以下、図面を参照して、本発明に係るレーダカバー及びレーダカバーの製造方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
図1(a)は、本実施形態のレーダカバーからなるエンブレム10を備えるラジエータグリル1の正面図である。また、図1(b)は、本実施形態のエンブレム10の拡大正面図である。また、図2は、(a)が本実施形態のエンブレム10の断面図であり、(b)が本実施形態のエンブレム10の部分拡大断面図である。
ラジエータグリル1は、車両のエンジンルームに通じる開口を塞ぐように車両の前面に設けられており、エンジンルームへの通気を確保しかつエンジンルームへの異物の進入を防止している。ラジエータグリル1の中央には、エンジンルーム内に配置されるレーダユニットR(図2(a)参照)に対向するようにしてエンブレム10が設けられている。レーダユニットRは、例えばミリ波を発信する発信部、反射波を受信する受信部、及び、演算処理を行う演算部等を有している。このレーダユニットRは、エンブレム10を透過する電波の送受信を行い、受信した電波に基づいて車両の周囲状況を検知する。例えば、レーダユニットRは、障害物までの距離や障害物の相対速度等を算出して出力する。
エンブレム10は、レーダユニットRを車両の正面側から見て覆うように配置されている。つまり、エンブレム10は、背面をレーダユニットRに向けて配置されている。このエンブレム10は、図1(b)に示すように、車両の正面側から見て、車両メーカのエンブレムを示す図形や文字等を表す光輝領域10Aと、当該光輝領域10Aの視認性を向上させる黒色領域10Bを有する部品である。このようなエンブレム10は、図2(a)に示すように、透明部材11と、インナエンブレム12(インナコア)と、ベース部材13とを備えている。
透明部材11は、最も車両の外側に配置される略矩形状の透明材料(着色透明を含む)により形成される部位である。この透明部材11は、車両の外部からのインナエンブレム12の視認性を高めるため、表側の面が円滑面とされている。また、透明部材11の裏側の面には、インナエンブレム12が配置される凹部11aが形成されている。
凹部11aは、インナエンブレム12が嵌合される部位であり、収容されたインナエンブレム12を車両の前方側から立体的に視認可能とする。この凹部11aは、車両メーカのエンブレム等の図形や文字等の形状に沿って設けられている。このような凹部11aにインナエンブレム12が収容されることによって、上述の光輝領域10Aが形成される。
このような透明部材11は、例えば、無色のPC(ポリカーボネート)やPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)等の透明合成樹脂によって形成されており、1.5mm〜10mm程度の厚さとされている。また、透明部材11の表側の面には、必要に応じて、傷付き防止のためのハードコート処理、又はウレタン系塗料のクリヤコート処理が施される。なお、耐傷性を備える透明合成樹脂であれば、これらの傷付き防止処理は不要である。
インナエンブレム12は、図2(b)に示すように、基部12aと、光輝フィルム12bとを備えている。基部12aは、インナエンブレム12の骨格となる強度部材であり、光輝フィルム12bを支持している。この基部12aは、射出成形等によって成形されており、例えばABS、PC又はPET等の合成樹脂によって形成されている。この基部12aは、透明部材11の凹部11aを埋設する凸状の形状とされている。
光輝フィルム12bは、基部12aの表面(透明部材11側の面)に固着されており、基部12aに被さるように配置された金属光輝性を備える層である。この光輝フィルム12bは、図2(b)に示すように、基部12a側から順に、接着層12cと、金属薄膜12dと、透明層12eとが積層配置されたフィルム部材である。
接着層12cは、基部12aに対して直接当接して固着される樹脂層であり、基部12aの表面に対して溶着されている。金属薄膜12dは、インジウム(In)やアルミニウム(Al)からなる金属薄膜である。この金属薄膜12dは、インジウム(In)やアルミニウム(Al)が微小な隙間を有する海島状に形成された不連続膜であり、電波が透過可能とされている。このような金属薄膜12dは、例えばスパッタリング法によって形成されている。透明層12eは、金属薄膜12dの全面を覆う透明樹脂材料からなる層である。この透明層12eは、金属薄膜12dを空気や水分から保護するトップコート層として機能する。
インナエンブレム12は、基部12aがベース部材13の表面に対して溶着することによって固着されており、光輝フィルム12bの透明層12eは透明部材11の凹部11aの内壁面に固着されずに当接のみされて配置されている。つまり、インナエンブレム12は、ベース部材13の表面に対しては溶着することによって固着されているが、透明部材11の凹部11aの内壁面には固着されておらずに当接されているのみである。
ベース部材13は、透明部材11の裏側に固着される部位であり、黒色の樹脂材料から形成されている。このベース部材13は、透明部材11と固定されると共にインナエンブレム12を透明部材11と反対側から支持する支持部材として機能する。また、ベース部材13は、エンジンルーム側に突出する係合部13aを有している。この係合部13aは、先端部が爪状に成形されており、当該先端部が例えばラジエータグリル本体に係止される。このように透明部材11の裏側の面に対して固着されたベース部材13は、透明部材11の外側から視認可能とされており、上述の黒色領域10Bを形成している。このベース部材13は、光輝領域10A以外の領域を黒色に視認させ、相対的に光輝領域10Aの視認性を向上させる。
このようなベース部材13は、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)、AES(アクリロニトリル・エチレン・スチレン共重合合成樹脂)、ASA(アクリロニトリル・スチレン・アクリレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、有色のPC、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の合成樹脂、又はこれらの複合樹脂からなり、0.5mm〜10mm程度の厚さとされている。
続いて、本実施形態のエンブレム10の製造方法について、図3〜図5を参照して説明する。図3は、本実施形態のエンブレム10の製造方法について説明するための概略図である。まず、図3(a)に示すように、透明部材11を形成する。例えば、透明部材11は、射出成形により形成される。この射出成形により、凹部11aを有する透明部材11を形成することができるため、後工程により凹部11aを形成する必要はない。なお、必要に応じて、透明部材11の表面側(車両外側に向く面)あるいは全面には、耐久性等を向上させるためのハードコート処理を施しても良い。このような図3(a)に示す工程は、透明部材形成工程である。
次に、図3(b)に示すように、インナエンブレム12を形成する。このインナエンブレム12を形成する場合には、例えば、図4(a)に示すように、コア金型21とキャビティ金型22とに分割された金型20を用いた射出成形を行う。コア金型21とキャビティ金型22とを離間させた状態で、コア金型21の内壁面に沿って帯状の成形用フィルム30を配置する。
図5は、この成形用フィルム30の断面図である。この図に示すように成形用フィルム30は、基材フィルム31に対して離形層32を介して光輝フィルム12bが一体化されたフィルム部材である。基材フィルム31は、例えば、ポリエチレンテレフタレートにより形成されており、光輝フィルム12bを支持する層である。離形層32は、メラミン樹脂系離型剤、シリコーン系離型剤あるいはフッ素樹脂系離型剤等の離型剤からなる層であり、基部12aを射出成形する際の熱及び圧力によって、光輝フィルム12bを基材フィルム31から剥離するための層である。
なお、成形用フィルム30を金型20に配置する場合には、例えば基材フィルム31をコア金型21の凹部の内壁面に向けて真空吸着することによって位置決めを行う。このような真空吸着により、図4(a)に示すように、成形用フィルム30がコア金型21の内壁面に沿って配置される。
続いて、図4(b)に示すように、成形用フィルム30を挟んでコア金型21とキャビティ金型22を当接し、図4(c)に示すように、金型20の内部に溶融樹脂を供給する。溶融樹脂を供給することにより、光輝フィルム12bが基材フィルム31から剥離し、基部12aと光輝フィルム12bとが一体化されたインナエンブレム12が形成される。
図3に戻り、図3(c)に示すように、インナエンブレム12を透明部材11の凹部11aに配置する。この際、インナエンブレム12は、透明部材11の凹部11aに対して固着されておらず、当接されているのみである。この図3(c)に示す工程は、インナコア配置工程に相当する。つまり、図3(d)に示す工程により、固着させることなく透明部材11に対してインナエンブレム12が配置される。
次に、図3(d)に示すように、ベース部材13を形成する。ここでは、凹部11aにインナエンブレム12が設置された透明部材11を、射出成形用の金型の内部に配置し、透明部材11の背面側に溶融した樹脂を射出するインサート成形を行うことで、ベース部材13を形成する。このようなベース部材13は、インサート成形時の熱により透明部材11と溶着され、インナエンブレム12を覆うように配置される。これによって、インナエンブレム12は、凹部11aの内壁面に当接された状態で、透明部材11に対して固定される。このような図3(d)に示す工程は、ベース部材形成工程である。
以上のような工程で本実施形態のエンブレム10が製造される。このような本実施形態のエンブレム10の製造方法及びエンブレム10によれば、電波が透過可能な金属薄膜12dを有する光輝フィルム12bが基部12aの表面に固着されてなるインナエンブレム12を用いるため、射出成形後に別途金属薄膜を真空蒸着やスパッタリングにて形成する工程を行うことなくインナエンブレム12を形成することができる。したがって、本実施形態によれば、電波を透過可能な金属薄膜12dを有するインナエンブレムを備えるエンブレム10を容易かつ短時間で形成することができる。
また、本実施形態のエンブレム10の製造方法においては、インナコア形成工程では、光輝フィルム12bが配置された金型20の内部に射出成形にて基部12aを成形することによりインナエンブレム12を成形している。このため、基部12aの成形と同時にインナエンブレム12の形成が完了する。したがって、より短時間でエンブレム10を形成することが可能となる。
また、本実施形態のエンブレム10の製造方法においては、光輝フィルム12bが、離形層32を介して基材フィルム31に支持された状態で金型20の内部に配置される。このため、光輝フィルム12bが溶融樹脂の流れ等によって金型20の内部で位置ずれを生じることを抑止することができ、より確実に光輝フィルム12bを基部12aに対して正確な位置に配置することが可能となる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
上記実施形態においては、基材フィルム31に離形層32を介して保持された光輝フィルム12bを金型20の内部に配置する構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、予め光輝フィルム12bを裁断して基材フィルム31及び離形層32を用いずに、金型20の内部に配置する構成を採用することも可能である。
また、上記実施形態においては、光輝フィルム12bが接着層12cと、金属薄膜12dと、透明層12eとの3層を有する構成を採用した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。光輝フィルム12bは、電波が透過可能な金属薄膜を有していれば、他の層を備えることあるいは他の層の種類は任意である。