以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
≪第1実施形態≫
<圧縮機100の全体構成及び各部の構成>
図1は、圧縮機100を側方から見た部分断面図である。図1では、シェル10及び圧縮部50の一部が部分的に断面として表示されている。
図1に示すように、圧縮機100は、シャフト70と、モータ20と、モータ20によりシャフト70を介して駆動される圧縮部50と、シャフト70、モータ20及び圧縮部50を内部に収容しつつ密閉空間を形成するシェル10とを備えている。
なお、図示は省略しているが、圧縮機100は、シェル10の側方に配置されるアキュムレータを備えている。このアキュムレータは、圧縮機100の冷媒吸入側に配置されている。アキュムレータは、気体の冷媒と液体の冷媒とを分離して内部に収容しており、気体の冷媒を圧縮部50へと供給する。
なお、本明細書の説明において、シャフト70の延伸方向を軸方向(Z軸方向)と呼ぶ。後述するが、シャフト70は円柱状に形成されており、上板部材57と下板部材58により回転自在に軸支される。また、シャフト70の回転方向を周方向(θ方向)と呼び、シャフト70の軸方向に対して垂直な方向を径方向と呼ぶ。
[シェル10]
シェル10は、上部及び下部が開放された、軸方向(Z軸方向)に長い円筒状のメインシェル1を有している。また、シェル10は、メインシェル1の上部を封止するトップシェル2と、メインシェル1の下部を封止するボトムシェル3とを有している。
トップシェル2には、圧縮部50で圧縮された冷媒をシェル10の外部(例えば、空気調和器や冷凍機等)に吐出するための吐出管4が取り付けられている。また、トップシェル2には、モータ20に電力を供給するための端子5を保持する端子台6が取り付けられている。
メインシェル1の下側の位置には、2つの継手管11がそれぞれ挿入され、この継手管11には、アキュムレータからの冷媒を圧縮部50に供給するための吸入管12が接続される。
[圧縮部50]
圧縮部50は、軸方向(Z軸方向)に並ぶようにして配置されたシリンダ51a、51bと、シリンダ51a、51bの内部に配置された環状ピストン52a、52bと、環状ピストン52a、52bの内部に配置された偏心クランク53a、53bとを有している。また、圧縮部50は、環状ピストン52a、52bに当接するベーン54a、54bと、ベーン54a、54bを環状ピストン52側(径方向の内側)に向けて付勢するバネ部材55a、55bとを有している。
また、圧縮部50は、2つのシリンダ51の間に介在された仕切り板56と、上側のシリンダ51aの上部に配置された上板部材57と、下側のシリンダ51bの下側に配置された下板部材58とを有している。また、圧縮部50は、上板部材57の上側に配置された上マフラーカバー59と、下板部材58の下側に配置された下マフラーカバー60とを有している。
偏心クランク53a、53bは、モータ20のロータコア22(詳細は後述)に固定されたシャフト70の下端部に固定されており、ロータコア22の回転に応じて回転可能とされている。なお、上側の偏心クランク53a及び下側の偏心クランク53bは、偏心の位相が180°ずれた状態でシャフト70に固定されている。
シリンダ51a、51bは、シャフト70と同心の内周面を有しており、この内周面に囲まれた空間に環状ピストン52a、52bが配置されている。シリンダ51a、51bの内周面及び環状ピストン52a、52bの外周面に挟まれた空間によりシリンダ室66a、66bが形成される。シリンダ51a、51bには、吸入管12が嵌合される吸入口61a、61bが設けられており、この吸入口61a、61bを介して、冷媒が吸入される。さらに、シリンダ51a、51bには、シリンダ室66a、66bの中心から放射状に外方へ延びるベーン溝が設けられており、このベーン溝に沿ってベーン54a、54bが径方向に摺動可能とされている。
環状ピストン52a、52bは、偏心クランク53a、53bに回転自在に嵌合されている。この環状ピストン52a、52bは、偏心クランク53a、53bの回転に応じて、外周面の一部がシリンダ51a、51bの内周面に接触しながら偏心運動することが可能とされている。
ベーン54a、54bは、周方向(θ方向)に薄い板状の部材であり、バネ部材55a、55bの付勢力によって環状ピストン52a、52b側に向けて付勢されている。ベーン54a、54bは、環状ピストン52a、52b側に向けて付勢されているので、環状ピストン52a、52bが偏心運動したとしても、その先端(径方向内側)は、環状ピストン52a、52bの外周面に常に当接した状態とされる。すなわち、このベーン54a、54bは、環状ピストン52a、52bが偏心運動すると、この偏心運動に追従してベーン溝内を往復運動することが可能とされている。
シリンダ室66a、66bが、このベーン54a、54bによって仕切られ、シリンダ室66a、66bが吸入室と圧縮室の2つの部屋に分離される。環状ピストン52a、52bがシリンダ51a、51b内を偏心運動すると、2つの部屋の体積が連続的に変化する(一方の部屋の体積が増えると他方の体積が減る)ため、この動作により、圧縮部50は冷媒を吸入したり、圧縮したりすることが可能とされている。
上板部材57は、上側のシリンダ51aを、仕切り板56とともに閉塞する部材である。上板部材57は、その中心においてモータ20のシャフト70を回転自在に軸支している。また、上板部材57の外周面は、メインシェル1に設けられた溶接孔(図示せず)を介してメインシェル1と溶接される。
なお、圧縮部50を構成する各部材(上マフラーカバー59、上板部材57、上側のシリンダ51a、仕切り板56、下側のシリンダ51b、下板部材58、下マフラーカバー60)は、ボルト62によって一体的に連結されている。従って、上板部材57の外周面がメインシェル1に固定されることによって、圧縮部50は一体的にシェル10の内部に固定される。
上マフラーカバー59は、上板部材57との間に上マフラー室63を形成するための部材である。この上マフラー室63には、上側の圧縮室によって圧縮された冷媒が導かれる。
下板部材58は、下側のシリンダ51bを、仕切り板56とともに閉塞する部材である。下板部材58は、その中心においてモータ20のシャフト70を回転自在に軸支している。
下マフラーカバー60は、下板部材58との間に下マフラー室64を形成するための部材である。下マフラー室64には、下側の圧縮室によって圧縮された冷媒が導かれる。なお、下マフラー室64に導かれた冷媒は、下板部材58、下側のシリンダ51b、仕切り板56、上側のシリンダ51a、及び上板部材57を貫通する冷媒通路(図示せず)を介して、上マフラー室63に導かれる。上マフラー室63に導かれた冷媒は、シェル10内部の空間へと放出される。
なお、メインシェル1内には、およそ上側のシリンダ51aの高さまで潤滑油が封入されている。この潤滑油は、シャフト70の下部に挿入された羽根ポンプ(図示せず)により、シャフト70の下端部に取付けられた給油パイプ65から吸上げられ、圧縮部50を循環する。これにより、潤滑油は、圧縮部50における各部の動きを潤滑にしつつ、圧縮部50の微小隙間をシールしている。
[モータ20]
図2は、メインシェル1からトップシェル2を取り外し、モータ20を上方から見た図である。図3は、図1に示すA―A'間の断面図であり、モータ20の一部を構成するステータ30の上面図である。なお、図3において、ロータ21は省略している。図4は、ステータ30の一部を構成するステータコア31を示す上面図である。図5は、ステータ30の一部を構成する上側のインシュレータ41を示す上面図である。
図1〜5を参照して、本実施形態に係るモータ20は、例えばラジアルギャップ型のモータ20であり、ステータ30と、ステータ30からの磁界によって回転するロータ21とを有している。ロータ21は、ロータコア22と、複数の永久磁石23とを有している。また、ステータ30は、ステータコア31と、複数のコイル40と、複数の絶縁フィルム39と、上側のインシュレータ41と、下側のインシュレータ42とを有している。
ロータコア22は、磁性体材料によって形成された薄い磁性板が軸方向に積層されている。ロータコア22は、その中心に、軸方向に沿って貫通孔24が設けられた円柱状の部材である。ロータコア22の貫通孔24にはシャフト70の上部が挿通されて固定されている。複数の永久磁石23は、ロータコア22内部において、周方向に等間隔で配置されている。
ステータコア31は、ロータコア22と同様に、磁性体材料によって形成された薄い磁性板36が軸方向(磁性板36の厚さ方向)に積層されている(後述の図6参照)。ステータコア31は、環状のバックヨーク部32と、バックヨーク部32に設けられた複数のティース部34とを有している。ティース部34の径方向の内側の位置(つまり、ステータコア31の中心)には、径方向のギャップを介してロータ21が配置されている。
バックヨーク部32は、シャフト70と同心で環状に形成されている。バックヨーク部32の外周面には、軸方向に沿って外周面がカットされたカット部33が形成されている。
このカット部33は、ティース部34が設けられた位置に対応する位置(径方向の外側の位置)に形成されており、本実施形態では、カット部33は、周方向に等間隔(40°)で、9個形成されている。このカット部33と、メインシェル1との間には、隙間71が形成される。この隙間71は、軸方向でモータ20を貫通している。この隙間71は、圧縮部50によって、モータ20の上方へ冷媒とともに吐出された潤滑油をモータ20の下方へ戻す通路として使用される。
なお、バックヨーク部32の外周面は、カット部33が形成されていない部分において、メインシェル10に設けられた溶接孔(図示せず)を介して、メインシェル10と溶接される。
ティース部34は、バックヨーク部32の内周面から径方向の内側に向かって延びるように設けられている。また、ティース部34は、周方向に等間隔(40°)で配置されており、本実施形態では、ティース部34の数は9本とされている。コイル40は、9本のティース部34に対してそれぞれ巻回されている。
互いに隣り合う2つのティース部34の間には、スロット35が形成されている(本実施形態では9個)。このスロット35には、樹脂などの絶縁材料で構成された絶縁フィルム39が配置されている。
絶縁フィルム39、上側のインシュレータ41及び下側のインシュレータ42は、ステータコア31(ティース部34及びバックヨーク部32)と、コイル40との間に配置され、ステータコア31とコイルとを絶縁するための部材である。絶縁フィルム39は、互いに隣り合う2つのティース部34における互いに対向する一対の側面と、バックヨーク部32の内周面とを覆うようにスロット35内部に設けられている。
上側のインシュレータ41及び下側のインシュレータ42は、樹脂などの絶縁材料によって形成されている。上側のインシュレータ41は、ステータコア31の上面側に配置され、下側のインシュレータ42は、ステータコア31における下面側に配置される。
上側のインシュレータ41及び下側のインシュレータ42は、基本的に同様の構成である。従って、上側のインシュレータ41を代表的に説明する(特に、図5参照)。
上側のインシュレータ41は、筒部43と、筒部43に支持されて複数のティース部34の上面側を覆う複数の被覆部44と、被覆部44の先端に設けられた複数の爪部45とを有する。
筒部43は、軸方向に短い円筒状に形成されている。筒部43は、その直径が、ステータコア31のバックヨーク部32における内周面の直径よりも若干大きく形成されており、バックヨーク部32の上面側に配置される。
被覆部44は、筒部43から径方向の内側に向かって延びるように形成されている。また、被覆部44は軸方向に薄い板状に形成されている。被覆部44は、ステータコア31のティース部34と同様に、周方向に等間隔(40°)で配置されており、本実施形態では、被覆部44の数は9本とされている。
被覆部44は、ティース部34の上面と同様の形状、面積(XY平面)を有しており、ティース部34の上面の全体を覆うことが可能に構成されている。また、この被覆部44は、コイル40がティース部34に巻回されとき、ティース部34の上面と、コイル40との間に介在される。
爪部45は、被覆部44の先端(径方向の内側)において、上側に向けて立設されており、ティース部34における径方向の内側の端部に対応する位置に配置される。この爪部45は、径方向において筒部43との間でコイル40を両側から挟みこむことによって、コイル40がティース部34から抜けてしまわないようにコイル40を支持している。
[加締め部37及び間隙形成部38]
次に、ステータコア31が有する加締め部37と、間隙形成部38とについて説明する。
加締め部37は、ステータコア31におけるバックヨーク部32において、周方向に所定の間隔を開けて配置されている。例えば、加締め部37は、周方向に沿って40°の間隔が開けられ配置されている箇所と、周方向に80°の間隔が開けられて配置されている箇所がある。
ここで、周方向に40°の等間隔で加締め部37が配置されると仮定すると、加締め部37の数は、9つとなる。一方、加締め部37の数が多いと、磁性板36の接触による短絡箇所が多くなってしまう。このため、例えば、本実施形態では、加締め部37を3つ少なくして加締め部37の数を6つとし、加締め部37が9つあった場合と比べて120°間隔の3点に対応する位置には加締め部37が配置されていない。
従って、加締め部37は、周方向において、交互に40°、80°の間隔が開けられて配置されている。また、加締め部37は、周方向においてスロット35の中心に対応する位置に配置されている。
間隙形成部38は、バックヨーク部32の周方向において、互いに隣接する2つの加締め部37の間の領域に設けられている。特に、本実施形態では、間隙形成部38は、バックヨーク部32の周方向において、互いに隣接する2つの加締め部37の中間位置に設けられている。
具体的には、本実施形態では、間隙形成部38は、80°の間隔を開けて配置された2つの加締め部37の間の領域において、この2つの加締め部37の間の中間位置に配置されている。この間隙形成部38は、周方向においてスロット35の中心に対応する位置に、120の間隔を開けて3つ配置されている。
すなわち、本実施形態では、加締め部37及び間隙形成部38は、周方向において、加締め部37、加締め部37、間隙形成部38の順番で、40°の等しい間隔を開けて、合計で9つ配置されている。
図6は、図4に示すB―B'間の断面図(ステータコア31の周方向(θ方向)での断面図)であり、ステータコア31を径方向の内側から見た図である。また、図6の上側には、加締め部37及び間隙形成部38を上方から見たときの様子も示されている。
図6に示すように、ステータ30のステータコア31は、複数の磁性板36が、磁性板36の厚さ方向(Z軸方向:軸方向)に積層されて構成されている。この磁性板36の厚さは、例えば、0.3mm〜0.5mmなどとさされる。なお、図示は省略しているが、各磁性板36の上面及び下面には、それぞれ、表面処理によって、酸化被膜などの絶縁層が形成されている。
各磁性板36にはそれぞれ加締め用の凹部37aと加締め用の凸部37bが形成される。加締め用の凹部37aと凸部37bは、後述するが、各磁性板36にプレス成型を施すことによって形成される。各磁性板36にプレス成型を施すことにより、磁性板36の上面側に加締め用の凹部37aが形成され、磁性板36の下面側に加締め用の凸部37bが形成される。加締め部37は、加締め用の凹部37aと加締め用の凸部37bとで形成される。具体的には、加締め部37は、積層されて厚さ方向に隣接する磁性板36のうち、上側に隣接する磁性板36の加締め用の凸部37bが、下側に隣接する他の磁性板36の加締め用の凹部37aに嵌まり込むことで形成される。
なお、各磁性板36のうち、一番下に配置された磁性板36については、加締め用の凹部37a及び加締め用の凸部37bが形成さおらず、これらの代わりに開口72が形成される。この開口72には、下側から2番目に配置された磁性板36の加締め用の凸部37bが嵌まり込む。
本実施形態においては、加締め部37の個数を減らしても、各磁性板36の結合の強度を確保することができるようにするために、いわゆるV字加締めが例示されている。V字加締めでは、加締め用の凹部37a及び加締め用の凸部37bが磁性板36からV字状に突出するように加締められる。なお、加締め用の凹部37a及び加締め用の凸部37bの形状は、V字加締めに限られず、例えば丸ダボ加締めなど、適宜変更可能である。
加締め用の凹部37a及び加締め用の凸部37bは、各磁性板36に対して、それぞれ、プレス成型を施すことによって形成される。プレス成型においては、磁性板36が上面側からプレスされて磁性板36の上面が厚み方向に折れ曲がり、加締め用の凹部37aが形成される。また、このとき、磁性板36の下面側が厚み方向に折れ曲がり、突出して加締め用の凸部37bが形成される。なお、本実施形態では磁性板36の上面が厚み方向に折れ曲がる箇所を上側屈曲部371(後述の図7参照)と呼び、磁性板36の下面が折れ曲がる箇所を下側屈曲部372(後述の図7参照)と呼ぶ。
各磁性板36は、相互に積み重ねられ後、厚さ方向にプレス処理が施されることによって、加締められる。つまり、積み重ねられた磁性板36に対してプレス処理が施されると、加締め用の凸部37bが、加締め用の凹部37aに嵌まり込むことによって、各磁性板36が加締められる。
V字加締めの場合、加締め用の凹部37a及び加締め用の凸部37bは、その側面部が磁性板36から切断されるため、被膜が切断され絶縁層で覆われていない凸部37bの側面部が露出する。従って、加締め用の凸部37bは、その先端部が、下側の磁性板36の凹部37aに嵌まり込むことで、上側と下側の磁性板37が電気的に導通する。この部分において、隣接する2枚の磁性板36が直接的に接触してしまい、短絡してしまう。このため、本実施形態では、加締め部37の数が少なくされている。
また、厚さ方向に積層されて隣接する磁性板36のうち、上側に隣接する磁性板36の加締め用の凸部37bが、下側に隣接する他の磁性板36の加締め用の凹部37aに嵌まり込むとき、上側に隣接する磁性板36の下側屈曲部372と下側に隣接する他の磁性板36の上側屈曲部371とが近接しない(言い換えれば、下側屈曲部372と上側屈曲部371の位置にズレが生じる)ため、加締め用の凸部37bは、加締め用の凹部37aには完全に入りきらない。このため、加締め部37の近傍において、各磁性板36の間には隙間が生じる。
図7及び図8は、加締め部37により各磁性板36の間に隙間が生じる原理を説明するための図であり、加締め部37を示す側方拡大図である。
図7及び図8では、加締め用の凹部37a及び加締め用の凸部37bが磁性板36の上面に対して傾斜する角度φがそれぞれ異なっている。図7には、上記角度φが30°の場合の一例が示されており、図8には、上記角度φが45°の場合が示されている。
図7及び図8に示すように、磁性板36の上面と、隣接する磁性板36の上面との間の距離Hは、角度φ及び磁性板36の厚さTの関数であり、H=(1/cosφ)Tと表すことができる。
図7に示すように、角度φが30°である場合、距離Hは、1.157Tであり、一方、図8に示すように、角度φが45°である場合、距離Hは、1.414Tである。隣接する2枚の磁性板の隙間の大きさCは、距離Hと、磁性板の厚さTの差であり、従って、C=H−Tである。
従って、図7に示すように、角度φが30°である場合、隙間の大きさCは、0.157Tであり、図8に示すように、角度φが45°である場合、隙間の大きさCは、0.414Tである。つまり、角度φが30°の場合、隙間の大きさCは、磁性板36の厚さTの0.157倍であり、角度φが45°である場合、隙間の大きさCは、磁性板36の厚さTの0.414倍である。なお、隙間が生じてしまう本来的な原因は、上側屈曲部371と、下側屈曲部372の位置のズレである。
再び図6を参照して、本実施形態に係る間隙形成部38は、加締め部37で生じる各磁性板36の間の隙間と同等の隙間を、各磁性板36の間に形成することが可能とされている。
各磁性板36にはそれぞれ間隙形成用の凹部38aと間隙形成用の凸部38bが形成される。間隙形成用の凹部38aと間隙形成用の凸部38bは、後述するが、加締め部37と同様に各磁性板36にプレス成型を施すことによって形成される。各磁性板36にプレス成型を施すことにより、磁性板36の上面側に間隙形成用の凹部38aが形成され、磁性板36の下面側に間隙形成用の凸部38bが形成される。本実施形態の間隙形成部38は、間隙形成用の凹部38aと間隙形成用の凸部38bとで形成される。具体的には、間隙形成部38は、積層されて厚さ方向に隣接する磁性板36のうち、上側に隣接する磁性板36の間隙形成用の凸部38bが、下側に隣接する他の磁性板36の間隙形成用の凹部38aに当接(言い換えれば、凹部38aの縁に当接)することで形成される。
なお、各磁性板36のうち、一番下に配置された磁性板36については、間隙形成用の凹部38a及び間隙形成用の凸部38bが形成さおらず、これらの代わりに開口73が形成される。この開口73には、下側から2番目に配置された磁性板36の間隙形成用の凸部38bが嵌まり込む。
本実施形態においては、間隙形成用の凹部38a及び間隙形成用の凸部38bの形状として、半球形状が採用されている。なお、間隙形成用の凹部38a及び間隙形成用の凸部38bの形状は、円錐形状であってもよいし、三角錐、四角錐等の多角錐形状であってもよい。また、間隙形成用の凹部38a及び間隙形成用の凸部38bの形状は、円柱形状であってもよいし、三角柱、四角柱などの多角柱形状であってもよい。典型的には、間隙形成用の凹部38a及び間隙形成用の凸部38bの形状は、間隙形成用の凸部38aが、隣接する他の磁性板36の凹部38a(あるいは、隣接する他の磁性板の表面)に当接することによって、各磁性板36間に隙間を形成することができる形状であれば、どのような形状であっても構わない。
間隙形成用の凹部38a及び間隙形成用の凸部38bは、加締め用の凹部37a及び加締め用の凸部37bと同様に、各磁性板36に対して、それぞれ、プレス成型を施すことによって形成される。プレス成型においては、磁性板36が上面側からプレスされて間隙形成用の凹部38aが形成されるが、このとき、下面側において間隙形成用の凹部38aに対応する位置が突出して間隙形成用の凸部38bが形成される。
しかし、間隙形成用の凸部38bと凹部38aは、磁性板36を切断せずに形成される点で加締め用の凹部37a及び加締め用の凸部37bと異なる。磁性板36が切断されていないので、間隙形成用の凸部38bと凹部38aは、その表面に形成されている絶縁層を介して当接する。従って、間隙形成部38においては、隣接する2枚の磁性板36が直接的に接触しないため、短絡してしまうことはない。
なお、間隙形成用の凸部38bが、間隙形成用の凹部38aに当接されるときは、加締め部37と同様に、磁性板36の屈曲部の位置にズレが生じるため、間隙形成用の凸部38bは、間隙形成用の凹部38aには完全に入りきらない。これにより、加締め部37と同様に、間隙形成部38において磁性板36間に隙間が生じる。
なお、間隙形成部38は、加締め部37とは異なり、加締めとしては機能しない。すなわち、間隙形成用の凸部38bが、下側に隣接する他の磁性板36の間隙形成用の凹部38aに当接しているだけであり、加締め部37のように凸部38b先端部が凹部38aに嵌まり込んでいない。このため、各磁性板36を圧縮する方向の力が加わっても磁性板36間に一定の隙間を保つが、各磁性板36を引き離す方向の力に対してはほとんど抗力を有しない。
<作用等>
次に、本実施形態に係る作用等について説明する。ここでの説明では、まず、比較例に係るステータコア31'について説明する。図9及び図10は、比較例に係るステータコア31'を示す断面図である。図9は、インシュレータ41、42を介してステータコア31'にコイル40が巻回される前の状態を示しており、図10は、インシュレータ41、42を介してステータコア31'にコイル40が巻回された後の状態が示されている。
比較例に係るステータコア31'は、本実施形態に係るステータコア31とは異なり、間隙形成部38を有していない。その他の点については本実施形態と同様である。
比較例に係るステータコア31'において、加締め部37の個数を減らしても、各磁性板36の結合の強度を確保することができるようにするために、本実施形態と同様に、加締め部37としてV字加締めが採用されたとする。この場合、上述したように、加締め用の凹部37a及び加締め用の凸部37bは、その側面部が磁性板36から切断されるため、絶縁層における被膜で覆われていない。加締め用の凸部37bは、その先端部が、下側の磁性板36の凹部37aに嵌まり込むため、先端部において、磁性板37が電気的に導通する。また、図7及び図8において上述したように、各磁性板37の間には、角度φ及び磁性板36の厚さTに応じた大きさCの隙間が生じてしまう。
積層される磁性板36の枚数が多くなると、これに応じて、積層方向に向かって隙間が積み重なり、加締め部37が形成された箇所においてステータコア31の厚さが厚くなる。例えば、1つの隙間の大きさが、数ミクロン〜数十ミクロンだとしても、磁性板36の数が100枚であれば、1つの隙間の大きさが約100倍されるので、隙間の合計の大きさは、数百ミクロン〜数千ミクロンになる。
一方、加締め部37の数が少なくされ、加締め部37と、加締め部37との間の距離が広がってしまうと、周方向において、加締め部37と、加締め部37との間の領域で、磁性板36が撓み易くなってしまう。例えば、図9に示す状態から、図10に示すように、インシュレータ41、42を介してティース部34にコイルが巻回されることによって、上記領域に対して、外部から力が加わると、上記領域において磁性板36間の隙間が狭くなってしまう。特に、モータ20の効率を上げるために、磁性板36が薄くされている場合、磁性体板が撓みやすいので、加締め部37と、加締め部37との間の領域で磁性板36間の隙間が狭くなってしまい易い。
図10に示すように、インシュレータ41、42を介してティース部34にコイル40が巻回されると、コイル40からインシュレータ41、42に対して力が加わる。この力は、インシュレータ41、42をステータコア31の上面、下面に押し付けるように働く。このとき、ステータコア31(特にバックヨーク部32)と、インシュレータ41、42(特にバックヨーク部32に対応する部分)との間に隙間が発生していると、インシュレータ41、42において、バックヨーク部32に対応する部分に負荷がかかってしまう。
例えば、ステータコア31'のバックヨーク部32において、スロット35とメインシェル1との間の領域で、加締め部37の個数が減らされる場合、加締め部37が減らされた箇所では、ステータコア31'(特にバックヨーク部32)と、インシュレータ41、42(特にバックヨーク部32に対応する部分)との間に隙間が発生する。加締め部37が減らされた箇所は、スロット35に対応する部分である(言い換えれば、ティース部34が形成されていない部分である)ため、バックヨーク部32の中でも強度が弱い箇所であり、磁性板36間の隙間が狭くなりやすい(ステータコア31'の厚さが薄くなりやすい)。また、インシュレータ41、42においても、スロット35に対応する部分は、インシュレータ41、42の中でも強度が弱い箇所である(インシュレータ41、42において、被覆部44等がない部分であるため)。
そのため、コイル40からインシュレータ41、42に対して力が加わると、インシュレータ41、42において、バックヨーク部32に対応する部分に、亀裂、割れ等の破損が生じてしまう虞がある。また、インシュレータ41、42の破損によって破片が生じると、この破片がシェル10内を循環する潤滑油などに混入してしまい、モータ20や圧縮部50等が故障してしまう虞もある。
一方、本実施形態においては、上述のように、周方向において、互いに隣接する2つの加締め部37の間の領域に間隙形成部38が設けられている。そして、この間隙形成部38によって、加締め部37で生じる各磁性板36の間の隙間と同等の隙間を各磁性板36の間に形成することができる。従って、ステータコア31の上面及び下面の平坦度を向上させることができる。
また、本実施形態においては、間隙形成部38が、周方向において、互いに隣接する2つの加締め部37の中間位置に設けられている。すなわち、本実施形態では、間隙形成部38がない場合において、ステータコア31の厚さが最も薄くなってしまう、2つの加締め部37の中間位置に間隙形成部38が設けられている。これにより、さらに効果的にステータコア31の上面及び下面の平坦度を向上せることができる。
このように、本実施形態では、ステータコア31の上面及び下面の平坦度を向上させることができるので、ステータコア31と、インシュレータ41、42との間に隙間が発生してしまうことを防止することができる。これにより、インシュレータ41、42が破損してしまうことを防止することができる。さらに、インシュレータ41、42の破損による破片によって、モータ20や圧縮部50が故障してしまうことも防止することができる。
また、本実施形態では、間隙形成部38が、バックヨーク部32において、スロット37に対応する位置に設けられる。すなわち、ステータコア31の厚さが薄くなり易い箇所であり、かつ、インシュレータ41、42の強度が弱い箇所に対応する、スロット37に対応する位置に、間隙形成部38が設けられる。これにより、さらに効果的にステータコア31の上面及び下面の平坦度を向上せることができ、かつ、さらに効果的にインシュレータ41、42の破損を防止することができる。
≪各種変形例≫
以上の説明では、6つの加締め部37が、交互に40°、80°の間隔で配置される場合について説明した。一方、加締め部37の個数や、加締め部37が配置される間隔は、適宜変更可能であり、特に限定されない。例えば、加締め部37の数は、1つ、2つ・・等であってもよし、加締め部37の間隔は、60°間隔や90°間隔等であってもよい。
以上の説明では、3つの間隙形成部38が120°の間隔で配置される場合について説明した。一方、間隙形成部38の個数や、間隙形成部38が配置される間隔は、適宜変更可能であり、特に限定されない。例えば、加締め部37の数は、1つ、2つ・・等であってもよし、加締め部37の間隔は、60°間隔や90°間隔等であってもよい。
以上の説明では、周方向において、互いに隣接する2つの加締め部37の中間位置に間隙形成部38が設けられる場合について説明した。一方、間隙形成部38が設けられる位置は、周方向において、互いに隣接する加締め部37の間の領域であれば、この領域内において適宜変更可能である。
以上の説明では、互いに隣接する2つの加締め部37の間の領域に1つの間隙形成部38が設けられる場合について説明した。一方、互いに隣接する2つの加締め部37の間の領域に、2つ以上の間隙形成部38が設けられていてもよい。
以上の説明では、加締め用の凹部37aが磁性板36の上面に形成され、加締め用の凸部37bが磁性板36の下面に形成される場合について説明した。一方、加締め用の凹部37aが磁性板36の下面に形成され、加締め用の凸部37bが磁性板36の上面に形成されてもよい。
以上の説明では、間隙形成用の凹部38aが磁性板36の上面に形成され、間隙形成用の凸部38bが磁性板36の下面に形成される場合について説明した。一方、間隙形成用の凹部38aが磁性板36の下面に形成され、間隙形成用の凸部38bが磁性板36の上面に形成されてもよい。
以上の説明では、加締め用の凹部37a及び間隙形成用の凹部38aが同じ面側に形成され、かつ、加締め用の凸部37b及び間隙形成用の凸部38bが同じ面側に形成される場合について説明した。一方、加締め用の凹部37a及び間隙形成用の凹部38aが異なる面側に形成され、かつ、加締め用の凸部37b及び間隙形成用の凸部38bが異なる面側に形成されてもよい。
図11及び図12は、間隙形成用の凹部及び間隙形成用の凸部の変形例を示す図である。
図11に示す例では、間隙形成部38'における間隙形成用の凹部38'a及び間隙形成用の凸部38'bが円柱形状に形成されている。間隙形成用の凹部38'aの直径Aは、間隙形成用の凸部38'bの直径aよりも大きいが、間隙形成用の凹部38'aの深さD1は、間隙形成用の凸部38'bの高さD2よりも小さい。ここでの例では、間隙形成用の凹部38'aの体積と、間隙形成用の凸部38'bの体積とが同じとされている。つまり、π(A/2)2×D1=π(a/2)2×D2であり、この式から、A2×D1=a2×D2である。なお、磁性板36'の表面、間隙形成用の凹部38'aの底部及び間隙形成用の凸部38'bの頂部には、絶縁層81が形成されており(間隙形成用の凹部38'a及び間隙形成用の凸部38'bの側周面には絶縁層81は無い)、間隙形成用の凸部38'bは、絶縁層81を介して下側の磁性板36'の凹部38'aと当接している。
図12に示す例では、間隙形成部38"における間隙形成用の凹部38"a及び間隙形成用の凸部38"bは、図11に示す例と同様に、円柱形状に形成されている。一方、図11に示す例とは異なり、間隙形成用の凹部38"aの直径A'は、間隙形成用の凸部38"bの直径a'よりも小さく、間隙形成用の凹部38"aの深さD'1は、間隙形成用の凸部38"bの高さD'2よりも大きい。間隙形成用の凹部38"aの直径A'が、間隙形成用の凸部38"bの直径a'よりも小さいため、この例では、間隙形成用の凸部38"bが、間隙形成用の凹部38"aに対して嵌り込まない。
ここでの例では、間隙形成用の凹部38"aの体積と間隙形成用の、凸部38"bの体積とが同じとされている。つまり、π(A'/2)2×D'1=π(a'/2)2×D'2であり、この式から、A'2×D'1=a'2×D'2である。なお、磁性板36"の表面、間隙形成用の凹部38"aの底部及び間隙形成用の凸部38"bの頂部には、絶縁層81が形成されており(間隙形成用の凹部38"a及び間隙形成用の凸部38"bの側周面には絶縁層81は無い)、間隙形成用の凸部38"bは、絶縁層81を介して下側の磁性板36"の上面と当接している。
なお、上述の第1実施形態では、磁性板36の一方の磁性板38の間隙形成用の凹部38aに他方の磁性板36の間隙形成用の凸部38bが当接している。しかし、本発明の間隙形成部38はこれに限られず、隣接する磁性板36の間に間隙を形成できればよい。従って、本発明の間隙形成部38は、少なくとも一方の磁性板36の間隙形成用の凸部38bが形成されていればよく、例えば、間隙形成用の凸部38bが他方の磁性板38に絶縁層を介して当接することで、間隙を形成することができる。