JP2018155629A - ペプチドの吸着抑制剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】タンパク質、ペプチドの器具への吸着を抑制する水溶液組成物を用いることにより、抗原抗体反応の測定精度の向上、検体の取り扱いの簡便化を行う方法を提供する。【解決手段】有機基が直鎖である第四級アンモニウム塩系の陽イオン性界面活性剤を、免疫測定用試料に対して0.001〜0.20%含有する水溶液組成物を用いて、抗原抗体反応を行う。【選択図】なし

Description

本発明は、ペプチド吸着抑制剤に関する。
タンパク質、ペプチドの吸着は、酵素による分解と共に、試料中の濃度変動の大きな要因の一つである。一般的にタンパク質、ペプチドの吸着抑制のために、bovine serum albumin(BSA)や乳タンパク質等のタンパク質や界面活性剤が使用される。プラスチック製器具に対しては、タンパク質は疎水的に吸着すると考えられており、疎水的吸着を抑制するために、非イオン性界面活性剤の使用が一般的に行われる。非特許文献1では、検量線用試料の溶液には、BSA等に加え、非イオン性界面活性剤のTritonX−100が使用されている。
また、尿はタンパク質量が少ないことから、目的タンパク質が器具へ吸着しやすい。そのため、サンプルの取り扱い方法により、目的タンパク質が器具に吸着することによる測定精度低下が問題となる。器具への吸着を抑制する方法として、親水化等の表面処理をした器具を使用する方法が考えられるが、コストが高くなるという問題がある。そのため、ペプチドの器具への吸着を簡便な方法で抑制し、正確に測定できる定量方法が必要とされている。
Clinical chemistry, 1999, 45.2: 244−251.
そこで本発明は、ペプチドの器具への吸着を抑制する手段を提供し、測定精度の向上、検体の取り扱いの簡便化を目的とする。
上記課題に鑑みてなされた本発明は、以下の態様を包含する:
(1)有機基が直鎖である第四級アンモニウム塩系の陽イオン性界面活性剤を、免疫測定用試料に対して0.001〜0.20%含有する水溶液組成物。
(2)免疫測定の対象がグレリン又はアドレノメデュリンであることを特徴とする(1)に記載の水溶液組成物。
(3)前記陽イオン性界面活性剤が下記一般式(1)で示される第四級アンモニウム塩系の陽イオン性界面活性剤であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の水溶液組成物。
Figure 2018155629
(式(1)中、Rは、炭素数12〜16の直鎖アルキル基である。R、R及びRは、炭素数11以下の直鎖アルキル基であって、それぞれが同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは、ハロゲンである。)
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らはペプチドの吸着を抑制するため、界面活性剤を添加することを検討した結果、有機基が直鎖である第四級アンモニウム塩系の陽イオン性界面活性剤にペプチドの測定器具への吸着を抑制する効果があることを見出した。
なお、本発明における「測定器具」とは、ペプチド測定において、検体採取から測定まで、ペプチドを含む試料が接触する器具をいう。具体的には、採血管、採尿容器、チューブ等の容器等が挙げられる。「プラスチック製器具」とは、表面がプラスチック加工されているものも含む。具体的には、プラスチック製チューブ、採尿用カップ等が挙げられる。「プラスチック」とは、合成樹脂が大部分である高分子物質を主原料として人工的に有用な形状に形作られた固体であり、一般には、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン製の器具が多く使用されている。「ガラス」とは、結晶質ではなく周期的な構造を持たない非晶質であり、二酸化ケイ素を主成分とするものが多い。
本発明における免疫測定用試料とは、抗体と抗原との反応を利用した定量法である免疫測定に必要な検量線用試料と、測定対象となる生体試料である。生体試料としては、例えば、血液、血清、血漿、尿、唾液、組織液などが挙げられる。
本発明で用いられる有機基が直鎖である第四級アンモニウム塩系の陽イオン性界面活性剤は、例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(TTAB)、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB)、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド(STAC)、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(DTAC)、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
上述した陽イオン性界面活性剤の中でも、下記一般式(1)で示される構造体が好ましい。
Figure 2018155629
(式(1)中、Rは、炭素数12〜16の直鎖アルキル基である。R、R及びRは、炭素数11以下の直鎖アルキル基であって、それぞれが同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは、ハロゲンである。)
具体的には、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(TTAB)、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB)、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(DTAC)等が挙げられる。
本発明において、陽イオン性界面活性剤は、1種類、もしくは複数種類の界面活性剤を併用してもよい。非イオン、陰イオン、両性イオン性界面活性剤等と併用してもよいが、本発明の効果が十分に得られなくなるおそれがあるため、微量に留めておくことが好ましい。界面活性剤濃度は一定濃度以上であれば吸着を抑制可能であるが、定量方法を阻害することがあるので、免疫測定用試料に対して0.001〜0.20%である必要がある。界面活性剤濃度が免疫測定用試料に対して0.20%を超えると、抗体を用いた免疫測定で定量する場合などに抗原抗体反応を阻害するおそれがある。
本発明の測定対象としては、グレリン(Ghrl)又はアドレノメデュリン(AM)が好ましい。Ghrlは、28残基のアミノ酸からなるペプチドであり、成長ホルモン分泌促進作用、摂食促進作用、エネルギー代謝調節作用、血圧降下等の循環調節作用など多彩な生理活性作用をもつ。AMは、52残基のアミノ酸からなるペプチドであり、強力な血管拡張性の降圧作用を有している。AMは前駆体より中間体のペプチド(AM−Gly)が生合成され、アミド化酵素により活性を有する成熟型ペプチド(mAM)生合成される。本発明で使用される「mAM測定」とは、アミド化酵素により活性を有する末端がNHである成熟型ペプチド(mAM)を測定するものをいい、「tAM測定」とは、末端がGlyである中間体のペプチド(AM−Gly)と成熟型ペプチド(mAM)の両方を測定するものをいう。
本発明によれば、ペプチドの測定器具への吸着を抑制することにより、測定試薬で使用する検量線用試料の安定化が可能である。また、測定者の検体の取り扱いを容易にし、ペプチドをより正確に定量可能となるため、臨床応用上非常に有用である。
以下に実施例を示すが、本発明は実施例に記載された例に限られるものではない。なお、以下の実験例で使用したヒト検体は、インフォームドコンセントのもと採取された検体を用い実施した。
また、Ghrl、mAM、tAM濃度測定は、自動免疫測定装置AIAシリーズ(東ソー社製)を用いて実施した。
実施例1:各種界面活性剤の効果(mAM測定)
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に下記の界面活性剤を添加したものを、ベース液とした。プラスチック製器具であるクライオチューブ(TPP社製)で、PBSとベース液にそれぞれmAM抗原を添加して「処理前液」とした。mAM抗原は市販の抗原(ペプチド研究所、Adrenomedurin (human))を使用した。なお、CTAB、TTAB、CTAC及び塩化ベンザルコニウムの実験、DTABの実験、SDS及びTweenの実験はそれぞれ別の日に行った。
(使用材料)
(1)陽イオン性界面活性剤
(1−1)セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)(シグマ アルドリッチ製)([CH(CH15N(CHBr
(1−2)テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(TTAB):(シグマ アルドリッチ製)([CH(CH13N(CHBr
(1−3)セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC):(東京化成製)([CH(CH15N(CHCl
(1−4)ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB):(東京化成製)([CH(CH11N(CHBr
(1−5)塩化ベンザルコニウム:(和光純薬製)([CCHN(CHR]Cl R:C17〜C1837
(2)陰イオン性界面活性剤
(2−1)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(和光純薬製)
(3)非イオン性界面活性剤
(3−1)Tween #20(ナカライテスク製)。
(実験手順)
処理前液のmAM濃度を測定した後、処理前液をガラス瓶に移し、転倒混和を10回、5分静置したのち、転倒混和を再び10回行った「ガラス瓶液」のmAM濃度を測定した。
界面活性剤を添加することによる測定値の濃度変化(回収率)は、界面活性剤を添加していない処理前液と界面活性剤を添加した処理前液のmAM濃度により、下記の式で算出した。
(回収率)[%]=(各界面活性剤を添加した処理前液濃度)/(界面活性剤を添加していない処理前液濃度)
回収率は値が低いと界面活性剤が測定に及ぼす影響、本実施例では抗原抗体反応に及ぼす影響が大きい。すなわち、100%を基準とし、それよりも値が顕著に低い場合は、界面活性剤が測定を阻害しているといえる。なお、界面活性剤を添加していない処理前液は、測定までの間に器具への吸着がおこり、低値となることがあるため、回収率が100%を超えることもあり、本発明においては回収率が100%を超えるとき、本発明の効果を有するものと判定する。
ガラスに対する吸着抑制能(吸着率)は、処理前液とガラス瓶液のmAM濃度を比較し、下記の式で算出した。
(吸着率(ガラス瓶液))[%]=[(処理前液の濃度)―(ガラス瓶液の濃度)]/(処理前液の濃度)
吸着率は値が低いほど吸着量が少なく、吸着抑制能が高い。例えば、吸着率0%では処理による器材への吸着がないことを示す。吸着率15%は前述した転倒混和処理により15%が器材に吸着したことを示す。本発明においては吸着率15%以下のとき、本発明の効果を有するものと判定する。なお、測定濃度値は、ばらつきがあるため、吸着量が微量の場合、吸着率が0%を下回ることもある。
結果を表1に示す。
Figure 2018155629
有機基が直鎖である第四級アンモニウム塩系の陽イオン性界面活性剤(CTAB、TTAB、CTAC、DTAB)は、回収率が高くガラス瓶への吸着率も低く、吸着を簡便に抑制することができた。一方、有機基がフェニル基である第四級アンモニウム塩系の陽イオン性界面活性剤(塩化ベンザルコニウム)は、ガラス瓶への吸着率は低かったが、回収率が低く、測定系への影響が見られた。
陰イオン性界面活性剤(SDS)は回収率が低く、非イオン性界面活性剤(Tween#20)は、回収率が低く、吸着率も高くなった。
実施例2:tAM、Ghrlに対する陽イオン性界面活性剤の効果
実施例1と同様にPBS、陽イオン性界面活性剤の一つであるCTABを添加したベース液にmAM抗原、Ghrl抗原を添加し、ガラス製器具に対する吸着抑制効果を確認した。Ghrl抗原は市販の抗原(Ghrlelin (Human))を使用した。回収率及び吸着率(濃度はtAM濃度とGhrl濃度である)は実施例1と同様の方法で算出した。
結果を表2に示す。
Figure 2018155629
tAM、Ghrlに対して、陽イオン性界面活性剤(CTAB)を添加することにより、本発明の効果が得られていることを確認した。
実施例3:各濃度における陽イオン界面活性剤の効果(tAM測定)
PBSに陽イオン性界面活性剤(CTAB)を免疫測定用試料中濃度が0〜0.40%になるよう添加し、mAM抗原を約50pMの濃度となるように添加して処理前液とした。処理前液をプラスチック製器具であるチューブ(CELLSTAR PP遠心管、Greiner Bio−One製)に移し、転倒混和を10回、5分静置したのち、再度、転倒混和を10回行った「チューブ液」のtAM濃度を測定した。回収率及び吸着率(ガラス瓶液の濃度をチューブ液の濃度に置き換えた。濃度はtAM濃度である。)は実施例1と同様の方法で算出した。
結果を表3に示す。
Figure 2018155629
陽イオン性界面活性剤の終濃度が、0.00078%以下だと吸着率が高くなってしまい、0.40%だと、回収率が低下した。
実施例4:陽イオン性界面活性剤の尿での効果
内面ポリエチレンラミネート加工された採尿カップ(伊藤忠リーテイルリンク製)に対する回収率及び吸着率についてmAM測定、tAM測定でそれぞれ確認した。採取した尿をチューブ(CELLSTAR PP遠心管、Greiner Bio−One製)に分けたのち、PBS又は各界面活性剤を添加したものを処理前液とした。処理前液を採尿カップに移した「採尿カップ液」について、回収率及び吸着率(ガラス瓶液の濃度を採尿カップ液の濃度に置き換えた。濃度はmAM濃度とtAM濃度である。)を実施例1と同様の方法で算出した。ただし、尿中にAMが含まれているため、抗原は添加しなかった。
結果を表4に示す。
Figure 2018155629
尿を採尿カップで回収した検体についても、mAM測定、tAM測定ともにいずれの陽イオン性界面活性剤も本発明の効果が得られていることを確認した。

Claims (3)

  1. 有機基が直鎖である第四級アンモニウム塩系の陽イオン性界面活性剤を、免疫測定用試料に対して0.001〜0.20%含有する水溶液組成物。
  2. 免疫測定の対象がグレリン又はアドレノメデュリンであることを特徴とする請求項1に記載の水溶液組成物。
  3. 前記陽イオン性界面活性剤が下記一般式(1)で示される構造体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水溶液組成物。
    Figure 2018155629
    (式(1)中、Rは、炭素数12〜16の直鎖アルキル基である。R、R及びRは、炭素数11以下の直鎖アルキル基であって、それぞれが同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは、ハロゲンである。)
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