JP2012036495A - 窒化処理機械部品の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】窒化処理において、機械部品の低歪みを維持しながら、高い表層硬さと深い硬化層とを比較的短時間(数時間程度)の処理で生成する。
【解決手段】本実施の形態による製造方法は、鋼材を準備する工程と、式(1)〜式(4)により定義されるオーステナイト体積分率Fγ(T)の値が0.10≦Fγ(T)≦0.60を満たし、かつ700℃以上となる窒化処理温度T(℃)で、鋼材に対して窒化処理を行う工程と、窒化処理後、鋼材を急冷する工程とを備える。
K=44.7×Si−30×Mn−11×Cr (1)
Xα(T)=(910−T)/8394 (2)
Xγ(T)=(910+K−T)/41209 (3)
Fγ(T)=(C−Xα)/(Xγ−Xα) (4)
ここで、式(1)及び式(4)中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
【選択図】図7

Description

本発明は、窒化処理機械部品の製造方法に関し、さらに詳しくは、疲労特性や耐摩耗性に優れた窒化処理機械部品の製造方法に関する。
機械部品の疲労強度や耐摩耗性を向上するために、表面硬化処理が施される。たとえば、自動車の変速機として使用される歯車やベルト式無段変速機(CVT)用プーリでは通常、表面硬化処理として、浸炭焼入れや浸炭窒化焼入れが施される。自動車のエンジンのクランクシャフトでは、窒化の一種である軟窒化が施されることがある。
浸炭(および浸炭窒化)処理と窒化処理との大きな違いは、その処理温度にある。浸炭(および浸炭窒化)処理では、機械部品に成形された鋼材のミクロ組織がオーステナイト単相になるような温度以上、すなわち金相学の用語でいうA点以上になるまで加熱する。
鋼材を加熱してオーステナイト単相に保持している間、炭素は表面から鋼材中に次々に侵入する。そして、侵入した炭素は内部に向かって拡散する。そのため、鋼材の表層に、炭素濃度が高くなった領域が形成される。
上述の加熱温度で鋼材を所定の時間保持した後、鋼材を室温付近まで急冷する。すなわち、浸炭処理後の鋼材を焼入れする。このとき、炭素濃度の高い鋼材の表層付近は、マルテンサイト変態を起こして著しく硬化する。浸炭処理では、高温で炭素が侵入するため、鋼材中での炭素の拡散が活発になる。そのため、数時間の浸炭処理でも、硬化する深さは一般に数百μmから数ミリメートルと大きく、深い硬化層が得られる。
しかしながら、浸炭処理では、オーステナイト単相になるような温度から焼入れを行うために、比較的大きな歪みが発生する。その結果、部品の寸法変化が大きいという問題点がある。たとえば、歯車を浸炭処理する場合、焼入れ後に研削処理を行って、部品の寸法精度を確保しなければならないことも多い。
一方、窒化(及び軟窒化)処理では、機械部品に成形された鋼材のミクロ組織が実質的に室温と同じ状態となる温度で保持して、表面から窒素(軟窒化の場合にはわずかの炭素が混在)を侵入させる。換言すれば、浸炭(および浸炭窒化)処理のように、鋼材のミクロ組織がオーステナイトへ変態しない温度域で窒化(及び軟窒化)処理が行われる。すなわち金相学の用語でいうA点以下の温度で「浸窒」が図られる。以降、本明細書において、「窒化処理」とは、軟窒化処理も含む。
窒化処理において、上記処理温度で保持している間、窒素は表面から鋼材に次々に侵入し、侵入した窒素は内部に向かって拡散していく。そのため、鋼材表層に窒素濃度が高くなった領域が形成される。
窒化処理は、上述のとおり、変態温度(A点)以下で鋼材を処理する。そのため、処理温度から室温まで急冷してもマルテンサイト変態は起こらない。鋼材の表層付近の硬化は、固溶した窒素原子による固溶強化や、合金元素の窒化物析出による析出強化に起因している。比較的低温で窒素を侵入させるために、窒素の拡散は、浸炭処理での炭素のように活発ではなく、硬化する深さは一般に数十μmからせいぜい数百μmと小さい。つまり、窒化処理では形成される硬化層の深さは浅い。浸炭焼入れ材なみの高い表層硬さを得ようとすれば、合金元素の窒化物析出を十分に起こさせる必要があるために、処理時間が十数時間から長くは数十時間に及ぶという問題点がある。
しかしながら、窒化処理では、浸炭焼入れのような大きな歪みが発生しない。そのため、部品の寸法変化が小さく、寸法安定性も高いのが窒化処理の利点である。
窒化処理のもうひとつの特徴は、窒化処理品の最表層に鉄の窒化物層が形成されることである。この最表層は、化合物層又は白色層と呼ばれ、主にε−FeNとγ’−FeNの二種類の鉄窒化物からなる。ε−FeN単相の緻密な層は耐摩耗性や耐食性に優れる。しかしながら、ε−FeNとγ’−FeNが入り混じった混合相は、外力によって割れやすく脆化する。また、化合物層の自由表面側には空隙を多く含んだ「ポーラス層」と呼ばれる層が形成されることがある。ポーラス層は軟質で脆いので、化合物層が破損しやすくなる。したがって、たとえば、繰り返しの高面圧や衝撃応力が負荷される歯車では、化合物層が剥落して、その破片が歯車に噛み込んで正常な運転を妨げたり、脱落した部分が疲労き裂の起点となって、部品の早期破壊につながったりするという問題点があった。
要約すれば、浸炭処理では、数時間の処理により、高い表層硬さと深い硬化層とが得られるが、部品の歪みが大きい。一方、窒化処理では、部品の歪みは小さいが、高い表層硬さと深い硬化層とを得るには長時間の処理が必要である。さらに、窒化処理では、鋼材の最表層に化合物層が形成され、化合物層は、繰り返しの高面圧や衝撃応力が負荷される用途の製品には好ましくない。
疲労強度や耐摩耗性に優れた機械部品を製造するために、窒化処理に特有の低歪みを維持しながら、高い表層硬さと深い硬化層とを比較的短時間(数時間程度)の処理で生成し、最表層に化合物層が生成するのを抑制しようとする技術が、特開昭57−2826号公報(特許文献1)、特開平6−184727号公報(特許文献2)、特開平11−50141号公報(特許文献3)、特開2007−46088号公報(特許文献4)にそれぞれ開示されている。
特開昭57−2826号公報 特開平6−184727号公報 特開平11−50141号公報 特開2007−46088号公報
特許文献1に開示された鋼材の焼入れ方法では、アンモニアガス主体の雰囲気中で、A点以上で850℃以内の温度範囲で鋼材を加熱する。これにより、表面に窒素を浸透させた状態で鋼材の表層が完全にオーステナイト化し、内部はオーステナイトまたはオーステナイトとフェライトの混合組織になる。その後、A点以下で650℃以内の温度範囲まで徐冷し、適当時間保持する。このとき、鋼材の表層は窒素の影響でオーステナイトのままであり、内部はフェライト組織に戻る。その後急冷すると、表層のオーステナイトがマルテンサイトになり、比較的深い硬化層を有しながら、変形がきわめて少ない鋼材が得られる。
特許文献1では、鋼材の組成と加熱温度の組み合わせ次第では、A点以上で850℃以内の温度範囲で加熱しても、表層だけでなく内部も完全にオーステナイト化されてしまう場合がある。完全にオーステナイト化された鋼材をそのまま焼き入れると、浸炭焼入れの場合と同様に、部品の歪みが大きくなってしまう。そこで、この処理(一段目の処理)に引き続いて、A点以下で650℃以内の温度範囲まで徐冷し、適当時間保持するという二段目の処理を行う必要がある。このため、特許文献1の方法では、製造工程やエネルギ消費の点で効率的ではない。
特許文献2に開示された鉄鋼製部品の表面硬化処理方法では、窒素(N)との化学親和力の強い元素を含む鋼材を素材とする部品を、アンモニアを混合した雰囲気中で600〜900℃に加熱して浸窒させる。その後、室温まで急速冷却する。その後、400〜600℃で析出硬化処理するか、又は600〜900℃に加熱して浸窒させた後、直ちに400〜600℃まで急冷し、析出硬化させる。
特許文献2の方法では、鋼材の組成と加熱温度の組み合わせ次第では、表層がオーステナイト化しなかったり、逆に表層だけでなく内部も完全にオーステナイト化されてしまったりする場合がある。そのため、前者の場合には窒素侵入が促進されなかったり、後者の場合には室温まで急速冷却した際に部品が大きく歪んでしまうという問題が生じる。さらに、析出硬化処理として、二段目の処理を行う必要があるので、特許文献1と同様に、製造工程やエネルギ消費の点で効率的ではない。
特許文献3で開示された鋼製部品の表面硬化処理方法では、鋼製部品を、Fe−N系のA点である590℃未満の温度でガス軟窒化処理する。その後、鋼製部品を590℃以上かつその鋼材に特有のA点(炭素鋼の場合は723℃)未満の温度に加熱して、窒素の拡散層を部分的にオーステナイト組織にする。続いて、急冷してオーステナイト組織をマルテンサイト組織に変えて拡散層の硬さを高める。
特許文献3の方法では、590℃未満の温度でガス軟窒化処理する際に、拡散層に鉄の窒化物(γ’−FeN)が析出することがある。いったん析出したγ’−FeNはその後の昇温工程でも完全には溶解しない。そのため、鋼材がオーステナイト化しにくいという問題が生じる。さらに、最表層には化合物層が形成されたままである。そのため、繰り返しの高面圧や衝撃応力が負荷される歯車用途では、化合物層の剥落が問題となる。
特許文献4で開示された浸窒焼入品及びその製造方法では、鉄または鉄合金の被処理品に化合物層を発生させないで、より短時間で窒素の浸透処理を行い、この後焼入れを行って十分に高い硬さの硬化層を得ることを目的とする。特許文献4では、600〜800℃に保持した炉内にアンモニアガスを導入して、被処理品中に0.05〜1.50%の濃度で窒素が拡散するように制御し、その後焼入れを行う。
特許文献4では、SPCC(冷間圧延鋼板および鋼帯)やSC(機械構造用炭素鋼鋼材)素材の板状の部品において、耐摩耗性および耐食性に優れた浸窒焼入れ品が得られると記載されている。しかしながら、クランクシャフトや歯車のように高い疲労強度が要求される部品では、疲労強度を高めるために、硬化層の形成に加えて、芯部硬さを高めることや、焼入れ性を確保することが極めて重要である。芯部硬さや焼入れ性を得るために、鋼材には各種の合金元素が添加されるが、特許文献4では、鍛造によって作られる部品の疲労強度を向上させるための方法はなんら開示されていない。
特許文献1〜特許文献4に代表されるように、これまでに提案された窒化処理技術では、疲労強度や耐摩耗性に優れた機械部品を製造するために、窒化処理に特有の低歪みを維持しながら、高い表層硬さと深い硬化層とを比較的短時間(数時間程度)の処理で生成させ、かつ、最表層に化合物層が形成するのを抑制することが困難であった。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであって、自動車の変速機として使用される歯車やベルト式無段変速機(CVT)用プーリ、及び自動車のエンジンのクランクシャフトのように、優れた疲労強度と高い耐摩耗性を要求される機械部品の製造方法において、低歪みを維持しながら、高い表層硬さと深い硬化層とを比較的短時間(数時間程度)の処理で生成させ、最表層に化合物層が生成するのを抑制する、窒化処理機械部品の製造方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段及び発明の効果
本発明の実施の形態による窒化処理機械部品の製造方法は、質量%で、C:0.05〜0.42%、Si:0.05〜0.80%、Mn:0.40〜1.60%、P:0.05%以下、S:0.10%以下、Cr:0.05〜2.0%、Al:0.001〜0.050%及びN:0.003〜0.030%を含有し、残部はFeおよび不純物からなる鋼材を準備する工程と、式(1)〜式(4)で定義されるオーステナイト体積分率Fγ(T)が0.10≦Fγ(T)≦0.60を満たし、かつ700℃以上である窒化処理温度T(℃)で、鋼材に対して窒化処理を行う工程と、窒化処理後、鋼材を急冷する工程とを備える。
K=44.7×Si−30×Mn−11×Cr (1)
Xα(T)=(910−T)/8394 (2)
Xγ(T)=(910+K−T)/41209 (3)
Fγ(T)=(C−Xα)/(Xγ−Xα) (4)
ここで、式(1)及び式(4)中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
本発明の実施の形態による窒化処理機械部品の製造方法では、低歪みを維持しながら、高い表層硬さと深い硬化層とを比較的短時間(数時間程度)の処理で生成でき、かつ、最表層に化合物層が生成するのを抑制することができる。
好ましくは、鋼材はさらに、Feの一部に替えて、質量%で、Mo:0.60%以下、V:0.60%以下、Cu:0.60%以下及びNi:0.60%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する。窒化処理を行う工程では、式(1)に替えて、式(5)を利用してKを求める。
K=44.7×Si−30×Mn−11×Cr+31.5×Mo+104×V−20×Cu−15.2×Ni (5)
ここで、式(5)式中の元素記号はその元素の質量%での含有量を表す。
好ましくは、鋼材はさらに、Feの一部に替えて、質量%で、Ti:0.10%以下を含有する。
好ましくは、鋼材はさらに、Feの一部に替えて、質量%で、Ca:0.005%以下を含有する。
好ましくは、窒化処理は、アンモニアガスを含む雰囲気の熱処理炉内で行う。窒化処理を行う工程では、窒化処理温度T(℃)において予め求めた熱処理炉の有効体積に基づいて、窒化処理中の有効体積1mあたりのアンモニアガス流量を{0.4+(T−700)×0.003}〜{3.0+(T−700)×0.03}リットル/分以下にする。
図1は、鉄−炭素系状態図の模式図である。 図2は、実施例の小野式回転曲げ疲労試験に用いた試験片の平面図及び側面図である。 図3は、実施例のブロックオンリング摩耗試験に用いたブロック試験片の斜視図である。 図4は、実施例の歪み量測定に用いたCリング試験片の平面図及び側面図である。 図5は、実施例で行った窒化処理を説明するための模式図である。 図6(A)は、実施例に用いたブロックオンリング試験機の模式図であり、図6(B)は、ブロックオンリング試験後のブロック試験片の接触面近傍の拡大図である。 オーステナイト体積分率Fγの値と、有効硬化層深さとの関係を示す図である。 オーステナイト体積分率Fγの値と、疲労強度との関係を示す図である。 オーステナイト体積分率Fγの値と、変形量(処理歪みの大きさ)との関係を示す図である。
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。以下、元素の含有量の「%」は、質量%を意味する。
本発明者らは、種々の成分の機械構造用鋼材を用いて、様々な条件で窒化処理の実験を行った。そして、窒化条件を変化させたときの窒化処理材の疲労強度および耐摩耗性の変化、硬化層のミクロ組織の発達挙動及び窒化処理後の歪みの大きさを詳細に調査した。中でも、本発明者らは、低歪みを維持しながら、高い表層硬さと深い硬化層とを比較的短時間(数時間程度)の処理で生成し、最表層に化合物層が生成するのを抑制する窒化条件に関して研究した。その結果、本発明者らは、下記(a)〜(l)の知見を得た。
(a)オーステナイトが生成している状態で窒化処理を行うと、窒素の侵入量が増大する。そのため、鋼材の表層の窒素濃度は、オーステナイトが生成していない状態で窒化処理を行う場合よりも高くなる。これは、オーステナイト中での窒素の溶解度の方が、フェライト中やパーライト中での窒素の溶解度よりも大きいからである。
(b)オーステナイトが生成している状態で窒化処理を行うと、窒素の侵入深さ、すなわち硬化深さが増大する。しかしながら、鋼材中のオーステナイトの量が多くなりすぎると、硬化深さはかえって低下する。すなわち、オーステナイト単相状態で窒化処理を行うよりも、適度の量のフェライトが混在するオーステナイト+フェライトの二相状態で窒化処理を行う方が、より深い硬化層が得られる。これは、フェライト中での窒素の拡散係数の方が、オーステナイト中での窒素の拡散係数よりも大きいためである。
(c)すなわち、適度の量のフェライトが存在すると、窒素原子の侵入速度の低下を抑制することができる。一方、適度の量のオーステナイトが存在すると、窒素の侵入量を高めることができる。窒素の侵入速度が低下するのを抑制しながら、窒素の侵入量を高めるためには、鋼材中のオーステナイト体積分率Fγ(T)が0.10〜0.60であるのが好ましい。
(d)オーステナイト+フェライトの二相状態としてから窒化処理を開始しても、処理の終了段階では、表層は窒素が濃化する。したがって、表層付近はオーステナイト単相の層を形成する。その結果、最表層には化合物層は形成されにくい。
(e)オーステナイト体積分率Fγ(T)を0.10〜0.60にするには、被処理品の化学成分を考慮したA点を推定した後に、窒化処理温度を設定するのが好ましい。
(f)優れた疲労強度を確保するためには、高い表層硬さと深い硬化層とを形成するだけでなく、芯部硬さや焼入れ性を高めることが必要であり、母材である鋼材にSi、Mn及びCrを含有させなければならない。
(g)侵入した窒素は、窒化処理後の急冷により生成されるマルテンサイトの硬度自体を大きくする。さらに、窒素の侵入量が多い部位では、残留オーステナイトが生成する。残留オーステナイトが適度の量生成すれば、繰り返し荷重が付与されたときに、残留オーステナイトが加工誘起マルテンサイトに変態する。加工誘起マルテンサイトの生成により鋼材の強度が高まるため、高い疲労強度が得られる。したがって、高い疲労強度を得るためには、窒化処理後の鋼材の表層の窒素濃度を高くすることが望ましい。
(h)一方、鋼材の表層の窒素濃度が大きくなりすぎると、残留オーステナイトが過剰に生成する。過剰に生成した残留オーステナイトは、繰り返し荷重が付与されても加工誘起マルテンサイトに変態しない。残留オーステナイトの硬度は、マルテンサイトよりも低い。そのため、残留オーステナイトが過剰に生成すれば、疲労強度が低くなる場合がある。疲労強度を高くするためには、表層の窒素濃度を適切な範囲に収め、残留オーステナイト量を制御することが望ましい。
(i)窒化処理時に生成する残留オーステナイト量を制御するには、窒化処理時のアンモニアガスの流量を適切に制御すればよい。窒化処理時のアンモニアガスの流量を制御することは、鋼材表面のアンモニアガスの分圧を制御することに相当する。
(j)残留オーステナイト量を適切な範囲に収めるために必要なアンモニアガスの流量は、窒化処理温度によって変化する。アンモニアガスは熱処理炉に導入されると、雰囲気中、鋼材表面又は炉壁表面で分解され、窒素原子と水素原子とが生成する。アンモニアガスが鋼材表面に到達した場合、窒素原子が鋼材中に侵入し窒化処理に利用される。しかしながら、雰囲気中や炉壁表面でアンモニアガスが分解される場合、生成した窒素原子及び水素原子は反応して、分子状のガス、つまり、窒素ガス(N)及び水素ガス(H)を生成する。したがって、雰囲気中や炉壁表面でアンモニアガスが分解される場合、生成した窒素原子は、窒化処理に有効に利用されない。アンモニアガスの分解速度は高温ほど大きくなる。したがって、窒化処理温度が高くなるほど、炉に導入されるアンモニアガス量に対する窒化処理に有効に利用されるアンモニアガス量が少なくなる。
(k)残留オーステナイト量を適切な範囲に収めるために必要なアンモニアガスの流量は、(i)に示す窒化処理温度だけでなく、窒化処理温度における熱処理炉の有効体積によっても変化する。有効体積は以下のとおり求められる。初めに、熱処理炉を真空に引き、温度T1(℃)及び圧力P1(Pa)において体積V1(m)に相当する量の不活性ガスを炉内に導入して炉温をT1℃にする。次に、炉温をT(T>T1)℃に昇温し、所定時間保持する。保持後の炉内圧力P2(Pa)を測定する。炉内においてボイルシャルルの法則が成立する。したがって、窒化処理温度Tの場合の有効体積VE(m)は、ボイルシャルルの法則により、以下のとおり定義される。
VE=P1/P2×(T+273)/(T1+273)×V1 (I)
(l)有効体積1mあたりのアンモニアガス流量を{0.4+(T−700)×0.003}〜{3.0+(T−700)×0.03}リットル/分にすれば、窒化処理機械部品の疲労強度はさらに高まる。
以上の知見に基づいて、本発明者らは、本実施の形態による窒化処理機械部品の製造方法を完成した。以下、本実施の形態による窒化処理機械部品の製造方法について詳述する。
[製造方法の概要]
本実施の形態による窒化処理機械部品の製造方法は、(1)鋼材を準備する工程(鋼材準備工程)と、(2)窒化処理時の窒化処理温度T(℃)を決定し、決定された窒化処理温度T(℃)で、鋼材に対して窒化処理を実施する工程(窒化処理工程)と、(3)窒化処理後の鋼材を急冷する工程(急冷工程)とを備える。以下、それぞれの工程について説明する。
[鋼材準備工程]
以下の化学組成からなる鋼材を準備する。
C:0.05〜0.42%
炭素(C)は、鋼材の強度を決定するのに最も重要な元素である。Cは、生地の強度、すなわち窒化処理後の急冷(焼入れ)では硬化されない芯部硬さを向上する。Cはさらに、窒化処理後急冷したとき、表層付近にマルテンサイトを生成させ、表層硬さを向上する。一方、Cが過剰に含有されると、冷間鍛造性が著しく低下したり、芯部の靱性が低下したり、被削性が低下したりする。したがって、Cの含有量は0.05〜0.42%である。C含有量は0.07%以上であるのが好ましく、0.30%以下であるのが好ましい。
Si:0.05〜0.80%
珪素(Si)は、固溶強化元素として芯部硬さの増大に寄与して疲労強度を改善する。Siはさらに、鋼材の焼入れ性を高める。さらに、Siは窒素との親和力も比較的高いため、窒化処理により鋼材中に侵入する窒素とクラスタを形成する。これにより、硬化層が強化し、疲労強度が向上する。一方、Siが過剰に含有されると、熱間加工性が劣化するとともに、靱性や被削性も劣化する。したがって、Si含有量は、0.05〜0.80%である。Si含有量は0.10%以上であるのが好ましく、0.50%以下であるのが好ましい。
Mn:0.40〜1.60%
マンガン(Mn)は、固溶強化元素として芯部硬さの増大に寄与し、鋼材の靭性を高める。Mnはさらに、疲労強度を改善し、焼入れ性を高める。さらに、Mnは窒素との親和力が高いため、窒化処理により鋼材中に侵入する窒素とクラスタや窒化物を形成する。これにより、硬化層が強化し、疲労強度が向上する。Mnはさらに、Sと結合してMnSを生成し、鋼材の被削性を向上する。一方、Mnが過剰に含有されても、その効果は飽和する。また、Mnが過剰に含有されると、被削性が劣化する場合がある。したがって、Mn含有量は、0.40〜1.60%である。Mn含有量は0.60%以上であるのが好ましく、1.30%以下であるのが好ましい。
P:0.05%以下
燐(P)は不純物である。Pは、粒界偏析して粒界割れを引き起こす。したがって、P含有量は少ない方が好ましい。P含有量は、0.05%以下である。好ましいP含有量は、0.020%以下である。
S:0.10%以下
(硫黄)Sは、鋼に含有される不純物であるが、Mnと結合してMnSを形成して、鋼材の被削性を高める。したがって、鋼材の被削性を向上する場合には、Sが含有される。しかしながら、Sが過剰に含有されると、鋳片内で偏析欠陥が発生したり、熱間加工性が低下したりする。したがって、S含有量は0.10%以下である。被削性を高める効果を得る場合、S含有量は0.010%以上であるのが好ましい。また、S含有量は、0.065%以下であるのが好ましい。
Cr:0.05〜2.0%
クロム(Cr)は、炭素および窒素との親和力が大きく、窒化処理時のオーステナイト中のNの活量を下げて、窒化を促進する。Crはさらに、窒化処理によって鋼材中に侵入する窒素とクラスタや窒化物を形成する。これにより、硬化層が強化し、疲労強度が向上する。Crはさらに、固溶強化によって、窒化後の急冷(焼入れ)で硬化されない芯部硬さを増大させて疲労強度を改善する。Crはさらに、鋼材の焼入れ性を高める。一方、Crが過剰に含有されると、Cr窒化物が粒界に優先的に生成して粒界近傍のCrが欠乏する。その結果、不完全焼入れ組織及び/又は酸化異常層が生成しやすくなり、鋼材の耐摩耗性が劣化する。したがって、Cr含有量は、0.05〜2.0%である。Cr含有量は0.20%以上であるのが好ましく、1.50%以下であるのが好ましい。
Al:0.001〜0.050%
アルミニウム(Al)は脱酸材として、溶製時に鋼に含有される。Alはさらに、窒素と結合してAlNを形成し、結晶粒を微細化する。一方、Alが過剰に含有されると、靭性が劣化する。したがって、Al含有量は0.001〜0.050%である。Al含有量は0.010%以上であるのが好ましく、0.035%以下であるのが好ましい。本実施の形態におけるAl含有量は、酸可溶Al(Sol.Al)の含有量である。
N:0.003〜0.030%
窒素(N)は、Tiと結合してピンニング粒子を形成し、熱間加工時の結晶粒粗大化を抑える。Nはさらに、Alと結合してAlNを形成し、焼準処理や焼鈍処理の工程で、結晶粒を微細化する。Nはさらに、オーステナイト安定化元素であるため、窒化処理中にオーステナイトを生成させやすくする。Nはさらに、固溶強化に寄与して芯部硬さを増大する。一方、Nが過剰に含有されると、インゴット中で気泡欠陥が生成して材質を損なうことがある。したがって、N含有量は、0.003〜0.030%である。N含有量は0.005%以上であるのが好ましく、0.020%以下であるのが好ましい。
本実施の形態による鋼材の化学組成の残部はFe及び不純物からなる。ここでいう不純物は、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップ、あるいは製造過程の環境等から混入される元素をいう。
本実施の形成による鋼材はさらに、Feの一部に替えて、Mo、V、Cu及びNiからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。つまり、これらの元素は選択元素である。これらの元素はいずれも、鋼材の疲労強度を向上する。
Mo:0.60%以下
モリブデン(Mo)は、鋼材の靭性や焼入れ性を高める。Moはさらに、鋼材の表層における不完全焼入れ組織の生成を抑制し、粒界酸化による異常層の生成を抑制する。Moはさらに、鋼材の芯部硬さを高めて疲労強度を向上する。Moが少しでも含有されれば、上記効果が得られる。一方、Moが過剰に含有されると、鋼材の被削性が低下する。さらに、素材コストが嵩む。したがって、Mo含有量は、0.60%以下である。Mo含有量が0.05%以上であれば、上記効果は顕著に得られる。好ましくは、Mo含有量は0.40%以下である。
V:0.60%以下
バナジウム(V)は、炭化物として析出して芯部強度の増大に寄与する。さらに、Vは窒素との親和力が高いため、窒化処理によって侵入する窒素量を増大させて硬化層の硬さ及び鋼材の疲労強度を向上する。Vが少しでも含有されると、上記効果が得られる。一方、Vが過剰に含有されると、V炭化物の析出量が多くなり過ぎて硬さが過度に上昇し、被削性が劣化する。したがって、V含有量は、0.60%以下である。V含有量が0.05%以上であれば、上記効果は顕著に得られる。好ましくは、V含有量は0.40%以下である。
Cu:0.60%以下
銅(Cu)は、フェライトの固溶強化に寄与して芯部硬さを高め、疲労強度を向上する。Cuが少しでも含有されると、上記効果が得られる。一方、Cuが過剰に含有されると、Cuが鋼材の粒界に偏析して熱間割れを誘起することがある。したがって、Cu含有量は0.60%以下である。Cu含有量が0.05%以上であれば、上記効果が顕著に得られる。好ましいCu含有量は0.40%以下である。
Ni:0.60%以下
ニッケル(Ni)は、鋼材の靭性を高めたり、焼入れ性を高めたりする。Niはさらに、フェライト中での固溶強化によって、疲労強度を向上する。Niはさらに、鋼材がCuを含む場合に、Cuに起因する熱間割れを抑制する。Niが少しでも含有されると、上記効果が得られる。一方、Niが過剰に含有されると、上記効果は飽和する。さらに、Niが過剰に含有されると、鋼材の被削性が低下し、素材コストも嵩む。したがって、Ni含有量は、0.60%以下である。Ni含有量が0.05%以上であれば、上記効果が顕著に得られる。好ましくは、Niの含有量は0.40%以下である。
本実施の形態による鋼材はさらに、Feの一部に替えて、Tiを含有してもよい。つまり、Tiは選択元素である。
Ti:0.10%以下
チタン(Ti)は、窒化物、炭化物、炭窒化物のピンニング粒子を形成し、熱間加工時の結晶粒粗大化を抑制する。Tiが少しでも含有されれば、上記効果が得られる。一方、ピンニング粒子として析出しなかった過剰なTiは、鋼中のSと結合して硫化物(TiSあるいはTiS)を形成する。この硫化物の生成により、被削性改善に有用なMnSの生成量が低下する。過剰なTiはさらに、鋼材中のCと結合して炭化物(TiC)を形成し、被削性を劣化する。したがって、Ti含有量は0.10%以下である。Ti含有量が0.005%以上であれば、上記効果が顕著に得られる。Ti含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.05%以下であるのが好ましい。
本実施の形態による鋼材はさらに、Feの一部に替えて、Caを含有してもよい。つまり、Caは選択元素である。
Ca:0.005%以下
カルシウム(Ca)は、鋼材の被削性を高める。Caが少しでも含有されれば、上記効果が得られる。一方、Caが過剰に含有されると、鋳片内で偏析欠陥が発生したり、熱間加工性が低下したりする。したがって、Ca含有量は0.005%以下である。Ca含有量が0.0001%以上であれば、上記効果は顕著に得られる。Ca含有量は0.003%以下とするのが好ましい。
[窒化処理工程]
窒化処理工程では、下記式(1)〜式(4)を用いて窒化処理温度(以下、単に処理温度という)T(℃)を決定する。具体的には、700℃以上であって、かつ、式(4)で定義されるオーステナイト体積分率Fγ(T)が0.10≦Fγ(T)≦0.60を満たす温度T(℃)を、処理温度に決定する。
K=44.7×Si−30×Mn−11×Cr (1)
Xα(T)=(910−T)/8394 (2)
Xγ(T)=(910+K−T)/41209 (3)
Fγ(T)=(C−Xα)/(Xγ−Xα) (4)
鋼材が上記選択元素Mo、V、Cu、Niからなる群から選択された1種又は2種以上を含有する場合、式(1)の替わりに式(5)を用いて、Kを求める。
K=44.7×Si−30×Mn−11×Cr+31.5×Mo+104×V−20×Cu−15.2×Ni (5)
ここで、式(1)、式(4)及び式(5)中の元素記号には、鋼材中の対応する元素の質量%での含有量が代入される。
[式(1)〜式(5)の概要]
式(1)〜式(5)は、上記知見(a)〜(e)に基づいて導かれたものである。具体的には、窒化処理の際に、適度の量のフェライトと適度の量のオーステナイトとが存在すると、窒素原子の侵入速度を低下させることなく、窒素の侵入量を高めることができる。これらの効果を奏するためには、鋼材中のオーステナイトの体積分率Fγ(T)を0.10〜0.60にする。オーステナイトの体積分率Fγ(T)を0.10〜0.60にするには、鋼材の化学組成により鋼材のA点を推定し、推定されたA点から、処理温度T(℃)を設定すればよい。
式(1)〜式(5)は、以上の知見に基づいて定義される。以下、式(1)〜式(5)について説明する。
図1は鉄−炭素系状態図の模式図である。図1の横軸は鋼材の炭素含有量(%)であり、縦軸は温度(℃)である。図1を参照して、鋼材を処理温度T(℃)で窒化処理を行う場合を考える。鋼材中の炭素含有量が、図1に示すC%であると仮定する。この場合、鋼材を温度T(℃)に保持すると、鋼材は、オーステナイト(γ)+フェライト(α)の二相状態となる。このときの鋼材中のオーステナイトとフェライトとの比率(体積率)は、よく知られた「てこの原理」により求められる。図1中に記した「A」がオーステナイト量に対応し、「B」がフェライト量に対応する。したがって、オーステナイト体積分率Fγ(T)は、A/(A+B)で与えられる。AおよびBを炭素含有量で表せば、それぞれ、A=C−Xα(%)、B=Xγ−C(%)となる。以上より、オーステナイト体積分率Fγ(T)は、以下の式(4)で表される。
Fγ(T)=A/(A+B)=(C−Xα)/(C−Xα+Xγ−C)=(C−Xα)/(Xγ−Xα) (4)
ここで、Fγ(T)は、オーステナイト体積分率Fγが処理温度T(℃)の関数であることを明示的に示したものである。以降、オーステナイト体積分率は、Fγ(T)又はFγと記載する。
Xα(%)およびXγ(%)と処理温度T(℃)との関係は、それぞれ図1中の相境界を表す線L1及びL2によって規定される。L1はα/α+γ相境界であり、L2はα+γ/γ相境界である。相境界L2は、オーステナイト+フェライトの二相状態からオーステナイト単相状態に移行する温度、すなわち、A点を、各炭素含有量に対して結んだ曲線である。Xαは、相境界L1上の点における炭素含有量を示し、Xγは、相境界L2上の点における炭素含有量を示す。
相境界L1は、フェライト中の炭素の固溶限が0.0218%と小さな値であるので、直線で近似しても十分である。相境界L1を直線近似すると、T=−8394×Xα+910という式が得られる。これをXαについて解くと、以下の式(2)が得られる。
Xα(T)=(910−T)/8394 (2)
ここで、Xα(T)は、Xαが処理温度Tの関数であることを明示的に示したものである。
相境界L2は、直線で近似するには不十分である。A点は、鋼材中の合金元素の含有量の影響で変動することはよく知られている。そこで、相境界L2は、鋼材中の炭素含有量と主要な合金元素の含有量との関数として記述するのが好ましい。実用的に有用であり、かつ簡略な相境界L2の関数として、AndrewのA点の第一近似式がよく知られている。AndrewのA点の第一近似式はたとえば、W.C. Leslie, The Physical Metallurgy of Steels, McGraw-Hill Inc., 1982、G. Krauss, Steels, Processing, Structure, and Performance, ASM International, 2005及び、K.W. Andrews, J. Iron Steel Inst., 203(1965)721で紹介されている。AndrewのA点の第一近似式は以下のとおりである。
=910−203×√C−15.2×Ni+44.7×Si+104×V+31.5×Mo+13.1×W
上記AndrewのA点の第一近似式には示されていないが、鋼材中によく含まれるMn、Cr及びCuについては、次の式で補足の項として定義されている。この補足の項も、上記文献で紹介されており、よく知られている。
−30×Mn−11×Cr−20×Cu
炭素以外の合金元素に関する項目を「合金元素因子(K)」として取り出し、本実施の形態に関わる範囲内で表すと、以下の式(1)及び式(5)が得られる。
K=44.7×Si−30×Mn−11×Cr (1)
K=44.7×Si−30×Mn−11×Cr+31.5×Mo+104×V−20×Cu−15.2×Ni (5)
これらのKを、上記AndrewのA点の第一近似式に代入して整理すれば、相境界L2について、以下の式が得られる。
T=910−203×√Xγ +K
これをXγについて解けば、以下の式(3)が得られる。
Xγ(T)=(910+K−T)/41209 (3)
ここで、Xγ(T)は、Xγが処理温度T(℃)の関数であることを明示的に示したものである。
ここで留意すべき点は、鉄は窒素の固溶によってもフェライトからオーステナイトへ変態し、鉄−窒素系状態図として図1と類似の模式図が描けるということである。鉄−窒素系状態図において、鉄−炭素系状態図でのA点(727℃)に相当する「共析温度」は592℃である。したがって、鉄−炭素系状態図で考えれば、オーステナイトが出現しないはずの温度で窒化処理をしても、窒素の侵入によってフェライトがオーステナイトへ変態して、フェライトにオーステナイトが混在した二相状態での窒化処理となり得る。したがって、原理的には、592℃以上の温度で窒化処理を行えば、窒素の侵入とともにフェライトのオーステナイトへの変態が起こり、オーステナイト体積分率Fγが増大すると考えられる。
しかしながら、窒化処理は、外部から連続的に窒素が供給されて、窒素が鋼材表面から内部へと拡散していく過程での処理である。そのため、窒化処理では、平衡状態としてとらえることは適切ではなく、窒素の拡散過程という速度論プロセスで評価する必要がある。本発明者らが実験を重ねた結果、窒化処理における処理温度T(℃)の下限を700℃以上とすれば、処理を開始して実質的にすぐに、オーステナイト体積分率が0.10を越えるフェライト+オーステナイト二相状態となることがわかった。したがって、本実施の形態における窒化処理の処理温度T(℃)は、700℃以上である。
なお、鉄−窒素系状態図と鉄−炭素系状態図を比較すれば自明なことであるが、以下の点を付言しておく。鉄−窒素系状態図でのα+γ/γ相境界は、鉄−炭素系状態図でのα+γ/γ相境界よりも高温側に位置する。したがって、鉄−窒素系状態図ではα+γの二相域であっても、鉄−炭素系状態図ではγ単相になっている場合がある。本実施の形態では、オーステナイト体積分率Fγの上限を0.60としており、オーステナイト単相状態になることは好ましくない。したがって、処理温度T(℃)は、鉄−炭素系状態図でのα+γ/γ相境界、すなわち、A点により決定される。
要するに、式(1)〜式(5)を利用すれば、鋼材の化学組成によって、窒素原子の侵入速度を低下させることなく、窒素の侵入量を高めることができる最適な窒化処理温度T(℃)を決定することができる。
[オーステナイト体積分率Fγ(T)の範囲について]
窒化処理工程において、上述の式(1)〜式(5)で定義されたオーステナイト体積分率Fγ(T)が、0.10≦Fγ(T)≦0.60を満たすように、処理温度T(℃)を設定する。
窒化処理中にオーステナイトを生成させてフェライト+オーステナイトの二相状態とし、窒素の侵入量を増大させて硬化層深さを大きくするためには、オーステナイト体積分率Fγ(T)を0.10以上にする必要がある。一方、オーステナイト体積分率Fγ(T)が0.60を超えると、鋼材を急冷したときに生じる歪みが顕著に大きくなる。さらに、硬化層深さもかえって小さくなる。したがって、オーステナイト体積分率Fγ(T)は、0.10〜0.60である。
本実施の形態による窒化処理工程では、初めに、準備された鋼材の化学組成及び式(1)〜式(5)により、0.10≦Fγ(T)≦0.60を満たす処理温度T(℃)を決定する。鋼材の化学組成が選択元素Mo、V、Cu、Niを含まない場合、式(1)〜式(4)により、処理温度T(℃)が決定される。鋼材の化学組成が選択元素Mo、V、Cu及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上を含有する場合、式(2)〜式(5)により、処理温度T(℃)が決定される。
処理温度T(℃)が決定された後、準備された鋼材に対して、決定された処理温度T(℃)で窒化処理を行う。処理温度T(℃)の決定方法以外の窒化処理の他の条件は、周知の方法に基づく。
本実施の形態による窒化処理を行う雰囲気は、十分に窒素の化学ポテンシャルが高くなるような雰囲気であれば特に限定されず、特別な調整は不要である。窒化処理の雰囲気は、軟窒化処理のように浸炭性のガス(RXガス等)を混合した雰囲気としてもよい。また、工業的に行われている軟窒化処理の条件、たとえば、RXガスとアンモニアが1:1の雰囲気でもよい。また、窒素と水素とアンモニアが1:1:1となる雰囲気をそのまま適用してもよい。
より高い疲労強度を得る場合、上述のとおり、鋼材表層の残留オーステナイト量が適切になるように、アンモニアガス流量を調整するのが好ましい。具体的には、鋼材表層内への窒素の拡散を促進し、残留オーステナイトを生成するために、熱処理炉内に流すアンモニアガス流量を以下のとおり制御する。初めに、処理温度T(℃)における熱処理炉の有効体積(m)を予め求める。次に、求めた有効体積に基づいて、有効体積1mあたりのアンモニアガス流量を、{0.4+(T−700)×0.003}〜{3.0+(T−700)×0.03}リットル/分で窒化処理を行う。
アンモニアガス流量が{0.4+(T−700)×0.003}リットル/分未満であれば、表層に生成する残留オーステナイトが少ないため、顕著に高い疲労強度が得られにくい。一方、アンモニアガス流量が{3.0+(T−700)×0.03}リットル/分を超えると、表層に生成する残留オーステナイト量が多くなりすぎ、かえって疲労強度が低下する場合がある。
[急冷工程]
窒化処理を実行した後、鋼材を急冷する。処理温度T(℃)からの冷却過程は本実施の形態において重要である。すなわち、処理温度T(℃)で鋼材の表層付近に生成したオーステナイトをマルテンサイトに変態させる必要があるため、鋼材を急冷する。本実施の形態における急冷とは、油冷または水冷である。
本実施の形態で準備される鋼材は、油冷を行えば、十分にマルテンサイト変態を起こす。油冷の場合、好ましい油温は150℃以下であり、さらに好ましくは、100℃以下である。窒化処理後の鋼材を水冷により急冷してもよい。好ましくは、油冷により急冷する。急冷後の鋼材の歪みは、水冷よりも油冷の方が小さいからである。寸法精度との兼ね合いで、どの冷却媒体(水又は油)を使うかを決定すればよい。
以上の製造工程により、窒化処理機械部品が製造される。製造された窒化処理機械部品は、優れた疲労強度を有し、製造時の変形量も少ない。窒化処理機械部品はさらに、高い表層硬さと深い硬化層とを有する。さらに、窒化処理機械部品の最表層には、化合物層が形成されにくい。
異なる製造条件により複数の窒化処理材を製造した。そして、製造された各窒化処理材の疲労強度、表面硬さ、有効硬化層深さ、摩耗量及び変形量を調査した。
[調査方法]
表1に示す化学組成を有する鋼種番号1〜21の鋼を50kg真空溶解炉によって溶解し、インゴットを作製した。
Figure 2012036495
表1中の各元素記号欄(C、Si、Mn、P、S、Cr、Mo、V、Cu、Ni、Ti、N、Al、Ca)には、各鋼種番号の鋼中の対応する元素の含有量(質量%)が記入されている。各鋼種番号の化学組成の表1に記載された元素以外の残部は、Fe及び不純物である。表中の「−」は、対応する元素含有量が不純物レベルであることを示す。表1中のKは、式(1)又は式(5)を用いて求められた値である。Mo含有量、V含有量、Cu含有量及びNi含有量の少なくとも1つが、上記不純物レベルを超えている場合、式(5)が利用された。それ以外の場合、式(1)が利用された。
鋼種番号1〜18及び21は、いずれも本発明の化学組成の範囲内であった。鋼種番号19のC含有量、Mn含有量及びCr含有量は本発明の下限未満であった。また、鋼種番号20の化学組成は、JIS規格上のS40C相当であるが、不純物であるCrの含有量は0.01%であり本発明の下限未満であった。
作製された各インゴットを、1250℃に加熱した。その後、仕上げ温度が1000℃となるように各インゴットを熱間鍛造して、直径65mmの丸棒を製造した。熱間鍛造終了後の丸棒を、大気中で放冷した。
製造された丸棒を925℃に加熱して120分保持した後、大気中で放冷する焼ならし処理を施した。
[試験片の採取]
焼ならし後の各丸棒の中心部から、鍛造方向(鍛錬軸)に平行に、各種の試験片を複数採取した。具体的には、各丸棒から、図2に示す形状の小野式回転曲げ疲労試験用の試験片と、図3に示す形状のブロック試験片と、図4に示す形状のCリング試験片とを採取した。図3に示すブロック試験片は、後述するブロックオンリング摩耗試験の他に、ミクロ組織観察および硬さ測定にも用いられた。図4に示すCリング試験片は、窒化処理又は浸炭処理前後での歪み量を判断するために用いられた。図2、3および4に示した試験片における各寸法の単位は全て「mm」である。
[窒化処理]
採取された試験片に対して、窒化処理を実施した。図5は、窒化処理時の条件を示す模式図である。図5に示す条件にしたがって、窒化処理を実施した。具体的には、試験片を熱処理炉に挿入した。挿入後、熱処理炉の炉内を1Pa程度まで真空引きした。真空引きした後、炉内を処理温度T℃まで昇温した。処理温度T℃まで昇温した後、300hPaの窒素ガスを炉内に導入し、アンモニアガスを2.0リットル/分の流量で導入しながら、炉内を処理温度T℃で4時間保持した。730℃、750℃、780℃及び830℃の4つの処理温度T℃で、窒化処理をそれぞれ実施した。ただし、処理温度T=780℃において、一部の試験片(後述の表5中の試験記号C21〜C23)については、アンモニアガス流量を制御して、有効体積1m当たりのアンモニアガス流量を変化した。本実施例で用いた熱処理炉の780℃における有効体積は、以下の方法で求めた。初めに、熱処理炉を真空に引いた。次に、25℃(298K)、101.3kPaにおいて0.39mに相当する量の窒素ガスを炉内に導入した。次に、炉温を780℃(1053K)に昇温し、30分保持した。保持後の炉内圧力を測定した結果、炉内圧力は39.5kPaになった。以上の結果から、式(I)より、熱処理炉の780℃における有効体積VEは、以下のとおり、3.5mであった。
VE=101.3kPa/39.5kPa×(780+273)K/(25+273)K×0.39m=3.5m
処理温度T℃で4時間保持した後、窒化処理された試験片を熱処理炉から取り出し、油温100℃の油に投入して急冷した。
[浸炭処理]
本発明例との比較のために、鋼種番号11の一部の試験片に対して、窒化処理を実施せずに、浸炭焼入れ及び焼戻しを実施した。具体的には、次の条件で浸炭処理を実施した。処理温度を930℃、保持時間を180分とした。炭素ポテンシャルは0.8%で一定とした。浸炭処理後、試験片を100℃の油に投入して焼入れた。焼戻し工程では、処理温度を180℃、保持時間を120分とし、炉から試験片を取り出して大気中で放冷した。
以上の工程により製造された複数の試験片に対して、以下の試験を実施した。
[疲労強度評価試験]
窒化処理又は浸炭処理された、図2に示す試験片を用いて、各試験片の疲労強度を調査した。具体的には、各試験片に対して、JISZ2274に準拠して、小野式回転曲げ疲労試験を室温(25℃)、大気中で、回転数3400rpmの条件で実施した。そして、応力付加繰返し回数10回において破断しない最大の応力を疲労強度とした。
[摩耗評価試験]
窒化処理又は浸炭処理された、図3に示す試験片を用いて、各番号の鋼材の耐摩耗性を調査した。具体的には、図6(A)に示すブロックオンリング摩耗試験を実施した。表2に、ブロックオンリング摩耗試験の試験条件を示す。
Figure 2012036495
図6(A)を参照して、ブロックオンリング摩耗試験機1は、表2に示す潤滑油を貯めた浴槽2と、輪状試験片3とを備えた。輪状試験片3は、以下の方法により製造された。JIS G 4053(2003)で規定されたSCM822を機械加工した。続いて、機械加工されたSCM822鋼材を、温度930℃、保持時間180分、炭素ポテンシャルが0.8%の条件でガス浸炭処理をおこなった。浸炭処理後、油焼入れし、続いて、180℃で120分焼戻しした。焼戻し後、大気中で放冷した。放冷後、表層を50μm研削し、輪状試験片3を製造した。輪状試験片3の外径は35mm、厚さは8.8mmであった。
図6(A)に示すように、輪状試験片3の下部を浴槽2中の潤滑油内に漬けた。そして、輪状試験片3の上方にブロック試験片4を配置した。ブロック試験片4を、上方から表2に示す荷重で輪状試験片3の外周面に押しつけたまま、輪状試験片3を回転し、摩耗試験を実施した。
ブロックオンリング摩耗試験では、延べ接触距離が8000mに至るまで摩耗試験を継続した。試験後、図6(A)及び(B)に示すように、ブロック試験片4の接触面5に発生した摩耗痕6の幅Wを測定した。摩耗痕6の幅Wが狭いほど耐摩耗性が高いと判定した。
[ミクロ組織観察試験]
ブロックオンリング摩耗試験を実施しないブロック試験片を用いて、ミクロ組織観察を行った。ブロック試験片を長さ16mmの中央で半割にし、6mm×10mmの面が被検面となるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨した。研磨された被検面をナイタールで腐食した。腐食後、光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡で試験片の表層付近のミクロ組織を調査した。観察倍率は、光学顕微鏡では100〜400倍、走査型電子顕微鏡では600〜5000倍であった。ミクロ組織観察では、最表層に鉄窒化物からなる化合物層が形成されているかどうかを注意深く観察し、薄い化合物層でも見逃さないように、走査型電子顕微鏡の観察結果をもって化合物層の有無を判定した。
[硬さ試験]
硬さ試験は、ミクロ組織観察用と同じ試験片を用いて、マイクロビッカース硬度計を用いて行った。ブロック試験片を長さ16mmの中央で半割にし、6mm×10mmの面が被検面となるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨した。図3及び図6に表示した接触面5を表面側として、2.94N(300gf)の試験力で、接触面5から50μm、100μm深さ位置の硬さを求め、それ以降は深さ方向に100μmピッチで進みながら1mm深さ位置までの硬さを求めた。そして、得られた各位置での硬さを連続的に結んで、硬化層を含む表層付近の硬さプロファイルを作成した。
作成された硬さプロファイルに基づいて、ビッカース硬さ550Hvが得られる表面からの深さとして定義する「有効硬化層深さ」の位置を求めた。また、表面から50μm深さ位置のビッカース硬さ(Hv)を「表層硬さ」とした。
[歪み評価試験]
本実施の形態による窒化処理により生じる歪み量と、比較例として行った浸炭焼入れにより生じる歪み量とを比較するために、窒化処理又は浸炭処理されたCリング試験片の開口端の距離D(図4参照)を測定した。具体的には、それぞれの処理の前後で開口端の距離Dをマイクロメータで測定し、処理後の変形量を求めた。測定は開口端の3点で行い、その平均値をとった。
[試験結果]
試験結果を表3〜表6に示す。表3は、窒化処理の処理温度T(℃)が730℃のときの試験結果である。表4は、処理温度T(℃)が750℃のときの試験結果である。表5は、処理温度T(℃)が780℃のときの試験結果である。表6は、処理温度T(℃)が830℃のときの試験結果である。各表中の「化合物層の有無」欄の「有り」は、化合物層が観察されたことを示す。「なし」は化合物層が観察されなかったことを示す。表中の「Xα」は式(2)で算出された値であり、「Xγ」は式(3)で算出された値である。「Fγ」はオーステナイト体積分率であり、式(4)で算出された値である。表5中の「NH流量」欄には、アンモニアガス流量(リットル/分)が記載される。「有効体積あたりのNH流量」欄には、有効体積1mあたりのアンモニアガス流量(リットル/分)が記載される。以下、有効体積1m当たりのアンモニアガス流量を、「流量F0」と称する。
Figure 2012036495
Figure 2012036495
Figure 2012036495
Figure 2012036495
表3〜表6中の試験記号Z1は、比較例として浸炭処理された試験片(鋼種番号11)の試験結果である。
表3中の試験記号A2〜A13、A16〜A18、表4中の試験記号B1、B2、B4〜B12、B16、表5中の試験記号C1、C6、C7、C14、C15、C21〜C23、表6中の試験記号D14及びD15の化学組成はいずれも、本発明の範囲内であり、オーステナイト体積分率Fγは、0.10〜0.60の範囲内であった。そのため、これらの試験記号の疲労強度は450MPa以上と高く、表層硬さは700Hv以上と高かった。さらに、有効硬化層深さは350μm以上と深く、耐摩耗性を示す摩耗痕幅は1000μm以下と小さかった。さらに、変形量は0.10mm以下と小さかった。さらに、化合物層は観察されなかった。
さらに、表5中の試験記号C21〜C23に注目して、流量F0が増大するほど、有効硬化層深さが増大し、かつ、疲労強度が高くなった。さらに、試験記号C22及びC23の流量F0は{0.4+(780−700)×0.003}=0.64リットル/分以上となった。そのため、他の本発明例C1、C6、C7、C14、C15及びC21と比較して、疲労強度が高かった。
一方、試験記号C24の流量F0は、3.0+(780−700)×0.03リットル/分を超えた。そのため、試験記号C22及びC23と比較して、試験記号C24の疲労強度は低かった。アンモニア流量が多すぎたため、かえって疲労強度が低くなったと推定される。
一方、表3中の試験記号A19、表4中のB19、表5中のC19及び表6中のD19の化学組成は、本発明の範囲から外れ、オーステナイト体積分率Fγ(T)はいずれも負になった。さらに、表3中の試験記号A1、A14、A15、表4中の試験記号B14、B15では、化学組成は本発明の範囲内であったものの、オーステナイト体積分率Fγ(T)がいずれも0.10未満になった。
オーステナイト体積分率Fγ(T)が0.10未満又は負となった試験記号では、表層の主たるミクロ組織がフェライト+パーライトの混合組織、又はフェライト単相組織となり、マルテンサイト組織にならなかった。これらの試験記号の表層硬さは低く、550Hv未満であった。そのため、有効硬化層深さはゼロであった。また、これらの試験記号の表層は、フェライト+パーライト、又は、フェライトの状態で窒化処理を行ったために、最表層には化合物層が形成された。そのため、ブロックオンリング試験中に化合物層が剥落して摩耗が進んだ結果、摩耗痕幅が2000μmを超え、耐摩耗性が低かった。
表4中のB3、B13、B17、B18、表5中のC2〜C5、C8〜C13、C16〜C18、表6中のD1〜D13、D16〜D18では、化学組成が本発明の範囲内であったものの、オーステナイト体積分率Fγ(T)が0.60を超えた。これらの試験記号の試験片は、450MPaを超える高い疲労強度と、700Hvを超える高い表層硬さが得られた。しかしながら、これらの試験記号の変形量は0.10mmを上回る大きな値となり、浸炭焼入れの場合(試験記号Z1)の変形量0.15mmに近かった。また、これらの試験記号の有効硬化層深さは350μmを下回った。オーステナイト体積分率Fγ(T)の値が0.60を超えると、有効硬化層深さがかえって低下することが示された。
表3中の試験記号A20、表4中のB20、表5中のC20及び表6中のD20に用いた鋼種は、JIS規格上のS40Cに相当するが、Cr含有量が本発明の範囲から外れていた。そのため、疲労強度は400MPaに満たない低位な値となり、表層硬さや有効硬化層深さも本発明例よりも劣ったものとなった。
アンモニアガス流量2.0リットル/分で窒化処理を行ったデータ及び浸炭処理を行ったデータ、すなわち、表3、表4及び表6の全データと、表5の試験番号C1〜C20及びZ1を利用して作成された、オーステナイト体積分率Fγと、有効硬化層深さ(μm)との関係を図7に示す。同様に、オーステナイト体積分率Fγと疲労強度(MPa)との関係を図8に示し、オーステナイト体積分率Fγと変形量(mm)との関係を図9に示す。
図7〜図9を参照して、「Fγ<0」と示された点は、鋼種番号19の試験片のデータである。「Fγ>0」と示された点は、オーステナイト体積分率Fγが1よりも大きかった試験記号のデータである。「鋼種20」と示された点は、鋼種番号20の試験片のデータである。「浸炭」と示された点は、試験記号Z1のデータである。
図7を参照して、化学組成が本発明の範囲内である場合、オーステナイト体積分率Fγが0.1未満では、有効硬化層深さが0μmであるが、オーステナイト体積分率Fγが0.1以上になると、有効硬化層深さは急上昇し、350μm以上になった。そして、オーステナイト体積分率Fγが0.1以上では、Fγが増大するにしたがい、有効硬化層深さも大きくなった。オーステナイト体積分率=0.5近傍で有効硬化層深さはピークを示した。そして、Fγが0.5よりも大きくなるにしたがい、有効硬化層深さは小さくなり、Fγが0.6よりも大きくなると、有効硬化層深さは350μm未満となった。Fγが0.6よりも大きくなるに従い、有効硬化層深さは徐々に小さくなるものの、変化量は小さかった。
図8を参照して、オーステナイト体積分率Fγが0.1になるまで、オーステナイト体積分率Fγが増大するにしたがい疲労強度が顕著に増大した。オーステナイト体積分率が0.1以上になると、疲労強度は450MPa以上となった。そして、オーステナイト体積分率Fγの増大にしたがって、疲労強度は上昇するものの、その上昇の度合いは小さくなった。
図9を参照して、オーステナイト体積分率Fγが増大するにしたがい、変形量は増大した。しかしながら、オーステナイト体積分率Fγが0.1〜0.6の範囲での変形量は0.10mm以下であり、浸炭焼入れ材の変形量(0.15mm)よりも顕著に小さかった。
図7〜図9から明らかなように、本発明例では、疲労強度は450MPa以上と高く、有効硬化層深さが350μm以上の大きな値を保ちながら、変形量が0.10mm以下の小さな値に抑えられた。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
本発明は、窒化処理機械部品の製造に広く適用でき、特に、自動車の変速機として使用される歯車やベルト式無段変速機(CVT)用プーリ、自動車のエンジンのクランクシャフトのように、優れた疲労強度ならびに高い耐摩耗性を要求される機械部品の製造に適用可能である。
1 ブロックオンリング摩耗試験機
2 浴槽
3 輪状試験片
4 ブロック試験片
5 接触面
6 摩耗痕

Claims (5)

  1. 質量%で、C:0.05〜0.42%、Si:0.05〜0.80%、Mn:0.40〜1.60%、P:0.05%以下、S:0.10%以下、Cr:0.05〜2.0%、Al:0.001〜0.050%及びN:0.003〜0.030%を含有し、残部はFeおよび不純物からなる鋼材を準備する工程と、
    式(1)〜式(4)で定義されるオーステナイト体積分率Fγ(T)が0.10≦Fγ(T)≦0.60を満たし、かつ700℃以上である窒化処理温度T(℃)で、前記鋼材に対して窒化処理を行う工程と、
    窒化処理後、前記鋼材を急冷する工程とを備える、窒化処理機械部品の製造方法。
    K=44.7×Si−30×Mn−11×Cr (1)
    Xα(T)=(910−T)/8394 (2)
    Xγ(T)=(910+K−T)/41209 (3)
    Fγ(T)=(C−Xα)/(Xγ−Xα) (4)
    ここで、式(1)及び式(4)中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
  2. 前記鋼材はさらに、Feの一部に替えて、
    質量%で、Mo:0.60%以下、V:0.60%以下、Cu:0.60%以下及びNi:0.60%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を含有し、
    前記窒化処理を行う工程では、前記式(1)に替えて、式(5)を利用してKを求める、請求項1に記載の窒化物処理機械部品の製造方法。
    K=44.7×Si−30×Mn−11×Cr+31.5×Mo+104×V−20×Cu−15.2×Ni (5)
    ここで、式(5)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
  3. 前記鋼材はさらに、Feの一部に替えて、
    質量%で、Ti:0.10%以下を含有する、請求項1又は請求項2に記載の窒化処理機械部品の製造方法。
  4. 前記鋼材はさらに、Feの一部に替えて、
    質量%で、Ca:0.005%以下を含有する、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の窒化処理機械部品の製造方法。
  5. 前記窒化処理は、アンモニアガスを含む雰囲気の熱処理炉内で行い、
    前記窒化処理を行う工程では、前記窒化処理温度T(℃)において予め求めた熱処理炉の有効体積に基づいて、前記窒化処理中の前記有効体積1mあたりのアンモニアガス流量を{0.4+(T−700)×0.003}〜{3.0+(T−700)×0.03}リットル/分にする、請求項1〜請求項4に記載の窒化処理機械部品の製造方法。
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