以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下に記載の実施形態及び実施例の内容により限定されるものではない。また、以下に記載の実施形態及び実施例にて示された構成要素は適宜組み合わせても良いし、適宜選択してもよい。
本発明の一実施形態の係る窒化鉄系磁性粉末は、Fe16N2相を主相とするFe16N2粒子の表面に第一の被覆層を有し、かつ、第一の被覆層の表面に第二の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子からなる窒化鉄系磁性粉末であって、前記第一の被覆層がCr、Mn、V、Mo、Wのいずれか1種以上からなる金属若しくは合金であり、前記第二の被覆層がNi、Coのいずれか1種以上からなる金属と前記第一の被覆層に含まれる金属との合金であることを特徴とする。
本発明に記載の窒化鉄系磁性粉末は、主相がFe16N2粒子からなる。また、前記主相以外に、Fe2O3、Fe3O4及びFeO等の酸化鉄相を有していてもよい。
本実施形態に係るFe16N2粒子は、主相がFe16N2化合物相であり、Fe4N化合物相を含んでもよい。また、Fe16N2粒子の表面に酸化物からなる相を有していてもよい。
前記Fe16N2粒子が、Mn、Ni、Co、Ti、Zn等の遷移金属を含んでいてもよい。
前記Fe16N2粒子の粒子径は30〜150nmであることが望ましい。Fe16N2粒子の粒子径がこの範囲内の場合、保磁力が増加する傾向がある。
本発明に記載の窒化鉄系磁性粒子は、主相であるFe16N2粒子の表面に第一の被覆層を有しかつ、第一の被覆層の表面に第二の被覆層を有している。前記Fe16N2粒子と第一の被覆層の界面の一部にSi化合物を含んでいてもよい。
前記第一の被覆層はCr、Mn、V、Mo、Wのいずれか1種以上の金属若しくは合金であり、結晶質及び非晶質の何れの状態でもよい。
前記第二の被覆層はNi、Coのいずれか1種以上の金属と前記第一の被覆層に含まれる金属との合金であり、結晶質及び非晶質の何れの状態でもよい。前記第一の被覆層に含まれる金属が前記第二の被覆層の金属と合金化することにより、第二の被覆層と第一の被覆層の密着性が高まり、高温時における第二の被覆層の剥離を防ぐ効果が得られるため、窒化鉄系磁性粉末が良好な耐湿性を得ることができる。
また好ましくは前記第二の被覆層の合金に含まれる前記第一の被覆層に含まれる金属が1〜10at%とすることで、窒化鉄系磁性粉末がさらに良好な耐湿性を得ることができる。この時、前記第一の被覆層に複数の金属が含まれる場合、前記第二の被覆層の合金に含まれる前記第一の被覆層に含まれる金属が複数であってもよい。その場合は前記第二の被覆層の合金に含まれる前記第一の被覆層に含まれる複数の金属の総量が1〜10at%である。
前記第一の被覆層の厚みは5nm以上が好ましく、さらに好ましくは5〜15nmである。前記第一の被覆層の厚みが5nm未満の場合は、Fe16N2粒子同士を磁気的に分離する効果が十分に発現しないため、良好な保磁力を得ることができない。また、前記第一の被覆層の厚みが15nmを超える場合は、窒化鉄磁性粉末に含まれるFe16N2相の割合が低下し、窒化鉄系磁性粉末が十分な飽和磁化を得られない場合がある。また好ましくは、前記第二の被覆層の厚みが5nm以上である。前記第二の被覆層の厚みが5nm未満の場合は、前記窒化鉄系磁性粉末が良好な耐湿性を得ることができない。また、前記第二の被覆層の厚みが15nmを超える場合は、窒化鉄磁性粉末に含まれるFe16N2相の割合が低下し、窒化鉄系磁性粉末が十分な飽和磁化を得られない場合がある。
本実施形態に係る窒化鉄系磁性粉末の好適な製造法について述べる。本実施形態に係る窒化鉄系磁性粉末は、酸化鉄粒子を合成した後、前記酸化鉄粒子に還元処理および窒化処理を順に施して得たFe16N2粒子を第一及び第二の被覆層を形成する処理を行うことにより得られる。
前記酸化鉄粒子は鉄塩水溶液と、アルカリ水溶液とを混合させた後、熟成し、洗浄することにより製造することができる。
前期鉄塩としては、硫酸塩、塩化物、硝酸塩等を挙げることができ、これらを適宜組み合わせて使用してもよい。また、それらの水和物を使用することができる。
前記アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水、アンモニア塩水溶液、および尿素水溶液を1つ以上用いることができるが、この限りではない。
また、酸化鉄製造後、結晶性改良や粒子サイズ、粒子形状制御のために、オートクレーブによる水熱処理など液中熟成反応を行ってもよい。
酸化鉄製造後、水溶液をろ過し、必要に応じて水洗等の洗浄処理を施すことで酸化鉄粒子を回収することができる。
前記酸化鉄粒子は、還元処理によって粒子同士が焼結することを抑制するために、粒子表面の一部をSi化合物で被覆してもよい。Si化合物としては、コロイダルシリカ、シランカップリング剤、シラノール化合物等が使用できる。
Si化合物を被覆する場合、その被覆量は酸化鉄粒子に対しSi換算で0.1質量%以上20質量%以下であることが望ましい。0.1質量%未満の場合には熱処理時に粒子間の焼結を抑制する効果が十分得られないため、最終的に得られる窒化鉄系磁性粒子が大きくなる。20質量%を超える場合には熱処理時に粒子間の焼結を抑制する効果が過剰となり、最終的に得られるFe16N2粒子が小さくなる。
前記酸化鉄粒子は、平均粒子径は10nm以上150nm以下が好ましい。平均粒子径をこの範囲とすることで、最終的に得られるFe16N2粒子の平均粒子径を30〜150nmとすることができる。
前記酸化鉄粒子は、マグネタイト、γ−Fe2O3、α−Fe2O3、α−FeOOH、β−FeOOH、γ−FeOOH、FeOなどである、この限りではない。
前記酸化鉄粒子の粒子形状は、球状、針状、粒状、紡錘状、直方体状などいずれでもよい。
次に、得られた酸化鉄粒子の還元処理を行い、鉄粒子を得る。還元処理の温度は200〜400℃である。還元処理の温度が200℃未満の場合には酸化鉄粒子が十分に還元されない。還元処理の温度が400℃を超える場合には酸化鉄粒子は十分に還元されるが、粒子間の焼結が進行するため好ましくない。より好ましくは230〜350℃である。
還元処理の時間は特に限定されないが、1〜96時間が好ましい。96時間を超えると還元温度によっては焼結が進み後段の窒化処理が進みにくくなってしまう。1時間未満では十分に還元が進行しない。より好ましくは2〜72時間である。
還元処理の雰囲気は、水素雰囲気である。
次に、得られた鉄粒子の窒化処理を行い、Fe16N2粒子を得る。窒化処理の温度は100〜200℃である。窒化処理の温度が100℃未満の場合には窒化が十分に進行しない。窒化処理の温度が200℃を超える場合には、窒化が過剰に進行するため、磁気特性が低下する。より好ましくは120〜180℃である。
窒化処理の時間は特に限定されないが、1〜48時間が好ましい。48時間を超えると窒化温度によっては磁気特性が低下する。1時間未満では十分な還元ができない場合が多い。より好ましくは3〜24時間である。
窒化処理の雰囲気は、NH3雰囲気が望ましく、NH3の他、N2、H2などを混合させてもよい。
この時、Fe16N2粒子が、粒子表面に酸化鉄相を有していてもよい。
得られたFe16N2粒子を十分に脱水した有機溶剤と混合し、さらに分散剤を添加し、Fe16N2粒子を含むスラリーを作製する。
前記有機溶剤にはヘキサン、シクロヘキサン、オクタン等のアルカン類や、シクロヘキサノン等のケトン類等のいずれか一つ以上を用いた、単体液体もしくは混合液体を用いることができるが、この限りではない。
前記分散剤には、オレイン酸、オレイルアミン、トリオクチルアミン等の何れか一つ以上を用いることができるが、この限りではない。
前記分散剤の添加量は、前記Fe16N2粒子に対して0.1質量%以上5質量%以下である。分散剤量をこの範囲にすることにより後段の被覆層の形成処理時にFe16N2粒子の凝集を制御することができる。
前記Fe16N2粒子を含むスラリーにCrヘキサカルボニル、二Mnデカカルボニル、Vヘキサカルボニル、Moヘキサカルボニル、Wヘキサカルボニル等の非磁性金属カルボニルの何れかを添加し、処理温度120〜150℃で1〜48時間撹拌し、第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーを作製する。この時の処理温度が120℃未満の場合、金属カルボニルの分解が進まず、Fe16N2粒子表面に第一の被覆層を十分に形成することができない。この時の処理温度が150℃を超える場合には、金属カルボニルの分解によって生成する金属が粒子として形成されるため、窒化鉄系磁性粒子表面に第一の被覆層を形成することができない。より好ましくは130℃〜140℃である。また撹拌時間が1時間未満の場合は金属カルボニルの分解しきらないため、Fe16N2粒子表面に第一の被覆層を十分に形成することができない。撹拌時間が48時間を超える場合には、処理温度によっては最終的に得られる窒化鉄系磁性粉末の磁気特性が低下する。より好ましくは3〜24時間である。
前記第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーにCoオクタカルボニル、Niテトラカルボニル等の卑金属カルボニルの何れかと、前記第一の被覆層の形成に用いた非磁性金属カルボニルを添加し、処理温度100〜130℃で1〜48時間撹拌し、第二の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーを作製する。この時の処理温度が100℃未満の場合、金属カルボニルの分解が進まず、前記第一の被覆層の表面に第二の被覆層を十分に形成することができない。この時の処理温度が130℃超える場合には、金属カルボニルの分解によって生成する金属が粒子として形成されるため、前記第一の被覆層の表面に第二の被覆層を形成することができない。より好ましくは110〜120℃である。また撹拌時間が1時間未満の場合は金属カルボニルの分解しきらないため、前記第一の被覆層の表面に第二の被覆層を十分に形成することができない。より好ましくは3〜24時間である。
次に、得られた前記第二の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーを100℃で20時間窒素雰囲気中にて乾燥し、第一の被覆層と第二の被覆層を有する窒化鉄系磁性粉末を作製することができる。
本実施形態によって得られた窒化鉄系磁性粉末を用いて、ボンド磁石を得ることができる。以下、その製造方法を述べる。
まず、本実施形態によって得られた窒化鉄系磁性粉末を用いたボンド磁石の製造方法の一例について説明する。樹脂を含む樹脂バインダーと磁性粉とを例えば加圧ニーダー等の加圧混練機で混練して、ボンド磁石用コンパウンド(組成物)を調製する。樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂や、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系のエラストマー、アイオノマー、エチレンプロピレン共重合体(EPM)、エチレン−エチルアクリレート共重合体等の熱可塑性樹脂がある。なかでも、圧縮成形をする場合に用いる樹脂は、熱硬化性樹脂が好ましく、エポキシ樹脂又はフェノール樹脂がより好ましい。また、射出成形をする場合に用いる樹脂は熱可塑性樹脂が好ましい。また、ボンド磁石用コンパウンドには、必要に応じて、カップリング剤やその他の添加材を加えてもよい。
また、ボンド磁石における窒化鉄系磁性粉末と樹脂との含有比率は、磁性粉末100質量%に対して、樹脂を0.5質量%以上20質量%以下含むことが好ましい。磁性粉末100質量%に対して、樹脂の含有量が0.5質量%未満であると、保形性が損なわれる傾向があり、樹脂が20質量%と超えると、十分に優れた磁気特性が得られ難くなる傾向がある。
上述のボンド磁石用コンパウンドを調製した後、このボンド磁石用コンパウンドを射出成形することにより、磁性粉末と樹脂とを含むボンド磁石を得ることができる。射出成形によりボンド磁石を作製する場合、ボンド磁石用コンパウンドを、必要に応じてバインダー(熱可塑性樹脂)の溶融温度まで加熱し、流動状態とした後、このボンド磁石用コンパウンドを所定の形状を有する金型内に射出して成形を行う。その後、冷却し、金型から所定形状を有する成形品(ボンド磁石)を取り出す。このようにしてボンド磁石が得られる。ボンド磁石の製造方法は、上述の射出成形による方法に限定されるものではなく、例えばボンド磁石用コンパウンドを圧縮成形することにより磁性粉末と樹脂とを含むボンド磁石を得るようにしてもよい。圧縮成形によりボンド磁石を作製する場合、上述のボンド磁石用コンパウンドを調製した後、このボンド磁石用コンパウンドを所定の形状を有する金型内に充填し、圧力を加えて金型から所定形状を有する成形品(ボンド磁石)を取り出す。金型にてボンド磁石用コンパウンドを成形し、取り出す際には、機械プレスや油圧プレス等の圧縮成形機を用いて行なわれる。その後、加熱炉や真空乾燥炉などの炉に入れて熱をかけることにより硬化させることで、ボンド磁石が得られる。
成形して得られるボンド磁石の形状は特に限定されるものではなく、用いる金型の形状に応じて、例えば平板状、柱状、断面形状がリング状等、変更することができる。また、得られたボンド磁石は、その表面上に酸化層や樹脂層等の劣化を防止するためにめっきや塗装を施すようにしてもよい。
ボンド磁石用コンパウンドは目的とする所定の形状に成形する際、磁場を印加して窒化鉄系磁性粉末を一定方向に配向させる。これにより、窒化鉄系磁性粉末が特定方向に配向するので、より磁性の強い異方性ボンド磁石が得られる。
次に、本発明に記載の窒化鉄系磁性粉末について、実施例・比較例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
(実施例1)硫酸鉄七水和物(FeSO4・7H2O)167gと塩化鉄六水和物(FeCl3・6H2O)85gをイオン交換水に溶解し、鉄塩水溶液を作製した。2.5molアンモニア水溶液600gを30℃に保持し、先に調整した鉄塩水溶液を添加した後、液中熟成反応として70℃で一定となるように温度コントロールし、30分撹拌後、遠心分離機にて2Lのイオン交換水で3回洗浄を行い、酸化鉄スラリーを作製した。
前記酸化鉄スラリーに、テトラエトキシシラン5.0g、エタノール21g、ジエチレングリコールモノブチルエーテル78gを添加し、Si被着処理を施した。この酸化鉄スラリーを85℃で24時間乾燥し、Fe2O3を含む酸化鉄粒子を作製した。
前記酸化鉄粒子2gを焼成ボートに入れ、熱処理炉に静置した。炉内に窒素ガスを充填した後、水素ガスを1L/minの流量で流しながら、5℃/minの昇温速度で250℃まで昇温し、48時間保持して還元処理を行った。その後、水素ガスの供給を止めて窒素ガスを2L/minの流量で流しながら140℃まで降温した。続いて、アンモニアガスを0.2L/minにて流しながら、140℃で24時間窒化処理を行った。その後、窒素ガスを2L/minの流量で流しながら50℃まで降温し、空気置換を24時間実施し、Fe16N2粒子を得た。
得られたFe16N2粒子10gを十分に脱水したオクタン500gと混合し、さらに分散剤としてオレイルアミンを0.3g添加し、窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーを作製した。得られた窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーにCrヘキサカルボニルを4.0g添加し140℃で24時間撹拌し、Cr金属からなる第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーを作製した。
得られた第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーにNiテトラカルボニルを3.0g、Crヘキサカルボニルを0.03g添加し110℃で24時間撹拌し、Ni金属にCr金属が固溶した合金からなる第二の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーを作製した。
次に得られた第二の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーを100℃で20時間窒素雰囲気中にて乾燥し、窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(実施例2、3、4、5)第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーに添加するCrヘキサカルボニルの量を0.04、0.20、0.40、0.44gとした以外は、実施例1と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(実施例6、7、8、9)第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーに添加するNiテトラカルボニルの量を0.6、1.8、6.0、9.0gとし、Crヘキサカルボニルの量を0.04、0.12、0.40、0.60gとした以外は、実施例3と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(実施例1011、12、13)Fe16N2粒子を含むスラリーに添加するCrヘキサカルボニルの量を0.8、2.4、8.0、12.0gとした以外は、実施例3と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(実施例14)Fe16N2粒子を含むスラリーに二Mnデカカルボニルを4.0g添加し、第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーにCrヘキサカルボニルに変えて二Mnデカカルボニルを0.20g添加した以外は、実施例3と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(実施例15)Fe16N2粒子を含むスラリーにVヘキサカルボニルを4.0g添加し、第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーにCrヘキサカルボニルに変えてVデカカルボニルを0.20g添加した以外は、実施例3と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(実施例16)Fe16N2粒子を含むスラリーにMoヘキサカルボニルを2.2g添加し、第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーにCrヘキサカルボニルに変えてMoヘキサカルボニルを0.11g添加した以外は、実施例3と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(実施例17)Fe16N2粒子を含むスラリーにWヘキサカルボニルを1.7g添加し、第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーにCrヘキサカルボニルに変えてWヘキサカルボニルを0.09g添加した以外は、実施例3と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(実施例18)第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーに二Coオクタカルボニルを3.0g添加した以外は、実施例3と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(実施例19)第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーに二Coオクタカルボニルを3.0g添加した以外は、実施例14と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(実施例20)第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーに二Coオクタカルボニルを3.0g添加した以外は、実施例15と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(実施例21)第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーに二Coオクタカルボニルを3.0g添加した以外は、実施例16と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(実施例22)第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーに二Coオクタカルボニルを3.0g添加した以外は、実施例17と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(比較例1)実施例1と同様の方法でFe16N2粉末を作製した。
(比較例2)第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーに卑金属カルボニル及び非磁性金属カルボニルを添加しなかった以外は実施例1と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(比較例3)Fe16N2粒子を含むスラリーに非磁性金属カルボニルを添加せず、Niテトラカルボニルのみを添加した以外は実施例1と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(比較例4)第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーに非磁性金属カルボニルを添加しなかった以外は実施例1と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(比較例5)第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーにCrヘキサカルボニルに変えてMoヘキサカルボニルを0.11g添加した以外は、実施例3と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(比較例6)第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーにCrヘキサカルボニルに変えて二Coオクタカルボニルを3.0g添加した以外は比較例4と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(比較例7)Fe16N2粒子を含むスラリーにNiテトラカルボニルを3.0g、Crヘキサカルボニルを0.03g添加し、第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーにCrヘキサカルボニルに変えてCrヘキサカルボニルを4.0g添加した以外は実施例1と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
(比較例8)Fe16N2粒子を含むスラリーにNiテトラカルボニルを3.0g添加し、第一の被覆層を有する窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーにCrヘキサカルボニルに変えてCrヘキサカルボニルを4.0g添加した以外は実施例1と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。
≪窒化鉄系磁性粉末の構成相≫
得られた窒化鉄系磁性粉末の構成相は、粉末X線回折装置(XRD、リガク製RINT−2500)により同定を行った。
≪窒化鉄系磁性粉末の粒子径、第一および第二の被覆層の組成および厚み≫
得られた窒化鉄系磁性粉末のFe16N2粒子径、第一および第二の被覆層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子製JEM−200FX)により観察し、EDSを用いて粒子組成を分析した。用いた観察用サンプルは、得られた窒化鉄系磁性粉末をエポキシ樹脂に練りこみ、樹脂硬化した後、薄片化処理を行い作製した。TEM観察像の中らから選んだ100個の粒子断面のEDSによる元素マッピングを行った後、第一および第二の被膜層の組成の点分析を行った。この時実施例のFe16N2粒子からはFeを検出し、第一の被覆層からはCr、Mn、V、Mo、Wのいずれかの元素を検出し、第二の被覆層からはNi、Coのいずれかの元素を検出した。次に画像処理により、EDSにより、1000個の粒子断面の元素マッピング結果からFe16N2粒子径、第一および第二の被覆層のそれぞれの厚みを計測し、その平均値を算出し、第一および第二の被覆層の厚みとした。算出結果を表1に示す。
≪窒化鉄系磁性粉末の保磁力(HcJ)≫
得られた窒化鉄系磁性粉末の保磁力(HcJ)を振動試料型磁力計(VSM、東英工業製VSM−5−20)による減磁曲線の測定結果から求めた。保磁力(HcJ)が2.6kOe以上の窒化鉄系磁性粉末を許容とし、測定結果を表1に示す。
≪窒化鉄系磁性粉末の耐湿性≫
得られた窒化鉄系磁性粉末の耐湿性は、湿度90%以上の雰囲気における窒化鉄系磁性粉末の重量増加開始温度を腐食開始温度として測定し、腐食開始温度が高いほど良好として評価した。前記腐食開始温度はTG−DTA(リガク製Thermo Plus TG8120)により、DTG>0となる温度を腐食開始温度として求めた。腐食開始温度が90℃以上の窒化鉄系磁性粉末を許容とした。尚測定の初期の室温付近にてDTG>0となる場合は、測定ノイズとして腐食開始温度とはしなかった。評価結果を表1に示す。
全ての実施例と比較例で、Fe16N2相が主相であることが確認された。
実施例1、2、3、4、5のように、窒化鉄系磁性粉末の表面にCr金属かならなる第一の被覆層と、前記第一の被覆層の表面にNi金属とCr金属の合金からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.9kOe以上、腐食開始温度が90℃以上であることが確認できた。特に第二の被覆層の合金に含まれる前記第一の被覆層に含まれる金属が1〜10at%の場合、腐食開始温度が120℃以上の良好な特性が得られた。
実施例3、6、7、8、9のように、窒化鉄系磁性粉末の表面にCr金属かならなる第一の被覆層と、前記第一の被覆層の表面にNi金属とCr金属の合金からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.9kOe以上、腐食開始温度が90℃以上であることが確認できた。特に第二の被覆層の厚みが5nm以上の場合、腐食開始温度が130℃以上の良好な特性が得られた。
実施例3、10、11、12、13のように、窒化鉄系磁性粉末の表面にCr金属かならなる第一の被覆層と、前記第一の被覆層の表面にNi金属とCr金属の合金からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.6kOe以上、腐食開始温度が130℃以上であることが確認できた。特に第一の被覆層の厚みが5nm以上の場合保磁力(HcJ)が3.0kOe以上の良好な特性が得られた。
実施例14のように窒化鉄系磁性粉末の表面にMn金属かならなる第一の被覆層と、前記第一の被覆層の表面にNi金属とMn金属の合金からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が3.0kOe以上、腐食開始温度が130℃以上であることが確認できた。
実施例15のように窒化鉄系磁性粉末の表面にV金属かならなる第一の被覆層と、前記第一の被覆層の表面にNi金属とV金属の合金からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.9kOe以上、腐食開始温度が135℃以上であることが確認できた。
実施例16のように窒化鉄系磁性粉末の表面にMo金属かならなる第一の被覆層と、前記第一の被覆層の表面にNi金属とMo金属の合金からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.9kOe以上、腐食開始温度が135℃以上であることが確認できた。
実施例17のように窒化鉄系磁性粉末の表面にW金属かならなる第一の被覆層と、前記第一の被覆層の表面にNi金属とW金属の合金からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.9kOe以上、腐食開始温度が135℃以上であることが確認できた。
実施例18のように窒化鉄系磁性粉末の表面にCr金属かならなる第一の被覆層と、前記第一の被覆層の表面にCo金属とCr金属の合金からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.9kOe以上、腐食開始温度が100℃以上であることが確認できた。
実施例19のように窒化鉄系磁性粉末の表面にMn金属かならなる第一の被覆層と、前記第一の被覆層の表面にCo金属とMn金属の合金からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が3.0kOe以上、腐食開始温度が95℃以上であることが確認できた。
実施例20のように窒化鉄系磁性粉末の表面にV金属かならなる第一の被覆層と、前記第一の被覆層の表面にCo金属とV金属の合金からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.9kOe以上、腐食開始温度が100℃以上であることが確認できた。
実施例21のように窒化鉄系磁性粉末の表面にMo金属かならなる第一の被覆層と、前記第一の被覆層の表面にCo金属とMo金属の合金からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.9kOe以上、腐食開始温度が100℃以上であることが確認できた。
実施例22のように窒化鉄系磁性粉末の表面にW金属かならなる第一の被覆層と、前記第一の被覆層の表面にCo金属とW金属の合金からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.9kOe以上、腐食開始温度が105℃以上であることが確認できた。
比較例1のようにFe16N2粒子の第一の被覆層及び第二の被覆層を有していない場合、保磁力(HcJ)が2.4kOe、窒化鉄系磁性粉末を常温大気に暴露した際燃焼したため、腐食開始温度の測定はできなかった。これは第一の被覆層に含まれる非磁性金属が存在しないことより、窒化鉄系磁性粉末を構成するFe16N2粒子同士を磁気的に分離する効果が発現しなかったため、保磁力が低くなったためと考えられる。さらに、窒化鉄系磁性粉末の表面を卑金属層にて保護していないため常温大気での暴露で燃焼したと考えられる。
比較例2のように窒化鉄系磁性粉末の表面にCr金属かならなる第一の被覆層を有し、第二の被覆層を有していない場合、磁力(HcJ)が3.0kOeであるが、窒化鉄系磁性粉末を常温大気に暴露した際燃焼したため、腐食開始温度の測定はできなかった。これは、窒化鉄系磁性粉末の表面を卑金属層にて保護していないため常温大気での暴露で燃焼したと考えられる。
比較例3のように窒化鉄系磁性粉末の表面に第一の被覆層を有さず、Ni金属からのみなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.2kOe、腐食開始温度が85℃であることが確認できた。これは、これは第一の被覆層に含まれる非磁性金属が存在しないことより、窒化鉄系磁性粉末を構成するFe16N2粒子同士を磁気的に分離する効果が発現しなかったため、保磁力が低くなったと考えられる。さらに、第一の被覆層を有さず、第二の被覆層に第一の被覆層を構成する金属が含まれていないことより、第二の被覆層とFe16N2粒子の密着性が不十分となり、耐湿性評価中に第二の被覆層が剥離したため、窒化鉄系磁性粉末が十分な耐湿性を得ることができなかったと考えられる。
比較例4のようにFe16N2粒子の表面にCr金属かならなる第一の被覆層を有し、Ni金属からのみなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が3.0kOe、腐食開始温度が85℃であることが確認できた。これは、第二の被覆層に第一の被覆層に含まれる金属が含まれていないことより、第二の被覆層と第一の被覆層の密着性が不十分となり、耐湿性評価中に第二の被覆層が剥離したため、窒化鉄系磁性粉末が十分な耐湿性を得ることができなかったと考えられる。
比較例5のように窒化鉄系磁性粉末の表面にCr金属かならなる第一の被覆層と、前記第一の被覆層の表面にNi金属とMo金属の合金からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.9kOe以上、腐食開始温度が85℃以上であることが確認できた。これは、第二の被覆層に第一の被覆層に含まれる金属が含まれていないことより、第二の被覆層と第一の被覆層の密着性が不十分となり、耐湿性評価中に第二の被覆層が剥離したため、窒化鉄系磁性粉末が十分な耐湿性を得ることができなかったと考えられる。
比較例3、4の腐食開始温度を測定した後の試料を(0087)と同様の微構造観察した結果、窒化鉄系磁性粒子から第二の被覆層が剥離していることがわかった。これは、第二の被覆層に第一の被覆層と同一の金属が含まれていないことに起因すると考えられる。
比較例6のように窒化鉄系磁性粉末の表面にCr金属かならなる第一の被覆層を有し、Co金属からのみなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.9kOe、腐食開始温度が70℃であることが確認できた。これは、第二の被覆層に第一の被覆層に含まれる金属が含まれていないことより、第二の被覆層と第一の被覆層の密着性が不十分となり、耐湿性評価中に第二の被覆層が剥離したため、窒化鉄系磁性粉末が十分な耐湿性を得ることができなかったと考えられる。
比較例7のように窒化鉄系磁性粉末の表面にNi金属とCr金属の合金かならなる第一の被覆層を有し、前記第一の被覆層の表面にCr金属からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.5kOe以上、腐食開始温度が90℃以上であることが確認できた。これは、窒化鉄系磁性粉末を常温大気に暴露した際、第二の被覆層が酸化し剥離したため、窒化鉄系磁性粉末を構成するFe16N2粒子同士を磁気的に分離する効果が発現しなかったため、保磁力が低くなったためと考えられる。さらに、第一の被覆層とFe16N2粒子の密着性が不十分となり、耐湿性評価中に第二の被覆層が剥離したため、窒化鉄系磁性粉末が十分な耐湿性を得ることができなかったと考えられる。
比較例8のように窒化鉄系磁性粉末の表面にNi金属かならなる第一の被覆層を有し、前記第一の被覆層の表面にCr金属からなる第二の被覆層を有している場合、保磁力(HcJ)が2.3kOe以上、腐食開始温度が80℃以上であることが確認できた。これは、窒化鉄系磁性粉末を常温大気に暴露した際、第二の被覆層が酸化し剥離したため、窒化鉄系磁性粉末を構成するFe16N2粒子同士を磁気的に分離する効果が発現しなかったため、保磁力が低くなったためと考えられる。さらに、第一に被覆層と窒化鉄系磁性粉末を構成するFe16N2粒子の密着性が不十分となり、耐湿性評価中に第二の被覆層が剥離したため、窒化鉄系磁性粉末が十分な耐湿性を得ることができなかったと考えられる。