JP2018130071A - チョコレート類及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】
自動復帰上限温度をできるだけ高めつつチョコレートのスナップ性低下を抑制することである。また特に自動復帰上限温度を38〜45℃とすることである。
【解決手段】
HLBが5以下の乳化剤を含む融解状のチョコレート生地に、1,3位がベヘン酸、2位がオレイン酸であるトリグリセリド(BOB)の安定化結晶を含む粉末状のチョコレート用シード剤を添加する。
【選択図】なし

Description

本発明は、テンパリング型チョコレート類の製造法、特にシードテンパリングに係る製造法に関するものである。
チョコレート類のテンパリング作業は、チョコレート類製造時に重要な作業であり、チョコレートを固化する際に微細な結晶核を生成させ、固化した製品の成形型からの型離れを良くし、製品の良好な光沢、艶、食感等の性質を保持する製品を得るために行われる。
しかし、この作業は簡便ではなく、テンパリングを省略する種々の方法が試みられてきた。
一つは、StOSt(1,3位がステアリン酸、2位がオレイン酸のトリグリセリド)を主成分とし、その主要な結晶が安定型であるチョコレート類用ショートニングを結晶核としてチョコレート生地に加えるシードテンパリング法である(特許文献1)。これは、通常30℃程度のチョコレートに当該ショートニングを0.5重量%程度加え、攪拌するだけでテンパリングが行えるという簡便な方法であったが、30℃という温度のために、ショートニング添加後徐々にチョコレート中の油脂結晶が析出し、増粘が起こることがあり、場合によってはチョコレートとしての作業性が非常に悪くなる問題があった。
また、1,3位がベヘン酸、2位がオレイン酸のトリグリセリド(以下「BOB」という。)を主成分とする油脂の安定化結晶を含有するチョコレート添加剤(以下「BOBシード剤」という。)を結晶核としてチョコレートに加えるシードテンパリング法(特許文献2)がある。この方法では、通常35℃程度のチョコレート生地に対し、3重量%のBOBシード剤を加える。なお、当該BOBシード剤には賦形剤として砂糖が50重量%含まれている。ここで3重量%という比較的多量のシード剤を加える必要があるのは、シード剤中のテンパリング簡略化の機能を持つ油脂結晶が、一部チョコレート中に溶解し、その機能を失うためである。
一般にカカオ豆に含まれるココアバターのみを油脂分として含むチョコレートは、ココアバターの耐熱温度が31℃程度であるため、日本における夏場や赤道付近の暑い地域においては、商品の流通過程でチョコレート中の油脂が溶けてしまう問題がある。そして溶けたチョコレートがそのまま即ち結晶核が存在しない状態で再固化するとファットブルーム(チョコレート表面に白い油脂結晶が生成する現象を指し、以下、「ブルーム」と言う)が発生する。しかしながら特許文献2の如く、BOBシード剤でシードテンパリングしておくと、このような高温に曝されてもBOBシードの一部は溶けることなく残り、再固化時にこの残存シードによりテンパリングされた状態となるため、ブルームが発生しないチョコレートとなる。
このようにチョコレートに含まれる油脂の大半が融解するような高温に一定期間さらされても、その後の冷却でブルームが発生することなく正常なチョコレートに復帰する現象を本願では自動復帰、また自動復帰できる上限温度を自動復帰上限温度と定義する。
ちなみにBOBシード剤を3重量%加えてテンパリングすることで作製したチョコレートの自動復帰上限温度は37℃である。
反面、上記のようなBOBシード剤の多量添加は、チョコレート生地への均一分散性の面で作業上必ずしも容易ではない。これは、BOBシード剤とチョコレートでは、比重が大きく異なっていること、加えて、粉末状であるBOBシード剤同士が凝集し、ダマを生じることにより、チョコレートになじみにくいためである。さらに、多量添加により、一時的にチョコレートが増粘する問題が場合によって見られた。
特許文献3には、チョコレート生地中に予めBOB含有油脂を融解状態で配合しておけば、添加量を少なくでき、上記のような多量添加に伴う作業性の悪化を軽減できてしかも自動復帰能は損なわれないとの記載がある。
一方市場からは38℃やそれを超える高温に曝されても自動復帰可能なチョコレートが求められている。
特開平02−406号公報 特開昭63−240745号公報 特開2007−259737
本発明者は、自動復帰上限温度の向上を目的として特許文献3の如く、BOB含有油脂をチョコレート生地中に配合することや、BOBシード剤を大量に添加することで自動復帰上限温度を37℃以上に向上させることはできたが、反面、得られたチョコレートが室温での噛みだし硬さの低下、すなわちスナップ性の低下が起き、チョコレートらしいパキッとした食感が損なわれてしまうことを見出した。
すなわち本発明の課題は、自動復帰上限温度をできるだけ高めつつチョコレートのスナップ性低下を抑制することである。また特に自動復帰上限温度を38〜45℃とすることである。
本発明者は、これら問題点を解決するため研究した結果、スナップ性の低下は、配合されたBOB含有油脂やBOBシード剤から一部溶解したBOB成分がチョコレート油脂中に存在することにより引き起こされるのではと考え、上限温度は維持しつつ、チョコレート中のBOB成分をできるだけ少なくしてスナップ性の低下を抑制する方法を鋭意検討した。その結果、チョコレート生地にHLBが5以下の乳化剤が含まれていると、たとえBOBシード剤の添加が少なくても、本発明の課題を解決できるとの知見を得、本発明の完成に至った。
即ち本発明の第1は、HLBが5以下の乳化剤を含む融解状のチョコレート生地に、1,3位がベヘン酸、2位がオレイン酸であるトリグリセリド(BOB)の安定化結晶を含む粉末状のチョコレート用シード剤を添加することを特徴とするチョコレート類の製造方法、
第2は、前記乳化剤が、ソルビタン脂肪酸エステル又はショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1以上であることを特徴とする、第1のチョコレート類の製造方法、
第3は、前記乳化剤が構成脂肪酸として炭素数16〜24個の飽和脂肪酸を50重量%以上含有するものである第1のチョコレート類の製造方法、
第4は、前記チョコレート生地が、構成脂肪酸として炭素数20〜24個の飽和脂肪酸を40重量%以上含有する油脂をさらに含む、第1に記載のチョコレート類の製造方法、
第5は、前記炭素数20〜24個の飽和脂肪酸を構成脂肪酸として40重量%以上含有する油脂が、ハイエルシン菜種油の極度硬化油又は、BOBを主成分とする油脂の少なくとも一方である、第2のチョコレート類の製造方法、
第6は、自動復帰できる上限温度が38〜45℃であるチョコレート類であって、HLBが5以下の乳化剤とBOBを必須成分として含有し、38℃〜45℃において未溶解BOB安定化結晶が存在するチョコレート類、
第7は、HLBが5以下の乳化剤を含む融解状のチョコレート生地に、1,3位がベヘン酸、2位がオレイン酸であるトリグリセリドの安定化結晶を含む粉末状のチョコレート用シード剤を添加することを特徴とする、チョコレート類に38℃〜45℃での自動復帰能を付与する方法。
本発明のチョコレート類の製造法により、高価なBOBシード剤の添加量が少なくてすむので、製造コストが下がり、同時にBOBシード剤を均一に分散させ易くなるので、添加剤添加直後に生じることのある増粘の問題が解決される。さらに、各種乳化剤や油脂の添加量によっては自動復帰上限温度を38℃又はそれを超えるレベルにまで高めることが可能となる。
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明のチョコレート生地に含まれる乳化剤はHLB値が5以下である必要があり、好ましくは4以下、より好ましくは3.5以下、更に好ましくは3.1以下である。また好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは2以上である。HLB値が上限を超えると油脂に対する溶解度が減少し分散しにくい問題が出ることがある。また自動復帰上限温度が十分に向上しないことがある。
本発明のチョコレート生地に含まれる乳化剤はHLB値が5以下であれば特に限定されないが好ましくは、ソルビタン脂肪酸エステル又はショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1以上の乳化剤である。
乳化剤含有により、たとえBOBシード剤の添加が少なくても、自動復帰上限温度をできるだけ高めつつチョコレートのスナップ性低下を抑制できるメカニズムはいまだ定かでないが、シードテンパリング時やチョコレートの高温保存時に必然的に起こるBOBシード剤中の安定結晶の一部溶解を、チョコレート油脂中の乳化剤が軽減する作用があり、残存シード量が増加することで自動復帰上限温度が向上するのではと考えている。また反対にチョコレート油脂中に溶解した状態で存在するBOB成分は減少するのでスナップ性低下が抑制されるのではと考えている。
また本発明のチョコレート生地に含まれる乳化剤は、その構成脂肪酸中、炭素数16〜24個の飽和脂肪酸を50重量%以上含有していることが好ましく、好ましくは70重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上である。またベヘン酸を構成脂肪酸中に50重量%以上含有していることがより好ましく、更に好ましくは60重量%以上である。またステアリン酸を構成脂肪酸中に50重量%以上含有していることがより好ましく、更に好ましくは60重量%以上である。
また本発明のチョコレート生地に含まれる乳化剤の添加量は、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは0.3重量%以上、最も好ましくは0.5重量%以上、また好ましくは2重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下、更に好ましくは1重量%以下、最も好ましくは0.8重量%以下である。乳化剤の添加量が上限を超えるとシードテンパリング時にチョコレートの増粘が起こる可能性がある。またチョコレートまたはチョコレートに配合する油脂へ溶解しにくくなるため、チョコレートまたは油脂を高温まで上げなければならず作業性悪化・チョコレートの品質悪化に繋がる可能性がある。一方下限未満であると自動復帰上限温度が十分に向上しないことがある。
本発明のBOBシード剤は、粉末状であって、BOBトリグリセリドを含有する。また砂糖などの賦形剤を含んでいても良い。BOBシード剤に含まれる油脂中のBOB含量は好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上、更に好ましくは60重量%以上、また好ましくは80重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。BOBトリグリセリドを含有する油脂は、例えば酵素活性を利用した選択的エステル交換法を応用して製造することができる。即ち、ベヘン酸を主として含む脂肪酸は、例えばハイエルシン菜種油、魚油又は鯨油等を硬化・分解・精留して得られ、その脂肪酸若しくはそのエステル類を、グリセリドの2位に主としてオレイン酸を有する油脂とエステル交換して、ベヘン酸を1,3位に選択的に結合させ、さらに必要に応じて分別濃縮することによって得られる。
また本発明のチョコレート生地に添加する、BOBシード剤の添加量は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、更に好ましくは1.2重量%以上、また好ましくは4重量%以下、より好ましくは3重量%以下、更に好ましくは2重量%以下、最も好ましくは1.8重量%以下である。BOBシード剤の添加量が上限を超えるとチョコレートの噛み出し硬さが低下することがあり、またチョコレート生地にBOBシード剤が分散しにくくなることがある、下限未満であると自動復帰上限温度が十分に向上しないことがある。
本発明のチョコレート生地には、炭素数20〜24個の飽和脂肪酸を構成脂肪酸として40重量%以上含有する油脂を含むことが好ましい。本発明において当該油脂の含有が好ましい理由は定かでないが、乳化剤と同様にBOBシード剤中の安定結晶の一部溶解を軽減する作用があるのではと考えている。当該油脂は、ハイエルシン菜種油の極度硬化油やBOB含有油脂又はこれらの混合物であることが好ましい。ここでBOB含有油脂はBOB含量が好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、また好ましくは80重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。
本発明の炭素数20〜24個の飽和脂肪酸を構成脂肪酸として40重量%以上含有する油脂がBOB含有油脂である場合、テンパリングにおいてBOBシード剤がチョコレート生地に一部溶解するのを軽減することで効果を発揮するが、その含有量は好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上である。また好ましくは3重量%以下、より好ましくは2重量%以下、更に好ましくは1.5重量%以下、最も好ましくは1重量%以下である。
本発明の炭素数20〜24個の飽和脂肪酸を構成脂肪酸として40重量%以上含有する油脂がハイエルシン菜種油の極度硬化油である場合、その含有量は好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.07重量%以上、更に好ましくは0.1重量%以上、最も好ましくは0.2重量%以上、更に最も好ましくは0.3重量%以上である。また好ましくは1.5重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。含有量が上限を超えるとチョコレートの口どけが悪化する傾向にある。またチョコレート生地が増粘したり、自動復帰時にテンパリング阻害となる可能性がある。
本発明のチョコレート類において発揮される高温保存での自動復帰能は、チョコレートが特定の高温環境下で16時間保持された後に冷却固化されても、その後ブルームが発生しない(テンパリングのとれた)機能として定義され、テンパリングの取れたチョコレート生地を高温で保持してもテンパリングが維持される機能とは異なる。またここで高温とは38〜45℃であり、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃の順に好ましくなる。45℃を超えると、BOBシード剤、HLBが5以下の乳化剤及び
炭素数20〜24個の飽和脂肪酸を40重量%以上含有する油脂の添加量が多くなりすぎて、チョコレートのスナップ性低下が顕著になる傾向がある。
本発明のチョコレート類の好ましい態様は、自動復帰上限温度が38〜45℃であるチョコレート類であって、HLBが5以下の乳化剤とBOBを必須成分として含有し、38℃〜45℃において未溶解BOB安定化結晶が存在するチョコレート類である。ここで油分中のBOB含量は1重量%以上が好ましく、より好ましくは1.5重量%以上、さらに好ましくは2重量%以上であり、好ましくは4重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。
本発明において対象とするチョコレート類は、油脂が連続相をなす油脂加工食品であり、テンパリング型チョコレート即ち、配合油脂がカカオ脂を初め、同じくSUS(2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリド)成分に富む酵素エステル交換油、シア脂、パーム油、サル脂、マンゴ核油、コクム脂、イリッペ脂又はその分別油等のテンパリング型油脂を使用したチョコレートである。
本発明のチョコレートにはテンパリングが可能となる範囲でSUS成分に富む油脂以外の油脂を、所望される食感、物性に合わせて配合することができる。たとえば大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、落花生油、ひまわり油、こめ油、ベニバナ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、パーム油、ヤシ油、パーム核油等の植物油脂並びに牛脂、豚脂等の動物脂、並びにこれらを分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂の単品又は、これらの組み合わせ油脂を挙げることができる。
また本発明のHLB5以下の乳化剤や炭素数20〜24個の飽和脂肪酸を構成脂肪酸として40重量%以上含有する油脂は、他の配合油脂と同様に融解状態で配合されることが好ましい。
以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。なお、例中、部及び%は何れも重量基準を意味する。
表1
Figure 2018130071
※1 B−370は市販のショ糖脂肪酸エステル(HLB3.0、構成脂肪酸は表6、製品名「リョートーシュガーエステルB−370(三菱化学フーズ(株)製)」)である。
※2 BOB脂はBOBを主成分とする油脂(BOB含有量は62重量%)
(実施例1)
表1のチョコレート生地配合に従い、常法により混合、ロール掛け、コンチングして溶融状態の実施例1のチョコレート生地を作製した。作製したチョコレート生地を35℃に温調した状態で攪拌しながら、市販のBOBシード剤(油脂50重量%、砂糖50重量%。油脂中のBOB含量:62重量%、製品名「チョコシードB(不二製油(株)製)」)をチョコレート生地に対して3重量%になるように添加分散、シードテンパリングした上で型板へ流し、10℃で30分間固化させて実施例1のチョコレートを得た。 添加分散性は良好であった。
(比較例1)
表1比較例1の配合に従う他は実施例1と同様にして、チョコレート生地を作製した。作製したチョコレート生地に実施例1と同様にしてBOBシード剤をチョコレート生地に対して4重量%になるよう添加して比較例1のチョコレートを得た。添加分散性は不良であった。
(実施例2)
表1実施例2の配合に従う他は実施例1と同様にして、チョコレート生地を作製した。作製したチョコレート生地に実施例1と同様にしてBOBシード剤をチョコレート生地に対して1重量%になるように添加分散、シードテンパリングした上で型板へ流し、10℃で30分間固化させて実施例2のチョコレートを得た。 添加分散性は良好であった。
(比較例2)
表1比較例2の配合に従う他は実施例1と同様にして、チョコレート生地を作製した。作製したチョコレート生地に実施例1と同様にしてBOBシード剤をチョコレート生地に対して1重量%になるよう添加して比較例2のチョコレートを得た。
(比較例3)
表1比較例3の配合に従う他は実施例1と同様にして、チョコレート生地を作製した。作製したチョコレート生地に実施例1と同様にしてBOBシード剤をチョコレート生地に対して1重量%になるよう添加して比較例3のチョコレートを得た。
(比較例4)
表1比較例4の配合に従う他は実施例1と同様にして、チョコレート生地を作製した。作製したチョコレート生地を、30℃に温調した状態で攪拌しながら、SOSシード剤(製品名「チョコシードA(不二製油(株)製)」)をチョコレート生地に対して0.5重量%になるように添加分散、シードテンパリングした上で型板へ流し、10℃で30分間固化させて比較例4のチョコレートを得た。添加分散性は良好であった。
(比較例5)
表1比較例5の配合に従う他は実施例1と同様にして、チョコレート生地を作製した。作製したチョコレート生地にBOBシード剤を3.0重量%になるよう添加する他は実施例1と同様にして比較例5のチョコレートを得た。添加分散性は良好であった。
各チョコレートを20℃の温度条件下で7日間エージングさせた後、下記のように自動復帰上限温度の評価及びチョコレートの室温での食感評価及び破断荷重測定による硬さ評価を行った。また各チョコレートの油分を定法により抽出し、HPLC法にてBOB成分の含量を測定した。結果を表1及び表2に示す。
(自動復帰上限温度の評価)
エージング後のチョコレートを37〜43℃の間で、1℃刻みの各温度に設定したインキュベーターに入れて、16時間静置状態で保持した。その後チョコレートを、20℃のインキュベーターに入れて、比較的徐冷条件下で冷却固化させた。
そのまま20℃にて7日保存後、チョコレートを観察し、ブルーム発生の有無を確認した。
それぞれのチョコレートで、ブルームが発生しなかった最高温度である自動復帰上限温度を表1に示す。
BOBシード剤1重量%添加した比較例3では自動復帰上限温度が37℃未満となり、不十分であった。さらにBOBシード剤3重量%添加とした比較例5でも37℃であり不十分であった。さらに上限温度を高めるべくBOBシード剤4重量%添加とした比較例1は、上限温度は39℃を達成できたが、シード剤多量添加による分散性不良の問題があり、しかも室温での噛みだしは柔らかく、スナップ感は劣るものであった。
これに対し、ショ糖脂肪酸エステルB−370を配合したチョコレート生地に比較例5と同じくBOBシード剤3重量%添加とした実施例1での上限温度は39℃と、比較例5よりも上限温度が2℃向上していた。また乳化剤を配合せずに上限温度39℃を達成した比較例1に比べて室温でのスナップ感は明らかに向上していた。
さらにショ糖脂肪酸エステルB−370に加え、BOB脂1重量%を配合した実施例2ではBOBシード剤1重量%添加という少量でも上限温度40℃を達成した。そして乳化剤なしで上限温度40℃を達成した比較例2と比べるとやはり、室温でのスナップ感は明らかに向上していた。
表2
Figure 2018130071
(チョコレートの硬さ評価)
実施例2及び比較例2のチョコレートの品温20℃及び25℃における硬さ(破断荷重)をレオナー(メーカー:(株)山電、条件:Φ3mm 1.0mm/s)にて測定した。その結果食感での評価通り、いずれの温度においても実施例2の方が破断荷重は高く、硬いことが確認できた。(表2)。
表3
Figure 2018130071
※1 B−150は市販のソルビタン脂肪酸エステル(HLB2.5、構成脂肪酸は表6、製品名「ポエムB−150」理研ビタミン(株)製)である。
※2 BOB脂はBOBを主成分とする油脂(BOB含有量は62重量%)
※3 高エルシン酸菜種極硬油の構成脂肪酸中、炭素数20〜24の飽和脂肪酸含量は55重量%
(実施例3)
表3実施例3の配合に従う他は実施例1と同様にして、チョコレート生地を作製した。作製したチョコレート生地にチョコレート生地に対してBOBシード剤を2重量%になるように添加する他は実施例1と同様にして実施例3のチョコレートを得た。
(比較例6)
表3比較例6の配合に従う他は実施例1と同様にして、チョコレート生地を作製した。作製したチョコレート生地に実施例1と同様にBOBシード剤を2.0重量%になるように添加して比較例6のチョコレートを得た
(比較例7)
表3比較例7の配合に従う他は実施例1と同様にして、チョコレート生地を作製した。作製したチョコレート生地に実施例1と同様にBOBシード剤を2重量%になるように添加して比較例7のチョコレートを得た。
各チョコレートを20℃の温度条件下で7日間エージングさせた後、自動復帰上限温度の評価及びチョコレートの室温での食感評価及び破断荷重測定による硬さ評価を行った。また各チョコレートの油分を定法により抽出し、HPLC法にてBOB成分の含量を測定した。結果を表3及び4に示す。
ソルビタン脂肪酸エステルB−150に加え高エルシン酸菜種極硬油を配合した実施例3は、BOBシード剤2重量%添加にて上限温度40℃を達成した。室温でのスナップ感は乳化剤なしで上限温度40℃を達成した比較例6に比べ明らかに向上していた。
表4
Figure 2018130071
(チョコレートの硬さ評価)
実施例3、比較例6のチョコレートの品温20℃及び25℃における硬さをレオナー(メーカー:(株)山電、条件:Φ3mm 1.0mm/s)にて測定した。その結果食感での評価通り、いずれの温度においても実施例3の方が破断荷重は高く、硬いことが確認できた。(表4)
(実施例4〜9)
表5実施例4〜9の配合に従う他は実施例1と同様にして、チョコレート生地を作製した。作製したチョコレート生地にチョコレート生地に対してBOBシード剤を2重量%になるように添加する他は実施例1と同様にして実施例4〜9のチョコレートを得た。
表5
Figure 2018130071
※1 S−370は市販のショ糖脂肪酸エステル(HLB3.0、構成脂肪酸は表6、製品名「リョートーシュガーエステルS−370(三菱化学フーズ(株)製)」)である。
※2 B−370は市販のショ糖脂肪酸エステル(HLB3.0、構成脂肪酸は表6、製品名「リョートーシュガーエステルB−370(三菱化学フーズ(株)製)」)である。
※3 高エルシン酸菜種極硬油の構成脂肪酸中、炭素数20〜24の飽和脂肪酸含量は55重量%
各チョコレートを20℃の温度条件下で7日間エージングさせた後、自動復帰上限温度の評価及びチョコレートの室温での食感評価を行った。また各チョコレートの油分を定法により抽出し、HPLC法にてBOB成分の含量を測定した。結果を表5に示す。
実施例4〜9すべてにおいて自動復帰上限温度は40℃以上であり、良好であった。また特に実施例6は43℃以上と非常に良好な結果を示した。
実施例4〜9及び比較例2のチョコレートを品温20℃にて噛みだしの硬さ(スナップ性)の官能による評価を行った。
その結果自動復帰上限温度が40℃である比較例2のチョコレートに比べ、自動復帰上限温度が同じく40℃の実施例4のチョコレートは噛みだしが硬くスナップ性が良好な口どけの良いチョコレートであった。また実施例5〜9は、自動復帰上限温度が比較例2よりも高く(41〜43℃)、しかも比較例2より噛みだしが硬くスナップ性が良好な口どけの良いチョコレートであった。
ショ糖脂肪酸エステルB−370、ソルビタン脂肪酸エステルB−150、ショ糖脂肪酸エステルS−370の構成脂肪酸組成を測定した。結果を表6に示す。
表6
Figure 2018130071

Claims (7)

  1. HLBが5以下の乳化剤を含む融解状のチョコレート生地に、1,3位がベヘン酸、2位がオレイン酸であるトリグリセリド(BOB)の安定化結晶を含む粉末状のチョコレート用シード剤を添加することを特徴とするチョコレート類の製造方法。
  2. 前記乳化剤が、ソルビタン脂肪酸エステル又はショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1以上であることを特徴とする、請求項1のチョコレート類の製造方法。
  3. 前記乳化剤が構成脂肪酸として炭素数16〜24個の飽和脂肪酸を50重量%以上含有するものである請求項1のチョコレート類の製造方法。
  4. 前記チョコレート生地が、構成脂肪酸として炭素数20〜24個の飽和脂肪酸を40重量%以上含有する油脂をさらに含む、請求項1に記載のチョコレート類の製造方法。
  5. 前記炭素数20〜24個の飽和脂肪酸を構成脂肪酸として40重量%以上含有する油脂が、ハイエルシン菜種油の極度硬化油又は、BOBを主成分とする油脂の少なくとも一方である、請求項2のチョコレート類の製造方法。
  6. 自動復帰できる上限温度が38〜45℃であるチョコレート類であって、HLBが5以下の乳化剤とBOBを必須成分として含有し、38℃〜45℃において未溶解BOB安定化結晶が存在するチョコレート類。
  7. HLBが5以下の乳化剤を含む融解状のチョコレート生地に、1,3位がベヘン酸、2位がオレイン酸であるトリグリセリドの安定化結晶を含む粉末状のチョコレート用シード剤を添加することを特徴とする、チョコレート類に38℃〜45℃での自動復帰能を付与する方法。
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