841 A JP2019189841 A JP 2019189841A JP 2018167355 A JP2018167355 A JP 2018167355A JP 2018167355 A JP2018167355 A JP 2018167355A JP 2019189841 A JP2019189841 A JP 2019189841A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
group
film
cellulose fiber
organic medium
mass
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2018167355A
Other languages
English (en)
Other versions
JP7123707B2 (ja
Inventor
浩二 大崎
Koji Osaki
浩二 大崎
貴博 大塚
Takahiro Otsuka
貴博 大塚
嘉則 長谷川
Yoshinori Hasegawa
嘉則 長谷川
厚憲 園井
Atsunori Sonoi
厚憲 園井
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kao Corp
Original Assignee
Kao Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kao Corp filed Critical Kao Corp
Publication of JP2019189841A publication Critical patent/JP2019189841A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP7123707B2 publication Critical patent/JP7123707B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Compositions Of Macromolecular Compounds (AREA)

Abstract

【課題】有機媒体の移行性が小さく、かつ膜の繰り返し使用による耐久性に優れた膜に関すること。【解決手段】セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上の基に修飾基が結合されてなる疎水変性セルロース繊維、下記の(X)及び(Y)からなる群より選択される1種以上の高分子化合物、並びに有機媒体を有する膜。(X)エステル基、アミド基、ウレタン基、イミノ基、エーテル基又はカーボネート基を有する縮重合系高分子(Y)側鎖にエステル基若しくはアミド基を有するメタクリル系又はアクリル系高分子【選択図】なし

Description

本発明は疎水変性セルロース繊維及び有機媒体を有する膜に関する。
従来より、化粧料や食品等の包装容器等の分野において、容器やトレイ等に接触し得る物体(例えば化粧料や食品そのものといった、容器内に充填されたり膜で包装されたりする対象の物)や汚れ等の流動物の付着を防止する表面膜が開発されてきた。最近では、繊維状の高分子が三次元方向に相互に絡み合った網目構造の骨格を形成し、その空隙として連続細孔構造を有する多孔質高分子膜と、前記多孔質高分子膜の孔内部に含浸された滑剤液とを有することを特徴とする滑水・滑油性膜が知られており(特許文献1)、特許文献1では、滑剤液としてフッ素系油又はシリコーン油が例示されている(請求項7)。さらには、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロース繊維を使った材料も注目されており、例えば、特許文献2では、セルロースナノファイバーを用いた高弾性で高い耐熱性を有するゲル状体(例えばゲル膜)が開示されている。
特開2016−011375号公報 特開2013−082796号公報
しかしながら、特許文献1の技術では、表面膜を構成する油等の有機媒体が流動物に移行してしまい、結果的に表面膜の汚れ等の付着防止効果が損なわれる可能性があった。かかる現象は、流動物に液体の有機物が含まれている場合に特に顕著に生じ得る。
そこで、膜を構成する有機媒体の流動物への移行性が小さい膜を検討したところ、特定の疎水変性セルロース繊維及び有機媒体を有する膜が有機媒体の移行抑制に優れることを新たに見出した。さらに本発明者らは検討を進め、かかる優れた膜を繰り返し使用した場合でも、その性能が維持できる性能(即ち、膜の耐久性)をより向上できることを見出した。従って本発明は、有機媒体の移行性が小さく、かつ膜の繰り返し使用による耐久性に優れた膜に関する。更に本発明は、かかる膜を有する、有機媒体の移行性が小さく、かつ耐久性に優れた成形体に関する。更に本発明は、成形体への膜の形成方法に関する。更に本発明はこのような膜の形成に好適な膜用分散体に関する。
本発明は、下記〔1〕〜〔4〕に関する。
〔1〕 セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上の基に修飾基が結合されてなる疎水変性セルロース繊維、下記の(X)及び(Y)からなる群より選択される1種以上の高分子化合物、並びに有機媒体を有する膜。
(X)エステル基、アミド基、ウレタン基、イミノ基、エーテル基又はカーボネート基を有する縮重合系高分子
(Y)側鎖にエステル基若しくはアミド基を有するメタクリル系又はアクリル系高分子
〔2〕 前記〔1〕に記載の膜を有する成形体。
〔3〕 セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上の基に修飾基が結合されてなる疎水変性セルロース繊維、前記の(X)及び(Y)からなる群より選択される1種以上の高分子化合物、並びに有機媒体を含有する分散体を調製する工程1、及び工程1で調製された分散体を成形体に塗布する工程2、を有する、成形体への膜の形成方法。
〔4〕 セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上の基に修飾基が結合されてなる疎水変性セルロース繊維、前記の(X)及び(Y)からなる群より選択される1種以上の高分子化合物、並びに有機媒体を含有する膜用分散体。
本発明の膜は、有機媒体の移行性が小さく、かつ膜の繰り返し使用による耐久性に優れるという効果を奏する。更に本発明の成形体は、かかる膜を有するので、有機媒体の移行性が小さく、かつ耐久性に優れるという効果を奏する。
本発明の膜は、特定の疎水変性セルロース繊維、特定の高分子化合物及び有機媒体を含有する。
本発明の膜が、膜を構成する有機媒体の流動物への移行性が小さく、かつ耐久性に優れるという効果を発揮するというメカニズムは定かではないが、以下のように推定される。有機媒体、特にSP値が10以下の有機媒体は比較的疎水性が高いため、疎水変性セルロース繊維との親和性が強くなると考えられ、その結果、有機媒体は疎水変性セルロース繊維から容易に離れることがないため、流動物に油性成分が含まれている場合でも流動物に移行しにくくなるものと推定される。さらに、特定の高分子化合物を添加することで、膜自体の強度が向上し、または、膜表面の有機媒体との親和性が向上し、その結果、意外にも有機媒体の移行性を高めることなく、膜の耐久性を向上できたものと推定される。
<疎水変性セルロース繊維>
本発明における疎水変性セルロース繊維とは、セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上の基に修飾基が結合されてなるものであり、有機媒体に分散性を示すものであればよい。有機媒体に対して分散性を有するとは、例えば、有機媒体と対象の疎水変性セルロース繊維との混合液の粘度をE型粘度計(25℃、1rpm、1分後、標準コーンロータ、ロータコード:01)を用いて測定した場合、増粘が観測されることをいう。例えば、本発明における疎水変性セルロース繊維としては、有機媒体の代表例としてスクアラン中にセルロース繊維の濃度を0.5質量%になるように調製した液の微細化処理後の分散液粘度が50mPa・s以上になるものが好ましい。なお、微細化処理は、後述の方法により行うことができる。
(セルロース繊維)
原料のセルロース繊維としては、環境面から好ましくは天然セルロース繊維であり、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、セルロース繊維としては、有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくは、カルボキシ基を有するセルロース繊維(以下、酸化セルロース繊維ともいう。)であり、セルロース繊維を酸化することにより得ることができる。
(酸化セルロース繊維)
酸化セルロース繊維は、例えば、触媒として2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)を使用し、更に次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を併用して酸化する方法が適用できる。より詳細には、特開2011−140632号公報に記載の方法を参照することができ、更に、追酸化処理又は還元処理を行うことで、アルデヒドを除去した酸化セルロース繊維として調製することができる。
TEMPOを触媒としてセルロース繊維の酸化を行うことにより、セルロース構成単位のC6位の基(−CHOH)が選択的にカルボキシ基に変換される。従って、本発明における酸化セルロース繊維の好ましい態様として、セルロース構成単位のC6位がカルボキシ基であるセルロース繊維が挙げられる。
(カルボキシ基含有量)
酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量としては、修飾基導入の観点から、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.4mmol/g以上、更に好ましくは0.6mmol/g以上、更に好ましくは0.8mmol/g以上である。また、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g以下、より好ましくは2mmol/g以下、更に好ましくは1.8mmol/g以下である。なお、「カルボキシ基含有量」とは、疎水変性セルロース繊維又は酸化セルロース繊維を構成するセルロース中のカルボキシ基の総量を意味し、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
また、酸化セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比の好適な範囲は、後述の疎水変性セルロース繊維と同様であり、また、後述の疎水変性セルロース繊維と同様の測定方法により求めることができる。
(修飾基)
本明細書において、疎水変性セルロース繊維における修飾基の結合とは、セルロース繊維表面のカルボキシ基及び水酸基からなる群から選ばれる1種以上の基に、好ましくはカルボキシ基に、修飾基がイオン結合及び/又は共有結合している状態のことを意味する。カルボキシ基への結合様式としては、イオン結合、共有結合が挙げられる。ここでの共有結合としては、例えば、アミド結合、エステル結合、ウレタン結合が挙げられ、なかでも、有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくはアミド結合である。また、水酸基への結合様式としては、共有結合が挙げられ、具体的には、エステル結合;カルボキシメチル化、カルボキシエチル化などのエーテル結合;ウレタン結合が挙げられる。有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、本発明における疎水変性セルロース繊維としては、セルロース繊維表面に既に存在するカルボキシ基に、修飾基を導入するための化合物をイオン結合及び/又はアミド結合させることにより得られるものが好ましい。
(修飾基を導入するための化合物)
修飾基を導入するための化合物としては、後述の修飾基を導入可能なものであればよく、結合様式によって、例えば、以下のものを用いることができる。イオン結合の場合は、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4級アンモニウム化合物、ホスホニウム化合物のいずれでもよい。これらの中では、分散性の観点から、好ましくは、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4級アンモニウム化合物である。また、前記のアンモニウム化合物やホスホニウム化合物の陰イオン成分としては、反応性の観点から、好ましくは、塩素イオンや臭素イオンなどのハロゲンイオン、硫酸水素イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロフォスフェイトイオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヒドロキシイオンが挙げられ、より好ましくは、ヒドロキシイオンが挙げられる。共有結合の場合は置換される官能基によって以下のものを用いることができる。
カルボキシ基への修飾においては、アミド結合の場合は、第1級アミン、第2級アミンのいずれでもよい。エステル結合の場合は、アルコールがよく、例えば、ブタノール、オクタノール、ドデカノールが例示される。ウレタン結合の場合は、イソシアネート化合物がよい。
水酸基への修飾においては、エステル結合の場合は、酸無水物がよく、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸が例示される。エーテル結合の場合は、エポキシ化合物(例えば、酸化アルキレンやアルキルグリシジルエーテル)、アルキルハライド及びその誘導体(例えば、メチルクロライド、エチルクロライドやモノクロロ酢酸)が例示される。
本発明における修飾基としては、炭化水素基等を用いることができる。これらは単独で又は2種以上が組み合わさって、セルロース繊維に結合(導入)されてもよい。
(炭化水素基)
炭化水素基としては、例えば、鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、及び芳香族炭化水素基が挙げられ、副反応を抑制する観点及び安定性の観点から、鎖式飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、及び芳香族炭化水素基であることが好ましい。
鎖式飽和炭化水素基は、直鎖状又は分岐状であってもよい。鎖式飽和炭化水素基の炭素数は、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上、更に好ましくは6以上、更に好ましくは8以上である。また、同様の観点から、好ましくは30以下、より好ましくは24以下、更に好ましくは18以下、更に好ましくは16以下である。なお、以降において炭化水素基の炭素数とは、修飾基全体としての総炭素数のことを意味する。
鎖式飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基等が挙げられ、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくはプロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基である。これらは、単独で又は2種以上が任意の割合でそれぞれ導入されていてもよい。
鎖式不飽和炭化水素基は、直鎖状又は分岐状であってもよい。鎖式不飽和炭化水素基の炭素数は、取り扱い性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上である。また、入手容易性の観点から、好ましくは30以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは12以下、更に好ましくは8以下である。
鎖式不飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブテン基、イソブテン基、イソプレン基、ペンテン基、ヘキセン基、ヘプテン基、オクテン基、ノネン基、デセン基、ドデセン基、トリデセン基、テトラデセン基、オクタデセン基が挙げられ、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくはエチレン基、プロピレン基、ブテン基、イソブテン基、イソプレン基、ペンテン基、ヘキセン基、ヘプテン基、オクテン基、ノネン基、デセン基、ドデセン基である。これらは、単独で又は2種以上が任意の割合でそれぞれ導入されていてもよい。
環式飽和炭化水素基の炭素数は、取り扱い性の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上である。また、入手容易性の観点から、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下、更に好ましくは8以下である。
環式飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、シクロプロパン基、シクロブチル基、シクロペンタン基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロオクタデシル基等が挙げられ、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくはシクロプロパン基、シクロブチル基、シクロペンタン基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロドデシル基である。これらは、単独で又は2種以上が任意の割合でそれぞれ導入されていてもよい。
芳香族炭化水素基としては、例えば、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれる。アリール基及びアラルキル基としては、芳香族環そのものが置換されたものでも非置換のものであってもよい。
前記アリール基の総炭素数は6以上であればよく、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくは24以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは14以下、更に好ましくは12以下、更に好ましくは10以下である。
前記アラルキル基の総炭素数は7以上であり、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくは8以上であり、また、同様の観点から、好ましくは24以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは14以下、更に好ましくは13以下、更に好ましくは11以下である。
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基、及びこれらの基が後述する置換基で置換された基が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上が任意の割合でそれぞれ導入されていてもよい。なかでも、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基が好ましい。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル基、フェニルオクチル基、及びこれらの基の芳香族基が後述する置換基で置換された基などが挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上が任意の割合でそれぞれ導入されていてもよい。なかでも、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル基が好ましい。
なお、前記修飾基はさらに置換基を有するものであってもよく、例えば、修飾基が炭化水素基の場合、置換基を含めた修飾基全体の総炭素数が前記範囲内となるものが好ましい。置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基等のアルコキシ基の炭素数が1〜6のアルコキシ−カルボニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;アセチル基、プロピオニル基等の炭素数1〜6のアシル基;アラルキル基;アラルキルオキシ基;炭素数1〜6のアルキルアミノ基;アルキル基の炭素数が1〜6のジアルキルアミノ基が挙げられる。なお、前記した炭化水素基そのものが置換基として結合していてもよい。
前記炭化水素基を導入するための第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4級アンモニウム化合物、ホスホニウム化合物、酸無水物、イソシアネート化合物は、市販品を用いるか、公知の方法に従って調製することができる。
具体例としては、第1〜3級アミンとしては、例えば、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン、ステアリルアミン、ジステアリルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アニリン、及びベンジルアミン、並びにアミノ変性シリコーン化合物等が挙げられる。第4級アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラブチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。これらの中では、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくは、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン、ジステアリルアミン、アミノ変性シリコーン化合物、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、アニリン、より好ましくはプロピルアミン、ドデシルアミン、アミノ変性シリコーン化合物、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、アニリンであり、更に好ましくはアミノ変性シリコーン化合物である。
これらの化合物の中で、とりわけアミノ変性シリコーン化合物を用いて得られた疎水変性セルロース繊維が、膜の原料として有用である。従って、疎水変性セルロース繊維の一態様として、セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上の基に、アミノ変性シリコーン化合物によって導入される修飾基が結合されてなる疎水変性セルロース繊維が提供される。かかる疎水変性セルロース繊維を膜とした場合、優れた滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制性という効果を発揮することができる。
(アミノ変性シリコーン化合物)
アミノ変性シリコーン化合物としては、25℃での動粘度が10〜20,000mm/s、アミノ当量400〜8,000g/molのアミノ変性シリコーン化合物が好ましいものとして挙げられる。
25℃での動粘度はオストワルト型粘度計で求めることができ、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、より好ましくは200〜10,000mm/s、更に好ましくは500〜5,000mm/sである。
また、アミノ当量は、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくは400〜8,000g/mol、より好ましくは600〜5,000g/mol、更に好ましくは800〜3,000g/molである。なお、アミノ当量は、窒素原子1個当りの分子量であり、アミノ当量(g/mol)=質量平均分子量/1分子あたりの窒素原子数で求められる。ここで質量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーでポリスチレンを標準物質として求めた値であり、窒素原子数は元素分析法により求めることができる。
アミノ変性シリコーン化合物の具体例として、一般式(a1)で表される化合物が挙げられる。
Figure 2019189841
〔式中、R1aは炭素数1〜3のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜3のアルコキシ基又は水素原子から選ばれる基を示し、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくはメチル基又はヒドロキシ基である。R2aは炭素数1〜3のアルキル基、ヒドロキシ基又は水素原子から選ばれる基であり、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくはメチル基又はヒドロキシ基である。Bは少なくとも一つのアミノ基を有する側鎖を示し、R3aは炭素数1〜3のアルキル基又は水素原子を示す。x及びyはそれぞれ平均重合度を示し、該化合物の25℃の動粘度及びアミノ当量が前記範囲になるように選ばれる。尚、R1a、R2a、R3aはそれぞれ同一でも異なっていても良く、また複数個のR2aは同一でも異なっていても良い。〕
一般式(a1)の化合物において、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、xは好ましくは10〜10,000の数、より好ましくは20〜5,000の数、更に好ましくは30〜3,000の数である。yは好ましくは1〜1,000の数、より好ましくは1〜500の数、更に好ましくは1〜200の数である。一般式(a1)の化合物の質量平均分子量は、好ましくは2,000〜1,000,000、より好ましくは5,000〜100,000、更に好ましくは8,000〜50,000である。
一般式(a1)において、アミノ基を有する側鎖Bとしては、下記のものを挙げることができる。
−C−NH
−C−NH−C−NH
−C−NH−[C−NH]−C−NH
−C−NH(CH
−C−NH−C−NH(CH
−C−NH−[C−NH]−C−NH(CH
−C−N(CH
−C−N(CH)−C−N(CH
−C−N(CH)−[C−N(CH)]−C−N(CH
−C−NH−cyclo-C11
(ここで、e、f、gは、それぞれ1〜30の数である。)
本発明で用いるアミノ変性シリコーン化合物は、例えば、一般式(a2)で表されるオルガノアルコキシシランを過剰の水で加水分解して得られた加水分解物と、ジメチルシクロポリシロキサンとを水酸化ナトリウムのような塩基性触媒を用いて、80〜110℃に加熱して平衡反応させ、反応混合物が所望の粘度に達した時点で酸を用いて塩基性触媒を中和することにより製造することができる(特開昭53−98499号参照)。
N(CHNH(CHSi(CH)(OCH (a2)
また、アミノ変性シリコーン化合物としては、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくは側鎖Bの1個の中にアミノ基が1個有するモノアミノ変性シリコーン及び側鎖Bの1個の中にアミノ基が2個有するジアミノ変性シリコーンからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはアミノ基を有する側鎖Bが−C−NHで表される化合物〔以下、(a1−1)成分という〕及びアミノ基を有する側鎖Bが−C−NH−C−NHで表される化合物〔以下、(a1−2)成分という〕からなる群から選ばれる1種以上である。
本発明におけるアミノ変性シリコーン化合物としては、性能の観点から、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のTSF4703(動粘度:1000、アミノ当量:1600)、TSF4708(動粘度:1000、アミノ当量:2800)、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製のSS−3551(動粘度:1000、アミノ当量:1600)、SF8457C(動粘度:1200、アミノ当量:1800)、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700)、BY16−209(動粘度:500、アミノ当量:1800)、BY16−892(動粘度:1500、アミノ当量:2000)、BY16−898(動粘度:2000、アミノ当量:2900)、FZ−3760(動粘度:220、アミノ当量:1600)、信越化学工業(株)製のKF8002(動粘度:1100、アミノ当量:1700)、KF867(動粘度:1300、アミノ当量:1700)、KF−864(動粘度:1700、アミノ当量:3800)、BY16−213(動粘度:55、アミノ当量:2700)、BY16−853U(動粘度:14、アミノ当量:450)が好ましい。( )内において、動粘度は25℃での測定値(単位:mm/s)を示し、アミノ当量の単位はg/molである。
(a1−1)成分としては、BY16−213及びBY16−853Uがより好ましい。(a1−2)成分としては、SF8417、BY16−209、FZ−3760及びSS−3551がより好ましい。
疎水変性セルロース繊維における修飾基、好ましくは、炭化水素基及びシリコーン基からなる群より選択される1種以上の基の平均結合量は、疎水変性セルロース繊維あたり、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくは0.01mmol/g以上、より好ましくは0.05mmol/g以上、更に好ましくは0.1mmol/g以上、更に好ましくは0.3mmol/g以上、更に好ましくは0.5mmol/g以上である。また、反応性の観点から、好ましくは3mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、更に好ましくは1.8mmol/g以下、更に好ましくは1.5mmol/g以下である。ここで、修飾基として鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、及び環式飽和炭化水素基から選ばれる炭化水素基と、芳香族炭化水素基とが同時に導入されている場合であっても、個々の平均結合量は前記範囲内であることが好ましい。
また、疎水変性セルロース繊維における修飾基の導入率は、いずれの修飾基についても、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは15%以上であり、反応性の観点から、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下である。ここで、修飾基として鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、及び環式飽和炭化水素基から選ばれる炭化水素基と、芳香族炭化水素基とが同時に導入されている場合には、導入率の合計が上限の100%を超えない範囲において、前記範囲内となることが好ましい。
なお、本明細書において、修飾基の平均結合量は、修飾基を導入するための化合物の添加量、修飾基を導入するための化合物の種類、反応温度、反応時間、溶媒などによって調整することができる。また、疎水変性セルロース繊維における修飾基の平均結合量(mmol/g)及び導入率(%)とは、疎水変性セルロース繊維表面のカルボキシ基又は水酸基に修飾基が導入された量及び割合のことであり、疎水変性セルロース繊維のカルボキシ基含有量は公知の方法(例えば、滴定、IR測定等)に従って、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定することで算出することができ、疎水変性セルロース繊維の水酸基含有量は公知の方法(例えば、滴定、IR測定等)に従って測定することで算出することができる。
(疎水変性セルロース繊維の製造方法)
本発明で用いられるセルロース繊維は、前記したセルロース繊維に修飾基を導入できるのであれば、特に限定なく公知の方法に従って製造することができる。なお、ここでいうセルロース繊維は、公知の方法、例えば、特開2011−140632号公報に記載の酸化反応工程の説明を参照して得られた酸化セルロース繊維として、あるいは、更に、追酸化処理又は還元処理を行うことで、アルデヒドを除去した酸化セルロース繊維として調製することができる。
具体的な製造方法としては、修飾基をイオン結合によってセルロース繊維に結合させる態様(態様A)、修飾基を共有結合によってセルロース繊維に結合させる態様(態様B)が挙げられる。なお、共有結合として、アミド結合の場合を以下に示す。
〔態様A〕
工程(1):天然セルロース繊維をN−オキシル化合物存在下で酸化して、酸化セルロース繊維を得る工程
工程(2A):工程(1)で得られた酸化セルロース繊維と、修飾基を導入するための化合物とを混合する工程
〔態様B〕
工程(1):天然セルロース繊維をN−オキシル化合物存在下で酸化して、酸化セルロース繊維を得る工程
工程(2B):工程(1)で得られた酸化セルロース繊維と、修飾基を導入するための化合物とをアミド化反応させる工程
また、本発明においては、工程(1)の後に微細化工程を行い、微細セルロース繊維とした後に工程(2A又は2B)を行う方法(第1の製造形態)、及び、工程(1)から順に工程(2A又は2B)を行い、その後に微細化工程を行って微細セルロース繊維を得る方法(第2の製造形態)を行ってもよい。なお、微細化処理後のセルロース繊維を、特に、「微細セルロース繊維」という場合がある。
〔工程(1)〕
本工程においては、天然セルロース繊維に対して、例えば、特開2015−143336号に記載の酸化処理工程(例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)を用いた酸化処理)及び精製工程(必要により)を行なうことで、カルボキシ基含有量が好ましくは0.1mmol/g以上の酸化セルロース繊維が得られる。
〔工程(2A)〕
本工程は、酸化セルロース繊維と、修飾基を導入するための化合物とを溶媒中で混合することにより実施され、例えば、特開2015−143336号の工程(B)に記載の方法を参照して実施することができる。なお、特開2015−143336号の工程(B)における「EO/PO共重合部を有するアミン」は、本発明の工程(2A)における「修飾基を導入するための化合物」に該当する。
〔工程(2B)〕
本工程においては、酸化セルロース繊維と、修飾基を導入するための化合物とを縮合剤の存在下で混合し、酸化セルロース繊維に含有されるカルボキシ基と、修飾基を導入するための化合物のアミノ基とを縮合反応させてアミド結合を形成する。例えば、特開2015−143337号の工程(B)に記載の方法を参照して実施することができる。なお、特開2015−143337号の工程(B)における「EO/PO共重合部又はPO重合部を有するアミン」は、本発明の工程(2B)における「修飾基を導入するための化合物」に該当する。
〔微細化工程〕
本工程は、前工程で得られた酸化セルロース繊維(又は修飾基が導入された酸化セルロース繊維)を微細化する工程であり、微細な酸化セルロース繊維が得られる。微細化工程では、精製工程を経た酸化セルロース繊維を溶媒中に分散させ、微細化処理を行うことが好ましい。具体的には、特開2013−151661号の微細化工程の説明を参照して実施することができる。
また、態様A及び態様Bを組み合せて得られる疎水変性セルロース繊維であってもよい。この場合、工程(2A)と工程(2B)のいずれを先に行ってもよい。
かくして、セルロース繊維に修飾基がイオン結合及び/又は共有結合を介して連結した、疎水変性セルロース繊維を得ることができる。
得られた疎水変性セルロース繊維の平均繊維径は、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは0.5nm以上、更に好ましくは1nm以上、更に好ましくは2nm以上、より更に好ましくは3nm以上である。また、同様の観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下、更に好ましくは10nm以下、更に好ましくは6nm以下、より更に好ましくは5nm以下である。
得られた疎水変性セルロース繊維の長さ(平均繊維長)としては、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくは150nm以上、より好ましくは200nm以上である。また、同様の観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは750nm以下、更に好ましくは500nm以下、更に好ましくは400nm以下である。
なお、本発明において、疎水変性セルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、前記の範囲に限定されるものではなく、例えばマイクロメーターのオーダーのものであっても使用することができる。
また、得られた疎水変性セルロース繊維の平均アスペクト比(繊維長/繊維径)は、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上、更に好ましくは40以上、更に好ましくは50以上であり、同様の観点から、好ましくは150以下、より好ましくは140以下、更に好ましくは130以下、更に好ましくは100以下、更に好ましくは95以下、更に好ましくは90以下である。また、平均アスペクト比が前記範囲内にある場合、アスペクト比の標準偏差としては、滑液表面性及び有機媒体の流動物への移行抑制の観点から、好ましくは60以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは45以下であり、下限は特に設定されないが、経済性の観点から、好ましくは4以上である。前記低アスペクト比の疎水変性セルロース繊維は分散体中での分散性に優れるため、均一性の高い膜を得ることができる。
<高分子化合物>
本発明の膜を構成する高分子化合物は、下記の(X)及び(Y)からなる群より選択される1種以上の高分子化合物であり、有機媒体の流動物への移行抑制及び膜の耐久性の観点から、(X)の高分子化合物が好ましい。
(X)エステル基、アミド基、ウレタン基、イミノ基、エーテル基又はカーボネート基を有する縮重合系高分子
(Y)側鎖にエステル基若しくはアミド基を有するメタクリル系又はアクリル系高分子
前記高分子化合物は、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、分子量10万以上の高分子成分を含有するものが好ましい。高分子化合物中のこのような高分子成分の成分量としては、同様の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、同様の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。高分子化合物の質量平均分子量や高分子化合物中の分子量10万以上の高分子成分の成分量は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
前記高分子化合物の質量平均分子量としては、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、好ましくは1000以上であり、同様の観点から、好ましくは50万以下である。
エステル基を有する縮重合系高分子(X)としては、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、及びアルケニルコハク酸等のジカルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のジオールとの縮合物等が挙げられる。
アミド基を有する縮重合系高分子(X)としては、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、及びアルケニルコハク酸等のジカルボン酸と、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族ジアミン等のジアミンとの縮合物等が挙げられる。
ウレタン基を有する縮重合系高分子(X)としては、トリレジンジイソシアネート、ジフェニルイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートと、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のジオールとの縮合物等が挙げられる。
イミノ基を有する縮重合系高分子(X)としては、エチレンイミン、プロピレンイミン、ブチレンイミン、ジメチルエチレンイミン、ペンチレンイミン、へキシレンイミン等のアルキルイミンの縮合物やメラミン・ホルムアミド縮合物等が挙げられる。
エーテル基を有する縮重合系高分子(X)としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシドの縮合物、エピクロロヒドリンとビスフェノールAの縮合物、ホルムアルデヒドの縮合物等が挙げられる。
カーボネート基を有する縮重合系高分子(X)としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のポリオールとホスゲンとの縮合物等が挙げられる。
縮重合系高分子(X)は、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、3官能性以上のモノマーを構成単位としてさらに含むものが好ましい。
3官能性以上のモノマーとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、ペンタペンチレンヘキサミン等の3官能性以上のアミン、トリメチロール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン等の3官能性以上のアルコール、トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)等の3官能性以上のカルボン酸が挙げられ、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、好ましくは、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、ペンタペンチレンヘキサミン等の3官能性以上のアミンである。
縮重合系高分子(X)は、3官能性以上のモノマーを構成単位としてさらに含むことにより架橋点が形成され、架橋点が形成されることによって、有機媒体の移行性及び膜の耐久性が向上すると考えられる。
縮重合系高分子(X)における、3官能性以上のモノマーの含有率は、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、好ましくは0.2モル%以上であり、より好ましくは0.5モル%以上であり、更に好ましくは2.5モル%以上であり、有機媒体の移行性の観点から、好ましくは25モル%以下であり、より好ましくは20モル%以下であり、更に好ましくは15モル%以下である。
縮重合系高分子(X)は、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、好ましくは下記の(a)及び(b)からなる群より選択される1種以上の高分子化合物であり、有機媒体の流動物への移行抑制及び膜の耐久性の観点から、(a)のポリアミド化合物がより好ましい。
(a)ポリアミド化合物
(b)ポリアルキレンイミン化合物
(a)ポリアミド化合物
ポリアミド化合物としては、セルロース構造を有さず、かつ、アミド結合(−CONH−)を有する高分子化合物であれば、いかなる化学構造を有するポリアミド化合物を使用することもできる。ポリアミド化合物は、例えば、主として脂肪族骨格からなるナイロンであってもよいし、主として芳香族骨格をもつアラミドであってもよい。更にはこの両者以外の骨格構造を有するものでもよい。一方で好適に用いられる構造体としては、ジアミンと、モノカルボン酸、ジカルボン酸及び重合脂肪酸からなる群より選択される1種以上のカルボン酸とからなるポリアミドが挙げられる。
ポリアミド化合物の質量平均分子量としては、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、好ましくは5000以上、より好ましくは1万以上、更に好ましくは2万以上、更に好ましくは3万以上であり、同様の観点から、好ましくは50万以下、より好ましくは25万以下、更に好ましくは10万以下、更に好ましくは5万以下である。
ポリアミド化合物は、通常、環状ラクタムの開環重合反応や、アミノ酸やその誘導体の自己縮合反応、カルボン酸とアミン化合物との縮重合反応などにより得られる。カルボン酸とアミン化合物との縮重合反応によるポリアミド化合物は、例えば、カルボン酸とアミン化合物とを縮合(縮重合)反応させて得ることができる。
縮重合反応の一方の原料であるカルボン酸においては、モノカルボン酸、ジカルボン酸及び重合脂肪酸を好適に用いることができる。
モノカルボン酸としては、ポリアミド化合物が生成する反応における重合停止剤の役割を果たすができるもの、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギジン酸、及びベヘニン酸などが挙げられる。また、不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エルシン酸、天然油脂より得られる混合脂肪酸(トール油脂肪酸、米ヌカ脂肪酸、大豆油脂肪酸、牛脂脂肪酸等)などが挙げられ、これらは単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
本発明に用いられるモノカルボン酸は、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、好ましくは炭素数8以上24以下のものであり、より好ましくは炭素数10以上22以下のものであり、更に好ましくは炭素数12以上18以下のものである。
ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、及びアルケニルコハク酸が挙げられる。アルケニルコハク酸としては、好ましくは、アルケニル基が炭素数4〜20のものが好ましい。
重合脂肪酸とは、不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸を重合して得られる重合物、または不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸のエステル化物を重合して得られる重合物である。重合脂肪酸としては、植物油脂由来のダイマー酸の脱水縮合反応により得られる構造物が挙げられる。
当該不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸としては、通常1〜3の不飽和結合を有する総炭素数が8〜24の不飽和脂肪酸が用いられる。これらの不飽和脂肪酸として、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、天然の乾性油脂肪酸、天然の半乾性油脂肪酸などが挙げられる。また、不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸のエステルとしては、前記不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸と脂肪族アルコール、好ましくは、炭素数1〜3の脂肪族アルコールとのエステルが挙げられる。前記不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸を重合して得られる重合物、または不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸のエステル化物を重合して得られる重合物である重合脂肪酸は、二量体を主成分とするものが好ましい。例えば、炭素数18の不飽和脂肪酸の重合物として、その組成が、炭素数18の一塩基酸(単量体)0〜10質量%、炭素数36の二塩基酸(二量体)60〜99質量%、炭素数54の三塩基酸以上の酸(三量体以上)30質量%以下のものが市販品として入手できる。
更に、カルボン酸成分としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸及び重合脂肪酸のほか、膜の物性を阻害しない範囲で、その他のカルボン酸を加えてもよい。
これらカルボン酸においては、モノカルボン酸と重合脂肪酸の組み合わせが特に好適に用いられる。なお、カルボン酸は、炭素数1〜3のアルコールとのエステルであってもよい。
また、縮重合反応の他方の原料であるアミン化合物としては、ポリアミン、アミノカルボン酸、アミノアルコールなどが挙げられる。ポリアミンとしては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、ペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン、(オルト、パラ又はメタ)キシレンジアミン、ジフェニルメタンジアミンなどの芳香族ジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミンが挙げられる。アミノカルボン酸としては、メチルグリシン、トリメチルグリシン、6−アミノカプロン酸、δ−アミノカプリル酸、ε−カプロラクタムなどが挙げられる。アミノアルコールとしては、エタノールアミン、プロパノールアミンなどが挙げられる。
また、アミン化合物として、ポリアミド化合物が生成する反応における重合停止剤の役割として、モノアミンを使用することができる。
これら原料として使用される各化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
また、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、アミン化合物として、好ましくはポリアミンを含むアミン成分、より好ましくは、前記アミン化合物として、ジアミンと、トリアミン、テトラミン、ペンタミン及びヘキサテトラアミンからなる群から選ばれる1種以上とを併用するアミン成分(「アミン成分1」とする。)や、2種以上のジアミンを含むアミン成分(「アミン成分2」とする。)を用いることができる。滑落速度の観点から、アミン化合物としてはアミン成分1の方がより好ましい。アミン成分1における各成分の併用時の質量比としては、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、〔ジアミン:トリアミン、テトラミン、ペンタミン及びヘキサミンからなる群から選ばれる1種以上〕が、好ましくは99.5:0.5〜50:50であり、より好ましくは99:1〜60:40であり、更に好ましくは95:5〜70:30である。アミン成分2における各成分の併用時の質量比としては、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、〔一方のジアミン:他方のジアミン〕が、好ましくは99.5:0.5〜50:50であり、より好ましくは99:1〜60:40であり、更に好ましくは95:5〜64:36である。一方のジアミンとしては、例えばエチレンジアミン等が挙げられ、他方のジアミンとしては、例えばメタキシレンジアミン等が挙げられる。
(b)ポリアルキレンイミン化合物
ポリアルキレンイミン化合物とは、主鎖がアルキレン基とアミノ基からなる繰返し単位であり、下記式(A)及び/又は式(B)の構造の繰返し単位を有する高分子化合物である。
Figure 2019189841
前記式(A)及び式(B)中、Qはアルキレン基を示す。ここで、Qで示されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。アルキレン基は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。これらのうち、アルキレン基がエチレン基であることが好ましい。すなわち、ポリアルキレンイミンはポリエチレンイミンであることが好ましい。
ポリアルキレンイミン化合物の質量平均分子量としては、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、好ましくは1000以上、より好ましくは2000以上、更に好ましくは5000以上、更に好ましくは1万以上であり、同様の観点から、好ましくは20万以下、より好ましくは10万以下、更に好ましくは5万以下、更に好ましくは2万以下である。
高分子(Y)、即ち、側鎖にエステル基若しくはアミド基を有するメタクリル系又はアクリル系高分子としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等のポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリN−メチル(メタ)アクリルアミド、ポリN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリN−フェニル(メタ)アクリルアミド等のポリ(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
<有機媒体>
本発明で用いる有機媒体は、親水性でも疎水性でも良いが、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、疎水性のもの、例えばSP値が10以下のものが好ましい。
本明細書におけるSP値とは、Fedors法で計算される溶解度パラメーター(単位:(cal/cm1/2)を示し、例えば、参考文献「SP値基礎・応用と計算方法」(情報機構社、2005年)、Polymer handbook Third edition(A Wiley-Interscience publication, 1989)等に記載されている。
本発明で用いる有機媒体の質量平均分子量には特に制限はないが、好ましくは100以上であり、また、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは20,000以下である。
本発明で使用される疎水性の有機媒体としては、例えば、オレイン酸(SP値:9.2)、D−リモネン(SP値:9.4)、PEG400(SP値:9.4)、コハク酸ジメチル(SP値:9.9)、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール(SP値:8.9)、ラウリン酸ヘキシル(SP値:8.6)、ラウリン酸イソプロピル(SP値8.5)、ミリスチン酸イソプロピル(SP値8.5)、パルミチン酸イソプロピル(SP値8.5)、オレイン酸イソプロピル(SP値:8.6)、ヘキサデカン(SP値:8.0)、オリーブ油(SP値:9.3)、ホホバ油(SP値:8.6)、スクアラン(SP値:7.9)、流動パラフィン(SP値:7.9)、フロリナートFC−40(3M社製、SP値:6.1)、フロリナートFC−43(3M社製、SP値:6.1)フロリナートFC−72(3M社製、SP値:6.1)、フロリナートFC−770(3M社製、SP値:6.1)、KF96−1cs(信越化学社製、SP値:7.3)KF−96−10cs(信越化学社製、SP値:7.3)、KF−96−50cs(信越化学社製、SP値:7.3)、KF−96−100cs(信越化学社製、SP値:7.3)、KF−96−1000cs(信越化学社製、SP値:7.3)等が挙げられる。これらの中では、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、有機媒体のSP値は、より好ましくは9.5以下、更に好ましくは9以下であり、例えば、スクアラン等が挙げられる。
[膜]
本発明の膜は、特定の疎水変性セルロース繊維、特定の高分子化合物及び有機媒体を含有する。ここで膜とは、室温で流動せずに形状を保持する膜をいう。
膜の表面硬度としては、例えば、微小硬度計で測定した場合、下記式により算出されるマルテンス硬さ(HM)が0.1(N/mm)以上の膜が好ましい。具体的には、後述の実施例に記載の方法により膜のマルテンス硬さが測定される。
HM=F/(26.43×hmax
F:試験力(N)
hmax:押し込み深さの最大値(mm)
本発明の膜は、文献(超撥水・超撥油・滑液性表面の技術/発行者:元木浩/発行所:サイエンス&テクノロジー株式会社/2016年1月28日発行)に示される滑液表面性を示すことが好ましい。
滑液表面性は、例えば、論文(Nature 2011年、vol477,p443−447)記載の方法により測定することができる。具体的には、滑液表面性は、室温20℃にて、膜表面に対して2μLの液滴(20℃)を滴下し、10秒静置した後に1°/sの速さで表面を傾け、液滴が流れ始める角度(以下、滑落角ともいう。)を測定することにより評価できる。例えば、前記測定方法で液滴としてドデカンを用いた場合、膜における滑落角は、滑液表面性を発現する観点から、好ましくは80°以下、より好ましくは50°以下、更に好ましくは40°以下である。
本発明の膜の算術平均粗さは特に制限はなく、滑液表面性の観点から、膜の厚みとしては、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上であり、経済性の観点から、好ましくは2000μm以下、より好ましくは1200μm以下、更に好ましくは500μm以下、更に好ましくは100μm以下である。
本発明の膜は、例えば、成形体の固体表面を滑液表面に改質するための膜である。滑液表面に改質することにより、固体表面と比べて、流動物の成形体への付着を抑制することができる。
本発明の膜は膜上に接触する流動物の付着抑制効果が高いことが一つの特徴である。具体的には、滑落速度は、好ましくは1.5cm/分以上、より好ましくは2.0cm/分以上、更に好ましくは2.5cm/分以上である。さらに、流動物の付着抑制効果の耐久性の観点から、繰り返し使用した場合における5回目の測定時の滑落速度が、好ましくは1.5cm/分以上、より好ましくは2.0cm/分以上、更に好ましくは2.5cm/分以上である。なお、滑落速度は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
本発明の膜は、膜の構成成分の有機媒体の流動物への移行性が小さいことが一つの特徴である。移行性が小さいことにより、膜をより長期間維持することができ、その結果付着抑制効果もより長期間発揮される。具体的には、有機媒体が流動物に移行する率(有機媒体移行率)は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは7.5%以下、更に好ましくは5.0%以下、更に好ましくは0%である。なお、有機媒体移行率は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
本発明の膜は、膜への菌の付着が少ないことが一つの特徴である。本発明の膜は、更に、菌の付着抑制効果を有する膜であることが好ましく、本発明の膜は菌付着抑制膜として利用することができる。
本発明の膜が菌付着抑制効果を発揮するというメカニズムは定かではないが、本発明の膜により、下記のコンディショニングフィルム形成の原因となるイオンや有機物、或いは細菌そのものの付着が抑制されたため、殺菌剤や静菌剤を用いずともかかる効果を発現したと考えられる。なお、本明細書において、菌とは、細菌をはじめ、真菌、藻類、原生動物など多種多様な微生物、及びかかる微生物から構成される粘液状物質であるバイオフィルムを含む。文献(バイオフィルムの基礎と制御/発行者:吉田隆/発行所:株式会社エヌ・ティー・エス/2008年2月4日発行)によると、バイオフィルムの形成過程は、(1)固体表面へのイオン、有機物付着によるコンディショニングフィルムの形成、(2)コンディショニングフィルムへの細菌細胞の付着、(3)付着した細胞の増殖とそれに伴う細胞外ポリマー(EPS)の生産、(4)他の細菌、微生物も含めた共同体としてのバイオフィルム成長、というものであり、本発明の膜は、特に過程(1)に有効に作用するものと推定される。
本発明の膜は、膜への金属の付着が少ないことが一つの特徴である。本発明の膜は、更に、金属の付着抑制効果を有する膜であることが好ましく、本発明の膜は金属付着抑制膜として利用することができる。
本発明の膜が金属付着抑制効果を発揮するというメカニズムは定かではないが、種々の金属イオンの付着が抑制されたため、かかる効果を発現したと考えられる。
本発明の膜は、雪や氷等の固体の付着抑制効果が高いことが一つの特徴である。本発明の膜は、更に、防氷防雪効果を有する膜であることが好ましく、本発明の膜は防氷防雪膜として利用することができる。
本発明の膜が防氷防雪効果を発揮するというメカニズムは定かではないが、本発明の膜と氷の付着力が低いため、かかる効果を発現したと考えられる。
本発明の膜の用途としては、例えば、化粧料や食品等の包装容器、輸送用パイプの内装材、船底、電線等の被覆材が挙げられる。即ち、本発明の膜は、製造設備、器具、建造物、構造体、不織布といった種々の物品に適用できる、広範囲の用途を有する。
本発明の膜における前記疎水変性セルロース繊維の量としては、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、有機媒体100質量部に対して好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは7質量部以上、更に好ましくは12質量部以上であり、同様の観点から、有機媒体100質量部に対して好ましくは70質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、更に好ましくは45質量部以下である。
本発明の膜における前記高分子化合物の量としては、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、有機媒体100質量部に対して好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、同様の観点から、有機媒体100質量部に対して好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、更に好ましくは35質量部以下である。高分子化合物が2種以上の場合、高分子化合物の量は各高分子化合物の合計量である。
本発明の膜中の疎水変性セルロース繊維の量としては、特に限定されないが、膜の滑液表面性及び耐久性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは6質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、同様の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
本発明の膜中の前記高分子化合物の量としては、特に限定されないが、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、好ましくは4質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは12質量%以上、更に好ましくは16質量%以上であり、同様の観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは27質量%以下、更に好ましくは24質量%以下、更に好ましくは22質量%以下である。高分子化合物が2種以上の場合、高分子化合物の量は各高分子化合物の合計量である。
本発明の膜中の前記有機媒体の含有量としては、特に限定されないが、有機媒体の移行性及び膜の耐久性の観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、更に好ましくは55質量%以上である。また、同様の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。有機媒体が2種以上の場合、有機媒体の量は各有機媒体の合計量である。
<任意成分>
本発明の膜は、前述の成分に加えて、本発明の効果を損なわない任意成分、例えば、公知の抗菌剤、静菌剤、防かび剤、生物付着防止剤及び/又は界面活性剤等を含んでいてもよい。膜におけるこれらの任意成分の含有量は、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜選択することができる。例えば、膜中の好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。任意成分が2種以上の場合、任意成分の量は各任意成分の合計量である。
<流動物>
本発明における流動物とは、後述に定義される「成形体」に接触し得る流動性を示す物体、例えば化粧品においては容器内に保持される化粧料そのもの、食品においてはトレイ上の食品そのもの又は樹脂フィルムでラッピングされる食品そのもの、輸送用パイプにおいては、パイプ内を輸送される液状物、粉体又はガス、船底においては船底に接触し得る水や海水、医療機器や不織布においては血液、及び電線においては電線に接触し得る雨水や雪等、さらには流動性を示す汚れである。成形体表面に流動物が付着したままの状態が続くと、商品の外観が見劣りするだけでなく、パイプ等の詰まり、船の燃費の悪化、電線の切断といった悪影響が生じ得る。本発明の効果が発現し易い観点から、流動物の粘度は、例えば室温程度で液体のものの場合、好ましくは0.1mPa・s以上、より好ましくは0.5mPa・s以上、更に好ましくは0.8mPa・s以上であり、同様の観点から、好ましくは100,000mPa・s以下、より好ましくは80,000mPa・s以下、更に好ましくは50,000mPa・s以下である。なお、このような液体の流動物の粘度は、E型粘度計(25℃、1rpm、1分後、標準コーンロータ、ロータコード:01)により測定することができる。
また、本発明の効果が発現し易い観点から、流動物の表面張力は、例えば室温程度で液体のものの場合、好ましくは15mN/m以上、より好ましくは18mN/m以上、更に好ましくは20mN/m以上であり、同様の観点から、好ましくは75mN/m以下である。なお、このような液体の流動物の表面張力は、プレート法(Wilhelmy法)により測定することができる。
[成形体への膜の形成方法]
本発明の成形体への膜の形成方法とは、疎水変性セルロース繊維、高分子化合物及び有機媒体を含有する分散体を調製する工程1、及び工程1で調製された分散体を成形体に塗布する工程2を有するものである。
<工程1>
疎水変性セルロース繊維、高分子化合物及び有機媒体を含有する分散体は、これらの成分と溶媒とを混合することにより調製することができる。
溶媒としては、例えば、イソプロパノール、エタノール、メチルエチルケトン等が挙げられる。
これらの成分の混合はマグネチックスターラーを用いて実施しても良く、その場合の条件としては、例えば、回転数400〜600rpm、温度15〜35℃で6〜24時間撹拌するという条件が好ましく、回転数が約500rpm、温度20〜30℃で10〜16時間撹拌するという条件がより好ましい。
<工程2>
工程1で得られた分散体を、固体表面を有する成形体に塗布する。塗布の方法としては、例えば、アプリケーター、バーコーダー、スピンコーター等を使用して塗布する方法が挙げられる。塗膜の厚みとしては、滑液速度、耐久性の観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上であり、塗布性の観点から、好ましくは2000μm以下、より好ましくは1500μm以下、更に好ましくは1200μm以下である。
次いで、塗膜を乾燥させる。乾燥条件としては、減圧下でも常圧下でもよく、温度範囲としては15〜75℃が好ましい。また、乾燥のための時間としては、1〜24時間が好ましい。
このようにして、膜が形成され、膜を有する成形体が得られる。
[成形体]
膜を有する成形体は前述のようにして製造することができ、前述の膜を有する成形体は、本発明に包含される。本明細書において、成形体とは、ガラス、樹脂、金属、セラミックス又はコンクリート等を素材とする硬質表面や、繊維表面等の固体表面を有する物体であり、本発明の膜がその固体表面上に形成される対象である。成形体の形状は特に限定されず、板状、(中空の)筒状及びフィルム状のものや、これらの成形体を所定の形状、例えばトレイ及び船底等にさらに加工したものが例示できる。
本発明の膜を前述のように固体表面に適用することにより、固体表面を滑液表面に改質することができる。従って本発明は、固体表面を滑液表面に改質するための前述の膜を包含するものである。本発明の膜は流動物の付着防止効果が高いだけでなく、膜自体の耐久性に優れるためにその効果を長期間維持できることから、各種用途、例えば、日用品、化粧品、家電製品などの包装材として、ブリスターパックやトレイ、お弁当の蓋等の包装容器用の内装材、食品容器、工業部品の輸送や保護に用いる工業用トレイや輸送用パイプ等、さらには船底や電線等の被覆材として好適に用いることができる。
成形体の具体例としては、記載事項に限定されるわけではないが、パイプ、配管、タンク、電線、ワイヤーロープ、標識版、冠雪防止板、ミラー、シェルター、照明灯、柵、信号機、ガード等の屋外設備や、換気扇、排水口、パッキン、洗面台、トイレ、浴室内部、洗濯機、空調、シンク、台所等の住宅設備や、屋根、壁、窓、トンネル、橋、物置等の建造物や、内視鏡、人工透析機、カテーテル、義歯、義歯を固定するための器具等の医療機器や、金属加工装置、金属加工器具、工作機械部品、食器、洗面桶等の器具や、船舶(船底)、自動車、飛行機、鉄道車両等の乗り物や、瓶、ボトル、パウチ、フィルム容器、ジャー容器、袋、トレイ、ブリスターパック、缶、紙パック、ポンプ、吐出具、ドラム容器、カートリッジ等の容器や、衣類、生理用品、おむつ等の不織布が挙げられる。
[膜用分散体]
本発明の一態様として、セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上の基に修飾基が結合されてなる疎水変性セルロース繊維、高分子化合物及び有機媒体を有する膜用分散体が提供される。かかる膜用分散体は、膜を形成させるための塗工液として提供され得る。かかる膜用分散体は、必要に応じて、前記[成形体への膜の形成方法]に列挙された溶媒やその他の成分を含有していてもよい。
膜用分散体における疎水変性セルロース繊維の含有量は、有機媒体の移行抑制及び耐久性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.6質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上である。また、同様の観点から、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは2.5質量%以下である。
膜用分散体における高分子化合物の含有量は、有機媒体の移行抑制及び耐久性の観点から、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1.2質量%以上、更に好ましくは1.6質量%以上である。また、同様の観点から、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.7質量%以下、更に好ましくは2.4質量%以下、更に好ましくは2.2質量%以下である。
膜用分散体における有機媒体の含有量は、有機媒体の移行抑制及び耐久性の観点から、好ましくは4.0質量%以上、より好ましくは4.5質量%以上、更に好ましくは5.0質量%以上、更に好ましくは6.0質量%以上である。また、同様の観点から、好ましくは9.0質量%以下、より好ましくは8.5質量%以下、更に好ましくは8.0質量%以下、更に好ましくは7.0質量%以下である。
膜用分散体における溶媒の含有量は、疎水変性セルロース繊維等を十分に分散させる観点から、好ましくは80.0質量%以上、より好ましくは85.0質量%以上、更に好ましくは88.0質量%以上である。また、膜形成時間の短縮化の観点から、好ましくは92.8質量%以下、より好ましくは91.7質量%以下、更に好ましくは90.6質量%以下である。
膜用分散体の具体例としては、記載事項に限定されるわけではないが、例えば、塗工液や塗料、コーティング剤、ワニス、ペンキ、ラッカー、釉薬、うわ薬、表面処理剤、表面改質剤、洗浄剤、機能化剤、防汚剤等が挙げられる。ここで、膜用分散体の塗布方法としては、特に限定されないが、浸漬コーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、ブラシコーティングなどが挙げられる。
以下、実施例等を示して本発明を具体的に説明する。なお、この実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。例中の部は、特記しない限り質量部である。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「室温」とは25℃を示す。
〔セルロース繊維及び疎水変性セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比〕
セルロース繊維又は疎水変性セルロース繊維に水を加えて、その濃度が0.0001質量%の分散液を調製し、該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM)(Digital instrument社製:Nanoscope III Tapping mode AFM、プローブはナノセンサーズ社製Point Probe(NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維又は疎水変性セルロース繊維の繊維高さを測定する。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出し、標準偏差も算出する。
〔酸化セルロース繊維及び疎水変性セルロース繊維のカルボキシ基含有量〕
乾燥質量0.5gの酸化セルロース繊維又は疎水変性セルロース繊維を100mLビーカーにとり、イオン交換水もしくはメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製し、酸化セルロース繊維又は疎水変性セルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5〜3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT−710」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、酸化セルロース繊維又は疎水変性セルロース繊維のカルボキシ基含有量を算出する。
カルボキシ基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/酸化セルロース繊維又は疎水変性セルロース繊維の質量(0.5g)
〔分散液中の固形分含有量〕
ハロゲン水分計MOC−120H(島津製作所社製)を用いて行う。サンプル1gに対して150℃恒温で30秒ごとの測定を行い、質量減少が0.1%以下となった値を固形分濃度とする。
〔疎水変性セルロース繊維の修飾基の平均結合量及び導入率(イオン結合)〕
修飾基の結合量を次のIR測定方法により求め、下記式によりその平均結合量及び導入率を算出する。IR測定は、具体的には、乾燥させた疎水変性セルロース繊維を赤外吸収分光装置(IR)Nicolet 6700(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いATR法にて測定し、次式により、修飾基の平均結合量及び導入率を算出する。
修飾基の平均結合量(mmol/g)=[セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)]×[(セルロース繊維の1720cm−1のピーク強度 − 疎水変性セルロース繊維の1720cm−1のピーク強度)÷セルロース繊維の1720cm−1のピーク強度]
1720cm−1のピーク強度:カルボン酸のカルボニル基に由来するピーク強度
修飾基の導入率(%)={修飾基の結合量(mmol/g)/導入前のセルロース繊維中のカルボキシ基含有量(mmol/g)}×100
〔疎水変性セルロース繊維の修飾基の平均結合量及び導入率(アミド結合)〕
修飾基の平均結合量を下記式により算出する。
修飾基の平均結合量(mmol/g)=修飾基導入前のセルロース繊維中のカルボキシ基含有量(mmol/g)−修飾基導入後のセルロース繊維中のカルボキシ基含有量(mmol/g)
修飾基の導入率(%)={修飾基の平均結合量(mmol/g)/導入前のセルロース繊維中のカルボキシ基含有量(mmol/g)}×100
〔膜の算術平均粗さの測定〕
膜の算術平均粗さは次のようにして測定する。膜の算術平均粗さはキーエンス社製のレーザー顕微鏡「VK−9710」を用いて以下の測定条件で測定する。測定条件は、対物レンズ:10倍、光量:3%、明るさ:1548、Zピッチ:0.5μmとする。表面算術平均粗さは、内蔵の画像処理ソフトを用いて5点測定し、その平均値を用いる。
〔酸化セルロース繊維分散液の作製〕
調製例1(天然セルロース繊維にN−オキシル化合物を作用させて得られる酸化セルロース繊維の分散液)
針葉樹の漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ社製、商品名「Machenzie」、CSF650ml)を天然セルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(ALDRICH社製、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製)を用いた。臭化ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製)を用いた。
まず、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、該パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加した。pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持した。反応を120分(20℃)行った後、水酸化ナトリウムの滴下を停止し、酸化パルプを得た。得られた酸化パルプをイオン交換水で十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。その後、酸化パルプ3.9gとイオン交換水296.1gを高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバーストラボ HJP−2 5005)を用いて245MPaで微細化処理を2回行い、酸化セルロース繊維分散液(固形分濃度1.3質量%)を得た。この酸化セルロース繊維の平均繊維径は3.3nm、カルボキシ基含有量は1.62mmol/gであった。
調製例2(アルデヒド基を還元処理した酸化セルロース繊維の分散液)
ビーカーに調製例1で得られた酸化セルロース繊維分散液3846.15g(固形分濃度1.3質量%)を投入し、ここに1M水酸化ナトリウム水溶液を加えpH10程度にした後、水素化ホウ素ナトリウム(和光純薬工業社製、純度95質量%)を2.63g仕込み、室温下3時間反応させアルデヒド還元処理を行った。反応終了後、1M塩酸水溶液を405g、イオン交換水を4286g加え0.7質量%の水溶液とし、室温下1時間反応させプロトン化を行い、反応終了後イオン交換水にて洗浄し塩酸及び塩を除去した。最後にイソプロパノールで溶媒置換し、アルデヒド基を還元処理した酸化セルロース繊維分散液を得た。得られたアルデヒド基を還元処理した酸化セルロース繊維分散液(固形分濃度2.0質量%)の平均繊維径は3.3nm、カルボキシ基含有量は1.62mmol/gであった。
〔疎水変性セルロース繊維の作製〕
製造例1
マグネティックスターラー、攪拌子を備えたビーカーに、調製例2で得られた酸化セルロース繊維分散液300g(固形分濃度2.0質量%)を仕込んだ。続いて、アミノ変性シリコーン(東レ・ダウコーニング株式会社製:BY16−209)を、酸化セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミノ基が表2に記載のモル数(0.5mol)に相当する量を仕込み、イソプロパノール100gを添加し、これらの混合物を室温(25℃)で14時間反応させた。反応終了後ろ過し、イソプロパノールにて洗浄後、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所社製:US−300E)にて2分間攪拌し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製:スターバーストラボ HJP−2 5005)にて100MPaで1パス、150MPaで9パス微細処理させることで、酸化セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して連結した、平均繊維径が3.3nm、平均繊維長が578nmの疎水変性セルロース繊維を得た。
製造例2
アミノ変性シリコーンの仕込み量を表2に示す通り(0.25mol)に変更した点以外は製造例1と同様の方法で、疎水変性セルロース繊維を得た。なお、得られた疎水変性セルロース繊維の平均繊維径は3.3nm、平均繊維長は578nmであった。
〔膜の作製〕
実施例1〜6、比較例1
実施例1、2、4〜6及び比較例1では製造例1で得られた疎水変性セルロース繊維を使用し、実施例3では製造例2で得られた疎水変性セルロース繊維を使用して、次のようにして膜を作製した。即ち、溶媒が分散体全体の90質量%になるように、かつ表2に示す質量比になるように、疎水変性セルロース繊維、高分子化合物、有機媒体(スクアラン)及び溶媒(イソプロパノール)をスクリュー管内に配合した。次いで、スクリュー管の内容物を、マグネチックスターラーの回転数:500rpm、室温(25℃)で12時間撹拌した。その後、自動公転式攪拌機 あわとり練太郎(シンキー社製)を用いて2200rpmで2分撹拌して脱泡し、塗膜用の分散体を得た。得られた塗膜用分散体を、モデル成形体としてのガラス基板(MATSUNAMI社製:Micro Slide Glass S2112)上にアプリケーター(テスター産業株式会社製)を用いて厚みが400μmになるように塗膜し、50℃真空下で12時間乾燥することによりイソプロパノールを揮発させ、膜厚が40μmの膜を得た。
高分子化合物の分子量測定方法
質量平均分子量(Mw)は、日立L−6000型高速液体クロマトグラフィーを使用し、ゲル・パーミッション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。溶離液流路ポンプは日立L−6000、検出器はショーデックスRI SE−61示差屈折率検出器、カラムはGMHHR−Hをダブルに接続したものを用いた。サンプルは、溶離液で0.5g/100mLの濃度に調整し、20μLを用いた。溶離液には、1mmol/LのファーミンDM20(花王株式会社製)のクロロホルム溶液を使用した。カラム温度は40℃で、流速は1.0mL/分で行った。検量線の作成のための標準ポリマーとしては、ポリスチレン(東ソー株式会社製)を使用した。
GPC測定により得られたチャートから、高分子化合物中の分子量10万以上の高分子成分の成分量を、下記式に従い算出した。
分子量10万以上の成分量=(分子量10万以上の面積)/(全体の面積)
前記で使用した有機媒体の詳細は以下の通りである。
スクアラン(和光純薬製社製、SP値:7.9)
前記で使用した高分子化合物の詳細は以下の通りである。
ポリアミド1〜3:原料を表1記載の割合で用いて合成されたポリアミド
ポリアルキレンイミン:エポミンP−1000(日本触媒社製)
ポリアミド1の合成方法
ハリダイマー 250K:450gを2Lセパラフラスコにとり、70℃に昇温した後に窒素置換を行った。その後、エチレンジアミン:45g、ジエチレントリアミン:5gを徐々に添加し、添加後に内温が145℃になるまで昇温を行った。145℃で1時間撹拌した後に、内温を210℃に昇温し、6時間撹拌を行った。その後、内温を210℃に保ったまま、内圧を45KPaになるまで真空ポンプを用いて減圧を行い、0.5時間撹拌を行い、ポリアミド1を製造した。
ポリアミド2〜3の合成方法
ポリアミド2〜3についても、表1に示す原料を用いて、ポリアミド1と同様の方法で製造した。
Figure 2019189841
前記で使用した原料の組成は以下の通りである。
ハリダイマー 250K(ハリマ化成株式会社製):Cas番号61788−89−4:100%(C36 Dimer acid)
ツノダイム 205(築野食品工業株式会社製):Cas番号61788−89−4:70%(C36 Dimer acid)、Cas番号68937−90−6:18%(TRILINOLEIC ACID)及びCas番号68955−98−6:12%(Fatty acids, c16−18 and c18−unsatd., branched and linear)の混合物
〔膜の性能試験〕
以下の試験は室温下で実施した。試験で使用した流動物Aの詳細は以下の通りである。
コータミンE-80K(花王株式会社製):3質量%
プロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製):1質量%
イオン交換水:残部
試験例1(滑落速度測定試験)
各実施例又は比較例で作製した膜上に、流動物Aを50mg置いて基板を90°傾け、1分間当たりに流動物Aが滑落する距離を測定した。この試験を5回実施した。1回目の滑落速度と5回目の滑落速度を表2に示す。
試験例2(有機媒体移行性試験)
各実施例又は比較例で作製した膜上に、有機媒体の質量に対して100倍量の流動物Aを塗布した。72時間後に流動物Aのサンプリングを行い、有機媒体の流動物Aへの移行性を評価した。移行性は、サンプリングされた流動物A中に含まれる有機媒体の量(質量%)で評価した。サンプリングされた流動物A中のスクアランはGCを用いて下記条件により測定した。
<GC法>
下記測定メソッドにおいて、18.9分に検出されるスクアラン由来のピーク面積より、移行率を測定した。
装置:Agilent 6850 series II
カラム:DB−5 (Agilent)、12m×200μm×0.33μm
メソッド:100℃で3分保持→10℃/分で100℃から320℃まで昇温→320℃で15分保持
ディテクター:330℃(FID)、H:30mL/分、Air:400mL/分、He:30mL/分
キャリアガス:He
注入量:1μL
サンプル:サンプリング後イソプロパノールで100倍希釈した溶液
結果を表2に示す。
試験例3(滑落角測定試験)
室温20℃にて、膜に対して2μLのドデカンの液滴(20℃)を滴下し、10秒静置した後に1°/sの速さで膜表面を傾け、液滴が流れ始める角度を測定した。代表例として、実施例1の膜の滑落角は7°であった。
試験例4(硬度測定試験)
各膜に対して硬度試験測定器DUH−211(島津サイエンス社製)を用いて下記条件で表面硬度(マルテンス硬度)の測定を行った。結果を表2に示す。
試験力:0.1mN
負荷保持時間:5(s)
除荷保持時間:1(s)
Figure 2019189841
前記表から以下のことが分かった。
各実施例の膜は、いずれも滑落速度が速く、有機媒体移行率が小さく、繰り返し滑液試験を行っても性能が劣化しない耐久性に優れた膜であることが分かった。さらに、特定の高分子化合物の量が多いほど、膜の表面硬度の値が大きい傾向も確認できた。
一方、高分子化合物を含まない比較例1では、繰り返し滑液試験で滑落速度が顕著に低下しており、耐久性が低いものであることが分かった。
実施例7及び比較例2
HAp基板(コスモ・バイオ製、アパタイトペレット(四角)、品番:APP−100、1cm角)の片面を40μm、12μm、3μmの研磨紙を用いて鏡面研磨した後、1N HClに1分間浸漬して酸脱灰処理を施した。処理後のHAp基板をイオン交換水で洗浄して乾燥し、以下の方法に従い、実施例、比較例及び対照用の処理基板とした。
上記処理基板上に、製造例1で得られた疎水変性セルロース繊維を使用し、実施例2と同一組成の塗膜用分散体を同様の方法で塗布した後に乾燥させ、膜厚が40μmの膜を得た。膜が形成された基板を実施例7の基板とした。
一方、24wellプレートのwell内に上記処理基板を置き、そこに殺菌剤配合市販歯磨剤(Colgate Total ORIGINAL Lot.CP(L)5139PL1111)をイオン交換水で4倍希釈した希釈液1mLを入れて3分間浸漬した。その後、イオン交換水1mL入れた別のwellに基板を移して30秒間イオン交換水ですすぎ、乾燥させて得られた基板を比較例2の基板とした。
〔バイオフィルム形成抑制効果の評価1〕
試験例5
1)刺激唾液の採取
20〜30代の健常男性を対象に、デントバフ ストリップ(株式会社オーラルケア OralCare Inc.)に含まれているガムペレットを噛んでもらい、その都度口の中に溜まった唾液をファルコンチューブに吐き出してもらうことにより、かかるファルコンチューブに唾液を採取した。なお、唾液中の細菌には個人差があるため、1名の健常男性の唾液により、全ての実施例と比較例についてバイオフィルム形成抑制試験を行った。
2)モデル歯垢の形成
ファルコンチューブに採取した唾液を、3000rpm/rt/10minにて遠心分離した。分離された上澄み唾液を用い、スクロースを5質量%溶液となるように添加した後、撹拌機器(voltex、日本ジェネティクス(株)製)を用いて撹拌し、歯垢モデル試験液を調製した。
次に、24wellプレートのwell内に、実施例7の基板又は比較例2の基板を置いた。基板が置かれたwellに、歯垢モデル試験液を1mLずつ添加した後、これをCOパックとともにプラスチックケース内に格納して嫌気条件下とし、37℃で24時間培養して、基板上にバイオフィルムとしてのモデル歯垢を形成させた。
3)バイオフィルム形成抑制効果の評価
減圧ポンプを用い、well中の歯垢モデル試験液を吸い取り、イオン交換水1mLをwellに添加して5分間振とうした。次にポンプを用いて水を吸い取り、0.1質量%クリスタルバイオレット(CV)溶液を750μL添加して15分間振盪した。
さらにポンプでCV溶液を吸い取り、wellにイオン交換水1mLを添加して5分間振盪した。次いで、水をポンプで吸い取り、wellにイオン交換水1mLを添加して5分間振盪した。次いで、水をポンプで吸い取り、wellにエタノール500μLを添加してピペッティングし、バイオフィルムに付着したCVを抽出し、抽出液をイオン交換水で10倍希釈し、マイクロプレートレコーダー(TECAN社製 波長可変型吸光マイクロプレートリーダー サンライズレインボーサーモ)で吸光度OD595nmを測定した。
また、対照として、実施例7の基板又は比較例2の基板の代わりに前記処理基板をそのまま用いて上記2)及び3)の操作を行って、基板上にモデル歯垢を形成させ、OD595nm(対照)を測定した。下記式にしたがってバイオフィルム形成率(%)を算出した。なお、得られたバイオフィルム形成率の値が小さいほど、バイオフィルム形成抑制効果が高いことを意味する。
バイオフィルム形成率(%)={実施例又は比較例の基板のOD595nm/OD595nm(対照)}×100
結果等を表3に示す。
Figure 2019189841
表3から、本発明の膜は、殺菌剤や静菌剤を含んでいないにも関わらず、殺菌剤配合市販歯磨剤で処理した場合よりもバイオフィルム形成率が小さいことが分かった。このことから、本発明の膜は、菌付着抑制膜として利用できることが示された。
実施例8及び比較例3
SUS基板(40mm×200mm)上に製造例1で得られた疎水変性セルロース繊維を使用し、実施例2と同一組成の塗膜用分散体を同様の方法で塗布した後に乾燥させ、膜厚が40μmの膜を得た。膜が形成されたSUS基板を実施例8の基板とした。膜を形成させなかったSUS基板を比較例3の基板とした。
〔金属付着抑制効果の評価〕
試験例6
実施例8の基板と比較例3の基板をそれぞれ工業用水に2週間浸漬させた後、比較例3の基板については基板表面に形成された固体物質を、実施例8の基板については膜ごと全て削り取り、削り取った試料を以下に示す方法で前処理した後、金属量の定量を行った。
前処理方法(湿式分解法)
削り取ったそれぞれの試料全量を、別々の湿式分解用分解容器に入れた。両試料とも約10mgであった。そこへ、Conc硫酸2mL及びConc硝酸4mLを加えて、220℃に加熱したホットプレート上に容器を3時間置くことで、湿式分解処理を行った。冷却後、25mL容メスフラスコに超純水を用いて、容器内の残留物を定量的に移し換えた後に、超純水で25mLにフィルアップしたものを測定試料とした。
金属量の定量は以下の分析装置、条件で行った。
分析装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック製 iCAP 6500Duo
RFパワー:1150W
クーラントガス流量:12L/min
ネブライザー流量:0.50L/min
補助ガス:1.0L/min
ポンプ流量:50rpm
測定波長:各元素に応じた波長
金属付着量は、削り取った試料1g当たりに含まれる金属質量として算出した。採取試料の質量が同じであったことから、表4に示される各値は、SUS基板上、同一面積における金属付着量として比較することができる。
Figure 2019189841
表4から、本発明の膜は、測定した全ての金属種に関して、金属付着を抑制できることが分かった。このことから、本発明の膜は金属付着抑制膜として利用できることが示された。
実施例9及び比較例4
ガラス基板(MATSUNAMI社製:Micro Slide Glass S2112)上に、製造例1で得られた疎水変性セルロース繊維を使用し、実施例2と同一組成の塗膜用分散体を同様の方法で塗布した後に乾燥させ、膜厚が40μmの膜を得た。膜が形成された基板を実施例9の基板とした。
ガラス基板(MATSUNAMI社製:Micro Slide Glass S2112)を10ppm4,4′−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル(慣用名:ダイクロサン)のエタノール溶液に3分間浸漬させた後、30秒間エタノールに浸漬させてすすぎ、エタノールを乾燥させてダイクロサン処理基板を得た。処理基板を比較例4の基板とした。
〔バイオフィルム形成抑制効果の評価2〕
試験例7
1)菌液の調製
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC13276)、大腸菌(Escherichia coli NBRC3972)及び緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)を、それぞれSoybean-Casein Digest Agar(日本製薬株式会社製:SCD寒天培地「ダイゴ」)を用いて、30℃、24時間の前培養を行った。
10mL培養用試験管にSoybean-Casein Digest(日本製薬株式会社製:SCD培地「ダイゴ」)を3mL入れ、そこに前培養で作製したコロニーを1白金耳接種して30℃/200rpm/24時間の条件で振とう培養した。
培養後の菌液を、分光光度計を用いて、600nmの波長における吸光度(OD600nm)を測定し、それぞれ以下の値になるように調製した。黄色ブドウ球菌:0.4、大腸菌:0.8、緑膿菌:0.4。OD600nmを合わせた菌液を、それぞれSCD培地で100倍希釈し、評価用の菌液とした。
2)バイオフィルム形成抑制効果の評価
実施例9の基板及び比較例4の基板にUVを1分間照射し、基板表面を滅菌した。角型4well(アズワン株式会社製:浮遊細胞用マルチディッシュ267061)内に滅菌した基板を入れ、先に調製した菌液を6mLずつ入れ、30℃、24時間培養して、各基板上にそれぞれの菌種のバイオフィルムを形成させた。
減圧ポンプを用い、well内の菌液を吸い取り、生理食塩水6mLをwell内に添加して振とうした。次いで生理食塩水をポンプで吸い取り、wellに生理食塩水6mLを加えて振とうした。次いで生理食塩水ポンプで吸い取り、0.1質量%クリスタルバイオレット(CV)溶液6mL添加して30分静置した。
CV溶液を吸い取り、生理食塩水6mLをwell内に添加して振とうした。次いで生理食塩水をポンプで吸い取り、wellに生理食塩水6mLを加えて振とうした。次いで生理食塩水ポンプを吸い取り、wellにエタノール6mLを添加してピペッティングし、バイオフィルムに付着したCVを抽出した。抽出液をエタノールで10倍希釈し、マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイスジャパン株式会社製:VERSA max microplate reader)で吸光度OD595nmを測定した。
また、対照として、実施例9の基板又は比較例4の基板の代わりにガラス基板をそのまま用いで上記の操作を行って、基板上にバイオフィルムを形成させ、OD595nm(対照)を測定した。OD595nm値が大きい程、バイオフィルム量が多いことを表す。
得られた測定値を下記式にしたがって計算し、バイオフィルム形成率(%)を算出した。なお、得られたバイオフィルム形成率の値が小さいほど、バイオフィルム形成抑制効果が高いことを意味する。
バイオフィルム形成率(%)={実施例又は比較例の基板のOD595nm/OD595nm(対照)}×100
結果等を表5に示す。
Figure 2019189841
OD595nmは、595nmにおける吸光度測定値であり、菌の数に比例する。表5から、菌種によってガラス基板に対するバイオフィルム形成量は異なるものの、疎水変性セルロース繊維と有機媒体を有する膜は、いずれの菌種に対しても高いバイオフィルム形成抑制効果を発揮することが分かった。
〔防氷効果の評価〕
<評価基板の作製>
比較例5
ガラス基板(MATSUNAMI社製:Micro Slide Glass S2112)上にバーコーター(オーエスジーシステムプロダクツ社製、OSP−13)を用いて、防汚塗料(三菱マテリアルトレーディング社製:エフロンティアTM防汚塗料)を塗工した。この基板を比較例5とした。
一方、実施例2と同じ方法で作製した本発明の膜を有する基板を用意した。
<氷の滑落試験>
2℃の恒温室でドライアイス上に置いたSUS304上に、100μlのイオン交換水をマイクロピペット(M&S社製:ピペットマン)を用いて滴下し、10分間静置することで氷を作製した。2℃の恒温室内で、実施例2の基板と比較例5の基板のそれぞれの表面に、前記氷を置き、1分間静置した後、0°〜90°まで傾け、氷が滑落するか評価した。
実施例2の基板では、90°まで傾ける途中で氷が滑落することを確認した。一方、比較例5の基板では、90°まで傾けても氷が基板表面にはりつき、滑落しないことを確認した。つまり、本発明の膜の氷滑落効果が高いことが確認できた。
〔流動物の付着抑制効果の評価〕
<評価容器の作製>
実施例10
<下層体の作製>
製袋前のエッセンシャルコンディショナーしっとりツヤ髪 詰め替え用容器(花王社製:詰め替え用らくらくecoパック)のヒートシール部分にマスキングを行い、バーコーター(オーエスジーシステムプロダクツ社製、OSP−13)を用いて、下層体を形成する塗工液として水系アクリルエマルジョン(DSM社製、NeoCryl A−1127)を容器の内側となる面に塗工した。室温(25℃)下で24時間乾燥し、溶媒を揮発させて積層構造物を得た。
<上層体の作製>
製造例1で得られた疎水変性セルロース繊維を用いて、次のようにして前記積層構造物の下層体側の表面上に上層体を作製した。疎水変性セルロース繊維のセルロース繊維:スクアラン(潤滑油):ポリアミド1が1:3:1の質量比になるように、また、溶媒が分散液全体の97%になるように、疎水変性セルロース繊維、スクアラン、ポリアミド1及び溶媒(イソプロパノール:トルエン=100:5の混合溶媒)を配合し、スクリュー管中、室温で24時間撹拌した。得られた上層体形成用の分散液を塗膜用サンプルとして、前記積層構造物の下層体側の面にアプリケーター(テスター産業株式会社製)を用いて、塗膜用サンプル液の厚みが1800μmになるように塗工した。室温(25℃)下で12時間乾燥させることにより溶媒を揮発させ、膜厚が約50μmの上層体が作製された、上層体と下層体と基材との積層体を得た。得られた積層体をヒートシールすることで容器を作製した。
比較例6
製袋前のエッセンシャルコンディショナーしっとりツヤ髪 詰め替え用容器(花王社製:詰め替え用らくらくecoパック)をヒートシールすることで容器を作製し、比較例6とした。
<残量評価>
実施例10と比較例6の容器にエッセンシャルコンディショナーしっとりツヤ髪(花王社製)の内容物を340g充填した。スマートホルダー(花王社製)にセットし、25℃で吐出不能になるまで1Push/秒の条件で吐出した。吐出後、ポンプを取り外し、容器内の内容物の残量を測定した。
その結果、実施例10における残量は2.2gであるのに対して、比較例6における残量は3gであった。このように、本発明の膜を実際の容器に適用した場合、該膜を有する実施例10の容器は、かかる膜を有さない比較例6の容器よりも内容物の残量を低減できることが分かった。
本発明の膜は、化粧料や食品の包装容器の内装材の分野や、種々の輸送用パイプ等の分野に利用することができる。

Claims (9)

  1. セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上の基に修飾基が結合されてなる疎水変性セルロース繊維、下記の(X)及び(Y)からなる群より選択される1種以上の高分子化合物、並びに有機媒体を有する膜。
    (X)エステル基、アミド基、ウレタン基、イミノ基、エーテル基又はカーボネート基を有する縮重合系高分子
    (Y)側鎖にエステル基若しくはアミド基を有するメタクリル系又はアクリル系高分子
  2. 高分子化合物が分子量10万以上の高分子成分を含有する請求項1に記載の膜。
  3. 高分子化合物が高分子化合物(X)である、請求項1又は2に記載の膜。
  4. 高分子化合物(X)が、3官能性以上のモノマーを構成単位としてさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の膜。
  5. 有機媒体がSP値が10以下の有機媒体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の膜。
  6. 疎水変性セルロース繊維が、セルロース繊維のカルボキシ基に修飾基が結合されたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の膜。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の膜を有する成形体。
  8. セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上の基に修飾基が結合されてなる疎水変性セルロース繊維、下記の(X)及び(Y)からなる群より選択される1種以上の高分子化合物、並びに有機媒体を含有する分散体を調製する工程1、及び工程1で調製された分散体を成形体に塗布する工程2、を有する、成形体への膜の形成方法。
    (X)エステル基、アミド基、ウレタン基、イミノ基、エーテル基又はカーボネート基を有する縮重合系高分子
    (Y)側鎖にエステル基若しくはアミド基を有するメタクリル系又はアクリル系高分子
  9. セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上の基に修飾基が結合されてなる疎水変性セルロース繊維、下記の(X)及び(Y)からなる群より選択される1種以上の高分子化合物、並びに有機媒体を含有する膜用分散体。
    (X)エステル基、アミド基、ウレタン基、イミノ基、エーテル基又はカーボネート基を有する縮重合系高分子
    (Y)側鎖にエステル基若しくはアミド基を有するメタクリル系又はアクリル系高分子
JP2018167355A 2017-11-01 2018-09-06 疎水変性セルロース繊維及び有機媒体を有する膜 Active JP7123707B2 (ja)

Applications Claiming Priority (4)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2017212047 2017-11-01
JP2017212047 2017-11-01
JP2018083441 2018-04-24
JP2018083441 2018-04-24

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2019189841A true JP2019189841A (ja) 2019-10-31
JP7123707B2 JP7123707B2 (ja) 2022-08-23

Family

ID=68387899

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2018167355A Active JP7123707B2 (ja) 2017-11-01 2018-09-06 疎水変性セルロース繊維及び有機媒体を有する膜

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP7123707B2 (ja)

Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2021191565A (ja) * 2020-06-05 2021-12-16 花王株式会社 脱泡促進用組成物

Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2011140738A (ja) * 2009-12-11 2011-07-21 Kao Corp 微細セルロース繊維複合体、微細セルロース繊維分散液及び複合材料
JP2013151636A (ja) * 2011-12-28 2013-08-08 Kao Corp ポリエステル樹脂組成物
JP2017095628A (ja) * 2015-11-26 2017-06-01 大阪瓦斯株式会社 ポリ乳酸組成物及びその製造方法並びに複合体
JP2017115023A (ja) * 2015-12-24 2017-06-29 星光Pmc株式会社 変性セルロース繊維の製造方法、樹脂組成物の製造方法、およびゴム組成物の製造方法
JP2019006875A (ja) * 2017-06-22 2019-01-17 旭化成株式会社 化学修飾されたセルロース微細繊維を含有する高耐熱性樹脂複合体

Patent Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2011140738A (ja) * 2009-12-11 2011-07-21 Kao Corp 微細セルロース繊維複合体、微細セルロース繊維分散液及び複合材料
JP2013151636A (ja) * 2011-12-28 2013-08-08 Kao Corp ポリエステル樹脂組成物
JP2017095628A (ja) * 2015-11-26 2017-06-01 大阪瓦斯株式会社 ポリ乳酸組成物及びその製造方法並びに複合体
JP2017115023A (ja) * 2015-12-24 2017-06-29 星光Pmc株式会社 変性セルロース繊維の製造方法、樹脂組成物の製造方法、およびゴム組成物の製造方法
JP2019006875A (ja) * 2017-06-22 2019-01-17 旭化成株式会社 化学修飾されたセルロース微細繊維を含有する高耐熱性樹脂複合体

Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2021191565A (ja) * 2020-06-05 2021-12-16 花王株式会社 脱泡促進用組成物
JP7280220B2 (ja) 2020-06-05 2023-05-23 花王株式会社 脱泡促進用組成物

Also Published As

Publication number Publication date
JP7123707B2 (ja) 2022-08-23

Similar Documents

Publication Publication Date Title
TWI782869B (zh) 具疏水改質纖維素纖維及油之膜
Bayer Superhydrophobic coatings from ecofriendly materials and processes: a review
RU2557239C2 (ru) Органосиликоны
JP7123707B2 (ja) 疎水変性セルロース繊維及び有機媒体を有する膜
JP7203916B2 (ja) ゲル膜
JP7341000B2 (ja) 水生生物付着抑制剤
CN102216369A (zh) 基于聚亚烷基二醇的聚(酯-酰胺)聚合物及其制备方法和使用方法,以及包括这种聚合物的组合物和产品
EP1667636A2 (fr) Emulsions comprenant un polymere dendritique et utilisation d'un polymere dendritique comme agent d emulsification
JP7372087B2 (ja) 流動抵抗低減剤
JP2022095596A (ja) 防氷・防雪用乳化組成物
WO2021024933A1 (ja) 疎水変性セルロース繊維を含有する乳化組成物
JP7021944B2 (ja) 積層体及びその製造方法
JP7336924B2 (ja) スプレー用組成物
JP2020195932A (ja) 疎水変性セルロース繊維及び有機媒体を含む膜の製造方法
JP7042148B2 (ja) 疎水変性セルロース繊維及び油を配合してなる膜
JP2022117972A (ja) 乳化組成物
JP2022103135A (ja) コーティング剤
JP2023095399A (ja) 積層体及び積層体を備えた船舶
JP2022117975A (ja) 乳化組成物の製造方法
JP2023095398A (ja) 積層体の形成方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20210602

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20220325

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20220331

A601 Written request for extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A601

Effective date: 20220526

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20220726

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20220804

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20220810

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 7123707

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151