以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る配光制御システムにおいて用いられる車両用前照灯10の内部構造を示す概略断面図である。図1に示す車両用前照灯10は、車両の車幅方向の左右両端にそれぞれ配置される配光可変式前照灯であり、その構造は実質的に左右同等である。車両用前照灯10は、ロービーム配光パターンおよびハイビーム配光パターンを含む複数の配光パターンを切替形成可能に構成されている。
車両用前照灯10は、車両前方方向に開口部を有するランプボディ12と、ランプボディ12の開口部を覆う透明カバー14とで形成される灯室16を有する。灯室16には、光を車両前方方向に照射する灯具ユニット30が収納されている。灯具ユニット30の一部には、当該灯具ユニット30の揺動中心となるピボット機構18aを有するランプブラケット18が形成されている。ランプブラケット18はランプボディ12の内壁面に立設されたボディブラケット20とネジ等の締結部材によって接続されている。したがって、灯具ユニット30は、灯室16内の所定位置に固定されると共に、ピボット機構18aを中心として、例えば前傾姿勢または後傾姿勢等に姿勢変化可能となる。
また、灯具ユニット30の下面には、曲線道路走行時等に進行方向を照らす曲線道路用配光可変前照灯(Adaptive Front-lighing System:AFS)を構成するためのスイブルアクチュエータ22の回転軸22aが固定されている。スイブルアクチュエータ22は、車両側から提供される操舵量のデータや、ナビゲーションシステムから提供される走行道路の形状データ、前方車と自車の相対位置の関係等に基づいて灯具ユニット30をピボット機構18aを中心に進行方向に旋回(スイブル:swivel)させる。その結果、灯具ユニット30の照射範囲が車両の正面ではなく曲線道路のカーブの先に向き、運転者の前方視界を向上させる。スイブルアクチュエータ22は、例えばステッピングモータで構成することができる。なお、スイブル角度が固定値の場合には、ソレノイドなども利用可能である。
スイブルアクチュエータ22は、ユニットブラケット24に固定されている。ユニットブラケット24には、ランプボディ12の外部に配置されたレベリングアクチュエータ26が接続されている。レベリングアクチュエータ26は、例えばロッド26aを矢印M,N方向に伸縮させるモータなどで構成されている。ロッド26aが矢印M方向に伸長した場合、灯具ユニット30はピボット機構18aを中心として後傾姿勢になるように揺動する。逆にロッド26aが矢印N方向に短縮した場合、灯具ユニット30はピボット機構18aを中心として前傾姿勢になるように揺動する。灯具ユニット30が後傾姿勢になると、光軸を上方に向けるレベリング調整ができる。また、灯具ユニット30が前傾姿勢になると、光軸を下方に向けるレベリング調整ができる。このようにレベリング調整をすることで、車両姿勢に応じた光軸調整ができる。その結果、車両用前照灯10による前方照射の到達距離を最適な距離に調整することができる。
なお、このレベリング調整は、車両走行中の車両姿勢に応じて実行することもできる。例えば、車両が走行中に加速する場合は後傾姿勢となり、逆に減速する場合は前傾姿勢となる。したがって、車両用前照灯10の照射方向も車両の姿勢状態に対応して上下に変動して、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。そこで、車両姿勢に基づき灯具ユニット30のレベリング調整をリアルタイムで実行することで、走行中でも前方照射の到達距離を最適に調整できる。これを「オートレベリング」と称することもある。
灯室16の内壁面、例えば、灯具ユニット30の下方位置には、灯具ユニット30の点消灯制御や配光パターンの形成制御を実行する灯具側制御部28が配置されている。この灯具側制御部28は、スイブルアクチュエータ22、レベリングアクチュエータ26等の制御も実行する。
灯具ユニット30は、エーミング調整機構を備えることができる。例えば、レベリングアクチュエータ26のロッド26aとユニットブラケット24の接続部分に、エーミング調整時の揺動中心となるエーミングピボット機構を配置する。また、ボディブラケット20とランプブラケット18の接続部分に、車両前後方向に進退する一対のエーミング調整ネジを車幅方向に間隔をあけて配置する。例えば2本のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット30はエーミングピボット機構を中心に前傾姿勢となり光軸が下方に調整される。同様に2本のエーミング調整ネジを後方に引き戻せば、灯具ユニット30はエーミングピボット機構を中心に後傾姿勢となり光軸が上方に調整される。また、車幅方向左側のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット30はエーミングピボット機構を中心に右旋回姿勢となり右方向に光軸が調整される。また、車幅方向右側のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット30はエーミングピボット機構を中心に左旋回姿勢となり左方向に光軸が調整される。このエーミング調整は、車両出荷時や車検時、車両用前照灯10の交換時に行われる。そして、車両用前照灯10が設計上定められた規定の姿勢に調整され、この姿勢を基準に本実施形態の配光パターンの形成制御が行われる。
図2は、灯具ユニット30を説明するための斜視図である。図1および図2に示すように、灯具ユニット30は、光源31と、光源搭載部32と、リフレクタ33と、回転シェード34を含むシェード機構35と、投影レンズ36と、投影レンズ36を指示するレンズホルダ37とを備える。なお、図2では投影レンズ36の図示を簡略化している。
光源31は、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LEDなどが使用可能である。本実施の形態では、光源31をハロゲンランプで構成する例を示す。光源31は、光源搭載部32に搭載されている。リフレクタ33は、光源31から放射される光を反射する。そして、光源31からの光およびリフレクタ33で反射した光は、その一部が回転シェード34を経て投影レンズ36へと導かれる。
図3は、シェード機構35を説明するための斜視図である。図3は、図2に示す灯具ユニット30から投影レンズ36、レンズホルダ37、リフレクタ33などを取り外した状態を示す。図3に示すように、シェード機構35は、光源からの光の一部を遮光可能に形成された回転シェード34と、回転シェード34を支持するためのシェード支持部38と、回転軸41と、回転シェード34を回転駆動するアクチュエータとしてのシェードモータ39と、シェードモータ39の回転を回転シェード34に伝達するためのギア機構40と、回転シェード34の回転位置を検出するためのシェード位置センサ(図示せず)とを備える。シェードモータ39は、例えばステッピングモータであってよい。シェードモータ39の回転は、灯具側制御部28により制御される。
図4は、回転シェード34を説明するための斜視図である。回転シェード34は、回転軸41を中心に回転可能な略半円筒形状部材で構成される。回転シェード34は、回転位置に応じて光源31およびリフレクタ33からの光の遮り方が変わるように稜線形状が設計されている。
具体的には、回転シェード34は、図4において回転軸41を中心として反時計回り順に、ロービーム配光パターンを形成するための稜線形状34a(以下、「ロービーム形成部34a」とも呼ぶ)と、第1パッシング配光パターンを形成するための稜線形状34b(以下、「第1パッシング形成部34b」とも呼ぶ)と、ハイビーム配光パターンを形成するための稜線形状34c(以下、「ハイビーム形成部34c」とも呼ぶ)と、第2パッシング配光パターンを形成するための稜線形状34d(以下、「第2パッシング形成部34d」とも呼ぶ)と、第1片側ハイビーム配光パターンを形成するための稜線形状34e(以下、「第1片側ハイビーム形成部34e」とも呼ぶ)と、第2片側ハイビーム配光パターンを形成するための稜線形状(以下、「第2片側ハイビーム形成部」とも呼ぶ)とが形成されている。
回転シェード34は、シェードモータ39を用いて回転駆動することにより、投影レンズ36の後方焦点を含む後方焦点面FSの位置に上述の6種類の配光パターン形成部のいずれか1つを移動させることができる。そして、後方焦点面FS上に位置する回転シェード34の稜線形状に応じて光源31およびリフレクタ33からの光の遮り方が変わる。
回転シェード34を通過した光は、投影レンズ36に入射する。投影レンズ36は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、後方焦点面FS上に形成される光源像を反転像として車両用前照灯前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。投影レンズ36は、その光軸Ax上に光源31が位置するように配置される。
次に、図5および図6を用いて上述の6種類の配光パターンと、各配光パターンを形成するための回転シェード34の稜線形状とについて説明する。
図5の上段は、ロービーム配光パターンと、該ロービーム配光パターン形成時の回転シェード34の姿勢(断面図と斜視図)を示す。ロービーム配光パターンLoは、その上端のV−V線(鉛直線)よりも右側に、H−H線(水平線)と平行に延びる対向車線側カットオフラインを、またV−V線よりも左側に、対向車線側カットオフラインよりも高い位置でH−H線と平行に延びる自車線側カットオフラインを、そして対向車線側カットオフラインと自車線側カットオフラインとの間に、両者をつなぐ斜めカットオフラインを有する。斜めカットオフラインは、対向車線側カットオフラインとV−V線との交点から左斜め上方へ45°の傾斜角で延びている。
回転シェード34のロービーム形成部34aは、対向車線側カットオフラインを形成するための対向車線側カットオフライン形成部51と、自車線側カットオフラインを形成するための自車線側カットオフライン形成部52と、斜めカットオフラインを形成するための斜めカットオフライン形成部53とを有する。対向車線側カットオフライン形成部51および自車線側カットオフライン形成部52は、回転シェード34の軸方向に延びる略平面形状の部位であり、斜めカットオフライン形成部53は、対向車線側カットオフライン形成部51と自車線側カットオフライン形成部52の間に位置する、傾斜面を有する突起状部位である。
図5の中段は、第1パッシング配光パターンP1と、該第1パッシング配光パターン形成時の回転シェード34の姿勢(断面図と斜視図)を示す。本実施形態では、ロービーム配光パターン形成時の姿勢から、回転軸41を中心として回転シェード34を一方の回転方向(図5では時計回り)に60°回転することにより、第1パッシング配光パターン形成時の姿勢となる。
第1パッシング配光パターンP1は、自車両の周囲に存在する他車両や歩行者に対して注意を促すための配光パターンである。本実施形態において、第1パッシング配光パターンP1は、ハイビーム配光パターンHiと同じようにH−H線の上方および下方の照射領域を含むが、H−H線より上方の照射領域はハイビーム配光パターンHiより小さい。第1パッシング形成部34bは、このような第1パッシング配光パターンP1に対応した稜線形状を有するように形成される。
図5の下段は、ハイビーム配光パターンHiと、該ハイビーム配光パターン形成時の回転シェード34の姿勢(断面図と斜視図)を示す。本実施形態では、ハイビーム配光パターン形成時の姿勢から、回転軸41を中心として回転シェード34を時計回りに30°回転することにより、ハイビーム配光パターン形成時の姿勢となる。
ハイビーム配光パターンHiは、前方の広範囲および遠方を照明する配光パターンであり、例えば、前方車両や歩行者へのグレアを配慮する必要のない場合に形成される。ハイビーム形成部34cは略平面状に形成されており、光源31およびリフレクタ33からの光を遮光せずに投影レンズ36に通すべく該平面はハイビーム配光パターン形成時において光軸Axから所定距離以上離間している。
図6の上段は、第2パッシング配光パターンP2と、該第2パッシング配光パターン形成時の回転シェード34の姿勢(断面図と斜視図)を示す。本実施形態では、ハイビーム配光パターン形成時の姿勢から、回転軸41を中心として回転シェード34を時計回りに30°回転することにより、第2パッシング配光パターン形成時の姿勢となる。
第2パッシング配光パターンP2もまた、自車両の周囲に存在する他車両や歩行者に対して注意を促すための配光パターンである。第2パッシング配光パターンP2は、H−H線の上方および下方の照射領域を含むが、H−H線より上方の照射領域はハイビーム配光パターンHiより小さい。第2パッシング配光パターンP2は、図5に示す第1パッシング配光パターンP1と同じ形状であってもよいし、異なっていてもよい。第2パッシング形成部34dは、このような第2パッシング配光パターンP2に対応した稜線形状を有するように形成される。
図6の中段は、第1片側ハイビーム配光パターンHi1と、該第1片側ハイビーム配光パターン形成時の回転シェード34の姿勢(断面図と斜視図)を示す。本実施形態では、第2パッシング配光パターン形成時の姿勢から、回転軸41を中心として回転シェード34を時計回りに60°回転することにより、第1片側ハイビーム配光パターン形成時の姿勢となる。
この第1片側ハイビーム配光パターンHi1は、左側通行時に対向車線側(V−V線より右側)をロービームとし、自車線側(V−V線より左側)のみハイビームで照射する配光パターンである。第1片側ハイビーム配光パターンHi1は、V−V線近傍に斜めカットオフラインを有する。第1片側ハイビーム配光パターンHi1は、ハイビーム配光パターンHiの一部に遮光領域を設けた変形ハイビーム配光パターンということができる。第1片側ハイビーム配光パターンHi1は、自車線に先行車や歩行者が存在せず、対向車線に対向車や歩行者が存在する場合に利用することが好ましく、対向車や歩行者にグレアを与えず、自車線側のみのハイビーム照射により運転者の視認性を高めることができる。
第1片側ハイビーム形成部34eは、対向車線側のロービームのカットオフラインを形成するための対向車線側カットオフライン形成部61と、自車線側のハイビームを形成するための自車線側ハイビーム形成部62と、斜めカットオフラインを形成するための斜めカットオフライン形成部63とを有する。
図6の下段は、第2片側ハイビーム配光パターンHi2と、該第2片側ハイビーム配光パターン形成時の回転シェード34の姿勢(断面図と斜視図)を示す。本実施形態では、第1片側ハイビーム配光パターン形成時の姿勢から、回転軸41を中心として回転シェード34を時計回りに90°回転することにより、第2片側ハイビーム配光パターン形成時の姿勢となる。
この第2片側ハイビーム配光パターンHi2は、左側通行時に自車線および対向車線をロービームとし、自車線の歩道側のみハイビームで照射する変形ハイビーム配光パターンである。第2片側ハイビーム配光パターンHi2は、自車線と歩道との境界付近に斜めカットオフラインを有する。第2片側ハイビーム配光パターンHi2もまた、ハイビーム配光パターンHiの一部に遮光領域を設けた変形ハイビーム配光パターンということができる。第2片側ハイビーム配光パターンHi2は、自車線および対向車線に車両が存在する場合に、自車線側の歩道の視認性を高める目的で使用される。
第2片側ハイビーム形成部34fは、自車線および対向車線のロービームのカットオフラインを形成するためのカットオフライン形成部64と、自車線の歩道側のハイビームを形成するための歩道用ハイビーム形成部65と、斜めカットオフラインを形成するための斜めカットオフライン形成部66とを有する。
なお、上記説明では第1片側ハイビーム形成部34eと第2片側ハイビーム形成部34fとを別々に説明したが、実際には第1片側ハイビーム形成部34eの斜めカットオフライン形成部63と第2片側ハイビーム形成部34fの斜めカットオフライン形成部66は連続的に形成されており、回転シェード34の回転に応じてハイビーム配光パターンにおける遮光領域の大きさを可変できる。言い換えると、回転シェード34は、回転シェード34の回転に応じて斜めカットオフライン形成部の位置が軸方向に移動するよう形成されており、その結果、片側ハイビーム配光パターンにおける斜めカットオフラインの位置を、V−V線近傍から自車線と歩道の境界部まで連続的に移動することができる。
以下では説明の便宜上、第1片側ハイビーム配光パターンHi1と第2片側ハイビーム配光パターンHi2との片側ハイビーム配光パターンの斜めカットオフラインの間の位置に斜めカットオフラインを有する中間的な片側ハイビーム配光パターンを、片側ハイビーム配光パターンHiaと適宜総称する。回転シェード34の回転させ斜めカットオフラインを移動させることにより、第1片側ハイビーム配光パターンHi1から片側ハイビーム配光パターンHiaを経て第2片側ハイビーム配光パターンHi2へと、またはその逆に、第2片側ハイビーム配光パターンHi2から片側ハイビーム配光パターンHiaを経て第1片側ハイビーム配光パターンHi1へと、配光パターンを変化させることができる。
上記説明では、図1から図6を参照して、一対の車両用灯具のうち左側の灯具の構造および左側の灯具により形成される配光パターンを説明した。右側の灯具は、説明した配光パターンと同等または略左右対称の配光パターンを形成する。左右の配光パターンはそれぞれ個別的に選択可能であり、左右の灯具はそれぞれ選択された配光パターンを形成する。こうして形成された左右の配光パターンが重ね合わされて、自車前方が照明される。
図7(A)から図7(C)は、先行車と配光パターンとの例示的な関係を説明するための図である。図示されるのは、左側通行の場合で、直線と左カーブとを繰り返す片側2車線の道路での走行シーンである。自車側の2車線が図示されている。図7(A)は直線部での走行を示し、図7(B)はその先の左カーブ部での走行を示し、図7(C)は更にその先の直線部での走行を示す。左側車線と右側車線のそれぞれを先行車700a、700bが走行している。
図7(A)に示されるように、左灯具が形成する左配光パターンは片側ハイビーム配光パターンHiaである。片側ハイビーム配光パターンHiaの非照射領域が先行車700a、700bを包含するように、片側ハイビーム配光パターンHiaの斜めカットオフラインは、左側の先行車700aの左方に位置合わせされている。図示されるように、斜めカットオフラインを先行車700aからいくらか距離をあけて位置決めすることにより、非照射領域のマージンが先行車700aの周囲に与えられてもよい。一方、右灯具が形成する右配光パターンは、先行車700a、700bが存在するため、ロービーム配光パターンLoである。
そして、道路の直線部から左カーブ部に進むと、図7(B)に示されるように、左カーブに沿って進む左側の先行車700aが、自車に対し左方に移動する。それに伴って、左配光パターンは片側ハイビーム配光パターンHiaから第2片側ハイビーム配光パターンHi2へと適応的に変化し、最終的には、先行車700aへの照射を避けるべくロービーム配光パターンLoに切り替えられる。右配光パターンは依然としてロービーム配光パターンLoである。
さらに走行し、左カーブ部から次の直線部に進むと、図7(C)に示されるように、先行車700aは左方から中央側へと戻る。左配光パターンは、ロービーム配光パターンLoから第2片側ハイビーム配光パターンHi2に切り替えられ、片側ハイビーム配光パターンHiaへと適応的に変化する。図7(A)と同様に、片側ハイビーム配光パターンHiaの非照射領域が先行車700a、700bを包含するように、片側ハイビーム配光パターンHiaの斜めカットオフラインは、左側の先行車700aの左方に位置合わせされる。ここでも右配光パターンは依然としてロービーム配光パターンLoである。
このように、直線とカーブの繰り返しによって、先行車700a、700bは、自車前方視野の中央側から左端側へと、または逆に左端側から中央側へと、左右に動く。また、車線変更によっても先行車700a、700bは自車に対し左右に動く。先行車700a、700bが左右に動くたびに、配光が自動的に変更される。例えば、部分的に遮光されたハイビームからロービームへと、またはその逆向きに、配光が変わる。
したがって、仮に先行車700aがロービーム配光パターンLoと第2片側ハイビーム配光パターンHi2との切替位置の付近で左右に動いたとすると、先行車700aは頻繁に切替位置を跨ぎうる。そのたびにロービームとハイビームが切り替わることになる。これはADBモードの正常な動作であるが、切替の頻度が多すぎると自車および先行車700aの運転者には煩わしく感じられる。
ADBモードの実行中、少なくとも一方の灯具がハイビームまたは片側ハイビームであるときハイビームインジケータは点灯する。両方の灯具がロービームであるときハイビームインジケータは消灯する。よって、ハイビームインジケータは、図7(A)に例示した状況では点灯し、図7(B)に例示した状況では消灯する。図7(C)に例示した状況では再び点灯する。
そのため、ロービームとハイビームが頻繁に切り替わると、ハイビームインジケータも同様の頻度で点灯と消灯を繰り返すことになる。現在のビームの状態を適正に表しているにすぎないが、過剰な点滅は、何らかの異常が灯具に起きたためではないかと運転者に誤解させ不安を抱かせる原因となりうる。
そこで、自車に対する前方車両の動きに応じたロービームとハイビームの過敏な切替を抑えるべく、本発明者らは、以下に説明する構成を考案した。
図8は、本発明の実施形態に係る車両用前照灯の配光制御システム100を説明するための機能ブロック図である。配光制御システム100は、上述した車両用前照灯10と、車両に搭載される車両側制御部102と、ライトスイッチ104と、カメラ106と、車速センサ108と、舵角センサ110と、ディマースイッチ112と、ハイビームインジケータ113とを備える。車両用前照灯10は、光源31と、光源31を点灯するための点灯回路70と、シェードモータ39と、スイブルアクチュエータ22と、レベリングアクチュエータ26と、灯具側制御部28と、シェード位置センサ29とを備える。
カメラ106、車速センサ108、舵角センサ110、ディマースイッチ112およびライトスイッチ104は、CAN(Controller Area Network)通信を使用して車両側制御部102と情報を伝送する。カメラ106は、信号線SL1を介して車両側制御部102と接続されている。車速センサ108は、信号線SL2を介して車両側制御部102と接続されている。舵角センサ110は、信号線SL3を介して車両側制御部102と接続されている。ディマースイッチ112は、信号線SL4を介して車両側制御部102と接続されている。ライトスイッチ104は、信号線SL5を介して車両側制御部102と接続されている。ハイビームインジケータ113は、信号線SL7を介して車両側制御部102と接続されている。車両側制御部102は、常時、カメラ106、車速センサ108、舵角センサ110、ディマースイッチ112、ライトスイッチ104、およびハイビームインジケータ113の信号を監視している。
また、車両側制御部102は電源115の電圧を監視している。また、車両側制御部102は、信号線L1を介して灯具側制御部28と接続されている。車両側制御部102と灯具側制御部28は、信号線L1を介して、LIN(Local Interconnect. Network)通信を使用して情報を伝送する。なお、車両側制御部102からは、左右一対の車両用前照灯10へ信号線L1が接続されている。
配光制御システム100において、ライトスイッチ104がオンされると、リレー105がオン状態となってバッテリ114から車両用前照灯10の点灯回路70に電圧VLが与えられ、点灯回路70により光源31が点灯する。また、ライトスイッチ104がオンされると、リレー105を介してバッテリ114から灯具側制御部28にも電圧VLが与えられ、灯具側制御部28がリセットされる。点灯回路70は、信号線SL6を介して車両側制御部102と接続されている。信号線SL6は、光源31、点灯回路70の正常性を示す信号を車両側制御部102に送る。車両側制御部102は、該信号に基づいて、光源31、点灯回路70の異常を認識する。
また、車両のイグニッションスイッチ(図示せず)がオンされると、イグニッション(IG)電源115から車両側制御部102に電圧VGが与えられ、車両側制御部102がリセットされる。また、イグニッションスイッチがオンされると、IG電源115は灯具側制御部28にも電圧VGを与える。従って、灯具側制御部28は、バッテリ114とIG電源115の両方から電力の供給を受けることができる。なお、IG電源115もバッテリ114から電力の供給を受けている。
車両側制御部102は、カメラ106、車速センサ108、舵角センサ110等から自車の走行状態を示す状態信号を受ける。灯具側制御部28は、車両側制御部102と通信可能に接続され、車両側制御部102からの配光指示信号を受けてシェードモータ39、スイブルアクチュエータ22およびレベリングアクチュエータ26を制御する。
配光制御システム100は、運転者によるディマースイッチ112の操作に応じて手動でロービーム配光パターンとハイビーム配光パターンとを切り替え可能である。以下、このような手動で配光パターンを制御するモードを「手動モード」と呼ぶ。例えば運転者がロービーム配光パターンを選択した場合、車両側制御部102は灯具側制御部28にロービーム配光パターンを形成するよう指示を出す。指示を受けた灯具側制御部28は、ロービーム配光パターンが形成されるようシェードモータ39を制御する。
また、配光制御システム100は、ディマースイッチ112の操作によらず、車両の走行状態を各種センサで検出して、車両周囲状況に最適な配光パターンを形成可能である。以下、このように配光パターンを制御するモードを「自動モード」と称する。自動モードには、例えば、車両周囲の状況を各種センサで検出して、車両周囲状況に最適な配光パターンを形成する自動配光制御モード、いわゆるADBモードが含まれる。ADBモードは、例えば、ライトスイッチ104からADBモードの実行指示がなされた場合に実行される。
配光制御システム100は、手動モードおよび自動モードのいずれか一方の照射モードで動作するよう構成されている。
例えば、自車の前方に前走車が検出された場合、車両側制御部102は、前走車へのグレアを防止するべきであると判断して、例えばロービーム配光パターンが形成されるよう灯具側制御部28に指示を出す。また、前走車が存在しないことが検出できた場合、車両側制御部102は、運転者の視界を向上させるべきであると判断して、例えばハイビーム配光パターンが形成されるよう灯具側制御部28に指示を出す。
このように前走車を検出するために、車両側制御部102には例えばステレオカメラなどのカメラ106が接続されている。カメラ106で撮像された画像データは、車両側制御部102に送信され、車両側制御部102が信号処理をして画像解析を行い、撮像範囲内における前走車を検知する。そして、車両側制御部102は、取得した前走車の情報に基づいて最適な一つの配光パターンを選択し、その選択した配光パターンを形成するように灯具側制御部28に指示を出す。なお、前走車を検出する手段は適宜変更可能であり、カメラ106に代えて、例えばミリ波レーダや赤外線レーダなど他の検出手段を用いてもよい。また、それらを組み合わせてもよい。
また、車両側制御部102は、車両に通常搭載されている車速センサ108、舵角センサ110などからの情報も取得可能であり、車両の走行状態や走行姿勢に応じて形成する配光パターンを選択したり、光軸の方向を変化させて配光パターンを変化させることができる。例えば車両側制御部102は、舵角センサ110からの情報に基づき車両が旋回していると判定した場合、旋回方向の視界を向上させるような配光パターンの形成を灯具側制御部28に指示する。この指示を受けた灯具側制御部28は、スイブルアクチュエータ22を制御して灯具ユニット30の光軸をこれから進行する方向に向ける。また、車両側制御部102は、車速センサ108からの情報に基づき車両姿勢が変化したと判定した場合、前方照射の到達距離が最適となる配光パターンの形成を灯具側制御部28に指示する。この指示を受けた灯具側制御部28は、車両姿勢の前傾、後傾に応じてレベリングアクチュエータ26を制御して、灯具ユニット30の光軸を車両上下方向について調整する。
車両側制御部102は、左右の少なくとも一方の灯具ユニット30がハイビーム配光パターンを形成するよう対応する灯具側制御部28に指示するとき、ハイビームインジケータ113を点灯する。また、車両側制御部102は、両方の灯具ユニット30がロービーム配光パターンを形成するよう両方の灯具側制御部28に指示するとき、ハイビームインジケータ113を消灯する。よって、上述の手動モードにおいては、ディマースイッチ112の操作に連動してハイビームインジケータ113は点消灯する。ADBモードにおいては、少なくとも一方の灯具ユニット30がハイビームまたは片側ハイビームであるときハイビームインジケータ113は点灯し、両方の灯具ユニット30がロービームであるときハイビームインジケータ113は消灯する。
上記の説明から理解されるように、配光制御システム100は、前方車両に非照射領域を適応させるよう配光を動的に制御する車両用灯具システムを構成する。配光制御システム100は、複数の配光パターンを形成可能な車両用灯具として機能する車両用前照灯10を備える。
ここで、複数の配光パターンは、ロービーム配光パターンLo、ハイビーム配光パターンHi、および、ハイビーム配光パターンHiから前方車両領域(すなわち、前方車両およびその近傍の領域)を除外した適応的ハイビーム配光パターンと、を含む。適応的ハイビーム配光パターンの一例である照射領域可変の片側ハイビーム配光パターンは、少なくとも第1区域に照射領域を有し、第1区域は後述するように車幅方向第1端部に設定される。適応的ハイビーム配光パターンは、第1片側ハイビーム配光パターンHi1、第2片側ハイビーム配光パターンHi2、および、これら2つの片側ハイビーム配光パターンの斜めカットオフラインの中間に斜めカットオフラインを有する片側ハイビーム配光パターンHiaを含む。こうした適応的ハイビーム配光パターンは、上述のように、第1片側ハイビーム形成部34eと第2片側ハイビーム形成部34fとの間で回転シェード34を任意の回転角度に姿勢を定めることにより、形成される。
また、配光制御システム100は、特定部116、選択部118、更新部120、および調整部122を備える。図示される実施形態においては、特定部116、選択部118、更新部120、および調整部122は、車両側制御部102に備えられている。しかし、他の実施形態においては、特定部116、選択部118、更新部120、および調整部122のうち少なくとも1つが灯具側制御部28に備えられていてもよい。
なお、車両側制御部102や灯具側制御部28等は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図8では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
特定部116は、自車前方に設定される複数の区域から前方車両が位置する区域を、カメラ106等を含む前方車両検知部の検知結果に基づいて特定するよう構成されている。前方車両検知部の検知結果は、例えば、前方車両の角度座標を含んでもよい。選択部118は、複数の配光パターンのうち形成すべき配光パターンを、特定部116が特定した区域に応じて選択するよう構成されている。
更新部120は、前方車両領域(すなわち、前方車両およびその近傍の領域)を前方車両検知部の検知結果に基づいて更新するよう構成されている。調整部122は、更新された前方車両領域が除外されるよう適応的ハイビーム配光パターンの形状を調整するよう構成されている。更新部120および調整部122は選択部118に備えられていてもよい。
図9は、自車前方視野に設定される複数の区域を説明するための模式図である。複数の区域は、車幅方向第1端部に設定される第1区域と、車幅方向第2端部側で第1区域に隣接して設定される遷移区域と、車幅方向第2端部側で遷移区域に隣接して設定される第2区域と、を含む。これら複数の区域は、左右一対の車両用灯具にそれぞれ個別的に定められてもよい。
図9に示す区域設定の一例によると、左側の灯具に関しては、左端部に位置する左第1区域900Lと、その右側で左第1区域900Lに隣接する左遷移区域902Lと、その右側で左遷移区域902Lに隣接する左第2区域904Lとが設定される。自車前方の左半分がこれら3つの区域に分割されている。右側の灯具に関しては、自車前方の右半分が右第1区域900Rに設定される。このようにして、左右一対の車両用灯具の各々について第1区域900L、900Rはそれぞれ左遷移区域902Lの車幅方向外側に設定される。これらの区域は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。
加えて、右第1区域900Rの左側または右側に隣接する右遷移区域と、右遷移区域の左側または右側に隣接する右第2区域とが設定されてもよい。右第1区域900Rと左第2区域904Lとは自車前方視野の中央部で互いに左右に隣接してもよいし、互いに部分的に重なり合ってもよい。
図9に示す一例においては便宜上、2つの区域間の境界線が水平線H−Hに垂直であるが、これに限られず、水平線H−Hに対し任意の傾斜角を有してもよい。二区域間の境界線は、例えば、片側ハイビーム配光パターンの斜めカットオフラインに少なくとも部分的に一致し又は平行であってもよいし、あるいはそのほか任意の直線、折れ線、曲線、またはこれらの組み合わせであってもよい。
左側の灯具が形成すべき配光パターンとして、選択部118は、左第1区域900Lに前方車両が位置すると特定部116が特定した場合に、ロービーム配光パターンLoを選択する。選択部118は、左第2区域904Lに前方車両が位置すると特定部116が特定した場合に、適応的ハイビーム配光パターンを選択する。すなわち、左第2区域904Lに前方車両が位置するときは、その位置に応じて、第1片側ハイビーム配光パターンHi1、第2片側ハイビーム配光パターンHi2、または片側ハイビーム配光パターンHiaが選択される。上述のように、調整部122は、更新部120の更新結果に基づき、第1片側ハイビーム配光パターンHi1、第2片側ハイビーム配光パターンHi2、または片側ハイビーム配光パターンHiaを相互に適応的に変化させることができる。選択部118は、左遷移区域902Lに前方車両が位置すると特定部116が特定した場合に、現在選択されている配光パターンを継続する。
また、選択部118は、右側の灯具が形成すべき配光パターンとして、右第1区域900Rに前方車両が位置すると特定部116が特定した場合に、ロービーム配光パターンLoを選択する。なお左側の場合と同様に、選択部118は、右第2区域に前方車両が位置すると特定部116が特定した場合に、適応的ハイビーム配光パターンを選択し、右遷移区域に前方車両が位置すると特定部116が特定した場合に、現在選択されている配光パターンを継続してもよい。
図10(A)から図10(F)は、本発明の実施形態に係る先行車と配光パターンとの関係を説明するための図である。図示されるのは、左側通行の場合で、直線と左カーブとを繰り返す片側2車線の道路での走行シーンである。左側車線と右側車線のそれぞれを先行車700a、700bが走行している。
図10(A)は左カーブ部での走行を示し、図10(B)から図10(E)はその先の直線部での走行を示し、図10(F)は更にその先の左カーブ部での走行を示す。そのような走行シーンにおいて左側の先行車700aが徐々に右側へと動いていく様子が図10(A)から図10(C)に示されており、図10(A)、図10(B)、図10(C)と進むにつれて、先行車700aは、図9を参照して説明した左第1区域900Lから左遷移区域902L、左第2区域904Lへと動いている。先行車700aが左側へと戻っていく様子が図10(D)から図10(F)に示されており、図10(D)、図10(E)、図10(F)と進むにつれて、先行車700aは、左第2区域904Lから左遷移区域902L、左第1区域900Lへと戻っている。図10(A)から図10(F)それぞれの下部には、そのときのハイビームインジケータ113の点灯状態が併せて表示されている。
図10(A)に示されるように、左カーブに沿って進む左側の先行車700aは、自車に対し左方を走行している。上述のように先行車700aは左第1区域900Lにある。そのため、左灯具が形成する左配光パターンはロービーム配光パターンLoである。このとき右側の先行車700bは右第1区域900Rにあるため、右灯具が形成する右配光パターンもロービーム配光パターンLoである。左右ともにロービーム配光パターンLoであるので、ハイビームインジケータ113は消灯している。以下、右配光パターンは図10(F)まで常にロービーム配光パターンLoである。
道路の左カーブ部から直線部に進むと、先行車700aは自車に対し右方に移動する。先行車700aが左第1区域900Lから左遷移区域902Lに進入しても、選択部118は、図10(B)に示すように、いまのロービーム配光パターンLoを続ける。図7(A)および図7(C)を参照することにより理解されるように、図10(B)の状況で先行車700aに照射することなく片側ハイビーム配光パターンHiaを点灯することは可能ではあるが、ロービームに保持されている。
そして、先行車700aが更に右方に移動して左遷移区域902Lから左第2区域904Lに進入したとき初めて、図10(C)に示すように、左配光パターンは、ロービーム配光パターンLoから片側ハイビーム配光パターンHiaへと速やかに切り替えられる。片側ハイビーム配光パターンHiaの非照射領域が先行車700a、700bを包含するように、片側ハイビーム配光パターンHiaの斜めカットオフラインは、左側の先行車700aの左方に位置合わせされている。図示されるように、斜めカットオフラインを先行車700aからいくらか距離をあけて位置決めすることにより、非照射領域のマージンが先行車700aの左方に与えられてもよい。片側ハイビームの点灯によりハイビームインジケータ113が点灯する。
このように、左配光パターンの切替は、片側ハイビーム配光パターンHiaの形状をはっきりと形成することのできる中央寄りの場所に先行車700aが位置するときに行われる。図7(B)および図7(C)を参照して説明した場合のように、最小の照射領域をもつ第2片側ハイビーム配光パターンHi2が点灯しても先行車700aに光が当たらない場所に先行車700aが移動したとき直ちに左配光パターンが第2片側ハイビーム配光パターンHi2に切り替わるのではない。
先行車700aが左第2区域904Lにある限りは、図10(D)に示されるように、片側ハイビーム配光パターンHiaに保持されている。片側ハイビーム配光パターンHiaの斜めカットオフラインは、先行車700aの動きに合わせて左右に動く。また、先行車700aが左方に動き、左第2区域904Lから左遷移区域902Lに戻ったときは、図10(E)に示すように、いまの配光パターン、つまり片側ハイビーム配光パターンHiaが継続されるから、その斜めカットオフラインが先行車700aに追従して左方に移動する。ハイビームインジケータ113の点灯も継続される。
そして、道路の直線部から左カーブ部に進むと、図10(F)に示されるように、先行車700aが、自車に対し左方に移動する。それに伴って、左配光パターンは片側ハイビーム配光パターンHiaから第2片側ハイビーム配光パターンHi2へと適応的に変化し、最終的には、先行車700aへの照射を避けるべくロービーム配光パターンLoに切り替えられる。左右ともにロービーム配光パターンLoであるので、ハイビームインジケータ113は消灯する。
ロービームから片側ハイビームに切り替わる前方車両位置が、片側ハイビームからロービームに切り替わる前方車両位置と異なっており、前者が中央側に位置し、後者がそれより端部側に位置する。これが、ロービームと片側ハイビームとの切替動作にいわばヒステリシスのような効果を与えている。
先行車700aが左右に比較的大きく動いたときにはその位置に応じてロービーム配光パターンLoから片側ハイビーム配光パターンHiaへと、またはその反対に、配光パターンが適切に切り替えられる。したがって、自車の遠方視界確保と前方車両へのグレア低減との両立などADB制御の既存の利点を享受することができる。
一方、先行車700aの動きが比較的小さい場合には、元の配光パターンが維持される。例えば、図10(A)、図10(B)、図10(F)から理解されるように、先行車700aが第1区域から遷移区域へと動き、第1区域に戻る場合には、配光パターンの切替は行われず、ロービームであり続ける。よって、この往復移動を通じてハイビームインジケータ113は消灯している。また、図10(C)、図10(D)、図10(E)から理解されるように、先行車700aが第2区域から遷移区域へと動き、第2区域に戻る場合には、片側ハイビームが継続され、ハイビームインジケータ113は点灯している。このようにして、配光の切替頻度が抑制されるとともに、ハイビームインジケータ113の過剰な点滅が防止される。
図11は、実施の形態に係る車両用灯具システムが実行する制御の一例を示すフローチャートである。このフローは、ライトスイッチ104によりADBモードの実行指示がなされると開始され、所定のタイミングで繰り返し実行される。また、このフローは、一対の車両用灯具のそれぞれについて個別に実行される。
図11に示すように、車両側制御部102は、自車前方に設定される複数の区域から前方車両が位置する区域を特定する(S10)。複数の区域は、自車前方視野における端部区域、中央区域、およびこれら二区域に挟まれた中間区域を含んでもよい。端部区域、中央区域、中間区域はそれぞれ、上述の第1区域、第2区域、遷移区域に相当する。このような、前方車両のおおよその場所の特定を、車両側制御部102は、カメラ106および各種センサ等の検出手段を含む前方車両検知部の検知結果に基づいて行う。
車両側制御部102は、車両用灯具が形成可能である複数の配光パターンから、車両用灯具が形成すべき配光パターンを選択する(S12)。車両側制御部102は、前方車両が位置すると特定された区域に応じて配光パターンを選択する。具体的には、車両側制御部102は、端部区域に前方車両が位置すると特定された場合にはロービーム配光パターンを選択し、中央区域に前方車両が位置すると特定された場合には適応的ハイビーム配光パターンを選択する。車両側制御部102は、中間区域に前方車両が位置すると特定された場合には、現在選択されている配光パターンを継続する。適応的ハイビーム配光パターンが選択されているとき、車両側制御部102は必要に応じて、照明されないよう適応的ハイビーム配光パターンから除外される前方車両領域を前方車両検知部の検知結果に基づいて更新し、更新された前方車両領域が除外されるよう適応的ハイビーム配光パターンの形状を調整する。車両側制御部102は、形成すべき配光パターンを表す配光指示信号を生成し、これを灯具側制御部28に送信する。
灯具側制御部28は、受信した配光指示信号に従って配光パターンを形成する(S14)。灯具側制御部28は、シェードモータ39、スイブルアクチュエータ22およびレベリングアクチュエータ26等に制御信号を送信し、配光パターンの形成を指示して、本ルーチンを終了する。
以上説明したように、本実施形態によると、直線とカーブを繰り返す片側複数車線の道路をADB制御の実行中に走行するときに起こりうるハイビームとロービームの高頻度の切替を抑制することができる。頻繁な切替に起因して自車や前方車両または他の交通者にもたらされうる煩わしさ等の違和感を軽減し、ハイビームインジケータの点灯と消灯の頻繁な繰り返しを起こりにくくすることができる。
図12(a)および(b)は、灯具ユニットの別の実施形態を説明するための図である。図12(a)は、灯具ユニット130を構成する一部の要素間の位置関係を示す垂直断面図である。図12(b)は、灯具ユニット130を構成する一部の要素間の位置関係を示す平面図である。
図12(a)および(b)に示す灯具ユニット130は、主に、光源として発光ダイオード(LED)を用いている点が図1に示す灯具ユニット30と異なる。灯具ユニット130は、LED131、ヒートシンク132、リフレクタ133、投影レンズ134、レンズホルダ135、シェード機構137を備える。シェード機構137は、回転シェード136、シェードモータ139、ギア機構140を備える。
LED131は、ヒートシンク132に対して固定されている。ヒートシンク132は、LED131から発する熱を発散させるのに適した材質および形状とされている。LED131から出射された光は、リフレクタ133によって反射され前方に向かう。その光の少なくとも一部は、リフレクタ133の前方に配置された投影レンズ134を通過する。
リフレクタ133は、車両の前後方向に延びる光軸A1を中心軸とする略楕円球面を基調とする反射面を有している。LED131は、反射面の鉛直断面を構成する楕円の第1焦点に配置されている。これにより、LED131から出射された光が当該楕円の第2焦点に収束するように構成されている。
投影レンズ134は樹脂製であり、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズである。投影レンズ134は、後方焦点Fがリフレクタ133の反射面の第2焦点に一致するように配置されており、後方焦点F上の像を車両前方に反転像として投影するように構成されている。投影レンズ134の周縁部はレンズホルダ135により保持され、ヒートシンク132に対して固定されている。
回転シェード136は、LED131から出射された光の一部を遮るように、投影レンズ134の後方に配置されている。回転シェード136は回転軸A2を有しており、当該回転軸A2が、投影レンズ134の後方焦点Fの下方を通るように配置されている。シェードモータ139およびギア機構140は、回転シェード136を回転軸A2周りに回転させる。シェードモータ139は、例えばステッピングモータであってよい。シェードモータ39の回転は、灯具側制御部28(図1,7参照)により制御される。回転シェード136は、回転位置に応じてリフレクタ133からの光の遮り方が変わるように稜線形状が設計されている。従って、回転シェード136の回転位置を変化させることで、車両前方に形成される配光パターンを変化させることができる。
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。