一般に白金温度センサに用いられるセラミックス基板の製造工程においては、セラミックス基板の材料となる無機物を1000℃以上の高温で焼成し、緻密な焼結体を形成している。緻密な焼結体を得ることで、クラックの発生を防いで、白金が高温にさらされることを抑えている。この際、焼成温度を下げるとともに、セラミックスの緻密化を促進するため、セラミックス材料の無機物にSiO2、MgO、CaO等の焼結助剤を添加した状態で、焼成が行われる。
しかしながら、焼成が行われる高温下においては、抵抗パターンの白金の反応性が高くなるため、セラミックス基板に含まれる焼結助剤やSi等の不純物と、白金が反応する。さらに、セラミックス基板に含まれる焼結助剤及び不純物のSiと白金が反応して生じるPtSiは、白金よりも低い温度で揮発する問題がある。これにより、抵抗パターンの白金のTCRが変化し、抵抗値のドリフトが引き起こされる問題がある。特許文献3に記載のセンサ素子においては、セラミックス基板の材料となる無機物の含有量を規定しているが、焼結助剤を使用しており、白金と焼結助剤の反応を抑制することができなかった。
一方で、セラミックス材料に焼結助剤を添加しないと、セラミックスの緻密化が進まず、焼結密度が上げられずセラミックスにボイドが多くなるか、焼成時にセラミックス基板にクラックが発生してしまう問題がある。これにより、抵抗パターンの白金が高温の大気にさらされ、劣化する。
また、温度センサ素子において、セラミックス基板の材料にガラスが用いられている場合、ガラスの耐熱性は、アルミナを材料とするセラミックス基板よりも劣っているため、高温の焼成時にガラスが活性化して反応性が上がり、抵抗パターンの白金と反応してしまう問題がある。また、ガラスを用いてセラミックス基板が封止される場合、高温の測定時にガラスが破壊され、抵抗パターンが高温の大気にさらされる。
そこで、本実施の形態においては、セラミックス基板において、高純度のアルミナを用いるとともに、焼結助剤を含有しないため、焼結助剤及び不純物のSi等が、抵抗パターンの白金と反応することが防止される。これにより、抵抗パターンの抵抗値のドリフトが抑制される。また、高純度のアルミナで形成されるため、ガラスで形成される場合よりも耐熱性に優れ、高温におけるセラミックス基板のクラックの発生が抑制される。また、セラミックス基板が平均粒子径の異なる複数種のアルミナ粒子から構成されることにより、セラミックス基板が緻密化され、焼成時のセラミックス基板のクラック発生が防止される。
以下、添付図面を参照して、第1の実施の形態に係る温度センサ素子について説明する。図1は、第1の形態に係る温度センサ素子の平面図である。図2は、図1のA−A線に沿う断面図である。図3は、図1のB−B線に沿う断面図である。
図1から図3に示すように、温度センサ素子10は、平面視矩形状のアルミナ質焼結体11の内側に抵抗パターン18が配設されて形成されている。抵抗パターン18は、水平方向にミアンダ形状を有しており、温度センサ素子10の長手方向に延びる複数の直線部18aが、短手方向に所定の間隔で平行に並べられ、隣り合う直線部18aの端部同士が折り返し部18bによって連結されている。抵抗パターン18の両端部には一対の電極16が形成されており、一対の電極16にはリード線(不図示)が接合されている。
一対の電極16は、白金を含有する電極ペーストが焼成されて形成されている。抵抗パターン18は、白金を主成分とする薄膜抵抗膜である。
アルミナ質焼結体11は、アルミナ(Al2O3)を99.70質量%以上含有している。アルミナ質焼結体11は、純度が99.90−99.99%のアルミナ粒子を焼成して得ることができる。抵抗パターン18を覆う焼結体の材料としては、良好な封止機能、高温による酸化、揮発、分解等が抑えられる、還元され難い、白金と反応し難い、抵抗パターン18と線膨張率が近い、耐マイグレーション力等の観点から、アルミナ粒子が用いられることが好ましいが、これらの特性を有していれば、アルミナ粒子以外でなくてもよい。例えば、マグネシアでもよい。
また、アルミナ質焼結体11は焼結助剤を含有しない。焼結助剤としては、SiO2、CaO、MgO、TiO2、B2O3等が挙げられる。焼結助剤及び後述する不純物は、高温下で反応性が高くなった抵抗パターン18の白金と反応し、抵抗値のドリフトを引き起こす。
また、アルミナ質焼結体11には微量の不純物が含まれていてもよい。不純物とは材料となるアルミナ粉末に含まれている不純物であり、高純度のアルミナ粒子でも微量の不純物が含まれている。不純物としては、Si、Na、B、Ca、Mg等が挙げられ、特にNa、Siが抵抗パターンと反応し、抵抗値ドリフトを引き起こす。アルミナ質焼結体11の不純物の含有量は、0.3質量%未満が好ましく、0.01質量%未満がより好ましい。
アルミナ質焼結体11に焼結助剤が含まれておらず、高純度のアルミナが含まれているため、アルミナの焼成時に、焼結助剤が抵抗パターン18の白金と反応せず、アルミナ粒子に含まれる不純物が抵抗パターン18の白金と反応することが防止され、抵抗値のドリフトが抑制されるため、温度センサ素子10の高い測定精度が維持される。また、アルミナ質焼結体11はガラス焼結体よりも耐熱性に優れ、焼成時や測定時の高温におけるアルミナ質焼結体11のクラックの発生が抑制される。このため、抵抗パターン18がアルミナ質焼結体11内に配設されていることで、抵抗パターン18の白金が高温の大気にさらされることが防止される。
上記のように、アルミナ質焼結体11は、アルミナを99.70質量%以上含有し、焼結助剤を含有しなければ、図4に示すように、第1の焼結層21と、第2の焼結層24とを備え、第1の焼結層21と第2の焼結層24との間に抵抗パターン18が配設される構成としてもよい。図4は、第1の実施の形態に係る温度センサ素子の他の例を示す図である。
第1の焼結層21及び第2の焼結層24の少なくとも一方は、平均粒子径が0.1−10.0μmの範囲内の異なる平均粒子径のアルミナ粒子が複数種用いられて構成されている。ここで、アルミナ質焼結体11のアルミナ粒子の平均粒子径とは、アルミナ質焼結体11の断面を、走査型電子顕微鏡によって観察し、撮影した写真の画面上で10−100個の粒子について最大径を測定し、この最大径の累積値を粒子の個数で除して算出する。このように、アルミナ質焼結体11が平均粒子径の異なる複数種のアルミナ粒子から構成されることにより、粒子間同士の空隙が小さくなり、アルミナ質焼結体11が緻密化され、焼成時のアルミナ質焼結体11のクラック発生が防止される。このため、焼成時に抵抗パターン18の白金が高温の大気によって劣化されることが防止される。
第1の焼結層21及び前記第2の焼結層24の少なくとも一方を構成するアルミナ粒子は、少なくとも3種類以上の平均粒子径のアルミナ粒子からなることが好ましい。これにより、アルミナ質焼結体11が効果的に緻密化され、焼成時のアルミナ質焼結体11のクラック発生が効果的に防止される。
第1の焼結層21及び第2の焼結層24の少なくとも一方において、含有されるアルミナは、99.99質量%以上であることが好ましい。これにより、アルミナ粒子に含まれる不純物が、抵抗パターン18の白金と反応することが効果的に防止される。
上記の条件を満たせば、第1の焼結層21及び第2の焼結層24は、グリーンシートから構成されていてもよい。
以下、第1の焼結層21と第2の焼結層24との間に抵抗パターン18が配設されて形成される温度センサ素子10について詳細に説明する。図5は、第1の実施の形態に係る温度センサ素子の他の例を示す図である。図5の上図は、温度センサ素子10を走査型電子顕微鏡で観察した図であり、下図は、図1におけるA−A線に沿う断面図に該当する。
図5に示すように、第1の焼結層21は、主面上に抵抗パターン18が形成された基板を形成し、第2の焼結層24は、抵抗パターン18を保護するように基板21の主面に積層された保護層24を形成してもよい。これにより、簡易な構成で、アルミナ質焼結体11内に抵抗パターン18を配設できる。
また、図5Aに示すように、保護層24は、抵抗パターン18を覆うように形成されるトラップ層22と、トラップ層22を覆うように形成されるオーバーコート層23とで構成されていてもよい。オーバーコート層23はトラップ層22の全体を覆っており、その周縁部は基板21の主面に密着している。図5Aの上図から、抵抗パターン18の白金の部分が、白色に観察されていることがわかる。抵抗パターン18が二層の保護層24で覆われることにより、抵抗パターン18が効果的に封止されるため、抵抗パターン18の白金が高温の大気にさらされることが防止される。このため、抵抗パターン18の抵抗値のドリフトが抑制される。
オーバーコート層23を構成するアルミナ粒子の平均粒子径は、トラップ層22を構成するアルミナ粒子の平均粒子径よりも大きいことが好ましい。保護層24において、アルミナ粒子の平均粒子径を、抵抗パターン18から離間する方向に大きくすることで、アルミナ質焼結体11が効果的に緻密化された状態となる。
図5Bに示すように、トラップ層32は、白金を含有するように形成されていてもよい。図5Bの上図から、白色に観察される抵抗パターン18の周辺に、トラップ層32に含有される白金が白い点状に観察されていることがわかる。抵抗パターン18を覆うトラップ層32が白金を含有することで、焼成時や高温下での温度センサ素子10の使用時に、抵抗パターン18の白金の反応性が高くなった場合であっても、トラップ層32の白金が、大気中の酸素やアルミナ質焼結体11の不純物と反応する。これにより、抵抗パターン18の白金の反応が抑えられるため、抵抗パターン18の劣化が防止され、抵抗値のドリフトが効果的に抑制される。
トラップ層32は、白金を2体積%以上30体積%以下含有することが好ましい。トラップ層32の白金が2体積%以上であれば、トラップ層32が抵抗パターン18の白金の反応を抑える機能を効果的に発揮できる。30体積%以下であれば、トラップ層32の白金が導通することを防止し、抵抗パターン18の抵抗値が低下することを防止できる。
図5Cに示すように、トラップ層42は、抵抗パターン18を覆うように形成される第1のトラップ層42aと、第1のトラップ層42a上に積層される第2のトラップ層42bとで形成されていてもよい。第1のトラップ層42aの白金の含有率は、第2のトラップ層42bの白金の含有率よりも低くなっている。図5Cの上図から、白色に観察される抵抗パターン18の上方に、第1のトラップ層42a上に積層される第2のトラップ層42bに含有される白金が白い点状に観察されていることがわかる。
このように、抵抗パターン18と第2のトラップ層42bとの間に、白金の含有率が低い第1のトラップ層42aを介在させることで、トラップ層42に含まれる白金による導通を抑えることができる。これにより、抵抗パターン18の抵抗値の低下を抑えながら、白金の含有率の高い第2のトラップ層42bの白金を大気中の酸素やアルミナ質焼結体11の不純物と反応させ、抵抗パターン18の反応を効果的に抑えることができる。これにより、抵抗パターン18の抵抗値のドリフトが効果的に抑制される。
第1のトラップ層42aは、白金を0体積%以上10体積%以下含有し、第2のトラップ層42bは、白金を2体積%以上30体積%以下含有することが好ましい。これにより、比較的白金の含有率の低い第1のトラップ層42aで抵抗パターン18の抵抗値の低下を効果的に抑えながら、比較的白金の含有率の高い第2のトラップ層42bで、抵抗パターン18と酸素及び不純物との反応をより効果的に抑えることができる。
次に、上記のように構成された温度センサ素子10の製造工程について説明する。図6は、第1の実施の形態に係る温度センサ素子の製造工程の説明図である。
まず、高純度のアルミナから形成されるセラミックス基板21(図5C参照)を準備する。セラミックス基板21は、アルミナを99.70質量%以上含有していることが好ましく、99.99質量%以上含有していることがより好ましい。
次に、抵抗パターン18を形成する。セラミックス基板21の表面に白金を蒸着し、熱処理により安定化する。そして、フォトリソグラフィとエッチングにより白金膜をパターニングすることにより、セラミックス基板21の各チップ領域にミアンダ形状の抵抗パターン18(図1参照)を形成する。
次に、電極16(図3参照)を形成する。セラミックス基板21の表面に、抵抗パターン18の両端部を覆うように、白金を含有する電極ペーストをスクリーン印刷する。そして、これを乾燥し約1400℃で焼成することにより、抵抗パターン18の両端部に接続する一対の電極16を形成する。そして、抵抗パターン18の抵抗値を調整する。
次に、保護層24(図5C参照)の材料を秤量する。具体的には、アルミナ粒子と、適量の有機バインダ及び有機溶媒等とを混合し、アルミナペーストを作製する。アルミナペーストをスクリーン印刷することにより、第1のトラップ層42a、第2のトラップ層42b、及びオーバーコート層23(図4C参照)が形成される。
第1のトラップ層42aの形成に用いられるアルミナペーストをアルミナペーストA、第2のトラップ層42bに用いられるアルミナペーストをアルミナペーストB、オーバーコート層23に用いられるアルミナペーストをアルミナペーストCとする。アルミナペーストA−Cに用いられるアルミナ粒子は、純度が99.90−99.99%のアルミナ粒子から調整されることが好ましい。これにより、焼成して得られるアルミナ質焼結体11に含有されるアルミナを、好ましくは99.70質量%以上、より好ましくは99.90質量%以上にすることができる。また、不純物の含有量を非常に低くできるため、アルミナ粒子の焼成時に不純物と抵抗パターン18とが反応することを防止できる。
また、アルミナ粒子は、0.1−10.0μmの複数種の異なる平均粒子径のアルミナ粒子が用いられることが好ましく、少なくとも3種類以上の平均粒子径のアルミナ粒子が用いられることがより好ましい。これにより、アルミナ粒子を焼成して得られるアルミナ質焼結体11を緻密化でき、焼成時のアルミナ質焼結体11のクラック発生が防止される。
アルミナペーストA−Cには、焼結助剤を添加しない。これにより、アルミナ粒子の焼成時に、焼結助剤が抵抗パターン18の白金と反応することが防止され、抵抗パターン18の抵抗値のドリフトが抑制される。
アルミナペーストAは、白金を0体積%以上30体積%以下含有することが好ましく、0体積%以上10体積%以下含有することがより好ましい。例えば、アルミナペーストAは、アルミナ粒子98体積%、白金2体積%となるように混合される。アルミナペーストAは、後述するアルミナペーストBよりも低い含有率で白金を含有させることが好ましい。これにより、抵抗パターン18と第2のトラップ層42bとの間に、白金の含有率の低い第1のトラップ層42aを形成できる。このため、温度センサ素子10において、第1のトラップ層42aで抵抗パターン18の抵抗値の低下を抑えながら、白金の含有率の高い第2のトラップ層42bで抵抗パターン18の不純物及び酸素との反応を効果的に抑えることができる。
アルミナペーストBは、白金を2体積%以上30体積%以下含有することが好ましい。例えば、アルミナペーストBは、アルミナ粒子90体積%、白金10体積%となるよう混合される。アルミナペーストBは、アルミナペーストAよりも高い含有量で白金を含有させることが好ましい。
アルミナペーストCにおいては、アルミナペーストB、Cよりも平均粒子径が大きいアルミナ粒子を含有することが好ましい。これにより、抵抗パターン18に近いトラップ層42のアルミナ粒子の平均粒子径よりも、トラップ層42を覆うオーバーコート層23のアルミナ粒子の平均粒子径を大きくすることでき、アルミナ質焼結体11を効果的に緻密化させることができる。
次に、第1のトラップ層42a(図5C参照)を形成する。セラミックス基板21の表面に、抵抗パターン18と一対の電極16の一部を覆うように、アルミナペーストAをスクリーン印刷する。そして、これを乾燥して、800−1500℃で焼成する。これにより、抵抗パターン18を覆う第1のトラップ層42aを形成する。第1のトラップ層42aは、抵抗パターン18を覆いながら、抵抗パターン18の周囲に露出するセラミックス基板21の表面に密着する。
次に、第2のトラップ層42bを形成する。第1のトラップ層42a上に、アルミナペーストBをスクリーン印刷する。そして、これを乾燥して、1400−1700℃で焼成する。これにより、第2のトラップ層42bが第1のトラップ層42a上に積層される。第2のトラップ層42bの周縁部は、第1のトラップ層42aの外側に露出するセラミックス基板21の表面に密着してもよい。第1のトラップ層42aと第2のトラップ層42bでトラップ層42が形成される。
次に、オーバーコート層23を形成する。第2のトラップ層42b上に、アルミナペーストCをスクリーン印刷する。そして、これを乾燥して、1400−1700℃で焼成する。これにより、トラップ層42を覆うように、オーバーコート層23が形成される。オーバーコート層23の周縁部は、トラップ層42の外側に露出するセラミックス基板21の表面に密着する。この結果、アルミナを主成分として白金を含有する内層のトラップ層42と、アルミナを主成分として白金を含有しない外層のオーバーコート層23からなる積層構造の保護層24が形成される。
次に、切削して分割し、セラミックス基板21を個片化して、図5Cに示す基板21と同等の大きさのチップを作製する。各チップに形成される一対の電極16にリード線を溶接し、溶接個所をポッティングガラス等の強化膜で覆って焼成することにより、温度センサ素子10が得られる。
このようにして温度センサ素子10を作製することで、抵抗パターン18を囲うアルミナ質焼結体11が、好ましくはアルミナを99.70質量%以上、より好ましくは99.99質量%以上含有するように、アルミナ質焼結体11を形成できる。これにより、焼結助剤が抵抗パターン18の白金と反応せず、不純物が抵抗パターン18と反応することが防止されるため、抵抗パターン18の抵抗値のドリフトが抑制され、温度センサ素子10を高温下で連続的に使用しても、高い測定精度が維持される。
次に、第2の実施の形態に係る温度センサ素子70について説明する。第2の実施の形態は、第1の焼結層21及び第2の焼結層24が、グリーンシートから構成される。第1の実施の形態と相違している部分を主に説明する。図7は、第2の実施の形態に係る温度センサ素子の断面図である。図7は、図1におけるB−B線に沿う断面図に該当する。
図7に示すように、第2の実施形態に係る温度センサ素子70は、抵抗パターン78がグリーンシート61−67の間に配設されて形成される積層体が、複数積層されて形成されている。グリーンシート61−67は互いに密着してアルミナ質焼結体を構成しており、上層及び下層のグリーンシート61、67に挟まれて内層のグリーンシート62、63、64、65、66が配置されている。積層された抵抗パターン78同士は、アルミナ質焼結体11(図1参照)を貫通する貫通導体79によって接続されている。
積層された抵抗パターン78の上端または下端には貫通導体79を介して電極76が形成されており、電極76にはリード線が接合されている。電極76及び抵抗パターン78は、焼結体75によって封止されている。抵抗パターン78の封止は、耐熱性の観点から、アルミナ質焼結体で行われることが好ましいが、耐熱性が維持できればガラス焼結体で行われてもよい。
抵抗パターン78を囲むアルミナ質焼結体11がグリーンシート61−67で構成されることにより、アルミナ質焼結体11が効果的に焼結し、抵抗パターン78が効果的に封止される。これにより、抵抗パターン78の白金が高温の大気にさらされることが効果的に防止される。
アルミナ質焼結体11に用いられるグリーンシート61−67は、アルミナ粒子を有機バインダ及び有機溶媒とともに混合したものをシート状に成形し、これを焼成して形成されている。積層されたグリーンシート61−67のうち、上層及び下層のグリーンシート61、67を構成するアルミナ粒子の平均粒子径は、内層のグリーンシート62、63、64、65、66を構成するアルミナ粒子の平均粒子径よりも大きいことが好ましい。アルミナ粒子の平均粒子径を、内層のグリーンシート62、63、64、65、66から上層及び下層のグリーンシート61、67に向かって大きくすることで、アルミナ質焼結体が効果的に緻密化された状態となる。
次に、上記のように構成された温度センサ素子70の製造工程について説明する。図8は、第2の実施の形態に係る温度センサ素子の製造工程の説明図である。
まず、グリーンシートの材料を秤量する。そして、アルミナ粒子と、適量の有機バインダ、有機溶媒、可塑剤、分散剤等とを混合して、スラリーを作製する。後述するように、スラリーが乾燥されてグリーンシート61−67(図7参照)が得られる。
アルミナ粒子は、純度が99.90−99.99%のアルミナ粒子から調整されることが好ましい。これにより、焼成して得られるアルミナ質焼結体11(図1参照)に含有されるアルミナを、好ましくは99.70質量%以上、より好ましくは99.90質量%以上にすることができる。
また、アルミナ粒子は、0.1−10.0μmの複数種の異なる平均粒子径のアルミナ粒子が用いられることが好ましく、少なくとも3種類以上の平均粒子径のアルミナ粒子が用いられることがより好ましい。これにより、アルミナ粒子を焼成して得られるアルミナ質焼結体11を緻密化できる。また、スラリーには、焼結助剤を添加しない。
また、上層及び下層のグリーンシート61、67に用いられるスラリーのアルミナ粒子の平均粒子径は、内層のグリーンシート62、63、64、65、66に用いられるスラリーのアルミナ粒子の平均粒子径よりも大きいことが好ましい。これにより、アルミナ粒子の平均粒子径を、内層のグリーンシート62、63、64、65、66から上層及び下層のグリーンシート61、67に向かって大きくすることができ、アルミナ質焼結体11を効果的に緻密化させることができる。
次に、グリーンシート61−67を成形する。スラリーをシート状に成形し、乾燥させることで、グリーンシートが得られる。
次にグリーンシートのカット、穴あけを行う。グリーンシート61−67を切断加工し、所定の寸法にする。また、グリーンシートを打ち抜き加工し、グリーンシートの所定の位置に貫通穴を形成する。
次に、印刷により抵抗パターン78を形成する。グリーンシート61−67の所定の位置に、白金を主成分とする導体ペーストをスクリーン印刷して乾燥することで、抵抗パターン78を形成する。
次に、グリーンシート61−67を重ね合わせる。そして、貫通穴内に導体ペーストをスクリーン印刷により充填し乾燥することで、貫通導体79を形成する。
次に、上記のようにして積層させたグリーンシート61−67をプレスする。最初に、内層のグリーンシート62、63、64、65、66を重ね合わせた後、熱圧着により一体化し、下層のグリーンシート61、焼成した内層のグリーンシート62、63、64、65、66、上層のグリーンシート67を重ね合わせた後、熱圧着により一体化する。そして、1400−1700℃で焼成する。
次に、電極76を形成する。重ね合わされたグリーンシート61−67のうち上層又は下層のグリーンシート61、67に形成されている抵抗パターン78に、白金を含有する電極ペーストをスクリーン印刷する。そして、これを乾燥、脱バインダし、約1400℃で焼成することにより、抵抗パターン78に接続する電極76を形成する。抵抗値を測定しながら抵抗値を調整する。
次に、グリーンシート61−67を個片化する。グリーンシート61−67を分割溝に沿って分割してチップを作製し、各チップに形成される電極76にリード線を溶接し、抵抗値調整及び溶接個所を強化膜で覆って焼成することにより、温度センサ素子70が得られる。抵抗パターン78の封止は、耐熱性の観点から、アルミナ質焼結体75で行うことが好ましいが、耐熱性が維持できればガラス焼結体で行ってもよい。
このようにして温度センサ素子70を作製することで、抵抗パターン78を囲うアルミナ質焼結体11が、好ましくはアルミナを99.70質量%以上、より好ましくは99.99質量%以上含有するようにアルミナ質焼結体11を形成できる。これにより、焼結助剤が抵抗パターン78の白金と反応せず、不純物が抵抗パターン78と反応することが防止されるため、抵抗パターン78の抵抗値のドリフトが抑制される。
次に、第3の実施の形態に係る温度センサ素子80について説明する。第3の実施の形態は、基板81に形成された抵抗パターン88に保護板82が乗せられて形成されている。第1の実施の形態と相違している部分を主に説明する。図9は、第3の実施の形態に係る温度センサ素子の断面図である。図9は、図1におけるB−B線に沿う断面図に該当する。
図9に示すように、第3の実施形態に係る温度センサ素子80においては、第1の焼結層21は、主面上に抵抗パターン88が形成された基板81を形成し、第2の焼結層24は、抵抗パターン88に乗せられた保護82を形成していてもよい。基板81の主面には電極86が形成され、電極86と抵抗パターン88とは配線89によって接続されている。抵抗パターン88と保護板82は、焼結体83によって封止されている。
抵抗パターン88の封止は、耐熱性の観点から、アルミナ質焼結体で行われることが好ましいが、耐熱性が維持できればガラス焼結体で行われてもよい。アルミナ質焼結体はガラス焼結体よりも耐熱性に優れ、高温におけるアルミナ質焼結体のクラックの発生が抑制されるため、抵抗パターン88がアルミナ質焼結体内に配設されることで、抵抗パターン88の白金が高温の大気にさらされて劣化することが防止される。
以下、本実施形態を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本実施形態は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
セラミックス基板21上に形成された抵抗パターン18を保護層24で覆い、温度センサ素子10を作製した(図5A参照)。
[セラミックス基板]
アルミナを99.99質量%以上含有しているセラミックス基板21を準備した。
[アルミナペーストの作製]
トラップ層22の形成に用いられるアルミナペースト(1)、オーバーコート層23の形成に用いられるアルミナペースト(2)を作製した。各アルミナペーストに、純度が99.90−99.99%のアルミナ粒子を含有させ、焼成して得られる保護層24(アルミナ質焼結体)が、アルミナを93.97質量%、94.90質量%、98.50質量%、98.10質量%、99.00質量%、99.20質量%、99.50質量%、99.70質量%、99.90質量%、99.95質量%、99.99質量%含有するように、アルミナ粒子を調整した。また、各アルミナペーストにおいて、0.1−10.0μmの範囲内で3種類の平均粒子径のアルミナ粒子を、適量の有機バインダ及び有機溶媒とともに混合した。アルミナペースト(2)には、アルミナペースト(1)よりも平均粒子径が大きいアルミナ粒子を用いた。また、99.50質量%以上の純度の各アルミナペーストは、アルミナ粒子の不純物の含有量を調整し焼結助剤を添加しなかった。99.20質量%未満のアルミナペーストにおいては、MgO、SiO2、CaOの焼結助剤を添加して純度の調整を行った。
[温度センサ素子の作製]
セラミックス基板21の表面に、スパッタ蒸着により白金膜を形成し、パターニングしてミアンダ形状の抵抗パターン18(図1及び図5A参照)を形成した。そして、抵抗パターン18の両端部に一対の電極16を形成した。次に、抵抗パターン18と一対の電極16を覆うように、アルミナペースト(1)をスクリーン印刷し、これを焼成してトラップ層22を形成した。そして、トラップ層22上に、アルミナペースト(2)をスクリーン印刷し、これを焼成してオーバーコート層23を形成した。次に、セラミックス基板21を個片化し、一対の電極16にリード線を溶接して、温度センサ素子10を得た。
[通電試験]
作製した、保護層24のアルミナ質焼結体が、アルミナを93.97質量%、94.90質量%、98.50質量%、98.10質量%、99.00質量%、99.20質量%、99.50質量%、99.70質量%、99.90質量%、99.95質量%、99.99質量%含有する温度センサ素子10を用いて、通電試験を実施した。温度センサ素子10に通電し、温度が1100℃に達して安定した状態で抵抗パターン18の抵抗値を測定した。この抵抗値を起点とし、この抵抗値からの時間に伴う抵抗値の変化率を算出した。結果を図10に示す。図10は、実施例に係る温度センサ素子の通電試験の結果を示す。
目標値は、250時間後における抵抗パターン18の抵抗値の変化率が2%未満である。目標の時間の4分の1である62時間後の抵抗値の変化率が2%未満であるのは、保護層24のアルミナが99.70質量%以上の温度センサ素子10であった。また、62時間後の抵抗値の変化率が0.5%未満であるのは、保護層のアルミナが99.99質量%の温度センサ素子10であった。
この結果から、温度センサ素子10のアルミナ質焼結体に含まれるアルミナは、99.70質量%以上であることが好ましく、99.99質量%以上であることがより好ましいことがわかった。アルミナ質焼結体のアルミナが高純度であり、焼結助剤を含有しないと、アルミナ粒子の焼成時に、不純物が抵抗パターン18の白金と反応することが防止され、抵抗パターン18の抵抗値のドリフトが抑制されたことが考えられる。
保護層24のアルミナが99.99質量%である温度センサ素子10の断面を、走査型電子顕微鏡で観察した結果を図11に示す。図11は、実施例に係るアルミナ質焼結体のアルミナが99.99質量%の温度センサ素子を示す図である。図11に示すように、セラミックス基板21の表面に形成される抵抗パターン18がトラップ層22に覆われ、トラップ層22にオーバーコート層23が積層されていることがわかった。比較的平均粒子径が大きいアルミナ粒子が焼成されて形成されたオーバーコート層23は、比較的平均粒子径が小さいアルミナ粒子が焼成されて形成されたトラップ層22よりもボイドが少なく、緻密に形成されていることがわかった。
図11の保護層24を拡大して、保護層24を構成するアルミナ粒子を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図12に示す。図12は、実施例に係る99.99質量%のアルミナが含まれる保護層を構成するアルミナ粒子を示す図である。図12の右図と左図は、それぞれ保護層24の別の位置を示しており、平均粒子径が2−3μm程度のアルミナ粒子が丸で囲まれている。図12に示すように、保護層24に、平均粒子径が2−3μm程度のアルミナ粒子と、その周囲にこれらアルミナ粒子よりも平均粒子径の小さいアルミナ粒子が含まれている様子が観察された。保護層24が平均粒子径の異なる複数種のアルミナ粒子から構成されることにより、保護層24が緻密化されていることがわかった。
保護層24の表面を観察した結果を図13に示す。図13は、温度センサ素子を上方から観察した図である。図13Aは、アルミナが99.99質量%含まれる保護層24から形成される温度センサ素子10を示し、図13Bは、アルミナが99.50質量%含まれる保護層から形成される温度センサ素子を示している。アルミナが99.99質量%含まれる保護層24及びアルミナが99.50質量%含まれる保護層に夫々染色液を滴下して、表面の状態を観察した。図13に示すように、アルミナが99.99質量%含まれる保護層24の表面にはクラックが発生していなかったが、アルミナが99.50質量%含まれる保護層の表面には複数のクラックが発生していた。
以上のように、本実施の形態の温度センサ素子10によれば、アルミナ質焼結体11のアルミナが高純度であり、焼結助剤を含有しない。このため、アルミナの焼成時に、焼結助剤が抵抗パターン18の白金と反応することがなく、アルミナに含まれる不純物が、抵抗パターン18の白金と反応することが防止される。これにより、白金のTCRが維持され、抵抗パターン18の抵抗値のドリフトが抑制されるため、高い測定精度が維持される。また、アルミナ質焼結体11はガラス焼結体よりも耐熱性に優れ、高温におけるアルミナ質焼結体11のクラックの発生が抑制されるため、抵抗パターン18がアルミナ質焼結体11内に配設されることで、白金が高温の大気にさらされて劣化することが防止される。
上記実施の形態においては、抵抗パターン18は、温度センサ素子10の長手方向に延びる複数の直線部が、短手方向に所定の間隔で平行に並べられる構成としたが、抵抗パターン18がミアンダ上に形成されれば、温度センサ素子10の短手方向に延びる複数の直線部18aが、長手方向に所定の間隔で平行に並べられる構成としてもよい。また、一対の電極16は、短手方向両端に配置される構成としたが、長手方向両端に配置されていてもよい。
また、本発明の各実施の形態を説明したが、本発明の他の実施の形態として、上記各実施の形態を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
また、本発明の実施の形態は上記の各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
本実施の形態では、本発明を温度センサ素子に適用した構成について説明したが、白金で構成される抵抗パターンが焼結体で封止される他の装置に適用することも可能である。