JP2019038881A - 熱可塑性樹脂組成物、該組成物から得られる樹脂成形体 - Google Patents

熱可塑性樹脂組成物、該組成物から得られる樹脂成形体 Download PDF

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Abstract

【課題】耐熱試験後でも優れた摺動特性と静音化特性(軋み音の抑制効果)を有する樹脂成形体が得られる熱可塑性樹脂組成物を提供すること。【解決手段】芳香族ポリエステル樹脂(X)と、共重合体(Y)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、前記(X)は、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンナフタレートからなる群より選ばれる1つ以上の樹脂であり、前記(Y)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)と、スチレン(b−1)、並びに(メタ)アクリロニトリルおよびエポキシ基含有モノマーからなる群より選ばれる1つ以上の単量体(b−2)を含むモノマー成分(B)と、t−ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)を反応して得られるグラフト共重合体であり、前記(A)は、酢酸ビニルの含有率が1〜20重量%であり、前記(A)と(B)の重量比((A)/(B))が55/45〜98/2であり、前記(X)100重量部に対して、前記(Y)が1〜25重量部である熱可塑性樹脂組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、熱可塑性樹脂組成物、該組成物から得られる樹脂成形体に関する。
ポリアルキレンテレフタレートやポリアルキレンナフタレートなどの芳香族ポリエステル樹脂は、優れた機械物性や耐薬品性を有する汎用エンジニアリングプラスチックとして、自動車工業分野や電気、電子工業分野などの各種工業分野で広く使用されている。これらの中でも、ポリブチレンテレフタレートなどは、特に、摺動特性において高い特性を有することから、電気・電子機器のギヤ、カムなどの機構部品やコネクタ、スイッチ部品などの摺動部材として多く使用されている。
しかしながら、摺動部材において、電気・電子機器の小型化、高性能化に伴い、使用される機構部品への要求性能の高度化が進んだため、その摺動特性は、芳香族ポリエステル樹脂自体が有する特性のみでは十分とは言えなくなってきた。
これまでに、ポリブチレンテレフタレートなどの摺動特性を高める方法としては、ポリブチレンテレフタレートなどに、摩耗抑制効果に優れた樹脂用グリース化合物を配合する方法(特許文献1)や、飽和脂肪族炭化水素基置換アミドなどの長鎖炭化水素基置換アミドを摺動性改良剤として添加することが提案されている(特許文献2、3)。
特開2011−122082号公報 特開2002−194191号公報 特開平5−279557号公報
一方、近年になり、上記の摺動部材では、摺動特性のみならず、各種部材樹脂の接触音や衝突音などの軋み音を低減(抑制)できる静音化特性が要求されている。とくに、自動車内装部品における摺動部材では、このような静音化特性において、摺動部材の作動時に発生する軋み音の抑制に関し、経年変化の少ない材料が要望されるようになっている。
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、摺動特性については改善がみられるものの、コーティング工程を行う必要があるため、作業時間やコスト負担が増加してしまう。また、特許文献2や特許文献3に記載の技術では、摩擦特性や軋み音の抑制に改善がみられるものの、経年変化を想定した耐熱試験後では、添加剤が遊離するため、経年変化における摺動特性および静音化特性(軋み音の抑制効果)についての改良の余地があった。
以上のような事情に鑑み、本発明は、耐熱試験後でも優れた摺動特性と静音化特性(軋み音の抑制効果)を有する樹脂成形体が得られる熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、芳香族ポリエステル樹脂(X)と、共重合体(Y)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、前記芳香族ポリエステル樹脂(X)は、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンナフタレートからなる群より選ばれる1つ以上の樹脂であり、前記共重合体(Y)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)と、スチレン(b−1)、並びに(メタ)アクリロニトリルおよびエポキシ基含有モノマーからなる群より選ばれる1つ以上の単量体(b−2)を含むモノマー成分(B)と、t−ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)(以下、MECとも称す)を反応して得られるグラフト共重合体であり、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)は、酢酸ビニルの含有率が1〜20重量%であり、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)と前記モノマー成分(B)の重量比((A)/(B))が55/45〜98/2であり、前記芳香族ポリエステル樹脂(X)100重量部に対して、前記共重合体(Y)が1〜25重量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物、に関する。
また、本発明は、前記熱可塑性樹脂組成物から得られることを特徴とする樹脂成形体、に関する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、芳香族ポリエステル樹脂(X)に、添加剤として、共重合体(Y)(主に、エチレン−酢酸ビニル共重合体を主鎖、ポリ(スチレン−(メタ)アクリロニトリルおよび/またはエポキシ基含有モノマー−MEC)共重合体を側鎖とする特定のグラフト共重合体)を所定量含むものである。当該共重合体(Y)は、主鎖がオレフィン系、側鎖がビニル系ポリマーであることにより、芳香族ポリエステル樹脂(X)に良好に分散できると推定されることから、芳香族ポリエステル樹脂(X)自体の優れた機械物性が維持でき、さらに、高分子タイプであることから、芳香族ポリエステル樹脂(X)から脱離しにくいと推定されるため、当該樹脂組成物から得られる成形体は、耐熱試験後においても、摺動特性および静音化特性(軋み音の抑制効果)に優れる。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形や押出し成形などにより、所定形状に成形した場合においても、外観の良好な樹脂成形体が得られる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、芳香族ポリエステル樹脂(X)と、共重合体(Y)を含む。
<芳香族ポリエステル樹脂(X)>
前記芳香族ポリエステル樹脂(X)は、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンナフタレートからなる群より選ばれる1つ以上の樹脂である。芳香族ポリエステル樹脂(X)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
前記ポリアルキレンテレフタレートは、少なくとも、テレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体(炭素数1〜6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物など)を含むジカルボン酸成分と、アルキレングリコールおよび/またはそのエステル形成性誘導体(アセチル化物など)を含むジオール成分とを重縮合して得られる、アルキレンテレフタレート単位を含む樹脂である。
また、前記ポリアルキレンナフタレートは、少なくとも、2,6−ナフタレンジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体(炭素数1〜6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物など)を含むジカルボン酸成分と、アルキレングリコールおよび/またはそのエステル形成性誘導体(アセチル化物など)を含むジオール成分とを重縮合して得られる、アルキレンナフタレート単位を含む樹脂である。
前記アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサンメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール、1,10−デカンジオールなどの炭素数2〜12のアルキレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも、炭素数2〜6のアルキレングリコールが好ましく、1,4−ブタンジオールがより好ましい。アルキレングリコールは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
前記ポリアルキレンテレフタレートとしては、例えば、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)(PCT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などが挙げられるが、樹脂成形体が摺動特性において高い特性を有する観点から、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。また、前記ポリアルキレンテレフタレートは、ホモポリアルキレンテレフタレート(ホモポリマー)、あるいはコポリアルキレンテレフタレート(コポリマー)であってもよく、コポリアルキレンテレフタレートの場合、前記ポリアルキレンテレフタレート中、前記アルキレンテレフタレート単位の割合は、60モル%以上であることが好ましく、75モル%以上であることがより好ましく、そして、95モル%以下であることが好ましい。
前記ポリアルキレンナフタレートとしては、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどが挙げられるが、樹脂成形体が摺動特性において高い特性を有する観点から、ポリブチレンナフタレートが好ましい。また、前記ポリアルキレンナフタレートは、ホモポリアルキレンナフタレート(ホモポリマー)、あるいはコポリアルキレンナフタレート(コポリマー)であってもよく、コポリアルキレンナフタレートの場合、前記ポリアルキレンナフタレート中、前記アルキレンナフタレート単位の割合は、60モル%以上であることが好ましく、75モル%以上であることがより好ましく、そして、95モル%以下であることが好ましい。
前記ポリアルキレンテレフタレート、あるいは前記ポリアルキレンナフタレートがコポリマーの場合、前記ジカルボン酸成分には、他のジカルボン酸が使用される。他のジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテルなどの炭素数8〜14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの炭素数4〜16の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの炭素数5〜10の脂環式ジカルボン酸;これらのエステル形成性誘導体(炭素数1〜6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物など)が挙げられる。これらの中でも、炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸、炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸が好ましい。他のジカルボン酸は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。なお、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸などを併用してもよい。
また、前記ポリアルキレンテレフタレート、あるいは前記ポリアルキレンナフタレートがコポリマーの場合、前記ジオール成分には、前記アルキレングリコール以外の、他のジオール成分が使用される。他のジオール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなどの脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体などのビスフェノールAの炭素数2〜4のアルキレンオキサイド付加体;これらのエステル形成性誘導体(アセチル化物など)が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシアルキレングリコール、脂環式ジオールが好ましい。他のジオールは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。なお、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどのポリオールなどを併用してもよい。
また、前記ジカルボン酸成分および前記ジオール成分以外の、コモノマー成分として、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−カルボキシ−4’−ヒドロキシビフェニルなどの芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸などの脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε−カプロラクトンなど)などの炭素数3〜12のラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(炭素数1〜6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物など)が使用できる。
前記芳香族ポリエステル樹脂(X)には、強化繊維(例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度、高弾性率繊維)を含浸(含有)した芳香族ポリエステル樹脂も含まれる。当該市販品としては、例えば、ポリプラスチック(株)製の「ジュラネックス3300」(ポリブチレンテレフタレート+ガラス繊維30%)などが挙げられる。
<共重合体(Y)>
前記共重合体(Y)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)と、スチレン(b−1)、並びに(メタ)アクリロニトリルおよびエポキシ基含有モノマーからなる群より選ばれる1つ以上の単量体(b−2)を含むモノマー成分(B)と、t−ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)を反応して得られる(構成単位とする)グラフト共重合体である。
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)は、エチレンと酢酸ビニルから合成される共重合体であり、酢酸ビニル(酢酸ビニル残基単位)の含有率(含有量)が1〜20重量%である。前記酢酸ビニルの含有率は、芳香族ポリエステル樹脂(X)に対する共重合体(Y)の分散性を高める観点から、3重量%以上であることが好ましく、そして、樹脂成形体の摺動特性と静音化特性(軋み音の抑制効果)を向上させる観点、および共重合体(Y)の耐熱性を向上させる観点から、15重量%以下であることが好ましい。なお、前記酢酸ビニルの含有率は、JIS K6924−1(1997年版)に準拠して測定できる。エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)は、メルトマスフローレート(以下、MFRとも称す)が、共重合体(Y)の製造プロセスにおける作業性を高める観点、および樹脂成形体の摺動特性を向上させる観点から、0.1〜25(g/10min)であることが好ましく、1.0〜10(g/10min)であることがより好ましい。なお、前記MFRは、JIS K6924−1(1997年版)に準拠して測定できる。
前記モノマー成分(B)は、スチレン(b−1)、並びに(メタ)アクリロニトリルおよびエポキシ基含有モノマーからなる群より選ばれる1つ以上の単量体(b−2)を含む。
前記エポキシ基含有モノマーは、分子内にエチレン性二重結合およびエポキシ基を有するモノマーである。前記エポキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、マレイン酸ジグリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルコハク酸ジグリシジル、p−スチレンカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、メタアリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、3,4−エポキシ−1−ブテン、3,4−エポキシ−3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロヘキセンモノオキシドなどが挙げられる。これらの中でも共重合体(Y)の耐熱性を向上させる観点から、(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましく、メタクリル酸グリシジルがより好ましい。
前記スチレン(b−1)と前記単量体(b−2)の重量比((b−1)/(b−2))は、樹脂成形体の摺動特性と静音化特性(軋み音の抑制効果)を向上させる観点から、50/50〜90/10であることが好ましく、60/40〜80/20であることがより好ましい。
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)と前記モノマー成分(B)の重量比((A)/(B))は、55/45〜98/2である。前記重量比((A)/(B))は、樹脂成形体の摺動特性と静音化特性(軋み音の抑制効果)を向上させる観点から、60/40〜95/5であることが好ましく、70/30〜90/10であることがより好ましい。
前記t−ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)は、下記一般式(1)で表される化合物(MEC)である。
Figure 2019038881
前記共重合体(Y)の製造方法は、前記t−ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)(ラジカル重合性有機過酸化物)を用いた重合法である。
前記ラジカル重合性有機過酸化物を用いた重合法は、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)を、水を主成分とする媒体に懸濁した溶液(エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)濃度:10〜30重量%)に、スチレン(b−1)、並びに(メタ)アクリロニトリルおよびエポキシ基含有モノマーからなる群より選ばれる1つ以上の単量体(b−2)を含むモノマー成分(B)と、前記t−ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)と、重合開始剤を加え、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)(エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)の粒子)中に、前記モノマー成分(B)と前記t−ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)と前記重合開始剤を含浸させて、前記モノマー成分(B)を重合して前駆体を得る工程と、当該前駆体を溶融して混練(溶融混練)して、グラフト共重合体(Y)を製造する工程を含む方法である。なお、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)を懸濁する際、必要に応じ、懸濁剤(例えば、ポリビニルアルコール)を前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)100重量部に対して、0.1〜1重量部程度使用してもよい。また、上記の含浸の際、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)中にモノマー成分(B)などを十分に含浸させるため、加温(例えば、60〜80℃程度)しながら、攪拌してもよい。
前記重合開始剤は、熱によりラジカルを発生するものであれば、特に限定されず、例えば、有機過酸化物、アゾ系重合開始剤などが挙げられる。重合開始剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
前記重合開始剤は、重合開始剤の急激な分解を抑制し、重合開始剤や前記モノマー成分の残存を抑制する観点から、10時間半減期温度(以下、T10とも称す)が、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、そして、130℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることがさらに好ましい。なお、前記10時間半減期温度(T10)は、前記重合開始剤を、例えば、0.05から0.1モル/リットルになるようにベンゼンに溶解させた溶液を熱分解させた際に、当該重合開始剤が10時間で半減期を迎える温度のことを意味する。
前記重合開始剤としては、例えば、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート(T10=51℃)、t−ヘキシルパーオキシピバレート(T10=53℃)、t−ブチルパーオキシピバレート(T10=55℃)、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(T10=59℃)、ジラウロイルパーオキサイド(T10=62℃)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(T10=65℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン(T10=66℃)、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキシルヘキサノエート(T10=70℃)、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド(T10=71℃)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(T10=72℃)、ベンゾイルパーオキサイド(T10=74℃)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(T10=95℃)、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート(T10=97℃)、t−ブチルパーオキシラウレート(T10=98℃)、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(T10=99℃)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート(T10=99℃)、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート(T10=99℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(T10=100℃)、t−ブチルパーオキシアセテート(T10=102℃)、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン(T10=103℃)、t−ブチルパーオキシベンゾエート(T10=104℃)、n−ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート(T10=105℃)、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(T10=119℃)、ジクミルパーオキサイド(T10=116℃)、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド(T10=116℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(T10=118℃)、t−ブチルクミルパーオキサイド(T10=120℃)、ジ−t−ブチルパーオキサイド(T10=124℃)などの有機過酸化物;2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(T10=51℃)、2,2−アゾビス(イソブチロニトリル)(T10=65℃)、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(T10=67℃)などのアゾ系重合開始剤などが挙げられる。
前記前駆体を製造する工程において、重合温度は、原料(特に、前記重合開始剤の10時間半減期温度)などによって異なるので一概には決定できないが、通常、65℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、そして、90℃以下であることが好ましく、85℃以下であることがより好ましい。また、重合時間は、原料や反応温度などによって異なるので一概には決定できないが、通常、目的物の収率性を高める観点から、1.5時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましく、そして、6時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましい。
前記前駆体を製造する工程において、前記t−ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)は、前記モノマー成分(B)100重量部に対し、0.5重量部以上であることが好ましく、1重量部以上であることがより好ましく、3重量部以上であることがさらに好ましく、そして、10重量部以下であることが好ましく、8重量部以下であることがより好ましく、6重量部以下であることがさらに好ましい。
前記前駆体を製造する工程において、前記重合開始剤は、モノマー成分(B)100重量部に対し、0.3重量部以上であることが好ましく、0.5重量部以上であることがより好ましく、そして、3重量部以下であることが好ましく、2重量部以下であることがより好ましい。
前記溶融混練としては、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの混練機を用いて、前記前駆体を溶融して混練りする方法が挙げられる。混練りする回数は、1回または複数回であってもよい。混練りする時間は、使用する混練機の大きさなどによって異なるが、通常、3〜10分程度とすればよい。また、混練機の排出温度は、150〜350℃とすることが好ましく、180〜250℃とすることがより好ましい。
前記共重合体(Y)は、前記芳香族ポリエステル樹脂(X)100重量部に対して、1〜25重量部である。前記共重合体(Y)は、樹脂成形体の摺動特性と静音化特性(軋み音の抑制効果)を向上させる観点から、前記芳香族ポリエステル樹脂(X)100重量部に対して、3重量部以上であることが好ましく、そして、樹脂成形体の機械物性と外観品質を向上させる観点から、20重量部以下であることが好ましい。
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各種配合剤を用いることができる。配合剤としては、例えば、セラミックファイバー(CF)、ガラス繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、鉱物破砕繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、石コウ繊維、水酸化マグネシウム繊維、炭化ケイ素繊維、ジルコニア繊維などの繊維強化材;球状シリカ、マイカ、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、ベントナイト、セリサイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、アルミナ、硅酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄、グラファイト、カーボンブラック、二硫化モリブデン、超高密度ポリエチレンなどの各形状の有機または無機の充填剤;鉱油、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、アルコール、金属石けん、天然ワックス、シリコーンなどの滑剤;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの無機の難燃剤;ハロゲン系、リン系などの有機の難燃剤;ポリアセタール、ポリアミド、ポリフェニレンエーテルなどのエンジニアプラスチック;酸化防止剤、紫外線防止剤、着色剤、帯電防止剤、架橋剤、分散剤、カップリング剤、発泡剤、着色剤などが挙げられる。
本発明の樹脂成形体は、前記熱可塑性樹脂組成物を所定の形状に成形することにより得られる。成形方法としては、何ら限定されるものではないが、例えば、射出成形、押出し成形などが挙げられ、成形の加熱温度、圧力、時間などは適宜設定できる。当該樹脂成形体は、機械物性、外観品質、摺動特性、および静音化特性(軋み音の抑制効果)に優れるため、電気部品、電子部品、機械部品、精密機器部品、自動車部品などの広い分野で利用することができる。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
<実施例1>
<共重合体(Y)の製造>
内容積5Lのステンレス製オートクレーブに、純水2500重量部を入れ、更に懸濁剤としてポリビニルアルコール2.5重量部を溶解させた。この中に、エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)(東ソー(株)製、商品名「ウルトラセン510」、酢酸ビニル含有率(含有量)が6重量%、MFRが2.5(g/10min))800重量部を入れ、攪拌して分散させた。
さらに、重合開始剤として、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(日油(株)製、商品名「パーロイル355」、10時間半減期温度=59℃)3.0重量部と、t−ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)(以下、MECとも称す)10.0重量部を、スチレン(以下、Stとも称す)140重量部とメタクリル酸グリシジル(以下、GMAとも称す)60重量部からなるモノマー成分(B)に溶解させた溶液を調製し、この溶液を上記のオートクレーブ中に投入し攪拌した。
次いで、上記のオートクレーブを60〜65℃に昇温し、3時間攪拌することによって、ラジカル重合開始剤、t−ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)、およびモノマー成分(B)をエチレン−酢酸ビニル共重合体(A)中に含浸させた。続いて、上記のオートクレーブを80〜85℃に昇温し、当該温度で7時間保持して重合させて前駆体(ポリ(St/GMA/MEC)共重合体が含浸したエチレン−酢酸ビニル共重合体組成物)を得た。得られた前駆体を冷却後、水洗および乾燥した。得られた前駆体を酢酸エチルに浸漬し、ポリ(St/GMA/MEC)共重合体を抽出し、以下のGPC条件にて当該ポリ(St/GMA/MEC)共重合体の重量平均分子量を求めたところ、400,000であった。
<GPC条件>
分析装置:HLC‐8320GPC(東ソー社製)
カラム:TSK gel SuperH−RC(東ソー社製)、TSK gel SuperMP(HZ−M)(東ソー社製)、TSK gel SuperMultiporeHZ−M(東ソー社製)の直列接続
カラムサイズ:4.6×150mm
溶離液:テトラヒドロフラン
流量:1.5mL/min
検出器:示差屈折計
カラム温度:40℃
標準試料:ポリスチレン
さらに、得られた前駆体を、ラボプラストミル一軸押出機((株)東洋精機製作所製)を用い、200℃にて溶融混練して、グラフト化反応させることにより製造例1の共重合体(Y)(グラフト共重合体)を製造した。得られた共重合体(Y)を走査型電子顕微鏡(「JEOL JSM T300」、日本電子株式会社製)で観察したところ、粒径0.1〜0.2μmの真球状樹脂が均一に分散していることが確認された。
<熱可塑性組成物の製造>
前記芳香族ポリエステル樹脂(X)成分として、ポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス(株)製、商品名「ジュラネックス2002」)100重量部、前記(Y)成分として、上記で得られた製造例1の共重合体(Y)10重量部を、二軸押出機(PCM−30:池貝製)を用いて、溶融混練(押出温度:230〜250℃)し、ペレット状の組成物を得た。次いで、このペレットを射出成形(バレル温度:245℃、金型温度:80℃)し、所定形状の評価用試験片を作製した。
得られた試験片を用いて、摺動特性および静音化特性(軋み音の抑制効果)を以下の方法にて評価した。結果を表2に示す。
<摺動特性の評価(スラスト式摩擦摩耗試験)>
摺動特性は、上記で得られた試験片(評価材)について、スラスト式摩擦摩耗試験機(オリエンテック(株)製、摩擦摩耗試験機「EFM−III−F」)を用い、相手材((1)炭素鋼(S45C)、または(2)ポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス(株)製、商品名「ジュラネックス2002」、共重合体(Y)を含まない芳香族ポリエステル樹脂(X):ニートPBT))に対する摩耗量(mg)および動摩擦係数を、以下の条件にて測定して、評価した。
試験片(評価材)および相手材の大きさ:内径20mm、外径25.6mm、厚み5.6mmの円筒
試験条件(相手材が(1)の場合):荷重50N、線速度50cm/sec
試験条件(相手材が(2)の場合):荷重20N、線速度50cm/sec
試験時間:100分間
本発明の樹脂成形体は、上記の摺動特性の評価において、相手材が上記(1)である場合、耐摩耗量(mg)が2mg以下であることが好ましく、1.8mg以下であることがより好ましい。また、本発明の樹脂成形体は、上記の摺動特性の評価において、相手材が上記(2)である場合、耐摩耗量(mg)が15mg以下であることが好ましく、10mg以下であることがより好ましく、5mg以下であることがさらに好ましい。
本発明の樹脂成形体は、上記の摺動特性の評価において、相手材が上記(1)である場合、動摩擦係数が0.20以下であることが好ましい。また、本発明の樹脂成形体は、上記の摺動特性の評価において、相手材が上記(2)である場合、動摩擦係数が0.25以下であることが好ましい。
<静音化特性(軋み音の抑制効果)の評価>
上記で得られた試験片(評価材)を、静音化特性の試験用のプレート(60mm×100mm×2mm)に切り出してバリ取りを行った後、温度25℃、湿度50%RHで12時間放置した。また、相手材用のプレート(50mm×25mm×2mm)として、(1)炭素鋼(S45C)のプレート、および(2)ポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス(株)製、商品名「ジュラネックス2002」、共重合体(Y)を含まない芳香族ポリエステル樹脂(X):ニートPBT)のプレートを準備した。
静音化特性は、上記の静音化特性の試験用のプレートと、相手材用のプレートをZiegler社のスティックスリップ測定装置SSP−04に固定し、荷重=40N、速度=1mm/sの条件でそれぞれ擦り合わせた時の軋み音リスク値を測定して、評価した。なお、軋み音リスク値は、値が小さいほど軋み音発生のリスクが低いことを示す。軋み音リスク値の判断基準は以下に示す通りである。
軋み音リスク値1〜3:軋み音発生のリスクが低い
軋み音リスク値4〜5:軋み音発生のリスクがやや高い
軋み音リスク値6〜10:軋み音発生のリスクが高い
本発明の樹脂成形体は、上記の静音化特性の評価において、相手材が上記(1)である場合、軋み音リスク値が3以下であることが好ましい。また、本発明の樹脂成形体は、上記の静音化特性の評価において、相手材が上記(2)である場合、軋み音リスク値が3以下であることが好ましい。
<耐熱試験後の静音化特性(軋み音の抑制効果)の評価>
樹脂成形体の経年変化を想定した試験として、上記の静音化特性の試験用のプレートを80℃の送風機能付き恒温槽に300時間静置した。続いて、25℃、50%RHの恒温槽に24時間放置した後、上記の相手材用のプレートを用いて、上記同様に、軋み音リスク値を測定した。なお、軋み音リスク値判断基準は、上記と同様である。
<実施例2〜17、比較例1〜6>
<共重合体(Y)および熱可塑性組成物の製造>
各原料の種類とその配合量を表1および表2に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様の方法により、共重合体(Y)および熱可塑性組成物を製造し、実施例2〜17および比較例1〜6の評価用試験片を作製した。
上記で得られた実施例2〜17および比較例1〜6の評価用試験片について、上記の評価方法により、摺動特性、静音化特性、および耐熱試験後の静音化特性を評価した。結果を表2に示す。
Figure 2019038881
Figure 2019038881
表1中、
EVA1は、酢酸ビニル共重合体(東ソー(株)製、商品名「ウルトラセン510」、酢酸ビニル含有率(含有量)が6重量%、MFRが2.5(g/10min));
EVA2は、酢酸ビニル共重合体(東ソー(株)製、商品名「ウルトラセン537」、酢酸ビニル含有率(含有量)が15重量%、MFRが3.0(g/10min));
EVA3は、酢酸ビニル共重合体(東ソー(株)製、商品名「ウルトラセン750」、酢酸ビニル含有率(含有量)が32重量%、MFRが30(g/10min));
LDPEは、低密度ポリエチレン(住友化学(株)社製、商品名「スミカセンG401」);
Stは、スチレン;
ANは、アクリロニトリル;
GMAは、メタクリル酸グリシジル;
R355は、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(日油(株)製、商品名「パーロイル355」、10時間半減期温度=59℃);
BWは、ベンゾイルパーオキサイド(日油(株)製、商品名「ナイパーBW」、10時間半減期温度=74℃);を示す。
表2中、
PBT1は、ポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス(株)製、商品名「ジュラネックス2002」);
PBT2は、ポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス(株)製、商品名「ジュラネックス3300」、ガラス繊維30%含有);
M−969は、ステアリン酸ステアリル(日油(株)製、商品名「ユニスターM−9696」);を示す。

Claims (4)

  1. 芳香族ポリエステル樹脂(X)と、共重合体(Y)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
    前記芳香族ポリエステル樹脂(X)は、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンナフタレートからなる群より選ばれる1つ以上の樹脂であり、
    前記共重合体(Y)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)と、スチレン(b−1)、並びに(メタ)アクリロニトリルおよびエポキシ基含有モノマーからなる群より選ばれる1つ以上の単量体(b−2)を含むモノマー成分(B)と、t−ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)を反応して得られるグラフト共重合体であり、
    前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)は、酢酸ビニルの含有率が1〜20重量%であり、
    前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)と前記モノマー成分(B)の重量比((A)/(B))が55/45〜98/2であり、
    前記芳香族ポリエステル樹脂(X)100重量部に対して、前記共重合体(Y)が1〜25重量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
  2. 前記ポリアルキレンテレフタレートがポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
  3. 前記エポキシ基含有モノマーが(メタ)アクリル酸グリシジルであることを特徴とする請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物から得られることを特徴とする樹脂成形体。
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