本発明に係る実施形態である燃料電池システムについて、図1を参照しながら詳細に説明する。本実施形態では、燃料電池車に搭載され、その駆動用モータ(図示略)に電力を供給する燃料電池システムに、本発明を適用した場合について説明する。
本実施形態の燃料電池システム101は、図1に示すように、燃料電池スタック(燃料電池)111と、水素系112と、エア系113を有する。
燃料電池スタック111は、燃料ガスの供給と酸化剤ガスの供給を受けて発電を行う。本実施形態では、燃料ガスは水素ガスであり、酸化剤ガスはエアである。すなわち、燃料電池スタック111は、水素系112からの水素ガスの供給と、エア系113からのエアの供給を受けて発電を行う。そして、燃料電池スタック111で発電された電力は、インバータ(図示略)を介して駆動用モータ(図示略)に供給される。
水素系112は、燃料電池スタック111のアノード側に設けられている。この水素系112は、水素供給通路121、水素排出通路122、充填通路123を備えている。水素供給通路121は、水素タンク131から燃料電池スタック111へ水素ガスを供給するための通路である。水素排出通路122は、燃料電池スタック111から排出される水素ガス(以下、適宜、「水素オフガス」という。)を排出するための通路である。充填通路123は、充填口151から水素タンク131に水素ガスを充填するための通路である。
水素系112は、水素供給通路121において、水素タンク131側から順に、主止弁132、高圧レギュレータ133、中圧リリーフ弁134、圧力センサ135、インジェクタ部136、低圧リリーフ弁137、圧力センサ138を備えている。主止弁132は、水素タンク131から水素供給通路121への水素ガスの供給と遮断を切り換える弁である。高圧レギュレータ133は、水素ガスを減圧するための圧力調整弁である。中圧リリーフ弁134は、水素供給通路121における高圧レギュレータ133とインジェクタ部136の間の圧力が所定圧力以上になると開弁して圧力を所定圧力未満に調整する弁である。圧力センサ135は、水素供給通路121における高圧レギュレータ133とインジェクタ部136の間の圧力を検出するセンサである。インジェクタ部136は、水素ガスの流量を調節する機構である。低圧リリーフ弁137は、水素供給通路121におけるインジェクタ部136と燃料電池スタック111の間の圧力が所定圧力以上になると開弁して圧力を所定圧力未満に調整する弁である。圧力センサ138は、水素供給通路121におけるインジェクタ部136と燃料電池スタック111の間の圧力を検出するセンサである。
また、水素系112は、水素排出通路122において、燃料電池スタック111側から順に、気液分離器141、排気排水弁142が配置されている。気液分離器141は、水素オフガス内の水分を分離する機器である。排気排水弁142は、気液分離器141からエア系113の希釈器182への水素オフガスや水分の排出と遮断を切り換える弁である。
エア系113は、燃料電池スタック111のカソード側に設けられている。このエア系113は、エア供給通路161、エア排出通路162、バイパス通路163を備えている。エア供給通路161は、燃料電池システム101の外部から燃料電池スタック111へ、エアを供給するための通路である。エア排出通路162は、燃料電池スタック111から排出されるエア(以下、適宜、「エアオフガス」という。)を排出するための通路である。バイパス通路163は、エア供給通路161から燃料電池スタック111を介さずにエア排出通路162へ、エアを流すための通路である。
エア系113は、エア供給通路161において、エアクリーナ171側から順に、コンプレッサ172、インタークーラ173、入口封止弁(上流側弁)174を備えている。エアクリーナ171は、燃料電池システム101の外部から取り込んだエアを清浄化する機器である。コンプレッサ172は、エアを燃料電池スタック111に供給する機器である。インタークーラ173は、エアを冷却する機器である。入口封止弁174は、燃料電池スタック111へのエアの供給と遮断を切り換える封止弁である。この入口封止弁174として、弁体のシール面が回転軸から偏心して配置される偏心弁が適用されている。入口封止弁174の詳細については、後述する。
また、エア系113は、エア排出通路162において、燃料電池スタック111側から順に、出口統合弁(下流側弁)181、希釈器182が配置されている。
出口統合弁181は、燃料電池スタック111の背圧を調整して燃料電池スタック111からのエアオフガスの排出量を制御する弁(調圧(流量制御)機能を有する弁)である。この出口統合弁181として、入口封止弁174と基本的に同一構成(ゴムシート21の構成が異なる場合がある)の偏心弁が適用されている。出口統合弁181の詳細については、後述する。
希釈器182は、エアオフガス及びバイパス通路163を流れるエアにより、水素排出通路122から排出される水素オフガスを希釈する機器である。
また、エア系113は、バイパス通路163において、バイパス弁191を備えている。バイパス弁191は、バイパス通路163におけるエアの流量を制御する弁である。バイパス弁191として、入口封止弁174や出口統合弁181とほぼ同一構成(ゴムシート21を備えていない)の偏心弁が適用されている。バイパス弁191の詳細については、後述する。
また、燃料電池システム101は、システムの制御を司るコントローラ(制御部)201を備えている。コントローラ201は、燃料電池システム101に備わる各機器を制御するとともに各種判定を行う。なお、燃料電池システム101は、その他、燃料電池スタック111の冷却を行う冷却系(不図示)も有する。
以上のような構成の燃料電池システム101において、水素供給通路121から燃料電池スタック111に供給された水素ガスは、燃料電池スタック111にて発電に使用された後、燃料電池スタック111から水素オフガスとして水素排出通路122と希釈器182を介して、燃料電池システム101の外部に排出される。また、エア供給通路161から燃料電池スタック111に供給されたエアは、燃料電池スタック111にて発電に使用された後、燃料電池スタック111からエアオフガスとしてエア排出通路162と希釈器182を介して、燃料電池システム101の外部に排出される。
ここで、入口封止弁174、出口統合弁181及びバイパス弁191について、図2〜図21を参照しながら説明する。なお、これらの弁は、入口封止弁174と出口統合弁181とでゴムシートの構成が異なる場合やバイパス弁191がゴムシートを備えていないことを除いて、基本的に同一構成であるため、以下では入口封止弁174を中心に説明し、適宜、出口統合弁181及びバイパス弁191についても説明する。
図2及び図3に示すように、入口封止弁174は、弁部2と駆動機構部3を備える。弁部2は、内部にエア(空気)が流れる流路11を有する管部12(図8参照)を備え、流路11の中には弁座13、弁体14及び回転軸15が配置されている。回転軸15に対しては、駆動機構部3から駆動力(回転力)が伝えられる。駆動機構部3は、モータ32と減速機構33(図8や図9参照)を備えている。
図4及び図5に示すように、流路11には段部10が形成され、その段部10に弁座13が組み込まれている。弁座13は、円環状をなし、中央に弁孔16を有する。弁孔16の縁部には、環状のシート面17が形成されている。弁体14は、円板状の部分を備え、その外周には、シート面17に対応する環状のシール面18が形成されている。弁体14は、回転軸15に一体的に設けられ、回転軸15と一体的に回転する。
本実施形態では、弁座13に、ゴムシート(シール部材)21が設けられている(図21参照)。そして、ゴムシート21に、シート面17が形成されている。このゴムシート21の詳細については、後述する。なお、バイパス弁191には、ゴムシート21が備わっていないため、シート面17は弁座13に形成されている。
本実施形態では、図4及び図5において、弁座13に対して弁体14や回転軸15とは反対側に形成される流路11が燃料電池スタック111側(エアの流れの下流側)に配置され、弁座13に対して弁体14や回転軸15側に形成される流路11がコンプレッサ側(エアの流れの上流側)に配置されている。すなわち、本実施形態では、エアは、流路11内において、弁体14(回転軸15)側から弁座13側に向かって流れる。
なお、出口統合弁181においては、入口封止弁174とは逆に、弁座13に対して弁体14や回転軸15とは反対側に形成される流路11が燃料電池スタック111側(エアの流れの上流側)に配置され、弁座13に対して弁体14や回転軸15側に形成される流路11が希釈器182側(エアの流れの下流側)に配置されている。すなわち、出口統合弁181では、エアは、流路11内において、弁座13側から弁体14(回転軸15)側に向かって流れる。
また、バイパス弁191においては、弁座13に対して弁体14や回転軸15とは反対側に形成される流路11がエア供給通路161側(エアの流れの上流側)に配置され、弁座13に対して弁体14や回転軸15側に形成される流路11がエア排出通路162側(エアの流れの下流側)に配置されている。すなわち、バイパス弁191では、エアは、流路11内において、弁体14(回転軸15)側から弁座13側に向かって流れる。
図6及び図7に示すように、回転軸15の中心軸Lsは、弁体14の径方向(詳しくは、弁体14の円板状の部分の径方向)と平行に伸び、弁孔16の中心軸P1から弁孔16の径方向へ偏心して配置されると共に、弁体14のシール面18が回転軸15の中心軸Lsから弁体14の中心軸Lvが伸びる方向へ偏心して配置されている。
また、弁体14について回転軸15の中心軸Lsを中心に回転させることにより、弁体14のシール面18が、シート面17に面接触する閉弁位置(図4参照)とシート面17から最も離れる全開位置(図5参照)との間で移動可能となっている。
図8及び図9に示すように、金属製又は合成樹脂製の弁ハウジング35は、流路11及び管部12を備えている。また、金属製又は合成樹脂製のエンドフレーム36は、弁ハウジング35の開口端を閉鎖している。弁体14及び回転軸15は、弁ハウジング35内に設けられている。回転軸15は、その先端部にピン15aを備えている。このように、ピン15aは、回転軸15の中心軸Ls方向の一方(弁体14側)の端部に設けられている。ピン15aの径は、回転軸15におけるピン15a以外の部分の径よりも小さい。なお、回転軸15の中心軸Ls方向の他方(メインギヤ41側)の端部には、基端部15bが設けられている。
回転軸15は、ピン15aがある先端側を自由端とし、その先端部が管部12の流路11に挿入されて配置されている。また、回転軸15は、互いに離れて配置された2つの軸受である第1軸受37と第2軸受38を介して弁ハウジング35に対し回転可能に片持ち支持されている。第1軸受37と第2軸受38は、ともにボールベアリングにより構成されている。第1軸受37と第2軸受38は、回転軸15の中心軸Ls方向について弁体14とメインギヤ41との間の位置に配置され、回転軸15を回転可能に支持している。本実施形態では、第1軸受37が、第2軸受38に対してメインギヤ41側の位置に配置されている。弁体14は、回転軸15の先端部に形成されたピン15aに対して溶接により固定され、流路11内に配置されている。
エンドフレーム36は、弁ハウジング35に対し複数のクリップ39(図2及び図3参照)により固定されている。図8及び図9に示すように、回転軸15の基端部15bには、扇形ギヤを備えるメインギヤ41が固定されている。弁ハウジング35とメインギヤ41との間には、リターンスプリング力Fs1を発生させるリターンスプリング40が設けられている。リターンスプリング力Fs1は、回転軸15を閉弁方向に回転させる力であって、弁体14を閉弁方向へ付勢する力である。
リターンスプリング40は、線材がコイル状に巻かれて形成された弾性体である。リターンスプリング40は、その線材の両端部において、図11に示すように、奥側フック40aと、手前側フック40bを備えている。奥側フック40aと手前側フック40bは、リターンスプリング40の周方向について約180°離れた位置に配置されている。奥側フック40aは、弁ハウジング35側(図11の紙面奥側)に配置され、弁ハウジング35のスプリングフック部35c(図19参照)に接触している。一方、手前側フック40bは、メインギヤ41側(図11の紙面手前側)に配置され、メインギヤ41のスプリングフック部41cに接触している。
また、図8〜図11に示すように、メインギヤ41は、全閉ストッパ部41aと、歯車部41bと、スプリングフック部41cと、スプリングガイド部41dなどを備えている。そして、メインギヤ41の周方向(図11の反時計方向)について、順に、全閉ストッパ部41a、歯車部41b、スプリングフック部41cが形成されている。メインギヤ41は、回転軸15と一体的に設けられ、モータ32で発生する駆動力を受給する。全閉ストッパ部41aは、開度θが「0」であるときに、弁ハウジング35の全閉ストッパ部35bに接触する部分である。なお、メインギヤ41は、本発明における「駆動力受給部」の一例である。
図8に示すように、モータ32は、弁ハウジング35に形成された収容凹部35aに収容されて固定されている。モータ32は、回転軸15を開弁、および、閉弁方向に回転させる駆動力を発生させる。モータ32は、弁体14を開閉駆動するために減速機構33を介して回転軸15に駆動力が伝達されるようにして連結されている。すなわち、モータ32の出力軸32a(図10参照)には、モータギヤ43が固定されている。このモータギヤ43は、中間ギヤ42を介してメインギヤ41に駆動力が伝達されるようにして連結されている。
中間ギヤ42は、大径ギヤ42aと小径ギヤ42bを有する二段ギヤであり、ピンシャフト44を介して弁ハウジング35に回転可能に支持されている。大径ギヤ42aの直径は、小径ギヤ42bの直径よりも大きい。大径ギヤ42aには、モータギヤ43が駆動連結され、小径ギヤ42bには、メインギヤ41が駆動連結されている。本実施形態では、減速機構33を構成するメインギヤ41と中間ギヤ42とモータギヤ43は、樹脂により形成されている。
なお、モータ32は、本発明における「駆動機構」の一例である。また、中間ギヤ42(駆動伝達部)は、モータ32の駆動力を回転軸15に伝達する。
詳しくは後述するが、このような構成の入口封止弁174は、図4に示すような閉弁状態(弁体14のシール面18の全周と弁座13(ゴムシート21)のシート面17の全周とが接触している状態)から、モータ32に通電させると、メインギヤ41にギヤ歯を押す力(モータ駆動力Fm1(図14参照))が加わり、てこの原理により弁体14を弁座13に向かう方向へ移動させる(図15参照)。その後、モータ32に印加する駆動電圧(電流)が徐々に大きくなると、出力軸32aとモータギヤ43が正方向(弁体14を開弁させる方向)へ回転して、その回転が中間ギヤ42により減速されてメインギヤ41に伝達される。そして、リターンスプリング40により発生する力であって閉弁方向へ付勢するリターンスプリング力Fs1に抗して、弁体14が開弁して流路11が開かれる(図16及び図18参照)。その後、弁体14が開弁する途中でモータ32に印加する駆動電圧が一定に維持されると、そのときの弁体14の開度にてモータ駆動力Fm1とリターンスプリング力Fs1とが均衡して、弁体14は所定開度に保持される。
そこで、本実施形態における入口封止弁174の作用について詳細に説明する。まず、モータ32へ通電がなされていないモータ32の非駆動時(モータ32が停止しているとき)には、開度θが「0」の状態、すなわち、入口封止弁174が全閉(機械的全閉開度)になっている。そして、このとき、図11に示すように、メインギヤ41の全閉ストッパ部41aは、弁ハウジング35の全閉ストッパ部35bに接触している。
このとき、回転軸15の周方向についての力関係を考えると、図12に示すように、メインギヤ41のスプリングフック部41cには、リターンスプリング40の手前側フック40bからリターンスプリング力Fs1が加わっている。なお、図12に示すように、回転軸15の中心軸Lsを原点とし、x軸を水平方向とし、y軸を鉛直方向とする直交座標系において、+x方向かつ+y方向を第1象限、−x方向かつ+y方向を第2象限、−x方向かつ−y方向を第3象限、+x方向かつ−y方向を第4象限とする。このとき、奥側フック40aおよび全閉ストッパ部41aは第1象限に位置するように配置され、手前側フック40bおよびスプリングフック部41cは第3象限に位置するように配置されている。
ここで、てこの原理において、全閉ストッパ部41aに支点が設定され、スプリングフック部41cに力点が設定され、全閉ストッパ部41aとスプリングフック部41cとの間の中央部に作用点が設定されるとする。すると、スプリングフック部41cに加わるリターンスプリング力Fs1により、全閉ストッパ部41aとスプリングフック部41cとの間の中央部に力Fs2が作用する。なお、(力Fs2)=2×(リターンスプリング力Fs1)である。なお、図12において、全閉ストッパ部41aとスプリングフック部41cとの間の距離は「2R」としている。
このとき、回転軸15の中心軸Ls方向に沿った断面における力関係を考えると、図13に示すように、力Fs2の+y方向成分は、分力Fs3となる。なお、+y方向とは、第1軸受37や第2軸受38の中心軸Lj方向(x方向)に対して垂直な方向であって、弁体14に対して弁座13方向(図12や図13の図面上方向)である。また、(分力Fs3)=(力Fs2)×(sinθ1)である。なお、図12に示すように、角度θ1は、x方向に対して、全閉ストッパ部41aとスプリングフック部41cの配列方向がなす角度である。
そして、この分力Fs3により、スプリングガイド部41dの位置では、力Fs4(反弁座方向付勢力)が+y方向に作用している。なお、(力Fs4)=(分力Fs3)×Lb/Laである。このように、力Fs4は、リターンスプリング力Fs1に起因して発生する力であって、かつ、第1軸受37と第2軸受38の中心軸Ljに対して垂直な方向に作用する力である。なお、距離Laは、x方向について第1軸受37が配置される位置から力Fs4が作用する位置までの距離である。また、距離Lbは、x方向について第1軸受37が配置される位置から分力Fs3が作用する位置までの距離である。
このようにスプリングガイド部41dの位置で力Fs4が+y方向に作用することにより、スプリングガイド部41dと一体の回転軸15は、第1軸受37を支点に、図13における時計回りに回転して傾く。これにより、てこの原理により、回転軸15の基端部15bに設けられるメインギヤ41は+y方向に移動する一方で、回転軸15のピン15aに設けられる弁体14は−y方向に移動する。そのため、弁体14は、弁座13から離れる方向(反弁座方向)に移動する。このようにして、モータ32の非駆動時であって、出口統合弁181が閉弁状態であるときに、弁体14は、力Fs4により、弁座13から離れる方向に移動する。なお、このとき、回転軸15は、第2軸受38により制止される。
本実施形態では、このとき、図13に示すように、弁体14は、弁座13に設けられたゴムシート21(シール部材)に接触している。詳しくは、図21に示すように、弁体14は、ゴムシート21に備わるシール部21aに接触している。なお、このとき、弁体14は、シール部21aのシート面17の全周に亘って接触している。シール部21aは、弁体14に押されて撓むことができるように形成されている。そして、シール部21aは、入口封止弁174の上流側圧力が下流側圧力よりも大きくなる(前後差圧が大きくなる)にしたがって弁体14のシール面18に接触する面圧が高められる形状をなしている。例えば、シール部21aとして、ビードシールやリップシール等を適用することができる。このようにして、弁座13と弁体14との間はゴムシート21で封止(シール)されており、入口封止弁174は簡単な構成でシール性が確保されている。
これにより、燃料電池システム101が搭載された車両の減速時において、燃料電池スタック111へのエアの供給を停止する場合に、入口封止弁174を全閉にしてエア供給通路161の圧力を高める、あるいは燃料電池スタック111のスタック圧を下げることにより、燃料電池スタック111の入口側でエアを封止することができる。従って、燃料電池スタック111へのエアの供給を停止する際に、燃料電池スタック111への余剰(不要)なエアの供給を少なくすることができるので、減速時における燃料電池スタック111での不要な発電を最小限に抑えることができる。
また、このとき、開度θと開口面積Sの関係は図20に示す点P1aの様になる。ここで、「入口封止弁174が全閉(機械的全閉)状態であるとき」とは、開度θ(弁体14の開度)が「0」のときであり、言い換えると、回転軸15の回転角度が全閉のときの角度(回転軸15の回転範囲内における最小角度)であるときである。
その後、モータ32へ通電がなされるモータ32の駆動時には、中間ギヤ42の小径ギヤ42b(図11参照)からメインギヤ41の歯車部41b(図11参照)に対して当該メインギヤ41を回転させようとするモータ駆動力Fm1が作用する。このとき、回転軸15の周方向についての力関係を考えると、図14に示すように、モータ駆動力Fm1は、−y方向に作用する。なお、−y方向とは、第1軸受37や第2軸受38の中心軸Lj方向(x方向)に対して垂直な方向であって、弁座13に対して弁体14が配置される方向(図12や図13の図面下方向)である。
そして、モータ駆動力Fm1により、回転軸15の中心軸Lsの位置では、力Fm2が−y方向に作用している。さらに、回転軸15の中心軸Ls方向に沿った断面における力関係を考えると、図15に示すように、スプリングガイド部41dの位置では、力Fm3(弁座方向付勢力)が−y方向に作用している。なお、(力Fm3)=(力Fm2)×Lb/Laである。このように、モータ32の駆動時に、力Fm3が発生する。この力Fm3は、モータ駆動力Fm1に起因して発生する力であって、かつ、第1軸受37と第2軸受38の中心軸Ljに対して垂直な方向に作用する力である。そして、力Fm3は、第1軸受37を支点として回転軸15を回転させて傾けて、弁体14を弁座13に向かう方向に付勢する。
そして、図15に示すように、力Fm3が前記の力Fs4よりも大きくなると、メインギヤ41のスプリングガイド部41dと一体の回転軸15は、第1軸受37を支点に図15における反時計回りに回転して傾く。これにより、てこの原理により、メインギヤ41は−y方向に移動する一方で、弁体14は+y方向に移動する。このようにして、弁体14は、力Fm3により、弁座13に向かう方向(弁座方向)に移動する。
本実施形態では、このとき、ゴムシート21のシール部21aは、弁体14に押されて変形しているが、シール部21aの変形は弾性領域内で行われ、塑性変形はしない。なお、このとき、開度θと開口面積Sの関係は図20に示す、点P1bの様になる。
その後、モータ32に印加させる駆動電圧が大きくなってモータ駆動力Fm1が大きくなると、回転軸15は、第1軸受37を支点に図16における反時計回りにさらに回転して傾く。これにより、メインギヤ41は−y方向にさらに移動する一方で、弁体14は+y方向にさらに移動する。このとき、回転軸15は中心軸Lsを中心に回転し、開度θ(回転軸15の回転角度)が開度「0°」から僅かに開いた開度「α」になる(図17参照)。そして、このとき、図17に示すように、メインギヤ41の全閉ストッパ部41aは、弁ハウジング35の全閉ストッパ部35bから離れる。この状態が、後述する制御全閉状態であり、開度「α」が制御全閉開度となる。制御全閉開度の詳細については後述する。なお、図16に示すように、回転軸15は、第2軸受38により制止される。また、このとき、開度θと開口面積Sは図20に示す点P1cの様になり、開口面積Sはほぼゼロである。
そして、モータ駆動力Fm1がさらに大きくなると、回転軸15は中心軸Lsを中心にさらに回転し、図18に示すように、弁体14が弁座13から離れて、開口面積Sが増加して開弁される。このとき、開度θが「β」になる(図19参照)。また、このとき、開度θと開口面積Sの関係は図20に示す点P1dの様になる。以上のようにして、モータ駆動力Fm1による入口封止弁174の開弁動作が行われる。
上記のような構成を出口統合弁181も有している。ただし、出口統合弁181におけるゴムシートのシール部は、出口統合弁181の上流側圧力が下流側圧力よりも大きくなるにしたがって、弁体のシール面に接触する面圧が下がるようになっている。また、バイパス弁191は、ゴムシート21を備えていない点を除き、上記のような構成を有している。このようにエア系113では、図22に示すように、入口封止弁174、出口統合弁181及びバイパス弁191として、入口封止弁174と出口統合弁181とでゴムシートの構成が異なる場合やバイパス弁191がゴムシートを備えていないことを除いて、基本的な構成が同一である偏心弁を使用して、エア系113における弁の共通化を図っている。また、入口封止弁174、出口統合弁181及びバイパス弁191において、ゴムシート以外の構成は共通しているので、開閉制御(動作)自体は同一であるため、これらの弁を協調制御することができる。これらのことにより、燃料電池システム101のコストを低減することができるとともに、コントローラ201における弁の開閉制御を簡素化することができる。
ここで、エア系113における各弁には次のような性能要求がある。すなわち、入口封止弁174には封止要求及び低圧損要求があり、出口統合弁181には封止要求及び流量制御分解能要求があり、バイパス弁191には圧抜き要求がある。そのため、低圧損要求がある入口封止弁174では、所定径以上の弁孔径(弁径)が必要となる。これに対して、出口統合弁181及びバイパス弁191には、入口封止弁174のように低圧損要求がない。また、出口統合弁181の弁孔径を入口封止弁174の弁孔径と同じにすると、出口統合弁181の流量制御分解能が悪化するとともに、微少開度での流量制御が増加してゴムシート21のシール部21aが摩耗しやすくなるおそれがあることが判明した。
そこで、出口統合弁181及びバイパス弁191の弁孔径を、入口封止弁174の弁孔径よりも小さくすることが好ましい。これにより、出口統合弁181における流量制御分解能の悪化とシール部21aの摩耗を回避するとともに、出口統合弁181及びバイパス弁191のコスト低減を図ることができるため、燃料電池システム101のコストをさらに低減することができる。
そして、出口統合弁181の弁孔径とバイパス弁191の弁孔径を同じにして、ゴムシート21を除いた部品を共通化することもできる。これにより、出口統合弁181及びバイパス弁191のコスト低減をさらに図ることができるため、燃料電池システム101のコストを一層低減することができる。また、ゴムシート21を含めてバイパス弁191の構成と出口統合弁181の構成を同一にして弁の共通化を図ることもできる。これにより、量産効果によって製品コストを抑えながら、燃料電池システム101を製造する際に組み付けミスが生じにくくなり、作業性の向上を図ることができる。
ここで、入口封止弁174におけるゴムシート21のシール部21aが、エア供給通路161の圧力が上昇した場合、あるいは燃料電池スタック111のスタック圧が下降した場合に、弁体14のシール面18に接触する面圧が高められる形状をなしている。そのため、車両の減速時に燃料電池スタック111へのエアの供給を停止する場合に、エア供給通路161の圧力が上昇して、あるいは燃料電池スタック111のスタック圧が下降して、入口封止弁174の前後差圧が大きくなっていると、図23に示すように、入口封止弁174の閉弁時にシール部21aが(内側へ巻き込むように)反り返った状態で弁体14に接触するおそれがある。そして、図24に示すように、そのような状態のままで全閉になると、シール部21aが異常な形状に変形した状態で弁体14に接触するため、シール性が確保されずに漏れが発生するばかりでなく、シール部21aが損傷したり、シール部21aが異常摩耗することになる。そうすると、入口封止弁174でエアを封止することができなくなり、燃料電池スタック111へ余剰(不要)なエアが供給されてしまう。
そこで、燃料電池システム101では、減速時に燃料電池スタック111へのエアの供給を停止する場合において、以下に述べる制御(減速(回生)制御)を実施して、上記のようなシール部21aの弁体14に対する異常接触を回避するようにしている。
具体的には、コントローラ201が、図25に示す制御フローチャートに基づく制御を実行する。まず、車両が加速/定常状態から減速状態になると(ステップS1:YES)、入口封止弁174を全開状態から全閉(機械的全閉)にするための全閉制御を実施する(ステップS2)。また、出口統合弁181を減速前の出力(加速/定常)要求に応じた開度から全閉にするための全閉制御を実施する(ステップS3)。さらに、バイパス弁191を全閉状態から全開にするための全開制御を実施する(ステップS4)。これにより、減速初期では、図26に示すように、コンプレッサ172から供給されるエアは、バイパス通路163を介して、エア供給通路161からエア排出通路162へ流れる。そのため、エア供給通路161の圧力が上昇することはない。
一方、加速/定常状態が維持されている場合には(ステップS1:NO)、入口封止弁174は全開状態が維持される(ステップS20)。そして、そのときの出力(加速/定常)要求に応じて、出口統合弁181の開度とバイパス弁191の開度とをそれぞれ制御するとともに、コンプレッサ172の回転数を制御する(ステップS21)。
次に、減速状態において、車両に搭載されているバッテリが充電不可であるか否かを判断する(ステップS5)。バッテリが充電不可である場合には(ステップS5:YES)、燃料電池スタック111で発電された電気を放電する必要がある。そこで、本実施形態では、減速時に燃料電池スタック111で余剰に発電された電気をコンプレッサ172で消費するために、以下のコンプレッサ放電制御を実施する。まず、ステップS3で全閉制御が実施された入口封止弁174が全閉(開度「0」)になっているか否かを判断する(ステップS6)。そして、入口封止弁174が全閉になっていることを確認すると(ステップS6:YES)、全開状態になっているバイパス弁191を全閉にするための全閉制御を実施する(ステップS7)。
これにより、エア供給通路161の圧力が上昇する前に入口封止弁174が全閉になるため、シール部21aが弁体14のシール面18に正常に接触(着座)する。その後、バイパス弁191が全閉になってエア供給通路161の圧力が上昇する。そのため、入口封止弁174の閉弁時にシール部21aが反り返ることを確実に防止することができる。従って、入口封止弁174の閉弁時に、シール部21aが反り返った状態で弁体14のシール面18に接触(着座)することなく、弁体14のシール面18に正常に接触(着座)させることができる。よって、減速時に燃料電池スタック111へのエアの供給を停止する場合に、入口封止弁174においてエアを確実に封止することができるので、燃料電池スタック111への余剰(不要)なエアの供給を少なくすることができる。その結果として、以下に述べるコンプレッサ放電制御の実施時間を短縮することができる。
そして、バイパス弁191が全閉になると、コンプレッサ172のコンプレッサ圧(Pin)及びコンプレッサ回転数(cprpm)を取り込む(ステップS8)。次に、コンプレッサ圧(Pin)が放電目標圧Aより小さい(Pin<A)か否かを判断する(ステップS9)。このとき、コンプレッサ圧(Pin)が放電目標圧Aより小さい場合には(ステップS9:YES)、バイパス弁191を閉弁制御してコンプレッサ圧(Pin)を上げる(ステップS10)。一方、コンプレッサ圧(Pin)が放電目標圧A以上である場合には(ステップS9:NO)、バイパス弁191を開弁制御してコンプレッサ圧(Pin)を下げる(ステップS11)。
次に、コンプレッサ回転数(cprpm)が放電目標回転数Bより小さい(cprpm<B)か否かを判断する(ステップS12)。このとき、コンプレッサ回転数(cprpm)が放電目標回転数Bより小さい場合には(ステップS12:YES)、コンプレッサ172の回転数を上げる(ステップS13)。一方、コンプレッサ回転数(cprpm)が放電目標回転数B以上である場合には(ステップS12:NO)、コンプレッサ172の回転数を下げる(ステップS14)。
このようにして、コンプレッサ圧及びコンプレッサ回転数をそれぞれ放電目標圧A及び放電目標回転数B付近に制御して、燃料電池スタック111で余剰に発電された電気を効率よくコンプレッサ172で放電することができる。なお、放電目標圧A及び放電目標回転数Bは、燃料電池スタック111で余剰に発電された電気をコンプレッサ172で作動音が考慮された上で効率良く消費(放電)することができるように実験により予め求められた値である。
一方、バッテリが充電可能である場合には(ステップS5:NO)、回生ブレーキ制御を実施して、燃料電池スタック111で発電された電気をバッテリに充電する(ステップS30)。また、補機類発電要求が無いか否かを判断する(ステップS31)。補機類発電要求が無い場合には(ステップS31:YES)、回生ブレーキ要求に応じてコンプレッサ172の回転数を制御する。これにより、コンプレッサ172は、一定回転数を維持しているため、その後に加速要求があった場合でも、燃料電池スタック111で必要出力に応じた発電をもたつきなく行うことができる。なお、コンプレッサ172が一定回転数を維持していても、バイパス弁191が開弁されているため、コンプレッサ172の負荷(電力消費)は小さい。
そして、補機類発電要求が有る場合には(ステップS31:NO)、補機類発電要求に応じて、出口統合弁181の開度とバイパス弁191の開度とをそれぞれ制御するとともに、コンプレッサ172の回転数を制御する(ステップS33)。
以上、詳細に説明したように本実施形態に係る燃料電池システム101によれば、入口封止弁174として、上流側圧力が下流側圧力よりも大きくなるにしたがって弁体14のシール面18に接触する面圧が高められる形状のシール部21aを備えるゴムシート21を有する偏心弁を使用している。そのため、燃料電池スタック111へのエアの供給を停止させる際、入口封止弁174を全閉にすることにより、燃料電池スタック111の入口側でエアを封止することができる。従って、燃料電池スタック111へのエアの供給を停止する際に、燃料電池スタック111への余剰(不要)なエアの供給を少なくすることができる。これにより、減速時における燃料電池スタック111での不要な発電を最小限に抑えることができる。
そして、コントローラ201は、減速時に燃料電池スタック111へのエアの供給を停止する場合、入口封止弁174を閉弁させるとともにバイパス弁191を開弁させ、入口封止弁174が全閉になった後にバイパス弁191を閉弁させる。
そのため、ゴムシート21のシール部21aが弁体14のシール面18に正常に接触(着座)した状態で、エア供給通路161の圧力が上昇するため、入口封止弁174の閉弁時にシール部21aが反り返ることを確実に防止することができる。これにより、燃料電池スタック111へのエアの供給を停止する際に、エアを確実に封止することができる。
ここで、入口封止弁174では、システム停止時や減速時に全閉にする際、弁体14のシール面18がゴムシート21のシール部21aを摺りながら、弁体14が弁座13に着座する。そのため、シール部21aの摩耗が進行していくと、入口封止弁174のシール性を確保することができなくなってしまうおそれがある。そして、システム停止時において、入口封止弁174のシール性を確保することができなくなると、システム停止時における燃料電池スタック111の密閉度が低下し、燃料電池スタック111内で反応が起こり、燃料電池スタック111内で酸化による劣化が生じてしまう。
そこで、燃料電池システム101において、減速時又はシステム停止時に燃料電池スタック111へのエアの供給を停止する場合、燃料電池スタック111の劣化防止のために、上記の制御を基本とした以下に述べる制御を実施して、システム停止時において入口封止弁174のシール性を確保することができるように、シール部21aの摩耗を抑制することが好ましい。
具体的には、コントローラ201が、図27〜図29に示す制御フローチャートに基づく制御を実行すればよい。まず、コントローラ201は、図27に示すように、燃料電池スタック111の作動要求が継続しているか否かを判断する(ステップS50)。燃料電池スタック111の作動要求が継続している場合には(ステップS50:YES)、コントローラ201は、車両が加速/定常状態から減速状態になったか否かを判断する(ステップS51)。
車両が加速/定常状態から減速状態になると(ステップS51:YES)、コントローラ201は、放電解除フラグが「0」であるか否かを判断する(ステップS52)。放電解除フラグは、「0」の場合に放電要求があることを示し、「1」の場合に放電要求がないことを示す。なお、放電要求は、減速時に燃料電池スタック111で発電された電気をバッテリに充電することができない場合に生じる。
そして、放電解除フラグが「0」である場合には(ステップS52:YES)、コントローラ201は、バイパス弁191を全閉状態から全開にするための全開制御を実施する(ステップS53)。これにより、入口封止弁174にコンプレッサ172のコンプレッサ圧が作用しなくなるため、入口封止弁174の前後差圧が小さくなる。なお、放電解除フラグが「1」である場合には(ステップS52:NO)、コントローラ201は、後述するステップS90〜S93の処理を実施する。
また、出口統合弁181を減速前の出力(加速/定常)要求に応じた開度から制御全閉開度αにする制御全閉開度制御を実施する(ステップS54)。なお、このステップS54の処理は省略することもできるが、ステップS53の処理に加えてステップS54の処理を行うことにより、どちらか一方の弁が故障(バイパス弁閉故障又は出口統合弁開故障)した場合であっても、入口封止弁174の前後差圧を小さくすることができる。
さらに、コントローラ201は、入口封止弁174の開度を全開状態から所定開度γに閉じる閉弁制御を実施する(ステップS55)。なお、所定開度γとしては、弁体14がシール部21aに接触する少し手前の開度(例えば、5〜15°程度)を設定すればよい。本実施形態では、所定開度γをγ=10°に設定している。
次に、コントローラ201は、コンプレッサ172のコンプレッサ圧(Pin)とスタック圧pstackを取り込み(ステップS56)、入口封止弁174の前後差圧ΔPIN(=Pin−pstack)を算出する(ステップS57)。そして、この前後差圧ΔPINが所定圧Pより小さくなると(ステップS58:YES)、コントローラ201は、入口封止弁174の開度を制御全閉開度にする制御全閉開度制御を実施する(ステップS59)。つまり、コントローラ201は、モータ32を制御して入口封止弁174を制御全閉開度αまで閉じていく。これにより、入口封止弁174の開度が、所定開度γから制御全閉開度αとなる。
なお、制御全閉開度αは、機械的全閉開度(開度0°)より僅かに大きく、弁体14がシール部21aに接触して閉弁状態が維持される開度であって、例えば、数度に設定すれば良い。本実施形態では、制御全閉開度αをα=3°に設定している。また、所定圧Pは、ゴムシート21のシール部21aが確実に変形しない圧力(数kPa程度)を設定すればよい。
このとき、バイパス弁191が全開にされているため、基本的には入口封止弁174の前後差圧ΔPINは小さくなっている。しかしながら、例えば、バイパス弁191の弁孔径を小さくした場合等に、バイパス弁191を開弁してから入口封止弁174の前後差圧ΔPINが小さくなるまでに時間がかかり、入口封止弁174の前後差圧ΔPINが下がる前に、入口封止弁174が制御全閉開度αにされてしまうおそれがある。そうすると、シール部21aが変形している状態で入口封止弁174が制御全閉となるおそれがある。
そのため、入口封止弁174を制御全閉にする場合、上記のように、まず入口封止弁174を所定開度γまで閉弁し、入口封止弁174の前後差圧ΔPINが一定圧Pより小さくなった後に、制御全閉開度制御を行うことにより、シール部21aが変形した状態で入口封止弁174が制御全閉にされてしまうことを確実に回避することができる。
その後、コントローラ201は、ステップS59で制御全閉開度制御が実施された入口封止弁174の開度が制御全閉開度αになったか否かを判断する(ステップS60)。そして、入口封止弁174の開度が制御全閉開度αになったことを確認すると(ステップS60:YES)、入口封止弁174の制御全閉フラグを「1」して(ステップS61)、全開状態になっているバイパス弁191を全閉にするための全閉制御を実施する(ステップS62)。これにより、入口封止弁174のシール部21aに対してコンプレッサ172のコンプレッサ圧が作用して、シール部21aが弁体14に押しつけられる。そのため、入口封止弁174において、開度が制御全閉開度αに制御されても、シール性を確保することができる。従って、減速時に燃料電池スタック111へのエアの供給を停止する際、入口封止弁174を機械的全閉にせずに制御全閉としても、入口封止弁174でエアを封止することができる。
このように、入口封止弁174では、減速時における全閉開度(制御全閉開度)が、システム停止時における全閉開度(機械的全閉開度)と異なっている。そのため、図30に示すように、システム停止時における機械的全閉開度状態での弁体14とシール部21aとの接点端CP1の位置と、減速時における制御全閉開度状態での弁体14とシール部21aとの接点端CP2の位置とが異なる。そして、入口封止弁174が全閉にされる作動回数の多い減速時における全閉開度位置(制御全閉開度位置:開度θ=α)でのシール部21aの摩耗は生じてしまうが、減速時に比べると大幅に作動回数の少ないシステム停止時における全閉開度位置(機械的全閉位置:開度θ=0)でのシール部21aの摩耗を大幅に抑制することができる。従って、システム停止時における入口封止弁174のシール性を確保することができる。なお、入口封止弁174において、制御全閉開度位置でシール部21aの摩耗が生じたとしても、減速時にはコンプレッサ172のコンプレッサ圧によりシール部21aが弁体14に押しつけられるため、シール性を確保することができる。
そして、図28に示すように、放電要求がある場合には(ステップS80:YES)、コントローラ201は、コンプレッサ172のコンプレッサ圧(Pin)及びコンプレッサ回転数(cprpm)を取り込む(ステップS81)。次に、コンプレッサ圧(Pin)が放電目標圧Aより小さい(Pin<A)か否かを判断する(ステップS82)。このとき、コンプレッサ圧(Pin)が放電目標圧Aより小さい場合には(ステップS82:YES)、バイパス弁191を閉弁制御してコンプレッサ圧(Pin)を上げる(ステップS83)。一方、コンプレッサ圧(Pin)が放電目標圧A以上である場合には(ステップS82:NO)、バイパス弁191を開弁制御してコンプレッサ圧(Pin)を下げる(ステップS84)。
次に、コントローラ201は、コンプレッサ回転数(cprpm)が放電目標回転数Bより小さい(cprpm<B)か否かを判断する(ステップS85)。このとき、コンプレッサ回転数(cprpm)が放電目標回転数Bより小さい場合には(ステップS85:YES)、コンプレッサ172の回転数を上げる(ステップS86)。一方、コンプレッサ回転数(cprpm)が放電目標回転数B以上である場合には(ステップS85:NO)、コンプレッサ172の回転数を下げる(ステップS87)。
このような放電制御により、コンプレッサ圧及びコンプレッサ回転数をそれぞれ放電目標圧A及び放電目標回転数B付近に制御して、燃料電池スタック111で余剰に発電された電気を効率よくコンプレッサ172で放電することができる。
一方、放電要求がない場合、言い換えるとバッテリが充電可能である場合には(ステップS80:NO)、コントローラ201は、放電解除フラグを「1」にする(ステップS88)。そして、補機類発電要求が無いか否かを判断する(ステップS90)。補機類発電要求が無い場合には(ステップS90:YES)、回生ブレーキ制御を実施して、燃料電池スタック111で発電された電気をバッテリに充電するために、回生ブレーキ要求に応じて、バイパス弁191を開弁しコンプレッサ172の回転数を制御する。なお、コンプレッサ172が一定回転数を維持していても、バイパス弁191が開弁されているため、コンプレッサ172の負荷(電力消費)は小さい。
そして、補機類発電要求が有る場合には(ステップS90:NO)、コントローラ201は、入口封止弁174の制御全閉フラグが「0」であるか否かを判断する(ステップS92)。入口封止弁174の制御全閉フラグが「0」である場合には(ステップS92:YES)、補機類発電要求に応じて、出口統合弁181の開度とバイパス弁191の開度とをそれぞれ制御するとともに、コンプレッサ172の回転数を制御する(ステップS93)。なお、入口封止弁174の制御全閉フラグが「1」である場合には(ステップS92:NO)、後述するステップS70以降の処理を行う。
図27に戻って、加速/定常状態が維持されている場合、又は減速が終了した場合には(ステップS51:NO)、コントローラ201は、図29に示すように、入口封止弁174の制御全閉フラグが「1」であるか否かを判断する(ステップS70)。制御全閉フラグが「1」である場合には(ステップS70:YES)、減速制御からの復帰制御を行う。すなわち、コントローラ201は、バイパス弁191を全閉状態から全開にするための全開制御を実施する(ステップS71)。このとき、出口統合弁181については制御全閉開度制御が継続される(ステップS72)。なお、ステップS72の処理は、ステップS54の処理を省略する場合には不要となる。
このとき、入口封止弁174の前後差圧ΔPINが大きいと、その差圧によってゴムシート21のシール部21aが反り返って変形するおそれがある。そして、図31に示すように、入口封止弁174を開弁していくときに、ゴムシート21のシール部21aが反り返って変形してしまうと、シール部21aが異常に摩耗するおそれがある。そして、シール部21aが異常に摩耗すると、入口封止弁174が全閉時においてシール性を確保することができなくなる。
そこで、コントローラ201は、コンプレッサ172のコンプレッサ圧(Pin)とスタック圧pstackを取り込み(ステップS73)、入口封止弁174の前後差圧ΔPIN(=Pin−pstack)を算出する(ステップS74)。この前後差圧ΔPINが所定圧Pより小さくなると(ステップS75:YES)、コントローラ201は、入口封止弁174の開度を制御全閉開度から全開にする全開制御を行う(ステップS76)。その後、コントローラ201は、入口封止弁174の制御全閉フラグを「0」にして(ステップS77)、放電解除フラグを「0」にする(ステップS78)。
これにより、入口封止弁174の前後差圧ΔPINが小さくなってから、入口封止弁174が開弁されるため、入口封止弁174の開弁時にゴムシート21のシール部21aが反り返って変形することを確実に防止することができる。従って、減速終了後に入口封止弁174を開弁させる時に、ゴムシート21のシール部21aが異常に摩耗することを防止することができ、入口封止弁174のシール性を確保することができる。
なお、制御全閉フラグが「0」である場合、言い換えると加速/定常状態が維持されている場合には(ステップS70:NO)、入口封止弁174は全開状態が維持されており、コントローラ201は、そのときの出力(加速/定常)要求に応じて、出口統合弁181の開度とバイパス弁191の開度とをそれぞれ制御するとともに、コンプレッサ172の回転数を制御する(ステップS79)。
図27に戻って、燃料電池スタック111の作動要求が継続していない、つまりシステムの停止要求がある場合には(ステップS50:NO)、コントローラ201は、ステップS100以降の処理を実施して燃料電池システム101を停止させる。
ここで、減速時に制御全閉開度制御が実施されると、弁体14とシール部21aとが摺動する回数が、システム停止時における機械的全閉開度位置よりも、図32に示す減速時における制御全閉開度位置で大幅に多くなる。そのため、図33に示すように、制御全閉開度位置において弁体14とシール部21aとが接触・摺動する部分(網掛け部分)でシール部21aが摩耗していくので、図34に示すように、シール部21aに段差Dが発生してしまうおそれがある。そして、シール部21aに段差Dが発生すると、システム停止時に入口封止弁174がリターンスプリング40の付勢力(リターンスプリング力Fs1)だけでは機械的全閉開度(開度「0°」)まで閉じないおそれがある。
そこで、システム停止時には、コントローラ201は入口封止弁174に対して、以下に述べるゼロ開度制御を実施して、システム停止時において入口封止弁174を確実に全閉(機械的全閉開度)にする。
すなわち、コントローラ201は、バイパス弁191を全閉状態から全開にするための全開制御を実施する(ステップS100)。また、入口封止弁174の開度を、モータ32によって強制的に「0°」にするゼロ開度制御を実施して、入口封止弁174を全閉(機械的全閉)にする(ステップS101)。同様に、出口統合弁181に対してもゼロ開度制御を実施して、出口統合弁181を全閉にする(ステップS102)。
その後、コントローラ201は、コンプレッサ172を停止させ、回転数が「0」になると(ステップS103:YES)、バイパス弁191を全開から全閉にする全閉制御を実施し(ステップS104)、燃料電池システム101を停止させる(ステップS105)。
このようにして燃料電池システム101を停止することにより、シール部21aに段差Dが生じたとしても、モータ32によって入口封止弁174を確実に機械的全閉開度まで閉じることができる。そして、上記したように機械的全閉位置におけるシール部21aの摩耗が大幅に抑制されている。従って、システム停止時において入口封止弁174のシール性が確保される。また、本実施形態では、出口統合弁181においても入口封止弁174と同様にゼロ開度制御を実施するため、システム停止時において出口統合弁181のシール性も確保される。そのため、システム停止時における燃料電池スタック111の密閉度を高めることができるので、燃料電池スタック111内で反応が起こり難くなり、燃料電池スタック111内での酸化による劣化を抑制することができる。
ここで、シール部21aに段差が発生し難くするために、コントローラ201は、減速時に以下に述べる段差発生抑制制御をさらに実施してもよい。すなわち、図35に示すように、コントローラ201は、減速時に入口封止弁174に対する制御全閉開度制御を実施した後(ステップS50〜S62)、システム起動後からの制御全閉開度制御の実施回数カウンタn(i)をカウントアップする(ステップS65)。そして、制御全閉開度制御の実施回数カウンタn(i)が、所定回数Cを越えた場合に(ステップS66:YES)、入口封止弁174に対してゼロ開度制御を実施し(ステップS67)、実施回数カウンタn(i)をリセットする(ステップS68)。一方、制御全閉開度制御の実施回数カウンタn(i)が、所定回数Cを越えていない場合には(ステップS66:NO)、コントローラ201は、ステップS67,S68の処理を実施せずにステップS80の処理を行う。
なお、所定回数Cとしては、数百回程度を設定すれば良い。この所定回数Cは、ゴムシート21の形状等により最適値が異なるため、実験により段差の発生を効果的に抑制することができる回数を設定することが好ましい。
このような制御を実施することにより、燃料電池システム101において、入口封止弁174に対して制御全閉開度制御が所定回数繰り返し実行される度に、ゼロ開度制御が実施されて入口封止弁174の開度が強制的に0°にされるため、シール部21aに段差Dが発生することを抑制することができる。
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施形態では、ゴムシート21は弁座13に設けられているが、ゴムシート21は弁体14に設けられていてもよい。
また、回転軸15が第1軸受37と弁体14の反対側に別途設けられる軸受とにより両持ち支持されていてもよい。