[液晶性ポリエステル樹脂]
液晶性ポリエステル樹脂とは、異方性溶融相を形成する樹脂であり、例えば、液晶性ポリエステルや液晶性ポリエステルアミドなどエステル結合を有する液晶性ポリエステル樹脂が挙げられる。
液晶性ポリエステル樹脂の具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、ヒドロキノンから生成した構造単位およびテレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、ヒドロキノンから生成した構造単位およびテレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位およびテレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、ヒドロキノンから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、2,6−ナフタレンジカルボン酸から生成した構造単位およびテレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの中でも好ましい組み合わせとして、p−ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびテレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂が例示される。
ヒドロキノン、p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、テレフタル酸およびイソフタル酸以外に用いるモノマーとして、芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が挙げられ、芳香族ジカルボン酸としては、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸などが、それぞれ挙げられる。芳香族ジオールとしては、例えばレゾルシノール、t−ブチルヒドロキノン、フェニルヒドロキノン、クロロヒドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどが挙げられる。アミノ基を有するモノマーとしては、p−アミノ安息香酸、p−アミノフェノールなどが挙げられる。
異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル樹脂の好ましい例としては、下記(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)の構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂が挙げられる。
上記構造単位(I)はp−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位を、構造単位(II)は4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位を、構造単位(III)はヒドロキノンから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸から生成した構造単位を、構造単位(V)はイソフタル酸から生成した構造単位を各々示す。
以下、この液晶性ポリエステル樹脂を例に挙げて説明する。
液晶ポリエステル樹脂組成物中における上記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)の共重合量は任意である。しかし、液晶性ポリエステル樹脂の特性を発揮させるためには次の共重合量であることが好ましい。構造単位(I)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65〜80モル%であることが好ましい。より好ましくは68〜78モル%である。構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して55〜85モル%であることが好ましい。より好ましくは55〜78モル%であり、最も好ましくは58〜73モル%である。構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して50〜95モル%であることが好ましい。より好ましくは55〜90モル%であり、最も好ましくは60〜85モル%である。
構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計とは実質的に等モルである。ここでいう「実質的に等モル」とは、末端を除くポリマー主鎖を構成する構造単位が等モルであることを示す。このため、末端を構成する構造単位まで含めた場合には必ずしも等モルとはならない態様も、「実質的に等モル」の要件を満たしうる。
特に、ヒドロキノンから生成した上記構造単位(III)を含む場合には、ヒドロキノンによって均質な反応液を得るのに時間がかかったり、ヒドロキノンの泡立ちや昇華によって組成ズレが起こり易かったりするため、本発明が特に効果を発揮することができる。
上記好ましく用いられる液晶性ポリエステル樹脂は、上記構造単位(I)〜(V)を構成する成分以外に、3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロロハイドロキノン、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,4’−ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族ジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族、脂環式ジオールおよびm−ヒドロキシ安息香酸、ポリエチレンテレフタレートなどを、液晶性や特性を損なわない程度の範囲でさらに共重合させることもできる。
例えば、上記液晶性ポリエステル樹脂の製造において、次の製造方法が好ましく挙げられる。なお下記の製造方法は、p−ヒドロキシ安息香酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ヒドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸からなる液晶性ポリエステル樹脂の合成を例にとり説明したものであるが、共重合組成としてはこれらに限定されるものではなく、それぞれをポリエチレンテレフタレート、その他のヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオールまたは芳香族ジカルボン酸に置き換え、下記の方法に準じて製造することができる。
本発明の実施形態において、液晶性ポリエステル樹脂における各構造単位の含有量は、以下の処理によって算出することができる。すなわち、液晶性ポリエステルをNMR(核磁気共鳴)試験管に量りとり、液晶性ポリエステルが可溶な溶媒(例えば、ペンタフルオロフェノール/重テトラクロロエタン−d2混合溶媒)に溶解して、1H−NMRスペクトル測定を行う。各構造単位の含有量は、各構造単位由来のピーク面積比から算出することができる。
[液晶性ポリエステル樹脂の製造方法]
以下、本発明の液晶性ポリエステル樹脂の製造方法について詳述する。
本発明の液晶性ポリエステル樹脂の製造においては、まず、所定量のモノマー混合物と無水酢酸をアセチル化反応槽に仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら加熱し、還流しながら水酸基をアセチル化させる。次いでオリゴマー化反応では、留出管へと切り替えて酢酸を留出させながら所定の温度まで昇温を行い、規定量まで酢酸を留出させる。次いで、反応液を重縮合反応槽に移液し、引き続きオリゴマー化反応を行い、重縮合反応槽を減圧しながら脱酢酸重縮合反応を行い、規定の撹拌トルクに到達すれば、脱酢酸重縮合反応を終了させる。脱酢酸重縮合反応が終了すれば、撹拌を停止し、重縮合反応槽を窒素などの不活性ガスで加圧し、重縮合反応槽底部から口金を経由してストランド状にし、カッティング装置にてペレット化する。
本発明の液晶性ポリエステル樹脂の製造においては、バッチ式連続重合法によって行うことが好ましい。ここでいうバッチ式連続重合法とは、前記に示すように、1バッチ分の所定量のモノマー混合物と無水酢酸をアセチル化反応槽に仕込み、所定の反応が終了すれば、重縮合反応槽に移液し、所定の反応が終了すれば、ペレット化を行いながらポリマーを排出し、2バッチ目も前記と同様に、1バッチ分の所定量のモノマー混合物と無水酢酸をアセチル化反応槽に仕込み、所定の反応を行うことである。なお、アセチル化反応槽の反応液を複数回に分けて重縮合反応槽に移液する方法や、アセチル化反応槽に一定量の反応液を残した状態で次バッチの所定量のモノマー混合物や無水酢酸を仕込む方法も、バッチ式連続重合法に含まれる。
本発明で使用する液晶性ポリエステル樹脂の製造装置は、アセチル化反応槽と重縮合反応槽の2槽を少なくとも有する。そして、第1槽目のアセチル化反応槽でアセチル化反応とオリゴマー化反応を行い、第2槽目の重縮合反応槽でオリゴマー化反応と脱酢酸重縮合反応を行う。アセチル化反応槽としては、例えば、原料投入口、撹拌翼、精留塔、留出管、還流管、凝縮器、留出酢酸容器、加熱体を備えた槽を用いることができる。重縮合反応槽としては、例えば、撹拌翼、留出管、凝縮器、留出酢酸容器、加熱体、減圧装置、底部に吐出口を備えた槽を用いることができる。さらに、アセチル化反応槽から重縮合反応槽へ反応液を移液させる移液ラインを有する。
[アセチル化反応槽におけるアセチル化反応およびオリゴマー化反応]
アセチル化反応槽におけるアセチル化反応およびオリゴマー化反応において、無水酢酸の使用量は、用いる液晶性ポリエステル樹脂原料中のフェノール性水酸基の合計の1.00〜1.20モル当量であることが好ましい。より好ましくは1.03〜1.16モル当量である。
アセチル化反応は、反応液を125℃以上150℃以下の温度で還流しながら、芳香族ジオールのモノアセチル化物の残存量が特定範囲となるまで反応を行うことが好ましい。アセチル化反応の装置としては、例えば、原料投入口、撹拌翼、精留塔、留出管、還流管、凝縮器、留出酢酸容器、加熱体を備えた反応装置を用いることができる。アセチル化の反応時間としては大まかには1〜5時間程度であるが、芳香族ジオールのモノアセチル化物の残存量が特定範囲となるまでの時間は、用いる液晶性ポリエステル樹脂原料や、反応温度によっても異なる。好ましくは、1.0〜2.5時間であり、反応温度が高い程短時間で反応が進行し、無水酢酸のフェノール性水酸基末端に対するモル比が大きい程短時間で行えるため好ましい。
次いで、オリゴマー化反応において、酢酸を留出させながら所定の温度まで昇温を行う際には、精留塔の塔頂温度を115℃〜150℃の範囲で行うことが好ましい。より好ましくは130℃〜145℃の範囲である。塔頂温度が低すぎると、未反応の無水酢酸が系内に多く残ってしまい、ポリマーの着色の原因や加熱滞留時のガス量の増加となる恐れがある。また、塔頂温度を150℃以下とすることで、モノマー類が系外に留出してしまい、組成ズレが起こったり、重合速度が低下することを抑制することができる。この場合、留出する酢酸中には、過剰な無水酢酸やモノマー類が含まれるが、酢酸中の無水酢酸を除いたモノマー類の質量%は1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
さらに、均質な液晶性ポリエステル樹脂を得るためには、アセチル化反応槽における、オリゴマー化反応中における酢酸留出速度の関係が重要であり、下記式(1)で表される酢酸留出速度が2.5%/10分以下になるまでオリゴマー化反応を続け、アセチル化反応槽中の反応液の温度が260℃〜275℃の範囲で重縮合反応槽に移液することが好ましく、より好ましくは、酢酸留出速度が2.0%/10分以下である。酢酸留出速度2.5%/10分以下で移液することで、移液の際に局部的な重縮合反応の進行を抑えることができ、分子量の低いモノマーの飛散を抑えられ、組成ズレの少ない良好な液晶性ポリエステル樹脂を得ることができるため好ましい。酢酸留出速度は小さいほど好ましく、最も好ましくは、酢酸留出速度が0.1%/10分以上1.8%/10分以下である。一方、2.5%/10分を超える場合には、酢酸の時間単位の留出量が多いため、重縮合反応槽の液面上昇が起こりやすくなったり、留出する酢酸と一緒にモノマー類やオリゴマー類も飛散してしまい、組成ズレが起こりやすくなる。
式(1):酢酸留出速度(%/10分)=10分間に留出した酢酸液量(g)/[〔無水酢酸仕込みモル数−原料モノマー中の水酸基のモル数〕×無水酢酸分子量+原料モノマー中の水酸基のモル数×2×酢酸分子量+原料モノマー中のアセチル基のモル数×酢酸分子量](g)×100(%)。
ここでいう10分間に留出した酢酸液量とは、留出した酢酸の他、過剰な無水酢酸やモノマー類を含んだ液量のことであり、アセチル化反応槽の留出酢酸容器に留出した酢酸液量を常時測定していき、アセチル化反応槽での反応の終了点前10分間に留出した酢酸液量のことをいい、上記式(1)で求めた酢酸留出速度を、アセチル化反応槽における最終酢酸留出速度とする。
また、下記式(2)で表される酢酸留出率が85%以上とした後で重縮合反応槽に移液した場合、残留するジカルボン酸の反応も促進され、均質な反応液となり、移液ラインに目開き0.5mm以下のフィルターを設けた場合に、異物の少ない良好な品質のポリマーを得る条件として好ましく用いることができる。
式(2):酢酸留出率(%)=留出した酢酸液量(g)/[〔無水酢酸仕込みモル数−原料モノマー中の水酸基のモル数〕×無水酢酸分子量+原料モノマー中の水酸基のモル数×2×酢酸分子量+原料モノマー中のアセチル基のモル数×酢酸分子量](g)×100(%)。
ここでいう留出した酢酸液量とは、留出した酢酸の他、過剰な無水酢酸やモノマー類を含んだ液量のことである。
なお、本願において、アセチル化反応槽でのオリゴマー化反応の開始とは、アセチル化反応が終了して酢酸の留出が始まる時点をいい、アセチル化反応槽での終了点とは、留出管のバルブを閉止して酢酸の留出が終了した時点をいう。
[アセチル化反応槽から重縮合反応槽への反応液の移液工程]
アセチル化反応槽から重縮合反応槽への反応液の移液は、それぞれの反応槽を連結した移液ラインを経由して行う。移液ラインは、内部を通過する反応液の異物を捕集するためフィルターを設けていてもよく、反応液を加熱するため加熱体を有していてもよい。加熱体の設置位置や種類は特に制限がなく、移液ラインの内壁面に取り付けても壁の内側に埋め込んでも、移液ラインの外壁面に取り付けて内壁面を間接的に加熱しても良い。加熱体の種類としては、コイルやジャケット、帯状の発熱体で覆って加熱する方法などが例示できる。これらの中でも、加熱範囲を均一な温度で加熱できる点で、外壁面にジャケットを取り付ける方法が好ましい。加熱体の発熱方法としては、コイルやジャケット内にベーパーまたは液状の熱媒を循環させる方法や、電熱線で加熱体を加熱する方法などが用いられる。好ましくは、ベーパーまたは液状の熱媒を循環させる方法であり、さらに好ましくは、ジャケット内に液状の熱媒をポンプにて循環させる方法であり、この方法だと安定して温度を制御できる。加熱体の温度とは、加熱体として熱媒循環ラインをジャケットとして使用する場合、コイルやジャケット部への入口に取り付けられた温度計によって測定した熱媒の温度である。移液する際の移液ラインの加熱体の温度は、アセチル化反応槽中における反応液の温度に対して−20〜+10℃の範囲としてから移液を行うことが好ましい。より好ましくは−15〜+8℃の範囲である。+10℃以下であると、移液中に重合が進行して副生酢酸により反応液の液面上昇が起こることを抑制できる。一方、−20℃以上であると、移液した際に、反応液の温度が反応液の融点や凝固点に近い温度まで低下してしまうことがない。
重縮合反応槽の装置としては、例えば、撹拌翼、留出管、凝縮器、留出酢酸容器、加熱体、減圧装置、底部に吐出口を備えた反応装置を用いることができる。加熱体の設置位置や種類は特に制限がなく、重縮合反応槽の内壁面に取り付けても壁の内側に埋め込んでも、外壁面に取り付けて内壁面を間接的に加熱しても良い。加熱体の種類としては、コイルやジャケット、帯状の発熱体で覆って加熱する方法などが例示できる。これらの中でも、加熱範囲を均一な温度で加熱できる点で、外壁面にジャケットを取り付ける方法が好ましい。加熱体の発熱方法としては、コイルやジャケット内にベーパーまたは液状の熱媒を循環させる方法や、電熱線で加熱体を加熱する方法などが用いられる。好ましくは、ベーパーまたは液状の熱媒を循環させる方法であり、さらに好ましくは、ジャケット内に液状の熱媒をポンプにて循環させる方法であり、この方法だと安定して温度を制御できる。ここでいう重縮合反応槽の加熱体は、反応液が接する面に配されている加熱体のことをいい、加熱体が高さ方向に複数に分かれていても良い。複数に分かれている場合は、反応液に接している面に配されている加熱体の中で最も反応槽底部側に位置する加熱体のことを示す。加熱体の温度は、加熱体として熱媒循環ラインをコイルやジャケットとして使用する場合は、コイルやジャケット部への入口に取り付けられた温度計によって測定した熱媒の温度である。
アセチル化反応槽から重縮合反応槽へ反応液を移液させる方法は特に制限がないが、アセチル化反応槽と重縮合反応槽の高低差によって自然落下させる方法や、アセチル化反応槽を密閉系とし、窒素などの不活性ガスで加圧して移液する方法が挙げられるが、移液時間を短縮でき、液晶性ポリエステル樹脂の品質を悪化させない点でも、不活性ガス等で加圧して移液する方法が好ましい。また、移液ラインにフィルターを設けた場合には、フィルター目に異物が捕集されてくると圧損となり、自然落下では移液に長時間を要するため、アセチル化槽を密閉系とし、アセチル化反応槽を窒素などの不活性ガスで加圧し、圧送する方法が好ましい。
移液を行う前の重縮合反応槽の待機方法としては、内温や加熱体の温度を所定の温度としておき、アセチル化反応槽から移液した分の体積を系外に解放できるようにしておき、留出管や凝縮器経由で系外に解放する方法が好ましい。この方法だと、移液中に留出する酢酸を高収率で留出酢酸容器に回収できる。また、反応液の移液中、重縮合反応槽の撹拌翼は運転していても停止していても良いが、撹拌軸が中心軸から壁面方向に太軸の固定棒があるような構造の場合、アセチル化反応槽からの反応液が撹拌翼に付着したり飛散したりする可能性があるため、撹拌翼を停止して移液を行うことが好ましい。
本発明の製造方法は、アセチル化反応槽から重縮合反応槽に移液する際に、重縮合反応槽の内温を、アセチル化反応槽における反応液の温度に対して−30〜−3℃の範囲としてから移液を開始することが必要である。より好ましくは−20℃〜−4℃の範囲である。−3℃より高いと、移液中に重合が進行して副生酢酸により反応液の液面上昇が起こったり、融点の低いモノマー類や分子量の低いオリゴマー類が系外に飛散し易くなる。このように、反応液の液面上昇が起こると、気相部に反応液が付着し、熱履歴を受けることによって高融点化し、連続バッチ数を重ねるごとに付着量が増加していく。更に、ある一定のバッチ数になったところで付着物が落下し、ペレット中に高融点異物となって混入したり、口金部が異物で閉塞してポリマーの吐出が不能となる。また、液面上昇が起こると、融点の低いモノマー類や分子量の低いオリゴマー類が系外に飛散してしまい、組成ズレが起こったり、収率が低下したり、重合速度が低下する恐れがある。更に、長時間の熱履歴を受けたことによってポリマーの耐熱性が低下したり、ポリマーの色調が悪化してしまう。一方、−30℃より低いと、移液した際に、反応液の温度が反応液の融点や凝固点に近い温度まで低下してしまう可能性があり、反応液の粘度が上昇したり、部分的に固化したり、移液後の昇温に長時間を要してしまう。ここでいうアセチル化反応槽中における反応液の温度は、アセチル化反応槽の反応液部分の内壁に取り付けられた温度素子で測定した温度をいい、温度素子が反応液に接触していない場合はアセチル化反応槽の内温のことをいう。また、重縮合反応槽の内温は、重縮合反応中に反応液に接触している内壁の位置に取り付けられた温度素子で測定した温度をいい、移液開始前の時点は前のバッチの残留ポリマーに浸かっていても浸かっていなくてもよいが、正確な液温を測定できる点で残留ポリマーに浸かっていないほうが好ましい。前記に示す重縮合反応槽の内温で移液を開始した後、移液中の重縮合反応槽の内温は反応液の移液に伴って反応液に近い温度に変化していくが、移液中は上限の(反応液の温度−3℃)より高くなってもよい。
移液する際の重縮合反応槽の加熱体の温度は、アセチル化反応槽中の反応液の温度に対して−20〜−1℃の範囲としてから移液を開始することが好ましい。より好ましくは−15℃〜−2℃の範囲である。−1℃以下であると、加熱体の近傍で部分的に重合が進行し、液面上昇が起こるのを抑制できる。一方、−20℃以上であると、移液した際に、反応液の温度が反応液の融点や凝固点に近い温度まで低下し、反応液の粘度が上昇したり、部分的に固化したり、移液後の昇温に長時間を要してしまうことがない。
アセチル化反応槽から重縮合反応槽へ反応液を移液する工程における、下記式(3)で表される移液中の重縮合反応槽における酢酸留出率は、5.0%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜4.5%の範囲である。5.0%より多いと、重縮合反応槽内で液面上昇が起こりやすくなったり、留出する酢酸と一緒にモノマーやオリゴマーも飛散してしまい、組成ズレが起こりやすくなる。
式(3):移液中の酢酸留出率(%)=移液中に留出した酢酸液量(g)/[〔無水酢酸仕込みモル数−原料モノマー中の水酸基のモル数〕×無水酢酸分子量+原料モノマー中の水酸基のモル数×2×酢酸分子量+原料モノマー中のアセチル基のモル数×酢酸分子量](g)×100(%)。
なお、「移液中に留出した酢酸液量」は、反応液の移液開始から移液終了までの間に、重縮合反応槽に留出ラインによって接続された留出酢酸容器内に溜まった酢酸量であり、留出した酢酸の他、過剰な無水酢酸やモノマー類を含んだ液量のことである。
反応液の移液に要する時間は、下記式(4)で表される重合時間(重縮合反応に要した時間)に対する移液時間(移液に要した時間)を1.0〜15.0%とすることが好ましく、より好ましくは1.0〜12.5%である。重合時間に対する移液時間が15.0%以下であると、アセチル化反応槽内で反応液が密閉されている時間が長くなりすぎず、加熱体の近傍で部分的に重合が進行し、液面上昇を起こしやすくなったり、反応液温が徐々に低下して移液後の昇温に長時間を要してしまうことがない。一方、1.0%以上とすると、反応液の流速が大きくなることで反応液が跳ね上がり気相部に反応液が付着したり、移液中に酢酸と一緒にモノマー類やオリゴマー類も飛散するのを抑制することができる。
式(4):移液時間/重合時間割合(%)=移液に要した時間(分)/重縮合反応に要した合計時間(分)×100(%)。
なお、ここでいう移液時間は、窒素などの不活性ガスで加圧して移液する方法の場合は、アセチル化反応槽を密閉系とした時点から、反応液の移液が終了して重縮合反応槽の加熱体の昇温を開始した時点までの時間をいう。また、アセチル化反応槽と重縮合反応槽の高低差によって自然落下させる方法の場合は、反応液の移液を開始した時点から、移液が終了して重縮合反応槽の加熱体の昇温を開始した時点までの時間をいう。重合時間とは、反応液の移液が終了して重縮合反応槽の加熱体の昇温を開始した時点から、規定の撹拌トルクに到達して撹拌翼を停止した時点までの時間をいう。
[重縮合反応槽におけるオリゴマー化反応と脱酢酸重縮合反応]
アセチル化反応槽からの移液が終了すれば、撹拌翼を停止して移液を行った場合は運転を開始し、加熱体を規定の昇温速度で昇温していきオリゴマー化反応を行う。
重縮合反応槽の撹拌翼として、ヘリカルリボン翼を備えた反応容器を用いることが好ましく、更に好ましくは、中心軸を有さないフレームにリボン翼が取り付けられているヘリカルリボン翼(以下、中心軸を有さないヘリカルリボン翼とする)である。また、重縮合反応槽からのクリアランスは50mm以下が好ましく、さらに好ましくは20mm以下である。
重縮合反応において、反応液の泡立ちや昇華による反応液の上昇を抑制するため、ヘリカルリボン翼の回転方向は掻き下げ方向であることがより好ましい。ここでいう掻き下げ方向とは、缶壁面付近の反応液がリボン翼の回転方向によって缶底部に向かって押し下げられることである。逆に、掻き上げ方向とは、缶壁面付近の反応液がリボン翼の回転方向によって上向きに押し上げられることをいう。
目標の反応液の温度と時間に到達すれば、留出ラインを減圧装置側に切り替え、減圧しながら脱酢酸重縮合反応を完結させる溶融重合法が好ましい。溶融重合法は均一なポリマーを製造するために有利な方法であり、ガス発生量がより少ないポリマーを得ることができ好ましい。
最終重合温度は、融点+20℃程度が好ましく、370℃以下であることが好ましい。
重合させる時の減圧度は、通常13.3Pa(0.1torr)〜2666Pa(20torr)であり、好ましくは1333Pa(10torr以下)、より好ましくは667Pa(5torr)以下である。好ましい重合速度としては、減圧度が1333Pa(10torr)になった後、規定のトルクが検出されて重縮合反応を終了するまでの時間が0.3〜1.0時間であることが好ましい。1.0時間以下であると、ポリマーが熱履歴によって着色したり、耐熱性が低下することを抑制できる。一方、0.3時間以上とすることで、酢酸の脱気や過剰なモノマー成分の除去ができ、ペレット中のガス量や昇華物を減少させることができる。
脱酢酸重縮合反応終了後、得られたポリマーを重縮合反応槽から取り出すには、ポリマーが溶融する温度で重縮合反応槽内を、例えばおよそ0.02〜0.5MPaに加圧し、重縮合反応槽下部に設けられた吐出口よりストランド状に吐出し、ストランドを冷却水中で冷却して、ペレット状に切断し、樹脂ペレットを得ることができる。溶融重合法は均一なポリマーを製造するために有利な方法であり、ガス発生量がより少ない優れたポリマーを得ることができるので好ましい。
溶融ポリマーを吐出した後は、重縮合反応槽の内温をポリマーの降温結晶化温度(Tc)−5℃以下の温度まで加熱体をコントロールして冷却し、その後反応液を移液する際に移液前の重縮合反応槽の内温および加熱体の温度まで昇温することが好ましい。ポリマーの降温結晶化温度(Tc)−5℃以下まで冷却した場合、重縮合反応槽内の残留ポリマーの高融点化が抑制され、異物の発生を抑制できるため好ましい。ポリマーの降温結晶化温度(Tc)とは、示差走査熱量計(DSC)において、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)よりも20℃高い温度(Tm1+20℃)で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で測定した際に観測される発熱ピーク温度である。
液晶性ポリエステル樹脂を製造する際に、固相重合法により重縮合反応を完了させることもできる。例えば、液晶性ポリエステル樹脂のポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕し、窒素気流下または減圧下で、液晶性ポリエステル樹脂の融点−5℃〜融点−50℃の範囲で1〜50時間加熱し、所望の重合度まで重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。固相重合法は高重合度のポリマーを製造するための有利な方法である。
液晶性ポリエステル樹脂の溶融粘度は10〜500Pa・sが好ましい。より好ましくは12〜200Pa・sである。なお、この溶融粘度は融点(Tm)+10℃の条件で、剪断速度1000(1/秒)の条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
液晶性ポリエステル樹脂の融点は特に限定されるものではないが、高耐熱用途に用いるために280℃以上となるよう共重合成分を組み合わせることが好ましい。
液晶性ポリエステル樹脂の重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
液晶性ポリエステル樹脂の機械強度その他の特性を付与するために、さらに充填材を配合することができる。充填材は特に限定されるものでないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填材を使用することができる。具体的には例えば、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶性ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、バサルト繊維、酸化チタンウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状、ウィスカー状充填材、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウムおよび黒鉛などの粉状や粒状あるいは板状の充填材が挙げられる。充填材は、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。
これら充填材のなかで特にガラス繊維が入手性、機械的強度のバランスの点から好ましく使用される。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものならば特に限定はなく、例えば、長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランドおよびミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、これらのうち2種以上を併用して使用することもできる。ガラス繊維としては、弱アルカリ性のものが機械的強度の点で優れており、好ましく使用できる。また、ガラス繊維はエポキシ系、ウレタン系、アクリル系などの被覆あるいは収束剤で処理されていることが好ましく、エポキシ系が特に好ましい。またシラン系、チタネート系などのカップリング剤、その他表面処理剤で処理されていることが好ましく、エポキシシラン、アミノシラン系のカップリング剤が特に好ましい。
なお、ガラス繊維は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
充填材の配合量は、液晶性ポリエステル樹脂100質量部に対し、通常30〜200質量部であり、好ましくは40〜150質量部である。
さらに、液晶性ポリエステル樹脂には、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩または次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料および顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤などの通常の添加剤、熱可塑性樹脂以外の重合体を配合して、所定の特性をさらに付与することができる。
これらの添加剤を配合する方法は、溶融混練によることが好ましく、溶融混練には公知の方法を用いることができる。たとえば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用い、180〜350℃、より好ましくは250〜320℃の温度で溶融混練して液晶性ポリエステル樹脂組成物とすることができる。その際には、1)液晶性ポリエステル樹脂、任意成分である充填材およびその他の添加剤との一括混練法、2)まず液晶性ポリエステル樹脂にその他の添加剤を高濃度に含む液晶性ポリエステル樹脂組成物(マスターペレット)を作成し、次いで規定の濃度になるようにその他の熱可塑性樹脂、充填材およびその他の添加剤を添加する方法(マスターペレット法)、3)液晶性ポリエステル樹脂とその他の添加剤の一部を一度混練し、ついで残りの充填材およびその他の添加剤を添加する分割添加法など、どの方法を用いてもかまわない。
液晶性ポリエステル樹脂およびそれを含む液晶性ポリエステル樹脂組成物は、通常の射出成形、押出成形、プレス成形などの成形方法によって、優れた表面外観(色調)および機械的性質、耐熱性、難燃性を有する三次元成形品、シート、容器、パイプ、フィルムなどに加工することができる。なかでも射出成形により得られる電気・電子部品用途に適している。
このようにして得られた液晶性ポリエステル樹脂およびそれを含む液晶性ポリエステル樹脂組成物は、例えば、リレー関連部品、コイル関連部品、スイッチやモーター関連部品、センサー関連部品、軸受関連部品、HDD関連部品、LED関連部品、コネクター関連部品、吸音・緩衝材関連部品、フィルム、繊維などに用いることができる。
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
図1および図2に示す液晶性ポリエステル樹脂の製造設備を用いて、実施例1〜6および比較例1〜3の製造工程をそれぞれ最大20回(20バッチ)行い、次の(1)〜(7)で示す評価を行った。なお、最大バッチ数に満たないバッチで試験を終了した場合は、終了したバッチまでの平均値を記載した。
(1)アセチル化反応槽における最終酢酸留出速度(%/10分)
アセチル化反応槽1での反応中に、留出酢酸容器7内の酢酸質量(g)を常時測定し、10分間の酢酸留出速度として、アセチル化反応槽における最終酢酸留出速度を以下の式より求めた。
酢酸留出速度(%/10分)=10分間に留出した酢酸留出液量(g)/[〔無水酢酸仕込みモル数−原料モノマー中の水酸基のモル数〕×無水酢酸分子量+原料モノマー中の水酸基のモル数×2×酢酸分子量+原料モノマー中のアセチル基のモル数×酢酸分子量](g)×100(%)。
(2)移液中の酢酸留出率(%)
移液開始から移液終了までの間に留出した、重縮合反応槽12の留出酢酸容器17内の酢酸質量(g)を測定し、以下の式より求めた。各試験バッチについて酢酸留出率を求め、20バッチの平均値を求めた。
酢酸留出率(%)=移液中に留出した酢酸液量(g)/[〔無水酢酸仕込みモル数−原料モノマー中の水酸基のモル数〕×無水酢酸分子量+原料モノマー中の水酸基のモル数×2×酢酸分子量+原料モノマー中のアセチル基のモル数×酢酸分子量](g)×100(%)。
(3)口金詰まり発生バッチ数
試験バッチを続けて行い、吐出口の口金が詰まり始めたバッチ数を調べた。
(4)重縮合反応槽液面高さ割合(%)
アセチル化反応槽1からの移液前に、重縮合反応槽12の上部フランジからSUS製の棒21を挿入し、吐出終了後、SUS製の棒21に付着した反応液の付着部分22位置から反応液の付着高さ23を調べ、重縮合反応槽の内壁高さ24から、以下の式により求めた(図2を参照)。
重縮合反応槽液面高さ割合(%)=反応液の付着高さ23(mm)/重縮合反応槽の内壁高さ24(mm)×100(%)
点検終了後、反応液の付着のないSUS製の棒21を挿入し、全ての試験バッチの重縮合反応槽液面高さ割合を調べ、20バッチの平均値を求めた。
(5)製品収率(%)
試験バッチ毎に下記式により製品収率を求め、20バッチの平均を求めた。
製品収率(%)=ペレット質量(kg)/理論ポリマー質量(kg)×100(%)
(6)融点(℃)
パーキンエルマー製の示差走査熱量計DSC−7を用いて測定した。室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)を観測した。次いで、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点とした。各試験バッチについて融点を求め、20バッチの平均を求めた。
(7)色調(L値)
試験バッチ毎に得られたペレットを、スガ試験器(株)製SMカラーコンピューター装置を用いて、色調(L値)を測定した。各試験バッチについて色調を測定し、20バッチの平均を求めた。
(実施例1)
ヘリカル翼(撹拌翼2)と精留塔3、留出ライン4、還流ライン5、凝縮器6、留出酢酸容器7、原料仕込みライン8を有した容積5Lのアセチル化反応槽1を用意した。加熱体としてアセチル化反応槽1の外壁面をジャケットで覆い、ヒーターと循環ポンプで熱媒(新日鐵化学社製、サームエス600)をジャケット内に循環させ、温度制御しながら、次のように重合を行った。
アセチル化反応槽1にp−ヒドロキシ安息香酸1012質量部(54モル%)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル409質量部(16モル%)、ヒドロキノン104質量部(7モル%)、テレフタル酸339質量部(15モル%)、イソフタル酸182質量部(8モル%)および無水酢酸1527質量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を原料仕込みライン8から仕込んだ。仕込んだ原料を窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら、反応液の温度が145℃に保つように加熱体の温度を制御し、還流ライン5側で1.5時間アセチル化反応させた。
次に、留出ライン4を留出酢酸容器7側に切り替え、反応液の温度が270℃になるように180分かけて加熱体の温度を制御し、昇温した。アセチル化反応槽における最終酢酸留出速度は1.0%/10分であった。
次に、重縮合反応槽として、図2に示すとおり移液ライン9と移液バルブ11、留出ライン14、凝縮器15、減圧装置16、留出酢酸容器17、吐出バルブ18、吐出口19、温度計25を有し、重縮合反応槽12の内壁と、中心軸を有さないヘリカルリボン翼(撹拌翼13)との隙間が5mmであり、内壁の材質がSUS316Lである容積5Lの重縮合反応槽12を用いた。
重縮合反応槽12の加熱体20として、アセチル化反応槽1と同様に熱媒をジャケット内に循環させ、温度制御しながら、次のように重合を行った。
移液ライン9の加熱体10として、アセチル化反応槽1と同様に熱媒をジャケット内に循環させ、温度制御した。
重縮合反応槽12の加熱体20の温度を265℃にコントロールし、内温が260℃の状態で待機した。移液ライン9の加熱体10の温度を270℃にコントロールしながら待機した。次に、アセチル化反応槽1における温度が270℃の反応液を移液バルブ11を開として移液ライン9経由で移液を行い、窒素で2回移液ライン9のブローを行い、移液バルブ11を閉止した。移液に要した時間は10分であり、移液中の酢酸留出率は0.5%であった。次に、重縮合反応槽12において、窒素ガス雰囲気下で掻き下げ方向に撹拌しながら、反応液の温度を335℃まで1.5時間かけて昇温させ、減圧装置16で減圧を開始し、1.5時間かけて133Pa(1torr)まで減圧を行った。さらに減圧させながら重縮合反応を続け、規定の撹拌トルクに到達したところで脱酢酸重縮合反応を終了させた。真空度1333Pa(10torr)到達後の重縮合反応時間は19分(20バッチの平均値)であった。次に、重縮合反応槽2内を0.1MPaに窒素で加圧し、吐出バルブ18を開とし、直径10mmの円形吐出口19に取り付けられた口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレット化した。吐出終了後に重縮合反応槽12の上部フランジからSUS製の棒21を取り出し、液面高さ割合を計算した。点検終了後、反応液の付着のないSUS製の棒21を挿入した。前記の方法で繰り返し20バッチの重合を行った。
口金詰まりは問題なく、製品収率も問題なかった。重縮合反応槽12内の液面高さ割合については、問題なかった。得られたペレットの融点と色調(L値)については、問題なかった。
(実施例2)
移液前の重縮合反応槽12の加熱体20の温度を269℃にコントロールし、重縮合反応槽の内温が264℃の状態で、アセチル化反応槽中における温度が270℃の反応液を移液した以外は、実施例1と同様に行った。
移液中の酢酸留出率は1.1%であった。
真空度1333Pa(10torr)到達後の重縮合反応時間は37分(20バッチの平均値)であった。17バッチ目で口金詰まりが見られ始めたが、軽微であり、製品収率も問題なかった。重縮合反応槽12内の液面高さ割合については、問題なかった。得られたペレットの融点と色調(L値)については、問題なかった。
(実施例3)
移液前の重縮合反応槽12の加熱体20の温度を255℃にコントロールし、重縮合反応槽の内温が250℃の状態で、アセチル化反応槽中における温度が270℃の反応液を移液した以外は、実施例1と同様に行った。
移液中の酢酸留出率は0.3%であった。
真空度1333Pa(10torr)到達後の重縮合反応時間は25分(20バッチの平均値)であった。口金詰まりは問題なく、製品収率も問題なかった。重縮合反応槽12内の液面高さ割合については、問題なかった。得られたペレットの融点と色調(L値)については、問題なかった。
(実施例4)
アセチル化反応槽1の反応液の温度が265℃になるように180分かけて昇温し、移液ライン9の加熱体10の温度を265℃にコントロールし、移液前の重縮合反応槽12の加熱体20の温度を260℃にコントロールし、重縮合反応槽の内温が255℃の状態で、アセチル化反応槽中における温度が265℃の反応液を移液した以外は、実施例1と同様に行った。
アセチル化反応槽における最終酢酸留出速度は2.0%/10分であった。
移液中の酢酸留出率は1.8%であった。
真空度1333Pa(10torr)到達後の重縮合反応時間は44分(20バッチの平均値)と僅かに遅延した。16バッチ目で口金詰まりが見られ始めたが、20バッチの連続運転は可能であった。製品収率も問題なかった。重縮合反応槽12内の液面高さ割合については、問題なかった。得られたペレットの融点については、僅かに低め傾向にあり、色調(L値)については、僅かに低下傾向にあった。
(実施例5)
移液ライン9の加熱体10の温度を280℃にコントロールした以外は、実施例1と同様に行った。
移液中の酢酸留出率は1.0%であった。
真空度1333Pa(10torr)到達後の重縮合反応時間は30分(20バッチの平均値)であった。19バッチ目で口金詰まりが見られ始めたが、軽微であり、20バッチの連続運転は可能であった。製品収率も問題なかった。重縮合反応槽12内の液面高さ割合については、問題なかった。得られたペレットの融点と色調(L値)については、問題なかった。
(実施例6)
アセチル化反応槽1に仕込む成分を、下記のものに変更し、アセチル化反応槽1の反応液の温度が265℃になるように180分かけて昇温し、移液前の重縮合反応槽12の加熱体20の温度を260℃にコントロールし、重縮合反応槽の内温が255℃の状態で、アセチル化反応槽中における温度が265℃の反応液を移液した以外は、実施例1と同様に行った。
・p−ヒドロキシ安息香酸1354質量部(73モル%)
・4,4’−ジヒドロキシビフェニル228質量部(9モル%)
・テレフタル酸204質量部(9モル%)
・ポリエチレンテレフタレート236質量部(9モル%)
・次亜リン酸ナトリウム0.36質量部(0.02質量%)
・無水酢酸1382質量部(フェノール性水酸基合計の1.11当量)
移液中の酢酸留出率は0.4%であった。
真空度1333Pa(10torr)到達後の重縮合反応時間は24分(20バッチの平均値)であった。吐出中の口金詰まりは問題なく、製品収率も問題なかった。重縮合反応槽12内の液面高さ割合については、問題なかった。得られたペレットの融点と色調(L値)については、問題なかった。
(比較例1)
移液前の重縮合反応槽12の加熱体20の温度を272℃にコントロールし、重縮合反応槽の内温が267℃の状態で、アセチル化反応槽中における温度が265℃の反応液を移液した以外は、実施例4と同様に行った。
移液中の酢酸留出率は5.1%(15バッチの平均値)と高めであった。
真空度1333Pa(10torr)到達後の重縮合反応時間は76分(15バッチの平均値)と遅延した。6バッチ目で口金詰まりが見られ始め、その後、口金詰まりが酷くなってきたので、10バッチ目の吐出後に口金を交換した。その後も口金詰まりが酷くなってきたので、15バッチ目で試験を中止した。製品収率(15バッチの平均値)については、89.2%と低めであった。重縮合反応槽12内の液面高さ割合(15バッチの平均値)については、82.0%と高めであった。得られたペレットの融点(15バッチの平均値)については、低い結果となり、ペレットに着色が見られ、色調(L値)(15バッチの平均値)については、低めであった。
(比較例2)
移液前の重縮合反応槽12の加熱体20の温度を290℃にコントロールし、重縮合反応槽の内温が284℃の状態で、アセチル化反応槽中における温度が270℃の反応液を移液し、重縮合反応槽12の反応液の温度を335℃まで1.4時間かけて昇温させた以外は、実施例1と同様に行った。
移液中の酢酸留出率は5.7%(10バッチの平均値)と高めであった。
真空度1333Pa(10torr)到達後の重縮合反応時間は91分(10バッチの平均値)と遅延した。3バッチ目で口金詰まりが見られ始め、その後、口金詰まりが酷くなってきたので、6バッチ目の吐出後に口金を交換した。その後も口金詰まりが酷くなってきたので、10バッチ目で試験を中止した。製品収率(10バッチの平均値)については、87.5%と低めであった。重縮合反応槽12内の液面高さ割合(10バッチの平均値)については、87.1%と高めであった。得られたペレットの融点(10バッチの平均値)については、低い結果となり、ペレットに着色が見られ、色調(L値)(10バッチの平均値)については、低めであった。
(比較例3)
アセチル化反応槽1の反応液の温度が260℃になるように180分かけて昇温し、移液ライン9の加熱体10の温度を260℃にコントロールし、移液前の重縮合反応槽12の加熱体20の温度を290℃にコントロールし、重縮合反応槽の内温が284℃の状態で、アセチル化反応槽中における温度が260℃の反応液を移液した以外は、実施例1と同様に行った。
アセチル化反応槽における最終酢酸留出速度は3.0%/10分であった。
移液を開始して6分後に移液ができなくなったので、移液作業を中止し、アセチル化反応槽1と移液ライン9と重縮合反応槽12を冷却した。重縮合反応槽12の留出ライン14を取り外し、留出ライン14の内部を点検した結果、多くの固形物が付着し、閉塞していた。重縮合反応槽12内の液面高さ割合については、100.0%を超えていた。固形物を取り除き、再度試験を行ったが、同様な結果となったため、2バッチ目で試験を中止した。
各実施例、比較例の条件と結果を表1にまとめた。