JP2019024396A - 植物の挿し木苗の生産方法 - Google Patents

植物の挿し木苗の生産方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、挿し木苗の品質を高めること、及び挿し木による苗生産の効率を高めた、植物の挿し木苗の生産方法の提供を目的とする。【解決手段】本発明は、挿し穂が挿し付けられた培地を、少なくとも培地の一部が吸水性部材に接するよう設置して、吸水性部材を介して灌水を行い、挿し穂から発根させる発根培養工程を含む植物の挿し木苗の生産方法、及びそのための植物の挿し木苗育苗用キットを提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、植物の挿し木苗の生産方法に関する。
挿し木は人為的に切断された植物組織を用いて発根床内で発根させ、独立した一つの植物体を作出する方法であり、遺伝的に均一な苗を大量増殖するのに優れた方法である。また、挿し木による増殖は簡便で、一度に大量の苗を作出するのに適しており、優良な形質を持った個体を大量に増殖できることから商業的にも有利な方法とされている。
特許文献1には、挿し木苗の製造にあたり、挿し穂を挿し付けた培土の底面から潅水して水分を供給すること、および浸漬により潅水を行うことが記載されている。潅水を採用している理由として、頭上潅水では過湿を避けようとすると培土に均等に水が行き渡らず、培土の部位間における含水率のばらつきが大きくなりやすく、また培土が乾燥しやすくなる点が記載されている。
非特許文献1には、苗木のルーピング防止のために空気根切りを行うことが記載されている。
特開2015−27262号公報
正月 公志 ら「ポット底面の空気根切り処理が苗の根系生長に与える影響」日緑工紙37(1),143−166,(2011)
特許文献1の方法では、潅水を浸漬により行うため水分環境のばらつきが生じ、それに起因して発根率が低下する可能性がある。さらに、潅水を浸漬により行うことで、浸漬容器ごとへの給水という作業の煩雑性も生じ得る。さらに、特許文献1の方法では、空気根切りが行われていないためルーピングが起き、それに起因して植栽後の活着が低下する可能性がある。
本発明は、発根率及び植栽後の活着を向上させた、植物の挿し木苗の生産方法の提供を目的とする。
本発明は、以下の〔1〕〜〔11〕を提供する。
〔1〕挿し穂が挿し付けられた培地を、少なくとも培地の一部が吸水性部材に接するよう設置して、吸水性部材を介して灌水を行い、挿し穂から発根させる発根培養工程、
を含む
植物の挿し木苗の生産方法。
〔2〕発根培養工程が、培地を少なくとも略底部に開口部を有する培養容器中に格納し、開口部を介して培地が吸水性部材に接するように培養容器を吸水性部材上に載置して灌水を行う工程である、〔1〕の方法。
〔3〕さらに、発根後の挿し穂が挿し付けられた培地を少なくとも培地の一部が空気層に接するよう設置して、挿し穂を育苗し挿し木苗を得る工程を行う、〔1〕又は〔2〕の方法。
〔4〕育苗工程が、培地を少なくとも略底部に開口部を有する容器中に格納し、開口部が空気層に接するように培地を設置して、挿し穂を育苗し挿し木苗を得る工程である、〔3〕の方法。
〔5〕吸水性部材が、シート状またはマット状である、〔1〕〜〔4〕のいずれかの方法。
〔6〕吸水性部材が、不織布で形成されている、〔1〕〜〔5〕のいずれかの方法。
〔7〕吸水性部材の少なくとも下部に、防水性部材が設置されている、〔1〕〜〔6〕のいずれかの方法。
〔8〕空気層が、培地の略底面に接する空隙である、〔1〕〜〔7〕のいずれかの方法。
〔9〕発根培養工程が、2週間〜10ヶ月行われる、〔1〕〜〔8〕のいずれかの方法。
〔10〕植物が、スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ科植物又はユーカリ属植物である、〔1〕〜〔9〕のいずれかの方法。
〔11〕挿し穂を挿し付けるための培地、
挿し穂を挿し付けた培地を格納する培養容器、
吸水性部材、及び
トレー、スタンド又はコンテナ
を含む、発根前の挿し穂について〔1〕〜〔10〕のいずれかの方法を実施するための、植物の挿し木苗育苗用キット。
本発明によれば、挿し木苗の品質を向上させることができる。具体的には、本発明の方法を用いることにより、水分環境が均一化され、それにより発根率の向上を達成することができる。さらに、本発明の方法は、浸漬による潅水に比べて作業の煩雑性を低下することができる。
本発明は、発根培養工程、及び育苗工程を含む植物の挿し木苗の生産方法を提供する。
〔発根培養工程〕
発根培養工程は、挿し穂が挿し付けられた培地を、少なくとも培地の一部が吸水性部材に接するよう設置して、吸水性部材を介して灌水を行い、挿し穂から発根させる工程である。
(挿し穂)
挿し穂は、挿し木苗を得たい植物の挿し穂であればよい。植物の種類は特に限定されない。植物は木本植物と草本植物とに分類されうるが、本発はこれらのいずれにも適用可能であり、木本植物に適用されることが好ましく、草本植物よりも発根能が劣っている木本植物に適用されることがより好ましい。木本植物としては、スギ属(Cryptomeria)植物(スギ(Cryptomeria japonica)など)、ヒノキ属(Chamaecyparis)植物(ヒノキ(Chamaecyparis obtusa))など)、マツ科(Pinaceae)植物(マツ属(Pinus)植物(クロマツ(Pinus thunbergii)など)、カラマツ属(Larix)植物(カラマツ(Larix kaempferi)、グイマツ(Larix gmelinii)など)、モミ属(Abies)植物(トドマツ(Abies sachalinensis)など)など)、ユーカリ属(Eucalyptus)植物、サクラ属(Prunus)植物(サクラ(Prunus spp.)、ウメ(Prunus mume)、ユスラウメ(Prunus tomentosa)など)、マンゴー属(Mangifera)植物(マンゴー(Mangifera indica)など)、アカシア属(Acacia)植物、ヤマモモ属(Myrica)植物、クヌギ属(Quercus)植物(クヌギなど(Quercus acutissima))、ブドウ(Vitis)属植物、リンゴ(Malus)属植物、バラ属(Rosa)植物、ツバキ属(Camellia)植物(チャ(Camellia sinensis)など)、ジャカランダ属(Jacaranda)植物(ジャカランダ(Jacaranda mimosifolia)など)、ワニナシ属(Persea)植物(アボカド(Persea americana)など)、ナシ属(Pyrus)植物(ナシ(Pyrus serotina Rehder、Pyrus pyrifolia)など)、ビャクダン属(Santalum)植物(ビャクダン(サンダルウッド;Santalum album)など)が例示される。このうち、スギ、ヒノキ、マツ(クロマツ、カラマツ、グイマツ、トドマツなど)、ユーカリ、サクラ、マンゴー、アボカド、アカシア、ヤマモモ、クヌギ、ブドウ、リンゴ、バラ、ツバキ、チャ、ウメ、ユスラウメ、ジャカランタ等に適用した場合に、より本発明の効果を発揮しうる。中でもスギ属植物、ヒノキ属植物、マツ科植物(マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物など)、ユーカリ属植物、ツバキ属植物、マンゴー属植物、ワニナシ属植物が好ましく、スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物、ユーカリ属植物がより好ましく、スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物がさらに好ましい。
挿し穂は、植物の少なくとも一部であればよく、緑枝(当年枝)、熟枝(前年以前に伸びた枝)等の枝;頂芽、腋芽などの芽;葉、子葉;胚軸などが例示される。木本植物の場合の挿し穂は、通常は緑枝又は熟枝であり、草本植物の場合の挿し穂は、通常は葉又は芽であるが、これらには限定されない。
不定根を形成することが期待されるという観点から、挿し穂としてシュートを用いてもよい。シュートとは、発根能を有する組織全般をいう。該組織としては、枝、茎、頂芽、腋芽、不定芽、葉、子葉、胚軸、不定胚、苗条原基等が例示される。シュートの由来は特に限定されず、温室又は屋外に生育している植物個体から得られる組織でもよいし、組織培養法により得られた培養組織であってもよいし、天然の植物体の一部の組織であってもよい。シュートは、挿し穂の母本植物、又は多芽体から効率良く取得することができる。中でも、挿し穂(母本植物から得た挿し穂)であることが好ましい。
多芽体は、本発明を適用してクローン苗を生産しようとする植物から、頂芽、腋芽等の組織を切取って、これを組織培養して誘導することができる。多芽体を、母本植物から採取した器官を無菌的に培養して、形成させるには、特開平8−228621号公報に記載の方法、条件に従って行い得る。その方法、条件は概ね次の通りである。まず、材料とする植物から頂芽、腋芽等の組織を採取し、採取した組織について、有効塩素量約0.5%〜約4%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液又は有効塩素量約5%〜約15%の過酸化水素水溶液に約10分〜約20分間浸漬して表面殺菌を行う。次いで、これを滅菌水で洗浄し、固体培地に挿し付けて芽を開じょさせ、伸長してきた茎葉を同じ組成の培地で継代培養することにより、多芽体を形成させる。ユーカリ属又はアカシア属の組織(例えば腋芽)を用いる場合には、固体培地は、ショ糖1〜5重量%、植物ホルモンとしてベンジルアデニン(以下、BAと略す。)約0.02mg/L以上約1mg/L以下、ゲランガム約0.2重量%以上約0.3重量%若しくは寒天約0.5重量%以上約1重量%以下を含有するムラシゲスクーグ(以下、MSと略す。)培地、又は、MS培地の硝酸アンモニウム成分と硝酸カリウム成分とを半減させた改変MS培地を用いるのが好ましい。こうして形成された多芽体からは活発にシュートが伸長してくる。多芽体自体は、適当に分割して多芽体形成に用いた培地と同一組成の培地で培養することにより維持し、増殖させることができる。
(培地)
培地は、挿し穂が支持され、吸水性及び通気性を有するものであれば特に限定されない。例えば、培地は、支持体を含んでもよい。これにより、挿し穂を発根培地中で支持し、発根培養を効率的に実施できる。支持体は、発根培養工程中、挿し穂を支持した状態で保持できれば特に限定されず、従来慣用の支持体を用いることができる。支持体としては例えば、砂、土(例、赤玉土)等の自然土壌(好ましくは、赤玉土);籾殻燻炭、ココナッツ繊維、バーミキュライト、パーライト、ピートモス、ガラスビーズ等の人工土壌;発泡フェノール樹脂、ロックウール等の多孔性成形品;固化剤(例、寒天又はゲランガム)などが挙げられる。支持体は、挿し穂と培地との接触を妨げないものであればよく、支持体が培地の少なくとも一部を含んでいてもよい。
培地は、肥料成分をを含んでもよい。肥料成分としては、例えば、無機成分、銀イオン、抗酸化剤、炭素源、ビタミン類、アミノ酸類、植物ホルモン類等の植物の栄養素の供給源となり得る成分が挙げられる。肥料成分の形態は特に限定されず、固形物(例、粉剤、粒剤)、又は液体(例、液肥)のいずれでもよい。
無機成分としては、窒素、リン、カリウム、硫黄、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、モリブデン、塩素、ヨウ素、コバルト等の元素や、これらを含む無機塩が例示される。該無機塩としては例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ホウ酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム、ヨウ化カリウム、塩化コバルト等やこれらの水和物が挙げられる。無機成分として、上記具体例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用いうる。本発明で用いられる培地においては、窒素、リン、カリウムが必須元素として含まれることが好ましい。よって、これら無機成分の具体例のうち、窒素、リン、カリウム、窒素を含む無機塩、リンを含む無機塩、及びカリウムを含む無機塩が好ましく、窒素、リン、カリウム、窒素を含む無機塩がより好ましい。無機成分は、1種の場合は約1μM〜約100mMとなるように添加することが好ましく、約0.1μM〜約100mMとなるように添加することがより好ましい。2種以上の組み合わせの場合はそれぞれ約0.1μM〜約100mMとなるよう添加することが好ましく、約1μM〜約100mMとなるように添加することがより好ましい。
銀イオンとしては、例えば、チオ硫酸銀(STS、AgS46)、硝酸銀等の銀化合物(銀イオン源)が挙げられ、STSが好ましい。STSは培地中で、チオ硫酸銀イオンの形態を取り、マイナスに帯電していると推測され、これにより健全な根の発根及び伸長を促進に寄与することができる。培地中に添加する銀イオンの濃度は、銀イオン源の種類その他の培養条件などにもよるが、銀イオン源の濃度として約0.5μM以上約6μM以下が好ましく、約2μM以上約6μM以下がより好ましい。
抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、亜硫酸塩が挙げられ、アスコルビン酸が好ましい。アスコルビン酸は、培地への残留性が低いため、環境汚染を抑制できる。培地中に添加する抗酸化剤の濃度は、約5mg/l以上約200mg/l以下が好ましく、約20mg/l以上約100mg/l以下がより好ましい。
炭素源としては、ショ糖等の炭水化物とその誘導体;脂肪酸等の有機酸;エタノール等の1級アルコール、などの化合物を使用することができる。炭素源として、上記具体例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用いうる。炭素源は、培地中に約1g/l〜約100g/lとなるよう添加することが好ましく、約10g/l〜約100g/lとなるように添加することがより好ましい。しかし、栽培を炭酸ガスを供給しながら行う場合には、培地は炭素源を含む必要は無く、含まないことが好ましい。ショ糖等の炭素源となりうる有機化合物は微生物の炭素源ともなるので、これらを添加した培地を用いる場合には、無菌環境下で栽培を行う必要があるが、炭素源を含まない培地を用いることにより、非無菌環境下での栽培が可能となる。
ビタミン類としては、例えば、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB4)、ピリドキサール、ピリドキサミン、パントテン酸カルシウム、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド及び/又はリボフラビン(ビタミンB2)等を使用することができる。ビタミン類として、上記具体例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用いうる。ビタミン類は、1種の場合は培地中に約0.01mg/l〜約200mg/lとなるように添加することが好ましく、約0.02mg/l〜約100mg/lとなるように添加することがより好ましい。2種以上の組み合わせの場合はそれぞれ、培地中に約0.01mg/l〜約150mg/lとなるよう添加することが好ましく、約0.02mg/l〜約100mg/lとなるように添加することがより好ましい。
アミノ酸類としては、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、システイン、フェニルアラニン及び/又はリジン等を使用することができる。アミノ酸類として、上記具体例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用いうる。アミノ酸類は、培地中に約0.1mg/l〜約1000mg/lとなるように添加することが好ましく、2種以上の組み合わせの場合は、それぞれ培地中に約0.2mg/l〜約1000mg/lとなるよう添加することが好ましい。
植物ホルモンとしては、例えば、オーキシン及びサイトカイニン等の発根促進剤が挙げられる。オーキシンとしては、ナフタレン酢酸(NAA)、インドール酢酸(IAA)、p−クロロフェノキシ酢酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4D)、インドール酪酸(IBA)及びこれらの誘導体等が例示され、これらから選択される1種以上又は2種以上を組み合わせて用い得る。また、サイトカイニンとしては、ベンジルアデニン(BA)、カイネチン、ゼアチン及びこれらの誘導体等が例示され、これらから選択される1種以上又は2種以上を組み合わせて用い得る。植物ホルモンは、オーキシン、又は、オーキシンとサイトカイニンの組み合わせが好ましい。
培地中の植物ホルモンの濃度は、植物ホルモンを1種用いる場合には0.001mg/l〜10mg/lであることが好ましく、0.01mg/l〜10mg/lであることがより好ましい。植物ホルモンが2種以上の場合にはそれぞれ、0.001mg/l〜10mg/lであることが好ましく、0.01mg/l〜10mg/lであることがより好ましい。植物ホルモンの添加方法は特に限定されず、市販品の説明書に従って添加すればよく、例えば、粉末のまま挿し穂の基部に塗布する方法、培地に添加する方法が挙げられる。
培地は、本発明の方法を通じて交換せずに使い続けてもよく、途中で交換してもよく、作業の簡便性の観点から、本発明の方法を通じて交換せずに使い続けることが好ましい。培地には、本発明の方法の途中で肥料成分を補充してもよい。
(吸水性部材)
発根培養工程において用いられる吸水性部材は、吸水性を有する部材であればよく、その形状は特に限定されないが、例えば、マット状、シート状が挙げられる。吸水性部材としては例えば、それ自体が吸水性の材料、または吸水性成分を含む材料の、スポンジ、不織布、織布、紙等の加工品(例えば、ポリエステル製不織布)が挙げられる。吸水性部材は、抗菌剤等の吸水性以外の任意の成分を必要に応じて含んでいてもよい。底面給水用マットとしては、例えば、特開2013−100269号公報に記載のものが挙げられる。
(防水性部材)
吸水性部材の少なくとも下部には、防水性部材が設置されていることが好ましい。これにより、吸水性部材からの水の漏出を抑制し、挿し穂への灌水を効率よく行うことができる。防水性部材は、防水性を有する部材であればよく、その形状は特に限定されないが、例えば、マット状、シート状が挙げられる。防水性部材としては、例えば、ビニールシート、フィルムが挙げられる。
(培地と吸水性部材の位置)
挿し穂が挿し付けられた培地は、少なくとも培地の一部が吸水性部材に接するよう設置される。これにより、発根培養工程における灌水は、吸水性部材を介して行うことができる。このように吸水性部材を介して底面灌水を行うことにより、頭上灌水及び培地を水に浸漬して行う従来の底面灌水と比較して、挿し穂の水分環境を適度かつ一定に保つことができ、過湿状態を抑制することができ、病害の発生を抑制し良好な発根率を得ることができる。また、複数の挿し穂の発根を同時に行う場合、良好な発根率が得られるだけでなく発根時期等の成長度を揃えることができるので、複数の挿し穂を一括して育苗工程に移行することが可能となる。
培地のうち吸水性部材に接する部分は、1つでも2以上でもよく、培地の略底部の少なくとも一部を含むことが好ましく、培地の略底部の少なくとも一部であることが好ましい。
(培養容器)
発根培養工程において、挿し穂を挿し付けた培地は、培養容器に格納することが好ましい。これにより、培地と吸水性部材とが接する部分の調整が容易となり、また、発根培養工程後の育苗工程への移行を、煩雑な作業を省略して円滑に行うことができる。培養容器は、少なくとも略底部に開口部を有することが好ましい。これにより、培地への吸水性部材を介した底面灌水を効率よく行うことができる。開口部の位置は略底部(底面及び底面に近接する側面)の少なくとも一部であればよい。開口部の形状及び形態は特に限定されないが、例えば、点在する2以上の孔でもよいし、底面に1つ又は2つ以上存在する網でもよい。培養容器は、1株の挿し穂を挿し付けた培地を格納できる容器、1株の挿し穂を挿し付けた培地を挿し付けるためのユニットが連結され又は該ユニットに区分けされ、全体として複数の挿し穂を挿し付けられる培養容器が好ましい。これらの容器は、トレーが培地と底面給水用マットの接点を妨げるものでなければ、トレーに保持されていてもよい。
培養容器としては、培地(土など)が保持され、かつ少なくとも略底部に開口部を有するものであれば特に限定されず、例えば、コンテナ(例、特開2017−079706号公報に記載されたコンテナ、マルチキャビティコンテナ(JFA−150、JFA−300)等)、セルトレー、育苗ポット、プランター、およびバット(底面または側面に網状の開口部を有する箱型容器。複数の挿し穂をまとめて挿し付けるものであってもよい。)が挙げられる。培養容器の材質も特に限定はなく、例えば、樹脂、ガラス、木材が挙げられる。
(挿し付け)
培地への挿し穂の挿し付け方法は、培地の種類、培養条件等により適宜選択すればよい。また、培地に挿し付ける時に挿し穂の基部に傷をつける等の物理的刺激を加えることも、発根率の向上のために好ましい。挿し穂の基部とは、挿し穂の一端であって根が形成される領域(葉の形成される端部に対し反対側)を意味する。挿し穂として多芽体を用いる場合の基部は、多芽体を分割する際の切断面を有する領域である。挿し穂の基部への傷のサイズ(大きさ、形状など)は特に限定されない。例えば、挿し穂として多芽体を用いる場合、挿し穂の基部(上述の切断面)を正面方向から見た際に十字型となるような傷を付けることが好ましい。傷を付ける際には、ハサミ、ナイフなどの器具を用いることができる。
(潅水)
発根培養工程においては、吸水性部材を介して挿し穂に潅水する。すなわち、吸水性部材に給水し、水分が、培地と吸水性部材とが接する部分を介して挿し穂に供給される。吸水性部材への給水は、培地が湿潤するように行うこと、及び/又は、吸水性部材が均一に吸水する状態となるように行うことが、好ましい。これにより、培地の水分環境を適度、一定且つ均一に保持することができる。潅水作業は、手潅水および自動潅水装置のいずれで行ってもよい。
発根培養工程の培養期間は、植物種によっても異なるが、通常は2週間〜10ヶ月であり、4週間〜6ヶ月であることが好ましく、2ヶ月〜6ヶ月であることがとりわけ好ましい。発根培養工程は、挿し穂から発根が観察されるまで続ければよい。
〔育苗工程〕
育苗工程とは、発根後の挿し穂を育苗して挿し木苗を得る工程である。
(培地)
育苗工程においては、発根後の挿し穂が挿し付けられた培地を、少なくとも培地の一部が空気層に接するように、または、培地が空気層に接しないように、いずれかで設置してもよく、好ましくは、少なくとも培地の一部が空気層に接するように設置する。少なくとも培地の一部が空気層に接することにより、挿し穂の発根後に空気根切りによるルーピングを抑制することができ、植栽後の活着が向上した挿し木苗を提供することができる。これにより、挿し木苗生産の効率を高めることができる。培地は、発根培養工程で用いていた培地とは別の培地でもよいし同じ培地でもよいが、同じ培地が好ましく、発根培養工程で用いていた培地をそのまま育苗工程で用いることがより好ましい。培地の例は、発根培養工程において説明した培地の例と同じである。
(容器)
育苗工程において、培地は容器に格納することが好ましい。これにより、培地と空気層が接する部分の調整が容易となる。容器は、発根培養工程で用いていた培養容器とは別の容器でもよいし同じ容器でもよいが、同じ容器が好ましく、発根培養工程で用いていた培養容器をそのまま育苗工程で用いることがより好ましい。これにより、発根培養後の育苗工程への移行を、煩雑な作業を省略して円滑に行うことができる。容器の例は、発根培養工程において説明した培養容器の例と同じである。
(培地と空気層の位置)
空気層は、培地の一部に接するように設けられればよい。培地のうち空気層に接する部分は、1つでも2以上でもよく、培地の略底部の少なくとも一部を含むことが好ましく、培地の略底部の少なくとも一部であることが好ましい。培地のうち空気層に接する部分は、好ましくは、発根培養工程において吸水性部材に接していた培地の一部と同じ部分を少なくとも含むことが好ましく、同じ部分であることがより好ましい。
(空気層)
空気層は、培地の一部に接して設けられ、好ましくは、培地の略底部の下に設けられる。空気層のサイズは特に限定されないが、通常は培地の略底部から鉛直方向に1cm以上であり、好ましくは2cm以上、より好ましくは3cm以上である。上限は特に限定されないが、育苗を行う設備に応じて適宜設定できる。空気層を設ける方法は特に限定されないが、例えば、培地、又は培地を格納した容器をトレー、スタンド、架台等に設置して容器と地面、又は発根培養工程で使用していた吸水性部材との間に空隙を設ける方法が挙げられる。
育苗工程の培養期間は、植物種、移植/定植場所の気候条件等に応じて適宜設定できる。
〔その他の一般的条件〕
発根培養工程及び育苗工程において、上述した以外の条件は、挿し穂の発根及び育苗が可能な条件である限り特に限定されない。条件は、発根培養工程及び育苗工程において同一であっても異なっていてもよい。条件は、挿し穂の種類、部位、状態、培地の種類などにより一概に規定することは難しいが、以下に一例を挙げて説明する。
(発根および育苗の場所)
発根および育苗の場所は、閉鎖空間(例、ビニールハウス内、炭酸ガス培養室内、温室内、屋内)又は解放空間(例、屋外)であってもよいが、閉鎖空間が好ましい。これにより、温度、湿度等の条件の調整が容易となる。
(発根および育苗の温度)
発根および育苗の環境における温度は、挿し穂の発根及び育苗が可能な条件である限り特に限定されないが、例えば、20〜40℃であるのが好ましい。
(培地のpH)
培地のpHは、4〜8が好ましく、pH4程度(例えば、pH4〜6)がより好ましい。これにより、雑菌などの増殖を抑制することができる。発根培地及び育苗培地のpHは異なってもよいし、同一でもよい。
(光量)
光照射条件は、特に限定されず、太陽光を用いてもよいし、人工光を用いてもよい。光強度は特に限定されないが、光合成有効光量子束密度として表され、約10μmol/m2/s以上約1000μmol/m2/s以下であることが好ましく、約50μmol/m2/s以上約500μmol/m2/s以下であることがより好ましい。
光波長は特に限定されないが、約650nm以上約670nm以下の波長成分と約450nm以上約470nm以下の波長成分とを9:1〜7:3の割合で含む光の照射下で行うことが好ましく、これらの波長成分を9:1〜8:2の割合で含む光の照射下で行うことがより好ましい。かかる波長成分を含む光を照射することで、植物からの発根がより促進され得る。
発根培養工程においては、遮光を行うことが好ましい。遮光率は、30%以上70%以下が好ましく、40%以上60%以下がより好ましい。
(炭酸ガス濃度)
発根および育苗の環境中の炭酸ガスは、通常は300ppm以上2000ppm以下、好ましくは800ppm以上1500ppm以下となるように供給することが好ましい。炭酸ガスの供給量の制御は、人工気象器等の設備や、二酸化炭素透過性の膜を開口部に有する培養容器などを利用して行われうる。
湿度は植物の種類等の条件に応じて調整することができるが、通常は、50%以上、好ましくは60%以上である。これにより、植物からの発根を促進し、育苗を効率よく行うことができる。上限については特に制限はない。
〔植物の挿し木苗育苗用キット〕
本発明の方法は、挿し穂を挿し付けるための培地、挿し穂を挿し付けた培地を格納する培養容器、吸水性部材、及び、トレー、スタンド又は架台を含む、植物の挿し木苗育苗用キットにより、好適に実施することができる。培地、培養容器、吸水性部材、トレー、スタンド、架台の例は、上記本発明の方法にて説明したのと同じである。本発明のキットは、発根前の挿し穂を更に含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。本発明のキットは、防水性部材を更に有していてもよい。また、上記培地、培養容器は、上記本発明の方法で説明したとおり、両工程で共通のものを用いることが好ましいため、各工程ごとに用意する必要はないが、工程ごとに用意してもよい。
以下実施例により本発明を説明するが本発明はこれに限定されない。
〔実施例1〕
(挿し床の調製)
培養容器として、セルトレーに保持されたシングルキャビティ型培養コンテナ(NPコンテナ、特開2017−079706、底面に開口部あり)を用いた。培地として、赤玉小粒土(簗島商事(株)製)とピートモス(トーホー(株)製)を1対1に混合し、さらに、基肥として市販の化学肥料(粉剤:商品名「アミノハウス1号」(大塚アグリテクノ(株)製))を5g/Lの割合で混合して、用土(培地)を調製した。調製した用土を培養コンテナに充填して挿し床を調製した。調製した挿し床に潅水を行い、十分に用土を湿らせて、挿しつけに用いる挿し床を調製した。
(挿し穂の調製および挿しつけ)
スギ(タノアカ;Cryptomeria japonica)の越年枝より挿し穂となる20cmの頂芽枝を採取し、下部5cmの範囲の葉をすべて切断して挿し穂を調製した。調製した挿し穂の基部(切断部)にルートン(登録商標)(石原バイオサイエンス(株)製、植物ホルモンα−ナフチルアセトアミド(NAA)を含む白色粉末、NAAの濃度は0.4%)の粉末を5〜10mg塗布した後、該挿し穂を基部から4〜5cmのところまで挿し床に挿しつけた。
(発根培養工程)
発根培養は、温室で行った。防水のため、温室の地面にビニールシートを敷いた。ビニールシートの上に底面給水用マット(商品名:ユニチカ ラブマットU、ポリエステル長繊維不織布、厚さ2.2mm)を設置した。底面給水用マットの上に、スギを挿付けた培養コンテナを保持したセルトレーを、コンテナの底面が給水用マットに直接触れるように設置した。潅水は直接植物体及びコンテナに対して行わず、底面給水用マットに潅水し、十分に底面給水用マットが濡れるまで行った。底面給水マットを利用した潅水により、用土を湿潤させた。潅水作業は、手潅水または自動潅水装置のいずれかにより行った。潅水は、発根が確認される約5ヶ月間行った。
(育苗工程)
発根培養後は、引き続き温室内で9ヶ月間育苗を行った。育苗工程では、底面給水用マット及び、ビニールシートは設置せず、コンテナをセルトレーから架台に移設させて、地面とコンテナ間に3cm程度の空気層を設けた。空気層を設けたことにより、コンテナ内での発根後に根が伸長していく際、コンテナ底面から出て空気層に達した段階で根の伸長が止まり、空気根切りの現象が起こった。本育苗工程において、潅水は植物の頭上潅水で行った。
〔実施例2〕
育苗工程において、コンテナを架台に移設せず、引き続き、底面用給水マットを利用してコンテナ内の用土が湿潤するように潅水した以外は、発根工程を含めて実施例1と同様に実施した。
〔比較例1〕
発根工程の潅水方法として、水を張った容器にコンテナを常時浸漬させ、容器内の水が少なくなったらその都度、容器に手潅水した以外は、育苗工程を含めて実施例1と同様に実施した。
〔比較例2〕
発根工程の潅水方法として、水を張った容器にコンテナを常時浸漬させ、容器内の水が少なくなったらその都度、容器に手潅水した。また、育苗工程において、コンテナを架台に移設せず、引き続き、底面用給水マットを利用してコンテナ内の用土が湿潤するように潅水した。それら以外は、実施例1と同様に実施した。
〔比較例3〕
発根工程の潅水方法として、植物体に直接、頭上潅水した以外は育苗工程を含めて実施例1と同様に実施した。
〔比較例4〕
発根工程の潅水方法として、植物体に直接、頭上潅水した。また、育苗工程において、コンテナを架台に移設せず、引き続き、底面用給水マットを利用してコンテナ内の用土が湿潤するように潅水した。それら以外は、実施例1と同様に実施した。
〔評価項目および結果〕
実施例および比較例において、潅水の手間、発根率、および植栽後の活着を評価した。結果を表1に示す。
Figure 2019024396
表1に示す結果から、実施例1または2の条件での発根培養及び育苗が、比較例1〜4に対して、潅水の手間、発根率に対して効果を有することが示された。さらに、実施例1の条件での発根培養及び育苗が、比較例1〜4に対して、潅水の手間、発根率に加え、植栽後の活着に対して効果を有することが示された。

Claims (11)

  1. 挿し穂が挿し付けられた培地を、少なくとも培地の一部が吸水性部材に接するよう設置して、吸水性部材を介して灌水を行い、挿し穂から発根させる発根培養工程、
    を含む
    植物の挿し木苗の生産方法。
  2. 発根培養工程が、培地を少なくとも略底部に開口部を有する培養容器中に格納し、開口部を介して培地が吸水性部材に接するように培養容器を吸水性部材上に載置して灌水を行う工程である、請求項1に記載の方法。
  3. さらに、発根後の挿し穂が挿し付けられた培地を少なくとも培地の一部が空気層に接するよう設置して、挿し穂を育苗し挿し木苗を得る工程を行う、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 育苗工程が、培地を少なくとも略底部に開口部を有する容器中に格納し、開口部が空気層に接するように培地を設置して、挿し穂を育苗し挿し木苗を得る工程である、請求項3に記載の方法。
  5. 吸水性部材が、シート状またはマット状である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 吸水性部材が、不織布で形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 吸水性部材の少なくとも下部に、防水性部材が設置されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 空気層が、培地の略底面に接する空隙である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 発根培養工程が、2週間〜10ヶ月行われる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 植物が、スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ科植物又はユーカリ属植物である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
  11. 挿し穂を挿し付けるための培地、
    挿し穂を挿し付けた培地を格納する培養容器、
    吸水性部材、及び
    トレー、スタンド又はコンテナ
    を含む、発根前の挿し穂について請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法を実施するための、植物の挿し木苗育苗用キット。
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