JP2019097488A - 採穂母樹の生産方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】発根率の良好な挿し穂を多数得ることのできる採穂母樹の生産方法を提供する。【解決手段】採穂母樹に対し採穂予定日より前1年間に施肥を少なくとも1回行うこと、及び、採穂予定日前の最後の施肥の時期は採穂予定日より2か月以上前かつ9か月を超えない時期であること、を含む、採穂母樹の生産方法、並びに、前記生産方法により生産される採穂母樹より採穂予定日又はその付近に採穂し挿し穂を得ること、挿し穂を発根させること、及び発根した挿し穂を育苗することを含む、挿し木苗の生産方法を提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、採穂母樹の生産方法に関する。
採穂園は、山林樹木や果樹の挿し木におけるクローン増殖用の挿し穂を大量に生産することを目的として、採穂母樹を列植えして栽培する管理園である。採穂母樹の育成にあたり、母樹の成長を促進し挿し穂を大量に得るためには、採穂直前まで施肥を行い枝長や枝数を増加させることが知られている。
一方、採穂母樹の仕立て方については、樹種や地方によって様々だが、主に低台(丸刈・平刈)、中台(丸刈・平刈)、高台(丸刈・円筒型)に仕立てて萌芽枝を得ることが知られている。特に、スギの採穂園については主に高台で造成されており、九州等の温暖地では丸刈仕立て、東北等の寒冷地では積雪の影響を避けるために円筒型仕立てが主流である。それぞれの採穂の際の萌芽枝の特徴としては丸刈仕立てでは長く(通常、30〜40cm)なり、円筒型仕立てでは短くなる(通常、5〜25cm)。
竹田宣明「〜シリーズ採種(穂)園の経営(4)〜採穂園の管理」林木育種情報 No.1(2008) 太田 昇「東北地方における挿し木事業の実際(2)」東北の林木育種 東北林木育種場編集 No.34(1971)
しかし採穂の直前まで母樹に施肥を行うと、母樹の枝の成長を促進することができる一方、茎頂分裂組織が細胞分裂を繰り返して成長するために頂芽部が柔らかくなる。それ故に、頂芽挿しで苗生産を行う山林苗の場合は、挿し穂に適する穂木が得られないという問題があった。
一方非特許文献1及び2の方法について、温暖地で丸刈仕立てを行う理由は、30〜40cmの挿し穂をそのまま挿し付けることが主流となっているためであるが、1本の母樹から採穂できる挿し穂の数に制限があった。また、丸刈仕立ての30〜40cmの荒穂を10〜20cmに細分化しても枝性の問題で挿し穂として使用できる数は限定される。一方で、円筒型仕立ての母樹からは、比較的多くの枝性の出にくい萌芽枝を得ることができるが、枝長は丸刈り仕立てと比べると短く、葉の面積が小さい分発根性も低い。
本発明は、発根率の良好な挿し穂を多数得ることのできる採穂母樹の生産方法の提供を目的とする。
本発明は、以下の〔1〕〜〔7〕を提供する。
〔1〕採穂母樹に対し採穂予定日より前1年間に施肥を少なくとも1回行うこと、及び、採穂予定日前の最後の施肥から挿し付けまでの期間が2か月以上、9か月以下であること、を含む、採穂母樹の生産方法。
〔2〕施肥の回数は2回以上であり、各回の施肥の間隔は少なくとも1か月である、〔1〕記載の生産方法。
〔3〕採穂予定日は10月〜4月である、〔1〕又は〔2〕に記載の生産方法。
〔4〕採穂母樹の樹形を高台円筒型に仕立てることを更に含む〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の生産方法。
〔5〕採穂母樹は、スギ属植物、マツ属植物、ヒノキ属植物、及びユーカリ属植物から選ばれる植物種の採穂母樹である、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の生産方法。
〔6〕〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の生産方法により生産される採穂母樹より採穂予定日又はその付近に採穂し挿し穂を得ること、挿し穂を発根させること、及び発根した挿し穂を育苗することを含む、挿し木苗の生産方法。
〔7〕採穂された挿し穂の大きさは40cm以下である、〔6〕に記載の方法。
本発明によれば、発根率の良好な挿し穂を多数得ることのできる採穂母樹の生産方法が提供される。斯かる採穂母樹より得られる挿し穂を発根させ育苗することで多くの挿し木苗を得ることができる。
〔採穂母樹〕
採穂母樹の植物種は、特に限定されず、木本植物と草本植物のいずれでもよく、中でも木本植物が好ましく、草本植物よりも発根能が劣る木本植物がより好ましい。木本植物としては例えば、スギ属(Cryptomeria)植物(スギ(Cryptomeria japonica)など)、ヒノキ属(Chamaecyparis)植物(ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)など)、マツ科(Pinaceae)植物(マツ属(Pinus)植物(クロマツ(Pinus thunbergii)など)、カラマツ属(Larix)植物(カラマツ(Larix kaempferi)、グイマツ(Larix gmelinii)など)、モミ属(Abies)植物(トドマツ(Abies sachalinensis)など)など)、ユーカリ属(Eucalyptus)植物、サクラ属(Prunus)植物(サクラ(Prunus spp.)、ウメ(Prunus mume)、ユスラウメ(Prunus tomentosa)など)、マンゴー属(Mangifera)植物(マンゴー(Mangifera indica)など)、アカシア属(Acacia)植物、ヤマモモ属(Myrica)植物、クヌギ属(Quercus)植物(クヌギなど(Quercus acutissima))、ブドウ(Vitis)属植物、リンゴ(Malus)属植物、バラ属(Rosa)植物、ツバキ属(Camellia)植物(チャ(Camellia sinensis)など)、ジャカランダ属(Jacaranda)植物(ジャカランダ(Jacaranda mimosifolia)など)、ワニナシ属(Persea)植物(アボカド(Persea americana)など)、ナシ属(Pyrus)植物(ナシ(Pyrus serotina Rehder、Pyrus pyrifolia)など)、ビャクダン属(Santalum)植物(ビャクダン(サンダルウッド;Santalum album)など)が挙げられ、スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ科植物(マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物など)、ユーカリ属植物、ツバキ属植物、マンゴー属植物、ワニナシ属植物が好ましく、スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物、ユーカリ属植物がより好ましく、スギ属植物、マツ属植物、ヒノキ属植物、及びユーカリ属植物がさらに好ましい。植物種としては例えば、スギ、ヒノキ、マツ(クロマツ、カラマツ、グイマツ、トドマツなど)、ユーカリ、サクラ、マンゴー、アボカド、アカシア、ヤマモモ、クヌギ、ブドウ、リンゴ、バラ、ツバキ、チャ、ウメ、ユスラウメ、ジャカランタが挙げられる。
採穂母樹は、挿し木、接ぎ木等の無性生殖により繁殖した個体でもよいし、実生苗等の、種子から繁殖した個体でもよい。採穂母樹の樹齢も特に限定されないが、10年以下が好ましい。下限は特に限定されないが、通常は1年以上である。
〔施肥の回数〕
本発明において、採穂母樹に対する施肥の回数は、採穂予定日より前1年間(前年に採穂を行った場合、通常は、前年の採穂から採穂予定日までの間)に少なくとも1回、好ましくは2回以上である。上限は特に限定されないが、通常5回以下、好ましくは4回以下、さらに好ましくは3回以下である。これにより、採穂母樹の成長を促進することができる。2回以上の施肥を行う場合、各回の施肥の間隔は少なくとも1か月が好ましく、好ましくは1.5ヶ月以上である。上限は特に限定されないが、通常は3か月以内であり、好ましくは2.5か月以内である。
〔最後の施肥の時期〕
本発明において、採穂母樹に対する採穂予定日前の最後の施肥から挿し付けまでの期間は、2か月以上、好ましくは3か月以上、さらに好ましくは4か月以上である。これにより、十分な施肥停止期間を取ることができるため、採穂母樹の頂芽の成長を止めることができ、挿し穂に適する硬い穂を多数得ることができる。また、挿し穂から得られる苗は、挿し木後の成長が良好となり得る(例えば、真っ直ぐに成長できる)。最後の施肥から挿し付けまでの期間の上限は、9か月以下、8か月以下又は7か月以下が好ましく、6か月以下がより好ましく、5か月以下が更に好ましい。これにより、十分な施肥期間を取ることができるため、採穂母樹の成長を促進することができる。
〔採穂母樹に与える肥料〕
本発明において、採穂母樹に与える肥料は特に限定されないが、速効性肥料が好ましく、無機肥料もしくは有機肥料がより好ましく、化成肥料が更に好ましい。
肥料に含まれる成分は特に限定されないが、例えば、無機成分、銀イオン、抗酸化剤、炭素源、ビタミン類、アミノ酸類、植物ホルモン類等の植物の栄養素の供給源となり得る成分が挙げられる。肥料の形態は特に限定されず、固形物(例、粉剤、粒剤)、又は液体(例、液肥)のいずれでもよい。
無機成分としては、窒素、リン、カリウム、硫黄、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、モリブデン、塩素、ヨウ素、コバルト等の元素や、これらを含む無機塩が例示される。該無機塩としては例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ホウ酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム、ヨウ化カリウム、塩化コバルト等やこれらの水和物が挙げられる。
抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、亜硫酸塩が挙げられ、アスコルビン酸が好ましい。アスコルビン酸は、培地への残留性が低いため、環境汚染を抑制できる。
炭素源としては、例えば、ショ糖等の炭水化物とその誘導体;脂肪酸等の有機酸;エタノール等の1級アルコール、などの化合物が挙げられる。
ビタミン類としては、例えば、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB4)、ピリドキサール、ピリドキサミン、パントテン酸カルシウム、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド及び/又はリボフラビン(ビタミンB2)が挙げられる。
アミノ酸類としては、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、システイン、フェニルアラニン及び/又はリジン等が挙げられる。
〔採穂母樹への施肥〕
施肥方法は特に限定されず、用いる肥料に適した施肥条件とすればよい。例えば、採穂母樹の支持体及び/又は採穂母樹に肥料を適量散布、塗布、噴霧する方法が挙げられる。施肥方法は、施肥の回数ごとに異なってもよいし、同じでもよい。
〔採穂予定日〕
採穂予定日は特に限定されないが、例えば、平均気温が20℃以下の月が挙げられ、10月〜4月が好ましく、11月〜3月がより好ましい。採穂母樹を日本国内で生産する場合には上記の範囲内に採穂予定日を設定することが更に好ましい。実際の採穂日は、採穂予定日の前後10日間の間の日であればよいが、採穂予定日当日が好ましい。
〔樹型、剪定〕
本発明においては、好ましくは採穂予定日における、採穂母樹の樹型が高台円筒型となるように仕立てることが好ましい。これにより、1本の採穂母樹から多くの挿し穂を得、かつ挿し穂からの発根率も高めることができる。樹型とは、台木の高さと樹幹の型とを意味し、高台円筒型とは、樹高が高く樹幹が円筒状であることを意味する。高台円筒型のサイズは特に限定されず、植物種や樹齢によっても異なり一律に特定することは難しいが一例を挙げると以下のとおりである。台木の高さは1.2〜2.3mが好ましく、1.5〜2mがより好ましい。樹冠のサイズは、直径が0.4〜0.9mが好ましく、0.5〜0.8mがより好ましい。
仕立てを行う時期は特に限定されないが、通常は採穂予定日より前(前年に採穂を行った場合、通常は、前年の採穂日より後)であり、最後の施肥より前が好ましく、採穂予定日より前1年間のうち最初の施肥よりも前の時期が好ましい。
樹型を高台円筒型に仕立てる方法としては、例えば、断幹、枝の剪定が挙げられる。断幹により樹高を調整できる。また、枝の剪定により、萌芽枝をより多く生じさせることができる。断幹は、断幹後の樹高が通常は2.5m以下、好ましくは2m以下となるように行うことが好ましい。下限は特に限定されないが、0.9m以上が好ましく、1m以上がより好ましい。剪定する枝は、萌芽枝を発生させると予想される枝が好ましく、このような枝としては、例えば、緑枝(当年枝)、熟枝(前年以前に伸びた枝)等が挙げられる。剪定後の枝のサイズは、20cm未満が好ましく、17cm以下がより好ましく、15cm以下が更に好ましい。下限は特に限定されないが、3cm以上が好ましく、4cm以上がより好ましく、5cm以上が更に好ましい。
採穂母樹の植え方は特に限定されないが、複数の採穂母樹を育成する場合、列植えすることが好ましい。植栽間隔は、1〜2m×1〜2mに1樹とすることが好ましい。これにより、採穂母樹の樹型を容易に仕立てることができる。
採穂母樹の育成における支持体は、通常植物の育成に用いられるものであればよく、例えば、砂、土(例、赤玉土)等の自然土壌が挙げられる。支持体の別の例としては、籾殻燻炭、ココナッツ繊維、バーミキュライト、パーライト、ピートモス、ガラスビーズ等の人工土壌;発泡フェノール樹脂、ロックウール等の多孔性成形品;固化剤(例、寒天又はゲランガム)が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも一種を自然土壌に換えて、又は自然土壌と共に用いてもよい。支持体は容器に格納されていてもよい。容器としては、従来慣用の容器を用いればよい。
〔採穂母樹の生産のためのその他の条件〕
採穂母樹の生産のためのその他の条件(例、温度、湿度、光)は、植物種によって適宜設定でき、自然条件でもよいし、人為的に制御してもよい。生育場所も特に限定されず、閉鎖空間(例、ビニールハウス内、人工太陽光室内、温室内、屋内)及び解放空間(例、屋外)のいずれでもよい。
〔挿し穂〕
本発明においては、採穂母樹より挿し穂を得る。採穂される挿し穂は、採穂母樹の植物体の少なくとも一部であればよく、例えば、緑枝、熟枝等の枝;頂芽、腋芽などの芽;葉、子葉;胚軸などが例示される。木本植物の挿し穂は、一般に、緑枝又は熟枝を少なくとも含むことが好ましい。草本植物の挿し穂は、一般に、葉又は芽を含むことが好ましい。一方で、挿し穂は、シュートを少なくとも含むことが好ましい。これにより、不定根形成が容易となり得る。シュートとは、発根能を有する組織を言い、例えば、枝、茎、萌芽、頂芽、腋芽、不定芽、葉、子葉、胚軸、不定胚、苗条原基、これらの具体例から誘導される多芽体(特開平8−228621号公報)が挙げられ、萌芽が好ましい。本発明においては、シュート(好ましくは萌芽)を少なくとも1つ含む枝を、効率良く取得できる。
採穂される挿し穂のサイズは、40cm以下が好ましく、35cm以下がより好ましく、30cm以下が更に好ましく、25cm以下が更により好ましい。下限は特にないが、通常1cm以上又は2cm以上、好ましくは3cm以上、より好ましくは4cm以上、さらに好ましくは5cm以上である。本発明においては、サイズの小さい挿し穂であっても、良好な発根率を発揮することができる。
〔挿し穂からの発根〕
本発明において挿し穂からの発根は、常法により行えばよい。例えば、支持体に挿し穂を挿し付けて発根させる方法が挙げられる。支持体は、必要に応じて用いられる添加剤を含んでいてもよく、また、培養容器に格納されてもよい。挿し付けの時期は、採穂と同時でもよいし、採穂後の適当な時期(例えば、採穂から6か月以内、5か月以内、4か月以内、3か月以内、又は2か月以内の時期)でもよいが、採穂と同時が好ましい。採穂後の適当な時期に挿し付けを行う場合、挿し付けまでの間、挿し穂を冷蔵(例えば4℃以下)することが好ましい。これにより、挿し穂の発根能力を維持することができる。
〔発根の際の支持体及び添加剤〕
支持体は、挿し穂および必要に応じて用いられる添加剤を支持(保持)できればよく、吸水性及び通気性を有すること、及び、添加剤を挿し穂に効率よく吸収させ得ることができる、従来慣用の支持体を用いることができる。支持体の例は、採穂母樹の育成の際用い得る支持体の例と同様であり、好ましくは自然土壌と人工土壌の組み合わせである。自然土壌としては赤玉土が好ましい。人工土壌としては、ピートモスが好ましい。
添加剤は挿し穂の発根の際に用いられる添加剤であればよく、例えば、肥料(例、無機成分、銀イオン、抗酸化剤、炭素源、ビタミン類、アミノ酸類、植物ホルモン類)、上記以外の発根促進剤(例、国際公開第2011/136285号、特開2012−232907号公報、特開2013−95664号公報等の文献に記載の剤)等が挙げられる。各成分の形態は特に限定されず、固形物(例、粉剤、粒剤)、又は液体(例、液肥)のいずれでもよい。また、添加剤を構成する成分は支持体に混合、吸収又は散布されてもよく、挿し穂の少なくとも一部に直接散布、塗布又は噴霧されてもよい。
添加剤は、それぞれを混合して又は少なくとも一部を別個に、支持体に含ませてもよいし、植物組織培養用の公知の培地又は水性溶媒(例、水)に添加して支持体に含ませてもよいし、挿し穂(好ましくは基部)に直接適用してもよい。植物組織培養用培地としては、例えば、MS培地、リンスマイヤースクーグ培地、ホワイト培地、ガンボーグのB−5培地、ニッチニッチ培地を挙げることができる。中でも、MS培地およびガンボーグのB−5培地が好ましい。これらの培地は、必要に応じて適宜希釈して用いることができる。培地は、液体培地、固体培地のいずれであってもよいが、液体培地の方が作業効率および移植時に根を傷つけることが少ない点で好ましい。液体培地は、培地組成を混合し調製してそのまま用い得る。また固体培地は、液体培地と同様に培地組成を混合し調製すると同時に、或いは調製後に、固化剤(例、寒天、ゲランガム)で固化させて使用し得る。固化剤の添加量は、固化剤の種類、培地の組成等の条件によって適宜設定できる。寒天の培地に対する添加量は、0.5〜1重量%が好ましい。ゲランガムの培地に対する添加量は、0.2〜0.3重量%が好ましい。
無機成分の例は、採穂母樹の肥料の無機成分の例と同様である。無機成分は、1種単独でも2種以上の組み合わせでもよく、窒素、リン、カリウム、窒素を含む無機塩、リンを含む無機塩、及びカリウムを含む無機塩から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。無機成分1種を上述の公知の培地に含ませる場合、培地中の量は、0.1μM〜100mMが好ましく、1μM〜100mMがより好ましい。2種以上の組み合わせの場合、それぞれの培地中の量は0.1μM〜100mMが好ましく、1μM〜100mMがより好ましい。
銀イオンとしては、例えば、チオ硫酸銀(STS、AgS46)、硝酸銀等の銀化合物(銀イオン源)が挙げられ、1種単独でも2種以上の組み合わせでもよく、STSが好ましい。STSは培地中で、チオ硫酸銀イオンの形態を取り、マイナスに帯電していると推測され、これにより健全な根の発根及び伸長を促進に寄与することができる。銀イオンを上述の培地に含ませる場合、銀イオン源の培地中の量は、0.5μM〜6μMが好ましく、2μM〜6μMがより好ましい。
抗酸化剤の例は、採穂母樹の肥料の抗酸化剤の例と同様であり、1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。抗酸化剤を培地中に含ませる場合、その量は、5mg/l〜200mg/lが好ましく、20mg/l〜100mg/lがより好ましい。
炭素源の例は、採穂母樹の肥料の炭素源の例と同様であり、1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。炭素源を培地中に含ませる場合、その量は、1g/l〜100g/lが好ましく、10g/l〜100g/lがより好ましい。炭酸ガスを供給して発根培養を行う場合、発根培地は炭素源を含まなくてもよく、含まないことが好ましい。ショ糖等の炭素源となりうる有機化合物は微生物の炭素源ともなるので、これらを添加した発根培地を用いる場合、無菌環境下で栽培を行う必要があるが、炭酸ガスを供給して発根培養を行うことにより、発根培地への炭素源の添加を省略でき、非無菌環境下での栽培が可能となる。
ビタミン類の例は、採穂母樹の肥料のビタミン類の例と同様であり、1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。ビタミン1種を上述の培地に添加する場合、その量は、0.01mg/l〜200mg/lが好ましく、0.02mg/l〜100mg/lがより好ましい。2種以上の組み合わせを添加する場合、それぞれの量は、0.01mg/l〜150mg/lが好ましく、0.02mg/l〜100mg/lがより好ましい。
アミノ酸類の例は、採穂母樹の肥料のアミノ酸の例と同様であり、1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。アミノ酸としては例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、システイン、フェニルアラニン及び/又はリジンが挙げられる。アミノ酸類1種を上述の培地に添加する場合、その量は、0.1mg/l〜1000mg/lが好ましく、2種以上の組み合わせを添加する場合、それぞれの培地中の量は、0.2mg/l〜1000mg/lが好ましい。
植物ホルモンとしては、例えば、オーキシン及びサイトカイニン等の発根促進剤が挙げられる。オーキシンとしては、例えば、ナフタレン酢酸(NAA)、インドール酢酸(IAA)、p−クロロフェノキシ酢酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4D)、インドール酪酸(IBA)及びこれらの誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種、又は2種以上の組み合わせでもよい。サイトカイニンとしては、例えば、ベンジルアデニン(BA)、カイネチン、ゼアチン及びこれらの誘導体が挙げられ、これらのうちの1種、又は2種以上の組み合わせでもよい。植物ホルモンは、1種でもよいし2種以上の組み合わせでもよく、オーキシン、又はオーキシンとサイトカイニンの組み合わせを含むことが好ましい。
植物ホルモンを1種類培地中に添加する場合、その量は0.001mg/l〜10mg/lが好ましく、0.01mg/l〜10mg/lがより好ましい。2種以上の組み合わせを添加する場合、それぞれの量は0.001mg/l〜10mg/lが好ましく、0.01mg/l〜10mg/lがより好ましい。植物ホルモンの添加方法は、市販品の説明書に従えばよく、例えば、植物ホルモンの粉末(例えば、オーキシン)を挿し付け前に挿し穂の基部(好ましくは物理的刺激を加えた基部)に直接塗布する方法、支持体に添加する方法が挙げられる。
発根培地の添加時期は特に限定されず、例えば、発根培養の開始時、培養の途中が挙げられる。添加方法は成分の態様にもよるが、例えば、散布、湿潤、噴霧が挙げられる。添加回数も特に限定されず、1回のみ(培養開始時)でもよいし、2回以上(培養開始時及び途中)でもよい。また、発根培地を構成する成分をまとめて添加してもよいし、それぞれ別個に添加してもよいし、途中で適宜交換又は補充してもよい。
〔発根の際の培養容器〕
培養容器に支持体を格納することにより、発根後の挿し穂の育苗を円滑に行うことができる。培養容器は、通水口(網、細孔)を有することが好ましい。これにより、底面灌水に用いることができる。例えば、コンテナ(例、特開2017−079706号公報に記載されたコンテナ、マルチキャビティコンテナ(JFA−150、JFA−300)等)、セルトレー、育苗ポット、プランター、およびバット(底面または側面に網状の開口部を有する箱型容器が挙げられる。1つの容器に挿し穂1株ずつ植え付けるタイプの培養容器でもよいし、1つの容器に2株以上の挿し穂を植え付けるタイプの培養容器でもよい。培養容器の材質は特に限定はなく、例えば、樹脂、ガラス、木材が挙げられる。
〔挿し穂の挿し付け〕
挿し穂の支持体への挿し付けは、支持体の種類、環境、挿し穂の種類等の条件により適宜選択すればよい。例えば、挿し穂の基部を含む一部(例えば基部から2cm〜5cm)を支持体に挿し付ける方法が挙げられる。挿し穂の基部とは、挿し穂の一端であって根が形成される領域(葉の形成される端部に対し反対側)を意味する。多芽体の基部は、多芽体を分割する際の切断面を有する領域である。挿し付ける際、挿し穂への物理的刺激を加えて(例、基部に傷をつける)もよい。これにより、発根率を向上させることができる。基部につける傷のサイズ(例、大きさ、形状)は、特に限定されない。例えば、挿し穂である多芽体の基部(上述の切断面)に十字型の傷を付けることができる。傷を付ける際の器具としては例えば、ハサミ、ナイフが挙げられる。挿し穂の基部のうち支持体に挿し付ける部分の葉は、切断しておくことが好ましい。
〔潅水〕
発根の際の灌水方法としては例えば、頭上灌水及び底面灌水のいずれでもよいが、底面灌水によることが好ましい。底面灌水の方法としては、例えば、挿し穂が挿し付けられた支持体を格納している培養容器(通水口を具備)を水に浸漬する方法が挙げられる。灌水量は、挿し穂が実質的に湿潤すればよく、特に限定されない。発根培養工程においては、吸水性部材を介して挿し穂に潅水する。すなわち、吸水性部材に給水し、水分が、培地と吸水性部材とが接する部分を介して挿し穂に供給される。吸水性部材への給水は、培地が湿潤するように行うこと、及び/又は、吸水性部材が均一に吸水する状態となるように行うことが、好ましい。これにより、培地の水分環境を適度、一定且つ均一に保持することができる。潅水作業は、手潅水および自動潅水装置のいずれで行ってもよい。
〔発根培養期間〕
挿し穂を発根させるための発根培養期間は、植物種によっても異なるが、少なくとも発根が観察されるまで続ければよく、根が充実するまで続けることが好ましい。通常は2週間〜10ヶ月であり、4週間〜8ヶ月が好ましく、2ヶ月〜8ヶ月がより好ましい。
〔発根のためのその他の条件〕
前述以外の発根のための条件(例、温度、光、炭酸ガス濃度、湿度)は、挿し穂の植物種、部位、サイズ、添加剤の種類などにより適宜決定することができ、一概に規定することは難しい。温度は、例えば、23〜28℃であることがより好ましい。挿し穂に照射する光は、自然光でもよいし、光強度が人為的に調整された光でもよい。人為的に調整する方法としては、例えば、光強度の調整、波長成分の調整、遮光が挙げられる。光強度(光合成有効光量子束密度)は、10μmol/m2/s〜1000μmol/m2/sが好ましく、50μmol/m2/s〜500μmol/m2/sがより好ましい。照射する光は、650nm〜670nmの波長成分と450nm〜470nmの波長成分とを含む光が好ましく、両者の割合は、好ましくは9:1〜7:3、より好ましくは9:1〜8:2である。遮光を行うことが好ましい。遮光率は、30〜70%が好ましく、40〜60%がより好ましい。
発根の際の炭酸ガス濃度は、通常は300〜2000ppm、好ましくは800〜1500ppmである。炭酸ガス濃度は、二酸化炭素透過性の膜を備えた培養容器を用いることにより、膜内の二酸化炭素濃度を上記範囲に調節する(例えば、人工気象器などの設備内に載置)ことが挙げられる。
湿度は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。これにより、植物からの発根を促進できる。上限は特に制限はない。培養容器はビニールハウス内に設置することが好ましい。これにより湿度、温度等の条件の制御が容易となり得る。
〔発根した挿し穂の育苗〕
本発明においては、挿し穂を発根させた後、育苗する。育苗は、培養容器から育苗容器、苗畑(用土:例えば前述の自然土壌)等に移植して行ってもよいし、培養容器中でそのまま行ってもよい。
〔育苗時の施肥〕
施肥方法は特に限定されず、用いる肥料に適した施肥条件(施肥間隔、施肥量、施肥方法)とすればよい。肥料成分の例は採穂母樹に与える肥料の例と同じである。
育苗のための条件(例、温度、湿度、光照射、灌水条件)は、適宜決定することができる。発根培養の際と同じ条件としてもよいし、異なる条件としてもよい。苗がある程度まで大きくなった時点で(例えば、30cm以上又は35cm以上)、植林等の目的に用いる苗を得ることができる
以下実施例により本発明を説明するが本発明はこれに限定されない。
実施例1
スギの山林苗(樹齢1年、挿し木由来)を2012年10月5日に列植えした(植栽間隔1.5m×1.5m)。2015年2月までこれを生育させ、剪定し樹型を「高台円筒型」に仕立て採穂母樹とした。すなわち、樹高2mで断幹し、萌芽枝を発生させる枝を5〜15cmに剪定した。採穂母樹に、2015年5月6日と8月2日に施肥(速効性肥料:メーカー名 あかぎ園芸、商品名 化成肥料8−8−8、それぞれの施肥量 50g/母樹1本)を行った。採穂母樹より20cmの頂芽枝を最後の施肥から3か月後の10月に採取し、下部5cmの範囲の葉をすべて切断して挿し穂を調製した。培養容器としてセルトレーを用い、赤玉小粒土(簗島商事(株)製)とピートモス(トーホー(株)製)を1対1に混合し、充填して挿し床を調製した。上述のようにして調製した挿し穂の基部(切断部)にルートン(登録商標)(石原バイオサイエンス(株)製、植物ホルモンNAAを含む白色粉末、NAAの濃度は0.4%)の粉末を5〜10mg塗布した後、該挿し穂を基部から4〜5cmのところまで挿し床に挿しつけた。これを、ビニールハウス内に配置して翌年6月まで8カ月間発根培養した。培地としては水を使用した。培養後の挿し穂を肉眼により観察し、根が確認されれば発根したと判断した。発根培養終了後、野外に出して4ヶ月間育苗した。育苗中は化学肥料(液肥)を毎週1回散布した。育苗期間後に生存していて苗高が40cmを超えていれば得苗したと判断した。
実施例2
施肥を5月、7月に行ったこと、挿し穂の採取を11月に行ったこと及び翌年6月まで7カ月間発根培養したこと以外、実施例1と同様に実施した。
実施例3
施肥を5月、7月、9月に行ったこと、挿し穂の採取を翌年1月に行ったこと及び6月まで5カ月間発根培養したこと以外、実施例1と同様に実施した。
実施例4
施肥を5月、7月、9月に行ったこと、挿し穂の採取を翌年3月に行ったこと及び6月まで3カ月間発根培養したこと以外、実施例1と同様に実施した。
実施例5
施肥を5月、7月、9月に行ったこと、挿し穂の採取を翌年4月に行ったこと及び6月まで2カ月間発根培養したこと以外、実施例1と同様に実施した。
実施例6
施肥を5月、7月に行ったこと、挿し穂の採取を翌年4月に行ったこと及び6月まで2カ月間発根培養したこと以外、実施例1と同様に実施した。
実施例7
施肥を5月、7月に行ったこと、採穂母樹の樹形を「高台丸刈り」に仕立てたこと(すなわち、植栽間隔2m×2m、樹高1.5mで断幹、萌芽枝を発生させる上枝を20〜30cmに剪定、中枝を30〜50cmに剪定、下枝を50〜60cmに剪定)及び挿し穂のサイズを40cmとしたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
比較例1
5月のみに施肥を行ったこと、挿し穂の採取を翌年3月に行ったこと及び6月まで3カ月間発根培養したこと以外、実施例1と同様に実施した。
比較例2
5月、7月と9月に施肥を行ったこと以外、実施例1と同様に実施した。
Figure 2019097488
表1の結果より、最後の施肥から10か月後又は1か月後に採穂した比較例1及び2と比較して、最後の施肥から2か月〜9か月後に採穂し挿し付けした実施例では、良好な発根率を得ることができることが分かる。この結果は、本発明により、発根率が良好な挿し穂を得るための採穂母樹を生産できることを示している。

Claims (7)

  1. 採穂母樹に対し採穂予定日より前1年間に施肥を少なくとも1回行うこと、及び、採穂予定日前の最後の施肥から挿し付けまでの期間が2か月以上、9か月以下であること、を含む、採穂母樹の生産方法。
  2. 施肥の回数は2回以上であり、各回の施肥の間隔は少なくとも1か月である、請求項1記載の生産方法。
  3. 採穂予定日は10月〜4月である、請求項1又は2に記載の生産方法。
  4. 採穂母樹の樹形を高台円筒型に仕立てることを更に含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の生産方法。
  5. 採穂母樹は、スギ属植物、マツ属植物、ヒノキ属植物、及びユーカリ属植物から選ばれる植物種の採穂母樹である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の生産方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の生産方法により生産される採穂母樹より採穂予定日又はその付近に採穂し挿し穂を得ること、挿し穂を発根させること、及び発根した挿し穂を育苗することを含む、挿し木苗の生産方法。
  7. 採穂された挿し穂の大きさは40cm以下である、請求項6に記載の方法。
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