JP2017131887A - ゼオライト膜複合体 - Google Patents

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幹夫 林
Mikio Hayashi
幹夫 林
隆彦 武脇
Takahiko Takewaki
隆彦 武脇
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Abstract

【課題】気体混合物の分離に優れた特性を持つゼオライト膜複合体を提供する。【解決手段】複数の成分からなる気体混合物から、透過性の高い成分を透過して分離するために用いるゼオライト膜複合体であって、CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを含み、ゼオライト膜表面のAlに対する1価金属元素のモル比(1価金属/Alモル比)が0.3以上であるゼオライト膜が、無機多孔質支持体上に形成されてなるゼオライト膜複合体。【選択図】なし

Description

本発明は、ゼオライト膜複合体に関し、さらに詳しくは、複数の成分からなる気体混合物から特定の成分を分離するために用いるゼオライト膜複合体であって、ゼオライト膜が、特定の物理化学的性質を有するゼオライトを含み、無機多孔質支持体上に形成されてなるゼオライト膜複合体、該ゼオライト膜複合体を分離手段として用いる気体混合物の分離または濃縮方法に関するものである。
ガス分離・精製法には、膜分離法、吸着分離法、吸収分離法、蒸留分離法、深冷分離法があるが、膜分離法は、ガス分離の途中での相変化を殆ど伴わず、圧力差を駆動エネルギーとして、膜を透過するガスの速度差によって分離する手法である。膜分離法は、他のガス分離・精製法に比べて取り扱いも容易で設備規模も比較的小さいため低コスト・省エネルギーで目的とするガスの分離や濃縮を行うことができる。
膜によるガス分離の方法としては、1970年代から高分子膜を用いた方法が提案されている。しかし、高分子膜は加工性に優れる特徴をもつ一方で、熱や化学物質、圧力により劣化して性能が低下することが問題であった。
近年、これらの問題を解決すべく耐薬品性、耐酸化性、耐熱安定性、耐圧性が良好な種々の無機膜が提案されてきている。その中でもゼオライトは、サブナノメートルの規則的な細孔を有しているため、分子ふるいとしての働きをもつので選択的に特定の分子を透過でき、高分離性能を示すことが期待されている。
具体的な混合ガスの膜分離の例としては、火力発電所や石油化学工業などから排出されるガスの分離で二酸化炭素と窒素、二酸化炭素とメタン、水素と炭化水素、水素と酸素、水素と二酸化炭素、窒素と酸素、パラフィンとオレフィンの分離などがある。用い得るガス分離用ゼオライト膜としては、A型膜、FAU膜、MFI膜、SAPO−34膜、DDR膜などのゼオライト膜が知られている。
A型ゼオライト膜は、水分の影響を受けやすく、結晶間隙のない膜にすることが難しく、分離性能は高くない。FAU膜はゼオライトの細孔が0.6〜0.8nmであり、気体分子2個分がゼオライト細孔内に入りうる大きさである。この膜は、ゼオライト細孔への吸着特性を持つ分子と持たない分子の分離、例えば二酸化炭素と窒素の分離に向いている。しかし、吸着性のない分子は分離しにくく、適用範囲が狭い。MFI膜の細孔径は0.55nmであり、気体分子の分離には細孔がやや大きく分離性能も高くない。
また、天然ガスの精製プラントや、生ごみなどをメタン発酵させてバイオガスを発生させるプラントでは、二酸化炭素とメタンの分離が望まれているが、これらを良好に分離するゼオライト膜としてはゼオライトの分子ふるい機能を利用した、DDR(特許文献1)、SAPO−34(非特許文献1)、SSZ−13(非特許文献2)が性能のよい膜として知られている。
特開2004−105942号公報
Shiguang Li et al., "Improved SAPO-34 Membranes for CO2/CH4Separation", Adv. Mater. 2006, 18, 2601-2603 Halil Kalipcilar et al., "Synthesis and Separation Performance of SSZ-13 Zeolite Membranes on Tubular Supports", Chem. Mater. 2002, 14, 3458-3464
しかしながら、DDR(特許文献1)は、分離性能は良好であるが、ゼオライトの構造が二次元であるために、二酸化炭素のパーミエンス(Permeance、「透過度」ともいう)が低い。また、三次元構造であるCHA型のアルミノホスフェートであるSAPO−34(非特許文献1)は、分離性能やパーミエンスが良好だが、水存在下での性能が悪化する。
また、化学プラントでは、混合ガスに水分が含まれる場合が多く、水共存下で性能が悪化して実用には耐えない場合がある。同じくSUS支持体の膜であるCHA型のアルミノシリケートであるSSZ−13(非特許文献2)は、ゼオライト膜に非ゼオライト細孔(欠陥)が共存するために分離能が不十分で、二酸化炭素のパーミエンスも充分ではなかった。このように実用に耐えうる気体混合物用の分離膜は知られていなかった。
本発明は、かかる従来技術の問題が解決された、耐水性に優れ、気体混合物の分離に優れた特性を持つゼオライト膜複合体の提供を課題とするものである。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、水熱合成により多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する際に、特定の組成の反応混合物を用いれば、支持体上に結晶化するゼオライトの結晶配向性が向上し、有機化合物と水の混合物の分離において、実用上十分な処理量と分離膜性能を両立する緻密なゼオライト膜が形成することを見出し、先に提案した(国際公開第2010/098473号パンフレット、特開2011−121040号公報、特開2011−121045号公報、特開2011−121854号公報)。本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、これらのゼオライト膜複合体にある種の金属を含有(担持)させることにより、気体混合物の分離性能に優れ、処理量の大きな膜分離手段となり得ることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は、下記の(1)〜(11)に存する。
(1)複数の気体成分からなる気体混合物から、透過性の高い気体成分を透過して分離するために用いるゼオライト膜複合体であって、CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを含み、ゼオライト膜表面のAlに対する1価金属元素のモル比(1価金属/Alモル比)が0.3以上であるゼオライト膜が、無機多孔質支持体上に形成されてなることを特徴とするゼオライト膜複合体。
(2)1価金属が、Li、NaおよびKよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属である、(1)に記載のゼオライト膜複合体。
(3)ゼオライトのSiO/Alモル比が、6以上100以下である、(1)または(2)に記載のゼオライト膜複合体。
(4)ゼオライト膜が、膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=17.9°付近のピーク強度が、2θ=20.8°付近のピーク強度の0.5倍以上の値
を有するものである、(1)ないし(3)のいずれかに記載のゼオライト膜複合体。
(5)ゼオライト膜が、膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=9.6°付近のピーク強度が、2θ=20.8°付近のピーク強度の2.0倍以上の値を
有するものである、(1)ないし(4)のいずれかに記載のゼオライト膜複合体。
(6)ゼオライト膜複合体を、絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気透過量が
0L/(m・h)以上900L/(m・h)以下である、(1)ないし(5)のいずれかに記載のゼオライト膜複合体。
(7)ゼオライト膜が、アルカリ源として少なくともカリウム(K)を含む水熱合成用の反応混合物を用いて形成されたものである、(1)ないし(6)のいずれかに記載のゼオライト膜複合体。
(8)CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを含むゼオライト膜が無機多孔質支持体上に形成されてなるゼオライト膜複合体を、1価金属よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属のイオンを含む水溶液に接触させることにより得られたものである、(1)ないし(7)のいずれかに記載のゼオライト膜複合体。
(9)複数の気体成分からなる気体混合物から、透過性の高い気体成分を透過して分離するために用いるゼオライト膜複合体であって、CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを含むゼオライト膜が無機多孔質支持体上に形成されてなるゼオライト膜複合体を、1価金属よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む水溶液に接触させることにより得られたものであることを特徴とするゼオライト膜複合体。
(10)(1)ないし(9)のいずれかに記載のゼオライト膜複合体に、複数の気体成分からなる気体混合物を接触させ、該気体混合物から、透過性の高い気体成分を透過して分離する、または、透過性の高い気体成分を透過させて分離することにより透過性の低い気体成分を濃縮することを特徴とする気体成分の分離または濃縮方法。
(11)気体混合物が、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、1-ブテン、2−ブテン、イソブテ
ン、六フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素及び水よりなる群から選ばれる少なくとも1種の成分を含むものである、(10)に記載の方法。
本発明によれば、耐薬品性、耐熱安定性、耐酸化性、耐圧性に優れ、気体の透過量が多く、高い分離係数、湿熱安定性の高い、気体混合物の分離に優れた特性を持つゼオライト膜複合体を提供することができる。また、本発明のゼオライト膜複合体を気体混合物の分離手段として用いることにより、小規模な設備、省エネルギー、低コストで高性能に気体の分離を実施できる。
また、本発明によれば、気体混合物から透過性の大きい気体を透過させ、透過性の小さい気体は濃縮されることにより、透過性の大きい気体を系外に分離し、透過性の小さい気体を濃縮・回収することで目的気体を気体混合物から高純度で分離することができる。
単成分ガスの透過試験に用いた装置の模式図である。 ガス分離に用いる装置の模式図である。 ベーパーパーミエーション法に用いる装置の模式図である。 調製例1で作製したCHA型ゼオライト膜のXRDパターンである。 粉末のCHA型ゼオライトのXRDパターンである。 調製例2で作製したCHA型ゼオライト膜のXRDパターンである。
以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、本明細書において、「ゼオライト膜が、無機多孔質支持体上に形成されてなるゼオライト膜複合体」を「無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体」と、「無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体」を「ゼオライト膜複合体」または「膜複合体」と、「無機多孔質支持体」を「多孔質支持体」または「支持体」と、「CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライト」を「CHA型ゼオライ
ト」と略称することがある。
<無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体>
本発明のゼオライト膜複合体は、複数の気体成分からなる気体混合物から、透過性の高い気体成分を透過して分離するために用いるゼオライト膜複合体であって、CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを含み、ゼオライト膜表面のAlに対する1価金属元素のモル比(1価金属/Alモル比)が0.3以上であるゼオライト膜が、無機多孔質支持体上に形成されてなることに特徴を有するものである。
本発明において、ゼオライト膜複合体は、上記のとおり、複数の成分からなる気体混合物から、透過性の高い成分を透過して分離する膜分離手段として用いられるものである。気体成分、分離方法、分離性能などの気体混合物の分離または濃縮方法に係る事項は、ゼオライト膜複合体の詳細を説明した後に説明する。
(ゼオライト膜)
本発明において、ゼオライト膜を構成する成分としては、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機物、あるいはゼオライト表面を修飾するシリル化剤などを必要に応じ含んでいてもよい。
ゼオライト膜は、一部アモルファス成分などが含有されていてもよいが、好ましくは実質的にゼオライトのみで構成されるゼオライト膜である。
ゼオライト膜の厚さは特に限定されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1.0μm以上である。また、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下の範囲である。膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向があり、小さすぎると選択性が低下したり、膜強度が低下する傾向がある。
ゼオライト膜を形成するゼオライトの粒子径は特に限定されないが、小さすぎると粒界が大きくなるなどして透過選択性などを低下させる傾向がある。それ故、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下である。さらに、ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じである場合がより好ましい。ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じであるとき、ゼオライトの粒界が最も小さくなる。後に述べる水熱合成で得られたゼオライト膜は、ゼオライトの粒子径と膜の厚さが同じになる場合があるので好ましい。
ゼオライト膜の形状(膜複合体としたときの形状)は特に限定されず、管状、中空糸状、モノリス型、ハニカム型などあらゆる形状を採用できる。また大きさも特に限定されず、例えば、管状の場合は、通常長さ2cm以上200cm以下、内径0.05cm以上2cm以下、厚さ0.5mm以上4mm以下が実用的で好ましい。
本発明において、ゼオライト膜表面のAlに対する1価金属元素のモル比(1価金属/Alモル比)は0.3以上である。
ここで、ゼオライト膜表面の1価金属/Alモル比は、X線光電子分光法(XPS)のより得られる数値である。XPSは膜表面の情報を得る分析法であり、この分析法により、膜表面の1価金属/Alモル比を求めることができる。また、1価金属/Alモル比は、Alに対する1価金属元素の合計量のモル比である。
ゼオライト膜表面の1価金属/Alモル比は、通常0.3以上であるが、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.6以上である。また、通常8以下、好ましくは6以下、より好ましくは4以下である。
ゼオライト膜表面のAlに対する1価金属元素のモル比が高いほど、透過性の低い気体
成分の透過度を低下させる傾向があり、分離性能が向上する傾向がある。よって、求める分離性能によって、ゼオライト膜表面のAlに対する1価金属元素のモル比を調整すればよい。
通常、結晶化後に焼成し構造規定剤を除去した状態のゼオライト膜では、1価の金属元素は一部のAlのカウンターカチオンとして存在し、他のAlのカウンターカチオンとしてはプロトンが存在している。このため一般的に膜表面の1価金属/Alモル比が下限未満ではカウンターカチオンとしてプロトンの割合が高くなる。本発明では1価の金属元素を下限以上存在させ、1価の金属元素のサイズに応じた細孔サイズ調整を起こすことで、高い分離性能を達成していると考えられるが、プロトンは、配位数が2におけるイオン半径が−0.2Åであり、カウンターカチオンとしてプロトンが多い場合には細孔径はほぼCHA構造由来のものとなり、細孔サイズの調整ができず高い分離性能が得られない傾向がある。
また、表面の末端シラノールが条件によってはプロトンを解離してカチオンと結合することがある。この場合、極性の変化によって分離する成分の吸着のしやすさが変化し、極性分子の透過量が増加することが考えられるが、下限値未満では十分極性が高くならない。一方、上限を超えている時には、1価の金属はイオン以外の状態でも存在していると考えられ、この場合にはゼオライト膜の細孔入口を防ぎ、透過させたい成分の透過量が小さくなる傾向がある。
また、1価金属としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCsよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。これらの中で、Li、Na及びKよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が好ましく、Naがより好ましい。
ゼオライト膜表面の1価金属/Alモル比は、後述するように、例えばゼオライト膜表面に1価金属を含有(担持)させることにより高くすることができる。
(ゼオライト)
本発明において、ゼオライト膜を構成するゼオライトはCHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを含むものである。アルミノ珪酸塩は、SiとAlの酸化物を主成分とするものであり、本発明の効果を損なわない限り、それ以外の元素が含まれていてもよい。ゼオライトの有効細孔径、極性は、酸処理、シリル化などによっても制御することが可能である。有効細孔径を制御することによって、分離性能を向上させることも可能である。
酸処理を行うことによって、条件によるが、通常骨格に導入された金属の少なくとも一部が骨格から脱離し、また、細孔内に存在する金属イオンはHに交換される傾向がある。金属が骨格から脱離した場合には金属量の減少によって、極性が低下する効果がある。また脱離した金属の原子径に応じて細孔サイズが変化する場合がある。細孔内の金属イオンがHに交換された場合も同様に、交換された金属の原子径と極性の大小によって、細孔サイズと細孔内の極性を変えることができる。
シリル化によっても、ゼオライトの有効細孔径を小さくすることが可能である。外表面の末端シラノールをシリル化し、さらに、シリル化層を積層することによって、一般的にゼオライトの外表面に面した細孔の有効細孔径は小さくなる。
本発明において、アルミノ珪酸塩のSiO/Alモル比は特に限定されないが、通常6以上、好ましくは20以上、より好ましくは30以上、さらに好ましくは32以上、さらに好ましくは35以上、特に好ましくは40以上である。上限は、通常Alが不純物程度の量であり、SiO/Alモル比としては、通常500以下、好ましく
は100以下、より好ましくは90以下、さらに好ましくは80以下、さらに好ましくは65以下、特に好ましくは48以下である。SiO/Alモル比が前記下限未満ではゼオライト膜の緻密性が低下する場合があり、また耐久性が低下する傾向がある。
SiO/Alモル比は、後に述べる水熱合成の反応条件により調整することができる。
なお、SiO/Alモル比は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)により得られた数値である。数ミクロンの膜のみの情報を得るために通常はX線の加速電圧を10kVで測定する。
(CHA型ゼオライト)
本発明において、CHA型ゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでCHA構造のものを示す。天然に産出するチャバサイトと同等の結晶構造を有するゼオライトである。CHA型ゼオライトは0.38×0.38nmの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
CHA型ゼオライトのフレームワーク密度(T/nm)は14.5である。また、SiO/Alモル比は上記と同様である。
ここで、フレームワーク密度(T/nm)とは、ゼオライトのnm(1000Å)あたりの、骨格を構成する酸素以外の元素(T元素)の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まるものである。なお、フレームワーク密度とゼオライトの構造との関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition 2001 ELSEVIERに示されている。
(無機多孔質支持体)
無機多孔質支持体は、その表面などにゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性がある多孔質の無機物質であれば如何なるものであってもよい。具体的には、例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体、鉄、ブロンズ、ステンレスなどの焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられる。
無機多孔質支持体の中で、セラミックス焼結体は、その一部がゼオライト膜合成中にゼオライト化することで界面の密着性を高める効果がある。
さらに、アルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体は、支持体の部分的なゼオライト化が容易であるため、支持体とゼオライトの結合が強固になり緻密で分離性能の高い膜が形成されやすくなるのでより好ましい。
支持体の形状は、気体混合物を有効に分離できるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、平板状、管状のもの、または円筒状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状のものやモノリスなどが挙げられる。
本発明において、無機多孔質支持体の表面などにゼオライト膜を形成、好ましくはゼオライトを膜状に結晶化させる。
支持体が有する平均細孔径は特に制限されないが、細孔径が制御されているものが好ましく、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。細孔径が小さすぎると透過量が小さくなる傾向があり、大きすぎると支持体自体の強度が不十分になったり、緻密なゼオライト膜が形成されにくくなる傾向がある。
支持体の表面は必要に応じて表面をやすり等で研磨してもよい。なお、支持体の表面とはゼオライト膜を形成させる支持体の表面部分を意味し、表面であればそれぞれの形状のどこの表面であってもよく、複数の面であっても良い。例えば円筒管の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。
また、支持体の気孔率は特に制限されず、また特に制御する必要は無いが、気孔率は、通常20%以上60%以下であることが好ましい。気孔率は、気体や液体を分離する際の透過流量を左右し、前記下限未満では透過物の拡散を阻害する傾向があり、前記上限超過では支持体の強度が低下する傾向がある。
(ゼオライト膜複合体)
ゼオライト膜複合体とは、支持体の表面などにゼオライトが膜状に固着しているものであり、場合によっては、ゼオライトの一部が、支持体の内部にまで固着している状態のものが好ましい。
ゼオライト膜複合体としては、例えば、支持体の表面などにゼオライトを水熱合成により膜状に結晶化させたものが好ましい。
ゼオライト膜の支持体上の位置は特に限定されず、管状の支持体を用いる場合、外表面にゼオライト膜をつけてもよいし、内表面につけてもよく、さらに適用する系によっては両面につけてもよい。また、支持体の表面に積層させてもよいし、支持体の表面層の細孔内を埋めるように結晶化させてもよい。この場合、結晶化した膜層の内部に亀裂や連続した微細孔が無いことが重要であり、いわゆる緻密な膜を形成させることが分離性を向上することになる。
本発明におけるゼオライト膜複合体は、膜表面にX線を照射して得たX線回折のパターンにおいて、2θ=17.9°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強
度の0.5倍以上であることが好ましい。
ここで、ピークの強度とは、測定値からバックグラウンドの値を引いたものをさす。(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表
されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比A」ということがある。)でいえば、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上である。上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
また、本発明においてゼオライト膜複合体は、X線回折のパターンにおいて、2θ=9.6°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強度の2.0倍以上の大き
さであることが好ましい。
(2θ=9.6°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で
表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比B」ということがある。)でいえば、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上、さらに好ましくは8以上、特に好ましくは10以上である。上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
ここでいう、X線回折パターンとはゼオライトが主として付着している側の表面にCuKαを線源とするX線を照射して、走査軸をθ/2θとして得るものである。測定するサンプルの形状としては、膜複合体のゼオライトが主として付着している側の表面にX線が照射できるような形状なら何でもよく、膜複合体の特徴をよく表すものとして、作成した
膜複合体そのままのもの、あるいは装置によって制約される適切な大きさに切断したものが好ましい。
ここでいうX線回折パターンは、ゼオライト膜複合体の表面が曲面である場合には自動可変スリットを用いて照射幅を固定して測定してもかまわない。自動可変スリットを用いた場合のX線回折パターンとは、可変→固定スリット補正を実施したパターンを指す。
ここで、2θ=17.9°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち17.9°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
2θ=20.8°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち20.8°±0.6°の範囲に存在するピークで最大のものを指す。
2θ=9.6°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち9.6°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
X線回折パターンで2θ=9.6°付近のピークはCOLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
Figure 2017131887
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(1,0,0)の面に由来するピークである。
また、X線回折パターンで2θ=17.9°付近のピークはCOLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
Figure 2017131887
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(1,1,1)の面に由来するピークである。
X線回折パターンで2θ=20.8°付近のピークはCOLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
Figure 2017131887
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(2,0,−1)の面に由来する
ピークである。
CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライト膜における(1,0,0)面由来のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来のピーク強度の典型的な比(ピーク強度比B)は、非特許文献2によれば2未満である。
そのため、この比が2.0以上であるということは、例えば、CHA構造をrhombohedral settingとした場合の(1,0,0)面が膜複合体の表面と平行に近い向きになるようにゼオライト結晶が配向して成長していることを意味すると考えられる。ゼオライト膜複合体においてゼオライト結晶が配向して成長することは分離性能の高い緻密な膜が出来るという点で有利である。
(1,1,1)面由来のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来のピーク強度の典型的な比(ピーク強度比A)は、非特許文献2によれば0.5未満である。
そのため、この比が0.5以上であるということは、例えば、CHA構造をrhombohedral settingとした場合の(1,1,1)面が膜複合体の表面と平行に近い向きになるようにゼオライト結晶が配向して成長していることを意味すると考えられる。ゼオライト膜複合体においてゼオライト結晶が配向して成長することは分離性能の高い緻密な膜が出来るという点で有利である。
このように、ピーク強度比A、Bのいずれかが、上記した特定の範囲の値であるということは、ゼオライト結晶が配向して成長し、分離性能の高い緻密な膜が形成されていることを示すものである。
ここで、ピーク強度比A、Bはその値が大きいほど配向の程度が強いことを示し、一般的に配向の程度が強いほど緻密な膜が形成されていることを示す。一般的には配向が強いほど分離性能が高い傾向があるが、分離対象の混合物によっては分離性能が高くなる最適な配向の程度は異なるので分離対象の混合物によって適宜、配向の程度が最適なゼオライト膜複合体を選択して使用することが望ましい。
CHA型ゼオライト結晶が配向して成長している緻密なゼオライト膜は、次に述べる通り、ゼオライト膜を水熱合成法により形成する際に、例えば、特定の有機テンプレートを用い、水性反応混合液中にKイオンを共存させることにより達成することができる。
<ゼオライト膜複合体の製造方法>
本発明において、ゼオライト膜の製造方法は、上記した特定のゼオライト膜が形成可能な方法であれば特に制限されず、例えば、(1)支持体上にCHA型ゼオライトを膜状に結晶化させる方法、(2)支持体にCHA型ゼオライトを無機バインダー、あるいは有機バインダーなどで固着させる方法、(3)CHA型ゼオライトを分散させたポリマーを固着させる方法、(4)CHA型ゼオライトのスラリーを支持体に含浸させ、場合によっては吸引させることによりゼオライトを支持体に固着させる方法、などにより製造されたゼオライト膜複合体に、後処理により1価金属を含有(担持)させる方法などの何れの方法も用いることができる。
これらの中で、無機多孔質支持体にゼオライトを膜状に結晶化させ、後処理により1価の金属元素を含有させる方法が特に好ましい。結晶化の方法に特に制限はないが、支持体を、ゼオライト製造に用いる水熱合成用の反応混合物(以下これを「水性反応混合物」ということがある。)中に入れて、直接水熱合成することで支持体表面などにゼオライトを結晶化させる方法が好ましい。
具体的には、例えば、組成を調整して均一化した水性反応混合物を、支持体を内部に緩やかに固定した、オートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉して、一定時間加熱すればよい。
水性反応混合物としては、Si元素源、Al元素源、アルカリ源、および水を含み、さらに必要に応じて有機テンプレートを含むものが好ましい。
水性反応混合物に用いるSi元素源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミのシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン等を用いることができる。
Al元素源としては、例えば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等を用いることができる。なお、Al元素源以外に他の元素源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの元素源を含んでいてもよい。
アルカリ源として用いるアルカリの種類は特に限定されず、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物を用いることができる。
金属水酸化物の金属種は、通常Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Ba、好ましくはNa、K、より好ましくはKである。また、金属水酸化物の金属種は2種類以上を併用してもよく、具体的には、NaとK、あるいはLiとKを併用するのが好ましい。
具体的には、アルカリ源としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物等を用いることができる。
水性反応混合物に用いるアルカリ源として、次に述べる有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオンを用いることができる。
ゼオライトの結晶化において、必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)を用いることができるが、有機テンプレートを用いて合成したものが好ましい。有機テンプレートを用いて合成することにより、結晶化したゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、結晶性が向上する。
有機テンプレートとしては、所望のゼオライト膜を形成しうるものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
有機テンプレートとしては、通常、アミン類、4級アンモニウム塩類が用いられる。例えば、米国特許第4544538号明細書、米国特許公開第2008/0075656号明細書に記載の有機テンプレートが好ましいものとして挙げられる。
具体的には、例えば、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、3−キナクリジナールから誘導されるカチオン、3−exo−アミノノルボルネンから誘導されるカチオン等の脂環式アミンから誘導されるカチオンが挙がられる。これらの中で、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンがより好ましい。1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンを有機テンプレートとしたとき、緻密な膜を形成しうるCHA型ゼオライ
トが結晶化する。
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのうち、N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンがさらに好ましい。N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンの3つのアルキル基は、通常、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で最も好ましい化合物は、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンである。
このようなカチオンは、CHA型ゼオライトの形成に害を及ぼさないアニオンを伴う。このようなアニオンを代表するものには、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が含まれる。これらの中で、水酸化物イオンが特に好適に用いられ、水酸化物イオンの場合には上記のようにアルカリ源として機能する。
その他の有機テンプレートとしては、N,N,N−トリアルキルベンジルアンモニウムカチオンも用いることができる。この場合もアルキル基は、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で、最も好ましい化合物は、N,N,N−トリメチルベンジルアンモニウムカチオンである。また、このカチオンが伴うアニオンは上記と同様である。
水性反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比は、通常、それぞれの元素の酸化物のモル比、すなわちSiO/Alモル比として表わす。
このSiO/Al比は、上記したSiO/Al比をもつゼオライトが形成可能な比であれば特に限定されないが、通常5以上、好ましくは20以上、より好ましくは30以上、さらに好ましくは40以上、特に好ましくは50以上である。また上限は、通常500以下、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、さらに好ましくは140以下である。SiO/Al比がこの範囲にあるとき、緻密な膜を形成しうるCHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを結晶化させることができる。
水性反応混合物中のシリカ源と有機テンプレートの比は、SiOに対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiO比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上であり、通常1以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.2以下である。この範囲にあるとき緻密なゼオライト膜が生成しうることに加えて、生成したゼオライトが耐酸性に強くAlが脱離しにくい。また、この条件において、特に緻密で耐酸性のCHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを形成させることができる。
Si元素源と金属水酸化物の比は、M(2/n)O/SiO(ここで、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nはその価数1または2を示す。)モル比で、通常0.02以上、好ましくは0.04以上、より好ましくは0.05以上であり、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。
CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライト膜を形成する際、アルカリ金属の中でカリウム(K)が含まれる場合がより緻密で結晶性の高い膜を生成させるという点で好ましい。その場合のKと、Kを含むすべてのアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属とのモル比は、通常0.01以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上であり、上限は通常1以下である。
本発明の好ましい態様で構成された水性反応混合物中へのKの添加は、前記のとおり、rhombohedral settingで空間群を
Figure 2017131887
(No.166)とした時に、CHA構造において指数が(1,0,0)の面に由来するピークである2θ=9.6°付近のピーク強度と(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピーク強度の比(ピーク強度比B)、または、(1,1,1)の面に由来するピークである2θ=17.9°付近のピーク強度と(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピーク強度の比(ピーク強度比A)を大きくする傾向がある。
Si元素源と水の比は、SiOに対する水のモル比(HO/SiOモル比)で、通常10以上、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、特に好ましくは50以上であり、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好ましくは150以下である。
水性反応混合物中の物質のモル比がこれらの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成しうる。水の量は緻密なゼオライト膜の生成においてとくに重要であり、粉末合成法の一般的な条件よりも水がシリカに対して多い条件のほうが緻密な膜ができやすい傾向にある。
一般的に、粉末のCHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを合成する際の水の量は、HO/SiOモル比で、15〜50程度である。HO/SiOモル比が高い(50以上1000以下)、すなわち水が多い条件にすることにより、支持体の表面などにCHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトが緻密な膜状に結晶化した分離性能の高いゼオライト膜複合体を得ることができる。
さらに、水熱合成に際して、必ずしも反応系内に種結晶を存在させる必要は無いが、種結晶を加えることで、支持体上にゼオライトの結晶化を促進できる。種結晶を加える方法としては特に限定されず、粉末のゼオライトの合成時のように、水性反応混合物中に種結晶を加える方法や、支持体上に種結晶を付着させておく方法などを用いることができる。ゼオライト膜複合体を製造する場合は、支持体上に種結晶を付着させておくことが好ましい。支持体上に予め種結晶を付着させておくことで緻密で分離性能良好なゼオライト膜が生成しやすくなる。
使用する種結晶としては、結晶化を促進するゼオライトであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためには形成するゼオライト膜と同じ結晶型であることが好ましい。CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライト膜を形成する場合は、CHA型ゼオライトの種結晶を用いることが好ましい。
種結晶の粒子径は小さいほうが望ましく、必要に応じて粉砕して用いても良い。粒径は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、通常5μm以下、好ましくは、3μm以下、より好ましくは2μm以下である。
支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に支持体を浸けて表面に種結晶を付着させるディップ法や、種結
晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを支持体上に塗りこむ方法などを用いることができる。種結晶の付着量を制御し、再現性良く膜複合体を製造するにはディップ法が望ましい。
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、特に水、アルカリ性水溶液が好ましい。アルカリ性水溶液の種類は特に限定されないが、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液が好ましい。またこれらのアルカリ種は混合されていてもよい。アルカリ濃度は特に限定されず、通常0.0001mol%以上、好ましくは0.0002mol%以上、より好ましくは0.001mol%以上、さらに好ましくは0.002mol%以上である。また、通常1mol%以下、好ましくは0.8mol%以下、より好ましくは0.5mol%以下、さらに好ましくは0.2mol%以下である。
分散させる種結晶の量が少なすぎると、支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体表面に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。分散液中の種結晶の量が多すぎると、ディップ法によって支持体上に付着する種結晶の量がほぼ一定となるため、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
支持体にディップ法あるいはスラリーの塗りこみによって種結晶を付着させ、乾燥した後にゼオライト膜の形成を行うことが望ましい。
支持体上に予め付着させておく種結晶の量は特に限定されず、基材1mあたりの質量で、通常0.01g以上、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好ましくは8g以下である。
種結晶の量が下限未満の場合には、結晶ができにくくなり、膜の成長が不十分になる場合や、膜の成長が不均一になったりする傾向がある。また、種結晶の量が上限を超える場合には、表面の凹凸が種結晶によって増長されたり、支持体表面から落ちた種結晶によって、自発核が成長しやすくなって支持体上の膜成長が阻害されたりする場合がある。何れの場合も、緻密なゼオライト膜が生成しにくくなる傾向となる。
水熱合成により支持体上にゼオライト膜を形成する場合、支持体の固定化方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法でゼオライト膜を形成させてもよいし、水性反応混合物を攪拌させてゼオライト膜を形成させてもよい。
ゼオライト膜を形成させる際の温度は特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなることがある。また、反応温度が高すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
加熱(反応)時間は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常10日間以下、好ましくは5日間以下、より好ましくは3日間以下、さらに好ましくは2日間以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難くなることがある。反応時間が長すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
ゼオライト膜形成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水性反応混合物を、
この温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えても差し支えない。
水熱合成により得られたゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。ここで、加熱処理とは、熱をかけてゼオライト膜複合体を乾燥又はテンプレートを使用した場合にテンプレートを焼成することを意味する。
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合は、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。テンプレートの焼成を目的とする場合は、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは450℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、さらに好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。
加熱処理の時間は、ゼオライト膜が十分に乾燥、またはテンプレートが焼成する時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。上限は特に限定されず、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内である。
水熱合成を有機テンプレートの存在下で行った場合、得られたゼオライト膜複合体を、水洗した後に、例えば、加熱処理や抽出などにより、好ましくは加熱処理、すなわち焼成により有機テンプレートを取り除くことが適当である。
焼成温度が低すぎると有機テンプレートが残っている割合が多くなる傾向があり、ゼオライトの細孔が少なく、そのために分離濃縮の際のガスの透過量が減少する場合がある。焼成温度が高すぎると支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるためゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われ分離性能が低くなることがある。
焼成時間は、昇温速度や降温速度により変動するが、有機テンプレートが十分に取り除かれる時間であれば特に限定されず、好ましくは1時間以上、より好ましくは5時間以上である。上限は特に限定されず、例えば、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内、特に好ましくは24時間以内である。焼成は空気雰囲気で行えばよいが、酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
焼成の際の昇温速度は、支持体とゼオライトの熱膨張率の差がゼオライト膜に亀裂を生じさせることを少なくするために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
また、焼成後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要がある。昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
次に、得られたゼオライト膜に後処理を施して1価金属を含有(担持)させる。後処理の方法は、金属元素源(金属イオン源)化合物が含まれる溶液に膜複合体が接触し得る方法であれば特に限定されないが、例えば、金属元素源(金属イオン源)化合物が含まれる溶液に膜複合体を浸漬する方法、金属元素源化合物が含まれる溶液を膜複合体にスプレーする方法や滴下する方法などが挙げられる。なお本明細書において、金属元素源化合物と
金属イオン源化合物とは同義である。
用い得る金属元素源化合物としては、例えば、前記1価金属元素の硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、リン酸塩、塩化物、金属錯体等が挙げられ、好ましくは硝酸塩、硫酸塩、塩化物である。
さらに具体的には、1価金属元素源化合物としては、例えば、Liイオン源化合物、Naイオン源化合物、およびKイオン源化合物等が挙げられる。
Liイオン源化合物としては、例えば、硝酸リチウム、塩化リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウムが挙げられる。
Naイオン源化合物としては、例えば、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。
Kイオン源化合物としては、例えば、硝酸カリウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、硫酸カリウム、水酸化カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三カリウム、酢酸カリウムが挙げられる。
これら金属元素源化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せで併用してもよい。
浸漬やスプレー、滴下溶液中の金属元素源化合物の濃度は、通常0.01モル/L以上、好ましくは0.03モル/L以上、より好ましくは0.05モル/L以上であり、また通常5モル/L以下、好ましくは3モル/L以下、より好ましくは1モル/L以下である。
金属元素源化合物の濃度が低すぎると、分離性能向上の効果が小さくなり、濃度が高すぎると、細孔が閉塞して透過させたい成分の透過量が小さくなる傾向がある。
金属元素源化合物が含まれる溶液に膜複合体を浸漬する場合、温度は特に限定されないが、通常0℃以上、好ましくは20℃以上、更に好ましくは50℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。
圧力は特に限定されず、開放系の容器で大気圧下で実施してもよいし、密閉容器中に入れて、この温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力下で実施してもよい。密閉容器の場合には、さらに必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えても差し支えない。
浸漬した後、水洗してから通常30℃〜120℃の温度で乾燥しても良いし、洗浄しない状態で乾燥してもよい。また必要に応じて乾燥後に焼成してもよい。
金属元素源化合物が含まれる溶液を膜複合体にスプレーや滴下する場合、温度は特に限定されないが、通常0℃以上、好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上であり、通常100℃以下、好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
圧力は特に限定されず、通常大気圧下で行うが、ゼオライト膜複合体の内側を減圧の状態にして行ってもよい。
スプレーや滴下は、通常、ゼオライト膜が、金属元素源化合物が含まれる溶液量が細孔容積量を超えて、表面が濡れる程度まで行うことができ、処理後、通常30℃〜120℃
の温度で乾燥する。また必要に応じて乾燥後に焼成してもよい。
乾燥後の焼成の温度は、通常200℃以上、好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上であり、通常550℃以下、好ましくは525℃以下、より好ましくは500℃以下である。
焼成時間は、硝酸イオン等のアニオンが部分的にあるいは完全に除去される時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。上限は特に限定されず、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内である。
焼成の際の昇温速度は、支持体とゼオライトの熱膨張率の差がゼオライト膜に亀裂を生じさせることを少なくするために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
また、焼成後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要がある。昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
乾燥又は焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は、通常1300L/(m・h)以下、好ましくは900L/(m・h)以下、より好ましくは600L/(m・h)以下、より好ましくは500L/(m・h)以下、さらに好ましくは400L/(m・h)以下、特に好ましくは250L/(m・h)以下、もっとも好ましくは150L/(m・h)以下である。透過量の下限は特に限定されないが、通常0L/(m・h)以上、好ましくは0.01L/(m・h)以上、より好ましくは0.1L/(m・h)以上、さらに好ましくは1L/(m・h)以上である。
ここで、空気透過量とは、実施例の項で詳述するとおり、ゼオライト膜複合体を大気圧下におき、ゼオライト膜複合体の内側を5kPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m・h)]である。
空気透過量はガス透過量に繋がる数値である。空気透過量が多いものは気体成分の透過量も多くなり、空気透過量が多すぎるものは分離が低くなる傾向にある。本発明のゼオライト膜は、空気透過量が適度に多く、かつ十分に高い分離性能をもつものであり、気体の分離性能に好適な性能を持つものである。
かくして製造されるゼオライト膜複合体は、優れた特性をもつものであり、本発明における気体混合物の膜分離手段として好適に用いることができる。
<気体混合物の分離または濃縮方法>
(気体の分離)
本発明の分離または濃縮方法は、上記ゼオライト膜複合体に、複数の成分からなる気体混合物を接触させ、該気体混合物から、透過性の高い成分を透過して分離する、または、透過性の高い成分を透過させて分離することにより透過性の低い成分を濃縮することに特徴を有するものである。本発明におけるゼオライト膜の分離機能の一つは、分子ふるいとしての分離であり、用いるゼオライトの有効細孔径以上の大きさを有する気体分子とそれ以下の気体分子とを好適に分離することができる。
従って、本発明における透過性の高い気体成分とは、CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライト結晶相の細孔を通過しやすい気体分子からなる気体成分であり、分子径が概ね0.38nm程度より小さい気体分子からなる気体成分が好ましい。
ここで、本発明において、分離対象となる気体混合物としては、常温常圧で気体(ガス)であるものに限られず、常温常圧で液体であって気化することにより気体混合物となり得るものも含まれる。気化させた気体混合物を分離対象物とする方法は、ベーパーパーミエーション法(蒸気透過法)と呼ばれる分離または濃縮方法であり、本発明の方法におけるひとつの実施形態である。この方法は、例えば、有機化合物と水との混合物の分離または濃縮に特に好適である。この場合、通常水がゼオライト膜に対する透過性が高いので、混合物から水が分離され、有機化合物は元の混合物中で濃縮される。
本発明において、分離対象となる気体混合物としては、上記のとおり、常温常圧で気体である気体混合物、気化させることにより気体混合物となり得るものであれば特に限定されない。
分離対象物として望ましい気体混合物としては、例えば、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、1−ブテン、2-ブテン、イソブテン、六フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒
素、水などから選ばれる少なくとも1種の成分を含むものが挙げられる。前記ガスを含む気体混合物の成分のうち、パーミエンスの高い成分は、ゼオライト膜複合体を透過し分離され、パーミエンスの低い成分は供給ガス側に濃縮される。
さらに気体混合物としては、上記成分の少なくとも2種の成分を含むものがより好ましい。この場合、2種の成分としては、パーミエンスの高い成分とパーミエンスの低い成分の組合せが好ましい。
ガス分離の条件は、対象とするガス種や組成、膜の性能により異なるが、温度は、通常−20〜300℃、好ましくは0〜200℃、より好ましくは0〜150℃である。0〜25℃での分離は、外気温に近い場合が多く、分離対象ガスの温度調整のためのエネルギーを必要としない、あるいはエネルギーが小さい点で好ましい。ゼオライト膜に吸着性の高いガスは低温で透過度が上がる傾向があるため、このようなガスの透過度を上げる目的で、25℃以下、−20℃以上の範囲で冷却してもよい。
供給ガスの圧力は、分離対象の気体成分が高圧であればそのままの圧力でもよく、適宜圧力を減圧調整して所望の圧力にして用いても良い。分離対象の気体成分が、分離に用いる圧力より低い場合は、圧縮機などで増圧して用いることができる。
供給ガスの圧力は特に制限されないが、通常大気圧若しくは大気圧より大きく、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは、0.11MPa以上である。また、通常上限値は20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは1MPa以下である。
供給側の気体成分と透過側の気体成分の差圧は特に制限されないが、通常20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa以下、更に好ましくは1MPa以下である。また、通常0.001MPa以上、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.02MPa以上である。
ここで、差圧とは、当該ガスの供給側の分圧と透過側の分圧の差をいう。また、圧力[Pa]は、特に断りのない限り、絶対圧を指す。
透過側の圧力は特に制限されないが、通常10MPa以下、好ましくは5MPa以下、
より好ましくは1MPa以下、さらに好ましくは0.5MPa以下である。下限値は特に制限なく、0MPa以上であればよい。0MPaとした時に、透過性の低いガス中の透過性の大きい気体の濃度を最も低い状態となるまで分離することができる。透過側ガスを高い圧力のまま使用する用途があれば、透過側圧力は高く設定すればよい。
供給ガスの流速は、透過する気体の減少を補うことが可能である程度の流速で、また供給ガスにおいて、透過性の小さな気体の膜のごく近傍における濃度と気体全体における濃度が一致するように、気体を混合できるだけの流速であればよい。具体的には、分離ユニットの管径、膜の分離性能にもよるが、例えば、通常0.5mm/sec以上、この好ましくは1mm/sec以上であり、上限は特に制限されないが、通常、1m/sec以下、好ましくは0.5m/sec以下である。
本発明の分離または濃縮方法において、スイープガスを用いてもよい。スイープガスを用いた方法とは、透過側に供給ガスとは異なる種類の気体を流し、膜を透過した気体を回収するものである。
スイープガスの圧力は、通常大気圧であるが特に制限はなく、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下、更に好ましくは1MPa以下であり、下限は、好ましくは0.09MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上である。場合によっては、減圧にして用いても良い。
スイープガスの流速は、特に制限はないが、透過するガスを十分置換できればよく、通常0.5mm/sec以上、好ましくは1mm/sec以上であり、上限は特に制限なく、通常1m/sec以下、好ましくは0.5m/sec以下である。
気体混合物の分離に用いる装置は、特に限定されないが、通常はモジュール(分離膜モジュール)にして用いるのが好ましい。常温常圧で気体である気体混合物を分離対象とする場合の分離膜モジュールは、例えば、図1及び2に模式的に示したような装置でもよいし、「ガス分離・精製技術」(株)東レリサーチセンター2007年発行22頁に例示されている膜モジュールを用いてもよい。図1及び2の装置における気体混合物の分離については、実施例の項において説明する。
ガスの膜分離を行う際には膜を多段にして用いてもよい。すなわち、膜モジュールに分離を行うガスを供給して、膜を透過しなかった非透過側のガスをさらに別の膜モジュールに供給する、あるいは、透過したガスを別の膜モジュールに供給してもよい。前者の方法では、非透過側の透過性の低い成分の濃度をさらに上げることなどができ、後者の方法では透過したガス中の透過性の高い成分の濃度をさらに上げることなどができる。
多段の膜で分離する場合には、後段の膜にガスを供給する際に、必要に応じてガス圧力を昇圧器などで調整してもよい。
また多段で使用する場合には、各段に性能が異なる膜を設置してもよい。通常、膜の性能として、透過性能が高い膜では分離性能が低く、一方、分離性能が高い膜では透過性能が低い傾向がある。このため、分離あるいは濃縮したい気体成分が所定の濃度になるまで処理する際に、透過性が高い膜では、必要膜面積は小さくなる一方、非透過側に濃縮したい透過性の低い成分が透過側へ透過しやすい傾向があり、分離性能が高い膜では、非透過側に濃縮したい透過性の低い成分の透過側へ透過は起こりにくいが、必要膜面積が大きくなる傾向がある。1種類の膜による分離では、必要膜面積と濃縮目的ガスの透過量の関係は制御しにくいが、異なる性能の膜を使用することで、制御が容易になる。膜コストと分離・回収するガスの価格によって、最適な膜面積と濃縮目的ガスの透過量の関係になるよう膜を設置し、全体としてのメリットを最大化できる。
また、ベーパーパーミエーション法は、上記のとおり、液体の混合物を気化させてから分離膜に導入する分離・濃縮方法であるため、蒸留装置と組み合わせて使用することや、より高温、高圧での分離に用いることができる。またベーパーパーミエーション法は、液体の混合物を気化させてから分離膜に導入することから、供給液中に含まれる不純物や、液体状態では会合体やオリゴマーを形成する物質が膜に与える影響を低減することができる。本発明のゼオライト膜複合体は、ベーパーパーミエーション法に対しても好適に用いることができる。
ベーパーパーミエーション法で高温での分離を行う場合、一般的に温度が高いほど、また混合物中の透過性の低い成分の濃度が高いほど、例えば有機化合物と水との混合物の場合、有機化合物の濃度が高いほど分離性能が低下するが、本発明のゼオライト膜複合体は、高温でも、混合物中の透過性の低い成分の濃度が高い場合でも高い分離性能を発現することができる。そして通常、ベーパーパーミエーション法は、液体混合物を気化させてから分離するため、より過酷な条件での分離が必要とされ、ゼオライト膜複合体の耐久性も要求される。本発明のゼオライト膜複合体は、高温条件下でも分離が可能な耐久性を有しているのでベーパーパーミエーション法に好適である。
ベーパーパーミエーション法による気体混合物の分離に用いる装置は、特に限定されないが、通常はモジュール(分離膜モジュール)にして用いるのが好ましい。分離膜モジュールは、例えば、図3に模式的に示したような装置でもよい。
図3において、被分離液13は送液ポンプ14によって気化器15に所定流量で送られ、気化器15での加熱により全量が気化され、被分離ガスとなる。被分離ガスは恒温槽16内のゼオライト膜複合体モジュール17に導入され、ゼオライト膜複合体の外側に供給される。ゼオライト膜複合体モジュール17は、ゼオライト膜複合体を筐体中に納めたものである。ゼオライト膜複合体は真空ポンプ21によって内側が減圧される。被分離ガスとの圧力差は、通常約1気圧程度である。内側の圧力は、図示はしないがピラニーゲージで測定することができる。この圧力差によって被分離ガス中透過物質の水がゼオライト膜複合体を透過する。透過した物質は透過液捕集用トラップ19で捕集される。一方、被分離ガス中の透過しなかった成分は、被分離液回収用トラップ18で液化、捕集される。
(分離性能)
本発明におけるゼオライト膜複合体は、耐薬品性、耐酸化性、耐熱安定性、耐圧性に優れかつ、高い透過性能、分離性能を発揮し、耐久性に優れた性能を持つ。特に無機ガス、低級炭化水素の分離に優れた分離性能を示す。
ここでいう高い透過性能とは、十分な処理量を示し、例えば、膜を透過する気体成分のパーミエンス(Permeance)[mol・(m・s・Pa)−1]が、例えば二酸化炭素を、温度50℃、差圧0.1MPaで透過させた場合、通常1×10−9以上、好ましくは5×10−8以上、より好ましくは1×10−7以上であり、上限は特に限定されず、通常1×10−4以下である。
また、パーミエンス[mol・(m・s・Pa)−1]は、例えばメタンを同様の条件で透過させた場合、通常2×10−7以下、好ましくは1×10−8以下、より好ましくは5×10−9以下であり、理想的にはパーミエンスは0であるが、実用上10−10〜10−14程度以上のオーダーとなる場合がある。
ここで、パーミエンス(Permeance;「透過度」ともいう。)とは、透過する物質量を、膜面積と時間と透過する物質の供給側と透過側の分圧差の積で割ったものであり、単位は、[mol・(m・s・Pa)−1]であり、実施例の項において述べる方
法により算出される値である。
また、ゼオライト膜の選択性は理想分離係数、分離係数により表される。理想分離係数、分離係数は膜分離で一般的に用いられる選択性を表す指標であり、理想分離係数は実施例の項において述べる方法により、分離係数は以下に述べる方法により算出される値である。
また混合ガスの分離において、分離係数を求める場合は下記式により算出する。
分離係数=(Q’/Q’)/(P’/P’) (1)
〔式(1)中、Q’およびQ’は、それぞれ、透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの透過量[mol・(m・s)−1]を示し、P’およびP’は、それぞれ、供給ガス中の透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの分圧[Pa]を示す。〕
分離係数はまた次のように算出できる。
分離係数=(C’/C’)/(C/C) (2)
〔式(2)中、C’およびC’は、それぞれ、透過ガス中の透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの濃度[mol%]を示し、CおよびCは、それぞれ、供給ガス中透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの濃度[mol%]を示す。〕
理想分離係数は、例えば、二酸化炭素とメタンを温度50℃、差圧0.1MPaで透過させた場合、通常10以上、好ましくは20以上、より好ましくは30以上、さらに好ましくは40以上、特に好ましくは50以上である。理想分離係数の上限は完全に二酸化炭素しか透過しない場合でありその場合は無限大となるが、実用上、分離係数は10万程度以下となる場合がある。
分離係数は、1:1のモル比で2つの成分を混合した場合には、通常、理想分離係数と同程度となる。例えば、二酸化炭素とメタンの体積比1:1の混合ガスを、温度50℃、差圧0.1MPaで透過させた場合、通常10以上、好ましくは20以上、より好ましくは30以上、さらに好ましくは40以上、特に好ましくは50以上である。理想分離係数の上限は完全に二酸化炭素しか透過しない場合でありその場合は無限大となるが、実用上、分離係数は10万程度以下となる場合がある。
本発明のゼオライト膜複合体は、上記のとおり、耐薬品性、耐酸化性、耐熱安定性、耐圧性に優れかつ、高い透過性能、分離性能を発揮し、耐久性に優れるものであり、例えば次のようなガス分離技術として特に好適に用いることができる。
二酸化炭素分離技術としては、天然ガスからの二酸化炭素の除去、生活系廃棄物などの有機物の埋め立てにより発生するランドファィルガス(メタン約60%、二酸化炭素40%、微量の窒素、水蒸気含有)からの二酸化炭素除去等が挙げられる。
水素分離技術としては、石油精製工業における水素回収、化学工業の各種反応プロセスにおける水素回収・精製(水素、一酸化炭素、二酸化炭素、炭化水素等の混合物)、燃料電池用の高純度水素の製造などがある。燃料電池用の水素製造は、メタンの水蒸気改質反応により得られ、H、CO、CH、HOの混合ガスから水素の分離が必要とされている。
そのほか、酸素分離技術として、空気からの酸素富化ガスの製造(医療用、燃焼用酸素富化空気など)、窒素分離技術として空気からの窒素素富化ガスの製造(防爆用、酸化防止など)、水蒸気分離(精密機械等の脱湿)、溶存ガス分離(水、有機液体からの脱気)、有機ガス分離(石油精製工業、石油化学工業における有機ガス分離、オレフィン、パラ
フィンの分離)などが挙げられる。
以下、実験例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実験例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は、前記上限または下限の値と下記実験例(製造例又は実施例)の値または実験例(製造例又は実施例)同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。
また、以下の実験例において、ゼオライト膜の物性及び分離性能は、特に明記しない限り次の方法で測定した。
(1)X線回折(XRD)
XRD測定は以下の条件に基づき行った。
・装置名:オランダPANalytical社製X’PertPro MPD
・光学系仕様 入射側:封入式X線管球(CuKα)
Soller Slit(0.04rad)
Divergence Slit(Valiable Slit)
試料台:XYZステージ
受光側:半導体アレイ検出器(X’Celerator)
Ni−filter
Soller Slit(0.04rad)
ゴニオメーター半径:240mm
・測定条件 X線出力(CuKα):45kV、40mA
走査軸:θ/2θ
走査範囲(2θ):5.0−70.0°
測定モード:Continuous
読込幅:0.05°
計数時間:99.7sec
自動可変スリット(Automatic−DS):1mm(照射幅)
横発散マスク:10mm(照射幅)
なお、X線は円筒管の軸方向に対して垂直な方向に照射した。またX線は、できるだけノイズ等がはいらないように、試料台においた円筒管状の膜複合体と、試料台表面に平行な面とが接する2つのラインのうち、試料台表面に接するラインではなく、試料台表面より上部にあるもう一方のライン上に主にあたるようにした。
また、照射幅を自動可変スリットによって1mmに固定して測定し、Materials Data, Inc.のXRD解析ソフトJADE 7.5.2(日本語版)を用いて可変ス
リット→固定スリット変換を行ってXRDパターンを得た。
(2)SEM−EDX
・装置名:SEM:FE−SEM Hitachi:S−4800
EDX:EDAX Genesis
・加速電圧:10kV
倍率5000倍での視野全面(25μm×18μm)を走査し、X線定量分析を行った。
このSEM−EDX測定により、生成したゼオライト膜のSiO/Alモル比を求めた。なお、SEM−EDX測定において、X線の照射エネルギーを10kV程度とすることにより数ミクロンのゼオライト膜のみの情報を得ることができる。
(3)XPS測定
ゼオライト膜表面のXPS(X線光電子分光法)測定を、以下の条件で行った。
・装置名:PHI社製 Quantum2000
・X線源:単色化Al−Kα、出力 16kV−34W(X線発生面積170μmφ)
・帯電中和:電子銃(5μA)、イオン銃(10V)併用
・分光系:パルスエネルギー 187.85eV@ワイドスペクトル
58.70eV@ナロースペクトル(Na1s、Al2p、Si2p、K2p、S2p)
29.35eV@ワイドスペクトル(C1s、O1s、Si2p)
・測定領域:スポット照射(照射面積<340μmφ)
・取り出し角:45°(表面より)
このXPS測定により、生成したゼオライト膜表面の1価金属/Alモル比を求めた。
(4)空気透過量
大気圧下で、ゼオライト膜複合体の一端を封止し、他端を、気密性を保持した状態で5kPaの真空ラインに接続して、真空ラインとゼオライト膜複合体の間に設置したマスフローメーターでゼオライト膜複合体を透過した空気の流量を測定し、空気透過量[L/(
・h)]とした。マスフローメーターとしてはKOFLOC社製8300、Nガス
用、最大流量500ml/min(20℃、1気圧換算)を用いた。KOFLOC社製8
300においてマスフローメーターの表示が10ml/min(20℃、1気圧換算)以
下であるときはLintec社製MM−2100M、Airガス用、最大流量20ml/
min(0℃、1気圧換算)を用いて測定した。
(5)単成分ガス透過試験
単成分ガス透過試験は、図1に模式的に示す装置を用いて、以下のとおり行った。用いた試料ガスは、二酸化炭素(純度99.9%、高圧ガス工業社製)、メタン(純度99.999%、ジャパンファインプロダクツ社製)、水素(純度99.99%以上、HORIBA STEC社製水素発生器OPGU−2200より発生)、窒素(純度99.99%、東邦酸素工業社製)、ヘリウム(純度99.99、ジャパンヘリウムセンター社製)であ
る。
図1において、円筒形のゼオライト膜複合体1は、ステンレス製の耐圧容器2に格納された状態で恒温槽(図示せず)に設置されている。恒温槽には、試料ガスの温度調整が可能なように、温度制御装置が付設されている。
円筒形のゼオライト膜複合体1の一端は、円柱状のエンドピン3で密封されている。他端は接続部4で接続され、接続部4の他端は、耐圧容器2と接続されている。円筒形のゼオライト膜複合体の内側と、透過ガス8を排出する配管11が、接続部4を介して接続されており、配管11は、耐圧容器2の外側に伸びている。耐圧容器2に通ずるいずれかの箇所には、試料ガスの供給側の圧力を測る圧力計5が接続されている。各接続部は気密性よく接続されている。
図1の装置において、単成分ガス透過試験を行う場合は、試料ガス(供給ガス7)を、一定の圧力で耐圧容器2とゼオライト膜複合体1の間に供給し、ゼオライト膜複合体を透過した透過ガス8を、配管11に接続されている流量計(図示せず)にて測定する。
なお、図2に模式的に示す装置においても、次のとおりガス透過試験を行うことができる。
図2において、円筒形のゼオライト膜複合体1は、ステンレス製の耐圧容器2に格納された状態で、恒温槽(図示せず)に設置されている。恒温槽には、試料ガスの温度調整が可能なように、温度制御装置が付設されている。
円筒形のゼオライト膜複合体1の一端は、円形のエンドピン3で密封されている。他端は、接続部4で接続され、接続部4の他端は耐圧容器2と接続されている。円筒形のゼオライト膜複合体の内側と透過ガス8を排出する配管11が、接続部4を介して接続されており、配管11は、耐圧容器2の外側に伸びている。また、ゼオライト膜複合体1には、配管11を経由して、スイープガス9を供給する配管12が挿入されている。さらに、耐圧容器2に通ずるいずれかの箇所には、試料ガスの供給側の圧力を測る圧力計5、供給側の圧力を調整する背圧弁6が接続されている。各接続部は気密性よく接続されている。
図2の装置において、ガス透過試験を行う場合は、試料ガス(供給ガス7)を、一定の流量で耐圧容器2とゼオライト膜複合体1の間に供給し、背圧弁6により供給側の圧力を一定として、配管11から排出される排出ガスの流量を測定する。
さらに具体的には、水分や空気などの成分を除去するため、測定温度以上での乾燥、及び、排気若しくは使用する供給ガスによるパージ処理をした後、試料温度及びゼオライト膜複合体1の供給ガス7側と透過ガス8側の差圧を一定として、透過ガス流量が安定したのちに、ゼオライト膜複合体1を透過した試料ガス(透過ガス8)の流量を測定し、ガスのパーミエンス[mol・(m・s・Pa)−1]を算出する。パーミエンスを計算する際の圧力は、供給ガスの供給側と透過側の圧力差(差圧)を用いる。
上記測定結果に基づき、理想分離係数αを下記式(3)により算出する。
α=(Q/Q)/(P/P) (3)
〔式(3)中、QおよびQは、それぞれ、透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの透過量[mol・(m・s)−1]を示し、PおよびPは、それぞれ、透過性の高いガスおよび透過性の供給側と透過側の低いガスの圧力差[Pa]を示す。〕
これは、各ガスのパーミエンスの比率を示しており、従って、各ガスのパーミエンスを算出し、その比率を求めることで算出ができる。
(調製例1)
無機多孔質支持体上にCHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを直接水熱合成することにより無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
水熱合成用の反応混合物は次のとおり調製した。
1mol/L−NaOH水溶液44.1g、1mol/L−KOH水溶液29.0g、に水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)2.52gを加え、さらに水591gを加えて攪拌し、水酸化アルミニウムを溶解させた。これに有機テンプレートとして、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TMADAOH」と称する。)水溶液(TMADAOH 25質量%含有、セイケム社製)13.5gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)60.0gを加えて2時間撹拌し、水性反応混合物とした。
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.033/0.11/0.073/100/0.04、SiO/Al=30である。
無機多孔質支持体としては、多孔質アルミナチューブ(外径12mm、内径9mm)を400mmの長さに切断した後、圧空で切断時に生じた粉末を除去したものを使用した。
支持体上には水熱合成に先立ち、種結晶を付着させた。上記の方法と同様の方法によりSiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.033/0.1/0.06/40/0.07のゲル組成で160℃、2日間水熱合成して結晶化させた粒径0.5μm程度のCHA型ゼオライトを種結晶として用いた。
この種結晶を脱塩水に約0.3質量%に分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で4時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。
種結晶を付着させた支持体を2本、上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(800ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、160℃で48時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後にゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で4時間以上乾燥させた。
この膜複合体を、それぞれ200mmにカットした後、空気中、電気炉で、500℃、5時間焼成した。焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量の平均値は196g/mであった。生成したゼオライト膜のXRDパターンを図4に示す。図中の*は支持体由来のピークである。XRD測定からCHA型ゼオライトが生成していることがわかった。
粉末のCHA型ゼオライト(米国特許第4544538号明細書においてSSZ−13と一般に呼称されるゼオライト、以下これを「SSZ−13」と称する。)のXRDパターンを図5)に示す。
図4から、生成したゼオライト膜のXRDパターンは、粉末のCHA型ゼオライトであるSSZ−13のXRDパターン(図5)にくらべ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きいことがわかる。
粉末のCHA型ゼオライトであるSSZ−13の(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=0.2に対し、生成したゼオライト膜
の(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)
=1.1であり、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
また、SEM−EDXにより測定した、ゼオライト膜のSiO/Alモル比は34であった。XPSにより測定したゼオライト膜表面のNa/Alモル比は0.19、K/Alモル比は0.07であり、(Na+K)/Alモル比は0.26であった。
(実施例1)
調製例1で得られた膜複合体を40mmにカットし、水35gに硝酸ナトリウム2.96gを溶かした1Mの硝酸ナトリウム水溶液が入ったテフロン(登録商標)製内筒(100ml)に入れた。オートクレーブを密閉し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に支持体−ゼオライト膜複合体を水溶液から取り出し、洗浄後、100℃で4時間以上乾燥させた。
XPSにより測定したゼオライト膜表面のNa/Alモル比は1.05、K/Alモル比は0であり、(Na+K)/Alモル比は1.05であった。
硝酸ナトリウム水溶液で処理した上記のCHA型ゼオライト膜複合体を用いて、単成分ガス透過試験を行った。評価したガスは二酸化炭素、メタン、水素、窒素、ヘリウムである。
まず、前処理として、ゼオライト膜複合体を、140℃で、供給ガス7としてCO
、耐圧容器2とゼオライト膜複合体1との円筒の間に導入して、圧力を約0.16MPaに保ち、ゼオライト膜複合体1の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、70分間以上乾燥し、COの透過量が変化しないことを確認した。
その後、供給側の圧力を0.2MPaとし、供給ガスを各評価ガスに変更した。このとき、ゼオライト膜複合体1の供給ガス7側と透過ガス8側の差圧は、0.1MPaであった。
その後、温度を50℃とし、温度が安定した後に供給ガスを各評価ガスに変更した。このとき、ゼオライト膜複合体1の供給ガス7側と透過ガス8側の差圧は、0.1MPaであった。
このようにして得られた50℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表1に、140℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表2に示した。
(実施例2)
硝酸ナトリウム量を1.49gとし、硝酸ナトリウム水溶液の濃度を0.5Mとした以外は実施例1と同様に硝酸ナトリウム水溶液で処理したゼオライト膜複合体を得た。
上記ゼオライト膜複合体を用いて、実施例1と同様に、単成分ガス透過試験を行った。得られた50℃における各ガスのパーミエンス、分離係数を表1に、140℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表2に示した。
(実施例3)
硝酸ナトリウム量を0.59gとし、硝酸ナトリウム水溶液の濃度を0.2Mとした以外は実施例1と同様に硝酸ナトリウム水溶液で処理したゼオライト膜複合体を得た。
上記ゼオライト膜複合体を用いて、実施例1と同様に、単成分ガス透過試験を行った。得られた50℃における各ガスのパーミエンス、分離係数を表1に、140℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表2に示した。
(実施例4)
硝酸ナトリウム量を0.30gとし、硝酸ナトリウム水溶液の濃度を0.1Mとした以外は実施例1と同様に硝酸ナトリウム水溶液で処理したゼオライト膜複合体を得た。
XPSにより測定したゼオライト膜表面のNa/Alモル比は0.861、K/Alモル比は0.029であり、(Na+K)/Alモル比は0.89であった。
上記ゼオライト膜複合体を用いて、実施例1と同様に、単成分ガス透過試験を行った。得られた50℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表1に、140℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表2に示した。
(例1:透過試験例)
調製例1で得られた膜複合体を40mmにカットし、硝酸ナトリウム水溶液で処理せずに用いた以外は実施例1と同様に、単成分ガス透過試験を行った。得られた50℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表1に、140℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表2に示した
(調製例2)
無機多孔質支持体上にCHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを直接水熱合成することにより無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
水熱合成用の反応混合物は次のとおり調製した。
1mol/L−NaOH水溶液60.1g、1mol/L−KOH水溶液40.0g、に水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)5.03gを加え、さらに水574gを加えて攪拌し、水酸化アルミニウムを溶解させた。これに有機テンプレートとして、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TMADAOH」と称する。)水溶液(TMADAOH 25質量%含有、セイケム社製)13.5gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)60.1gを加えて2時間撹拌し、水性反応混合物とした。
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.067/0.15/0.1/100/0.04、SiO/Al=15である。
無機多孔質支持体としては、多孔質アルミナチューブ(外径12mm、内径9mm)を400mmの長さに切断した後、圧空で切断時に生じた粉末を除去したものを使用した。
支持体上には水熱合成に先立ち、調製例1と同様に種結晶を付着させた。調製例1と同様の上記のCHA型ゼオライトを種結晶とし脱塩水にて約0.3wt%に分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で4時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。
種結晶を付着させた支持体を2本、上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(800ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、160℃で48時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後にゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で4時間以上乾燥させた。
この膜複合体を、それぞれ200mmにカットした後、空気中、電気炉で、500℃、5時間焼成した。焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量の平均値は116g/mであった。
生成したゼオライト膜のXRDパターンを図6に示す。図中の*は支持体由来のピークである。XRD測定からCHA型ゼオライトが生成していることがわかった。
図6から、生成したゼオライト膜のXRDパターンは、粉末のCHA型ゼオライトであるSSZ−13のXRDパターン(図5)にくらべ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きいことがわかる。
粉末のCHA型ゼオライトであるSSZ−13の(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=0.2に対し、生成したゼオライト膜
の(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)
=6.4であり、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
(実施例5)
調製例2で得られた膜複合体を40mmにカットし、実施例1と同様に1Mの硝酸ナトリウム水溶液にいれて処理し、洗浄後、100℃で4時間以上乾燥させた。その後空気中、電気炉で、300℃、4時間焼成した。
XPSにより測定したゼオライト膜表面のNa/Alモル比は3.84、K/Alモル比は0であり、(Na+K)/Alモル比は3.84であった。
上記で得られたゼオライト膜複合体を用い実施例1と同様に、単成分ガス透過試験を行
った。得られた50℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表3に、140℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表4に示した。
表1と2、表3と4の結果のとおり、硝酸ナトリウムで処理したゼオライト膜複合体は処理していないゼオライト膜複合体に比べて、二酸化炭素とメタン、水素とメタンの理想分離係数が高いことが分かる。また、硝酸ナトリウム水溶液の濃度が高くなるにつれて、二酸化炭素とメタンの理想分離係数、水素とメタンの理想分離係数は上昇しており、その関係はほぼ比例関係であった。金属水溶液処理することにより、理想分離係数を調整することができる。
Figure 2017131887
Figure 2017131887
Figure 2017131887
Figure 2017131887
本発明は産業上の任意の分野に使用可能であるが、例えば、化学工業プラント、天然ガスの精製プラント、生ゴミなどからバイオガスを発生させるプラント等の気体混合物(ガス)の分離が必要とされる分野において、また例えば、化学工業プラント、発酵プラント、精密電子部品工場、電池製造工場等の含水有機化合物から水を分離し、有機化合物の回収などが必要とされる分野において、特に好適に使用することができる。
1:ゼオライト膜複合体
2:耐圧容器
3:エンドピン
4:接続部
5:圧力計
6:背圧弁
7:供給ガス
8:透過ガス
9:スイープガス
10:排出ガス
11:透過ガス排出用配管
12:スイープガス導入用配管
13:被分離液
14:送液ポンプ
15:気化器
16:恒温槽
17:ゼオライト膜複合体モジュール
18:被分離液回収用トラップ
19:透過液捕集用トラップ
20:コールドトラップ
21:真空ポンプ

Claims (11)

  1. 複数の気体成分からなる気体混合物から、透過性の高い気体成分を透過して分離するために用いるゼオライト膜複合体であって、CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを含み、ゼオライト膜表面のAlに対する1価金属元素のモル比(1価金属/Alモル比)が0.3以上であるゼオライト膜が、無機多孔質支持体上に形成されてなることを特徴とするゼオライト膜複合体。
  2. 1価金属が、Li、NaおよびKよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属である、請求項1に記載のゼオライト膜複合体。
  3. ゼオライトのSiO/Alモル比が、6以上100以下である、請求項1または2に記載のゼオライト膜複合体。
  4. ゼオライト膜が、膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=17.9°付近のピーク強度が、2θ=20.8°付近のピーク強度の0.5倍以上の値を有
    するものである、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のゼオライト膜複合体。
  5. ゼオライト膜が、膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=9.6°付近のピーク強度が、2θ=20.8°付近のピーク強度の2.0倍以上の値を有す
    るものである、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のゼオライト膜複合体。
  6. ゼオライト膜複合体を、絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気透過量が0L/(m・h)以上900L/(m・h)以下である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のゼオライト膜複合体。
  7. ゼオライト膜が、アルカリ源として少なくともカリウム(K)を含む水熱合成用の反応混合物を用いて形成されたものである、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のゼオライト膜複合体。
  8. CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを含むゼオライト膜が無機多孔質支持体上に形成されてなるゼオライト膜複合体を、1価金属よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属のイオンを含む水溶液に接触させることにより得られたものである、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のゼオライト膜複合体。
  9. 複数の気体成分からなる気体混合物から、透過性の高い気体成分を透過して分離するために用いるゼオライト膜複合体であって、CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを含むゼオライト膜が無機多孔質支持体上に形成されてなるゼオライト膜複合体を、1価金属よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む水溶液に接触させることにより得られたものであることを特徴とするゼオライト膜複合体。
  10. 請求項1ないし9のいずれか1項に記載のゼオライト膜複合体に、複数の気体成分からなる気体混合物を接触させ、該気体混合物から、透過性の高い気体成分を透過して分離する、または、透過性の高い気体成分を透過させて分離することにより透過性の低い気体成分を濃縮することを特徴とする気体成分の分離または濃縮方法。
  11. 気体混合物が、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、1-ブテン、2−ブテン、イソブテン、六
    フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素及び水よりなる群から選ばれる少なくとも1種の成分を含むものである、請求項10に記載の方法。
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