以下、本発明について詳細に説明する。
[式(1a)及び(1b)で表されるヒドラジド化合物]
本発明のヒドラジド化合物は、前記(1a)及び(1b)で表すことができる。
上記式(1a)及び(1b)において、置換基R1としては、特に限定されず、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、カルボキシル基、炭化水素基[例えば、アルキル基、シクロアルキル基(シクロヘキシル基などのC6−10シクロアルキル基)、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]、アシル基(例えば、メチルカルボニル、エチルカルボニルなどのアルキルカルボニル基)などが例示できる。置換基R1は、アルキル基などである場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−12アルキル基(例えば、C1−8アルキル基、特にメチル基などのC1−4アルキル基)などが例示できる。
なお、係数kが複数(2〜4)である場合、複数の置換基R1の種類は同一又は異なっていてもよい。また、異なるベンゼン環に置換した置換基R1の種類は、同一又は異なっていてもよい。また、置換基R1の結合位置(置換位置)は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2位、7位、2および7位などであってもよい。好ましい係数kは、0〜1、特に0である。なお、2つの係数kは、同一又は異なっていてもよい。
前記式(1a)及び(1b)において、基R2a,R2bおよびR2cは二価の炭化水素基を示す。この炭化水素基に対応する炭化水素としては、例えば、非環状脂肪族炭化水素[例えば、アルカン(例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどのC1−12アルカン、好ましくはC1−8アルカン、さらに好ましくはC1−4アルカン、特にC1−2アルカン)、アルケン(例えば、エチレン、プロペン、ブテン、ペンテンなどのC2−10アルケン)など]、脂環式炭化水素[例えば、シクロアルカン(例えば、シクロペンタン、シクロヘキサンなどのC5−10シクロアルカン、好ましくはC5−8シクロアルカン)、アルキルシクロアルカン(例えば、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンなどのC1−4アルキルC5−10シクロアルカン、好ましくはC1−2アルキルC5−8シクロアルカン)、橋架環式炭化水素(例えば、ノルボルナン、アダマンタンなど)など]などの脂肪族炭化水素;単環式アレーン{ベンゼン、アルキルベンゼン[例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼンなどのC1−4アルキルベンゼン]、アルケニルベンゼン(例えば、スチレンなどのC2−10アルケニル−ベンゼン)など}、多環式アレーン(例えば、ナフタレン、アントラセン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレンなどの縮合多環式アレーン)などの芳香族炭化水素が含まれる。
炭化水素(又は炭化水素基)は、置換基を有していてもよい。置換基としては、特に限定されず、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1−10アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロへキシル基などのC5−8シクロアルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6−10アリール基など)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基などのC1−8アルコキシ基など)、シクロアルキルオキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)などの基−OR[式中、Rは炭化水素基(前記例示の炭化水素基など)を示す];アルキルチオ基(メチルチオ基などのC1−8アルキルチオ基など)などの基−SR(式中、Rは前記と同じ。);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。好ましい置換基は、炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基(トリル基、キシリル基など)、ナフチル基などのC6−10アリール基など)が挙げられる。これらの置換基は、単独で又は2種以上組み合わせて炭化水素基に置換してもよい。
具体的な置換基を有していてもよい二価の炭化水素基としては、例えば、2価の脂肪族炭化水素基{例えば、アルキレン基(又はアルキリデン基)(例えば、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、トリメチレン基、プロピレン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、テトラメチレン基、2−メチルプロパン−1,3−ジイル基、ブタン−1,2−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基、ブタン−2−イリデン基、ブタン−2,3−ジイル基、ペンタメチレン基、ペンタン−2,3−ジイル基、ヘキサメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−12アルキレン基、好ましくはC1−8アルキレン基(例えば、C2−8アルキレン基)、さらに好ましくはC1−4アルキレン基(例えば、エチレン基、プロピレン基、1,2−ブタンジイル基などのC2−4アルキレン基)、特にC1−2アルキレン基又はC2−3アルキレン基)、アリールアルキレン基[例えば、フェニルエチレン基などのC6−10アリールC1−4アルキレン基、好ましくはC6−8アリールC1−2アルキレン基など]などの置換基を有していてもよいアルキレン基;シクロアルキレン基(例えば、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基(1,4−シクロへキシレン基など)などのC5−10シクロアルキレン基、好ましくはC5−8シクロアルキレン基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキレン基)、アルキルシクロアルキレン基(例えば、メチルシクロへキシレン基などのC1−4アルキルC5−10シクロアルキレン基)などの置換基を有していてもよいシクロアルキレン基;アルキレン−シクロアルキレン基{例えば、メチレン−シクロへキシレン基[−CH2−C6H10−](メチレン−1,4−シクロへキシレン基など)、エチレン−シクロへキシレン基[−CH2CH2−C6H10−](エチレン−1,4−シクロへキシレン基など)、エチリデン−シクロへキシレン基[−CHCH3−C6H10−](エチリデン−1,4−シクロへキシレン基など)などのC1−4アルキレン−C5−10シクロアルキレン基、好ましくはC1−2アルキレン−C5−8シクロアルキレン基など}などの置換基を有してもよいアルキレン−シクロアルキレン基;アルキレン−アリーレン基(例えば、メチレン−フェニレン基、エチレン−フェニレン基などのC1−4アルキレン−C6−10アリーレン基)などの置換基を有していてもよいアルキレン−アリーレン基;アルキレン−アリーレン−アルキレン基(例えば、メチレン−フェニレン−メチレン(キシリレン)基などのC1−4アルキレン−C6−10アリーレン−C1−4アルキレン基)などのアルキレン−アリーレン−アルキレン基}、2価の芳香族炭化水素基[例えば、アリーレン基(例えば、フェニレン基、ナフチレン基などのC6−10アリーレン基)、アルキルアリーレン基(例えば、メチルフェニレン基、ジメチルフェニレン基などのC1−4アルキルC6−10アリーレン基)などの置換基を有していてもよいアリーレン基]などが挙げられる。
好ましい2価の炭化水素基R2aは、アルキレン基(直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基)、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、2−エチルエチレン基、2−メチルプロパン−1,3−ジイル基などのC1−10アルキレン基、好ましくはC1−6アルキレン基、さらに好ましくはC1−4アルキレン基などである。また、好ましい2価の炭化水素基R2bにはアルキレン基(例えば、C1−10アルキレン基、好ましくはC1−4アルキレン基)などが含まれる。
アルキレン基の置換基としては、例えば、アリール基(フェニル基など)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基など)などが例示できる。
R2a及びR2bは直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルキレン基(例えば、エチレン基、プロピレン基)である場合が多く、R2cは直鎖状又は分岐鎖状C1−3アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基)である場合が多い。置換基を有するアルキレン基R2a及びR2bは、例えば、1−フェニルエチレン基、1−フェニルプロパン−1,2−ジイル基などであってもよい。
代表的なヒドラジド化合物としては、前記式(1a)において、R2a及びR2bがそれぞれアルキレン基又はシクロアルキレン基である化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドラジノカルボニルアルキル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(ヒドラジノカルボニルメチル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドラジノカルボニルエチル)フルオレン、9,9−ビス(1−ヒドラジノカルボニルエチル)フルオレン、9,9−ビス(1−ヒドラジノカルボニルプロピル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドラジノカルボニルプロピル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドラジノカルボニル−1−メチルエチル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドラジノカルボニル−1−メチルプロピル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドラジノカルボニル−ブチル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドラジノカルボニル−1−メチルブチル)フルオレン、9,9−ビス(5−ヒドラジノカルボニルペンチル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドラジノカルボニルC1−6アルキル)フルオレンなど]、9,9−ビス(ヒドラジノカルボニルシクロアルキル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(ヒドラジノカルボニルシクロヘキシル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドラジノカルボニルC5−8シクロアルキル)フルオレンなど]などが挙げられる。
前記式(1a)で表される好ましい化合物は、R2a及びR2bがC2−6アルキレン基である化合物、例えば、9,9−ビス(2−ヒドラジノカルボニルエチル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドラジノカルボニルプロピル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドラジノカルボニルC2−6アルキル)フルオレンなどを含む。前記式(1b)で表される好ましい化合物は、n=0であり、かつR2cがC1−6アルキレン基である化合物、例えば、9−(1−ヒドラジノカルボニル−2−ヒドラジノカルボニルエチル)フルオレン;n=1であり、かつR2cがC1−6アルキレン基である化合物、例えば、9−(2−ヒドラジノカルボニル−3−ヒドラジノカルボニルプロピル)フルオレンなどの9−(ヒドラジノカルボニル−ヒドラジノカルボニルC2−6アルキル)フルオレンなどを含む。ヒドラジド化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
これらのうち、好ましいヒドラジド化合物には、例えば、9,9−ビス(ヒドラジノカルボニルアルキル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(ヒドラジノカルボニルエチル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドラジノカルボニルプロピル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドラジノカルボニルC2−4アルキル)フルオレン、特に9,9−ビス(ヒドラジノカルボニルエチル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドラジノカルボニルプロピル)フルオレン]から選択された少なくとも1種(9,9−ビス(ヒドラジノカルボニルアルキル)フルオレン)などが含まれる。
[式(1a)及び(1b)で表される化合物の製造方法]
式(1a)及び(1b)で表される本発明のヒドラジド化合物は、下記式(2a)及び(2b)で表されるジカルボン酸又はそのアルキルエステルと、ヒドラジン一水和物とを混合して反応させることにより調製できる。
(式中、R3は水素原子又はアルキル基を示し、R1、k、R2a、R2b、R2c及びnは前記に同じ)
式(2a)及び(2b)において、R3で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基が例示でき、特にメチル基が好ましい。
式(2a)及び(2b)で表されるジカルボン酸又はそのアルキルエステルは、慣用の方法で調製でき、例えば、フルオレンとカルボン酸又はそのエステルの付加反応、フルオレンに対する不飽和カルボン酸又はそのエステルのマイケル付加反応などにより調製できる。
式(2a)及び(2b)で表されるジカルボン酸又はそのアルキルエステルと、ヒドラジン一水和物とを、適当な温度(例えば、0〜30℃)で混合した後、反応温度(例えば、40〜120℃、好ましくは50〜100℃、さらに好ましくは60〜100℃程度)で、適当な時間(例えば、30分〜24時間、好ましくは1〜10時間程度)反応させることにより、ヒドラジド化合物を合成できる。
この反応工程では、必ずしも溶媒を必要とはしないが、溶媒(水、水溶性有機溶媒)の存在下で行うのが好ましい。水溶性有機溶媒としては、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジチルアセトアミドなど)、N−メチルピロリドンなどが例示できる。これらの溶媒は混合溶媒として使用してもよい。好ましい溶媒は、水、アルコールであり、特にアルコール(中でもイソプロパノール)である。
なお、水和ヒドラジンは、例えば、前記溶媒の非存在下、好ましくは前記溶媒に上記ジカルボン酸アルキルエステルを溶解させた溶液に対して、0℃〜30℃程度の温度で、滴下することができる。
水和ヒドラジンの使用量は、カルボン酸化合物又はそのアルキルエステル1モルに対し、1〜20モル、好ましくは2.5〜17モル、さらに好ましくは5〜15モル程度であってもよい。
反応の終点は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などによって確認することができる。なお、反応溶媒としてアルコール(例えば、イソプロパノール)を用いると、生成したヒドラジド化合物の溶解性の低さから、目的化合物が白色結晶として、析出する。従って、濾別し、乾燥することによって、容易に本願発明のヒドラジド化合物を得ることができる。
生成したヒドラジド化合物は、必要により、濾過、再結晶、抽出などの慣用の分離精製手段により精製してもよい。
[硬化剤又は架橋剤]
本発明の硬化剤又は架橋剤は、少なくとも前記ヒドラジド化合物を含んでいればよく、必要であれば、第2のヒドラジド化合物を含んでいてもよい。
第2にヒドラジド化合物の種類は特に制限されず、例えば、アルカンポリカルボン酸ヒドラジド(前記特許文献1及び2に記載にトリヒドラジド及びテトラヒドラジドの他、アジピン酸ジヒドラジド、ラウリン酸ヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジカルボン酸ジヒドラジドなどのアルカンジカルボン酸ジヒドラジドなど)、シクロアルカンポリカルボン酸ヒドラジド(シクロヘキサンジカルボン酸ジヒドラジド、特許文献3に記載の2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド、ノルボルナンジカルボン酸ジヒドラジド、アダマンタンジカルボン酸ジヒドラジドなど)、アレーンポリカルボン酸ヒドラジド(テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ナフタレンジカルボン酸ジヒドラジドなど)、複素環を有するポリヒドラジド(例えば、特許文献4に記載のヒドラジド、特許文献5に記載のトリス(2−ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレートなどのイソシアヌレート環を有するヒドラジドなど)などであってもよい。
さらに、必要であれば、ジシアンジアミド類、グアナミン類、メラミン類、三フッ化ホウ素−アミンアダクトなどを第2の硬化剤として使用してもよい。
前記硬化剤は、第1のヒドラジド化合物(又は硬化剤)と第2のヒドラジド化合物(又は第2の硬化剤)とを、前者/後者(重量比)=5/95〜100/0程度の割合で含んでいてもよく、通常、10/90〜100/0(例えば、20/80〜95/5)、好ましくは25/75〜90/10(例えば、30/70〜85/15)程度であってもよい。
[本発明の硬化性組成物および硬化物]
本発明のヒドラジド化合物は、反応性官能基を有する樹脂(又はオリゴマー)の硬化剤(又は潜在性硬化剤)又は架橋剤として有用であり、フルオレン骨格を有するためか、耐熱性(高いガラス転移温度)、高温での機械的特性(弾性率など)に優れているとともに、吸水性が低く、耐湿性を向上できる。
前記反応性官能基を有する樹脂(又はオリゴマー)としては、ヒドラジド基に対して反応性を有する反応性基、例えば、エポキシ基(又はオキシラン環)、チオエポキシ基、カルボニル基(アルデヒド性カルボニル基及びケトン性カルボニル基、カルボキシ基、酸無水物基)、イソシアネート基などを有する樹脂(又はオリゴマー)が例示できる。具体的には、エポキシ系樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート系樹脂、チオエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂(カルボニル基、カルボキシ基、酸無水物基を有するアクリル系単独又は共重合体)、スチレン系樹脂(カルボニル基、カルボキシ基、酸無水物基を有するスチレン系単独又は共重合体)、イソシアネート基を有するウレタン系樹脂(ウレタンプレポリマーなど)などが例示できる。これらの樹脂は、アクリル系樹脂エマルジョン、スチレン系樹脂エマルジョンなどのように、水性分散体であってもよい。これらの反応性基を有する樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの樹脂のうち、エポキシ基及び/又はカルボニル基を有する樹脂、特にエポキシ系樹脂が好ましい。すなわち、本発明のヒドラジド化合物は、エポキシ系樹脂の硬化剤として機能し、ヒドラジド化合物とエポキシ樹脂を含む硬化性組成物は、高い一液(ワンポット)貯蔵安定性を示すとともに、を示す。
エポキシ系樹脂の種類は特に制限されず、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型、不飽和二重結合を酸化してエポキシ化したエポキシ化合物などであってもよい。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物(又は樹脂)としては、例えば、フェノール、t−ブチルフェノールなどのアレンモノオールのグリシジルエーテル化合物、アリルアルコールなどのアルケンモノオールのグリシジルエーテル化合物、メタノール、ブタノール、s−ブタノール、2−エチルヘキサノール、2−メチルオクタノール、ステアリルアルコールなどのアルカンモノオール類のグリシジルエーテル化合物などのモノオールのグリシジルエーテル化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ポリアルキレングリコール、チオジグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどのアルカンポリオール類のポリグリシジルエーテル;ハイドロキノン、レゾルシン、ピロカテコール、フロログルクシノールなどの単核多価フェノール類のポリグリシジルエーテル化合物;ジヒドロキシナフタレン、ビフェノール、ビスフェノールアルカン[メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、メチレンビス(オルトクレゾール)、エチリデンビスフェノール(ビスフェノールAD)、イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、イソプロピリデンビス(オルトクレゾール)、テトラブロモビスフェノールA、1,3−ビス(4−ヒドロキシクミルベンゼン)、1,4−ビス(4−ヒドロキシクミルベンゼン)、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレンなど]など]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシドなどのビスフェノール類のジグリシジルエーテル化合物、ビスフェノールA、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレンなどのビスフェノール類のアルキレンオキサイド(エチレンオキシドなど)付加体[例えば、9,9−ビス(ヒドロキシ(モノ又はポリ)アルコキシアリール)フルオレン(9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル)フルオレンなど)]のポリグリシジルエーテル化合物、トリ又はテトラフェニルアルカン[1,1,3−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,2,2−テトラ(4−ヒドロキシフェニル)エタンなど];ノボラック又はノボラック樹脂(フェノールノボラック、オルソクレゾールノボラック、エチルフェノールノボラック、ブチルフェノールノボラック、オクチルフェノールノボラック、レゾルシンノボラックなど)、テルペンフェノールなどの多核多価フェノール類のポリグリジルエーテル化合物;トリグリシジルイソシアヌレートなどの複素環化合物のポリグリジルエーテル化合物などが例示できる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物(又は樹脂)としては、例えば、バーサティック酸グリシジルエステルなどのモノカルボン酸類のモノグリシジルエステル化合物;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、トリマー酸などの脂肪族多価カルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの芳香族多価カルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸などの脂環族多価カルボン酸類などの多価カルボン酸のグリシジルエステル類、およびグリシジル(メタ)アクリレートの単独重合体又は共重合体などが例示できる。
グリシジルアミン型エポキシ化合物(又は樹脂)としては、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、ビス(4−(N−メチル−N−グリシジルアミノ)フェニル)メタン、N,N−ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノールなどのアミン類のグリシジルアミン化合物などが例示できる。
不飽和二重結合がエポキシ化したエポキシ化合物としては、例えば、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、ジシクロペンタンジエンジエポキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペートなどの環状オレフィン類のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン−ブタジエン共重合物などのエポキシ化共役ジエン重合体などが例示できる。
これらのエポキシ化合物(又は樹脂)は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、エポキシ化合物(又は樹脂)は、単量体であってもよく、2量体〜10量体程度の多量体を含んでいてもよい。また、アルカンモノオール類又はアルカンポリオール類のモノ又はポリグリシジルエーテル、モノカルボン酸類のグリシジルエステル、環状オレフィン類のエポキシ化物などは反応性希釈剤として使用する場合が多い。
好ましいエポキシ化合物(又は樹脂)は、分子内に複数のエポキシ基(又はオキシラン環)を有するポリグリシジルエーテル化合物、例えば、ビスフェノールF、メチレンビス(オルトクレゾール)、ビスフェノールAD、ビスフェノールA、イソプロピリデンビス(オルトクレゾール)などのビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類;9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類;これらのアルキレンオキサイド付加体(9,9−ビス(ヒドロキシ(モノ又はポリ)アルコキシアリール)フルオレンなど)などのビスフェノール類のポリグリシジルエーテル(ジグリシジルエーテル)などが例示できる。
さらに、エポキシ樹脂は、室温(15〜20℃)で流動性を有する液体の形態、流動性に乏しい高粘度(又は高粘稠)の半固体又は固体の形態であってもよく、通常、ヒドラジド化合物と混合する温度(加工温度)において流動性を有しており、混合温度において液状又は粘稠な液状エポキシ樹脂であってもよく、室温(15〜20℃)で液状又は粘稠なエポキシ樹脂であってもよい。
ヒドラジド化合物と反応性基を有する樹脂との割合は、ヒドラジド化合物の活性水素当量と樹脂の反応性基当量とに基づいて選択でき、例えば、樹脂の反応性基1モルに対するヒドラジド化合物の使用量は、ヒドラジノ基(活性水素原子)として0.1〜2.5モル、好ましくは0.3〜2.2モル、さらに好ましくは0.4〜2.1モル程度である。なお、例えば、反応性基を有する樹脂がエポキシ樹脂の場合、ヒドラジド化合物の使用量は、反応性基としてのエポキシ基に対するヒドラジノ基(活性水素原子)として、0.2〜2.2モル、好ましくは0.35〜2.1モル、さらに好ましくは0.45〜2.05モル程度である。
反応性基を有する樹脂100重量部に対するヒドラジド化合物の割合は、1〜100重量部程度の広い範囲から選択でき、5〜90重量部、好ましくは20〜80重量部、さらに好ましくは30〜70重量部程度である。なお、例えば、反応性基を有する樹脂がエポキシ樹脂の場合において、エポキシ樹脂100重量部に対するヒドラジド化合物の割合は、1〜100重量部程度の広い範囲から選択でき、10〜85重量部、好ましくは25〜75重量部、さらに好ましくは35〜65重量部程度である。
本発明の硬化性組成物は、ジヒドラジド化合物及び反応性基を有する樹脂(エポキシ樹脂など)を混合することにより製造できる。例えば、ジヒドラジド化合物及び反応性基を有する樹脂(エポキシ樹脂又はエポキシ化合物など)を、慣用の混合又は混練機、例えば、ホモジナイザー、ミキサー又は混合機、混練機(ニーダーやロール、押出機など)を使用して、硬化反応(又はゲル化)が生じない又は抑制できる温度及び時間で混合(又は溶融、混練)することにより、本発明の硬化性組成物を調製できる。溶融混練は加熱下(例えば、50〜100℃程度)で行ってもよく、低温(例えば、室温〜50℃程度)で溶融混練し、加熱下での溶融混練を省略してもよい。なお、必要により、有機溶媒の存在下でヒドラジド化合物及びエポキシ樹脂を混合してもよい。
本発明の硬化性組成物には、必要に応じて、種々の添加剤、例えば、シランカップリング剤、可塑剤、有機溶剤、反応性希釈剤、充填剤、補強剤、顔料、難燃剤、離型剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、増量剤、増粘剤などを添加してもよい。
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどが例示できる。
可塑剤としては、例えば、フタル酸系可塑剤、アジピン酸などのアルカンジカルボン酸系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などが例示できる。
有機溶剤としては、前記例示の溶媒の他、炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒などの任意の溶媒が使用でき、反応性希釈剤としては、前記例示のエポキシ化合物(例えば、n−ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテルなど)、スチレンオキサイド、ジシクロペンタジエンジエポキシドなどのエポキシ化合物、フェノール、クレゾール、t−ブチルフェノールなどのフェノール類などが例示できる。
充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム(重炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム)、シリカ(天然シリカ、合成シリカ、溶融シリカ)、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、カオリン、クレー、マイカ、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、セピオライト、ゾノトライトなどが例示できる。着色剤は、カーボンブラックなどの黒色顔料、酸化チタンなどの白色顔料、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料などのいずれであってもよい。補強剤としては、例えば、有機繊維[セルロースファイバー(セルロースナノファイバーなど)などの天然繊維、ポリアルキレンアリレート繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維などの合成繊維など]、無機繊維[ガラス繊維、炭素繊維など]が例示できる。
離型剤としては、例えば、脂肪酸系離型剤(高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸カルシウムなど)、ワックス類(例えば、カルナバワックス、ポリエチレン系ワックスなど)、シリコーンオイルなどが例示できる。
難燃剤としては、例えば、ヘキサブロモシクロデカン、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモビスフェノールA、トリス(ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、デカブロモジフェニルオキサイド、ビス(ペンタブロモ)フェニルエタン、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ポリブロモフェニルインダン、臭素化ポリスチレン、テトラブロモビスフェノールAポリカーボネート、臭素化フェニレンエチレンオキシド、ポリペンタブロモベンジルアクリレートなどの臭素化物、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシリルジフェニルホスフェート、クレジルビス(ジ−2,6−キシレニル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジクレジル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジ−2,6−キシレニル)ホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモプロピル)ホスフェート、ジエチル−N,N−ビス(2−ヒドロオキシエチル)アミノメチルホスホネートなどのリン酸エステル類、陰イオン蓚酸処理水酸化アルミニウム、硝酸塩処理水酸化アルミニウム、高温熱水処理水酸化アルミニウム、錫酸表面処理水和金属化合物、ニッケル化合物表面処理水酸化マグネシウム、シリコーンポリマー表面処理水酸化マグネシウム、プロコバイト、多層表面処理水和金属化合物、カチオンポリマー処理水酸化マグネシウムなどが例示できる。
さらに、本発明の硬化性組成物は、必要であれば、反応性基を有する樹脂(例えば、エポキシ樹脂)の他に、エラストマー(又はエラストマー変性剤)、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、液状ポリブタジエン、ポリブタジエン(ブタジエンゴム,BR)、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、変性シリコーンゴム、架橋NBR、架橋BR、アクリル系ゴム(コアシェル型アクリルゴムを含む)、ウレタンゴム、ポリエステルエラストマー、官能基含有液状NBR、液状ポリエステル、液状ポリスルフィド、ウレタンプレポリマーなどを含んでいてもよい。
必要であれば、エポキシ樹脂の他に、他の樹脂、例えば、オレフィン系樹脂(高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、スチレン系樹脂(ポリスチレンなど)、アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチルなど)、ハロゲン含有樹脂(ポリ塩化ビニルなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレートなど)、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン66など)、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂などを含有していてもよく、樹脂は、エンジニアリングプラスチック(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ビスフェノールA型ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンなど)であってもよい。
これらの添加剤、エラストマー及び樹脂の使用量は、特に限定されず、用途に応じて選択できる。
本発明は、前記硬化性組成物が硬化した硬化物も包含する。硬化物は、電気絶縁性が高く、硬化物の比誘電率ε’は、例えば、2.5〜3.5、好ましくは2.8〜3.2程度、誘電正接tanδは、例えば、0.022〜0.03、好ましくは0.024〜0.028程度であってもよい。また、硬化物は熱的特性にも優れており、硬化物の線膨張係数も小さい。例えば、室温からガラス転移温度Tgに至るまでの線膨張係数(×10−5℃−1)は、例えば、4〜8、好ましくは5〜7程度、Tg〜260℃に至るまでの線膨張係数(×10−5℃−1)は、例えば、15〜25、好ましくは17〜22程度であってもよい。
このような硬化物は、硬化性組成物の用途に応じて、前記硬化性組成物を加熱して硬化させることにより調製できる。例えば、前記硬化性組成物を、基材へ塗布して硬化させてもよく、所定部に注入又は封止して硬化させてもよく、注型して硬化させてもよく、基材(繊維基材)に含浸してプリプレグを調製し、このプリプレグを、重ね合わせや巻回などの方法で積層して所定形状に成形加工して硬化させてもよい。硬化温度は、例えば、100〜250℃(好ましくは150〜200℃、さらに好ましくは160〜180℃)程度であってもよい。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、各種物性の測定及び評価は以下の方法で行った。
NMRスペクトル
NMRスペクトルは、Bruker BIOSPIN社製「AVANCE III HD」(300MHz)を用いて測定した。
高速液体クロマトグラフィ(HPLC)
(株)島津製作所製「HPLCシステム」を用いて、以下の条件で測定した。
カラム:東ソー(株)製「TSKgel ODS−80TM(TOSOH)」4.6mm×25cm
展開溶媒:水/アセトニトリル(容量比:30/70)、温度40℃、流量1.0mL/分。
示差走査熱量測定(DSC)
セイコーインスツル(株)製「EXSTAR 6000 DSC 6220」を用いて測定した。
粘度
E型粘度計(東機産業(株)製「TVE−22L」)を用いて、25℃で所定時間毎に粘度(mPa・s/25℃)を測定した。
(実施例1)
9,9−ビス(2−ヒドラジノカルボニルエチル)フルオレンの合成
上記反応式に従ってジヒドラジド化合物を合成した。
すなわち、9,9−ビス(2−メトキシカルボニルエチル)フルオレン(50.0g,0.15mol)をイソプロピルアルコール(i-PrOH)106gに溶解し、ヒドラジン一水和物(82.2g,1.63mol)を、室温で、滴下ロートにて30分かけて滴下した。その後、混合物を80℃まで昇温し、2時間撹拌した。室温まで放冷し、析出した結晶を濾取して乾燥させることにより、目的とする9,9−ビス(2−ヒドラジノカルボニルエチル)フルオレン47.2g(収率95%)を得た。
1H−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ=1.20−1.25(m,4H),2.22−2.28(m,4H),3.96(d,J=4.1Hz,4H),7.32−7.40(m,4H),7.44−7.50(m,2H),7.80−7.86(m,2H),8.61−8.64(m,2H)
融点:239℃。
(実施例2)
(硬化性組成物の調製)
液状エポキシ樹脂100重量部(三菱化学(株)製「jER828」)に、実施例1で得られたジヒドラジド化合物48重量部を加え、ホモジナイザー(日本精機製作所(株)製、エースホモジナイザーAM−10)を用い、氷水で容器を冷却しながら、回転数15000rpmで15分撹拌し、硬化性組成物を調製した。
(硬化性組成物のDSC測定)
上記硬化性組成物の一部をアルミニウムパンに取り、示差走査熱量計DSC(セイコーインスツル(株)製「EXSTAR 6000 DSC 6220」)を用いて熱分析した。
(ゲル化時間の測定)
ガラスサンプル缶とその外径と同じ径の穴をあけたアルミニウムブロックを用意した。アルミニウムブロックは、ホットプレート上であらかじめ所定の温度に熱した。サンプル缶に試料を取り、上記アルミニウムブロックの穴にサンプル缶を挿入し、サンプル缶中のスパチュラで毎分60回ほどの速度で円状にスパチュラでかき混ぜ、試料がゲル状になり、試料がスパチュラに付着しなくなった点あるいは糸引きがなくなった点を終点とした。
結果を表1に示す。
(硬化性組成物の貯蔵安定性)
前記実施例2の硬化性組成物を40℃密閉容器にて保存し、所定時間ごとに粘度を測定した。結果を表2に示す。
表2から明らかなように、本発明の硬化性組成物は、40℃にて、20日以上保管しても、その粘度は、初期粘度の1.5倍程度にしか増粘せず、優れた貯蔵安定性を示す。
[実施例3、比較例1及び2]
(硬化物の作製、物性評価)
下記の手順で、硬化板を作製した。すなわち、表3に示す割合で所定の材料を計量した後、らいかい機(石川式撹拌擂潰機18号、(株)石川工場製)を用いてヒドラジド化合物をエポキシ樹脂に混合して均一に分散させた後、真空脱泡して注型用鋳型(セロハン張りのアルミニウム板(t=3mm)2枚と、φ3mmおよびφ4mmのシリコーンゴムとをスペーサーとして用いてクリップで固定して形成)に注ぎ込み、熱風循環オーブン中で下記の条件にて硬化させた。
配合比(重量比)、硬化条件を表3に示す。なお、表中、「ADH」はアジピン酸ジヒドラジド(大塚化学(株)製)、「IDH」はイソフタル酸ジヒドラジド(大塚化学(株)製)、「FDP−HY」は実施例1で得られたジヒドラジド化合物を示す。また、各ジヒドラジド化合物は、液状エポキシ樹脂(三菱化学(株)製「jER828」、エポキシ当量190)のエポキシ基1モルに対して、ヒドラジノ基の割合が0.5モルとなるように使用した。
得られた硬化物の物性を以下のようにして測定した。
(吸水率測定)
JIS K 7209A法に準拠し、事前乾燥50℃×24時間、浸漬条件23℃×24時間、測定数n=3の条件で測定した。
(曲げ試験)
インストロン社製「万能材料試験機 5582型」を用い、JIS K 7171に準拠し、試験片(約80mm×10mm×4.0mm)について、所定の測定条件(試験速度2mm/min、支点間距離64mm、試験温度:室温および260℃)で曲げ弾性率を測定した。なお、弾性率のたわみは、クロスヘッド変異により計測し、コンプライアンス補正はしなかった。
(TMAによるガラス転移温度Tgの測定)
(株)リガク製「TMA 8310」を用い、JIS K 7197準拠して、測定モードを圧縮モード(荷重20mN)とし、所定の測定条件(温度:室温〜300℃、昇温速度:5℃/min、雰囲気:窒素気流中(50mL/min))で測定した。
得られた結果を表4に示す。
表4から、本発明のヒドラジド化合物を硬化剤として用いたエポキシ樹脂を含む硬化性組成物は、高温で高い曲げ弾性率を保ちながら、ガラス転移温度が高いという特徴を有する。しかも、吸水率を大きく低減できる。