以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る配光制御システムにおいて用いられる車両用前照灯10の内部構造を示す概略断面図である。図1に示す車両用前照灯10は、車両の車幅方向の左右両端にそれぞれ配置される配光可変式前照灯であり、その構造は実質的に左右同等である。車両用前照灯10は、ロービーム配光パターンおよびハイビーム配光パターンを含む複数の配光パターンを切替形成可能に構成されている。
車両用前照灯10は、車両前方方向に開口部を有するランプボディ12と、ランプボディ12の開口部を覆う透明カバー14とで形成される灯室16を有する。灯室16には、光を車両前方方向に照射する灯具ユニット30が収納されている。灯具ユニット30の一部には、当該灯具ユニット30の揺動中心となるピボット機構18aを有するランプブラケット18が形成されている。ランプブラケット18はランプボディ12の内壁面に立設されたボディブラケット20とネジ等の締結部材によって接続されている。したがって、灯具ユニット30は、灯室16内の所定位置に固定されると共に、ピボット機構18aを中心として、例えば前傾姿勢または後傾姿勢等に姿勢変化可能となる。
また、灯具ユニット30の下面には、曲線道路走行時等に進行方向を照らす曲線道路用配光可変前照灯(Adaptive Front-lighing System:AFS)を構成するためのスイブルアクチュエータ22の回転軸22aが固定されている。スイブルアクチュエータ22は、車両側から提供される操舵量のデータや、ナビゲーションシステムから提供される走行道路の形状データ、前方車と自車の相対位置の関係等に基づいて灯具ユニット30をピボット機構18aを中心に進行方向に旋回(スイブル:swivel)させる。その結果、灯具ユニット30の照射範囲が車両の正面ではなく曲線道路のカーブの先に向き、運転者の前方視界を向上させる。スイブルアクチュエータ22は、例えばステッピングモータで構成することができる。なお、スイブル角度が固定値の場合には、ソレノイドなども利用可能である。
スイブルアクチュエータ22は、ユニットブラケット24に固定されている。ユニットブラケット24には、ランプボディ12の外部に配置されたレベリングアクチュエータ26が接続されている。レベリングアクチュエータ26は、例えばロッド26aを矢印M,N方向に伸縮させるモータなどで構成されている。ロッド26aが矢印M方向に伸長した場合、灯具ユニット30はピボット機構18aを中心として後傾姿勢になるように揺動する。逆にロッド26aが矢印N方向に短縮した場合、灯具ユニット30はピボット機構18aを中心として前傾姿勢になるように揺動する。灯具ユニット30が後傾姿勢になると、光軸を上方に向けるレベリング調整ができる。また、灯具ユニット30が前傾姿勢になると、光軸を下方に向けるレベリング調整ができる。このようにレベリング調整をすることで、車両姿勢に応じた光軸調整ができる。その結果、車両用前照灯10による前方照射の到達距離を最適な距離に調整することができる。
なお、このレベリング調整は、車両走行中の車両姿勢に応じて実行することもできる。例えば、車両が走行中に加速する場合は後傾姿勢となり、逆に減速する場合は前傾姿勢となる。したがって、車両用前照灯10の照射方向も車両の姿勢状態に対応して上下に変動して、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。そこで、車両姿勢に基づき灯具ユニット30のレベリング調整をリアルタイムで実行することで、走行中でも前方照射の到達距離を最適に調整できる。これを「オートレベリング」と称することもある。
灯室16の内壁面、例えば、灯具ユニット30の下方位置には、灯具ユニット30の点消灯制御や配光パターンの形成制御を実行する灯具側制御部28が配置されている。この灯具側制御部28は、スイブルアクチュエータ22、レベリングアクチュエータ26等の制御も実行する。
灯具ユニット30は、エーミング調整機構を備えることができる。例えば、レベリングアクチュエータ26のロッド26aとユニットブラケット24の接続部分に、エーミング調整時の揺動中心となるエーミングピボット機構を配置する。また、ボディブラケット20とランプブラケット18の接続部分に、車両前後方向に進退する一対のエーミング調整ネジを車幅方向に間隔をあけて配置する。例えば2本のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット30はエーミングピボット機構を中心に前傾姿勢となり光軸が下方に調整される。同様に2本のエーミング調整ネジを後方に引き戻せば、灯具ユニット30はエーミングピボット機構を中心に後傾姿勢となり光軸が上方に調整される。また、車幅方向左側のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット30はエーミングピボット機構を中心に右旋回姿勢となり右方向に光軸が調整される。また、車幅方向右側のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット30はエーミングピボット機構を中心に左旋回姿勢となり左方向に光軸が調整される。このエーミング調整は、車両出荷時や車検時、車両用前照灯10の交換時に行われる。そして、車両用前照灯10が設計上定められた規定の姿勢に調整され、この姿勢を基準に本実施形態の配光パターンの形成制御が行われる。
図2は、灯具ユニット30を説明するための斜視図である。図1および図2に示すように、灯具ユニット30は、光源31と、光源搭載部32と、リフレクタ33と、回転シェード34を含むシェード機構35と、投影レンズ36と、投影レンズ36を指示するレンズホルダ37とを備える。なお、図2では投影レンズ36の図示を簡略化している。
光源31は、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LEDなどが使用可能である。本実施の形態では、光源31をハロゲンランプで構成する例を示す。光源31は、光源搭載部32に搭載されている。リフレクタ33は、光源31から放射される光を反射する。そして、光源31からの光およびリフレクタ33で反射した光は、その一部が回転シェード34を経て投影レンズ36へと導かれる。
図3は、シェード機構35を説明するための斜視図である。図3は、図2に示す灯具ユニット30から投影レンズ36、レンズホルダ37、リフレクタ33などを取り外した状態を示す。図3に示すように、シェード機構35は、光源からの光の一部を遮光可能に形成された回転シェード34と、回転シェード34を支持するためのシェード支持部38と、回転軸41と、回転シェード34を回転駆動するアクチュエータとしてのシェードモータ39と、シェードモータ39の回転を回転シェード34に伝達するためのギア機構40と、回転シェード34の回転位置を検出するためのシェード位置センサ(図示せず)とを備える。シェードモータ39は、例えばステッピングモータであってよい。シェードモータ39の回転は、灯具側制御部28により制御される。
図4は、回転シェード34を説明するための斜視図である。回転シェード34は、回転軸41を中心に回転可能な略半円筒形状部材で構成される。回転シェード34は、回転位置に応じて光源31およびリフレクタ33からの光の遮り方が変わるように稜線形状が設計されている。
具体的には、回転シェード34は、図4において回転軸41を中心として反時計回り順に、ロービーム配光パターンを形成するための稜線形状34a(以下、「ロービーム形成部34a」とも呼ぶ)と、第1パッシング配光パターンを形成するための稜線形状34b(以下、「第1パッシング形成部34b」とも呼ぶ)と、ハイビーム配光パターンを形成するための稜線形状34c(以下、「ハイビーム形成部34c」とも呼ぶ)と、第2パッシング配光パターンを形成するための稜線形状34d(以下、「第2パッシング形成部34d」とも呼ぶ)と、第1片側ハイビーム配光パターンを形成するための稜線形状34e(以下、「第1片側ハイビーム形成部34e」とも呼ぶ)と、第2片側ハイビーム配光パターンを形成するための稜線形状(以下、「第2片側ハイビーム形成部」とも呼ぶ)とが形成されている。
回転シェード34は、シェードモータ39を用いて回転駆動することにより、投影レンズ36の後方焦点を含む後方焦点面FSの位置に上述の6種類の配光パターン形成部のいずれか1つを移動させることができる。そして、後方焦点面FS上に位置する回転シェード34の稜線形状に応じて光源31およびリフレクタ33からの光の遮り方が変わる。
回転シェード34を通過した光は、投影レンズ36に入射する。投影レンズ36は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、後方焦点面FS上に形成される光源像を反転像として車両用前照灯前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。投影レンズ36は、その光軸Ax上に光源31が位置するように配置される。
次に、図5および図6を用いて上述の6種類の配光パターンと、各配光パターンを形成するための回転シェード34の稜線形状とについて説明する。
図5の上段は、ロービーム配光パターンと、該ロービーム配光パターン形成時の回転シェード34の姿勢(断面図と斜視図)を示す。ロービーム配光パターンLoは、その上端のV−V線(鉛直線)よりも右側に、H−H線(水平線)と平行に延びる対向車線側カットオフラインを、またV−V線よりも左側に、対向車線側カットオフラインよりも高い位置でH−H線と平行に延びる自車線側カットオフラインを、そして対向車線側カットオフラインと自車線側カットオフラインとの間に、両者をつなぐ斜めカットオフラインを有する。斜めカットオフラインは、対向車線側カットオフラインとV−V線との交点から左斜め上方へ45°の傾斜角で延びている。
回転シェード34のロービーム形成部34aは、対向車線側カットオフラインを形成するための対向車線側カットオフライン形成部51と、自車線側カットオフラインを形成するための自車線側カットオフライン形成部52と、斜めカットオフラインを形成するための斜めカットオフライン形成部53とを有する。対向車線側カットオフライン形成部51および自車線側カットオフライン形成部52は、回転シェード34の軸方向に延びる略平面形状の部位であり、斜めカットオフライン形成部53は、対向車線側カットオフライン形成部51と自車線側カットオフライン形成部52の間に位置する、傾斜面を有する突起状部位である。
図5の中段は、第1パッシング配光パターンP1と、該第1パッシング配光パターン形成時の回転シェード34の姿勢(断面図と斜視図)を示す。本実施形態では、ロービーム配光パターン形成時の姿勢から、回転軸41を中心として回転シェード34を一方の回転方向(図5では時計回り)に60°回転することにより、第1パッシング配光パターン形成時の姿勢となる。
第1パッシング配光パターンP1は、自車両の周囲に存在する他車両や歩行者に対して注意を促すための配光パターンである。本実施形態において、第1パッシング配光パターンP1は、ハイビーム配光パターンHiと同じようにH−H線の上方および下方の照射領域を含むが、H−H線より上方の照射領域はハイビーム配光パターンHiより小さい。第1パッシング形成部34bは、このような第1パッシング配光パターンP1に対応した稜線形状を有するように形成される。
図5の下段は、ハイビーム配光パターンHiと、該ハイビーム配光パターン形成時の回転シェード34の姿勢(断面図と斜視図)を示す。本実施形態では、ハイビーム配光パターン形成時の姿勢から、回転軸41を中心として回転シェード34を時計回りに30°回転することにより、ハイビーム配光パターン形成時の姿勢となる。
ハイビーム配光パターンHiは、前方の広範囲および遠方を照明する配光パターンであり、例えば、前方車両や歩行者へのグレアを配慮する必要のない場合に形成される。ハイビーム形成部34cは略平面状に形成されており、光源31およびリフレクタ33からの光を遮光せずに投影レンズ36に通すべく該平面はハイビーム配光パターン形成時において光軸Axから所定距離以上離間している。
図6の上段は、第2パッシング配光パターンP2と、該第2パッシング配光パターン形成時の回転シェード34の姿勢(断面図と斜視図)を示す。本実施形態では、ハイビーム配光パターン形成時の姿勢から、回転軸41を中心として回転シェード34を時計回りに30°回転することにより、第2パッシング配光パターン形成時の姿勢となる。
第2パッシング配光パターンP2もまた、自車両の周囲に存在する他車両や歩行者に対して注意を促すための配光パターンである。第2パッシング配光パターンP2は、H−H線の上方および下方の照射領域を含むが、H−H線より上方の照射領域はハイビーム配光パターンHiより小さい。第2パッシング配光パターンP2は、図5に示す第1パッシング配光パターンP1と同じ形状であってもよいし、異なっていてもよい。第2パッシング形成部34dは、このような第2パッシング配光パターンP2に対応した稜線形状を有するように形成される。
図6の中段は、第1片側ハイビーム配光パターンHi1と、該第1片側ハイビーム配光パターン形成時の回転シェード34の姿勢(断面図と斜視図)を示す。本実施形態では、第2パッシング配光パターン形成時の姿勢から、回転軸41を中心として回転シェード34を時計回りに60°回転することにより、第1片側ハイビーム配光パターン形成時の姿勢となる。
この第1片側ハイビーム配光パターンHi1は、左側通行時に対向車線側(V−V線より右側)をロービームとし、自車線側(V−V線より左側)のみハイビームで照射する配光パターンである。第1片側ハイビーム配光パターンHi1は、V−V線近傍に斜めカットオフラインを有する。第1片側ハイビーム配光パターンHi1は、ハイビーム配光パターンHiの一部に遮光領域を設けた変形ハイビーム配光パターンということができる。第1片側ハイビーム配光パターンHi1は、自車線に先行車や歩行者が存在せず、対向車線に対向車や歩行者が存在する場合に利用することが好ましく、対向車や歩行者にグレアを与えず、自車線側のみのハイビーム照射により運転者の視認性を高めることができる。
第1片側ハイビーム形成部34eは、対向車線側のロービームのカットオフラインを形成するための対向車線側カットオフライン形成部61と、自車線側のハイビームを形成するための自車線側ハイビーム形成部62と、斜めカットオフラインを形成するための斜めカットオフライン形成部63とを有する。
図6の下段は、第2片側ハイビーム配光パターンHi2と、該第2片側ハイビーム配光パターン形成時の回転シェード34の姿勢(断面図と斜視図)を示す。本実施形態では、第1片側ハイビーム配光パターン形成時の姿勢から、回転軸41を中心として回転シェード34を時計回りに90°回転することにより、第2片側ハイビーム配光パターン形成時の姿勢となる。
この第2片側ハイビーム配光パターンHi2は、左側通行時に自車線および対向車線をロービームとし、自車線の歩道側のみハイビームで照射する変形ハイビーム配光パターンである。第2片側ハイビーム配光パターンHi2は、自車線と歩道との境界付近に斜めカットオフラインを有する。第2片側ハイビーム配光パターンHi2もまた、ハイビーム配光パターンHiの一部に遮光領域を設けた変形ハイビーム配光パターンということができる。第2片側ハイビーム配光パターンHi2は、自車線および対向車線に車両が存在する場合に、自車線側の歩道の視認性を高める目的で使用される。
第2片側ハイビーム形成部34fは、自車線および対向車線のロービームのカットオフラインを形成するためのカットオフライン形成部64と、自車線の歩道側のハイビームを形成するための歩道用ハイビーム形成部65と、斜めカットオフラインを形成するための斜めカットオフライン形成部66とを有する。
なお、上記説明では第1片側ハイビーム形成部34eと第2片側ハイビーム形成部34fとを別々に説明したが、実際には第1片側ハイビーム形成部34eの斜めカットオフライン形成部63と第2片側ハイビーム形成部34fの斜めカットオフライン形成部66は連続的に形成されており、回転シェード34の回転に応じてハイビーム配光パターンにおける遮光領域の大きさを可変できる。言い換えると、回転シェード34は、回転シェード34の回転に応じて斜めカットオフライン形成部の位置が軸方向に移動するよう形成されており、その結果、片側ハイビーム配光パターンにおける斜めカットオフラインの位置を、V−V線近傍から自車線と歩道の境界部まで連続的に移動することができる。
図7は、本発明の実施形態に係る車両用前照灯の配光制御システム100を説明するための機能ブロック図である。配光制御システム100は、上述した車両用前照灯10と、車両に搭載される車両側制御部102と、ライトスイッチ104と、カメラ106と、車速センサ108と、舵角センサ110と、ディマースイッチ112とを備える。車両用前照灯10は、光源31と、光源31を点灯するための点灯回路70と、シェードモータ39と、スイブルアクチュエータ22と、レベリングアクチュエータ26と、灯具側制御部28と、シェード位置センサ29とを備える。
カメラ106、車速センサ108、舵角センサ110、ディマースイッチ112およびライトスイッチ104は、CAN(Controller Area Network)通信を使用して車両側制御部102と情報を伝送する。カメラ106は、信号線SL1を介して車両側制御部102と接続されている。車速センサ108は、信号線SL2を介して車両側制御部102と接続されている。舵角センサ110は、信号線SL3を介して車両側制御部102と接続されている。ディマースイッチ112は、信号線SL4を介して車両側制御部102と接続されている。ライトスイッチ104は、信号線SL5を介して車両側制御部102と接続されている。車両側制御部102は、常時、カメラ106、車速センサ108、舵角センサ110、ディマースイッチ112およびライトスイッチ104の信号を監視している。
また、車両側制御部102はイグニッション(IG)電源115の電圧を監視している。また、車両側制御部102は、信号線L1を介して灯具側制御部28と接続されている。車両側制御部102と灯具側制御部28は、信号線L1を介して、LIN(Local Interconnect. Network)通信を使用して情報を伝送する。なお、車両側制御部102からは、左右一対の車両用前照灯10へ信号線L1が接続されている。
配光制御システム100において、ライトスイッチ104がオンされると、リレー105がオン状態となってバッテリ114から車両用前照灯10の点灯回路70に電圧VLが与えられ、点灯回路70により光源31が点灯する。また、ライトスイッチ104がオンされると、リレー105を介してバッテリ114から灯具側制御部28にも電圧VLが与えられ、灯具側制御部28がリセットされる。点灯回路70は、信号線SL6を介して車両側制御部102と接続されている。信号線SL6は、光源31、点灯回路70の正常性を示す信号を車両側制御部102に送る。車両側制御部102は、該信号に基づいて、光源31、点灯回路70の異常を認識する。
また、車両のイグニッションスイッチ(図示せず)がオンされると、IG電源115から車両側制御部102に電圧VGが与えられ、車両側制御部102がリセットされる。また、イグニッションスイッチがオンされると、IG電源115は灯具側制御部28にも電圧VGを与える。従って、灯具側制御部28は、バッテリ114とIG電源115の両方から電力の供給を受けることができる。なお、IG電源115もバッテリ114から電力の供給を受けている。
車両側制御部102は、カメラ106、車速センサ108、舵角センサ110等から自車の走行状態を示す状態信号を受ける。灯具側制御部28は、車両側制御部102と通信可能に接続され、車両側制御部102からの配光指示信号を受けてシェードモータ39、スイブルアクチュエータ22およびレベリングアクチュエータ26を制御する。
配光制御システム100は、運転者によるディマースイッチ112の操作に応じて手動でロービーム配光パターンとハイビーム配光パターンとを切り替え可能である。以下、このような手動で配光パターンを制御するモードを「手動モード」と呼ぶ。例えば運転者がロービーム配光パターンを選択した場合、車両側制御部102は灯具側制御部28にロービーム配光パターンを形成するよう指示を出す。指示を受けた灯具側制御部28は、ロービーム配光パターンが形成されるようシェードモータ39を制御する。
また、配光制御システム100は、ディマースイッチ112の操作によらず、車両の走行状態を各種センサで検出して、車両周囲状況に最適な配光パターンを形成可能である。以下、このように配光パターンを制御するモードを「自動モード」と称する。
配光制御システム100は、手動モードおよび自動モードのいずれか一方の照射モードで動作するよう構成されている。
例えば、自車の前方に前走車が検出された場合、車両側制御部102は、前走車へのグレアを防止するべきであると判断して、例えばロービーム配光パターンが形成されるよう灯具側制御部28に指示を出す。また、前走車が存在しないことが検出できた場合、車両側制御部102は、運転者の視界を向上させるべきであると判断して、例えばハイビーム配光パターンが形成されるよう灯具側制御部28に指示を出す。
このように前走車を検出するために、車両側制御部102には例えばステレオカメラなどのカメラ106が接続されている。カメラ106で撮像された画像データは、車両側制御部102に送信され、車両側制御部102が信号処理をして画像解析を行い、撮像範囲内における前走車を検知する。そして、車両側制御部102は、取得した前走車の情報に基づいて最適な一つの配光パターンを選択し、その選択した配光パターンを形成するように灯具側制御部28に指示を出す。なお、前走車を検出する手段は適宜変更可能であり、カメラ106に代えて、例えばミリ波レーダや赤外線レーダなど他の検出手段を用いてもよい。また、それらを組み合わせてもよい。
また、車両側制御部102は、車両に通常搭載されている車速センサ108、舵角センサ110などからの情報も取得可能であり、車両の走行状態や走行姿勢に応じて形成する配光パターンを選択したり、光軸の方向を変化させて配光パターンを変化させることができる。例えば車両側制御部102は、舵角センサ110からの情報に基づき車両が旋回していると判定した場合、旋回方向の視界を向上させるような配光パターンの形成を灯具側制御部28に指示する。この指示を受けた灯具側制御部28は、スイブルアクチュエータ22を制御して灯具ユニット30の光軸をこれから進行する方向に向ける。また、車両側制御部102は、車速センサ108からの情報に基づき車両姿勢が変化したと判定した場合、前方照射の到達距離が最適となる配光パターンの形成を灯具側制御部28に指示する。この指示を受けた灯具側制御部28は、車両姿勢の前傾、後傾に応じてレベリングアクチュエータ26を制御して、灯具ユニット30の光軸を車両上下方向について調整する。
図8は、本実施形態に係る配光制御システム100におけるフェールセーフ機能を説明するためのフローチャートである。図8に示す制御フローは、所定の間隔で繰り返し行われる。
まず、車両側制御部102は、自車の走行状態を示す信号、IG電源115の電圧およびライトスイッチ104の状態を示す信号のうち少なくとも一つに異常が発生したか否か判定する(S10)。自車の走行状態を示す信号とは、カメラ106、車速センサ108および舵角センサ110から取得した信号である。例えば車両側制御部102は、これらのセンサ装置から取得した信号が所定の範囲から外れた場合に異常と判定する。また、車両側制御部102は、電源115の電圧が所定の範囲から外れた場合に異常と判定する。また、車両側制御部102は、ライトスイッチ104の状態を示す信号が所定の範囲から外れた場合に異常と判定する。
自車の走行状態を示す信号、IG電源115の電圧およびライトスイッチ104の状態を示す信号のうち少なくとも一つに異常が発生した場合(S10のYes)、車両側制御部102は、現在の照射モードが自動モードであるか否か判定する(S12)。
現在の照射モードが自動モードである場合(S12のYes)、車両側制御部102は、自動モードを中止し、ロービーム配光パターンを照射するよう車両用前照灯10の灯具側制御部28に指示を出す(S14)。この指示を受けた灯具側制御部28は、回転シェード34がロービーム配光パターンを形成するための位置に移動するようシェードモータ39を制御する。ここで一旦制御フローは終了する。
自車の走行状態を示す信号、IG電源115の電圧、ライトスイッチ104の状態を示す信号に異常が発生した場合、自動モードでの配光制御に支障が生じるおそれがある。そこで、このような場合には自動モードを中止して強制的にロービーム配光パターンを照射するよう制御することで、車両前方の視認性を確保しつつ、対向車や歩行者にグレアを与える事態を防止できる。
一方、現在の照射モードが自動モードでない(すなわち現在の照射モードが手動モードである)場合(S12のNo)、車両側制御部102は、ライトスイッチ104およびディマースイッチ112の操作状態に応じてロービーム配光パターンまたはハイビーム配光パターンを照射する手動モードの制御を継続する(S16)。ここで一旦制御フローは終了する。
自車の走行状態を示す信号は手動モードには関与していないため、自車の走行状態を示す信号に異常があっても手動モードでの配光パターンの切り替えには影響しない。また、IG電源115の電圧が異常の場合でも、車両用前照灯10にはリレー105を介してバッテリ114から電力が供給されるので手動モードでの配光パターンの切り替えは可能である。また、ライトスイッチ104の状態を示す信号に異常が発生した場合でも、車両側制御部102は回転シェード34をハイビーム配光パターンを照射可能な位置に移動することで、例えば光量を落としたハイビーム配光パターンを照射するなどの対応をとることができる。このように、自車の走行状態を示す信号、IG電源115の電圧、ライトスイッチ104の状態を示す信号に異常が発生した場合であっても、照射モードが手動モードのときには該手動モードを継続することで、運転者は状況に応じてハイビーム配光パターンまたはロービーム配光パターンを選択することができる。
S10において、自車の走行状態を示す信号、IG電源115の電圧およびライトスイッチ104の状態を示す信号のいずれも異常が発生していない場合(S10のNo)、車両側制御部102は、ディマースイッチ112の状態を示す信号およびCAN通信の状態のうち少なくとも一方に異常が発生したか否か判定する(S18)。車両側制御部102は、ディマースイッチ112の状態を示す信号が所定の範囲から外れた場合に異常と判定する。また、車両側制御部102は、カメラ106等と車両側制御部102との間のCAN通信が不能となった場合に異常と判定する。
ディマースイッチ112の状態を示す信号およびCAN通信の状態のうち少なくとも一方に異常が発生した場合(S18のYes)、車両側制御部102は、自動モードおよび手動モードのいずれで動作している場合も(すなわち自動モードであるか手動モードであるかに依らず)、ロービーム配光パターンを照射するよう車両用前照灯10の灯具側制御部28に指示を出す(S14)。この指示を受けた灯具側制御部28は、回転シェード34がロービーム配光パターンを形成するための位置に移動するようシェードモータ39を制御する。ここで一旦制御フローは終了する。
ディマースイッチ112の状態を示す信号に異常が発生した場合、手動モードでのハイビーム配光パターンとロービーム配光パターンの切り替えは難しくなる。また、CAN通信に異常が発生した場合も、ディマースイッチ112と車両側制御部102とが通信不能となるため、手動モードでのハイビーム配光パターンとロービーム配光パターンの切り替えは難しくなる。このように、ディマースイッチ112の状態を示す信号およびCAN通信の状態のうち少なくとも一方に異常が発生した場合には、ロービーム配光パターンを照射するよう制御することで、車両前方の視認性を確保しつつ、対向車や歩行者にグレアを与える事態を防止できる。
一方、ディマースイッチ112の状態を示す信号およびCAN通信の状態のいずれも異常が発生していない場合(S18のNo)、手動モードまたは自動モードを継続し(S20)、一旦制御フローは終了する。
以上説明したように、本実施形態に係る配光制御システム100では、自動モードと手動モードにそれぞれ異なるフェールセーフ動作を設定した。可能な限り手動モードでのロービーム配光パターンとハイビーム配光パターンの切り替えを可能とすることで、運転者は状況に応じて適切な配光パターンを選択することができ、視認性を確保することができる。
なお、灯具側制御部28は、車両側制御部102が異常と判定した場合、車両側制御部102からの指示にかかわらず、回転シェード34がロービーム配光パターンを形成するための位置に移動するようシェードモータ39を制御する。これにより、車両前方の視認性を確保しつつ、対向車や歩行者にグレアを与える事態を防止できる。
図9は、手動モードのときのシェードモータ39の制御を説明するためのフローチャートである。図9に示す制御フローは、所定の間隔で繰り返し行われる。
まず、車両側制御部102は、ライトスイッチ104がオン状態であるか否か判定する(S20)。
ライトスイッチ104がオン状態の場合(S20のYes)、車両側制御部102は、ディマースイッチ112がハイビームの位置にあるか否か判定する(S22)。ディマースイッチ112がハイビームの位置にある場合(S22のYes)、車両側制御部102は、回転シェード34がハイビーム配光パターンを形成するための位置に保持されるよう灯具側制御部28に指示を出す(S24)。この指示を受けた灯具側制御部28は、シェードモータ39を制御して、回転シェード34をハイビーム配光パターンを形成するための位置に移動し、その状態を保持する。ここで一旦制御フローは終了する。
ディマースイッチ112がロービームの位置にある場合(S22のNo)、車両側制御部102は、回転シェード34がロービーム配光パターンを形成するための位置に保持されるよう灯具側制御部28に指示を出す(S26)。この指示を受けた灯具側制御部28は、シェードモータ39を制御して、回転シェード34をロービーム配光パターンを形成するための位置に移動し、その状態を保持する。ここで一旦制御フローは終了する。
一方、ライトスイッチ104がオン状態の場合(S20のYes)、車両側制御部102は、ディマースイッチ112の操作状態にかかわらず、回転シェード34がロービーム配光パターンを形成するための位置に保持されるよう灯具側制御部28に指示を出す(S26)。この指示を受けた灯具側制御部28は、シェードモータ39を制御して、回転シェード34をロービーム配光パターンを形成するための位置に移動し、その状態を保持する。ここで一旦制御フローは終了する。
ライトスイッチ104がオフ状態の場合には光源31は消灯しているため、ディマースイッチ112の操作状態を変えても配光は変化しない。しかしながら、ディマースイッチ112に連動してシェードモータ39を動作させた場合、配光に影響しないにもかかわらずシェードモータ39を動作させていることになる。これは消費電力の無駄である。また、必要以上にシェードモータ39に負荷を与えることになるため、シェードモータ39の耐久性に影響を与えるおそれがある。そこで、本実施形態のように、ライトスイッチ104がオフ状態の場合には、ディマースイッチ112の操作状態にかかわらず、ロービーム配光パターンを形成するための位置に回転シェード34を保持することで、消費電力を低減でき、またシェードモータ39の耐久性を向上することができる。
図10(a)および(b)は、灯具ユニットの別の実施形態を説明するための図である。図10(a)は、灯具ユニット130を構成する一部の要素間の位置関係を示す垂直断面図である。図10(b)は、灯具ユニット130を構成する一部の要素間の位置関係を示す平面図である。
図10(a)および(b)に示す灯具ユニット130は、主に、光源として発光ダイオード(LED)を用いている点が図1に示す灯具ユニット30と異なる。灯具ユニット130は、LED131、ヒートシンク132、リフレクタ133、投影レンズ134、レンズホルダ135、シェード機構137を備える。シェード機構137は、回転シェード136、シェードモータ139、ギア機構140を備える。
LED131は、ヒートシンク132に対して固定されている。ヒートシンク132は、LED131から発する熱を発散させるのに適した材質および形状とされている。LED131から出射された光は、リフレクタ133によって反射され前方に向かう。その光の少なくとも一部は、リフレクタ133の前方に配置された投影レンズ134を通過する。
リフレクタ133は、車両の前後方向に延びる光軸A1を中心軸とする略楕円球面を基調とする反射面を有している。LED131は、反射面の鉛直断面を構成する楕円の第1焦点に配置されている。これにより、LED131から出射された光が当該楕円の第2焦点に収束するように構成されている。
投影レンズ134は樹脂製であり、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズである。投影レンズ134は、後方焦点Fがリフレクタ133の反射面の第2焦点に一致するように配置されており、後方焦点F上の像を車両前方に反転像として投影するように構成されている。投影レンズ134の周縁部はレンズホルダ135により保持され、ヒートシンク132に対して固定されている。
回転シェード136は、LED131から出射された光の一部を遮るように、投影レンズ134の後方に配置されている。回転シェード136は回転軸A2を有しており、当該回転軸A2が、投影レンズ134の後方焦点Fの下方を通るように配置されている。シェードモータ139およびギア機構140は、回転シェード136を回転軸A2周りに回転させる。シェードモータ139は、例えばステッピングモータであってよい。シェードモータ39の回転は、灯具側制御部28(図1,7参照)により制御される。回転シェード136は、回転位置に応じてリフレクタ133からの光の遮り方が変わるように稜線形状が設計されている。従って、回転シェード136の回転位置を変化させることで、車両前方に形成される配光パターンを変化させることができる。
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。