以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る車両用照明装置10を車両100に適用した様子を示す図である。車両100の左右のヘッドランプLHL,RHLは、後述するように照射方向を水平左右方向と垂直上下方向にそれぞれ偏向制御可能に構成されている。ここで水平左右方向の偏向制御はスイブル制御であり、垂直上下方向の偏向制御はレベリング制御である。
ECU1は、本発明における制御手段として左右のヘッドランプLHL,RHLの偏向動作を制御するとともに、各ヘッドランプの配光特性をメインビームとサブビームに切り替え、さらには各ヘッドランプの明るさを調光することが可能に構成されている。ここでメインビームとはハイビームとも称されるいわゆる走行ビームと、高速走行用に遠方視認性を向上させたモータウェイビームと、光軸鉛直面の左右一方のみがハイビームとされたいわゆる片ハイビームと称されるビームを含むものであり、サブビームとは対向車を眩惑することがないすれ違いビームである。
ECU1には、車両のステアリングハンドルSWの回転角、すなわち車両の操舵角を検出するためのステアリングセンサ11と、車両の車速を検出するための車速センサ12と、車両の前後方向の軸線が水平方向に対してなす傾き角度を検出するための車高センサ13が接続され、それぞれのセンサから操舵角信号、車速信号、傾斜角信号がECU1に入力される。なお、これらステアリングセンサ11、車速センサ12、車高センサ13の構成は既に知られているものであるのでここでは詳細な説明は省略する。また、ECU1にはヘッドランプを点灯するためのメインスイッチ14と、配光をメインビームとサブビームとに切り替えるビーム切替スイッチ15とが接続されている。
図2は、車両用照明装置10の構成を説明するための図である。図2においては、図1と対応する構成要素には同一の符号を付している。また、図2ではヘッドランプについては左右のヘッドランプの一方、ここでは右ヘッドランプRHLのみを図示している。ヘッドランプRHLはランプボディ101を備えており、このランプボディ101は前面が開口された容器状に形成されるとともに、当該前面開口に素通しのカバー102が取着されて内部にランプ室103が構成され、このランプ室103内にプロジェクタ型のランプユニット110が内装されている。このランプユニット110はスイブル機構120とレベリング機構130によって照射方向が水平左右方向と垂直上下方向にそれぞれ偏向制御可能に構成され、また当該ランプユニット110は内部に設けたシェード141を駆動することによってメインビームとサブビームとを切り替えるビーム切替機構140が設けられている。
図3は、ヘッドランプの内部構造を示す部分分解斜視図である。図2および図3を参照すると、ランプユニット110は、回転楕円形状のリフレクタ111と、このリフレクタ111の前縁部に連結されたホルダ112と、ホルダ112の前縁部に固定されたレンズ113とでハウジングが構成され、リフレクタ111の背面に設けられたバルブ取付穴に取着されるソケット115により光源としての放電バルブ114が取り付けられている。
ランプユニット110のホルダ112内には、放電バルブ114から出射される光を制限してメインビームとサブビームとを切り替えるためのビーム切替機構140が内装されている。このビーム切替機構140は、放電バルブ114の前方光軸上に進退できるように支軸142の回りに上下方向に回転可能とされたシェード141と、このシェード141を垂直上下方向に回動するためのシェード駆動部143とを備えている。
シェード駆動部143は、シェード141を放電バルブ114の前方一部領域を覆う位置であるサブビーム位置に付勢位置させるためのスプリング144と、このスプリング144の付勢力に抗してシェード141を放電バルブ114の前方光軸上から退避させる位置であるメインビーム位置に強制移動させるためのプランジャ146を有するモータ145で構成されている。モータ145にはビーム切替回路24が接続されており、このビーム切替回路24によりモータ145に対する通電が制御される。このビーム切替機構140では、シェード141は、モータ145への非通電時にはスプリング144の付勢力によって放電バルブ114の前方光軸上に回動位置されており、放電バルブ114から出射する光の一部を遮光してランプユニット110からの照射光の配光特性をサブビーム状態とする。また、ビーム切替回路24によりモータ145への通電が行われると、スプリング144の付勢力に抗してシェード141を下方に回動し、放電バルブ114の前方光軸上から退避させ、ランプユニット110からの照射光の配光特性をメインビーム状態とする。
ランプユニット110は、概ねコ字状に曲げ加工されたフレーム150内に配設されており、このフレーム150の上板150Uと下板150Dとに上下に挟まれた状態で、かつフレーム150の背板150Bに設けられ開口154を挿通した状態でホルダ112の上部と下部に設けられた回転支軸116の回りに水平方向に回動可能に支持されている。
また、ランプユニット110は、スイブル機構120によって水平左右方向に回動可能とされる。スイブル機構120は、回動駆動源としてのアクチュエータ121を備えており、このアクチュエータ121は、固定ネジ123によってフレーム150の下板150Dの下面に固定されている。アクチュエータ121の上面には回転出力軸122が突出されており、この回転出力軸122は、ランプユニット110の下側の回転支軸116に連結される。アクチュエータ121内には、図には表れないモータと、このモータの回転出力を変速する変速機構等が内蔵されており、このモータの回転によって回転出力軸122が回転される。また、アクチュエータ121にはスイブル駆動回路22が接続されており、このスイブル駆動回路22によりアクチュエータ121への通電が制御されると、回転出力軸122によりランプユニット110は回転支軸116と共に所要の角度範囲で揺動され、ランプユニット110の光軸、すなわち照射方向が左右に傾動されてスイブル制御が行われる。
フレーム150は、背板150Bの上辺の左右2箇所にそれぞれ配設したエイミングナット152に螺合するエイミングネジ151によりランプボディ101に支持されている。また、下辺の一部に配設した球軸受153においてレベリング機構130に連結されている。
レベリング機構130は、ランプユニット110の前後方向に沿って進退動作可能な連結ロッド132を有するレベリングモータ131を有しており、このレベリングモータ131はランプボディ101の外側面に固定され、連結ロッド132の先端部はフレーム150の球軸受153に嵌合されている。レベリングモータ131にはレベリング駆動回路23が接続されており、このレベリング駆動回路23により当該レベリングモータ131への通電が制御される。レベリング機構130では、レベリング駆動回路23によりレベリングモータ131が駆動されると、連結ロッド132が軸方向に進退動作され、連結ロッド132に連結されたフレーム150が上辺の2つのエイミングネジ151を支点にして垂直方向に揺動され、フレーム150内に配設したランプユニット110の光軸、すなわち照射方向が上下に傾動されレベリング制御が行われる。なお、2つのエイミングネジ151を手操作で軸転調整することにより、フレーム150の上辺2箇所をそれぞれ独立して前後方向に移動させ、フレーム150の水平左右方向の傾きと垂直方向の傾きを調整する。このエイミングネジ151による調整は、車両の所定の姿勢のときにランプユニット110の光軸が所定の上下方向に向くように調整するためのものであることは言うまでもない。
ここで、ビーム切替回路24、スイブル駆動回路22、レベリング駆動回路23は、それぞれ信号伝送路S4,S2,S3を介してECU1に接続されている。ECU1は、この信号伝送路S4,S2,S3を介してビーム切替回路24、スイブル駆動回路22、レベリング駆動回路23にそれぞれ所要の制御信号を送出して各回路を制御することによりビーム切替機構140、スイブル機構120、レベリング機構130を制御して、前述したビーム切替、スイブル、レベリングの各制御を行うようになっている。
また、ランプユニット110の放電バルブ114は、ソケット115を介してランプボディ101の内底部に配設したバラスト(昇圧)装置161に接続されている。このバラスト装置161は、ECU1に接続されるとともに、図には表れない電源(車載バッテリ)に接続された調光回路21に接続されており、ECU1により信号伝送路S1を通して調光回路21を制御してランプユニット110から照射する光量を調光するようになっている。なお、ECU1と各回路21,22,23,24との間での信号伝送路S1,S2,S3,S4を通しての信号の送受を行うために、ECU1と各回路21,22,23,24にはそれぞれインターフェースI/Fが備えられ、本発明における信号伝送手段を構成している。
またECU1は、ビーム切替回路24、ビーム切替機構140および信号伝送路S4の異常検出機能を備えている。ECU1は、ECU1とビーム切替回路24を接続する信号伝送路S4を介してECU1からビーム切替回路24に対して所定の信号を所要のタイミングで送信し、この送信信号に対するビーム切替回路24からの応答信号を監視することで、ビーム切替回路24に接続されるビーム切替機構140が正常に動作しているか否か、およびECU1とビーム切替回路24との間の信号伝送路S4が正常であるか否かを検出することが可能である。そしてECU1は、ビーム切替回路24、ビーム切替機構140および信号伝送路S4での異常を検出したときには、後述するフェイルセーフ制御を実行し、対向車に対する眩惑を防止する。
次に、以上のように構成された車両用照明装置10における通常の制御について説明する。メインスイッチ14がオンされると、ECU1は調光回路21を制御し、ランプユニット110の放電バルブ114を点灯する。また、ビーム切替スイッチ15がメインビーム側に切り替えられたときには、ECU1はビーム切替回路24を制御し、ビーム切替機構140を駆動してシェード141を放電バルブ114の前方光軸上から退避した位置に移動させ、メインビーム状態とする。ビーム切替スイッチ15がサブビーム側に切り替えられたときには、ECU1はシェード141を放電バルブ114の前方光軸上に進出させ、放電バルブ114から出射される光の一部を遮光してサブビーム状態とする。
一方、車両100の走行時に操舵が行われると、ステアリングセンサ11による操舵角信号がECU1に入力される。また、同時に車速センサ12と車高センサ13から車両100の車速信号と車高信号がそれぞれECU1に入力される。ECU1は、これらの信号に基づいてヘッドランプRHL,LHLの適正な照射方向を演算し、これに基づいてスイブル駆動回路22とレベリング駆動回路23を制御する。これにより、スイブル駆動回路22は、スイブル機構120を駆動してランプユニット110を左右方向に傾動させ、ランプユニット110の照射方向、すなわちヘッドランプRHL,LHLの照射方向を車両100の操舵方向に対応した好ましい左右方向となるようにスイブル制御する。また、レベリング駆動回路23は、レベリング機構130を駆動してフレーム150を上下方向に傾動させ、ランプユニット110による照射方向、すなわちヘッドランプRHL,LHLの照射方向を車両100の走行状態に対応した好ましい上下方向となるようにレベリング制御する。すなわち、AFS制御が実行されることになる。
このようなヘッドランプRHL,LHLのAFS制御において、ビーム切替回路24、ビーム切替機構140および信号伝送路S4に異常が発生した場合、ECU1を通じてメインビームとサブビームとを切り替えることができなくなる。異常の際にランプユニット110がメインビーム状態に切り替えられている場合、対向車を眩惑してしまうおそれがある。そこで、本実施の形態に係る車両用照明装置10では、ビーム切替回路24、ビーム切替機構140および信号伝送路S4の異常を検出した場合、ECU1は、フェイルセーフ制御を実行する。
図4は、フェイルセーフ制御を説明するためのフローチャートを示す。図4に示すフローは、所定の間隔で繰り返し実行される。また、図5(a)〜(c)は、フェイルセーフ制御における配光パターンの変化を説明するための図である。図5(a)〜(c)に示す配光パターンは、車両が片側1車線(両側2車線)の直線舗装道路を走行している場合において、車両用照明装置10から照射される光により車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンである。図5(a)〜(c)に示すように、車両前方路面には、その中央に位置するセンタラインLMcと、その両側に位置する左サイドラインLMs1、右サイドラインLMs2とが、車両走行レーンを仕切るレーンマークとして形成されている。左サイドラインLMs1は、透視図の消点であるH−V点(H−H線とV−V線との交点)から左下方向に延びており、センタラインLMcおよび右サイドラインLMs2は、H−V点から右下方向に延びている。
ECU1は、ビーム切替回路24、ビーム切替機構140および信号伝送路S4を含んで構成される配光切替手段に異常があるか否か検出する(S10)。配光切替手段に異常が無い場合(S10のN)、制御フローを終了する。
配光切替手段に異常が検出された場合(S10のY)、ECU1は、ランプユニット110がメインビーム状態とサブビーム状態のいずれに切り替えられているかを判定する(S12)。ここでサブビームに切り替えられていると判定した場合(S12のN)、制御フローは終了する。サブビーム状態であれば、対向車を眩惑するおそれがないからである。
一方、メインビームに切り替えられていると判定した場合(S12のY)、ECU1は、スイブル駆動回路22およびスイブル機構120を含んで構成されるスイブル手段、レベリング駆動回路23およびレベリング機構130を含んで構成されるレベリング手段を強制的に動作させて、対向車や歩行者への眩惑を抑制する。図5(a)は、メインビームの配光パターンPLMを示しているが、この場合、図5(a)に示すように照射光の一部は水平方向よりも上方ないしは右方向を照射してしまい、対向車や歩行者を眩惑するおそれがある。
対向車や歩行者への眩惑を抑制するために、ECU1は、スイブル駆動回路22を制御してスイブル機構120を動かし、ランプユニット110の照射方向を対向車線方向とは反対方向に偏向し、固定する(スイブル制御:S14)。図5(b)は、スイブル制御を行った後の配光パターンを示す。図5(b)に示すように、たとえば左側通行の場合には、照射方向を直進方向よりも左方向に偏向する。
次に、ECU1は、レベリング駆動回路23を制御してレベリング機構130を動かし、ランプユニット110の照射方向を水平方向よりも下方向に偏向し、固定する(レベリング制御:S16)。図5(c)は、レベリング制御を行った後の配光パターンを示す。図5(c)に示すように、スイブル制御とレベリング制御を行うことにより、H−V点から水平方向右側の領域がメインビームの配光パターンPLMから外れるので、対向車や歩行者への眩惑を抑制することができる。また、本実施の形態においては、ランプユニット110の減光または消灯は行わないので、運転者の視認性の低下および車両の被視認性の低下は、最小限に抑えることができる。
上述のスイブル制御およびレベリング制御におけるランプユニット110の照射方向の偏向量は、メインビームの配光パターンに応じて適宜する。すなわち、H−V点よりも対向車線側の領域がメインビームの配光パターンから外れるように、ランプユニット110の照射方向の偏向量を設定する。これにより、好適に対向車や歩行者への眩惑を抑制することができる。
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
たとえば、上述の実施の形態では、左右のヘッドランプRHL,LHLについて同時に制御することを前提としているが、ECU1での異常検出によって左右のヘッドランプのいずれか一方の配光切替手段に異常を検出したときには、正常な側のヘッドランプについては通常のAFS制御を実行し、異常が生じた側のヘッドランプについてのみ前述した眩惑抑制制御を行うようにしてもよい。
また、上述の実施の形態では、スイブル制御を行った後にレベリング制御を行うように構成したが、この順番は特に限定されず、レベリング制御を行った後にスイブル制御を行ってもよいし、スイブル制御とレベリング制御とを同時に行ってもよい。
また、図2では、スイブル駆動回路22、レベリング駆動回路23、ビーム切替回路24は、それぞれスイブル機構120、レベリング機構130、ビーム切替機構140とは独立した構成として図示しているが、これらの回路はヘッドランプRHL,LHLのランプボディ101内に回路基板等によって一体的に組立てることが可能であり、さらには各機構の一部として一体に組み立てることも可能である。また、スイブル機構120、レベリング機構130については実施例の構成に限られるものではなく、ヘッドランプの照射方向を左右方向、上下方向に偏向することが可能な機構であれば本発明が適用できることは言うまでもない。
また、本発明にかかるヘッドランプは実施の形態に記載のプロジェクタ型のランプユニットを備える構成に限られるものではなく、光源から出射した光を反射するリフレクタ型のランプについても同様である。この場合において、ビームをメインビームとサブビームに切り替える手段も実施例のようにシェードを駆動して切り替える構成に限られるものではなく、光源としてのバルブのフィラメントを切り替えて点灯させる構成のランプについても本発明を適用することが可能である。
また、図4のフローチャートでは、S14のスイブル制御として、ECU1はランプユニット110の照射方向を対向車線方向とは反対方向に偏向したが、偏向方向として対向車線方向と反対方向に限られず、左右いずれかの方向に偏向すればよい。この場合も、対向車や歩行者への眩惑を抑制することができる。
1 ECU、 10 車両用照明装置、 22 スイブル駆動回路、 23 レベリング駆動回路、 24 ビーム切替回路、 110 ランプユニット、 120 スイブル機構、 130 レベリング機構、 140 ビーム切替機構。