JP2019038163A - 粉体塗装物およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、基材表面と粉体塗料を用いた塗膜層の間に、シランカップリング剤を含有する前処理水溶液を用いて前処理層を形成したときの塗膜表面に発生しやすい塗膜欠陥を抑制し、安定して良好な塗膜表面を形成した粉体塗装物等を提供する。【解決手段】本発明の粉体塗装物1は、基材2の少なくとも片面と、粉体塗料により形成した塗膜層4との間に、シランカップリング剤および有機スズ化合物を含有する前処理水溶液により形成した前処理層3を有し、前処理層3が、シランカップリング剤由来成分と有機スズ化合物由来成分を含有し、前処理層3中のシランカップリング剤由来成分の含有量が、前記基材の片面当たりのSiO2付着量にして、8.0〜24.0mg/m2の範囲であり、前記前処理層中の前記有機スズ化合物由来成分の含有量が、前記基材の片面当たりのSn付着量にして、0.15〜0.75mg/m2の範囲である。【選択図】図1

Description

本発明は、粉体塗装物およびその製造方法に関し、特に、前処理変性層を形成した基材表面に、粉体塗料を塗着させ、焼き付けることによって製造される粉体塗装物において発生しやすい塗膜欠陥を抑制し、安定して良好な塗膜表面を得る技術に関する。
粉体塗装法は、例えばエポキシ系、ポリエステル系、アクリル系またはエポキシ−ポリエステル系の粉体塗料を粉体状態のまま、静電粉体塗装機を用いて基材表面に吹き付けて塗着し、その後、塗着した粉体は、焼き付け工程によって粉体を一旦溶融させた後に固化させて基材表面に塗膜を形成する方法である。この粉体塗装法では、粉体塗料自体に溶剤を含まず、塗膜形成までの一連の工程でも、溶剤を使用しないで行うことができることから、特にVOC(揮発性有機化合物)排出規制に適合し、環境に優しい塗装法として広く使用されている。
また、基材に塗膜を形成する際、基材が塗膜とは異なる材質、例えば基材が鋼板などの金属板、塗膜が合成樹脂粉体で形成した場合には、金属表面に対する塗膜の密着性が十分に得られない場合があるため、通常は、金属基材の表面と樹脂塗膜層との間に、両者との密着性を有する前処理層を形成するのが一般的である。
従来の前処理層としては、例えばリン酸塩処理やクロメート処理によってそれぞれ形成されるリン酸塩被膜やクロメート被膜を使用するのが一般的である。しかしながら、かかる前処理層は、処理液が、いずれも環境に放出する量が規制されている有害物質を含有するものであって、大気や河川等へ排出するための廃液処理が必要になるなどの環境上の問題がある。
このため、近年では、有害物質を含有しない処理液としてシランカップリング剤を含有する処理液が使用されるようになってきた。
しかしながら、シランカップリング剤を含有する処理液で形成した前処理層を用い、この前処理層を形成した基材表面、特に平らな部分だけではなく、凹凸があるなどの複雑な形状を有する基材表面に塗装を施す場合には、形成した塗膜表面には、ワキ等の塗膜欠陥が発生する頻度が高く、製品歩留りが劣るという問題がある。
塗膜表面のワキの発生を抑制した塗装物としては、例えば特許文献1に記載されている。しかしながら、特許文献1の塗装物は、粉体塗料の適正化を図ることで、塗膜表面のワキの発生を抑制したものであって、前処理層の適正化に関しては開示や示唆がなく、前処理層の具体例としてリン酸亜鉛処理によって形成した前処理層を開示しており、これは、廃液処理が必要になるなどの環境上の問題がある。
特開平10−95930号公報
本発明の目的は、基材の表面と、粉体塗料を用いて形成した塗膜層との間に、シランカップリング剤および有機スズ化合物を含有し、環境排出基準に適合する前処理水溶液を用いて前処理層を形成し、かつ、前処理層中に含有するSiおよびSnの付着量の適正化を図ることにより、塗膜表面に発生しやすい塗膜欠陥を有効に抑制し、安定して良好な塗膜表面を形成することができる粉体塗装物およびその製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)基材の少なくとも片面と、粉体塗料により形成した塗膜層との間に、シランカップリング剤および有機スズ化合物を含有する前処理水溶液により形成した前処理層を有し、前記前処理層が、シランカップリング剤由来成分と有機スズ化合物由来成分を含有し、前記前処理層中の前記シランカップリング剤由来成分の含有量が、前記基材の片面当たりのSiO付着量にして、8.0〜24.0mg/mの範囲であり、前記前処理層中の前記有機スズ化合物由来成分の含有量が、前記基材の片面当たりのSn付着量にして、0.15〜0.75mg/mの範囲であることを特徴とする粉体塗装物。
(2)水膜を形成した前記基材の少なくとも片面に、有機スズ化合物とシランカップリング剤を含有する前処理水溶液を常温で塗布することにより前処理液層を形成する第1工程と、前記基材を第1温度域で水切り乾燥することにより前記前処理液層を前処理変性層とする第2工程と、前記基材表面の前記前処理変性層上に、粉体塗料を塗着して塗料層を形成する第3工程と、前記基材を前記第1温度域よりも高温である第2温度域で焼付け乾燥することにより、前記前処理変性層および前記塗料層をそれぞれ前処理層および塗膜層とする第4工程とを順に行なうことを特徴とする粉体塗装物の製造方法。
(3)前記第1温度域が100℃以上である上記(2)に記載の粉体塗装物の製造方法。
(4)前記第2温度域が150℃以上である上記(2)または(3)に記載の粉体塗装物の製造方法。
(5)前記第4工程は、前記第2温度域内で2段加熱によって行なう上記(4)に記載の粉体塗装物の製造方法。
(6)前記粉体塗料が、エポキシ系、ポリエステル系、アクリル系またはエポキシ−ポリエステル系の粉体塗料である上記(2)〜(5)のいずれか1項に記載の粉体塗装物の製造方法。
(7)複数枚の前記基材を下方に間隔をおいて吊下げた状態で水平搬送させて前記第1〜第4工程を連続的に行う粉体塗装物の製造方法であって、少なくとも前記第1工程における前記前処理水溶液の塗布を、前記複数枚の基材がともに、上端面を仮想水平面に対して傾斜させた吊下げ状態にして行なう上記(2)〜(6)のいずれか1項に記載の粉体塗装物の製造方法。
本発明によれば、基材の少なくとも片面と、粉体塗料により形成した塗膜層との間に、シランカップリング剤および有機スズ化合物を含有する前処理水溶液により形成した前処理層を有し、前記前処理層が、シランカップリング剤由来成分と有機スズ化合物由来成分を含有し、前記前処理層中の前記シランカップリング剤由来成分の含有量が、前記基材の片面当たりのSiO付着量にして、8.0〜24.0mg/mの範囲であり、前記前処理層中の前記有機スズ化合物由来成分の含有量が、前記基材の片面当たりのSn付着量にして、0.15〜0.75mg/mの範囲であることによって、特に平らな部分だけではなく、凹凸があるなどの複雑な形状を有する基材表面に塗装を施す場合であっても、塗膜欠陥を有効に抑制し、安定して良好な塗膜表面を形成することができる粉体塗装物およびその製造方法を提供することが可能になった。
図1は、本発明に従う代表的な粉体塗装物の模式的断面図である。 図2(a)(b)は、いずれも円形状のくぼみを設けた基材(鋼板)表面に、前処理層と塗膜層を形成したときの表面外観写真であって、図2(a)が、前処理層を形成する前処理水溶液中に有機スズ化合物を含有させた場合(本発明の粉体塗装物(塗装鋼板)に相当する部分)、図2(b)が、前処理層を形成する前処理水溶液中に有機スズ化合物を含有させない場合(比較例の粉体塗装物(塗装鋼板)に相当する部分)を示す。 図3(a)〜(f)は、本発明に従う代表的な粉体塗装物の製造方法の一連の工程を説明するためのフローチャートであって、各工程における基材(鋼板)の表面状態を説明するための模式的断面図を併せて示す。 図4は、図3(c)〜(f)に示す第1工程から第4工程までの各工程において基材の表面で生じる現象を説明するための図である。 図5は、本発明の粉体塗装物の製造方法の各工程を、3枚の基材を吊下げた状態で行なったときの実施形態を概念的に示す図である。 図6は、図5に示す第1工程を行う際の基材の吊り下げ状態を変更した他の実施形態を示した概念図である。 図7は、従来の粉体塗装物の製造方法における第1工程を行う際の基材の吊り下げ状態を示した概念図である。
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら以下で説明する。
<粉体塗装物>
図1は、本発明の粉体塗装物の実施形態を模式的断面で示したものである。
図1に示す粉体塗装物1は、基材2と前処理層3と塗膜層4とにより主に構成されている。
基材2は、粉体塗装が適用できる素材であればよく、特に限定はしないが、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼のような鉄合金材、アルミニウムまたはその合金材、亜鉛またはその合金材、銅またはその合金材、またはそれらの亜鉛めっき材やアルミニウムめっき材のような表面処理材などの各種金属材が挙げられる。また、基材2の形状もまた特に限定はしないが、例えば板材、角材、管材などが挙げられる。
前処理層3は、基材2と塗膜層4との間に、密着性を高める等の目的で形成される中間層(化成処理層)である。また、前処理層3は、シランカップリング剤および有機スズ化合物を含有する前処理水溶液により形成される。
そして、本発明の粉体塗装物1は、前処理層3が、シランカップリング剤由来成分と有機スズ化合物由来成分を含有し、前処理層中のシランカップリング剤由来成分の含有量が、基材2の片面当たりのSiO付着量にして、8.0〜24.0mg/mの範囲であり、前処理層3中の有機スズ化合物由来成分の含有量が、基材2の片面当たりのSn付着量にして、0.15〜0.75mg/mの範囲であることを必須の発明特定事項とし、これらの構成を採用することによって、塗膜表面に発生しやすい塗膜欠陥を有効に抑制し、安定して良好な塗膜表面を形成することができる。
前処理層3中のシランカップリング剤由来成分の含有量が、基材2の片面当たりのSiO付着量にして、8.0mg/m未満だと、塗膜密着性および防錆機能が十分に得られないからであり、24.0mg/m超えだと、塗膜外観異常を生じやすくなって歩留りが悪化するからである。また、前処理層3中の有機スズ化合物由来成分の含有量が、基材2の片面当たりのSn付着量にして、0.15mg/m未満だと、乾燥時のシロキサン反応促進効果が十分に得られないからであり、0.75mg/m超えだと、シラノール建浴液に白濁を生じ前処理液中に異物が形成されるという問題があるからである。このため、本発明では、前処理層3中のシランカップリング剤由来成分の含有量を、基材2の片面当たりのSiO付着量にして、8.0〜24.0mg/mの範囲とし、前処理層3中の有機スズ化合物由来成分の含有量を、基材2の片面当たりのSn付着量にして、0.15〜0.75mg/mの範囲とした。
図2(a)および図2(b)は、いずれも円形状のくぼみを設けた基材(鋼板)表面全体を水で濡れた状態(水膜:1μm程度)にした後に、前処理層と塗膜層を形成したときの表面外観写真であって、図2(a)が、前処理層を形成する前処理水溶液中に有機スズ化合物を含有させた場合(本発明の粉体塗装物に相当する部分)、図2(b)が、前処理層を形成する前処理水溶液中に有機スズ化合物を含有させない場合(比較例の粉体塗装物に相当する部分)を示したものである。基材2は、厚さ1mmの冷間圧延鋼板(SPCC)であり、基材2に設けたくぼみは、直径20mmの鋼球を打設し、深さ2mm球面状に形成した。また、図2(a)に示す本発明の粉体塗装物1は、前処理層中のシランカップリング剤由来成分の含有量が、基材2の片面当たりのSiO付着量にして、くぼみ領域を含めた平均で20.0mg/mの範囲であり、前処理層3中の有機スズ化合物由来成分の含有量が、基材2の片面当たりのSn付着量にして、くぼみ領域を含めた平均で0.6mg/mの範囲であり、塗膜層4の材質が、エポキシポリエステル樹脂材料であり、塗膜層の膜厚が、くぼみ領域を含めた平均で50μmであった。図2(a)および図2(b)の比較から、図2(a)に示す本発明の方法に従って作製した粉体塗装物は、くぼみを含む表面全体にわたって塗膜欠陥のない健全な表面外観が得られたのに対し、図2(b)に示す比較例の粉体塗装物は、くぼみおよびその近傍に塗膜欠陥が発生しているのがわかる。
<粉体塗装物の製造方法>
次に、本発明に従う粉体塗装物の製造方法の実施形態について図3および図4を参照しながら以下で説明する。
図3(a)〜(f)は、本発明に従う代表的な粉体塗装物の製造方法の一連の工程を説明するためのフローチャートであって、各工程における基材(鋼板)の表面(積層)状態を説明するための模式的断面図を併せて示したものであり、また、図4は、図3(c)〜(f)に示す第1工程から第4工程までの各工程において基材の表面で生じる現象(反応状態)を説明するための図である。
本発明の粉体塗装物の製造方法は、以下に詳細に示す第1〜第4工程を少なくとも順に行なうことにより、粉体塗装物を製造することができる。
[第1工程の前の処理]
まず、基材2(例えば鋼板)の表面に、スケールや錆などの酸化膜等の形成を抑制するために防錆油などを塗布して油膜5が存在する場合には、基材2の表面から油膜5を除去するため、第1工程の前に脱脂工程S1を行う(図3(a))。脱脂する具体的な方法は、特に限定はしないが、例えば水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)とケイ酸ナトリウムを含有するアルカリ水溶液を用いたアルカリ脱脂や、電解脱脂などが挙げられる。
また、本発明では、基材2の表面に、油や酸化膜等が存在しない状態で水洗工程S2を行うなどして、結果として、基材の清浄表面2aを、水膜6が存在する状態で第1工程S3を行なうまで維持することが必要である(図3(b))。水洗工程S2としては、例えば水スプレー洗浄法や水中浸漬法などの常法を用いて行なうことができる。
[第1工程(前処理工程)]
次に、水膜6が存在する状態にて、基材2の少なくとも片面に、有機スズ化合物とシランカップリング剤を含有する前処理水溶液を常温で塗布することにより前処理液層7を形成する(第1工程S3(図3(c)))。
基材2の表面に水膜6を形成した状態で、有機スズ化合物とシランカップリング剤を含有する前処理水溶液を常温で塗布することにより、塗布された前処理水溶液が、基材の表面に均一に塗り広がるとともに、均一厚さで形成された前処理液層7は、シランカップリング剤中のシラン化合物が、図4に示すように基材2の表面上に存在する水で加水分解されてシラノールに変化し、生成したシラノールが基材表面の水酸基と水素結合した状態となる。
本発明者は、前処理液層7の形成工程を鋭意検討した結果、シランカップリング剤を含有する前処理水溶液を用いて前処理液層7を形成する際に、基材2の鋼板表面上に水膜6が形成されていないと、前処理水溶液が基材2の表面全体にわたって濡れ拡がらないため、前処理液層7の形成厚さが均一にならず、前処理液層7の厚くなった部分では、シランからシラノールに反応する時間が長くなり、シランの一部が、反応しきれないため前処理液層7中に残存するようになり、この残存したシランが、その後、粉体塗料を用いて形成する塗膜層4の表面外観の不良を生じやすくして、製品歩留りを大きく低下させる原因になっていることを見出した。また、この塗膜表面外観の不良が生じる現象は、ラッカー塗料や有機樹脂塗料を用いて塗膜層を形成した場合には認められず、粉体塗料を用いて塗膜層を形成した場合にだけ顕著に発生する現象であることも判明した。
そして、本発明者がさらに検討した結果、基材の表面全体に水膜(水)が存在した状態で、シランカップリング剤を含有する前処理水溶液を塗布することによって、形成される前処理液層7の厚さが均一になり、基材表面全体にわたって十分な水の量が存在するとともに、均一厚さのため基材の表面全体でシランからシラノールへの反応が、比較的短時間で完了させることができる結果、次工程である第2工程(水切り乾燥工程)を行なう時点で、前処理液層7中にシランがほとんど残存しなくなり、全てシラノールに変化することから、その後、粉体塗料を用いて形成する塗膜層4の表面外観の不良が生じなくなり、製品歩留りが顕著に改善されることを見出した。
また、シラノールは、温度が高くなるとゲル化しやすい性質を有しており、前処理液層7中に生成したシラノールがゲル化すると、前処理液層7の膜厚が不均一になり、基材2に対する塗装膜4の密着性が低下するなどの不具合があることから、本発明では、前処理水溶液の塗布温度を、常温(5〜35℃)とした。
シランカップリング剤は、その構造中に反応性官能基と、加水分解性基とを有し、水に溶解できる水溶性であることが好ましい。反応性官能基としては、例えばアミノ基やエポキシ基等が挙げられ、加水分解性基としては、例えばアルコキシ基等が挙げられる。
シランカップリング剤の具体例としては、例えばビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメエキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−(ビニルベンジルアミン)−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができ、これらのシランカップリング剤は1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
有機スズ化合物としては、例えばジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジマレート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジマレート、オクチル酸スズなどが挙げられる。
前処理液層7の膜厚は、塗布する前処理水溶液の温度や、シランカップリング剤の濃度などによって変化することから、これらの条件を調整することによって所望の膜厚に設定することができる。
前処理水溶液の塗布方法としては、特に限定はせず、例えば噴霧(シャワー)方式、浸漬方式、ロールコーター方式などが挙げられる。
[第2工程(水切り乾燥工程)]
第1工程後、基材2を第1温度域で水切り乾燥することにより前処理液層7を前処理変性層8とする(第2工程S4(図3(d)))。
基材2を第1温度域で水切り乾燥(加熱)することにより、前処理液層7中のシラノールが脱水縮合反応によってシロキサンに変化し、シロキサンが基材2の表面に共有結合され、最終的にはゲル化して基材2の表面において強固に密着する。特に、前処理液層7中に含有させた有機スズ化合物が脱水縮合反応を促進する触媒として作用することによって、シラノールからシロキサンへの変化を、迅速かつ確実に生じさせることができ、前処理液層7から前処理変性層8になったときに、前処理変性層8中にシラノールはほとんど残存せずに全てシロキサンに変化する結果として、最終的に製造した粉体塗装物1の塗膜層4を、良好な表面外観で形成することを可能にする。前処理液層7を形成するための前処理水溶液中に有機スズ化合物を含有させないと、シラノールからシロキサンへの反応速度が遅く、前処理変性層8中に、一部のシラノールが残存し、このシラノールが残存すると、最終的に製造した粉体塗装物1の塗膜層4の表面外観を悪化させる傾向がある。このため、本発明では、前処理水溶液に有機スズ化合物を含有させることとした。
第1温度域は、前処理液層7中に存在する水(水分)を蒸発させるとともに、シラノールからシロキサンへの脱水縮合反応を生じさせる温度以上であればよい。第1温度域は、特に一連の工程を連続ラインで行なうなど、前処理液層7中の水分を短時間で蒸発させる必要がある場合には、例えば100℃以上であることが好ましく、より好適には120℃以上、さらに好適には130℃以上とする。
なお、特許文献1(特に請求項5)では、粉体塗料中に、成分の硬化反応を促進する触媒として、スズ系の有機金属化合物を含有することを開示しているが、前処理液層7の脱水縮合反応を促進する触媒として、前処理水溶液に有機スズ化合物を含有させて前処理層を形成する点については開示がない。また、本発明者は、粉体塗料中への有機スズ化合物の含有の有無に関らず、前処理層を形成するための前処理水溶液中に有機スズ化合物を含有させない場合には、粉体塗料を用いて形成した塗膜層の表面外観の不良は改善されないことを実験で確認している。
[第3工程(塗装工程)]
第2工程S4の後、基材2の表面に形成した前処理変性層8上に、粉体塗料を塗着して塗料層9を形成する(第3工程S5(図3(e)))。前処理変性層8上に粉体塗料を塗着することにより、前処理変性層8を構成するシロキサンの外側に配向した官能基に、粉体塗料が付着する。
粉体塗料は、特に限定はしないが、例えば粒子径が5〜100μmであり、材質が、エポキシ系、ポリエステル系、アクリル系またはエポキシ−ポリエステル系である粉体塗料を用いることが好ましい。
塗装方法としては、粉体塗装法であればよく、例えば、静電粉体塗装法(吹き付け塗装法)や流動浸漬法(浸漬塗装法)が挙げられるが、特に静電粉体塗装法が好ましい。
[第4工程(焼付け乾燥工程)]
第3工程S5後、基材2を第1温度域よりも高温である第2温度域で焼付け乾燥することにより、前処理変性層8および塗料層9をそれぞれ前処理層3および塗膜層4とする(第4工程S6(図3(f)))。基材2を第2温度域で焼付け乾燥することにより、塗料層9中の粉体(塗料)を一旦溶融させた後に固化させることで前処理変性層8中のシロキサンを塗料層9中に拡散混合させるとともに、塗料層9を焼付け乾燥することにより、前処理変性層8および塗料層9をそれぞれ前処理層3および塗膜層4に変化させて、基材の表面に強固に固着される。
第2温度域は、前記拡散混合を生じさせる観点から、150℃以上であることが好ましく、より好適には160℃以上、さらに好適には180℃以上とする。また、第2温度域の上限としては、色相異常発生防止の観点から、200℃以下とすることが好ましい。
さらに、第4工程S6は、拡散混合と焼付け乾燥とを同時に行なう場合だけではなく、拡散混合を目的とする第1加熱を行った後に、焼付け乾燥を目的とするさらに高温で第2加熱を行う2段加熱方式を採用してもよい。この場合、第1加熱の温度は、150〜180℃の範囲、第2加熱の温度は、180〜210℃の範囲であることが好ましい。
[第4工程後の処理]
第4工程S6後に基材2を冷却することによって、粉体塗装物(製品)を得ることができる。
[他の実施形態]
また、図5は、吊下げ治具Hに、複数枚の基材2(図5で3枚の基材)を下方に間隔をおいて吊下げ、この吊下げた状態で水平搬送させて第1工程S3〜第4工程S6を連続的に行う粉体塗装物の製造方法の他の実施形態を示したものである。前処理水溶液の塗布は、従来では図7に示すように、複数枚の基材2を、上端面2bが、図7に示すように、仮想水平面Lと平行になるような吊下げ状態で行なっていた。しかしながら、かかる吊下げ状態では、各基材2の上端面2b上に付着した余分な塗布液(前処理水溶液)Cを、基材2の下方へ効果的に流れ落ちる構造にはなっていないため、基材2の表面に前処理液層を均一に塗布することができない場合があった。このため、このような場合には、少なくとも第1工程S1における前処理水溶液Cの塗布を、複数枚の基材2がともに、上端面2bを、図6に示すように、仮想水平面Lに対し、適当な角度θ(好適にはθ=5〜30°の範囲)だけ傾斜させた吊下げ状態にして行なうことによって、各基材2の上端面2b上に付着した余分な前処理水溶液Cを、基材2の下方へ流れ落ちるのを促進する構造になる結果、基材2の表面に前処理液層をより一層均一に塗布することができる。前記角度θが5°未満だと、各基材2の上端面2b上に付着した余分な前処理水溶液Cを、基材2の下方へ流れ落ちるのを促進する効果が顕著ではなく、また、30°を超えると、吊下げ治具Hに吊下げられている基材2が脱落するおそれがあるからである。
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
本発明によれば、特に平らな部分だけではなく、凹凸があるなどの複雑な形状を有する基材表面に塗装を施す場合であっても、塗膜欠陥を有効に抑制し、安定して良好な塗膜表面を形成することができる粉体塗装物およびその製造方法を提供することが可能になった。本発明の粉体塗装物は、例えばスチールデスク、ファイリングキャビネット、ロッカー等の鋼製家具類を含む金属製什器の他、各種電気機器、自動車および電車の車体、住宅関連機器などの多岐にわたる分野への適用が期待される。
1 粉体塗装物
2 基材(または鋼板)
3 前処理層
4 塗膜層
5 油膜
6 水膜
7 前処理液層
8 前処理変性層
9 塗料層
C 塗布液(または前処理水溶液)
H 吊下げ治具
L 仮想水平面

Claims (7)

  1. 基材の少なくとも片面と、粉体塗料により形成した塗膜層との間に、シランカップリング剤および有機スズ化合物を含有する前処理水溶液により形成した前処理層を有し、
    前記前処理層が、シランカップリング剤由来成分と有機スズ化合物由来成分を含有し、
    前記前処理層中の前記シランカップリング剤由来成分の含有量が、前記基材の片面当たりのSiO付着量にして、8.0〜24.0mg/mの範囲であり、
    前記前処理層中の前記有機スズ化合物由来成分の含有量が、前記基材の片面当たりのSn付着量にして、0.15〜0.75mg/mの範囲であることを特徴とする粉体塗装物。
  2. 水膜を形成した前記基材の少なくとも片面に、有機スズ化合物とシランカップリング剤を含有する前処理水溶液を常温で塗布することにより前処理液層を形成する第1工程と、
    前記基材を第1温度域で水切り乾燥することにより前記前処理液層を前処理変性層とする第2工程と、
    前記基材表面の前記前処理変性層上に、粉体塗料を塗着して塗料層を形成する第3工程と、
    前記基材を前記第1温度域よりも高温である第2温度域で焼付け乾燥することにより、前記前処理変性層および前記塗料層をそれぞれ前処理層および塗膜層とする第4工程と
    を順に行なうことを特徴とする粉体塗装物の製造方法。
  3. 前記第1温度域が100℃以上である請求項2に記載の粉体塗装物の製造方法。
  4. 前記第2温度域が150℃以上である請求項2または3に記載の粉体塗装物の製造方法。
  5. 前記第4工程は、前記第2温度域内で2段加熱によって行なう請求項4に記載の粉体塗装物の製造方法。
  6. 前記粉体塗料が、エポキシ系、ポリエステル系、アクリル系またはエポキシ−ポリエステル系の粉体塗料である請求項2〜5のいずれか1項に記載の粉体塗装物の製造方法。
  7. 複数枚の前記基材を下方に間隔をおいて吊下げた状態で水平搬送させて前記第1〜第4工程を連続的に行う粉体塗装物の製造方法であって、
    少なくとも前記第1工程における前記前処理水溶液の塗布を、前記複数枚の基材がともに、上端面を仮想水平面に対して傾斜させた吊下げ状態にして行なう請求項2〜6のいずれか1項に記載の粉体塗装物の製造方法。
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