本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法では、フラックス法によってIII 族窒化物半導体を育成する。まず、フラックス法の概要について説明する。
(フラックス法の概要)
本発明に用いるフラックス法は、フラックスとなるアルカリ金属と、原料であるIII 族金属とを含む混合融液に、窒素を含むガスを供給して溶解させ、液相中でIII 族窒化物半導体を成長させる方法である。本発明では、混合融液中に種基板1を配置し、その種基板1上にIII 族窒化物半導体を結晶成長させる。
原料であるIII 族金属は、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)の少なくともいずれか1つであり、その割合によって成長させるIII 族窒化物半導体の組成を制御することができる。たとえば、GaNを成長させる場合にはGa、AlGaNを成長させる場合にはGaとAl、InGaNを成長させる場合にはGaとIn、AlGaInNを成長させる場合にはGa、Al、Inを用いる。
フラックスであるアルカリ金属は、通常ナトリウム(Na)を用いるが、カリウム(K)などを用いてもよく、NaとKの混合物であってもよい。さらには、リチウム(Li)やアルカリ土類金属を混合してもよい。
混合融液には、炭素(C)を添加してもよい。Cの添加により、結晶成長速度を速めるなどの効果が得られる。
また、混合融液には、結晶成長させるIII 族窒化物半導体の伝導型、磁性などの物性の制御や、結晶成長の促進、雑晶の抑制、成長方向の制御、などの目的でC以外のドーパントを添加してもよい。たとえばn型ドーパントしてゲルマニウム(Ge)などを用いることができ、p型ドーパントとしてマグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、カルシウム(Ca)などを用いることができる。
また、窒素を含むガスとは、窒素分子や、アンモニア等の窒素を構成元素として含む化合物の気体であり、それらの混合ガスでもよく、さらには、窒素を含むガスが希ガス等の不活性ガスに混合されていてもよい。
(種基板の構成)
本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法では、混合融液中に種基板(種結晶)1を配置し、その種基板1上にIII 族窒化物半導体を育成する。この種基板1には、任意の構成のものを用いることができ、III 族窒化物半導体からなる基板(自立基板)や、下地基板上にIII 族窒化物半導体を積層させた基板(テンプレート基板)などを用いることができる。
テンプレート基板を用いる場合、下地基板の材料は、その表面にIII 族窒化物半導体を育成可能な任意の材料でよい。ただし、Siを含まない材料が好ましい。混合融液中にSiが溶けだすと、III 族窒化物半導体の結晶成長を阻害してしまうためである。たとえば、サファイア、ZnO、スピネルなどを用いることができる。
自立基板、または下地基板上のIII 族窒化物半導体層は、GaN、AlGaN、AlNなど任意の組成のIII 族窒化物半導体とすることができる。また、III 族窒化物半導体はMOCVD法、HVPE法、MBE法などの気相成長、液相成長など任意の方法によって成長させたものでよいが、結晶性や成長時間などの点でMOCVD法やHVPE法が好ましい。
自立基板の厚さまたは、テンプレート基板のIII 族窒化物半導体層の厚さは任意であるが、2μm以上とすることが望ましい。フラックス法では、結晶育成初期においてIII 族窒化物半導体層がメルトバックする可能性があるため、自立基板に貫通孔が空いてしまったり、テンプレート基板のIII 族窒化物半導体層が完全に除去されて下地基板が露出しない厚さとする必要があるためである。ここでメルトバックは、III 族窒化物半導体が混合融液中に溶解して除去されることをいう。ただし、一般的にはIII 族窒化物半導体層が厚すぎると、種基板1に大きな反りが発生してしまうため10μm以下の厚さとすることが望ましい。
種基板1の大きさは任意であるが、本発明は大面積基板を用いた場合に特に有効である。種基板1が大きくなるほど育成したIII 族窒化物半導体結晶に割れや未成長領域などの局所的な品質低下が起こりやすくなるが、本発明によってそれらを抑制する効果が高まる。たとえば、直径2インチ以上が好ましい。
種基板1の上面には、ドット状の窓が複数空けられたマスクを設けてもよい。この窓から種基板1の表面を露出させることで、種結晶領域(すなわちIII 族窒化物半導体をエピタキシャル成長させる起点となるIII 族窒化物半導体の表面)をドット状に点在させている。
このように種結晶領域をドット状に点在させることで、結晶育成初期においてIII 族窒化物半導体を横方向成長させ、転位を曲げることで転位密度を低減して結晶品質を向上させることができる。また、成長過程で結晶中にボイドが形成されるため、結晶育成終了後に種基板1と育成したIII 族窒化物半導体結晶との分離を容易とすることができる。
種基板1表面にエッチングなどによって溝を設けることで、種結晶領域をドット状に点在させてもよい。
マスクは、ALD法(原子層堆積法)、CVD法(化学気相成長法)、スパッタなど任意の方法によって形成することができるが、特にALD法により形成することが望ましい。緻密で均一な厚さに形成することができ、フラックス法による育成中においてマスクが溶解してしまうのを抑制することができる。マスク4の材料は、フラックスに対して耐性を有し、そのマスク4からはIII 族窒化物半導体が成長しないような材料であればよい。たとえば、Al2 O3 、TiO2 、ZrO2 などを用いることができる。マスク4の厚さは、10nm以上500nm以下とすることが望ましい。
マスクの窓の配置パターンは、周期的なパターンが望ましい。特に、正三角形の三角格子状のパターンが望ましい。窓をこのような配置パターンとすることで、各種結晶領域からIII 族窒化物半導体が均質に育成し、III 族窒化物半導体の結晶品質の向上を図ることができる。
各窓の形状は、円、三角形、四角形、六角形など任意の形状でよいが、円または正六角形とすることが好ましい。各窓に露出するIII 族窒化物半導体表面からの結晶成長をより均一とするためである。また、正六角形とする場合、その各辺の方位はIII 族窒化物半導体のm面とすることが望ましい。
(結晶製造装置の構成)
本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法では、たとえば以下の構成の結晶製造装置10を用いる。
図1は、フラックス法によるIII 族窒化物半導体の製造に用いる結晶製造装置10の構成を示す図である。図1のように、結晶製造装置10は、反応容器200と、反応容器200内部に配置され、アルカリ金属とIII 族金属の混合融液21を保持する坩堝12と、反応容器200を加熱する加熱装置11と、坩堝12を保持し、回転軸13を有した保持部14と、を有している。また、反応容器200と加熱装置11を内包する圧力容器201を有し、2重構造となっている。また、圧力容器201に開口して接続し、回転軸13の圧力容器201外側部分を覆う回転軸カバー15と、回転軸カバー15に接続し、窒素を供給する供給管16と、反応容器200内部から外部へ排気する排気管17と、回転軸13を回転、移動させる回転駆動装置18と、を有している。
反応容器200は、円筒形状のステンレス製で、耐熱性を有している。反応容器200の内部には、保持部14によって保持された坩堝12が配置されている。反応容器200の回転軸13側は開口しており、回転軸13が反応容器200外部から内部に貫通している。
圧力容器201は、円筒形のステンレス製であり、耐圧性を有している。圧力容器201の内部には、反応容器200および加熱装置11が配置されている。このように反応容器200を圧力容器201の内部に配置しているため、反応容器200にさほど耐圧性が要求されない。そのため、反応容器200として低コストのものを使用することができ、再利用性も向上する。
圧力容器201には、窒素を含むガスを供給する供給管202、および排気管203が接続している。供給管202、排気管203にはそれぞれバルブ202v、203vが設けられている。バルブ202v、203vを調整して圧力容器201内部に導入するガス量を制御することで、圧力容器201内部の圧力が反応容器200内部の圧力とほぼ等しくなるように加圧する。
坩堝12はアルミナ(Al2 O3 )からなり、反応容器200内部のトレイ20上に配置されている。坩堝12は複数配置してもよい。坩堝12の材質は、アルミナ以外に、たとえばW(タングステン)、Mo(モリブデン)、BN(窒化ホウ素)、YAG(イットリウムアルミニウムガーネット)などを用いてもよい。坩堝12内部には、アルカリ金属とIII 族金属の混合融液21が保持され、混合融液21中には種基板1が収容される。
加熱装置11は、反応容器200の外部であって、圧力容器201の内部に配置されている。この加熱装置11によって、反応容器200内部の温度を制御する。
保持部14は、坩堝12を配置するトレイ20と、トレイ20に接続し、圧力容器201の内側下部から外側へ貫通している回転軸13からなる。回転軸13の圧力容器201外側の先端には、マグネット23が設けられている。
回転軸カバー15は、回転軸13の圧力容器201外側部分を覆い、反応容器200および圧力容器201に開口して接続している。この回転軸カバー15により、圧力容器201内部と外部とが遮断され、回転軸13と回転軸カバー15との隙間24と、反応容器200内部とが一続きとなる。
回転駆動装置18は、回転軸カバー15側部の外側に設けられたマグネット22と、を有している。このマグネット22を回転させることによって、マグネット23を介して回転軸13を回転させることができる。また、マグネット22は鉛直方向上下に移動させることができ、これにより回転軸13を鉛直方向に上下させることができる。このように、マグネットを用いることで、回転軸カバー15によって圧力容器201内部と外部とを遮断した状態で、回転軸13の回転、移動を制御することができる。
供給管16は、回転軸カバー15に接続していて、バルブ16vを有している。供給管16から供給される窒素を含むガスは、回転軸13と回転軸カバー15の隙間24を通して反応容器200内部に供給される。
排気管17は、反応容器200に開口して接続している。排気管17には、バルブ17vが設けられ、排気量を制御する。供給管16、排気管17のバルブ16v、17vによって窒素を含むガスの供給量、排気量を制御することにより、反応容器200内部の圧力を制御する。
供給管16より供給される窒素を含むガスは、回転軸カバー15と回転軸13との隙間24、圧力容器201と回転軸13との隙間を順に通過して反応容器200内部へと供給される。したがって、アルカリ金属の蒸気が回転軸カバー15と回転軸13との隙間に入り込まないようにでき、坩堝12の回転が阻害されず、混合融液21の組成が一定に保たれる。その結果、結晶の均一性が向上し、高品質なIII 族窒化物半導体を製造することができる。
なお、反応容器200として耐圧性を有したものを使用すれば、必ずしも圧力容器201は必要ではない。また、結晶育成中のアルカリ金属の蒸発を防止するために、坩堝12には蓋を設けてもよい。また、坩堝12の回転に替えて、あるいは加えて、坩堝12を揺動させる装置を設けてもよい。また、圧力容器201と反応容器200の二重容器としているが、三重容器として育成条件(温度、圧力など)のさらなる安定化を図ってもよい。
(III 族窒化物半導体の製造方法)
次に、本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法について説明する。
まず、酸素や露点など雰囲気が制御されたグローブボックス内で所定量の固体のアルカリ金属2、固体のIII 族金属3を計量する。その後、種基板1と、計量した所定量の固体のアルカリ金属2と、固体のIII 族金属3とを坩堝12に投入する。
ここで、先に固体のアルカリ金属2、固体のIII 族金属3を坩堝12の底面に配置し、その後に固体のアルカリ金属2上に接して種基板1を配置する(図2参照)。固体のIII 族金属3は種基板1と接していても接していなくともどちらでもよい。これにより、種基板1の上面(結晶成長面)に固体のアルカリ金属2および固体のIII 族金属3が接触しない状態とする。このような状態であれば、種基板1は坩堝12底面に対して平行であっても傾斜していてもよいが、平行に配置することがより望ましい。
固体のアルカリ金属2上に種基板1が配置される状態であれば、固体のアルカリ金属2と種基板1は接触していなくともよい。たとえば、図3のように、固体のIII 族金属3上に接して種基板1を配置し、固体のIII 族金属3と種基板1との間の空間に、種基板1下面と接触しないようにして固体のアルカリ金属2を配置してもよい。また、固体のアルカリ金属2、固体のIII 族金属3の形状は任意でよいが、種基板1を配置しやすいように、種基板1と接する方の形状は、直方体、円柱、角柱などの形状がよい。
固体のIII 族金属3については、種基板1の上面に配置してもよいが、固体のアルカリ金属2と同様に種基板1の下面側に配置するのがよい。種基板1の上面に配置すると、下面側の固体のアルカリ金属2と反応して合金を形成するのが遅くなり、十分な量の合金を得ることが難しくなり、均一なIII 族窒化物半導体を安定して育成するのが難しくなる。
以上のようにして原料を配置した坩堝12を、搬送容器に格納して、大気に晒すことなく反応容器200内のトレイ20上に配置し、反応容器200を密閉し、さらに反応容器200を圧力容器201内に密閉する。そして、圧力容器201内を真空引きした後、昇圧する。このとき、反応容器200内も真空引き後、昇圧してもよい。その後、窒素を含むガスを反応容器200内部および圧力容器201内部に供給する。圧力が結晶成長圧力まで達したら、炉内を結晶成長温度まで昇温する。結晶成長温度は700℃以上1000℃以下、結晶成長圧力は2MPa以上10MPa以下である。
昇温の過程で、固体のアルカリ金属2や固体のIII 族金属3は溶けて液体となる。したがって最終的には、種基板1は混合融液21の中に沈み込んでいき、坩堝12の底面に達する。これにより、結晶成長温度に達する前の温度で、必ず種基板1の上面(結晶成長面)が混合融液21に接触する状態となる。
このように坩堝12中に原料を配置した場合の溶融過程を詳細に観察したところ、たとえば、アルカリ金属としてNa、III 族金属としてGaを用いる場合には、昇温の各段階において次のような状態を経ることがわかった。200〜300℃の範囲では、Na、Gaは液体となるものの、表面の被膜や表面張力などの効果によってNaの上部に種基板1を支えた状態を維持できる。さらに昇温して300〜400℃の範囲になると、Naは種基板1の重さによって形状を維持できずに崩れていき、Gaと混ざり合って合金を形成していく。この合金は、液体のNaとGaの混合融液21中に微粒子として分散して存在する。そして、しばらくの間、混合融液21の液面に種基板1が浮いた状態を保持し、その後、種基板1はその自重によって混合融液21中に沈み込んでいき、坩堝12の底面に達する。さらに400〜500℃では、混合融液21中のNaとGaの合金も液体となり、混合融液21中に分散する。このように、種基板1の上面は、結晶成長温度より低い温度にて、混合融液21に接触することとなる。
発明者らは、混合融液中にNaとGaの合金の微粒子が多量に存在した状態で、成長温度までの昇温においてNaとGaの合金の微粒子が液体に変化した場合に、均質で良質なIII 族窒化物半導体結晶を育成できることを発見している。NaとGaの合金の微粒子の量を多くするためには、500℃以下の温度範囲を長く保持することが必要である。より望ましくは80〜400℃の温度範囲である。この温度範囲であれば、一定の温度で保持してもよいし、連続的、段階的に昇温してもよい。昇温速度は10℃/分以下が望ましい。また、坩堝12を炉内に搬入する前に、あらかじめこの温度範囲に加熱しておいてもよい。
保持時間(坩堝12の温度を500℃以下とする時間)は30分以上とすることが望ましい。NaとGaの合金の微粒子の量を十分に多くすることができる。ただし、保持時間は3時間以下とするのがよい。これよりも長いと、窒素の溶解量が減少する、種基板1のメルトバックが多くなる、結晶品質が低下するなどの問題があり、また製造時間も長くなってしまう。なお、保持時間の経過後は昇温速度を速めてもよく、たとえば5〜20℃/分とすることが望ましい。
次に、反応容器200内の温度が結晶成長温度に達したら、坩堝12を回転させることで混合融液21を攪拌し、混合融液21中のアルカリ金属とIII 族金属の濃度分布が均一になるようにする。
窒素が混合融液21に溶解していき、過飽和状態になると種基板1の上面からIII 族窒化物半導体の結晶成長が始まる。
結晶成長温度、結晶成長圧力を維持して種基板1上面に十分にIII 族窒化物半導体結晶を育成した後、坩堝12の回転と反応容器200の加熱を停止して温度を室温まで低下させ、圧力も常圧まで低下させ、III 族窒化物半導体の育成を終了する。
以上の本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法では、固体のアルカリ金属2上に種基板1を配置した状態でIII 族窒化物半導体結晶の育成工程を開始している。そして、加熱によって種基板1を混合融液21中に沈めることで、結晶成長温度に達する前に自動的に種基板1の上面が混合融液21に接触するようにしている。これにより、種基板1の表面と固体Naとが接触することなく、溶融した原料に直接、種基板1表面を接触させることができる。また、液体の原料上に浮いた状態となった種基板1がその後に自重で落下するのに伴い、原料を攪拌する効果もある。これらの相乗的な効果によって、本発明によれば非常に簡便な方法によって、III 族窒化物半導体結晶に空孔などの未成長領域や異常成長領域、クラックが発生するのを抑制することができ、良質なIII 族窒化物半導体結晶を安定して再現性よく育成することができる。
また、安定してIII 族窒化物半導体結晶を育成できるので、結晶製造装置10内に複数の坩堝12を配置してIII 族窒化物半導体結晶を育成した場合であっても、各坩堝12の種基板1上に育成されたIII 族窒化物半導体結晶間に品質のばらつきが少ない。
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
まず、種基板として、GaNからなる直径2インチの自立基板101を2枚用意した。次に、2つの坩堝12を用意し、それぞれの坩堝12中に固体Naを16.7g、固体Gaを11.0g、Cを0.05g、投入した。固体Na102は三角柱状であり、固体Ga103は楕円球状であり、Cは粉末状である。固体Na102は坩堝12底面の中央部に配置し、固体Ga103は坩堝12底面の端部に配置した。また固体Na102は三角柱の三角形の面が坩堝12の底面と接するように配置した。そして、それぞれの坩堝12中の固体Na102上に接して自立基板101を配置した(図4参照)。なお、図4においてCは図示を省略している。自立基板101は、結晶成長面であるGa極性面を上面とし、固体Na102と接する下面をN極性面とした。これにより、自立基板101の下面側に固体Na102、固体Gaを配置して、自立基板101の上面に固体Na102と固体Ga103が接触しないように配置した。
炉内をあらかじめ100℃に加熱して置いた上で、2つの坩堝12を結晶製造装置10の反応容器200内に搬入し、フラックス法により自立基板101上にGaN結晶を育成した。結晶成長温度は860℃、結晶成長圧力は3MPaとし、供給するガスは窒素とした。育成時間は40時間とした。また、坩堝12はアルミナ製のものを用い、坩堝12の蓋として同じくアルミナ製のものを用いた。
育成終了後、室温まで冷却されるのを待ってから2つの坩堝12を取り出し、エタノール等でNa、Gaを取り除いた。そして、それぞれの坩堝12からGaN結晶が約0.5mm育成した自立基板101を取り出した。
実施例1の方法により同時に育成した2つのGaN結晶について、目視により観察したところ、2つのGaN結晶双方ともにクラックがなく、空孔や未成長領域などの異常部もなく、高品質なGaN結晶を再現性よく育成できることがわかった。
(比較例1)
実施例1において、坩堝12への自立基板101、固体Na102、固体Ga103の配置を次のように変更した以外は実施例1と同様にして、2つの坩堝12中の自立基板101上にGaN結晶を育成した。
坩堝12への自立基板101、固体Na102、および固体Ga103の配置は、図5のように、坩堝12の底面にGa極性面を上面として自立基板101を配置し、自立基板101の上面に固体Ga103を配置し、さらに固体Ga103上に固体Na102を配置した。
比較例1の方法により同時に育成した2つのGaN結晶について、目視により観察したところ、2つのGaN結晶の双方に隙間のような穴が発生しており、一方にはクラックも発生していた。
(比較例2)
実施例1において、坩堝12への自立基板101、固体Na102、固体Ga103の配置を次のように変更した以外は実施例1と同様にして、2つの坩堝12中の自立基板101上にGaN結晶を育成した。
自立基板101、固体Na102、固体Ga103の配置は、図6のように、坩堝12の底面にGa極性面を上面として自立基板101を配置し、自立基板101の上面に固体Na102を配置し、さらに固体Na102上に固体Gaを若干埋め込むようにして配置した。
比較例2の方法により同時に育成した2つのGaN結晶について、目視により観察したところ、2つのGaN結晶のうち双方に固体Naの外周形状に沿って隙間のような穴が発生しており、クラックも発生していた。
(比較例3)
実施例1において、坩堝12への自立基板101、固体Na102、固体Ga103の配置を次のように変更した以外は実施例1と同様にして、2つの坩堝12中の自立基板101上にGaN結晶を育成した。
自立基板101、固体Na102、固体Ga103の配置は、図7のように、坩堝12の底面にGa極性面を上面として自立基板101を配置し、自立基板101上の中央部に固体Na102を配置し、自立基板101上の端部に固体Na102と重ならないように固体Ga103を配置した。
比較例3の方法により同時に育成した2つのGaN結晶について、目視により観察したところ、2つのGaN結晶のうち一方には固体Naの外周形状に沿って隙間のような穴が発生しており、他方にはクラックが発生していた。
実施例1と比較例1〜3との比較から、GaN結晶に空孔や未成長領域などの異常部やクラックが生じる原因は、次のように推察される。すなわち、原料や種基板を坩堝12に仕込んでからGaN結晶の育成開始時まで、あるいはその直後までの間において、結晶成長面(種基板の上面)にNaあるいはNaとGaとの合金が、大気とともに接触しているためと考えられる。
特に、比較例2、3のように、固体Naと種基板上面とが直接接触する状態に原料を配置した場合、固体Naの外周に沿った領域に結晶の異常が発生しやすいので、これを回避する原料配置方法が必須となる。比較例1のように、固体Naと種基板上面とを直接接触させないようにすることで、固体Naの外周に沿った結晶の異常は無くせるが、Gaと種基板上面との直接接触や、Ga溶融後のNaまたはNa−Ga合金と種基板上面との接触が早期に生じるため、それがクラックや異常な成長の発生を引き起こしていると推測される。
種基板として、GaNからなる自立基板101に替えて、テンプレート基板201を用い、それ以外は実施例1と同様にして、2つの坩堝12中のテンプレート基板201上面にGaN結晶を育成した。テンプレート基板201は、直径2インチのサファイア基板202上に、バッファ層を介して全面にGaN層203が形成されたものである。テンプレート基板201は、サファイア基板202表面を下面、GaN層203表面を上面として配置した。
実施例2の方法により同時に育成した2つのGaN結晶について、目視により観察した。すると、実施例1と同様に、2つのGaN結晶双方ともにクラックがなく、空孔や未成長領域などの異常部もなく、高品質なGaN結晶を安定して育成できることがわかった。
種基板として、GaNからなる自立基板101に替えて、以下の構造のテンプレート基板301を用いた。テンプレート基板301は、直径2インチのサファイア基板302上にバッファ層を介してGaN層303を形成し、さらにGaN層303上にAl2 O3 からなるマスク304を形成したものである。マスク304には複数の窓305が空けられていてGaN層303が露出しており、窓305の形状は正六角形で、三角格子状に配列されている。また、Cは坩堝12の外に配置し、坩堝12内には配置しなかった。それ以外は実施例1と同様にして、坩堝12中のテンプレート基板301上にGaN結晶を育成した。テンプレート基板301は、サファイア基板302表面を下面、GaN層303表面を上面として配置した。
実施例3の方法により同時に育成したGaN結晶について、目視により観察した。すると、実施例1と同様に、GaN結晶にはクラックがなく、空孔や未成長領域などの異常部もなく、高品質なGaN結晶を安定して育成できることがわかった。また、マスクを設けているため、育成したGaN結晶とテンプレート基板301とを容易に分離することができた。なお、Cを坩堝12の外ではなく、坩堝12内に配置した場合も、同様にGaN結晶を安定して育成することができた。
(比較例4)
実施例3において、坩堝12へのテンプレート基板301、固体Na102、および固体Ga103の配置を次のように変更した以外は実施例3と同様にしてテンプレート基板301上にGaN結晶を育成した。
テンプレート基板301、固体Na102、固体Ga103の配置は、図10のように、坩堝12の底面にGaN層303表面を上面としてテンプレート基板301を配置し、テンプレート基板301上の中央部に固体Na102を配置し、テンプレート基板301上の端部に固体Ga103を配置した。
比較例4の方法により同時に育成したGaN結晶について、目視により観察したところ、GaN結晶には固体Naの外周形状に沿って隙間のような穴が発生しており、他方にはクラックが発生していた。