JP5965383B2 - 固体酸化物形燃料電池および該電池の反応抑止層形成用組成物 - Google Patents
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本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、分散性や塗工性に優れた均質な反応抑止層形成用組成物を提供することである。また、関連する他の目的は、優れた発電性能と高い信頼性(耐久性)とを両立し得るSOFCを提供することである。
したがって、ここで開示される技術によれば、ピンホールや界面剥離等の不具合が生じ難く、高い発電性能を長期に渡って発揮し得る高性能なSOFCを実現することができる。なお、「レオロジー降伏値」とは、測定試料にせん断応力を印加していった際に歪みが増大し始める値をいい、例えば一般的なレオメーターを用いて歪み制御モードで測定することができる。
ここで開示される反応抑止層形成用組成物は、セリウム酸化物の占める割合が高く、且つ流動性に優れることを特徴とする。このため、かかる組成物を用いて形成された反応抑止層は緻密で、ピンホール等の塗工に起因する問題が生じ難い。すなわち、かかる反応抑止層は、酸化物イオン伝導性に優れ、信頼性の高いものであり得る。
なお、本明細書において「塗膜密度(%)」とは、上記グリーンシート積層体において、反応抑止層の密度(g/cm3)をセリウム酸化物の真比重(g/cm3)で除して100を掛けた値をいう。上記「反応抑止層の密度(g/cm3)」は、反応抑止層の質量W(g)を見かけの体積V(cm3)で除すこと、すなわちW/Vによって求めることができる。具体的には、例えばまず測定対象たる反応抑止層を打ち抜き機やカッター等で正方形や長方形に切り出し、その質量W(g)を測定する。次に、上記切り出したサンプルの平面視での面積S(cm2)と厚みT(cm)とを計測し、これらの値を乗ずることにより見かけの体積V(cm3)を算出する。サンプルの厚みTは、例えばマイクロメータや一般的な厚み計等により計測することができる。このようにして得られた値から、W/STによって反応抑止層の密度(g/cm3)を算出することができる。また、上記「セリウム酸化物の真密度(g/cm3)」は、一般的な定容積膨張法(気体置換型ピクノメータ法)等の密度測定装置によって測定することができる。
ここで開示される反応抑止層は、酸化物イオン伝導性に優れ、信頼性の高いものであり得る。さらに、反応抑止層−固体電解質層間の接合強度が高いため、界面剥離を生じ難く、長期に渡って安定して使用することができる。すなわち、ここで開示されるSOFCは、優れた発電性能(高出力密度)を長期に渡り発揮することができる。
ここで開示される固体酸化物形燃料電池(SOFC)の反応抑止層形成用組成物は、少なくとも、セリウム酸化物とバインダと分散剤とが、有機溶媒に分散または溶解されてなるペースト状の組成物である。
(1)1≦m≦20(好ましくは1≦m≦10、より好ましくは1≦m≦5)
(2)0≦n≦20(好ましくは1≦n≦10、より好ましくは1≦n≦5)
(3)m+n≦30(好ましくは2≦m+n≦20、より好ましくは2≦m+n≦10)
また、Rは水素原子または炭素数1〜5の低級アルキル基であり得る。具体的には、Rは、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等の鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−メチル−2−メチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基等の分岐鎖状アルキル基;エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等のアルキニル基;トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;であり得る。とりわけ、R=メチル基のもの、すなわち下式(II)で示されるジカルボン酸が好適である。なお、下式(II)におけるmおよびnは、式(I)と同様であり得る。
また、反応抑止層形成用組成物全体に占めるセリウム酸化物の割合は、凡そ50wt%以上(例えば50wt%〜80wt%)とすることができ、通常は凡そ60wt%〜70wt%とすることが好ましい。反応抑止層形成用組成物全体に占めるバインダの割合は、例えば凡そ1wt%〜10wt%とすることができ、通常は凡そ1wt%〜5wt%とすることが好ましい。反応抑止層形成用組成物全体に占める分散剤の割合は、例えば凡そ5wt%以下とすることができ、通常は3wt%以下(典型的には0.1wt%〜3wt%、例えば0.5wt%〜2wt%)とすることが好ましい。構成材料の比率(例えば分散剤の添加量)を最適化することにより、本願発明の効果をより高いレベルで発揮することができる。
反応抑止層形成用組成物のレオロジー降伏値は特に限定されないが、典型的には500Pa以下(例えば1Pa〜500Pa)とすることができ、100Pa以下(例えば5Pa〜50Pa)とすることが好ましい。上記範囲を満たす組成物は分散性や流動性が高く、塗工性に優れている。
(a)アノード形成用シート10を準備すること。
(b)上記アノード形成用シートの表面に、少なくとも酸化物イオン伝導体とバインダと溶媒とを含む固体電解質形成用組成物を付与して固体電解質層20を形成し、アノード−固体電解質積層体110を得ること。
(c)固体電解質層20の表面に、ここで開示される反応抑止層形成用組成物を付与して反応抑止層30を形成し、アノード−固体電解質−反応抑止層積層体120を得ること。
(d)反応抑止層30の表面に、少なくともペロブスカイト型の酸化物とバインダと溶媒とを含むカソード形成用組成物を付与してカソード40を形成し、SOFC50を得ること。
かかる製造方法によれば、高い発電性能と信頼性とを実現し得るSOFCを好適に製造することができる。以下、各工程について順に説明する。
先ず、図1(a)に示すように、アノード形成用シート10を準備する。これらは既製品を購入してもよく、また従来公知の手法を用いて作製することもできる。このようなアノード形成用シート10は、例えば電気触媒的作用を有する導電性材料と、バインダと、必要に応じて用いられる造孔材や分散剤とを適当な溶媒に分散させ、ペースト状の組成物(アノード形成用組成物)を調製し、かかる組成物を任意の手法で成形することにより作製することができる。
ここで開示されるアノード(燃料極)形成用シート10は、SOFCの支持体として、例えば固体電解質20やカソード40に比べて厚めに形成される。支持体としてのアノード形成用シート10の厚みは、強度の確保や耐久性の観点から通常凡そ100μm〜2000μmとすることができ、凡そ200μm〜1000μmとすることが好ましい。
なお、図1に示す形態ではアノード形成用シート10は単層構造であるが、所望の厚み(例えば300μm〜1000μm)を実現するために、複数のシートを積層した多層構造とすることもできる。これらシートの積層は、例えばシート間に接着剤としての有機物を付与したり、または加熱圧着したりすることによって作製することができる。
次に、図1(b)に示すように、上記アノード形成用シート10の表面に固体電解質層用組成物を付与し、固体電解質層20を形成する。これによって、アノード−固体電解質積層体110を作製することができる。かかる固体電解質層20は、例えば、酸化物イオン伝導体とバインダと必要に応じて含まれる添加剤(例えば可塑剤)とを溶媒に分散させて調製してなるペースト状の組成物(固体電解質層用組成物)を、アノード10(アノード形成用シートが積層された形態であり得る。)の上に任意の手法で付与することで形成し得る。
次に、図1(c)に示すように、固体電解質20の表面に反応抑止層用組成物を付与し、反応抑止層30を形成する。これによって、アノード−固体電解質−反応抑止層積層体120を作製することができる。例えば、固体電解質20の構成材料として酸化ジルコニウム系のものを、カソード40の構成材料としてペロブスカイト構造を有する酸化物を用いる場合、これらの接触する部分(界面)において固相反応を生じ、固体電解質−カソード間の酸化物イオン伝導性が低下する虞がある。そこで、固体電解質とカソードとの間に反応抑止層を備えることによって高い酸化物イオン伝導性を維持することができ、すなわち発電性能に優れたSOFCを実現し得る。
反応抑止層用組成物の付与方法は上記アノードシートを形成する場合と同様であり得、例えば印刷法(典型的にはスクリーン印刷法)を採用し得る。反応抑止層30の塗布密度は55体積%〜70体積%であり、例えば55体積%〜65体積%(典型的には55体積%〜60体積%)とすることができる。反応抑止層30の厚みは、通常10μm以下とすることができ、例えば7μm以下(典型的には5μm以下)とすることが好ましい。
ここで開示される反応抑止層形成用組成物はセリウム酸化物の占める割合が高く、且つ流動性に優れることを特徴とする。このため、かかる組成物を用いて形成された反応抑止層は、緻密でピンホール等の塗工に起因する問題が生じ難い。すなわち、かかる反応抑止層は、酸化物イオン伝導性に優れ信頼性の高いものであり得る。
次に、図1(d)に示すように、焼成後の反応抑止層30の表面にカソード40を形成する。これによって、SOFC50を作製することができる。かかるカソード40は、例えば、ペロブスカイト型酸化物と、バインダと、必要に応じて含まれる添加剤とを溶媒に分散させて調整してなるペースト状の組成物(カソード形成用組成物)を、反応抑止層30の上に任意の手法で付与することで形成し、かかるグリーンシート積層体を所定の温度で焼成することによって、作製し得る。
先ず、平均粒径0.5μmの酸化ニッケル(NiO)粉末と、平均粒径0.5μmのイットリア安定化ジルコニア(8mol%Y2O3−ZrO2、以下「8YSZ」と略称することがある。)粉末とを、NiO:8YSZ=60:40の質量比率で混ぜ合わせ、混合粉末を得た。かかる混合粉末と、バインダ(メタクリル酸エステル系ポリマー)と、造孔材(カーボン)と、可塑剤(フタル酸エステル)と、溶媒(キシレン)とを、58:8.5:5:4.5:24で攪拌混合することにより、ペースト状のアノード形成用組成物を調製した。これをドクターブレード法によってシート成形し、φ20mm、厚み500μm〜1000μmのアノード形成用シートを形成した。
上記反応抑止層形成用組成物に表1に示す種類の分散剤を添加し、酸化セリウム:バインダ:分散剤:溶媒=65:4:1:30の質量比で攪拌混合したこと以外は例1と同様に、例2〜例6に係るアノード支持型のSOFCを得た。なお、例6のジカルボン酸は、上記式(II)に示した構造のものである。
上記のようにして得られたアノード支持型のSOFC(焼成体)を観察し、界面剥離等の不具合がないか確認を行った。なお、観察手法としては目視および走査型電子顕微鏡(SEM)観察とを併用した。結果を、表1の「界面剥離」の欄に纏める。
表1に示すように、反応抑止層形成用組成物に分散剤を用いなかった例1、および分散剤としてエステル系またはエーテル系の分散剤を用いた例2〜例4では、焼成後のSOFCの界面、具体的には固体電解質−反応抑止層間の界面および/または反応抑止層−カソード間の界面、に剥離が認められた。この原因として、反応抑止層形成用組成物中の組成が不均質であったことや、該組成物の流動性が不足し塗工性が悪化したこと等が考えられる。他方、カルボン酸系の分散剤を用いた例5および例6では、上記のような不都合は認められなかった。したがって、反応抑止層形成用組成物の分散剤にカルボン酸系の界面活性剤を用いることで、反応抑止層の界面剥離を抑制し得ることがわかった。
例3〜例6のSOFCについて、温度500℃〜800℃で動作させ、発電特性評価を行った。「発電性能」の代表値として、温度700℃における最大電力密度(W/cm2)の値を表1の該当欄に示す。
表1に示すように、エステル系またはエーテル系の分散剤を用いた例3および例4に比べ、モノカルボン酸系の分散剤を用いた例5では4倍近く高い発電性能を示した。また、ジカルボン酸系の分散剤を用いた例6は、(例3および例4に比べて)6.5倍近く、顕著に高い発電性能を示した。この理由として、ジカルボン酸系の分散剤を用いることで組成物のレオロジー降伏値を大きく低下させることができ、すなわち流動性や塗工性に優れた反応抑止層形成用組成物を実現し得たためと考えられる。
12 アノードの端部
20 固体電解質
30 反応抑止層
40 カソード(空気極)
50 SOFC
60 接合部材
70 ガス管
110 アノード−固体電解質積層体
120 アノード−固体電解質−反応抑止層積層体
Claims (11)
- 固体酸化物形燃料電池の反応抑止層を形成するための組成物であって、
少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤と有機溶媒とを含み、
前記セリウム酸化物の占める割合は、前記反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、50wt%〜80wt%であり、
前記分散剤が分子内に1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸であり、且つ該カルボン酸の重量平均分子量が1000以下である、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物。 - 前記分散剤が、分子内に2つのカルボキシル基を有するジカルボン酸である、請求項1に記載の反応抑止層形成用組成物。
- レオメーターの測定に基づくレオロジー降伏値が100Pa以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。
- 前記分散剤の含有量が、前記反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、3wt%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。
- 前記有機溶媒がα−テルピネオールであり、
前記バインダがエチルセルロースである、請求項1から5のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。 - 前記セリウム酸化物が、イットリア、ガドリニアまたはサマリアがドープされた酸化セリウムであり、
前記セリウム酸化物のレーザー回折・光散乱法に基づく平均粒径が0.1μm以上2μm以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。 - アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる固体酸化物形燃料電池の形成に用いられるグリーンシート積層体であって、
前記反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物からなる、グリーンシート積層体。 - 前記反応抑止層の塗布密度が55体積%〜70体積%である、請求項8に記載のグリーンシート積層体。
- アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる固体酸化物形燃料電池であって、
前記反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物の焼成体からなる、固体酸化物形燃料電池。 - 前記反応抑止層の厚みが10μm以下である、請求項10に記載の固体酸化物形燃料電池。
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