以下、本発明の落石防護柵の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、この実施の形態の落石防護柵を斜面谷側から見た一部断面全体正面図、図2は、その一部断面側面図である。この実施の形態に係る落石防護柵は、既存の落石防護柵と同様に、斜面(法面を含む)Sを落下する落石による被害を防止することなどを目的に斜面正面視左右方向(横方向)に延設されるものである。この実施の形態では、一定の高さで斜面横方向に連続する土台状のコンクリート構造物12を落石防護柵の基礎として形成している。このコンクリート構造物12は、例えば図示しない躯体の周囲に例えばコンクリートを打設して構築される。
このコンクリート構造物12の上面からは、斜面横方向に予め設定された所定間隔を設けて複数(図では4本)の支柱10が立設されている。この実施の形態の落石防護柵は、これら支柱10でネット体14を支持しながら支柱10間にネット体14を張設し、このネット体14で落石を捕捉することで被害を防止しようとするものである。落石は、斜面Sに沿って転がり落ちるものだけではなく、斜面Sから離れて浮いた状態で落下するものもある。浮いた落石もネット体14で捕捉するため、そのネット体14を支持する支柱10も、或る程度の高さが必要である。また、落石は、斜面横方向のどの箇所で発生するか、予測することはできない。そのため、支柱10の高さは例えば2m〜5m、支柱10間の間隔は例えば3m〜5m、場合によっては10m程度であり、それらは、斜面Sの規模や状況に応じて適宜選択される。この支柱10は、後述するように、鋼製の円形パイプ材36にH型鋼38を差し込んで構成され、そのH型鋼38のウエブ38aが斜面の最大傾斜線方向になるようにしてコンクリート構造物12に下端部が埋設されている。
この実施の形態のネット体14には、例えば図3に示すような、網目が菱形の金属線材からなる菱形金網22が用いられている。この菱形金網22は、例えば特開2016−37773号公報に記載されるように、例えば金属線材24を曲げ加工して三角波状ワイヤとし、並列に配置された複数の三角波状ワイヤの山と谷を互いに編んで、それらの三角波状ワイヤを係合することで構成される。この三角波状ワイヤを構成する金属線材24には、軟鋼、硬鋼、 ばね鋼、ステンレス鋼等を用いることができる。この金属線材24には必要により被覆処理がなされていてもよく、これにより三角波状ワイヤの接触部分の摩耗や、腐食等を防止することができる。被覆処理としては、例えば、亜鉛メッキ処理やポリエステル被覆処理が挙げられる。
この実施の形態では、ネット体14の設定張設位置からの変形量を小さくするために、ネット体14自体の最大変形量を小さくすることが重要なので、菱形金網22からなるネット体14を構成する金属線材24も変形量の小さい、比較的機械強度の高いものが望ましい。従って、金属線材24として具体的に好ましいものは、硬鋼製のワイヤ(単線)、特に、JIS G 3506に規定される硬鋼線材から作製されたワイヤ、例えば、硬鋼線(JIS G 3521)、亜鉛めっき鋼線(JIS G 3548)等である。ワイヤの引張強度は例えば800〜2500N/mm2、好ましくは1000〜2000N/mm2、特に1500〜2000N/mm2であることが有利である。このような硬鋼線を用いることにより、剛性が大きく且つ重量の小さいネット体14を得ることができる。金属線材24として、弾性変形性に優れる硬鋼製のワイヤを用いることも好適である。この種の単線金属線材24の太さ(線径)は、例えば、2〜10mm、好ましくは2.6〜4mmである。
従来の落石防護柵のネット体に用いられる線材は、軟鋼線、つまり鉄線であり、比較的容易に塑性変形してしまう。従って、軟鋼線材のネット体のエネルギー吸収量は小さく、前述した従来技術のように、ネット体の斜面谷側に配設された補助ロープ(この実施の形態における横方向補強ロープ26)が主として落石の運動エネルギーを吸収する。当然ながら、従来の軟鋼線材のネット体の最大変形量は大きい。これに対し、この実施の形態のように硬鋼線材で構成されるネット体14は、軽量ながら剛性が大きいので、ネット体14の変形に伴うエネルギー吸収量が大きい。従って、硬鋼線材からなるネット体14の変形によって落石の運動エネルギーを大きく吸収することができる。結果的に、硬鋼線材からなるネット体14は、落石捕捉時の最大変形量が小さく、設定張設位置からの変形量も小さい。
また、この金属線材24は、例えば特開2014−66054号公報に記載されるように、複数の素線を撚ることによって構成された撚線であってもよい。撚線として好ましいものは、素線(例えば直径2mm〜5mm)を複数本(例えば2〜5本)撚ることにより作製された撚線(直径6〜25mm)である。素線は、特に引張強度が400〜2000N/mm2、好ましくは800〜2000N/mm2であるものが使用される。このような素線としては、例えば前述した硬鋼線を用いることができる。撚線を使用することにより、金属線材24を屈曲させて三角波状とする場合に線材自体に損傷を与えることなく屈曲することができる。なお、素線は防食処理がなされていることが好ましい。防食処理は、例えば、亜鉛メッキ、亜鉛アルミ合金メッキ又は樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル)等で被覆処理することにより可能である。
このネット体14を構成する菱形金網22の菱形の網目の大きさは、例えば特開2013−19198号公報に記載されるように、菱形の内接円の半径が約4.5〜8.5cmの範囲となるように構成される。このような大きさに網目を構成することにより、ネット体14の網目を落石が通過することを防止しつつ十分に大きな網目を構成することができるので、ネット体14の変形性を適正なものとすることができ、ネット体14による落石の運動エネルギーの吸収がより促進される。この網目の大きさは、例えば、構成された菱形の短い方の対角線が5〜20cm、長い方の対角線が10〜30cm、小さい方の内角が50°〜70°の範囲とすることにより得られる。このように、網目を正方形(又は正多角形)ではなく、菱形にすることで、網目の一辺の長さが同一であっても内接円の半径を小さくとることができ、よって、落石を漏れなく捕捉することが可能となる。また、この実施の形態では、ネット体14は、構成された菱形の長い方の対角線の伸長方向が斜面左右方向(横方向)となるように設置されている。これにより、同じ形状の菱形の網目を形成したネット体14であれば、横方向の引っ張り強度を最も強いものとすることができるので、斜面谷側に落下する落石をより効果的に受け止めることができる。
なお、ネット体14の網目の形状は、菱形に限られず、適宜多角形とすることができる。また、ネット体14には、後述するように、例えば前述の特許文献1に記載されるリング式ネットを用いることもできる。また、ネット体14の下端部は、後述するように、例えばネット体14で捕捉された落石が再びネット体14とコンクリート構造物12との隙間から落下しないために、コンクリート構造物12、即ち斜面にできるだけ接近させ、両者の間の隙間を可及的に小さくするのが望ましい。
この実施の形態では、例えば前述の特許文献1と同様に、複数の支柱10のうち、少なくとも斜面横方向両端部の支柱10間に横方向補強ロープ26が架け渡されて固定され、この横方向補強ロープ26がネット体14に挿通又は連結され、これによりネット体14が補強されている。この横方向補強ロープ26は、落石を捕捉したネット体14を支持することで間接的に落石を支持し、合わせて落石の運動エネルギーを吸収する。この横方向補強ロープ26の図1の右方端部は、係止具28を介して図示右方端部の支柱10に堅固に固定され、図1の左方端部は、後述するブレーキ装置30を介して図示左方端部の支柱10に固定されている。この横方向補強ロープ26には、例えば高強度のワイヤロープなどが適用される。横方向補強ロープ26の線径は、例えば12〜30mm程度である。
この実施の形態では、上下に間隔を開けて複数(本実施の形態では6本)の横方向補強ロープ26が張架されている。この実施の形態ではネット体14の上辺部に最上部の横方向補強ロープ26−1が配置され、下辺部に最下部の横方向補強ロープ26−6が配置されている。これらの横方向補強ロープ26は、ネット体14を構成する菱形金網の網目を縫うようにして挿通されており、且つ、後述する間隔保持部材2と共に締結部材4によって堅固に締結されている。なお、横方向補強ロープ26は、ネット体14の斜面谷側に配設されてもよい。また、横方向補強ロープ26の配設本数は、前記に限定されるものではないが、少なくともネット体14のネット面の下辺部、好ましくは上辺部及び下辺部には横方向補強ロープ26を配設することが望ましい。また、横方向補強ロープ26の架け渡しは、必ずしも水平方向でなくてもよい。
実際の横方向補強ロープ26は、自重やネット体14の重みによってやや下方に弛んでいる。ネット体14による落石の運動エネルギー吸収効果は、ネット体14が変形することで発揮される。一方、横方向補強ロープ26は、ネット体14で落石が捕捉され、ネット体14が斜面谷側に膨出することでロープの弛みがなくなり、横方向補強ロープ26に張力が発生したときから、落石を捕捉したネット体14を支持することができる。このとき、横方向補強ロープ26の伸びを許容しながらその伸びに制動力が付与されれば、制動力を伴う横方向補強ロープ26の伸びによって落石の持つ運動エネルギーを吸収することができる。そのため、この横方向補強ロープ26の図示左方端部には、所定の制動力を伴ってロープの両固定部間の長さの伸びを許容するブレーキ装置30が設けられている。
図4には、ロープの伸びを許容しながら制動力を付与するブレーキ装置30の一例を示す。この図は、図1のブレーキ装置30を斜面山側から見た正面図である。このブレーキ装置30は、紙面垂直方向に幅を有する金属帯52を中実円柱部材54に巻き掛けて構成され、その金属帯52の長手方向の一方の端部、この場合は円柱部材54から短い方の端部に横方向補強ロープ26の端部を連結している。また、この金属帯52の他方の端部には、ストッパ58が設けられると共に、そのストッパ58の手前には、金属帯52の両表面に対をなして突出する緩衝用突起60が2か所に設けられている。また、このブレーキ装置30では、円柱部材54に巻き掛けられている金属帯52の外側に、その金属帯52を比較的緊密に抑える抑え部材56が取付けられており、この抑え部材56が、係止具28を介して、図1の図示左方端部側の支柱10の斜面山側面に固定されている。
このブレーキ装置30では、横方向補強ロープ26に張力が係り、図の矢印方向に引っ張られると、金属帯52も同方向に引っ張られる。このとき、金属帯52は円柱部材54と抑え部材56で形成される狭い通路内を通過しなければならず、その際、円柱部材54に巻き掛かっている部分が移動する。この金属帯52の円柱部材54への巻き掛け部分では、その巻き掛け部分の移動に伴って塑性変形が連続して発生する。この金属帯52の円柱部材54への巻き掛け部分の移動に伴う連続した塑性変形は変形抵抗であるから、この変形抵抗に抗して横方向補強ロープ26の両固定部間の長さが伸びる際、ブレーキング作用、つまり制動力が生じ、横方向補強ロープ26に作用する落石の運動エネルギーが大きく吸収される。なお、横方向補強ロープ26の伸び量は、ストッパ58の位置で規制される。
図5は、ブレーキ装置30の他の例を示す斜視図である。このブレーキ装置30は、ループ管32と緊締部材とよりなっており、ループ管32には横方向補強ロープ26の中途部分が挿通されている。ループ管32の両端部は並列して重ね合わされており、この重畳部は緊締部材、例えば圧縮スリーブ34によって締固され、圧縮スリーブ34によって締固されている部分でループ管32の重畳部は相互に摩擦接触し、またループ管32と圧縮スリーブ34も摩擦接触している。ループ管32は鋼製管であることが好ましいが、他の金属材料やプラスチック材料、ゴム材料で製作することもできる。
このブレーキ装置30では、横方向補強ロープ26に大きな張力が発生すると、ループ管32の径を縮小しようとする力が働き、ループ管32の両端部はロープに沿って互いに反対方向へ向かう力を受ける。ロープに加わっている張力が、圧縮スリーブ34による締固箇所におけるループ管32同士及びループ管32と圧縮スリーブ34との間の摩擦力を越えると、摩擦抵抗に抗して、相互間に滑りが生じ、この滑りによって、横方向補強ロープ26の両固定部間の伸びを伴いながら落石の運動エネルギーが吸収される。その際、ループ管32の変形によっても運動エネルギーは吸収される。ループ管32の直径、壁厚、材料を選択することにより、エネルギー吸収能力を種々に変更可能であり、様々な要求に対応することができる。なお、図では、ループ管32が一巻きである場合が示されているが、二重巻き又はそれ以上の巻き数であってもよい。
図1では、1本の横方向補強ロープ26に対し、1つのブレーキ装置30を設けているが、1本の横方向補強ロープ26に対し、複数のブレーキ装置30を設けてもよい。そして、1本の横方向補強ロープ26に対して複数のブレーキ装置30を設ける場合、それらのブレーキ装置30の制動力の大きさを互いに異なる大きさに設定してもよい。前述のように、ブレーキ装置30の制動力は横方向補強ロープ26の張力に依存している。このような制動力配分にすると、例えば1本の横方向補強ロープ26に2個のブレーキ装置30を設けた場合、落石を捕捉したネット体14を支持する横方向補強ロープ26の張力の増大に伴い、何れか一方のブレーキ装置30が先に作動して制動力を発揮し、その後から、他方のブレーキ装置30が作動して制動力を発揮する。こうすることで、落石を支持する横方向補強ロープ26が伸び続ける間、継続的或いは断続的に制動力を発揮する、つまり運動エネルギーを吸収し続けることが可能となる。
この実施の形態では、支柱10と支柱10の間の領域で、上下方向(縦方向)に長い(伸長する)間隔保持部材2をネット体14に当接又は近接するように配設している。この間隔保持部材2は、例えば鋼製の板材や棒材で構成され、少なくともネット体14よりも剛性が大きい。また、この間隔保持部材2は、支柱10よりも剛性が小さいことが望ましく、例えば間隔保持部材2の剛性を支柱10の剛性の1/10〜1/3、好ましくは1/6〜1/4とする。ここで、剛性とは、周知のように、例えばヤング率Eと断面二次モーメントIとの積値で表される。この実施の形態の場合、評価すべき剛性は、落石によって変形される方向、つまりネット体14の面と垂直な方向の剛性である。このネット体14の面と垂直な方向の間隔保持部材2の剛性を支柱10の剛性の1/10〜1/3、好ましくは1/6〜1/4とする。
この実施の形態では、支柱10と支柱10の真ん中に1本、その横方向両側に1本ずつ、所定の間隔を設けて計3本の間隔保持部材2を各支柱10間に配設している。間隔保持部材2の配設本数は、これに限定されない。これらの間隔保持部材2は、ネット体14に対して、例えば斜面山側に配設されている。また、この実施の形態では、間隔保持部材2の長さは、ネット体14の上下方向(縦方向)長さと同じにしてあり、従って、間隔保持部材2はネット体14の上辺から下辺まで縦方向全域に接する。つまり、間隔保持部材2の上端部はネット体14の上辺に位置する最上部の横方向補強ロープ26−1に当接し、間隔保持部材2の下端部はネット体14の下辺に位置する最下部の横方向補強ロープ26−6に当接する。そして、この実施の形態では、間隔保持部材2と横方向補強ロープ26の交差する位置で、それらをネット体14の線材と共に締結部材4で締結している。そのため、この間隔保持部材2は、後述するように、ネット体14に衝突した落石の運動エネルギーをネット体14の上下方向に伝達する機能と共に、横方向補強ロープ26の縦方向の間隔を保持する機能も有する。
また、この実施の形態では、図1に明示するように、隣り合う支柱10の上端部の間に、所定の剛性を有する突っ張り杆部材16が配置され、この突っ張り杆部材16が、所謂突っ張り棒として作用して両支柱10が互いに近接するのを規制する。この実施の形態では、突っ張り杆部材16の端部と支柱10の上端部は、後述する連結構造によって連結されている。この突っ張り杆部材16の剛性は、少なくともネット体14の剛性より大きく、支柱10の剛性より小さいことが望ましい。この突っ張り杆部材16により、後述するように落石がネット体14で捕捉された際、ネット体14で下方に引っ張られる支柱10同士が互いに近接するのを規制する。これにより、ネット体14の不要な撓みを抑制することができ、その結果、落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変形量を小さくすることができる。なお、この突っ張り杆部材16は鋼製円形パイプなどの剛性を有する筒状体からなり、その内部には、後段に詳述するように張力材6が挿通され、その両端部を隣り合う支柱10の夫々に連結することで、張力材6が隣り合う支柱10間に架設されている。
図6は、従来既存の落石防護柵及びこの実施の形態の落石防護柵の作用を模式的に示した横断面図(側面図)である。図6では、何れも、最上部及び最下部の横方向補強ロープ26のみ図示し、その他の横方向補強ロープは図示を省略している。図6(A)は、間隔保持部材2がなく、支柱10間に菱形金網のようなネット体14が張設された従来既存の落石防護柵である。ネット体14は、落石Rの衝突によって変形する。図6(A)のように、間隔保持部材2のない落石防護柵では、落石Rの当接部分だけ、ネット体14が斜面下方又は斜面Sから突出する方向に局所的に変形している。図6(A)のように、落石Rの当接部分のみネット体14が局所的に変形して落石Rの運動エネルギーを吸収する場合、ネット体14の最大変形量は大きい。また、このような落石捕捉による局所的なネット体14の変形は、支柱10に近いほど小さく、逆に支柱10から遠いほど、つまり支柱10と支柱10の中間が最も大きい。ネット体14の最大変形量が大きいと、落石Rを捕捉したネット体14の斜面下方又は斜面Sから突出する方向への突出寸度、つまり設定張設位置からの変形量が大きくなる。例えば、落石防護柵が人家や道路に近接している場合、落石Rを捕捉したネット体14の設定張設位置からの変形量が大きいと、落石防護柵として十分に機能しないおそれがある。
図6(B)は、図6(A)の落石防護柵に図1、図2の間隔保持部材2を配設した、この実施の形態の落石防護柵である。落石防護柵は、例えば斜面Sから離れて浮いた状態で落下する落石Rもネット体14で捕捉する必要があるので、斜面Sから或る程度の高さまで伸展して張り渡される。しかしながら、実質的に落石Rが当接するのはネット体14の上下方向のどこか一か所である。そこで、支柱10と支柱10の間において、上下方向に長く且つネット体14よりも剛性の大きい間隔保持部材2をネット体14に当接又は近接して配設しておくと、落石がネット体14に衝突した際、落石Rの運動エネルギーが間隔保持部材2を介してネット体14の上下方向にも伝達され、伝達された部分もネット体14が変形する。即ち、上下方向に長い間隔保持部材2をネット体14に沿って配設することで、ネット体14の変形領域が上下方向に広がり、より効率よく落石Rの運動エネルギーが吸収される。結果として、ネット体14の最大変形量が小さくなり、落石Rを捕捉したネット体14の設定張設位置からの変形量が抑制される。
更に、この実施の形態では、間隔保持部材2の長さをネット体14の上下方向長さと同じにしてあるので、落石衝突時のネット体14の変形領域を上下方向全域に広げることができ、落石Rの運動エネルギーがより一層効率よく吸収される。そのため、ネット体14の最大変形量をより一層小さくすることができ、落石Rを捕捉したネット体14の設定張設位置からの変形量をより一層小さくすることができる。また、間隔保持部材2の剛性をネット体14より大きく且つ支柱10より小さくしているので、ネット体14が変形した後、支柱10が変形する前に間隔保持部材2が変形し、この間隔保持部材2の変形によっても、落石Rの運動エネルギーを吸収することができる。なお、実際の落石防護柵では、後述のように支柱10の強度を高めていても、落石Rの運動エネルギーによって、図に二点鎖線で示すように、支柱10が幾らか斜面谷側に変形或いは傾倒することがある。この実施の形態では、以下、この支柱10の斜面谷側への変形を含めて、落石捕捉時の支柱10の斜面下方への傾倒という。
図7は、図1、図2に示す実施の形態の落石防護柵に落石Rが捕捉された状態を模式的に示す説明図であり、具体的には、図7(A)は図6(B)の平面図、図7(B)は図6(B)の斜面正面図である。ネット体14は、一部だけを図示している。同図から明らかなように、この実施の形態の落石防護柵では、間隔保持部材2によってネット体14が上下方向全域にわたって変形しており、その結果、ネット体14の最大変形量が小さい。また、隣り合う支柱10の上部間に配設された所定の剛性を有する突っ張り杆部材16によって、支柱上部間の近接が規制されているため、ネット体14が不要に弛むことがなく、これによってもネット体14の設定張設位置からの変形量が抑制されている。これらの作用により、この実施の形態の落石防護柵では、落石Rを捕捉したネット体14の設定張設位置からの変形量が小さい。そのため、例えば道路際などへの設置が可能となる。
図8は、図1、図2の落石防護柵の突っ張り杆部材16及び張力材6と支柱10との連結構造の斜視図、図9は、図8の連結構造の三面図であり、(A)は一部断面平面図、(B)は一部断面正面図である。前述したように、この実施の形態の支柱10は、鋼製の円形パイプ材(鋼管部材)36にH型鋼38を緊密に挿入・固定して構成され、そのH型鋼38のウエブ38aが斜面の最大傾斜線方向になるように配置されている。円形パイプ材36には、直径が273mmのものを用いた。斜面の最大傾斜線は、凡そ斜面の傾斜角が最大となる方向を意味する。これは、一般に、断面二次モーメントの大きいH型鋼のフランジが曲げモーメントに抵抗することから、落石衝突時の曲げモーメントをフランジで受けるようにフランジを斜面上下方向に配置、即ちウエブを斜面の最大傾斜線方向に設定している。従来、この種の落石防護柵の支柱には、鋼製のパイプ材の内部にコンクリートを充填し固化させたものが使用されている。この従来の支柱は、十分な強度(剛性)を有するものの、重量が大きく、扱いにくくて施工しづらい。これに対し、この実施の形態の支柱10は、重量が小さく、扱いやすくて施工が容易な上、落石防護柵の支柱として十分な強度(剛性)を有する。なお、鋼製パイプ材の断面形状は、必ずしも円形でなくてもよい。
この実施の形態では、隣り合う支柱10間の1か所だけでなく、全ての支柱10間、つまり隣接する支柱10間にも突っ張り杆部材16が配設され、夫々の突っ張り杆部材16の内部に張力材6が挿通され、その端部が隣り合う支柱10の夫々に連結される。そのため、支柱10を挟んだ両側の突っ張り杆部材16及び張力材6をその支柱10に連結するための連結部材8がその支柱10に貫通され、その連結部材8の貫通先端部の夫々に突っ張り杆部材16及び張力材6が連結されている。この連結部材8は、高強度・高靭性、つまり破断しにくく且つ変形を許容する素材、例えば鋼製の板材で構成される。この連結部材8は、比較的長尺な長方形の板材であり、例えば板幅方向を上下方向に設定して、支柱10、即ち円形パイプ材36及びH型鋼38のウエブ38aに形成された方形の穴部41に挿通されている。なお、斜面横方向両端部の支柱10から更に斜面横方向に突出する連結部材8の斜面横方向突出部は切除されている。
この連結部材8の長手方向中央部上面には、例えば図8の手前側が低くて奥側が高いテーパ部42が形成されている。また、このテーパ部42の反対側、つまり連結部材8の長手方向中央部下面には、円形パイプ材36の管壁が比較的緊密に嵌入する嵌合凹部44が形成されている。そのため、この連結部材8を支柱10、即ち円形パイプ材36及びH型鋼38のウエブ38aに形成された方形の穴部41に挿通した後、円形パイプ材36の管壁が嵌合凹部44に嵌入するように連結部材8を下降することで、連結部材8が円形パイプ材36、即ち支柱10に位置決めされる。その状態で、円形パイプ材36の穴部41に楔材(ウエッジ)43を挿入すると、楔材43が連結部材8のテーパ部42を下方に押圧して連結部材8が円形パイプ材36に押し付けられ、これにより連結部材8が支柱10に係合(固定)される。
連結部材8の長手方向両端部の夫々には、隣り合う支柱10間の夫々に架設される張力材6の端部が堅固に連結される。この張力材6には、例えば高強度の鋼製ワイヤケーブルが用いられる。この実施の形態では、例えば外径が18mmの鋼製ワイヤケーブルを張力材6として用いたが、張力材6の諸元はこれに限定されない。この張力材6は、本来、落石衝突時に支柱10が斜面下方に傾倒するのを抑制するものである。これに加えて、鋼製ワイヤケーブルは、周知のように、高い引張強度を有するが、引張力に対して高い伸縮性も併せ持つ。そのため、後述するように、落石を捕捉したネット体14から落石衝突時のエネルギーが支柱10と突っ張り杆部材16の連結部に作用した場合、鋼製ワイヤケーブルからなる張力材6が伸縮して(主に伸びて)、そのエネルギーが吸収され、もって支柱10と突っ張り杆部材16の連結構造の破断を抑制することが可能となる。なお、支柱10が斜面下方に傾倒していない状態で、張力材6には張力が作用しない又は極小さい張力のみ作用しているのが望ましい。
突っ張り杆部材16は、張力材6及び連結部材8の外側に被嵌され、突っ張り杆部材16の端部に形成された図示しない穴部及び連結部材8の長手方向両端部の夫々に形成された長穴45にねじ軸部材46を挿通し、そのねじ軸部材46の挿通突出部にナット部材47を螺合・結合し、これにより連結部材8を介して突っ張り杆部材16の端部が支柱10に連結される。つまり、この実施の形態では、共通する連結部材8を介して、突っ張り杆部材16と張力材6が支柱10に連結される。そのため、前述のように、落石を捕捉したネット体14から落石衝突時のエネルギーが支柱10と突っ張り杆部材16の連結部材8による連結構造に作用すると、連結部材8を共有する張力材6が直ちに伸縮し(主として伸び)、これにより落石衝突時のエネルギーが効率よく吸収され、その結果、支柱10と突っ張り杆部材16の連結構造の破断を有効に抑制することができる。
また、この実施の形態では、連結部材8が変形を許容するので、落石衝突時のエネルギーが連結部材8の変形によっても吸収され、もって支柱10と突っ張り杆部材16の連結構造の破断が抑制される。また、前述のように、落石衝突時には、支柱10も幾らか傾倒するため、この落石衝突時における支柱10の傾倒に伴って隣接する支柱10間に架設されている張力材6も伸縮し(主として伸び)、これによっても落石衝突時のエネルギーが吸収され、支柱10と突っ張り杆部材16の連結構造の破断が抑制される。支柱10と突っ張り杆部材16の連結構造の破断を抑制することができれば、突っ張り杆部材16によって隣り合う支柱10の上部が互いに近接するのを規制し続けることができるから、落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変形量を小さくすることができる。
ネット体14が落石を捕捉したとき、落石衝突時のエネルギーは、そのネット体14から突っ張り杆部材16と支柱10の連結部に曲げモーメントや剪断力として作用する。このエネルギーに対し、単に突っ張り杆部材16や支柱10の強度(剛性)を大きくするだけでは、それを吸収したり減衰したりする効果は少ない。ネット体14から伝達される落石衝突時のエネルギーは、何れかの支柱10を傾倒させるように作用する。このとき、傾倒される支柱10と傾倒しない支柱10とでは、特に支柱10の上部同士が離間するために、支柱10の上部間の距離が大きくなる。その際、それらの支柱10の上部間に架設されている張力材6が傾倒しようとする支柱10の傾倒を抑制すると共に、その張力材16が主として伸びることで、傾倒しようとする支柱10に伝達された落石衝突時のエネルギーを吸収することができ、これにより支柱10と突っ張り杆部材16の連結部の破断を抑制することができる。なお、落石捕捉時の支柱10の傾倒は、連結部材8を介して隣り合う支柱10間に配設された突っ張り杆部材16によっても抑制される。
前述したネット体14には、前述した特許文献1に記載されるリング式ネットを使用することもできる。このリング式ネット18は、例えば図10に示すように、1つのリング状部材20の周囲に4つのリング状部材20が均等に配置されるようにして、それらのリング状部材20の内周側同士が接触するように連結する。リング状部材20の連結構造は、様々な形態がある。
このリング状部材20は、例えば鋼線からなる線材を複数回(5〜20回)巻回し、周方向の数か所を締結具によって締め付けて構成されている。締結具は、例えば側面形状がC字状の略筒状の金具であり、巻回により重合された線材の外側に被せてから加締めることにより固定されている。このリング状部材20は、例えば、線材の材料、線材の線径、線材の巻回数、締結具による加締め力などを調整することで、後述する変形時の強度やエネルギー吸収力を調整することができる。
リング状部材20を構成する線材には、例えば硬鋼線材から製造される鋼線が好ましいが、例えば軟鋼線材から製造される鉄線でもよい。鋼線の場合、引張強度800N/mm2以上のものが好ましい。また、これらの線材にメッキや被覆を施したものも用いることができる。更に好ましくは、前述した菱形金網に用いられる硬鋼線材でリング状部材20を構成する。線材の線径は2.5〜5mm程度で、リング状部材20の直径は、捕捉対象の落石の大きさに合わせて設定する。リング式ネット18は、リング状部材20の直径を変更することで、捕捉対象の落石の大きさに容易に対応することができる。例えば、斜面Sの岩や礫の大きさを調査し、その大きさに合わせてリング状部材20の直径を設定すれば、落石発生時の落石を効果的に捕捉することができる。
リング状部材20を連結して構成されるリング式ネット18は、例えばネット面に垂直な力(負荷)が加わると、リング状部材20が互いに引っ張られるので、リング状部材20の形状そのものが変形すると共に、リング状部材20を構成する線材の巻回が緩むように変形する。これらの変形は、落石の運動エネルギー、具体的には落石が衝突してネット面に負荷が作用するときに生じ、リング式ネット18に負荷が加わるとリング状部材20が変形することで、落石の運動エネルギーが吸収され、結果としてリング式ネット18で落石を捕捉する効果が得られる。
従って、リング状部材20の変形に必要な力、換言すればリング状部材20の変形によって吸収可能な落石の運動エネルギーは、例えばリング状部材20を構成する線材の材料や線径、巻回数、或いは締結具による線材の加締め力で調整することができる。
このように、この実施の形態の落石防護柵によれば、斜面の横方向に所定の間隔を設けて複数の支柱10を立設し、それらの支柱10によってネット体14を支持して支柱10間に張設する場合に、隣り合う支柱10が互いに離間するのを規制するための張力材6の両端部をそれら支柱10の上部に連結してその隣り合う支柱10間に張力材6を架設する。これにより、ネット体14が落石を捕捉し、そのネット体14から伝達される落石衝突のエネルギーで支柱10が傾倒しようとするとき、その支柱10の上部の隣り合う支柱10からの離間を張力材6で規制することができる。従って、その傾倒しようとする支柱10の斜面下方への傾倒が抑制され、その結果、落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変形量を抑制することができる。
また、所定の剛性を有し且つ隣り合う支柱の上部が互いに近接するのを規制する突っ張り杆部材16を張力材6と略平行に隣り合う支柱10の上部間に配設した。これにより、ネット体14が落石を捕捉し、そのネット体14に引っ張られるようにして、そのネット体14を支持している両側の隣り合う支柱10の上部が互いに近接しようとするとき、その支柱10の上部の近接が突っ張り杆部材16によって規制される。そのため、ネット体14の不要な弛みを回避することができ、落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変形量を小さくすることができる。
また、筒状の突っ張り杆部材16の内部に張力材6を挿通することにより、張力材6と突っ張り杆部材16を同じ位置に配設することができるため、隣り合う支柱10の何れか一方が傾倒して離間しようとしたり、両者の上部が接近しようとしたりするのを効率よく規制することができ、これにより如何様な状況でも落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変形量を小さくすることができる。また、落石を捕捉したネット体14から突っ張り杆部材16と支柱10の連結部に伝達されるエネルギーを張力材6が迅速に効率よく吸収することができ、これにより突っ張り杆部材16と支柱10の連結構造の破断を抑制することができ、ネット体14の不要な弛みを回避して、落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変形量を小さく維持することができる。
また、支柱10に固定され且つ落石衝突時に変形することでエネルギーを吸収する連結部材8を介して支柱10に張力材6を連結し、その連結部材8に突っ張り杆部材16の端部を連結した。これにより、落石を捕捉したネット体14から伝達される落石衝突のエネルギーによる突っ張り杆部材16と支柱10の連結構造の破断を、張力材6の延伸と連結部材8の変形によって抑制することができ、これにより突っ張り杆部材16の機能が維持され、もって落石を捕捉したネット体の設定張設位置からの変形量を小さく維持することができる。また、張力材6を筒状の突っ張り杆部材16の内部に挿通した状態で張力材6及び突っ張り杆部材16を支柱10に簡潔に連結することができ、その分だけ、コストや重量を低減することができる。
また、隣り合う支柱10間に隣接する支柱10間にも張力材6を架設すると共に突っ張り杆部材16を配設する場合に、連結部材8を支柱10の斜面左右方向に貫通し、その貫通部分に、隣接する支柱10間の張力材6の端部及び突っ張り杆部材16の端部を連結した。これにより、落石を捕捉したネット体14に引っ張られる支柱10の傾倒を、更に隣の支柱10間の張力材6や突っ張り杆部材16でも抑制することができるので、その支柱10の傾倒をより一層抑制することができると共に、その支柱10と突っ張り杆部材16の連結構造の破断を抑制することができ、これらにより落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変形量をより一層小さくすることができる。
また、円形パイプ材36の内部にH型鋼38を挿入して支柱10を構成し、そのH型鋼38のウエブ38aを斜面の最大傾斜線方向に向けて配設すると共に、円形パイプ材36及びH型鋼38のウエブ38aを貫通するようにして連結部材8を配設する。これにより、落石を捕捉したネット体14から伝達される落石衝突時の荷重に対して支柱10が十分な強度(剛性)を有するので、支柱10自体の傾倒が低減・抑制され、これにより落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変形量を小さくすることができる。また、支柱10を軽量化することができると共に、連結部材8の支柱貫通構造が簡易になり、結果として施工が容易になる。
以上、実施の形態について説明したが、本発明の構成はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。例えば、上述した横方向補強ロープ26や間隔保持部材2の本数や材質については現場の状況に応じて適宜選択されるものであり、また、それらのブレーキ装置は、上述の構成に限定されるものではなく、制動力を伴いながら横方向補強ロープ26や連結ロープ6の伸びを許容するものであれば如何なるものを用いてもよい。
また、前述の実施の形態では、ネット体14を1張だけ、斜面横方向両端部の支柱10間に張架したが、例えば各支柱10間毎にネット体14を張架してもよい。
また、本発明の適用は、新たに斜面Sに構築する場合だけでなく、既設の落石防護柵の基礎に対して支柱10やネット体14を本発明の構造によって設置することも可能である。