次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は,オフィス用に多用されている回転椅子に適用している。以下の説明で、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、これは、椅子に普通に腰掛けた人から見た状態として定義している。正面視は、椅子の着座者と対向した姿勢である。
(1).椅子の概要
まず、図1〜図5に基づいて椅子の概要を説明する。椅子の基本構成は従来と同様であり、図1,2に示すように、主要構成要素として脚装置1、座2、背もたれ3を備えている。また、オプション品として、肘掛け装置4とハンガー5とヘッドレスト6とを備えている。肘掛け装置4は左右一対で1セットであるが、図では片方しか表示していない。
脚装置1はガスシリンダより成る脚支柱7を有しており、脚支柱7は、放射状に広がる複数本の枝アーム8で支持されている。各枝アーム8の先端にはキャスタを設けている。図3に示すように、脚支柱7の上端には固定ベース9が取り付けられており、固定ベース9のうち脚支柱5よりも手前側の部位に、傾動ベース10が左右横長の支軸11によって連結されている。これら固定ベース9と傾動ベース10とを主要部材として、座2と背もたれ3とが取り付くベース部が構成されている。
図4に示すように、固定ベース9と傾動ベース10とによって座受け部材12が支持されている。また、傾動ベース7に、背もたれ3が取り付く背支持フレーム13を固定している。従って、背もたれ3は、傾動ベース10と一緒にロッキングする。また、座受け部材12は、傾動ベース9の後傾動に連動して後退及び後傾する。従って、座2は、背もたれ3の後傾動に連動して後退及び後傾する(シンクロする。)。肘掛け装置4は、座受け部材12に固定されている。
図示していないが、固定ベース9の内部には、ロッキングに対して抵抗を付与するロッキングばねが配置されている。ロッキングばねの硬さは、例えば図2に示す弾力調節ハンドル14の回転操作によって調節できる。弾力調節ハンドル14は着座者から見て右側に配置しており、支軸11と同時に配置されている。弾力調節ハンドル14と反対側には、背もたれ3の傾動を制御するロックハンドル15が配置されている。ロックハンドル15も、支軸8と同軸に配置されている。
図4に示すように、座2は、合成樹脂製の座インナーシェル16に座クッション材17を張った構造である。座2は、その下方に配置した座アウターシェル18に取り付けられている。座アウターシェル18は、座受け部材12に固定されたメインアウターシェル18aと、メインアウターシェル18aに前後スライド自在に装着されたフロントアウターシェル18bと、メインアウターシェル18aの後ろに配置されたリアアウターシェル18cとで構成されている。従って、座2も、メイン部はフロント部とリア部との3つのパートが一体化した構造として観念できる。リアアウターシェル18cは、左右横長のピンにより、メインアウターシェル18aに上下回動自在に連結されている。
他方、座インナーシェル16は、メインアウターシェル18aに固定されたメインインナーシェル16aと、メインインナーシェル16aの前端に一体に連続したフロントインナーシェル16bと、メインインナーシェル16aの後端に一体に連続したリアインナーシェル16cとで構成されている。座フロントインナーシェル16bは左右横長のスリットを有していて、下向きに巻き込み変形可能であり、座フロントウターシェル21が後退すると下向きに巻き込まれ、これにより、座2の前後長さ(奥行き)が小さくなる。
座インナーシェル16の座リアインナーシェル16cは、その前端を中心にして上下回動するように座メインインナーシェル16aに連続している。そして、座リアインナーシェル16cの後端は、背もたれ3の下端に左右横長のピンによって連結されている。このため、背もたれ3がロッキングすると、座2は全体的に後退及び後傾しつつ、座リアインナーシェル16cは、座メインインナーシェル16aに対して、相対的に後傾する。
(2).背もたれの外観上の概略
背もたれ3は、主要要素として、背アウターシェル23とその手前に配置された背クッション材24とを備えている。背アウターシェル23は、身体支持体の一例である。図2(D)に明示するように、背もたれ3は(或いは、背アウターシェル23及び背クッション材24は)、左右方向にはセンターエリア25と左右のサイドエリア26の3つのエリアに分かれていて、上下方向には、上段エリア27と中段エリア28と下段エリア29との3段のエリアに分かれている。
従って、背もたれ3は、上段センターエレメントa、中段センターエレメントb、下段センターエレメントc、左右の上段サイドエレメントd、左右の中段サイドエレメントe、左右の下段サイドエレメントfの9枚のエレメントに分かれている。エレメントa〜fは背アウターシェル23と背クッション材24とに共通した区分であり、背もたれ3の全体としてエレメントとして表示する場合は、単にa〜fの符号を引用する。他方、背アウターシェル23及び背クッション材24の要素としてのエレメントを個別に表示する必要がある場合は、23,24に符号a〜fを付記している。
従って、背アウターシェル23は、背アウターシェル上段センターエレメント23a、背アウターシェル中段センターエレメント23b、背アウターシェル下段センターエレメント23c、背アウターシェル上段サイドエレメント23d、背アウターシェル中段サイドエレメント23e、背アウターシェル下段サイドエレメント23fに区分される。同様に、背クッション材24は、背クッション材上段センターエレメント24a、背クッション材中段センターエレメント24b、背クッション材下段センターエレメント24c、背クッション材上段サイドエレメント24d、背クッション材中段サイドエレメント24e、背クッション材サイドエレメント24fに区分される。
背クッション材24において、隣り合ったエレメント24a〜24fの境界には、前向きに開口した溝30が形成されている。溝30の個所は薄肉のヒンジ部になっている。従って、背クッション材24は単一の部材として製造されつつ、隣り合ったエレメントa〜fは溝30によって区分されている。背クッション材24の各エレメント24a〜24fは、溝30の存在によって高原状の形態を成しているが、身体が当たる面はほぼ平坦になっている。なお、背もたれ3は(背アウターシェル23及び背クッション材24は)、左右対称の形状である。
上段センターエレメントaと下段センターエレメントcとはやや横長の台形であり、中段センターエレメントbは縦横が同じ程度の逆台形である。また、上段サイドエレメントdは概ね逆台形であり、中段サイドエレメントeは上下に長い台形であり、下段サイドエレメントfは逆三角形である。従って、背もたれ3は、正面視で、上段エリアント27と中段エレメント28とによって窄まる形態になって、中段エレメント28と下段エリア29とによって膨れた形態になっている。なお、背もたれ3は、正面視で全体として縦長の長方形状や逆台形状等に形成することは可能である。
また、各サイドエレメントd〜fは,各センターエレメントa〜cに対して手前に向くように傾いている。すなわち、サイドエレメントd〜fは、着座者の身体を包むように傾斜している。従って、背もたれ3は、平面視では前向き凹の形態を成している。他方、背もたれ3は、側面視では、中段エレメンエリア28と下段エレメント29とによって前向き凸の山形が形成されており、このため、背もたれ3の前面(センターエリア23には、には、着座者の腰部が当たる凸部Lが形成されている。正確には、凸部Lは、背クッション材24及び背アウターシェル23の中段センターエレメント24b,23bと下段センターエレメント24c,23cとによって形成されている。
他方、上段エリア18と中段エリア29とは、側面視において少し前向き凹部状に屈曲している。上段センタールエレメントaと中段センターエレメントbとは、平坦状の形態と成したり、逆に、側面視で前向き凸状に屈曲させたりすることも可能である。
背アウターシェル23及び背クッション材24とも、上段センターエレメント23a,24aと中段センターエレメント23b,24bとは相対回動不能に一体化している。従って、背クッション材24において、上段センターエレメント24aと中段センターエレメント24bとの境界部に形成された溝30は、他の溝と統一性を持たせて美観を高めることを主たる目的にして設けたものであり、この部分で屈曲するものではない。背アウターシェル23及び背クッション材24とも、他の隣り合ったエレメントは相対回動可能に繋がっている。
背支持フレーム13は金属ダイキャスト品又は樹脂成形品であり、背もたれ3の後ろにおいて上向きに延びる背支柱13aを有している。そして、背支柱13aの上端に、背アウターシェル23の中段センターエレメント31が左右横長のピンで連結されている(詳細は後述する。)。従って、ロッキング時に、背支柱13aは背もたれ3とは相対回動する。
ハンガー5及びヘッドレスト6は、背アウターシェル上段センターエレメント24aに固定されている。つまり、図7(A)に示すオプション品支持板31が背アウターシェル上段センターエレメント24aの上端部前面にビスで固定されていて、まず、ハンガー5は、その下端部が、背アウターシェル上段センターエレメント24aと一緒にビスでオプション品支持板31に締結されている。
他方、ヘッドレスト6は芯板32を背クッション材33で包み込んだ構造であり、芯板32に下向きの足板34を固定して、この足板33がオプション品支持板31の前面にビスで締結されている。足板34を締結するビスの軸部は、オプション品支持板31を貫通して足板34にねじ込まれている。
図5に示すように、背アウターシェルセンターエレメント23cの下端は、背アウターシェル18を構成するリアアウターシェル18c後端部に左右横長のピン38で連結されている。このため、背アウターシェルセンターエレメント23cの下端とリアアウターシェル18cの後端とには、左右に並ぶ連結用凸部39,40が形成されている。
なお、背アウターシェル23の下端は、座2の後端に連結してもよいし、背支持フレーム13やベース9,10に連結してもよい。或いは、支柱13aの上端部に対して、ある程度の角度だけ前後傾動する状態で取り付けることも可能である。すなわち、背アウターシェル23の下端は、必ずしも他の部材に連結する必要はない。
(3).背もたれの変形態様
図3(A)〜(C)では、非ロッキング状態でかつ人が背もたれ3に背を当てていない基準状態(ニュートラル状態)を符号Nで示し、非ロッキング状態で着座者が上半身を略直立させた執務姿勢での背もたれ3の形状を符号Fで示している。そして、下段センターエレメントcが座リアアウターシェル21に連結されているため、着座者が背もたれ3の凸部Lのみに腰を当てると、凸部Lが後退すると共に、中段センターエレメントbと下段センターエレメントcとの開き角度が大きくなる。かつ、上段センターエレメントaは前向きに移動する。
つまり、背もたれ3は、執務状態Fでは、ニュートラル状態Nに対して前傾する。なお、図3(A)では、背もたれ3の下端が後ろに後退した状態を描いているが、実際には、背もたれ3の下端の前後位置は一定である。図2(C)に示すように、背支柱13aの上端部と背アウターシェル中段エレメントト23bとの間に、ゴム等の弾性体41が配置されており、背アウターシェル中段エレメント23bは、弾性体41を変形させて手前側に回動する。従って、背もたれ3は、弾性体41によってニュートラル状態Nが保持されている。
つまり、弾性体41は、ニュートラル状態Nにおいては負荷が全くかかっていないか、負荷がかかっていても、応力が均衡して基準状態に保持されており、このため、弾性体41が基準状態のときには、背アウターシェル中段エレメントト23bと背支柱13aとの相対角度は一定に保持されている。これにより、背もたれ3はニュートラル状態Nに保持されている。
他方、上下3段のサイドエレメントd〜fは上下に繋がっているため、中段センターエレメントbと下段センターエレメントdとの開き角度が大きくなると、迫り出し作用により、センターエレメントa〜cに対する夾角が小さくなるように手前側に回動する。従って、サイドエレメントa〜cは着座者の身体を包む方向に回動して、着座者の身体に対するホールド作用が高くなる。その結果、着座者は、疲れることなく長時間の執務を行うことが可能になる。
図3(B)では、着座者が中段センターエレメントbと上段センターエレメントaとに身体を当ててもたれ掛かったロッキング状態での背もたれ3の姿勢を符号Rで示している。但し、図3(B)では、背もたれ3の下端がニュートラル状態Nに対して前進した状態を表示しているが、これは動きの傾向を示したものであり、実際には、背もたれ3は全体的に後傾する。
従って、図3(B)に示すロッキング状態Rは、ニュートラル状態Nとの関係を示すものである。そして、背もたれ3がロッキング状態Rに移行すると、背もたれ3は、背支柱13aを上端部を中心にして後傾する動きに移行しようとするが、背もたれ3の下端は座リアアウターシェル22に連結されているため、ニュートラル姿勢Nに対する相対的な後傾量は少ない。
そして、座アウターシェル18の後傾角度よりも背支持フレーム13の後傾角度が大きいことに起因して、背もたれ3は、ニュートラル状態Nに対して相対的に後傾するため、中段センターエレメントbと下段センターエレメントcとの成す夾角は小さくなる。つまり、ロッキング時には、着座者は身体を伸ばすことから、人の体圧は、中段センターエレメントbと上段センターエレメントaとに掛かるため、中段センターエレメントbと下段センターエレメントcとの成す夾角は小さくなる。すると、サイドエレメントd〜fが互いに繋がっているため、サイドエレメントd〜fはセンターエレメントa〜cによって押し出し作用を受け、その結果、サイドエレメントd〜fは、センターエレメントa〜cに対する夾角を広げるように回動する(屈曲する)。従って、背もたれ3は、平面視で平坦な状態に向かう方向に広がり変形する。
着座者が執務姿勢からロッキング姿勢に移行すると、中段センターエレメントbと下段センターエレメントbとが成す夾角が小さくなる。すると、上下に隣り合ったサイドエレメントd〜fサイドエレメントd〜fが互いに引っ張り合う傾向を呈し、結果として、サイドエレメントd〜fは、センターエレメントa〜cとの夾角を大きくするように広がり変形する。
すると、サイドエレメントd〜fは、着座者を包むように狭まった状態から、着座者から離れるように広がる。すなわち、平坦な状態に移行するように変形する。従って、ロッキング状態では、サイドエレメントd〜fによる身体のホールド性が低下するか無くなり、その結果、身体の解放性が高くなる。従って、人は、高い安楽性を得ることができる。なお、サイドエレメントd〜fはセンターエリアa〜cと完全に平行になるのではなく、広がりきった状態でも少し手前に傾いている。従って、身体の過剰な横ずれに対する抑止機能は確保されている。
図3(C)では、左右の上段サイドエレメントdは執務状態Fのみを表示している。また、下段サイドエレメントfは、右側ではニュートラル状態Nと執務状態Fとロッキング状態Rとの3つの態様を重ねて表示しておおり、左側では、ニュートラル状態Nとロッキング状態Rとの2つの状態を重ねて表示している。
また、図3(C)では、ロッキング状態Rにおいて、上段エレメントa,dがニュートラル姿勢Nに対して後退した状態を表示しているが、実際には、背もたれ3は全体として後傾しているので、ロッキング時には、上段エレメントa,dは(C)で表示した位置よりも後方(図では下方)にずれることになる。
(4).背インナー枠
既に述べたように、背もたれ3は、主要要素として背アウターシェル23と背クッション材24とを備えているが、本実施形態では、更に、図6〜図9の各図に示すように、主要要素として背インナー枠42を備えている。背インナー枠42はインナー部材の一例であり、ポリプロピレン等の樹脂を材料にした成形品である。また、背インナー枠42は、背クッション材24の形状を保持すると共に補強する保形部材の一例である。
背インナー枠42は、前後に開口したフレーム構造になっており、背クッション材24は、インサート成形により、背インナー枠42に固着(接着)されている。また、図13や図16に示すように、クッション材24の表面には表皮材24′が張られているが、表皮材24′も、インサート成形によってクッション材24に先着される。
なお、図7から理解できるように、背インナー枠42は背クッション材24の中段センターエレメント24bには固定されていない。このことから容易に理解できるように、背インナー枠42は背クッション材24の全てのエレメントに固着する必要はない。そして、背インナー枠42は周枠部43を有するため、背クッション材24の保形機能について問題はない。また、背クッション材24の中段センターエレメント24bは、背インナー枠42に拘束されないフリー状態になっているため、背クッション材24の全体としての変形が容易になっている。
つまり、密着・離反自在な一対の金型のうち一方の金型にインナー枠42をセットし、他方の金型に表皮材24′をセットし、その状態で両金型の間の空洞にクッション材24′の溶融した材料を注入してから固まらせることにより、クッション材24が背インナー枠42に接着された状態に製造されるのと同時に、表皮材24′はクッション材24の表面に接着される。インナー部材42及び表皮材24′は、金型には、例えば真空吸着によって脱落不能に保持できる。
インナー部材42とクッション材24と表皮材24′とを一体化する手段としては、インサート成形に代えて、三者を重ね合わせて型で挟んで、溝30の個所においてだけ三者を挟圧して一体化するという方法も採用できる。この場合は、例えば、溝30の個所にホットメルト接着剤を塗布しておいて、加熱により、溝30の形成と三者の接合とを同時に行える。
図6〜9の各図に示すように、背インナー枠42は、背クッション材24の外周部の背面に重なるループ形態の周枠部43と、中段エレメント31,34の上端部に重なる左右長手の横長ジョイント部44と、周枠部43の上端部と横長ジョイント部44とに繋がった額状部45とから成っている。
また、背インナー枠42のうち背クッション材24の溝30(薄肉ヒンジ部)の個所には、背クッション材24の隣り合ったエレメント24a〜24dが相対回動することを許容するため、ヒンジ部46を形成している。横長ジョイント部44は、ヒンジ部46を介して周枠部45と繋がっている。図14、図15に拡大して示すように、ヒンジ部46は、正面視でジグザグ状に形成されている。このため、ヒンジ部46の変形はより一層容易になっている。
また、図9(C)に示すように、ヒンジ部46は、側面視や平面視、底面視のような外周方向から見ると、手前側(背クッション材24の側)に向けて凸となるように、膨らんでいる(湾曲している)。このようなジグザク形状と前向き凸の膨らみ形状との相乗作用により、ヒンジ部46は、伸縮したり、前後方向に曲がったり、ねじれたりと、立体的に容易に変形する。その結果、背クッション材24の隣り合ったエレメント24a〜24bは、姿勢を自在に変形させつつ相対的に容易に屈曲できる。
従って、背クッション材24の全体で見ると、着座者の身体に倣うように滑らかに変形できる。この点、本実施形態の大きな利点である。
背インナー枠42は、基本的には帯板の構造になっているが、例えば図9(B)に示すように、背クッション材下段センターエレメント24fの下端部が重なるロア部43aには、断面L形で左右横長の補強部47を設けている。図13に示すように、補強部47は、背アウターシェル下段センターエレメント23cに形成した前向きリブ48を覆っている。例えば図9に示すように、周枠部45には、背クッション材24が入り込む貫通穴49を多数形成している。背クッション材24を構成する樹脂が貫通穴49に入り込んで、リベットのような役割を果たすことにより、背クッション材24との離脱(剥がれ)を防止している。
背インナー枠42の額状部45は、主として背アウターシェル23への取り付けの補助のために設けたものであり、例えば図9に示すとおり、左右中間部は軽量化のためX字形に形成されていて、その左右両側に縦長板状部50を設けている。そして、縦長板状部50や周枠部45、横長ジョイント部44に、背アウターシェル23との連結のための連結穴51を形成している。
連結穴51は、縦長板状部50には1つずつ形成して、横長ジョイント部44には縦長板状部50の下方位置に1つずつ形成している。他方、周枠部45には、連結穴51は飛び飛びで多数形成されている。また、連結穴51は、縦長板状部50の個所では左右横長の形態であるが、周枠部45及び横長ジョイント部44の個所では、それら周枠部45及び横長ジョイント部44の長手方向に長い長穴になっている。背インナー枠42と背アウターシェル23との連結は、連結穴51に装着したクリップを使用して行われるが、これは後述する。
額状部45において、左右の縦長板状部50の間の部位は、手前に凹んだ溝状部に52になっている。この溝状部52は、ヘッドレスト6の取り付けの補助的機能を有しているが、詳細は省略する。
また、額状部45は背クッション材上段センターエレメント24aに重なって、横長ジョイント部44は背クッション材中段センターエレメント24bに重なっているため、額状部45と横長ジョイント部44とは屈曲しない構造になっている。換言すると、額状部45と横長ジョイント部44とを屈曲しない構造とすることにより、背クッション材24の上段センターエレメント24aと中段エレメント24bとは、溝30が存在しても相対的に回動(屈曲)しない状態になっている。
(5).背インナー枠の意義
さて、特許文献1,2を実施形態(第1実施形態)に基づいて述べると、背もたれは、左右方向にはセンターエリアと左右のサイドエリアとに三分割されて、センターエリアとサイドエリアとは、それぞれ上段、中段、下段の3段に分割されており、従って、背もたれは全体として9枚のエレメント(パート)とからなっていて、隣り合ったエレメントは、相対回動できるようにヒンジ部を介して繋がっている。また、特許第5562001号公報には、ザインナーシェルの上面にクッション材を一連に配置した座において、座インナーシェルにヒンジ部を形成することにより、座の後部を下方に屈曲させることが開示されている。
特許文献1,2には、サイドエリアに位置したエレメント(サイドエレメント)がロッキングに連動して回動する(屈曲する)ことが開示されおり、このようなエレメントの動きにより、快適性を向上できると云える。
本実施形態は、このような現状に鑑み成されたものであり、エレメントが屈曲する身体支持体において、エレメントの動きの確実性や身体支持体の耐久性の向上などを目的とするものである。
本実施形態の技術は、椅子の背もたれの他に、座、ヘッドレスト、シェルダーレストなどの身体支持部材に適用できる。そして、本実施形態では、人の身体が当たる表面側がクッション材で構成されて、前記クッション材の裏側にはシェル体が配置されており、少なくとも前記クッション材は、相対的に屈曲し得る複数のエレメントに区画されている構成であって、前記クッション材の裏面に、前記クッション材の裏面全体に広がることなく枠状の形態のインナー部材が、隣り合ったエレメントに跨がる状態で取り付けられており、前記インナー部材のうち隣り合ったエレメントの境界部の個所がヒンジ部になっており、かつ、前記インナー部材は前記シェル体に取り付けられている。
上記の構成では、インナー部材がクッション材の補強の役割を果たすため、高い耐久性を確保することができる。また、クッション材をシェル体に直接に取り付けるのは面倒であるが、本願発明では、クッション材はインナー部材を介してシェル体に取り付けられるため、背もたれ等の身体支持体の組み立ても容易である。更に、クッション材の屈曲支点がインナー部材のヒンジ部によって規定されるため、エレメントの屈曲の動きも正確になる。
インナー部材は様々な形態を採用できるが、実施形態のように周枠部43を有する形態を採用すると、周枠部43によってクッション材の外形が規定されるため、表裏に開口した枠状でありながら、クッション材の保形性を高めることができる。また、クッション材24の屈曲がインナー部材42によって損なわれることはないため、背もたれ3等の身体支持体の全体としての屈曲変形も容易及び確実化される。
(6).背アウターシェル
例えば図8に示すように、背アウターシェル23は、上段センターエレメント23aと中段センターエレメント23bとが一体であるのを除いて、各エレメント23a〜23fは別体の構造になっており、例えば図8や図13(A)に示すように、隣り合ったエレメント23a〜23fは、エラストマーよりなるバンドヒンジ55によって一体に繋がっている。バンドヒンジ55は帯状軟質樹脂材である。
図8に示すように、上段センターエレメント23aと中段センターエレメント23bとの前面には、それらに連続した補強リブ56が形成されている。また、各エレメント23a〜23fは、周囲に前向きリブ(壁)を有するシェル状(トレー状)に形成されている。従って、背アウターシェル23の各エレメントはシェルと呼ぶことも可能である。
図13(A)に明示するように、バンドヒンジ55はエレメント23a〜23fの前面に重なっており、かつ、バンドヒンジ55は少し裏側に露出している。このため、背アウターシェル23の裏面には、バンドヒンジ55の個所が溝の状態になって表れている(図6(A)も参照)。例えば図6(A)に示すように、背アウターシェル23の上段センターエレメント23aと中段センターエレメント23bとの境界部には横長溝57が形成されている。この横長溝57は意匠的な目的で設けたものであり、この個所で屈曲するものではない。
図15の(A)と(B)との比較からよく理解できるように、背インナー枠42のヒンジ部48は、背アウターシェル23のバンドヒンジ55に手前から重なるように配置されている。
バンドヒンジ55は、二色成形法又はインサート成形によって成形されている。図13(C)(D)では、二色成形法を表示している。この二色成形法では、可動型(キャビ)58と固定型(コア)59とを有する金型装置が使用されて、両型58,59の合わせ面に、所定の位置と姿勢に配置された各エレメント23a〜23fに対応した単位空間60が形成されている。各単位空間60には、図示しないゲートが開口している。ゲートは、一般に固定型58に設けている。
そして、例えば可動型58のうち、隣り合った単位空間60に跨がる部位を、可動型58の移動方向と同じ方向にスライドするスライド型61で構成し、スライド型61に、エラストマー注入用のゲート62を設けている。スライド型61はバンドヒンジ55に対応した形状であって一連に繋がっているので、ゲート62は1か所でもよい(複数個所が好ましい。)。
また、ゲート62は、固定型59に設けることも可能である(こちらの方法が現実的にある。)。この場合は、ゲート62は、背アウターシェル23の隣り合ったエレメト(単位シェル)の間に位置している。逆に述べると、背アウターシェル23の隣り合ったエレメントの間にある程度の間隔を空けることにより、ゲート62を固定型59に設けてバンドヒンジ55を成形することが可能になっている。
また、背アウターシェル23を構成する各エレメント23a〜23fの外周には前向きのリブが形成されており、バンドヒンジ55は、リブの端面に重なっている。このため、各エレメント23a〜23fの剛性を高めつつ、バンドヒンジ55を成形することができる。
そして、金型装置では、スライド型61を前進させた状態で各単位空間60に溶融樹脂を注入してから固まらせることによって各エレメント23a〜23fを形成し、次いで、スライド型61を後退させることによってバンドヒンジ55に相当する空間を形成し、この空間に溶融したエラストマーを注入して固まらせる。エラストマーが固まってバンドヒンジ55が形成されから、型開きして製品を取り出す。
このように、二色成形法を採用すると、各エレメントa〜fを正確に位置決めできるため、背アウターシェル23を高い精度で製造できる。また、バンドヒンジ55は正確に形成されるため、エレメンド同士の連結強度にも優れている。バンドヒンジ55の成形手段としては、インサート成形法も採用できる。これは、スライド型61を備えていない金型装置を使用して、金型装置の所定位置にエレメント23a〜23fをセットしてから、バンドヒンジ55に対応した空間にエラストマーを注入して固まらせることになる。
図14や図15、図8に示すように、バンドヒンジ55の上端部と、上段のサイドエレメント23dと中段のサイドエレメント23eとを繋ぐ部分の先端とには、突起55aを設けている。突起55aは、背アウターシェル23のエレメントに空けた突起(図示せず)を覆っている。このため、バンドヒンジ55が各エレメント23a〜23fから剥がれることが、より確実に防止される。
バンドヒンジ55の剥離防止手段としては、背アウターシェル23に突設したボスにバンドヒンジ55を嵌め込んだ状態に成形して、ボスの先端部を潰して頭をつくり、頭でバンドヒンジ55を押さえ保持することが可能である。或いは、押さえ板をバンドヒンジ55に手前から重ねて、押さえ板を背アウターシェル23に固定してもよい。
例えば図8、14〜16から理解できるように、背アウターシェル23を構成する各エレメント23a〜23fは、背もたれ3の外周を構成する部分には前向きのリブ63が形成されている。背インナー枠42は、リブ63で囲われた凹所に配置されている。このため、背インナー枠42はずれ不能に保持されている。例えば図8に示すように、背アウターシェル23の各23a〜23fには、正面視で背インナー枠42の連結穴51と重なる連結用リブ64を前向きに突設している(連結構造は後述する。)。
(7).背アウターシェルの意義
さて、特許文献1,2には、隣り合ったエレメントを回動可能に連結するヒンジ手段として,「フィルムヒンジ」と「マテリアルブリッジ」が開示されている。また、背アウターシェルのヒンジ部として、特許文献3には、米国特許第4711491号明細書には、背アウターシェルの一部を波形に形成することが開示されている。
特許文献1,2には、「フィルムヒンジ」と「マテリアルブリッジ」について図示した説明はなされていないが、いずれにしても、耐久性や強度、或いは円滑な屈曲を十分に確保できるか否か不明である。また、米国特許第4711491号では、背アウターシェルの一部をヒンジ部と成したものであるが、米国特許第4711491号の構造は、背もたれが特許文献1,2のような多数のエレメントで構成されている場合は適用することが困難であると推測される。また、波形の形態が人に違和感を与えることも懸念される。
本実施形態は、このような現状の改善も目的にしている。
本実施形態は、背もたれだけでなく、座やヘッドレストなどの椅子用身体支持体に広く適用できる。この身体支持体は、「相対回動可能な複数のエレメントで構成されており、隣り合ったエレメントがヒンジによって連結されている、という構成において、前記各エレメントは、強度メンバーとしての単位シェル体を有しており、前記ヒンジは、隣り合った単位シェル体に一体成形された帯状軟質樹脂材で構成されている」という発明として敷衍できる。帯状軟質樹脂材としては、エラストマーが好ましい。
上記の構成によると、帯状軟質樹脂材は単位シェル体に一体成形されているため、高い接着強度を確保できると共に、接着ムラが無くて加工精度においても優れている。また、ヒンジは単位シェル体とは異なる材料の軟質樹脂材で構成されているため、屈曲も滑らかでかつ耐久性や強度にも優れている。更に、椅子において、背アウターシェル等のアウターシェルは立体的な形状になっているのが普通であるが、帯状軟質樹脂材を一体成形することにより、隣り合った単位シェル体を確実かつ正確に連結できる。従って、信頼性にも優れている。帯状軟質樹脂材はフラット状であるため、露出しても人に違和感を与えることはなくて、美観にも優れている。
また、帯状軟質樹脂材はどの方向にも変形するため、特許文献1,2のように多数の身体支持体がエレメントで構成されている場合でも、隣り合ったをエレメントを容易に相対回動させることができる。
(8).背アウターシェルと背支柱との連結構造
既に述べたが、背支柱13の上端部は、背アウターシェル23の中段センターエレメント23bに相対回動可能に連結されている。この点を、図10〜図12を参照して説明する。図11に示すように、背支柱13の上端には、側面視で前傾姿勢でやや左右横長のボス部66が一体に形成されており、ボス部66に、左右横長の連結ピン67が挿通されている。連結ピン67は、ボス部66の左右両側に突出している。
他方、背アウターシェル中段センターエレメント23bには、背支柱13のボス部66を覆う抱持部68が後ろ向きに突設されており、図10に明示するように、抱持部68の下面部には、ボス部66及び連結ピン67が下方から嵌まる挿入穴70が空いている。
そして、図11(A)に明示するように、背アウターシェル23の抱持部68は、補強リブ71で囲われた前向き開口の空間になっており、この空間の内部に、連結ピン67の左右露出部が手前から重なる左右一対の軸受け部72を前向きに突設しており、更に、連結ピン67の左右露出部を押さえ部材73で押さえることにより、連結ピン67を離脱不能に保持している。押さえ部材73は4本のビス74で抱持部68に固定されている。また、図10に明示するように、押さえ部材73には、連結ピン67の両端部を手前から押さえる押さえ部73aが左右に分離して形成されている。左右の押さえ部73aの間に、ボス部66が位置している。
このように、押さえ部材73を使用することにより、連結ピン67を後ろから全く見えない状態に保持できる。また、連結ピン67の左右方向の移動は抱持部68で阻止されるので、スナップリングのような抜け止め手段も不要である。もとより、背支柱13と背アウターシェル23との連結手段は任意であり、抱持部68に挿通した連結ピンでボス部63と連結することも可能である。
背アウターシェル23は、中段センターエレメント23bのうち、やや上寄りの部位が背支柱13aに連結されている。従って、着座者が背もたれ3にもたれかかると、背もたれ3は、連結ピン64を中心にして後傾する傾向を呈する。
(9).背もたれの傾動制御構造
図10(A)及び図12に示すように、背支柱13のボス部63の直下部には、既述の弾性体41が配置されている。弾性体41は、例えばゴム(チェラスト)から成っているが、コイルばねなどのばね体も使用できる。弾性体41は、基本的には前後方向に長い棒状であるが、前後中間部が最も小径となるように外周は凹んでいる。このため、砂時計に似た形状になっている。
弾性体41の前面と後面には金属製のリング41aを接着等で固着しており、このリング41aが、背アウターシェル中段センターエレメント23bと背支柱13とにボルト77で締結されている。従って、リング41aは、ナットとしても機能している。背アウターシェル中段センターエレメント23b及び背支柱13には、リング41aが密着する受け座76a,76bを形成している。また、背支柱13の後面には、ボルト76を格納するための座繰り穴77が形成されている。なお、弾性体41の両端にねじ軸を突設し、このねじ軸をナットによって背アウターシェル中段センターエレメント23bと背支柱13とに固定することも可能である(この構成の方が、弾性体41の全体を変形させることができるため、好適である。)。
図12(B)では、便宜的に、ニュートラル状態Nと執務状態Fとロッキング状態Rとを、3本の線として表示している。そして、背もたれ3に体圧が掛かっていないニュートラル状態Nでは、弾性体41は、圧縮も伸びも全く又は殆どしていない自由状態になっている。逆に述べると、弾性体41に復元力が作用していないため、背もたれ3がニュートラル状態Nに保持されている。
背もたれ3の凸部Lのみが着座者の腰部で押されて背もたれ3が執務状態Fに移行すると、中段センターエレメント23bは、その上端が手前に移動して下端が後ろに移動するように、連結ピン67を中心にして回動する。従って、中段センターエレメント23bと背支柱13aとの間隔は狭くなる。従って、弾性体41は、圧縮変形及び曲がり変形する。換言すると、弾性体41を弾性変形させることにより、中段センターエレメント23bは、上端が手前に移動するように回動する。
なお、ニュートラル状態Nから執務状態Fへの移行に際しては、弾性体41は、側面視において上側に反るように変形する。そして、弾性体41は、砂時計のように抉られた形状であるため、弾性体41の曲がり変形は容易になっている。従って、ニュートラル状態Nから執務状態Fへの移行はスムースに行われる。着座者が執務状態Fから上半身を手前に移動させると、背もたれ3は弾性体41の復元力によってニュートラル状態Nに戻る。
ロッキング状態Rでは、着座者の体圧の中心が背もたれ3の回動中心(連結ピン67)よりも上にあるため、ニュートラル状態Nからロッキング状態Rへの移行に際しては、中段センターエレメント23bは、ニュートラル状態Nに対して、上端が後ろに移動して下端が手前に移動するように後傾する。従って、背支柱13aと背アウターシェル中段センターエレメント23bとの間隔は、ニュートラル状態Nよりも広がっていく。従って、弾性体41は、ニュートラル状態Nに対して伸び変形すると共に、下側に反るように曲がり変形する。
執務状態Fからロッキング状態Rに移行する場合は、弾性体41は、いったん自由状態に戻り、それから伸び変形することになる。ロッキング状態Rから身体を手前に起こすと、背もたれ3は、弾性体41の復元力によってニュートラル状態Nに戻る。なお、背もたれ3が手前への全体的に移動することは、ロッキングばねによって行われる。弾性体41は、ニュートラル状態Nに対する姿勢の変化、或いは、背支柱13aと背もたれ3との相対的な姿勢の変化の制御のためのものである。
特許文献1,2においても、背もたれは背支柱に対して相対的に回動する。そして、背もたれを、着座者の体圧が掛かっていない原位置に戻すための復帰手段として、ばねエレメント26を備えている。しかるに、特許文献1,2では、背もたれ3は、サイドエレメントが原姿勢から狭まり変形するだけであり、従って、ばねエレメントもロッキング状態で圧縮されるに過ぎない。
これに対して本実施形態では、背もたれ3はニュートラル状態Nを境にして、執務状態Fとロッキング状態Rとに姿勢が相対的に変化するものであり、これに伴って、弾性体41は圧縮変形と伸び変形とに変形態様が相違する。また、弾性体41は、下向きに反る曲がりと、上向きに反る曲がりとに、執務状態Fとロッキング状態Rとで曲がり方が逆になっている。
これを逆に見ると、弾性体41の変形態様を逆にすることにより、背もたれ3は、ニュートラル状態Nを境にして執務状態Fとロッキング状態Rとに逆向きに姿勢が変化することが可能になっているといえる。従って、背もたれ3を、負荷が掛かっていない状態でニュートラル状態Nに保持しつつ、執務状態Fとロッキング状態Rとに姿勢変化させることが、1種類の弾性体41を利用して簡単かつ確実に実現されている。この点、本実施形態の大きな利点の一つである。
(10). 背インナー枠と背アウターシェルとの連結構造・他
次に、主として図14〜16を参照して、背インナー枠42と背アウターシェル23との連結手段を説明する。本実施形態では、背インナー枠42と背アウターシェル23との連結は、図16に示すクリップ79を使用している。例えば図9に示すように、背アウターシェル23には、背インナー枠42の連結穴51に対応した板状リブ80の群が前向きに突設されている。クリップ79が板状リブ80に嵌着することにより、背インナー枠42が背アウターシェル23に連結され、結果として、背クッション材24が背アウターシェル23に連結されている。
クリップ79は、ステンレス板やばね鋼のような金属板製であり、山形に繋がった一対の側板81を有している。そして、図16(A)(D)のとおり、クリップ79は、山を先にした姿勢で、背インナー枠42の連結穴51に後ろから挿入されている。背インナー枠42の連結穴51は、背アウターシェル23との間に少し間隔を空けた前向きリブ80に形成されており、両側板81の先端部(自由端部)には、連結穴51の長手開口縁部51aを前後から挟持する抱持部82が曲げ形成されている。
従って、クリップ79は、背インナー枠42に前後離反不能に保持される。連結穴51の長手開口縁には、背クッション材24の側に向いた段部83が形成されており、このため、長手開口縁部51aは段落ちしている。従って、抱持部82は、前向きリブ80の前面よりも後ろにずれた状態に配置される。
背アウターシェル23に設けた前向きリブ80は、先端(前端)に向けて厚さが薄くなるテーパ状であり、クリップ79の2枚の側板81の間に挿入される。そして、クリップ79の側板81には、前向きリブ80を挟むような挟持片84を内側に切り起こし形成しており、挟持片84に、前向きリブ80に食い込む爪85を一対ずつ切り起こし形成している。
更に正確に述べると、まず、両挟持片84の先端部は、互いの間隔が背アウターシェル23に向けて広がるガイド部84aに形成されており、これにより、前向きリブ80が両挟持片84の間にスムースに誘い込まれる。更に、爪85は、ガイド部84aから両側板81の連接部に向けて延びており、かつ、相対向した爪85の先端間の間隔は、前向きリブ80の厚さよりも小さい寸法に設定されている。
このため、前向きリブ80をクリップ79の内部に向けて押し込み切ると、爪85が前向きリブ80に食い込む。これにより、背インナー枠42は背アウターシェル23に対して離脱不能に保持される。爪85は1枚の挟持片84に2つずつ形成しているが、1つずつ形成したり、3つ以上ずつ形成することも可能である。
本実施形態では、背クッション材24は、背インナー枠42にインサート成形によって接着されている。そして、背クッション材24は軟質であるので、背クッション材24が連結穴51に充満した状態に成形して、クリップ79を押し退ける状態でクリップ79を連結穴51に挿入することは可能である。或いは、インサート成形用の金型に、背クッション材24の外形に類似した突起を形成しておくことにより、背クッション材24にクリップ79が嵌まる空間を形成することも可能である。
また、背インナー枠42と背アウターシェル23との連結として、上記では、前向きリブ80をクリップ79に挿入する方法として説明したが、実際には、クリップ79を前向きリブ80に押し込むことが一般的であるあると云える。この場合は、クリップ79は、背クッション材24を介して前向きリブ80に押し付けることになる。
背クッション材24を覆う表皮材24aの縁は、背インナー枠42の裏側に巻き込まれるが、表皮材24aの縁に、クリップ79が嵌まる穴を空けておいて、表皮材24aの縁の始末とクリップ79の取付けとを一緒に行うことも可能である。もとにより、表皮材24aの縁は、タッカーで背インナー枠42に固定したり、接着材で接着したりしてもよい。
なお、本実施形態では、表皮材24aは、背インナー枠42へのインサート成形と同時に、背クッション材24と一体化されている。すなわち、表皮材24aを金型にセットした状態で背クッション材24を成形することにより、FIG22に明示するように、表皮材24aが溝44に入り込んだ状態に保持することを簡単に実現できる。もとより、予め背クッション材24を成形してから、表皮材24aを接着剤等で背クッション材24に接着することも可能である。或いは、表皮材24aを背クッション材24に重ねて、表皮材24aの縁部を背インナー枠42にタッカー等で固定するといったことも可能である。
図16(A)に明示するように(図14や図15も参照)、背インナー枠42は背アウターシェル23の外周のリブ63で囲われている。従って、背インナー枠42を設けても美観の問題は生じない。また、既に述べたが、背インナー枠42が背アウターシェル23に対して正確に位置決めされるため、クリップ79と前向きリブ80との位置関係も正確に対応させることができる。このため、クリップ79と前向きリブ80とが見えない状態であっても、背クッション材24のうちクリップ79がある個所を押すだけで、各クリップ79を前向きリブ80に正確に取り付けることができる。
例えば図6及び図7(A)に示すように、本実施形態の背もたれ3は、着座者の腰部の支持高さを調節するためのランバーサポート装置88も備えている。ランバーサポート装置88は、背クッション材24に後ろから当たるランバーサポート体89と、ランバーサポート体89を上下動操作するための操作レバー90と、レバー90を高さ調節自在に保持する支持ブラケット91とを備えている。図8に符号92で示すように、背アウターシェル中段エレメント23bの下端部の前面に、リブ93で囲われた凹所94を形成しており、支持ブラケット91は凹所94にずれ不能に固定されている。
操作レバー90の上端部は、ランバーサポート体89の上端部の裏面にビスで固定されている。そして、操作レバー90は、背アウターシェル中段エレメント23bの下端部に設けた挿通穴95(図10参照)から下方に露出している。従って、着座者は、背もたれ3の後ろに手を回して操作レバー90を昇降操作することができる。支持ブラケット91には、操作レバー90の手前において上向きに突出した舌片を設けており、舌片の上端に前向きの係合突起を設けている一方、操作レバー90の前面に、係合突起が嵌脱する係合溝を上下多段に多数形成している。舌片の弾性変形により、係合突起と係合溝とが係脱する。
既述のとおり、背インナー枠42は、背クッションセンターエレンメント24bには固定されていない。そして、図7(A)から理解できるように、背クッション体24のセンター中段エレンメント24bとセンター下段エレンメント24bとは自由に変形できる状態になっている。このため、ランバーサポート体89の昇降動は阻害されず、着座者を後ろから支える高さ位置の変更を確実化できる。
(11).ランバーサポート装置の意義
背もたれにランバーサポート装置を設けることは広く行われている。使用者の身長や好みに適合させるために、ランバーサポート体を高さ調節式に構成することも行われている。他方、背もたれの構造として、樹脂製の背アウターシェル(裏カバー)の手前に背クッション材を配置したものがある。このように背アウターシェルを備えた背もたれでは、ランバーサポート体をどうやって昇降操作するかが問題になる。
この点について特許第5529501号公報には、背アウターシェルの左右側端部と背クッション材の左右側端との合わせ面の個所から操作部(操作レバー)を露出させることが開示されている。つまり、特許第5529501号公報では、操作部は、背もたれの左右側面の個所から外側に露出させている。従って、操作部は背もたれの左右外側にはみ出ている。しかし、この構成では、横を通る人の物(例えば鞄)操作部に物が当たったり、横を通る人の衣服が操作部に引っ掛かったりすることが懸念される。
本実施形態のランバーサポート装置は、このような現状を改善することも目的にしている。
そして、本実施形態を敷衍すると、ランバーサポート装置を備えて椅子を、「背もたれの背面を構成する背アウターシェルの手前に、背クッション材又はその他の身体支持部材が配置されており、前記身体支持部材と背アウターシェルとの間に、前記身体支持部材を介して着座者の腰部を支えるランバーサポート体が高さ調節可能に配置されている、という構成において、前記背アウターシェルを、着座者の腰部が最も手前に位置した屈曲部を形成しており、前記屈曲部の手前側に、前記ランバーサポート体を配置されている一方、前記背アウターシェルのうち、前記屈曲部の頂点よりも上の個所に、前記ランバーサポート体を昇降操作する操作部を露出させるための挿通穴が空いており、前記操作部は、前記挿通穴から下方に延びている」、という構成として提示できる。
この構成では、操作部は背アウターシェルの後ろに位置しているため、横を通る人の物や衣服が当たったり引っ掛かったりする不都合は生じない。また、操作部は背アウターシェルに設けた挿通穴を使用して露出させるため、背アウターシェルと背クッション材とは全周にわたって固定等することができる。従って、背クッション材の取り付け強度が低下したり、背クッション材と背アウターシェルとの合わせ面に隙間が空いて美観を損なうような問題もない。背アウターシェルに上下長手の長穴を空けて、この長穴から操作レバー(摘み)を露出させる構成も採用可能である。
(14). 椅子のデザイン的な特徴
本実施形態では、背クッション材24は9枚のエレメント24a〜24fで構成されており、各エレメント24a〜24fの前面は表皮材24′で構成されている。表皮材24′はクロス(布地)や合成皮革などからなるが、いずれにしても、インサート成形によって背クッション材24に一体に接着されているため、表皮材24′は、背クッション材24の前面の全体に、張った状態で接着される。
従って、図13(A)に明示するように、背もたれ3の前面は、皺がなく張った状態の表皮材24′で構成されており、かつ、各エレメント24a〜24fは溝30によって区分されている。更に、溝30の個所にも表皮材24′が入り込んでいる。また、本実施形態の特徴として、各エレメント24a〜24fは、溝30の存在によって、平坦面と周囲の裾部とを有する略台形状(或いは高原状)の形態になっていることである。従って、着座者の身体に当たる部分は基本的にフラットになっている。この点は、座クッション材17も同様である。
そして、着座者の身体が当たる部分は平坦状であるため、着座者の背中・腰は、背もたれ3及び座2の表面全体に均等当たる。このため、背中や腰に作用する反力も、背中や腰に広く分散する。このため、局所的な突き上げ感は皆無となって、高い使用感を得ることができる。なお、エレメント24a〜24fの外周部は、角張っていてもよいし丸みを帯びていてもよい。
図1に明示するように、座2の上面(換言すると、座クッション材17の上)は、溝96により、5つの各エレメント2a〜2dに分かれている。すなわち、平面視台形の中央エレンメント2aをメインの要素として、中央エレンメント2aの手前に位置したセンターフロントエレメント2b、中央エレンメント2aの後ろに位置したリアエレメント2c、中央エレンメント2a及びリア支持部17cの左右両側に位置したサイドエレメント2dに分かれている。従って、座クッション材17の上面は、左右方向と前後方向との両方向において複数に区画されている。溝96は、背もたれ3の溝30(図13(A))と同じになっている。
座クッション材17は、背クッション材24と同様に、インサート成形によって座インナーシェル16に一体に接着されている。また、座クッション材17への表皮材の接着も、座クッション材17の成形と同時に行われる。なお、インサート成形においては、表皮材は、座インナーシェル16をセットした金型と対向した金型にセットされる。具体的には、真空吸着や粘着剤による粘着によって、金型にセットされている(この点は、背クッション材24の場合も同じである。)。
特許文献1,2では、背もたれは9枚のエレメントに区分されており、図1では、隣り合った各エレメントの境界部である折り目は単なる線に表示されている。そして、特許文献1,2の図1では、各エレメントは前向きに突出した山形に表示されていると解される。座の上面の形態は明確に把握できないが、山形のエリアが複数存在しているように見受けられる。つまり、座についても、背もたれとデザイン的な統一性を持たせていると推測さる。
また、特許文献1では、背もたれを構成するエレメントの境界は明瞭であり、従って、従来にないデザインとしてユーザーの注目を引くと云える。しかし、各エレメントが山形であると、ユーザーによっては、違和感を持つかもしれない。従って、複数のエレメントで構成されてはいても、より滑らかなデザインに対する要請は存在していると云える。
本実施形態は、特許文献1,2を更にデザイン的に洗練させると共に、身体への当たりの滑らかさも向上させることも、課題・目的の一つとしている。
デザイン的な目的を達成するための手段として本実施形態で採用している特徴は、
1):人の身体の当たる側にクッション材が張られている身体支持体を備えている椅子において、前記クッション材は、全体として一連に連続しつつ、表面は溝によって複数のエレメントに区画されており、前記溝で区画された各エレメントの表面は平坦状になっている。という第1デザイン的発明と敷衍できる。
この敷衍された発明における身体支持体には、背もたれ、座、ヘッドレスト、肘当て、シェルダーレストなどが含まれる。更に、本実施形態のデザイン的な特徴は、エレメントが屈曲しない椅子にも適用できる。そして、第1デザイン的発明は、以下の1)〜7)に例示するように、様々に展開できる。
2).第2デザイン的発明:第1デザイン的発明において、前記身体支持体としての背もたれを構成する背クッション材の前面に、当該背クッション材を左右方向と上下方向とに両方向において複数に区画する複数本の溝が形成されている。
3).第1デザイン的発明において、第3デザイン的発明:前記身体支持体としての座を構成する座クッション材の上面に、当該座クッション材を左右方向と前後方向とに両方向において複数に区画する複数本の溝が形成されている。
4).第1〜第3デザイン的発明のうちのいずれかにおいて、前記身体支持体としての背もたれを構成する背クッション材の前面に、当該背クッション材を左右方向と上下方向とに両方向において複数に区画する複数本の溝が形成されている一方、前記身体支持体としての座を構成する座クッション材の上面に、当該座クッション材を左右方向と前後方向とに両方向において複数に区画する複数本の溝が形成されており、前記背クッション材におけるエレメントのパターンと座クッション材におけるエレメントとが対称に近い形態になっている。
5).第1〜第4デザイン的発明のうちのいずれかにおいて、前記クッション材の表面には表皮材が張られており、前記表皮材をインサート成形によってクッション材に一体に固着することにより、表皮材が前記溝の内部に入り込むと共に全体として張った状態でクッション材に接着されている。
6).第1〜第5デザイン的発明のうちのいずれかにおいて、前記身体支持体としての背もたれが、その背面を構成する背アウターシェルと前面を構成するクッション材とを備えており、前記背クッション材の前面に、当該背クッション材を左右方向と上下方向とに両方向において複数に区画する複数本の溝が形成されている一方、前記背アウターシェルの背面には、前記クッション材の溝と前後対称状に溝が形成されている。
前記背クッション材と背アウターシェルとは、前記溝の個所のうち全部又は複数の個所がヒンジ部になっている。
7).第1〜第6デザイン的発明のうちのいずれかにおいて、直線状の複数の溝の群によって幾何学模様が構成されている。
上記のデザイン的発明では、クッション材は全体として一連に広がっているため、身体支持体の組み立ては容易であるし、寸法精度も高くなる。また、各エレメントの表面は平坦状であるため、過剰な装飾性を無くして人に好ましい印象を与えることができる。すなわち、デザイン的に洗練されたものとすることができる。また、各エレメントが平坦状であることにより、身体支持体が広い面積にわたって人の身体に当たるため、身体へのフィット性も向上できる。
更に、本実施形態では、上記したデザイン的側面で見ると、椅子の背面視では背アウターシェル23と座2とが同時に見えるが、両者とも台形や三角形を基調にした幾何学模様とデザインが統一されているため、背面視(バックビュー)においても、優れた美粧効果を発揮している。従って、背もたれ3と座2との表面の模様・パターンに統一性を持たせると、好ましいと云える。幾何学模様を表す場合、四角や六角形のような他の多角形を、1種類又は複数種類組み合わせることも可能である。実施形態のように、背もたれの背面を前面と同じ態様に溝で区画すると、フロントビューとバックビューとの統一が取れているため、好適である。
実施形態では、エレメント23a〜23f,24a〜24fが着座者の押し作用で屈曲(回動)したが、エレメント23a〜23f,24a〜24fが単に弾性に抗して回動する構成とすることも可能である。つまり、エレメント23a〜23f,24a〜24fが例えばロッキングに連動して屈曲するのではなくて、着座者の体圧で押されて、弾性に抗して後ろに屈曲する構成とすることも可能である。
デザイン的特徴において、背もたれ3及び座2とも、エレメントの数や形状、配置は実施形態に限定されることなく、任意に設定可能である。例えば、実施形態の変形例として、上段エリア25(a,d)を備えない態様があり得る。背もたれ3のみを幾何学模様に構成したり、座2のみを幾何学模様に構成したりすることも可能である。また、背もたれ3及び座2とも、複数のエレメントが上下複数段又は前後複数列に並んだだけの縞模様に形成したり、複数のエレメントが左右複数列に並んだだけの縞模様に形成したりすることも可能である。水玉模様で統一するといったことも可能である。
更、デザイン的特徴の展開例は、図27でも表示している。すなわち、図27では、溝30,96で形成されるパターンの別例を示している。各分図は背もたれ3と座2とを同一平面に展開した状態に表示しており、座2及び背もたれ3とも、座クッション材に表皮材を張った構造である。
図27において、座2と背もたれ3とは、(A)では四角の枠の模様で統一されて、(B)の例では横縞模様で統一され、(C)では縦縞で統一されて、(D)では縦横の格子模様で統一されている。(E)では、円と放射状ラインとの組み合わせになっている。(F)は3人掛けのベンチに適用しており、座及び背もたれ3とも、枡目にクロスラインを入れた模様で統一されている。座と背もたれとの模様・パターンに統一性を持たせずに、アンバランス性をコンセプトにすることも可能である。
デザイン的発明は、ヘッドレストやショルダーレスト、肘当てなどのオプション品も適用できる。これらのオプション品は、溝による模様を背もたれや座と統一させることも可能であるし、独自のデザインとすることも可能である。また、背もたれと座との模様・パターンを互いに関連がない図柄とすることも可能である。
(12).ベース部
本実施形態の椅子は、座2やその支持機構についても改良が施されている。この点を次に説明する。まず、主として図17〜図20を参照して、ベース部を説明する。
既述のとおり、ベース部は固定ベース9と傾動ベース10とを主要部材としている。このうち固定ベース9は、例えば図19(A)や図17(B)から理解できるように、ダイキャスト品又は鋳造品であり、左右の側板9aと底部とを有する上向き開口の浅い箱状に形成されている。後部に設けた上下開口の筒状ボス部125に、脚支柱7の上端が下方から嵌着している。固定ベース9の前部は、手前に向けて高くなるように側面視で傾斜している。
他方、図19(A)や図17(B)に示すように、傾動ベース10は、左右側板10aと後面板10bとを有して上下に開口しており、後面板10bには、上向きに開口した背支持部10cが固定されている。背支持部10cは左右の側板を有する上向き開口の樋状に形成されており、その内部に背支持フレーム13の前端部が嵌め入れられている。図17(A)のとおり、背支持フレーム13は、背支持部10cに複数本のボルト126で固定されている。
傾動ベース10は金属板製であり、その側板10aが固定ベース9の側板9aの外側に位置するようにして配置されている。すなわち、傾動ベース10は、固定ベース9に外側から被さっている。そして、図19(A)参照に示すように、傾動ベース10の側板10aの前端寄り部位が、支軸11によって固定ベース9に連結されている。
例えば図19(A)に示すように、傾動ベース10の左右側板10aの前部上端は、左右横長のフロントジョイント127によって連結されている。従って、傾動ベース10は、左右側板10aと後面板10bとフロントジョイント127とにより、上下に開口した枠構造になっている。
図17(B)からよく理解できるように、フロントジョイント127の下方には、前部固定ばね受け128が配置されている。この前部固定ばね受け128は、支軸11によって固定ベース9と傾動ベース10とに連結されているが、固定ベース9に設けたストッパー軸129によって、前傾不能に保持されている。従って、位置と姿勢は固定されている。
図20に示すように、前部固定ばね受け128の後面にはくさび形昇降体130が重ね配置されており、かつ、くさび形昇降体130の後面に、前部可動ばね受け131が重ね配置されている。くさび形昇降体130は、下に行くほど前後幅が小さくなっており、このため、くさび形昇降体130が昇降すると、前部可動ばね受け131は前後動する。前部可動ばね受け131は、前後動のみして昇降はしないように保持されている。
そして、固定ベース9の後部には、後部ばね受け132を固定しており、前部可動ばね受け131と後部ばね受け132とにより、左右一対のロッキングばね(圧縮コイルばね)133を前後から挟んでいる。従って、傾動ベース10の後傾動に対して、ロッキングばね133が抵抗して作用する。
くさび形昇降体130には上下長手のねじ軸134が螺合している。ねじ軸134の上端は、フロントジョイント127によって回転自在で上下動不能に保持されている。また、ねじ軸134の下端は、前部固定ばね受け128に設けた下支持片137(図17(B)も参照)によって回転自在に保持されている。また、ねじ軸134は、フロントジョイント127と下支持片137とで上下動不能に保持されている。
ねじ軸134の下端には、下窄まりの第1ベベルギア138が固定されている。一方、弾力調節ハンドル14の先端には、第1ベベルギア138に噛合する第2ベベルギア139が固定されている。従って、弾力調節ハンドル14を回転操作すると、ベベルギア138,139を介してねじ軸134が回転し、これにより、くさび形昇降体130が上下動し、これに連動しし前部可動ばね受け131が前後動する。
弾力調節ハンドル14は筒状であって、支軸11に外側から嵌まっている。従って、弾力調節ハンドル14は、支軸11の軸受けの役割を果たしている。また、高さ調節ハンドル15も筒状の形態であって支軸11に外から嵌まっており、従って、高さ調節ハンドル15も支軸11の軸受けの役割を果たしている。なお、高さ調節ハンドル15の回転操作により、脚支柱7の上端に突出したプッシュバルブが下向きに押されるが、その機構の説明は省略する。
例えば図19(A)に示すように、固定ベース9の前端部には、固定ベース9の上方に延びるフロントリンク140が、左右横長の第1軸141によって連結されている。従って、フロントリンク140は、その下端部を中心にして前後方向に回動し得る。そして、フロントリンク140の上端に、座受け部材12の前部が左右横長の第2軸142によって連結されている。
図20に示すように,フロントリンク140と前部固定ばね受け131との間には、圧縮コイルばね143が配置されている。従って、フロントリンク140は、圧縮コイルばね143で前傾方向に付勢されている。但し、図18(B)から理解できるように、フロントリンク140の下端が固定ベース9の前端に当たることにより、フロントリンク140の前傾角度が規制されている。
図19(A)や図18(A)のとおり、座受け部材12は、前後長手の縦長フレーム1144を有している。縦長フレーム144は、上端に左右外向きの上フランジ144aが形成された断面逆L形の形態であり、左右の上フランジ144aに、左右横長のフロントステー145とリアステー146とを溶接で固着している。従って、座受け部材12は、上下に開口した枠構造になっている。フロントステー145及びリアステー146は、縦長フレーム144の左右外側にはみ出ている。なお、図1,2に表示する肘掛け装置4は、リアステー146の張り出し部の下面に、スペーサ(図示せず)を介して固定されている。
図19(B)では、座受け部材12に座アウターシェル18が上から被さった状態を示しており、座受け部材12のフロントステー145が部分的に見えている。座アウターシェル18は、座受け部材12の上フランジ144aにビスで固定されている。このため、図19(A)に示すように、座受け部材12の左右上フランジ144aには、ビス挿通穴147が前後に2か所ずつ空けられている。
図18(A)や図19(A)に示すように、座受け部材12の縦長フレーム144は、その前部がフロントリンク140の上端に第2軸142で連結されて、その後部が、傾動ベース10の後端部に左右横長の第3軸148で連結されている。従って、傾動ベース10が後傾すると、座受け部材12は後端しつつ後傾する。但し、座受け部材12の後傾角度は傾動ベース10の後傾角度よりは小さい。
(13). 座の構造
次に、主として図21,22を参照して、座2を説明する(図4も参照)。座インナーシェル16は、ポリプロピレン等の樹脂を材料にした成形品であり、全体は一体構造であるが、例えば図21,22に示すように、着座者の体圧が強くかかるメインインナーシェル16aと、座メインインナーシェル16aの手前に位置したフロントインナーシェル16bと、メインインナーシェル16aの後ろに位置したリアインナーシェル16cとの3つのパートに区分されている。
例えば図24から正確に理解できるように、フロントインナーシェル16bとリアインナーシェル16cとはほぼ同じ程度の前後幅であり、大雑把には、それぞれ全長の1/4程度の前後幅である。他方、メインインナーシェル16aは、全長の半分程度の前後幅になっている。例えば図21(A)に示すように、座インナーシェル16は(及び座クッション材17は)、人の臀部や大腿部のプロフィールに適合するように、上向きに凹状に凹んでいる。また、座フロントインナーシェル16bは、前端に行くに従って低くなるように側面視で湾曲している。
メインインナーシェル16aは、着座者を安定的に支持するパートである。従って、基本的には剛体構造にななっている。但し、クッション性を確保するためには、例えば図21(A)に示すように、上下に開口したスリット151の群を設けている。スリット151の群は、前後長手のものと平面視傾斜姿勢のものとが混在しており、着座者の尾てい骨があたる部分を中心にして配置されている。
例えば図21(A)や図23(A)に示すように、メインインナーシェル16aの前部は下向きに凹んだ下向き土手部152になっている。このため、高い剛性を確保されている。下向き土手部152の内部には、これを横切る姿勢のリブ153が左右方向に並んで形成されている。
また、下向き土手部152のうち、左右半分に半分ずつ分けた部位の略左右中間部には、上部テープ保持部154が形成されている。上部テープ保持部154は、フロントインナーシェル16bを座クッション材17と一緒に下方に巻き込むためのテープ155(図21参照)の後端部(一端部)を係止(固定)するためのものであり、図22(B)に拡大して示すように、左右のリブ156で挟まれた上下開口の空間に、前後2本のバー157,158を配置した態様になっている。
テープ155は可撓性部材の一例であり、編地や織地のような布帛で構成されている(強靱な布テープである。)。そして、図26(B)に示すように、テープ155の後端を後ろのバー158に巻き掛けてからハトメ等のファスナでループ状に保持している。従って、手前のバー157は、テープ155が過度に屈曲することを抑制するガイド体の役割を果たしている。
テープ155は、他の様々な方法で固定できる。例えば、テープ155の後端をビスで固定することも可能である。或いは、テープ155の後端にフックを固定して、このフックをバーに係止してもよい。更に、テープ155をバーに巻いてから2枚重ねの状態で手前に引き出すことも可能である。なお、テープ155はフロントインナーシェル16bの上面に重なっているので、座クッション材17のインサート成形は、テープ155を座インナーシェル16に取り付けた状態で行われる。
フロントインナーシェル16bは、下向きの巻き込み変形を許容するための変形許容部である。そして、図21,22等に示すように、変形を許容するための弱化手段として、前後に並んだ複数列の横長スリット159が形成されている。横長スリット159を挟んで前後に隣り合った帯状部160は、左右両端においてブリッジ161で連結されている。ブリッジ161は、巻き込み変形を容易化するため、上向きに突出した逆U形(山形)になっている。なお、1つの横長スリット159の個所に3か所以上のブリッジ161を配置することも可能である。
例えば図22から理解できるように、横長スリット159で分断された帯状部160は上向きに開口した樋状の形態であり、リブによって補強されている。従って、着座者の大腿部は座3の前部で安定的に支持される。また、フロントインナーシェル16bのうち横長スリット159の群よりも手前の先端部162は、基本的に板構造であるが、多数のリブ163で補強されている。従って、フロントインナーシェル16bが過度に変形することはなくて、座2としての支持機能とが保持されている。
また、例えば図22のとおり、座フロントインナーシェル16bを構成する帯状部160と先端部162とには、テープ155の左右位置を規制するためのテープ保持溝164を形成している。
例えば図22や図24に示すように、メインインナーシェル16aとリアインナーシェル16cとの間には、左右横長のセンタースリット165と、その両側に配置された透かし穴166とが介在している。換言すると、センタースリット165と透かし穴166とによって、メインインナーシェル16aと座リアインナーシェル16cとの境界部がヒンジ部になっている。
そして、メインインナーシェル16aとリアインナーシェル16cとは、センタースリット165と透かし穴166との間に位置した第1ブリッジ167と、透かし穴166の左右外側に位置した第2ブリッジ168とで繋がっている。従って、リアインナーシェル16cは、メインインナーシェル16aに対して後傾動できる。第1ブリッジ167は単なる山形の形態であり、第2ブリッジ168は波形の形態である。従って、リアインナーシェル16cの左右両側部がメインインナーシェル16aに対して大きく逃げ回動することが許容されている。
既述のとおり、座インナーシェル16の上面には、幾何学模様を構成する溝22が形成されている。この場合、図26に示すように、まず、フロントインナーシェル16bの前後中途部の上方に、左右横長の溝22が形成られている。このため、座の前部が下向きに巻き込み変形することが容易になっている。
左右横長の溝22をフロントインナーシェル16bの後端部の上方に形成することも可能であるが、この場合は、巻き込みの終期にならないと溝22の個所で屈曲せずに、溝22によって弱化部(ヒンジ部)を形成したことの意義が薄くなる。これに対して、図示のように、横長スリット159やブリッジ161の群からなる変形部の前後中間部の上に溝22を設けると、巻き込みの始期から溝22の個所が屈曲するため、座2の前部の変形が軽い力でかつ正確に行われる利点がある。
(14). 座アウターシェルの基本構造
次に、座アウターシェル18を、主として図23〜26に基づいて説明する。例えば1198(A)に明示するように、座アウターシェル18は、メインインナーシェル16aが重なるメインアウターシェル18aと、フロントインナーシェル16bに対応したフロントアウターシェル18bと、リアインナーシェル16cに対応したリアアウターシェル18cとの3つの部材で構成されている。
これら3つの部材は別部材として製造されており、フロントアウターシェル18bはメインアウターシェル18aに前後スライド自在に装着されており、リアアウターシェル18cは、メインアウターシェル18aに後傾動可能に連結されている。メインアウターシェル18aは、着座者の身体を安定的に支持する機能を有するものであり、剛性を確保するために、上面には多数の補強リブが形成されている。
図22に示すように、メインアウターシェル18aの後端には、後ろ向きに開口した連結用凹部70が左右に分かれて一対形成されている。一方、リアアウターシェル18cの前端には、連結用凹部70に後ろから嵌まる左右一対の連結用凸部171が前向きに突設されており、これら連結用凹部70と連結用凸部171とが、左右長手のピン172で連結されている。従って、リアアウターシェル18cはメインアウターシェル18aに対して、相対的に後傾し得る。
図22のとおり、リアアウターシェル18cの連結用凹部171は、上向きに高くなっている。そこで、メインインナーシェル16aとリアインナーシェル16cとの境界部に、連結用凹部171が当たることを防止する透かし穴166を設けている。すなわち、座インナーシェル16の透かし穴166は、連結用凹部171を上に逃がすためのものである。
リアアウターシェル18cには、補強のためのリブが多数形成されている。また、リアアウターシェル18cの左右横幅は、メインアウターシェル18aの左右横幅よりもかなり小さく設定されている。従って、リアアウターシェル18cの左右横幅は、座インナーシェル16における座リアインナーシェル16cの左右横幅よりも小さくなっている。
図22(A)や図25に示すように、メインアウターシェル18aのおおよそ前半部のうち左右両側部は、下向きに大きく凹んだ溝状の固定ガイド部(下向き凸条部)173になっており、左右の固定ガイド凹部173の間の部分は、基本的には平坦な支持部174になっている。支持部174の前端は、左右の固定ガイド部173の前端よりも少し後ろに入り込んでいる。
他方、フロントアウターシェル18bは、メインアウターシェル18aの固定ガイド部173に前後スライド自在に嵌まる左右の可動ガイド部175と、メインアウターシェル18aの支持部174に上から重なる被支持部176とを備えている。フロントアウターシェル18bは前後スライドするが、被支持部176は、支持部174の手前に離れることはなくて、前進しきった状態でも、後端部は支持部174に載っている。フロントアウターシェル18bには、補強のため多数のリブを設けている。
例えば図25から理解できるように、メインアウターシェル18aの固定ガイド部173は、正面視で基本的には下窄まりの台形状の形態であるが、図19(B)から理解できるように、ハンドル14,15の回転操作の妨げにならないように、下向きにえぐった形態の逃がし凹部177を形成している。
図22(A)に示すように、固定ガイド部173は、内側面(内側板)173aと外側面(外側板)173b、及び、下面を構成する支持リブ173cとを有している。内側面173aは略鉛直姿勢であり、外側面173bは、上に向けて左右方向外側にずれるように傾斜している。他方、フロントアウターシェル18bの可動ガイド部175は、図25に示すように、固定ガイド部173に対応して、鉛直姿勢の内側面(内側板)175aと、傾斜姿勢の外側面(外側板)175bと、平坦状の底面(底板)175cとを有している。ガイド部173,175の嵌まり合いにより、フロントアウターシェル18bはガタ付きのない状態で前後スライドし得る。
図22(A)や図25に示すように、メインアウターシェル18aの前部と後部とには、座受け部材12に固定するための雌ねじ穴178を空けている。雌ねじ穴178の個所は上向きのボス部になっており、ビスは、下方から雌ねじ穴178にねじ込まれる。なお、メインアウターシェル18aと座受け部材12とは、他の手段で固定してもよい。
(15). フロントアウターシェルの他のガイド手段
例えば図25(A)から理解できるように、フロントアウターシェル18bにおける被支持部176の下面は基本的には平坦になっており、このため、被支持部176は支持部174によって安定した状態に支持される。そして、被支持部176と支持部174とに、抜け止めを兼用する2種類のガイド手段を設けている。
すなわち、第1のガイド手段の要素として、図22(B)に拡大して示すように、支持部174のうち左右中間部を挟んだ左右両側の部位に、前後長手の固定ガイドレール179を設け、左右の固定ガイドレール179の相対向した面に前後長手の蟻溝180を形成している。
また、図25(A)に示すように、フロントアウターシェル18bの被支持部176には、固定ガイドレール179との緩衝を回避するための逃がし溝181を形成することにより、左右の固定ガイドレール179の間に位置した可動ガイドレール182を形成し、可動ガイドレール182の後端部に、固定ガイドレール179の蟻溝180に嵌合するスライド突起183を設けている。このため、フロントアウターシェル18bの前後動がガイドされると共に、フロントアウターシェル18bはメインアウターシェル18aに対して上向き抜け不能に保持されている。
次に、第2のガイド手段について述べる。第2ガイド手段として、まず、図22(A)に示すように、支持部174の前端寄り部位でかつ固定ガイドレール179よりも左右外側の部位に筒状のガイドボス184を突設している一方、フロントアウターシェル18bの被支持部176には、ガイドボス184が嵌まる前後長手のガイド溝185を形成しており、ガイドボス184に、図24に示したビス186を上からねじ込んでいる。従って、ビス186の頭が抜け止めの役割を果たしている。
前後長手の固定ガイドレール179と前後長手のガイド溝185とが左右に一対ずつ形成されているため、フロントアウターシェル18bは、左右に振れることなく安定した状態で前後スライドし得る。ガイドボス184が固定ガイドレール179よりも手前に位置しているため、フロントアウターシェル18bは、ガイド溝185がガイドボス184に嵌まるようにメインアウターシェル18aに重ね、次いで後ろにスライドさせるという手順により、スライド突起183を蟻溝180に嵌め込むことができる。
フロントアウターシェル18bの前後スライドストロークはガイド溝185で規定されるため、スライド突起183が蟻溝180から外れることはない。また、ビス186のねじ込みは、スライド突起183を蟻溝180に嵌め入れた後に行われる。フロントアウターシェル18bはフロントインナーシェル16bの支持部であるが、この支持部は、座受け部材12やベース等のように、メインアウターシェル18aでない部材に装着することも可能である。また、スライド機構として、リンク機構などの各種の手段を採用できる。
(16). フロントアウターシェルへのテープの取り付け構造等
例えば図22(A)や図26に示すように、フロントアウターシェル18bの前端部には、テープ155の他端を取り付けるための下部テープ保持部187が形成されている。図26に示すように、下部テープ保持部187は前後に開口した横長溝188を有しており、テープ155の前端(他端)は、フロントインナーシェル16bの前端部162に設けた穴162aを経由して横長溝188に通ってから、押さえ板189によって、下部テープ保持部187の裏面に固定されている。押さえ板189は、ビス190により、下部テープ保持部187の壁に固定されている。テープ155の前端部についても、フックを使用するなど、様々な連結手段を採用できる。
フロントアウターシェル18bを後退させると、座インナーシェル16における座フロントインナーシェル16bの前端が、テープ155によって下向き及び後ろ向きに押される。従って、座フロントインナーシェル16bは、座クッション材17と一緒に下向きに巻かれるように変形する(図26(B)の一点鎖線参照)。これにより、座2の前後幅(奥行き)が変化する。フロントアウターシェル18bを前進させると、座3の前部は、フロントインナーシェル16b及び座クッション材17の弾性復元力により、元の状態に戻り変形する。
本実施形態では、座クッション材17は、座インナーシェル16にインサート成形によって一体化されており、横長スリット159に入り込むと共に、帯状部160の内部にも充満している。このため、座クッション材17は、座フロントインナーシェル16bを引き伸ばす弾性体の役割を果たしている。その結果、ばねのような戻し手段を設けなくとも、フロントアウターシェル18bを前進させると、座2の前部は確実に戻り変形する。
本実施形態では、フロントインナーシェル16bはテープ155によって上から押された状態で下方に巻き込まれるため、巻き込み変形に際して座2の前部が上や手前に膨れることはない。
つまり、フロントインナーシェル16bの前端を引く構成の場合は、巻き込み時に、横長スリット159の目が広がる傾向を呈することがあり、その結果、巻き込みときに座2の前部の表面が膨れる減少を生じる可能性があるが、本実施形態では、フロントインナーシェル16bがテープ155で上から押さえられているため、横長スリット159の目開きが生じるこきとはなく、従って、美観に優れている。
また、フロントインナーシェル16bの変形許容部がフロントアウターシェル18bに重なるように保持されているため、フロントインナーシェル16bの上向きの浮きも防止される。この面でも、美観に優れている。また、フロントインナーシェル16b及びフロントアウターシェル18bには係合手段を設ける必要はないため、構造の簡素化にも貢献できる。
さて、テープ155はフロントインナーシェル16bの先端の下端から後ろに漉き込むことも可能であるが、この場合は、フロントインナーシェル16bが上向きに起こされるおそれがある。この点、本実施形態のように、テープ155をフロントアウターシェル18bの先端部162aに設けた穴162aから後ろに通すと、フロントインナーシェル16bが引かれる位置をできるだけ高くすることができるため、フロントインナーシェル16bを下向きに引いて浮きをより確実に防止できる利点がある。穴162aに代えて切り開き溝を設けても、同等の利点を享受できる。
本実施形態では、テープ155は左右に2本配置したが、例えば、左右の中間位置とその外側の3か所に配置することも可能である。或いは、広幅の帯条に形成した可撓性部材を左右中間部に1枚だけ配置するといったことも可能である。テープ155に代えて、紐やワイヤーを採用することも可能である。この場合は、左右の複数個所に配置したらよい。
本実施形態では、リアアウターシェル18cがメインアウターシェル18aに対して 後傾したが、後傾式のリアアウターシェル18cを備えてないタイプにも適用できる。また、フロントインナーシェル16bを変形させる手段としては、薄肉薄化したり、左右横長の溝を前後に複数列形成するなど、様々の手段を採用できる。
また、本実施形態では、フロントアウターシェル18bでフロントインナーシェル16bを支持したが、座受け部材12に前後動自在に装着されスライド部材でフロントインナーシェル16bを支持することも可能である。また、本願発明は、背もたれにも適用できる。この場合は、背アウターシェルを、固定アウターシェルにアッパーアウターシェルが上下動自在に装着された形態として、アッパーアウターシェルにテープ等の可撓性部材の上端部を係止又は固定したらよい。
(17). 座アウターシェルに対する座インナーシェルの取り付け構造
メインインナーシェル16aはメインアウターシェル18aに固定されているが、この固定は、背もたれ3について説明したクリップ79を使用している。そこで、図22,23に示すように、メインアウターシェル18aの前後左右4個所に連結穴51を形成して、この連結穴51にクリップ190を裏側から嵌め込み装着している。また、座アウターシェル18のメインアウターシェル18aには、クリップ79で挟持される突出板部802を形成している。
図24から明瞭に把握できるように、前部の連結穴191は左右横長の形態であり、後部の連結穴191は前後長手の形態である。このため、座インナーシェル16は、前後方向のずれと左右方向のずれとの両方に対して高い抵抗を発揮する。
座インナーシェル16の座リアインナーシェル16cは、左右2か所の位置でリアアウターシェル18cに連結されている。すなわち、図23(A)に示すように、リアアウターシェル18cに左右一対のフック突起193を上向きに突設している一方、リアインナーシェル16cには、図23(C)に拡大して示すように、フック突起193が嵌まる係合穴194を形成している。
フック突起193は頭を有するT形である一方、係合穴194は、フック突起193が嵌脱し得る広幅部194aを有しており、広幅部194aにフック突起193を嵌め入れてから、座リアインナーシェル16cを手前にずらすと、座リアインナーシェル16cは、リアアウターシェル18cに対して上向き離脱不能に保持される。
そして、座2の取り付けに当たっては、まず座リアインナーシェル16cをリアアウターシェル18cに取り付けてから、フック突起193を支点にして座メインインナーシェル16aを下向きに押さえると、予め座インナーシェル16に取り付けていたクリップ190が、メインアウターシェル18aの突出板部191に嵌着する。メインアウターシェル18aは、ビス止め等の他の手段で座受け部材12に固定してもよい。また、座受け部材12を備えていない場合は、ベースに直接固定してもよい。
例えば図22に示すように、メインアウターシェル18aには、メインインナーシェル16aを支持する台座突起195が複数個形成されている。台座突起195は、支持部174の後部にも設けている。このため、フロントアウターシェル18bには、台座突起195との衝突を回避するための切り欠き196を形成している。
図19(B)に示すように、メインアウターシェル18aの左側面からは、摘み197が各穴から露出している。摘み197は、座2の奥行き調節を行うレバー装置の一部である。図25(A)に符号197,198で示すように、メインインナーシェル16aの左側面には、レバー装置を取り付けるための穴が空いている。レバー装置の説明は省略する。なお、図25(A)に示すように、メインインナーシェル16aの右側面にも摘み199が見えるが、これは、座2の前後動操作を容易にするためのダミーの摘みである。
(18).奥行き調節装置の意義
椅子において、座の奥行きを調節するための方法として、座の前部を下方に巻き込み可能な変形許容部に構成することが行われている。その一例が特開2013−220180号公報に開示されている。
すなわち、特開2013−220180号公は本願出願人の出願であり、座インナーシェルが支持される座アウターシェルを、座受け部材に固定された固定アウターシェルと、この固定アウターシェルに前後スライド自在に装着されたスライドアウターシェルとを有する構成として、スライドアウターシェルの先端部に座インナーシェルの前端部を係止している。また、特許文献1の特徴として、スライドアウターシェルは前進しきった状態でも、左右の全幅に亙って固定アウターシェルに載っている。
特許文献1では、スライドアウターシェルは前後動の全ストロークにおいて、左右全幅にわたって固定アウターシェルで支持されているため、座の安定性に優れている。このような利点により、実際に椅子に具体化して商品化しても高い信頼性を得られている。
本実施形態は、このような現状を背景に成されたものであり、上記公報とは異なる視点に立ったインナーシェル(及びクッション材)の巻き込み構造を提供せんとするものである。
本実施形態の技術を敷衍すると、椅子は多彩な様相を呈することができる。例えば、第1の発明は、」座インナーシェルの表面に座クッション材を張っており、前記座インナーシェルの前部が、座クッション材と一緒に下方に巻き込み可能な変形許容部に形成されている椅子において、前記座インナーシェルにおける変形許容部の上面に、可撓性部材が、前記座インナーシェルの前部の下方に露出した操作部を有する状態で重ね配置されており、前記操作部を後ろに引っ張ると、前記可撓性部材を介して座インナーシェルが下方に巻き込まれるようになっている」と敷衍できる。
本実施形態を背もたれに適用した場合は、「背インナーシェルの表面に背クッション材を張っており、前記背インナーシェルの上部が、背クッション材と一緒に後ろに巻き込み可能な変形許容部に形成されている椅子において、前記背インナーシェルにおける変形許容部の前面に、可撓性部材が、前記背インナーシェルの上部の後ろに露出した操作部を有する状態で重ね配置されており、前記操作部を下方に引っ張ると、前記可撓性部材を介して背インナーシェルが後ろに巻き込まれる」という構成として敷衍できる。
可撓性部材は、例えば、紐やワイヤーのような線状の形態を採用することも可能である。また、相当の横幅を有する態様も採用できる。
上記の構成では、座や背もたれの巻き込みに際しては、インナーシェルの変形許容部は、可撓性部材で表面から押さえられた状態で曲がり変形する。このため、変形許容部を、全体にわたって均等に曲げることができる。従って、座の奥行きや背もたれの高さの寸法精度に優れていると共に、個体差も無くすことができる。また、変形許容部の浮き・膨れを防止できるため、座の奥行きを縮めたり背もたれの高さを低くした状態において、表面を美麗な状態に保持できる。
また、座インナーシェルの前端を引くと、座インナーシェルの変形許容部の曲がり態様が一定しないことがあるが、実施形態のように、座インナーシェルのうち前端よりも後ろの部位を引くと、座インナーシェルに曲がりの支点を形成できるような状態になため、座インナーシェルを美麗に巻き込むことができる利点がある。この点は、テープのような可撓性の部材で引かなくても発揮する効果である。
実施形態のようにテープ状の可撓性部材を採用すると、インナーシェルの変形許容部に可撓性部材が重なる面積を小さくできるため、インナーシェルとクッション材との密着性や接着性を高めることができる。特に、クッション材をインナーシェルにインサート成形によって接着した場合、高い接着力を確保できるため、特に有益である。また、可撓性部材がテープ状であると、引っ張りの構造も簡単にできる(すなわち、引っ張る部材への取り付けを容易に行える。)。