JP2018037340A - 導電性ペーストとその利用 - Google Patents

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Abstract

【課題】粘度の増大が抑制された導電性ペーストを提供する。【解決手段】本発明により、導電性粉末と、ベヒクルと、水分とを含む導電性ペーストが提供される。上記導電性ペーストの全量を100質量%としたときに、カールフィッシャー法(加熱温度:300℃)によって検出される上記水分の含有割合は、0.5〜8.0質量%である。【選択図】なし

Description

本発明は、導電性ペーストと当該導電性ペーストの利用に関する。詳しくは、導電性ペーストと、当該導電性ペーストを用いた固体酸化物形燃料電池用の単セルや構造体の製造方法に関する。
固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell、以下、単に「SOFC」ということがある。)の単セルは、多孔質構造の燃料極(アノード)と、酸化物イオン伝導体を含んだ緻密な固体電解質と、多孔質構造の空気極(カソード)とが積層され、構成されている。この単セルは、出力密度や発電効率を向上する観点から、実用的には複数個が電気的に接続されて、スタックやバンドル等の構造体として使用されることが多い。SOFC用の単セルや構造体は、異種の材料で構成された複数の部材が組み合わされ、構成されている。
単セルの構成部材上(例えばカソード上)に設けられる集電部や、SOFCの複数の構成部材間(例えばカソードとインターコネクタとの間)を電気的・物理的に接続する導通部は、一般に、印刷法等の手法で部材上に導電性ペーストを付与し、700〜1100℃程度の高温で焼成することによって形成される。例えば、特許文献1には、有機溶剤と分散剤と導電性セラミック粉末とバインダとを含む導電性ペーストをディップコーティング法で基材上に成膜して、得られた成膜体を乾燥、焼成する導電層の作製方法が開示されている。特許文献1にはまた、導電性セラミック粉末として、水分含有量の小さな(例えば水分含有量が3質量%未満の)乾燥粉末を使用する旨が記載されている。
特表2006−527697号公報
しかしながら、本発明者の検討によれば、上記の導電性ペーストを用いて導電層を形成する場合、焼成後の導電層が基材から剥離し易くなることがあった。
そこで、本発明者が様々な角度から検討を行ったところ、焼成後の導電層が基材から剥離し易くなる一つの要因として、焼成前の成膜体と基材との熱収縮の差が考えられた。つまり、成膜体を構成する導電性ペーストは、有機溶剤や分散剤、バインダ等の焼成時に燃え抜ける成分を含んでいる。このことによって、成膜体の熱収縮が基材の熱収縮よりも大きくなり、基材と成膜体との間に熱応力による歪みを生じていることが考えられた。また、他の要因として、基材に対する導電層の接地面積(言い換えれば、接合界面において接合に寄与する無機粒子の数)が不足していることが考えられた。かかる推察に基づき、本発明者は、導電性ペーストにおいて焼成時に燃え抜けない残存成分(典型的には導電性粉末)の含有割合を増やすことで、成膜体中の残存成分の含有割合を高めて、成膜体の熱収縮を抑えたり、導電層と基材との接地面積を広くしたりすることを考えた。しかしながら、単純に導電性ペースト中の残存成分の含有割合を増やすと、導電性ペーストの粘度が増大して流動性が損なわれ、成膜が困難になることがあった。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、粘度の増大が抑制された導電性ペーストを提供することにある。また、関連する他の目的は、かかる導電性ペーストを用いて導電層を作製する工程を包含する、SOFC用の単セルや構造体の製造方法を提供することにある。
本発明者は、更なる鋭意検討を重ねた結果、新たに導電性ペーストに所定量の水分を含有させることで導電性ペーストの粘度の増大を抑制し得ることを見出し、本願発明に想到するに至った。
ここに開示される導電性ペーストは、導電性粉末と、ベヒクルと、水分とを含む。上記導電性ペーストの全量を100質量%としたときに、カールフィッシャー法(加熱温度:300℃)によって検出される上記水分の含有割合は、0.5質量%以上8.0質量%以下である。
上記導電性ペーストは、所定量の水分を含有することによって粘度の増大が抑制されている。このため、上記導電性ペーストでは、残存成分の含有割合を増やした場合でも、流動性が維持され、成膜時の作業性を確保することができる。したがって、上記導電性ペーストは基材上に安定して付与することができる。また、上記導電性ペーストでは、例えば水分含有量の少ない従来の導電性ペーストに比べて、導電性粉末の含有割合を高く設定することも可能となる。これにより、焼成時には基材と成膜体との熱応力を小さく抑えたり、導電層と基材との接地面積を広げたりすることができ、基材との接合性に優れた導電層を形成することもできる。
ここに開示される導電性ペーストの好適な一態様では、上記導電性ペーストの全量を100質量%としたときに、上記導電性粉末の含有割合が、65質量%以上90質量%以下である。導電性粉末の含有割合を65質量%以上とすることで、基材と成膜体との熱応力を、より小さく抑えて、基材と成膜体との接合性を一層向上することができる。導電性粉末の含有割合を90質量%以下とすることで、導電性ペーストの保存安定性を向上することができる。また、導電性ペーストの流動性を高めて、基材上に好適に付与することができる。
ここに開示される導電性ペーストの好適な一態様では、上記導電性ペーストの全量を100質量%としたときに、上記ベヒクルの含有割合が、10質量%以上35質量%以下である。これにより、導電性ペーストの流動性を高めて、成膜時の作業性を向上することができる。また、焼成前の成膜体の一体性や柔軟性を高めて、基材と成膜体との密着性を好適に向上することができる。
ここに開示される導電性ペーストの好適な一態様では、上記ベヒクルが、親水性基を有する親水性化合物を含む。これによって、導電性ペーストの流動性をより良く高め、粘度の増大を好適に抑えることができる。
ここに開示される導電性ペーストの好適な一態様では、上記ベヒクルが、溶解度パラメータ(SP値)が、10(cal/cm0.5以下の化合物を含む。これによって、導電性ペーストの流動性をより良く高め、粘度の増大を好適に抑えることができる。
ここに開示される導電性ペーストの好適な一態様では、上記導電性粉末が、導電性酸化物を含む。これにより、例えば500℃以上のような高温域においても、長期にわたり高い導電性を発揮することができる。
ここに開示される導電性ペーストの好適な一態様では、25℃の環境下において、回転粘度計を用いて回転速度10rpmで測定される粘度が、175Pa・s以下である。これにより、導電性ペーストの流動性を良好に維持して、導電性ペーストの保存安定性、取扱性および成膜時の作業性のうちの少なくとも1つを向上することができる。
ここに開示される導電性ペーストは、例えば、固体酸化物形燃料電池の作製に好適に用いることができる。つまり、本発明により、アノードと固体電解質とカソードとを備える固体酸化物形燃料電池用の単セルの製造方法が提供される。かかる製造方法は、ここに開示される導電性ペーストを用意すること、上記導電性ペーストを上記アノードおよび上記カソードのうちの少なくとも1つの部材上に付与して焼成することにより、上記部材上に導電部を形成すること、を包含する。また、本発明により、固体酸化物形燃料電池の単セルを複数備える固体酸化物形燃料電池用の構造体の製造方法が提供される。かかる製造方法は、ここに開示される導電性ペーストを用意すること、上記導電性ペーストを第1の単セル上に付与して、その上から第2の単セルを直接的あるいは間接的に積層して焼成することにより、上記第1の単セルと上記第2の単セルとの間に導電部を形成すること、を包含する。
一実施形態に係るSOFCシステムを模式的に示す分解斜視図である。 剥離強度の測定方法を説明するための模式的な断面図である。
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えばSOFCの一般的な製造プロセスやSOFCシステムの構成等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において、「A〜B(ただし、A,Bが任意の値)」とは、A,Bの値(上限値および下限値)を包含するものとする。
≪導電性ペースト≫
まず、一実施形態に係る導電性ペーストについて説明する。ここに開示される導電性ペーストは、基材上に付与して成膜体を形成し、これを高温で焼成することによって、基材上に導電層を形成するためのものである。ここに開示される導電性ペーストは、必須の構成成分として、導電性粉末と、ベヒクルと、水分と、を含んでいる。以下、各構成成分について説明する。
導電性粉末は、焼成後の導電層に電気伝導性を付与する成分である。導電性粉末としては特に限定されず、従来知られているものの中から、用途等に応じて1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。導電性粉末は、典型的には、その表面に、物理的あるいは化学的に吸着した水分を有している。また、導電性粉末の表面には、例えば、凝集を抑制するための保護剤等が結合していてもよい。言い換えれば、導電性粉末は、水酸基やカルボキシル基等の親水性基を有していてもよい。導電性粉末の一好適例として、概ね700℃以上の温度で焼成することによって焼結可能な粉末が挙げられる。言い換えれば、導電性粉末は、融点が概ね700℃よりも低いとよい。導電性粉末の一具体例として、SOFCの稼働温度域(典型的には500℃以上の高温域)で導電性を有する粉末材料が挙げられる。このような粉末材料としては、例えば、導電性酸化物、導電性窒化物、導電性炭化物、金属、合金等の粉末が挙げられる。
導電性酸化物としては、例えば、次の一般式(1):
ABO3−δ (1)
(ただし、Aは、1価のアルカリ金属、2価のアルカリ土類金属および3価の希土類のいずれかに分類される金属元素の1種または2種以上であり、Bは、3価以上の金属元素であって、遷移金属、典型金属および希土類のいずれかに分類される金属元素のうちの1種または2種以上であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。);
で示されるペロブスカイト型酸化物が挙げられる。
式(1)中のAは、原子番号57〜71のLn(ランタノイド)元素およびAe(アルカリ土類金属)元素のうちの1種または2種以上であることが好ましい。Lnの具体例としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)等が挙げられ、なかでもLaやSmが好ましい。Aeの具体例としては、カルシウム(Ca)やストロンチウム(Sr)等が挙げられ、なかでもSrが好ましい。
式(1)中のBは、遷移金属元素の1種または2種以上であることが好ましい。具体例としては、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、チタン(Ti)等が挙げられ、なかでもCoが好ましい。
このようなペロブスカイト型酸化物の一具体例としては、ランタンストロンチウムコバルト酸化物(LSC、例えば、La0.6Sr0.4CoO)や、ランタンストロンチウムコバルトフェライト酸化物(LSCF、例えば、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8)、ランタンストロンチウムマンガン酸化物(LSM、例えば、La0.6Sr0.4MnO)、サマリウムストロンチウムコバルト酸化物(SSC、例えば、Sm0.5Sr0.5CoO)、マンガンコバルト酸化物(MCO、例えば、MnCoO)等が挙げられる。なかでも、構成元素にLaとCoとを含むランタンコバルト系酸化物や、構成元素にLaとMnとを含むランタンマンガナイト系酸化物が好ましい。なお、ランタンコバルト系酸化物とは、LaおよびCoを構成金属元素とする酸化物の他、LaおよびCo以外に他の1種以上の金属元素を含む酸化物を包含する用語である。このことは、ランタンマンガナイト系酸化物についても同様である。
ランタンコバルト系酸化物の一好適例としては、次の一般式(2):
(Ln1−xAe)(Co1−y)O3−δ (2)
(ただし、Lnは、ランタノイド元素のうちの1種または2種以上であり、xは、0≦x<1を満たす実数であり、0<xのとき、Aeは、アルカリ土類金属元素のうちの1種または2種以上であり、yは、0≦y<1を満たす実数であり、0<yのとき、Mは、3価以上の金属元素であって、遷移金属、典型金属および希土類のいずれかに分類される金属元素のうちの1種または2種以上であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。);で示される酸化物が挙げられる。
式(2)中のxは、電気伝導性の向上や他部材(例えば固体電解質)との反応性を抑制する点から、好ましくは0≦x≦0.8であり、例えば0.1≦x≦0.5である。
式(2)中のyは、電気伝導性向上等の点から、好ましくは0≦y≦0.9であり、例えば0.2≦y≦0.8である。
金属や合金としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、ニッケル(Ni)等の金属の単体、およびこれらの被覆混合物や合金等が挙げられる。なかでも、コストと導電性とのバランス等から、銀や、銀−パラジウム(Ag/Pd)合金が好ましい。
導電性粉末を構成する粒子の平均粒径は特に限定されないが、典型的にはナノメートルサイズ〜ミクロンサイズである。なかでも、平均粒径が概ね0.1μm以上、典型的には0.3μm以上、例えば0.5μm以上であると、粉末の取扱性や導電性ペーストの調製時の作業性を向上することができる。また、平均粒径が概ね20μm以下、典型的には15μm以下、例えば10μm以下、更には5μm以下であると、成膜体での充填性(パッキング性)が向上して、焼成時における熱収縮を、より小さく抑えることができる。その結果、基材と焼成後の導電層との間に剥離が生じることを高いレベルで抑制して、基材上に安定して導電層を形成することができる。また、平均粒径が小さいほど焼成温度を低めに設定することができ、低コスト化や作業効率の向上を図ることができる。さらに、焼成後の導電層に高い電気伝導性を付与することができる。
なお、本明細書において「平均粒径」とは、一般的な粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折・光散乱法で測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側から累積50%に相当する粒子径(50%体積平均粒径。D50やメジアン径ともいう。)をいう。
好適な一態様では、導電性粉末の粒度分布が、ある程度の広がりを持っている。例えば、横軸に粒径、縦軸に占有体積を表した粒径体積分布において、二峰性の分布を有していることが好ましい。より具体的には、粒径体積分布で存在比率の最も大きな粒径と、存在比率が2番目に大きな粒径との粒径サイズが、概ね1.5倍以上、好ましくは2倍以上、例えば5倍以上であって、概ね20倍以下、例えば10倍以下と、異なっていることが好ましい。成膜体中に、相対的に大きな粒子と相対的に小さな粒子とを共存させることで、焼成時に小さな粒子が大きな粒子の隙間を埋めるように溶融され、焼結され得る。これにより、緻密な導電層を形成することができる。また、焼成時における熱収縮を、より小さく抑えることができ、基材と焼成後の導電層との接合性を、より良く高めることができる。さらに、焼成後の導電層に高い電気伝導性を付与することができる。
導電性粉末を構成する粒子の形状は特に限定されず、球状、鱗片状(フレーク状)、破砕状、針状等、種々のものを考慮することができる。なかでも、充填性や平滑性、均質性の高い導体層を実現する観点からは、例えば平均アスペクト比(長径/短径比)が凡そ1〜1.5(例えば1〜1.3)の真球状または略球状の導電性粒子が好ましい。これにより、粉末の取扱性や成膜時の作業性を向上することができる。
ベヒクルは、導電性粉末を分散させるための成分である。ベヒクルは、導電性ペーストに適度な粘性や流動性を付与して、導電性ペーストの取扱性や成膜時の作業性を向上するための成分である。ベヒクルは、典型的には有機重合体(ポリマー)と有機溶剤とを含んでいる。有機重合体は、焼成時に蒸発除去し得るものであるとよい。言い換えれば、有機重合体は、沸点が焼成温度よりも低いとよい。有機重合体は、天然系であってもよいし、合成系であってもよい。有機重合体は、後述する親水性基を有する親水性であってもよく、親水性基を有しない疎水性であってもよい。有機重合体の一好適例としては、有機バインダ、分散剤、増粘剤、界面活性剤などが挙げられる。なかでも、基材上に安定的に導電性ペーストを付与する観点からは、有機バインダを含むことが好ましい。
有機バインダは、焼成前の成膜体に粘着性を付与する成分である。有機バインダとしては特に限定されず、従来知られているものの中から、用途等に応じて1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。有機バインダの一好適例としては、セルロース系樹脂、ブチラール系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、エチレン系樹脂、アミド系樹脂等が挙げられる。
セルロース系樹脂としては、例えば、セルロースの水酸基の一部または全部がアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等で置換されたセルロース有機酸エステルが挙げられる。具体的には、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ニトロセルロース等が挙げられる。
ブチラール系樹脂としては、例えば、酢酸ビニルの単独重合体(ホモポリマー)や、酢酸ビニルを主モノマー(単量体全体の50質量%以上を占める成分)として、当該主モノマーに共重合性を有する副モノマーを含む共重合体(コポリマー)が挙げられる。具体的には、ビニルブチラールや、構成単位としてビニルブチラール(ブチラール基)と酢酸ビニル(アセチル基)とビニルアルコール(水酸基)とを含むビニルブチラール系樹脂等が挙げられる。
アクリル系樹脂としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレートの単独重合体や、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとして、当該主モノマーに共重合性を有する副モノマーを含む共重合体が挙げられる。単独重合体の具体例としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。共重合体の具体例としては、例えば、構成単位としてメタクリル酸エステルの重合体とアクリル酸エステルの重合体ブロックとを含むブロック共重合体等が挙げられる。メタクリル酸エステルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル等が挙げられる。アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル等が挙げられる。なお、本明細書中において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを意味する用語である。
有機重合体の物性は特に限定されない。例えば重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定されるポリスチレンン換算の値。)Mwは、典型的には1,000以上、例えば5,000以上であって、典型的には1,000,000以下、好ましくは500,000以下、より好ましくは300,000以下、例えば200,000以下であるとよい。重量平均分子量が所定値以上であると、有機重合体の粘着性が高まり、少量の添加で基材上に成膜体を好適に密着させることができる。このため、成膜時の作業性を向上させることができる。また、重量平均分子量が所定値以下であると、導電性ペーストの粘度を低めに維持して、導電性ペーストを基材上に付与する時の作業性を、より良く向上することができる。
有機溶剤としては、有機重合体が可溶であり、かつ導電性粉末を好適に分散可能なものが好ましい。有機溶剤としては特に限定されず、従来知られているものの中から、用途等に応じて1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。有機溶剤は、後述する親水性基を有する親水性であってもよく、親水性基を有しない疎水性であってもよい。成膜時の作業性や保存安定性等の観点からは、沸点が概ね200℃以上、例えば200〜300℃の高沸点有機溶剤を主成分とするとよい。高沸点有機溶剤の具体例としては、ターピネオール、メンタノール、テキサノール、ジヒドロターピネオール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール−1−モノイソブチレート、酢酸イソボルニル等のエステル系溶剤、エチルジグリコールアセテート、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール等のグリコールエーテル系溶剤、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット等が挙げられる。
好適な一態様では、ベヒクルは、有機重合体および有機溶剤のうちの少なくとも1つとして、親水性基を有する親水性化合物を含んでいる。例えば、有機バインダの少なくとも1種が、親水性基を有する構成単位(繰り返し単位)を含んでいてもよい。親水性基は、アニオン性、カチオン性、両イオン性等の、分子内にイオン性基を有するイオン性であってもよいし、分子内にイオン性基を有しない非イオン性であってもよい。アニオン性の親水性基としては、例えば、カルボキシル基(−COO )やスルホン基(−SO )等が挙げられる。カチオン性の親水性基としては、例えば、アミノ(塩)基、第4級アンモニウム塩基等が挙げられる。非イオン性の親水性基としては、水酸基(−OH)、カルボニル基(=COO)、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−)、カルバモイル基(−CONH)等が挙げられる。このような親水性化合物の一例としては、例えば、有機バインダとして例示したセルロース系樹脂、ブチラール系樹脂、アクリル系樹脂等や、有機溶剤として例示したアルコール系溶剤、エステル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤等が挙げられる。なお、親水性の有機重合体は、例えば、ビニル重合や付加重合、縮合等で高分子骨格を合成する際に、親水性基を有するモノマーを用いることで得ることができる。ベヒクルに親水性化合物(例えば有機重合体、典型的には有機バインダ)を含むことで、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮することができる。
好適な一態様では、ベヒクルは、有機重合体および有機溶剤のうちの少なくとも1つとして、溶解度パラメータ(Solubility Parameter;SP値)が、概ね15(cal/cm0.5以下、典型的には10(cal/cm0.5以下、例えば9.8(cal/cm0.5以下である化合物を含んでいる。言い換えれば、ベヒクルは、水分とのSP値の差が、概ね5(cal/cm0.5以上、好ましくは10(cal/cm0.5以上、例えば13(cal/cm0.5以上である化合物、具体的には、有機重合体および/または有機溶剤を含んでいてもよい。ベヒクルにSP値が上記範囲内の化合物を含むことで、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮することができる。このようなSP値を有する化合物の一例としては、例えば、有機バインダとして例示したセルロース系樹脂、ブチラール系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。有機重合体(例えば有機バインダ)および有機溶剤のSP値の下限値は特に限定されないが、概ね3(cal/cm0.5以上、典型的には5(cal/cm0.5以上、例えば9(cal/cm0.5以上であってもよい。
なお、本明細書において「SP値」とは、ヒルデブランド法に基づいて計算した理論値をいう。SP値は「混ざり易さ」の尺度となる値である。また、水のSP値は23.4(cal/cm0.5である。
ベヒクルの全量を100質量%としたときに、有機重合体(例えば有機バインダ)が占める割合は、概ね1質量%以上、典型的には5質量%以上、例えば10質量%以上であって、概ね70質量%以下、典型的には60質量%以下、例えば20質量%以下であるとよい。有機重合体の含有割合を上記範囲とすることで、導電性ペーストに適度な粘性や流動性を付与して、導電性ペーストの取扱性や成膜時の作業性をより良く向上することができる。また、導電性粉末の含有割合を高めて、基材と成膜体との熱応力を、より小さく抑えることができる。加えて、有機バインダの含有割合を上記所定範囲とする場合には、基材に対する接着性が高まり、基材と成膜体との密着性をより良く向上することができる。したがって、より安定的に成膜体を形成することができる。
ベヒクルの全量を100質量%としたときに、有機溶剤が占める割合は、概ね30質量%以上、典型的には40質量%以上、例えば80質量%以上であって、概ね99質量%以下、典型的には95質量%以下、例えば90質量%以下であるとよい。有機溶剤の含有割合を上記範囲とすることで、導電性ペーストに適度な粘性や流動性を付与して、導電性ペーストの取扱性や成膜時の作業性を向上することができる。また、導電性粉末の含有割合を高めて、基材と成膜体との熱応力を、より小さく抑えることができる。
水分は、導電性ペーストの粘度の増大を抑制するための成分である。水分は、例えば成膜時の作業性を向上するための成分である。水分としては、例えば、導電性ペーストに水として添加されるものであってもよく、導電性ペーストの調製に使用される原料化合物(例えば導電性粉末)の表面に吸着している物理吸着水や化学吸着水、あるいは原料化合物の構造内に含まれている構造水、結晶水等であってもよい。なお、物理吸着水とは、原料化合物の表面に付着している水分であり、典型的には100℃までの加熱で気化する水分である。導電性ペーストの水分量は、例えば、導電性ペーストに水分を添加することによって調整することができる。あるいはまた、導電性ペーストを調製する前に、原料化合物を高湿の環境に曝したり乾燥したりすることによっても調整することができる。
導電性ペーストは、上記した3成分、すなわち、導電性粉末とベヒクルと水分とから構成されていてもよく、上記3成分に加えてその他の任意成分を含んでいてもよい。その他の任意成分としては、導電層の形成において一般的に使用されている各種の添加剤を考慮することができる。一具体例としては、焼結助剤、無機フィラー等の無機添加剤や、可塑剤、消泡剤、酸化防止剤、防腐剤、帯電防止剤、pH調整剤、着色剤(顔料、染料等)等の有機添加剤が挙げられる。
焼結助剤としては、例えば、銅、コバルト、ニッケル、ビスマス、ストロンチウム等の金属やその酸化物の粉末、より具体的には、Cu、CuO、Co、Co、Ni、NiO、等が例示される。
導電性ペーストは、例えば、以下の性状:(1)保存安定性や成膜時の作業性が良好である;(2)室温付近の温度域で基材上に密着可能な程度のタック性(基材に対する粘着力)を有する;(3)焼成した後で基材上に固着する;(4)上記(3)の固着物(導電層)が導電性を有する;を具備するように、その種類や配合比を調整するとよい。
好適な一態様では、25℃の環境下において、回転粘度計を用いて回転速度10rpmで測定される導電性ペーストの粘度が、概ね50Pa・s以上、典型的には80Pa・s以上、例えば90Pa・s以上、さらには100Pa・s以上であって、概ね200Pa・s以下、好ましくは175Pa・s以下である。粘度が上記範囲内であると、導電性ペーストの保存安定性や、取扱性、成膜時の作業性のうちの少なくとも1つを向上することができる。
導電性ペーストの全量を100質量%としたときに、導電性粉末が占める割合は、導電性粉末の性状(例えば平均粒径)等によっても異なり得るが、概ね50質量%以上、典型的には60質量%以上、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、例えば75質量%以上であって、概ね98質量%以下、典型的には95質量%以下、好ましくは90質量%以下、例えば85質量%以下であるとよい。導電性粉末の含有割合を所定値以上とすることで、成膜体中の導電性粉末の含有割合を高めて、基材と成膜体との熱応力を、より小さく抑えることができる。これにより、基材との接合性に一層優れた導電層を形成することができる。また、導電層の電気伝導性を向上することができる。導電性粉末の含有割合を所定値以下とすることで、導電性ペーストの保存安定性を向上することができる。また、導電性ペーストの流動性を高めて、基材上に好適に付与することができる。したがって、成膜時の作業性を向上することができる。
導電性ペーストの全量を100質量%としたときに、ベヒクルが占める割合は、概ね1質量%以上、典型的には5質量%以上、好ましくは10質量%以上、例えば15質量%以上であって、概ね50質量%以下、典型的には40質量%以下、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、例えば25質量%以下であるとよい。これにより、導電性ペーストの保存安定性を向上することができる。また、導電性ペーストの流動性を高めて、成膜時の作業性を向上することができる。さらに、形成された成膜体の一体性や柔軟性を高めて、基材と成膜体との密着性を向上することができる。
また、ベヒクル中に有機重合体(例えば樹脂バインダ)を含む場合は、導電性ペーストの全量を100質量%としたときに、有機重合体(例えば樹脂バインダ)の占める割合が、概ね0.1質量%以上、典型的には0.5質量%以上、例えば1質量%以上であって、概ね20質量%以下、典型的には15質量%以下、例えば10質量%以下であるとよい。これにより、成膜体に好適なタック性を付与することができ、基材上に成膜体をより良く形成することができる。また、成膜体の一体性や柔軟性をより良く高めて、基材と成膜体との密着性を更に向上することができる。
導電性ペーストの全量を100質量%としたときに、水分が占める割合は、0.5質量%以上8.0質量%以下である。水分が占める割合は、例えば、0.6質量%以上であってもよく、2.3質量%以下であってもよい。水分の含有割合を所定値以上とすることで、導電性ペーストの粘度の増大を抑制することができ、保存安定性や成膜時の作業性を向上することができる。したがって、ここに開示される発明の効果を適切に発揮することができる。また、例えば水分含有量の少ない従来の導電性ペーストに比べて、導電性ペースト中の導電性粉末の含有割合を高めることもできる。
また、導電性ペースト中に添加剤(例えば無機添加剤)を含む場合は、導電性ペーストの全量を100質量%としたときに、添加剤が占める割合が、概ね10質量%以下、典型的には5質量%以下、例えば3質量%以下であるとよい。これにより、本願発明の効果を、より安定的に発揮することができる。
水分の含有割合Cw(質量%)に対する導電性粉末の含有割合Cc(質量%)の比(Cc/Cw)は、概ね9以上、例えば29以上であって、概ね160以下、例えば150以下であってもよい。また、水分の含有割合Cw(質量%)に対する有機重合体の含有割合Co(質量%)の比(Co/Cw)は、概ね0.3以上、例えば1以上であって、概ね10以下、例えば7.8以下であってもよい。
≪導電性ペーストの利用≫
ここに開示される導電性ペーストは、基材上に集電部や導通部等の導電部を形成する用途で好適に用いることができる。基材としては、焼成後にその形状を維持可能な程度の耐熱性を有するものが好ましい。言い換えれば、基材の材質は、融点が焼成温度よりも高いとよい。一具体例としては、アルミナ、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、チタニア、イットリア、クロミア、ジルコニア、部分安定化ジルコニア等のセラミック材料や、ステンレス鋼、アルミニウム、クロム、鉄、ニッケル、銅、銀、マンガン等の金属材料が挙げられる。基材は、上記材料の複合体や合金等であってもよい。
ここに開示される導電性ペーストはまた、同種部材間または異種部材間の電気的・物理的な接合、例えばセラミック部材と金属部材との接合、セラミック部材間の接合、金属部材間の接合等にも好適に用いることができる。セラミック部材の一具体例としては、例えば、SOFC用の単セルを構成するアノードやカソード等が挙げられる。金属部材の一具体例としては、例えば、SOFC用の構造体に付設されるガス管やインターコネクタ等が挙げられる。
ここに開示される導電性ペーストの一使用例として、SOFC用の単セルの製造方法、および、複数個の単セルが電気的に接続されてなるSOFC用の構造体(例えば、スタックやバンドル、モジュール等)の製造方法が提供される。
SOFC用の単セルの製造方法は、例えば、ここに開示される導電性ペーストを用意すること、上記導電性ペーストを、アノードおよびカソードのうちの少なくとも1つの部材上に付与して焼成することにより、上記部材上に導電部を形成すること、を包含する。
また、SOFC用の構造体の製造方法は、例えば、ここに開示される導電性ペーストを用意すること、上記導電性ペーストを第1の単セル上に付与して、その上から第2の単セルを直接的あるいは間接的に積層して焼成することにより、上記第1の単セルと上記第2の単セルとの間に導電部を形成すること、を包含する。かかる製造方法では、例えば、第1の単セルと第2の単セルとの間にインターコネクタを介在させて、第1の単セルとインターコネクタとの間、および、インターコネクタと第2の単セルとの間に、それぞれ導電部を形成することもできる。
図1は、SOFCシステム30を模式的に示す分解斜視図である。以下、図1を参照しながら説明する。以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さなど)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。SOFCシステム30は、従来公知の製造方法に準じて製造することができる。
SOFCシステム30は、複数のSOFC用の単セル10A、10Bと、複数のインターコネクタ20、20Aとを備えている。SOFCシステム30は、単セル10A、10Bが金属製のインターコネクタ20、20Aを介して積み重ねられたスタック構造を有する。単セル10A、10Bは、それぞれ、層状の固体電解質14が層状の燃料極(アノード)12と層状の空気極(カソード)16とで挟まれたサンドイッチ構造を有する。固体電解質14は、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)やガドリニアドープセリア(GDC:Gadolinia doped ceria)などの酸化物イオン伝導体である。燃料極12は、例えば、ニッケル(Ni)や、ニッケルとYSZとのサーメットである。空気極16は、例えば、ランタンコバルトネート(LaCoO)系やランタンマンガネート(LaMnO)系のペロブスカイト型酸化物である。単セル10A、10Bでは、燃料極12が固体電解質14や空気極16に比べて厚めに形成されている。単セル10A、10Bは、燃料極12が支持体としての機能を有する、所謂、燃料極支持型(ASC:Anode-Supported Cell)のセルである。
図面中央に配されるインターコネクタ20Aは、積層方向において2つの単セル10A、10Bで挟まれており、一方の対向面22が単セル10Aの空気極16と対向し、他方の対向面26が単セル10Bの燃料極12と対向している。インターコネクタ20Aの対向面22、26と、それぞれ対応する単セル10A,10Bの燃料極12あるいは空気極16の対向面との間には、ここに開示される導電性ペーストの焼成体が配置され、導通部(図示せず)が形成されている。対向面22には複数の溝が形成されており、供給された酸素含有ガス(典型的には空気)が流れる酸素含有ガス流路24を構成している。また、対向面26にも複数の溝が形成されており、供給された燃料ガス(典型的にはHガス)が流れるための燃料ガス流路28を構成している。
SOFCシステム30の稼働時には、燃料ガス流路28に燃料ガス(ここでは水素(H)ガス)が、酸素含有ガス流路24に酸素(O)含有ガス(ここでは空気(Air))が、それぞれ供給される。SOFCシステム30では、空気極16において酸素が還元され、酸化物イオンとなる。該酸化物イオンが固体電解質14を介して燃料極12に到達し、燃料ガスを酸化して電子を放出する。これにより電気エネルギーが発生する。
なお、図1に示すSOFC用の単セル10A、10Bは平型(Planar)であるが、これには限定されず、他にも種々の形状とすることができる。また、SOFCのサイズも特に限定されない。例えば、従来公知の多角形型、円筒型(Tubular)、あるいは円筒の周側面を垂直に押し潰した扁平円筒型(Flat Tubular)などを採用することができる。また、平型のSOFCとしては、ここで開示される燃料極支持型(ASC)の他にも、例えば固体電解質を厚くした電解質支持型(ESC:Electrolyte-Supported Cell)や、空気極を厚くした空気極支持型(CSC:Cathode-Supported Cell)などを採用することができる。その他、燃料極の下側(固体電解質から離れる側)に多孔質な金属シートを入れた、メタルサポートセル(MSC:Metal-Supported Cell)とすることもできる。
また、ここに開示される導電性ペーストは、SOFCの構築のみならず、例えば、太陽電池等の各種発電システム、ゴミ焼却装置、排ガス除去装置等の環境装置、車両用の排ガス処理装置、エンジン燃焼試験装置、真空系乾燥装置、半導体装置等の構築等にも好適に用いることができる。
以下、本発明に関する幾つかの試験例を説明するが、本発明をかかる試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
<試験例I>
本試験例では、水分含有量が異なる導電性ペーストを作製し、性能を評価した。
具体的には、まず、導電性粉末としてのランタンストロンチウムコバルト酸化物(LSC、平均粒径1μm)を用意した。また、樹脂バインダとしてのエチルセルロース(EC、SP値:9.6(cal/cm0.5)と、有機溶剤としてのメンタノールと2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール−1−モノイソブチレート(日香NG−120、日本香料薬品株式会社製)との混合溶剤とを、樹脂バインダ:有機溶剤=13:87の混合比(質量比)で調合して、ベヒクルを調製した。そして、上記導電性粉末とベヒクルとを混合し、3本ロールミルで混練した。これにより、導電性ペースト(参考例1、2)を得た。参考例1、2は、水分を添加しなかった従来の導電性ペーストに係る試験例である。また、参考例1、2以外については、3本ロールミルで混練した導電性ペーストに微量の水分を直接添加した。これにより、導電性ペースト(例1〜4、参考例3、4)を得た。
上記得られた導電性ペースト(例1〜4、参考例1〜4)について、水分の含有割合と粘度を測定した。また、上記得られた導電性ペースト(例1〜4、参考例1〜4)を用いて基材上に導電層を形成し、このときの印刷性と、基材に対する導電層の接合性とを評価した。以下に、各評価の詳細を示す。
(1)導電性ペースト中の水分割合
上記得られた導電性ペーストの水分量を、カールフィッシャー水分測定装置(株式会社 三菱化学アナリテック製)で測定した。具体的には、上記装置を無水化処理した後、300℃まで昇温して、300℃で定値運転した。この状態で、導電性ペーストを投入し、水分の捕集と滴定を開始した。その後、滴定中の電解速度が、滴定開始前の電解速度(バックグラウンド値)+0.2μg/secになるまで検出を続けて、導電性ペースト中の水分量を得た。この水分量と投入した導電性ペーストの量から、導電性ペースト中での水分の含有割合(質量%)を算出した。結果を表1の「水分割合」の欄に示す。
また、表1の導電性粉末の「割合」の欄には、水分割合を加味したときの導電性ペースト中の導電性粉末の含有割合(質量%)を示している。なお、100から導電性粉末の含有割合と水分の含有割合とを差し引いたものが、ベヒクルの含有割合となる。
(2)導電性ペーストの粘度
上記得られた導電性ペーストの粘度を、回転粘度計(ブルックフィールド型粘度計)で測定した。具体的には、25℃の環境下において、導電性ペースト中で回転子を10rpmの回転速度で回転させたときの粘度(Pa・s)を測定した。結果を表1の「粘度」の欄に示す。
(3)導電性ペーストの印刷性
まず、平板型のSOFC用の単セル(□10cm×10cm)を準備した。この単セルのカソードの表面に、スクリーン印刷法で導電性ペーストを付与した。具体的には、スクリーン製版のスクリーン紗上に導電性ペーストを供給して、スクリーン紗の表面にスキージを当接させながらスキージを移動させたときに、スキージの移動に追随した版離れが可能か否かを確認した。結果を表1の「印刷性」の欄に示す。表1において、「○」は、版離れが良好であったことを示している。「×」は、版離れが悪かったことを示している。
(4)導電層の接合性(剥離強度)
図2は、剥離強度の測定方法を説明するための模式的な断面図である。
まず、基材の一例として、2枚の金属板31、32を用意した。第1の金属板31は、□10mm×10mmの平面正方形状であり、第2の金属板32は、Φ5mmの平面円形状である。2枚の金属板31、32は、それぞれ、SOFCインターコネクタ用フェライト系合金Crofer(商標) 22 APU(マグネクス株式会社製)31b、32bの表面に、MCF(Mn−Co−Feスピネル)コート31a、32aを施してある。次に、第1の金属板31のMCFコートを施してある側の表面に、スクリーン印刷法で導電性ペーストを付与し、□9mm×9mmの成膜体を形成した。次に、上記形成した成膜体の上に、MCFコートを施してある側の表面が対向するように、第2の金属板32を配置した。このようにして、2枚の金属板31、32の間に成膜体が挟まれた構造の複合体を得た。この複合体を120℃の乾燥オーブンで30分間乾燥させた後、850℃の焼成炉で2時間焼成した。これにより、2枚の金属板31、32の間に導電層40(成膜体の焼成体)が介在している接合性評価用のサンプルを得た。
次に、このサンプルの第1の金属板31を作業台に固定した。次に、プッシュプルゲージ(フォースゲージ)33を用いて、第2の金属板32の側方から、垂直方向(図2の矢印の方向)に力を加えた。そして、導電層40から第2の金属板32が剥離したときのフォース(N)を測定した。結果を表1の「剥離強度」の欄に示す。なお、剥離強度は、値が大きいほど接合性に優れることを表している。
Figure 2018037340
参考例1の導電性ペーストは、粘度が低く、印刷性に優れていた。しかし、参考例1の導電性ペーストを用いてなる導電層では、剥離強度の値が小さく、金属板との接合性が不足していた。一方、参考例2の導電性ペーストは、粘度が高く、版離れが悪かった。また、参考例3の導電性ペーストは、例1と同等の粘度とするためにベヒクル(樹脂バインダと有機溶剤)の割合を多くした結果、導電性粉末の割合が少なくなり、剥離強度の値が小さかった。また、参考例4の導電性ペーストは、導電性ペーストから水分が分離してしまい、均質な導電性ペーストを調製すること自体が困難だった。
これら参考例に対して、水分の含有割合を0.5〜8.0質量%とした例1〜4の導電性ペーストは、粘度の上昇が抑えられ、印刷性に優れていた。また、例1〜4の導電性ペーストを用いてなる導電層では、参考例1、3に比べて剥離強度の値が大きく、導電層と金属板との接合性が高かった。すなわち、本実施形態においては、導電性ペースト中の水分の含有割合を0.5〜8.0質量%とすることで、基材との接合性に優れた導電層を好適に形成することができた。なかでも、導電性ペースト中の水分の含有割合を0.5〜1.5質量%とすることで、ここに開示される技術の効果をさらに高いレベルで発揮することができた。この理由は定かではないが、一因として、導電性粉末やベヒクルの有機化合物に含まれる官能基(例えば表面官能基)と、導電性ペースト中の水分との相互作用が考えられる。つまり、水分を略含まない従来の導電性ペーストでは、例えば導電性粉末に含まれる官能基とベヒクルの有機化合物(例えば樹脂バインダ)に含まれる官能基との間で相互作用が生じて、分子間のネットワークが形成され得る。このネットワークが導電性ペースト中で長くなったり絡まったりすると、粘度が高まることが考えられる。一方、ここに開示される導電性ペーストでは、所定量の水分を含むことによって導電性粉末とベヒクルとの上記相互作用が緩和され、分子間のネットワークの絡まりが低減されたり、短く切断されたりして、導電性ペーストの粘度が抑えられたことが考えられる。
<試験例II>
本試験例では、導電性ペーストの含有成分や含有割合を異ならせた導電性ペースト(例5〜10)を調製して、上記試験例Iと同様に評価を行った。結果を下表2に示す。
なお、例5〜8は、導電性ペースト中の無機成分について検討した例である。具体的には、導電性粉末の平均粒径や含有割合、および無機添加剤(ここでは焼結助剤)の添加の有無を検討した例である。表2において、導電性粉末の平均粒径の欄に2つの数値が記載してある例は、平均粒径の異なる2種類の導電性材料を混合して使用した例である。
また、例9,10は、導電性ペースト中の導電性粉末や樹脂バインダ、有機溶剤の種類、およびベヒクルの含有割合を検討した例である。なお、例9では、導電性粉末として、銀−パラジウム(Ag/Pd)を使用し、樹脂バインダとして、ポリビニルブチラール(PVB、SP値:9.8(cal/cm0.5)を使用し、有機溶剤として、メンタノールを使用した。また、例10では、導電性粉末として、銀−パラジウム(Ag/Pd)とランタンストロンチウムコバルトフェライト酸化物(LSCF)とを混合して使用し、樹脂バインダとして、アクリル系樹脂(SP値:9.0(cal/cm0.5)を使用し、有機溶剤として、ターピネオールを使用した。
Figure 2018037340
表2に示すように、導電性ペースト中の含有成分や含有割合を異ならせた場合も、導電性ペースト中の水分の含有割合を0.5〜8.0質量%とすることで、基材との接合性に優れた導電層を好適に形成することができた。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
10A、10B SOFC用の単セル
12 燃料極(アノード)
14 固体電解質層
16 空気極(カソード)
20、20A インターコネクタ
30 SOFCシステム

Claims (10)

  1. 導電性粉末と、ベヒクルと、水分とを含む導電性ペーストであって、
    前記導電性ペーストの全量を100質量%としたときに、カールフィッシャー法(加熱温度:300℃)によって検出される前記水分の含有割合は、0.5質量%以上8.0質量%以下である、導電性ペースト。
  2. 前記導電性ペーストの全量を100質量%としたときに、前記導電性粉末の含有割合が、65質量%以上90質量%以下である、請求項1に記載の導電性ペースト。
  3. 前記導電性ペーストの全量を100質量%としたときに、前記ベヒクルの含有割合が、10質量%以上35質量%以下である、請求項1または2に記載の導電性ペースト。
  4. 前記ベヒクルが、親水性基を有する親水性化合物を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
  5. 前記ベヒクルが、溶解度パラメータ(SP値)が10(cal/cm0.5以下の化合物を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
  6. 前記導電性粉末が、導電性酸化物を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
  7. 25℃の環境下において、回転粘度計を用いて回転速度10rpmで測定される粘度が、175Pa・s以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
  8. 固体酸化物形燃料電池の作製に用いられる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
  9. アノードと固体電解質とカソードとを備える固体酸化物形燃料電池用の単セルの製造方法であって、
    請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性ペーストを用意すること、
    前記導電性ペーストを前記アノードおよび前記カソードのうちの少なくとも1つの部材上に付与して焼成することにより、前記部材上に導電部を形成すること、
    を包含する、固体酸化物形燃料電池用の単セルの製造方法。
  10. 固体酸化物形燃料電池の単セルを複数備える固体酸化物形燃料電池用の構造体の製造方法であって、
    請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性ペーストを用意すること、
    前記導電性ペーストを第1の単セル上に付与して、その上から第2の単セルを直接的あるいは間接的に積層して焼成することにより、前記第1の単セルと前記第2の単セルとの間に導電部を形成すること、
    を包含する、固体酸化物形燃料電池用の構造体の製造方法。
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