まず、図1から図4を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置1について説明する。図1は、車輪用軸受装置1を示す斜視図である。図2は、車輪用軸受装置1の構造を示す断面図である。図3および図4は、車輪用軸受装置1の一部構造を示す断面図である。
車輪用軸受装置1は、車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材2と、内方部材3と、転動体4と、インナー側シール部材5と、アウター側シール部材6と、を備える。なお、本明細書において、「インナー側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、「アウター側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
外方部材2は、転がり軸受構造の外輪部分を構成するものである。外方部材2は、例えばS53C等の中高炭素鋼で構成されている。外方部材2のインナー側端部には、封止面2aが形成されている。また、外方部材2のアウター側端部には、封止面2bが形成されている。更に、外方部材2の内周には、二つの外側転走面2c・2dが形成されている。外側転走面2cは、後述する内側転走面3cに対向する。外側転走面2dは、後述する内側転走面3dに対向する。なお、外側転走面2c・2dには、高周波焼入れが施され、表面硬度が58〜64HRCの範囲となっている。加えて、外方部材2の外周には、車体取付フランジ2eが一体的に形成されている。車体取付フランジ2eには、複数のボルト挿通穴2fが設けられている。
内方部材3は、転がり軸受構造の内輪部分を構成するものである。内方部材3は、ハブ輪31と内輪32で構成されている。
ハブ輪31は、例えばS53C等の中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪31には、そのインナー側端部から軸方向中央部まで小径段部3aが形成されている。小径段部3aは、ハブ輪31の外径が小さくなった部分を指し、その外周面が回転軸Aを中心とする円筒形状となっている。また、ハブ輪31には、そのインナー側端部からアウター側端部まで貫かれた自在継手取付穴3bが形成されている。自在継手取付穴3bは、ハブ輪31の中心に設けられた貫通穴を指し、その内周面における一部が凹部と凸部が交互に並ぶ凹凸形状(スプライン穴)となっている。更に、ハブ輪31の外周には、内側転走面3cが形成されている。内側転走面3cは、前述した外側転走面2cに対向する。なお、ハブ輪31は、小径段部3aから内側転走面3cを経てシールランド部(後述する軸面部3eと曲面部3fと側面部3gで構成される)まで高周波焼入れが施され、表面硬度が58〜64HRCの範囲となっている。加えて、ハブ輪31の外周には、車輪取付フランジ3hが一体的に形成されている。車輪取付フランジ3hには、回転軸Aを中心とする同心円上に等間隔で複数のボルト圧入穴3iが設けられ、それぞれのボルト圧入穴3iにはハブボルト33が圧入されている。
内輪32は、例えばSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼で構成されている。内輪32の外周には、封止面3kが形成されている。また、内輪32の外周には、内側転走面3dが形成されている。内輪32は、ハブ輪31の小径段部3aに嵌合(外嵌)されることにより、ハブ輪31の外周に内側転走面3dを構成する。内側転走面3dは、前述した内側転走面2dに対向する。なお、内輪32は、いわゆるズブ焼入れが施され、芯部まで58〜64HRCの範囲となっている。
転動体4は、転がり軸受構造の転動部分を構成するものである。転動体4は、例えばSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼で構成されている。インナー側の転動体列4Rは、複数の転動体4が保持器によって環状に配置されたものである。それぞれの転動体4は、外方部材2の外側転走面2dと内方部材3の内側転走面3dの間に転動自在に介装されている。一方で、アウター側の転動体列4Rも、複数の転動体4が保持器によって環状に配置されたものである。それぞれの転動体4は、外方部材2の外側転走面2cと内方部材3の内側転走面3cの間に転動自在に介装されている。なお、転動体4は、いわゆるズブ焼入れが施され、芯部まで62〜67HRCの範囲となっている。
インナー側シール部材5は、外方部材2と内方部材3の間に形成された環状空間Sのインナー側端部を密封するものである。但し、インナー側シール部材5については、様々な仕様が存在しており、本願の仕様に限定するものではない。
インナー側シール部材5は、スリンガ51を含んでいる。スリンガ51は、内輪32の封止面3kに嵌合(外嵌)される。スリンガ51は、例えばSUS430やSUS304等のステンレス鋼板、あるいはSPCC等の冷間圧延鋼板で構成されている。スリンガ51は、円環状の鋼板がプレス加工によって変形され、軸方向断面が略L字状に折り曲げられた形状となっている。これにより、スリンガ51は、円筒状の嵌合部51aと、その端部から外方部材2に向かって延びる円板状の側板部51bと、が形成されている。
インナー側シール部材5は、シールリング52を含んでいる。シールリング52は、外方部材2の嵌合部2aに嵌合(内嵌)される。シールリング52は、芯金53とシールゴム54で構成されている。芯金53は、例えばSUS430やSUS304等のステンレス鋼板、あるいはSPCC等の冷間圧延鋼板で構成されている。芯金53は、円環状の鋼板がプレス加工によって変形され、軸方向断面が略L字状に折り曲げられた形状となっている。これにより、芯金53は、円筒状の嵌合部53aと、その端部から内輪32に向かって延びる円板状の側板部53bと、が形成されている。なお、嵌合部53aと側板部53bには、弾性体であるシールゴム54が加硫接着されている。
シールゴム54は、例えばNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、HNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、ACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムで構成されている。シールゴム54に形成されたシールリップ54aは、その先端部分がスリンガ51の嵌合部51aに接触している。また、シールリップ54b・54cは、その先端部分がスリンガ51の側板部51bに接触している。このようにして、インナー側シール部材5は、泥水や砂塵等の異物が環状空間Sに侵入するのを防ぐとともに、グリースが環状空間Sから漏出するのを防いでいる。
アウター側シール部材6は、外方部材2と内方部材3の間に形成された環状空間Sのアウター側端部を密封するものである。但し、アウター側シール部材6については、様々な仕様が存在しており、本願の仕様に限定するものではない。
アウター側シール部材6は、外方部材2の嵌合部2bに嵌合(内嵌)される。アウター側シール部材6は、芯金62とシールゴム63で構成されている。芯金62は、例えばSUS430やSUS304等のステンレス鋼板、あるいはSPCC等の冷間圧延鋼板で構成されている。芯金62は、円環状の鋼板がプレス加工によって変形され、軸方向断面が略L字状に折り曲げられた形状となっている。これにより、芯金62は、円筒状の嵌合部62aと、その端部からハブ輪31に向かって延びる円板状の側板部62bと、が形成されている。なお、嵌合部62aと側板部62bには、弾性体であるシールゴム63が加硫接着されている。
シールゴム63は、例えばNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、HNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、ACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムで構成されている。シールゴム63に形成されたシールリップ63aは、その先端部分がハブ輪31の軸面部3eに接触している。また、シールリップ63bは、その先端部分がハブ輪31の曲面部3fに接触している。更に、シールリップ63cは、その先端部分がハブ輪31の側面部3gに接触している。このようにして、アウター側シール部材6は、泥水や砂塵等の異物が環状空間Sに侵入するのを防ぐとともに、グリースが環状空間Sから漏出するのを防いでいるのである。
次に、図5および図6を用いて、車輪用軸受装置1を車体に取り付けるための構造について説明する。図5は、車輪用軸受装置1の取付構造を示す断面図である。図6は、ナックルボルト34の締結部分を示す断面図である。
車輪用軸受装置1は、パイロット2gと車体取付フランジ2eを用いて車体に取り付けられる。具体的に説明すると、車輪用軸受装置1は、円筒形状であるパイロット2gをナックルNの丸円に嵌め合わせるとともに、車体取付フランジ2eの端面をナックルNの端面に当接させた状態で、ナックルボルト34を介して取り付けられる。このとき、ナックルボルト34は、車体取付フランジ2eのボルト挿通穴2fにアウター側から挿通され、ナックルNのネジ穴に螺合される。
図6の(A)に示すように、ナックルボルト34は、その頭部34aとネジ部34bの間に大径軸部34cが形成されている。そして、大径軸部34cの長さ寸法Dxは、車体取付フランジ2eの厚さ寸法Dzよりも僅かに大きくなっている。このようにしたのは、車体取付フランジ2eの取付位置を変位自在とするためである。また、図6の(B)に示すように、ナックルボルト34は、スリーブ35に挿通した状態でナックルNのネジ穴に螺合されるとしてもよい。この場合、スリーブ35の長さ寸法Dyは、車体取付フランジ2eの厚さ寸法Dzよりも僅かに大きくすべきである。このようにするのも、車体取付フランジ2eの取付位置を変位自在とするためである。
次に、図7を用いて、第一実施形態である車輪用軸受装置1の車体取付フランジ2eについて説明する。図7は、第一実施形態である車輪用軸受装置1の車体取付フランジ2eを示す図である。これは、図2における矢印Bから見た図に相当する。また、図中の矢印Fは、車体の前進方向を表したものである。なお、重力が作用する方向に対して平行となり、かつ回転軸Aに交わる直線を上下方向線Vと定義する。更に、上下方向線Vに対して垂直となり、かつ回転軸Aに交わる直線を前後方向線Hと定義する。前後方向線Hよりも下方がいわゆる路面側となり、前後方向線Hよりも上方がいわゆる反路面側となる。
車輪用軸受装置1の車体取付フランジ2eは、略三角形状となっている。そして、それぞれの角部分には、インナー側端面からアウター側端面まで貫くボルト挿通穴2fが設けられている。つまり、車体取付フランジ2eには、それぞれ貫通する三つのボルト挿通穴2fが設けられている。以下においては、三つのボルト挿通穴2fのうち上下方向線Vよりもやや前側であって上方に設けられたボルト挿通穴2fを「第一ボルト挿通穴21f」とし、前側下方に設けられたボルト挿通穴2fを「第二ボルト挿通穴22f」とし、後側下方に設けられたボルト挿通穴2fを「第三ボルト挿通穴23f」とする。
第一ボルト挿通穴21fは、所定方向へ延びた長円形状となっている。詳細に説明すると、第一ボルト挿通穴21fは、この第一ボルト挿通穴21fに挿通されるナックルボルト34の中心点P1を通り、かつ前後方向線Hに対して所定の角度αとなる方向へ延びた長円形状となっている。第一ボルト挿通穴21fは、二つの平行線と二つの円弧線で表される長円形状であり、二つの平行線の相対距離は、ナックルボルト34の大径軸部34cの直径、あるいはスリーブ35の直径よりも僅かに大きな値となっている。また、二つの円弧線の直径についても、僅かに大きな値となっている。
第二ボルト挿通穴22fは、所定方向へ延びた長円形状となっている。詳細に説明すると、第二ボルト挿通穴22fは、この第二ボルト挿通穴22fに挿通されるナックルボルト34の中心点P2を通り、かつ前後方向線Hに対して所定の角度αとなる方向へ延びた長円形状となっている。第二ボルト挿通穴22fは、二つの平行線と二つの円弧線で表される長円形状であり、二つの平行線の相対距離は、ナックルボルト34の大径軸部34cの直径、あるいはスリーブ35の直径よりも僅かに大きな値となっている。また、二つの円弧線の直径についても、僅かに大きな値となっている。
第三ボルト挿通穴23fは、所定方向へ延びた長円形状となっている。詳細に説明すると、第三ボルト挿通穴23fは、この第三ボルト挿通穴23fに挿通されるナックルボルト34の中心点P3を通り、かつ前後方向線Hに対して所定の角度αとなる方向へ延びた長円形状となっている。第三ボルト挿通穴23fは、二つの平行線と二つの円弧線で表される長円形状であり、二つの平行線の相対距離は、ナックルボルト34の大径軸部34cの直径、あるいはスリーブ35の直径よりも僅かに大きな値となっている。また、二つの円弧線の直径についても、僅かに大きな値となっている。
ここで、角度αは、通常の走行状態(車輪を介して大きくかつ衝撃的な外力が掛かっていない走行状態)における軸受剛性や転走面(外側転走面2c・2d、内側転走面3c・3d)に転動体4の圧痕がついたあらゆる事例を解析して求められた値であり、前側下方から後側上方へ向けて15°〜45°の範囲となっている。但し、具体的な値について限定するものではない。また、それぞれのボルト挿通穴2f(第一ボルト挿通穴21f、第二ボルト挿通穴22f、第三ボルト挿通穴23f)には、挿通されているナックルボルト34を包み込むように弾性部材であるブッシュ36が介装されている。
ブッシュ36は、例えばNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、HNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、ACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムで構成されている。あるいはABSやPVC等の樹脂で構成されていてもよい。ブッシュ36は、略三日月形状となっており、各ナックルボルト34の大径軸部34cにおける外周面と各ボルト挿通穴2f(第一ボルト挿通穴21f、第二ボルト挿通穴22f、第三ボルト挿通穴23f)の内周面に所定の弾性力を及ぼしている。あるいは、ブッシュ36は、各スリーブ35の外周面と各ボルト挿通穴2f(第一ボルト挿通穴21f、第二ボルト挿通穴22f、第三ボルト挿通穴23f)の内周面に所定の弾性力を及ぼしている。かかる弾性力の値についても、転走面(外側転走面2c・2d、内側転走面3c・3d)に転動体4の圧痕がついたあらゆる事例を解析して求められた値としている。
次に、図8および図9を用いて、車体取付フランジ2eの取付位置が変位する状況について説明する。図8は、車体取付フランジ2eが通常時の取付位置から変位する状況を示す図である。図9は、車体取付フランジ2eが通常時の取付位置へ戻る状況を示す図である。これらの図中の矢印Fも、車体の前進方向を表したものである。なお、図7と同様に、重力が作用する方向に対して平行となり、かつ回転軸Aに交わる直線を上下方向線Vと定義する。更に、上下方向線Vに対して垂直となり、かつ回転軸Aに交わる直線を前後方向線Hと定義する。前後方向線Hよりも下方がいわゆる路面側となり、前後方向線Hよりも上方がいわゆる反路面側となる。
まず、通常の走行状態(車輪を介して大きくかつ衝撃的な外力が掛かっていない走行状態)における車体取付フランジ2eの取付位置について説明する。図8の(A)に示すように、かかる状態においては、車体取付フランジ2eが通常時の取付位置にある。通常時の取付位置とは、第一ボルト挿通穴21fに挿通されているナックルボルト34が、第一ボルト挿通穴21fの長手方向(前後方向線Hに対して所定の角度αとなる方向)の中央部分若しくはやや後側にズレた位置を通っている。また、第二ボルト挿通穴22fに挿通されているナックルボルト34が、第二ボルト挿通穴22fの長手方向(前後方向線Hに対して所定の角度αとなる方向)の中央部分若しくはやや後側にズレた位置を通っている。そして、第三ボルト挿通穴23fに挿通されているナックルボルト34が、第三ボルト挿通穴23fの長手方向(前後方向線Hに対して所定の角度αとなる方向)の中央部分若しくはやや後側にズレた位置を通っている。このようにして定まる車体取付フランジ2eの取付位置が通常時の取付位置となる。
次に、車輪を介して大きくかつ衝撃的な外力が掛かった状態における車体取付フランジ2eの取付位置について説明する。図8の(B)に示すように、かかる状態においては、車体取付フランジ2eが退避時の取付位置にある。退避時の取付位置とは、車体取付フランジ2eが前後方向線Hに対して所定の角度αとなる方向へ外力の大きさに応じて変位するため(矢印M参照)、第一ボルト挿通穴21fに挿通されているナックルボルト34は、通常時の取付位置におけるナックルボルト34の位置よりも前側に移動している。また、第二ボルト挿通穴22fに挿通されているナックルボルト34も、通常時の取付位置におけるナックルボルト34の位置よりも前側に移動している。そして、第三ボルト挿通穴23fに挿通されているナックルボルト34も、通常時の取付位置におけるナックルボルト34の位置よりも前側に移動している。このようにして定まる車体取付フランジ2eの取付位置が退避時の取付位置となる。
このように、本車輪用軸受装置1において、車体取付フランジ2eは、ナックルボルト34に対して変位自在となっている。かかる車輪用軸受装置によれば、車輪が縁石に乗り上げるなどして大きくかつ衝撃的な外力が掛かると、車体取付フランジ2eの取付位置が変位する(通常時の取付位置から退避時の取付位置へ変位する)ので、転動体4と転走面(外側転走面2c・2d、内側転走面3c・3d)の接触圧力が高まるのを防ぐことができる。従って、車輪を介して大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合であっても、転走面(外側転走面2c・2d、内側転走面3c・3d)に圧痕がつくのを防ぐことができる。ひいては、圧痕に起因する異音が発生せず、軸受寿命の低下を防ぐことができる。
具体的には、本車輪用軸受装置1においては、全てのボルト挿通穴2f(第一ボルト挿通穴21f、第二ボルト挿通穴22f、第三ボルト挿通穴23f)が前側下方から後側上方方向へ延びた長円形状である。そのため、車輪を介して大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合に所定方向へ取付位置が変位する(図8の(B)における矢印M参照)。かかる車輪用軸受装置1によれば、路面からの振動を吸収する際の上下方向若しくは略上下方向ではなく、車輪が縁石に乗り上げるなど通常の走行状態では掛かりにくい方向(前後方向への分力が大きい方向)から大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合のみ取付位置が変位することとなる。従って、通常の走行状態においては、軸受剛性が低下しないので、操縦安定性に影響を及ぼさない。
加えて、本車輪用軸受装置1においては、各ボルト挿通穴2f(第一ボルト挿通穴21f、第二ボルト挿通穴22f、第三ボルト挿通穴23f)にブッシュ36が介装されているので、このブッシュ36が外力を緩衝する。また、図9の(A)および(B)に示すように、車体取付フランジ2eは、外力が抜けると通常時の取付位置へ戻ることとなる(矢印M参照)。これは、ブッシュ36の弾性力によるものである。但し、ブッシュ36ではなく、スプリングなどの他の付勢部材によって実現してもよい。
このように、本車輪用軸受装置1においては、ボルト挿通穴2f(第一ボルト挿通穴21f、第二ボルト挿通穴22f、第三ボルト挿通穴23f)に弾性部材(ブッシュ36)が介装されている。かかる車輪用軸受装置1によれば、大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合にこの外力を緩衝することができる。また、外力が抜けた場合に車体取付フランジ2eを通常時の取付位置に戻すことができる(図9の(B)における矢印M参照)。
次に、図10を用いて、第二実施形態である車輪用軸受装置1の車体取付フランジ2eについて説明する。図10は、第二実施形態である車輪用軸受装置1の車体取付フランジ2eを示す図である。これは、図2における矢印Bから見た図に相当する。また、図中の矢印Fは、車体の前進方向を表したものである。なお、重力が作用する方向に対して平行となり、かつ回転軸Aに交わる直線を上下方向線Vと定義する。更に、上下方向線Vに対して垂直となり、かつ回転軸Aに交わる直線を前後方向線Hと定義する。前後方向線Hよりも下方がいわゆる路面側となり、前後方向線Hよりも上方がいわゆる反路面側となる。
車輪用軸受装置1の車体取付フランジ2eは、略三角形状となっている。そして、それぞれの角部分には、インナー側端面からアウター側端面まで貫くボルト挿通穴2fが設けられている。つまり、車体取付フランジ2eには、それぞれ貫通する三つのボルト挿通穴2fが設けられている。以下においては、三つのボルト挿通穴2fのうち上下方向線Vよりもやや前側であって上方に設けられたボルト挿通穴2fを「第一ボルト挿通穴21f」とし、前側下方に設けられたボルト挿通穴2fを「第二ボルト挿通穴22f」とし、後側下方に設けられたボルト挿通穴2fを「第三ボルト挿通穴23f」とする。
第一ボルト挿通穴21fは、丸円形状となっている。詳細に説明すると、第一ボルト挿通穴21fは、この第一ボルト挿通穴21fに挿通されるナックルボルト34の中心点P1を中心とする丸円形状となっている。第一ボルト挿通穴21fは、その直径がナックルボルト34の大径軸部34cの直径、あるいはスリーブ35の直径よりも僅かに大きな値となっている。
第二ボルト挿通穴22fは、第一ボルト挿通穴21fを中心とする円弧方向へ延びた長円形状となっている。詳細に説明すると、第二ボルト挿通穴22fは、この第二ボルト挿通穴22fに挿通されるナックルボルト34の中心点P2を通り、かつ第一ボルト挿通穴21fを中心とする半径D2の円弧方向へ延びた長円形状となっている。第二ボルト挿通穴22fは、二つの平行線と二つの円弧線で表される長円形状であり、二つの平行線の相対距離は、ナックルボルト34の大径軸部34cの直径、あるいはスリーブ35の直径よりも僅かに大きな値となっている。また、二つの円弧線の直径についても、僅かに大きな値となっている。
第三ボルト挿通穴23fは、第一ボルト挿通穴21fを中心とする円弧方向へ延びた長円形状となっている。詳細に説明すると、第三ボルト挿通穴23fは、この第三ボルト挿通穴23fに挿通されるナックルボルト34の中心点P3を通り、かつ第一ボルト挿通穴21fを中心とする半径D3の円弧方向へ延びた長円形状となっている。第三ボルト挿通穴23fは、二つの平行線と二つの円弧線で表される長円形状であり、二つの平行線の相対距離は、ナックルボルト34の大径軸部34cの直径、あるいはスリーブ35の直径よりも僅かに大きな値となっている。また、二つの円弧線の直径についても、僅かに大きな値となっている。
ここで、第二実施形態である車輪用軸受装置1においては、それぞれのボルト挿通穴2f(第一ボルト挿通穴21f、第二ボルト挿通穴22f、第三ボルト挿通穴23f)の位置が重要となる。これらの位置は、通常の走行状態(車輪を介して大きくかつ衝撃的な外力が掛かっていない走行状態)における軸受剛性や転走面(外側転走面2c・2d、内側転走面3c・3d)に転動体4の圧痕がついたあらゆる事例を解析して求められている。また、それぞれのボルト挿通穴2f(第一ボルト挿通穴21f、第二ボルト挿通穴22f、第三ボルト挿通穴23f)には、挿通されているナックルボルト34を包み込むように弾性部材であるブッシュ36が介装されている。
ブッシュ36は、例えばNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、HNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、ACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムで構成されている。あるいはABSやPVC等の樹脂で構成されていてもよい。ブッシュ36は、略三日月形状となっており、各ナックルボルト34の大径軸部34cにおける外周面と各ボルト挿通穴2f(第一ボルト挿通穴21f、第二ボルト挿通穴22f、第三ボルト挿通穴23f)の内周面に所定の弾性力を及ぼしている。あるいは、ブッシュ36は、各スリーブ35の外周面と各ボルト挿通穴2f(第一ボルト挿通穴21f、第二ボルト挿通穴22f、第三ボルト挿通穴23f)の内周面に所定の弾性力を及ぼしている。かかる弾性力の値についても、転走面(外側転走面2c・2d、内側転走面3c・3d)に転動体4の圧痕がついたあらゆる事例を解析して求められた値としている。
次に、図11および図12を用いて、車体取付フランジ2eの取付位置が変位する状況について説明する。図11は、車体取付フランジ2eが通常時の取付位置から変位する状況を示す図である。図12は、車体取付フランジ2eが通常時の取付位置へ戻る状況を示す図である。これらの図中の矢印Fも、車体の前進方向を表したものである。なお、図10と同様に、重力が作用する方向に対して平行となり、かつ回転軸Aに交わる直線を上下方向線Vと定義する。更に、上下方向線Vに対して垂直となり、かつ回転軸Aに交わる直線を前後方向線Hと定義する。前後方向線Hよりも下方がいわゆる路面側となり、前後方向線Hよりも上方がいわゆる反路面側となる。
まず、通常の走行状態(車輪を介して大きくかつ衝撃的な外力が掛かっていない走行状態)における車体取付フランジ2eの取付位置について説明する。図11の(A)に示すように、かかる状態においては、車体取付フランジ2eが通常時の取付位置にある。通常時の取付位置とは、第二ボルト挿通穴22fに挿通されているナックルボルト34が、第二ボルト挿通穴22fの長手方向(第一ボルト挿通穴21fを中心とする円弧方向)の中央部分若しくはやや後側にズレた位置を通っている。また、第三ボルト挿通穴23fに挿通されているナックルボルト34が、第三ボルト挿通穴23fの長手方向(第一ボルト挿通穴21fを中心とする円弧方向)の中央部分若しくはやや後側にズレた位置を通っている。このようにして定まる車体取付フランジ2eの取付位置が通常時の取付位置となる。
次に、車輪を介して大きくかつ衝撃的な外力が掛かった状態における車体取付フランジ2eの取付位置について説明する。図11の(B)に示すように、かかる状態においては、車体取付フランジ2eが退避時の取付位置にある。退避時の取付位置とは、車体取付フランジ2eが第一ボルト挿通穴21fを中心とする円弧方向へ外力の大きさに応じて変位するため(矢印M参照)、第二ボルト挿通穴22fに挿通されているナックルボルト34は、通常時の取付位置におけるナックルボルト34の位置よりも前側に移動している。また、第三ボルト挿通穴23fに挿通されているナックルボルト34も、通常時の取付位置におけるナックルボルト34の位置よりも前側に移動している。このようにして定まる車体取付フランジ2eの取付位置が退避時の取付位置となる。
このように、本車輪用軸受装置1において、車体取付フランジ2eは、ナックルボルト34に対して変位自在となっている。かかる車輪用軸受装置によれば、車輪が縁石に乗り上げるなどして大きくかつ衝撃的な外力が掛かると、車体取付フランジ2eの取付位置が変位する(通常時の取付位置から退避時の取付位置へ変位する)ので、転動体4と転走面(外側転走面2c・2d、内側転走面3c・3d)の接触圧力が高まるのを防ぐことができる。従って、車輪を介して大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合であっても、転走面(外側転走面2c・2d、内側転走面3c・3d)に圧痕がつくのを防ぐことができる。ひいては、圧痕に起因する異音が発生せず、軸受寿命の低下を防ぐことができる。
具体的には、本車輪用軸受装置1においては、ボルト挿通穴2f(第一ボルト挿通穴21f、第二ボルト挿通穴22f、第三ボルト挿通穴23f)のうち第一ボルト挿通穴21fが丸円形状である。また、他のボルト挿通穴2f(第二ボルト挿通穴22f、第三ボルト挿通穴23f)が第一ボルト挿通穴21fを中心とする円弧方向へ延びた長円形状である。そのため、車輪を介して大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合に円弧方向へ取付位置が変位する(図11の(B)における矢印M参照)。かかる車輪用軸受装置によれば、路面からの振動を吸収する際の上下方向若しくは略上下方向ではなく、車輪が縁石に乗り上げるなど通常の走行状態では掛かりにくい方向から大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合のみ取付位置が変位することとなる。従って、通常の走行状態においては、軸受剛性が低下しないので、操縦安定性に影響を及ぼさない。
加えて、本車輪用軸受装置1においては、各ボルト挿通穴2f(第一ボルト挿通穴21f、第二ボルト挿通穴22f、第三ボルト挿通穴23f)にブッシュ36が介装されているので、このブッシュ36が外力を緩衝する。また、図12の(A)および(B)に示すように、車体取付フランジ2eは、外力が抜けると通常時の取付位置へ戻ることとなる(矢印M参照)。これは、ブッシュ36の弾性力によるものである。但し、ブッシュ36ではなく、スプリングなどの他の付勢部材によって実現してもよい。
このように、本車輪用軸受装置1においては、ボルト挿通穴2f(第一ボルト挿通穴21f、第二ボルト挿通穴22f、第三ボルト挿通穴23f)に弾性部材(ブッシュ36)が介装されている。かかる車輪用軸受装置1によれば、大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合にこの外力を緩衝することができる。また、外力が抜けた場合に車体取付フランジ2eを通常時の取付位置に戻すことができる(図12の(B)における矢印M参照)。
本願における車輪用軸受装置1は、車体取付フランジ2eを有している外方部材2と、ハブ輪31に一つの内輪32が嵌合されている内方部材3と、で構成された内方部材回転仕様の第3世代構造としているが、これに限定するものではない。例えば、ハブ輪として形成された外方部材と、車体取付フランジを有している支持軸に一つの内輪が嵌合されている内方部材と、で構成された外方部材回転仕様の第3世代構造であってもよい。更に、車体取付フランジを有している外方部材と、一対の内方部材で構成され、この一対の内方部材がハブ輪の外周に嵌合される内方部材回転仕様の第2世代構造であってもよい。更に、内方部材としてハブ輪と自在継手が連結されており、車体取付フランジを有している外方部材と、ハブ輪と自在継手の嵌合体である内方部材と、で構成された第4世代構造であってもよい。
本発明は、各実施形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。