JP2017190486A - 触媒層、カソード、電解合成セル、膜電極接合体、有機化合物水素化装置及び水素化有機化合物の製造方法 - Google Patents

触媒層、カソード、電解合成セル、膜電極接合体、有機化合物水素化装置及び水素化有機化合物の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】イオン交換膜を用いずに被水素化有機化合物を水素化することができ、かつ、セル中の水素化体濃度が高い場合でも高いファラデー効率を実現する触媒層、並びにそれを用いたカソード、電解合成セル、膜電極接合体、有機化合物水素化装置及び水素化有機化合物の製造方法を提供する。【解決手段】不飽和結合を有する被水素化有機化合物を電気化学的に水素化して水素化体を得るための触媒層であって、触媒金属と有機高分子とを含み、前記有機高分子が前記被水素化有機化合物中で単位質量当たりに吸収する前記被水素化有機化合物の質量をAとして、当該Aが0.1kg/kg以上100kg/kg以下である、触媒層。【選択図】図5

Description

本発明は、有機化合物を電気化学的に水素化する技術に関し、具体的には、触媒層、カソード、電解合成セル、膜電極接合体、有機化合物水素化装置及び水素化有機化合物の製造方法に関する。
水素は、石油精製、化学合成材料、金属精製、定置用燃料電池等、工業的に広く利用されている。近年は、燃料電池車(FCV)向けの水素ステーションやスマートコミュニティ、水素発電所等における利用の可能性も広がっている。さらに、再生可能エネルギーの導入が進むにつれて、電力網の需給バランスを維持する必要が出てきたため、大容量の電力を効率的に貯蔵・輸送する水素キャリア技術の開発が進められている。
水素キャリアとしては、主に液化水素、アンモニア、そして水素をベンゼン、トルエン、ナフタレンなどの有機化合物に化学的に結合させた水素化有機化合物が挙げられる。液化水素は水素圧縮密度が高いという利点があるが、貯蔵・輸送に低温高圧を必要とし、またボイルオフによるエネルギー効率の低下がコストを上げる要因となっている。アンモニアは液化水素よりも高密度に水素を貯蔵することができるが、水素を外して利用するための脱水素技術の確立や取り扱い方法の確立が大きな課題である。一方で水素化有機化合物の一種である、トルエンに水素を結合させたメチルシクロヘキサンは、液化水素やアンモニアには劣るものの、圧縮水素より高密度に水素を貯蔵でき、またガソリンと同様のインフラ技術が利用できるという利点がある。さらに脱水素触媒も開発されており、メチルシクロヘキサンは最も実現性が高い水素キャリアと考えられている。
水素キャリアとしての水素化有機化合物は、粒状触媒を網目状の床に担持した固定床式反応器に、水素と被水素化有機化合物のガスを高温高圧状態で流入することで製造されている。しかしベンゼン、トルエンなどの被水素化有機化合物への水添反応は発熱反応であるため、水素の持つエネルギーの一部が熱として失われてしまう。また、水素化有機化合物から水素を取り出すには、この熱損失分のエネルギーを再び投入しなければならないため、水素利用のために必要なエネルギーコストが高くなるという課題がある。
一方で、水と被水素化有機化合物を電気化学的に反応させることで、水素を経由することなく直接的に水素化有機化合物を製造する技術が開発されている。この方法により、水添反応による熱損失を削減でき、さらに水添プラントが不要になるため、大幅な設備削減も可能になる。結果として水素利用のトータルコスト削減も期待できる。特許文献1〜4においては、燃料電池と同様の構造を持つ固体高分子電解質(PEM)型電解合成セルを有する電気化学還元装置を用いて水素化有機化合物を製造する方法が報告されている。
特開第2003−45449号公報 特開第2005−126288号公報 特開第2013−111585号公報 国際公開第2015/029367号
しかしながら、上記した技術には改善すべき点もある。一つは、イオン透過性のある隔膜(イオン交換膜、PEM)の取り扱いの難しさである。PEM型電解合成セルはイオン交換膜を固体電解質として含有している。イオン交換膜は一般に、イオン交換膜を形成するアイオノマーが親水性のイオン交換基を有し、このイオン交換基が親水性クラスタのネットワークを形成することでイオン透過性を発現している。こうした原理により、一般にイオン交換膜は支持電解質水溶液に比べて電圧損失が高く、電解合成セルの電圧損失を下げるためには、できる限り薄膜化する必要がある。一方で、この薄膜化により機械強度が低下し、触媒層の塗布やセルを組み上げる際の取り扱いが難しくなる、という問題がある。
また、PEM電解合成セル中の、生成物たる水素化体の濃度が高くなるにつれ、副反応として生じる水素ガス生成反応の割合が増え、下記の式1で定義されるファラデー効率が低下するという問題がある。水素キャリアとして大規模な水素利用をする上で、高純度の水素化体の合成が必要である。そのためには、セル中の水素化体の濃度が高くなっても、より高いファラデー効率を実現することが望ましい。
[式1]
ファラデー効率=水素化有機化合物生成に寄与した電子数/電解合成セルに通電した電子数
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、イオン交換膜を用いずに被水素化有機化合物を水素化することができ、かつ、セル中の水素化体濃度が高い場合でも高いファラデー効率を実現する触媒層、並びにそれを用いたカソード、電解合成セル、膜電極接合体、有機化合物水素化装置及び水素化有機化合物の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定量の被水素化有機化合物を吸収する有機高分子と触媒金属とを含む触媒層により、水素化体が高濃度な被水素化有機化合物との混合液から触媒活性点へ被水素化有機化合物を選択的に供給できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
不飽和結合を有する被水素化有機化合物を電気化学的に水素化して水素化体を得るための触媒層であって、
触媒金属と有機高分子とを含み、
前記有機高分子が前記被水素化有機化合物中で単位質量当たりに吸収する前記被水素化有機化合物の質量をAとして、当該Aが0.1kg/kg以上100kg/kg以下である、触媒層。
[2]
前記有機高分子が前記水素化体中で単位質量当たりに吸収する前記水素化体の質量をBとして、A/Bで算出される膨潤係数Cが、1.5以上100以下である、[1]に記載の触媒層。
[3]
前記有機高分子が水中で単位質量当たりに吸収する水の質量をDとして、D/Aで算出される水膨潤係数Eが、0.7以下である、[1]又は[2]に記載の触媒層。
[4]
前記有機高分子1kgに対して、前記被水素化有機化合物0.1kg以上100kg以下を含有する、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の触媒層。
[5]
前記有機高分子1kgに対して、前記水素化体0.001kg以上33kg以下を含有する、[4]に記載の触媒層。
[6]
前記有機高分子1kgに対して、33kg以下の水を含有する、[4]又は[5]に記載の触媒層。
[7]
前記被水素化有機化合物の少なくとも一部又は全部が芳香族化合物である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の触媒層。
[8]
前記芳香族化合物が、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、トルエン、キシレン、ジフェニルメタン、ジフェニルエタン、トリフェニルメタン、トリフェニルエタン、ジベンジルトルエン、フェノール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン及びイソキノリンからなる群より選択される少なくとも一種である、[7]に記載の触媒層。
[9]
前記有機高分子が架橋構造を有する、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の触媒層。
[10]
前記有機高分子が、主鎖骨格に芳香環構造を有する、又は繰り返し単位の側鎖に芳香環構造を有する、[1]〜[9]のいずれか一項に記載の触媒層。
[11]
前記有機高分子が、単量体構成単位としてスチレンとブタジエンとを含む共重合体である、[10]に記載の触媒層。
[12]
トルエンを溶媒として測定した前記有機高分子のゲル分率が、10質量%以上である、[9]〜[11]のいずれか一項に記載の触媒層。
[13]
多孔性を有する、[1]〜[12]のいずれか一項に記載の触媒層。
[14]
前記触媒金属が、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、モリブデン、レニウム、タングステン、チタン、ニッケル、銅、亜鉛、銀、スズ、金、鉛及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも一種を含む、[1]〜[13]のいずれか一項に記載の触媒層。
[15]
前記触媒金属が導電性の担体に担持された構造を有する、[1]〜[14]のいずれか一項に記載の触媒層。
[16]
前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体が、前記有機高分子で結着されている、[1]〜[15]のいずれか一項に記載の触媒層。
[17]
前記触媒金属及び前記導電性の担体が互いに接触したネットワーク構造を有し、当該ネットワーク構造が導電性を発現する、[1]〜[16]のいずれか一項に記載の触媒層。
[18]
前記触媒金属の質量と前記有機高分子の質量との比が1:10〜16:1の範囲である、[1]〜[17]のいずれか一項に記載の触媒層。
[19]
電解合成セルに用いられるカソードであって、[1]〜[18]のいずれか一項に記載の触媒層を活性層として有する、カソード。
[20]
前記触媒層を導電性基材上に有する、[19]に記載のカソード。
[21]
[19]又は[20]に記載のカソードと、水を酸化して酸素を発生させるためのアノードとを備える、電解合成セル。
[22]
電解合成セルに用いられる膜電極接合体であって、
[1]〜[18]のいずれか一項に記載の触媒層と、
非導電性かつ多孔性であり、かつ、前記触媒層と接する基材膜と、
を有する、膜電極接合体。
[23]
[22]に記載の膜電極接合体と、水を酸化して酸素を発生させるアノードとを備える、電解合成セル。
[24]
[21]又は[23]に記載の電解合成セルを備え、前記被水素化有機化合物を水素化する、有機化合物水素化装置。
[25]
[24]に記載の有機化合物水素化装置を用いて前記被水素化有機化合物を水素化する工程を有する、水素化有機化合物の製造方法。
[26]
[24]に記載の有機化合物水素化装置を少なくとも2つ以上用い、純度25%〜75%の水素化体を得るための第一の水素化工程と、純度90%〜99%の水素化体を得るための第二の水素化工程とを有する、[25]に記載の水素化有機化合物の製造方法。
本発明によれば、イオン交換膜を用いずに被水素化有機化合物を水素化することができ、かつ、セル中の水素化体濃度が高い場合でも高いファラデー効率を実現する触媒層、並びにそれを用いたカソード、電解合成セル、膜電極接合体、有機化合物水素化装置及び水素化有機化合物の製造方法を提供することができる。
図1は、実施例1に係る電解合成セルの部分模式図である。 図2は、比較例1に係る電解合成セルの部分模式図である。 図3は、比較例2に係る電解合成セルの部分模式図である。 図4は、トルエン(Tol)及びメチルシクロヘキサン(MCH)を含む浸漬液中におけるMCH濃度と、当該浸漬液中で実施例1に記載のスチレンブタジエン共重合体1がTol又はMCHを吸収する量との関係を示すグラフである。 図5は、本発明の一実施形態に含まれる電解合成セルの三相界面の説明図である。 図6は、従来技術に係る電解合成セルの三相界面の説明図である。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。なお、本発明は、下記の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施形態の触媒層は、不飽和結合を有する被水素化有機化合物を電気化学的に水素化して水素化体を得るための触媒層であって、触媒金属と有機高分子とを含み、前記有機高分子が前記被水素化有機化合物中で単位質量当たりに吸収する前記被水素化有機化合物の質量をAとして、当該Aが0.1kg/kg以上100kg/kg以下である。このように構成されているため、本実施形態の触媒層は、イオン交換膜を用いずに被水素化有機化合物を水素化することができ、かつ、セル中の水素化体濃度が高い場合でも高いファラデー効率を実現することができる。
本実施形態における電解との対比のため、従来技術に相当するPEM型セルを用いる電解の原理を説明する。
PEM型セルは、イオン交換膜をアノードとカソードの絶縁膜として有する。その一例としては、カチオンを透過するイオン交換膜の片面にアノード触媒層が、もう一方の面にカソード触媒層を有する膜電極接合体(MEA)を含有する構成が挙げられる。前記アノード触媒層は、Pt触媒がカーボン担体上に担持されているPt担持カーボン触媒のような触媒粒子と、イオン交換膜と同様にイオン交換性基を有するアイオノマーとを含有している。また前記Pt担持カーボン粒子と前記アイオノマー樹脂がそれぞれに接続した多孔性ネットワーク構造を有する。もう一方の面のカソード触媒層は、Pt担持カーボン粒子のような触媒粒子がイオン交換膜と同様にイオン交換性基を有するアイオノマーとを含む。また前記Pt担持カーボン粒子と前記アイオノマー樹脂がそれぞれに接続した多孔性ネットワーク構造を有する。
このPEM型セルのアノード触媒層に水ないし、印加する電圧領域に酸化還元電位を有しない電気化学的に安定な支持電解質を含有する水溶液を供給する。カソード触媒層に対するアノード触媒層の電位が貴となるように電圧を印加すると、水の理論分解電圧1.23V以上のある電圧において、アノード触媒層における触媒活性点で水が分解され、酸素分子と電子と水素イオンが発生する。このうち酸素分子はガスとしてアノード触媒層の空隙を拡散し系外に排出され、電子は前記カーボン担体のネットワークを介して系外の電気回路へと供給される。一方、水素イオンは前記アノード触媒層に含まれる前記アイオノマーのネットワークを介して前記イオン交換膜へと移動し、前記イオン交換膜を介して反対側のカソード触媒層へと運ばれる。ここで、カソード触媒層の一例を図6に示す。図6におけるカソード触媒層60は、イオン交換膜68上に形成されており、導電性担体61に担持された触媒金属粒子62と、イオン交換性アイオノマー63とを含むものである。また、イオン交換膜68とは逆側のカソード触媒層60上には、拡散層64が形成されている。図6において、カソード触媒層60には電解液66が供給される。また、イオン交換膜68からイオン交換性アイオノマー63のネットワークを介して水素イオン69が触媒粉末の活性点(導電性担体61に担持された触媒金属粒子62に存在する。)へと供給される。また系外の電気回路より、拡散層64側からカソード触媒層60に含まれる前記触媒粉末のネットワークを介して触媒活性点へと電子65が運ばれる。そして触媒活性点において水素イオン69と電子65が反応し、水素分子となって、カソード触媒層60の空隙を拡散して系外へと排出される。
すなわち、アノード触媒層における触媒活性点が、触媒粒子中の電子と、空隙中の水と、発生した水素イオンを受け取るアイオノマーと接する三相界面を持つことで、下記の式2で示される陽極酸化反応が発生する。一方、カソード触媒層における触媒活性点が、触媒粒子中の電子と、アイオノマー中の水素イオンと、発生した水素を拡散する空隙とに接する三相界面を持つことで、下記の式3で示される陰極還元反応が発生する。PEM型水電解では、このようにして水の電気分解が生じている。
[式2]
2H2O→O2+4H++4e-
[式3]
2H++2e-→H2
例えば、特許文献4においては、上記した構造のPEM型セルにおいて、図6に例示されるカソード触媒層60に芳香族炭化水素等の被水素化有機化合物分子67(例えばトルエン)を拡散層64側から供給することで、前記水素化体(例えばメチルシクロヘキサン)を生成している。これは、前記カソード触媒層60における三相界面の空隙が被水素化有機化合物分子67で満たされることで、被水素化有機化合物分子67と、水素イオン69と、電子65が触媒活性点上で接する三相界面が形成され、下記の式4で示される陰極還元反応が生じるためと考えられる。
[式4]
65CH3+6H++6e-→C611CH3
上記の理由から、PEM型電解合成セルにおいては、イオン交換膜が必須となる。一般にイオン交換膜は支持電解質水溶液に比べて電圧損失が高く、電解合成セルの電圧損失を下げるためには、できる限り薄膜化することが好ましい。一方、この薄膜化により機械強度が低下し、触媒層の塗布やセルを組み上げる際の取り扱いが難しくなる、という問題がある。
そこで本発明者らは、イオン交換膜とイオン交換性基を有するアイオノマーを用いずに、前記した三相界面を形成する方法について、鋭意研究を重ねた。この結果、特定量の被水素化有機化合物を吸収する有機高分子と、触媒金属とを触媒層中で共存させるという構成を採用することにより、触媒活性点へ被水素化有機化合物を効率良く供給できることを見出した。
上記の構成を満たす態様の中で、特に好ましい態様を図5のとおり例示する。図5において、カソード触媒層50は、多孔膜58上に形成されており、導電性担体51に担持された触媒金属粒子52と、被水素化有機化合物を選択的に吸収する有機高分子53とを含むものである。また、多孔膜58とは逆側のカソード触媒層50上には、拡散層54が形成されている。さらに、図5において、カソード触媒層50には電解液56が供給される。なお、図5に示す態様において、カソード触媒層50は、導電性担体51を含むことにより、後述するネットワーク構造を有している。上記のとおり、前記有機高分子と触媒金属を共存させることで、前記有機高分子がセル中の電解液56から被水素化有機化合物分子57を吸収し、触媒活性点へ被水素化有機化合物分子57を供給する。これにより、触媒活性点は前記有機高分子中の被水素化体有機化合物分子57と、水ないし電解質水溶液中の水素イオン59と、触媒粒子中の電子55とが出会う三相界面が形成する。ここに電圧を印加することで、上記の式4で示される陰極還元反応が生じる。
以上のとおり、本実施形態の触媒層によれば、前記有機高分子と触媒金属粒子を共存させることでイオン交換膜を使用せずに、被水素化有機化合物を電気化学的に水素化することが可能となり、工業的に電解合成セルを製作する上で大きな利点となる。
前記有機高分子が前記被水素化有機化合物中で単位質量当たりに吸収する前記被水素化有機化合物の質量Aは、以下のように測定する。まず、乾燥した前記有機高分子の質量を電子天秤などで計測する。この有機高分子を前記被水素化有機化合物(単体)に浸漬させ、浸漬温度25℃及び浸漬時間24時間の条件で静置する。この後、前記被水素化有機化合物から前記有機高分子を取出し表面に付着した前記被水素化有機化合物を乾燥させた後、前記触媒層の質量を計測する。この際の質量増加分を、前記有機化合物が吸収した前記被水素化有機化合物の質量Aとする。また、被水素化有機化合物浸漬後の質量増加分が定量出来ればよいため、触媒層や触媒層を有する部材に被水素化有機化合物を吸収する部材がないのであれば、触媒層を有する部材ごと、浸漬前後の質量を計測しても問題ない。
前記質量Aは0.1kg/kg以上100kg/kg以下の範囲でなければならない。触媒活性点へ前記被水素化有機化合物を供給するという点においては、前記有機高分子がより多くの前記被水素化有機化合物を吸収することが好ましいが、前記有機高分子が前記被水素化有機化合物を吸収すれば吸収するほど、前記有機高分子は体積膨張し、また前記有機高分子も脆くなっていくため、触媒層の構造が破壊される可能性がある。これゆえ、長期に安定して高いファラデー効率を維持するためには、質量Aは0.1kg/kg以上100kg/kg以下の範囲であり、好ましくは2kg/kg以上50kg/kg以下であり、より好ましくは2.5kg/kg以上30kg/kg以下である。
上記Aは、例えば、有機高分子を構成する単量体単位(本明細書において、「繰り返し単位」又は「単量体構成単位」ともいう。)の選択及び側鎖の選択等の分子設計や、後述する有機高分子のゲル分率等により上記範囲に調整することができる。より具体的には、例えば、後述するように前記被水素化有機化合物がトルエンであった場合なら、繰り返し単位に含まれる芳香環の量を増やすことで、Aの値は増加する傾向にあり、芳香環の量を減らすことで、Aの値は減少する傾向にあるため、芳香環の量によってAを上記範囲に調節することができる。
本実施形態の触媒層は、前記有機高分子が前記被水素化有機化合物の水素化体中で単位質量当たりに吸収する前記水素化体の質量をBとして、A/Bで算出される膨潤係数Cが1.5以上100以下の範囲であることが好ましい。
PEM型セルにおいて、セル中の水素化体濃度が上昇することは、前記カソード触媒層における三相界面において被水素化有機化合物の濃度が減少することを意味している。このために、カソード触媒層に供給される電子に対して、カソード触媒層に供給される被水素化有機化合物の数が少なくなる。結果として余剰の電子が三相界面におけるアイオノマーから供給される水素イオンと反応し、式4で示される反応の競争反応である式3で示される反応の割合が増えてしまい、式1で示されるファラデー効率が低下するものと考えられる。
そこで本発明者らは、水素化体と被水素化有機化合物の混合液から触媒活性点へ選択的に被水素化有機化合物を供給する方法について鋭意研究を重ねた。この結果、水素化体に比して被水素化有機化合物を選択的に吸収する有機高分子と触媒金属を触媒層中で共存させることにより、触媒活性点へ被水素化有機化合物を選択的に供給できることを見出した。
すなわち、前記有機化合物と触媒金属が触媒層中で共存していると、セル中の水素化体濃度が高くなっても、前記有機高分子は、被水素化有機化合物を選択的に吸収する。このため、前記有機高分子中は被水素化有機化合物で満たされた状態となり、触媒活性点における三相界面は、水素化体濃度が低い場合と同様の状態となる。結果として、触媒層へ被水素化有機化合物を選択的に供給することができ、水素化体が高濃度な場合でも高いファラデー効率が実現できる。
前記有機高分子が前記被水素化有機化合物の水素化体中で単位質量当たりに吸収する前記水素化体の質量Bは、Aを測定する方法と同様に測定することができる。
膨潤係数Cは1.5以上100以下の範囲であることが好ましい。膨潤係数Cが1.5以上であると、被水素化有機化合物が触媒活性点により選択的に供給される傾向にある。また、膨潤係数Cが100以下であると、前記有機高分子中で生成された前記水素化体の前記有機高分子中における拡散性が良好となり、より効率良く被水素化有機化合物が触媒活性点へ供給される傾向にある。上記観点から、膨潤係数Cは、より好ましくは2以上80以下であり、より好ましくは3以上50以下であり、より好ましくは4以上30以下である。膨潤係数Cは、例えば、上述したAを調整する方法と同様の方法により上記範囲に調整することができる。
本実施形態の触媒層は、前記有機高分子が水中で単位質量当たりに吸収する水の質量をDとして、D/Aで算出される水膨潤係数Eが0.7以下であることが好ましい。前記有機高分子が水中で吸収する水の質量Dは、Aを測定する方法と同様にして測定することができる。
前記有機高分子が水を吸収することに伴う、触媒活性点へ供給される被水素化有機化合物の量の過度な減少を避け、ファラデー効率の低下をより効果的に防止する観点から、前記有機高分子の水膨潤係数Eは0.7以下であることが好ましく、より好ましくは0.1以下である。
水膨潤係数Eは、例えば、繰り返し単位に含まれる親水性基、疎水性基の量を調整すること等により上記範囲に調整することができる。
本実施形態の触媒層は、前記有機高分子1kgに対して、前記被水素化有機化合物0.1kg以上100kg以下を含有することが好ましい。
前記有機高分子が触媒層内において、被水素化有機化合物を含有していることで、触媒活性点へ被水素化有機化合物が供給される。これにより、触媒活性点は前記有機高分子中の被水素化体有機化合物と、水ないし電解質水溶液中の水素イオンと、触媒粒子中の電子とが出会う三相界面が形成する。ここに電圧を印加することで、式4で示される陰極還元反応が生じる。これにより、イオン交換膜を使用せずに、被水素化有機化合物を電気化学的に水素化することが可能となり、工業的に電解合成セル製作するうえで大きな利点となる。
前記有機高分子1kgに対して被水素化有機化合物が0.1kg以上含まれる場合、触媒活性点へより効率良く前記被水素化有機化合物が供給される傾向にある。また、有機高分子1kgに対して被水素化有機化合物が100kg以下含まれる場合、前記有機高分子の過度な体積膨張を防止でき、触媒層の構造を維持しやすくなり、結果としてより長期的に安定して高いファラデー効率が維持される傾向にある。上記観点から、有機高分子1kgに対する前記被水素化有機化合物の含有量は、より好ましくは2kg/kg以上50kg/kg以下であり、さらに好ましくは3kg/kg以上30kg/kg以下であり、よりさらに好ましくは4kg/kg以上20kg/kg以下である。
上記含有量は、例えば、上述したAを調整する方法と同様の方法によって、上記範囲に調整することができる。
本実施形態の触媒層は、有機高分子1kgに対して、前記水素化体0.001kg以上33kg以下を含有することが好ましい。
すなわち、前記有機高分子と触媒金属が触媒層中で共存していると、セル中の水素化体濃度が高くなっても、前記有機高分子は、被水素化有機化合物を選択的に吸収する。このため、前記有機高分子中では被水素化有機化合物の方が多く存在する傾向にあり、触媒活性点における三相界面は、水素化体濃度が低い場合と同様の状態となる傾向にある。結果として、触媒層へ被水素化有機化合物を選択的に供給することができ、水素化体が高濃度な場合でも高いファラデー効率が実現できる。
前記有機高分子1kgに対して水素化体が33kg以下含まれる場合、被水素化有機化合物が触媒活性点により選択的に供給される傾向にある。また、前記有機高分子1kgに対して水素化体が0.001kg以上含まれる場合、前記有機高分子中で生成された前記水素化体の前記有機高分子中における拡散性が良好となり、より効率よく被水素化有機化合物が触媒活性点へ供給される傾向にある。上記観点から、前記水素化体の含有量は、より好ましくは0.001kg以上50kg以下であり、さらに好ましくは0.002kg以上33kg以下であり、よりさらに好ましくは0.003kg以上25kg以下である。
本実施形態の触媒層は、前記有機高分子1kgに対して、33kg以下の水を含有することが好ましい。上記水の含有量が33kg/kg以下である場合、前記有機高分子がより多くの被水素化有機化合物を吸収する傾向にあり、ファラデー効率の低下をより効果的に防止できる傾向にある。上記観点から、前記水の含有量は、より好ましくは5kg/kg以下である。
上記含有量は、例えば、上述したAを調整する方法と同様の方法によって、上記範囲に調整することができる。
(被水素化有機化合物)
本実施形態の触媒層は、被水素化有機化合物の少なくとも一部又は全部が芳香族化合物であることが好ましい。さらに、本実施形態の触媒層は、前記芳香族化合物がベンゼン、ナフタレン、アントラセン、トルエン、キシレン、ジフェニルメタン、ジフェニルエタン、トリフェニルメタン、トリフェニルエタン、ジベンジルトルエン、フェノール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン及びイソキノリンからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。また、これら芳香族化合物は1種単独で含まれていてもよく、2種以上の混合物であってもよい。また、被水素化有機化合物は、常温常圧で液体であるとより好ましい。液体を電解液として用いることで、昇温昇圧設備を用いることなく電解合成セルによる電気化学的水素化が可能となり、また水素キャリアとしての扱いも容易となる傾向にある。こうした観点から被水素化有機化合物はベンゼン、トルエン、キシレン、ジフェニルエタン又はキノリンであるとより好ましい。
(有機高分子)
本実施形態の触媒層は、前記有機高分子が架橋構造を有していることが好ましい。
架橋構造を有する場合、前記触媒層を前記被水素化有機化合物に浸漬した際に生じうる前記有機高分子の溶解を効果的に防止でき、触媒層の構造がより安定化する傾向にある。架橋処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、多官能の単量体を重合させて架橋させることができる。また重合のほかにも架橋する方法として、以下に限定されないが、例えば、電子線やγ線等の放射線照射による架橋や架橋剤による熱架橋等が挙げられる。
本実施形態の触媒層は、前記有機高分子が、繰り返し単位として、側鎖にアリール基を有するビニル系単量体由来の構造を有することが好ましい。前記有機高分子が、前記被水素化有機化合物を選択的に吸収するためには、前記有機高分子が被水素化有機化合物に類似する構造を持つことが好ましい。例えば、被水素化有機化合物として芳香族化合物を用いた場合、前記有機高分子は繰り返し単位に芳香環を含有していることが好ましい。こうした観点から、前記有機高分子としては、スチレンなどのアリール基を含有するビニル系化合物の重合体がより好ましい。
本実施形態の触媒層は、前記有機高分子が、共役ジエン系単量体由来の構造を有することが好ましい。前記有機高分子は、共役ジエン系単量体由来の構造を有することで、分子鎖が弾性的に伸縮し、高い架橋度においてもより多くの被水素化有機化合物を吸収できる傾向にあり、また容易に架橋できる傾向にある。こうした観点から、前記有機高分子の単量体としては、二重結合を少なくとも二つ以上含有する有機化合物、例えば1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル1,3−ブタジエン、2−エチル−1 ,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレン、2−クロル−1,3−ブタジエン、シクロペンタジエンなどがより好ましい。
前記被水素化有機化合物を選択的に吸収するためには、前記有機高分子が前記被水素化有機化合物に類する構造の部分を多く含有していることが好ましいため、芳香族化合物を前記被水素化有機化合物とした場合、前記主鎖に二重結合を含有し、かつ側鎖にアリール基を有するビニル系単量体に由来する構造の質量が多いほうが好ましい。このような観点から、前記有機高分子が、繰り返し単位として、側鎖にアリール基を有するビニル系単量体由来の構造と、共役ジエン系単量体由来の構造とを有することが好ましい。さらに、本実施形態の触媒層は、前記有機高分子が、繰り返し単位として、側鎖にアリール基を有するビニル系単量体由来の構造と、共役ジエン系単量体由来の構造とを単量体単位のモル比として99.1:0.9〜0.3:99.7の範囲で有する共重合体であることが好ましく、当該モル比は、より好ましくは99.1:0.9〜2.9:97.1であり、さらに好ましくは99.1:0.9〜36.0:64.0である。
本実施形態の触媒層は、以上の観点から、芳香族化合物を前記被水素化有機化合物とした場合、前記有機高分子の一例としては、スチレンに由来する構造とブタジエンに由来する構造とを有する共重合体である。すなわち、単量体構成単位としてスチレンとブタジエンとを含む共重合体であることがとりわけ好ましい。
本実施形態の触媒層において、芳香族化合物を前記被水素化有機化合物とした場合、前記有機高分子として好ましい他の例として、主鎖骨格に芳香環構造を有する有機高分子が挙げられる。そのような前記有機高分子としては、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレン、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、芳香族エポキシ樹脂及びメラミン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種であることがより好ましい。
本実施形態の触媒層は、トルエンを溶媒として測定した前記有機高分子のゲル分率が10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上99.9質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上99質量%以下であり、よりさらに好ましくは50質量%以上90質量%以下である。ゲル分率が10質量%以上であると、有機高分子が被水素化有機化合物を吸収した場合でも、触媒層の構造がより安定する傾向にある。ゲル分率が99.9質量%以下であると、より多くの被水素化有機化合物が触媒活性点へ供給される傾向にある。ゲル分率は、上述した架橋方法における架橋度を制御することで上記範囲に調整することができる。例えば、重合法においては、多官能の単量体の濃度を制御する方法が挙げられ、放射線照射法においては放射線強度や照射時間を制御する方法が挙げられ、熱架橋法においては架橋剤の添加量を制御する方法が挙げられる。
前記有機高分子のゲル分率は以下のように評価する。まず前記触媒層に含有される前記有機高分子の質量を電子天秤などで計量する。続いて、前記有機高分子をトルエンに浸漬し、前記被水素化有機化合物の非架橋成分を抽出する。十分な時間(例えば24時間)、前記有機高分子をトルエンに浸漬したのち、前記有機高分子をトルエンから取出し、40℃〜60℃に十分な時間(例えば24時間)保持して、前記前記樹脂に吸収されたトルエンを乾燥させる。この後、再び前記有機高分子の質量を計量し、この質量の、前記樹脂のトルエン浸漬前に計量した質量に対する割合を、ゲル分率とする。
本実施形態の触媒層は、多孔性を有することが好ましい。多孔性を持つことで、三相界面を形成する触媒活性点をより効率的に作製できる傾向にある。多孔性とするための方法は、特に限定されないが、例えば金属メッシュや金属発泡体、エキスパンドメタルといった導電性の多孔性基材上に前記有機高分子と触媒金属とを担持する方法、有機高分子樹脂メッシュや有機高分子樹脂の不織布のような非導電性の多孔性基材上に前記有機高分子と触媒金属とを担持する方法、後述する前記有機高分子と触媒金属を含有するインクを膜上に塗布する方法などが挙げられる。また多孔性の確認方法は、特に限定されないが、例えばガス吸着法による比表面積/細孔分布測定などが挙げられる。
(触媒金属)
本実施形態の触媒層は、触媒活性の観点から、前記触媒金属が、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、モリブデン、レニウム、タングステン、チタン、ニッケル、銅、亜鉛、銀、スズ、金、鉛及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
本実施形態の触媒層は、前記触媒金属が導電性の担体に担持された構造を有することが好ましい。前記担体は特に限定されるものではないが、その一例としてはカーボン粒子、アルミナ、シリカ、ゼオライト、メソ多孔質材等が挙げられる。触媒金属の微粒子を担体上に担持することで、触媒金属の使用量が低減され、また触媒金属の体積当たりの比表面積が大きくなる傾向にあるため、触媒活性がより向上する傾向にある。
本実施形態の触媒層における前記導電性の担体は、触媒金属を担持する際の物理的安定性、触媒金属との接点における導電性、電解液に対する化学的安定性、電解環境下における電気化学的安定性、及び経済性という観点から、カーボン素材であることが好ましい。また後述する、本実施形態のより好ましい形態であるネットワーク構造を触媒インク塗布法により形成する観点から、前記導電性の担体は粒子状であることが好ましい。以上の観点から、前記導電性の担体はカーボン粒子であることがさらに好ましい。
本実施形態の触媒層は、前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体が前記有機高分子で結着されていることが好ましい。前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体が前記有機高分子で結着されていることで、より効率的に三相界面を形成できる傾向にある。
前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体を前記有機高分子で結着する方法は、特に限定はされないが、例えば、後述する触媒インク塗布法により触媒層を形成する方法、前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体の存在下において前記有機高分子を重合する方法等が挙げられる。
本実施形態の触媒層は、前記触媒金属及び前記導電性の担体が互いに接触した構造を有し、当該構造をネットワーク構造と呼ぶことにする。当該ネットワーク構造は導電性を発現することが好ましい。前記触媒金属及び前記導電性の担体が互いに接触したネットワーク構造を有しているために導電性を持つことで、外部回路から触媒活性点へより効率的に電子を供給できる傾向にある。
当該ネットワーク構造を得る方法は、特に限定されないが、例えば、後述する触媒インク塗布法が挙げられる。
またネットワーク構造による導電性の確認方法は特に限定されないが、例えば、簡便には触媒層にテスターの電極を接触させて抵抗値を測定する方法や、より厳密には、シート抵抗測定機などを用いてシート抵抗値や体積抵抗率を測定する方法、などが挙げられる。
本実施形態の触媒層は、前記触媒金属の質量と前記有機高分子の質量との比が1:10〜16:1の範囲であることが好ましい。この質量比により、触媒層中の触媒金属粉末、有機高分子、及び空隙それぞれの占める体積の比率が、より高いファラデー効率が得られる範囲となる傾向にある。
本実施形態の触媒層を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、後述する触媒インク塗布法が挙げられる。触媒インク塗布法では、まず前記有機高分子と前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体とを含有し、かつ、前記有機高分子と前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体とが水及び/又は有機溶剤に均一に分散された触媒インクを調製する。当該触媒インクを調製する際、前記有機高分子と前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体とを均一に分散させるために、分散剤を用いてもよい。また、前記有機高分子と前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体と水及び/又は有機溶剤に混合した後、均一に分散させる方法は、特に限定されないが、例えば超音波洗浄器で分散する方法、マグネチックスターラーにより分散する方法、ホモジナイザーにより分散する方法などが挙げられる。上記のように調製した触媒インクを、基材上に塗布してウェット膜を形成する。触媒インクの塗布方法は、特に限定されないが、例えば、スキージを用いたスクリーン印刷方法、アプリケーターによる塗布方法などが挙げられる。当該ウェット膜に含有される水及び/又は有機溶剤を、室温において乾燥させた後、加熱を行い、前記有機高分子と前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体とを結着させる。加熱する温度は、前記有機高分子のガラス転移点以上であることが好ましく、さらに前記有機高分子の分解温度以下であるとより好ましく、さらに前記有機高分子が酸化されない範囲でより高温であるとさらに好ましい。また加熱する際、ウェット膜に対して垂直方向に適度な荷重を行うと、前記有機高分子と前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体とがより強固に結着され、加熱後の膜が安定になる傾向にあるため、好ましい。当該ウェット膜を、上記のように十分な時間(例えば30分)加熱した後、室温において除熱を行うことで、本実施形態の触媒層を得ることができる。
(カソード)
本実施形態の電解合成セルに用いられるカソードは、本実施形態の触媒層を活性層として有する。また、本実施形態の電解合成セルに用いられるカソードは、本実施形態の触媒層を導電性基材上に有することが好ましい。前記導電性基材は特に限定されないが、その一例としてカーボンペーパーや、金属箔、金属板、カーボン成形体、エキスパンドメタル、金属メッシュ、多孔性金属、導電性酸化物焼結体、などが挙げられる。導電性基材上に触媒層を形成することで、無隔膜の電解合成セルを製作することが可能となる。
本実施形態の電解合成セルに用いられる膜電極接合体は、本実施形態の触媒層を、非導電性かつ多孔性の基材膜(以下、「非導電性多孔膜」ともいう。)上に有する。すなわち、本実施形態の膜電極接合体は、本実施形態の触媒層と、非導電性かつ多孔性であり、かつ、前記触媒層と接する基材膜と、を有する。前記非導電性多孔膜は特に限定されないが、その一例としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂製が好ましく、それらの多孔膜、メッシュ、不織布、などが挙げられる。非導電性多孔膜上に触媒層を形成することで、イオン交換膜を用いない電解合成セルを製作することが可能となる。上記において、非導電性であることは、例えば、シート抵抗測定機などを用いてシート抵抗値や体積抵抗率を測定する方法等により確認できる。また、多孔性であることは、ガス吸着法による比表面積/細孔分布測定等により確認できる。
(電解合成セル)
本実施形態の電解合成セルは、本実施形態のカソードと、水を酸化して酸素を発生させるためのアノードとを備える。前記電解合成セルの構成は特に限定されないが、その一例としては下記構成が挙げられる。本実施形態における触媒金属が本実施形態における担体上に担持されている触媒金属粒子と、本実施形態における有機高分子と、を含有する触媒層が、本実施形態における導電性基材上に形成されたカソードを有する。また前記導電性基材と外部回路を接続するための集電体と、本実施形態における導電性基材の表面に多孔性触媒層が形成されたアノードと、アノードと外部回路を接続するための集電体と、アノードとカソードを絶縁し内側に電解液を満たすための枠型形状を持った絶縁性スペーサーと、を含有する。これらがカソード集電体/カソード/スペーサー/アノード/アノード集電体の順にスタックされた無隔膜電解合成セル等が本実施形態の例として挙げられる。無隔膜の電解合成セルとすることで、隔膜由来の電圧損失を削減した、エネルギー的に高効率な電解合成セルを供給することが可能となる。
また、本実施形態の電解合成セルは、本実施形態の膜電極接合体と、水を酸化して酸素を発生させるアノードとを備えることが好ましい。前記電解合成セルの構成は特に限定されないが、その一例としては下記構成が挙げられる。本実施形態における触媒金属が本実施形態における担体上に担持されている触媒金属粒子と、本実施形態における有機高分子と、を含有する触媒層が、本実施形態における非導電性多孔膜上に形成された膜電極接合体を有する。また前記触媒層と外部回路を接続するための集電体と、膜電極接合体上の触媒層と集電体に挟まれることで触媒層と集電体を電気的に効率よく接続するためのカーボンペーパーと、本実施形態における導電性基材の表面に多孔性触媒層が形成されたアノードと、アノードと外部回路を接続するための集電体と、を含有し、カソード集電体/カーボンペーパー/膜電極接合体/アノード/アノード集電体の順にスタックされた構成等が挙げられる。イオン交換膜を用いない電解合成セルを製作することで、多孔中の電解液による通電が生じ、イオン交換膜より電圧損失を低減することが可能となる。
(有機化合物水素化装置)
本実施形態の被水素化有機化合物を水素化する有機化合物水素化装置は、本実施形態の電解合成セルを備える。この装置により、水素化体濃度の高い被水素化体との混合液を原料としても、ファラデー効率の高い電解水素化が可能となる。
(水素化方法)
本実施形態に係る水素化有機化合物の製造方法は、本実施形態の有機化合物水素化装置を用いて前記被水素化有機化合物を水素化する工程を有する。この方法により、水素化体濃度の高い被水素化体との混合液を原料としても、ファラデー効率の高い電解水素化が可能となる。
(水素化有機化合物の製造方法)
本実施形態の水素化有機化合物の製造方法は、本実施形態の有機化合物水素化装置を少なくとも2つ以上用い、純度25%〜75%の水素化体を得るための第一の水素化工程と、純度90%〜99%の水素化体を得るための第二の水素化工程とを有することが好ましい。この方法により、工業的なスケールでの効率的な水素化有機化合物の製造を行うことが可能となる。
以下、実施例及び比較例を挙げて、本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本実施例で用いた評価方法及び測定方法は、以下のとおりである。
[実施例1]
白金−ルテニウム担持カーボン触媒粒子(田中貴金属工業株式会社製、固体高分子型燃料電池用標準触媒、耐一酸化炭素被毒触媒標準品TEC61E54−Pt及びRu含有量54質量%(Pt:Ru=1:1.5)担持触媒(担体Ketjenblack EC)、以下「Pt/Ru−C触媒」ともいう。)1.21gを容量30mLのスクリュー管瓶に入れ、蒸留水(林純薬製)17.76mLを滴下した。この試料にカルボキシメチルセルロースナトリウム(関東化学株式会社製、以下「CMC」ともいう。)0.83gを添加した。ホモジナイザー(アズワン株式会社製、HOMOGENIZER Model AHG−160D、シャフトジェネレーターはアズワン株式会社製、HT1008)を用いてこの試料を2000rpmで2分、12000rpmで5分、27000rpmで5分の順に撹拌子Pt−Ru/C触媒を均一に分散させ(以下、この分散法を「標準分散法」ともいう)、触媒分散液1を得た。一方、この触媒分散液1に添加するスチレンブタジエン共重合体(以下「SB」ともいう。)ラテックス1は、下記のように調製した。まず、水63質量部を撹拌装置と温度調節用ジャケットを取り付けた耐圧反応容器に入れた。さらにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2質量部を仕込み、内温を90℃に昇温した。次いで、
スチレン : 57.0質量部
ブタジエン : 41.0質量部
アクリル酸 : 2.0質量部
t−ドデシルメルカプタン : 0.2質量部
を混合した単量体組成物と、
水 : 20質量部
ペルオキソ二硫酸ナトリウム : 1.2質量部
ラウリル硫酸ナトリウム : 0.1質量部
水酸化ナトリウム : 0.2質量部
を混合した開始剤系水溶液とを、それぞれ4時間及び5時間かけて一定の流速で添加した。添加終了後、90℃の温度をそのまま1時間保ったのち冷却した。次いで、水酸化ナトリウムを添加してpHを8とした。次に、スチームストリッピング法により未反応単量体を除去し、200メッシュの金網で濾過した。このラテックス分散体に水を添加して固形分濃度50質量%に調整してSBラテックス1を得たこのSBラテックス1に分散しているSBの粒径をレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA−920)で計測したところ、170nmであった。そしてSBラテックス1を触媒分散液1に0.74g滴下し、再びホモジナイザーを用いて再び標準分散法にて分散させ、以下の成分組成の触媒インク1を製作した。
Pt−Ru/C触媒 : 6.1質量%
SBラテックス1 : 3.8質量%
CMC : 0.61質量%
水 : 89.5質量%
親水化PTFE多孔膜(オムニポアTM、型番JGWP04700、耐熱温度:130℃、孔径:0.2μm、厚さ:80μm、空隙率:80%、バブルポイント:93.8kPa(13.6psi)、直径:47mm)を、直径2mmの円形の穴が開いたマスクの下に真空チャック台で吸引固定した。触媒インク1を製作したら直ちにマスク上に触媒インク1を数mL滴下し、wet厚さ90μmとなるようにアプリケーター(テスター産業株式会社製、SA−201 ベーカー式アプリケーター、有効巾150mm)を用いてマスク越しに触媒インク1を親水化PTFE多孔膜に塗布した。この塗布膜を空気中にて30分乾燥させた後、厚さ1mmのPTFEシート(サンプラテック社製)で挟んでから80度に加熱したオーブン(アドバンテック社製、乾燥器、FC−410)へと入れ、5kgの重りを乗せて加熱圧縮した。45分後に取出し、空気中で冷却して、dry厚さ30μメートル程度の触媒層が塗布された膜電極接合体A1を製作した。
膜電極接合体A1を用いた電解合成セル1は下記のように製作した。SUS316製板(厚さ1mm)及びPTFEセル(厚さ5mm)でセルを製作し、PTFE製ガスケット(日本ゴア株式会社製、ゴア(登録商標)ハイパーシート(登録商標)ガスケット、型番:SG05X−J、厚さ500um)でセルに適した形状のガスケットを製作した。陰極集電体には株式会社ケミックス製、小型固体高分子形燃料電池組立てキットPem Master(登録商標)(型番:PEM−004)で使用されている水素極カーボンセパレータ(Oリング付)を採用した。陰極拡散層としては株式会社ケミックスより購入したカーボンシート(厚さ300μm)を使用した。またカーボンシートを固定するガスケットには株式会社ケミックス製Pem Master(登録商標)で使用されているシリコンガスケットを採用した。陽極集電体はTi板(ニラコ社製、型番:TI−453511、厚さ1.0mm)を使用して製作した。陽極触媒電極にはデノラ・ペルメレック株式会社製DSE(登録商標)電極を使用した。以上の各部材を、下記順序でスタックし、ボルトで締め上げて電解合成セル1を製作した。電解合成セル1の部分模式図を図1に示す。なお、図1において、便宜上、各部材同士を離して示しているが、前述のとおり電解合成セル1を組み立てた状態において各部材は接触している。
(陰極側)SUS316板/PTFEセル/PTFE製ガスケット/陰極集電体11/シリコーンガスケット+拡散層12/膜電極接合体A1(触媒層13塗布側が陰極側)/PTFEガスケット3枚+陽極触媒電極15/陽極集電体16/PTFEガスケット/PTFEセル/SUS316板(陽極側)
[比較例1]
SUS316板を使用して陰極セルを、アクリル板を使用して陽極セルを作製した。標準的なPEM型電解合成セルの構成である株式会社ケミックス製、小型SPE方式電気分解組立てキットPem Master(登録商標)(型番:PEM−004H2O)に使用されている膜電極接合体(陽陰極ともに白金担持カーボン触媒がNafionアイオノマーによって白金担持カーボン触媒が結着されている)をイオン交換膜及び陽陰極触媒層として採用し、膜電極接合体B2とした。また陽極集電体には株式会社ケミックス製Pem Master(登録商標)(型番:PEM−004)で使用されている水素極カーボンセパレータ(Oリング付)を採用した。陽極拡散層としては株式会社ケミックスより購入したカーボンシート(厚さ300μm)を使用した。
以上の部材を用いて、実施例1同様、下記順序でスタックし、ボルトで締め上げて電解合成セル2を製作した。電解合成セル2の部分模式図を図2に示す。なお、図2において、便宜上、各部材同士を離して示しているが、前述のとおり電解合成セル2を組み立てた状態において各部材は接触している。
(陰極側)SUS316セル/陰極集電体21/シリコーンガスケット+拡散層22/膜電極接合体B2/シリコーンガスケット+拡散層26/陽極集電体27/アクリルセル(陽極側)
[比較例2]
1.48gのPt/Ru−C触媒を容量30mLのスクリュー管瓶に入れ、蒸留水(林純薬製)4.26mLとエタノール(関東化学性、特級)21.47mLの混合液を滴下した。この試料にアイオノマー分散液(デュポン社製、型番:Nafion(登録商標)DE2020、成分組成 アイオノマー:水:ノルマルプロパノール=22.5質量%:40質量%:37.5質量%)2.27mLを滴下した後、標準分散法にて分散させ、以下の成分組成の触媒インク2を製作した。
Pt−Ru/C触媒 : 5.9質量%
アイオノマー分散液 : 9.3質量%
水 : 17.0質量%
エタノール : 67.8質量%
実施例1と同様の方法で触媒インク2を親水化PTFE多孔膜に塗布した。この塗布膜を空気中にて30分乾燥させた後、厚さ1mmのPTFEシート(サンプラテック社製)で挟んでから110度に加熱したオーブンへと入れ、5kgの重りを乗せて加熱圧縮する。45分後に取出し、空気中で冷却して、dry厚さ30μメートル程度の触媒層が塗布された膜電極接合体C3を製作した。
膜電極接合体C3を用いた電解合成セル3は、実施例1と同様に、以上の各部材を、下記順序でスタックし、ボルトで締め上げて電解合成セル3を製作した。電解合成セル3の部分模式図を図3に示す。なお、図3において、便宜上、各部材同士を離して示しているが、前述のとおり電解合成セル3を組み立てた状態において各部材は接触している。
(陰極側)SUS316板/PTFEセル/PTFE製ガスケット/陰極集電体31/シリコーンガスケット+拡散層32/膜電極接合体C3(触媒層33塗布側が陰極側)/PTFEガスケット3枚+陽極触媒電極35/陽極集電体36/PTFEガスケット/PTFEセル/SUS316板(陽極側)
実施例、比較例ともに、被水素化有機化合物をトルエン、水素化体をメチルシクロヘキサン(以下「MCH」ともいう。)とした。
トルエンとMCHの混合液の濃度はガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC−14B及びクロマトパックC−R6A、検出器FID、パックトカラム:Agilent社製DB−1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、以下「GC」ともいう。)によって以下の方法で定量した。測定試料調整の際、溶媒をN−メチルピロリドン(以下「NMP」ともいう。)、内部標準をイソプロパノール(以下「IPA」ともいう。)とした。まずトルエンとMCHそれぞれの添加質量を測定して濃度既知の混合液を、濃度違い(MCH濃度0質量%、25質量%、50質量%、75質量%、100質量%)で調整し、これを検量線サンプルとした(以下、この体積比でGC測定用試料を調整することを標準GC試料調整方法とする)。NMP:IPA:検量線サンプル=98vol%:1vol%:1vol%となるように混合し、それぞれの混合質量を測定して測定試料とした。これら測定試料のGC測定を行い、GCの検知ピーク面積と検量線サンプルの既知濃度の相関から検量線を作製した。濃度未知のトルエン、MCH混合液の濃度を定量する際は、標準GC試料調整方法に従って調整した試料を、検量線を作成した時と同じ昇温プログラムで測定した。
実施例1で用いたSBラテックス1を乾固させた樹脂SB1、及び比較例1の膜電極接合体B2にイオン交換膜として用いられているNafion膜(デュポン社製、NR212)が、それぞれ吸収したトルエン、MCH及び水の各質量A,B、Dを、以下の方法で測定した。まず、SBラテックス1を数mL程度、PTFEシートの上に滴下した。このSBラテックス1を50℃に加熱したオーブンの中へ入れ、24時間以上乾固させた。乾固させた樹脂SB1をオーブンから取り出し、PTFEシートから剥がし取り、1片0.1〜0.2g程度へと切り分けた。切り分けられたSB1それぞれの質量を計測した。これらのSB1を1片ずつ、トルエン50mL程度、MCH50mL程度、又は水50mL程度に浸漬(浸漬温度25℃)し、各々24時間以上静置した。この後、それぞれのSB1を各浸漬液から取出し、表面に付着した各浸漬液をキムワイプでふき取り、数秒間乾燥させた。この後、各SB1の質量を計測し、各SB1の浸漬液への浸漬前後の質量差をA、B、Dとした。またNafion膜においては、SBラテックスを乾固した工程を除き、上記と同様の方法でA、B、Dを算出した。さらに、これらのA、B、Dから、膨潤係数C、水膨潤係数Eを算出した。この結果を表1に示す。実施例1ではメチルシクロヘキサンや水と比較してトルエンを選択的に吸収したことがわかる。一方、比較例1ではトルエンとメチルシクロヘキサンは吸収せず、水のみを吸収したことがわかる。また、ここで作製したトルエンを吸収したSB1それぞれを50℃に加熱したオーブンに24時間静置し、SB1が吸収したトルエンを乾燥させた。この後のそれぞれの質量を測定し、トルエンへ浸漬する前の質量との比をゲル分率として算出したところ、SB1のゲル分率は93質量%であった。
SB1をトルエンとMCHの濃度既知の混合液に24時間以上浸漬した後、それぞれの質量増加を定量した。また浸漬前後の混合液の濃度をGCにより定量した。これらの値から、SB1がトルエンとMCHをどれだけ吸収しているかを計算した結果を図4に示す。これらの結果から、実施例1のSB1が、MCH濃度の高い混合液中に浸漬されても、トルエンを選択的に吸収していることがわかる。
電解試験は下記の方法で実施した。陽陰極それぞれの電解液タンクからダイアフラムポンプ(共立機巧株式会社製、MGI−25N−TTT−6)で液を吸い上げ、セルの陽陰極それぞれの電解液流入口へ流入させた。セルの陽陰極それぞれの電解液流出口から排出された電解液を陽陰極それぞれの電解液タンクへと還流させた。陽極電解液は0.5M−H2SO4水溶液とした。陰極電解液は、任意濃度のトルエンとMCHの混合液とした。電解により発生したガスは電解液流出口から電解液とともに排出されたのち、電解液タンクへと移送した。陽陰極電解液タンクそれぞれからの排気ラインを設け、それらを一路に集合させ、同一の冷却コンデンサーを通過させて系外へと排気した。この際、気化した電解液は冷却コンデンサーより陰極電解液タンクへと落ちるよう配置した。また電源(松定プレシジョン株式会社製、PK36−11)と陽陰極それぞれの集電体とを直列に接続し、電圧を印加して定電流電解を実施した。またセルと並列にデータロガー(株式会社キーエンス製、TR−V550)を接続し、電解液中のセル電圧をモニターした。
ファラデー効率の算出は以下のように行った。定電流電解を実施し、任意の時間通電を行った後、電解を停止し、陰極電解液をサンプリングした後、GC測定によりトルエンとMCHの成分組成を定量した。この操作を繰り返し、陰極電解液中のMCHの濃度変化から電解により生成されたMCHを定量した。一方、定電流電解時の電流値と通電した時間とから、セルに通電された電子数を計算した。これらの値から、式4の量比に従い、式1を用いてファラデー効率を算出した。
表2に、実施例1、比較例1及び比較例2のセル構成及び陰極液のMCH濃度におけるファラデー効率(電流密度1.0kA/m2の定電流電解時)を記した。実施例1において、イオン交換膜がなくともMCHが電解により生成された。また比較例1の一般的なPEM型セルにおいて、陰極液のMCH濃度が上がるにつれてファラデー効率が低下したのに対し、実施例1ではMCH濃度が上がっても高いファラデー効率が維持された。また比較例2は実施例1の陰極触媒結着材料のみをSB1からNafionアイオノマーへと変更した電解セルである。MCHが1質量%付近でのファラデー効率は比較例1よりも高い値が得られたが、これは陰極触媒がPt/CからPt−Ru/Cへと変更したためと考えられる。比較例2もまた比較例1同様にMCH濃度の上昇に伴いファラデー効率が低下した。
実施例及び比較例の結果から、被水素化有機化合物を選択的に吸収する有機高分子によって触媒粉末を結着して触媒層を形成することにより、電解液中の水素化体濃度が上昇しても高いファラデー効率が維持されることが判明した。また、この前記の触媒層を用いれば、イオン交換膜を用いずに被水素化体有機化合物を電気化学的に水素化できることも判明した。
本発明によれば、高濃度水素化有機化合物・被水素化有機化合物混合液を原料とした場合も高いファラデー効率を実現することができる。このため、工業的な水素エネルギー利用のコストを大幅に削減でき、水素社会の実現に貢献することが出来る。
1:膜電極接合体A、11:陰極集電体、12:拡散層、13:触媒層、14:多孔膜、15:陽極触媒電極、16:陽極集電体
2:膜電極接合体B、21:陰極集電体、22:拡散層、23:触媒層、14:イオン交換膜、25:触媒層、26:拡散層、27:陽極集電体
3:膜電極接合体C、31:陰極集電体、32:拡散層、33:触媒層、34:多孔膜、35:陽極触媒電極、36:陽極集電体
50:カソード触媒層、51:導電性担体、52:触媒金属粒子、53:被水素化有機化合物を選択的に吸収する有機高分子、54:拡散層、55:電子、56:電解液、57:被水素化有機化合物分子、58:多孔膜、59:水素イオン
60:カソード触媒層、61:導電性担体、62:触媒金属粒子、63:イオン交換性アイオノマー、64:拡散層、65:電子、66:電解液、67:被水素化有機化合物分子、68:イオン交換膜、69:水素イオン

Claims (26)

  1. 不飽和結合を有する被水素化有機化合物を電気化学的に水素化して水素化体を得るための触媒層であって、
    触媒金属と有機高分子とを含み、
    前記有機高分子が前記被水素化有機化合物中で単位質量当たりに吸収する前記被水素化有機化合物の質量をAとして、当該Aが0.1kg/kg以上100kg/kg以下である、触媒層。
  2. 前記有機高分子が前記水素化体中で単位質量当たりに吸収する前記水素化体の質量をBとして、A/Bで算出される膨潤係数Cが、1.5以上100以下である、請求項1に記載の触媒層。
  3. 前記有機高分子が水中で単位質量当たりに吸収する水の質量をDとして、D/Aで算出される水膨潤係数Eが、0.7以下である、請求項1又は請求項2に記載の触媒層。
  4. 前記有機高分子1kgに対して、前記被水素化有機化合物0.1kg以上100kg以下を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の触媒層。
  5. 前記有機高分子1kgに対して、前記水素化体0.001kg以上33kg以下を含有する、請求項4に記載の触媒層。
  6. 前記有機高分子1kgに対して、33kg以下の水を含有する、請求項4又は5に記載の触媒層。
  7. 前記被水素化有機化合物の少なくとも一部又は全部が芳香族化合物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の触媒層。
  8. 前記芳香族化合物が、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、トルエン、キシレン、ジフェニルメタン、ジフェニルエタン、トリフェニルメタン、トリフェニルエタン、ジベンジルトルエン、フェノール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン及びイソキノリンからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項7に記載の触媒層。
  9. 前記有機高分子が架橋構造を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の触媒層。
  10. 前記有機高分子が、主鎖骨格に芳香環構造を有する、又は繰り返し単位の側鎖に芳香環構造を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の触媒層。
  11. 前記有機高分子が、単量体構成単位としてスチレンとブタジエンとを含む共重合体である、請求項10に記載の触媒層。
  12. トルエンを溶媒として測定した前記有機高分子のゲル分率が、10質量%以上である、請求項9〜11のいずれか一項に記載の触媒層。
  13. 多孔性を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の触媒層。
  14. 前記触媒金属が、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、モリブデン、レニウム、タングステン、チタン、ニッケル、銅、亜鉛、銀、スズ、金、鉛及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の触媒層。
  15. 前記触媒金属が導電性の担体に担持された構造を有する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の触媒層。
  16. 前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体が、前記有機高分子で結着されている、請求項1〜15のいずれか一項に記載の触媒層。
  17. 前記触媒金属及び前記導電性の担体が互いに接触したネットワーク構造を有し、当該ネットワーク構造が導電性を発現する、請求項1〜16のいずれか一項に記載の触媒層。
  18. 前記触媒金属の質量と前記有機高分子の質量との比が1:10〜16:1の範囲である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の触媒層。
  19. 電解合成セルに用いられるカソードであって、請求項1〜18のいずれか一項に記載の触媒層を活性層として有する、カソード。
  20. 前記触媒層を導電性基材上に有する、請求項19に記載のカソード。
  21. 請求項19又は20に記載のカソードと、水を酸化して酸素を発生させるためのアノードとを備える、電解合成セル。
  22. 電解合成セルに用いられる膜電極接合体であって、
    請求項1〜18のいずれか一項に記載の触媒層と、
    非導電性かつ多孔性であり、かつ、前記触媒層と接する基材膜と、
    を有する、膜電極接合体。
  23. 請求項22に記載の膜電極接合体と、水を酸化して酸素を発生させるアノードとを備える、電解合成セル。
  24. 請求項21又は23に記載の電解合成セルを備え、前記被水素化有機化合物を水素化する、有機化合物水素化装置。
  25. 請求項24に記載の有機化合物水素化装置を用いて前記被水素化有機化合物を水素化する工程を有する、水素化有機化合物の製造方法。
  26. 請求項24に記載の有機化合物水素化装置を少なくとも2つ以上用い、純度25%〜75%の水素化体を得るための第一の水素化工程と、純度90%〜99%の水素化体を得るための第二の水素化工程とを有する、請求項25に記載の水素化有機化合物の製造方法。
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