JP2019123920A - 銅粉末及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、積層造形用などの用途として望ましい銅粉末とその製造方法を提供することを目的とする。【解決手段】本発明の銅粉末1は、銅もしくは銅合金からなる銅粉末本体2と、前記銅粉末本体2の表面に形成された酸化被膜3を具備し、前記酸化被膜3が、XPS分析にて測定されるCu‐LMMスペクトルの568.0eVのピーク強度(ICu)と570.3eVのピーク強度(ICu2O)と569.0eVのピーク強度(ICuO)の強度比の関係において、ICu2O/ICuOピーク強度比が0.8以上、1.2以下であり、かつ、(ICu2O+ICuO)/ICuのピーク強度比が1.5以上かつ3.0以下であることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、積層造形用などの用途に好適な銅粉末とその製造方法に関する。
近年、金属粉末をレーザー光や電子ビームの照射によって焼結するか溶融して固化させ、立体的な造形物を製造する金属AM(Additive Manufactuaring)の技術開発がなされている。
この金属AMのうち、レーザーを用いたSLM(セレクティブレーザーメルティング)法では、レーザー光として、ファイバーレーザーなど近赤外波長のレーザー光を用いている。適用する金属材料としては、これまで、主にレーザーの吸収率が良好であるマルエージング鋼、ステンレス鋼(SUS)、チタン(Ti)などが用いられている。
しかし、従来から、金属AMの粉末粒子材料として、マルエージング鋼、ステンレス鋼(SUS)、チタン(Ti)のみでなく、近赤外波長のレーザー光の吸収率が低い銅やアルミニウムなども採用したいという要望がある。
銅及び銅合金は、高熱伝導性によるエネルギー拡散が大きいこと、ファイバーレーザーあるいはYAGレーザーなど、1000nm近傍の近赤外波長領域でのレーザー光の吸収率の低さに起因し、レーザーを用いた溶融が困難、もしくは溶融できても低効率となってしまう問題があった。一例として、波長1064nmのファイバーレーザーを用いた場合、銅のレーザー光吸収率は10%程度である。
そのため、例えば、以下の特許文献1に記載のように、表面に酸化被膜や黒色被膜を形成し、これらの被膜を用いてレーザー光吸収率を向上させる手法が提案されている。特許文献1に記載の技術では、造形用の光ビームに加えて異なる波長の支援光ビームを銅粉末照射し、銅粉末の表面に形成した酸化皮膜や黒色被膜を利用し、加熱効率を向上させる試みがなされている。
特開2017−141505号公報
ところで、レーザー光の吸収率の低い銅及び銅合金の粉末を用いて積層造形を実現させようとする要望は高く、銅及び銅合金の粉末について、近赤外波長領域でのレーザー光の吸収率を向上させる工夫が必要と考えられる。
例えば、銅は常温常圧において複数の酸化形態(CuO及びCuO)を取ることが知られており、これらの酸化物は結晶構造が異なるため、表面酸化被膜によるレーザー吸収性はこれら酸化被膜の酸化形態による影響を受けると考えられる。このため、酸化被膜の酸化形態を調整し、近赤外波長領域でのレーザー光の吸収率を向上させる技術について研究した結果、本願発明者は、特定構造の酸化被膜であるならば、レーザー光の吸収効率を向上できることを知見し、本願発明に到達した。
本発明は前記の問題に鑑み創案されたものであり、その目的は、積層造形用などの用途に好適であり、近赤外波長領域でのレーザー光の吸収率を向上させた銅粉末とその製造方法を提供することにある。
(1)上記目的を達成するために本発明の一形態に係る銅粉末は、銅もしくは銅合金からなる銅粉末本体と、前記銅粉末本体の表面に形成された酸化被膜を具備し、前記酸化被膜が、XPS分析にて測定されるCu‐LMMスペクトルの568.0eVのピーク強度(ICu)と570.3eVのピーク強度(ICuO)と569.0eVのピーク強度(ICuO)の強度比の関係において、ICuO/ICuOピーク強度比が0.8以上、1.2以下であり、かつ、(ICuO+ICuO)/ICuのピーク強度比が1.5以上かつ3.0以下であることを特徴とする。
(2)本発明の一形態において、メディアン径が10μm以上、100μm以下であり、積層造形用原料である銅粉末が好ましい。
(3)本発明の一形態の銅粉末の製造方法は、(1)もしくは(2)に記載の銅粉末の製造方法であって、酸素分圧1kPa以上50kPa以下かつ200℃以上400℃以下の条件下で加熱することにより、原料粉末の表面に、XPS分析にて測定されるCu‐LMMスペクトルの568.0eVのピーク強度(ICu)と570.3eVのピーク強度(ICuO)と569.0eVのピーク強度(ICuO)の強度比の関係において、ICuO/ICuOピーク強度比が0.8以上、1.2以下であり、かつ、(ICuO+ICuO)/ICuのピーク強度比が1.5以上かつ3.0以下である酸化被膜を形成することが好ましい。
(4)本発明の一形態の銅粉末の製造方法において、前記酸化被膜形成処理の後、メディアン径が10μm以上100μm以下となるように分級することが好ましい。
(5)本発明の一形態の銅粉末の製造方法において、積層造形用原料であることが好ましい。
本発明の一形態によれば、Cu‐LMMスペクトルの568.0eVのピーク強度(ICu)と570.3eVのピーク強度(ICuO)と569.0eVのピーク強度(ICuO)の強度比の関係において、ICuO/ICuOピーク強度比が0.8以上、1.2以下であり、かつ、(ICuO+ICuO)/ICuのピーク強度比が1.5以上かつ3.0以下である酸化被膜を有する銅粉末としたので、近赤外波長領域でのレーザー光の吸収率が良好であり、発熱効率の良好な銅粉末を提供できる。
このため、本発明の一形態に係る銅粉末を用いることにより、安価なレーザー光である近赤外波長のレーザー光で発熱させて積層造形を行う場合に有効な銅粉末を提供できる。
図1は第1実施形態に係る銅粉末の一例を示す部分断面図である。 図2はCu粉末、Cu−Cr粉末、Cu−Be粉末、Cu−Mg粉末、Cu−Ti粉末、CuZr粉末のいずれかを用い、熱処理無しの場合、150℃加熱後の場合、200℃加熱後の場合、225℃加熱後の場合、250℃加熱後の場合のそれぞれについて、銅粉末のファイバレーザー光吸収率について測定した結果を示すグラフ。 図3は異なる条件の加熱処理(酸化処理)を施した純銅粉末試料について、全測定波長域におけるレーザー光吸収率を試料毎に測定した結果を示すグラフである。 図4は異なる条件の加熱処理(酸化処理)を施したCu−Ti粉末試料について、全測定波長域におけるレーザー光吸収率を試料毎に測定した結果を示すグラフである。 図5は異なる条件の加熱処理(酸化処理)を施した試料について、XPS分析により、Cu‐LMMスペクトルの568.0eVのピーク強度(ICu)と570.3eVのピーク強度(ICuO)と569.0eVのピーク強度(ICuO)を求める場合に用いたグラフの一例を示す図である。 図6は純銅粉末を200℃で60分間加熱して酸化させた試料について、表面に生成した酸化被膜の断面を示すTEM観察像。
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
図1は本発明に係る第1実施形態の銅粉末の一部を破断して示した側面図である。
本実施形態の銅粉末1は銅あるいは銅合金からなる粉末本体2の外周面に酸化被膜3が形成されてなる。本実施形態の銅粉末1は一例として球形状の粉末本体2とその外周面全体を薄く覆っている酸化被膜3を有する。
粉末本体2を構成する銅または銅合金の組成は特に制限されるものではないが、純銅、あるいは銅にCr、Be、Mg、Ti、Zrなどの添加元素を数質量%以下程度、例えば、0.1〜3.0質量%程度添加した合金を選択することができるがこれらに制限されるものではない。例えば、丹銅、コルソン系合金、Cu−Fe系合金、Cu−Co−P−Sn−Ni系合金、Cu−Co−Sn−Ni−Zn−P系合金、Cu−Ni−Si−Sn−Zn系合金などとして広く知られている各種銅合金を用いても良い。
いずれにしても、積層造形により目的の造形物を構成するために望ましい銅あるいは銅合金を用いればよい。
従って、本明細書の記載において銅粉末と記載する粉末は、純銅からなる粉末本体2あるいは銅合金からなる粉末本体2を備えたいずれのものも包含する概念とする。
「ピーク強度比」
酸化被膜3はCuO(酸化第一銅)とCuO(酸化第二銅)を有する銅酸化被膜であって、本実施形態では、CuOとCuOの比率を特定の関係とした銅酸化被膜とする必要がある。
特に、XPS分析(X線光電子分光分析)にて測定されるCu‐LMMスペクトルの568.0eVのピーク強度(ICu)と570.3eVのピーク強度(ICuO)と569.0eVのピーク強度(ICuO)の強度比の関係において、ICuO/ICuOピーク強度比が0.8以上、1.2以下であり、(ICuO+ICuO)/ICuのピーク強度比が1.5以上かつ3.0以下である酸化被膜3が望ましい。
ピーク強度比(ICuO+ICuO)/ICuが1.5未満では、表面に金属レーザー吸収率向上に寄与する酸化被膜3が十分に形成されておらず、銅粉末1として十分な近赤外領域でのレーザー光吸収率向上効果が得られない。
ピーク強度比(ICuO+ICuO)/ICuが3.0を超える範囲では、レーザー吸収率の極大ピークが高波長領域側となるため、銅粉末1として十分な近赤外領域でのレーザー光吸収率向上効果が得られない。
ピーク強度比(ICuO/ICuO)が0.8未満では、酸化被膜3中のCuOの比率が高く、レーザー吸収率の極大ピークが高波長領域側となるため、銅粉末1として近赤外領域でのレーザー光吸収率向上効果が得られない。
ピーク強度比(ICuO/ICuO)が1.2以上では、酸化被膜3中のCu2Oの比率が高く、レーザー吸収率の極大ピークが低波長領域側となるため、銅粉末1として近赤外領域でのレーザー光吸収率向上効果が得られない。
これらのピーク強度比において、ICuO/ICuOピーク強度比は、0.85〜1.15の範囲がより好ましく、0.9〜1.1の範囲が更に好ましい。
また、(ICuO+ICuO)/ICuのピーク強度比については、1.7〜2.8の範囲がより好ましく、2.0〜2.7の範囲が更に好ましい。
本発明者の研究により。CuOが500〜800nm近傍の波長領域にレーザー光吸収率の極大値を有しているのに対して、CuOは1500nm近傍の波長領域にレーザー光吸収率の極大値を有していることがわかった。このため、酸化被膜3中のCuOの比率が高すぎる場合、レーザー光吸収率の極大値が近赤外領域から赤外領域側へとシフトしてしまい、本発明の一形態の目的とする、ファイバーレーザー等で用いられる近赤外領域のレーザー光吸収率に対して十分な向上率が得られないと考えられる。
一方で、ピーク強度比(ICuO/ICuO)が1.2を超える範囲では、酸化被膜3中のCuOの比率が高すぎることとなり、レーザー光吸収率の極大値が近赤外から可視光波長領域側へとシフトしてしまう。このため、本発明の一形態の目的である、ファイバーレーザー等で用いられる近赤外領域のレーザー光吸収率に対し、十分な向上率が得られないと考えられる。
「酸素分圧、加熱温度」
上述のピーク強度比の関係を有する本実施形態の酸化被膜3を製造する場合、粉末本体2に対し、酸素分圧1kPa以上50kPa以下において200℃以上400℃以下の条件下で加熱することが好ましい。
加熱時の酸素分圧が50kPa以上になると、表面の酸化被膜3はCuOの生成が優先され、本発明範囲内の所定の(ICuO/ICuO)ピーク強度比を有する酸化被膜の形成が十分に行われない恐れがある。
酸素分圧の下限について、酸素分圧が1kPa未満では、必要な厚さの酸化被膜3の形成に時間がかかり、ピーク強度比(ICuO+ICuO)/ICuの値が1.5を下回るとともに、工程が非効率となりコストが増大する恐れがある。このため、酸素分圧は1kPa以上であることが好ましい。
加熱時の温度(酸化温度)が200℃未満の場合、酸化被膜3の形成に時間がかかり、ピーク強度比(ICuO+ICuO)/ICuの値が1.7を下回るとともに、銅粉末1の製造コストが増大する恐れがある。加熱時の温度(酸化温度)が400℃を超える範囲では、表面酸化被膜の形成に、CuOの生成が優先され、本実施形態で望ましい範囲内の所定の(ICuO/ICuO)ピーク強度比を有する酸化被膜の形成が十分に行われない恐れがある。
このため、粉末本体2に対する加熱温度は、200℃以上400℃以下とすることが好ましい。
「銅粉末のメディアン径」
銅粉末1のメディアン径(50%粒子径)は10μm以上、100μm以下であることが好ましい。銅粉末1のメディアン径が10μm未満では、粉末の凝集により流動性が低下し、積層造形用原料として不適である。銅粉末1のメディアン径が100μmを超える範囲では、レーザー積層造形機にて一般的に用いられる1層あたりの粉末積層厚さに対して、銅粉末1の径が大き過ぎるため、均一な粉末積層が出来なくなり、造形不良等の原因となる恐れがある。
「銅粉末の製造方法」
本実施形態の銅粉末1の製造方法は、一例として、銅の溶湯あるいは銅合金の溶湯を高速で空間に滴下し、高圧ガス噴霧により球状の銅粉末を得る手法として知られているガスアトマイズ法によって製造することができる。
なお、本明細書では、純銅からなる粉末と銅合金からなる粉末の両方を便宜的に銅粉末と称する。
本実施形態においては、ガスアトマイズ法を用いた例を説明したが、粉末製造方法については、この他、水アトマイズ法や遠心力アトマイズ法、誘導結合プラズマ法やプラズマアトマイズ法などによって、銅粉末を製造してもよい。
得られた銅粉末を、雰囲気加熱炉を用い、酸素分圧1kPa以上0、100kPa以下、かつ、100℃以上、400℃以下の条件下で加熱する。この時、加熱炉内の雰囲気は上記の範囲内において、加圧雰囲気、また不活性ガスと酸素ガスの混合雰囲気などが利用可能である。
また、得られた銅粉末の流動調整及び凝集分離を行うために、銅粉末1のメディアン径が、10μm以上、100μm以下となるように、分級工程を行うことが望ましい。
分級工程には、篩分法や重力分級、遠心分級などを利用することが出来る。
「表面酸化被膜の測定」
得られた銅粉末1についてその表面の酸化被膜3に対し、X線光電子分光分析(XPS分析)を用いてCu−LMMスペクトルにより、CuとCuOとCuOのピーク強度比を測定することができる。
この測定は、例えば、アルバック−ファイ株式会社製の「ULVAC−PHI PHI5000」を用いて実施することができる。
XPS分析によれば、570.3eVに現れるCuOのピークの強度(ICuO)と569.0eVに現れるCuOのピークと568.0eVに現れるCuのピークを測定することができ、これらを比較することができる。
なお、ピーク強度の算出においては、酸化被膜3の最表面のみに存在する銅水和物等の影響を抑えるために、アルゴンスパッタにてSiO換算で10nm程度深さ方向にスパッタした点をピーク強度の測定点とすることが好ましい。
「レーザー光吸収率の特定」
銅粉末1のレーザー光吸収率の測定には、一例として、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の「紫外可視近赤外分光光度計U−4100」を用いて測定することができる。
一般的にレーザー式金属積層造形機に広く用いられるファイバーレーザーの波長である1064nmにおけるレーザー光吸収率を比較し、酸化被膜3の構造によるレーザー光吸収率の特性向上を評価することができる。
なお、レーザー光吸収率は、測定によって求められる全反射率を用いて、吸収率=「1−全反射率」にて算出することができる。
また、レーザー光吸収率の測定に際しては、レーザー光の吸収率に及ぼす粉末粒度の影響を抑え、酸化被膜の効果を見積もるため、得られた銅粉末を330メッシュ以上、500メッシュ以下の粒度となるように分級して用いることが好ましい。
「粒子径」
銅粉末1の平均粒子径の測定には、一例として、マイクロトラック・ベル株式会社製の「MT3300EXII」を用いることができ、レーザー回折・散乱法にて平均粒子径の測定を行うことができる。
これらの測定方法により、測定した結果として、本実施形態の銅粉末1は、568.0eVのピーク強度(ICu)と570.3eVのピーク強度(ICuO)と569.0eVのピーク強度(ICuO)の強度比の関係において、ICuO/ICuOピーク強度比が0.8以上、1.2以下であり、かつ、(ICuO+ICuO)/ICuのピーク強度比が1.5以上かつ3.0以下の関係を有する。
このため、本実施形態の銅粉末1を用いて積層造形するならば、波長1064nmのファイバーレーザーを用いて、効率良く加熱ができるので、ファイバーレーザーを用いて効率良く積層造形ができる。
また、銅粉末1はメディアン径10μm以上、100μm以下であるため、一般的なレーザー積層造型機において一般的に用いられる1層あたりの粉末積層厚さに対し十分に小さい径としているので、均一な粉末積層が可能であり、造形不良を引き起こすことなく積層造形ができる。
以下の表1に示す各種組成の銅または銅合金の溶湯を用い、ガスアトマイズ法により銅粉末を製造し、得られた銅粉末を330メッシュ以上、500メッシュ以下の粒度となるように分級した。
分級後の銅粉末を加熱炉に収容し、表1に示す加熱温度(℃)、加熱時間(min)、加熱時酸素分圧(kPa)にてそれぞれの銅粉末を加熱処理し、表面に酸化被膜を有するそれぞれの銅粉末を得た。
得られたそれぞれの銅粉末の表面に対し、X線光電子分光分析(XPS)を用いて得られるCu−LMMスペクトルにより、CuとCuOとCuOのピーク強度比を測定した。
ピーク強度比の測定は、アルバック−ファイ株式会社製の「ULVAC−PHI PHI5000 Versa Probe II」を用いて実施した。
測定条件は、X線源 (Monochromated AlKα 50W)、パスエネルギー187.85eV(Survey)、58.7eV(Profile)、測定間隔:0.8eV/Step(Survey)、0.125eV(Profile)、試料面に対する光電子取り出し角:45deg、分析エリア:約200μmφ、スパッタ条件:Ar 1kV、ラスタ:1.5×1.5mm、スパッタレート:2.5nm/min(SiO換算)である。
この際、570.3eVに現れるCuOのピークの強度(ICuO)と569.0eVに現れるCuOのピークと568.0eVに現れるCuのピークを測定し、これらを比較した。
ピーク強度の比較においては、ICuO/ICuOのピーク強度比と(ICuO+ICuO)/ICuのピーク強度比を求めた。
ピーク強度の算出においては、酸化被膜の最表面のみに存在する銅水和物等の影響を抑えるために、アルゴンスパッタにてSiO換算で酸化被膜における10nm程度深さ方向にスパッタした位置をピーク強度の測定点とした。
表面に酸化被膜を有する各銅粉末試料に対し、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の「紫外可視近赤外分光光度計U−4100」を用いてレーザー光吸収率を測定した。
レーザー光の波長は一般的にレーザー式金属積層造形機に広く用いられるファイバーレーザーの波長である1064nmに設定した。
なお、ここで測定したレーザー光吸収率は、測定によって求められる全反射率を用いて、吸収率=「1−全反射率」にて算出した。
得られた銅粉末試料のメディアン径(50%粒子径)はマイクロトラック・ベル株式会社製の「MT3300EXII」を用い、レーザー回折・散乱法にて測定した。
また、酸化被膜を形成する前の各種銅粉末試料について、上述と同等の装置により、レーザー光吸収率を求めるとともに、570.3eVに現れるCuOのピークの強度(ICuO)と569.0eVに現れるCuOのピークと568.0eVに現れるCuのピークを測定し、これらを比較した。
ピーク強度の比較においては、ICuO/ICuOのピーク強度比と(ICuO+ICuO)/ICuのピーク強度比を求めた。
なお、銅粉末に酸化被膜を形成する前の段階においても、大気中にて表面に若干の酸化被膜が形成されているので、その酸化被膜を測定したこととなる。
以上の測定結果をまとめて以下の表1に示す。
表1の結果が示すように、実施例1〜12の銅粉末は、568.0eVのピーク強度(ICu)と570.3eVのピーク強度(ICuO)と569.0eVのピーク強度(ICuO)の強度比の関係において、ICuO/ICuOピーク強度比が0.8以上、1.2以下であり、かつ、(ICuO+ICuO)/ICuのピーク強度比が1.5以上かつ3.0以下であった。
このため、実施例1〜12の銅粉末は、近赤外波長領域の波長を有するファイバレーザーを照射した場合のレーザー吸収率に優れていることがわかった。
表1に示すように実施例1〜12の試料は、(ICuO+ICuO)/ICuOピーク強度比が1.7〜2.6であり、ICuO/ICuのピーク強度比が0.88〜1.03であった。実施例1〜12の試料は、レーザー吸収率について32〜74%の範囲を示した。
実施例1〜12の試料の酸化被膜形成前のレーザー吸収率は10〜29%の間であるが、これら試料のレーザー光吸収率を個別に酸化被膜形性前後で比較すると、いずれの試料においてもレーザー光吸収率が1.7〜4.5倍にも上昇した。
これら実施例試料に対し、比較例1の試料は200℃未満である150℃で加熱した試料であるが、(ICuO+ICuO)/ICuのピーク強度比が1.4となり、レーザー光吸収率が10%と低くなった。
比較例2の試料は400℃を超える450℃で加熱した試料であるが、ICuO/ICuOピーク強度比が1.25となり、1.2を超えたため、レーザー光吸収率が25%であり、レーザー光の吸収率の向上効果が不充分であった。
比較例3の試料は加熱時の酸素分圧が低すぎたため、(ICuO+ICuO)/ICuのピーク強度比が1.3となり、レーザー光吸収率が10%と低くなった。
比較例4の試料は加熱時の酸素分圧が高すぎたため、ICuO/ICuOピーク強度比が1.32となり、レーザー光吸収率が27%であり、レーザー光吸収率の向上効果が不充分であった。
図2は上述の表1に示したCu粉末(純銅粉末)、Cu−0.5質量%Cr粉末、Cu−1.5質量%Mg粉末、Cu−3.0質量%Ti粉末、Cu−0.1質量%Zr粉末に加え、Cu−2.0質量%Be粉末を用い、各粉末の150℃加熱後、200℃加熱後、225℃加熱後、250℃加熱後のファイバレーザー光吸収率について測定した結果をまとめたグラフを示す。
加熱時間は、Cu粉末(60分加熱、酸素分圧20kPa)、Cu−0.5質量%Cr粉末(60分加熱、酸素分圧20kPa)、Cu−2.0質量%Be粉末(60分加熱、酸素分圧20kPa)、Cu−1.5質量%Mg粉末(60分加熱、酸素分圧20kPa)、Cu−3.0質量%Ti粉末(60分加熱、酸素分圧20kPa)、Cu−0.1質量%Zr粉末(60分加熱、酸素分圧20kPa)である。
いずれの試料においても、200℃以上の温度で加熱することで吸収率が大幅に向上していることがわかる。
図3は図2に示すCu粉末の全測定波長域におけるレーザー光吸収率を加熱温度毎に示すグラフであり、図4は図2に示すCu−Ti粉末の全測定波長域におけるレーザー光吸収率を加熱温度毎に示すグラフである。
図3と図4に示す結果からわかることは、加熱処理なしの試料、150℃加熱の試料に対し、200〜250℃で加熱処理(酸化処理)した試料は、いずれも500〜2000nm域に見られる吸収率の極大ピークが加熱処理時間の増加に伴い、高波長側にシフトすることである。
図5はXPS分析により、図2に示すCu粉末試料について、Cu‐LMMスペクトルの568.0eVのピーク強度(ICu)と570.3eVのピーク強度(ICuO)と569.0eVのピーク強度(ICuO)の測定結果の一例を示すグラフである。
図3に示すグラフと図5に示すグラフを対比し、考察すると、レーザー光の吸収率の変化は酸化被膜の膜厚と酸化被膜の組成の影響と考えられる。
このことから、レーザー光の吸収率極大値のピークシフトは、Cu→CuO→CuOの組成変化に伴うものと推定できる。よって、酸化被膜の膜組成を制御すれば、レーザー光の吸収率の向上が可能であることがわかる。
図6は参考のために撮影した銅粉末断面のTEM観察像を示す。
図6の試料はCu粉末を200℃で60分間加熱して酸化させた試料である。図6の左下側に50nmの縮尺を記載した色の濃い図6の左側の部分はCu(粉末本体)であり、その右側に色の薄い膜厚50nm前後の酸化被膜が粉末本体を覆うように存在していることを確認できた。
この試料はCuからなる粉末本体の外表面について、Cu−Oを含む酸化被膜が覆っている状態を示している。図6に示す酸化被膜の部分について制限視野電子回折パターンをとってみたが、結晶性を有する酸化被膜が存在していることを確認できた。
このため、このCu粉末に更に高温で加熱処理を施すことで、酸化被膜により粉末本体を取り囲んだ銅粉末を生成できることが明らかである。
1…銅粉末、2…粉末本体、3…酸化被膜。

Claims (5)

  1. 銅もしくは銅合金からなる銅粉末本体と、前記銅粉末本体の表面に形成された酸化被膜を具備し、前記酸化被膜が、XPS分析にて測定されるCu‐LMMスペクトルの568.0eVのピーク強度(ICu)と570.3eVのピーク強度(ICuO)と569.0eVのピーク強度(ICuO)の強度比の関係において、ICuO/ICuOピーク強度比が0.8以上、1.2以下であり、かつ、(ICuO+ICuO)/ICuのピーク強度比が1.5以上かつ3.0以下であることを特徴とする銅粉末。
  2. メディアン径が10μm以上、100μm以下であり、積層造形用原料であることを特徴とする請求項1に記載の銅粉末。
  3. 請求項1もしくは請求項2に記載の銅粉末の製造方法であって、酸素分圧1kPa以上50kPa以下かつ200℃以上400℃以下の条件下で加熱することにより、原料粉末の表面に、
    XPS分析にて測定されるCu‐LMMスペクトルの568.0eVのピーク強度(ICu)と570.3eVのピーク強度(ICuO)と569.0eVのピーク強度(ICuO)の強度比の関係において、ICuO/ICuOピーク強度比が0.8以上、1.2以下であり、かつ、(ICuO+ICuO)/ICuのピーク強度比が1.5以上かつ3.0以下である酸化被膜を形成することを特徴とする銅粉末の製造方法。
  4. 前記酸化被膜形成処理の後、メディアン径が10μm以上100μm以下となるように分級することを特徴とする請求項3に記載の銅粉末の製造方法。
  5. 積層造形用原料であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の銅粉末の製造方法。
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