図1に、本実施形態に係る電池パック冷却システム及びこれが搭載された車両の構成を例示する。なお、図示を簡略化するために、図1では、本実施形態に係るバッテリ冷却システムとの関連性の低い構成については適宜図示を省略している。また、図1の矢印線は信号線を表している。
図1に示す車両は、内燃機関及び回転電機を駆動源とするハイブリッド車両である。しかしながら、本実施形態に係る電池パック冷却システムが搭載される車両はこれに限らない。要するに回転電機を駆動源とし、これに電力を供給する大容量の電池パックを備えた車両であればよく、例えば電気自動車や燃料電池車に、本実施形態に係る冷却システムを搭載してもよい。
図1に示す車両(ハイブリッド車両)では、電池パック10から出力された直流電力が、図示しない昇降圧DC/DCコンバータにより昇圧され、さらにインバータにて直交変換され、回転電機等の負荷に供給される。
また図1に示す車両には、電池パック10と負荷とを繋ぐ電路(高電圧電路)から分岐して、降圧DC/DCコンバータ12に接続される分岐電路が設けられる。降圧DC/DCコンバータ12によって降圧された直流電力はファン用インバータ14にて直交変換される。変換後の交流電力はファンモータ16に供給される。ファンモータ16により冷却ファン18が回転駆動させられ、これに伴い冷却空気が取り込まれる。
<電池パック冷却システムの構成>
本実施形態に係る電池パック冷却システムは、電池パック10、冷却ファン18、吸気流路20、ファンモータ16、ファン用インバータ14、及び制御部22を備える。電池パック冷却システムのうち、少なくとも制御部22を除く各構成は、例えば図2に示すように、車両の後部座席23下に配置される。
電池パック10は、ニッケル水素やリチウムイオン電池等の二次電池から構成される。例えば電池パック10は、1〜5V程度の電池セル(単電池)が複数積層されたスタック(積層体)から構成される。また、電池パック10はカバー24に収容される。カバー24には冷却空気の供給口26及び排出口28が形成されている。後述するように、冷却ファン18から送られた吸気(冷却空気)が供給口26からカバー24内部に取り込まれて電池パック10が空冷される。冷却後の空気は排出口28から排出される。
吸気流路20は、車室内の空気の取り込み口30から冷却ファン18を経て電池パック10の供給口26に至るまでの吸気の流路である。吸気流路20は、取り込みダクト32、冷却ファン18のケーシング35、及び接続ダクト34を備える。取り込みダクト32は、車室内の空気の取り込み口30から冷却ファン18のケーシング35に設けられた吸気口36までを接続する。取り込みダクト32の取り込み口30には塵埃除去のフィルタ38が設けられていてよい。図2に例示されるように、取り込み口30及びフィルタ38は車両の後部座席23下部を覆うカバー39の側方に設けられる。図1に戻り、接続ダクト34は冷却ファン18の送出口40から電池パック10のカバー24の供給口26までを接続する。
冷却ファン18は、冷却空気を電池パック10に送り込む送風機である。冷却ファン18は例えばシロッコファン(多翼送風機)から構成される。冷却ファン18は取り込みダクト32を介して車室内の空気を取り込み、接続ダクト34を介して取り込んだ空気(吸気)を電池パック10に送り込む。
ファンモータ16は冷却ファン18を回転駆動させる。ファンモータ16は例えば定格電圧が14[V]の3相ブラシレスモータから構成される。ファンモータ16にはファン用インバータ14から駆動電圧(3相電圧)が印加され、これによりファンモータ16が回転駆動される。ファンモータ16のロータ位置は位置センサ42により検知され、後述するフィードバック制御に用いられる。なお、以下では、理解を容易にするため、ファンモータ16の回転数[rpm]と冷却ファン18の回転数[rpm]は同一であるとする。
ファン用インバータ14は、電池パック10から降圧DC/DCコンバータ12を介して供給された直流電力、または、図示しないサブバッテリから直接供給された直流電力を交流電力に変換してこれをファンモータ16に供給する。ファン用インバータ14は複数のスイッチング素子を備えており、制御部22の冷却ファン駆動制御部22Aから送られたPWM制御信号に基づいて、これらのスイッチング素子のオン/オフ動作が制御される。
制御部22は、電池パック冷却システムを含む車両内の機器を制御する。制御部22は例えばコンピュータから構成され、演算回路であるCPU及び記憶装置であるメモリを備える。メモリはSRAM等の揮発性メモリ及びROMやハードディスク等の不揮発性メモリを含んで構成される。
メモリには冷却ファン18を制御する制御プログラムや後述する吸気温度検出フローを実行するためのプログラム等が記憶されている。このプログラムをCPUが実行することで、制御部22には複数の機能部が構成される。具体的には制御部22は、冷却ファン駆動制御部22A、回転数/風量換算部22B、風量積算部22C、風量積算値比較部22D、及び、冷却ファン駆動判定部22Eを備える。これらの詳細な機能については後述する。
制御部22は車両に搭載された各種センサから検出値を受信する。本実施形態に係る電池パック冷却システムに関連の高いセンサを例示すると、電池パック温度センサ44、吸気温度センサ46、位置センサ42、及び車速センサ48から検出値を受信する。
電池パック温度センサ44は例えば電池パック10の表面に取り付けられる。複数の温度センサを電池パック10の表面に取り付け、温度分布を求めてもよい。この場合において、複数の温度センサの検出温度の平均をもとに後述する冷却ファン18の可変制御を行ってもよいし、複数の温度センサの検出温度のうち最高温度に基づいて冷却ファン18の可変制御を行ってもよい。電池パック温度センサ44の検出値である電池温度T_Batは冷却ファン駆動制御部22A及び冷却ファン駆動判定部22Eに送信される。
吸気温度センサ46は吸気流路20に設けられ、少なくともその感温素子は吸気流路20内に配置(露出)される。吸気流路20内における温度変化等を考慮して、例えば吸気温度センサ46は吸気流路20のうち最も電池パック10寄りに設けられる。例えば、接続ダクト34の末端である、カバー24の供給口26との接続口に吸気温度センサ46が設けられる。吸気温度センサ46の検出値である吸気温度T_Airは冷却ファン駆動制御部22A及び冷却ファン駆動判定部22Eに送信される。
なお後述するように、冷却ファン駆動判定部22Eによる吸気温度T_Airの取得は、風量積算値比較部22Dの許可指令の受信に伴って実行され、図4の冷却ファン駆動判定フロー開始時点から当該許可指令の受信時点までは、吸気温度T_Airの取得が留保される。
位置センサ42はファンモータ16のロータ位置θを受信する。ロータ位置θを微分することでロータの回転速度[rpm]及び冷却ファン18の回転速度[rpm]が求められる。上述したように簡単のため以下の説明ではロータの回転速度と冷却ファン18の回転速度は等しいものとする。位置センサ42の検出値であるロータ位置θは冷却ファン駆動制御部22A及び回転数/風量換算部22Bに送信される。また、車速センサ48の検出値である車速(車両速度)も冷却ファン駆動制御部22Aに送信される。
冷却ファン駆動制御部22Aは、ファンモータ16への回転数可変制御を介して、冷却ファン18に対して回転数可変制御を行う。回転数可変制御は基本的に電池パック10の温度T_Batに基づいて行われる。例えば電池パック温度T_Batが高いほど指令回転数は高くなる。また、吸気温度T_Airに基づいた係数を指令回転数に掛けてもよい。例えば吸気温度T_Airが低いほど係数は低くなる(最終的な指令回転数は低くなる)。
さらに本実施形態では、冷却ファン18の回転数可変制御に当たり、騒音抑制の観点から、車速(車両速度)に基づいて最大許容回転数に制限を掛けている。吸気流路の取り込み口30が車室に露出していることから、冷却ファン18の駆動音は車室内に漏れ易くなっており、この駆動音が乗員の不快感に繋がるおそれがある。そこで本実施形態では車両の駆動に応じて発生するロードノイズで冷却ファン18の駆動音をマスキングさせ、乗員の不快感を抑制させている。
具体的には図3に示すような車速−最大許容回転数マップを用いて、冷却ファン18に対する最大許容回転数を制限している。このグラフは、横軸が車速を表し、縦軸が最大許容回転数を表している。車速とそれに伴うロードノイズの大きさは予め騒音試験や官能試験等によって取得される。また冷却ファン18の回転数に対応する駆動音の大きさも予め騒音試験や官能試験等によって取得される。この取得したデータをもとに、車速に応じた冷却ファン18の最大許容回転数が定められる。
冷却ファン18の回転数可変制御に当たり、冷却ファン駆動制御部22Aは、車両速度に応じて定められる冷却ファンの最大許容回転数以下の範囲で、電池パック10の温度T_Batに応じて冷却ファン18の回転数を変化させる。例えば冷却ファン駆動制御部22Aは、電池パック10の温度T_Batに基づいて初期指令回転数を設定する。次に冷却ファン駆動制御部22Aは車速−最大許容回転数マップを参照して、現在の車速に対応する最大許容回転数を求める。初期指令回転数が最大許容回転数以下であれば、冷却ファン駆動制御部22Aは、初期指令回転数に基づいたPWM制御信号を生成してファン用インバータ14を制御する。一方、初期指令回転数が最大許容回転数を超過する場合、冷却ファン駆動制御部22Aは、そのときの最大許容回転数を指令回転数として再設定し、これに基づいたPWM制御信号を生成してファン用インバータ14を制御する。
また、本実施形態では、冷却ファン駆動制御部22Aは、停止状態の冷却ファン18を起動させる起動時から回転数可変制御を実行する。この結果、最低回転数で起動させていた従来と比較して、後述する滞留空気の送出を速やかに行うことができる。
冷却ファン駆動判定部22Eは、冷却ファン18の駆動制御に当たり、電池パック温度T_Bat及び吸気温度T_Airに基づいて冷却ファン18の駆動可否を判定している。例えば車室内から取り込んだ空気(吸気)の温度T_Airが電池パック温度T_Bat以上である場合、電池パック10の冷却ができなくなるか、または吸気の送り込みよって電池パック10が加熱されるおそれがある。そこでこのような場合に備え、冷却ファン駆動判定部22Eは、冷却ファン駆動制御部22Aに対して冷却ファン18の駆動を停止させる駆動停止指令を出力可能となっている。
上記のような冷却ファン駆動判定に当たり、判定基準となる吸気温度T_Airが車室内の吸気である必要がある。例えば冷却ファン18の停止中に、吸気流路20の滞留空気が温められて車室内空気よりも高温となるような場合があり、このような場合に、滞留空気の温度を吸気温度T_Airとして取り込むと冷却ファン18を停止させる誤判定に繋がるおそれがある。そこで本実施形態では冷却ファン18が停止状態から起動される際に、予め吸気流路20内の滞留空気を送出させて(吐き出して)から、吸気温度T_Airを検出している。
図4には、本実施形態に係る冷却ファン駆動判定フローが例示されている。電池パック温度T_Batが所定の閾値温度T_thを超過すると冷却ファン18が起動され、本フローが実行される。初期設定として、冷却ファン駆動判定部22Eによる吸気温度T_Airの取得は留保された状態となっている。後述するように、この留保状態は風量積算値比較部22Dから送られる許可指令によって解除される。
冷却ファン駆動制御部22Aは、電池パック温度T_Bat及び車速に応じて冷却ファン18を回転数可変制御する(S10)。例えば上述したように車速に応じて最大許容回転数を求め、電池パック温度T_Batから求めた初期指令回転数がこの最大許容回転数以下であるか否かに応じて指令回転数を調整する。なおこのとき、吸気温度T_Airを取り込んで可変制御に反映させてもよい。
冷却ファン18の起動に伴い、位置センサ42からロータ位置θが回転数/風量換算部22Bに送信される。回転数/風量換算部22Bではロータ位置θに基づいて冷却ファン18の回転数[rpm]を求める。さらに回転数/風量換算部22Bは、冷却ファン18の回転数を滞留空気の送出風量Q[cm3/sec]に換算する(S12)。例えば図5に示す回転数−風量換算マップを用いる。このマップは横軸が冷却ファン18の回転数[rpm]を表し、縦軸が冷却ファン18の風量[cm3/sec]を表している。両者の対応関係は冷却ファン18の仕様や実験等で予め求められる。
風量積算部22Cは、冷却ファン18の起動時を起点にして、回転数/風量換算部22Bから冷却ファン18の送出風量Q[cm3/sec]を取得しこれを積算する(S14)。例えば風量積算部22Cは回転数/風量換算部22Bから送出風量Qを毎秒取得する。送出風量Qを積算することで冷却ファン18による送出空気体積Va(=ΣQ)が求められる。
送出空気体積Vaは風量積算値比較部22Dに送られる。風量積算値比較部22Dは、風量積算値すなわち送出空気体積Vaが体積閾値V_th以上であるか否かを判定する(S16)。例えば体積閾値V_thは、吸気流路20の取り込み口30から吸気温度センサ46に至るまでの吸気流路20における体積(容積)である。
送出空気体積Vaが体積閾値V_th以上であれば(典型的には送出空気体積Vaが体積閾値V_thに到達(Va=V_th)すれば)、吸気温度センサ46の感温素子に接触する空気は車室内の空気となる。このとき、風量積算値比較部22Dは冷却ファン駆動判定部22Eに対して、吸気温度センサ46から吸気温度T_Airの取得を許可する許可指令を送信する(S18)。送出空気体積Vaが体積閾値V_th未満である場合には、ステップS10まで戻る。
ステップS18後、冷却ファン駆動判定部22Eは吸気温度T_Airを取得する。またこれと並行して冷却ファン駆動判定部22Eは、電池パック温度T_Batを取得する。次に冷却ファン駆動判定部22Eは、吸気温度T_Airが電池パック温度T_Bat以上であるか否かを判定する(S20)。吸気温度T_Airが電池パック温度T_Bat以上である場合には冷却ファン駆動判定部22Eは冷却ファン駆動制御部22Aに対して冷却ファン18の駆動停止指令を出力する(S22)。これを受けて冷却ファン駆動制御部22Aは停止動作を実行する。例えばファン用インバータ14へのPWM制御信号を強制的に遮断して(デューティ比0にして)、ファン用インバータ14のスイッチング素子の駆動を停止させる。
吸気温度T_Airが電池パック温度T_Bat未満である場合には、冷却ファン駆動判定部22Eは駆動停止指令を出力しない。これにより、冷却ファン駆動制御部22Aによる冷却ファン18への回転数可変制御が引き続き継続される(S24)。
図6には本実施形態に係る冷却ファン駆動制御を行った例(曲線A)と、従来技術に係る冷却ファン駆動制御を行った例(曲線B)が示されている。横軸は時間、縦軸は冷却ファン18の回転数が表されている。時刻t2、t3はともに吸気温度チェックが実行された時刻を表している。この例に示されているように、冷却ファン18の起動時t1から回転数可変制御を実行することで、起動時に冷却ファン18を最低回転数制御していた従来技術と比較して、速やかに車室内空気の温度チェックが実行可能となる。