本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
図1は、この発明の実施の形態による光電変換素子の平面図である。また、図2は、図1に示す線II−IIにおける光電変換素子の断面図である。
図1および図2を参照して、この発明の実施の形態による光電変換素子10は、シリコン基板1と、反射防止膜2と、パッシベーション膜3と、誘電体膜4と、保護膜5と、p電極6と、n電極7とを備える。
シリコン基板1は、例えば、n型単結晶シリコンまたはn型多結晶シリコンからなる。シリコン基板1は、例えば、1辺の長さが100mm以上200mm以下の四角形状からなる。シリコン基板1は、例えば、100μm以上300μm以下の厚さを有する。
シリコン基板1は、テクスチャ構造を受光面に有する。シリコン基板1は、p型不純物を含むp型不純物拡散層1Aと、n型不純物を含むn型不純物拡散層1Bとを受光面と反対側の裏面に有する。p型不純物は、例えば、ボロン(B)からなり、n型不純物は、例えば、リン(P)からなる。p型不純物拡散層1Aとn型不純物拡散層1Bとは、シリコン基板1の面内方向に交互に配置される。p型不純物拡散層1Aは、例えば、1×1019cm-3の不純物濃度を有し、n型不純物拡散層1Bは、1×1019cm-3以上の不純物濃度を有する。
反射防止膜2は、シリコン基板1の受光面に接して受光面上に配置される。反射防止膜2は、例えば、シリコン窒化膜(SiNx、0<x≦4/3)からなり、例えば、70〜90nmの膜厚を有する。反射防止膜2は、シリコン基板1の受光面側のパッシベーション膜としても機能する。
パッシベーション膜3は、n型不純物拡散層1Bに接してn型不純物拡散層1B上に配置される。パッシベーション膜3は、例えば、シリコン酸化膜(SiO2)からなり、5nm以上の膜厚を有する。
誘電体膜4は、p型不純物拡散層1Aおよびパッシベーション膜3に接してp型不純物拡散層1Aおよびパッシベーション膜3上に配置される。誘電体膜4は、負の固定電荷を有する。そして、誘電体膜4は、例えば、アルミナ(Al2O3)からなり、例えば、5〜10nmの膜厚を有する。
保護膜5は、誘電体膜4に接して誘電体膜4上に配置される。保護膜5は、誘電体膜4と異なる組成を有する。そして、保護膜5は、例えば、シリコン酸化膜およびシリコン窒化膜のいずれかからなる単層膜、またはシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との積層膜からなる。保護膜5は、例えば、50〜200nmの膜厚を有する。
反射防止膜2および誘電体膜4は、形成後、窒素(N2)雰囲気中で500〜600℃の温度範囲でアニール処理されてもよい。アニール処理をすることで、より高いパッシベーション性が得られる。
p電極6は、誘電体膜4および保護膜5を貫通してp型不純物拡散層1Aに接して配置される。p電極6は、例えば、銀(Ag)からなる。
n電極7は、パッシベーション膜3、誘電体膜4および保護膜5を貫通してn型不純物拡散層1Bに接して配置される。n電極7は、例えば、Agからなる。
p電極6は、フィンガー部6aとバスバー部6bとを含む。n電極7は、フィンガー部7aとバスバー部7bとを含む。その結果、p電極6およびn電極7は、櫛形形状を有する。そして、p電極6およびn電極7は、p電極6のフィンガー部6aとn電極7のフィンガー部7aとが噛み合うように配置される。
図3から図5は、それぞれ、図1および図2に示す光電変換素子10の製造工程を示す第1から第3の工程図である。
なお、図3から図5においては、説明の便宜上、シリコン基板の裏面にn型不純物拡散層とp型不純物拡散層とを1つずつ形成した工程図を示す。
また、この発明の実施の形態においては、第1拡散マスクとは、シリコン基板の1表面に第1導電型の不純物拡散層をパターニング形成するために使用するマスクとし、第2拡散マスクとは、シリコン基板の1表面に第2導電型の不純物拡散層をパターニング形成するために使用するマスクとする。そして、第1エッチングペーストとは、第1拡散マスクをエッチングするためのペーストであり、第2エッチングペーストとは、第2拡散マスクをエッチングするためのペーストである。
図3を参照して、光電変換素子10の製造が開始されると、n型のシリコン基板100を用意する(図3の工程(a)参照)。ここで、シリコン基板100は、例えば、多結晶シリコンまたは単結晶シリコンなどを用いることができる。
また、シリコン基板100としては、例えば、スライスされることにより生じたスライスダメージを除去したものなどを用いることが好ましく、シリコン基板100の表面をフッ化水素水溶液と硝酸の混酸または水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液などでエッチングを行なう。
次に、n型のシリコン基板100の裏面にシリコン酸化膜などからなるテクスチャマスク20を形成し、シリコン基板100の受光面にテクスチャ構造21を形成する(図3の工程(b)参照)。
例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどのアルカリ水溶液にイソプロピルアルコールを添加した液を、例えば、70℃以上80℃以下に加熱したものなどを用いてエッチングすることにより受光面のテクスチャ構造21を形成することができる。シリコン基板100の裏面にテクスチャマスク20を形成することによって、受光面のみにテクスチャ構造21を形成することができ、裏面を平坦にすることができる。
ここで、例えば、スチーム酸化、常圧CVD(Chemical Vapor Deposition)法またはSiOG(Spin On Glass)(スピンオングラス)の印刷・焼成などによってテクスチャマスク20を形成することができる。テクスチャマスク20の厚さは、特に限定されないが、例えば、300nm以上800nm以下の厚さとすることができる。
テクスチャマスク20は、テクスチャ構造21の形成後に一旦除去する。なお、テクスチャマスク20を除去せずに、そのまま第1拡散マスクとして利用することも可能である。
引き続いて、シリコン基板100の受光面と裏面の全面に、シリコン酸化膜等からなる第1拡散マスク22を形成する(図3の工程(c)参照)。シリコン酸化膜からなる第1拡散マスク22は、例えば、スチーム酸化、常圧CVD法またはSiOG(スピンオングラス)の印刷・焼成などによって形成することができる。シリコン酸化膜からなる第1拡散マスク22の厚さは、特に限定されないが、例えば、100nm以上300nm以下の厚さとすることができる。
そして、シリコン基板100の裏面の第1拡散マスク22上のみに第1エッチングペースト23を、例えば、スクリーン印刷法などによって所望のパターンに印刷する(図3の工程(c)参照)。
第1エッチングペースト23は、エッチング成分としてリン酸もしくはフッ化水素アンモニウムを含み、エッチング成分以外の成分として水、有機溶媒および増粘剤を含み、スクリーン印刷に適した粘度に調整されたものを用いることができる。
この第1エッチングペースト23の印刷後のシリコン基板100を100〜400℃で加熱処理することにより、シリコン基板100の裏面に形成した第1拡散マスク22のうち、第1エッチングペースト23が印刷された部分のみエッチング、除去できる。なお、加熱処理の方法は、特に限定されず、例えば、ホットプレート、ベルト炉またはオーブンを用いて加熱することにより行なうことができる。
加熱処理後は、シリコン基板100を水中に浸し、超音波を印加して超音波洗浄を行なうことによって、加熱処理後の第1エッチングペースト23を除去する。これにより、シリコン基板100の裏面の一部が露出し、窓24が形成される(図3の工程(d)参照)。なお、超音波水洗に加え、シリコン基板100の裏面を一般に知られているSC−1洗浄(RCA Standard Clean−1)、SC−2洗浄(RCA Standard Clean−2)、硫酸と過酸化水素水の混合液による洗浄、薄いフッ化水素水溶液または界面活性剤を含む洗浄液を用いて洗浄することもできる。
なお、第1拡散マスク22としては、シリコン酸化膜以外にも、シリコン窒化膜またはシリコン酸化膜とシリコン窒化膜の積層体などを用いることができる。シリコン窒化膜からなる第1拡散マスクは、例えば、プラズマCVD法または常圧CVD法などで形成することができ、厚さは、特に限定されないが、例えば、40nm以上80nm以下とすることができる。
次に、シリコン基板100に第1導電型不純物としてのp型不純物であるボロンなどを気相拡散することで、シリコン基板100の表面の窓24部分に第1導電型の不純物拡散層としてのp型不純物拡散層1Aを形成する(図3の工程(e)参照)。
その後、シリコン基板100の第1拡散マスク20ならびにボロンが拡散して形成されたBSG(ボロンシリケートガラス)をフッ化水素水溶液などを用いてすべて除去する。なお、p型不純物拡散層1Aは、シリコン基板100の裏面の窓24にボロンを含んだ溶剤を塗布した後に加熱することによって形成してもよい。
次に、図4を参照して、シリコン基板100の受光面と裏面の全面にシリコン酸化膜等からなる第2拡散マスク25を形成する(図4の工程(g)参照)。そして、シリコン基板100の裏面の第2拡散マスク25上のみに、第2エッチングペースト26を所望のパターンに印刷する(図4の工程(h)参照)。
第2エッチングペースト26は、上記の第1エッチングペースト23と同一組成のものを用いることができるし、異なる組成のものであっても良い。第2エッチングペースト26の印刷後のシリコン基板100を100〜400℃で加熱処理することにより、シリコン基板100の裏面の第2拡散マスク25が形成された部分のうち第2エッチングペースト26が印刷された部分をエッチングして除去することができる。加熱処理後、図3の工程(c),(d)において説明した方法と同様に処理し、窓27を形成する(図4の工程(i)参照)。
なお、第2拡散マスク25としては、シリコン酸化膜以外にも、シリコン窒化膜またはシリコン酸化膜とシリコン窒化膜とからなる積層体などを用いることができることは言うまでもない。
次に、シリコン基板100に第2導電型の不純物としてのn型不純物であるリンなどを気相拡散することで、シリコン基板100の表面の窓27部分に第2導電型の不純物拡散層としてのn型不純物拡散層1Bを形成する。その後、シリコン基板100の受光面と裏面の第2拡散マスク25、並びにリンが拡散して形成されたPSG(リンシリケートガラス)をフッ化水素水溶液などを用いてすべて除去する。これによって、シリコン基板1が形成される(図4の工程(j)参照)。
なお、n型不純物拡散層1Bの形成は、シリコン基板100の裏面の窓27にリンを含んだ溶剤を塗布した後に加熱することによって形成してもよい。
次に、シリコン基板1のドライ酸化(熱酸化)を行ない、シリコン基板1の全面にシリコン酸化膜28を形成する(図4の工程(k)参照)。なお、このとき、工程(i)で形成したn型不純物拡散層1Bは、1×1019cm-3以上の不純物濃度を含んでおり、高濃度のn型不純物拡散層1B上のシリコン酸化膜の成長速度は、p型不純物拡散層1Aやシリコン基板1上よりも速いため、n型不純物拡散層1B上のみ、シリコン酸化膜が厚く形成される。
引き続いて、図5を参照して、約2%に調整したフッ酸(HF)水溶液にシリコン基板1を浸漬させる時間を調整することで、厚く形成されたn型不純物拡散層1B上のシリコン酸化膜のみを残し、シリコン基板1全面に形成されたシリコン酸化膜を除去する。これによって、パッシベーション膜3がn型不純物拡散層1B上に形成される(図5の工程(l)参照)。
次に、誘電体膜4として、シリコン基板1の裏面全面に熱ALD(Atomic Layer Deposition)法により、負の固定電荷を有するアルミナ膜を形成する(図5の工程(m)参照)。アルミナ膜の厚さは、例えば、5〜10nmとすることができる。アルミナ膜は、ALD法の他、プラズマCVD法により成膜することもできる。
そして、アルミナ膜の保護膜5として、アルミナ膜上に常圧CVD法によりシリコン酸化膜を形成する(図5の工程(m)参照)。
シリコン酸化膜の厚さは、例えば、50〜200nmとすることができる。また、常圧CVD法の他、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜を形成してもよい。保護膜5は、シリコン酸化膜の他、シリコン窒化膜やシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との積層構造としてもよい。
また、保護膜5を形成後、窒素(N2)雰囲気中で500〜600℃の温度範囲でアニール処理してもよい。アニール処理をすることで、より高いパッシベーション性が得られる。
その後、受光面側のパッシベーション膜兼反射防止膜2として、プラズマCVD法によりシリコン窒化膜を形成する(図5の工程(n)参照)。このとき、シリコン窒化膜の厚さは、70〜90nmとすることができる。
最後に、工程(c),(d)と同様の方法でエッチングペーストを用いてp型不純物拡散層1Aおよびn型不純物拡散層1Bに繋がるコンタクトホールを形成し、コンタクトホールにAgペーストを印刷、焼成する。これによって、光電変換素子10が完成する(図5の工程(o)参照)。
図6〜図8は、それぞれ、図1および図2に示す光電変換素子10の別の製造方法を示す第1から第3の工程図である。
図6を参照して、図3に示す工程(a),(b)と同じ工程を順次実行する(図6の工程(a),(b)参照)。
そして、工程(b)の後、シリコン基板100の受光面と裏面の全面に、シリコン酸化膜等からなる第2拡散マスク29を形成する(図6の工程(c)参照)。
シリコン酸化膜からなる第2拡散マスク29は、例えば、スチーム酸化、常圧CVD法またはSiOG(スピンオングラス)の印刷・焼成などによって形成することができる。シリコン酸化膜からなる第2拡散マスク29の厚さは、特に限定されないが、例えば、100nm以上300nm以下の厚さとすることができる。
そして、シリコン基板100の裏面の第2拡散マスク29上のみに第2エッチングペースト30を、例えば、スクリーン印刷法などによって所望のパターンに印刷する(図6の工程(c)参照)。
第2エッチングペースト30は、エッチング成分としてリン酸もしくはフッ化水素アンモニウムを含み、エッチング成分以外の成分として水、有機溶媒および増粘剤を含み、スクリーン印刷に適した粘度に調整されたものを用いることができる。この第2エッチングペースト30の印刷後のシリコン基板100を100〜400℃で加熱処理することにより、シリコン基板100の裏面に形成した第2拡散マスク29のうち第2エッチングペースト30が印刷された部分のみエッチング、除去できる。なお、加熱処理の方法は、特に限定されず、例えば、ホットプレート、ベルト炉またはオーブンを用いて加熱することにより行なうことができる。
加熱処理後は、シリコン基板100を水中に浸し、超音波を印加して超音波洗浄を行なうことによって、加熱処理後の第2エッチングペースト30を除去する。これにより、シリコン基板100の裏面の一部が露出し、第2拡散マスク29に窓31が形成される(図6の工程(d)参照)。
なお、超音波水洗に加え、シリコン基板100の裏面を一般に知られているSC−1洗浄(RCA Standard Clean−1)、SC−2洗浄(RCA Standard Clean−2)、硫酸と過酸化水素水の混合液による洗浄、薄いフッ化水素水溶液または界面活性剤を含む洗浄液を用いて洗浄することもできる。
また、第2拡散マスク29としては、シリコン酸化膜以外にも、シリコン窒化膜またはシリコン酸化膜とシリコン窒化膜の積層体などを用いることができる。シリコン窒化膜からなる第2拡散マスク29は、例えば、プラズマCVD法または常圧CVD法などで形成することができ、厚さは、特に限定されないが、例えば、40nm以上80nm以下とすることができる。
次に、シリコン基板100に第2導電型の不純物としてのn型不純物であるリンなどを気相拡散することで、シリコン基板100の表面の窓31部分にn型不純物拡散層1Bを形成する。その後、シリコン基板100の第2拡散マスク29、並びにリンが拡散して形成されたPSGをフッ化水素水溶液などを用いてすべて除去する(図6の工程(e)参照)。なお、n型不純物拡散層1Bは、シリコン基板100の裏面の窓31にリンを含んだ溶剤を塗布した後に加熱することによって形成してもよい。
次に、図7を参照して、シリコン基板100のドライ酸化(熱酸化)を行ない、シリコン基板100の全面にシリコン酸化膜32を形成する(図7の工程(f)参照)。なお、より厚くシリコン酸化膜32を形成するために、スチーム酸化を行ってもよい。
なお、このとき、工程(e)において形成したn型不純物拡散層1Bは、1×1019cm-3以上の不純物濃度を含んでおり、p型不純物拡散層1Aやシリコン基板100よりも、シリコン酸化膜の成長速度が速いため、n型不純物拡散層1B上のみ、シリコン酸化膜32が厚く形成される。
工程(f)の後、約2%に調整したHF水溶液にシリコン基板を浸漬させる時間を調整することで、厚く形成されたn型不純物拡散層1B上のシリコン酸化膜を残し、シリコン基板100の裏面に形成されたシリコン酸化膜を除去する。これにより、パッシベーション膜3が形成される(図7の工程(g)参照)。
このとき、受光面側のシリコン酸化膜は、単結晶シリコンであれば、111面と100面とのシリコン酸化膜の成長速度の差を利用して、HF水溶液への浸漬時間を調整することでn型不純物拡散層1B上と同様にシリコン酸化膜を残してもよいし、単結晶シリコン、多結晶シリコンに関わらず、一旦、受光面を含めn型不純物拡散層1B上以外のシリコン酸化膜を除去し、その後、常圧CVD法などにより受光面のみシリコン酸化膜を形成してもよい。このシリコン酸化膜は、次の工程で第1拡散マスクとして機能する。
次に、シリコン基板100の裏面に第1導電型の不純物としてのp型不純物であるボロンなどを気相拡散することで、n型不純物拡散層1Bに隣接して第1導電型の不純物拡散層としてのp型不純物拡散層1Aを形成する。これにより、シリコン基板1が形成される(図7の工程(h)参照)。なお、p型不純物拡散層1Aは、シリコン基板100の裏面にボロンを含んだ溶剤を塗布した後に加熱することによって形成してもよい。
その後、約2%に調整したHF水溶液にシリコン基板を浸漬させる時間を調整することで、厚く形成されたn型不純物拡散層1B上のシリコン酸化膜を残し、シリコン基板1の受光面に形成されたシリコン酸化膜32およびBSG膜33を除去する(図7の工程(i)参照)。
引き続いて、図5に示す工程(m)〜工程(o)と同じ工程を実行することによって光電変換素子10が完成する(図8の工程(j)〜工程(l)参照)。
図9は、この発明の実施の形態による別の光電変換素子の断面図である。この発明の実施の形態による光電変換素子は、図9に示す光電変換素子10Aであってもよい。
図9を参照して、光電変換素子10Aは、図1および図2に示す光電変換素子10のシリコン基板1をシリコン基板101に代えたものであり、その他は、光電変換素子10と同じである。
シリコン基板101は、図2に示すシリコン基板1にn型不純物拡散層1Cを追加したものであり、その他は、シリコン基板1と同じである。
n型不純物拡散層1Cは、シリコン基板1の受光面(テクスチャ構造が形成された表面)に配置される。n型不純物拡散層1Cは、例えば、1×1019cm-3以上の不純物濃度を有する。そして、n型不純物拡散層1Cは、FSF(Front Surface Field)層として機能する。
図10から図12は、それぞれ、図9に示す光電変換素子10Aの製造方法を示す第1から第3の工程図である。
図10を参照して、光電変換素子10Aの製造が開始されると、図6の工程(a),(b)と同じ工程が順次実行される(図10の工程(a),(b)参照)。
そして、図10の工程(b)の後、シリコン基板100の裏面の全面に、シリコン酸化膜等からなる第2拡散マスク29を形成する(図10の工程(c)参照)。
シリコン酸化膜からなる第2拡散マスク29は、例えば、常圧CVD法またはSiOG(スピンオングラス)の印刷・焼成などによって形成することができる。シリコン酸化膜からなる第2拡散マスク29の厚さは、特に限定されないが、例えば、100nm以上300nm以下の厚さとすることができる。
第2拡散マスク29の形成後、シリコン基板100の裏面の第2拡散マスク29上のみに第2エッチングペースト30を、例えば、スクリーン印刷法などによって所望のパターンに印刷する(図10の工程(c)参照)。
そして、第2エッチングペースト30の印刷後のシリコン基板100を100〜400℃で加熱処理することにより、シリコン基板100の裏面に形成した第2拡散マスク29のうち第2エッチングペースト30が印刷された部分のみエッチング、除去できる。なお、加熱処理の方法は、特に限定されず、例えば、ホットプレート、ベルト炉またはオーブンを用いて加熱することにより行なうことができる。
加熱処理後は、シリコン基板100を水中に浸し、超音波を印加して超音波洗浄を行なうことによって、加熱処理後の第2エッチングペースト30を除去する。これにより、シリコン基板100の裏面の一部が露出し、第2拡散マスク29に窓31が形成される(図10の工程(d)参照)。
なお、超音波水洗に加え、シリコン基板100の裏面を一般に知られているSC−1洗浄(RCA Standard Clean−1)、SC−2洗浄(RCA Standard Clean−2)、硫酸と過酸化水素水の混合液による洗浄、薄いフッ化水素水溶液または界面活性剤を含む洗浄液を用いて洗浄することもできる。
また、第2拡散マスク29としては、シリコン酸化膜以外にも、シリコン窒化膜またはシリコン酸化膜とシリコン窒化膜の積層体などを用いることができる。シリコン窒化膜からなる第2拡散マスク29は、例えば、プラズマCVD法または常圧CVD法などで形成することができ、厚さは、特に限定されないが、例えば、40nm以上80nm以下とすることができる。
次に、シリコン基板100に第2導電型の不純物としてのn型不純物であるリンなどを気相拡散することで、シリコン基板100の裏面の窓31部分にn型不純物拡散層1Bを形成するとともに、シリコン基板100の受光面側にn型不純物拡散層1Cを形成する。その後、シリコン基板100の第2拡散マスク29、並びにリンが拡散して形成されたPSGをフッ化水素水溶液などを用いてすべて除去する(図10の工程(e)参照)。なお、n型不純物拡散層1Bおよびn型不純物拡散層1Cは、シリコン基板100の受光面の全面と裏面の窓31とにリンを含んだ溶剤を塗布した後に加熱することによって形成してもよい。
次に、図11を参照して、シリコン基板100のドライ酸化(熱酸化)を行ない、シリコン基板100の全面にシリコン酸化膜32を形成する(図11の工程(f)参照)。なお、より厚くシリコン酸化膜32を形成するために、スチーム酸化を行ってもよい。
なお、このとき、工程(e)において形成したn型不純物拡散層1B,1Cは、1×1019cm-3以上の不純物濃度を含んでおり、p型不純物拡散層1Aやシリコン基板100よりも、シリコン酸化膜の成長速度が速いため、n型不純物拡散層1B、1C上のみ、シリコン酸化膜32が厚く形成される。
工程(f)の後、約2%に調整したHF水溶液にシリコン基板を浸漬させる時間を調整することで、厚く形成されたn型不純物拡散層1B,1C上のシリコン酸化膜を残し、シリコン基板100の裏面に形成されたシリコン酸化膜を除去する。これにより、パッシベーション膜3兼第1拡散マスクが形成される(図11の工程(g)参照)。
次に、シリコン基板100の裏面に第1導電型の不純物としてのp型不純物であるボロンなどを気相拡散することで、n型不純物拡散層1Bに隣接して第1導電型の不純物拡散層としてのp型不純物拡散層1Aを形成する。これにより、シリコン基板101が形成される(図11の工程(h)参照)。なお、p型不純物拡散層1Aは、シリコン基板101の裏面にボロンを含んだ溶剤を塗布した後に加熱することによって形成してもよい。
その後、約2%に調整したHF水溶液にシリコン基板を浸漬させる時間を調整することで、厚く形成されたn型不純物拡散層1Bおよび受光面のn型不純物拡散層1C上のシリコン酸化膜を残し、BSG膜33を除去する(図11の工程(i)参照)。
次に、誘電体膜4として、シリコン基板101の裏面全面に熱ALD(Atomic Layer Deposition)法により、負の固定電荷を有するアルミナ膜を形成する(図12の工程(j)参照)。アルミナ膜の厚さは、例えば、5〜10nmとすることができる。アルミナ膜は、ALD法の他、プラズマCVD法により成膜することもできる。
そして、アルミナ膜の保護膜5として、アルミナ膜上に常圧CVD法によりシリコン酸化膜を形成する(図12の工程(j)参照)。
シリコン酸化膜の厚さは、例えば、100〜400nmとすることができる。また、常圧CVD法の他、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜を形成してもよい。保護膜5は、シリコン酸化膜の他、シリコン窒化膜やシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との積層構造としてもよい。
また、アルミナ膜を形成する前に、P+層のパッシベーション性を改善するため、P+層上に5nm以下となるよう薄いシリコン酸化膜をドライ酸化(熱酸化)などにより形成してもよい。
更に、保護膜を形成後、窒素(N2)雰囲気中で500〜600℃の温度範囲でアニール処理してもよい。アニール処理をすることで、より高いパッシベーション性が得られる。
その後、約2%に調整したHF水溶液にシリコン基板を浸漬させる時間を調整することで、保護膜5を残しつつ、受光面側に形成されたシリコン酸化膜32を除去する(図12の工程(k)参照)。そして、受光面側のパッシベーション膜兼反射防止膜2として、プラズマCVD法によりシリコン窒化膜を形成する(図12の工程(l)参照)。このとき、シリコン窒化膜の厚さは、70〜90nmとすることができる。
引き続いて、図5に示す工程(o)と同じ工程を実行することによって光電変換素子10Aが完成する(図12の工程(m)参照)。
図10〜図12の工程図によれば、図6〜図8の工程図に比べ、工程数は増える傾向だが、FSFやP+層上のシリコン酸化膜の効果により、更に高い光電変換効率が得られる。
[実験]
図6から図8に示す工程(a)〜工程(l)のうち、工程(i)において、n型不純物拡散層1B上のパッシベーション膜3も除去する条件を比較条件とし、シリコン基板1をHF水溶液に浸漬する時間を変えることによってパッシベーション膜3の膜厚を変えた条件を条件1,条件2とした実験を行った。
図13は、実験結果を示す図である。なお、図13において、比較条件で製造した光電変換素子の特性を"1.000"とし、条件1および条件2で製造した光電変換素子の特性を比較条件で製造した光電変換素子の特性で規格化して示す。
図13を参照して、条件1で製造した光電変換素子の特性は、比較条件で製造した光電変換素子の特性と殆ど同じである。
一方、条件2で製造した光電変換素子の特性は、比較条件で製造した光電変換素子の特性と比較して、JscおよびVocが改善され、その結果、変換効率ηが0.5%向上した。
従って、n型不純物拡散層1B上に負の固定電荷を有する誘電体膜4が配置されている場合、n型不純物拡散層1Bと誘電体膜4との間に配置されたパッシベーション膜3(シリコン酸化膜)の膜厚を10nm以上に設定することによって、負の固定電荷の影響を抑制できることが確認された。
図14は、図13に示す変換効率とn型不純物拡散層1B上のシリコン酸化膜の膜厚との関係を示す図である。
図14において、縦軸は、変換効率を表し、横軸は、n型不純物拡散層1B上のシリコン酸化膜の膜厚を示す。
図14を参照して、変換効率は、シリコン酸化膜の膜厚が増加するに伴って向上する。そして、シリコン酸化膜の膜厚が5〜12nmの範囲における変換効率の増加割合は、シリコン酸化膜の膜厚が5nmまでの範囲における変換効率の増加割合よりも2.5倍以上大きい。
即ち、変換効率の増加割合は、シリコン酸化膜の膜厚が5nm以上になると急激に大きくなる。
従って、シリコン酸化膜の5nmの膜厚は、変換効率の増加に対する変曲点であり、シリコン酸化膜の膜厚を5nm以上に設定することは、変換効率を向上させるための臨界的意義を有する。
このようにシリコン酸化膜の5nmの膜厚は、変換効率を向上させるための臨界的意義を有するので、n型不純物拡散層1B上のシリコン酸化膜の膜厚を5nm以上に設定することによって、n型不純物拡散層1B上に存在する負の固定電荷の影響を抑制して変換効率を向上できる。
従って、この発明の実施の形態による光電変換素子は、5nm以上の膜厚を有するシリコン酸化膜をn型不純物拡散層1B上に形成した構造を有する。
上述したように、この発明の実施の形態においては、p型不純物拡散層1Aに対してパッシベーション効果が高い負の固定電荷を有する誘電体膜4を形成する。これは、n型シリコン基板を使用した場合、pn接合を形成するp型不純物拡散層1Aの面積を大きくする傾向があるためである。
一方、n型不純物拡散層に対しては、パッシベーション膜としてシリコン酸化膜を形成する。これは、次の理由による。
p型不純物拡散層と同様に電界効果を期待して、n型不純物拡散層に対しても、正の固定電荷を有する膜を使用することもできるが、パッシベーション膜のパターンニング精度等の問題でp型不純物拡散層上の一部に正の固定電荷を有する膜が形成されてしまうと、p型不純物拡散層へ悪影響を与える虞があるためである。
また、n型不純物拡散層上にシリコン酸化膜を形成し、p型不純物拡散層に負の固定電荷を有する膜のみを形成すればよいが、生産性や製造コストを考慮した場合、シリコン酸化膜と負の固定電荷を有する膜が重ならないように形成することは困難であり、例えば、シリコン酸化膜を形成した後、負の固定電荷を有する膜を形成する場合、シリコン酸化膜上の負の固定電荷を有する膜をパターンエッチングしたとしてもパターニング精度の問題で、必ず、境界部分の少なくとも一部分は、シリコン酸化膜上に負の固定電荷を有する膜が残る。もし、重ならないようにシリコン酸化膜よりも広くエッチングした場合は、p型不純物拡散層上にパッシベーション膜が形成されない部分が発生してしまい、光電変換効率を低下させてしまう。そのため、生産性、製造コストを考慮した場合、n型不純物拡散層上のシリコン酸化膜上も含め、光電変換素子の全面に負の固定電荷を有する膜を形成することが好ましい。
その場合、特許文献2に記載のように負の固定電荷の影響を受けるが、上述したように、n型不純物拡散層1B上のシリコン酸化膜の膜厚を5nm以上に設定することによって、負の固定電荷の影響を抑制して変換効率を向上できる。
従って、p型不純物拡散層へのパッシベーション性が高い負の固定電荷を有する膜をp型不純物拡散層上およびn型不純物拡散層上のシリコン酸化膜上に形成することで高い光電変換効率の光電変換素子が得られる。
なお、上記においては、シリコン基板1,101は、n型単結晶シリコンまたはn型多結晶シリコンからなると説明したが、この発明の実施の形態においては、これに限らず、シリコン基板1,101は、p型単結晶シリコンまたはp型多結晶シリコンからなっていてもよい。
また、上記においては、光電変換素子10,10Aは、保護膜5を備えると説明したが、この発明の実施の形態においては、これに限らず、光電変換素子10,10Aは、保護膜5を備えていなくてもよい。
上述した実施の形態によれば、光電変換素子は、次の構成を有する。
(構成1)
この発明の実施の形態によれば、光電変換素子は、シリコン基板と、第1の不純物拡散層と、第2の不純物拡散層と、シリコン酸化膜と、誘電体膜とを備える。n型不純物拡散層は、シリコン基板の少なくとも一方の面に形成される。p型不純物拡散層は、シリコン基板の一方の面に形成されるとともにシリコン基板の面内方向においてn型不純物拡散層と交互に配置される。シリコン酸化膜は、n型不純物拡散層上に形成される。誘電体膜は、p型不純物拡散層およびシリコン酸化膜上に形成され、負の固定電荷を有する。そして、シリコン酸化膜は、5nm以上の膜厚を有する。
この発明の実施の形態による光電変換素子においては、n型不純物拡散層上に形成されるシリコン酸化膜は、5nm以上の膜厚を有する。その結果、シリコン酸化膜上に負の固定電荷を有する誘電体膜が形成されていても、光電変換素子は、負の固定電界の影響を抑制して変換効率が大きく向上する。また、誘電体膜は、p型不純物拡散層およびシリコン酸化膜上に形成されるので、誘電体膜を1つの工程で形成できる。
従って、生産コストを抑えるとともに、n型不純物拡散層上に存在する負の固定電荷の影響を抑制できる。
(構成2)
構成1において、シリコン酸化膜は、10nm以上の膜厚を有する。
シリコン酸化膜の膜厚が10nm以上になれば、n型不純物拡散層上に存在する負の固定電荷の影響が更に抑制される。
従って、光電変換素子の変換効率を更に向上できる。
(構成3)
構成1または構成2において、光電変換素子は、保護膜を更に備える。保護膜は、誘電体膜上に形成され、誘電体膜と異なる組成を有する。
光電変換素子の製造過程において、誘電体膜に傷が付き、パッシベーション性が損なわれる虞があるため、保護膜を形成することによって、誘電体膜を保護し、パッシベーション性が損なわれるのを防止できる。
(構成4)
構成3において、保護膜は、シリコン酸化膜およびシリコン窒化膜の少なくとも1つを含む。容易に保護膜を形成できる。
(構成5)
構成1から構成4のいずれかにおいて、n型不純物拡散層の表面側の不純物濃度は、1×1019cm−3以上である。
シリコン基板およびp型不純物拡散層上よりも厚いシリコン酸化膜をn型不純物拡散層上に形成でき、n型不純物拡散層上に形成されたシリコン酸化膜を残して、シリコン基板およびp型不純物拡散層上に形成されたシリコン酸化膜を除去できる。
その結果、より少ない工程数でn型不純物拡散層上のみにシリコン酸化膜を形成できる。
(構成6)
構成1から構成5のいずれかにおいて、誘電体膜は、アルミナである。
負の固定電荷を有する高品質な誘電体膜を形成でき、電界効果によるパッシベーション性を向上できる。
(構成7)
構成1から構成6のいずれかにおいて、光電変換素子は、p型不純物拡散層と誘電体膜との間に配置された他のシリコン酸化膜を更に備える。
構成7によれば、他のシリコン酸化膜をp型不純物拡散層上に形成することによって、p型不純物拡散層のパッシベーション性を改善できる。
(構成8)
構成1から構成7のいずれかにおいて、光電変換素子は、シリコン基板の一方の面と反対側の面に形成された他のn型不純物拡散層を更に備える。
構成8によれば、他のn型不純物拡散層は、FSF層として機能し、シリコン基板の受光面側でのキャリアの再結合を抑制できる。従って、光電変換素子の変換効率を向上できる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。