JP2017141207A - 神経伸長促進剤、内服剤、培地用添加剤、細胞希釈液用添加剤、培地および細胞希釈液 - Google Patents

神経伸長促進剤、内服剤、培地用添加剤、細胞希釈液用添加剤、培地および細胞希釈液 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、神経突起の形成、伸長を促進する効果が高く、内服に適した神経伸長促進剤、およびそのような神経伸長促進剤を安価に製造することができる神経伸長促進剤の製造方法を提供することを課題とする。【解決手段】本発明の神経伸長促進剤は、ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物をプロテアーゼで分解した分解生成物を含有することを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は、神経伸長促進剤、および、その神経伸長促進剤を含有する内服剤、培地用添加剤、細胞希釈液用添加剤、培地および細胞希釈液に関する。
ヒアルロン酸は、保湿効果や保水効果を高める働きがあることが知られており、従来からさまざまな化粧品や医薬品に配合されている。例えば、乾燥肌や荒れ肌に直接適用することにより保湿性を高めて肌のコンディションを調えたり、乾燥期に皮膚表面から水分が失われたりすることを防ぐために予防的に皮膚表面に適用することが通常行われている。また、ヒアルロン酸は、保湿効果から派生する機能や保湿効果以外の有用な特性の発現も期待され、その新たな利用法に関する研究も幾つか見受けられる。
例えば、特許文献1には、ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物をプロテアーゼで分解した分解生成物を創傷治療剤に用いることが提案されている。この創傷治療剤は、生体成分であるヒアルロン酸や蛋白質、反応が緩和な酵素を用いているために安全性が高く、例えば経口投与や創傷部位への直接投与により創傷を迅速に治療することができる。
特開2002−145800号公報
上記のように、ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物をプロテアーゼで分解した分解生成物は、創傷治療剤として高い有用性を有する。しかし、この分解生成物は、創傷治療効果が確認されているだけで他の作用効果は殆ど知られておらず、応用範囲が限られていた。
一方、日常生活への影響が非常に大きいヒトの障害として、アルツハイマー病やパーキンソン病等の神経変性疾患や、脳虚血・脳挫傷・脊髄損傷に起因する神経損傷が知られている。こうした神経系の障害が生じると、理解力、記憶力、判断力等の認知機能や運動機能が損なわれ、それまでの生活から一変して、普通の生活を送ることが困難になってしまう。このため、こうした神経系の機能障害を軽減するための薬剤や医療技術の開発が強く望まれている。
ここで、ヒト等の動物において認知機能や運動機能を可能としているのは、神経細胞の細胞体が神経突起を伸長し、お互いにシナプスを築くことによって形成される複雑な神経回路であり、多くの神経疾患では、その初期において、その神経回路を形成している神経突起が変性、脱落していくことが知られている。このため、神経疾患の進行抑制や症状軽減のためには、神経突起の変性を抑えるか、変性、脱落した神経突起を補うべく、神経突起の形成、伸長を促進する物質を投与することが有効であると考えられる。一方、神経損傷により損なわれた認知機能や運動機能を回復させるにも、神経突起の形成、伸長を促進する物質を投与して、神経回路を再構築することが効果的であると考えられる。このような点から、近年、神経突起の形成、伸長を促進する物質の開発が盛んに行われ、多くの報告がなされている。しかしながら、これまで報告されている神経突起の形成、伸長を促進する物質は、入手が困難であるか、内服に適さないか、効果が不十分な物質であり、高い効果が得られるとともに安価で内服に適した神経伸長促進剤は、未だ実現していないのが実情である。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、神経突起の形成、伸長を促進する効果が高く、内服に適した神経伸長促進剤を提供することを課題として検討を進めた。また、そのような神経伸長促進剤を安価に製造することができる神経伸長促進剤の製造方法を提供することを課題として検討を進めた。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、上記の創傷治療作用があることが知られている組成物、すなわちヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物をプロテアーゼで分解した分解生成物に強い神経伸長促進作用があることを初めて見出した。そして、この分解生成物の神経伸長促進作用を利用することにより、内服に適した神経伸長促進剤を安価で提供できることを見出すに至った。本発明は、これらの知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
[1] ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物をプロテアーゼで分解した分解生成物を含有することを特徴とする神経伸長促進剤。
[2] 前記組成物が鶏冠であることを特徴とする[1]に記載の神経伸長促進剤。
[3] 前記分解生成物が、分子量が380〜5000の低分子ヒアルロン酸を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の神経伸長促進剤。
[4] 前記分子量が380〜5000の低分子ヒアルロン酸の含有量が、神経伸長促進剤の全量に対して10質量%以上であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
[5] 分子量が1520〜5000の低分子ヒアルロン酸の割合が、分子量が380〜5000の低分子ヒアルロン酸全量の60質量%以上であることを特徴とする[3]または[4]に記載の神経伸長促進剤。
[6] N−アセチルグルコサミンの含有量が、神経伸長促進剤の全量に対して0.01質量%以下であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
[7] 総遊離アミノ酸量が神経伸長促進剤の全量に対する質量比で2質量%以上であり、且つ、総蛋白質量が神経伸長促進剤の全量に対する質量比で2質量%以上であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
[8] 前記遊離アミノ酸が、イソロイシン、β−アミノイソ酪酸、アラニン、タウリン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、シスチンおよびチロシンから選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする[7]に記載の神経伸長促進剤。
[9] 前記分解生成物の凍結乾燥物を粉砕して得た粉砕物を含むことを特徴とする[1]〜[8]のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
[10] 前記分解生成物に水と水飽和1−ブタノールによる分液操作を行うことで得た水飽和1−ブタノール画分を含有することを特徴とする[1]〜[9]のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
[11] 神経体からの神経突起の形成を促進する作用を有することを特徴とする[1]〜[10]のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
[12] 神経突起の伸長を促進する作用を有することを特徴とする[1]〜[11]のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
[13] 幹細胞の神経細胞への分化を促進する作用を有することを特徴とする[1]〜[12]のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
[14] 神経成長因子誘導性の神経突起の形成、伸長を促進する作用を有することを特徴とする[1]〜[13]のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
[15] ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物をプロテアーゼで分解する酵素処理工程を含むことを特徴とする神経伸長促進剤の製造方法。
[16] 前記組成物が鶏冠であり、前記酵素処理工程の前に、前記鶏冠を1辺0.5cm角以上に小片化する工程を有することを特徴とする[15]に記載の神経伸長促進剤の製造方法。
[17] 前記酵素処理工程の後に、前記酵素処理工程で得た分解生成物を、凍結乾燥した後、粉砕して粉砕物を得る工程を有することを特徴とする[15]または[16]に記載の神経伸長促進剤の製造方法。
[18] 前記酵素処理工程の後に、前記酵素処理工程で得た分解生成物を精製する精製工程を有することを特徴とする[15]〜[17]のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤の製造方法。
[19] 前記精製工程が、前記分解生成物に水と水飽和1−ブタノールによる分液操作を行って水飽和1−ブタノール画分を得る分液工程を含むことを特徴とする[18]に記載の神経伸長促進剤の製造方法。
[20] [1]〜[14]のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤からなることを特徴とする内服剤。
[21] [1]〜[14]のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤からなることを特徴とする培地用添加剤。
[22] [1]〜[14]のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤からなることを特徴とする細胞希釈液用添加剤。
[23] [21]に記載の培地用添加剤を含有することを特徴とする培地。
[24] [22]に記載の細胞希釈液用添加剤を含有することを特徴とする細胞希釈液。
本発明の神経伸長促進剤は、神経細胞における神経突起の形成、伸長を効果的に促進する作用を有し、高い神経伸長促進効果を得ることができる。また、本発明の神経伸長促進剤の製造方法によれば、上記の有用な作用効果を奏する神経伸長促進剤を低コストで製造することができる。
ジブチリルcAMPの添加または無添加のPC−12細胞の培地に、プロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末(神経伸長促進剤1)を各種濃度で添加したときの神経突起形成率を示すグラフである。 NGFを添加したPC−12細胞の培地に、プロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末(神経伸長促進剤1)を各種濃度で添加したときの神経突起形成率を示すグラフである。 ジブチリルcAMPを添加したPC−12細胞の培地に、プロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末(神経伸長促進剤1)、その水飽和1−ブタノール(1−BuOH)画分、酢酸エチル(EtOAc)画分または水画分を各種濃度で添加したときの神経突起形成率を示すグラフである。 実施例で行ったプロテアーゼ分解物の精製工程を示すスキーム図である。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
[神経伸長促進剤]
本発明の神経伸長促進剤は、ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物をプロテアーゼで分解した分解生成物を含有する点に特徴がある。
上記組成物に含まれるヒアルロン酸は、化粧品や医薬品の成分として通常用いられているヒアルロン酸であれば特に制限なく使用することができる。ヒアルロン酸は、元来ウシの眼の硝子体から単離されたものであるが、これに限らず、動物の関節液やニワトリの鶏冠などから単離されたものであっても使用することができる。また、自然界から単離されたものでなく、合成や微生物発酵法により得られたものでもよい。
ヒアルロン酸は、アミノ酸とウロン酸からなる複雑な多糖類であるが、その構造の詳細は特に限定されない。例えば、D−グルクロン酸とN−アセチル−D−グルコサミンからなるニ糖を繰り返し単位とする多糖を挙げることができる。組成物に含まれるヒアルロン酸の分子量は特に限定されないが、例えば鶏冠に含まれるヒアルロン酸は、分子量が600万〜1000万であり、鶏冠から抽出したヒアルロン酸は、抽出過程で分解されるため、平均分子量が数十万〜数百万である。本発明で使用するヒアルロン酸は神経伸長促進効果を過度に失わない限り、誘導化や熱変性を受けたものであっても構わない。いわゆるヒアルロン酸誘導体として知られている化合物は、本発明で有効に使用することができる。
上記組成物に含まれる蛋白質はその種類を問わないが、鶏冠に含まれる蛋白質が極めて好ましい。鶏冠の種類は特に制限されないが、ニワトリの鶏冠を用いるのが好ましい。ニワトリの鶏冠はヒアルロン酸を含有するため、本発明の神経伸長促進剤の製造に用いる組成物を提供するに際して、鶏冠にヒアルロン酸を別途添加しなくてもよいというメリットがある。このため、鶏冠を用いれば本発明の神経伸長促進剤の製造工程が簡略化でき、製造コストも下げることができる。
本発明で用いる組成物は、蛋白質とヒアルロン酸のみを含んでいてもよいし、その他の成分や溶媒、分散媒を含んでいてもよい。溶媒および分散媒としては、蛋白質やヒアルロン酸を溶解できるものであればよく、水や水性緩衝液を好適に用いることができる。また、組成物は、蛋白質とヒアルロン酸を含む天然物そのものであってもよい。組成物となる天然物としては、動物の関節液や鶏冠を挙げることができ、ヒアルロン酸を豊富に含むことからニワトリの鶏冠であることが好ましい。
本発明で用いる分解生成物は、上記の組成物をプロテアーゼで分解したものである。プロテアーゼの種類は特に制限されない。通常の蛋白質分解に用いられるプロテアーゼであればいずれも使用することができる。すなわち、エンドペプチダーゼであっても、エキソぺプチダーゼであっても使用することが可能であり、また活性部位はセリン、システイン、金属、アスパラギン酸等のいずれであってもよい。また、複数のプロテアーゼを混合して使用してもよい。好ましいプロテアーゼとして、例えばプロナーゼを使用することができる。
また、本発明で用いる分解生成物は、上記の組成物をプロテアーゼで分解したものであるため、少なくとも、プロテアーゼにより分解された蛋白質の分解物と、ヒアルロン酸を含有し、未分解の蛋白質(プロテアーゼ添加前の組成物に元々含まれていた蛋白質)や組成物由来の他の成分を含有していてもよい。
分解生成物に含まれる蛋白質の分解物としては、未分解の蛋白質よりも低分子量の蛋白質、ペプチド、遊離アミノ酸を挙げることができ、これらが混在していてもよい。
また、分解生成物は、遊離アミノ酸を含有することが好ましい。分解生成物が含有する遊離アミノ酸は、蛋白質の分解物としての遊離アミノ酸であってもよいし、プロテアーゼ添加前の組成物に遊離アミノ酸として元々含まれていたものであってもよい。遊離アミノ酸の種類は、組成物の成分によっても異なるが、例えば組成物が鶏冠である分解生成物では、比較的含有率が多いアミノ酸としてイソロイシン、β−アミノイソ酪酸、アラニン、タウリン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、シスチン、チロシン等を挙げることができ、この他にも、多種類のアミノ酸を含む。
神経伸長促進剤における総蛋白質量は、神経伸長促進剤の全量に対する質量比で0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜7質量%であることがより好ましく、2〜5質量%であることがさらに好ましい。また、神経伸長促進剤における総遊離アミノ酸量は、神経伸長促進剤の全量に対する質量比で0.5〜12質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがより好ましく、2〜6質量%であることがさらに好ましい。神経伸長促進剤における総蛋白質量および遊離アミノ酸量が上記の範囲であることにより、神経伸長促進剤が効果的に作用すると考えられ、神経細胞における神経突起の形成、伸長を顕著に促進することができる。
本明細書中において「総蛋白質量」とは、Lowry法により求めた総蛋白質含量のことをいい、「総遊離アミノ酸量」とは、Ninhydrin法により求めた遊離アミノ酸の総量のことをいう。
上記の分解生成物に含まれるヒアルロン酸は、プロテアーゼ添加前の組成物に元々含まれていたヒアルロン酸がそのまま残存したもの(以下、「未分解のヒアルロン酸」という)であってもよいし、ヒアルロン酸の分解物(以下、「低分子ヒアルロン酸」という)であってもよいし、未分解のヒアルロン酸と低分子ヒアルロン酸とが混在したものであってもよいが、低分子ヒアルロン酸を含有することが好ましい。低分子ヒアルロン酸は生命体の深部に浸透し易く、生命体に対する作用を効果的に得ることができる。分解生成物が含有する低分子ヒアルロン酸は、組成物中でヒアルロン酸を加水分解させて得た低分子ヒアルロン酸であってもよいし、上記の組成物とは別の系でヒアルロン酸を加水分解し、得られた低分子ヒアルロン酸を分解生成物に添加したものであってもよいが、組成物中でヒアルロン酸を加水分解させて得た低分子ヒアルロン酸であることが好ましい。組成物中での低分子ヒアルロン酸の生成は、塩酸やヒアルロニダーゼ等の、ヒアルロン酸を加水分解する物質を組成物に添加することにより行うことができる。また、組成物が天然物である場合には、天然物に元々含まれる物質による自己消化を利用して低分子ヒアルロン酸を生成してもよい。ただし、ヒアルロン酸の生体に対する作用を有効に得る点から、ヒアルロン酸は構成単位を保持していること、すなわち、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンまで分解が進行していないことが好ましい。具体的には、神経伸長促進剤におけるN−アセチルグルコサミンの含有量は、神経伸長促進剤の全量に対して0.01質量%以下であることが好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
本明細書中において「N−アセチルグルコサミン量」とはMorgan-Elson法により求めたN−アセチルグルコサミン含量のことをいう。
分解生成物が含有する低分子ヒアルロン酸は、分子量が380〜5000であることが好ましい。分子量380〜5000は、ヒアルロン酸の繰り返し単位数で約1〜14に相当する。神経伸長促進剤における、分子量380〜5000の低分子ヒアルロン酸の含有量は、神経伸長促進剤の全量に対して5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。また、低分子ヒアルロン酸のうちでは、分子量1520〜5000の低分子ヒアルロン酸が主成分であることが好ましく、分子量1520〜5000の低分子ヒアルロン酸の割合が分子量380〜5000の低分子ヒアルロン酸全量の60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましい。これにより、神経伸長促進剤が効果的に作用すると考えられ、神経細胞における神経突起の形成、伸長を顕著に促進することができる。
低分子ヒアルロン酸の分子量と質量比率は、ポリエチレングリコールを分子量マーカーに用いる高速液体クロマトグラフィにより分析することができる。
分解生成物の性状は、用いる組成物の成分や組成比、プロテアーゼの種類によっても異なるが、通常は液状、さらには粘質性を帯びた液状である。分解生成物は、そのまま本発明の神経伸長促進剤としてもよいし、適宜精製して他の成分と組み合わせる等して本発明の神経伸長促進剤としてもよい。分解生成物を精製することにより、より神経伸長促進効果が高い神経伸長促進剤とすることができる。液状の神経伸長促進剤は、塗布や点眼のための外用剤、飲料タイプの内服剤等として用いることができる。また、分解生成物を凍結乾燥等により乾燥した後、粉砕した場合は、粉末状の神経伸長促進剤を提供することが可能である。粉末状の神経伸長促進剤は、そのまま、もしくは他の成分を含有させて内服剤に用いてもよいし、錠剤やカプセル剤に加工してもよいし、所望の溶媒または分散媒を添加して液状とし、塗布や点眼のための外用剤や飲料タイプの内服剤等として用いてもよい。
本発明の神経伸長促進剤には、上記分解生成物以外にも、さまざまな成分を含有させることができる。例えば、神経伸長促進剤に賦形剤を含有させた場合には、分解生成物と賦形剤の配合率を制御して総蛋白質量や総遊離アミノ酸量、低分子ヒアルロン酸量等の成分量を調整することができる。また、保存し易い神経伸長促進剤の態様として、凍結乾燥させた分解生成物を粉砕して得た粉末を賦形剤で希釈した混合粉末を挙げることができる。賦形剤としては、特に限定されないが、デキストリンが好適である。賦形剤による希釈倍率は、質量比で2〜10倍であることが好ましく、2〜7倍であることがより好ましく、3〜5倍であることがさらに好ましい。
本発明の神経伸長促進剤は、神経細胞における神経突起の形成、伸長を促進する作用(神経伸長促進作用)を有し、特に神経成長因子(NGF)により誘導される神経突起の形成、伸長を効果的に促進することができる。
このため、本発明の神経伸長促進剤は、経口で摂取され、その成分が腸管から吸収された場合には、到達した神経系において神経突起の形成、伸長を効果的に促進し、神経突起の変性または損傷により損なわれた神経回路の再構築に寄与する。これにより、神経変性疾患や神経損傷に起因する認知機能や運動機能の障害を効果的に軽減することができる。ここで、本発明の神経伸長促進剤は、生体成分であるヒアルロン酸や蛋白質、反応が緩和な酵素を用いているため安全性が高く、経口で摂取する内服剤として使用し易いという利点がある。
また、本発明の神経伸長促進剤は、培地で培養している幹細胞の神経細胞への分化を促進する作用を有する。このため、本発明の神経伸長促進剤は、iPS細胞等の多能性幹細胞や神経前駆細胞を利用する再生医療の分野において、それら幹細胞の神経細胞への分化を促進する分化促進剤としても効果的に用いることができる。これにより、幹細胞からの神経細胞の生産を効率よく行うことが可能となり、再生医療に関連する各種産業の生産効率向上およびコスト削減に大いに貢献することができる。
本発明の神経伸長促進剤の使用量は、対象とする障害によっても異なるが、例えば以下の使用量で用いることが好ましい。
例えば本発明の神経伸長促進剤を内服薬として経口投与する場合、その投与量は80〜2000mg/成人標準体重/日であることが好ましく、1日に2〜3回に分けて投与することが適当である。
また、本発明の神経伸長促進剤を、多能性幹細胞や神経前駆細胞を培養する培地に添加する場合、その添加量は、全量に対する質量比率で0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.2〜1.0質量%であることがさらに好ましい。また、プロテアーゼ分解物としての添加量は、凍結乾燥物量で0.03質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.05〜0.25質量%であることがさらに好ましい。
[神経伸長促進剤の製造方法]
次に、本発明の神経伸長促進剤の製造方法について説明する。
本発明の神経伸長促進剤の製造方法は、ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物をプロテアーゼで分解する酵素処理工程を含むことを特徴とする。
本発明の神経伸長促進剤の製造方法は、さらに必要に応じて、この他の工程を有していてもよい。例えば、組成物が鶏冠である場合には、酵素処理工程の前に、鶏冠を小片化する小片化工程を有していてもよい。また、酵素処理工程の後に、分解生成物を濾過する濾過工程、濾過した分解生成物を乾燥した後、粉砕する製粉工程、濾過した分解生成物を精製する精製工程を有していてよい。以下において、本発明の神経伸長促進剤の製造方法を詳細に説明する。
まず、ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物を準備する。組成物としてニワトリの鶏冠を利用する場合には、性別、年令を問わず使用し得る。ただし、採取後なるべく時間を置かずにプロテアーゼ分解に供することが好ましい。また、時間を置いてプロテアーゼ分解するときには、冷凍保存した後に解凍して使用することが好ましい。
鶏冠をプロテアーゼ分解するときには、まず鶏冠を小片化する小片化工程を行ってから、該鶏冠の小片をプロテアーゼ含有溶液に接触させることが好ましい。鶏冠は、好ましくは0.5cm角以上、より好ましくは0.7cm角以上、さらに好ましくは0.9cm角以上の小片にする。過度に細片化してしまったり、ミンチ状にしてしまうと、水分が過度に流れ出てしまったりするため好ましくない。
次に、組成物をプロテアーゼで分解する酵素処理工程を行う。本発明の製造方法で用いるプロテアーゼの説明については、上記の[神経伸長促進剤]の欄のプロテアーゼの説明を参照することができる。酵素処理は、組成物やプロテアーゼの種類によっても異なるが、例えば組成物が鶏冠等の固形物や粉末である場合には、プロテアーゼを溶解した水溶液等の溶液(酵素液)を組成物に添加した後、一定時間放置することで行うことが好ましい。ここで、酵素液のpHは5.0〜10.0であることが好ましく、処理温度は40〜60℃であることが好ましく、処理時間は0.5〜3.0時間であることが好ましい。また、酵素処理は、酵素液を添加した組成物を振とうしながら行うことが好ましい。
以上のようにして得られた分解生成物は、ろ過などの方法により鶏冠等の固形分を除去して、液状の分解生成物として用いることができる。また、凍結乾燥等により乾燥してさらに粉砕する製粉工程を行うことにより、粉末状の分解生成物として用いることもできる。これらの分解生成物は、そのまま本発明の神経伸長促進剤としてもよいし、適宜精製し、賦形剤等の他の成分と組み合わせる等して本発明の神経伸長促進剤としてもよい。
本発明の神経伸長促進剤は、このように、極めて簡単な工程で製造することができる。このため、本発明の神経伸長促進剤の製造方法を用いることにより、有用性が高い神経伸長促進剤を低いコストで提供することができる。
また、濾過した分解生成物や粉末状の分解生成物を精製することにより、神経伸長促進効果がより高い神経伸長促進剤とすることができる。分解生成物の精製方法の詳細については、後掲の実施例の<プロテアーゼ分解物の精製>の欄を参照することができる。分解生成物を精製するに当たっては、分解生成物に、水と水飽和1−ブタノールによる分液操作を行うことが好ましい。この分液操作により得られる水飽和1−ブタノール画分は、神経伸長促進効果が高い成分を含んでおり、さらにカラムクロマトグラフィ等の他の精製操作を行うことにより、神経伸長促進効果が極めて高い神経伸長促進剤を得ることができる。
[神経伸長促進剤の用途]
上記のように、本発明の神経伸長促進剤は、神経伸長促進作用を有するとともに、多能性幹細胞や神経前駆細胞のような幹細胞の神経細胞への分化を促進する作用を有する。
このため、本発明の神経伸長促進剤は、ヒト等の動物に投与して、その神経変性疾患や神経損傷に起因する機能障害を軽減する内服剤として効果的に用いることができる。内服剤としての神経伸長促進剤には、必要に応じて、上記の分解生成物や賦形剤以外にも、さまざまな成分を含有させることができる。例えば、ビタミン、野菜粉末、ミネラル、酵母エキス、着色剤、増粘剤などを必要に応じて含有させることができる。これらの成分の種類は特に制限されず、含有量は目的とする機能を十分に発揮させることができる範囲内で適宜調節することができる。
また、本発明の神経伸長促進剤は、iPS細胞等の多能性幹細胞や神経前駆細胞を利用する再生医療の分野において、培地や細胞の希釈液に添加して、これら幹細胞の神経細胞への分化を促進する分化促進剤として好適に用いることができる。神経伸長促進剤を添加する培地は、液体(ブイヨン)培地、半流動培地、固形(寒天)培地のいずれであってもよく、その組成も特に制限されない。また、希釈液についても、生理食塩水等、細胞の希釈液として通常用いられているものの、いずれにも適用可能である。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、割合、操作等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
本実施例で製造した神経伸長促進剤の成分分析は下記の方法により行った。
(1)水分含有量の測定
水分含有量は、神経伸長促進剤の1gを105℃で3時問加熱乾燥し、精密天秤で恒量を求め定量した。
(2)全窒素の定食
全窒素はAOAC法に基づくセミミクロケルダール法によって定量した。
(3)遊離アミノ酸の定量およびアミノ酸組成の分析
総遊離アミノ酸量はNinhydrin法によって定量した。定量には標準アミノ酸としてロイシンの検量線を作成し使用した。また、遊離アミノ酸の組成は、生体分析用カラムを装着したアミノ酸自動分析機(日立社製、L-8500型)を用いて分析した。この分析には、神経伸長促進剤の50mgを蒸留水に溶解し、ロータリーエバポレーダー(60℃)で減圧乾固させた後、0.02N塩酸5mLで溶出し、ろ紙でろ過したのち、滅菌フィルターでろ過したろ液50μLを分析試料として使用した。
(4)タンパク質の定量
総タンバク質量はLawry法によって決定した。標準検量線の作成には牛血清アルブミンを使用した。
(5)N−アセチル−D−グルコサミンの定量
N−アセチル−D−グルコサミン含有量はMorgan-Elson法で定量した。
(6)グルコサミノグリカンの定量
2−ニトロフェニルヒドラジンカップリング法による比色定量法で分析した。標準検量の作成には鶏冠由来ヒアルロン酸ナトリウム(和光純薬社製、HARC)およびstreptococcus zooepidemicus由来のヒアルロン酸ナトリウム(和光純薬社製、HASZ)を用いた。
(7)低分子ヒアルロン酸の分子量測定
示差屈折計(Shimazu社製、RID-10A型)を装着した高速液体クロマトグラフィー(Shimazu社製)によってヒアルロン酸の分子量を推定した。カラムとしてTSKgel G-2,500PWXL(7.8mmID×30cm)を用い、水を移動相として流速1ml/minで分析を行った。分子量マーカーには分子量400、1000、2000、6000の4種のポリエチレングリコール(Aldrich社製)を用いた。また、各低分子ヒアルロン酸の構成重量比は、神経伸長促進剤とデキストリンのみのサンプルを高速液体クラマトグラフィにより分析し、神経伸長促進剤で現れたピークのピーク面積からデキストリンのピーク面積を差し引くことにより求めた。
[製造例]
採取したてのニワトリの鶏冠1kgを約1cm角に切断して小片化し、100℃で蒸きょうを行うことにより加熱殺菌した。この小片状の鶏冠にプロテアーゼを中心とした食物由来の酵素類を添加して45℃で1.5時間反応させた後、攪拌して均質化した。その後、濾過して粗大な固形成分を除去し、液状の分解生成物(以下、「プロテアーゼ分解物」という)を得た。このプロテアーゼ分解物は、pH6.5、Brix値6.20、固形分濃度5.91質量%であった。このプロテアーゼ分解物を凍結乾燥して粉砕し、プロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末(神経伸長促進剤1)を得た。また、このプロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末に3倍等量(質量比)のデキストリンを添加することにより、デキストリン添加凍結乾燥粉末(神経伸長促進剤1’)を製造した。
[神経伸長促進剤の成分分析]
製造した神経伸長促進剤1’について、上記の方法により成分分析を行った。測定された一般成分の含有率を表1に示し、遊離アミノ酸の組成を表2に示し、低分子ヒアルロン酸の分子量の分析結果を表3に示す。なお、表1〜3中の「%」は「質量%」を表す。
Figure 2017141207
Figure 2017141207
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表2に示すように、神経伸長促進剤1’に含まれる遊離アミノ酸の中では、イソロイシン、β−アミノイソ酪酸の含有量が多く、ついで、アラニン、タウリン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、シスチン、チロシン等が多く含まれていた。
また、表3に示すように、神経伸長促進剤1’に含まれる低分子ヒアルロン酸は、推定分子量5000、1520、1140、760および380の5種類からなることがわかった。また、ヒアルロン酸の繰り返し単位1つの分子量を約400とすると、各低分子ヒアルロン酸の繰り返し単位数は、分子量の大きい順に、13〜14、4、3、2および1であり、質量比率は、33%、47%、10%、6%および4%であった。よって、低分子ヒアルロン酸の主要成分は、分子量1520程度の4分子成分と分子量5000程度の13〜14分子成分の2成分であることがわかった。なお、神経伸長促進剤1’における、分子量380〜5000の低分子ヒアルロン酸の含有率は、神経伸長促進剤1’の全量に対して13.4質量%であった。
[神経突起形成促進作用の評価]
(a)ジブチリルcAMP誘導性神経突起形成促進作用の評価
製造例で製造した神経伸長促進剤1(プロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末)について、ジブチリルcAMP誘導性神経突起形成促進作用を評価した。評価用サンプルは、神経伸長促進剤1を各種濃度で下記の液体培地に溶解した溶液である。
ジブチリルcAMP誘導性神経突起形成促進作用は、Biol. Pharm. Bull., 26, 341-346(2003)に記載された方法に従い、ラット副腎髄質褐色細胞腫由来PC−12細胞を用いて評価した。
まず、10%HS(Horse Serum)と5%FBS(Fetal Bovine Serum)を含むRPMI−1640培地(液体培地)に、PC−12細胞を4.4×104cells/mLとなるように懸濁して細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液を、コラーゲンコートした96穴マイクロプレートに90μL/wellで播種した後、5%CO2を含む空気気相下、37℃で24時間培養した。培養後、ジブチリルcAMP(Dibutyryl Cyclic Adenosine Monophosphate)を終濃度が0.5mMとなるように各ウェルに添加するとともに、各評価用サンプルをそれぞれ5nLずつ各ウェルに添加した。ジブチリルcAMPと各評価用サンプルを添加してから24時間後に、培地を除去し、1%グルタルアルデヒドを100μLずつ各ウェルに分注し、20分間静置することで細胞を固定した。その後、グルタルアルデヒドを除去し、ギムザ染色液を100μLずつ各ウェルに分注し、20分間放置することで染色を行った。その後、ギムザ染色液を除去し、超純水で2回洗浄し、乾燥させた。
以上のようにして細胞の固定、染色を行った後、1ウェル当たり250〜400個の細胞について長さを計測し、細胞体の長径よりも長い神経突起を有する細胞を陽性細胞と判定した。計測に供した細胞の全数に対する陽性細胞数の百分率(神経突起形成率)を求めた結果を図1に示す。
また、PC−12細胞を培養している各ウェル内にジブチリルcAMPを添加せず、その代わりに上記の液体培地5μLを添加したこと以外は同様の評価を行った。その結果も図1に併せて示す。
図1を見ると、ジブチリルcAMP添加および無添加のいずれの系においても、神経伸長促進剤1の添加により神経突起形成率が高くなることがわかる。このことから、神経伸長促進剤1が神経突起の形成、伸長を促進する作用を有することを確認することができた。ただし、ジブチリルcAMPを添加した系では、神経伸長促進剤1の培地における濃度が0.3μg/mLまでは、その濃度に依存して神経突起形成率が高くなるものの、濃度が0.3μg/mLを超えると、逆に神経突起形成率が低くなる傾向が見られた。このことから、培地に添加する神経伸長促進剤1の濃度は0.3μg/mL以下とすることが好ましいことがわかった。
(b)NGF誘導神経突起形成促進作用の評価
実際の生体においては、神経成長因子(NGF:nerve growth factor)が、神経軸策の伸長及び神経伝達物質の合成促進作用、神経細胞の維持作用、細胞損傷時の修復作用、脳神経の機能回復作用を果たしている。そこで、ここでは、本発明の神経伸長促進剤が生体内と近似した条件で有効に作用することを確認するため、NGF誘導性神経突起形成促進作用を評価するとともに、形成された神経突起が正常に分化誘導されたものであるか否かを調べた。評価用サンプルは、神経伸長促進剤1を各種濃度で上記の液体培地に溶解した溶液である。
NGF誘導性神経突起形成促進作用の評価は、培地に懸濁するPC−12細胞の数を2.2×104cells/mLに変更し、ジブチリルcAMPの代わりに神経成長因子を終濃度が10ng/mLとなるように各ウェルに添加し、NGFおよび評価用サンプルを添加してから48時間後に培地を除去してグルタルアルデヒドによる細胞固定を行ったこと以外は、上記のジブチリルcAMP誘導性神経突起形成促進作用の評価と同様にして行った。各ウェル内の細胞群について神経突起形成率を求めた結果を図2に示す。
図2から、NGF誘導性の神経突起形成率も、図1に示すジブチリルcAMP誘導性の神経突起形成率と同様の濃度依存性が見られ、神経伸長促進剤1の添加により、0.003μg/mL程度の低濃度範囲で有意な神経突起形成促進効果が認められた。
また、NGFと神経伸長促進剤1を作用させたPC−12細胞について、1次抗体Anti-neurofilament 200 IgG fraction of antiserum)と2次抗体(Anti-Rabbit IgG (whole molecule)-FITC antibody produced in goat)で免疫蛍光染色を行ったところ、分化マーカーであるニューロフィラメントの発現が認められた。
これらのことから、神経伸長促進剤1は、NGF誘導性神経突起形成を促進する作用も有し、生体内での神経突起の形成、伸長の促進に効果的に寄与しうることを確認できた。
<プロテアーゼ分解物の精製>
上記の製造例で調製したプロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末を以下のようにして精製した。
まず、プロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末32.0gに超純水を加えてろ過し、そのろ液を、全量が1.5Lになるように超純水を加えて希釈した。このろ液の希釈液について、1.5Lの酢酸エチル(EtOAc)による分液操作を2回行い、さらに、得られた水画分に750mlの水飽和1−ブタノールによる分液操作を2回行った。分液操作で得られた水飽和1−ブタノール画分、酢酸エチル画分、水画分について、上記のジブチリルcAMP誘導性神経突起形成促進作用の評価を行った。その結果を図3に示す。図3に示すように、水飽和1−ブタノール画分と酢酸エチル画分に高い神経突起形成促進効果が認められ、特に水飽和1−ブタノール画分に強い神経突起形成促進効果が認められた。また、分液操作で得られた水飽和1−ブタノール画分(固形分:403.3mg)、水画分(固形分:37.3g)について、以下のようにしてカラムクロマトグラフィによる精製を行った。その精製スキームを図4に示す。なお、図4に示すカラムのうち、カラム1、5以外のカラムに注入したサンプルは、その直前のカラムから溶出されたフラクションのうち、ジブチリルcAMP誘導性神経突起形成促進作用の評価で比較的高い活性が認められたフラクションまたはそれらのフラクションの混合液である。
[水飽和1−ブタノール画分の精製]
まず、水飽和1−ブタノール画分を下記条件のカラム1に注入し、70%メタノール1Lを流して溶出を行った。
(カラム1の条件)
カラム1 :TOYOPEARL HW-40C(直径4.0cmx39.0cm、489.8cm3
サンプル :水飽和1ブタノール画分(固形分:393.3mg)
フラクションサイズ :フラクション1;100mL、フラクション2〜19;50mL
溶出液 : 70%メタノール(1L)
カラム1から溶出したフラクション3を、下記条件のカラム2に注入し、50%メタノール400mLを流して溶出を行った。
(カラム2の条件)
カラム2 :TOYOPEARL HW-40F(直径2.5cm×長さ37.8cm、185.5cm3
サンプル :カラム1のフラクション3(固形分:63.7mg)
流速 :1.2mL/min
フラクションサイズ :10mL
溶出液 :50%メタノール(400mL)
カラム2から溶出したフラクション9〜12の混合液を下記条件のカラム3に注入し、40%メタノール330mLを流して溶出を行った。
(カラム3の条件)
カラム3 :TOYOPEARL HW-40F(直径2.5cm×長さ34.2cm、167.8cm3
サンプル :カラム2のフラクション9〜12の混合液(固形分:33.1mg)
流速 :1.2ml/min
フラクションサイズ :10mL
溶出液 :40%メタノール(330mL)
カラム3から溶出したフラクション7〜16の混合液を下記条件のカラム4に注入し、40%メタノール120mLを流して溶出を行った。
(カラム4の条件)
カラム4 :Sephadex LH-20(直径1.5cm×長さ34.8cm、61.5cm3
サンプル :カラム3のフラクション7〜16の混合液(固形分:22.2mg)
流速 :0.5mL/min
フラクションサイズ:2.0mL
溶出液 :40%メタノール(120mL)
このカラム4から溶出したフラクション12〜15(固形分:12.1mg)を神経伸長促進剤2とした。
[水画分の精製]
水画分を下記条件のカラム5に注入し、メタノールと水を、混合比率(メタノール/水)を0/100、5/95、10/90、20/80、40/60の順に変化させて5.0Lずつカラムに流して溶出を行った。
(カラム5の条件)
カラム5 :DIAION HP20(直径12.0cm×長さ40.5cm、4578cm3
サンプル :水画分(固形分:37.3g)
フラクションサイズ:2.5L
溶出液 :水、メタノールと水の混合液
カラム5から溶出したフラクション1〜2を下記条件のカラム6に注入し、メタノールと水を、混合比率(メタノール/水)を0/100、2.5/97.5、5/95の順に変化させて2.0Lずつカラムに流して溶出を行った。
(カラム6の条件)
カラム6 :DIAION HP20(直径7.0cm×長さ39.5cm、1519cm3
サンプル :カラム5のフラクション1〜2の混合液(固形分:4.8g)
フラクションサイズ:400mL
溶出液 :水、メタノールと水の混合液
カラム6から溶出したフラクション2〜6の混合液を下記条件のカラム7に注入し、水2.05Lをカラムに流して溶出を行った。
(カラム7の条件)
カラム7 :TOYOPEARL HW-40C(直径4.0cm×長さ41.5cm、521.2cm3
サンプル :カラム6のフラクション2〜6の混合液(固形分:3.5g)
フラクションサイズ:30mL
溶出液 :水(2.05L)
カラム7から溶出したフラクション11〜15を神経伸長促進剤3とした。
以上の工程で精製した神経伸長促進剤2、3について、上記のジブチリルcAMP誘導性神経突起形成促進作用の評価を行ったところ、神経伸長促進剤2、3は、神経伸長促進剤1よりも高い神経突起形成促進効果を示すことを確認することができた。
本発明によれば、神経細胞における神経突起の形成、伸長を効果的に促進しうる神経伸長促進剤を低コストで提供することができる。このため、本発明の神経伸長促進剤を用いれば、神経変性疾患や神経損傷が起因する認知機能障害や運動機能障害を軽減しうる、安価な内服剤を提供することができる。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。

Claims (24)

  1. ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物をプロテアーゼで分解した分解生成物を含有することを特徴とする神経伸長促進剤。
  2. 前記組成物が鶏冠であることを特徴とする請求項1に記載の神経伸長促進剤。
  3. 前記分解生成物が、分子量が380〜5000の低分子ヒアルロン酸を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の神経伸長促進剤。
  4. 前記分子量が380〜5000の低分子ヒアルロン酸の含有量が、神経伸長促進剤の全量に対して10質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
  5. 分子量が1520〜5000の低分子ヒアルロン酸の割合が、分子量が380〜5000の低分子ヒアルロン酸全量の60質量%以上であることを特徴とする請求項3または4に記載の神経伸長促進剤。
  6. N−アセチルグルコサミンの含有量が、神経伸長促進剤の全量に対して0.01質量%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
  7. 総遊離アミノ酸量が神経伸長促進剤の全量に対する質量比で2質量%以上であり、且つ、総蛋白質量が神経伸長促進剤の全量に対する質量比で2質量%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
  8. 前記遊離アミノ酸が、イソロイシン、β−アミノイソ酪酸、アラニン、タウリン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、シスチンおよびチロシンから選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項7に記載の神経伸長促進剤。
  9. 前記分解生成物の凍結乾燥物を粉砕して得た粉砕物を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
  10. 前記分解生成物に水と水飽和1−ブタノールによる分液操作を行うことで得た水飽和1−ブタノール画分を含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
  11. 神経体からの神経突起の形成を促進する作用を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
  12. 神経突起の伸長を促進する作用を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
  13. 幹細胞の神経細胞への分化を促進する作用を有することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
  14. 神経成長因子誘導性の神経突起の形成、伸長を促進する作用を有することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤。
  15. ヒアルロン酸と蛋白質とを含有する組成物をプロテアーゼで分解する酵素処理工程を含むことを特徴とする神経伸長促進剤の製造方法。
  16. 前記組成物が鶏冠であり、前記酵素処理工程の前に、前記鶏冠を1辺0.5cm角以上に小片化する工程を有することを特徴とする請求項15に記載の神経伸長促進剤の製造方法。
  17. 前記酵素処理工程の後に、前記酵素処理工程で得た分解生成物を、凍結乾燥した後、粉砕して粉砕物を得る工程を有することを特徴とする請求項15または16に記載の神経伸長促進剤の製造方法。
  18. 前記酵素処理工程の後に、前記酵素処理工程で得た分解生成物を精製する精製工程を有することを特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤の製造方法。
  19. 前記精製工程が、前記分解生成物に水と水飽和1−ブタノールによる分液操作を行って水飽和1−ブタノール画分を得る分液工程を含むことを特徴とする請求項18に記載の神経伸長促進剤の製造方法。
  20. 請求項1〜14のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤からなることを特徴とする内服剤。
  21. 請求項1〜14のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤からなることを特徴とする培地用添加剤。
  22. 請求項1〜14のいずれか1項に記載の神経伸長促進剤からなることを特徴とする細胞希釈液用添加剤。
  23. 請求項21に記載の培地用添加剤を含有することを特徴とする培地。
  24. 請求項22に記載の細胞希釈液用添加剤を含有することを特徴とする細胞希釈液。
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