JP2018044212A - 耐食性鉄鋼材料 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、橋梁など維持管理の遂行が困難な構造物や、自動車用鋼材のような特に軽量化と溶接性・強度を両立させた構造材料に用いて好適な耐食性に優れた鉄鋼材料を提供すること。【解決手段】表面に窒素拡散層を有する耐食性鉄鋼材料であって、この窒素拡散層に窒素が0.04質量%以上であって、当該耐食性鉄鋼材料の固溶上限値以下の範囲で固溶していることを特徴とする耐食性鉄鋼材料。【選択図】図4
Description
本発明は、特に橋梁など維持管理の遂行が困難な構造物や、自動車用鋼材のような特に軽量化と溶接性・強度を両立させた構造材料に用いて好適な耐食性に優れた鉄鋼材料に関し、特に窒素や炭素などの侵入型元素を固溶させて耐食性を向上させた鉄鋼材料に関する。
例えば山間部や海岸地帯など、塩水や融雪塩が飛来するなどの塩分腐食環境下にある道路橋等の橋梁構造物に使用する鋼材は、耐食性向上のため、従来から塗装されて用いられている。しかし、この塗装塗膜は必ず経時劣化するため、耐食性維持のために、一定周期で塗装しなおす維持管理の必要性がある。
しかし、我が国においては、近年の社会インラフの老朽化の問題もあり、橋梁設置後の維持管理の負荷やコストの最小化と、橋梁自体の高寿命化が強く求められている。
しかし、我が国においては、近年の社会インラフの老朽化の問題もあり、橋梁設置後の維持管理の負荷やコストの最小化と、橋梁自体の高寿命化が強く求められている。
そこで、この種の鋼材の耐食性の向上のために、母材である鋼材側からの改善技術が種々提案されている。例えば、この代表例として、P:0.15%以下やCu:0.2〜0.6%、Cr:0.3〜1.25%、Ni:0.65%以下を含む耐候性鋼がある。この耐候性鋼は、JIS G 3114(溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材)あるいはJIS G 3125(高耐候性圧延鋼材)の2種が規格化されている。この耐候性鋼は、添加元素の作用によって、鋼材の使用中に、鋼表面に生成する錆が、裸耐候性に代表される高い耐食性を有する緻密な安定錆層 (耐候性錆)となる自己防食機能を有している。そして、このような性質により、耐候性鋼は、橋梁や船舶など、これまで様々な構造物のメンテナンスフリーの構造として、基本的に無塗装で使用されてきた。
他方で、金属組成によらず、表面改質処理によって金属部材の強度、耐食性、耐摩耗性等を向上させることも行われている。代表的な表面改質処理の一つに窒化処理があり、ガス窒化法、ガス軟窒化法、塩浴窒化法、放電プラズマ窒化(イオン窒化)法等が一般的である。その一つである放電プラズマ窒化に関する記載が下記の特許文献2〜3、パルスレーザ法が下記の特許文献4にある。
また、ガス窒化法は、アンモニアなどの窒化処理ガス雰囲気において、鉄鋼部材を加熱するような窒化処理方法である。たとえば、この窒化処理ガスにアンモニアを用いた場合には、窒化処理を行うべき鉄鋼部材を、50時間〜72時間、500℃〜580℃の温度に加熱して、この熱によりアンモニアガスを分解して、この分解したうちの窒素原子を鉄鋼部材の表面に固溶させ、この固溶させた窒素原子をさらに鉄鋼部材内に拡散させるのが一般的である。このような窒化処理は、焼入れなどの温度よりも低い温度条件で鉄鋼部材を処理するので、焼き割れ、ひずみなどが発生し難く、耐食性と耐摩耗性に優れた材料を得ることができる。しかし、このような窒化処理は、処理時間を長時間(数十時間)要し、焼入れ処理、浸炭処理などの処理に比べて硬化層の深さが浅く、耐摩耗性等の機械的特性をさらに改善する余地があった。
また、鉄鋼材料(特に炭素鋼)に窒化処理を行うと、最表面に「窒素化合物層」が形成され、それよりも内部側に窒素が固溶した「窒素拡散層」が形成される。「窒素化合物」は金属ではなく、一方で窒素が固溶した「窒素拡散層」は金属であるため、「窒素化合物」と「窒素拡散層」は全く異なるものである。
他方で、非特許文献1、2では、窒素や炭素などの侵入型元素を固溶させることにより、オーステナイト系ステンレス鋼の耐局部腐食性が向上することが報告されている。
他方で、非特許文献1、2では、窒素や炭素などの侵入型元素を固溶させることにより、オーステナイト系ステンレス鋼の耐局部腐食性が向上することが報告されている。
H. Baba, T. Kodama, H. Uno, and Y. Katada, Zairyo- to-Kankyo, 50, 570 (2001).
A. Chiba, S. Shibukawa, I. Muto, T. Doi, K. Kawano, Y. Sugawara, and N. Hara, J. Electrochem. Soc., 162, C270 (2015).
本発明は上述した課題を解決するもので、橋梁など維持管理の遂行が困難な構造物や、自動車用鋼材のような特に軽量化と溶接性・強度を両立させた構造材料に用いて好適な耐食性に優れた鉄鋼材料を提供することを目的とする。
本発明の耐食性鉄鋼材料は、表面に窒素拡散層を有する耐食性鉄鋼材料であって、この窒素拡散層に窒素が0.04質量%以上であって、当該耐食性鉄鋼材料の固溶上限値以下の範囲で固溶していることを特徴とする。窒素拡散層の窒素が0.04質量%未満では、充分な耐食性が得られない。窒素拡散層の窒素が当該耐食性鉄鋼材料の固溶上限値を超す場合には、窒化処理のコストが上昇すると共に、当該耐食性鉄鋼材料の内部に窒素化合物を生成してしまう。
本発明の耐食性鉄鋼材料においては、好ましくは、当該耐食性鉄鋼材料がフェライト相よりなると共に、この窒素拡散層に窒素が0.04質量%以上0.1質量%以下の範囲で固溶しているとよい。
本発明の耐食性鉄鋼材料においては、好ましくは、当該耐食性鉄鋼材料がマルテンサイト相よりなると共に、この窒素拡散層に窒素が0.04質量%以上0.12質量%以下の範囲で固溶しているとよい。
本発明の耐食性鉄鋼材料においては、好ましくは、当該耐食性鉄鋼材料がオーステナイト相よりなると共に、この窒素拡散層に窒素が0.04質量%以上2.6質量%以下の範囲で固溶しているとよい。
本発明の耐食性鉄鋼材料においては、好ましくは、当該耐食性鉄鋼材料がマルテンサイト相よりなると共に、この窒素拡散層に窒素が0.04質量%以上0.12質量%以下の範囲で固溶しているとよい。
本発明の耐食性鉄鋼材料においては、好ましくは、当該耐食性鉄鋼材料がオーステナイト相よりなると共に、この窒素拡散層に窒素が0.04質量%以上2.6質量%以下の範囲で固溶しているとよい。
本発明の耐食性鉄鋼材料においては、好ましくは、前記窒素拡散層は、表面から内部側に少なくとも20μm以上の深さで設けられているとよい。
窒素拡散層の深さが20μm未満では、充分な耐食性が得られないと共に、通常のめっき厚さが20μmであるからである。好ましくは、前記窒素拡散層は、表面から内部側に少なくとも50μm以上の深さで設けられているとよく、さらに好ましくは鉄鋼材料の厚さ方向の全体に窒素が固溶している状態が良い。
本発明の耐食性鉄鋼材料においては、好ましくは、さらに、当該耐食性鉄鋼材料の最表面に形成された窒素化合物層を有し、この窒素化合物層よりも内部側に少なくとも20μm以上の深さで設けられている窒素拡散層を有しているとよい。
窒素拡散層の深さが20μm未満では、充分な耐食性が得られないと共に、通常のめっき厚さが20μmであるからである。好ましくは、前記窒素拡散層は、表面から内部側に少なくとも50μm以上の深さで設けられているとよく、さらに好ましくは鉄鋼材料の厚さ方向の全体に窒素が固溶している状態が良い。
本発明の耐食性鉄鋼材料においては、好ましくは、さらに、当該耐食性鉄鋼材料の最表面に形成された窒素化合物層を有し、この窒素化合物層よりも内部側に少なくとも20μm以上の深さで設けられている窒素拡散層を有しているとよい。
本発明の耐食性鉄鋼材料は、元素組成が、質量%で、
C:0.08−0.61%、
残部が実質的にFe及び不可避的不純物からなり、組織がフェライト‐パーライト組織からなる炭素鋼より形成されるとよい。なお、JIS G 4051(機械構造用炭素鋼鋼材)には、炭素鋼の元素組成が規定されており、本発明の耐食性鉄鋼材料でもこの炭素鋼の元素組成に準拠するものである。なお、炭素鋼の原料としてリサイクル鋼を用いる場合には、不可避的不純物としてCuは0.25%を、Niは0.20%を、Ni+Crは0.30%を超えないことが望ましい。
C:0.08−0.61%、
残部が実質的にFe及び不可避的不純物からなり、組織がフェライト‐パーライト組織からなる炭素鋼より形成されるとよい。なお、JIS G 4051(機械構造用炭素鋼鋼材)には、炭素鋼の元素組成が規定されており、本発明の耐食性鉄鋼材料でもこの炭素鋼の元素組成に準拠するものである。なお、炭素鋼の原料としてリサイクル鋼を用いる場合には、不可避的不純物としてCuは0.25%を、Niは0.20%を、Ni+Crは0.30%を超えないことが望ましい。
本発明の耐食性鉄鋼材料の使用方法は、上記の耐食性鉄鋼材料を、pH6以上pH10以下の範囲で使用する方法である。pH6未満で使用しても、充分な耐食性が得られない。pH10超えで使用しても、窒化処理の行われていない鉄鋼材料と比較して、耐食性は同程度である。
本発明の耐食性鉄鋼材料の製造方法は、鉄鋼材料に窒化処理を行なって、最表面よりも内部側に少なくとも20μm以上の深さで窒素拡散層を形成すると共に、この窒素拡散層に窒素が0.04質量%以上であって、当該耐食性鉄鋼材料の固溶上限値以下の範囲で固溶させてあることを特徴とする。
本発明の耐食性鉄鋼材料は、陸上移動用車両、船舶、海洋構造物、海中構造物または鋼製橋梁構造物等に使用できる。
本発明の耐食性鉄鋼材料の製造方法は、鉄鋼材料に窒化処理を行なって、最表面よりも内部側に少なくとも20μm以上の深さで窒素拡散層を形成すると共に、この窒素拡散層に窒素が0.04質量%以上であって、当該耐食性鉄鋼材料の固溶上限値以下の範囲で固溶させてあることを特徴とする。
本発明の耐食性鉄鋼材料は、陸上移動用車両、船舶、海洋構造物、海中構造物または鋼製橋梁構造物等に使用できる。
本発明によれば、プラズマ窒化処理により炭素鋼に窒素を固溶させ、炭素鋼のアノード分極特性に及ぼす固溶窒素の影響により、塗装又は無塗装で使用される構造材に適した耐食性に優れた鉄鋼材料が得られる。
(1) 鉄鋼材料
本発明でいう鉄鋼材料は、元素組成として、JIS G 4051(機械構造用炭素鋼鋼材)に規定された炭素鋼の元素組成を用いており、本発明の耐食性鉄鋼材料でもこの炭素鋼の元素組成に準拠するものである。なお、炭素鋼の原料としてリサイクル鋼を用いる場合には、不可避的不純物としてCuは0.25%を、Niは0.20%を、Ni+Crは0.30%を超えないことが望ましい。各添加元素の機能について説明する
本発明でいう鉄鋼材料は、元素組成として、JIS G 4051(機械構造用炭素鋼鋼材)に規定された炭素鋼の元素組成を用いており、本発明の耐食性鉄鋼材料でもこの炭素鋼の元素組成に準拠するものである。なお、炭素鋼の原料としてリサイクル鋼を用いる場合には、不可避的不純物としてCuは0.25%を、Niは0.20%を、Ni+Crは0.30%を超えないことが望ましい。各添加元素の機能について説明する
(1−1) C(炭素):0.08−0.61%、
Cは焼入性を確保する。さらに、Cは耐力や靱性を確保する以外にもδ−フェライトおよびBNの生成の抑制に必要不可欠な元素であり、本発明の耐食性鋼材に必要な耐力や加工性を得るためには、0.08%以上必要であるが、あまり多量に添加すると、却って加工性を害するので、0.08〜0.61%に限定する。望ましくは、溶接性を考慮すると、0.09〜0.2%である。さらに望ましくは、0.10〜0.12%である。
Cは焼入性を確保する。さらに、Cは耐力や靱性を確保する以外にもδ−フェライトおよびBNの生成の抑制に必要不可欠な元素であり、本発明の耐食性鋼材に必要な耐力や加工性を得るためには、0.08%以上必要であるが、あまり多量に添加すると、却って加工性を害するので、0.08〜0.61%に限定する。望ましくは、溶接性を考慮すると、0.09〜0.2%である。さらに望ましくは、0.10〜0.12%である。
(1−2) Si(ケイ素):0.15−0.35%、
Si(ケイ素)は、溶鋼の脱酸剤として有効な元素である。しかし、Siは多く添加すると脱酸による生成物であるSiO2が鋼中に存在し、鋼の清浄度を害し、靱性を低下させる。また、Siは金属間化合物であるラーベス相(Fe2M)の生成を促し、また焼戻し脆性を助長する。そこで、範囲を0.15−0.35%に限定する。
近年、真空カーボン脱酸法やエレクトロスラグ再溶解法が適用され、必ずしもSi脱酸を行なう必要がなくなって来ており、そのときの含有量は0.05%以下でありSi量は低減できる。
Si(ケイ素)は、溶鋼の脱酸剤として有効な元素である。しかし、Siは多く添加すると脱酸による生成物であるSiO2が鋼中に存在し、鋼の清浄度を害し、靱性を低下させる。また、Siは金属間化合物であるラーベス相(Fe2M)の生成を促し、また焼戻し脆性を助長する。そこで、範囲を0.15−0.35%に限定する。
近年、真空カーボン脱酸法やエレクトロスラグ再溶解法が適用され、必ずしもSi脱酸を行なう必要がなくなって来ており、そのときの含有量は0.05%以下でありSi量は低減できる。
(1−3) Mn(マンガン):0.30−0.90%
Mnは溶鋼の脱酸、脱硫剤として有効であり、また、焼入性を増大させて強度を高めるのに有効な元素である。また、Mnは、δ−フェライトおよびBNの生成を抑制する元素として有効な元素であるが、Mn量増加とともにクリープ破断強度を低下させる。そこで、その含有量を0.30−0.90%に限定する。望ましくは、0.30〜0.60%である。
Mnは溶鋼の脱酸、脱硫剤として有効であり、また、焼入性を増大させて強度を高めるのに有効な元素である。また、Mnは、δ−フェライトおよびBNの生成を抑制する元素として有効な元素であるが、Mn量増加とともにクリープ破断強度を低下させる。そこで、その含有量を0.30−0.90%に限定する。望ましくは、0.30〜0.60%である。
不可避的不純物であるP(りん)とS(硫黄)については以下のとおりである。Pは、焼戻し脆化感受性を増大させる元素であり、経年劣化を減少させ、信頼性を向上させるためには、極力減少させることが望ましく、その許容含有量を精錬技術の限界を考慮して0.030%以下とする。
Sは、Mn,Feなどと硫化物を形成し、靱性を劣化させるので、とりべ精錬などにより極力低減することが望ましく、その許容含有量を現状の精錬技術の限界を考慮して0.035%以下とする。
(2) 試料作製
表面から厚さ20μm以上の範囲に、質量%で0.04%以上の割合で鉄鋼材料に窒素を固溶させるため、本実施の形態では市販の炭素鋼(SM490)を購入し、窒素ガスと水素ガスを体積比1対1で混合させた雰囲気中で、330℃で12時間のプラズマ窒化処理を施した。
市販の炭素鋼にプラズマ窒化処理を施した試料の断面写真を図1に示す。
表面に5μm程度の窒素化合物層(Compound layer)が形成され、それよりも試料内部に窒素拡散層(Diffusion layer:鉄鋼材料中に窒素が固溶した層)が形成された。
本発明では窒素を固溶させた窒素拡散層を使用するため、最表面に形成された窒素化合物層(Compound layer)は研磨によって除去することにした。表面から7μm程度を研磨により除去することとした。
表面から厚さ20μm以上の範囲に、質量%で0.04%以上の割合で鉄鋼材料に窒素を固溶させるため、本実施の形態では市販の炭素鋼(SM490)を購入し、窒素ガスと水素ガスを体積比1対1で混合させた雰囲気中で、330℃で12時間のプラズマ窒化処理を施した。
市販の炭素鋼にプラズマ窒化処理を施した試料の断面写真を図1に示す。
表面に5μm程度の窒素化合物層(Compound layer)が形成され、それよりも試料内部に窒素拡散層(Diffusion layer:鉄鋼材料中に窒素が固溶した層)が形成された。
本発明では窒素を固溶させた窒素拡散層を使用するため、最表面に形成された窒素化合物層(Compound layer)は研磨によって除去することにした。表面から7μm程度を研磨により除去することとした。
(3) プラズマ窒化処理を施した炭素鋼中の窒素濃度(質量%)
図2は、グロー放電発光分光分析(GD−OES)により、試料深さ方向の窒素濃度分布を測定した結果を示す図である。表面から深さ方向へ7μm以上の領域(窒素拡散層)の窒素濃度は、質量%で0.1〜0.04%であることが分かる。
図2は、グロー放電発光分光分析(GD−OES)により、試料深さ方向の窒素濃度分布を測定した結果を示す図である。表面から深さ方向へ7μm以上の領域(窒素拡散層)の窒素濃度は、質量%で0.1〜0.04%であることが分かる。
(4) 窒素拡散層中への窒化物形成の有無
図2で示した窒素が炭素鋼中に固溶しているかを確かめるため、X線回折(XRD)と電子線マイクロアナライザ(EPMA)により、鉄鋼材料中の窒素の状態を確認した。図3は、X線回折(XRD)の結果を示す図である。
図3(a)はプラズマ窒化処理を施す前の炭素鋼(通常の炭素鋼)のX線回折パターン、図3(b)はプラズマ窒化処理を施したままの窒素化合物層(窒化物)のX線回折パターン、図3(c)はプラズマ窒化処理を施し、表面の窒素化合物層を研磨にて除去し、内部の窒素拡散層を露出させた場合のX線回折パターンである。
図3(c)の窒素拡散層のピークは図3(a)のプラズマ窒化処理を施す前の炭素鋼のピークと等しく、図3(b)の窒素化合物層に見られる窒化物のピークは確認できない。
図2で示した窒素が炭素鋼中に固溶しているかを確かめるため、X線回折(XRD)と電子線マイクロアナライザ(EPMA)により、鉄鋼材料中の窒素の状態を確認した。図3は、X線回折(XRD)の結果を示す図である。
図3(a)はプラズマ窒化処理を施す前の炭素鋼(通常の炭素鋼)のX線回折パターン、図3(b)はプラズマ窒化処理を施したままの窒素化合物層(窒化物)のX線回折パターン、図3(c)はプラズマ窒化処理を施し、表面の窒素化合物層を研磨にて除去し、内部の窒素拡散層を露出させた場合のX線回折パターンである。
図3(c)の窒素拡散層のピークは図3(a)のプラズマ窒化処理を施す前の炭素鋼のピークと等しく、図3(b)の窒素化合物層に見られる窒化物のピークは確認できない。
図4は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)でプラズマ窒化処理を施した炭素鋼中の窒素濃度分布を測定した結果を示す図である。
図4(a)は高倍率の反射電子像、図4(b)は同視野の窒素濃度分布、図4(c)は低倍率の反射電子像、図4(d)は同視野の窒素濃度分布を示す図である。図4(b)の窒素濃度分布から、質量%で5%以上の窒素濃度分布は表面の窒素化合物層のみに見られ、試料内部の窒素拡散層には質量%で5%以上の場所は見られなかった。これは、窒素拡散層に窒化物が形成されていないことを示している。
図4(d)は質量%で0.16%以下の窒素濃度分布を示す図である。表面から試料深さ方向に向かって窒素濃度のグラデーションが観察され、窒素が炭素鋼中に固溶していると判断できる。
図4(a)は高倍率の反射電子像、図4(b)は同視野の窒素濃度分布、図4(c)は低倍率の反射電子像、図4(d)は同視野の窒素濃度分布を示す図である。図4(b)の窒素濃度分布から、質量%で5%以上の窒素濃度分布は表面の窒素化合物層のみに見られ、試料内部の窒素拡散層には質量%で5%以上の場所は見られなかった。これは、窒素拡散層に窒化物が形成されていないことを示している。
図4(d)は質量%で0.16%以下の窒素濃度分布を示す図である。表面から試料深さ方向に向かって窒素濃度のグラデーションが観察され、窒素が炭素鋼中に固溶していると判断できる。
以上2つの結果から、炭素鋼にプラズマ窒化処理を施し、表面の窒素化合物層を研磨によって除去することにより、質量%で0.02%以上の割合で炭素鋼に窒素を固溶させた試料を作製できたことを確認した。
(5) 窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層:Diffusion layer)の耐食性評価
耐食性を評価するため、pH12からpH4までpH1刻みでの0.1M Na2SO4水溶液中で、通常の炭素鋼、窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)、および窒素化合物層(補足データ)のアノード分極曲線を測定した。図5は、その結果をpH12からpH4までpH1刻みで9枚の図に示したものである。アノード分極曲線からわかる耐食性を以下にまとめる。
耐食性を評価するため、pH12からpH4までpH1刻みでの0.1M Na2SO4水溶液中で、通常の炭素鋼、窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)、および窒素化合物層(補足データ)のアノード分極曲線を測定した。図5は、その結果をpH12からpH4までpH1刻みで9枚の図に示したものである。アノード分極曲線からわかる耐食性を以下にまとめる。
比較例となる窒化処理していない通常の炭素鋼においては、pH12〜11では、不働態化(溶けにくい状態)であるが、pH10以下では、活性溶解(溶ける)である。他方、実施例である窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)においては、pH12〜6では、不働態化(溶けにくい状態)であるが、pH5以下では、活性溶解(溶ける)である。
この結果から、炭素鋼に窒素を固溶させることによって、より低いpH環境でも不働態化することがわかる。
この結果から、炭素鋼に窒素を固溶させることによって、より低いpH環境でも不働態化することがわかる。
図6は、図5のアノード分極曲線を測定した後の、試料表面写真で、pH12からpH4までpH1刻みで通常の炭素鋼(マトリクス)、窒素化合物層および窒素拡散層の3層について示す図である。
比較例となる窒化処理していない通常の炭素鋼においては、pH12では、表面の金属光沢を保つが、pH11以下では、表面に腐食生成物が形成される。他方、実施例である窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)においては、pH12〜7では、表面の金属光沢を保つが、pH7以下では、表面に腐食生成物が形成される。
この結果からも、炭素鋼に窒素を固溶させることによって、鉄鋼材料が溶けにくくなることがわかる(耐食性の改善)。
比較例となる窒化処理していない通常の炭素鋼においては、pH12では、表面の金属光沢を保つが、pH11以下では、表面に腐食生成物が形成される。他方、実施例である窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)においては、pH12〜7では、表面の金属光沢を保つが、pH7以下では、表面に腐食生成物が形成される。
この結果からも、炭素鋼に窒素を固溶させることによって、鉄鋼材料が溶けにくくなることがわかる(耐食性の改善)。
図7は、図5に示したアノード分極曲線の0.2Vにおける電流密度を、示す図である。図中、縦軸の電流密度は金属の溶解速度を示し、横軸はpHである。pH6〜10の環境において、窒素を固溶させた炭素鋼の溶解速度は、通常の炭素鋼と比較して、1000分の1以下であることがわかる。
(6) 固溶窒素の溶解機構:窒素固溶による不働態化(耐食性向上)のメカニズム
図8は、N(窒素)の電位‐pHの関係を示す図である。この図から、炭素鋼中に固溶している窒素が溶解した場合、環境中にアンモニウムイオン(NH4 +)および硝酸イオン(NO3 −)を生成すると考えられる。
環境中にアンモニウムイオン(NH4 +)が生成される場合、式1の反応によって環境中がアルカリ化すると考えられる。鉄鋼材料はアルカリ性環境中で不働態化する(溶けにくくなる)ことが知られている。
図8は、N(窒素)の電位‐pHの関係を示す図である。この図から、炭素鋼中に固溶している窒素が溶解した場合、環境中にアンモニウムイオン(NH4 +)および硝酸イオン(NO3 −)を生成すると考えられる。
環境中にアンモニウムイオン(NH4 +)が生成される場合、式1の反応によって環境中がアルカリ化すると考えられる。鉄鋼材料はアルカリ性環境中で不働態化する(溶けにくくなる)ことが知られている。
(9) 固溶窒素の溶解により生じるイオン種の効果解析:固溶窒素による不働態化のメカニズム
上記アンモニウムイオンあるいは硝酸イオンの効果で、窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)がpH6以上の環境で不働態化したのであれば、窒素拡散層から生成されるそれらイオン種が金属表面に留まらない条件を作り出し、図5(g)と同じ0.1M Na2SO4水溶液環境(pH6)でアノード分極曲線を測定した場合、窒素拡散層は不働態化しないものと考えられる。
そこで図9に、通常の炭素鋼および窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)を回転速度200rpmで回転させながらpH6の0.1M Na2SO4水溶液環境でアノード分極曲線を測定した結果を示す。
回転速度200rpmで回転させることにより、固溶窒素の溶解により金属表面に生じたイオン種はバルク溶液中へと移動する。200rpmで回転させながらアノード分極曲線を測定した結果、窒素拡散層は不働態化しなかった。(回転させなかった場合は不働態化した。図5(g)参照のこと。)この結果から、固溶窒素の溶解によって環境中に生じるイオン種が不働態化をもたらしているものと判断できる。
上記アンモニウムイオンあるいは硝酸イオンの効果で、窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)がpH6以上の環境で不働態化したのであれば、窒素拡散層から生成されるそれらイオン種が金属表面に留まらない条件を作り出し、図5(g)と同じ0.1M Na2SO4水溶液環境(pH6)でアノード分極曲線を測定した場合、窒素拡散層は不働態化しないものと考えられる。
そこで図9に、通常の炭素鋼および窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)を回転速度200rpmで回転させながらpH6の0.1M Na2SO4水溶液環境でアノード分極曲線を測定した結果を示す。
回転速度200rpmで回転させることにより、固溶窒素の溶解により金属表面に生じたイオン種はバルク溶液中へと移動する。200rpmで回転させながらアノード分極曲線を測定した結果、窒素拡散層は不働態化しなかった。(回転させなかった場合は不働態化した。図5(g)参照のこと。)この結果から、固溶窒素の溶解によって環境中に生じるイオン種が不働態化をもたらしているものと判断できる。
(10) アンモニウムイオン(NH4 +)の生成による金属表面のアルカリ化の効果解析:固溶窒素による不働態化のメカニズム
式1の反応で固溶窒素が溶解すると、金属表面がアルカリ化し、このアルカリ化によって窒素を固溶させた炭素鋼がpH6以上で不働態化したものと推察される。
これを証明するため、金属表面のアルカリ化を妨げる作用を加えた水溶液中で、図5(g)と同じ0.1M Na2SO4水溶液環境(pH6)でアノード分極曲線を測定し、表面のアルカリ化を妨げた場合は不働態化しない(活性溶解する)ことを示した。
式1の反応で固溶窒素が溶解すると、金属表面がアルカリ化し、このアルカリ化によって窒素を固溶させた炭素鋼がpH6以上で不働態化したものと推察される。
これを証明するため、金属表面のアルカリ化を妨げる作用を加えた水溶液中で、図5(g)と同じ0.1M Na2SO4水溶液環境(pH6)でアノード分極曲線を測定し、表面のアルカリ化を妨げた場合は不働態化しない(活性溶解する)ことを示した。
図10は、酢酸系緩衝液(pH6)を用いた0.1M Na2SO4水溶液中にて通常の炭素鋼および窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)のアノード分極曲線を測定した結果を示す図である。
金属表面のアルカリ化を妨げる環境中では、窒素拡散層は活性溶解し、不働態化しなかった。この結果から、炭素鋼中に窒素を固溶させることにより、固溶窒素が溶解して環境をアルカリ化することにより、pH6以上の環境中で炭素鋼を不働態化させることが可能であることが明らかになった。
金属表面のアルカリ化を妨げる環境中では、窒素拡散層は活性溶解し、不働態化しなかった。この結果から、炭素鋼中に窒素を固溶させることにより、固溶窒素が溶解して環境をアルカリ化することにより、pH6以上の環境中で炭素鋼を不働態化させることが可能であることが明らかになった。
(11) 硝酸イオン(NO3 −)の生成による効果解析:固溶窒素による不働態化のメカニズム
ステンレス鋼においては、硝酸イオン(NO3 −)が存在すると耐孔食性が改善したり、不働態化しやすくなることが報告されているが、炭素鋼の耐食性に及ぼす硝酸イオン(NO3 −)の影響に関する公知文献は発見できなかった。そこで、炭素鋼の耐食性に及ぼす硝酸イオン(NO3 −)の影響を解析した。
固溶窒素の溶解により金属表面がアルカリ化する影響を排除するため、ほう酸緩衝液(pH8.45)を用いた0.1M Na2SO4水溶液中にて、(a)通常の炭素鋼、(b)窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)、および(c)水溶液中に0.1M NaNO3として硝酸イオン(NO3 −)を添加した通常の炭素鋼のアノード分極曲線を測定した。
ステンレス鋼においては、硝酸イオン(NO3 −)が存在すると耐孔食性が改善したり、不働態化しやすくなることが報告されているが、炭素鋼の耐食性に及ぼす硝酸イオン(NO3 −)の影響に関する公知文献は発見できなかった。そこで、炭素鋼の耐食性に及ぼす硝酸イオン(NO3 −)の影響を解析した。
固溶窒素の溶解により金属表面がアルカリ化する影響を排除するため、ほう酸緩衝液(pH8.45)を用いた0.1M Na2SO4水溶液中にて、(a)通常の炭素鋼、(b)窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)、および(c)水溶液中に0.1M NaNO3として硝酸イオン(NO3 −)を添加した通常の炭素鋼のアノード分極曲線を測定した。
図11はその結果を示す図である。不働態域(0〜0.5V)における(a)通常の炭素鋼と(b)窒素拡散層の電流密度(溶解速度)には、大きい所で10倍以上の差がある。しかし、(c)硝酸イオン(NO3 −)を添加した水溶液中における通常の炭素鋼のアノード分極曲線は、(b)窒素拡散層と一致した。
この結果から、硝酸イオン(NO3 −)は炭素鋼を不働態化しやすくするイオン種であることが明らかであり、さらに炭素鋼中に窒素を固溶させることによって、固溶窒素の溶解によって環境中に硝酸イオン(NO3 −)が生成し、これによってpH6以上の環境中でも炭素鋼が不働態化したものと考えられる。
この結果から、硝酸イオン(NO3 −)は炭素鋼を不働態化しやすくするイオン種であることが明らかであり、さらに炭素鋼中に窒素を固溶させることによって、固溶窒素の溶解によって環境中に硝酸イオン(NO3 −)が生成し、これによってpH6以上の環境中でも炭素鋼が不働態化したものと考えられる。
(12) 仕事関数の増加:固溶窒素による不働態化のメカニズム
炭素鋼に窒素を固溶させることによって、炭素鋼自体の仕事関数が増加し、金属自体の性質として溶解しにくくなることが考えられる。
仕事関数とは、固体内にある電子1つを真空無限遠に取り出す際に必要となるエネルギーのことで、また、溶解しにくい金などの貴金属の方が、鉄などの溶解しやすい金属よりも仕事関数が高いことが知られている。溶解反応も、金属原子から電子を取り出し金属イオンにする反応であるため、仕事関数が大きいほど溶解しにくいという考えは理論的に受け入れられる。しかし、仕事関数の大小で耐食性を研究した公知文献は見当たらず、本発明者は新たな切り口で耐食性の検討を行ったものである。
炭素鋼に窒素を固溶させることによって、炭素鋼自体の仕事関数が増加し、金属自体の性質として溶解しにくくなることが考えられる。
仕事関数とは、固体内にある電子1つを真空無限遠に取り出す際に必要となるエネルギーのことで、また、溶解しにくい金などの貴金属の方が、鉄などの溶解しやすい金属よりも仕事関数が高いことが知られている。溶解反応も、金属原子から電子を取り出し金属イオンにする反応であるため、仕事関数が大きいほど溶解しにくいという考えは理論的に受け入れられる。しかし、仕事関数の大小で耐食性を研究した公知文献は見当たらず、本発明者は新たな切り口で耐食性の検討を行ったものである。
図12は、大気中光電子収量分光分析により測定した、通常の炭素鋼、窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)、および窒素化合物層の各励起エネルギーにおける光電子放出強度を示す図である。
そして、図12に示す各励起エネルギーと光電子放出強度から求めた仕事関数を表1に示す。窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)は、通常の炭素鋼と比較して、仕事関数が大きいことが明らかである。
この結果から、窒素を固溶させた炭素鋼がpH6の環境中でも不働態化した要因は、窒素を固溶させることにより仕事関数が大きくなり、材料自体の性質として溶けにくくなったことも考えられる。
そして、図12に示す各励起エネルギーと光電子放出強度から求めた仕事関数を表1に示す。窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)は、通常の炭素鋼と比較して、仕事関数が大きいことが明らかである。
この結果から、窒素を固溶させた炭素鋼がpH6の環境中でも不働態化した要因は、窒素を固溶させることにより仕事関数が大きくなり、材料自体の性質として溶けにくくなったことも考えられる。
以上の結果から、次のことがいえる。
(1) 鉄鋼材料中に窒素を固溶させることにより、固溶窒素の溶解によって鉄鋼材料の溶解を抑制するイオン種を自己生成し、鉄鋼材料自体を不働態化させる(溶解しにくくする)ことを発見した。
(2) 鉄鋼材料中に窒素を固溶させると、溶解してイオン種を生成するだけではなく、金属材料自体の仕事関数を大きくし、材料自体の性質として溶解しにくくなる。
(1) 鉄鋼材料中に窒素を固溶させることにより、固溶窒素の溶解によって鉄鋼材料の溶解を抑制するイオン種を自己生成し、鉄鋼材料自体を不働態化させる(溶解しにくくする)ことを発見した。
(2) 鉄鋼材料中に窒素を固溶させると、溶解してイオン種を生成するだけではなく、金属材料自体の仕事関数を大きくし、材料自体の性質として溶解しにくくなる。
続いて、本発明の発明特定事項について説明する。
〈1.固溶窒素量〉
金属材料中へ窒素を固溶させることによって、アンモニウムイオンや硝酸イオンを効果的な量(金属材料を不働態化させるために必要な量)を環境中に生成させるためには、窒素固溶量を質量%で0.04%以上とする。
図2より、実施例で使用した、窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)中の窒素濃度は0.1〜0.04%であった。そのため、下限値は0.04%とした。上限値は窒素を固溶させる金属材料に固有のものである。しかし、窒素固溶量を徒に増やしても、窒化処理による防食性の改善は選らないため、上限値を炭素鋼の代表的な組織であるフェライト相の窒素固溶限上限値である0.1%とした。なお、鉄鋼材料がマルテンサイト相の場合は、窒素固溶限上限値は0.12質量%である。また、鉄鋼材料がオーステナイト相の場合は、窒素固溶限上限値は2.6質量%である。
〈1.固溶窒素量〉
金属材料中へ窒素を固溶させることによって、アンモニウムイオンや硝酸イオンを効果的な量(金属材料を不働態化させるために必要な量)を環境中に生成させるためには、窒素固溶量を質量%で0.04%以上とする。
図2より、実施例で使用した、窒素を固溶させた炭素鋼(窒素拡散層)中の窒素濃度は0.1〜0.04%であった。そのため、下限値は0.04%とした。上限値は窒素を固溶させる金属材料に固有のものである。しかし、窒素固溶量を徒に増やしても、窒化処理による防食性の改善は選らないため、上限値を炭素鋼の代表的な組織であるフェライト相の窒素固溶限上限値である0.1%とした。なお、鉄鋼材料がマルテンサイト相の場合は、窒素固溶限上限値は0.12質量%である。また、鉄鋼材料がオーステナイト相の場合は、窒素固溶限上限値は2.6質量%である。
〈2. 対象とする金属材料〉
対象とする金属材料は、鉄鋼材料とする。鉄鋼材料とは、鉄を主成分とした金属材料で、本実験(実施例)では鉄以外の合金元素が比較的少ない炭素鋼を用いた。一方で、合金元素の比較的多いステンレス鋼(オーステナイト系)では、窒素濃度の下限量0.04%よりも多い窒素を固溶できることが報告されている(非特許文献1、2参照)。このことから、合金元素が少ないものから多いものまで、鉄鋼材料であれば窒素濃度の下限量0.04%以上を固溶できることが明らかである。
対象とする金属材料は、鉄鋼材料とする。鉄鋼材料とは、鉄を主成分とした金属材料で、本実験(実施例)では鉄以外の合金元素が比較的少ない炭素鋼を用いた。一方で、合金元素の比較的多いステンレス鋼(オーステナイト系)では、窒素濃度の下限量0.04%よりも多い窒素を固溶できることが報告されている(非特許文献1、2参照)。このことから、合金元素が少ないものから多いものまで、鉄鋼材料であれば窒素濃度の下限量0.04%以上を固溶できることが明らかである。
〈3. 鉄鋼材料中に窒素を固溶させる領域とその濃度〉
窒素は、鉄鋼材料の表面から深さ方向に向けて20μm以上の範囲で、0.04%以上であって、当該耐食性鉄鋼材料の固溶上限値以下の範囲で固溶していることとする。実施例では図2に示す通り、表面から深さ方向に向けて20μm以上の範囲で0.04%以上の窒素が固溶した試料を用いており、そのため下限値を上記のように設定した。
鉄鋼材料中への窒素の固溶量(過飽和固溶量も含む)は組織に依存して決まる。鉄鋼組織の中では、オーステナイト相の窒素固溶量が最も大きいため、オーステナイト相を有する鉄鋼組織では2.6%を上限値に設定する。
窒素は、鉄鋼材料の表面から深さ方向に向けて20μm以上の範囲で、0.04%以上であって、当該耐食性鉄鋼材料の固溶上限値以下の範囲で固溶していることとする。実施例では図2に示す通り、表面から深さ方向に向けて20μm以上の範囲で0.04%以上の窒素が固溶した試料を用いており、そのため下限値を上記のように設定した。
鉄鋼材料中への窒素の固溶量(過飽和固溶量も含む)は組織に依存して決まる。鉄鋼組織の中では、オーステナイト相の窒素固溶量が最も大きいため、オーステナイト相を有する鉄鋼組織では2.6%を上限値に設定する。
〈4. 鉄鋼材料中に窒素を固溶させる方法〉
鉄鋼材料中に窒素を固溶させる方法は、鉄鋼材料製造時に窒素ガスまたは窒化物として添加しても、あるいは鉄鋼材料完成後に窒素ガスを用いて表面処理として鉄鋼材料中に含有させるのでも、またはそれ以外の方法でも良い。
本実施例では、鉄鋼材料完成後に窒素ガスを用いた表面処理(プラズマ窒化処理)によって、鉄鋼材料中に窒素を固溶させた。一方で、非特許文献1の試料は、鉄鋼材料製造時に窒化ガスとして添加したものと判断される。窒素を固溶させる方法は、ガス窒化法、ガス軟窒化法、塩浴窒化法、放電プラズマ窒化(イオン窒化)法等の一般的なものでよい。
鉄鋼材料中に窒素を固溶させる方法は、鉄鋼材料製造時に窒素ガスまたは窒化物として添加しても、あるいは鉄鋼材料完成後に窒素ガスを用いて表面処理として鉄鋼材料中に含有させるのでも、またはそれ以外の方法でも良い。
本実施例では、鉄鋼材料完成後に窒素ガスを用いた表面処理(プラズマ窒化処理)によって、鉄鋼材料中に窒素を固溶させた。一方で、非特許文献1の試料は、鉄鋼材料製造時に窒化ガスとして添加したものと判断される。窒素を固溶させる方法は、ガス窒化法、ガス軟窒化法、塩浴窒化法、放電プラズマ窒化(イオン窒化)法等の一般的なものでよい。
〈5. 鉄鋼材料中での窒素の状態〉
アンモニウムイオンや硝酸イオンなど、鉄鋼材料を不働態化させるイオン種を生成させるためには、窒素が鉄鋼材料中に“固溶”していることが重要であり、窒化物として存在した場合にはそのような効果を示さないと判断される。図5の窒素化合物層(窒化物)のアノード分極曲線より、窒化物は絶縁物質であり、ほとんど溶解しないことがわかる。溶解しなければアンモニウムイオンや硝酸イオンなども生成されないため、上記のような効果をもたらすためには、窒素が鉄鋼材料中に固溶していることが重要である。
アンモニウムイオンや硝酸イオンなど、鉄鋼材料を不働態化させるイオン種を生成させるためには、窒素が鉄鋼材料中に“固溶”していることが重要であり、窒化物として存在した場合にはそのような効果を示さないと判断される。図5の窒素化合物層(窒化物)のアノード分極曲線より、窒化物は絶縁物質であり、ほとんど溶解しないことがわかる。溶解しなければアンモニウムイオンや硝酸イオンなども生成されないため、上記のような効果をもたらすためには、窒素が鉄鋼材料中に固溶していることが重要である。
本発明の耐食性に優れた鉄鋼材料は、特に橋梁など維持管理の遂行が困難な構造物や、自動車用鋼材のような特に軽量化と溶接性・強度を両立させた構造材料に用いて好適である。
Claims (10)
- 表面に窒素拡散層を有する耐食性鉄鋼材料であって、
この窒素拡散層に、窒素が0.04質量%以上であって、当該耐食性鉄鋼材料の固溶上限値以下の範囲で固溶していることを特徴とする耐食性鉄鋼材料。 - 請求項1に記載の耐食性鉄鋼材料であって、
当該耐食性鉄鋼材料がフェライト相よりなると共に、この窒素拡散層に窒素が0.04質量%以上0.1質量%以下の範囲で固溶していることを特徴とする耐食性鉄鋼材料。 - 請求項1に記載の耐食性鉄鋼材料であって、
当該耐食性鉄鋼材料がマルテンサイト相よりなると共に、この窒素拡散層に窒素が0.04質量%以上0.12質量%以下の範囲で固溶していることを特徴とする耐食性鉄鋼材料。 - 請求項1に記載の耐食性鉄鋼材料であって、
当該耐食性鉄鋼材料がオーステナイト相よりなると共に、この窒素拡散層に窒素が0.04質量%以上2.6質量%以下の範囲で固溶していることを特徴とする耐食性鉄鋼材料。 - 前記窒素拡散層は、表面から内部側に少なくとも20μm以上の深さで設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の耐食性鉄鋼材料。
- 請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の耐食性鉄鋼材料であって、
さらに、当該耐食性鉄鋼材料の最表面に形成された窒素化合物層を有し、
この窒素化合物層よりも内部側に少なくとも20μm以上の深さで設けられている窒素拡散層を有していることを特徴とする耐食性鉄鋼材料。 - 元素組成が、質量%で、
C:0.08−0.61%、
Si:0.15−0.35%、
Mn:0.30−0.90%、
残部が実質的にFe及び不可避的不純物からなり、
組織がフェライト‐パーライト組織からなる炭素鋼より形成されることを特徴とする請求項1、5又は6のいずれか1項に記載の耐食性鉄鋼材料。 - 請求項1乃至7のいずれか1項に記載の耐食性鉄鋼材料を、pH6以上pH10以下の範囲で使用する方法。
- 鉄鋼材料に窒化処理を行なって、最表面よりも内部側に少なくとも20μm以上の深さで窒素拡散層を形成すると共に、
この窒素拡散層に窒素が0.04質量%以上であって、当該耐食性鉄鋼材料の固溶上限値以下の範囲で固溶させてあることを特徴とする耐食性鉄鋼材料の製造方法。 - 請求項1乃至7のいずれか1項に記載の耐食性鉄鋼材料を使用した陸上移動用車両、船舶、海洋構造物、海中構造物または鋼製橋梁構造物。
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Cited By (1)
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---|---|---|---|---|
WO2022230317A1 (ja) * | 2021-04-26 | 2022-11-03 | 株式会社日立製作所 | 軟磁性鉄合金板、該軟磁性鉄合金板の製造方法、該軟磁性鉄合金板を用いた鉄心および回転電機 |
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-
2016
- 2016-09-15 JP JP2016180336A patent/JP2018044212A/ja active Pending
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